(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】産業、機械及びレストラン機器を維持する材料及び方法
(51)【国際特許分類】
B08B 3/08 20060101AFI20230412BHJP
B08B 1/00 20060101ALI20230412BHJP
B08B 7/02 20060101ALI20230412BHJP
B08B 3/02 20060101ALI20230412BHJP
B08B 7/04 20060101ALI20230412BHJP
B08B 3/10 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
B08B3/08 Z
B08B1/00
B08B7/02
B08B3/02 Z
B08B7/04 A
B08B3/10 Z
(21)【出願番号】P 2019555228
(86)(22)【出願日】2018-04-09
(86)【国際出願番号】 US2018026727
(87)【国際公開番号】W WO2018191174
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-03-29
(32)【優先日】2017-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519246261
【氏名又は名称】ローカス アイピー カンパニー、エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】ファーマー、ショーン
(72)【発明者】
【氏名】アリベック、ケン
【審査官】大内 康裕
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-517508(JP,A)
【文献】米国特許第07556654(US,B1)
【文献】特開2009-207493(JP,A)
【文献】特開2011-182660(JP,A)
【文献】特開2009-296908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 1/00~13/00
A47L 1/00~ 4/04
A47L 11/00~13/62
A47L 23/00~25/12
C11D 1/00~19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面から汚染物質をクリーニングする方法であって、
溶媒及び/又はキレート化剤とともに、酵母発酵生成物を含むクリーニング組成物を前記表面に適用し、
前記クリーニング組成物を、前記汚染物質
が除去
されるまでの時間前記表面に浸漬させ、
前記クリーニング組成物及び前記汚染物質を、前記表面から除去することを含み、
前記表面は、エンジン又はその一部であり、及び/又は、前記表面は、カウンター、オーブン、ストーブ、グリーストラップ、シンク、家庭用器具、床、排水管やそれらの一部から選択されるレストラン及びキッチン機器であり、
前記溶媒は、イソプロピルアルコール、エタノール又は酢酸エチルであり、
前記キレート化剤は、クエン酸ナトリウム、クエン酸、EDTA、又はこれらの組み合わせであり、
前記酵母発酵生成物は、不活性な生化学生成酵母及び/又は生化学生成酵母の培養から得られる発酵ブロスを含み、
前記生化学生成酵母は、
Wickerhamomyces anomalus及び/又は
Starmerella bombicolaである、方法。
【請求項2】
前記クリーニング組成物は、スプレーにより前記表面に適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記スプレーは、スプレーボトルを用いてなされる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記スプレーは、加圧スプレーデバイスを用いてなされ、前記組成物は、1,000psi~7,000psiの圧力でスプレーされる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記加圧スプレーデバイスは、パワーウォッシャー又は高圧洗浄機である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記クリーニング組成物は、布又はブラシを用いて、前記表面に擦る、広げる、又は摺る請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記クリーニング組成物を適用することは、前記表面を、前記クリーニング組成物が中に入った容器に、漬ける、浸す、又は沈めることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記クリーニング組成物及び汚染物質を除去することは、水で前記表面を濯ぐ、又は水を前記表面にスプレーすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記クリーニング組成物及び汚染物質を除去することは、前記クリーニング組成物及び汚染物質が、前記表面からなくなるまで、布で表面を擦る、又は拭くことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記表面を前記布で擦る、又は拭く前及び/又は後に、前記表面を水で濯ぐ又は水をスプレーする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記酵母発酵生成物は、酵母の成長副生成物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記成長副生成物は、バイオサーファクタントである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記クリーニング組成物は、さらに、精製されたバイオサーファクタントを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記酵母発酵生成物は、前記酵母細胞を含まない前記発酵ブロスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記バイオサーファクタントは、ソホロリピド、ラ
ムノリピド、マンノシルエリスリトールリピド及びホスホリピドから選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記汚染物質は、脂肪、油及びグリース(FOG)、炭化水素堆積物、アスファルテン、パラフィン、ワックス、樹脂、バイオフィルム、スケール、スラッジ、泥及びダストから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記方法を用いて、配水管、チューブ、パイプ及びグリーストラップから選択される管類の詰まりを除去する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願を相互参照
本出願は、2017年4月9日出願の米国仮出願第62/483,426号の優先権を主張するものであり、内容を参照することにより組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
レストランやその他産業で用いられる機器は、腐食を引き起こしたり、好ましくない汚染物質の蓄積につながる様々な材料と接触する。これは、機器の操業に支障をきたしたり、その他製造を妨害する可能性がある。汚染物質が固体表面に蓄積すると、「汚損」となる。汚損に関連する汚染物質は、生体(すなわち、生物汚損)及び/又は非生体有機又は無機物質である。
【0003】
汚損は、略全ての産業、例えば、化学処理、石油ガス、パルプ製紙、農業、水産業、一般製造業、食品加工及び食品サービスに影響する。金属及び非金属機器表面の両方共、油、グリース及びその他疎水性、有機及び/又は無機汚染物質により汚染され得る。
【0004】
多くの製造、食品加工及び産業機器において、例えば、液体廃棄物は下水道に廃棄されている。廃棄物には、脂肪、油及びグリース(FOG)及びその他汚染物質が含まれていることが多く、経時により、汚染物質が蓄積して、パイプが詰まる。一般的に、腐食性の排水管クリーナーによりパイプをクリーニングし、パイプを機械的に点検したり、パイプを交換することにより、この問題に対応している。
【0005】
レストランや食肉処理場では、この問題を軽減するために、グリーストラップを用いることが多いが、たとえ、グリーストラップが排水システムに含まれていても、恒久的な固体グリース層が、グリーストラップの水面上に形成され、ポンプアウトが必要となる。
【0006】
他の状況においては、液体廃棄物は、腐敗性タンクや排水域(又は浸出域)に廃棄される。排水域は、一般的に、一連の溝を有しており、穿孔パイプと、溝を埋める岩や砂利のような多孔性材料で構成される。砂利は、土壌層で覆われている。廃水を、排水域に廃棄すると、廃水中の高濃度の、例えば、FOGによって、岩へのグリースの堆積につながる。経時により、シールが形成され、水が排水域パイプへ流れるのを阻止する。こうした問題は、排水域を掘って、新たな材料と交換することで解決されていることが多い。
【0007】
石油ガス産業において、構造破壊や製造非効率の共通の原因は、抗井、管類、動線、貯蔵タンク、セパレータ、タンカートラック、及び炭化水素製造インフラのその他コンポーネント周囲の汚損堆積物の形成である。こうした問題のある堆積物は、例えば、石油流体、特に、パラフィン、スケール及びアスファルテン等の高分子量成分により形成される。堆積物の薄い層が表面に形成されると、蓄積速度がさらに大幅に増大する。これにより、例えば、管及びパイプを通る炭化水素の流れが完全にブロックされてしまう。
【0008】
さらに、バイオフィルムは、様々な産業で用いられる構造及び処理機構において堆積する。「バイオフィルム」は、ポリマー物質の細胞外マトリックスに囲まれたコンパクトなグループでできたバイオマス層を含む。バイオフィルムは、多くの機構、タンク及び管の表面に貼りつき、適正な機能を大幅に損なわせるものである。例えば、バイオフィルムは、管及びパイプの内側表面で生物汚損を招き得る。たとえ少量であっても、バイオフィルムは、これらの構造の妨げとなる、場合によっては完全にブロックしてしまい、例えば、水、油及び/又は気体の循環のための利用可能な空間が減じる。
【0009】
堆積物の蓄積には、コンパウンド効果がある。堆積物が除去されないと、作業者は、例えば、製造収率の低下、機器の不適切な機能、高クリーニングコスト、環境汚染や製造の全喪失の可能性といったことに直面することとなる。特定の機械、化学、熱及び生物学的除去方法は、多くの異なる産業において、汚損汚染物質のクリーニングについて知られているが、こうした従来のクリーニング製品や方法の大半を用いて、汚染物質を除去するのは、尚、困難かつ高価である。
【0010】
多くの水性の工業用及び家庭用洗剤は、酵素と界面活性剤の混合物を含む。酵素は、主に、有機化合物を攻撃又は分解する役割を果たし、界面活性剤は、分解した粒子を水相に分散する作用をする。他の潜在組成物は、苛性、アルカリ又はアルカリ金属カチオンのようなアルカリ成分を含む。しかし、これらのアルカリ洗剤は常に理想的なわけではない。環境に厳しい化学薬品は放出されると、有害な汚染物質となるからである。さらに、アルカリ洗剤は、油脂を固体にして、下水道パイプやタンク内側に集まる上皮を形成する。
【0011】
微生物や酵素の使用を含めた、汚損の問題を是正するために、数多くの生物学的プロセス及び組成物が開発されてきた。しかしながら、これらの組成物の中には、バッチによって、不安定かつ収率の変わる結果となるものがあることが分かった。他の組成物は、特定の汚染についてのみであり、大量の様々なその他FOGや汚損物質を含む廃棄物による問題には対応しない。各処理にはそれぞれに利点があるが、コスト、処理の安全性、大規模持続可能性、及び環境へのダメージといった欠点も多い。
【0012】
例えば、パイプや配水管を詰まらせる、エンジンその他機械機器を汚損し、貯蔵タンクやタンカーに堆積する脂肪、油、グリース及びその他汚染物質を乳化及び消化するのに、非毒性及び非汚染組成物が必要とされている。
【0013】
従って、様々な製造及びサービス産業にわたって、機器表面に堆積する汚染物質やその他汚損物質の、より普遍的、強力かつ環境に優しい除去方法が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、機器及び機器表面から汚染物質を効率的に除去することにより、様々な産業における製造を維持及び/又は改善する、酵母ベースの生成物、及びその使用方法を提供する。
【0015】
好ましい実施形態において、本発明は、例えば、機器及び機器表面から汚染物質を効率的に除去することにより、様々な産業における製造を維持及び/又は改善する酵母ベースの生成物及びその使用方法を提供する。このような汚染物質としては、これらに限られるものではないが、脂肪、油、グリース、スケール、パラフィン、アスファルテン、リピド及び/又はバイオフィルムが挙げられる。
【0016】
好ましい実施形態において、本発明は、生化学製造酵母及び/又は例えば、バイオ界面活性剤、溶媒及び/又は酵素等、成長副生成物を用いた産業機器をクリーニングする材料及び方法を提供する。本発明の酵母ベースの組成物及び方法は、環境に優しく、操作が簡単で、コスト効率が良く有利である。
【0017】
好ましい実施形態において、本発明は、産業機器をクリーニングする、酵母及び/又はその成長副生成物を含む、酵母ベースのクリーニング組成物を提供する。
【0018】
ある特定の実施形態において、酵母ベースの組成物は、微生物Starmerella bombicola及び/又はその成長副生成物を含む。一実施形態において、微生物は、例えば、Wickerhamomyces anomalus(Pichia anomala)及び/又はその成長副生成物のような「キラー酵母」菌株である。
【0019】
特定の実施形態において、本発明の酵母は、他の化学及び/又は微生物処理と共に用いることができる。
【0020】
特定の実施形態において、本発明の組成物は、例えば、バイオサーファクタント、溶媒及び/又は酵素単体に対して次のような利点がある。酵母細胞壁の外側表面の一部に高濃度のマンノタンパク質がある、酵母細胞壁にベータグルカンが存在している、培養物にバイオサーファクタント、その他代謝物及び/又は溶媒(例えば、タンパク質分解酵素、脂肪分解酵素、エタノール、酢酸エチル等)が存在している。
【0021】
一実施形態において、本発明の組成物は、小規模から大規模の培養プロセスにより得られる。培養プロセスは、例えば、液内培養、固体発酵(SSF)及び/又はこれらの組み合わせである。
【0022】
一実施形態において、本発明は、産業機器からの汚染物質又はその他汚損物質をクリーニングするのに用いることのできる酵母発酵生成物を提供する。好ましくは、酵母発酵生成物中の酵母は、クリーニング組成物として生成物を使用する前に不活性化される。
【0023】
酵母発酵生成物は、バイオサーファクタント生成及び/又は代謝物生成酵母、例えば、Pichia anomala(Wickerhamomyces anomalus)の培養(ここでは「Star3+」処理と呼ぶ)により得られる。25~30℃での7日間の培養後の発酵ブロスは、酵母細胞懸濁液と、例えば、4g/L以上のバイオサーファクタントとを含む。
【0024】
酵母発酵生成物はまた、バイオサーファクタント生成及び/又は代謝物生成酵母、例えば、Starmerella bombicolaの培養(ここでは「Star3」処理と呼ぶ)によっても得られる。25℃での5日間の培養後の発酵ブロスは、酵母細胞懸濁液と、例えば、150g/L以上のバイオサーファクタントとを含む。
【0025】
好ましい実施形態において、本発明は、生化学生成酵母及び/又はその成長副生成物を含む組成物を、機器に適用することによって、産業機器をクリーニングする効率的な方法を提供する。
【0026】
特定の実施形態において、本方法を用いて、浄化、汚損除去及び/又は詰まり除去の必要な機器の表面をクリーニングする。利点として、本発明の方法を用いると、機器の保守及び適正な機能を改善することにより、産業操業又は機械機器の全体の生産性を改善することができる。
【0027】
酵母は、適用時は、生きている(生存)、或いは不活性とすることができる。好ましい実施形態において、酵母は不活性である。酵母の不活性化は、例えば、熱を用いる等、公知の方法により行うことができる。一実施形態において、本方法は、本発明の酵母ベースの組成物、例えば、Star3+又はStar3等を機器に適用することを含む。
【0028】
クリーニング組成物は、例えば、スプレーボトル又は加圧スプレーデバイスを用いてスプレーすることにより表面に適用することができる。クリーニング組成物はまた、布やブラシを用いて、組成物を表面に擦る、広げる、又は摺ることによっても適用することができる。さらに、クリーニング組成物は、クリーニング組成物を入れた容器に、表面を漬ける、浸す、又は沈めることによって適用することができる。
【0029】
一実施形態において、表面を、クリーニング組成物に十分な時間浸漬させて、汚染物質を除去する。例えば、浸漬は、適宜、12、24、36、48~72時間以上浸漬させる。
【0030】
一実施形態において、本方法は、クリーニング組成物及び汚染物質を表面から除去する工程を含む。例えば、クリーニング組成物及び汚染物質が表面からなくなるまで、表面を水で濯ぐ、又は水をスプレーする、及び/又は表面を布で擦る、又は拭く。水で濯ぐ又は水をスプレーするのは、表面を布で擦る、又は拭く前及び/又は後に行うことができる。
【0031】
他の実施形態において、機械的な方法を用いて、汚染物質及び/又はクリーニング組成物を表面から除去することができる。例えば、汚染物質の量や種類のせいで除去が特に難しい場合でも、撹拌機、ドリル、ハンマー又はスクレーパを用いて、表面から汚染物質をなくすことができる。
【0032】
特定の実施形態において、本発明は、例えば、石油ガス生成に用いられる貯蔵タンク、トラック、パイプ及び管などの産業機器の表面からパラフィンを除去し、及び/又は固体アスファルテンを液化する方法を提供する。かかる方法において、クリーニング組成物は、例えば、イソプロピルアルコール及び/又はエタノール等の溶媒により適用することができる。
【0033】
特定の実施形態において、本方法は、リピド、脂肪、油及びグリース(FOG)を、産業及び機械機器の表面からクリーニングするのに用いられる。例えば、ある実施形態において、本発明は、FOG及びその他汚染物質を、排水管、パイプ、チューブ、自動車及びエンジンからクリーニングするのに用いられる。
【0034】
特定の実施形態において、本発明を用いて、汚染物質が蓄積した機器のピースの詰まり除去をすることができる。例えば、一実施形態において、機器のピースは、例えば、汚染物質で完全に、又は略完全に詰まった配水管、パイプ、チューブ等の管である。さらに他の実施形態において、産業機器は、レストラン、キッチン、食品加工工場や食肉処理場で用いられているような、詰まったグリーストラップである。
【0035】
ある実施形態において、本発明を用いて、グリーストラップ、排水管、浄化槽、廃水(例えば、食肉処理加工場)、ポンプ場及び市政から排出される悪臭を除去することができる。
【0036】
一実施形態において、本発明は、成長及び界面活性剤生成に適切な条件下で、本発明の酵母菌株を培養し、任意で、界面活性剤を精製することにより、バイオサーファクタントを生成する方法を提供する。本発明はまた、本発明の酵母菌株を、成長及び副生成物発現に適切な条件下で、培養し、任意で、成長副生成物を精製することにより、例えば、酵素、溶媒、タンパク質及び/又はその他代謝物のような成長副生成物を生成する方法も提供する。
【0037】
特定の実施形態において、バイオサーファクタントは、酵母により生成もされる溶媒及びその他代謝物と相乗作用する。
【0038】
一実施形態において、本微生物ベースの組成物の酵母は、処理部位で成長し、活性化合物を現場で生成する。従って、例えば、高濃度のバイオサーファクタント及びバイオサーファクタント生成酵母が、処理部位(例えば、レストラン)で容易に継続的に得られる。
【0039】
本発明の酵母ベースの生成物は、例えば、活性代謝物による新たな発酵ブロス、発酵ブロスによる細胞混合物、高濃度の細胞による組成物、即席の酵母ベースの生成物及び酵素ベースの生成物を、遠隔地で効率的に分配する能力のために、様々な独特の設定で用いることができる。
【0040】
利点として、本発明は、大量の無機化合物を環境に放出することなく用いることができる。さらに、本組成物及び方法は、生物分解性で、毒性学的に安全な成分を用いる。このように、本発明は、様々な産業において、「グリーン」処理として用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明は、例えば、機器及び機器表面から汚染物質を効率的に除去することにより、様々な産業において生成を維持及び/又は改善するための、酵母ベースの生成物及びその使用方法を提供する。かかる汚染物質としては、これらに限られるものではないが、脂肪、油、グリース、スケール、パラフィン、アスファルテン、リピド、及び/又はバイオフィルムが挙げられる。
【0042】
好ましい実施形態において、本発明は、生化学生成酵母及び/又はその成長副生成物、例えば、バイオサーファクタント、溶媒及び/又は酵素を用いて、産業機器をクリーニングする材料及び方法を提供する。利点として、本発明の酵母ベースの組成物及び方法は、環境に優しく、操作が簡単で、コスト効率が良い。
【0043】
好ましい実施形態において、本発明は、酵母及び/又はその成長副生成物を含む産業機器をクリーニングするための酵母ベースの組成物を提供する。一実施形態において、酵母は、バイオサーファクタント、溶媒及び/又は酵素生成酵母である。
【0044】
ある特定の実施形態において、酵母ベースの組成物は、Starmerella bombicola及び/又はその成長生成物を含む。一実施形態において、酵母は、「キラー酵母」菌株、例えば、Wickerhamomyces anomalus(Pichia anomala)及び/又はその成長副生成物である。
【0045】
特定の実施形態において、本発明の酵母は、他の化学及び/又は微生物処理と組み合わせて用いることができる。
【0046】
好ましい実施形態において、本発明は、生化学生成酵母及び/又はその成長副生成物を含む組成物を、機器に適用することによって、産業機器をクリーニングする効率的な方法を提供する。一実施形態において、本方法は、本発明の酵母ベースの組成物を機器に適用することを含む。
【0047】
選択した定義
本明細書で用いる、「酵母ベースの組成物」とは、酵母又はその他細胞培養の結果生成された成分を含む組成物を意味する。このように、酵母ベースの組成物は、微生物自体及び/又は微生物成長の副生成物を含む。酵母は、活性又は不活性形態であってよい。酵母は、プランクトン又はバイオフィルム形態、或いはその混合であってよい。成長副生成物は、例えば、代謝物(バイオサーファクタント)、細胞膜成分、発現タンパク質及び/又はその他細胞成分であってよい。酵母は、無傷又は溶解させてよい。細胞は、存在していなくても、又は、例えば、組成物1ミリリットル当たり、1×104、1×105、1×106、1×107、1×108、1×109、1×1010又は1×1011以上の細胞濃度で存在してよい。
【0048】
本発明は、所望の結果を得るために実際に適用される生成物である「酵母ベースの生成物」を提供する。酵母ベースの生成物は、単に、酵母培養プロセスから収穫された酵母ベースの組成物とすることができる。或いは、酵母ベースの生成物は、さらに添加された成分を含んでいてもよい。これらの追加成分としては、例えば、安定剤、バッファ、適切な担体、例えば、水、塩溶液、又はその他適切な担体、適用される環境において、微生物及び/又は組成物の追跡を促す薬剤が挙げられる。酵母ベースの生成物はまた、酵母ベースの組成物の混合物を含んでいてもよい。酵母ベースの生成物はまた、これらに限られるものではないが、ろ過、遠心分離、溶解、乾燥、精製等、何らかの方法により処理された酵母ベースの組成物の1つ以上の成分も含んでいてよい。
【0049】
本明細書で用いる、「バイオフィルム」は、バクテリア、酵母又は菌類といった微生物の細胞が表面で互いに接合した凝集体である。バイオフィルム中の細胞は、液体媒体中に浮かぶ、又は泳ぐ単一細胞である、同じ生物のプランクトン細胞とは生理的に別のものである。
【0050】
本明細書で用いる、「汚染物質」とは、他の物質又は対象を汚損又は汚れさせる物質のことを意味する。汚染物質は、生存又は非生存有機又は無機物質、堆積物である。さらに、汚染物質としては、これらに限られるものではないが、炭化水素、例えば、石油やアスファルテン、脂肪、油及びグリース(FOG)、例えば、食用グリース、植物系油、ラード、リピド、ワックス、例えば、パラフィン、樹脂、バイオフィルム、又はその他物質、例えば、泥、ダスト、スケール、スラッジ、クラッド、スラグ、グライム、上皮、プラーク、ビルドアップ又は残渣がある。
【0051】
本明細書で用いる、「汚損」とは、機器の構造及び/又は機能的統合性を損なうような、機器のピースの表面への汚染物質の蓄積又は堆積を意味する。汚損は、詰まり、閉塞、劣化、腐食及び関連するその他問題を生じ、金属及び非金属構造及び機器の両方で生じ得る。生存生物、例えば、バイオフィルムの結果として生じる汚損は、「生物汚損」と呼ばれる。
【0052】
本明細書で用いる、汚染物質又は汚損に関して用いる「クリーニング」とは、機器の表面又はピースから汚染物質を除去又は減少させることを意味する。クリーニングには、精製、汚損除去、浄化又は詰まり除去が含まれ、これらに限られるものではないが、汚染物質の融解、乳化、溶解、スクレーピング、分解、ブラスティング、浸漬又は分裂をはじめとする任意の手段により行うことができる。クリーニングは、さらに、汚損又は汚染が生じるのを制御、防止又は阻止することを含む。
【0053】
「代謝物」とは、代謝により生成される物質又は特定の代謝プロセスを担うのに必要な物質のことを意味する。代謝物は、代謝の出発材料(例えば、グルコース)、中間体(例えば、アセチル-CoA)又は最終生成物(例えば、n-ブタノール)である有機化合物とすることができる。代謝物としては、これらに限られるものではないが、酵素、毒素、酸、溶媒、アルコール、タンパク質、炭水化物、ビタミン、ミネラル、微量要素、アミノ酸、ポリマー及び界面活性剤が例示される。
【0054】
本明細書で用いる、「界面活性剤」とは、2種類の液体間又は液体と固体間の表面張力(又は界面張力)を下げる化合物を意味する。界面活性剤は、洗剤、湿潤剤、乳化剤、発泡剤及び/又は分散剤として作用する。「バイオサーファクタント」は、生存細胞により生成される表面活性物質を意味する。
【0055】
本明細書で用いる、「単離」又は「精製」核酸分子、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、タンパク質又は有機化合物、例えば、小分子、は、自然に係わる、細胞材料のような他の化合物を実質的に含まない。本明細書で用いる、「単離された」菌株とは、菌株が、自然に存在する環境から取り出されたことを意味する。このように、単離された菌株は、例えば、農業担体に関連する生物的に純粋培養又は胞子(又は菌株の他の形態)として存在する。
【0056】
特定の実施形態において、精製化合物は、当該化合物の少なくとも60重量%である。好ましくは、処方は、当該化合物の少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、最も好ましくは少なくとも99重量%である。例えば、精製化合物は、所望の化合物の少なくとも90重量%、91重量%、92重量%、93重量%、94重量%、95重量%、98重量%、99重量%又は100重量%(w/w)のものである。純度は、例えば、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー又は高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)分析による適切な標準的方法により測定される。精製又は単離ポリヌクレオチド(リボ核酸(RNA)又はデオキシリボ核酸(DNA))は、天然由来の状態の側鎖の遺伝子又はシーケンスを含まない。精製又は単離ポリペプチドは、天然由来の状態で、側鎖の他の分子又はアミノ酸を含まない。
【0057】
ここに挙げた範囲は、その範囲内の値の全てが略されているものとする。例えば、1~20の範囲は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19及び20からなる群からの任意の数、数の組み合わせ、又は下位範囲、同様に、上述した整数間の全ての中間の10進法の値、例えば、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8及び1.9を含む。下位範囲に対して、その範囲のいずれかの終点から広がる「入れ子下位範囲」も具体的に予測される。例えば、1~50の例示範囲の入れ子下位範囲は、一方向からは1~10、1~20、1~30、1~40、他の方向からは50~40、50~30、50~20、50~10である。
【0058】
本明細書で用いる、「減少する」は、少なくとも1%、5%、10%、25%、50%、75%又は100%の負の変化を意味する。
【0059】
本明細書で用いる、「参照」は、標準又は対照条件を意味する。
【0060】
本明細書で用いる、「耐塩性」は、15パーセント以上の塩化ナトリウム濃度で成長し得る微生物を意味する。特定の実施形態において、「耐塩性」は、150g/L以上のNaClで成長する能力を意味する。
【0061】
移行句「含む(comprising)」は、「有する(including)」や「含有する(containing)」と類語であり、包括的又は制約がなく、追加の、挙げられていない要素や方法工程を排除しない。対照的に、移行句「からなる(consisting of)」は、請求項に記載されていない要素、工程又は成分は排除する。移行句「から実質的になる(consisting essentially of)は、請求項の範囲を特定の材料や工程に限定し、請求された発明の「基本的かつ新規な特徴に実質的に影響しないもの」である。
【0062】
特に断りのない限り、本明細書で用いる用語「又は」は、包括的と理解される。特に断りのない限り、本明細書で用いる用語「一つの(a, an)」及び「該、その、前記(the)」は単数又は複数と理解される。
【0063】
特に断りのない限り、本明細書で用いる用語「約(about)」は、業界における一般公差の範囲内、例えば、平均の2標準偏差、と理解される。約は、示した値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%又は0.01%以内と理解される。特に断りのない限り、本明細書に挙げた数値には全て、「約」を付けることができる。
【0064】
本明細書で挙げた化学基は可変で、単一又は組み合わせた基とすることができる。可変の態様として挙げた実施形態は、単一又は組み合わせた実施形態とすることができる。
【0065】
本明細書で挙げた参考文献は全て内容を参照することにより組み込まれる。
【0066】
本発明による酵母菌株
本発明は、生化学生成酵母を用いる。酵母は、天然又は遺伝子組み換え微生物であってよい。例えば、酵母は、特異遺伝子により転換され、特別な特性を示す。酵母はまた、所望の菌株の変異体であってもよい。本明細書で用いる、「突然変異」とは、参照微生物の菌株、遺伝子変異体又はサブタイプを意味し、突然変異は、参照微生物と比べたとき、1つ以上の遺伝子変異(例えば、点突然変異、ミスセンス突然変異、ナンセンス突然変異、欠失、複製、フレームシフト突然変異又はリピート伸長)を有する。突然変異を生じる手順は微生物分野において周知されている。例えば、UV突然変異誘発及びニトロソグアニジンはこの目的で大規模に使われている。
【0067】
本発明により用いるのに好適な酵素(及び菌)種としては、Candida、Saccharomyces(S.cerevisiae、S.boulardii sequela、S.torula)、Issatchenkia、Kluyveromyces、Pichia、Wickerhamomyces(例えば、W.anomalus)、Starmerella(例えば、S.bombicola)、Mycorrhiza、Mortierella、Phycomyces、Blakeslea、Thraustochytrium、Phythium、Entomophthora、Aureobasidium pullulans、Pseudozyma aphidis、Aspergillus、Trichoderma(例えば、T.reesei、T.harzianum、T.hamatum、T.viride)及び/又はRhizopus spp.が挙げられる。
【0068】
一実施形態において、酵母は、キラー酵母である。本明細書で用いる、「キラー酵母」とは、菌株自体が免疫性である、毒性タンパク質又は糖タンパク質の分泌を特徴とする酵母の菌株を意味する。キラー酵母が分泌する外毒素は、酵母、菌類又はバクテリアの他の菌株を殺すことができる。例えば、キラー酵母により制御できる微生物としては、Fusarium及びその他糸状菌類が挙げられる。本発明によるキラー酵母としては、食品発酵産業、例えば、ビール、ワイン及びパン製造において安全に使用できるもの、製造プロセスを汚染する可能性のある他の微生物を制御するのに使用できるもの、食品保存のための生物制御に使用できるもの、ヒトと植物の両方の真菌感染の処置に使用できるもの、及び組換えDNA技術に使用できるものが例示される。かかる酵母としては、これらに限られるものではないが、Wickerhamomyces(例えば、W.anomalus)、Pichia(例えば、P.anomala、P.guielliermondii、P.occidentalis、P.kudriavzevii)、Hansenula、Saccharomyces、Hanseniaspora、(例えば、H.uvarum)、Ustilago maydis、Debaryomyces hansenii、Candida、Cryptococcus、Kluyveromyces、Torulopsis、Ustilago、Williopsis、Zygosaccharomyces(例えば、Z.bailii)等が挙げられる。
【0069】
大量の、例えば、グリコリピドバイオサーファクタント又はその他有用な代謝物を蓄積可能なその他の真菌株を含む他の微生物菌株を本発明によれば用いることができる。本発明に有用な他の代謝物としては、マンノタンパク質、ベータグルカン及び生物乳化及び表面/界面張力減少特性を有するその他のものが挙げられる。
【0070】
本発明による酵母の成長
本発明は、酵母を培養し、微生物成長の微生物代謝物及び/又はその他副生成物を製造する方法を提供する。微生物培養システムは、典型的に、液内培養発酵を用いるが、表面培養及びハイブリッドシステムも用いることができる。本明細書で用いる「発酵」とは、制御された条件下での細胞の成長を意味する。成長は、好気性又は嫌気性とすることができる。
【0071】
一実施形態において、本発明は、バイオマス(例えば、成長可能な気泡材料)、細胞外代謝物(例えば、小分子及び排出タンパク質)、残渣栄養素及び/又は細胞内(例えば、酵素及びその他タンパク質)を生成するための材料及び方法を提供する。
【0072】
本発明で用いる微生物成長容器は、産業用であれば、任意の発酵槽又は培養リアクターとすることができる。一実施形態において、容器は、機能制御/センサを有している、又は機能制御/センサに接続されて、培養プロセスにおいて重要な因子、例えば、pH、酸素、圧力、温度、攪拌機軸動力、湿度、粘度、微生物密度、及び/又は代謝物濃度を測定するものであってよい。
【0073】
更なる実施形態において、容器はまた、容器内の微生物の成長をモニター(例えば、細胞数及び成長相の測定)できるものであってもよい。或いは、デイリーサンプルを容器から取り出して、希釈平板法等、業界で公知の技術により列挙してもよい。希釈平板は、サンプル中の微生物の数を推定するのに用いられる簡易な技術である。この技術はまた、異なる環境や処理を比べるための指標も提供することができる。
【0074】
一実施形態において、本方法は、窒素源によって培養を補助する。窒素源は、例えば、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、アンモニア、尿素及び/又は塩化アンモニウムとすることができる。これらの窒素源は、独立して、又は2つ以上の組み合わせで用いてよい。
【0075】
本方法は、成長培養物に酸素を供給することができる。一実施形態によれば、緩慢な空気流により、低酸素含有空気を除去し、酸素供給された空気を導入する。酸素供給された空気は、液体の機械的撹拌のためのインペラと、酸素を液体に溶解するための気体の泡を液体に供給するエアスパージャを含む機構により、デイリーに補充される周囲空気である。
【0076】
本方法は、さらに、炭素源によって培養を補助する。炭素源は、典型的に、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、トレハロース、マンノース、マンニトール及び/又はマルトースといった炭水化物、酢酸、フマル酸、クエン酸、プロピオン酸、リンゴ酸、マロン酸及び/又はピルビン酸といった有機酸、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、イソブタノール及び/又はグリセロールといったアルコール、大豆油、米糠油、キャノーラ油、ココナツ油、オリーブ油、コーン油、胡麻油及び/又は亜麻仁油といった油脂等である。これらの炭素源は、独立して、又は2つ以上の組み合わせで用いてよい。
【0077】
一実施形態において、微生物のための成長因子及び微量栄養素が媒体に含まれる。これは、成長微生物が、必要な全てのビタミンを生成できないときは特に好ましい。鉄、亜鉛、銅、マンガン、モリブデン及び/又はコバルトといった微量要素を含む無機栄養素もまた媒体に含まれる。さらに、ビタミン、必須アミノ酸及び微量元素の源を、例えば、コーンフラワーのような小麦粉又は挽き割り粉の形態、酵母エキス、ジャガイモエキス、ビーフエキス、大豆エキス、バナナ果皮エキス等のエキスの形態、或いは精製形態で含めることができる。タンパク質の生合成に有用なアミノ酸、例えば、L-アラニンを含めることもできる。
【0078】
一実施形態において、無機塩も含めてよい。有用な無機塩は、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸鉄、塩化鉄、硫酸マンガン、塩化マンガン、硫酸亜鉛、塩化鉛、硫酸銅、塩化カルシウム、炭酸カルシウム及び/又は炭酸ナトリウムである。これらの無機塩は、独立して、又は2つ以上の組み合わせで用いてよい。
【0079】
ある実施形態において、培養方法はさらに、追加の酸及び/又は抗菌剤を、培養プロセスの前及び/又は最中に液体媒体に添加することを含む。抗菌剤又は抗生物質は、培養物を汚染から守るために用いられる。さらに、消泡剤も添加して、培養中気体が発生するときに、発泡及び/又は泡の蓄積から守る。
【0080】
混合物のpHは、当該微生物に好適なものとしなければならない。炭酸塩やリン酸塩のようなバッファ及びpH制御剤を用いて、好ましい値近くにpHを安定化させてもよい。高濃度の金属イオンが存在するときは、液体媒体中でキレート化剤を用いる必要がある。
【0081】
微生物の培養及び微生物副生成物の精製の方法及び機器は、バッチ、半バッチ又は連続プロセスで用いることができる。
【0082】
一実施形態において、微生物の培養方法は、約5℃~約100℃、好ましくは、15~60℃、より好ましくは、25~50℃で行う。更なる実施形態において、培養は、一定の温度で連続して行う。他の実施形態において、培養は、温度を変更して行ってもよい。
【0083】
一実施形態において、本方法及び培養プロセスで用いる機器は殺菌されている。リアクター/容器等の培養機器は、殺菌ユニット、例えば、オートクレーブと離して接続する。培養機器はまた、イノキュレートを開始する前に、現場で殺菌する殺菌ユニットを有していてもよい。空気は、業界に知られた方法により殺菌することができる。例えば、周囲空気は、容器に入る前に、少なくとも1つのフィルタを通過する。他の実施形態において、細菌成長を制御するために、低水分活性及び低pHを用いる場合は、媒体は、低温殺菌、又は、任意で、全く加熱しないで殺菌する。
【0084】
一実施形態において、本発明はさらに、エタノール、乳酸、ベータグルカン、タンパク質、ペプチド、代謝中間体、多価不飽和脂肪酸、リピド等の微生物代謝物を生成する方法を提供する。本方法により生成される代謝物含量は、例えば、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%又は90%である。
【0085】
発酵ブロスのバイオマス含量は、例えば、5g/l~180g/l以上である。一実施形態において、ブロスの固体含量は、10g/l~150g/lである。
【0086】
当該微生物により生成される微生物成長副生成物は、微生物に保持されるか、液体媒体に分泌される。他の実施形態において、微生物成長副生成物を生成する方法はさらに、当該微生物成長副生成物を濃縮し精製する工程を含む。更なる実施形態において、液体媒体は、微生物成長副生成物を安定化させる化合物を含有していてよい。
【0087】
好ましい実施形態において、微生物成長副生成物は、バイオサーファクタントである。本発明による特定のバイオサーファクタントとしては、例えば、低分子量グリコリピド(GLs)、リポペプチド(LPs)、フラボリピド(FLs)、ホスホリピド及び高分子量ポリマー、例えば、リポタンパク質、リポ多糖タンパク質錯体及び多糖タンパク質脂肪酸錯体が挙げられる。
【0088】
一実施形態において、微生物バイオサーファクタントは、グリコリピド、例えば、ラムノリピド(RLP)、ソホロリピド(SLP)、トレハロースリピド又はマンノシルエリスリトールリピド(MEL)である。一実施形態において、微生物バイオサーファクタントは、リポペプチド、例えば、イツリン、フェンギシン又はサーファクチンである。
【0089】
一実施形態において、酵母ベースの組成物は、バイオサーファクタントのブレンドを含む。好ましくは、ブレンドは、ソホロリピドと、任意で、マンノシルエリスリトールリピド、サーファクチン、イツリン及び/又はラムノリピドを含む。
【0090】
一実施形態において、微生物培養組成物は、培養完了時に(例えば、所望の細胞密度、ブロスにおける特定の代謝物の密度が達成された時点で)全て取り出される。このバッチ手順において、第1のバッチを取り出した時点で、全く新しいバッチが開始される。
【0091】
他の実施形態において、どの時点でも、発酵生成物の一部のみを取り出す。本実施形態において、生存細胞のバイオマスは、新たな培養バッチのためのイノキュレートとして容器に残る。取り出された組成物は、細胞フリーのブロス又は細胞を含む。このようにして、半連続システムが作られる。
【0092】
利点として、本方法は、複雑な機器や高エネルギー消費を必要としない。当該微生物は、媒体と混合されたままでも、現場で小規模又は大規模で培養でき、用いることができる。同様に、微生物代謝物もまた、必要な場所で大量に生産することができる。
【0093】
利点として、酵母ベースの生成物は、遠隔地で生成することができる。微生物成長設備は、例えば、太陽、風及び/又は水力発電を用いて電力系統のないところでも操作することができる。
【0094】
酵母ベースの生成物の調製
本発明の1つの酵母ベースの生成物は、単に、酵母及び/又は残渣栄養素により生成される酵母及び/又は微生物代謝物を含有する発酵ブロスである。発酵生成物は、抽出や精製なしで直接用いることができる。所望であれば、抽出及び精製は、標準的な抽出及び/又は精製方法又は文献に記載された技術を用いて容易に行うことができる。
【0095】
酵母ベースの生成物中の酵母は、活性又は不活性形態であってよい。好ましくは、酵母は不活性である。酵母ベースの生成物は、安定化、保存及び貯蔵せずに用いてよい。利点として、酵母ベースの生成物を直接用いると、微生物の高い生存能が保持され、異物や望ましくない微生物による汚染の可能性が減じ、微生物成長副生成物の活性が維持される。
【0096】
一実施形態において、酵母発酵生成物は、生化学生成酵母、例えば、Pichia anomala(Wickerhamomyces anomalus)の培養により得られる。Wickerhamomyces anomalusは、食品及びグレイン生成に関連することが多く、様々な溶媒、酵素、毒素、SLP等のグリコリピドバイオサーファクタントを効率的に生成する。25~30℃での培養7日後の発酵ブロスは、酵母細胞懸濁液、例えば、4g/L以上のグリコリピドバイオサーファクタントを含み得る。
【0097】
一実施形態において、酵母発酵生成物はまた、バイオサーファクタント生成酵母、Starmerella bombicolaの培養により得ることができる。この種は、SLP等のグリコリピドバイオサーファクタントを効率的に生成する。25℃での培養5日後の発酵ブロスは、酵母細胞懸濁液、例えば、150g/L以上のグリコリピドバイオサーファクタントを含み得る。
【0098】
酵母成長により得られた酵母及び/又はブロスは、成長容器から取り出して、例えば、すぐ利用できるよう管を通して移される。
【0099】
酵母発酵生成物は、酵母細胞及び発酵ブロスを含む、又は酵母細胞から分離された発酵ブロスを含む。一実施形態において、ブロス中のバイオサーファクタント又は他の成長副生成物は、ブロスからさらに分離され精製される。
【0100】
他の実施形態において、組成物(酵母、ブロス、酵母とブロス)は、例えば、意図する用途、予定の適用方法、発酵タンクのサイズ、微生物成長設備から使用場所までの輸送形式を考慮して、適切なサイズの容器に入れることができる。このように、酵母ベースの組成物を入れる容器は、例えば、1ガロン~1,000ガロン以上である。他の実施形態において、容器は、2ガロン、5ガロン、25ガロン以上である。
【0101】
特定の実施形態において、本発明の組成物は、例えば、バイオサーファクタント単体よりも有利である。すなわち、次のような1つ以上の利点がある。酵母細胞壁の外側表面に高濃度のマンノタンパク質がある(マンノタンパク質は極めて効率的な生物乳化剤である)、酵母細胞壁にバイオポリマーベータグルカン(乳化剤)が存在する、培養物中にバイオサーファクタント、代謝物及び溶媒(例えば、乳酸、エタノール、酢酸エチル等)が存在する。
【0102】
本発明に有用な他のバイオサーファクタント及び溶媒としては、例えば、生物乳化及び表面/界面張力減少特性を有するマンノタンパク質、ベータグルカン、エタノール、乳酸及びその他代謝物がある。
【0103】
酵母ベースの組成物を成長容器から取り出す際、更なる成分を収穫生成物として添加し、容器に入れたり、管に通す(或いは、使用するために輸送する)。添加剤は、例えば、バッファ、担体、同じ又は異なる設備で生成されたその他微生物ベースの組成物、粘度調節剤、保存料、追跡剤、キレート化剤(例えば、EDTA、クエン酸ナトリウム、クエン酸)、溶媒(例えば、イソプロピルアルコール、エタノール)、殺生物剤、意図する用途向けのその他成分である。
【0104】
例えば、VOCレベルを変える、混合物の浸透を増大する、混合物の溶剤不要物のカプラーとして、混合物の粘度を下げる、親油性及び親水性物質のための溶媒を与える、等、特定の用途について必要に応じて、50重量%までかそれ以上の添加剤を添加してよい。
【0105】
本発明により処方に含まれていてよい他の好適な添加剤としては、かかる処方に通常用いられる物質が含まれる。このような添加剤としては、界面活性剤、乳化剤、潤滑剤、バッファ、溶解度制御剤、pH調節剤、保存料、安定剤及び耐紫外線剤が例示される。
【0106】
一実施形態において、酵母ベースの生成物は、有機及びアミノ酸又はその塩を含むバッファをさらに含んでいてもよい。好適なバッファとしては、クエン酸塩、グルコン酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、シュウ酸塩、アスパラギン酸塩、マロン酸塩、グルコヘプトン酸塩、ピルビン酸塩、ガラクタル酸塩、サッカリン酸、タルトロン酸塩、グルタミン酸、グリシン、リシン、グルタミン、メチオニン、システイン、アルギニン及びこれらの混合物が挙げられる。リン酸及び亜リン酸又はその塩も用いてよい。合成バッファは、用いるのに好適であるが、上記の有機及びアミノ酸、又はその塩のような天然バッファを用いるのが好ましい。
【0107】
更なる実施形態において、pH調節剤としては、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸又は重炭酸カリウム、塩酸、硝酸、硫酸又はこれらの混合物が挙げられる。
【0108】
一実施形態において、重炭酸又は炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等の多塩基酸として、塩の調製水溶液のような追加の成分を、処方に含めることができる。
【0109】
酵母ベースの生成物は、酵母ベースの生成物の、処理する表面への接合を促す組成物と共に適用されてもよい。接合促進物質とは、酵母ベースの生成物の成分としたり、酵母ベースの生成物と同時に、又は続けて適用してよい。
【0110】
その他の好適な添加剤としては、テルペン、テルペンアルコール、C8-C14アルコールエステルブレンド、グリコール、グリコールエーテル、酸エステル、二酸エステル、石油炭化水素、アミノ酸、アルカノールアミン及びアミン、好ましくは、C4-C6脂肪族二塩基エステルのメチル又はイソブチルエステル及びn-メチル-2-ピロリドンが挙げられる。
【0111】
テルペンとしては、d-リモネン、アルファ及びベータピネン及びテルペンアルコール、例えば、テルピネオールが挙げられる。C8-C14アルコールエステルブレンドとしては、エクソンケミカル製EXXATE900、1000、1200が挙げられる。グリコールとしては、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール及びトリプロピレングリコールが挙げられる。グリコールエーテルとしては、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル及びジエチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。酸エステルとしては、オレイン酸メチル及びリノール酸メチルが挙げられる。二酸エステルとしては、グルタル、アジピン及びコハク酸のメチル又はブチルジエステルが挙げられる。石油炭化水素としては、AROMATIC 100、AROMATIC 150 ISOPAR M及びISOPAR Kが挙げられる。
【0112】
モルホリン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-プロパンジアミン、2-アミノ-1,3-プロパンジオール及び3-アミノプロパノール、同じく、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、2-アミノメチルプロパノール及びモノエタノールアミンのようなアルカノールアミンといったアミンは、汚染物質の分散剤として作用し、脂肪酸及び油を安定化する。アミノ酸は、モノエタノールアミンの非毒性代替物となり、金属キレート化剤として作用する。C4-C6脂肪族二塩基エステル及びn-メチル-2-ピロリドンのメチル又はイソブチルエステルも有用である。
【0113】
意図する機能を実施する有効量で添加される水軟化剤、金属イオン封鎖剤、腐食防止剤及び酸化防止剤といったクリーニング組成物に通常用いられるその他の添加剤を用いてよい。これらの添加剤及びその量は、当業者に公知である。好適な水軟化剤としては、鎖状ホスフェート、スチレンマレイン酸コポリマー及びポリアクリレートが挙げられる。好適な金属イオン封鎖剤としては、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1-フェニル-3-イソヘプチル-1,3-プロパンジオン及び2ヒドロキシ-5-ノニルアセトフェノンオキシムが挙げられる。腐食防止剤としては、2-アミノメチルプロパノール、ジエチルエタノールアミンベンゾトリアゾール及びメチルベンゾトリアゾールが挙げられる。本発明に好適な酸化防止剤としては、(BHT)2,6-ジ-tert-ブチル-パラ-クレゾール、(BHA)2,6-ジ-tert-ブチル-パラ-アニソール、イーストマン阻害剤O A BM-オキサリルビス(ベンジリデンヒドラジド)及びイーストマンDTBMA 2,5-ジ-tert-ブチルヒドラキノンが挙げられる。
【0114】
全ての添加剤の引火点は、最終生成物の引火点が200°Fを超えるものとするために、を100°Fを超える、好ましくは、150°Fを超える、より好ましくは、195°F TCCを超えるものでなければならない。
【0115】
利点として、本発明によれば、酵母ベースの生成物は、微生物が成長したブロスを含む。生成物は、例えば、少なくとも1重量%、5重量%、10重量%、25重量%、50重量%、75重量%又は100重量%ブロスであってよい。生成物中のバイオマスの量は、例えば、0重量%~100重量%であり、その間のパーセンテージも含まれる。
【0116】
任意で、生成物は、使用前貯蔵することができる。貯蔵時間は短い方が好ましい。このように、貯蔵時間は、60日、45日、30日、20日、15日、10日、7日、5日、3日、2日、1日又は12時間未満である。好ましい実施形態において、生きた細胞が生成物中に存在する場合は、生成物は、例えば、20℃、15℃、10℃、5℃未満といった冷温で貯蔵する。一方、バイオサーファクタント組成物は、典型的に、周囲温度で貯蔵することができる。
【0117】
酵母ベースの生成物の現場生成
本発明の特定の実施形態において、微生物成長設備は、所望の規模で、新たな高密度酵母及び/又は当該の酵母成長副生成物を生成する。微生物成長設備は、適用場所又はその近傍に位置する。設備は、バッチ、準連続又は連続培養で高密度酵母ベースの組成物を生成する。
【0118】
本発明の微生物成長設備は、酵母ベースの生成物を用いる場所に位置させることができる(例えば、レストラン又は工場)。例えば、微生物成長設備は、使用場所から300、250、200、150、100、75、50、25、15、10、5、3又は1マイル未満である。
【0119】
酵母ベースの生成物は、従来の微生物生成における微生物安定化、保存、貯蔵及び輸送プロセスに頼ることなく、局所的に、現場又は適用場所近くで生成されるため、さらに高密度の生存又は不活性酵母を生成することができる。このように、が、現場適用において用いるのに必要な酵母ベースの生成物の量が少量で済む。さらに、これは、所望の効率を達成するのに必要であれば、高密度の酵母適用を可能とする。
【0120】
利点として、バイオリアクタをスケールダウンできること(例えば、発酵タンクが小さくなる、出発材料、栄養素、pH制御剤及び消泡剤の供給量が減じる、等)であり、これによって、システムの効率が上がり、製品の携帯性が増す。酵母ベースの生成物の現場生成はまた、生成物に成長ブロスが含まれるのを増進し、細胞を安定化させたり、培養ブロスから細胞を分離する必要性が排除される。現場使用に特に好適な発酵中に生成される溶剤をブロスに含めることができる。
【0121】
現場生成される高密度かつ濃厚な酵母の培養は、細胞を安定化させたものや、しばらくの間サプライチェーンにあるものよりも効率的である。本発明の酵母ベースの生成物は、従来の生成物に比べ、細胞が代謝物から分離され、栄養素が発酵成長媒体に存在するという点で特に利点がある。搬送時間が減じることで、現場で要求される時間と量で、新たなバッチの酵母及び/又はその代謝物の生成及び分配が可能となる。
【0122】
遠方の産業規模の生産者の製品品質は、上流処理の遅延、サプライチェーンのボトルネック、不適切な貯蔵、及びその他不測の事態によって損なわれてしまい、例えば、生存している細胞数の多い生成物、細胞が元来成長した関連ブロス及び代謝物の適時な分配及び適用が阻害される。利点として、これらの微生物成長設備は、こうした遠方の産業規模の生産者に頼っている現在の問題の解決策となることである。
【0123】
微生物成長設備は、行先地域との相乗効果を改善するために、酵母ベースの生成物を適合する能力があるので、製造融通性が与えられる。利点として、好ましい実施形態において、本発明のシステムは、天然由来の現場微生物及びその代謝副生成物を活用して、クリーニング性能を改善する。現場酵母は、例えば、塩耐性又は高温での成長能力に基づいて識別することができる。
【0124】
個々の容器の培養時間は、例えば、1~7日以上である。培養生成物は、数多くの異なるやり方で、収穫することができる。
【0125】
例えば、発酵24時間以内の現場生成及び分配によって、純度、細胞密度の高い組成物が、実質的に低い発送コストで得られる。より効率的で強力な微生物イノキュレート剤の開発における急速な発展が見込まれるので、消費者は、この能力によって、微生物ベースの生成物の迅速な配達という多大な恩恵を受けられる。
【0126】
機器保守及びクリーニングにおける酵母ベースの生成物の使用
好ましい実施形態において、本発明は、生化学生成酵母及び/又はその成長副生成物、例えば、バイオサーファクタント、溶媒及び/又は酵素を用いた、産業機器をクリーニングする材料及び方法を提供する。利点として、本発明の酵母ベースの組成物及び方法は、環境に優しく、操作が簡単で、コスト効率が良い。
【0127】
好ましい実施形態において、本発明は、産業機器をクリーニングするための酵母ベースのクリーニング組成物を提供する。クリーニング組成物は、酵母及び/又はその成長副生成物を含む。一実施形態において、酵母は、バイオサーファクタント、溶媒及び/又は酵素生成酵母又はその組み合わせである。
【0128】
ある特定の実施形態において、酵母ベースの組成物は、Starmerella bombicola及び/又はその成長副生成物を含む。一実施形態において、酵母は、「キラー酵母」菌株、例えば、Wickerhamomyces anomalus(Pichia anomala)である。
【0129】
特定の実施形態において、本発明のクリーニング組成物は、例えば、バイオサーファクタント、溶媒及び/又は酵素単体に対して次のような利点がある。酵母細胞壁の外側表面の一部に高濃度のマンノタンパク質がある、酵母細胞壁にベータグルカンが存在している、培養物にバイオサーファクタント、その他代謝物及び/又は溶媒(例えば、タンパク質分解酵素、脂肪分解酵素、エタノール、酢酸エチル等)が存在している。
【0130】
好ましい実施形態において、本発明は、生化学生成酵母及び/又はその成長副生成物を含む組成物を適用することにより、産業機器をクリーニングする効率的な方法を提供する。酵母は、適用時は、生きている(生存)、或いは不活性とすることができる。好ましい実施形態において、酵母は不活性である。
【0131】
一実施形態において、酵母は、成長副生成物を含む、酵母の発酵から得られるブロスと共に適用される。一実施形態において、成長副生成物は、精製形態の酵母と共に適用される。一実施形態において、本方法は、本発明の酵母ベースの組成物、例えば、Star3+又はStar3を機器に適用することを含む。
【0132】
特定の実施形態において、本方法を用いて、浄化、汚損除去及び/又は詰まり除去の必要な機器の表面をクリーニングする。利点として、本発明の方法を用いると、機器の保守及び適正な機能を改善することにより、産業操業又は機械機器の全体の生産性を改善することができる。
【0133】
本明細書で用いる、「産業」とは、経済的又は社会的利益のための特定の商品の製造やサービスを意味する。本発明の方法を用いて、これらに限られるものではないが、化学処理、石油ガス、鉱業、パルプ製紙、自動車生産及び修理、道路建設、農業、水産業、廃棄物及び水処理、一般製造業、食品加工(例えば、食肉処理場、食品飲料工場)及び食品サービス(例えば、レストラン、バー、ホテル、ダイニングサービス)をはじめとする数多くの産業の機器をクリーニングすることができる。
【0134】
本明細書で用いる、「産業機器」には、産業に含まれる任意のプロセスに用いられる、天然由来又は人工、単純又は複雑な、機器、機械、ツール、機構、構造、表面又はその部品が含まれる。産業機器としては、重機や車両、ハードウェア、工場機械、組み立てラインパーツ、ドリル、タンク、シンク、チューブ、管、ドレーン、トラップ、プールや容器、カウンター、床、天井、壁等のその他表面が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0135】
本明細書で用いる、組成物や生成物を「適用する」とは、対象や現場と接触させて、組成物や生成物がその対象や現場に影響し得ることを意味する。影響は、例えば、微生物成長及び/又はバイオサーファクタント、溶媒、酵素又はその他成長副生成物の作用による。例えば、対象の汚染された機器は、酵母ベースの組成物に浸したり、浸漬する。組成物はまた、当業者に知られたその他手段によって、機器に、注入、分散、分配、注ぐ、広げる、スプレーする、擦る、塗る、擦る等によって適用してもよい。
【0136】
一実施形態において、本方法は、さらに、溶媒のような様々な添加剤を、クリーニング組成物に添加することを含む。一実施形態において、溶媒は、イソプロピルアルコール、エタノール又は酢酸エチルである。
【0137】
一実施形態において、本方法は、さらに、キレート化剤をクリーニング組成物に添加することを含む。本明細書で用いる、「キレーター」又は「キレート化剤」は、錯体を形成することにより、系から金属イオンを除去することのできる活性剤を意味する。例えば、金属イオンは、酸素ラジカル形成に容易に寄与しない、又はその形成を触媒する。
【0138】
本発明に好適なキレート化剤としては、これらに限られるものではないが、ジメルカプトコハク酸(DMSA)、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸(DMPS)、アルファリポ酸(ALA)、チアミンテトラヒドロフルフリルジスルフィド(TTFD)、ペニシラミン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム及びクエン酸が例示される。
【0139】
好ましい実施形態において、キレート化剤は、クエン酸ナトリウム、クエン酸、EDTA又はこれらの組み合わせである。
【0140】
クリーニング組成物は、例えば、スプレーボトルや加圧スプレーデバイスを用いてスプレーすることにより表面に適用することができる。クリーニング組成物はまた、布やブラシを使っても適用することができる。組成物を表面に擦りつける、広げる、又は摺ることによっても適用することができる。さらに、クリーニング組成物は、クリーニング組成物を入れた容器に、表面を漬ける、浸す、又は沈めることによって適用することができる。
【0141】
一実施形態において、表面を、クリーニング組成物に十分な時間浸漬させて、汚染物質を除去する。例えば、浸漬は、適宜、12、24、36、48~72時間以上浸漬させる。
【0142】
一実施形態において、本方法は、クリーニング組成物及び汚染物質を表面から除去する工程を含む。例えば、クリーニング組成物及び汚染物質が表面からなくなるまで、表面を水で濯ぐ、又は水をスプレーする、及び/又は表面を布で擦る、又は拭く。水で濯ぐ又は水をスプレーするのは、表面を布で擦る、又は拭く前及び/又は後に行うことができる。
【0143】
他の実施形態において、機械的な方法を用いて、汚染物質及び/又はクリーニング組成物を表面から除去することができる。例えば、汚染物質の量や種類のせいで除去が特に難しい場合でも、撹拌機、ドリル、ハンマー又はスクレーパを用いて、表面から汚染物質をなくすことができる。
【0144】
本方法に従って用いられる酵母ベースのクリーニング組成物は、機器をクリーニングし、汚染物質の更なる蓄積及びその影響を防ぐために表面に有効なコーティングを与える有効量の成分を含む。汚染物質の除去と機器表面のコーティングは一緒に行うことができる。すなわち、機器のクリーニングと処理を同時に行ってよい。特定の実施形態において、組成物は、機器をクリーニングし、固体の蓄積を防ぐための有効な処理を行うのに有効な量の成分を含む。
【0145】
特定の実施形態において、本発明は、例えば、石油ガス生成及び/又は精製に用いられる貯蔵タンク、トラック、パイプ及び管類といった産業機器の表面からパラフィンを除去し、固体アスファルテンを液化する方法を提供する。利点として、本方法を用いると、油及び/又は気体生成、搬送、貯蔵及び/又は精製に機器の表面及びピースのクリーニング及び保守による油の生成を改善することができる。
【0146】
本発明に従ってクリーニングされ浄化される石油ガス処理機器としては、石油ガス回収及び処理に関連する全てのタイプの様々な機器、例えば、ウェルケーシング、ポンプ、ロッド、パイプ、ライン、タンク等が挙げられる。本組成物は、すべてのかかる機器と共に用いてよいと考えられる。
【0147】
ガス井及び油井における土、スラッジ、スケールの堆積を除いたり、防止する方法を本発明による組成物を用いて実施するのに様々なやり方がある。
【0148】
ウェル及び関連機器のクリーニングに加えて、ケーシングの孔を通して、組成物を周囲構成へ導入するのが望ましいことが多い。組成物は、印可された圧力によって周囲構成へと付勢される。組成物をケーシングの下部にセットできる場合は、組成物は、圧力を印可せずに構成へ染み込ませられる。組成物は構成に浸透し、構成中の妨害物を溶解し、より効率的な石油ガス回収が行なわれる。
【0149】
組成物はまた、機器に直接適用してもよい。例えば、ロッドとケーシングを、ガス井や油井に配置する前に、部品に組成物をスプレーしたり、組成物に浸漬してもよい。部品を、組成物を入れたタンクに浸して、腐食を防止したり、汚染物質の蓄積を防いでもよい。
【0150】
油処理機器に関連する汚染物質には多くの種類があり、例えば、オイル、パラフィン、アスファルト/アスファルテン、硫黄、タール副生成物、スラッジ、その他粘性材料である。本発明の組成物を用いて、油回収、トランスミッション及び処理に関連する汚染物質の1つ以上を除去することができる。
【0151】
ある実施形態において、本発明の方法は、リピド、脂肪、油及びグリース(FOG)を、産業及び機械機器の表面からクリーニングするのに用いられる。例えば、ある実施形態において、本発明を用いて、FOG及びその他汚染物質を、例えば、排水管、パイプ、チューブ、自動車、エンジン、モーター、ギア、その他機械機器からクリーニングすることができる。これは、機器が、例えば、グリースや油による潤滑を必要とする可動部品を有している場合特に、有用である。ある実施形態において、FOGは、例えば、カウンター、オーブン、ストーブ、グリーストラップ、シンク、家庭用器具、床、排水管やその一部といったレストランやキッチン機器に存在する。
【0152】
特定の実施形態において、機械機器は、油やグリースが蓄積したモーターやエンジンを含む。エンジンに油やグリースがあるということは、漏れを意味していることが多いが、油やグリース、そして油やグリースに付着するその他汚染物質は、漏れの場所を検出するのを難しくしている。油、グリース、その他付着物を、エンジンからクリーニングすることにより、本発明はエンジンの漏れの検出や修理に有用である。
【0153】
特定の実施形態において、本発明を用いて、汚染物質が蓄積した機器のピースの詰まりを除去することができる。例えば、一実施形態において、機器のピースは、汚染物質が完全に、又は略完全に詰まった配水管、パイプ、チューブといった管である。
【0154】
さらに他の実施形態において、産業機器は、レストラン、キッチン、食品処理工場、食肉処理場及び洗車場で用いられるような、詰まったグリーストラップ(又はグリース回収デバイス、グリースコンバータ又はグリースインターセプター)である。グリーストラップは、グリースや固形廃棄物質を、廃水処理システムに入る前に、トラップしたりインターセプトするために用いられる配管デバイスである。詰まったグリーストラップとは、交差、出入ラインを含む、グリーストラップのいずれかの部分が詰まっていること、或いは、例えば、収集された固体を確実に空にできないために、グリーストラップの主要なコンパートメントが、収集されたFOG固体で満たされていることを意味する。
【0155】
特定の実施形態において、機器又は管の詰まり除去は、本発明の組成物を、詰まった機器又は管に分配し、組成物によりつまりを解消させることにより行うことができる。任意で、管の詰まり除去に本方法を用いるときは、詰まりを生じる汚染物質を攪拌、機械的又は物理的に防止することを含むことができる。例えば、ドリル、コークスクリュー、スネーク、ブラシ又は高圧スプレーデバイスをこのような目的で用いることができる。
【0156】
ある実施形態において、本発明を用いて、グリーストラップ、排水管、浄化槽、廃水(例えば、食肉処理加工場)、ポンプ場及び市政から排出される悪臭を除去することができる。
【0157】
一実施形態において、本発明は、機器及びその他構造の表面をクリーニングする方法であって、本発明の酵母ベースの組成物を、液体と混合して、クリーニング溶液を形成し、機器又はその他表面に、クリーニング溶液を、パワーウォッシャー又は高圧洗浄機といった加圧スプレーデバイスを用いて高圧でスプレーすることを含む。液体は、水又はその他マイルドなクリーニング溶液である。好ましい実施形態において、高圧とは、1,000psi~10,000psiと定義される。正確な圧力は、汚染物質の種類及びクリーニングする機器の種類に応じて異なる。一実施形態において、圧力は、小規模の家庭用クリーニングについては、約1,000~約2,000psi、中規模のタスクについては、約2,000~約3,000psi、大規模の産業クリーニングジョブについては、3,000~約7,000又は8,000psiである。
【0158】
パワーウォッシャー又は高圧洗浄機は、肥料、除草剤、グリース、油、農薬及びダストで汚染されたビル及びその他構造の側壁、スクリーン、歩道、パティオ、自動車、ボート、飛行機、芝刈り機、火格子、フェンス、壁、床、グリル、農業機器のような重機をクリーニングするのに用いられることが多い。利点として、本発明の酵母ベースの組成物は、パワーウォッシャー溶液に用いると、水のみ、さらにその他刺激化学薬品を用いるより、汚染物質を除去するのにより効率的である。
【0159】
特定の実施形態において、バイオサーファクタントは、酵母により同じく生成される溶媒、酵素、その他代謝物と用いると相乗効果がある。
【実施例】
【0160】
例として挙げる以下の実施例により、本発明とその多くの利点をより良く理解できるであろう。以下の実施例は、本発明の方法、応用、実施形態、及び変形を例証するものであり、本発明を限定するものではない。数多くの変更及び修正を本発明に対して行うことができる。
【0161】
実施例1-酵母発酵生成物S「STAR3」及び「STAR3+」
一実施形態において、本発明は、産業機器から汚染物質及びその他汚損物質をクリーニングするのに用いることのできる酵母発酵生成物を提供する。酵母発酵生成物は、バイオサーファクタント生成及び/又は代謝物生成酵母、例えば、Pichia anomala(Wickerhamomyces anomalus)の培養(ここでは、「Star3+」処理と呼ぶ)により得られる。25~30℃での7日間の培養後の発酵ブロスは、酵母細胞懸濁液と、例えば、4g/L以上のバイオサーファクタントとを含有する。
【0162】
酵母発酵生成物はまた、バイオサーファクタント生成及び/又は代謝物生成酵母、例えば、Starmerella bombicolaの培養(ここでは「Star3」処理と呼ぶ)によっても得られる。25℃での5日培養後の発酵ブロスは、酵母細胞懸濁液と、例えば、150g/L以上のバイオサーファクタントとを含有する。
【0163】
実施例2-550ガロンのリアクターにおけるソホロリピド(SLP)生成のためのSTARMERELLA BOMBICOLAの発酵
発酵成長及びバイオサーファクタント生成用に特別に設計されたポータブルの完全密閉リアクターは、水ろ過、温度管理ユニット、インペラ及びマイクロスパージャを含み、PLCにより操作される。SLP生成のためのS.bombicolaを成長させるときのリアクターの作動容積は500ガロンである。
【0164】
好ましい実施形態において、SLP生成のための栄養素は、グルコース、尿素、酵母エキストラクト及び使用済み植物油を含む。
【0165】
リアクターは、他のリアクターで成長させた50リットルの液体培養物によりイノキュレートされる。SLP生成のための培養サイクルの期間は、25℃及びpH3.5で5日間である。SLPの最終濃度は、作動容積のおおよそ10~15%であり、70~75ガロンのSLPを含有している。
【0166】
培養物は別のタンクに集めることができる。SLPをタンク下部に沈殿させたら、所望により取り出して処理することができる。タンク中の培養物の残り(約)420ガロンは、3~5g/Lの残渣SLPを含む。
【0167】
実施例3-細胞バイオマスを生成するためのWICKERHAMOMYCES ANOMALUSの発酵
水ろ過、温度管理ユニット、及び十分な通気のためのマイクロスパージャを備え、PLCにより操作されるエアリフトリアクターを用いる。プロセスは、バッチ培養プロセスとして実施することができる。800ガロンのリアクターは、酵母を成長させるために特別に設計されたものであり、Wickerhamomycesを成長させるときは、700ガロンの作動容積を有する。
【0168】
好ましい実施形態において、栄養素は、グルコース、尿素、酵母エキストラクト及び使用済み植物油を含む。このリアクターのイノキュレートには、作動容積の5%までの液体種培養が必要とされる。培養サイクルの期間は、25~30℃及びpH3.5~4.5で24~30時間である。
【0169】
最終生成物は、25~30ガロンの液体培養イノキュラムを含む。発酵期間が短いため、最終組成物はバイオサーファクタントを含まない。ソホロリピドは、所望であれば、約1~3%又は1~1.5%の濃度で生成物に添加することができる。
【0170】
実施例4-パラフィン溶解
パラフィン分解効率について、他の微生物及び/又は化学乳化生成物と比べた、Starmerella bombicola及び/又はWickerhamomyces anomalusの効率を示すために実験を行った。
【0171】
油田から固形パラフィンが得られた。4グラムの固形パラフィンが、ファルコンチューブに添加され、20mLの各処理剤がチューブに添加される。作動容積25mLのファルコンチューブを用いることができる。
【0172】
チューブは全て、30℃~40℃のインキュベータに水平に入れ、穏やかに混合する。異なるインキュベーション時間(1、2又は4日)後、チューブを集め、分析する。
【0173】
35℃で実施された一つの実験において、Star3処理剤は、チューブ内で完全な分散を示し、パラフィンが完全に液体に変わった。
【0174】
実施例5-スラッジを含む貯蔵タンクのクリーニング
蓄積したスラッジを含む油貯蔵タンクを、本発明を用いてクリーニングする。1%のSLPを含むWickerhamomyces anomalusをタンクに加える(スラッジ1単位:処理剤2単位)。
【0175】
処理剤及びスラッジは、例えば、チューブを用いて混合して、空気を注入し、混合物を攪拌する。2時間後、混合物は、炭化水素の上層、水の中間層(やや酵母細胞あり)、砂、スケール、ビチューメン、アスファルテン、パラフィン等を含む固体の下層の3層に分離される。
【0176】
炭化水素層は、さらに処理するためにポンプアウトされる。水層もまた、さらに処理するためにポンプアウトされる。すると、砂及びその他残りの固体は、シャベル又は真空を用いて容易に除去される。