(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】フッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーおよびその硬化体
(51)【国際特許分類】
C08G 77/24 20060101AFI20230412BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20230412BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20230412BHJP
C09J 183/08 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
C08G77/24
H01L23/30 F
C09J183/08
(21)【出願番号】P 2019061273
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000178826
【氏名又は名称】日本山村硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124648
【氏名又は名称】赤岡 和夫
(74)【代理人】
【識別番号】100060368
【氏名又は名称】赤岡 迪夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154450
【氏名又は名称】吉岡 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】信藤 卓也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 緑
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-250253(JP,A)
【文献】特開2005-097527(JP,A)
【文献】特開平11-171594(JP,A)
【文献】特開平09-255941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/24
H01L 23/29
C09J 183/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)と下記(B)と下記(C)とを縮合反応させることによって調製された、フッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマー。
(A)両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサンであって、分子量分布指数(Mw/Mn;Mwは重量平均分子量,Mnは数平均分子量)が1.3以上
3.0以下であ
り、数平均分子量(Mn)が15,000以上70,000以下であるもの。
(B)テトラアルコキシシランのオリゴマー、および/または、前記オリゴマーの完全または部分加水分解物または縮合物。
(C)炭素数4以上の直鎖状(n-)パーフルオロアルキル基または炭素数5以上の分岐鎖状パーフルオロアルキル基1個と3個のメトキシ基を有するシラン化合物、および/または、前記シラン化合物の完全または部分加水分解物または縮合物。
【請求項2】
前記(B)は、直鎖状で4量体~10量体であり、アルコキシ基としてメトキシ基またはエトキシ基を有する、請求項
1に記載のフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマー。
【請求項3】
前記(B)が、前記(A)1モルに対して0.5~4モル配合されている、請求項
2に記載のフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマー。
【請求項4】
前記(C)が、前記(A)1モルに対し1~9モル配合されている、請求項1から請求項
3までのいずれか1項に記載のフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマー。
【請求項5】
イソシアヌレート環構造を有し、エポキシ基または末端エポキシ基、および、末端アルコキシ基を有する化合物(D)が、前記(A)、前記(B)および前記(C)の合計100重量部に対して0.1~5重量部配合されている、請求項1から請求項
4までのいずれか1項に記載のフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマー。
【請求項6】
請求項1から請求項
5までのいずれか1項に記載のフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーを含む、波長450nm以下のLED発光素子の封止材。
【請求項7】
請求項1から請求項
5までのいずれか1項に記載のフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーを含む、波長450nm以下の光学部材用接着剤。
【請求項8】
請求項1から請求項
5までのいずれか1項に記載のフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーの硬化体。
【請求項9】
厚さ10μmのとき、波長265nmの透過率が75%以上、300nmの透過率が80%以上、350nmの透過率が90%以上である、請求項
8に記載の硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的にはフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーおよびその硬化体に関し、特定的には、UV-LED等、短波長で高エネルギーの光を発する光学系部品において、封止や接着を目的に、発光した光が透過、あるいは光照射される箇所に用いられる、フッ素を含有し熱縮合によって硬化するポリジメチルシロキサンポリマーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学部材である発光ダイオード(LED)には、発光素子やワイヤー、リフレクター等の部品を保護するための封止材や石英窓材などを接合することを目的とする接着剤など弾性材料が用いられている。LEDでは、近年、発光波長の短波長化、高出力化が進行し、構成部材の耐光性の向上が求められてきた。
【0003】
しかしながら、波長が400nm以下のUV(紫外線)-LEDは、たとえ低出力のLEDであってもエネルギーが高く、これまで使用されてきた耐熱性が高いと言われるシリコーン樹脂でも材料破壊や封止面からの剥離などで使用することが不可能となっている。
【0004】
特開2003-008073号公報(特許文献1)には、LEDチップを封止樹脂で封止した発光素子であって、封止樹脂が可視光透過性を有するフッ素系樹脂であることを特徴とする発光素子が記載されている。フッ素系樹脂は、UV域の波長の光にも耐光性があることが市場で認識されており、薄膜によるLEDチップの保護層として実用化されている。
【0005】
UV-LED素子の石英ガラス窓などの接合では、メタライズ処理しガラス封着や金-すずろう材などでの接合が知られている。
【0006】
特開2015-222767号公報(特許文献2)には、シロキサンポリマーに無機成分を組み込む縮合型オルガノシロキサンポリマー硬化体が記載されいてる。両末端シラノール基を有するポリジメチルシロキサンとアルコキシ基を有するシランオリゴマーから調製される縮合型オルガノシロキサンポリマー前駆体を熱硬化して得られるオルガノシロキサンポリマーは、従来のシリコーン樹脂等に比べ耐熱性、耐光性、光透過性、応力緩和能に優れており、低残留歪を特徴とする弾性体を提供することができる。この材料はすでに、LED用途の封止材、レンズ接合材として国内外において実用化されている。
【0007】
耐熱性、耐光性を向上させるためにオルガノシロキサンポリマーにフッ素を組み込む、あるいはフッ素化合物を複合化させる試みは多く、特再公表WO2016/052495号(特許文献3)には、シラン化合物の縮合物であり、シラン化合物の縮合物は、フッ素原子を少なくとも1個有するフルオロアルキル基がケイ素原子に結合してなるフッ素原子含有シラン化合物由来の構成単位を含む、シリコーン樹脂が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-008073号公報
【文献】特開2015-222767号公報
【文献】特再公表WO2016/052495号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のようなUV光や高輝度光に暴露される部材やUV光や高輝度光を透過させる部材では、結合エネルギーの高い無機結合によって基材と接着し、耐光性が高く接着状態を維持でき、冷熱サイクルなどに耐える応力緩和能に優れた弾性材料が求められている。
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の発光素子に用いられるフッ素系樹脂は、専用の溶媒で希釈する必要がある。また、集光を目的とするレンズ形状の成型、mm単位以上の封止、接着用途、等にプロセス上の課題が多い。
【0011】
一方、ガラス封着や金-すずろう材などでの接合においては、工程が増加することと高温処理を必要とする点、UV(紫外線)耐性、冷熱サイクル耐性に問題があることに加え、硬い素材を用いるゆえの弱点がある。
【0012】
特許文献2に記載の縮合型オルガノシロキサンポリマー硬化体についても、耐UV性を与えるフルオロアルキル基が含まれておらず、UV-LEDの封止材として用いるには、さらなる耐熱性、耐光性並びにガス遮断性が求められている。
【0013】
また、特許文献3には、硬化体の柔軟性に寄与する高分子量のPDMS単位が含まれておらず、UV-LED用封止材の長寿命化にはなお課題が残されている。
【0014】
以上のように、UV域に耐性のある材料の一つとしてフッ素系樹脂が知られている。しかし炭素数が多いフルオロアルキル基は大きく反応にも制約が多い。特に柔軟性を必要とする材料に組み込むと、低濃度でも硬度上昇が起こり、また液が白濁し分離することもある。
【0015】
そこで、本発明の目的は、透明性と、UV域での耐光性に優れた、封止層または接着層として使用可能なフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーとその硬化体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に従ったフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーは、下記(A)と下記(B)と下記(C)とを縮合反応することによって調製されたものである。
(A)両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサンであって、分子量分布指数(Mw/Mn;Mwは重量平均分子量,Mnは数平均分子量)が1.3以上であるもの。
(B)テトラアルコキシシランのオリゴマー、および/または、前記オリゴマーの完全または部分加水分解物または縮合物。
(C)炭素数4以上の直鎖状(n-)パーフルオロアルキル基または炭素数5以上の分岐鎖状パーフルオロアルキル基1個と3個のメトキシ基を有するシラン化合物、および/または、前記シラン化合物の完全または部分加水分解物または縮合物。
【0017】
本発明に従ったフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーにおいては、(A)は、数平均分子量(Mn)が15,000~70,000であることが好ましい。
【0018】
本発明に従ったフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーにおいては、(B)は、直鎖状で4量体~10量体であり、アルコキシ基としてメトキシ基またはエトキシ基を有することが好ましい。
【0019】
本発明に従ったフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーにおいては、(B)が、(A)1モルに対して0.5~4モル配合されていることが好ましい。
【0020】
本発明に従ったフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーにおいては、(C)が、(A)1モルに対し1~9モル配合されていることが好ましい。
【0021】
本発明に従ったフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーにおいては、イソシアヌレート環構造を有し、エポキシ基または末端エポキシ基、および、末端アルコキシ基を有する化合物(D)が、(A)、(B)および(C)の合計100重量部に対して0.1~5重量部配合されていることが好ましい。
【0022】
本発明に従ったLED発光素子の封止材は、上記のいずれかのフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーを含む。
【0023】
本発明に従った波長450nm以下の光学部材用接着剤は、上記のいずれかのフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーを含む。
【0024】
本発明に従った硬化体は、上記のいずれかのフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーの硬化体である。
【0025】
本発明に従った硬化体は、厚さ10μmのとき、波長265nmの透過率が75%以上、300nmの透過率が80%以上、350nmの透過率が90%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明に従えば、透明性と、UV域での耐光性に優れた、封止層または接着層として使用可能なフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーとその硬化体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明に従ったフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーについて詳細に説明する。
【0028】
<両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサン(A)>
本発明のフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーは、両末端に反応性を有するシラノール基を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)を一原料としている。両末端にシラノール基を有し、分子鎖が分岐、あるいは末端に複数個のシラノール基を有するもの、その他の反応性官能基を有するものなど、種々の原材料が考えられるが、フッ素含有化合物を反応させてフッ素を組み込む時、パーフルオロアルキル基は立体障害が大きく合成が困難な場合があった。結果的に、直鎖状で両末端にシラノール基を有するものがフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーの調製には最適であった。(A)の化学式を(1)に示す。
【0029】
【0030】
両末端シラノールポリジメチルシロキサンは、直鎖状であることが好ましく、数平均分子量(Mn)は15,000~70,000であることが好ましく、(1)におけるmは、上記分子量を満たす整数であることが好ましい。Mw/Mnは1.3以上である。
【0031】
数平均分子量が15,000未満である場合、合成されたフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーを硬化させて得られるフッ素含有オルガノポリシロキサン硬化体が硬くなり、熱応力の緩和が難しくなる。その結果、耐UV特性は低下してしまう。一方、数平均分子量が70,000を超えると、フルオロアルキル基の組み込みの反応が非常に困難となる。そのため、原材料である末端シラノール基を有するPDMSの数平均分子量は15,000以上、70,000以下であることが好ましく、20,000以上、60,000以下であることがより好ましく、25,000以上、55,000以下であることがさらに好ましい。
【0032】
分子量分布指数Mw/Mnは、1.3以上である。シリコーン原料は、重合を進めた場合、一般的には反応釜の大きさによる温度分布のバラツキなどの影響もあり分子量を狭くすることは難しい。汎用的なシリコーンでは概ね1.3以上、分子量が高いものでは1.5以上になる。リビング重合などによる分子量分布指数Mw/Mnが1.1以下のものも市販されているが、本発明では、このような分子量分布が狭いPDMSではUV耐性が得られない。
【0033】
Mw/Mnが小さいと光に対する透明度や均質性は良好となり、また硬化反応が迅速に完結する利点となるが、分子量分布の狭いポリマーになることで靭性が低くなる。UV域での耐性という観点からは1.5以上が好ましい。反対に、Mw/Mnが大きいと透明度が著しく悪くなるため、Mw/Mnは3.0以下が好ましく、2.5以下がより好ましい。
【0034】
<テトラアルコキシシランのオリゴマー、および/または、このオリゴマーの完全または部分加水分解物または縮合物(B)>
アルコキシ基を有するシランオリゴマーは、一般的にはメチルシリケートやエチルシリケートといった化合物が知られており、簡単に入手することが可能である。そのオリゴマーであるアルキルシリケートの一般構造式は下記の通りとなる。
【0035】
【0036】
ここでRはメチル基、もしくはエチル基であるが、メチル基の場合、反応は迅速に進むが副生成物としてメタノールが発生することもあり、エチル基のものを用いることが望ましい。nは、4~10のもの(4量体~10量体)を用いることが好ましい。nが10(10量体)を超えると、PDMSとの反応性が小さくなり、合成に高温、長時間を要する場合がある。nが4(4量体)未満では、アルキルシリケート単独での重縮合が進行しクラスター粒子が生成する恐れがあり、光透過性の低下を招く場合がある。また、立体障害による反応性の観点から、(B)のオリゴマーは直鎖状であることが好ましい。
【0037】
<炭素数4以上の直鎖状(n-)パーフルオロアルキル基または炭素数5以上の分岐鎖状パーフルオロアルキル基1個と3個のメトキシ基を有するシラン化合物、および/または、このシラン化合物の完全または部分加水分解物または縮合物(C)>
炭素数4以上の直鎖状(n-)パーフルオロアルキル基または炭素数5以上の分岐鎖状(立体障害が大きすぎないようイソが好ましいが、限定されない)パーフルオロアルキル基1個と3個のメトキシ基を有するシラン化合物に関しては、加水分解性基がメトキシ基であることが重要であり、エトキシ基では加水分解反応速度が低いためか作製が困難である。安全面などからメトキシ基よりエトキシ基の化合物を用いることが望ましいが、エトキシ基を用いた系では白濁を生じ合成が困難である。
【0038】
以上のことから一般構造式は下記のものが好ましい。立体障害による反応性の観点から、直鎖状のものがより好ましい。
【0039】
【0040】
n-パーフルオロ基の場合、p1は3以上の整数であり、またイソパーフルオロ基の場合、p2は2以上の整数である。p1、p2がそれぞれ3及び2未満では耐熱性、耐光性が向上し難い。好ましくは、p1は3~7の整数、p2は2~6の整数である。
【0041】
<イソシアヌレート環構造を有し、末端エポキシ基またはエポキシ基、および、末端アルコキシ基を有する化合物(D)>
接着性改善を目的に使用される材料として、接着性、耐光性、耐熱性の高いエポキシ基を有したイソシアヌレート環構造を有し、末端エポキシ基またはエポキシ基、および、末端アルコキシ基を有する化合物(D)を化合物(A)、(B)、(C)の合計量100重量部に対し0.1~5重量部用いることができる。化合物(D)は、エポキシ樹脂の改質剤として一般的に知られているが、この中でも、官能基としてアルコキシ基を有するものが好ましい。この種の化合物は分子の平面度が高く、接合面に沿って接着性を上げる効果が期待されるが、化合物(A)、(B)、(C)の合計量に対し0.1重量部未満では接着性改善効果が発現し難く、5重量部を超えると、耐光性、耐熱性が劣化する恐れがある。接着性改善効果、耐光性、耐熱性のバランスを考慮すると、化合物(D)は、化合物(A)、(B)、(C)の合計量100重量部に対し0.2~2重量部用いるのがより好ましい。
【0042】
<有機金属化合物(E)>
本発明のフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーの調製には、有機金属化合物を縮合触媒として合成を進めることが好ましい。縮合触媒に制約は無いが、最も使いやすく添加量を低く抑えることが可能なSn系触媒が有効である。金属系触媒には、Sn系以外でもTi系、Al系、Zn系、Zr系、Bi系等の有機金属化合物が存在するが、反応性が低い、残留時の硬化体の耐熱性低下、着色などの課題を生じるため、Sn系触媒が最も効果的に使用することができる。
【0043】
Sn系触媒としては、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ビスアセチルアセトナート等が一般的である。Sn系触媒は、合成条件次第で少量で効果的な縮合反応を進めることが可能であり、固形分に対して配合量も500ppm以下に抑えることが可能である。
【0044】
<平均分子量の測定>
上記PDMS(A)の平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法により測定し、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比を分子量分布指数とした。標準試料としてポリスチレンを用い、ポリスチレン換算分子量を測定した。なおGPC法によるポリスチレン換算分子量測定は、以下の測定条件で行うものとする。
a)測定機器:東ソー製GPC HLC-8320PC
b)Mn30,000以下のカラム :TSKgel guardColumn Super HZ-H、TSKgel Super HZM-H ×2本
c)Mn30,000以上のカラム :TSKgel guardColumn Super MP(HZ)-N、TSKgel Multipore HZ-N ×3本
d)オーブン温度:40℃
e)溶離液 :テトラヒドロフラン(THF) 1.0mL/min
f)標準試料:ポリスチレン
g)注入量 :100μL
h)濃度 :0.05g/10mL
i)試料調製:2,6-ジ-tert-ブチル-p-フェノール(BHT)が0.2質量%添加されたTHFを溶媒として、室温で攪拌して溶解させる。
j)補正 :検量線測定時と試料測定時とのBHTのピークのずれを補正して、分子量計算を行う。
【0045】
<フッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマー(F)の作製>
本発明のフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーの作製においては、好ましくは有機金属化合物(E)の存在下で、脱水または脱アルコールによる縮合反応によってまず縮合型ポリジメチルシロキサン系プレポリマーが合成される。
【0046】
両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサン(A)とアルコキシ基を有するシランオリゴマー(B)は、モル比を調整した配合で、加熱によって脱アルコール(または(B)の完全または部分加水分解物との脱水)による縮合反応を生じる。この反応は、数時間から数十時間で制御され、縮合型ポリジメチルシロキサン系プレポリマーとなる。合成には、攪拌装置、温度計、滴下ラインを取り付けた反応容器(挿入口が複数個あるフラスコ)を用いる。撹拌装置には、撹拌羽の付随した回転式撹拌機、マグネチックスターラー、二軸遊星式撹拌装置、超音波洗浄装置など、反応に寄与する高粘度液状原料を均質に混ぜる効果があれば特に制限はない。しかし温度制御、雰囲気制御、成分滴下ラインなどを付随させることから、回転式撹拌機、マグネチックスターラーなどが望ましい。合成温度は均一性が重要である。合成温度は60~140℃の間で適宜設定される。低温で長期間反応させる場合や高温で短時間に合成される場合など、原料の種別、配合比率、合成設備などによって個別に設定される。合成雰囲気は、不活性ガスとして例えば窒素ガスを使用し、該反応容器内に含有水分量を一定にした窒素ガスを十分に充満させる。このとき、窒素ガスには、窒素ガス製造装置以外にもボンベや液体窒素からも使用可能である。
【0047】
両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサン(A)とアルコキシ基を有するシランオリゴマー(B)のモル比(配合比)に関しては、(B)が、上記(A)1モルに対して0.5~4モルの範囲で調整されることが好ましい。(A)と(B)のモル比が上記の範囲で、かつ縮合に適した条件により縮合反応を進めることで、反応中または反応後のゲル化が起こりにくくなり、低分子量シロキサンの残留が無い安定したプレポリマーが得られる。
【0048】
なお、ここで言うモル比とは、ポリスチレンを標準物質とし、テトラヒドロフランを溶離液としてゲルパーミュエーションクロマトグラフ(GPC法)により測定したPDMSの数平均分子量(Mn)と、テトラアルコキシシランのオリゴマーの純度と平均分子量に基づいて計算したモル比である。
【0049】
合成された縮合型ポリジメチルシロキサン系プレポリマーに、さらに炭素数4以上の直鎖状(n-)パーフルオロアルキル基または炭素数5以上の分岐状パーフルオロアルキル基(立体障害が大きすぎないようイソが好ましいが、限定されない)1個と3個のメトキシ基を有するシラン化合物(C;完全または部分加水分解・縮合物を含む)を反応させる。この化合物(C)は反応性のアルコキシシリル基を有しているため、先に作製された縮合型ポリジメチルシロキサン系プレポリマーの一部を加水分解させ、反応性のシラノール基を持たせておくことが好ましい。両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサン(A)とシラン化合物(C)のモル比(配合比)に関しては、(C)が、上記(A)1モルに対して1~9モルの範囲で調整されることが好ましい。
【0050】
合成されたフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマー(F)は、熱処理によって透明性が高くUV耐性を有したフッ素含有オルガノポリシロキサン硬化体となる。接着性も有しており、UV-LEDの封止材、石英レンズや窓材の接合材、透明絶縁層などに適用することが可能となる。
【0051】
本発明では、両末端シラノールポリジメチルシロキサンとアルコキシ基を有するシランオリゴマーによる縮合反応後、ただちに炭素数4以上のn-パーフルオロアルキル基または炭素数5以上の分岐鎖状パーフルオロアルキル基1個と3個のメトキシ基を有するシラン化合物(または完全または部分加水分解・縮合物)を反応させることで、フッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーを作製する。このプレポリマーは、熱硬化によって従来のUV耐性を有する材料が不可能であった1mm以上の厚膜で柔軟性と機械的特性を有する弾性材料となる。
【0052】
<高接着性フッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマー(G)の作製>
フッ素含有オルガノポリシロキサン硬化体の有する接着力では適用が困難な場合、接着力向上を目的に、イソシアヌレート環構造を有し、末端エポキシ基またはエポキシ基、および、末端アルコキシ基を有する化合物(D)を複合化させることが可能である。この複合化により、耐熱性や耐光性を大きく損なうことなく接着性を向上させることができる。
【0053】
本発明のフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーは、UV-LEDパッケージに充填し封止材として使用することが可能である。接着力を付与することも可能なことから、UV-LEDの石英窓材の固定、塗膜としても利用することができ、また柔軟性が高いため、熱膨張係数の異なる基材間の接着にも利用することができる。さらに耐UV性が高いことから、特に250nm~450nmのUVから可視短波長領域の光を用いる光学部材に応用展開することが可能となる。また、3μm~4.5μmなど赤外領域を部分的に透過する材料でもあることから、接着力と耐光性を利用してセンサー部品などの各部材の接合材として利用することが可能である。
【0054】
本発明のフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーから得た硬化体は、UV域での耐光性、耐熱性に優れた封止層または接着層として使用でき、長期間にわたりUV光による変形、破断、変色、剥がれなどの特性劣化が生じない材料となる。また、UV-LED素子を水、各種ガスなどの外乱因子から遮断することで、UV-LEDの応用が活発となり、水の殺菌、電力消費削減など、環境面などに大きな効果を与えることができる。
【0055】
以上のように、本発明に従ったLED発光素子の封止材は、本発明に従ったフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーを含む。
【0056】
また、本発明に従った波長450nm以下の光学部材用接着剤は、本発明に従ったフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーを含む。
【実施例】
【0057】
以下実施例を用い、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例におけるPDMS中のトルエン含有量は、ガスクロマトグラフィーで測定した。
【0058】
[実施例1~6]
〔フッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマー(F)の作製〕
攪拌装置、温度計、滴下ラインを取り付けた反応容器に、窒素ガスを十分に充満させた。このとき、窒素ガスとして、窒素ガス製造装置(ジャパンユニックス社製UNX-200)によって製造したものを用いた。
【0059】
次に、上記窒素ガスを十分に充満させた上記反応容器内に、両末端にシラノール基を有するPDMS(A)と、テトラアルコキシシランのオリゴマー(B)と、溶媒とを投入し、均質になるまで撹拌後、縮合触媒を投入し、120℃で1時間反応させた。オリゴマー(B)としては、エバポレータによる蒸留品(130℃2時間)を用いた。その後室温まで自然放冷し、縮合型ポリジメチルシロキサン系プレポリマーを得た。そのプレポリマーに、炭素数4以上のn-パーフルオロアルキル基1個と3個のメトキシ基を有するシラン化合物((C);以下、フッ素系シランカップリング剤)を入れ、前記と同様に窒素を充填し、透明になるまで混合した後、120℃で2時間反応させ室温まで自然冷却し、フッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマー(F)を得た。
【0060】
なお、使用した原料の名称と質量、それぞれのモル比、溶媒、縮合触媒等と添加量は、表1,2の通りである。
【0061】
【0062】
【0063】
PDMS(A);Nusil社製PLY2-7630(数平均分子量(Mn)27100、Mw/Mn=2.21)、Nusil社製PRO-2369(数平均分子量(Mn)54300、Mw/Mn=1.94)を使用。
シリケートオリゴマー(B);エチルシリケート、多摩化学工業社製、シリケート40:テトラエトキシシランの直鎖状4~6量体であるオリゴマー、平均分子量=745。130℃で2時間蒸留精製したものを使用。
フッ素系シランカップリング剤(C):トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)シラン(東京化成工業社製 T2917;分子量=568.30)、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)シラン(東京化成工業社製 T2918;分子量=368.27)を使用。
溶媒:tert-ブチルアルコール(富士フイルム和光純薬社製)を使用。
【0064】
[比較例1~3]
攪拌装置、温度計、滴下ラインを取り付けた反応容器に、窒素ガスを十分に充満させた。このとき、窒素ガスとして、窒素ガス製造装置(ジャパンユニックス社製UNX-200)によって製造したものを用いた。
【0065】
次に、上記窒素ガスを十分に充満させた上記反応容器内に、両末端にシラノール基を有するPDMS(A)または(a)と、テトラアルコキシシランのオリゴマー(B)と、溶媒とを投入し、均質になるまで撹拌後、縮合触媒を投入し、120℃で1時間反応させた。その後室温まで自然放冷し、縮合型ポリジメチルシロキサン系プレポリマーを得た。そのプレポリマーに、炭素数4以上または炭素数1のn-パーフルオロアルキル基1個と3個のメトキシ基を有するシラン化合物((C)または(c);以下、フッ素系シランカップリング剤)を入れ、前記と同様に窒素を充填し、透明になるまで混合した後、120℃で2時間反応させ室温まで自然冷却し、フッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマー(f)を得た。ただし、比較例1はフッ素系シランカップリング剤を使用していない。
【0066】
なお、使用した原料の名称と質量、それぞれのモル比、溶媒、縮合触媒等とその添加量は、表3の通りである。
【0067】
【0068】
PDMS(A);Nusil社製PLY2-7630(数平均分子量(Mn)27100、Mw/Mn=2.21 )を使用。
PDMS(a):JNC社製FM9927A(数平均分子量(Mn)≒29500、Mw/Mn=1.10)を使用。
シリケートオリゴマー(B);エチルシリケート、多摩化学工業社製、シリケート40:テトラエトキシシランの直鎖状4~6量体であるオリゴマー、平均分子量=745。130℃で2時間蒸留精製したものを使用。
フッ素系シランカップリング剤(C):トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)シラン(東京化成工業社製 T2917;分子量=568.30)を使用。
フッ素系シランカップリング剤(c):トリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シラン(東京化成工業社製 T2720;分子量:218.25)を使用。
溶媒:tert-ブチルアルコール(富士フイルム和光純薬社製)を使用。
【0069】
[硬化剤の作成]
撹拌脱泡装置に装備できる密閉可能なプラスチック容器に、4~6量体のシリケートオリゴマー(多摩化学工業社製 エチルシリケート40;蒸留精製品)を14.07g、2-エチルヘキサン酸ジルコニル(日本化学産業社製 ニッカオクチックスジルコニウム12%)を3.72g、2-エチルヘキサン酸亜鉛(日本化学産業社製 ニッカオクチックス亜鉛18%)を2.21g入れ、充分撹拌したところに、tert-ブチルアルコールを2g添加し、さらに撹拌させたものを、硬化剤として使用する。
【0070】
〔高接着性フッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマー(G)の作製〕
[実施例7,8及び比較例4]
実施例1~6と同様の方法でフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマー(F)、(f´)を得た。イソシアヌレート環構造を有し、末端エポキシ基またはエポキシ基、および、末端アルコキシ基を有する化合物(D;以下、高機能エポキシ化合物)を(D)と同重量の溶媒で溶解させ、得られたプレポリマー(F)、(f´)に添加し、撹拌しながら100℃で15分間反応させ、高接着性フッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマー(G)、(g)を得た。
【0071】
なお、使用した原料の名称と質量、それぞれのモル比、溶媒、縮合触媒等とその添加量は、表4の通りである。
【0072】
【0073】
PDMS(A);Nusil社製PLY2-7630(数平均分子量(Mn)27100、Mw/Mn=2.21)を使用。
PDMS(a):JNC社製FM9927A(数平均分子量(Mn)29500、Mw/Mn=1.10)を使用。
シリケートオリゴマー(B);エチルシリケート、多摩化学工業社製、シリケート40:テトラエトキシシランの直鎖状4~6量体であるオリゴマー、平均分子量≒745。130℃で2時間蒸留精製したものを使用。
フッ素系シランカップリング剤(C):トリメトキシ(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)シラン(東京化成工業社製 T2917;分子量=568.30)使用。
高機能エポキシ化合物(D): 日産化学工業社製高機能エポキシ化合物 TEPIC-PAS B22(エポキシ当量:180~200g/eq)を使用。
溶媒:tert-ブチルアルコール(富士フイルム和光純薬社製)を使用。
【0074】
[光透過率の評価]
〔評価用サンプルの作製〕
10mm×20mm、厚さ0.5mmの石英基板の上に、前述の硬化剤を溶媒を含むプレポリマー100重量部に対して3重量部添加し、シンキー製撹拌機(シンキー社製 泡とり練太郎)で撹拌脱泡したものを塗布した。その後、15分間真空脱泡処理を行い、その上に同サイズの石英基板を乗せ、膜厚が10μmとなるよう調整し、80℃で30分間、次いで220℃で3時間熱処理を行った。
【0075】
[波長258nmでの暴露試験]
上記方法で作製したサンプルを、セン特殊光源社製のSSP16-110を使って、低圧水銀ランプによる258nm・出力17mW/m2の照度にて、1000時間まで連続照射を実施し、外観と波長265nm、300nm、350nmでの透過率の変化を初期から500時間、1000時間で比較した。結果を表5に示す。
【0076】
【0077】
[接着強度確認試験]
評価サンプルの作製
実施例1、実施例7、実施例8及び比較例4のプレポリマー100重量部に対して、前述の硬化剤を10重量部添加し、撹拌脱泡装置にて充分撹拌し、接着用ポリマーを作製した。JIS K 6850に準じて、幅25mm×長さ100mm×厚さ1mmのアルミニウム板2枚の片端が幅10mmで重なるように各接着用ポリマーを塗布し、事務用クリップで固定した。これを電気炉にて、100℃で60分間の予備焼成後、250℃で3時間熱処理し、評価用サンプルを作製した。島津製作所社製オートグラフAGS-Jにて、JIS K 6850に準じて、引張り試験を行った。接着強度測定結果(引張試験結果(n=3))を表6に示す。
【0078】
【0079】
(評価結果)
表5の結果より、本発明のフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーから得られた硬化体は、透明性に優れ、耐光性にも優れていることが分かる。一方、フッ素系シランカップリング剤を使用していないもの(比較例1)は、258nmの照射500時間でクラックを生じ、Mw/Mnが1.3以下のPDMSを使用したもの(比較例3)及びトリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シランを使用したもの(比較例2)は1000時間でクラックが生じた。フッ素系シランカップリング剤を使用してもフルオロアルキル基の鎖長が短いものでは1000時間の258nmのUV光照射に耐えないことが分かる。
【0080】
また、表6から、フッ素による密着性の悪さを改善するため、イソシアヌレート環構造を有し、末端エポキシ基またはエポキシ基、および、末端アルコキシ基を有する化合物(TEPIC-PAS B22)を使った実施例7、実施例8では透明性は若干損なわれるが、接着強度は向上する結果となった。
【0081】
[変更例]
上記実施例においては、これに限定されるものではなく、異なった種類、特性の有機金属化合物を使用してもよい。
【0082】
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のフッ素含有縮合型オルガノポリシロキサンプレポリマーは、370nm以下の紫外線を利用した光学部材において、耐光性の高い封止材、接着剤、光学素材として利用することが可能であり、UV域での光透過性に優れた長期間に亘って安定した素材として殺菌用途、医療用途などの紫外発光部材の作製に有用である。