(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/28 20230101AFI20230412BHJP
【FI】
C02F1/28 L
(21)【出願番号】P 2019227478
(22)【出願日】2019-12-17
【審査請求日】2022-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 耕大
(72)【発明者】
【氏名】池田 俊一
(72)【発明者】
【氏名】冨田 麻未
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-194335(JP,A)
【文献】特開2019-198826(JP,A)
【文献】特開2018-130677(JP,A)
【文献】特開2006-314957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/28
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素イオン濃度が60mg/L以上の被処理水をフッ素吸着剤が充填された吸着塔に導入し、被処理水中のフッ素イオンの少なくとも一部が除去された第1処理水を得る第1吸着工程と、
前記第1処理水をフッ素吸着剤が充填された吸着塔に導入し、第1処理水中のフッ素イオンの少なくとも一部が除去された第2処理水を得る第2吸着工程とを有し、
前記第2吸着工程において吸着塔に導入する第1処理水のpHが、前記第1吸着工程において吸着塔に導入する被処理水のpHよりも高いことを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
前記被処理水の硫酸イオン濃度が8,000mg/L以上である請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記第2吸着工程において吸着塔に導入する第1処理水のpHが、前記第1吸着工程において吸着塔に導入する被処理水のpHよりも0.1以上高い請求項1または2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記第1吸着工程において吸着塔に導入する被処理水のpHが2.6以上3.4以下であり、
前記第2吸着工程において吸着塔に導入する第1処理水のpHが2.8以上3.6以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記フッ素吸着剤がセリウム系吸着剤である請求項1~4のいずれか一項に記載の水処理方法。
【請求項6】
前記吸着塔として第1吸着塔と第2吸着塔が設けられ、第1吸着塔で前記第1吸着工程を行い、第2吸着塔で前記第2吸着工程を行う請求項1~5のいずれか一項に記載の水処理方法。
【請求項7】
前記第1吸着工程または前記第2吸着工程の後に、前記吸着塔にアルカリ溶液を導入し、前記フッ素吸着剤からフッ素イオンを脱着させる脱着工程と、
前記脱着工程の後に、前記吸着塔に酸溶液を導入する酸処理工程とをさらに有する請求項1~6のいずれか一項に記載の水処理方法。
【請求項8】
前記吸着塔として第1吸着塔と第2吸着塔が設けられ、下記(1)~(4)のステージを順に繰り返し行うことで、第1吸着塔と第2吸着塔で各工程を行う請求項7に記載の水処理方法。
(1)第1吸着塔と第2吸着塔をこの順で直列接続し、被処理水を第1吸着塔と第2吸着塔に順次導入して、第1吸着塔で第1吸着工程を行い、第2吸着塔で第2吸着工程を行う。
(2)脱着工程と酸処理工程を第1吸着塔で行うとともに、第2吸着塔に被処理水を導入して吸着工程を行う。
(3)第2吸着塔と第1吸着塔をこの順で直列接続し、被処理水を第2吸着塔と第1吸着塔に順次導入して、第2吸着塔で第1吸着工程を行い、第1吸着塔で第2吸着工程を行う。
(4)脱着工程と酸処理工程を第2吸着塔で行うとともに、第1吸着塔に被処理水を導入して吸着工程を行う。
【請求項9】
前記被処理水が、排煙脱硫設備から排出される排煙脱硫排水である請求項1~8のいずれか一項に記載の水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素イオンを含有する被処理水をフッ素吸着剤により処理する水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フッ素イオンを含有する被処理水を処理する方法として、フッ素吸着剤を用いる方法が知られている。例えば特許文献1には、フッ素含有水をカルシウム化合物と反応させてフッ化カルシウムに変換して固液分離した後、分離液をフッ素吸着剤と接触させる処理方法が開示されている。特許文献2には、フッ素含有水を低濃度フッ素含有水と高濃度フッ素含有水に分別する工程、低濃度フッ素含有水にカルシウム化合物を添加後固液分離し、分離液をフッ素吸着剤と接触させる工程、フッ素吸着剤を再生処理する工程、および、高濃度フッ素含有水にフッ素吸着剤の再生廃液を添加した後、炭酸カルシウム結晶種充填槽に通液する工程を有するフッ素含有水の処理方法が開示されている。特許文献3には、フッ素吸着剤が充填された吸着塔にフッ素含有被処理水を通水し、フッ素が低減された処理水を生じさせる水中のフッ素除去方法において、吸着塔でフッ素を吸着除去して生じるフッ素が低減された処理水を、フッ素含有被処理水と混合することにより、吸着塔入口におけるフッ素含有被処理水のフッ素濃度を15mg/L以下に調整する水中のフッ素除去方法が開示されている。
【0003】
特許文献1~3に開示される方法では、比較的フッ素イオン濃度が低い被処理水をフッ素吸着剤と接触させて、フッ素イオンを吸着除去している。例えば、フッ素イオン濃度が高い被処理水をカルシウム化合物と反応させてフッ素イオンの一部を不溶化したり、被処理水を希釈してフッ素イオン濃度を下げた後に、フッ素吸着剤と接触させてフッ素イオンの除去を行っている。このような処理が行われる理由としては、カルシウム化合物等による凝集沈殿や共沈による処理と比べて、吸着剤を用いればより高度にフッ素イオンを除去できることや、フッ素イオン濃度が高い被処理水を凝集沈殿や共沈等の前処理を経ずにいきなり吸着剤と接触させると、十分にフッ素濃度が低減された処理水を安定して得ることが難しいことが挙げられる。
【0004】
一方、本出願人は、フッ素イオンを高濃度に含む被処理水をフッ素吸着剤と接触させて処理する方法をこれまで検討している。特許文献4には、フッ素イオン、マグネシウムイオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水をフッ素吸着剤と接触させて、被処理水中のフッ素イオンの少なくとも一部を除去する吸着工程を有し、被処理水のフッ素イオン濃度が50mg/L以上、マグネシウムイオンと硫酸イオンの合計濃度が10,000mg/L以上である水処理方法が開示されている。特許文献5には、フッ素イオンと硫酸イオンを含有する被処理水をフッ素吸着剤が充填された吸着塔に導入し、被処理水中のフッ素イオンの少なくとも一部が除去された処理水を得る吸着工程と、吸着塔の前段で、処理水の一部を被処理水に加える返送工程とを有し、被処理水の硫酸イオン濃度が8,000mg/L以上である水処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-92187号公報
【文献】特開平5-253575号公報
【文献】特開2006-314957号公報
【文献】特開2018-130677号公報
【文献】特開2019-198826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フッ素イオンを高濃度に含む被処理水をフッ素吸着剤と接触させて処理する場合、被処理水をフッ素吸着剤が充填された吸着塔に多段に導入することで、被処理水中のフッ素イオンを高度に除去することができる。このようにフッ素イオンを高濃度に含む被処理水を多段で吸着処理する場合、フッ素イオン除去の観点からは、各吸着工程でのフッ素除去率をできるだけ高めることが望ましいが、一方で処理費用を低減する観点からは、フッ素吸着剤の劣化を抑えて、できるだけ長期にわたりフッ素吸着剤を使用できることが望ましい。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、フッ素イオンを高濃度に含む被処理水を多段で吸着塔に導入して処理する方法であって、フッ素吸着剤によって安定してフッ素イオンを吸着除去することができるとともに、フッ素吸着剤の劣化をできるだけ抑えることができる水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決することができた本発明の水処理方法とは、フッ素イオン濃度が60mg/L以上の被処理水をフッ素吸着剤が充填された吸着塔に導入し、被処理水中のフッ素イオンの少なくとも一部が除去された第1処理水を得る第1吸着工程と、第1処理水をフッ素吸着剤が充填された吸着塔に導入し、第1処理水中のフッ素イオンの少なくとも一部が除去された第2処理水を得る第2吸着工程とを有する水処理方法であって、第2吸着工程において吸着塔に導入する第1処理水のpHが、第1吸着工程において吸着塔に導入する被処理水のpHよりも高いところに特徴を有する。
【0009】
本発明の水処理方法によれば、フッ素イオンを高濃度に含む被処理水を多段で吸着塔に導入して処理することにより、被処理水中のフッ素イオンを高度に除去することが可能となる。この際、第1吸着工程において吸着塔に導入する被処理水のpHを、第2吸着工程において吸着塔に導入する第1処理水のpHよりも低くすることにより、第1吸着工程におけるフッ素イオン除去率を高めることができ、その後の第2吸着工程でフッ素イオンが高度に除去された処理水を安定して得ることができる。一方、第2吸着工程では、第1吸着工程よりもpHを高くすることで、フッ素吸着剤の劣化を抑えることができ、フッ素吸着剤の長寿命化を図ることができる。
【0010】
被処理水の硫酸イオン濃度は8,000mg/L以上であることが好ましい。被処理水にフッ素イオンとともに硫酸イオンが高濃度に含まれていれば、硫酸イオンがpH緩衝剤として作用し、フッ素イオンを安定して吸着除去することができる。
【0011】
第2吸着工程において吸着塔に導入する第1処理水のpHは、第1吸着工程において吸着塔に導入する被処理水のpHよりも0.1以上高いことが好ましい。また、第1吸着工程において吸着塔に導入する被処理水のpHが2.6以上3.4以下であり、第2吸着工程において吸着塔に導入する第1処理水のpHが2.8以上3.6以下であることが好ましい。フッ素吸着剤としては、セリウム系吸着剤を用いることが好ましい。
【0012】
本発明の水処理方法では、吸着塔として第1吸着塔と第2吸着塔が設けられ、第1吸着塔で第1吸着工程を行い、第2吸着塔で第2吸着工程を行うことが好ましい。また、第1吸着工程または第2吸着工程の後に、吸着塔にアルカリ溶液を導入し、フッ素吸着剤からフッ素イオンを脱着させる脱着工程と、脱着工程の後に、吸着塔に酸溶液を導入する酸処理工程とをさらに設けることが好ましい。
【0013】
本発明の水処理方法は、吸着塔として第1吸着塔と第2吸着塔が設けられ、下記(1)~(4)のステージを順に繰り返し行うことで、第1吸着塔と第2吸着塔で各工程を行うものであってもよい。これにより、被処理水の連続的な吸着処理が可能となる。
(1)第1吸着塔と第2吸着塔をこの順で直列接続し、被処理水を第1吸着塔と第2吸着塔に順次導入して、第1吸着塔で第1吸着工程を行い、第2吸着塔で第2吸着工程を行う。
(2)脱着工程と酸処理工程を第1吸着塔で行うとともに、第2吸着塔に被処理水を導入して吸着工程を行う。
(3)第2吸着塔と第1吸着塔をこの順で直列接続し、被処理水を第2吸着塔と第1吸着塔に順次導入して、第2吸着塔で第1吸着工程を行い、第1吸着塔で第2吸着工程を行う。
(4)脱着工程と酸処理工程を第2吸着塔で行うとともに、第1吸着塔に被処理水を導入して吸着工程を行う。
【0014】
フッ素イオンを高濃度に含有する被処理水としては、排煙脱硫設備から排出される排煙脱硫排水を用いることが好ましい。特に、石炭火力発電所やコークス工場や製鉄工場等の排煙脱硫排水を用いれば、被処理水にフッ素イオンとともに硫酸イオンも高濃度に含まれるため、フッ素吸着剤によるフッ素イオンの吸着除去を安定して行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水処理方法によれば、第1吸着工程において吸着塔に導入する被処理水のpHを、第2吸着工程において吸着塔に導入する第1処理水のpHよりも低くすることにより、第1吸着工程におけるフッ素イオン除去率を高めることができ、その後の第2吸着工程でフッ素イオンが高度に除去された処理水を安定して得ることができる。一方、第2吸着工程では、第1吸着工程よりもpHを高くすることで、フッ素吸着剤の劣化を抑えることができ、フッ素吸着剤の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の水処理方法で用いられる水処理システムの構成例を表す。
【
図2】本発明の水処理方法で用いられる水処理システムの構成例を表す。
【
図3】フッ素イオン濃度が100mg/Lの被処理水を吸着塔1塔によりバッチ処理を行ったときの処理水のフッ素イオン濃度とセリウム濃度の結果を表す。
【
図4】フッ素イオン濃度が50mg/Lの被処理水を吸着塔1塔によりバッチ処理を行ったときの処理水のフッ素イオン濃度とセリウム濃度の結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の水処理方法は、フッ素イオン濃度が60mg/L以上の被処理水をフッ素吸着剤が充填された吸着塔に導入し、被処理水中のフッ素イオンの少なくとも一部が除去された第1処理水を得る第1吸着工程と、第1処理水をフッ素吸着剤が充填された吸着塔に導入し、第1処理水中のフッ素イオンの少なくとも一部が除去された第2処理水を得る第2吸着工程とを有する水処理方法であって、第2吸着工程において吸着塔に導入する第1処理水のpHが、第1吸着工程において吸着塔に導入する被処理水のpHよりも高いものである。本発明の水処理方法によれば、フッ素イオンを高濃度に含む被処理水を多段で吸着塔に導入して処理することにより、被処理水中のフッ素イオンを高度に除去することができる。この際、第1吸着工程において吸着塔に導入する被処理水のpHを、第2吸着工程において吸着塔に導入する第1処理水のpHよりも低くすることにより、第1吸着工程におけるフッ素イオン除去率を高めることができる。一方、第2吸着工程では、第1吸着工程よりもpHを高くすることで、フッ素吸着剤の劣化を抑えることができ、フッ素吸着剤の長寿命化を図ることができる。
【0018】
第1吸着工程において吸着塔に導入される被処理水のフッ素イオン濃度は60mg/L以上であれば特に限定されないが、本発明の効果がより奏効される点から、70mg/L以上が好ましく、80mg/L以上がより好ましく、90mg/L以上がさらに好ましい。本発明によれば、このような高いフッ素イオン濃度の被処理水であっても、高度にフッ素イオンを吸着除去することができる。一方、被処理水のフッ素イオン濃度の上限は、安定してフッ素濃度の低い処理水を得る点から、150mg/L以下が好ましく、135mg/L以下がより好ましく、120mg/L以下がさらに好ましい。フッ素イオン濃度は、イオンクロマトグラフィー等により求めることができる。
【0019】
被処理水はフッ素イオン以外の成分を含有していてもよく、例えば硫酸イオンを含有していてもよい。フッ素イオンを比較的高濃度に含む被処理水としては、石炭火力発電所やコークス工場や製鉄工場等の排煙脱硫排水が挙げられるが、この場合、被処理水にはフッ素イオンとともに硫酸イオンも高濃度に含まれることとなる。被処理水にフッ素イオンとともに硫酸イオンも高濃度に含まれていれば、硫酸イオンがpH緩衝剤として作用し、フッ素吸着剤によるフッ素イオンの吸着除去を安定して行うことが可能になる。
【0020】
フッ素吸着剤により被処理水のフッ素吸着処理を行う場合、フッ素イオンはフッ素吸着剤の吸着サイトでイオン交換されることにより、被処理水からフッ素イオンが除去される。この際、被処理水は、フッ素吸着剤とのイオン交換反応によりpHが変動しやすくなる。一方、フッ素吸着剤にはフッ素イオンの吸着除去に適したpH範囲が存在し、被処理水のpHが変動すると、当該至適pH範囲から外れてフッ素イオンが十分に吸着除去されにくくなる。このようなpH変動は、被処理水のフッ素イオン濃度が高くなるほど、フッ素吸着剤とのイオン交換量が増えるため、顕著に現れるようになる。しかしながら、被処理水中にフッ素イオンとともに硫酸イオンも高濃度に含まれていれば、硫酸イオンの緩衝作用によって被処理水のpHの変動が抑えられ、第1吸着工程においてフッ素イオンを安定して吸着除去することが可能となる。
【0021】
第1吸着工程において吸着塔に導入される被処理水の硫酸イオン濃度は、硫酸イオンによるpH緩衝作用がより奏効されるようにする点から、8,000mg/L以上が好ましく、10,000mg/L以上がより好ましい。被処理水の硫酸イオン濃度はこれより高くてもよく、例えば15,000mg/L以上、20,000mg/L以上、25,000mg/L以上、または30,000mg/L以上であってもよい。被処理水の硫酸イオン濃度の上限は特に限定されないが、例えば150,000mg/L以下であってもよく、100,000mg/L以下、80,000mg/L以下、または65,000mg/L以下であってもよい。硫酸イオン濃度は、遊離イオンの形態のみならず塩形成している形態も含む濃度を意味し、硫酸イオン濃度はイオンクロマトグラフィー等により求めることができる。
【0022】
なお、第1吸着工程において被処理水中の硫酸イオン濃度と第1処理水中の硫酸イオン濃度は大きく変わらないため、被処理水に硫酸イオンが高濃度に含まれていれば、第1処理水にも硫酸イオン濃度が高濃度に含まれることとなり、第2吸着工程においても硫酸イオンによるpH緩衝作用が期待できる。そのため、第2吸着工程においても、フッ素吸着剤によるフッ素イオンの吸着除去を安定して行うことが可能になる。
【0023】
第1吸着工程において吸着塔に導入される被処理水は、マグネシウムイオンやナトリウムイオン等を含有していてもよい。被処理水が石炭火力発電所やコークス工場や製鉄工場等の排煙脱硫排水を含む場合は、マグネシウムイオンやナトリウムイオンも被処理水中に含まれうる。石炭火力発電所やコークス工場や製鉄工場等では、石炭やコークスを燃焼させることにより発生した排ガスを排煙脱硫装置により脱硫処理を行うと、硫酸イオンとフッ素イオンとともに脱硫剤に由来する成分を高濃度に含む排煙脱硫排水が発生する。排煙脱硫装置における脱硫方法としては、水酸化カルシウムや水酸化マグネシウムや水酸化ナトリウムを用いて湿式処理する方法が知られているが、脱硫剤として水酸化マグネシウムや水酸化ナトリウムを用いると、フッ素イオンや硫酸イオンとともにマグネシウムイオンやナトリウムイオンを含む排煙脱硫排水が発生する。
【0024】
排煙脱硫排水が脱硫剤として水酸化マグネシウムを用いたものである場合は、被処理水中のマグネシウムイオンと硫酸イオンの含有比は、例えばマグネシウムイオン/硫酸イオンのモル比で2/8~8/2の範囲が好ましく、3/7~7/3の範囲がより好ましく、4/6~6/4の範囲がさらに好ましい。排煙脱硫排水が脱硫剤として水酸化ナトリウムを用いたものである場合は、被処理水中のナトリウムイオンと硫酸イオンの含有比は、例えばナトリウムイオン/硫酸イオンのモル比で3/7~9/1の範囲が好ましく、4/6~8/2の範囲がより好ましく、5/5~7/3の範囲がさらに好ましい。なお、被処理水は、脱硫剤として水酸化マグネシウムを用いた排煙脱硫排水を含むことが好ましく、これにより吸着剤の長寿命化を図ることができ、例えば、吸着剤からフッ素の吸着に寄与する有効成分(金属成分)の流出を抑えやすくなる。
【0025】
フッ素吸着剤としては、フッ素イオンを吸着することができる公知の吸着剤を用いればよく、例えば、アルミナ系吸着剤、フェライト鉄系吸着剤、ジルコニウム系吸着剤、セリウム系吸着剤等を用いることができる。なかでも、高度にフッ素イオンを吸着除去できる吸着剤として、セリウム系吸着剤を用いることが好ましい。セリウム系吸着剤としては、酸化セリウム(CeO2)、特に含水酸化セリウム(CeO2・nH2O)を含む吸着剤が挙げられる。当該吸着剤は樹脂を含有し、酸化セリウムまたは含水酸化セリウムが樹脂によって固定化あるいは補強されていてもよい。
【0026】
第1吸着工程において吸着塔に導入する被処理水は、必要に応じて希釈してフッ素イオン濃度を所定範囲に調整してもよい。このときの希釈水としては、被処理水のフッ素イオン濃度を低減できるものであれば特に限定されず、水(例えば、工水や排出基準を満たした処理水等)を用いてもよいが、吸着工程で得られる処理水(例えば、第1吸着工程で得られる第1処理水や第2吸着工程で得られる第2処理水)を用いることが好ましい。吸着工程で得られる処理水を希釈水として用いることにより、被処理水に硫酸イオンが含まれる場合など、被処理水中の硫酸イオン濃度が大きく低減せず、硫酸イオンの緩衝作用の低下を抑えることができる。
【0027】
第1吸着工程において吸着塔に導入される被処理水は、吸着塔に導入するのに先立って、被処理水の酸化還元電位の調整を行ってもよい。例えば被処理水中に還元物質が多く含まれていると、フッ素吸着剤を構成する金属が溶出しやすくなるため、被処理水の酸化還元電位を所定値以上に調整することで、フッ素吸着剤からの金属の溶出を抑えることができる。そのような観点から、被処理水の酸化還元電位は600mV以上とすることが好ましく、700mV以上がより好ましい。一方、フッ素吸着剤に樹脂が含まれる場合などは、当該樹脂の劣化を抑制する観点から、被処理水の酸化還元電位は1000mV以下とすることが好ましく、950mV以下がより好ましい。被処理水の酸化還元電位を調整するための薬剤としては、次亜塩素酸ナトリウム等の塩素系酸化剤を用いることが簡便である。当該薬剤は、被処理水が吸着塔に導入される前段で、被処理水に供給されることが好ましい。
【0028】
本発明の水処理方法では、被処理水をフッ素吸着剤が充填された吸着塔に導入し、被処理水中のフッ素イオンの少なくとも一部が除去された第1処理水を得る第1吸着工程を行い、さらに、第1吸着工程で得られた第1処理水をフッ素吸着剤が充填された吸着塔に導入し、第1処理水中のフッ素イオンの少なくとも一部が除去された第2処理水を得る第2吸着工程を行う。被処理水または第1処理水を吸着塔に導入することにより、被処理水または第1処理水がフッ素吸着剤と接触して、被処理水または第1処理水中のフッ素イオンが吸着除去される。
【0029】
第1吸着工程と第2吸着工程において、被処理水または第1処理水は、吸着塔を上向流式で通液させてもよく、下向流式で通液させてもよい。このときの通液速度は、被処理水または第1処理水の性状やフッ素吸着剤の充填量などに応じて適宜設定すればよく、例えば空間速度(SV)として1hr-1~50hr-1の範囲で適宜調整すればよい。なお、吸着塔設備が過大にならないようにする観点から、空間速度(SV)は3hr-1以上が好ましく、5hr-1以上がより好ましく、8hr-1以上がさらに好ましく、12hr-1以上がさらにより好ましい。また、安定してフッ素イオン濃度が低減された処理水が得やすくなる観点から、空間速度(SV)は40hr-1以下が好ましく、30hr-1以下がより好ましく、25hr-1以下がさらに好ましい。
【0030】
第2吸着工程で使用する吸着塔は、第1吸着工程で使用する吸着塔と同一であってもよく、異なっていてもよい。第1吸着工程と第2吸着工程で同一の吸着塔を使用する場合は、バッチ式で処理が行われることとなる。この場合、被処理水を吸着塔に導入して得られた第1処理水を一旦タンクに貯留して、第1吸着工程の終了後、第1処理水を再び同じ吸着塔に導入して第2吸着工程を行い、第2処理水を得ることができる。第1吸着工程と第2吸着工程で異なる吸着塔を使用する場合は、連続式で処理を行うことができる。この場合、被処理水は第1吸着塔と第2吸着塔を用いた多段で処理されることとなる。第1吸着工程で被処理水を第1吸着塔に導入して第1処理水を得て、その後第2吸着工程で、第1処理水を第2吸着塔に導入して第2処理水を得ることができる。第1吸着塔に充填されるフッ素吸着剤と第2吸着塔に充填されるフッ素吸着剤は、同種のものであっても異種のものであってもよく、充填量も同じであっても異なっていてもよい。被処理水の効率的な処理が可能な点からは、第1吸着工程と第2吸着工程で異なる吸着塔を使用することが好ましい。従って、吸着塔として第1吸着塔と第2吸着塔を設け、第1吸着塔で第1吸着工程を行い、第2吸着塔で第2吸着工程を行うことが好ましい。あるいは、第2吸着塔で第1吸着工程を行い、第1吸着工程で第2吸着工程を行うこともできる。このとき、第1吸着塔と第2吸着塔は直列接続される形となる。また、第1吸着塔に充填されるフッ素吸着剤と第2吸着塔に充填されるフッ素吸着剤は、同種のものを使用することが好ましい。
【0031】
上記のように被処理水を第1吸着工程と第2吸着工程の多段で吸着処理することにより、被処理水に含まれるフッ素イオンを高度に除去することができる。例えば、第1吸着工程で被処理水中のフッ素イオンを大まかに除去した後、第2吸着工程では処理水のフッ素イオン濃度が目標値以下となるようにフッ素イオンを除去することができる。本発明では、このように高濃度にフッ素イオンを含む被処理水を第1吸着工程と第2吸着工程を含む多段で吸着処理する際に、第2吸着工程において吸着塔に導入する第1処理水のpHを、第1吸着工程において吸着塔に導入する被処理水のpHよりも高くしている。このように各吸着工程で吸着塔に導入する被処理水または第1処理水のpHを設定することにより、フッ素イオンの吸着除去性能を高めることができるとともに、フッ素吸着剤の劣化、例えば吸着剤からフッ素の吸着に寄与する有効成分(金属成分)の流出を抑えて、フッ素吸着剤の長寿命化を図ることができる。
【0032】
上記の効果がより奏されるようにする点から、第2吸着工程において吸着塔に導入する第1処理水のpHは、第1吸着工程において吸着塔に導入する被処理水のpHよりも0.1以上高いことが好ましく、0.2以上高くてもよい。一方、第2吸着工程において吸着塔に導入する第1処理水のpHと第1吸着工程において吸着塔に導入する被処理水のpHとの差は、0.8以下であることが好ましく、0.6以下がより好ましく、0.4以下がさらに好ましい。これにより、第2吸着工程におけるフッ素イオン除去率を確保しやすくなるとともに、第1吸着工程におけるフッ素吸着剤の劣化を抑えやすくなる。
【0033】
第1吸着工程において吸着塔に導入する被処理水のpHは、例えば2.6以上が好ましく、2.7以上がより好ましく、2.8以上がさらに好ましく、また3.4以下が好ましく、3.3以下がより好ましく、3.2以下がさらに好ましい。第2吸着工程において吸着塔に導入する第1処理水のpHは、例えば2.8以上が好ましく、3.0以上がより好ましく、3.1以上がさらに好ましく、また3.6以下が好ましく、3.5以下がより好ましく、3.4以下がさらに好ましい。
【0034】
吸着塔に導入する被処理水または第1処理水のpHは、酸またはアルカリを添加することにより、所望のpH範囲に調整することができる。当該酸としては塩酸や硫酸を用いることが好ましく、当該アルカリとしてはアルカリ金属水酸化物を用いることが好ましく、水酸化ナトリウムを用いることがより好ましい。なお、被処理水として排煙脱硫排水を用いる場合は、排煙脱硫排水のpHが常時このような範囲となるとは限らないため、吸着塔に導入される被処理水は、酸またはアルカリを添加することによって所定のpH範囲に調整することが好ましい。また第2吸着工程では、吸着塔に導入される第1処理水に酸を添加することにより、第1処理水のpHを所望の範囲に調整することが好ましい。
【0035】
被処理水または第1処理水のpHの調整は、吸着塔の前にpH調整手段を設けることにより行えばよい。pH調整手段は、吸着塔の前に酸またはアルカリ添加手段を備えたpH調整槽を設けたり、被処理水または第1処理水を吸着塔に供給する流路に酸またはアルカリ添加手段を設ければよい。酸またはアルカリ添加手段としては、薬注ポンプ等が挙げられる。またpH調整手段として、酸またはアルカリ添加手段とともにpH測定手段を設けてもよい。pH測定手段は、pH調整槽に設置したり、被処理水または第1処理水を吸着塔に供給する流路の酸またはアルカリ添加手段と吸着塔の間に設置することが好ましい。
【0036】
第2吸着工程で吸着塔に導入される第1処理水のフッ素イオン濃度は、第1吸着工程で吸着塔に導入される被処理水のフッ素イオン濃度よりも低いことが好ましく、例えば60mg/L未満が好ましく、50mg/L以下がより好ましく、40mg/L以下がさらに好ましく、30mg/L以下がさらにより好ましい。第2吸着工程で吸着塔に導入される第1処理水のフッ素イオン濃度が高い場合は、当該第1処理水を適宜希釈してもよい。このときの希釈水としては、水(例えば、工水や排出基準を満たした処理水等)や、第2吸着工程で得られる第2処理水を用いることができる。なお、第1吸着工程で得られた第1処理水は、希釈せずに第2吸着工程の吸着塔に導入することが好ましく、これにより第1吸着工程から第2吸着工程へ連続処理が容易になる。従って、第1吸着工程で得られる第1処理水のフッ素イオン濃度は、60mg/L未満が好ましく、50mg/L以下がより好ましく、40mg/L以下がさらに好ましく、30mg/L以下がさらにより好ましい。第2吸着工程において吸着塔に導入される第1処理水のフッ素イオン濃度の下限値は特に限定されず、例えば当該第1処理水のフッ素イオン濃度が一時的に0mg/Lとなってもよい。
【0037】
本発明の水処理方法は、第1吸着工程と第2吸着工程に加えて第3吸着工程を有していてもよい。この場合、第3吸着工程は、第2吸着工程で得られた第2処理水をフッ素吸着剤が充填された吸着塔に導入し、第2処理水中のフッ素イオンの少なくとも一部が除去された第3処理水が得られるものとなる。このとき、第3吸着工程において吸着塔に導入する第2処理水のpHは、第2吸着工程において吸着塔に導入するpH以上であることが好ましい。第3吸着工程における処理方法や処理条件の詳細は上記の説明が参照される。第4吸着工程以降の吸着工程を設ける場合も同様である。
【0038】
吸着工程を繰り返す数は2以上であれば特に限定されないが、多すぎても各吸着工程の管理が煩雑となることから、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。なお、本発明において「吸着工程」には、被処理水を多段で吸着塔に導入して吸着処理する場合の各吸着工程だけでなく、被処理水を一段で吸着塔に導入して吸着処理する場合の吸着工程も含まれる。
【0039】
第2吸着工程で得られる第2処理水は、環境中に放流するのに適した程度までのフッ素イオン濃度が低減されていることが好ましい。例えば環境省の定めた一律排水基準によれば、フッ素およびその化合物の許容限度は、海域に排出されるもので15mgF/Lと定められ、海域以外の公共用水域に排出されるもので8mgF/Lと定められている。従って、第1処理水のフッ素イオン濃度は15mg/L以下であることが好ましく、8mg/L以下がより好ましい。第2処理水のフッ素イオン濃度はそれよりも低くてもよく、例えば5mg/L以下、3mg/L以下、あるいは1mg/L以下であってもよい。吸着工程を3回以上繰り返して行う場合は、最後の吸着工程から得られる処理水のフッ素イオン濃度がこのような範囲となればよい。また、後述するように被処理水の連続的な吸着処理を行う場合は、吸着塔1段で被処理水のフッ素イオンの吸着処理を行う時間があってもよく、その場合は吸着塔1段による吸着処理の処理水のフッ素イオン濃度が上記の範囲となることが好ましい。
【0040】
本発明の水処理方法は、第1吸着工程または第2吸着工程の後に、吸着塔にアルカリ溶液を導入し、フッ素吸着剤からフッ素イオンを脱着させる脱着工程を有していてもよい。脱着工程によりフッ素イオンがフッ素吸着剤から脱着して、フッ素イオンを含有する脱離液が得られる。このようにして得られた脱離液は、被処理水よりもフッ素イオンを濃縮することができ、しかも高純度のフッ素イオン含有液となるため、フッ素の効率的な回収が可能となる。
【0041】
アルカリ溶液としては、アルカリ金属水酸化物の溶液を用いることが好ましい。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等を用いることができ、これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、アルカリ金属水酸化物としては、コスト面から水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。
【0042】
脱着工程で用いるアルカリ溶液は、水酸化物イオン濃度が高いほどフッ素イオンを高濃度に含む脱離液が得られることから、ある程度高い水酸化物イオン濃度を有するアルカリ溶液を使用することが好ましい。アルカリ溶液の水酸化物イオン濃度は、例えば0.05mol/L以上が好ましく、0.1mol/L以上がより好ましく、0.2mol/L以上がさらに好ましい。一方、アルカリ溶液の取り扱い性や設備仕様への影響を考慮すると、アルカリ溶液の水酸化物イオン濃度は3mol/L以下が好ましく、1mol/L以下がより好ましい。
【0043】
脱着工程でフッ素イオンを脱着させたフッ素吸着剤は、次に酸処理工程で酸溶液と接触させることにより、再びフッ素吸着剤として使用することができる。すなわち、脱着工程の後に、吸着塔に酸溶液を導入する酸処理工程を行うことが好ましい。このときの酸としては、塩酸や硫酸を用いることが好ましい。酸溶液の水素イオン濃度は、例えば0.01mol/Lより高いことが好ましく、0.03mol/L以上がより好ましく、また2.0mol/L以下が好ましく、1.0mol/L以下がより好ましい。なお、酸処理工程の前に、脱着工程でフッ素イオンを脱着させたフッ素吸着剤を水洗してもよい。また、酸処理工程の後に、フッ素吸着剤を水洗してもよい。
【0044】
上記のように脱着工程と酸処理工程を行うことによりフッ素吸着剤が再生され、再び吸着工程を行うことができる。吸着工程としては、上記に説明した第1吸着工程であってもよく、第2吸着工程であってもよい。
【0045】
酸処理工程の後であって吸着工程の前に、それより前の吸着工程で得られた処理水(すなわちフッ素吸着剤によりフッ素イオンの少なくとも一部が吸着除去された処理水)を吸着塔に導入する前処理工程を行うことが好ましい。上記のように第1吸着工程と第2吸着工程を行う場合は、第1吸着工程で得られた第1処理水と第2吸着工程で得られた第2処理水のいずれを吸着塔に導入してもよいが、フッ素イオン濃度がより低い第2処理水を吸着塔に導入することが好ましい。このように前処理工程において吸着工程で得られた処理水を吸着塔に導入することにより、フッ素吸着剤の吸着サイトに硫酸イオンを導入することができる。その結果、前処理工程に続いて行う吸着工程において、フッ素吸着剤がフッ素イオンを吸着した際に硫酸イオンが脱離し、被処理水のpH緩衝能が高められ、吸着工程の初期段階からフッ素イオンの吸着除去を好適に行うことができる。
【0046】
次に、本発明の水処理方法で用いるシステム構成例について、図面を参照して説明する。なお、本発明は、図面に示した実施態様に限定されるものではない。
【0047】
図1に示した水処理システムは、フッ素吸着剤が充填された吸着塔11と、吸着塔11の入側に連通した入側流路21と、吸着塔11の出側に連通した出側流路22を有する。入側流路21と出側流路22に連通して返送流路24が設けられ、返送流路24には貯留タンク23が設けられている。
【0048】
図1に示した水処理システムは、吸着塔11で第1吸着工程と第2吸着工程が行われる。具体的には、フッ素イオン濃度が60mg/L以上の被処理水1を入側流路21を通して吸着塔11に導入することで、フッ素イオン濃度が低減された第1処理水2が得られる(第1吸着工程)。第1処理水2は出側流路22を通して貯留タンク23に移送され、貯留タンク23で一時的に貯留される。吸着塔11で第1吸着工程が終了した後、貯留タンク23から返送流路24および入側流路21を通して第1処理水2’を吸着塔11に導入することで、フッ素イオン濃度が低減された第2処理水3が得られる(第2吸着工程)。第2処理水3は環境中に放流できる程度までフッ素イオン濃度が低減されたものとなり、出側流路22を通して系外に排出される。
【0049】
第2吸着工程において吸着塔11に導入される第1処理水2’のpHは、第1吸着工程において吸着塔11に導入される被処理水1のpHよりも高くなっている。このように第1吸着工程と第2吸着工程において吸着塔11に導入される被処理水1および第1処理水2’のpHを調整することにより、被処理水1に含まれるフッ素イオンが効率的に除去されるとともに、吸着塔11に充填されるフッ素吸着剤の劣化を抑え、フッ素吸着剤の長寿命化を図ることができる。
【0050】
吸着塔11の入側にはpH調整手段12が設けられることが好ましい。pH調整手段12により、吸着塔11に導入される被処理水1や第1処理水2’のpHを所望の範囲に調整することができる。pH調整手段12としては、酸やアルカリを添加する薬注ポンプ等が挙げられる。酸やアルカリは入側流路21の配管内に供給してもよく、入側流路21にpH調整槽を設けて、pH調整槽で酸やアルカリを供給してもよい。この際、吸着塔11に導入される被処理水1または第1処理水2’のpHを測定しながら酸やアルカリを供給することが好ましい。従って、吸着塔11の入側にはpH計が設けられることが好ましい。
【0051】
フッ素イオンを吸着した吸着剤は、アルカリ溶液と接触させることにより、吸着剤からフッ素イオンを脱着させることができる(脱着工程)。従って、吸着塔11の入側には薬液流路25が連通して設けられることが好ましい。吸着塔11の出側には、吸着剤と接触したアルカリ溶液すなわち脱離液4を排出する廃液流路26が連通して設けられることが好ましい。なお、
図1では、薬液流路25が吸着塔11の入側に直接接続しているが、入側流路21に接続するものであってもよい。薬液流路25からアルカリ溶液を供給する際には、吸着塔11への被処理水1および第1処理水2’の供給を止め、吸着塔11から廃液流路26を通って排出された脱離液4を回収する。
【0052】
フッ素イオンを脱着した吸着剤は、酸溶液と接触させることにより再生され、再びフッ素吸着能が付与される(酸処理工程)。
図1では、薬液流路25から酸溶液を供給することができ、吸着剤と接触した酸溶液すなわち酸洗浄廃液5が廃液流路26を通して排出される。なお、酸溶液はアルカリ溶液とは異なる流路を通して吸着塔11に供給されてもよく、酸洗浄廃液5は脱離液4とは異なる流路を通して吸着塔11から排出されてもよい。また、吸着塔11への酸溶液の供給に先立って、吸着塔11に水を供給して、吸着塔11内のアルカリ溶液を洗い流してもよい。
【0053】
酸溶液との接触により再生した吸着剤は、再び被処理水1のフッ素イオンの吸着除去に使用することができるが、被処理水1の吸着塔11への導入に先立って、第2処理水3を吸着塔11に導入することが好ましい(前処理工程)。第2処理水3は、第2吸着工程を行った際に別途貯留しておけばよい。例えば被処理水1として排煙脱硫排水を用いた場合などは、被処理水1中に硫酸イオンが高濃度に含まれる結果、第2処理水3にも硫酸イオンが高濃度に含まれ、しかもフッ素イオン濃度が大きく低減されたものとなる。このような第2処理水3を、被処理水1の吸着塔11への導入に先立って第2処理水3を吸着塔11に導入することにより、次に被処理水1を吸着塔11に導入した際に、初期段階からフッ素イオン濃度が十分に低減された処理水を得やすくなる。なお、酸溶液との接触後、第2処理水3の導入前に、吸着塔11に水を供給して、吸着塔11内の酸溶液を洗い流してもよい。
【0054】
本発明の水処理システムの他の例について、
図2を参照して説明する。なお下記の説明において、
図1と重複する部分の説明は省く。
【0055】
図2には、吸着塔が2塔直列接続された構成例を示した。
図2では、吸着塔として第1吸着塔11Aと第2吸着塔11Bが設けられ、第1吸着塔11Aの出側と第2吸着塔11Bの入側に連通して直列接続流路27が設けられ、これにより第1吸着塔11Aと第2吸着塔11Bをこの順で直列接続することができるようになっている。このように吸着塔を直列接続した場合、被処理水1を第1吸着塔11Aに導入して第1吸着塔11Aで第1吸着工程を行って第1処理水2aを得た後、得られた第1処理水2aを直列接続流路27を通って第2吸着塔11Bに導入し、第2吸着塔11Bで第2吸着工程を行うことができる。そのため、第1吸着工程と第2吸着工程を連続的に行うことが可能となる。第2吸着塔11Bに導入される第1処理水2aのpHは、第1吸着塔11Aに導入される被処理水1のpHよりも高くなる。第2吸着塔11Bから排出された第2処理水3aは、出側流路22を通して系外に排出される。
【0056】
図2ではまた、第2吸着塔11Bの出側と第1吸着塔11Aの入側に連通してさらに直列接続流路28が設けられており、これにより第2吸着塔11Bと第1吸着塔11Aをこの順で直列接続することができる。このように吸着塔を直列接続した場合、被処理水1を第2吸着塔11Bに導入して第2吸着塔11Bで第1吸着工程を行って第1処理水2bを得た後、得られた第1処理水2bを直列接続流路28を通して第1吸着塔11Aに導入し、第1吸着塔11Aで第2吸着工程を行うことができる。第1吸着塔11Aに導入される第1処理水2bのpHは、第2吸着塔11Bに導入される被処理水1のpHよりも高くなる。第1吸着塔11Aから排出された第2処理水3bは、出側流路22を通して系外に排出される。
【0057】
図2に示した水処理システムでは、第1吸着塔11Aと第2吸着塔11Bの一方で吸着工程を行い、他方で脱着工程と酸処理工程を行うこともできる。例えば第1吸着塔11Aに被処理水1を導入して吸着工程を行い、被処理水1中のフッ素イオンの少なくとも一部が除去された処理水6を得て、出側流路22を通して系外に排出してもよい。この間、第2吸着塔11Bでは、脱着工程と酸処理工程を行うことができる。この場合、処理水6は排水基準を満たすようにフッ素イオンが除去されていることが望ましく、従って、第1吸着塔11Aは十分なフッ素イオン吸着除去能を有する状態で使用されることが好ましい。第2吸着塔11Bでの酸処理工程の終了後は、被処理水1を第1吸着塔11Aと第2吸着塔11Bに順次導入して、第1吸着塔11Aと第2吸着塔11Bで第1吸着工程と第2吸着工程をそれぞれ行うことが好ましい。この際、第1吸着塔11Aから排出された第1処理水2aのフッ素イオン濃度が十分に低ければ、第2吸着塔11Bで前処理工程が行われていると見なすことができる。
【0058】
また、第2吸着塔11Bに被処理水1を導入して吸着工程を行い、被処理水1中のフッ素イオンの少なくとも一部が除去された処理水6を得て、出側流路22を通して系外に排出してもよい。この間、第1吸着塔11Aでは、脱着工程と酸処理工程を行うことができる。この場合、処理水6は排水基準を満たすようにフッ素イオンが除去されていることが望ましく、従って、第2吸着塔11Bは十分なフッ素イオン吸着除去能を有する状態で使用されることが好ましい。第1吸着塔11Aでの酸処理工程の終了後は、被処理水1を第2吸着塔11Bと第1吸着塔11Aに順次導入して、第2吸着塔11Bと第1吸着塔11Aで第1吸着工程と第2吸着工程をそれぞれ行うことが好ましい。この際、第2吸着塔11Bから排出された第1処理水2bのフッ素イオン濃度が十分に低ければ、第1吸着塔11Aで前処理工程が行われていると見なすことができる。
【0059】
図2に示した構成例では、具体的に次のように各吸着塔で吸着工程と脱着工程と酸処理工程を行うことが好ましい。すなわち、次の(1)~(4)のステージを順に行うことで、第1吸着塔11Aと第2吸着塔11Bで吸着工程と脱着工程と酸処理工程と前処理工程の各工程を行うことが好ましい。(1)第1吸着塔11Aと第2吸着塔11Bをこの順で直列接続し、被処理水1を第1吸着塔11Aと第2吸着塔11Bに順次導入して、第1吸着塔11Aで第1吸着工程を行い、第2吸着塔11Bで第2吸着工程を行う。(2)脱着工程と酸処理工程を第1吸着塔11Aで行うとともに、第2吸着塔11Bに被処理水1を導入して吸着工程を行う。(3)第2吸着塔11Bと第1吸着塔11Aをこの順で直列接続し、被処理水1を第2吸着塔11Bと第1吸着塔11Aに順次導入して、第2吸着塔11Bで第1吸着工程を行い、第1吸着塔11Aで第2吸着工程を行う。(4)脱着工程と酸処理工程を第2吸着塔11Bで行うとともに、第1吸着塔11Aに被処理水1を導入して吸着工程を行う。これらの(1)~(4)のステージは繰り返し行うことができ、すなわち(4)のステージが終わったら次に(1)のステージに戻ることができる。これにより、吸着塔の脱着・再生処理の頻度を減らして、被処理水1からの効率的なフッ素イオン除去が可能となる。
【0060】
(1)のステージでは、第1吸着塔11Aと第2吸着塔11Bをこの順で直列接続し、被処理水1を第1吸着塔11Aと第2吸着塔11Bに順次導入する。(1)のステージではまず、フッ素イオン濃度が60mg/L以上の被処理水1を第1吸着塔11Aに導入して第1吸着塔11Aで第1吸着工程を行って第1処理水2aを得た後、得られた第1処理水2aを直列接続流路27を通して第2吸着塔11Bに導入し、第2吸着塔11Bで第2吸着工程を行う。第2吸着塔11Bに導入される第1処理水2aのpHは、第1吸着塔11Aに導入される被処理水1のpHよりも高くなっている。第2吸着塔11Bから排出された第2処理水3aは、出側流路22を通して系外に排出される。
【0061】
(1)のステージにおいて、第1吸着塔11Aのフッ素イオンの吸着除去性能が低下した段階で、あるいは低下する前段階で、(2)のステージに移る。例えば、(1)のステージにおいて、第1吸着塔11Aから排出される第1処理水2aのフッ素イオン濃度を測定し、当該フッ素イオン濃度が所定値を超えたら(2)のステージに移るようにすればよい。あるいは、(1)のステージにおいて、第1吸着塔11Aの吸着剤によって吸着されたフッ素イオンの累積吸着量が所定値を超えたら(2)のステージに移るようにしてもよい。第1吸着塔11Aの吸着剤によって吸着されたフッ素イオンの累積吸着量は、被処理水1のフッ素イオン濃度と第1処理水2aのフッ素イオン濃度の差分および被処理水1の第1吸着塔11Aへの供給量(または第1処理水2aの排出量)から求めることができる。なお、(1)のステージが終了した段階で、第2吸着塔11Bはフッ素イオンの吸着除去性能が十分確保されている。
【0062】
(2)のステージでは、第1吸着塔11Aで脱着工程と酸処理工程を行うとともに、第2吸着塔11Bに被処理水1を導入してフッ素イオンの吸着処理を行い、処理水6を得る。処理水6は、被処理水1中のフッ素イオンの少なくとも一部が除去されたものとなり、出側流路22を通して系外に排出されるが、処理水6は排水基準を満たすようにフッ素イオンが除去されていることが望ましい。
【0063】
(2)のステージで第1吸着塔11Aの吸着剤の脱着・再生処理が終わったら、次に(3)のステージに移行する。(3)のステージでは、第2吸着塔11Bと第1吸着塔11Aをこの順で直列接続し、被処理水1を第2吸着塔11Bと第1吸着塔11Aに順次導入する。(3)のステージでは、フッ素イオン濃度が60mg/L以上の被処理水1を第2吸着塔11Bに導入して第2吸着塔11Bで第1吸着工程を行って第1処理水2bを得た後、得られた第1処理水2bを直列接続流路28を通して第1吸着塔11Aに導入し、第1吸着塔11Aで第2吸着工程を行う。第1吸着塔11Aに導入される第1処理水2bのpHは、第2吸着塔11Bに導入される被処理水1のpHよりも高くなっている。第1吸着塔11Aから排出された第2処理水3bは、出側流路22を通して系外に排出される。
【0064】
(3)のステージにおいて、第2吸着塔11Bのフッ素イオンの吸着除去性能が低下した段階で、あるいは低下する前段階で、(4)のステージに移る。例えば、(3)のステージにおいて、第2吸着塔11Bから排出される第1処理水2bのフッ素イオン濃度を測定し、当該フッ素イオン濃度が所定値を超えたら(4)のステージに移るようにすればよい。あるいは、(3)のステージにおいて、第2吸着塔11Bの吸着剤によって吸着されたフッ素イオンの累積吸着量が所定値を超えたら(4)のステージに移るようにしてもよい。第2吸着塔11Bの吸着剤によって吸着されたフッ素イオンの累積吸着量は、被処理水1のフッ素イオン濃度と第1処理水2bのフッ素イオン濃度の差分および被処理水1の第2吸着塔11Bへの供給量(または第1処理水2bの排出量)から求めることができる。なお、(3)のステージが終了した段階で、第1吸着塔11Aはフッ素イオンの吸着除去性能が十分確保されている。
【0065】
(4)のステージでは、第2吸着塔11Bで脱着工程と酸処理工程を行うとともに、第1吸着塔11Aに被処理水1を導入してフッ素イオンの吸着処理を行い、処理水6を得る。処理水6は、被処理水1中のフッ素イオンの少なくとも一部が除去されたものとなり、出側流路22を通して系外に排出されるが、処理水6は排水基準を満たすようにフッ素イオンが除去されていることが望ましい。
【0066】
(4)のステージで第2吸着塔11Bの吸着剤の脱着・再生処理が終わったら、次に再び(1)のステージに移行する。このように(1)~(4)のステージからなるサイクルを繰り返し行うことで、吸着塔に充填されたフッ素吸着剤の脱着・再生処理頻度を減らして、被処理水からの効率的なフッ素イオン除去が可能となる。本発明では、第2吸着工程で吸着塔11A,11Bに導入される第1処理水2b,2aのpHを高く設定することによりフッ素吸着剤の劣化を抑えることができるが、上記サイクルの繰り返しによるフッ素吸着剤の脱着・再生処理頻度の減少は吸着剤の長寿命化にも繋がり、これにより、処理コストのさらなる低減を図ることができる。
【0067】
図2に示した構成例によれば、第1吸着塔11Aと第2吸着塔11Bのそれぞれで吸着工程と脱着・酸洗浄工程を行うことができる。そのため、第1吸着塔11Aで吸着処理を行うのと同時に第2吸着塔11Bで脱着・再生処理および吸着剤の前処理を行うことができ、またその逆も可能となるため、被処理水1の連続的な吸着処理が可能となる。
【0068】
図2に示した構成例では、吸着塔が2段直列接続されていたが、吸着塔は3段以上直列接続されていてもよい。この場合、上記の(2)のステージと(4)のステージでは、その1つ前のステージで最前段に設けられた吸着塔の脱着工程と酸処理工程を行い、残りの吸着塔はその1つ前のステージの最前段以外の吸着塔を順序を変えずに直列接続した状態で吸着工程を行えばよい。(2)のステージと(4)のステージの次のステージでは、脱着・再生処理した吸着塔を最後段に直列接続して吸着工程を行えばよい。
【実施例】
【0069】
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0070】
(1)バッチ試験
排煙脱硫排水を適宜希釈するとともにフッ化ナトリウムを適宜添加し、pH調整することにより、硫酸マグネシウム濃度60,000mg/L、フッ素イオン濃度100mg/Lまたは50mg/L、pH2.4~3.6の範囲で調整した被処理水を調製した。この被処理水を、セリウム系フッ素吸着剤が充填された吸着塔に空間速度(SV)約22hr-1で導入し、フッ素イオンの吸着処理を行った。吸着塔から排出された処理水を2時間ごとに採取し、イオンクロマトグラフィーにより処理水のフッ素イオン濃度とセリウム濃度を測定した。
【0071】
図3に、フッ素イオン濃度が100mg/Lの被処理水の処理結果を示し、
図4に、フッ素イオン濃度が50mg/Lの被処理水の処理結果を示した。
図3と
図4には、処理水のフッ素イオン濃度とセリウム濃度の測定結果が示され、流入水pHは「初期pH」と表記されている。
【0072】
図3および
図4から分かるように、被処理水のフッ素イオン濃度に関わらず、被処理水のpHが低くなるほど、処理水のフッ素イオン濃度が低くなり、フッ素イオン除去率が高くなる傾向となった。被処理水のpHが3.6の場合、被処理水のフッ素イオン濃度が100mg/Lであれば、通水後4時間後または6時間後に(すなわち通水倍率が約90と約130の時点で)フッ素イオン除去率が60%~70%まで低下した。しかし、被処理水のフッ素イオン濃度が50mg/Lであれば、被処理水のpHが3.6であってもフッ素イオンはほぼ全量除去された。そのため、吸着処理を第1吸着工程と第2吸着工程の多段で行う場合は、第1吸着工程では第2吸着工程よりも低いpHで吸着処理を行うことで、第1吸着工程でのフッ素イオン除去率を高め、第2吸着工程への負荷を下げることができる。その結果、安定してフッ素イオンの吸着除去を行うことができる。
【0073】
一方、処理水のセリウム濃度については、被処理水のpHが低くなるほど処理水のセリウム濃度が高くなる傾向を示し、フッ素吸着剤からのセリウムの溶出が見られた。処理水のセリウム濃度は、被処理水のフッ素イオン濃度にあまり影響は受けないものの、被処理水のフッ素イオン濃度が低い方がセリウムが溶出しやすくなる傾向を示した。そのため、フッ素イオン濃度がより低い第2吸着工程の方がセリウムの溶出に気をつかうことが好ましく、従って、第2吸着工程の方が第1吸着工程よりも高いpHで吸着処理することが好ましい。これにより、フッ素イオンの吸着除去性能を確保しつつ、フッ素吸着剤の劣化を抑え、フッ素吸着剤の長寿命化を図ることができる。
【0074】
(2)連続試験
(2-1)処理例1
排煙脱硫排水を適宜希釈するとともにフッ化ナトリウムを適宜添加し、pH調整することにより、硫酸マグネシウム濃度60,000mg/L、フッ素イオン濃度100mg/Lの被処理水を調製した。この被処理水を、
図2に示す水処理システムに従い、上記に説明した(1)~(4)のステージを繰り返し行うことで、フッ素イオンの連続吸着処理を行った。フッ素吸着剤としては、セリウム系フッ素吸着剤を用いた。(1)のステージと(3)のステージでは、第1吸着工程の被処理水のpHを3.2に調整し、第1吸着工程で得られた第1処理水のpHを3.4に調整して第2吸着工程を行った。(2)のステージと(4)のステージでは、被処理水のpHを3.2に調整し、吸着塔1塔による吸着処理を行った。各吸着塔には、被処理水または第1処理水を空間速度(SV)約22hr
-1で導入し、処理水のフッ素イオン濃度(すなわち、(1)のステージと(3)のステージでは第2処理水のフッ素イオン濃度であり、(2)のステージと(4)のステージでは、吸着塔1塔の吸着処理により得られる処理水のフッ素イオン濃度)の目標値を、環境省の一律排水基準が定める海域に排出される排水のフッ素濃度15mg/L以下と設定した。(1)のステージから(2)のステージへの切り替え、および(3)のステージから(4)のステージへの切り替えは、第1吸着工程で得られた第1処理水のフッ素イオン濃度が30mg/L以上となったときに行った。また、(2)のステージと(4)のステージでは、吸着剤の脱着・再生処理に3~4時間を要した。
【0075】
処理例1では、1回の(1)または(3)のステージを約7時間行うことができ、(1)のステージから(4)のステージを行う間、処理水のフッ素イオン濃度は15mg/L以下に維持された。処理例1では、1ヶ月間連続運転する間にセリウム系フッ素吸着剤から流出したセリウムの割合は1.2%であった。
【0076】
(2-2)処理例2
処理例1において、(1)のステージと(3)のステージで、第1吸着工程の被処理水のpHを3.4に調整し、第1吸着工程で得られた第1処理水のpHを3.2に調整して第2吸着工程を行った以外は、処理例1と同様にして被処理水からのフッ素イオンの除去処理を行った。処理例2では、(1)のステージから(4)のステージまでの処理水のフッ素イオン濃度が15mg/L以下となるようにするために、1回の(1)または(3)のステージの時間が約1時間となり、吸着剤の脱着・再生処理頻度が増加した。その結果、処理例2では、1ヶ月間連続運転する間にセリウム系フッ素吸着剤から流出したセリウムの割合が2.9%となった。
【0077】
(2-3)処理例3
処理例1において、(1)のステージと(3)のステージで、第1吸着工程の被処理水のpHを3.2に調整し、第1吸着工程で得られた第1処理水のpHを3.2に調整して第2吸着工程を行った以外は、処理例1と同様にして被処理水からのフッ素イオンの除去処理を行った。処理例3では、1回の(1)または(3)のステージを約7時間行うことができ、(1)のステージから(4)のステージを行う間、処理水のフッ素イオン濃度が15mg/L以下に維持された。処理例3では、第2吸着工程で吸着塔に導入する第1処理水のpHが処理例1よりも低かったため、1ヶ月間連続運転する間にセリウム系フッ素吸着剤から流出したセリウムの割合が処理例1よりも高い2.1%となった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、石炭火力発電所、コークス工場、製鉄工場等の排煙脱硫排水の処理に用いることができる。
【符号の説明】
【0079】
1:被処理水
2,2a,2b:第1処理水
3,3a,3b:第2処理水
4:脱離液
5:酸洗浄廃液
11:吸着塔、11A:第1吸着塔、11B:第2吸着塔
12:pH調整手段
21:入側流路
22:出側流路
23:処理水タンク
24:返送流路
25:薬液流路
26:廃液流路
27,28:直列接続流路