(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】クリーニング手段を有する温度応動弁
(51)【国際特許分類】
F16K 51/00 20060101AFI20230412BHJP
F16K 31/70 20060101ALI20230412BHJP
F16T 1/08 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
F16K51/00 A
F16K31/70 A
F16T1/08 A
(21)【出願番号】P 2019022236
(22)【出願日】2019-02-12
【審査請求日】2021-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(72)【発明者】
【氏名】福田 剛士
【審査官】藤森 一真
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-147222(JP,A)
【文献】特開2005-140266(JP,A)
【文献】特開2005-201355(JP,A)
【文献】実開昭61-109998(JP,U)
【文献】特開2007-138985(JP,A)
【文献】特開2019-049351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 1/00 - 1/04
B08B 5/00 - 13/00
F16K 31/64 - 31/72
F16K 51/00
F16T 1/00 - 1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を移送する配管系統に接続される本体であって、弁空間及び排出空間を有する本体、
本体内に形成され、弁空間と排出空間とを連通させる開口としての弁孔、
弁空間内に位置し、調整弁を有する調整手段であって、流体の温度に応動して、調整弁が弁孔に対し進出又は退去し、弁孔の開口の程度を変化させる調整手段、
を備えたクリーニング手段を有する温度応動弁において、
排出空間に位置する削剥部であって、排出空間の
側面と天井面の形状及び弁孔に対して進出した状態の調整弁の形状に対応する形状
を備えており、排出空間の側面に対応する部分と排出空間の天井面の形状に対応する部分とが連続する箇所に、排出空間の天井面との間に隙間を生じさせる段部が形成されている削剥部を有するクリーニング手段を備えており、
当該クリーニング手段はクリーニング軸を中心に回転可能であり、本体の外部から回転操作することができる
、
ことを特徴とするクリーニング手段を有する温度応動弁。
【請求項2】
請求項1に係るクリーニング手段を有する温度応動弁において、
前記クリーニング軸は、調整手段の中心軸と同一線上に配置されている、
ことを特徴とするクリーニング手段を有する温度応動弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願に係るクリーニング手段を有する温度応動弁は、温調トラップ等の温度応動弁の内部に付着した異物を除去するクリーニング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
産業プラントには、ボイラーで生成された高温の蒸気を供給先に向けて移送する配管系統が設置されており、この配管内には蒸気からドレン(凝縮水)が発生する。蒸気を移送する主管にはドレン回収用の支管が接続されており、この支管の末端に設置されたスチームトラップによって、ドレンは不要物として排出されることが多い。
【0003】
しかし、支管内でこのドレンをあえて滞留させ、支管の温度を所定の設定温度に調整して利用するために、スチームトラップに代えて、温度応動弁としての温調トラップが用いられることがある。
【0004】
たとえば、輸送管を通じ、重油等の高粘性流体を輸送する際、温度が低下すれば重油等が凝固してしまう不都合が生じる。このため、高温の蒸気やドレンが流れる支管を輸送管に沿わせてトレース伝熱管として機能させ、重油等の輸送管と熱交換させることで重油等の温度を高めて、凝固を防止する。
【0005】
このように、トレース伝熱管の熱交換によって重油等の凝固を防止することから、トレース伝熱管の温度を適正な設定温度に保つ必要がある。このために、トレース伝熱管の末端に温調トラップが設けられる。
【0006】
温調トラップには、その内部にトレース伝熱管から蒸気やドレンが流入する弁室が形成されており、弁室の下方にはさらに排出室が形成されている。そして、弁室と排出室とは小径の弁口によって接続されており、弁室側を上流、排出室側を下流として、弁口を通じて蒸気やドレンが流れる。弁室内には、先端に弁体が設けられている弁軸が配置されている。そして、この先端の弁体は弁口に向けて位置しており、弁軸には感温部材であるバイメタル積層体が取り付けられている。
【0007】
弁室内に高温のドレンが流入した場合、この高温に反応してバイメタル積層体が膨張して弁軸を軸方向に移動させ、先端の弁体が弁口を閉じる。この後、加熱対象との熱交換によってドレンの温度が低下すると、この温度低下に反応してバイメタル積層体が収縮し、復帰バネの伸張に従って弁軸が移動し弁体が弁口を開いて低温のドレンを排出室側に排出する。こうして、温度変化に応じた弁軸の変位に基づき弁口の開閉が繰り返され、トレース伝熱管の温度が一定の設定温度に保たれる。
【0008】
なお、弁軸の後端は、温調トラップの上方から外側に突出しており、外部から操作することによって弁軸は軸方向に移動し、弁室内における弁軸の位置が調整される。これによって、トレース伝熱管内の設定温度を自在に調整することができる。
【0009】
ところで、温調トラップの弁室内には、蒸気やドレンとともに錆やスケール(水垢)等の異物が流入することがある。そして、このような異物が弁口やその近傍に付着して堆積した場合、この異物によってドレンの流れが阻害され、トレース伝熱管の温度を適正に調整することができなくなる。特に温調トラップの弁口は、ドレンの流量を微調整することができるよう、口径を小さく絞った形に形成されていることから、異物の付着による影響は大きい。
【0010】
異物は弁口の上流側に付着することもあるが、下流側に付着することも多い。このような、弁口の下流側に付着した異物を除去するためのクリーニング技術として、後記特許文献1に開示されている技術がある。
【0011】
この技術においては、温調トラップのボディ1の下部にテーパねじ孔11aを形成し、ここからバー形状の清掃具100を貫通させて弁口41の下流側に配置する(特許文献1段落番号0020、
図1)。そして、清掃具100の先端はシェイパー部14aとして構成されており(特許文献1段落番号0021、
図2)、このシェイパー部14aが弁口41に向かって位置している。なお、弁口41の上流側には弁体51を備えた弁棒5が配置されており、弁棒5の上下移動に応じて弁口41は弁体51によって開閉される(特許文献1段落番号0017)。
【0012】
弁口41の下流側をクリーニングする際、清掃具100を軸方向に移動させ、先端のシェイパー部14aを弁口41近傍に進入させた上、回転操作して弁口41の下流側に付着した異物をそぎ落として除去する(特許文献1段落番号0025)。また、シェイパー部14aをさらに弁口41に進入させて弁体51に接触させ、弁体51の表面に付着した異物をシェイパー部14aによって除去する(特許文献1段落番号0025)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述の特許文献1に開示された技術においては、先端がシェイパー部14aとして構成されている清掃具100を回転操作することによって、弁口41の下流側に付着した異物をそぎ落として除去している。このため、弁口41の下流側に付着した異物を確実に除去することができないという問題がある。すなわち、清掃具100を回転操作した場合、先端のシェイパー部14aの動きによっては弁口41の下流側に付着した異物に接触しないことがあり、異物の一部が残存してしまうおそれがある。
【0015】
また、シェイパー部14aを弁体51に接触させた場合、弁体51との干渉によって、弁口41の下流側に付着した異物除去の動作が妨げられ、異物の除去が不十分になるおそれがある。
【0016】
そこで、本願に係るクリーニング手段を有する温度応動弁は、これらの問題を解決することを課題とし、弁口(弁孔)の下流側の異物を確実に除去することができるクリーニング手段を有する温度応動弁の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願に係るクリーニング手段を有する温度応動弁は、
流体を移送する配管系統に接続される本体であって、弁空間及び排出空間を有する本体、
本体内に形成され、弁空間と排出空間とを連通させる開口としての弁孔、
弁空間内に位置し、調整弁を有する調整手段であって、流体の温度に応動して、調整弁が弁孔に対し進出又は退去し、弁孔の開口の程度を変化させる調整手段、
を備えたクリーニング手段を有する温度応動弁において、
排出空間に位置する削剥部であって、排出空間の内面の形状及び弁孔に対して進出した状態の調整弁の形状に対応する形状の削剥部を有するクリーニング手段を備えており、
当該クリーニング手段はクリーニング軸を中心に回転可能であり、本体の外部から回転操作することができる、
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本願に係るクリーニング手段を有する温度応動弁においては、クリーニング手段は、排出空間の内面の形状及び弁孔に対して進出した状態の調整弁の形状に対応する形状の削剥部を備えており、本体の外部からクリーニング軸を中心に回転操作することができる。
【0019】
したがって、クリーニング手段を回転操作したとき、調整弁との干渉を回避しつつ、削剥部によって排出空間の内面に付着した異物をそぎ落とすことができる。このため、弁孔の下流側の異物を確実に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本願に係るクリーニング手段を有する温度応動弁の第1の実施形態を示す温調トラップの一部断面図である。
【
図2】
図1に示す弁軸10を先端側から見た図である。
【
図3】
図1に示すクリーニング棒5を先端側から見た図である。
【
図4】
図1に示す弁座下流室63近傍の拡大一部断面図であり、下流刃2が上昇し、弁座下流室63に接近した状態を示す一部断面図である。
【
図5】
図1に示す弁座下流室63近傍の拡大一部断面図であり、下流刃2が弁座下流室63に進入し限界位置に達した状態を示す一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施形態において示す主な用語は、本願に係るクリーニング手段を有する温度応動弁の下記の要素にそれぞれ対応している。
下流刃2・・・削剥部
下流刃2及びクリーニング棒5・・・クリーニング手段
弁軸10・・・調整手段
弁体12・・・調整弁
ケーシング31・・・本体
底室54及び弁座下流室63・・・排出空間
弁座上流室61・・・弁空間
弁口62・・・弁孔
中心軸80・・・調整手段の中心軸、クリーニング軸
ドレン・・・流体
温調トラップ・・・温度応動弁
【0022】
[第1の実施形態]
本願に係るクリーニング手段を有する温度応動弁の第1の実施形態を、温調トラップを例に説明する。温調トラップはトレース伝熱管の末端に設けられ、トレース伝熱管を設定温度に保つ機能を備えている。一定の設定温度に保たれたトレース伝熱管は、重油など高粘性流体の凝固防止用トレースや、計装機器の凍結防止用トレースとして用いられる。
【0023】
(温調トラップの構成の説明)
図1は本実施形態における温調トラップの一部断面図である。ケーシング31には流入口51及び流出口56が設けられており、上部にはケーシング蓋32がネジ結合によって固定されている。流入口51はトレース伝熱管(図示せず)の末端に接続され、流出口56は排出管(図示せず)に接続される。ケーシング31内には弁室53が形成され、この弁室53は流入路52を介して流入口51と連通する。
【0024】
ケーシング31内の中央部に位置する底室54には、弁座60がネジ結合によって固定されている。弁座60近傍の拡大図が
図4及び
図5である。弁座60には、中心に貫通穴である弁口62が設けられている。そして、この弁口62を境に、上流側に弁座上流室61が形成され、下流側に弁座下流室63が形成されている。弁口62の口径は、弁座上流室61及び弁座下流室63の径よりも小さく構成されている。そして、弁室53(
図1)は、弁室上流室61、弁口62、弁座下流室63、底室54及び流出路55を介して流出口56と連通する。
【0025】
図4及び
図5に示すように、弁座下流室63には弁口62に連続する天井斜面63a、及びこの天井斜面63aに連続する側壁63bが形成されている。天井斜面63aは弁口62から側壁63bに向かって傾斜する略円錐形を有しており、側壁63bは円筒形を有している。
【0026】
図1に示す弁室53内には、異物を捕捉するための筒状のスクリーン70が設けられている。流入口51から流入した蒸気やドレンは流入路52を通じ、このスクリーン70を透過して矢印101方向に向けて弁室53内に流入する。
【0027】
弁室53内には弁軸10が配置されている。この弁軸10を先端側から見た状態が
図2である。弁軸10の先端側には、厚みの薄い直方体形状を有し角部が刃物として構成されている上流刃10bが一体的に形成され、さらにこの上流刃10bの先端には円錐形状を有する弁体12が一体的に設けられている。弁軸10の直径や上流刃10bの幅は、弁座上流室61の径よりも僅かに小さく構成されている。そして、上流刃10b及び弁体12は弁座上流室61内に位置している。
【0028】
弁軸10の後端には、調整棒35が配置されている。この調整棒35は、Oリング36を介しケーシング蓋32に対してネジ結合されており、上部には操作用溝35cが形成されている。操作用溝35cにドライバー等の工具を嵌め入れ、中心軸80を中心に調整棒35を回転させることによって、螺入操作が可能になっている。ケーシング蓋32に対する調整棒35の調整位置は、ロックナット89によって固定される。
【0029】
また、調整棒35内には中心軸80方向に沿って延びる調整空間35bが形成されており、この調整空間35b内に弁軸10の後端が挿入されて位置している。なお、ケーシング蓋32から突出した調整棒35の上部は、保護キャップ37によって覆われている。
【0030】
弁軸10の後端近傍には連結棒10aが固定されている。他方、調整棒35の下部には切割状に形成されたスライド溝35aが設けられており、このスライド溝35aに連結棒10aが挿入されている。すなわち弁軸10は、調整棒35の螺入操作に従って、中心軸80を中心に一体的に回転するが、弁軸10はスライド溝35aに沿って矢印105及び矢印106方向に独自に進退することも可能である。
【0031】
調整棒35、弁軸10及び弁座60は同一軸(中心軸80)上に配置され、弁軸10の弁体12は弁口62に向けて位置する。弁軸10の中央近傍にはバネ受け10cが一体的に固定されている。そして、弁軸10は容器形状の中間部材75の中心穴を貫通しており、この中間部材75はバネ受け10cの下側に当接している。中間部材75は外側が湾曲しており、この湾曲の内側には、弁室53底部との間に復帰バネ71が取り付けられている。すなわち、弁軸10は、中間部材75及びバネ受け10cを介して常時、復帰バネ71によって矢印105方向に付勢されている。
【0032】
弁軸10には、バイメタル積層体40が取り付けられている。バイメタル積層体40の上面は調整棒35の下端面35dに当接し、バイメタル積層体40の下面は平座金73を挟んで中間部材75に当接している。このバイメタル積層体40は、周辺温度に反応して変形する感温部材であるバイメタルを複数、積層して構成されており、周辺温度が高くなった場合に、弁軸10の中心軸80方向に沿って膨張し、周辺温度が低くなった場合に中心軸80方向に沿って収縮する。
図1は、バイメタル積層体40が膨張し、弁軸10が矢印106方向に押し下げられた状態を示している。
【0033】
中間部材75の内側には、弁軸10に取り付けられた内側付勢バネ72が配置されている。この内側付勢バネ72の上部は平座金73に当接し、下部はワッシャー85を介してバネ受け10cの上側に当接している。
【0034】
次に、本実施形態における温調トラップのクリーニング機構の構成について説明する。
図1に示すように、ケーシング31の底室54は、底部に向けて開口しており、ここに底台9がネジ結合によって固定されている。底台9には中心に貫通穴が形成されている。
【0035】
ケーシング31自体の底部も開口しており、この開口部にケーシング底蓋27がネジ結合によって固定されている。そして、ケーシング底蓋27の中心に形成された貫通穴にクリーニング棒5がネジ結合によって取り付けられている。クリーニング棒5の先端には下流刃2が一体的に形成されており、下流刃2は通常時においては底台9の貫通穴に位置している。この下流刃2は、弁座下流室63の内壁に付着した異物をそぎ落として除去するためのものである。
【0036】
クリーニング棒5を先端側から見た状態が
図3である。クリーニング棒5の先端に形成された下流刃2は、厚みの薄い略直方体形状を有しており、略直方体の全周の角部が刃物として構成されている。なお、
図1に示すように、クリーニング棒5にはOリング16が取り付けられており、底室54等の気密性が保持されている。
【0037】
クリーニング棒5の後端には操作用溝5cが形成されている。操作用溝5cにドライバー等の工具を嵌め入れ、中心軸80を中心にクリーニング棒5を回転させることによって、螺入操作が可能になっている。ケーシング底蓋27から突出したクリーニング棒5の端部は、保護キャップ28によって覆われている。
【0038】
クリーニング棒5にはワッシャー19及び底用平座金78が固定されている。そして、クリーニング軸5は容器形状の底用中間部材79の中心穴を貫通しており、この底用中間部材79はワッシャー19及び底用平座金78に当接している。底用中間部材79は外側が湾曲しており、この湾曲の内側には、ケーシング31の内面との間に底用復帰バネ77が取り付けられている。
【0039】
すなわち、クリーニング棒5は、底用中間部材79、ワッシャー19及び底用平座金78を介して常時、底用復帰バネ77によって矢印106方向に付勢されている。底用復帰バネ77による矢印106方向への付勢によって、ケーシング底蓋27とクリーニング棒5とのネジ結合の緩みを解消することができ、クリーニング棒5を操作する際のガタ付きを防止することができる。
【0040】
図4は、下流刃2が
図1に示す状態から上昇し、弁座下流室63に接近した状態を示している。
図4に示すように、下流刃2は弁座下流室63の内壁の形状及び弁口62から突出した状態の弁体12の形状に対応する形状を備えている。
【0041】
すなわち、下流刃2は弁座下流室63の円筒形状の側壁63bの直径よりも僅かに小さい幅を有しており、弁座下流室63に進入した場合、下流刃2の側刃41、42が側壁63bに近接して位置するようになっている。また、下流刃2の先端にはその両端に、弁座下流室63の天井部分に形成された略円錐形状の天井斜面63aに対応して、斜辺部21、22が形成されている。そして、下流刃2の先端中央部には、弁口62から突出した状態の弁体12の形状に対応してV型凹部23が形成されている。なお、下流刃2の斜辺部21、22の外側端部には、それぞれ微小幅L1の段部21a、22aが形成されている。
【0042】
(温調トラップの動作の説明)
次に、この温調トラップの動作を説明する。初期段階においては、弁室53内にはエアーが充満しており、バイメタル積層体40は収縮している。そして、弁軸10は、バネ受け10cが復帰バネ71の付勢を受け、矢印105方向に移動した状態にある(図示せず)。このとき、弁体12も弁口62から矢印105方向に退去して、弁口62は開弁されている。
【0043】
配管系統が蒸気移送を開始すると、トレース伝熱管を通して流入口51からドレンが流入する。初期段階のドレンは低温であり、このドレンがエアーを弁口62から押し出し、矢印102方向に向けて流出口56に排気する。続いて、低温のドレンも同様の経路をたどって流出口56から排水される。
【0044】
この後、弁室53には、高温の蒸気によって熱せられた高温のドレンが流入する。弁室53内のドレンの温度が上昇したことによって、バイメタル積層体40は徐々に膨張する。膨張するバイメタル積層体40は、平座金73、内側付勢バネ72及びワッシャー85を介して弁棒10に固定されているバネ受け10cを矢印106方向に押圧する。このとき、比較的、強力な内側付勢バネ72は収縮しないため、バイメタル積層体40の膨張はそのまま弁軸10に伝わり、弁体12は弁口62に進入し、弁口62を閉弁する。なお、このとき復帰バネ71は、バイメタル積層体40の膨張に押圧されて圧縮する。
【0045】
弁口62の閉弁によって、ドレンの排水は停止され、弁室53及びトレース伝熱管には設定された基準温度のドレンが滞留することになる。これによってトレース伝熱管は、重油の輸送管等の加熱対象を基準温度で加熱する。その後、加熱対象との熱交換によって、トレース伝熱管内のドレンの温度は徐々に低下し、弁室53内のドレンの温度も基準温度を下回ることになる。
【0046】
バイメタル積層体40は、このドレンの温度低下に反応し収縮を開始する。バイメタル積層体40の収縮によって、復帰バネ71は伸張して復帰し、中間部材75を介して弁軸10のバネ受け10cを押し上げ、弁軸10は矢印105方向に移動して、弁体2は弁口62を開弁する。これによって、基準温度を下回ったドレンは弁口62を通じて流出口56に排水される。この後、高温のドレンが弁室53に流入し、バイメタル積層体40の膨張によって再び弁口62は閉弁され、基準温度のドレンが滞留する。
【0047】
以上のように、バイメタル積層体40が弁室53内のドレンの温度に反応して、膨張、収縮することによって、弁軸10の弁体12が昇降し、弁口62は開弁と閉弁を繰り返して、弁室53及びトレース伝熱管内のドレンは設定された基準温度に保たれる。
【0048】
なお、バイメタル積層体40が膨張し、弁体12が弁口62を完全に閉弁した後、バイメタル積層体40が
図1に示す状態からさらに膨張することがある。この場合、バイメタル積層体40への過度の負担を避けるために、内側付勢バネ72が復帰バネ71とともに収縮して、バイメタル積層体40の膨張による圧迫を吸収する。
【0049】
弁室53及びトレース伝熱管内のドレンの基準温度は、自在に調整して設定することができる。基準温度を調整する場合は、温調トラップの上部の保護キャップ37を取り外し、ロックナット89を緩めた上で操作用溝35cにドライバー等の工具を嵌め入れて螺入操作し、調整棒35を中心軸80方向に移動させる。
【0050】
調整棒35を弁室53内に向けて締め込めば、調整棒35の端面35dがバイメタル積層体40を押圧して、弁軸10自体の位置が矢印106方向に下降するため、基準温度を低く設定することができる。逆に、調整棒35を緩めれば、復帰バネ71の付勢によって、弁軸10自体の位置が矢印105方向に上昇するため、基準温度を高く設定することができる。
【0051】
(クリーニング動作の説明)
弁室53内の弁口62やその近傍には、温調トラップの作動にともなって錆やスケール等の異物が付着して堆積する。異物の付着は温調トラップの適正な動作を阻害するため、適宜、クリーニングを行い、異物を除去する必要がある。
【0052】
弁座上流室61のクリーニングを行う場合、まず、温調トラップの上部の保護キャップ37を取り外し、ロックナット89を緩めた上で操作用溝35cにドライバー等の工具を嵌め入れる。そして、調整棒35を締め込めば、連結棒10aを介して弁軸10が回転しながら矢印106方向に下降し、上流刃10bが回転して弁座上流室61の内面に付着した異物をそぎ落として除去する。
【0053】
図4及び
図5は、調整棒35を限界まで締め込んだときの上流刃10bの状態を示している。弁軸10の上流刃10bが弁座上流室61の側壁の異物そぎ落すとともに、上流刃10bの先端部分の刃が弁座上流室61の底面に近接することによって底面の異物もそぎ落とす。
【0054】
この状態から調整棒35を逆に緩めれば、上流刃10bは逆回転しながら矢印105方向に上昇し、残存した異物がそぎ落とされる。そぎ落とされた異物は、弁口62を通じてドレン等と共に流出路56から排出される。
【0055】
ところで、異物は弁座上流室61に付着することもあるが、弁口62の下流側に位置する弁座下流室63内に付着することも多い。本実施形態では、弁座下流室63内に付着した異物を下流刃2で除去してクリーニングを行う。
【0056】
弁座下流室63内のクリーニングを行う場合、
図1に示す温調トラップの底部に取り付けられている底用保護キャップ28を取り外し、クリーニング棒5の操作用溝5cにドライバー等の工具を嵌め入れる。そして、クリーニング棒5を締め込めば、クリーニング棒5は回転しながら矢印105方向に上昇し、クリーニング棒5の先端に形成された下流刃2は、弁座下流室63に向けて接近する(
図4)。本実施形態では、弁座下流室63の天井斜面63aに異物20が付着している。
【0057】
図4に示す状態からクリーニング棒5をさらに締め込めば、下流刃2は回転しながら弁座下流室63に進入する。このとき、前述のように下流刃2は弁座下流室63の円筒形状の側壁63bの直径よりも僅かに小さい幅を有しているため、弁座下流室63に進入した下流刃2は、側壁63bに近接した状態で回転して進入する。したがって、仮に弁座下流室63の側壁63bに異物が付着している場合、下流刃2の側刃41、42が側壁63bに付着した異物をそぎ落とす。
【0058】
図5は、クリーニング棒5を限界まで締め込んだ状態を示している。この状態に至る過程で、回転して進入する下流刃2の斜辺部21、22が、弁座下流室63の天井斜面63aに付着した異物20をそぎ落とす。
【0059】
ここで、前述のように、下流刃2の斜辺部21、22の外側端部には、それぞれ微小幅L1の段部21a、22aが形成されている(
図4)。このため、
図5に示すように、クリーニング棒5を限界まで締め込んだ場合であっても、下流刃2の斜辺部21、22と、弁座下流室63の天井斜面63aとの間には僅かな隙間が生じる。
【0060】
この隙間によって、下流刃2の斜辺部21、22の、弁座下流室63の天井斜面63aへの接触を回避することができ、下流刃2の回転による摺動によって斜辺部21、22に刃こぼれ等の損傷が発生することを防止できる。なお、下流刃2の斜辺部21、22と、弁座下流室63の天井斜面63aとの間に生じる隙間は微少であるので、異物20のそぎ落としに支障が生じることはなく、確実に異物20を除去することができる。
【0061】
下流刃2が
図5に示す限界位置に達した後、操作用溝35cに嵌め入れたドライバー等の工具を用いてクリーニング棒5を緩める方向に逆回転させる。これによって、クリーニング棒5は回転しながら矢印106方向に下降し、この過程において弁座下流室63の天井斜面63aや側壁63bに残存している異物がそぎ落とされる。
【0062】
なお、下流刃2によってそぎ落とされた異物は、ドレン等と共に流出路55から流出口56に排出される。クリーニング棒5を操作して
図1に示す通常時の状態に復位させた後、底用保護キャップ28を取り付け、クリーニング動作を終了する。
【0063】
[その他の実施形態]
前記実施形態においては、弁座下流室63が略円錐形状の天井斜面63a及び円筒形状の側壁63bを有している例を掲げたが、この形状に限定されるものではなく、他の形状を有する弁座下流室63(排出空間)を採用することもできる。この場合、下流刃2の形状を、排出空間の内面の形状に対応するように形成する。
【0064】
また、前記実施形態においては、弁口62から突出した状態の弁体12の形状に対応して、下流刃2の先端にV型凹部23が形成された例を示したが、弁口62(弁孔)に対して進出した状態の弁体12(調整弁)の形状に対応する形状である限り、他の形状を採用することもできる。
【0065】
さらに、前記実施形態においては、下流刃2の斜辺部21、22の外側端部に、それぞれ微小幅L1の段部21a、22aを形成し、クリーニング棒5を限界まで締め込んだ場合、下流刃2の斜辺部21、22と、弁座下流室63の天井斜面63aとの間に僅かな隙間を生じさせる例を掲げたが、段部21a、22aを形成せず、下流刃2の斜辺部21、22を天井斜面63aに直接、接触させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0066】
2:下流刃 5:クリーニング棒 10:弁軸 12:弁体 31:ケーシング
54:底室 61:弁座上流室 62:弁口 63:弁座下流室 80:中心軸