(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】表中層トロール網におけるフラッパー
(51)【国際特許分類】
A01K 73/02 20060101AFI20230412BHJP
【FI】
A01K73/02
(21)【出願番号】P 2019158141
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000110882
【氏名又は名称】ニチモウ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081282
【氏名又は名称】中尾 俊輔
(74)【代理人】
【識別番号】100085084
【氏名又は名称】伊藤 高英
(74)【代理人】
【識別番号】100117190
【氏名又は名称】前野 房枝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 翔
(72)【発明者】
【氏名】熊沢 泰生
(72)【発明者】
【氏名】平山 完
(72)【発明者】
【氏名】服部 廉
(72)【発明者】
【氏名】沖山 武史
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】実開昭52-123183(JP,U)
【文献】特開昭61-158734(JP,A)
【文献】特開昭62-272925(JP,A)
【文献】実開昭62-116677(JP,U)
【文献】特開昭60-024138(JP,A)
【文献】実開昭57-180567(JP,U)
【文献】登録実用新案第3032323(JP,U)
【文献】実開昭56-059864(JP,U)
【文献】特開平01-285136(JP,A)
【文献】特開平08-131022(JP,A)
【文献】特開平09-205933(JP,A)
【文献】特開2007-244384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 73/00 - 73/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表中層トロール網の網体内に設けられ、前記網体に入網した魚類の逃避を制約するフラッパーであって、
前記網体の内部を閉じるように配置され、前記網体の内部において前記魚類を通して入網させるための通過空間を開閉する網地体を備え、
前記網地体は、前記表中層トロール網を所定の曳網速度よりも遅い曳網速度で曳網する際に、前記網地体を下げて前記通過空間を閉鎖する錘を備えている
ことを特徴とする表中層トロール網におけるフラッパー。
【請求項2】
前記表中層トロール網を所定の曳網速度で曳網する際に、前記網地体が吹かれて前記通過空間が大きくなるのを制約する制約手段を備えている
ことを特徴とする請求項1に記載の表中層トロール網におけるフラッパー。
【請求項3】
前記網地体を第1網地体として、前記第1網地体とは別の第2網地体を前記網体面の内部に備え、
前記第2網地体は、前記第1網地体の付近に配置され、
前記第2網地体は、前記表中層トロール網を前記所定の曳網速度よりも遅い曳網速度で曳網する際に、前記第2網地体を移動して前記通過空間を閉鎖する浮体を有している
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表中層トロール網におけるフラッパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一度、入網した表中層性の魚類が曳網速度を低下させた際にトロール網の外に逃避する(逆出)ことを防ぐための表中層トロール網におけるフラッパーに関する。
【背景技術】
【0002】
図5に例示するのは、従来のトロール網200である。このトロール網200には、フラッパー201が用いられている。フラッパー201とは「返し」とも呼ばれ、このフラッパー201は、一度、入網した魚類202が、曳網速度を低下させた際にトロール網の外に逃避する(逆出)ことを防ぐ装置である。曳網速度を低下させる理由は、トロール網200を船の甲板側へ揚網(巻き揚げる)するために、トロール網200の流体抵抗を減じる必要があるからである。この種のトロール網は、特許文献1に開示されている。
【0003】
図6(A)から
図6(C)に示す従来の底びき網210では、フラッパーである網地パネル211のみが用いられており、フラッパーである網地パネル211と底びき網210との間には、魚類を通すための空間212が設けられている。また、
図7に示す従来の船びき網220では、網地で構成された漏斗状のフラッパー221が用いられている。
【0004】
上述したいずれの漁法も、曳網速度は3ノット以下(1ノット=0.515m/s)である。従って、上記の仕様でトロール網を揚網するために曳網速度を低下させても、一度、入網した魚類の逃避または逆出はなく、操業に支障をきたすことはなかった。この理由としては、漁獲対象となる魚類の遊泳速度が遅いためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、表中層トロール網は、遊泳速度が速い表中層性魚類(サバ、アジ、など)を漁獲対象としており、曳網速度は従来の上述した操業例と比較して4~6ノットと速い。その際、
図8(A)に示すように、従来の単純な構造のフラッパーである網地パネル211のみを用いるか、もしくは
図8(C)に示すように、漏斗状のフラッパー221を用いるのでは、揚網のために曳網速度を低下させた際、表中層性の魚類240の遊泳速度が速いために、一度、入網した表中層性の魚類はトロール網210,220の外に逃避してしまっていた。
【0007】
特に、従来の単純な構造のフラッパーである網地パネル211のみを用いるのであれば、
図8(B)に示すように、曳網速度が速くなれば網地パネル211は大きく吹かれて破線で示すように変形して、仮に曳網速度を遅くしても吹かれた網地パネル211の吹かれ量分は直ちには減少しない。網地パネル211には、入網した表中層性の魚類が逃避できるだけの十分に大きな空間(通路)212Dができてしまう。また、逃避できる空間ができてしまうことは、
図8(C)に示す漏斗状のフラッパー221を用いる場合も同様に、一度、入網した表中層性の魚類が逃避できるだけの十分に大きな空間(通路)ができてしまう。
【0008】
表中層トロール網は、わが国の表中層性魚類(浮魚、イワシ、アジ、サバ、マグロなど)の資源量調査においても利用されている。表中層トロール網においては、上述したように、一度、入網した表中層性の魚類が逃避できるだけの十分に大きな空間(通路)ができてしまう。このようにトロール網の中に、表中層性の魚類が逃避できる空間を形成してしまい、上記のような表中層性の魚類の逃避が発生してしまうと、正確な漁獲(サンプリング)ができず、間違った結果(資源量が少ない、過小評価される)が導かれることになる。
【0009】
一方、魚類の逃避できる空間は、従来の底びき網や船びき網においても改善されないが、従来の底びき網や船びき網が捕獲対象とする魚類の遊泳速度が遅い。このため、仮に揚網を行うために曳網速度を遅くして、
図8(A)に示す網地パネル211の吹かれ量が大きくて魚類が逃避できる空間212Dがあっても、遊泳速度が遅い魚類が逃避する前に揚網を完了することができる。従って、魚類の逃避を抑制する(空間を無くす)必要がなかった。すなわち、逃避する前にトロール網が全て揚網されるため遊泳速度が遅い魚類は逃避できる時間はない。この意味合いは、
図8(C)に示す漏斗状のフラッパー221を用いる場合も同様である。
【0010】
そこで、本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、表中層性魚類を捕獲対象とする場合に、一度、入網した魚類が曳網速度を低下させた際にトロール網の外に逃避する(逆出)ことを防ぐことができる表中層トロール網におけるフラッパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するための本発明の第1の態様の表中層トロール網におけるフラッパーは、表中層トロール網の網体内に設けられ、前記網体に入網した魚類の逃避を制約するフラッパーであって、前記網体の内部を閉じるように配置され、前記網体の内部において前記魚類を通して入網させるための通過空間を開閉する網地体を備え、前記網地体は、前記表中層トロール網を所定の曳網速度よりも遅い曳網速度で曳網する際に、前記網地体を下げて前記通過空間を閉鎖する錘を備えていることを特徴とする。
【0012】
このように形成した本発明によれば、錘は、所定の曳網速度よりも遅い曳網速度で曳網されている時に、錘の沈力により、網地体を網体の内側に即座に接触した状態に保持して、通過空間を即座に閉じることができる。従って、既に入網した遊泳速度の速い表中層の魚類が逃避できるルート(空間)を閉鎖して、魚類が逃避するのを確実に防ぐことができる。これにより、入網した魚類が曳網速度を低下させた際には、トロール網の外に逃避する(逆出)ことを防げることができる。
【0013】
本発明の第2の態様の表中層トロール網におけるフラッパーは、前記表中層トロール網を所定の曳網速度で曳網する際に、前記網地体が吹かれて前記通過空間が大きくなるのを制約する制約手段を備えていることを特徴とする。
【0014】
このように形成した本発明によれば、制約手段は、表中層トロール網の網体が表中層トロールを行う際の速い所定の曳網速度で曳網されても、海水の流れにより必要以上に網地体が浮き上がる量である吹かれ量を、制約することができる。これにより、制約手段は、漁獲対象である表中層性の魚類が通過する通過空間が大きくなりすぎず、表中層トロール網を曳網する動作を安定させて、漁獲を目的とした通常の表中層トロール漁法の操業における漁獲率の向上を図ることができる。
【0015】
本発明の第3の態様の表中層トロール網におけるフラッパーは、前記網地体を第1網地体として、前記第1網地体とは別の第2網地体を前記網体面の内部に備え、前記第2網地体は、前記第1網地体の付近に配置され、前記第2網地体は、前記表中層トロール網を前記所定の曳網速度よりも遅い曳網速度で曳網する際に、前記第2網地体を移動して前記通過空間を閉鎖する浮体を有していることを特徴とする。
【0016】
このように形成した本発明によれば、表中層トロール網は、第1網地体とは別の第2網地体を備え、第2網地体は、第1網地体の付近に配置されている。第2網地体は、浮体を有し、浮体は、表中層トロール網を用いて表中層トロールを行う際の所定の曳網速度よりも遅い曳網速度で曳網する際に、第2網地体を移動して通過空間を閉鎖する浮体を有する。これにより、曳網速度を低下させた際には、第1網地体と第2網地体とを用いて、2重に通過空間を閉塞できるので、入網した魚類が、曳網速度を低下させた際に、トロール網の外に逃避する(逆出)ことを、さらに確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の表中層トロール網におけるフラッパーによれば、表中層性魚類を捕獲対象とする場合に、入網した魚類が曳網速度を低下させた際にトロール網の外に逃避する(逆出)ことを防げる表中層トロール網におけるフラッパーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の表中層トロール網におけるフラッパーの実施形態を示す斜視図
【
図2】表中層トロール網の好ましい構造例の静止展開状態を示す側断面図
【
図3】表中層トロール網体が、表中層トロールを行う際の所定の速い曳網速度で曳網方向Dに曳網されている様子の例を示す側断面図
【
図4】表中層トロール網の網体が、所定の速い曳網速度よりも遅い曳網速度で曳網方向Dに曳網されている様子を示す側断面図
【
図5】従来のトロール網に用いられるフラッパーを示す斜視図
【
図6】(A)は従来の底びき網のフラッパーを示す側断面図、(B)は斜視図、(C)はフラッパーの変形状態を示す正面図
【
図7】(A)は他の従来の船びき網のフラッパーを示す側断面図、(B)は斜視図
【
図8】(A)は
図6に示す従来のフラッパーの変形状態を示す側断面図、(B)はフラッパーの変形状体を示す正面図、(C)は
図7に示す従来のフラッパーからの魚の逃避状態を示す側断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。
【0020】
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な具体例である。本発明の範囲は、本発明を限定する旨の記載がない限り、本実施形態に限定されない。
【0021】
(実施形態)
図1は、本発明の表中層トロール網におけるフラッパーの実施形態を、漁船Sに適用した例を示す斜視図である。
【0022】
一般に、表中層トロール漁法は、漁船Sから繰出した左右のワープに直接または拡網器具を介して表中層トロール網の左右前端部を接続した状態で、漁船Sを所定の速い曳網速度で曳網方向に航行させて表中層トロール網を曳網する。
【0023】
近年においては、表中層トロール漁法は単なる魚の漁獲目的のみならず、水産資源調査目的の魚類等の採集のためにも使用されている。この水産資源調査においては、魚類等の定量採集を行って、採集データの精度の向上を図ることが要望されている。そのためには、表中層トロール網の開口部の形状(開口面積)を一定にして曳網することが必要である。このように、開口部の形状を一定にして曳網することは、漁獲を目的とした通常の表中層トロール漁法の操業における漁獲率の向上のためにも有効である。
【0024】
(トロールウインチ100)
図1に示すように、漁船Sの甲板Tには、トロールウインチ100が設置されている。トロールウインチ100は、左右のドラム101,102を有する。トロールウインチ100の左右のドラム101,102は、例えば駆動源である油圧ポンプから供給される油圧により、独立して回転制御して駆動される。油圧ポンプは、電動機等により回転駆動される。
【0025】
(表中層トロール網1の全体構成)
図2は、表中層トロール網1の好ましい構造例の静止展開状態を示しており、
図3は、表中層トロール網1が所定の速い曳網速度で曳網方向Dに曳網されている様子の例を示している。この表中層トロール網1は、遊泳速度が速い表中層性魚類(サバ、アジ、など)を漁獲対象としている。
図1に示す漁船Sによる表中層トロール網1の曳網速度は、従来の操業の際の曳網速度と比較して4~6ノットと速い。
【0026】
図1に示すように、表中層トロール網1は、表中層性魚類を入網させるための網体2を漁船Sから左右1対のワープ3R、3Lと、左右1対のオッターボード5R、5L等をもって曳網される。オッターボード5R、5Lは、表中層トロール網1を曳網する際に、網体2の開口部6の形状を拡げて保持して、網体2の開口面積を確保する。これにより、漁獲を目的とした通常の表中層トロール漁法の操業における漁獲率の向上を図る。
【0027】
ワープ3R、3Lの一端部側は、各オッターボード5R、5Lに連結されている。ワープ3R、3Lの他端部は、トロールウインチ100のドラム101,102に対して、それぞれ巻き付けられている。トロールウインチ100は、図示しない制御部の指令により、表中層トロール網1の曳網状況に応じて、ドラム101,102の運転状態を調整することで、ワープ3R、3Lに作用する張力をほぼ同等に保持する。これにより、表中層トロール網1を曳網する動作を安定させて、漁獲を目的とした通常の表中層トロール漁法の操業における漁獲率の向上を図る。
【0028】
(フラッパー10の構成)
フラッパー10は、返しともいい、網体2の内部に配置されており、フラッパー10を越えて網体2内に漁獲された目的とする漁獲物が網体2から逃避するのを防止するように、網状の部材により作られている。フラッパー10は、
図1と
図2に示すように、第1網地体11と、第2網地体12と、を有する。第1網地体11は、表中層トロール網1の曳網方向Dに関して前側の位置に配置され、第2網地体12は、表中層トロール網1の曳網方向Dに関して後側の位置であって、第1網地体11の後側に配置されている。第1網地体11と第2網地体12は、それぞれ網体2の左右幅全体に亘る横幅を有しており、曳網方向Dに対して交差する方向、例えば直交する方向に、配置されている。
【0029】
(第1網地体11)
まず、第1網地体11について説明する。
【0030】
図1と
図2に示す第1網地体11は、曳網方向Dに関して前流側に位置されており、それぞれ長方形状の上網地部分21と下網地部分22とを有する。上網地部分21の上縁部23U、左右側縁部23R、23Lは、それぞれ網体2の内側に連結固定されている。上網地部分21の下縁部24は網体2の底部から所定高さの中空位置となるように形成されている。下網地部分22は上縁部25のみが上網地部分21の下縁部24に連結固定されており、その他の左右縁部26R、26Lおよび下縁部26Dは自由状体に形成されている。下網地部分22の大きさは上網地部分21の下縁部24と網体2との間に形成されている開口部である通過空間30を全閉可能な大きさとされている。下網地部分22の下縁部26Dには、通過空間30を全閉とする沈力を下網地部分22に付与する重錘(ウエイト)27が固定されている。重錘27は、好ましくは海水により腐食しにくい材質である金属素材で作られている。
【0031】
図2に示す網体2は、まだ曳網方向Dには引っ張っていない静止状態の展開状態を示している。この静止状態では、下網地部分22は、曳網に伴って発生する海水の圧力を受けていないので、重錘27の重量の沈力によって上網地部分21の下縁部24から鉛直方向に垂れ下がって表中層性の魚類Fが通過するための通過空間30を全閉とさせている。
【0032】
さらに、
図2に示すように、上網地部分21の下縁部24と、網体2の底面との間には、上網地部分21の吹かれ量を制約する制約手段としての制約ロープ31が設けられている。すなわち、制約ロープ31は中央部と両方の側部とを有している。当該中央部は上網地部分21の下縁部24の全長に亘る長さを有していて下縁部24に固定されている。中央部の両端部からそれぞれ伸びる両方の側部は、その先端を網体2の底面に固定されている。この制約ロープ31は、
図3に例示するように、表中層トロール網1の網体2が速い曳網速度で曳網方向Dに曳網された場合に、第1網地体11の網地部分21が、海水の流れにより必要以上にY方向(曳網方向Dの下流側方向)に浮き上がる量である吹かれ量を制約する役目を果たす。
【0033】
これにより、制約ロープ31は、漁獲対象である表中層性の魚類Fが通過する通過空間30が大きくなりすぎないようにして、適正な通過空間30の開口面積を確保する。従って、表中層トロール網1を曳網する動作を安定させて、漁獲を目的とした通常の表中層トロール漁法の操業における漁獲率の向上を図ることができる。
【0034】
図4は、表中層トロール網1の網体2が、遅い曳網速度で曳網方向Dに曳網されている様子を示している。このように曳網速度を低下させる理由は、
図1に示す漁船Sの甲板T側へ表中層トロール網1の網体2を揚網(巻き揚げる)するために、表中層トロール網1の網体2の流体抵抗を減じる必要があるからである。
【0035】
図2に示す重錘27は、
図4に例示するように、網体2が遅い曳網速度で曳網方向Dに曳網されている時には、海水の流れが小さくなって表中層トロール網1の網体2の流体抵抗が小さくなるので、下網地部分22が、重錘27の沈力により矢印Y1方向に沿って沈められる。従って、下網地部分22と重錘27は、網体2の内側に即座に接触した状態を保持する。これにより、重錘27は、遅い曳網速度になった時には、通過空間30を即座に閉じて、既に入網した表中層性の魚類F1が逃避できるルート(空間)を閉鎖して、漁獲対象である表中層性の魚類F1が通過空間30から外部に逃避するのを確実に防ぐことができる。
【0036】
このように、第1網地体11は、網体2の内部を開閉するように配置され、網体2の内部において表中層性の魚類Fを通して入網させるための通過空間30を開閉する。
【0037】
(第2網地体12)
次に、第2網地体12について説明する。
【0038】
図1と
図2に示す第2網地体12の下縁部41は、網体2の内側であって、第1網地体11の後流側で通過空間30に近い位置に連結されている。第2網地体12の上縁部42には、第2網地体12に浮力を付与する浮体(フロート)43が設けられている。この浮体43は、例えばポリエチレンの様な軽量なプラスチック等により作られている。
【0039】
図2に例示するように、網体2をまだ曳網方向Dには引っ張っていない状態では、第1網地体11の下網地部分22は重錘27を網体2の底面に当接させて通過空間30を閉鎖しており、第2網地体12は浮体43によって上縁部42を持ち上げた状態に保持されている。次に、
図3に例示するように、漁獲するために網体2を曳網方向Dに速い曳網速度で引っ張っている状態では、一方の第1網地体11の下網地部分22は速い海水流によって重錘27の重力に抗して上縁部25を支点として後方上部方向に持ち上げられて行き、他方の第2網地体12は速い海水流によって浮体43の浮力に抗して下縁部41を支点として後に倒されて行き、第1網地体11の下網地部分22とほぼ平行になっている。しかし、網体2が遅い曳網速度で曳網方向Dに曳網されている場合には、
図4に示すように、第2網地体12は、浮体43の浮力により、矢印Y2方向に浮くことで、通過空間30を閉じることができるようになっている。
【0040】
このように、表中層トロール網1は、第1網地体11とは別の第2網地体12を備え、第2網地体12は、第1網地体11の付近に配置されている。第2網地体12の浮体43は、表中層トロール網1を所定の曳網速度よりも遅い曳網速度で曳網する際に、第2網地体12を移動して通過空間30を閉鎖する機能を有する。
【0041】
(表中層トロール網1の使用例)
次に、上述した構成を有する表中層トロール網1の使用例を説明する。
【0042】
図1に示す漁船Sから海中に投網されたが表中層トロール網1は船速が上昇するに従って次第に拡網されてゆき、
図2に示す表中層トロール網1の好ましい構造例の静止展開状態を経由して変化する。
図2においては、第1網地体11の下網地部分22は重錘27を網体2の底面に当接させて通過空間30を閉鎖しており、第2網地体12は浮体43によって上縁部42を持ち上げた状態に保持されている。この状態においては、表中層性の魚類Fが通過するための通過空間30が全閉とされている。
【0043】
漁船Sが、更に速い曳網速度で網体2を曳網方向Dに曳網すると、表中層トロール網1は表中層に位置されるとともにフラッパー10の第1網地体11と第2網地体12は、流速によって
図2の状態から
図3の状態に移行する。すなわち、一方の第1網地体11は、上網地部分21が後方に膨らむように変形し、下網地部分22が上網地部分21の下縁部24に固定されている上縁部25を支点として重錘27の沈力に抗して全体が斜め後方の上方に持ち上げられて行き、通過空間30が次第に開放されて行く。他方の第2網地体12は網体2の底部に固定されている下縁部41を支点として浮体43の浮力に抗して全体が斜め後方の下方に後倒しにされて行き、通過空間30が次第に開放されて行く。
図3は第1網地体11と第2網地体12とがほぼ平行になって通過空間30を開放している状態を示している。
【0044】
このようにして通過空間30が開放されると表中層の魚類F(サバ、アジ、など)が通過空間30を通して網体2の奥部に漁獲されて行く。
【0045】
この際に、制約ロープ31は、
図3に示すように、表中層トロール網1の網体2が速い曳網速度で曳網方向Dに曳網されても、海水の流れにより上網地部分21が必要以上にY方向に浮き上がる量である吹かれ量を、制約する。
【0046】
これにより、制約ロープ31は、魚類Fが通過する通過空間30が大きくなりすぎずに、表中層性の魚類Fを通過させるための適切な通過空間30の大きさを確保することで、表中層性の魚類Fは、通過空間30を通じてスムーズに入網できる。これにより、表中層トロール網1は、遊泳速度が速い表中層性魚類を、適確に漁獲することができる。
【0047】
従って、表中層トロール網1のフラッパー10は、遊泳速度が速い表中層性魚類の入網を阻害しない。本発明の実施形態の表中層トロール網1におけるフラッパー10を用いることで、単なる魚の漁獲目的のみならず、水産資源調査目的の魚類等の採集ができる。この水産資源調査においては、表中層トロール網1におけるフラッパー10は、魚類等の定量採集を行って採集データの精度の向上を図ることができる。
【0048】
一方、
図1に示す漁船Sの甲板T側へ表中層トロール網1の網体2を揚網(巻き揚げる)するために、
図1に示す漁船Sによる網体2の曳網速度が遅くなると、海水の流れが小さくなることから、既に入網した表中層性の魚類、特に遊泳速度が速い表中層性の魚類F1が網体2内から通過空間30を通じて逃避しないようにしなければならない。
【0049】
漁船Sによる網体2の曳網速度が遅くなると、フラッパー10の第1網地体11と第2網地体12は、
図3の状態から
図4の状態になる。すなわち、
図3に示す重錘27と下網地部分22は、
図4に例示するように、網体2が遅い曳網速度で曳網方向Dに曳網されている時に、下網地部分22の下縁部26側が、重錘27の沈力により矢印Y1方向に沿って沈むことにより、網体2の内側に即座に接触した状態を保持する。これにより、重錘27と下網地部分22は、遅い曳網速度になった時に、通過空間30を即座に閉じて、既に入網した表中層性の魚類F1が逃避できるルート(空間)を閉鎖して、表中層性の魚類F1が逃避するのを確実に防ぐ。
【0050】
しかも、網体2が遅い曳網速度で曳網方向Dに曳網されている場合には、第2網地体12は、浮体43の浮力により、矢印Y2方向に浮くことで、通過空間30を閉じることができる。このように、通過空間30は、重錘27と下網地部分22と、第2網地体12と浮体43とにより、2重の遮蔽構造を用いて閉じることができる。このため、既に入網した表中層性の魚類、特に遊泳速度が速い表中層性の魚類F1が網体2内から通過空間30を通じて外部に逃避しない。従って、水産資源調査においては、表中層トロール網1におけるフラッパー10は、表中層性の魚類等の定量採集を行って、さらに採集データの精度の向上を図ることができる。
【0051】
本発明は、上記実施形態に限定されず、必要に応じて種々の変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0052】
1 表中層トロール網
2 網体
3R、3L ワープ
5 オッターボード
6 開口部
10 フラッパー
21 上網地部分
22 下網地部分
27 重錘(錘の例)
30 通過空間
31 制約ロープ(制約手段の例)
43 浮体
S 漁船
T 甲板
F 表中層性の魚類
F1 入網された表中層性の魚類