(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】調味料の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20230412BHJP
A23L 27/10 20160101ALI20230412BHJP
A23L 27/22 20160101ALI20230412BHJP
A23L 27/23 20160101ALI20230412BHJP
A23L 27/21 20160101ALI20230412BHJP
A23L 27/50 20160101ALN20230412BHJP
【FI】
A23L27/00 C
A23L27/10 H
A23L27/22
A23L27/23 A
A23L27/21 Z
A23L27/50 105
(21)【出願番号】P 2019537637
(86)(22)【出願日】2018-08-21
(86)【国際出願番号】 JP2018030826
(87)【国際公開番号】W WO2019039470
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2017159893
(32)【優先日】2017-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018067875
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藍田 賜郎
(72)【発明者】
【氏名】森本 頼一
(72)【発明者】
【氏名】吉松 明文
(72)【発明者】
【氏名】村田 義文
(72)【発明者】
【氏名】楠本 弘樹
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0170731(US,A1)
【文献】国際公開第2005/051106(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/012025(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/012026(WO,A1)
【文献】特開2011-004673(JP,A)
【文献】特公昭46-028155(JP,B1)
【文献】特開平01-231864(JP,A)
【文献】特開昭61-181356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調味料原料
として、グルタミン酸、グルタチオンおよび核酸からなる群より選ばれるいずれか1種以上を含む酵母エキスを用い、該調味料原料を水蒸気により加熱処理する調味料の製造方法であって、加熱方法は、インフュージョン方式の直接加熱法により加熱され、加熱後、減圧冷却方式により冷却される、
下記(a)~(c)のいずれかに記載の調味料の製造方法。
(a)加熱処理前と比べて、加熱処理後のグルタミン酸の残存率が83-100%
(b)加熱処理前と比べて、加熱処理後のグルタチオンの残存率が94-100%
(c)加熱処理前と比べて、加熱処理後の核酸の残存率が91-100%
【請求項2】
加熱温度は120~170℃、加熱時間は0.1~60秒であり、加熱後減圧冷却方式により100℃以下とする、上記請求項1に記載の調味料の製造方法
【請求項3】
0.2~0.8MPaの飽和蒸気が加熱缶内に充満している雰囲気下にて加熱温度まで達温せしめるところの、上記請求項1又は2に記載の調味料の製造方法。
【請求項4】
加熱直前の調味料原料の液温との温度差が30℃以上、加熱開始から達温完了まで所要時間0.5秒以内となる加熱条件である、請求項1~請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
調味料原料は5~70重量%の固形分となるよう調整し、加熱処理する請求項1~4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキス分の高い調味料原料をもとに、呈味性核酸やグルタミン酸ナトリウムなどの風味成分の破壊や回収率低下を最小限に抑えながらも、微生物管理に優れ、短時間の加熱により風味を自由に制御できる調味料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食嗜好の多様化、時短調理、保存期間の長い食品への関心は高まっている。包装材料やパッキング技術の向上により、これまで一地方で消費されていたような小規模生産品の流通が拡大している。このような背景のなか、日本食に使用される鍋つゆや濃縮だし、多くの食品に利用されるドレッシングやソースといった調味料全般の開発は進み、その種類は増加傾向にある。
【0003】
食嗜好の多様化により、複雑でうま味に富む調味料、例えば酵母エキス等の利用が拡大している。このような調味料には、嗜好性に富む風味や香気をも併せ持つことを特徴しており、多数の成分を含んでいる。例えば、グルタミン酸やアスパラギン酸、グリシン、アラニンといったうま味や呈味性に優れたアミノ酸、鰹節やシイタケのうま味として知られるグアニル酸やイノシン酸といった核酸、有機酸では貝類のうま味として知られるコハク酸、又はこれらの塩類、さらには呈味性を強化するグルタチオンやγ-グルタミル-L-システイニル-グリシンなどのペプチド類、油脂、ゼラチン類、グルコース、ラクトース、ショ糖といった糖類、カラメル香や炒め物のロースト香などに代表される、糖類単体あるいは糖類とアミノ酸が加熱などによりメイラード反応やストレッカー分解反応の同時進行を経て誘導されたフルフラール、ピラジン、高級アルコール、高級アルデヒド、あるいはエステルなどをも含有している。
【0004】
このような嗜好性に富む調味料を製造するには、多様な原料が必要なことがある。その結果、好ましくないフレーバーが付与されることがある。好ましくないフレーバーを抑制する優れた調味料製造方法としては、コラーゲンペプチドの添加と特定の殺菌条件とすること(特許文献3)などさまざまな製造方法が報告されている
【0005】
加熱による調味料の製造方法では、例えばビーフフレーバーを呈する調味料として、5’-ヌクレオチド含有酵母エキス、グルタチオン含有酵母エキス、単糖類、デキストリン及び食塩を含有した水溶液あるいは水懸濁液を70~150℃好ましくは90~120℃かつ10分~2時間程度加熱することによって製造されるメイラード反応型の調味料が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
上記ビーフフレーバーの新しい製法として酵母エキス及び還元糖を含む混合物を90~150℃好ましくは100~120℃かつ1分~4時間好ましくは30分~1時間加熱処理することで酵母エキス(乾燥重量)当たり、フルフリルアルコールを20ppm以上、かつフラネオールを10ppm以上含有する、酵母エキス加熱反応物が見出されている(例えば、特許文献6参照)。
【0007】
食品においてメイラード反応は特に非酵素的な褐変反応としてよく知られる。この反応経路により生成される物質の多くは無色であるが、褐色物質だけでなく、黄色から赤色、青色などの物質も作られる。メイラード反応は、加熱温度、加熱保持時間、水分含量(水分活性)、脂質含量などに影響されている。各物質生成における反応速度が最大となる温度、pH、圧力も異なるため、特に調味料のような多数のアミノ化合物とカルボニル化合物を含む食品では、これらの条件が風味や色調形成に重要な役割を有している(非特許文献1)。食品において反応の初発物質が同一でありながら温度によって生成される物質が変わる例は複数報告されている(非特許文献2)。例えば、スクロースとグルタミン酸は100℃ではカラメル様の香気を生成する一方、150℃では焼き肉様の香気生成が観察される。
【0008】
工業生産での加熱処理においては、直火での直接加熱やジャケットなどでの間接加熱では加温に時間が掛かり、鮮度の低下やもともとの風味の消失、最適加熱時間の範囲が狭すぎることによる過加熱、呈味寄与成分の破壊などが懸念され、さらに付与される風味が畜肉感、或いは魚肉感(特許文献2)といった偏ったものとなり、限られた食品へしか添加できず、最適もしくは任意の風味付与の制御が困難であることが課題となっている。
【0009】
また、調味料の製造には、品質劣化を防ぐうえでの微生物汚染管理も重要である。例えば、カット野菜、おろし野菜、粒ごま等の固形物を含有する液体調味料を処理液体流路中に固定攪拌機構を有する間接加熱手段を用いて90~130℃、1~300秒の高温、短時間の加熱殺菌処理が製造工程における微生物面での衛生管理に容易であること、緩和な条件にて殺菌処理が可能となる、発酵調味料の製造方法も見出されている(特許文献4)。不快な風味の低減と微生物管理では、直接蒸気加熱による殺菌後に真空フラッシュ冷却を用いて風味を飛ばす方法が提供されている(特許文献5)。
【0010】
以上のような背景のなか、製造設備面では、専用の加熱タンクを用いたバッチ処理による設備の占有、度重なるバッチ処理切り替え操作による工員への負荷、エキス分が高くなると固形分組成物に左右される水分活性やアミノ酸や有機酸、糖、ミネラル、pHなどの影響により非常に焦げ付きやすくなり製品への影響だけでなくそれに伴う工程ライン洗浄作業の煩雑さ、殺菌温度不足による微生物管理が困難になるなどの問題を抱えている。そのため、設備が大規模化し、コスト面と生産効率面を含め十分満足しうる優れた風味を有する調味料の製造方法はなく、その開発が待ち望まれている。
さらに、合成保存料および日持向上剤などの添加は、消費者の「自然」あるいは「天然」嗜好を反映して、近年敬遠される傾向にある。そのため、変敗の原因となる耐熱性菌を含めた製造工程上の工夫などが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2007-259744号公報
【文献】特開2009-207432号公報
【文献】特開2015-008682号公報
【文献】特開2000-166500号公報
【文献】特開2008-237085号公報
【文献】WO2013/140901
【非特許文献】
【0012】
【文献】非酵素的褐変現象の化学, 食品の変色の化学, 加藤博通ほか 光琳書院 1995年
【文献】食品の変色の化学 木村進 ほか 光琳書院 1995年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、エキス固形分の高い各種調味料原料液を、短時間の連続加熱処理により生産性を上げつつ焦げ付きによる回収低下と微生物汚染による品質劣化を防ぎ、同時に呈味の寄与成分破壊を抑制しながらも、製造コスト面と制御性に優れた風味の付与を可能とし、より汎用的な風味の付与が可能な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題の解決につき鋭意研究の結果、直接蒸気加熱式クッカーを用いることで連続的に130℃以上の加熱処理をしながらも60秒以内で目的の風味を温和に付与し、尚且つ呈味性寄与成分の破壊を最小限に抑えられる調味料の製造方法を見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち本発明は、
(1)調味料原料を水蒸気により加熱処理する調味料の製造方法であって、加熱方法は、インフュージョン方式の直接加熱法により加熱され、加熱後、減圧冷却方式により冷却される、調味料の製造方法。
(2)加熱温度は120~170℃、加熱時間は0.1~60秒であり、加熱後減圧冷却方式により100℃以下とする、上記(1)に記載の調味料の製造方法
(3)0.2~0.8MPaの飽和蒸気が加熱缶内に充満している雰囲気下にて加熱温度まで達温せしめるところの、上記(1)又は(2)に記載の調味料の製造方法。
(4)加熱直前の調味料原料の液温との温度差が30℃以上、加熱開始から達温完了まで所要時間0.5秒以内となる加熱条件である、上記(1)~(3)に記載の製造方法。
(5)調味料原料は5~70重量%の固形分となるよう調整し、加熱処理する上記(1)~(4)記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、インフュージョン方式の直接加熱法と減圧冷却との組み合わせにより、調味料としての呈味性寄与物質であるグルタミン酸、呈味性核酸であるグアニル酸とイノシン酸、コク味をエンハンスするペプチドであるグルタチオンなどの分解を抑制しながらも、着色を抑えつつ制御性に優れた加熱による風味付与をすることができる。さらに、加熱保持時間が、60秒以内と短時間でであることから、連続的な処理で洗浄や加熱機の切り替え操作を減らして省力化につなげ、合わせて昇温に必要な蒸気量を減らすことができ、コスト面においても有利である。さらに、スケーリングにより閉塞することがある濃縮エキスでも適用できることから、各種調味料にも利用できる。さらに、高温で加熱する工程を有するため、耐熱菌を減らすことも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明し、本発明の理解に供する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り「質量」又は「重量」(wt%)による表示である。
【0018】
本発明の方法に使用する調味料原料は、食品素材あるいは食品素材由来とするいかなるものでも使用することができる。うるち米、もち米、小麦、大麦、ライムギ、オートムギ、ハトムギ、トウモロコシ、ソバなどの穀類とその加工品、トマト、玉ネギ、にんじん、にら、ネギ、セロリ、にんにく、ピーマン、ブロッコリー、カボチャ、アスパラガス、春菊、ゴボウなどの野菜類とその加工品、シソ、エシャロット、シロザ、葛、ツクシ、ゼンマイ、セリ、クレソン、ノビル、カンゾウ、ヨモギなどの山菜類、しょうが、唐辛子、八角、花椒、シナモン、香草、バジル、オレガノ、タイム、ローリエ、コリアンダー、ミント、アニス、山椒の葉実、わさび、マスタードなどの香辛料やハーブ類、その加工品、タンポポ、菜の花、レンゲソウ、椿、ベニバナ、スミレ、桜、バラ、ヒルガオなどの花類とその加工品、大豆、えんどう豆、小豆、黒豆、松の実、山査子、杏仁、クルミ、アーモンド、クリ、ピーナッツ、ゴマなどの豆類とその加工品、ミカン、ゆず、カボス、オレンジ、梅、ビワ、柿、リンゴ、クコ、ナツメ、ナシ、ブドウ、イチジク、パパイヤ、パイナップル、クワ、ブルーベリー、ラズベリーなどの果実類とその加工品、牛、豚、羊、ヤギ、鶏、かも、ウズラ、キジ、などの畜肉類とその加工品、パン酵母、ビール酵母、トルラ酵母、乳酸菌、酢酸菌、麹、シイタケ、マイタケ、シメジ、エリンギ、タマゴタケ、キクラゲなどの酵母類やキノコ類を含めた菌類、アサリ、シジミ、ハマグリ、カキ、ホタテ、カツオ、マグロ、サケ、アジ、トビウオ、カタクチイワシ、イカ、タコ、ナマコ、クラゲ、エビ、アミ、カニ、昆布、ヒジキ、わかめ、ノリなどの魚介類や海藻類とその加工品、卵、バター、生クリーム、サワークリーム、チーズなどの卵や乳製品類、オリーブオイル、ヒマワリ油、キャノーラオイル、エゴマオイル、ゴマ油、ラード、チョコレート、ココアなどの油脂類、サトウキビ、メープルシロップ、はちみつ、水あめ、糖アルコール、デキストリン、コーンスターチ、デンプン、黒砂糖などの糖類とその加工品、酢、ワイン、日本酒、みりん、ビール、ウイスキー、ブランデーなどの酒類やその加工品、コーヒー、紅茶、緑茶、ウーロン茶、ジャスミン茶、ルイボス茶、テアニンなどの飲料素材類やその加工品、食品素材由来としては油脂、ゼラチン類、増粘多糖類、グルコースやラクトース、ショ糖といった種類が挙げられる。これらの素材を単品若しくは複数用いて加熱或いは熟成や発酵若しくは圧搾などの処理を経て抽出されたエキス分を含む調味料原液を加熱処理することで、本特許による呈味性寄与成分の破壊が最少且つ、風味に優れた調味料が得られる。
【0019】
本発明に掲げる呈味性寄与成分とは、グルタミン酸やアスパラギン酸、グリシン、アラニンといったうま味や呈味性に優れたアミノ酸類、鰹節やシイタケのうま味として知られるグアニル酸やイノシン酸といった核酸類。貝類のうま味として知られるコハク酸をはじめとした有機酸類、若しくはこれらの塩類、呈味性を強化するグルタチオンやγ―グルタミル―L―システイニル―グリシンなどのペプチド類であるが、特にグルタミン酸とそのナトリウム塩、グアニル酸、イノシン酸、グルタチオンが挙げられる。
【0020】
本発明に係る加熱方法とは、加熱蒸気と調味料原料を直接接触させて昇温せしめる直接蒸気加熱式クッカーと、目標加熱温度を保持する滞留管、速やかに冷却を行うことができる真空減圧冷却方式の冷却缶の3点を最低限備えた一連の加熱冷却装置を用いる。この装置にはクッカーに送り込む前に予備加熱するための加熱器を備えていてもよい。また、多段階冷却法として減圧冷却後にさらに冷却装置を備えてもよく、加熱後の調味料原液を均質化するホモゲナイザー装置を備えていても構わない。
【0021】
本発明に係る直接蒸気加熱式クッカーの形式にはSteam Infusion方式とSteam Injection方式があるが、本発明では、Steam Infusion方式を用いる。以下、特に断りのない限り、この方式又は装置をインフュージョンと呼称する。インフュージョン方式の直接蒸気加熱式クッカーは、加圧蒸気を充満させた加熱室(直接蒸気加熱式クッカー内)の内部に調味料原料を放出する。この際に、調味料原料は蒸気と接触して蒸気が調味料原料中に流入することにより、所定の温度に加熱される。
【0022】
加熱に際して使用する蒸気は、イオン交換水若しくはこれをさらに蒸留して回収した純水を間接的に加熱して得たピュアスチーム、或いは飲食品用として認められたグレードの蒸気を使用しなければならない。
【0023】
当該発明の加熱による風味付与はメイラード反応型であると推測される。よって本発明における加熱処理は、120~170℃、より好ましくは130~160℃へ1秒以内で瞬時に昇温する条件とする。加熱保持時間は0.1~60秒において任意に選択できる。直接蒸気加熱式クッカー内通過後の所定の長さの滞留管によって加熱温度を保持する。加熱保持時間は、滞留管の長さ、対流速度で調整する。また、本発明の上記の加熱温度は、直接蒸気加熱式クッカー通過直後の調味料原料の温度をいう。この時、直接蒸気加熱式クッカー内の加熱用飽和蒸気圧力は0.2~0.7MPa、より好ましくは0.3~0.60MPaが特に望ましい。加熱温度と加熱圧力が目標とする雰囲気下にて調味料原料をクッカー内部の上部から放出することにより、0.5秒以内の瞬時に調味料原料を達温させる。なお調味料原料の目的温度への達温の確認は、直接蒸気加熱式クッカーに供給する直前の調味料原料の温度と滞留管までの到達時間と温度により確認できる。また、クッカー内への調味料原料の投入方法は、全記記載の条件に適合すれば、特に制限はなく、例えば、線状若しくはシャワー状の放出、又は滴下によっても良い。
【0024】
さらに、目的とする加熱滞留時間に達したのち、当該調味料原液を真空減圧雰囲気下にある冷却缶内に吹き込むことで好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下へ迅速に冷却することにより、加熱による反応を瞬時に停止させることが必要である。
【0025】
本発明では、調味料原料を加熱する際、液中の固形分を5~70%に調整して、直接蒸気加熱式クッカーに供給する。また、調味料の製造には、例えばシクロデキストリンやデンプン、食塩など賦形剤等の目的で食品用として利用可能な原料を混合してもよい。これらの賦形剤は、加熱反応後に混ぜても構わない。
【0026】
加熱反応終了後、調味料はそのまま、或いは濃縮してペースト状として用いてもよく、若しくは乾燥、例えばスプレードライヤーやドラムドライヤー、減圧乾燥、凍結乾燥機などにより粉末化することも可能である。
【0027】
本発明の加熱工程では、高温で処理が可能なため、一般生菌、大腸菌群、酵母類、嫌気性ガス発生菌や55℃生育菌、耐熱性菌などの殺菌も可能である。特に食品殺菌試験の指標菌でもある耐熱性菌Geobacillus stearothermophilus(以下、G.stearothermophilusと略す)についても殺菌効果を有する。
【0028】
本発明で得られる調味料は、広い分野に応用でき、スープ類、調味料類、ふりかけ類、インスタント食品やスナック食品類、缶詰食品、レトルト食品、その他広範な食品用として使用可能である。特にpH6~8のような中性域において保温販売する缶詰類であっても耐熱性菌に由来する変敗やガス発生のリスクが著しく下げられるため、本発明で得られた調味料が添加される調理食品は風味や食感に影響するテクスチャーを崩すような過剰な加熱殺菌を避け、温和な条件での殺菌が可能である。
【0029】
<グルタミン酸とグルタミンの測定方法>
上記調味料原料におけるグルタミン酸含量の測定は、例えば、グルタミン酸用とグルタミン用の酵素電極を各々装備したバイオセンサーBF‐5(王子計測製)を用いて、或いは全自動アミノ酸分析計(日立社製)を用いて常法のグルタミン酸定量法により測定することができる。前者では酵母エキス中のグルタミン酸或いはグルタミン含量がそれぞれ 5nmol/L以下となるよう超純水で希釈したものをサンプルとして供試した。
【0030】
<グルタチオンの測定方法>
また、前記調味料原料におけるグルタチオン含有量は、HPLC(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)を用い、グルタチオンとその派生物をも含めて測定することが可能である。例えばグルタチオン含量が0.2g/L以下となるよう超純水で適宜希釈したものを測定サンプルとし、カラムはODSカラム(内径:4.6mm、長さ:150mm、粒径:5μm)、溶離液はメタノールとヘプタンスルホン酸を適宜添加した0.05Mリン酸バッファーを使用した。検出はUV210nmで行った。サンプルを注入して得られたピークの面積からグルタチオン含量を求めた。
【0031】
<核酸の測定方法>
グアニル酸、イノシン酸の含有量は、HPLC(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)を用い、シチジル酸、アデニル酸、ウリジル酸などの核酸類と共に測定することで得られる。例えば調味料中の核酸含量が各々0.02%以下となるよう超純水で適宜希釈したものをサンプルとし、カラムはMCL GEL CDR10 (4.6mm×250mm)(三菱化学社製)を用い、移動相には2M酢酸-酢酸アンモニウム(pH3.3)を使用した。検出はUV260nmで行った。あらかじめ濃度を定めた試薬標準品をそれぞれ試験サンプルと共にHPLCに供試し、得られるピーク面積を比較することで含有量を求めた。
【0032】
<濁度と着色の測定方法>
本測定に使用するサンプルはあらかじめ10,000rpmで3分間遠心分離を行い、澱などの不溶物を除去して供試した。着色は波長520nmでの吸光度を測定し、この時の強度は赤色の呈色の強さとして評価した。同様に430nmでの吸光度も測定し強度は黄色への呈色の強さとして評価した。濁度は波長600nmでの吸光度を測定し、評価した。
【0033】
<有機酸・ピログルタミン酸測定方法>
測定対象となる有機酸とは、α―ケトグルタル酸、クエン酸、マロン酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸、乳酸、ギ酸、酢酸、ピログルタミン酸の計10種類である。測定したいサンプルを凡そその有機酸含量が200ppm前後となるよう超純水で希釈し、pH緩衝化ポストカラム電気伝導度検出法によるHPLC分析により測定した。カラムはShim-pack SCR-102H ×2を用いた。
【0034】
<耐熱性菌評価>
本実施例では滅菌試験の標準的な指標菌であるG.stearothermophilusから市販菌株である MMID 1607170(三井農林社製)を選択した。実施例1~5の試験に際して、本菌の芽胞が希釈後10の4乗個となるよう、調味料原料サンプルを加温する直前に適宜投入した。加熱試験後回収した液から1mLを滅菌済みファルコンチューブに移して100℃5分間湯浴で加熱処理する。生菌のみ殺したのち、1mLを滅菌水9mLで10倍希釈する。並行して作成しておいた滅菌済み標準寒天培地が50℃以下であることを確認後、希釈サンプル1mLを滅菌済みシャーレに移し、そのプレートに培地9mLを注ぎ、素早く混釈する。培地の固化を確認し、55℃のインキュベータにて72時間培養後、コロニーをカウントして死滅率を評価した。
【0035】
<官能評価1>
官能評価1は、訓練されたパネラー4名により、香り、風味、旨味、コク、塩味の各試験区を比較官能し、その強弱を‐1.0~+1.0点の20段階で評価した。なお、プラスは標準品より「濃い」ことを示し、マイナスは「薄い」ことを示す。評価結果を、表3(高核酸系グルタミン酸調味料)、表6(高グルタミン酸系調味料)、表9(高グルタミン酸系核酸調味料)、表12(高グルタチオン系調味料)に示す。標準品はテストに供試した調味料原料の粉末市販品を用いた。
<評価項目>
香り:サンプルを嗅いだときの匂い
風味:口に含んだ時の匂い、のみ込んだ時に戻ってきた匂いと味
旨味:ダシのような味
コク:味の持続性、広がり、厚み
塩味:口に含んだ時の塩味
<評価基準>
評価段階 評価基準
(+/-)0.0: 標準品と同等
(+/-)0.1~0.2: 標準品と微差であり、同等と言える範囲
(+/-)0.3~0.5: 許容範囲内
(+/-)0.6~0.7: 差を感じるが許容範囲内
(+/-)0.8~0.9: 大きな差を感じる
(+/-)1.0: かなり大きな差を感じる
【0036】
<官能評価2>
官能評価2は、段落0034と同様に訓練されたパネラー17名により、全体のかおり1項目を標準品と比較し、0~1点(0.1点刻み)で評価した。1回の評価は標準品(従来加熱方法)と評価サンプル(本発明実施品)を比較評価した。パネラーには対象サンプル名がわからないよう実施した。評価結果を、表13(生揚げ醤油の火入れ)に示す。標準品はテストに供試した調味料原液を用いた。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
<実施例1>
(1)高核酸系グルタミン酸調味料の製造
実施例1
キャンディダ・ウチリス(Candida utilis)(FERM BP-1656)の菌株を予めYPD培地を含む 三角フラスコで種母培養し、これを5L容発酵槽に0.5~1.5%植菌した。培養条件は、槽内液量2L、pH4.5、培養温度30℃、通気1 vvm、撹拌 600rpmで行った。培養液を氷冷しながら回収し、遠心分離により集菌し、湿潤酵母菌体を得た。これを水に再懸濁して、遠心分離し、乾燥重量として約160gの菌体を得た。この酵母菌体を水に懸濁して、全量を1.6 Lとし、次いで湯浴中で加熱し、70℃に逹温後、10分間撹拌しながら70℃に保持してエキスを抽出した。その後、硫酸を添加してpH5.0に調整した。次いで、5’-ホスホジエステラーゼ(製品名:スミチームNP、新日本化学工業社製)を添加し、70℃で6時間インキュベートすることによりヌクレアーゼ処理を行った。ヌクレアーゼ処理後の酵母エキスについて、50℃に調整した後に5’-アデニル酸デアミナーゼ(製品名:デアミザイムG、天野エンザイム社製)を添加し、50℃で3時間インキュベートすることによりデアミナーゼ処理を行った。デアミナーゼ処理後、下記の加熱処理を行った。
なお当該試料中の核酸含量(5’IMP+5’-GMP)は、固形分あたり20重量%、グルタミン酸ナトリウムは、固形分あたり5重量%含有していた。
【0039】
(2)調味料の加熱処理
Steam Infusion 小型UHT装置(PowerPoint international社製)(以下インフュージョン)はプレ加熱温度120℃、本加熱温度140℃、減圧冷却管120℃若しくは0.12MPaに加温し、一次冷却管が110℃に達温してから15分間温度を維持して加熱ラインを滅菌した。終了後、プレ加熱温度80℃とし、本加熱150℃、加熱保持時間はそれぞれ10秒/20秒/30秒と条件設定し、フラッシュ冷却温度は80℃となるよう真空圧力を調整した。並行してウォーターバスを用いて(1)において取得した製造例1調味料原液5Lを温和に58~60℃へ加温溶解した。インフュージョンの各所運転温度が安定したら、加温中のサンプルを投入し、20L/hr若しくは30L/hrで処理し、サンプルは速やかに冷却後冷凍保管し、実施例1の組成物とした。なお、官能評価に用いた標準品は、スチームインジェクション方式で行った。加熱温度120℃、滞留時間10秒、加熱後の冷却は、間接冷却方式で冷却した(実施例2~5も標準品は、同様の加熱条件)。
【0040】
<実施例2>
(1) 高グルタミン酸系調味料の製造
グルタミン酸高含有酵母エキスは、キャンディダ・ウチリス(Candida utilis)(受託番号 FERM P-21546)を予めYPD培地を含む 三角フラスコで種母培養し、これを5L容発酵槽に0.5~1.5%植菌した。培養条件は、槽内液量2L、pH4.5、培養温度30℃、通気1 vvm、撹拌 600rpmで行った。培養液を氷冷しながら回収し、遠心分離により集菌し、湿潤酵母菌体を得た。これを水に再懸濁して、遠心分離し、乾燥重量として約160gの菌体を得た。この酵母菌体を水に懸濁して、全量を1.6 Lとし、次いで湯浴中で加熱し、70℃に逹温後、10分間撹拌しながら70℃に保持してエキスを抽出した。この後直ちに流水中で冷却し、遠心分離により不溶性固形分を除去しエキスを得た。液温を50℃とした後、グルタミナーゼ ダイワC100S(大和化成製)の4.4gを少量の水に溶解後添加し、40~60℃で5時間、撹拌しながら反応させた。このエキスを90~95℃で30分間加熱し、冷却した後、遠心分離によりエキス中の不溶性固形分を再度除去した。得られたものを下記の加熱処理をした。なお当該試料中の核酸含量(5’IMP+5’-GMP)は、固形分あたり0.3重量%、グルタミン酸ナトリウムは、固形分あたり31重量%含有していた。
【0041】
(2)調味料の加熱処理
本加熱温度と加熱保持時間は、140℃4秒、140℃15秒、140℃30秒、150℃30秒として実施した以外は段落0037と同様。得られたサンプルを実施例2の組成物とした。
【0042】
<実施例3>
(1) 高グルタミン酸系核酸調味料の製造
酵母エキスの試作には、キャンディダ・ウチリス(受託番号 FERM P-21546)株の培養液を用いた。供試菌株を予めYPD培地を含む 三角フラスコで種母培養し、これを5L容発酵槽に0.5~1.5%植菌した。培養条件は、槽内液量2L、pH4.5、培養温度30℃、通気1 vvm、撹拌 600rpmで行った。培養液を氷冷しながら回収し、遠心分離により集菌し、湿潤酵母菌体を得た。こ段落0037れを水に再懸濁して、遠心分離し、乾燥重量として約21gの菌体を得た。
ここに得られた酵母に水を加え、全量を200mlとし、次いで,湯浴中で加熱し、90℃に逹温してから、90℃で2分間加熱した。この後直ちに流水中で冷却し、その後、硫酸を添加してpH5.0に調整した。次いで、5’-ホスホジエステラーゼ(製品名:スミチームNP、新日本化学工業社製)を添加し、70℃で6時間インキュベートすることによりヌクレアーゼ処理を行った。ヌクレアーゼ処理後の酵母エキスについて、50℃に調整した後に5’-アデニル酸デアミナーゼ(製品名:デアミザイムG、天野エンザイム社製)を添加し、50℃で3時間インキュベートすることによりデアミナーゼ処理を行った。デアミナーゼ処理後、下記の加熱処理を行った。なお当該試料中の核酸含量(5’IMP+5’-GMP)は、固形分あたり3重量%、グルタミン酸ナトリウムは、固形分あたり25重量%含有していた。
【0043】
(2)調味料の加熱処理
本加熱温度と加熱保持時間は、140℃4秒、140℃15秒、140℃30秒、150℃30秒として実施した以外は段落0037と同様。得られたサンプルを実施例3の組成物とした。
【0044】
<実施例4>
(1) 高グルタチオン系調味料
還元型グルタチオン15%含有酵母エキス(「ハイチオンエキスYH15」興人ライフサイエンス社製)を用いて加熱処理の影響をみた。当該酵母エキスを30%懸濁液となるように水に懸濁した後に、下記の加熱処理を行った。なお当該試料中の核酸含量(5’IMP+5’-GMP)は、固形分あたり0.1重量%、グルタミン酸ナトリウムは、固形分あたり7重量%、還元型グルタチオンは、固形分あたり15重量%含有していた。
【0045】
(2)調味料の加熱処理
本加熱温度と加熱保持時間は、140℃4秒、140℃15秒、140℃30秒、150℃30秒、150℃60秒として実施した以外は段落0037と同様。得られたサンプルを実施例4の組成物とした。
【0046】
<実施例5>
(1)グルタミン酸ナトリウム塩のサンプル調整
グルタミン酸ナトリウム・1水和物(大像社製)を製造例2で用いた高グルタミン酸系調味料と同一の含量かつpHとなるよう調整した。目標グルタミン酸ナトリウム無水和物含量を12%として試薬は水分子1個を考慮し、もとの1.1倍添加。6N、9N、12Nの希塩酸でpH5.5とした。量りとった試薬をイオン交換水に溶かして5Lへメスアップした。
【0047】
(2)調味料の加熱処理
本加熱温度と加熱保持時間は、140℃4秒、140℃15秒、140℃30秒、150℃30秒として実施した以外は段落0037と同様。得られたサンプルを実施例5の組成物とした。
【0048】
<実施例6>
(1)生揚げ醤油の調整方法
市販の生揚げ醤油を使用し、下記条件で本発明の加熱処理方法を実施した。
【0049】
(2)調味料の加熱処理
インフュージョンはプレ加熱温度120℃、本加熱温度140℃、減圧冷却管120℃若しくは0.12MPaに加温し、一次冷却管が110℃に達温してから15分間温度を維持して加熱ラインを滅菌した。終了後、プレ加熱温度80℃とし、本加熱温度と加熱保持時間はそれぞれ130℃4秒、140℃4秒、140℃30秒、150℃30秒、と条件設定し、フラッシュ冷却温度は75℃となるよう真空圧力を調整した。インフュージョンの各所運転温度が安定したら、5℃で冷却中のサンプルを投入し、20L/hr若しくは30L/hrで処理し、サンプルは速やかに冷却保管し、実施例6の組成物とした。なお、官能評価に用いた標準品は、80℃ウォーターバスで達温後30分保持する方式で取得した。
【0050】
<実施例1の評価>
(高核酸系グルタミン酸調味料)
実施例1により得られた調味料において表1に示す通り150℃4秒では1.1倍ほど着色は進むものの加熱保持時間の異なる試験区間に明確な差はなく、濁りに至っては加熱前後で差はなかった。
味質においては全てプラス(「濃い」)方向に評価されており、150℃10秒では一旦伸び悩むものの、風味、香り、旨味とも加熱保持時間に応じて向上させることができた。この時風味は「芳ばしい」の評価がなされており、メイラード型の風味の増加だと考えられる。150℃30秒に至っても良好な風味であり、総合的な嗜好性は失われていなかった。当該調味料の呈味性に寄与するグアニル酸とイノシン酸は150℃30秒でも90%以上、またグルタミン酸ナトリウムも80%以上残存しており、バッチ加熱では120℃でも3割以上壊れるといわれていることから考えて呈味性寄与成分の破壊を最少減に抑えながら風味の改善を図れることが示唆された。加熱保持時間は蒸気と混合する加熱クッカーから減圧冷却缶の間に取り付けられた滞留管の長さで決まるため、その時間制御は容易であった。他方、耐熱性菌G.stearothermophilusの殺菌性を確認した結果150℃4秒では1,000分の1以下の死滅を確認できたことから、食品変敗の原因となる微生物を抑えた調味料を提供できる可能性が推察された。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
<実施例2の評価>
(高グルタミン酸系の調味料)
実施例2により得られた調味料の比較結果を示す。実施例1においてはインフュージョンでの加熱により風味の向上と呈味性寄与成分破壊の抑制が示唆されたため、一般的に知られた製造法と比較して本製造法が優れているのか別の調味料での実施例と合わせ比較した。公知の方法としては特許文献1と非特許文献2を参考に調味料原料をガラス瓶に入れ、オートクレーブにてそれぞれ105℃40分或いは、120℃60分の加熱を行った。結果は表5、表7に示す。140℃4秒では表5に示す通り、濁りと着色共に約2倍増加していた。しかし、150℃含め、インフュージョンによる加熱では加熱保持時間の違いによる差異は認められなかった。一方で、既存の製法では加熱前と比較して濁りで10倍、着色で約5倍以上の増加がみられた。加熱前後での味質は、表5で示す通り、嗜好性を失うことなく香りの増加を見出したものの、旨味とコク味は標準品よりも「薄く」なる傾向がみられた。しかし105℃40分と120℃60分の加熱ではうま味が失われ、ピリピリとした刺激と酸味、有機溶媒に類似した不快な風味が付与されており、当該調味料は加熱による風味の劣化が激しいものと推察された。インフュージョンでは140℃15秒加熱で風味の向上が認められること、同時に呈味性に寄与するグルタミン酸の分解が150℃30秒加熱においてもほとんど見られないことから、本製造法が既存より優れていることが裏付けられた。耐熱性菌G.stearothermophilusの殺菌性を確認した結果140℃4秒では1,000分の1以下の死滅を確認し、プレート法ではコロニーが生えてこなかったことから、微生物フリーの調味料を提供できる可能性が裏付けられた。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
<実施例3の評価>
実施例3で得たサンプルの比較評価結果を示す。結果は表7~9に示す。140℃4秒では表8に示す通り、濁りと着色共に約2倍増加していた。一方、実施例2同様、150℃含め、インフュージョンによる加熱では加熱保持時間の違いによる差異は認められなかった。しかし、既存の製法では加熱前と比較して濁りが10倍に増加した一方、着色で約2倍以上の増加がみられたものの。実施例2と並べれば既存法より全体的に温度への変化は緩やかであると言えた。殺菌前後での味質は、表6で示す通り、嗜好性を失うことなく香りの増加を見出したものの、旨味とコク味は標準品よりも「薄く」なる傾向がみられた。しかし105℃40分と120℃60分の加熱ではうま味が失われ、有機溶媒に類似した不快な風味とシイタケ様の香気を呈していた。インフュージョンでは140℃30秒加熱で風味の向上が認められ、同時に呈味性に寄与するグルタミン酸の分解が150℃30秒加熱においても見られず、グアニル酸とイノシン酸も99%残存していた。なお、耐熱性菌G.stearothermophilusの殺菌性については140℃4秒で1,000分の1以下の死滅を確認し、平板培養法ではコロニーが生えてこなかった。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
<実施例4の評価>
実施例4で得たサンプルの比較評価結果を示す。結果は表10~12に示す通り。140℃4秒では表8から、濁りは1.3倍増加していた一方、着色はむしろ下がっており、105℃40分と120℃60分の加熱では濁度は2倍弱以上あるが、着色は赤色で元の2割、黄色で7割にまで減少していた。他方、味質については香りが概ね加熱保持時間と正相関をみせるが、風味は基本的に標準品より強く、140℃15秒と150℃30秒に極大値をとるピークが存在する。これに対して風味とコク味は逆相関を示しており、上記2つのピーク条件では標準品よりもわずかに強度が下がって穏やかな口当たりとなっている。スコアが全てプラスとなる条件が存在し、その加熱条件は140℃30秒のときであった。実施例2同様、150℃含め、インフュージョンによる加熱では加熱保持時間の違いによる濁りや着色の差異は認められなかった。しかし120℃60分の加熱ではうま味が失われ、ネギ臭とニンニク臭に類似した不快な香りと風味を有していた。105℃40分加熱では、有機溶媒に類似した不快な硫黄臭の混じる匂いを呈していた。インフュージョンでは140℃15秒加熱以降でグルタチオンが、わずかに減少の進む傾向が示唆されたものの、150℃60秒でも加熱前と比較して94%残存していた。しかし、バッチ加熱による105℃40分間では30%弱まで、120℃60分間では2%まで激減していた。なお、耐熱性菌G.stearothermophilusの殺菌性については初発10の3乗個、140℃4秒で1桁の減少となり、140℃15秒で完全死滅を確認した。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
<実施例5の評価>
実施例5により加熱後得られた液に関する評価結果を表13~15で示す。本実施例は、pHと原液濃度を調味料サンプルと同一に揃えた場合、純粋な呈味寄与成分単体では加熱処理によりどのような影響があるのか、それが調味料中の呈味寄与成分の熱による影響とどのように異なるのか、言い換えると調味料ごとに呈味寄与成分は異なる振る舞いをするのか検証する目的でテストを実施した。
純品での結果、表14で示す通り、150℃60秒間の加熱を行ってもほとんど分解しないということが分かった。105℃40分間でも97%残存しており、120℃60分間でも88%残存していた。グルタミン酸は低pHや高pHでは加熱により分子内で縮合してラクタム環を生成し、ピログルタミン酸へ転換することが知られている。しかし、表14と15からピログルタミン酸以外の非有機酸物質生成が示唆された。さらに表16において150℃30秒で各調味料を比較すると、加熱強度に対する減衰率が異なっており、一般的に流通している調味料内の呈味性寄与成分の減衰率もその成分組成に依存した推移を示すと考えられる。本テストで用いた調味料原料組成の大きな違いの一つとして、全アミノ酸含量が挙げられるものの、天然物質故に複雑かつ複数の反応が同時進行するがために原因の確定は困難である。しかし、本特許を用いた調味料の製造方法では、呈味性寄与成分の破壊を最小限に抑えながらも、それぞれの調味料に応じた制御性に優れる風味付与が可能となる。また、耐熱性菌を死滅させながらも加熱保持時間を落とすことで、調味料原料のフレッシュな風味・香気を生かし、加熱による風味付与を抑える制御も可能である。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
<実施例6の評価>
実施例6で得たサンプルの比較評価結果を示す。本実施例は酵母エキス以外の調味料においても本特許による調味料製造法が適用可能か調べることを目的として実施した。結果は表15~17に示す通り。加熱前と比較し、一般的製法の80℃30分からインフュージョン130℃、140℃、150℃のまで、加熱強度に応じて着色は増加。520nmでは最大3.7倍、430nmでは1.9倍となった。一方で、旨味の呈味成分であるグルタミン酸は、80℃30分では加熱前サンプルより減少している半面、インフュージョンによる加熱130~150℃では遊離たんぱく質の一部が分解することにより、150℃では102%まで増加する傾向にあった。火入れ醤油の特徴である火香は150℃30秒で概ね同力価のサンプルが得られた。また、140℃30秒では火入れ前と同等の力価を保持できた。しかし、それ以下の加熱強度では異なる香りのパターンが生じており、140℃4秒では鰹節だし様の軽くて旨味にとんだ華やかな香気に変化した。さらに130℃4秒では140℃4秒の風味のまま、その香気の力価だけで全てのサンプルを上回る評価を示した。なお、本サンプルからは耐熱性菌G.stearothermophilusが検出されず、殺菌性については一般生菌が初発10の2乗、130℃4秒で完全死滅を確認した。本特許による加熱方式は、プレート式熱交換器やバッチ式加熱では再現できない新たな調味料として利用できることがわかった。それは、目的の温度まで一瞬かつ過加熱の無い昇温ができることにより、通過温度帯でそれぞれ至適温度をもつ酵素反応などを回避できる。加熱による香味付与はメイラード反応群だけでなく、ストレッカー分解反応によっても生じ、且つそれぞれの基質の分解と縮合の至適温度は異なることが知られている。供試する液体が複雑な混合物である場合、温度を上げれば比例してメイラード臭が増すという単純なものではないことも本実施例のより示すことができた。すなわち、温度が異なれば、香りのプロファイルも異なる。140℃4秒品と130℃品は、温度が異なれば、異なる風味の調味料を製造できることを示した。130℃試験区は既存の醤油には存在しない、新しい風味をもつ醤油をも製造できることを示した。
【0071】
<表16>
表16:生揚げ醤油における加熱前後での着色の変化
【0072】
<表17>
表17:生揚げ醤油における加熱前後での呈味性寄与成分の含量
【0073】
<表18>
表18:生揚げ醤油の加熱による火香着香
【0074】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、種々の条件変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
一般的に流通している調味料内の呈味性寄与成分の減衰率もその成分組成に依存した推移を示すと考えられるが、調味料の大部分は自然界から得られる動植物から得たものを混合、発酵、熟成、加熱、振動などにより加工している。本特許を用いた調味料の製造方法では、150℃でも瞬時に昇温でき、加熱保持時間と加熱温度をきわめて正確かつ応答性速く制御できる利点を生かし、上述したどの食品でもそれに応じた加熱条件で呈味性寄与成分の破壊を最小限に抑え、同時に制御性に優れる風味付与が可能となる。タンクを利用するバッチ加熱と異なり、流量を調整することで処理量を自由に変えられ、また連続的に短時間で処理することができる。さらに大型タンクが不要なことは、洗浄時の薬剤や洗浄水、電気、マンパワーといった資源を節約できることから、多品種少量生産のような現場にも利用できる優れた製造手法である。本発明は、高温で処理しているにも関わらず、呈味性への影響を抑えているので、今後さらに厳格化と需要が拡大するであろう品質保持期間の長い食品へ利用可能な調味料を提供する上で、本製造方法は食品変敗の原因となる滅菌の難しい耐熱性菌も加熱過程で死滅・不活性化できることから、幅広い食品で利用されてゆくことが期待される。