(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】スライド弁及び冷凍サイクルシステム
(51)【国際特許分類】
F16K 3/314 20060101AFI20230412BHJP
F16K 11/065 20060101ALI20230412BHJP
F25B 41/26 20210101ALI20230412BHJP
【FI】
F16K3/314 Z
F16K11/065 Z
F25B41/26 A
(21)【出願番号】P 2019125121
(22)【出願日】2019-07-04
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】岡田 聡
(72)【発明者】
【氏名】山中 聡太郎
【審査官】笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-056890(JP,A)
【文献】特公昭44-009432(JP,B1)
【文献】特公昭35-012689(JP,B1)
【文献】特開2011-47443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 3/314
F16K 11/065
F25B 41/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の弁室に対してポートを開口する弁座と、前記弁室内を往復移動する対向配置された一対のピストンと、該ピストン間に架設された連結板と、該連結板の弁体嵌合孔に保持されて外周の鍔部が前記連結板に対向配置された弁体と、前記連結板と前記鍔部との間に介設され、前記弁体を前記弁座に向けて付勢する板ばねとを備え、前記ピストンにより前記弁体を前記弁座上で摺動させて、前記弁座のポートを通過する流体の流れを制御するスライド弁において、
前記板ばねは、前記鍔部に平行な面に対する平面視で環状の形状であって、前記弁体が嵌合される開口部を有するとともに、該開口部の周囲をなし、前記弁体の摺動方向と平行な一対のばね部と前記摺動方向と交差する一対の脚部とから構成され、
前記一対のばね部のそれぞれは、前記連結板と前記鍔部との一方側に凸となる一対の稜線が前記摺動方向に離間して形成され、該稜線の両側の部位が弾性力に抗して開閉することでばね力を呈するよう構成され、
前記一対の脚部には、前記連結板と前記鍔部との他方側に凸となる側面視V字形状の曲げ部が形成され、該曲げ部は、V字の頂部となる折り曲げ線と当該折り曲げ線の両側の斜面とが前記摺動方向と直交する方向の端部間に連なるよう、構成されていることを特徴とするスライド弁。
【請求項2】
前記板ばねの前記脚部と前記ばね部との交差部分の内側に、該ばね部の短手方向の幅より広い幅を有するコーナー部が当該脚部及びばね部と一体に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスライド弁。
【請求項3】
前記弁体が前記連結板の前記弁体嵌合孔に嵌入される膨出部を有し、
前記弁体の前記膨出部の基部と前記鍔部との境界の形状が長円形状であり、前記板ばねの前記開口部が当該境界に整合する長円形状であることを特徴とする請求項1または2に記載のスライド弁。
【請求項4】
前記ばね部の前記稜線が、前記開口部の長円形状の円弧線部と直線部との境界から当該ばね部の前記摺動方向の中心側に離間した位置に形成されていることを特徴とする請求項3に記載のスライド弁。
【請求項5】
前記弁室に導通する第1のポートを有し、前記弁座に第2のポートと第3のポートが形成されるとともに、前記第2のポートと前記第3のポートの中間に第4のポートが形成され、前記弁体を移動させることにより、前記第1のポートを弁室に対して開となる前記第2のポートまたは前記第3のポートに導通するとともに、弁室に対して閉となる前記第3のポートまたは前記第2のポートを前記弁体の導通路によって前記第4のポートに導通することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のスライド弁。
【請求項6】
請求項5に記載のスライド弁を備えた冷凍サイクルシステムであって、前記スライド弁の前記第1のポートが圧縮機の吐出口に接続され、前記第4のポートが圧縮機の吸入口に接続され、前記第2のポート及び前記第3のポートのうちいずれか一方が室外機に接続され、他方が室内機に接続されていることを特徴とする冷凍サイクルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプ式の冷凍サイクルシステム等の冷媒の流路を切り換えるスライド弁及び冷凍サイクルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のスライド弁として、例えば特開2017-150670号公報(特許文献1)に開示されたものがある。このスライド弁は切換弁であり、シリンダ状の弁本体を有し、この弁本体に、圧縮機から高圧の冷媒が流入する高圧管と、圧縮機へ低圧の冷媒を流出させる低圧管と、低圧管を挟む両側に、熱交換機に連結された一対の導管とが接続されている。弁本体内には往復移動する一対のピストンが収容され、これらピストンにより、その内側に高圧室を画定するとともに、その両外側に低圧室を画定している。また、ピストンの間には、連結板が架設されるとともに、鍔部を備えた椀状の弁体が配置されている。さらに、連結板と弁体の鍔部との間には、弁体を弁座に向けて付勢する板ばねが介設されている。そして、高圧室と低圧室との差圧で移動するピストン及び連結板により、弁体を弁座上で摺動させ、冷媒の流路を切り換えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のものでは、連結板と弁体の鍔部との間に介設された板ばねの付勢力により、弁本体内の高圧室と弁体の内側空間との気密性を保つことができるが、この従来の構造では、特に長期間の使用により、板ばねが破損する虞がある。例えば、通常の使用時には弁本体内の高圧室の圧力により弁体は弁座に押しつけられるが、圧縮機が停止したり、弁体を移動して切り換えるときに、通常とは異なる圧力関係である逆圧が弁体にかかることがある。この弁体に逆圧がかかると、連結板に弁体の鍔部が押しつけられ、板ばねが連結板と鍔部に挟まれて過剰圧縮される。特に、この特許文献1のものは、弁体に当接するばね部におけるV字の折り曲げ部が、長辺部内に設けられているため、この折り曲げ部の長さが小さく板ばねの圧縮が繰り返されるとき、長さの小さい折り曲げ部に応力が集中する。このため板ばねが破損し易く、改良の余地がある。
【0005】
本発明は、上述の如き問題点を解消するためになされたものであり、板ばねにより弁体を弁座側に付勢するようにしたスライド弁において、板ばねの過剰圧縮による板ばねの疲労破壊を抑制したスライド弁及び冷凍サイクルシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のスライド弁は、筒状の弁室に対してポートを開口する弁座と、前記弁室内を往復移動する対向配置された一対のピストンと、該ピストン間に架設された連結板と、該連結板の弁体嵌合孔に保持されて外周の鍔部が前記連結板に対向配置された弁体と、前記連結板と前記鍔部との間に介設され、前記弁体を前記弁座に向けて付勢する板ばねとを備え、前記ピストンにより前記弁体を前記弁座上で摺動させて、前記弁座のポートを通過する流体の流れを制御するスライド弁において、前記板ばねは、前記鍔部に平行な面に対する平面視で環状の形状であって、前記弁体が嵌合される開口部を有するとともに、該開口部の周囲をなし、前記弁体の摺動方向と平行な一対のばね部と前記摺動方向と交差する一対の脚部とから構成され、前記一対のばね部のそれぞれは、前記連結板と前記鍔部との一方側に凸となる一対の稜線が前記摺動方向に離間して形成され、該稜線の両側の部位が弾性力に抗して開閉することでばね力を呈するよう構成され、前記一対の脚部には、前記連結板と前記鍔部との他方側に凸となる側面視V字形状の曲げ部が形成され、該曲げ部は、V字の頂部となる折り曲げ線と当該折り曲げ線の両側の斜面とが前記摺動方向と直交する方向の端部間に連なるよう、構成されていることを特徴とする。
【0007】
この際、前記板ばねの前記脚部と前記ばね部との交差部分の内側に、該ばね部の短手方向の幅より広い幅を有するコーナー部が当該脚部及びばね部と一体に形成されていることを特徴とするスライド弁が好ましい。
【0008】
また、前記弁体が前記連結板の前記弁体嵌合孔に嵌入される膨出部を有し、前記弁体の前記膨出部の基部と前記鍔部との境界の形状が長円形状であり、前記板ばねの前記開口部が当該境界に整合する長円形状であることを特徴とするスライド弁が好ましい。
【0009】
また、前記ばね部の前記稜線が、前記開口部の長円形状の円弧線部と直線部との境界から当該ばね部の前記摺動方向の中心側に離間した位置に形成されていることを特徴とするスライド弁が好ましい。
【0010】
また、前記弁室に導通する第1のポートを有し、前記弁座に第2のポートと第3のポートが形成されるとともに、前記第2のポートと前記第3のポートの中間に第4のポートが形成され、前記弁体を移動させることにより、前記第1のポートを弁室に対して開となる前記第2のポートまたは前記第3のポートに導通するとともに、弁室に対して閉となる前記第3のポートまたは前記第2のポートを前記弁体の導通路によって前記第4のポートに導通することを特徴とするスライド弁が好ましい。
【0011】
また、本発明の冷凍サイクルシステムは、前記スライド弁を備えた冷凍サイクルシステムであって、前記スライド弁の前記第1のポートが圧縮機の吐出口に接続され、前記第4のポートが圧縮機の吸入口に接続され、前記第2のポート及び前記第3のポートのうちいずれか一方が室外機に接続され、他方が室内機に接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のスライド弁によれば、板ばねの一対の脚部にV字形状の曲げ部が形成され、この曲げ部の折り曲げ線と、この折り曲げ線の両側の斜面とが、弁体の摺動方向と直交する方向の端部間に連なるよう形成されているので、脚部の幅方向の曲げ力に対する剛性も高くなるとともに、板ばねが弁体に対して幅方向の全長に亘って線接触するので、弁体から受ける力が折り曲げ線の線接触部分で分散され、脚部の疲労破壊を抑制することができる。
【0013】
また、本発明の冷凍サイクルシステムによれば、脚部の疲労破壊を抑制したスライド弁を用いているので、安定したシステムが実現する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態のスライド弁としての切換弁及び冷凍サイクルシステムを示す図である。
【
図2】実施形態における板ばねの平面図及び側面図である。
【
図3】実施形態における板ばねと弁体の組み付け状態の平面図である。
【
図4】実施形態における弁体及び板ばねの要部拡大側面図である。
【
図5】実施形態のスライド弁における板ばねの変形例1の平面図及び側面図である。
【
図6】実施形態の変形例1の板ばねと弁体の組み付け状態の平面図である。
【
図7】実施形態のスライド弁における板ばねの変形例2の平面図及び側面図である。
【
図8】実施形態の変形例2の板ばねと弁体の組み付け状態の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の実施形態のスライド弁としての切換弁及び冷凍サイクルシステムを示す図、
図2は実施形態における板ばねの平面図(
図2(A))及び側面図(
図2(B))、
図3は実施形態における板ばねと弁体の組み付け状態の平面図、
図4は実施形態における弁体及び板ばねの要部拡大側面図である。
図1に示すように、この実施形態に係る切換弁10は四方切換弁であり、後述のように、この切換弁10はパイロット弁20により切り換えられる。切換弁10は、弁ハウジング1内に、弁座2、一対のピストン3,3、連結板4、弁体5、板ばね6を備えている。
【0016】
弁ハウジング1は円筒形状の円筒部11と2つのキャップ部12,12とで構成されている。キャップ部12,12はそれぞれ円筒部11の端部を塞ぐように円筒部11に取り付けられており、ろう付け等の溶接により固定されている。円筒部11及びキャップ部12,12の中心軸が弁ハウジング1の軸線Lとなっている。後述のようにこの軸線Lは弁体5の摺動方向でもある。弁座2は円筒部11内の中間部に配設され、円筒部11の中間部の弁座2と対向する位置には、円筒部11内に開口するDポート11aが形成されており、このDポート11aにはD継手管13dが取り付けられている。なお、Dポート11aは「第1のポート」に対応する。
【0017】
弁座2には、弁ハウジング1の軸線L方向に一直線上に並んでEポート2a、Sポート2b及びCポート2cが形成されており、これらEポート2a、Sポート2b、Cポート2cには、それぞれE継手管13a、S継手管13b、C継手管13cが取り付けられている。弁座2において、Cポート2cが「第2のポート」に対応し、Eポート2aが「第3のポート」に対応し、Sポート2bが「第4のポート」に対応する。
【0018】
一対のピストン3,3は互いに対向配置され、それぞれが、固定円板31とストッパ板32とにより、ばね33とパッキン34を挟持しており、このピストン3,3はパッキン34を円筒部11の内周面に押圧しながら往復移動可能となっている。これにより、弁ハウジング1の内部は、2つのピストン3,3により、中央部の弁室11Aと弁室11Aの両側の2つの副弁室12A,12Aとに仕切られている。
【0019】
連結板4は金属板からなり、この連結板4は、弁ハウジング1の軸線L上に配置されるようにピストン3,3の間に架設されている。また、連結板4の中央には弁体嵌合孔4aが形成され、その両側には透孔4b,4cが形成されている。弁体嵌合孔4a内には弁体5が嵌め込まれ、この弁体5は連結板4に対して軸線L方向に僅かに隙間を持って保持されている。そして、弁体5は、ピストン3,3が移動すると連結板4に連動して弁座2上を摺動し、予め定められた左右の位置で停止する。
【0020】
弁体5には後述のように膨出部51の内側に椀状凹部51Aが形成されている。そして、弁体5は、
図1の左側の端部位置において、Sポート2bとEポート2aとを椀状凹部51Aにより導通する。このとき、Cポート2cは弁室11A内で主に透孔4cを介してDポート11aに導通する。また、弁体5は、
図1の右側の端部位置において、Sポート2bとCポート2cとを椀状凹部51Aにより導通する。このとき、Eポート2aは弁室11A内で主に透孔4bを介してDポート11aに導通する。
【0021】
Dポート11aはD継手管13d及び高圧管14aにより圧縮機30の吐出口に接続され、Sポート2bはS継手管13b及び低圧管14bにより圧縮機30の吸入口に接続されている。Cポート2cはC継手管13c及び導管14cにより室外機40に接続され、Eポート2aはE継手管13a及び導管14dにより室内機50に接続されている。室外機40と室内機50は絞り装置60を介して導管14eにより接続されている。このC継手管13cから室外機40、絞り装置60、室内機50及びE継手管13aからなる経路と、S継手管13bから圧縮機30及びD継手管13dからなる経路とにより、冷凍サイクルシステムが構成されている。
【0022】
パイロット弁20は、導管14f、14g、14h、14iにより切換弁10に接続されている。パイロット弁20は、例えば切換弁10と同様な構造であり、電磁アクチュエータ等により弁体を移動して流路を切り換える。そして、このパイロット弁20は、切換弁10のS継手管13bに連通する導管14gの接続先を、切換弁10の左側の副弁室12Aに連通する導管14hと、右側の副弁室12Aに連通する導管14iとで切り換え、これと同時に切換弁10のD継手管13dに連通する導管14fの接続先を導管14iと導管14hとで切り換える。すなわち、切換弁10の左右の副弁室12A,12Aに対して、一方を減圧するとともに他方を高圧にする状態を両副弁室12A,12A間で切り換える。これにより、減圧された副弁室12Aの圧力と弁室11Aの高圧の圧力との圧力差を減圧された副弁室12A側のピストン3に加える。これにより、ピストン3、連結板4及び弁体5が移動され、この弁体5の位置が切り換えられて冷凍サイクルシステムの流路が切り換えられる。
【0023】
圧縮機30で圧縮された高圧の冷媒はD継手管13dからDポート11aを介して弁室11A内に流入し、
図1の冷房運転の状態では、高圧冷媒はCポート2cから室外機40に流入される。また、弁体5を切り換えた暖房運転の状態では、高圧冷媒はEポート2aから室内機50に流入される。すなわち、冷房運転時には、圧縮機30から吐出される冷媒はC継手管13c→室外機40→絞り装置60→室内機50→E継手管13aと循環し、室外機40が凝縮器(コンデンサ)、室内機50が蒸発器(エバポレータ)として機能し、冷房がなされる。また、暖房運転時には冷媒は逆に循環され、室内機50が凝縮器、室外機40が蒸発器として機能し、暖房がなされる。
【0024】
弁体5は、樹脂製の部材により略お椀状に成型したものであり、膨出部51と、この膨出部51の外周に形成された鍔部52とを有している。そして、膨出部51の内側により前記椀状凹部51Aが形成されている。また、膨出部51と鍔部52との連結部分は基部51aとなっており、この基部51aの平面視形状、すなわち、基部51aと鍔部52との境界の形状は、軸線L方向に長い長円形状となっている。そして、この基部51aが、連結板4の弁体嵌合孔4aに嵌合されている。
【0025】
図2に示すように、板ばね6は、ステンレス板のプレス加工により形成され、弁体5の鍔部52に平行な面に対する平面視で矩形の環状に形成されたものであり、弁体5の膨出部51とその基部51aが嵌合される開口部6aを有している。そして、板ばね6は、開口部6aの周囲をなし、弁体5の摺動方向(軸線L方向)と平行な一対のばね部61,61と、摺動方向と交差する一対の脚部62,62とから構成されている。
【0026】
一対のばね部61,61のそれぞれは、摺動方向を長手方向とする形状であり、脚部62,62の近傍に、連結板4と対向してこの連結板4側に凸となる一対の稜線61a,61aが形成されている。この稜線61a,61aは、弁体5の摺動方向(軸線L方向)に離間して形成されている。そして、
図4に示すように、この各稜線61aの両側の部位が板ばね6自体の弾性力に抗して開閉することで、弁体5の鍔部52と連結板4との間でこれら鍔部52と連結板4と対向する方向にばね力を呈する。なお、
図4において実線で示す弁体5と板ばね6は弁ハウジング1への組み付け前の状態を示し、二点鎖線で示す弁体5と板ばね6は、弁ハウジング1への組み付け状態で、かつ、板ばね6が最大限まで圧縮された状態を示している。
【0027】
脚部62,62のそれぞれは、鍔部52側に凸となる側面視V字形状の曲げ部が形成され、この曲げ部は、V字の頂部となる折り曲げ線62aと、この折り曲げ線62aの両側の斜面62b,62cとを有しており、この折り曲げ線62aと斜面62b,62cとは、摺動方向(軸線L方向)と直交する方向の端部間に連なるように形成されている。すなわち、折り曲げ線62aと斜面62b,62cとは摺動方向と直交する方向の全幅に亘って形成されている。
【0028】
このように、脚部62,62は全幅に亘って形成されたV字形状をしているので、幅方向の曲げ力に対する剛性も高くなるとともに、当該板ばね6が弁体5の鍔部52に対して幅方向の全長に亘って線接触する。したがって、鍔部52から当該板ばね6が受ける力がこの折り曲げ線62aの線接触部分で分散するので、脚部62の疲労破壊を抑制することができる。また、脚部62はばねの役割をするものではなく、
図4に示すように、折り曲げ線62aの外側の斜面62bの端部62b1は通常は連結板4には当接しない。これによっても脚部62の疲労破壊を抑制することができる。さらに、脚部62の剛性が高くなっているため、逆圧力の発生により板ばね6が圧縮されても全圧縮されるような状態となり難い。これにより、疲労破壊を防止することができる。
【0029】
以上のように、板ばね6は、連結板4と鍔部52とを離間する方向に付勢するばねの役割をしているものであり、この板ばね6は、連結板4と鍔部52とに対して、以上の実施形態とは逆向きに対向していてもよい。この場合は、ばね部61,61の一対の稜線61a,61aは鍔部52側に凸となる。また、脚部62,62のV字形状の曲げ部とその折り曲げ線62aは連結板4側に凸となる。なお、この場合、脚部62,62の折り曲げ線62a,62aが連結板4の透孔4b,4cに架からないようにするのが好ましい。また、この板ばねの向きについては、以下の各変形例についても同様である。
【0030】
図5は実施形態のスライド弁における板ばねの変形例1の平面図(
図5(A))及び側面図(
図5(B))、
図6は実施形態の変形例1の板ばねと弁体の組み付け状態の平面図であり、以下の変形例1及び変形例2において実施形態と同じ要素及び対応する要素には同符号を付記して重複する説明は省略する。なお、
図5(A)においては、後述のばね部71,71と脚部72,72とを、それぞれ二点鎖線で囲って示している。
【0031】
この変形例1の板ばね7は、ステンレス板のプレス加工により形成され、弁体5の鍔部52に平行な面に対する平面視で環状に形成され、弁体5の膨出部51とその基部51aが嵌合される開口部7aを有している。この開口部7aは、基部51aの外周、すなわち基部51aと鍔部52との境界に整合する長円形状となっている。そして、この開口部7aが基部51aに嵌合することで、板ばね7の弁体5に対する位置が安定する。また、この変形例1の板ばね7も、開口部7aの周囲をなす摺動方向(軸線L方向)と平行な一対のばね部71,71と、摺動方向と交差する一対の脚部72,72とから構成されている。そして、ばね部71,71のそれぞれには脚部72,72の近傍に、連結板4と対向してこの連結板4側に凸となる一対の稜線71a,71aが形成されている。
【0032】
また、脚部72,72のそれぞれは、鍔部52側に凸となる側面視V字形状の曲げ部が形成され、この曲げ部は、V字の頂部となる折り曲げ線72aと、この折り曲げ線72aの両側の斜面72b,72cとを有しており、この折り曲げ線72aと斜面72b,72cとは、摺動方向(軸線L方向)と直交する方向の端部間に連なるように形成されている。この変形例1でも、折り曲げ線72aと斜面72b,72cとは摺動方向と直交する方向の全幅に亘って形成されているので、脚部72,72は全幅に亘って形成されたV字形状をしており、幅方向の曲げ力に対する剛性も高くなるとともに、当該板ばね7が弁体5の鍔部52に対して幅方向の全長に亘って線接触する。したがって、前記板ばね6と同様に、鍔部52から当該板ばね7が受ける力が折り曲げ線72aの線接触部分で分散するので、脚部72の疲労破壊を抑制することができる。
【0033】
さらに、この変形例1における稜線71a,71aは、実施形態の板ばね6における稜線61a,61aよりも内側に形成されている。すなわち、長円形状の開口部7aは両側の半円の円弧線部と直線部とを有しており、この円弧線部と直線部との境界A(
図5参照)から摺動方向(軸線L方向)の中心側(直線部側)に離間した位置に形成されている。稜線71a,71aはばね部71,71がばねとして作用するときに応力が集中する部分であるが、この稜線71a,71aが直線部の位置にあるので、稜線71a,71aにおける応力が均一になり、疲労破壊を抑制できる。
【0034】
さらに、この変形例1における板ばね7は、開口部7aが長円形状となっていることから、脚部72とばね部71との交差部分の内側に、「コーナー部」としての角R部73を有しており、この角R部73はばね部71及び脚部72と一体に形成されている。また、この角R部73は、ばね部71の短手方向の幅「C」より広い短手方向の幅を有している。なお、この説明で「短手方向」及び「長手方向」とはばね部71の長短の形状を基準にした表現である。すなわち角R部73(コーナー部)の短手方向の幅とは、角R部73の半径に相当する幅である。また、この角R部73の長手方向の幅「B」は脚部72の長手方向の幅「A」よりも広い幅である。このように、短手方向、長手方向ともに幅の広い角R部73を有しているので、流体の挙動によって板ばね7に発生する摺動方向と直行する方向の曲げ力に対し、剛性が高くなる。例えば、板ばね7の隅の部分が、Dポート11aからの高圧流体に晒されても、板ばね7が変形し難く、弁体5からの離脱等を防止できる。なお、この例のコーナー部は円弧線部を有する角R部73のであるが、コーナー部は、弁体5の基部51aと干渉しないように角R部73に内包されるように連続的に幅が広くなる三角形の形状でもよく、また、脚部72からばね部71にかけて段階的に幅が広くなるような形状でもよい。
【0035】
図7は実施形態のスライド弁における板ばねの変形例2の平面図(
図7(A))及び側面図(
図7(B))、
図8は実施形態の変形例2の板ばねと弁体の組み付け状態の平面図である。この変形例2の板ばね7′は、変形例1の板ばね7において外周の角部をR形状としたものであり、その他の構造、作用効果は変形例1と同じである。この変形例2では、板ばね7′の外周の角部がR形状(円弧状)となっているため、板ばね7′の角部が弁体5の鍔部52からはみ出すことがない。したがって、流体の圧力を受けて押し曲げられることが抑制されるため、さらに疲労破壊を防止できる。
【0036】
以上の実施形態では切換弁を例に説明したが、本発明のスライド弁は二方弁や、三方切換弁、その他、5個以上のポートの切換を行う切換弁としても構成できる。
【0037】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0038】
1 弁ハウジング
11 円筒部
11A 弁室
11a Dポート(第1のポート)
12 キャップ部
12A 副弁室
13a E継手管
13b S継手管
13c C継手管
13d D継手管
2 弁座
2a Eポート(第3のポート)
2b Sポート(第4のポート)
2c Cポート(第2のポート)
3 ピストン
4 連結板
5 弁体
51 膨出部
51a 基部
52 鍔部
6 板ばね
6a 開口部
61 ばね部
61a 稜線
62 脚部
62a 折り曲げ線
62b 斜面
62b1 端部
62c 斜面
7 板ばね
7a 開口部
71 ばね部
71a 稜線
72 脚部
72a 折り曲げ線
72b 斜面
72c 斜面
73 角R部(コーナー部)
L 軸線
10 切換弁
20 パイロット弁
30 圧縮機
40 室外機
50 室内機
60 絞り装置