(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】車両の熱管理システム
(51)【国際特許分類】
B60K 11/02 20060101AFI20230412BHJP
B60H 1/22 20060101ALI20230412BHJP
B60K 11/04 20060101ALI20230412BHJP
B60K 1/00 20060101ALI20230412BHJP
B60K 1/04 20190101ALI20230412BHJP
H01M 10/6568 20140101ALI20230412BHJP
H01M 10/6556 20140101ALI20230412BHJP
H01M 10/663 20140101ALI20230412BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20230412BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20230412BHJP
H01M 10/615 20140101ALI20230412BHJP
B60L 50/50 20190101ALI20230412BHJP
【FI】
B60K11/02
B60H1/22 651A
B60K11/04 G
B60K11/04 H
B60K1/00
B60K1/04 Z
H01M10/6568
H01M10/6556
H01M10/663
H01M10/625
H01M10/613
H01M10/615
B60L50/50
(21)【出願番号】P 2018185260
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 靖
(72)【発明者】
【氏名】神 義幸
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/069629(WO,A1)
【文献】特開2012-154222(JP,A)
【文献】特開2018-43741(JP,A)
【文献】特開2015-116872(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0267056(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 11/02, 1/00,
B60L 50/00-58/00, 3/00,
B60H 1/22,
H01M 10/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内の温度調節を行う冷媒が循環する冷媒回路と、
前記冷媒との間で熱交換を行う液体をバッテリに導入することで前記バッテリの温度調節を行うバッテリ温度調節回路と、
ラジエータで冷却された液体が循環し、車両を駆動するための第1の機器及び第2の機器を冷却可能な電気部品冷却回路と、
を備え、
第1のモードでは、前記ラジエータで冷却された液体により前記第1の機器を冷却し、前記冷媒回路の前記冷媒により前記第2の機器を冷却し、前記冷媒との間で熱交換を行った液体を、前記バッテリと前記第2の機器に対して並列的に導入し、
第2のモードでは、前記ラジエータで冷却された液体により前記第1の機器を冷却し、前記冷媒回路の前記冷媒により前記第2の機器を冷却し、前記冷媒との間で熱交換を行った液体を、前記バッテリと前記第2の機器に対して直列的に導入することを特徴とする、車両の熱管理システム。
【請求項2】
前記第1のモードでは、前記冷媒との間で熱交換を行った液体が、前記バッテリ温度調節回路に設けられた分岐部で分離されて、前記バッテリと前記第2の機器のそれぞれに導入されることを特徴とする、請求項1に記載の車両の熱管理システム。
【請求項3】
前記分岐部で前記バッテリ温度調節回路から分離されて前記第2の機器へ接続される第1のバイパス流路と、
前記第1のバイパス流路に設けられたウォータポンプと、
を更に備え、
前記ウォータポンプの作動により前記分岐部から前記第1のバイパス流路に流れた液体を前記第2の機器へ導入することを特徴とする、請求項2に記載の車両の熱管理システム。
【請求項4】
前記第2の機器に導入された液体を前記バッテリ温度調節回路に戻す第2のバイパス流路を備え、
前記バッテリ温度調節回路は、前記第2のバイパス流路と前記バッテリ温度調節回路との接続部の下流側に設けられた制御弁と、前記制御弁の下流に設けられ、前記冷媒との間で熱交換を行う熱交換器と、を有し、前記分岐部は前記熱交換器の下流側に設けられ、
前記第1のモードでは前記制御弁を開くことで、前記バッテリから導出された液体が前記第1のバイパス流路を経由して前記第2の機器に導入されることを特徴とする、請求項3に記載の車両の熱管理システム。
【請求項5】
前記第2のモードでは、前記冷媒との間で熱交換を行った液体を前記バッテリに導入し、前記バッテリから導出された液体を前記第2の機器に導入することを特徴とする、請求項1に記載の車両の熱管理システム。
【請求項6】
前記バッテリ温度調節回路の液体を前記第2の機器へ導入する第
2のバイパス流路と、
前記第2の機器から導出された液体を前記バッテリ温度調節回路に戻す第
3のバイパス流路と、を備え、
前記バッテリ温度調節回路は、前記第
2のバイパス流路と前記バッテリ温度調節回路との第1の接続部と、前記第
3のバイパス流路と前記バッテリ温度調節回路との第2の接続部と、の間に設けられた制御弁と、前記第2の接続部の下流に設けられ、前記冷媒との間で熱交換を行う熱交換器と、を有し、
前記第2のモードでは、前記制御弁を閉じることで、前記バッテリから導出された液体が前記第
2のバイパス流路を経由して前記第2の機器に導入されることを特徴とする、請求項5に記載の車両の熱管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の熱管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記の特許文献1には、電動車両の車両用空調装置のシステム構成に関し、バッテリサイクルと冷凍サイクル(空調)が熱交換し、更にバッテリサイクルとパワーモジュールサイクル間に三方弁が形成され、温度調節が行われることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載された技術では、単にバッテリサイクルと冷凍サイクルが熱交換を行うのみであるため、例えば外気温などの要因で冷媒の温度を最適に制御できないような状況下では、バッテリの温度を適温にすることは困難である。また、電動車では、冷却対象部品である高電圧部品の発熱量と要求温度が、内燃機関を用いた通常の車両よりも低いことから、熱交換器での温度差をとることがより困難となる。また、暖房については、電動車では熱源となる内燃機関が存在せず、高電圧部品の排熱では十分な熱量を得られないため、発熱させるデバイスを別途設ける必要が生じ、これらのデバイスの効率がエネルギー効率に大きく影響する。このため、温度調整対象が複数存在する場合、冷却および暖房に必要なデバイスも複数必要となり、制御も複雑になることから車両のコスト、重量を増加させる要因となっている。
【0005】
更に、ラジエータを用いて冷却回路を構成すると、外気温以下に水温を下げることができないため、外気温によっては所望の冷却能力を確保できない問題がある。特に、車両を駆動するモータなどの高電圧部品の冷却が不足すると、車両の駆動力が不足し、車両が所望の性能を発揮できない事態が生じる可能性がある。その一方で、空調などの冷媒機能を用いて高電圧部品を冷却した場合、空調における冷却能力が不足する可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、冷却が必要な高電圧部品を最適に冷却することが可能な、新規かつ改良された車両の熱管理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、車室内の温度調節を行う冷媒が循環する冷媒回路と、前記冷媒との間で熱交換を行う液体をバッテリに導入することで前記バッテリの温度調節を行うバッテリ温度調節回路と、ラジエータで冷却された液体が循環し、車両を駆動するための第1の機器及び第2の機器を冷却可能な電気部品冷却回路と、を備え、第1のモードでは、前記ラジエータで冷却された液体により前記第1の機器を冷却し、前記冷媒回路の前記冷媒により前記第2の機器を冷却し、前記冷媒との間で熱交換を行った液体を、前記バッテリと前記第2の機器に対して並列的に導入し、第2のモードでは、前記ラジエータで冷却された液体により前記第1の機器を冷却し、前記冷媒回路の前記冷媒により前記第2の機器を冷却し、前記冷媒との間で熱交換を行った液体を、前記バッテリと前記第2の機器に対して直列的に導入する、車両の熱管理システムが提供される。
【0008】
前記第1のモードでは、前記冷媒との間で熱交換を行った液体が、前記バッテリ温度調節回路に設けられた分岐部で分離されて、前記バッテリと前記第2の機器のそれぞれに導入されるものであっても良い。
【0009】
また、前記分岐部で前記バッテリ温度調節回路から分離されて前記第2の機器へ接続される第1のバイパス流路と、前記第1のバイパス流路に設けられたウォータポンプと、を更に備え、前記ウォータポンプの作動により前記分岐部から前記第1のバイパス流路に流れた液体を前記第2の機器へ導入するものであっても良い。
【0010】
また、前記第2の機器に導入された液体を前記バッテリ温度調節回路に戻す第2のバイパス流路を備え、前記バッテリ温度調節回路は、前記第2のバイパス流路と前記バッテリ温度調節回路との接続部の下流側に設けられた制御弁と、前記制御弁の下流に設けられ、前記冷媒との間で熱交換を行う熱交換器と、を有し、前記分岐部は前記熱交換器の下流側に設けられ、前記第1のモードでは前記制御弁を開くことで、前記バッテリから導出された液体が前記第1のバイパス流路を経由して前記第2の機器に導入されるものであっても良い。
【0012】
また、前記第2のモードでは、前記冷媒との間で熱交換を行った液体を前記バッテリに導入し、前記バッテリから導出された液体を前記第2の機器に導入するものであっても良い。
【0013】
また、前記バッテリ温度調節回路の液体を前記第2の機器へ導入する第2のバイパス流路と、前記第2の機器から導出された液体を前記バッテリ温度調節回路に戻す第3のバイパス流路と、を備え、前記バッテリ温度調節回路は、前記第2のバイパス流路と前記バッテリ温度調節回路との第1の接続部と、前記第3のバイパス流路と前記バッテリ温度調節回路との第2の接続部と、の間に設けられた制御弁と、前記第2の接続部の下流に設けられ、前記冷媒との間で熱交換を行う熱交換器と、を有し、前記第2のモードでは、前記制御弁を閉じることで、前記バッテリから導出された液体が前記第2のバイパス流路を経由して前記第2の機器に導入されるものであっても良い。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、冷却が必要な高電圧部品を最適に冷却することが可能な車両の熱管理システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両の熱管理システムの概略構成を示す模式図である。
【
図3】高電圧バッテリの冷却時の動作を示す模式図である。
【
図4】車室内の冷房と高電圧バッテリの冷却を共に行う場合の動作を示す模式図である。
【
図6】車室内の除湿と暖房を共に行う場合の動作を示す模式図である。
【
図7】車室内の除湿と暖房を共に行う場合の動作の別の例を示す模式図である。
【
図8】車室内の除湿と高電圧バッテリの冷却を共に行う動作を示す模式図である。
【
図9】車室内の除湿と高電圧バッテリの昇温を共に行う動作を示す模式図である。
【
図10】ヒートポンプ式の車室内暖房の動作を示す模式図である。
【
図11】高電圧ヒータによる車室内の暖房の動作を示す模式図である。
【
図12】ヒートポンプによる高電圧バッテリの昇温の動作を示す模式図である。
【
図13】高電圧ヒータによる高電圧バッテリの昇温の動作を示す模式図である。
【
図14】
図1に示したパワーエレクトロニクス冷却回路の構成に対し、バイパス水路を追加した例を示す模式図である。
【
図15】
図14に示す構成において、パワートレイン冷却水を利用して高電圧バッテリの温度調節を行っている状態を示す模式図である。
【
図16】第2の機器の排熱を利用する場合を示す模式図である。
【
図17】パワートレイン冷却液を利用して第1の機器を冷却し、電池温度調節回路の冷却液を利用して第2の機器を冷却する例を示す模式図である。
【
図18】パワートレイン冷却液を利用して第1の機器を冷却し、電池温度調節回路の冷却液を利用して第2の機器を冷却する別の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
1.熱管理システムの構成
まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態に係る車両の熱管理システム1000の概略構成について説明する。この熱管理システム1000は電動車両などの車両に搭載される。
図1に示すように、熱管理システム1000は、パワーエレクトロニクス冷却回路100、冷媒回路200、加熱回路300、電池温度調節回路400、を有している。この熱管理システム1000では、車室内の温度調節と車両を駆動するためのバッテリの温度調整を、冷媒回路300と加熱回路400との組み合わせにより実現している。
【0018】
1.1.パワーエレクトロニクス冷却回路の構成
パワーエレクトロニクス冷却回路100は、車両を駆動するためのパワーエレクトロニクスと接続され、これらのパワーエレクトロニクスを冷却する。具体的に、パワーエレクトロニクス冷却回路100は、第1の機器110と接続されている。また、パワーエレクトロニクス冷却回路100は、ラジエータ102、膨張タンク104、ウォータポンプ106と接続されている。一例として、一例として、第1の機器110は車両の駆動モータまたはインバータまたはコンバータ等で構成され、第2の機器116は車両の駆動モータまたはインバータまたはコンバータ等で構成される。
【0019】
パワーエレクトロニクス冷却回路100には、液体(冷却液(LLC:Long Life Coolant))が流れている。
図1において、冷却ファン500が回転すると、冷却ファン500が発生させた風が冷媒回路200の室外熱交換機202とラジエータ102に当たる。なお、車両走行時には、走行風も室外熱交換機202とラジエータ102に当たる。これにより、ラジエータ102で熱交換が行われ、ラジエータ102を通る液体が冷却される。
【0020】
図1に示すように、パワーエレクトロニクス冷却回路100では、ウォータポンプ106の作動により矢印方向に液体が流れる。ウォータポンプ106の上流側に設けられた膨張タンク104は、液体を一時的に貯留し、液体の気水分離を行う機能を有する。
【0021】
パワーエレクトロニクス冷却回路100を流れる液体は、分岐部122で2方向に分かれ、第1の機器110と第2の機器116のそれぞれに供給される。これにより、第1の機器110と第2の機器116が冷却される。パワーエレクトロニクス冷却回路100を流れる液体は、ラジエータ102に戻される。
【0022】
1.2.冷媒回路の構成
冷媒回路200は、室外熱交換機202、低圧電磁弁204、チラー用膨張弁206、アキュムレータ208、電動コンプレッサ210、水冷コンバイパス電磁弁212、高圧電磁弁214、暖房用電磁弁216、冷房用膨張弁217、エバポレータ218、逆止弁20、水冷コンデンサ306、チラー408と接続されている。
【0023】
冷却ファン500が回転すると、冷却ファン500が発生させた風が冷媒回路200の室外熱交換機202に当たる。これにより、室外熱交換機202で熱交換が行われ、室外熱交換機202を通る冷媒が冷却される。
【0024】
また、
図1に示すように、冷媒回路200では、電動コンプレッサ210の作動により矢印方向に冷媒が流れる。電動コンプレッサ210の上流側に設けられたエバポレータ208は、冷媒の気水分離を行う機能を有する。
【0025】
冷媒回路200では、電動コンプレッサ210により圧縮された冷媒が室外熱交換器202で冷却され、冷却用膨張弁217によってエバポレータ218に噴射されることで気化し、エバポレータ218を冷却する。そして、エバポレータ210に送風された空気10が冷やされ、車室内に導入されることで、車室内が冷房される。冷媒回路200は、主として車室内の冷房、除湿、暖房を行う。
【0026】
また、本実施形態において、冷媒回路200は、高電圧バッテリ410の温度調節も行う。冷媒回路200による高電圧バッテリ410の温度調節については、後で詳細に説明する。
【0027】
1.3.加熱回路の構成
加熱回路300は、高電圧ヒータ302、ヒータコア304、水冷コンデンサ306、ウォータポンプ308、三方弁310と接続されている。また、加熱回路300は、流路312、流路314を介して、電池温度調節回路400の三方弁404,412と接続されている。加熱回路300は、主として車室内の暖房を行う。また、本実施形態において、加熱回路300は、高電圧バッテリ410の温度調節も行う。
【0028】
加熱回路300には、加熱用の液体(LLC)が流れている。液体は、ウォータポンプ308の作動により矢印方向に流れる。液体は、高電圧ヒータ302が作動すると、高電圧ヒータ302により暖められる。ヒータコア304には、エバポレータ218に送風された空気10が当たる。エバポレータ218に送風された空気10は、ヒータコア304により暖められ車室内に導入される。これにより、車室内の暖房が行われる。エバポレータ218とヒータコア304は、一体のデバイスとして構成されていても良い。
【0029】
水冷コンデンサ306は、加熱回路300と冷媒回路200との間で熱交換を行う。
加熱回路300による高電圧バッテリ410の温度調節については、後で詳細に説明する。
【0030】
1.4.電池温度調節回路の構成
電池温度調節回路400は、ウォータポンプ402、三方弁404、膨張タンク406、チラー408、高電圧バッテリ410、三方弁412と接続されている。電池温度調節回路400は、高電圧バッテリ410の温度調節を行う。
【0031】
電池温度調節回路400には、高電圧バッテリ410の温度を調節するための液体(LLC)が流れている。液体は、ウォータポンプ402の作動により矢印方向に流れる。液体は、チラー408に導入される。チラー408は、電池温度調節回路400を流れる液体と冷媒回路200を流れる冷媒との間で熱交換を行う。膨張タンク406は、液体を一時的に貯留するタンクである。
【0032】
上述したように、電池温度調節回路400は、高電圧バッテリ410の温度調節も行う。電池温度調節回路400による高電圧バッテリ410の温度調節については、後で詳細に説明する。
【0033】
1.4.高電圧バッテリの温度調節
高電圧バッテリ410の温度が適度に昇温すると、高電圧バッテリ410が発生させる電力が増大する。本実施形態では、冷媒回路200、加熱回路300により高電圧バッテリ410の温度調節を行うことで、高電圧バッテリ410の温度を最適に調節することができ、高出力を発揮させることができる。例えば、冬場の車両始動時等においては、高電圧バッテリ410が冷えているため、十分な出力を発揮できない場合がある。また、高電圧バッテリ410の充電時には、高電圧バッテリ410が発熱し、高電圧バッテリ410の温度が過度に上昇してしまう場合がある。このような場合においても、冷媒回路200、加熱回路300により高電圧バッテリ410の温度調節を行うことで、高電圧バッテリ410の温度を最適に調節することが可能である。なお、高電圧バッテリ410の温度調節は、高電圧バッテリ410の温度測定値に基づくフィードバック制御により行うことが好適である。
【0034】
2.熱管理システムの動作例
次に、上述のように構成された熱管理システム1000の動作について説明する。車室内の冷房、除湿、暖房、高電圧バッテリ410の温度調節を行うため、各種の熱交換が行われる。以下では、熱管理システムにおけるこれらの動作を説明する。なお、各動作は一例であり、各動作を実現するための制御は例示したものに限定されるものではない。説明に際し、低圧電磁弁204、チラー用膨張弁206、水冷コンバイパス電磁弁212、高圧電磁弁214、暖房用電磁弁216、三方弁310、三方弁404、三方弁412の動作状態として、図中に白抜きで示したものは開状態として示し、黒く塗りつぶしたものは閉状態として示す。
【0035】
2.1.車室内の冷房
図2は、車室内の冷房時の動作を示す模式図である。車室内の冷房は、冷媒回路200によって行われる。
図2では、加熱回路300、電池温度調節回路400が停止した状態を示している。冷媒回路200の冷媒は、
図2中に矢印で示す方向に流れる。上述したように、エバポレータ210に送風された空気10がエバポレータ210で冷やされ、車室内に導入されることで、車室内が冷房される。
【0036】
2.2.高電圧バッテリの冷却
図3は、高電圧バッテリ410の冷却時の動作を示す模式図である。
図3において、高電圧バッテリ410の冷却は、冷媒回路200を流れる冷媒と電池温度調節回路400を流れる液体がチラー408との間で熱交換を行うことにより実現される。電動コンプレッサ210により圧縮された冷媒が室外熱交換器202で冷却され、チラー用膨張弁206によってチラー408に噴射されることで気化し、チラー408を冷却する。これにより、電池温度調節回路400を流れる液体が冷媒回路200を流れる冷媒によって冷却される。
図3では、加熱回路300が停止した状態を示している。
【0037】
2.3.車室内の冷房と高電圧バッテリの冷却
図4は、車室内の冷房と高電圧バッテリ410の冷却を共に行う場合の動作を示す模式図である。
図2に対してチラー用膨張弁206が開かれることで、冷媒回路200を流れる冷媒と電池温度調節回路400を流れる液体がチラー408でとの間で熱交換が行われ、高電圧バッテリ410が冷却される。
図4では、加熱回路300が停止した状態を示している。
【0038】
2.5.車室内の除湿
図5は、車室内の除湿時の動作を示す模式図である。
図2と異なる点は、エバポレータ218で冷却して除湿した空気をヒータコア304で再度加温する点である。エバポレータ218で熱交換を行った後の冷媒は高温、高圧の状態である。ウォータポンプ308の作動により加熱回路300内を液体が流れ、水冷コンデンサ306にて加熱回路300の液体と高温、高圧の冷媒が熱交換を行うことで、加熱回路300の液体が加温される。この際、
図5に示すように、三方弁310、三方弁404、三方弁412の一部が閉じられることで、加熱回路300の液体が電池温度調節回路400に流入することはない。エバポレータ218によって除湿された空気は、ヒータコア304で暖められて車室内に導入される。加熱回路300の液体へ冷媒から十分な熱が与えられないような状況では、高電圧ヒータ302をオンにして加熱回路300の液体を更に加温する。
【0039】
2.6.車室内の除湿と暖房(1)
図6は、車室内の除湿と暖房を共に行う場合の動作を示す模式図である。
図6では、冷媒回路200の冷媒の一部は、ラジエータ102を通過することなく、高圧電磁弁214を通り、エバポレータ218に導入される。ウォータポンプ308の作動により加熱回路300内を液体が流れ、水冷コンデンサ306にて加熱回路300を流れる液体が暖められる。これにより、エバポレータ218によって除湿された空気がヒータコア304で暖められて車室内に導入される。
【0040】
2.7.車室内の除湿と暖房(2)
図7は、車室内の除湿と暖房を共に行う場合の動作の別の例を示す模式図である。基本的な動作は
図6と同様であるが、
図7では、高圧電磁弁214と低圧電磁弁204が閉じられている。
図6と
図7の相違について説明すると、
図7では、外気温が低温の場合、除湿時に暖房能力を確保するため高電圧ヒータ302がオンとされる。一方、
図6では、外気温が低温の場合に、冷媒が室外熱交換器202をバイパスするため、高電圧ヒータ302を使用しなくても暖房能力を確保することが可能である。なお、
図6、
図7では、
図5と同様に、加熱回路300から電池温度調節回路400への液体の流入が停止されており、電池温度調節回路400が停止した状態を示している。
【0041】
2.8.車室内の除湿と高電圧バッテリの冷却
図8は、車室内の除湿と高電圧バッテリ410の冷却を共に行う動作を示す模式図である。
図5に対して、チラー用膨張弁206が開かれている。電動コンプレッサ210により圧縮された冷媒が室外熱交換器202で冷却され、チラー用膨張弁206によってチラー408に噴射されることで気化し、チラー408を冷却する。冷媒回路200を流れる冷媒と電池温度調節回路400を流れる液体がチラー408でとの間で熱交換が行われ、高電圧バッテリ410が冷却される。除湿は
図5と同様に行われる。
【0042】
2.9.車室内の除湿と高電圧バッテリの昇温
図9は、車室内の除湿と高電圧バッテリ410の昇温を共に行う動作を示す模式図である。基本的な動作は
図5と同様であるが、
図9では加熱回路300の液体が電池温度調節回路300に導入される。このため、加熱回路300の三方弁310と電池温度調節回路400の三方弁404,412において、矢印方向に液体が流れるように各弁が制御される。電池温度調節回路300と加熱回路300における液体は、ウォータポンプ402の作動により矢印方向に流れる。加熱回路300の液体が電池温度調節回路300に導入されることで、高電圧バッテリ410を昇温することができる。エバポレータ218によって除湿された空気は、ヒータコア304で暖められて車室内に導入される。加熱回路300の液体へ冷媒から十分な熱が与えられないような状況では、高電圧ヒータ302をオンにして加熱回路300の液体を更に加温する。
【0043】
2.10.ヒートポンプ式の車室内暖房
図10は、ヒートポンプ式の車室内暖房の動作を示す模式図である。電動コンプレッサ210により冷媒を高温、高圧にして、水冷コンデンサ306にて加熱回路300の液体と高温、高圧の冷媒が熱交換を行うことで、加熱回路300の液体が加温される。
図5と同様に、加熱回路300から電池温度調節回路400への液体の流入は停止され、電池温度調節回路400は停止している。車室内に導入される空気は、ヒータコア304で暖められる。加熱回路300の液体へ冷媒から十分な熱が与えられないような状況では、高電圧ヒータ302をオンにして加熱回路300の液体を更に加温する。
【0044】
2.11.高電圧ヒータによる車室内暖房
図11は、高電圧ヒータ302による車室内の暖房の動作を示す模式図である。高電圧ヒータ302により加熱回路300の液体が加熱され、ヒータコア304で熱交換が行われることにより、車室内が暖房される。冷媒回路200は停止した状態である。また、加熱回路300から電池温度調節回路400への液体の流入は停止され、電池温度調節回路400は停止している。
【0045】
2.12.ヒートポンプによる高電圧バッテリの昇温
図12は、ヒートポンプによる高電圧バッテリ410の昇温の動作を示す模式図である。基本的な動作は
図10と同様であるが、
図12では加熱回路300の液体が電池温度調節回路300に導入される。このため、加熱回路300の三方弁310と電池温度調節回路400の三方弁404,412において、矢印方向に液体が流れるように各弁が制御される。電池温度調節回路300と加熱回路300における液体は、ウォータポンプ402の作動により矢印方向に流れる。ヒートポンプによる高電圧バッテリの昇温では、電動コンプレッサ210により冷媒を高温、高圧にして、水冷コンデンサ306にて加熱回路300の液体と高温、高圧の冷媒が熱交換を行うことで、加熱回路300の液体が加温される。このため、外気温が極低温(例えば-10℃以下)である場合を除き、高電圧ヒータ302は停止状態とされる。従って、電力消費を抑えることができ、エネルギーの利用効率を高めることができる。
【0046】
以上のように、基本的には冷媒回路200を用いて冷媒と車室内の空気との熱交換を行い、また冷媒と電池温度調節回路400の液体との熱交換を行うことで、車室内の温度調節(冷房、暖房)と、高電圧バッテリ410の温度調節を実現する。更に、極低温時には、加熱回路300と電池温度調節回路400を接続し、両者を同一回路で構成することで、極低温時における温度要求に対しても対応できるようにする。
【0047】
2.13.高電圧ヒータによる高電圧バッテリの昇温
図13は、高電圧ヒータ302による高電圧バッテリ410の昇温の動作を示す模式図である。高電圧ヒータ302により加熱回路300の液体が加熱され、電池温度調節回路400に導入されることで、高電圧バッテリ410が昇温される。冷媒回路200は停止した状態である。
図13においても、加熱回路300の三方弁310と電池温度調節回路400の三方弁404,412において、矢印方向に液体が流れるように各弁が制御される。電池温度調節回路300と加熱回路300における液体は、ウォータポンプ402の作動により矢印方向に流れる。
【0048】
3.パワーエレクトロニクス冷却回路の冷却液による高電圧バッテリの温度調節
以上のように、熱管理システム1000では、冷媒回路200、加熱回路300、電池温度調節回路400を用いて、高電圧バッテリ410の温度調節を行うことができる。更に、本実施形態では、パワーエレクトロニクス冷却回路100を流れる液体によって、高電圧バッテリ410の温度調節を可能としている。
【0049】
図14は、
図1に示したパワーエレクトロニクス冷却回路100の構成に対し、バイパス水路130,132,134とバイパス用の三方弁140,142,144を追加した例を示す模式図である。バイパス水路130,132,134は、パワーエレクトロニクス冷却回路100と電池温度調節回路400を接続する。また、
図14に示す構成において、電池温度調節回路400の膨張タンク406は、高電圧バッテリ410とウォータポンプ402の間に設けられている。後述する
図15~
図16においても同様である。
【0050】
図14に示す構成では、ラジエータ102で冷却されたパワーエレクトロニクス(パワートレイン)用の冷却液を、電池温度調節回路400に流すことが可能となる。具体的に、バイパス用の三方弁140,142,144を用いて流路を切り換えることで、パワーエレクトロニクス用の冷却液を高電圧バッテリ410の温度調節に用いることができる。なお、三方弁310,404を制御することで、加熱回路300と電池温度調節回路400との間の液体の流出入を停止させておくことが好適である。また、チラー408による熱交換は、特に行わなくても良い。
【0051】
パワーエレクトロニクス冷却回路100を流れる冷却液は、通常、電池温度調節回路400を流れる液体よりも温度が高い。従って、パワーエレクトロニクス用の冷却液を高電圧バッテリ410の昇温に用いることができる。上述したように、高電圧バッテリ410の温度が適度に昇温すると、高電圧バッテリ410が発生させる電力が増大する。従って、パワーエレクトロニクス用の冷却液を高電圧バッテリ410の昇温に用いることで、高電圧バッテリ410の温度を最適に調節することができ、高出力を発揮させることができる。
【0052】
一方、パワーエレクトロニクス冷却回路100を流れる冷却液の温度が、電池温度調節回路400を流れる液体の温度よりも低い場合は、パワーエレクトロニクス用の冷却液を高電圧バッテリ410の冷却に用いることも可能である。例えば、高電圧バッテリ410の充電中は高電圧バッテリ410が発熱するため、ラジエータ102で外気と熱交換したパワーエレクトロニクス用の冷却液の方が、電池温度調節回路400を流れる液体の温度よりも低くなる場合がある。このような場合、パワーエレクトロニクス用の冷却液を電池温度調節回路400に導入することで、高電圧バッテリ410を冷却することができる。
【0053】
また、パワーエレクトロニクス用の冷却液を高電圧バッテリ410の昇温に用いた場合、
図9、
図12、
図13で説明した手法により高電圧バッテリ410の温度を昇温する場合と比較して、冷媒回路200、加熱回路300を用いないため、消費電力を低減できる。より具体的には、パワーエレクトロニクス用の冷却液を高電圧バッテリ410の昇温に用いる場合、電力消費はウォータポンプ106のみで行われる。一方、冷媒回路200、加熱回路300を用いる場合は、電動コンプレッサ210、ウォータポンプ308、高電圧ヒータ302等を作動させるため、電力消費が大きくなる。従って、パワーエレクトロニクス用の冷却液を高電圧バッテリ410の昇温に用いることで、消費電力を大幅に低減することが可能である。
【0054】
更に、パワーエレクトロニクス用の冷却液を高電圧バッテリ410の昇温に用いた場合、既に高温に達しているパワーエレクトロニクス用の冷却液を用いて、高電圧バッテリ410を短時間で昇温することができる。従って、高電圧バッテリ410を目標温度に到達させる際の到達時間をより短くすることができる。
【0055】
特に、高電圧ヒータ302を作動させて高電圧バッテリ410を昇温する場合は、高電圧ヒータ302の電力消費が大きくなり、駆動出力が低下したり、車両の航続距離が低下する可能性がある。一方、パワーエレクトロニクス冷却回路100を流れる冷却液は、車両走行により第1の機器110と第2の機器116が熱を発生させるため、車両走行により発生する熱を有効利用して高電圧バッテリ410を昇温することができる。従って、パワーエレクトロニクス用の冷却液を高電圧バッテリ410の昇温に用いた場合、基本的にエネルギ損失は生じない。
【0056】
これにより、例えば冬場など気温が低い環境下で車両を走行させる際に、高電圧バッテリ410を短時間で昇温することができ、高電圧バッテリ410に所望の出力を発揮させることができる。
【0057】
なお、冷媒回路200、または加熱回路300を用いて高電圧バッテリ410を昇温する方が、パワーエレクトロニクス用の冷却液を用いて高電圧バッテリ410を昇温する場合よりも消費電力が低い場合は、冷媒回路200、または加熱回路300を用いて高電圧バッテリ410を昇温するのが好適である。
【0058】
3.1.第2の機器の排熱を利用しない場合
図15は、
図14に示す構成において、パワートレイン冷却水を利用して高電圧バッテリ410の温度調節を行っている状態を示す模式図である。
図15では、第2の機器116の排熱を利用しない場合を示している。
図15に示すように、バイパス用の三方弁140を制御することで、三方弁140から第2の機器116に向かう流路が閉じられる。また、三方弁144も閉じられている。
【0059】
このため、パワートレイン冷却液が三方弁140からバイパス流路130を通って電池温度調節回路400に流れる。そして、電池温度調節回路400に流れたパワートレイン冷却液は、電池温度調節回路400に入り、高電圧バッテリ410→ウォータポンプ402→バイパス流路134→三方弁142の方向に流れる。これにより、パワートレイン冷却液を利用して高電圧バッテリ410の温度調節を行うことができる。
【0060】
また、
図15に示す例では、冷媒回路200は、電池温度調節回路400と熱交換を行わないため、車室内の温度調節に専念できる。
【0061】
3.2.第2の機器の排熱を利用する場合
図16は、第2の機器の排熱を利用する場合を示す模式図である。
図16に示す例では、バイパス用の三方弁140を制御することで、三方弁140から第2の機器116に向かう流路が開かれ、三方弁140から電池温度調節回路400に向かう流路が閉じられている。
【0062】
また、三方弁144を制御することで、三方弁144から電池温度調節回路400に向かう流路が開かれ、三方弁144から三方弁142に向かう流路が閉じられている。
【0063】
このため、第2の機器116を冷却した後の冷却液は、三方弁144からバイパス流路132を通って電池温度調節回路400に流れる。そして、電池温度調節回路400に流れたパワートレイン冷却液は、電池温度調節回路400に入り、高電圧バッテリ410→ウォータポンプ402→バイパス流路134→三方弁142の方向に流れる。これにより、第2の機器116を冷却した後の冷却液を利用して高電圧バッテリ410の温度調節を行うことができる。
【0064】
冷却液が第2の機器116を冷却することで、第2の機器116と冷却液との間で熱交換が行われる。これにより、第2の機器116の排熱を電池温度調節回路400に導入することができる。従って、第2の機器116の排熱を利用して高電圧バッテリ410の温度調節を行うことが可能となり、特に排熱を利用して高電圧バッテリ410を昇温することが可能となる。
【0065】
4.個々の機器を個別に冷却する例
次に、
図14に示す構成に基づき、第1の機器110と第2の機器116を個別に冷却する例について説明する。
図17及び
図18は、パワートレイン冷却液を利用して第1の機器110のみを冷却する例を示す模式図である。
図17及び
図18では、第2の機器116については、電池温度調節回路400の冷却液を利用して冷却している。
【0066】
【0067】
図17及び
図18に示す構成では、
図14に示したバイパス流路130が設けられておらず、バイパス流路130の代わりにバイパス流路136が設けられている。そして、バイパス流路136と電池温度調節回路400が接続される部位と、バイパス流路130と電池温度調節回路400が接続される部位との間に電磁弁414が設けられている。
【0068】
また、
図17及び
図18に示す構成では、
図14に示したバイパス流路132が設けられておらず、バイパス流路132の代わりにバイパス流路138が設けられている。バイパス流路138には、ウォータポンプ416が設けられている。また、
図17及び
図18に示す構成では、ウォータポンプ402が高電圧バッテリ410の上流側に設けられており、膨張タンク406は設けられていない。更に、
図17及び
図18に示す構成では、加熱回路300の液体の流れ方向が
図14に対して逆方向となっており、流れ方向に対する高電圧ヒータ302とヒータコア304の配置も
図14に対して逆になっている。
【0069】
以下、
図17に示す動作を説明する。
図17に示すように、バイパス用の三方弁140を制御することで、ウォータポンプ106から三方弁140へのパワートレイン冷却液の流れが停止されている。このため、ラジエータ102を通過したパワートレイン冷却液は、分岐部122で2方向に分かれることなく、ウォータポンプ106の作動により第1の機器110に供給される。これにより、パワートレイン冷却液によって第1の機器110のみが冷却される。第1の機器110、インバータ112、DC/DCコンバータ114を冷却したパワートレイン冷却液は、ラジエータ102に戻される。
【0070】
上述のように、バイパス用の三方弁140を制御することで、ウォータポンプ106から三方弁140へのパワートレイン冷却液の流れが停止される。一方、三方弁140において、電池温度調節回路400から充電器120に向かう流路は開かれている。また、三方弁144を制御することで、第2の機器116から三方弁142に向かう流路が開かれ、第2の機器116からバイパス流路138に向かう流路が閉じられている。
【0071】
また、三方弁142を制御することで、第2の機器116からバイパス流路134を経由して電池温度調節回路400に向かう流路が開かれ、三方弁142からラジエータ102に向かう流路が閉じられている。更に、三方弁310、三方弁404、三方弁412の一部が閉じられることで、加熱回路300の液体が電池温度調節回路400に流入することはない。そして、電池温度調節回路400に設けられた電磁弁414は閉じられている。
【0072】
ウォータポンプ402の作動により、電池温度調節回路300とパワーエレクトロニクス冷却回路100における液体は
図17中の矢印方向に流れ、液体が第2の機器116に導入される。この際、冷媒回路200が動作しており、冷媒回路200を流れる冷媒と電池温度調節回路400を流れる液体がチラー408で熱交換を行うことにより、電池温度調節回路400流れる液体が冷却される。
【0073】
詳細には、チラー408で冷却された液体は、高電圧バッテリ410に導入されて、高電圧バッテリ410を冷却する。更に、高電圧バッテリ410を冷却した液体がバイパス流路136から第2の機器116に流れて第2の機器116を冷却する。これらのパワーエレクトロニクスを冷却した液体は、三方弁142を通り、バイパス流路134から電池温度調節回路300に戻る。電池温度調節回路300に戻った液体は、チラー408での熱交換により冷やされる。
【0074】
以上のように、電磁弁414を閉じることで、高電圧バッテリ410と、第2の機器116、インバータ118及び充電器120などのパワーエレクトロニクスが直列に接続される。このため、高電圧バッテリ410を冷却した液体の全てが第2の機器116に導入されることになる。従って、第2の機器116の冷却能力を向上することができる。
【0075】
以上のような構成によれば、ラジエータ102で冷却されたパワートレイン冷却液は、第1の機器110のみに供給される。これにより、ラジエータ102で冷却されたパワートレイン冷却液は、その全てが第1の機器110に供給され、第2の機器116に供給されることはない。また、ウォータポンプ106の能力を第1の機器110のみに使用することができる。従って、第1の機器110への冷却液の流量を増大することができる。また、パワートレイン冷却液が第2の機器116から受熱することが回避される。これにより、第1の機器110の冷却能力を大幅に高めることができ、第1の機器110を確実に冷却することが可能となる。
【0076】
また、冷媒回路200を流れる冷媒と電池温度調節回路400を流れる液体がチラー408で熱交換を行うことにより、電池温度調節回路400を流れる液体が冷却されて、第2の機器116へ導入される。従って、第2の機器116についても確実に冷却を行うことが可能である。
【0077】
ここで、ラジエータ102での熱交換を利用して第1の機器110と第2の機器116を冷却する場合は、外気温以下にパワートレイン冷却液を冷却することはできない。このため、ラジエータ102の熱交換のみで第1の機器110と第2の機器116の双方を冷却しようとすると、十分な冷却ができない場合も想定される。これらの機器が十分に冷却できない場合、機器が所望の出力を発揮できないため、車両が発生させる駆動力に予め制限をかける必要が生じる場合がある。
【0078】
図17に示した構成によれば、第2の機器116については、冷媒回路200を流れる冷媒により冷却が行われる。具体的には、冷媒回路200を流れる冷媒と電池温度調節回路400を流れる液体が熱交換を行うことで、低温の液体を第2の機器116へ供給することができ、第2の機器116を十分に冷却することができる。従って、第2の機器116の過熱に起因する出力低下を確実に抑制することができる。これにより、車両の出力制限を回避することができ、車両に所望の駆動力を発揮させることが可能となる。
【0079】
なお、第2の機器116などのパワーエレクトロニクスと比較すると、高電圧バッテリ410はより低温に制御される。このため、高電圧バッテリ410を冷却した後の液体を第2の機器116などのパワーエレクトロニクスに導入しても、十分な冷却能力を得ることができる。
【0080】
また、第1の機器110については、ラジエータ102で冷却されたパワートレイン冷却液の全てが第1の機器110に供給される。従って、パワートレイン冷却液を第1の機器110と第2の機器116の双方に供給する場合に比べて、第1の機器110に供給されるパワートレイン冷却液の量を増大することができ、第1の機器110の冷却能力を大幅に向上することが可能となる。
【0081】
一例として、車両速度が比較的遅い場合は、ラジエータ102に当たる風量が少ないため、パワートレイン冷却液で第1の機器110と第2の機器116の双方を冷却しようとした場合、パワートレイン冷却液によるモータの冷却能力が不足する場合がある。モータの冷却能力が不足すると、モータが所望の出力を発揮できず、上述した駆動力制限を実施する必要が生じる。駆動力制限は、一例としてモータの温度が65℃以上の温度になると、モータの過熱を抑えるために行われる。駆動力制限を行うと、例えば登坂路、凸凹道などを走行する場合において、車両として所望の動力性能を発揮することができなくなる。特に、夏場などは外気温が40℃前後まで上昇する可能性があり、モータの冷却が不足した場合に、モータの出力低下が生じ易くなる。
【0082】
このような場合に、ラジエータ102を利用した外気温による冷却では第1の機器110、第2の機器116を十分に冷却できない事態が想定される。本実施形態によれば、冷媒の熱交換を利用して第2の機器116を冷却するため、第2の機器116の温度を外気温以下(例えば、18~20℃程度)まで下げることが可能である。また、ラジエータ102で冷却された冷却液の全てを第1の機器110に供給することで、モータ温度と外気温との差は比較的少ないが、パワートレイン冷却液の流量を増大して第1の機器110を冷却することができる。従って、第1の機器110についても、外気温と同じレベルまで迅速に冷却することが可能である。
【0083】
次に、
図18の動作について説明する。パワートレイン冷却液による第1の機器110の冷却については、
図17と同様である。
図18では、電池温度調節回路400を流れる液体が、高電圧バッテリ410を冷却した後、チラー408で熱交換を行うことにより冷却され、第2の機器116に供給される。
【0084】
図18に示すように、バイパス用の三方弁140を制御することで、ウォータポンプ106から三方弁140へのパワートレイン冷却液の流れが停止される。一方、三方弁140において、充電器120からバイパス流路136を経由して電池温度調節回路400に向かう流路は開かれている。また、三方弁144を制御することで、電池温度調節回路400からバイパス流路138を経由して第2の機器116に向かう流路が開かれ、三方弁142から第2の機器116に向かう流路が閉じられている。
【0085】
また、三方弁142を制御することで、電池温度調節回路400からバイパス流路134を経由して第2の機器116に向かう流路が開かれ、三方弁142からラジエータ102に向かう流路が閉じられている。
図17と同様に、三方弁310、三方弁404、三方弁412の一部が閉じられることで、加熱回路300の液体が電池温度調節回路400に流入することはない。そして、電池温度調節回路400に設けられた電磁弁414は開かれている。
【0086】
ウォータポンプ402の作動により、電池温度調節回路300とパワーエレクトロニクス冷却回路100における液体は
図18中の矢印方向に流れ、液体が第2の機器116に導入される。この際、冷媒回路200が動作しており、冷媒回路200を流れる冷媒と電池温度調節回路400を流れる液体がチラー408で熱交換を行うことにより、電池温度調節回路400流れる液体が冷却される。
【0087】
詳細には、チラー408で冷却された液体は、電池温度調節回路300とバイパス流路138とが結合する分岐部124で分岐し、高電圧バッテリ410と第2の機器116の双方に導入される。この際、ウォータポンプ416を作動させることで、バイパス流路138に電池温度調節回路300の液体が流れる。これにより、高電圧バッテリ410と第2の機器116の双方が冷却される。これらのパワーエレクトロニクスを冷却した液体は、三方弁140を通り、バイパス流路136から電池温度調節回路300に戻る。
【0088】
以上のように、電磁弁414を開き、ウォータポンプ402を作動させ、更にウォータポンプ416を作動させることで、高電圧バッテリ410とパワーエレクトロニクス(第2の機器116、インバータ118、充電器120)を並列に繋ぐ2つの流路を形成することができる。
【0089】
第1の流路は、チラー408→ウォータポンプ416→三方弁144→パワーエレクトロニクス→三方弁140→チラー408を順次に循環する流路である。また、第2の流路は、チラー408→高電圧バッテリ410→ウォータポンプ402→チラー408を順次に循環する流路である。
【0090】
更に、ウォータポンプ416が流量調整機能を果たすため、第1の流路と第2の流路の流量比を最適に調整できる。従って、第1の流路と第2の流路のそれぞれに対し、最適な流量の液体を最適な温度で提供することが可能となる。また、ウォータポンプ416の作動により、パワーエレクトロニクスから電池温度調節回路400に液体を戻すことができ、ウォータポンプ402から三方弁140に向かう流れ(逆流)を確実に抑止できる。
【0091】
以上のような構成によれば、
図17と同様に、ラジエータ102で冷却されたパワートレイン冷却液は、その全てが第1の機器110に供給され、第2の機器116に供給されることはないため、第1の機器110への冷却液の流量を増大することができる。
【0092】
また、冷媒回路200を流れる冷媒と電池温度調節回路400を流れる液体がチラー408との間で熱交換を行うことにより、電池温度調節回路400を流れる液体が冷却されて、第2の機器116へ導入される。従って、第2の機器116についても確実に冷却を行うことが可能である。
【0093】
更に、
図18によれば、チラー408で冷却された液体は、電池温度調節回路300とバイパス流路138とが結合する分岐部124で分岐し、高電圧バッテリ410と第2の機器116の双方に導入される。このため、チラー408で冷却された低温の液体が第2の機器116に導入される。このため、高電圧バッテリ410を冷却した後の液体が第2の機器116に導入される
図17と比較すると、より低温の液体を第2の機器116に導入することができるため、第2の機器116の冷却を確実に行うことができる。
【0094】
これにより、第2の機器116を急冷することができるため、第2の機器116に対し、定格出力以上の出力を一時的に発生させることも可能となる。従って、車両の加速性能を大幅に向上することができ、スタック状態から脱出するための性能なども向上できる。従って、車両の商品性を大幅に高めることが可能となる。
【0095】
特に、高電圧バッテリ410の温度が比較的低く、第2の機器116が過熱しているような場合、第2の機器116に低温の液体を導入することができるため、第2の機器116を確実に冷却することができる。
【0096】
図17に示すモードと
図18に示すモードは、高電圧バッテリ410と第2の機器116の発熱の状態に応じて切り換えることが好適である。これにより、最適な温度の液体を、最適な流量で高電圧バッテリ410とパワーエレクトロニクスに提供することが可能である。例えば、
図17に示すモードと
図18に示すモードは、機器が目標温度に到達する到達時間に応じて、到達時間がより短いモードを選択することができる。また、例えばエコモードで走行するような場合、機器が目標温度に到達する時間よりも消費電力を優先して運転が行われるため、
図17に示すモードと
図18に示すモードのうち、消費電力がより低いモードを選択することも可能である。また、
図17及び
図18に示す構成によれば、2系統の冷却回路(パワーエレクトロニクス冷却回路100、電池温度調節回路400)が三方弁によって接続されるため、膨張タンク406を省略することができ、膨張タンクを1つにすることができる。
【0097】
なお、
図17に示す例では、第2の機器116に導入される液体の温度は、高電圧バッテリ410を冷却したことにより、
図18よりも高くなることが見込まれるが、
図17に示す例では、電池温度調節回路300を流れる液体の全てが第2の機器116に導入される。従って、
図17に示す例では、第2の機器116に導入される液体の温度は、高電圧バッテリ410を冷却したことにより上昇するが、電池温度調節回路400を流れる液体の全てを第2の機器116に導入することで、第2の機器116の冷却を確実に行うことができる。
【0098】
以上のように、本実施形態では、電動車などの車両において、第1の機器110、第2の機器116などの各部品の冷却、昇温を行う回路を選択できる構成にすることにより、単位時間当たりの電力消費が低いモード、目標温度までの到達時間が早いモードといった目的別の冷却方法を選択し、実行することができる。また、回路選択によりモータ、インバータ等のパワーエレクトロニクスを集中的に冷却することが可能となる。更に、外気温以下の冷却水温度を提供できる冷媒回路を構成することができるため、外気温によって冷却能力が変動することによるパワーエレクトロニクスの出力制限を回避することができ、またパワーエレクトロニクスの出力向上が可能となる。
【0099】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0100】
100 パワーエレクトロニクス冷却回路
102 ラジエータ
110 第1の機器
116 第2の機器
124 分岐部
130,136,138 バイパス流路
200 冷媒回路
400 電池温度調節回路
410 高電圧バッテリ
414 制御弁
416 ウォータポンプ
1000 熱管理システム