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特許7260933微小電極を使用する組織電気泳動転写用デバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】微小電極を使用する組織電気泳動転写用デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/05 20060101AFI20230412BHJP
   A61N 1/30 20060101ALI20230412BHJP
   A61N 1/32 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
A61N1/05
A61N1/30
A61N1/32
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2021545403
(86)(22)【出願日】2020-02-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-24
(86)【国際出願番号】 US2020016555
(87)【国際公開番号】W WO2020163310
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-08-03
(31)【優先権主張番号】62/800,781
(32)【優先日】2019-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】306010244
【氏名又は名称】ラトガーズ、ザ ステイト ユニバーシティ オブ ニュージャージー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ディミリュレック, ヤシール
(72)【発明者】
【氏名】リン, ハオ
(72)【発明者】
【氏名】リトルクリーク, サンシャイン
(72)【発明者】
【氏名】シャン, ジェリー
(72)【発明者】
【氏名】シュライバー, デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】ユー, ミャオ
(72)【発明者】
【氏名】ザーン, ジェフリー
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-526794(JP,A)
【文献】特表2018-510015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/00 ― 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織電気泳動転写用微小電極デバイスであって、
(i)組織電気泳動転写によって、生体分子を組織位置に位置する細胞に選択的に送達するための導電性の表面を含む標的組織微小電極領域、および(ii)前記生体分子を前記組織位置に位置する前記細胞に選択的に送達するための前記標的組織微小電極領域を位置決めするために貫通微小電極を機械的に係留するためのアンカー微小電極領域を含む前記貫通微小電極と、
前記貫通微小電極を電圧源に接続するための電気接続部と
組織レベル電場予測モジュールを備えるモデリングプロセッサーと
を含み、
前記モデリングプロセッサーが、細胞密度を説明する細胞レベルシミュレーションモジュールを備え、前記モデリングプロセッサーが、組織電気泳動転写によって、生体分子を前記組織位置に位置する細胞に選択的に送達すべき組織位置を決定するように構成されている、微小電極デバイス。
【請求項2】
前記アンカー微小電極領域が、前記貫通微小電極の遠位端またはその近傍に存在する、請求項1に記載の微小電極デバイス。
【請求項3】
前記標的組織微小電極領域の前記導電性の表面とは別個の、前記貫通微小電極の表面に電気的絶縁部を含む、請求項1に記載の微小電極デバイス。
【請求項4】
前記アンカー微小電極領域の表面に電気的絶縁部を含む、請求項3に記載の微小電極デバイス。
【請求項5】
前記標的組織微小電極領域の表面の少なくとも一部に選択的に送達される前記生体分子を含む生体分子コーティングを含む、請求項1に記載の微小電極デバイス。
【請求項6】
前記組織位置が、皮膚の角質層の下、かつ(i)皮膚の表皮層の少なくとも一部内および(ii)皮膚の真皮層の少なくとも一部内の少なくとも1つである、請求項1に記載の微小電極デバイス。
【請求項7】
前記組織位置が、皮膚の表皮層のみの少なくとも一部内である、請求項1に記載の微小電極デバイス。
【請求項8】
前記アンカー微小電極領域が、バーブを含む、請求項1に記載の微小電極デバイス。
【請求項9】
前記アンカー微小電極領域が、接着表面コーティングを含む、請求項1に記載の微小電極デバイス。
【請求項10】
前記生体分子コーティングが、皮膚組織に囲まれた場合に溶解可能である、請求項5に記載の微小電極デバイス。
【請求項11】
前記生体分子コーティングが、核酸およびタンパク質の少なくとも1つを含む、請求項5に記載の微小電極デバイス。
【請求項12】
前記電気的絶縁部が、前記貫通微小電極に堆積した絶縁ポリマーを含む、請求項3に記載の微小電極デバイス。
【請求項13】
1つ以上の前記貫通微小電極を含み、
前記1つ以上の前記貫通微小電極の中心間距離が、約300マイクロメートルから約1.5ミリメートルの間の間隔を含む、請求項1に記載の微小電極デバイス。
【請求項14】
前記貫通微小電極の長さが、約225マイクロメートルから約1250マイクロメートルの間の長さを含む、請求項1に記載の微小電極デバイス。
【請求項15】
前記貫通微小電極が、先細りの先端部を含むニードル、および側面の突出部を含むニードルの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の微小電極デバイス。
【請求項16】
前記貫通微小電極が、約100マイクロメートルから約500マイクロメートルの間の直径を含む、請求項1に記載の微小電極デバイス。
【請求項17】
前記電気接続部が、前記電圧源からのパルス電圧を前記貫通微小電極に印加して、皮膚の表皮層および皮膚の真皮層の少なくとも1つにおいて、組織の細胞膜の一時的透過化を作出する、請求項1に記載の微小電極デバイス。
【請求項18】
前記電気接続部が、前記電圧源からの電圧を前記貫通微小電極に印加して、前記貫通微小電極周囲の皮膚組織において、1センチメートル当たり約0.1キロボルト(kV)から1センチメートル当たり約10キロボルト(kV)の間の最大電場強度を作出する、請求項1に記載の微小電極デバイス。
【請求項19】
前記電気接続部が、フォトリソグラフィーによって画定される接続部を含み、前記貫通微小電極が、フォトリソグラフィーによって画定される電極基材を含み、前記貫通微小電極が、電気めっきされた金属を含む、請求項1に記載の微小電極デバイス。
【請求項20】
1つ以上の前記貫通微小電極を含み、前記電気接続部が、前記1つ以上の貫通微小電極のうちの2つまたはそれより多くに対して電気的に独立した接続部を含む、請求項1に記載の微小電極デバイス。
【請求項21】
それぞれが異なる生体分子を選択的に送達するための1つ以上の標的組織微小電極領域を含む、請求項1に記載の微小電極デバイス。
【請求項22】
前記モデリングプロセッサーが、前記電圧源によって前記貫通微小電極に送達された制御電圧を決定するように構成されている、請求項に記載の微小電極デバイス。
【請求項23】
織電気泳動転写を実施する方法において使用するための、貫通微小電極を含むシステムであって、前記方法が、
前記貫通微小電極のアンカー微小電極領域を使用して、前記貫通微小電極を係留し、導電性の表面を含む前記貫通微小電極の標的組織微小電極領域が、生体分子を組織位置に位置する細胞に選択的に送達するように位置決めされるステップを含み
前記システムが、電圧を前記貫通微小電極に印加して、前記生体分子を前記組織位置に位置する前記細胞に送達するための電気接続部を含み、
前記システムが、組織レベル電場を予測するための、および前記組織位置の細胞密度を説明する細胞レベルシミュレーションを実施するためのモデリングプロセッサーをさらに含み、
前記モデリングプロセッサーが、組織電気泳動転写によって、生体分子を前記組織位置に位置する細胞に選択的に送達すべき組織位置を決定する、システム。
【請求項24】
記モデリングプロセッサー、電圧源によって前記貫通微小電極に送達された電圧を制御する、請求項23に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2019年2月4日に出願した米国仮出願第62/800,781号の利益を主張する。上記出願の教示全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
背景
最近の40年にわたり、電気穿孔は、外来の生物学的材料(すなわち、DNA、RNA、またはタンパク質の因子)を細胞および組織中に送達するための魅力的なアプローチとして出現した。細胞への送達の手段としての電気穿孔についての最初の報告は1980年代にあり(1)、1990年代初頭には、多くの初期の経皮についての試みが出現した(2~7)。皮膚の皮膚層の電気穿孔、それに続く、受動的拡散性の、皮膚を通じた治療薬のイオン泳動による輸送(4)、または他の貫通機序(8)、電気化学療法(ECT)(9~17)、および遺伝子電気泳動転写(GET)(18、19)による、低分子治療薬を全身的吸収のために血流中に経皮送達するための電気穿孔に媒介される送達が調査されてきた。DNAベースのワクチン、遺伝子編集技法(すなわち、CRISPR Cas9標的化遺伝子編集)、および遺伝子治療用製品のFDAによる承認(すなわち、CAR T細胞療法)の出現と共に、GETにおける関心が再び高まっている。
【0003】
電気穿孔は、多数の医学的適用に関して細胞および組織送達の手段として長く調査されてきた(34)。電気穿孔の間、細胞または組織は、膜障壁を横切って分子送達を容易にする細胞膜における孔形成を誘導する短時間の、高強度の電場に曝露される。可逆的電気穿孔は、異物を細胞内に送達し、その後細胞回復させる細胞膜の一時的透過化を可能にする。一方、不可逆的電気穿孔(熱的と非熱的の両方)は、細胞を直接死滅させるかまたは細胞のアポトーシスを促進する回復不能な膜損傷を引き起こす。可逆的電気穿孔と不可逆的電気穿孔の両方は、可逆的電気穿孔が治療薬およびベクターの送達のために使用され、不可逆的電気穿孔が、特にがん性腫瘍を処置するために、組織切除技法として使用されることに関して医学的に調査されてきた。経皮的電気穿孔は、典型的には、皮膚の透過障壁を低減させるためのおよび遺伝子電気泳動転写(GET)のためのベクター取り込みを促進する可逆的電気穿孔に焦点を当ててきた。
【0004】
経皮的電気穿孔は、GETによって皮膚細胞を変形させる、または皮膚を通じた治療薬の経皮的透過を増加させる手段として理解されてきた。特に、経皮的電気穿孔の使用は、保護的な免疫学的応答を付与するのに十分な発現および免疫原性を有するDNAベースのワクチン製品を送達する手段として調査されてきた。特に、表皮は、樹状細胞の濃度が高いためにワクチン接種の標的とされている(35、36)。注目される遺伝子療法およびDNAベースのワクチン送達のための電気穿孔の臨床的可能性に関する2016年の論説として、CELLECTRA、Easy Vax、MedPulser、Trigrid、Dermavax、OncoSec、およびCliniporatorを含む開発において、いくつかの商業的電気穿孔ワクチン接種プラットフォームが存在し、デバイスの大多数(62%)が第I相臨床試験を受けている(37)。最も進行した製品は、InovioによるCELLECTRAシステムであり、これは現在、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンのIM送達に関して第III相試験中である(38)。
【0005】
経皮的電気穿孔は、伝統的に、表面電極として、または皮膚もしくは筋肉中に挿入される貫通電極として適用されてきた。表面電極が使用される場合、皮膚の最も外側の障壁層である、高度にケラチン化した角質層(SC)を透過化するために強度の高い電場が必要とされる。しかし、SCが一旦電気穿孔されると、その後、その下にある表皮および皮膚組織は、皮膚刺激、水腫および損傷をもたらし得る制御できないこの高い電場強度に曝露される。貫通電極のセットが使用される場合、これらは、数センチメートル離れて間隔を保ち、皮膚内または皮膚の下の筋肉中に深く挿入されることが多い。電極の周囲の最も大きな組織体積を透過化するために、より高強度のパルスが使用されることも多く、これは、場の強度が最も高い電極周辺の組織損傷ももたらす。さらに、GETの間に使用されるDNAベクターは、通常、数百μlからmlの体積の皮内(ID)または筋肉内(IM)注射を通して送達される。DNA注射自体は、注射されたDNAが、電気穿孔を受けている標的組織内に局在化されない可能性のあるトランスフェクション効率の変動性をもたらし得る。例えば、ID注射を利用する臨床研究は、最小600μgのDNAプラスミドを使用し、一様に数ミリグラム程度の量を注射して十分な細胞取り込みを確実にすることが多い。しかし、溶液のかなりの部分は、真皮または表皮層と対照的に、皮下領域に送達され、GETに必要とされる多量のDNAのためにより高いコストのワクチンとなる場合がある。
【0006】
数十年の開発および複数の商業的試みにもかかわらず、経皮電気穿孔は、依然として臨床的に採用するために多くの課題に直面している。対処されるべき主なボトルネックは、1)低い送達/トランスフェクション効率、2)治療レベルで皮膚を貫通することができる物質の限定、3)送達効率の変動性、4)経皮的電気穿孔後の皮膚の刺激、水腫および瘢痕である。経皮的電気穿孔を阻むこれらの障害および持続的問題は、その臨床的使用を制約し(39)、市場にはFDAに承認された電気穿孔デバイスは現在存在しない。
【0007】
侵襲が最小限であることおよび非ウイルス細胞トランスフェクション技法であることの利点など、種々の異なる設定において使用するための電気穿孔について多数の利点が存在するが、細胞/組織損傷とトランスフェクション効率の間の固有の妥協点は、経皮的薬物送達プラットフォームとしての電気穿孔の使用を阻んできた(26)。皮膚電気穿孔の間に遭遇する問題の中で、皮膚刺激および瘢痕と関連する低い送達効率(27、28)は、対処されるべき最も顕著な障害である。したがって、組織電気泳動転写の改善された技法に対する継続的需要が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
要旨
本発明による実施形態は、核酸またはタンパク質分子などの生体分子を、一時的な膜透過化によって、皮膚の表皮または真皮層に位置する細胞中に送達するための、局在化した電場である「ホットスポット」を生じるために使用される侵襲性が最小限の貫通微小電極アレイに関する。「ホットスポット」は、特定の領域で貫通微小電極を選択的に絶縁させることによって制御することができる。絶縁コーティングで被覆されていない微小電極の部分は、核酸もしくはタンパク質ワクチンベクター、または送達される他の生体分子でコーティングされていてもよい。皮膚中に挿入される際、アンカー微小電極領域は、組織位置に位置する細胞と生体分子コーティングを選択的に整列させるように標的組織微小電極領域を位置決めするために、貫通微小電極を機械的に係留する。生体分子コーティングは、周囲組織と接触した際に溶解することになる。電気パルスを印加することによって、生体分子は周囲組織中に送達され得る。
【0009】
本発明による一実施形態では、組織電気泳動転写用微小電極デバイスは、貫通微小電極を含む。貫通微小電極は、(i)組織電気泳動転写によって、生体分子を組織位置に位置する細胞に選択的に送達するための導電性の表面を含む標的組織微小電極領域、および(ii)生体分子を組織位置に位置する細胞に選択的に送達するための標的組織微小電極領域を位置決めするために貫通微小電極を機械的に係留するためのアンカー微小電極領域を含む。電気接続部は、貫通微小電極を電圧源に接続する。
【0010】
さらなる関連する実施形態では、アンカー微小電極領域は、貫通微小電極の遠位端またはその近傍に存在してもよい。微小電極デバイスは、標的組織微小電極領域の導電性の表面とは別の、貫通微小電極の表面に電気的絶縁部を含んでもよい。微小電極デバイスは、アンカー微小電極領域の表面に電気的絶縁部を含んでもよい。微小電極デバイスは、標的組織微小電極領域の表面の少なくとも一部に、選択的に送達される生体分子を含む生体分子コーティングを含んでもよい。組織位置は、皮膚の角質層の下、かつ(i)皮膚の表皮層の少なくとも一部内および(ii)皮膚の真皮層の少なくとも一部内のうちの少なくとも1つであってもよい。組織位置は、皮膚の表皮層のみの少なくとも一部内であってもよい。アンカー微小電極領域は、バーブを含んでもよく、接着表面コーティングを含んでもよい。生体分子コーティングは、皮膚組織で囲まれた場合に溶解可能であってもよく、核酸およびタンパク質の少なくとも1つを含んでもよい。
【0011】
他の関連する実施形態では、電気的絶縁部は、貫通微小電極に堆積した絶縁ポリマーを含んでもよい。微小電極デバイスは、1つ以上の貫通微小電極を含んでもよく、ここで、1つ以上の貫通微小電極の中心間距離は、約300マイクロメートルから約1.5ミリメートルの間の間隔を含む。貫通微小電極の長さは、約225マイクロメートルから約1250マイクロメートルの間の長さを含み得る。貫通微小電極は、先細りの先端部を含むニードル、および側面の突出部を含むニードルの少なくとも1つを含んでもよい。貫通微小電極は、約100マイクロメートルから約500マイクロメートルの間の直径を含んでもよい。電気接続部は、電圧源からのパルス電圧を貫通微小電極に印加して、皮膚の表皮層および皮膚の真皮層の少なくとも1つにおける組織の細胞膜の一時的透過化を作出することができる。電気接続部は、電圧源からの電圧を貫通微小電極に印加して、貫通微小電極周囲の皮膚組織において1センチメートル当たり約0.1キロボルト(kV)から1センチメートル当たり約10キロボルト(kV)の間の最大電場強度を作出することができる。電気接続部は、フォトリソグラフィーによって画定される接続部を含んでもよく、貫通微小電極は、フォトリソグラフィーによって画定される電極基材を含んでもよく、貫通微小電極は、電気めっきされた金属を含んでもよい。微小電極デバイスは、1つ以上の貫通微小電極を含んでもよく、電気接続部は、1つ以上の貫通微小電極のうちの2つまたはそれより多くに対する電気的に独立した接続部を含んでもよい。デバイスは、それぞれが異なる生体分子を選択的に送達するための1つ以上の標的組織微小電極領域を含んでもよい。
【0012】
さらなる関連する実施形態では、微小電極デバイスは、組織レベル電場予測モジュールおよび細胞レベルシミュレーションモジュールを含んでもよい、モデリングプロセッサーをさらに含んでもよい。モデリングプロセッサーは、組織電気泳動転写によって、生体分子を組織位置に位置する細胞に選択的に送達すべき組織位置を決定するように構成されていてもよい。モデリングプロセッサーは、電圧源によって貫通微小電極に送達される制御電圧を決定するように構成されていてもよい。
【0013】
本発明による別の実施形態では、貫通微小電極を用いて組織電気泳動転写を実施する方法は、貫通微小電極のアンカー微小電極領域を使用して、貫通微小電極を係留するステップであって、その結果、導電性の表面を含む貫通微小電極の標的組織微小電極領域が、生体分子を組織位置に位置する細胞に選択的に送達するように位置決めされる、ステップと、電圧を貫通微小電極に印加して、生体分子を組織位置に位置する細胞に送達するステップとを含む。貫通微小電極は、本明細書に教示される微小電極デバイスのいずれかを含み得る。
【0014】
さらなる関連する実施形態では、本方法は、モデリングプロセッサーを使用して組織レベル電場を予測するステップと、組織位置の細胞レベルシミュレーションを実施するステップとをさらに含んでもよい。モデリングプロセッサーは、組織電気泳動転写によって、生体分子を組織位置に位置する細胞に選択的に送達すべき組織位置を決定することができる。本方法は、電圧源によって貫通微小電極に送達される電圧を制御するためのモデリングプロセッサーを使用することを含んでもよい。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
組織電気泳動転写用微小電極デバイスであって、
(i)組織電気泳動転写によって、生体分子を組織位置に位置する細胞に選択的に送達するための導電性の表面を含む標的組織微小電極領域、および(ii)前記生体分子を前記組織位置に位置する前記細胞に選択的に送達するための前記標的組織微小電極領域を位置決めするために貫通微小電極を機械的に係留するためのアンカー微小電極領域を含む前記貫通微小電極と、
前記貫通微小電極を電圧源に接続するための電気接続部と
を含む微小電極デバイス。
(項目2)
前記アンカー微小電極領域が、前記貫通微小電極の遠位端またはその近傍に存在する、項目1に記載の微小電極デバイス。
(項目3)
前記標的組織微小電極領域の前記導電性の表面とは別個の、前記貫通微小電極の表面に電気的絶縁部を含む、項目1に記載の微小電極デバイス。
(項目4)
前記アンカー微小電極領域の表面に電気的絶縁部を含む、項目3に記載の微小電極デバイス。
(項目5)
前記標的組織微小電極領域の表面の少なくとも一部に選択的に送達される前記生体分子を含む生体分子コーティングを含む、項目1に記載の微小電極デバイス。
(項目6)
前記組織位置が、皮膚の角質層の下、かつ(i)皮膚の表皮層の少なくとも一部内および(ii)皮膚の真皮層の少なくとも一部内の少なくとも1つである、項目1に記載の微小電極デバイス。
(項目7)
前記組織位置が、皮膚の表皮層のみの少なくとも一部内である、項目1に記載の微小電極デバイス。
(項目8)
前記アンカー微小電極領域が、バーブを含む、項目1に記載の微小電極デバイス。
(項目9)
前記アンカー微小電極領域が、接着表面コーティングを含む、項目1に記載の微小電極デバイス。
(項目10)
前記生体分子コーティングが、皮膚組織に囲まれた場合に溶解可能である、項目5に記載の微小電極デバイス。
(項目11)
前記生体分子コーティングが、核酸およびタンパク質の少なくとも1つを含む、項目5に記載の微小電極デバイス。
(項目12)
前記電気的絶縁部が、前記貫通微小電極に堆積した絶縁ポリマーを含む、項目3に記載の微小電極デバイス。
(項目13)
1つ以上の前記貫通微小電極を含み、
前記1つ以上の前記貫通微小電極の中心間距離が、約300マイクロメートルから約1.5ミリメートルの間の間隔を含む、項目1に記載の微小電極デバイス。
(項目14)
前記貫通微小電極の長さが、約225マイクロメートルから約1250マイクロメートルの間の長さを含む、項目1に記載の微小電極デバイス。
(項目15)
前記貫通微小電極が、先細りの先端部を含むニードル、および側面の突出部を含むニードルの少なくとも1つを含む、項目1に記載の微小電極デバイス。
(項目16)
前記貫通微小電極が、約100マイクロメートルから約500マイクロメートルの間の直径を含む、項目1に記載の微小電極デバイス。
(項目17)
前記電気接続部が、前記電圧源からのパルス電圧を前記貫通微小電極に印加して、皮膚の表皮層および皮膚の真皮層の少なくとも1つにおいて、組織の細胞膜の一時的透過化を作出する、項目1に記載の微小電極デバイス。
(項目18)
前記電気接続部が、前記電圧源からの電圧を前記貫通微小電極に印加して、前記貫通微小電極周囲の皮膚組織において、1センチメートル当たり約0.1キロボルト(kV)から1センチメートル当たり約10キロボルト(kV)の間の最大電場強度を作出する、項目1に記載の微小電極デバイス。
(項目19)
前記電気接続部が、フォトリソグラフィーによって画定される接続部を含み、前記貫通微小電極が、フォトリソグラフィーによって画定される電極基材を含み、前記貫通微小電極が、電気めっきされた金属を含む、項目1に記載の微小電極デバイス。
(項目20)
1つ以上の前記貫通微小電極を含み、前記電気接続部が、前記1つ以上の貫通微小電極のうちの2つまたはそれより多くに対して電気的に独立した接続部を含む、項目1に記載の微小電極デバイス。
(項目21)
それぞれが異なる生体分子を選択的に送達するための1つ以上の標的組織微小電極領域を含む、項目1に記載の微小電極デバイス。
(項目22)
組織レベル電場予測モジュールおよび細胞レベルシミュレーションモジュールを含むモデリングプロセッサーをさらに含む、項目1に記載の微小電極デバイス。
(項目23)
前記モデリングプロセッサーが、組織電気泳動転写によって、生体分子を前記組織位置に位置する細胞に選択的に送達すべき組織位置を決定するように構成されている、項目22に記載の微小電極デバイス。
(項目24)
前記モデリングプロセッサーが、前記電圧源によって前記貫通微小電極に送達された制御電圧を決定するように構成されている、項目22に記載の微小電極デバイス。
(項目25)
前記電圧源によって前記貫通微小電極に送達された制御電圧を決定するように構成されているモデリングプロセッサーをさらに含む、項目1に記載の微小電極デバイス。
(項目26)
貫通微小電極を用いて組織電気泳動転写を実施する方法であって、
貫通微小電極のアンカー微小電極領域を使用して、前記貫通微小電極を係留し、導電性の表面を含む前記貫通微小電極の標的組織微小電極領域が、生体分子を組織位置に位置する細胞に選択的に送達するように位置決めされるステップと、
電圧を前記貫通微小電極に印加して、前記生体分子を前記組織位置に位置する前記細胞に送達するステップと
を含む方法。
(項目27)
モデリングプロセッサーを使用して組織レベル電場を予測するステップと、前記組織位置の細胞レベルシミュレーションを実施するステップとをさらに含む、項目26に記載の方法。
(項目28)
前記モデリングプロセッサーを用いて、組織電気泳動転写によって、生体分子を前記組織位置に位置する細胞に選択的に送達すべき組織位置を決定するステップをさらに含む、項目27に記載の方法。
(項目29)
モデリングプロセッサーを使用して、電圧源によって前記貫通微小電極に送達された電圧を制御するステップをさらに含む、項目26に記載の方法。
(項目30)
前記電圧源によって前記貫通微小電極に送達された制御電圧を決定するように構成されているモデリングプロセッサーをさらに含む、項目1に記載の微小電極デバイス。
【0015】
本特許または出願ファイルは、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面を含む本特許または特許出願公開のコピーは、申請および必要な手数料の支払いにより特許庁によって提供される。
【0016】
上記内容は、添付の図面で例証されるように、例示的実施形態についての以下のより詳細な説明から明らかになり、これらの図面では、同様の参照符号は、異なる図を通して同じ部品を指す。これらの図面は、必ずしも正確な縮尺を表すものではなく、それよりもむしろ、実施形態を例証することに重点を置いている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の実施形態に従う、組織電気泳動転写用微小電極デバイスの概略図である。
【0018】
図2図2は、本発明の実施形態に従う、アンカー微小電極領域に対する代替物を含む、組織電気泳動転写用微小電極デバイスの概略図である。
【0019】
図3図3は、本発明の実施形態に従う、貫通微小電極の例示的寸法を含む、組織電気泳動転写用微小電極デバイスの概略図である。
【0020】
図4図4は、本発明の実施形態に従う、皮膚の表皮層および皮膚の真皮層の少なくとも1つにおける組織の細胞膜の一時的透過化を作出するために、電圧源から貫通微小電極に印加されたパルス電圧を例示するグラフである。
【0021】
図5図5は、本発明の実施形態に従う、微小電極の基材および先端部の貫通微小電極の選択的電気的絶縁部を例示し、標的化組織電気泳動転写のために微小電極によって生じた局在化した電場強度のシミュレーションの結果を示す図である。
【0022】
図6図6は、本発明の実施形態に従う実験において、皮内注射および直接的な電流パルスの印加後にブタの皮膚における緑色蛍光タンパク質(GFP)発現の画像を示す図である。
【0023】
図7図7は、本発明の実施形態に従う、貫通微小電極アレイの写真および概略図を示す図である。
【0024】
図8図8は、本発明の実施形態に従う、皮膚の角質層、表皮層および真皮層、ならびにこれらの層に挿入された貫通微小電極の概要を示す図である。
【0025】
図9図9は、本発明の実施形態に従うシミュレーションにおいて、皮膚モデル中に挿入された16本の貫通微小電極のアレイを囲む局在化した電場強度のシミュレーションの結果を示す図である。
【0026】
図10図10は、本発明の実施形態に従うシミュレーションにおいて、2.0kV/cmの印加電場における表皮ケラチノサイトのパック細胞モデル1056、(上部)部分的に電気穿孔した状態を示す0.83kV/cmおよび(下部)完全に電気穿孔した状態を示す1.0kV/cmの電場のパック細胞モデルの二次元投影1058、ならびに配向に依存する電気穿孔を示すシミュレーションされた皮膚線維芽細胞内の(上部)膜電位差および(下部)電場の画像1060を示す図である。
【0027】
図11図11は、本発明の実施形態に従う実験において、貫通微小電極へのパルス電気穿孔電圧の印加前後の測定における組織インピーダンスの変化を示すグラフである。
【0028】
図12図12は、本発明の実施形態に従う実験において、貫通微小電極アレイと共に使用される電気システムの概略の概略図である。
【0029】
図13図13は、本発明の実施形態に従う実験において、ローダミンを用いる電気的透過化試験の結果の画像を示す図である。
【0030】
図14図14は、本発明の実施形態に従う実験において、ヨウ化プロピジウムを用いる透過化試験に使用されるプロトコールの概要である。
【0031】
図15図15は、図14の実験において、区分化された皮膚画像の例の画像を示す図である。
【0032】
図16図16は、図14の実験において、画像分析の結果を示す図である。
【0033】
図17図17は、本発明の実施形態に従う、複数の電極が1つの群としてアドレス指定される貫通微小電極アレイの電極構造の概略図である。
【0034】
図18図18は、本発明の実施形態に従う、電気接続部を与えるプリント回路基板を使用する貫通微小電極アレイデバイスを示す図である。
【0035】
図19図19は、本発明の実施形態に従う実験において、プリント回路基板を使用する貫通微小電極アレイデバイスの試験結果の画像を示す図である。
【0036】
図20図20は、本発明の実施形態に従う、フォトリソグラフィーを使用して製作された貫通微小電極アレイの概略図である。
【0037】
図21図21は、本発明の実施形態に従う、フォトリソグラフィーを使用して貫通微小電極アレイを製作するために使用されるウェハー上のダイスの画像である。
【0038】
図22図22は、本発明の実施形態に従う、1つ以上の標的組織微小電極領域の多重化を使用する組織電気泳動転写用微小電極デバイスの概略図である。
【0039】
図23図23は、本発明の実施形態に従う、静電スプレーによって貫通微小電極アレイ上に堆積したDNA複合物の画像である。
【0040】
図24図24は、本発明の実施形態に従う、絶縁誘電体コーティングのコンフォーマル層で絶縁した貫通微小電極の画像である。
【0041】
図25図25は、本発明の実施形態に従う、モデリングプロセッサーを組み込む、組織電気泳動転写用微小電極デバイスの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
詳細な説明
例示的実施形態の説明が以下に続く。
【0043】
本発明による実施形態は、核酸またはタンパク質などの生体分子の皮膚の別個の層への標的化送達に用いる侵襲性が最小限の貫通微小電極アレイを提供する。表皮は、真皮層よりも高い細胞密度および高濃度の樹状細胞を含有し、したがって、核酸またはタンパク質ベクターなどの生体分子の送達に対する魅力的な標的である。貫通微小電極アレイは、表皮または真皮に対して特異的な、効率的な標的化組織遺伝子電気泳動転写(GET)を達成することができる。表皮トランスフェクションは、表皮細胞密度がより高いことに起因して、最も度合いの高いトランスフェクションを実証することができる。ベクター送達および組織トランスフェクションなどの生体分子の標的化送達は、アレイの貫通微小電極を選択的に絶縁させること、およびこれらをプラスミドDNA(pDNA)ベクター(または核酸もしくはタンパク質などの他の生体分子)でコーティングし、その後、皮膚の表皮および/または真皮層内に配置された電極を囲む集束電場「ホットスポット」の組織を効率的に電気穿孔することによって達成することができる。このことは、同じ組織体積への生体分子の送達と電気パルスの両方を同時に局在化させて、皮膚のGET効率または他の生体分子送達を改善させる。一部の実施形態では、パルス印加の前、およびその後に、組織インピーダンスをモニターすることによって、細胞透過化およびその次の組織GETの度合いを、使用した電気パルスの大きさに比例する組織インピーダンスの下降を通してモニターすることができる。
【0044】
本発明の実施形態に従い、このアプローチは、より低い電圧および電場強度の使用を可能にし、生きた真皮および表皮の最外層内で、組織トランスフェクションなどの生体分子送達を局在化させながら組織損傷を制限する。したがって、実施形態は、低いトランスフェクション効率および皮膚刺激を回避しながら、標的化組織トランスフェクション効率を実質的に改善することができる。
【0045】
図1は、本発明の実施形態に従う、組織電気泳動転写用微小電極デバイス100の概略図である。微小電極デバイス100は、皮膚組織を貫通するのに十分に鋭い先細りの先端部を有するニードルなどの貫通微小電極102を含む。貫通微小電極102は、組織電気泳動転写によって、貫通微小電極102を囲む皮膚組織などの組織位置に位置する細胞に生体分子を選択的に送達する、導電性金属表面などの導電性の表面106を含む標的組織微小電極領域104を含む。貫通微小電極102は、組織位置に位置する細胞に生体分子を選択的に送達するための標的組織微小電極領域104を位置決めするために貫通微小電極102を機械的に係留するためのアンカー微小電極領域108も含む。例えば、アンカー微小電極領域108は、例えば、皮膚組織内で貫通微小電極102の動きに対して十分な摩擦を与えることによって、貫通微小電極102が挿入される皮膚組織内に貫通微小電極102を保持する助けとなるコーティング(本明細書においてさらに議論されるものなど)を有してもよい。電気接続部110は、貫通微小電極102を電圧源112に接続する。例えば、貫通微小電極102は、導電性金属から構成されてもよく(またはそれから構成されるコアもしくは他の部分を有してよく)、電気接続部110は、電気回路基板または他の取付け枠114上の導電性トレースまたは他の電気接続部であってもよい。電圧源112は、例えば、本明細書でさらに教示されるパルス電圧を含む電圧を送達するために構成される電源であってもよい。
【0046】
図1を参照して続けると、アンカー微小電極領域108は、貫通微小電極102の遠位端116において、またはその近傍に存在し得る。本明細書で使用される場合、貫通微小電極102の「遠位端」116は、皮膚組織中に最も深く挿入される貫通微小電極102の末端であるが、「近位端」118は、取付け枠114に最も近い反対側の末端である。微小電極デバイス100は、標的組織微小電極領域104の導電性の表面106とは別個である貫通微小電極102の表面に電気的絶縁部120aを含んでもよい。電気的絶縁部120aは、図5の実施例と併せて以下に議論されるように、例えば、化学蒸着(CVD)によって蒸着したパリレン(ポリ(p-キシリレン))フィルムなどの貫通微小電極上に蒸着した絶縁ポリマーを含んでもよい。例えば、電気的絶縁部120の1つ以上の別個の領域120a、120bは、それらの間に、導電性の表面106を有する標的組織微小電極領域104を規定する。電気的絶縁部は、アンカー微小電極領域108の表面120b上にあってもよく、電気的絶縁部としてと、貫通微小電極102が挿入される皮膚組織内で貫通微小電極102を保持する助けとなるアンカー微小電極領域108のコーティングとしての両方の機能を果たし得る。例えば、化学蒸着(CVD)によって蒸着したパリレン(ポリ(p-キシリレン))のコーティングは、電気的絶縁部として、および皮膚組織内での貫通微小電極102の動きに対して十分な摩擦を与える微小電極を係留するための両方の機能を果たし得る。微小電極デバイスは、標的組織微小電極領域104の表面全体であり得る標的組織微小電極領域104の表面の少なくとも一部に選択的に送達される生体分子を含む生体分子コーティング122を含んでもよい。生体分子コーティング122は、例えば、核酸(以下でより詳細に定義されるように、例えば、DNAまたはRNA)またはタンパク質を含んでもよい。生体分子コーティング122は、皮膚組織に囲まれた場合に溶解可能であってもよい。標的組織微小電極領域104の表面全体が生体分子コーティング122でコーティングされる場合、標的組織微小電極領域104は、生体分子コーティング122が皮膚組織に囲まれた場合に溶解された後に、十分に導電性の表面106を有し、その結果、電気穿孔が標的組織微小電極領域104によって実施され得る。一例では、生体分子コーティング122は、電気穿孔によって周囲組織に位置する細胞に送達されるプラスミドDNA(pDNA)ベクターを含んでもよい。生体分子が送達される細胞を含有する組織位置は、皮膚の角質層124の下、かつ皮膚の表皮層126、皮膚の真皮層128、または表皮層126と真皮層128の両方のうちのいずれかの中に選択的に存在してもよい。一例では、組織位置は、皮膚の表皮層126のみの中に選択的に存在する。
【0047】
図2は、本発明の実施形態に従う、アンカー微小電極領域208に対する代替物を含む組織電気泳動転写用微小電極デバイス200の概略図である。アンカー微小電極領域208は、周囲組織に対して有害性が最小限であることが想定されるが、一部の実施形態では、アンカー微小電極領域208は、バーブ230、または係留する助けとなる他の構造を含んでもよく、係留の助けとなる追加の接着表面コーティング232を含んでもよい。バーブ230は、例えば、約500マイクロメートルまたはそれより短い長さを有してもよい、生体吸収性のバーブであってもよい。貫通微小電極は、先細りの先端部を含むニードル(図1におけるように)、バーブ230(図2の)のような側面の突出部を含むニードル、またはその両方であってもよい。
【0048】
図3は、本発明の実施形態に従う、貫通微小電極の例示的寸法を含む、組織電気泳動転写用微小電極デバイス300の概略図である。微小電極デバイス300は、1つ以上の貫通微小電極の中心間距離334が約300マイクロメートルから約1.5ミリメートルの間の間隔を有する1つ以上の貫通微小電極を含んでもよい。貫通微小電極の長さ336は、約225マイクロメートルから約1250マイクロメートルの間の長さを含んでもよい。貫通微小電極は、約100マイクロメートルから約500マイクロメートルの間の直径338を含んでもよい。
【0049】
図22は、本発明の実施形態に従う、1つ以上の標的組織微小電極領域の多重化を使用する組織電気泳動転写用微小電極デバイス2200の概略図である。この実施形態では、デバイスは、それぞれが異なる生体分子を選択的に送達するための1つ以上の標的組織微小電極領域を含む。図22の例を参照して、1つ以上の標的組織微小電極領域2204a~dが使用され、ここで、異なる標的微小電極領域は1つ以上の異なる生体分子コーティング2222a~dを含む。例えば、同じ貫通微小電極2202c上の1つ以上の異なる標的微小電極領域2204cおよび2204dは、1つ以上の異なる生体分子コーティング2222cおよび2222dでコーティングされてもよい。別の例では、同じデバイス内の1つ以上の異なる貫通微小電極2202aおよび2202bは1つ以上の異なる標的組織微小電極領域2204aおよび2204bを有してもよく、これらは、1つ以上の異なる生体分子コーティング2222aおよび2222bでコーティングされてもよい。例えば、異なる生体分子は、図22に例示されるタイプの配置のうちの1つまたは複数を使用して、皮膚の表皮層の少なくとも一部内の1つの生体分子および皮膚の真皮層の少なくとも一部内の異なる生体分子などの皮膚の異なる層に送達されてもよい。
【0050】
図4は、本発明の実施形態に従う、皮膚の表皮層および皮膚の真皮層の少なくとも1つにおいて組織の細胞膜の一時的透過化を作出するために、電圧源(図1の112を参照のこと)から貫通微小電極に印加されたパルス電圧440を例示するグラフである。電気接続部(図1の110を参照のこと)は、電圧源(図1の112を参照のこと)から貫通微小電極にパルス電圧を印加し、皮膚の表皮層および皮膚の真皮層の少なくとも1つの組織の細胞膜の一時的透過化を作出することができる。図4を参照して、電気接続部は、電圧源から貫通微小電極に電圧を印加し、貫通微小電極の周囲の皮膚組織に1センチメートル当たり約0.1キロボルト(kV)から1センチメートル当たり約10キロボルト(kV)の間の最大電場強度442を作出することができる。
【0051】
図25は、本発明の実施形態に従う、モデリングプロセッサー2562を組み込む、組織電気泳動転写用微小電極デバイス2500の概略図である。ここで、モデリングプロセッサー2562は、組織レベル電場予測および標的組織の細胞密度を説明する細胞レベルシミュレーションを組み込むマルチスケール皮膚電気穿孔モデルを使用することによって、電気穿孔ホットスポットを決定するためのモデリングモジュールを含む。このモジュールを実施するために、モデリングプロセッサー2562は、組織レベル電場予測モジュール2564および細胞レベルシミュレーションモジュール2566を含む。組織レベル電場予測モジュール2564は、例えば、組織の電場を決定するためのモデルを使用することができる。細胞レベルシミュレーションモジュール2566は、例えば、組織内の細胞密度をシミュレートすることができる。これらのモジュールを使用して、モデリングプロセッサー2562は、組織電気泳動転写によって、生体分子を組織位置に位置する細胞に選択的に送達すべき組織位置を決定することができる。加えて、これらのモジュールを使用して、モデリングプロセッサー2562は、電圧源2512によって貫通微小電極2502に送達される制御電圧2568を決定することができる。さらに、モデリングプロセッサー2562の出力を使用して、標的組織内のアンカー微小電極領域2508および標的組織微小電極領域2504の位置を決定すること、ならびにこのような貫通微小電極2502のアレイにおいて使用される貫通微小電極2502の形式、間隔および寸法を決定することができる。加えて、モデリングプロセッサー2562を使用して、モデリングプロセッサー2562が組織レベル電場予測モジュール2564および細胞レベルシミュレーションモジュール2566を含むか否かにかかわらず、電圧源によって貫通微小電極に送達される制御電圧を決定することができる。
【0052】
本明細書に示される様々な技法は、モデリングプロセッサー2562、組織レベル電場予測モジュール2564および細胞レベルシミュレーションモジュール2566などのコンピューター実施構成要素を含んでもよい(図25を参照のこと)。このような構成要素は、ハードウェアを使用して実施することができ、例えば、1つまたは複数の特定用途向け集積回路(ASIC)、1つまたは複数のプロセッサーで実行するアプリケーションソフトウェアを含むことができる1つまたは複数のプロセッサー;ならびに電気シグナルを本明細書に示されるシステムにおよびそのシステムから送達するセンサーおよび/または制御接続部(図25の電圧源2512および貫通微小電極2502など)であって、シグナルは、電気シグナルを本明細書に示される構成要素内の動作中の構成要素におよびその構成要素から送達することができる、センサーおよび/または制御接続部を含むことができる。この構成要素は、ユーザー入力を受容するための構成要素(プロセッサーおよびメモリーに接続したキーボード、タッチパッド、および関連する電子装置など)を含むことができるユーザー入力モジュールを含むことができる。モデリングプロセッサー2562および電圧源2512などの構成要素は、情報を保存し、コンピューターハードウェアおよびソフトウェアの制御下で手順を実施するためのメモリーも含むことができる。他の制御ハードウェアおよびソフトウェアが使用されてもよいことが認識されるであろう。ハードウェア、ソフトウェアまたはこの組合せを使用して技法を実施することができる。ソフトウェアで実施される場合、ソフトウェアコードは、単一のコンピューターで提供されるかまたは複数のコンピューター間で分散されるかにかかわらず、いずれかの好適なプロセッサーまたはプロセッサーの集合で実行することができる。
【0053】
図12は、本発明の実施形態に従う実験において、貫通微小電極アレイと共に使用される電気システムの概略の概略図である。この実験では、電気的特性は、導電性流体と皮膚組織の両方で実施される。概略は、関数発生器、増幅器および電気穿孔チップを含む。ここで、貫通微小電極は、プリント回路基板に取り付けられたニードルであり、1.3mmの中心間距離を有する長さ2mmのものである。
【0054】
図13は、本発明の実施形態に従う実験において、ローダミンを用いる電気的透過化試験の結果の画像を示す図である。この実験では、1.5kV/cm、10m秒のDCパルスを印加した。長さ3mmのニードルを使用した。角質層はパルセーションで克服した。画像は、明視野および出現した赤色チャネル画像を示す。パルス無しのニードルに関する結果が左であり、パルス有りのニードルに関する結果が右である。
【0055】
図14は、本発明の実施形態に従う実験において、ヨウ化プロピジウムを用いる透過化試験に使用されるプロトコールの概要である。
【0056】
図15は、図14の実験において、区分化された皮膚画像の例の画像を示す図である。
【0057】
図16は、図14の実験において、画像分析の結果を示す図である。右下のグラフは、Ge et al., 2010, "The viability change of pigskin in vitro," Burns, 36 (2010)からのものである。
【0058】
図17は、本発明の実施形態に従う、複数の電極が1つの群としてアドレス指定される貫通微小電極アレイの電極構造の概略図である。この実施例では、「1」と標識された電極は、「2」、「3」および「4」と標識された電極と同様に、1つの群としてアドレス指定される。他の配置を使用することができること、および個々にアドレス指定可能な電極を使用することができることが認識されるであろう。この図に示されるように、微小電極デバイスは、1つ以上の貫通微小電極を含むことができ、電気接続部は、1つ以上の貫通微小電極のうちの2つまたはそれより多くに電気的に独立した接続部を含むことができる。
【0059】
図18は、本発明の実施形態に従う、電気接続部を与えるプリント回路基板を使用する貫通微小電極アレイデバイスを示す図である。
【0060】
図19は、本発明の実施形態に従う実験において、プリント回路基板を使用して貫通微小電極アレイデバイスの試験結果の画像を示す図である。ヨウ化プロピジウムの「ホットスポット」は、ニードル挿入部位の周辺に見ることができる。
【0061】
図20は、本発明の実施形態に従う、フォトリソグラフィーを使用して製作された貫通微小電極アレイの概略図である。この図に示されるように、電気接続部は、フォトリソグラフィーによって画定される接続部を含むことができ、貫通微小電極は、フォトリソグラフィーによって画定される電極基材を含むことができ、貫通微小電極は、電気めっきされた金属を含むことができる。一例では、貫通微小電極アレイは、UV LiGA技法を使用して製作することができ、ここで、「LiGA」は、リソグラフィー(Lithography)、電気めっき(Electroplating)およびモールディング(Molding)を示すドイツ語の頭字語に由来する。フォトリソグラフィーを使用して、電気メッキ用のトレース、貫通微小電極基材、モールドを定義することができる。金属の電気めっきを使用して固体ポストを作出することができる。電気化学エッチングまたは湿式エッチングを使用して、貫通微小電極の形状を規定することができる。この後に、モールディング材料の除去と、ウェハーのダイシングを行って、別々のチップを作出することができる。図21は、本発明の実施形態に従う、フォトリソグラフィーを使用して貫通微小電極アレイを製作するために使用されるウェハー上のダイスの画像である。
【0062】
本発明による実施形態は、貫通微小電極の選択的絶縁および貫通微小電極のDNAベクター(または他の生体分子)によるコーティングを使用して、ベクターと強度の低い電気パルスを電極に隣接する同時発生的「ホットスポット」区画に送達する。大きな組織体積をトランスフェクトする試みとは対照的に、実施形態は、電場「ホットスポット」内の電極に隣接する組織をトランスフェクトすることのみに焦点を当てるため、効率的な表皮および真皮の遺伝子電気泳動転写(GET)、または他の生体分子送達のために、より低いパルスの電場強度を使用することができる。このアプローチによって、ベクターおよび電気エネルギーを「ホットスポット」により効率的に送達することにより、GETにおける安全性、忍容性および有効性の問題に対処することによって、経皮的電気穿孔の臨床解釈に対する主要なボトルネックの多くを克服することができ、その結果、皮膚EPのより低い閾値が得られ、ベクター送達が透過化される皮膚の一部を直接的に標的とし、標的化真皮層トランスフェクションが得られると考えられる。パルス印加の前後の皮膚のインピーダンスモニタリングと組み合わせたこれらの利益によって、貫通微小電極アレイが、電極挿入とパルスプロトコールの両方からの組織刺激を最小限にする一方で最大のDNA送達(または他の生体分子送達)およびGET発現を得ることが可能になる。
【0063】
本発明による実施形態は、ベクターまたは他の生体分子があまり制御されずに皮膚下に注射される他の貫通電気穿孔プラットフォームとは対照的であり、長い、深く貫通する電極が使用され、その結果、電極の一部が皮膚の下に存在する。これらのアプローチは、電極周辺の組織のより大きな体積を透過化するために、より高い強度のパルスも使用する。ベクター注射は、多量のベクターが、効率的に透過化されていない区画の組織中に分配されることを意味し、高強度のパルスと組み合わせた深い電極の貫通によって、電極に隣接する切除を伴う不可逆的電気穿孔組織損傷の原因となる。このことにより、GETトランスフェクション効率の変動性および有害な組織損傷がもたらされる。投与部位選択、電極設計、およびパルスパラメーターに関する臨床プロトコールは、安全性、忍容性および有効性に関して注意深く評価されなければならない。(20、40、41)特に、本発明による実施形態は、GETにより活性化され得る高濃度のケラチノサイトおよび樹状細胞により、生きた表皮を標的とする。
【0064】
他の実施形態では、ベクターの送達およびトランスフェクションの選択的表皮および真皮の標的化は、電気化学療法(ECT)、非熱的不可逆的電気穿孔(N-TIRE)または皮膚以外の組織の集束トランスフェクション(focused transfection)などの他の臨床レジメンにおいても使用することができる。他の生体分子送達も実施することができることが認識されるであろう。
【0065】
図5は、本発明の実施形態に従う、微小電極の基材および先端部の貫通微小電極の選択的電気的絶縁部を例示し、標的化組織電気泳動転写のために微小電極によって生じた局在化した電場強度のシミュレーションの結果を示す図である。図5の実施形態では、貫通微小電極は、別個の真皮層に対して組織「ホットスポット」に集束するために、選択的に絶縁される。次いで、制御された低電圧電気穿孔は、貫通微小電極の領域にわたる選択的絶縁を使用して特定の真皮層に対して標的化される。この目的を達成するために、本発明の実施形態に従う一実験では、貫通微小電極アレイは、パリレン(ポリ(p-キシリレン))フィルムの化学蒸着(CVD)によりコーティングされる。パリレンCVDでは、公知の質量の固体パリレンダイマーがガス相に昇華され、ここで、次いでこれらは熱分解され、ダイマーを切断してモノマー分子とする。次いで、パリレンモノマーを蒸着チャンバー中に導入し、ここで、これらは多量体化し、曝露された貫通微小電極アレイ表面をコンフォーマルにコーティングする。パリレンは、その生物学的不活性性について公知のUSPクラスのVIポリマーであり、数十年もの間、医学的デバイスおよび医学的電子装置のための封入材料として使用されてきた。100~1000nm厚の絶縁パリレン層を貫通微小電極アレイ上に蒸着した。パリレンは、機械的摩耗またはより正確に除去するための集束COエキシマレーザーアブレーションによって、貫通微小電極の基材または先端部のいずれかから選択的に除去される。次いで、これらの貫通微小電極を、ニードル当たり予測値0.15~15μgのDNAをコーティングしたことが以前に報告されたように、1%(w/v)のカルボキシメチルセルロースおよび0.5%(w/v)のLutrol F-68 NF(BASF、Mt.Olive、NJ、USA)溶液中で安定化したpDNA溶液でコーティングする。インクジェットプリントまたはエレクトロスプレーなどの、マイクロニードルをコーティングするために使用された代替のコーティング技法を含む他のコーティング技法も利用することができ、他の生体分子も使用することができることが認識されるであろう。
【0066】
図5は、本発明の実施形態に従う、真皮または表皮のいずれかにおいて、貫通微小電極を選択的に絶縁し、「ホットスポット」を局在化させる作用を予測するシミュレーション結果も示す。皮膚電気穿孔が様々な印加電圧で生じる場所を正確に予測することができるため、組織損傷を最小限にしながら皮膚の別個の層でDNAベクター遺伝子電気泳動転写(GET)(または他の生体分子送達)を標的とすることができる。真皮または表皮の皮膚層に対してホットスポットに集束することによって、表皮トランスフェクションが、より高い表皮細胞密度に起因するより高い度合いのトランスフェクションを実証することが期待され、このことには、DNAベースのワクチンが保護的な免疫学的応答を付与する樹状細胞活性化のために十分な発現を有することを確実にする助けとなるであろう。同様の利点は、他の生体分子の送達により達成され得る場合がある。
【0067】
本発明による実施形態は、DNA(または他の生体分子、例えば核酸またはタンパク質)の送達および電極周辺の電場ホットスポットを局在化させる侵襲が最小限の貫通微小電極アレイを提供する。本発明の実施形態に従う実験では、皮膚内の電気穿孔閾値を超える電場分布を予測することができる皮膚電気穿孔モデルとその後、組織内の細胞の電気穿孔が組織の残りの部分内の電場分布をどのように変化させるかを予測することができるパック細胞モデルの両方の開発によって、貫通電極の寸法および間隔についての情報を得る。高濃度のpDNAベクター(または他の生体分子)を貫通微小電極アレイ上に直接コーティングすることによって、DNAは、挿入後に、電極表面に隣接する組織内に局所的に再構成され、その結果、ベクターおよび電気エネルギーは、標的化組織トランスフェクションを得るために皮膚内の所望の「ホットスポット」位置に送達される。
【0068】
本発明による実施形態は、標的化皮膚電気穿孔のための貫通微小電極の選択的絶縁を提供する。絶縁ポリマーを貫通微小電極表面に付着させ、貫通微小電極の一部(例えば、先端部対基材)にわたり絶縁を選択的に除去することによって、貫通微小電極の部分が絶縁され、その結果、ベクターおよび電気エネルギーは、標的化皮膚層トランスフェクションを得るために皮膚内の所望の「ホットスポット」位置に送達され得る。
【0069】
本発明のおよび本明細書に記載の実施形態に従って構築された実験は、異なる貫通電極の幾何学に由来する皮膚モデル内の電場分布のコンピューターモデリング、パック細胞組織モデル内の透過化分布のコンピューターモデリング、貫通微小電極アレイの開発、貫通微小電極の選択的絶縁、および別個の真皮層へのベクターの送達と電気パルスエネルギーを同時に標的とするための貫通微小電極アレイのDNAベクターコーティングによる真皮電気穿孔効率の改善のための多面的アプローチを用いる。
【0070】
実施例1:
【0071】
図7は、本発明の実施形態に従う、貫通微小電極アレイの写真および概略図を示す図である。本発明の実施形態に従う実験では、図7を参照して、プリント回路基板(PCB)アレイ中にアセンブルされたオーステナイト系316外科用ステンレス鋼鍼灸ニードルからなる貫通微小電極アレイを開発した。各貫通微小電極は、6.129°のテーパー角度で745μmの先端部長にわたり細い点へと先細りする160μmの直径のニードルである。各ニードルを、電極が貫通する公知の厚さのプラスチックシリコンゴムのスペーサーを使用して制御された貫通微小電極の貫通長を有するめっきされたスルーホールを通してPCB中に配置する。貫通微小電極アレイの全体的貫通深さは、1/4mm程度に短い可能性のある曝露された貫通微小電極長によって制御される。貫通微小電極のアセンブリー後に、ニードルの背部を挟み、次いで、はんだ槽内のディップはんだ付けによりPCBにはんだ付けする。PCBを電機励起のためのリボンケーブルに接続する。プロトタイプ貫通微小電極アレイは、0.75mmの中心間距離を有する16個の電極を支持し、図7に示されるように、典型的に1mm突出している。貫通微小電極アレイの設計は、組織レベル電場予測ならびに真皮および表皮の細胞密度を説明する細胞レベルシミュレーションを電気穿孔がシミュレーションされる電極周辺の「ホットスポット」を特定するための電気穿孔回路モデルに関連させるマルチスケール皮膚電気穿孔モデルの開発によって情報を得る。このマルチスケールモデルは、貫通微小電極アレイの設計とインプリメンテーションに情報を与えて、最適な貫通微小電極アレイの幾何学とパルスパラメーターを決定する。このようなマルチスケールモデルは、例えば、本明細書の図25と比較して記載されるモデリングプロセッサーによって実施され得る。
【0072】
実施例2:
【0073】
図8は、本発明の実施形態に従う、皮膚の角質層、表皮層および真皮層、およびこれらの層に挿入された貫通微小電極の概略を示す図である。本発明の実施形態に従って行われる実施調査では、図8を参照して、皮膚形態が、現実的な表面トポグラフィーおよび表皮の厚さを有する真皮表皮接合部(DEJ)を描写する組織学的画像から抽出されたコンピューター皮膚組織レベルのモデルが開発された。図8では、画像848は、DEJを描写するH&E染色した皮膚を示し、画像850は、2D皮膚モデル中に抽出された表皮厚さを示し、画像852は、周期的隆起を有する3D皮膚モデル中に突出した2Dモデルを示し、画像854は、皮膚組織学から抽出した波状表面を有する3D皮膚モデルを示す。挿入した貫通微小電極の対を画像854に示す。このシミュレーションにおいて使用した物理的特性(厚さ、導電性など)は文献(28、42)に見出された。この全体的皮膚モデルを使用して、0.5kV/cmの透過化電場強度閾値が達成される場所を特定するために、組織内の電場分布を決定する。このモデルを使用して、皮膚内の電場分布を、透過化電場のすべてが、20Vの印加で角質層内に局在化し、50Vおよびそれより高い電圧で真皮層中にのみ貫通する表面電極を使用して、シミュレーションした。シミュレーションをアップデートして、透過化閾値に達した場合に、角質層(SC)の導電性の増加を反映する。これには、100Vの電圧と皮膚中へのより深い電場貫通が必要とされるが、実験中に制御可能なプロセスではない。したがって、貫通微小電極の設計に焦点を当てることを決定した。
【0074】
実施例3:
【0075】
図9は、本発明の実施形態に従うシミュレーションにおいて、皮膚モデル中に挿入された16本の貫通微小電極のアレイを囲む局在化した電場強度のシミュレーションの結果を示す図である。貫通微小電極を使用する場合、図9に示されるように、シミュレーションによって電極周辺の「ホットスポット」を予測することができる。このシミュレーションによって、シミュレーションされたニードル周辺の電場分布を予測することができ、ニードルの間隔、挿入の深さおよび印加電圧を変更する。図9は、電場が、組織電気穿孔に対して期待される最小電場である、0.5kV/cmの値を超える電極周辺の体積を描写することによって、このような1つのシミュレーションの結果を示す。特に、電場は、電極面積が低下した、電気力線を集束する鋭い先端部に起因して、貫通微小電極の先端部で増加する。このように、貫通微小電極の連続する反復は、必要に応じて合理的に設計することができる。
【0076】
実施例4:
【0077】
組織レベルモデルに加えて、本発明の実施形態に従う実験において、局所パック細胞モデルを開発して、皮膚の様々な層においてどのような透過化が起こるかを理解した。この局所モデルは、シミュレーションした電位を、0.5Vの膜貫通電圧(TMV)が達成された場合に、電気穿孔中に組織においてコンダクタンスが有意に下降するレジスターと並行して、細胞膜がキャパシターとして処理される細胞の局所等価回路モデルに関連付ける。次いで、電場分布をアップデートして、1つの細胞が受けている電気穿孔の影響が、その近隣のTMVにどうような影響を及ぼすか(故に、電気穿孔に対する傾向)を示すために局所細胞インピーダンスのこの下降を反映する。2つのモデルを開発した。1つ目は、表皮に見られる高いケラチノサイト密度を反映するパック球体モデル1056である。図10は、本発明の実施形態に従うシミュレーションにおいて、2.0kV/cmの印加電場における表皮ケラチノサイトのパック細胞モデル1056を示す図である。画像1058は、(上部)部分的に電気穿孔した状態を示す0.83kV/cmおよび(下部)完全に電気穿孔した状態を示す1.0kV/cmの電場のモデル1056の二次元投影である。イメージ1060は、(上部)膜貫通電位を示し、(下部)配向に依存する電気穿孔を示すシミュレーションした皮膚線維芽細胞内の電場を示す。図10の画像1056に示されるように、高強度の電場を印加した場合、すべての細胞が完全に電気穿孔される。図10の画像1058は、部分的に電気穿孔された状態から完全に電気穿孔された状態を反映する、中程度から高い印加電場におけるパック細胞の二次元中心線投影を示す。部分的に電気穿孔された状態では、1つの細胞の透過化によって、その近隣の局所電位が増加され得る。図10の画像1060は、皮膚線維芽細胞の細胞密度および分布を反映する様々な配向における楕円形細胞のより低い細胞密度のシミュレーションを示す(43)。より低い細胞密度は別として、このシミュレーションは、電気穿孔の度合いが、より度合いの高い電気穿孔を有する電場で整列させた細胞に関する細胞の配向と強く相関することを示す。これらのシミュレーションは、表皮内の標的化電気穿孔が、より高い細胞密度およびより低い配向依存性の作用に起因して、より度合いの高い細胞電気穿孔をもたらすという仮定を導いた。これらのシミュレーションを使用して、貫通微小電極アレイの設計を進め、パルスパラメーターを最適化することもできる。皮膚電気穿孔が様々な印加電圧で生じる場所を正確に予測することができ、その結果、組織損傷を最小限にしながら皮膚の別個の層でDNAベクターGET(または他の生体分子送達)を標的とすることができる。電気穿孔は、貫通微小電極の領域にわたり選択的絶縁を使用して、特定の真皮層に対して標的化することができる。このようなシミュレーション、ならびに結果として生じる制御、設計、および最適化は、本明細書の図25と併せて記載されるものなどの、モデリングプロセッサーを使用して実施することができる。
【0078】
実施例5:
【0079】
本発明の実施形態に従う別の実験では、ブタの皮膚における緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現についての研究を実施し、図6を参照して議論することになる。これらの研究は、Rutgers IACUC委員会(PROTO201702610-Porcine skin harvesting)によって承認されたプロトコールの下で実施した。皮膚は、3から5週齢の子ブタから新たに回収し、70%のエタノールで注意深く清浄化し、次いで毛を剃り、脱毛した。皮膚組織をおよそ1×1cmの小さな四角片に切断した。皮下脂肪および組織を外科用メスで注意深く除去した。1×PBS溶液中の20μg/mlのpEGFP-N1ベクター(Clontech)を、電気穿孔処理前に、MicronJet600マイクロニードル(NanoPass Technologies Ltd.、Nes Ziona、Israel)によって注射した。予備的な貫通微小電極アレイを使用して、電気パルスを印加した。GFP pDNAを浅型IDマイクロニードル注射によって注射し、それに続いて、5Vまたは50V 10msの電気穿孔パルスを与えた。電気穿孔処理の後に、皮膚試料を、インキュベーターのロッカー上で37℃の改変イーグル培地(MEM)中に直ちに入れた。選択した時点(パルセーションの8、16、24、および48時間後)で、皮膚試料を、注射部位の中心から横断面に沿ってスライスし、次いで、PBSで洗浄した。スライスは1~1.5mm厚であり、倒立型落射蛍光顕微鏡を使用することによって画像化した。図6は、新たに切除されたブタの皮膚において実証された貫通微小電極の先端部に局在化した24時間での緑色蛍光タンパク質(GFP)発現を示す。GFP発現は、皮内ID注射ならびにパネル644では5V、10msのDCパルス、およびパネル646では50V、10msのDCパルス後のブタの皮膚において示される。パネル644では、GFP発現は、皮膚表面から800μmのニードルの先端部および貫通微小電極アレイの寸法(1000μm長、750μm離れている)に一致して650μmの間隔を空けて局在化する。パネル644)の5Vのパルスは、鋭い貫通微小電極の先端部に起因して電場が最大であることが期待される貫通微小電極先端部の「ホットスポット」における局在化を示すが、一方、パネル646の50Vのパルスは、より拡散した組織の蛍光を示す。
【0080】
実施例6:
【0081】
さらに、組織電気穿孔の度合いは、細胞が透過化された場合に、組織インピーダンスの下降によってモニターすることができ、本発明の実施形態に従う実験では、5V程度の低い電圧で組織レベル電気穿孔のエビデンスが示されている(図6、パネル644)。図11は、本発明の実施形態に従う実験において、電気穿孔パルスの印加の前後の切除されたブタの皮膚のインピーダンスを示す。組織インピーダンスをモニターすることによって、組織電気穿孔の度合いを評価することができ、インピーダンスの変化は、pDNA発現(または送達された他の生体分子に関連する発現または他の現象)および組織損傷と相関し得る。図11における、5Vまたは50V 10ms電気穿孔パルスの前(測定1~3)および後(測定4~5)の連続的組織インピーダンスの測定。5Vのパルスは、組織インピーダンスの1%の変化を示し、一方、50Vのパルスは、5%の下降を示す。
【0082】
実施例7:
【0083】
図23は、本発明の実施形態に従う実験において、静電スプレーによって貫通微小電極アレイ上に堆積したDNA複合体の画像である。これは、微小電極デバイスの標的組織微小電極領域の表面の少なくとも一部に選択的に送達される生体分子を含む生体分子コーティングの例を例示する。静電スプレーは、貫通微小電極アレイ上にDNA複合体を付着させるために用いられ、これは、ニードルマイクロアレイとして実施される。GFP DNAプラスミドを溶液中で調製し、次いで、高圧に保たれたニードルから接地型マイクロアレイにスプレーした。顕微鏡の合成画像は、0.1mL/時の流速で20分のスプレーの後のニードルを示す。
【0084】
実施例8:
【0085】
図24は、本発明の実施形態に従う実験において、絶縁誘電体コーティングのコンフォーマル層で絶縁した貫通微小電極の画像である。これは、微小電極デバイスの貫通微小電極上に蒸着された絶縁ポリマーを含む電気的絶縁部の例を示す。微小電極は、使用されるパリレンダイマー前駆体の質量に応じて100nmから2mmの範囲で、化学蒸着(CVD)によって蒸着されたポリ(パラキシレン)(パリレン)のコンフォーマル層で絶縁される。パリレンは、生体適合材料としてFDAに認められたUSP Class VIポリマーである。蒸着されたパリレンは、ヒトの移植に好適な疎水性の絶縁誘電体コーティングとして作用する。ニードル先端部の近接写真(上部右側)は、パリレン層のエッジを示す(白色の矢印)。
【0086】
定義
【0087】
本明細書で使用される場合、「貫通微小電極」は、皮膚組織を貫通するのに十分鋭い先細りの先端部を有するニードルなどの、皮膚組織を貫通することが可能である微小電極である。
【0088】
本明細書で使用される場合、「貫通微小電極アレイ」は1つ以上の貫通微小電極のアレイである。
【0089】
本明細書で使用される場合、貫通微小電極の「標的組織微小電極領域」は、組織電気泳動転写によって、生体分子を、貫通微小電極周囲の皮膚組織などの組織位置に位置する細胞に選択的に送達する、導電性金属表面などの導電性の表面を含む、貫通微小電極の領域である。
【0090】
本明細書で使用される場合、貫通微小電極の「アンカー微小電極領域」は、例えば、皮膚内の貫通微小電極の動きに対して十分な摩擦を与えることによって、微小電極が挿入される皮膚組織内に貫通微小電極を保持するのを補助するコーティングを有することなどによって、貫通微小電極が挿入される皮膚組織内の貫通微小電極を機械的に係留するのを補助する貫通微小電極の領域である。
【0091】
本明細書で使用される場合、「組織電気泳動転写」は、電気化学療法(ECT)および遺伝子電気泳動転写(GET)を含む任意の電気穿孔に媒介される経皮送達を含み得る。
【0092】
本明細書で使用される場合、「生体分子」は、核酸、タンパク質もしくは本明細書に教示される技法に従って組織トランスフェクションによって送達される任意の他の生体分子、またはこのような核酸、タンパク質もしくは他の生体分子の組合せを含み得る。例えば、生体分子は、以下のうちの1つまたは複数を含み得る:核酸またはタンパク質のワクチンベクター、核酸およびタンパク質のワクチンベクター、アンカーベクター、核酸生体分子(例えば、RNA、DNA/プラスミドベクター、DNAワクチン、DNA/プラスミドベクターワクチン)ならびにタンパク質(例えば、ペプチド/タンパク質、ペプチド/タンパク質ワクチン)。加えて、「生体分子」は、(1)抗体、例えばモノクローナル抗体、または別のリガンド特異的分子、および(2)生体活性および/もしくは細胞活性を有してもよい、または生体活性および/もしくは細胞活性に影響を及ぼし得る、送達される他の分子を含んでもよい。
【0093】
本明細書で使用される場合、「核酸」は、モノマーヌクレオチドの鎖(ポリマーまたはオリゴマー)から構成される高分子を指す。最も一般的な核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)である。本発明が、とりわけ、ペプチド核酸(PNA)、モルホリノ、ロックド核酸(LNA)、グリコール核酸(GNA)およびトレオース核酸(TNA)などの人工核酸を含有する生体分子に対して使用され得ることがさらに理解されるべきである。本発明の様々な実施形態では、核酸は、とりわけ、細菌、ウイルス、ヒト、および動物などの種々の供給源、ならびに植物および真菌などの供給源に由来してもよい。供給源は、病原体であってもよい。あるいは、供給源は、合成生物であってもよい。核酸は、遺伝子、染色体外または合成であってもよい。用語「DNA」が本明細書で使用される場合、当業者は、本明細書に記載の方法およびデバイスが、他の核酸、例えばRNAまたは上述のものに適用され得ることを認識するであろう。加えて、用語「核酸」、「ポリヌクレオチド」、および「オリゴヌクレオチド」は、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドを含むがこれらに限定されない任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を含むために本明細書で使用される。これらの用語間に長さでの区別は意図されない。さらに、これらの用語は、分子の一次構造のみを指す。よって、ある特定の実施形態では、これらの用語は、三本鎖、二本鎖および一本鎖DNA、PNA、ならびに三本鎖、二本鎖および一本鎖RNAを含んでもよい。これらは、メチル化によるおよび/またはキャッピングによるなどの修飾、ならびにポリヌクレオチドの未修飾形態も含んでもよい。より詳細には、用語「核酸」、「ポリヌクレオチド」、および「オリゴヌクレオチド」は、ポリデオキシリボヌクレオチド(2-デオキシ-D-リボースを含有する)、ポリリボヌクレオチド(D-リボースを含有する)、プリンまたはピリミジン塩基のN-またはC-グリコシドである任意の他の種類のポリヌクレオチド、ならびに非ヌクレオチド主鎖を含有する他のポリマー、例えば、ポリアミド(例えば、ペプチド核酸(PNA))およびポリモルホリノ(Anti-Virals,Inc.、Corvallis、Oreg.、U.S.A.からNeugeneとして市販されている)ポリマー、ならびにDNAおよびRNA中に見られるように、ポリマーが塩基対合および塩基スタッキングを可能にする立体配置中に核酸塩基を含有する場合には、他の合成配列特異的核酸ポリマーを含む。加えて、「核酸」は、プラスミドDNAベクターなどのプラスミドDNA(pDNA)を含んでもよい。
【0094】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」は、アミノ酸の1つまたは複数の鎖からなる生体分子である。タンパク質は、主に、コード遺伝子のヌクレオチド配列によって指定されるそのアミノ酸の配列において互いに異なる。ペプチドは、隣接するアミノ酸残基のカルボキシル基とアミノ基の間のペプチド結合によって一緒に結合した2つまたはそれより多いアミノ酸の単一の線状ポリマー鎖であり、鎖内の複数のペプチドはポリペプチドと称されてもよい。タンパク質は、1つまたは複数のポリペプチドから構成されてもよい。合成後間もなく、または合成中でも、タンパク質の残基は、翻訳後修飾によって化学的に修飾されることが多く、これは、タンパク質の物理化学的特性、フォールディング、安定性、活性、および最終的にはその機能を変更する。タンパク質は、結合した非ペプチド基を有することもあり、これは、補欠分子族または補因子と呼ばれる場合がある。
【0095】
加えて、本明細書において使用される生体分子は、非天然の塩基および残基、例えば、生物学的配列中に挿入された非天然のアミノ酸を含むことができる。
【0096】
参照文献
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【0097】
本明細書において引用されるすべての特許、公開された出願および参照文献の教示は、参照によりその全体が組み込まれる。
【0098】
実施例の実施形態が詳細に示され記載されているが、形式上および詳細な様々な変更が、添付の特許請求の範囲に包含される実施形態の範囲を逸脱することなくなされ得ることが当業者によって理解されるであろう。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
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図19
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図24
図25