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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20230412BHJP
   G01N 27/26 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
G01N27/416 376
G01N27/416 331
G01N27/26 371A
G01N27/26 371C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020003110
(22)【出願日】2020-01-10
(65)【公開番号】P2021110653
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】村山 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】市川 大樹
(72)【発明者】
【氏名】原田 敏彦
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-177397(JP,A)
【文献】特開2019-171454(JP,A)
【文献】特開2018-072315(JP,A)
【文献】特開2019-203838(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0151338(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガスに含まれる酸素の濃度を検出する酸素濃度検出部(41)と、
前記被測定ガスに含まれる検知対象ガス成分及び酸素を検知してそれらの濃度に応じた電位である混成電位が発生する検知電極(65)と、大気に接触可能に設けられる基準電極(66)とを有し、前記被測定ガス中の前記検知対象ガス成分の濃度及び酸素の濃度に応じた起電力が前記検知電極と前記基準電極との間に発生する混成電位セル(44)と、
前記酸素濃度検出部により検出される酸素濃度、及び前記混成電位セルの起電力に基づいて前記被測定ガス中の前記検知対象ガス成分の濃度を演算するガス濃度演算部(226,300)と、を備え、
前記ガス濃度演算部は、
前記被測定ガスの流速の情報を取得する流速情報取得部(302,303,306)と、
前記被測定ガスの流速に基づいて前記混成電位セルの起電力の検出値、又は前記検知対象ガス成分の濃度の演算値を補正する補正部(303,306)と、を有する
ガスセンサ。
【請求項2】
前記流速情報取得(303,306)は、前記被測定ガスの流速の情報として、前記被測定ガスの流速と相関を有する流速相関パラメータの情報取得する
請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記検知電極と前記基準電極との間に設けられる固体電解質体を加熱するヒータ(59)を更に備え、
前記流速情報取得(303)は、前記流速相関パラメータの情報として、前記ヒータの通電エネルギの情報取得する
請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記被測定ガスは、車両のエンジンから排出される排気であり、
前記流速情報取得(306)は、前記流速相関パラメータの情報として、前記車両の状態量及び前記エンジンの状態量の少なくとも一方の情報取得する
請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記ガス濃度演算部は、
前記流速相関パラメータの単位時間当たりの変化量が所定値以上であると判断したとき、前記混成電位セルの起電力の検出値、又は前記検知対象ガス成分の濃度の演算値にフィルタリング処理又はマスキング処理を施す処理部(307)を更に有する
請求項2~4のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記補正部を第1補正部とするとき、
前記ガス濃度演算部は、
前記混成電位セルの温度の情報を取得する温度情報取得部(304)と、
前記混成電位セルの温度に基づいて前記混成電位セルの起電力の検出値、又は前記検知対象ガス成分の濃度の演算値を更に補正する第2補正部(304)と、を更に有する
請求項1~5のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記温度情報取得部は、前記混成電位セルの温度の情報として、前記混成電位セルの温度と相関を有する温度相関パラメータの情報取得する
請求項6に記載のガスセンサ。
【請求項8】
前記温度情報取得部は、前記温度相関パラメータの情報として、前記検知電極及び前記基準電極の間のインピーダンス又はアドミタンスの情報取得する
請求項7に記載のガスセンサ。
【請求項9】
前記被測定ガスは、車両のエンジンから排出される排気であり、
前記温度情報取得部は、前記温度相関パラメータの情報として、前記混成電位セルの温度と相関を有する前記車両の状態量及び前記エンジンの状態量の少なくとも一方の情報取得する
請求項7に記載のガスセンサ。
【請求項10】
前記補正部を第1補正部とするとき、
前記ガス濃度演算部は、
前記被測定ガスの圧力の情報を取得する圧力情報取得部(301)と、
前記被測定ガスの圧力に基づいて前記混成電位セルの起電力の検出値、又は前記検知対象ガス成分の濃度の演算値を更に補正する第2補正部(304)と、を更に有する
請求項1~5のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項11】
前記検知電極は貴金属を主成分に形成されている
請求項1~10のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排気中のアンモニア濃度を検出することが可能なガスセンサとしては、下記の特許文献1に記載のガスセンサがある。特許文献1に記載のガスセンサは、センサ素子と、制御装置とを備えている。
センサ素子は混成電位セルを有している。混成電位セルは、固体電解質体と、固体電解質体の一方の表面に配置される検知電極と、固体電解質体の他方の表面に配置される参照電極とにより構成されている。検知電極は、センサ素子の外面に設けられている。検知電極には、センサ素子の外部に存在する排気が接触する。混成電位セルでは、検知電極、固体電解質体、及び排気との三相界面において排気中のアンモニアの酸化及び酸素のイオン化などの電気化学反応が生じることにより、検知電極に混成電位が生じる。そのため、検知電極と参照電極との間には、排気中のアンモニア濃度及び酸素濃度に応じた起電力が発生する。
【0003】
制御装置は、起電力取得部と、酸素濃度取得部と、アンモニア濃度導出部とを備えている。起電力取得部は、混成電位セルに発生する起電力を取得する。酸素濃度取得部は、排気中の酸素濃度を取得する。アンモニア濃度導出部は、起電力取得部により取得された起電力と、酸素濃度取得部により取得された排気中の酸素濃度とから排気中のアンモニア濃度を導出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-173397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載のガスセンサのように、センサ素子の外面に検知電極が配置されている構造の場合、検知電極における単位時間当たりの排気の接触量が排気の流速により変化する。検知電極における単位時間当たりの排気の接触量が変化すると、混成電位セルの起電力に変化が生じるため、結果的にガスセンサにより検出されるアンモニア濃度が変化する。これがアンモニア濃度の検出精度を悪化させる要因となっている。
【0006】
なお、このような課題は、排気中のアンモニアを検出するガスセンサに限らず、被測定ガスに含まれる検知対象ガス成分の濃度を検出するガスセンサに共通する課題である。
本開示は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、被測定ガスに含まれる検知対象ガス成分の濃度を、より高い精度で検出することが可能なガスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するガスセンサは、酸素濃度検出部(41)と、混成電位セル(44)と、ガス濃度演算部(226,300)と、を備える。酸素濃度検出部は、被測定ガスに含まれる酸素の濃度を検出する。混成電位セルは、被測定ガスに含まれる検知対象ガス成分及び酸素を検知してそれらの濃度に応じた電位である混成電位が発生する検知電極(65)と、大気に接触可能に設けられる基準電極(66)とを有し、被測定ガス中の検知対象ガス成分の濃度及び酸素の濃度に応じた起電力が検知電極と基準電極との間に発生する。ガス濃度演算部は、酸素濃度検出部により検出される酸素濃度、及び混成電位セルの起電力に基づいて被測定ガス中の検知対象ガス成分の濃度を演算する。ガス濃度演算部は、前記被測定ガスの流速の情報を取得する流速情報取得部(302,303,306)と、被測定ガスの流速に基づいて混成電位セルの起電力の検出値、又は検知対象ガス成分の濃度の演算値を補正する補正部(303,306)と、を有する
【0008】
この構成によれば、被測定ガスの流速に応じて混成電位セルの起電力が変化した場合であっても、その流速に応じて混成電位セルの起電力の検出値又は検知対象ガス成分の濃度の演算値が補正される。これにより、被測定ガスの流速の影響を排除しつつ検知対象ガス成分の濃度を演算することができるため、検知対象ガス成分の濃度の演算精度を向上させることができる。
【0009】
なお、上記手段、特許請求の範囲に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明の効果】
【0010】
本開示のガスセンサによれば、被測定ガスに含まれる検知対象ガス成分の濃度を、より高い精度で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、第1実施形態の車両の排気浄化システムの概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、第1実施形態のガスセンサのセンサ素子の断面構造を示す断面図である。
図3図3は、図2のIII-III線に沿った断面構造を示す断面図である。
図4図4は、第1実施形態のセンサ素子を保護するカバーの断面構造を示す断面図である。
図5図5は、第1実施形態のガスセンサのSCUの概略構成を示すブロック図である。
図6図6は、排気の流速Vexと混成電位セル44のアンモニア濃度演算値pNH3との関係を示すグラフである。
図7図7は、第1実施形態のガス濃度演算部の演算手順を示すブロック図である。
図8図8は、第1実施形態のガスセンサにより用いられる、排気の流速Vexと混成電位セルの出力感度Kaとの関係を示すマップである。
図9図9は、第1実施形態のガスセンサにより用いられる、排気温Texと混成電位セルの出力感度Kbとの関係を示すマップである。
図10図10(A),(B)は、第1実施形態のガスセンサにおけるヒータ電流IHT及びヒータ電圧VHTの推移を示すタイミングチャートである。
図11図11は、第2実施形態のガス濃度演算部の演算手順を示すブロック図である。
図12図12は、第2実施形態のガスセンサにより用いられる、ヒータの通電エネルギEHTと混成電位セルの出力感度Kaとの関係を示すマップである。
図13図13(A),(B)は、第2実施形態のガスセンサにおいて混成電位セルを流れる電流、及び混成電位セルに印加される電圧の推移を示すタイミングチャートである。
図14図14は、第2実施形態のガスセンサにより用いられる、混成電位セルの交流アドミタンスYNH3と出力感度Kbとの関係を示すマップである。
図15図15は、第3実施形態のガス濃度演算部の演算手順を示すブロック図である。
図16図16は、第3実施形態のガスセンサにより用いられる、エンジン回転速度Ne、エンジン負荷Le、及び混成電位セルの出力感度Kcの関係を示すマップである。
図17図17は、第3実施形態の変形例のガス濃度演算部の演算手順を示すブロック図である。
図18図18は、第3実施形態のガスセンサにより用いられる、アクセル開度Paと混成電位セルの出力感度Kcとの関係を示すマップである。
図19図19(A)~(C)は、第4実施形態のガスセンサにおける車速、流量Ga,Qex、及び混成電位セルの起電力VNH3の推移を示すタイミングチャートである。
図20図20は、第4実施形態のガス濃度演算部の演算手順を示すブロック図である。
図21図21は、他の実施形態のガスセンサにおける排気圧Pexと混成電位セルの出力感度Kdとの関係を示すマップである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、ガスセンサの一実施形態について図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
<第1実施形態>
はじめに、第1実施形態のガスセンサが搭載される車両のエンジンシステムの概要について説明する。
【0013】
図1に示されるように、本実施形態のエンジンシステム1では、ディーゼルエンジンであるエンジン10に排気管11が接続されており、その排気管11には、エンジン10側から順に酸化触媒コンバータ12と選択還元触媒コンバータ(以下、「SCR触媒コンバータ」と称する)13とが設けられている。酸化触媒コンバータ12は、ディーゼル酸化触媒14と、DPF(Diesel Particulate Filter)15とを有している。SCR触媒コンバータ13は、選択還元型の触媒としてSCR触媒16を有している。また、排気管11における酸化触媒コンバータ12とSCR触媒コンバータ13との間には、還元剤としての尿素水(尿素水溶液)を排気管11内に添加供給するための尿素水添加弁17が設けられている。
【0014】
ディーゼル酸化触媒14は、主としてセラミック製の担体と、酸化アルミニウム、二酸化セリウム及び二酸化ジルコニウムを成分とする酸化物混合物と、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属触媒とで構成されている。ディーゼル酸化触媒14は、排気に含まれる炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物等を酸化させて浄化する。
【0015】
DPF15は、ハニカム構造体により形成され、多孔質セラミックに白金やパラジウムなどの白金族触媒が担持されることで構成されている。DPF15は、排気中に含まれる粒子状物質をハニカム構造体の隔壁に堆積させることで捕集する。堆積した粒子状物質は、燃焼によって酸化され浄化される。この燃焼には、ディーゼル酸化触媒14における温度上昇や、添加剤による粒子状物質の燃焼温度低下が利用される。
【0016】
SCR触媒コンバータ13は、酸化触媒コンバータ12の後処理装置としてNOxを窒素と水に還元する装置である。SCR触媒16としては、例えばゼオライト又はアルミナなどの基材表面に白金などの貴金属を担持した触媒が用いられる。SCR触媒16は、触媒温度が活性温度域にある場合に、還元剤としての尿素が添加されることによりNOxを還元して浄化する。
【0017】
エンジンシステム1は、排気中のNOx濃度及びアンモニア(NH)濃度を検出するためのガスセンサ20を備えている。ガスセンサ20は、センサ素子21とSCU(Sensor Control Unit)22とを有している。センサ素子21は、排気管11におけるSCR触媒コンバータ13の下流側に配置されている。センサ素子21は、その検出位置における排気中のNOx濃度及びアンモニア濃度を検出する。センサ素子21にはSCU22が接続されている。センサ素子21の検出信号はSCU22に入力される。SCU22は、CPUや各種メモリを有するマイクロコンピュータとその周辺回路とを有する電子制御装置であり、センサ素子21の検出信号に基づいて排気中の酸素濃度やNOx濃度等を演算する。本実施形態では、排気が被測定ガスに相当する。
【0018】
SCU22は、CANバス等の通信線31を介してエンジンECU30等の各種ECUに接続されている。SCU22及びエンジンECU30は通信線31を用いて相互に情報の授受が可能となっている。SCU22からエンジンECU30に対しては、例えば排気中の酸素濃度やNOx濃度等の情報が送信される。
【0019】
エンジンシステム1は、流量センサ32と、排気温センサ33とを更に備えている。流量センサ32は、吸気管18を通じてエンジン10に吸入される空気の流量を検出するとともに、検出された吸気量Gaに応じた信号をエンジンECU30に通信線31を介して送信する。排気温センサ33は、SCR触媒コンバータ13を通過した排気の温度を検出するとともに、検出された排気温Texに応じた信号をエンジンECU30に通信線31を介して送信する。
【0020】
また、車両にはエンジン回転センサ34、アクセル開度センサ35、及び大気圧センサ36が設けられている。エンジン回転センサ34は、エンジン10の出力軸の回転速度を検出するとともに、検出されたエンジン回転速度Neに応じた信号をエンジンECU30に通信線31を介して送信する。アクセル開度センサ35は、アクセルペダルの踏み込み量であるアクセル開度を検出するとともに、検出されたアクセル開度Paに応じた信号をエンジンECU30に通信線31を介して送信する。大気圧センサ36は、大気圧を検出するとともに、検出された大気圧Pairに応じた信号をエンジンECU30に通信線31を介して送信する。
【0021】
エンジンECU30は、CPUや各種メモリを有するマイクロコンピュータとその周辺回路とを有する電子制御装置である。エンジンECU30には、SCU22から排気中の酸素濃度やNOx濃度等の情報が送信される。また、エンジンECU30には、流量センサ32、排気温センサ33、エンジン回転センサ34、アクセル開度センサ35、及び大気圧センサ36のそれぞれの出力信号が取り込まれている。エンジンECU30は、それらのセンサ32~36の出力信号に基づいて、吸入空気量Qin、排気温Tex、エンジン回転速度Ne、アクセル開度Pa、及び大気圧Pairの情報を取得する。エンジンECU30は、それらの情報に基づいてエンジン10や排気系の各種装置を制御する。エンジンECU30は、例えば吸入空気量Qin、アクセル開度Pa、及びエンジン回転速度Neに基づいて燃料噴射制御等を実施する。また、エンジンECU30は、NOx濃度等に基づいて、尿素水添加弁17による尿素水添加の制御を実施する。
【0022】
次に、ガスセンサ20の構成について説明する。図2及び図3はガスセンサ20のセンサ素子21の内部構造を示す図である。なお、図の左右方向がセンサ素子21の長手方向であり、図の左側が素子先端側である。
センサ素子21は、ポンプセル41と、センサセル42と、モニタセル43と、混成電位セル44と、第1固体電解質体51と、第2固体電解質体52と、基板部53と、拡散抵抗体54と、ヒータ59と、保護層70とを備えている。
【0023】
第1固体電解質体51、第2固体電解質体52、及び基板部53は、板状に形成されるとともに、この順で厚さ方向に所定の隙間を有して並べて配置されている。基板部53と第2固体電解質体52との間に形成される隙間は第1基準ガス室64を形成している。第1固体電解質体51と第2固体電解質体52との間に形成される隙間は測定ガス室61及び第2基準ガス室62を形成している。測定ガス室61及び第2基準ガス室62は、隔壁63により、それぞれ独立した空間として区画されている。第1基準ガス室64及び第2基準ガス室62には、基準酸素濃度ガスとしての大気が導入されている。
【0024】
第1固体電解質体51の一側面は開放されており、その開放された一側面に拡散抵抗体54が配置されている。測定ガス室61には、排気管11を流れる排気が保護層70及び拡散抵抗体54を通じて導入される。拡散抵抗体54は、アルミナ等の多孔質部材や、細孔を有する部材からなる。拡散抵抗体54は、測定ガス室61内に導入される排気量を制限するために設けられている。
【0025】
ポンプセル41は、センサセル42及びモニタセル43よりも拡散抵抗体54に近い位置に配置されている。ポンプセル41は、拡散抵抗体54から導入される排気中の酸素を除去する。
ポンプセル41は、第2固体電解質体52と、第2固体電解質体52における測定ガス室61側の表面に配置されるポンプ電極55と、第2固体電解質体52における第1基準ガス室64側の表面に配置される共通電極58とにより構成されている。ポンプ電極55は、NOxを分解し難いNOx不活性電極、例えばPt-Au(白金-金)合金により形成される電極からなる。共通電極58は、センサセル42及びポンプセル41に対応する領域まで延びるように配置されている。ポンプ電極55と共通電極58との間には、SCU22によりポンプ電圧Vpが印加されている。
【0026】
ポンプ電極55には、拡散抵抗体54を通じて測定ガス室61に導入される排気が接触する。ポンプ電極55に排気中の酸素が接触すると、ポンプ電極55において酸素イオンが生成される。この酸素イオンは、第2固体電解質体52内を共通電極58に向かって流れ、共通電極58において電荷を放出して酸素となる。この酸素は、第1基準ガス室64から大気に放出される。この際の電荷の流れに応じてポンプ電極55と共通電極58との間にポンプ電流Ipが流れる。したがって、ポンプ電流Ipは、ポンプセル41における酸素の除去量、換言すれば排気中の酸素濃度に応じた値を示す。本実施形態では、ポンプセル41が、被測定ガスに含まれる酸素の濃度を検出する酸素濃度検出部に相当する。
【0027】
図3に示されるように、センサセル42は、ポンプセル41よりも拡散抵抗体54から離間した位置に配置されている。センサセル42は、ポンプセル41を通過した排気中のNOx濃度及び残留酸素の濃度を検出する。
図2に示されるように、センサセル42は、第2固体電解質体52と、第2固体電解質体52における測定ガス室61側の表面に配置されるセンサ電極56と、共通電極58とにより構成されている。センサ電極56は、NOxを分解し易いNOx活性電極、例えばPt-Rh(白金-ロジウム)合金により形成される電極からなる。センサ電極56と共通電極58との間には、SCU22によりセンサ電圧Vsが印加されている。
【0028】
センサ電極56には、ポンプ電極55を通過した排気、すなわち酸素が除去された排気が接触する。センサ電極56に排気中のNOxが接触することにより、センサ電極56においてNOxが窒素及び酸素に分解される。また、ポンプ電極55により除去することができなかった残留酸素が排気中に存在する場合、この残留酸素もセンサ電極56に接触する。センサ電極において分解された酸素、及び排気中の残留酸素がセンサ電極56に接触することにより、センサ電極56において酸素イオンが生成される。この酸素イオンは、第2固体電解質体52内を共通電極58に向かって流れ、共通電極58において電荷を放出して酸素となる。この酸素は、第1基準ガス室64から大気に放出される。この際の電荷の流れに応じてセンサ電極56と共通電極58との間にセンサ電流Isが流れる。したがって、センサ電流Isは排気中のNOx濃度及び残留酸素の濃度に応じた値を示す。
【0029】
図3に示されるように、モニタセル43は、センサセル42と並ぶように配置されている。モニタセル43は、ポンプセル41を通過した排気中の残留酸素の濃度を検出する。
図2に示されるように、モニタセル43は、第2固体電解質体52と、第2固体電解質体52における測定ガス室61側の表面に配置されるモニタ電極57と、共通電極58とにより構成されている。モニタ電極57は、NOxを分解し難いNOx不活性電極、例えばPt-Au(白金-金)合金により形成される電極からなる。モニタ電極57と共通電極58との間には、SCU22によりモニタ電圧Vmが印加されている。
【0030】
モニタ電極57には、ポンプ電極55により酸素が除去された排気が接触する。排気中に残留酸素が存在する場合、残留酸素がモニタ電極57に接触することにより、モニタ電極57において酸素イオンが生成される。この酸素イオンは、第2固体電解質体52内を共通電極58に向かって流れ、共通電極58において電荷を放出して酸素となる。この酸素は、第1基準ガス室64から大気に放出される。この際の電荷の流れに応じてモニタ電極57と共通電極58との間にモニタ電流Imが流れる。したがって、モニタ電流Imは排気中の残留酸素の濃度に応じた値を示す。
【0031】
ヒータ59は基板部53の内部に設けられている。ヒータ59は、通電に基づき発熱することにより固体電解質体51,52を加熱して、固体電解質体51,52の温度を活性化温度に保持する。
混成電位セル44は、センサ素子21において第2基準ガス室62が設けられる部分に配置されている。混成電位セル44は、センサ素子21の外部に存在する排気中の酸素及びアンモニアを検出する。
【0032】
混成電位セル44は、第1固体電解質体51と、第1固体電解質体51の外面510に配置される検知電極65と、第1固体電解質体51における第2基準ガス室62側の内面に配置される基準電極66とにより構成されている。検知電極65は、貴金属である白金や金、パラジウム等を主成分とする電極からなる。
【0033】
検知電極65には、第1固体電解質体51の外面510付近に存在する排気が接触する。検知電極65では、センサ素子21の外部に存在する排気中のアンモニア及び酸素が接触することにより、以下の(f1)に示されるアノード反応と、以下の式(f2)に示されるカソード反応とが生じる。
【0034】
2NH+3O2-→N+3HO+6e (f1)
+4e→2O2- (f2)
式f1に示されるアノード反応及び式f2に示されるカソード反応が一つの検知電極65の三相界面で同時に発生することにより、排気に含まれるアンモニア濃度及び酸素濃度に応じた電位である混成電位が検知電極65に発生する。これにより、検知電極65と、大気に接触可能に設けられる基準電極66との間に、排気中のアンモニア濃度及び酸素濃度に応じた起電力VNH3が発生する。起電力VNH3は、検知電極65と基準電極66との間の電位差である。本実施形態では、アンモニアが、被測定ガスに含まれる検知対象ガス成分に相当する。
【0035】
保護層70は、センサ素子21の外面を覆うように設けられている。保護層70により混成電位セル44の検知電極65も覆われている。保護層70は、Al2O3を主成分とし、気孔率が「20[%]~60[%]」の範囲で成形された多孔質体からなる。保護層70の厚さは約50[μm]である。保護層70は、センサ素子21の外部の排気を測定ガス室61及び検知電極65に導入することが可能でありながら、センサ素子21を外部環境から保護する。
【0036】
図4に示されるように、ガスセンサ20は、センサ素子21を保持するための保持部23を更に備えている。センサ素子21は、保持部23の先端部略中央から突出するように配置されている。保持部23の先端部には、センサ素子21を外部環境から保護するためのカバー24が装着されている。カバー24は、内側カバー240と、外側カバー241とにより構成されている。内側カバー240は、センサ素子21の外側を覆うように配置された有底筒状の部材からなる。外側カバー241は、内側カバー240の外側を覆うように配置された有底筒状の部材からなる。外側カバー241の外側には、排気管11を流れる排気が存在している。内側カバー240には、その外面から内面に貫通するように貫通孔240a,240bが形成されている。外側カバー241にも、同様に、その外面から内面に貫通するように貫通孔241a,241bが形成されている。
【0037】
このガスセンサ20では、排気管11を流れる排気が外側カバー241の貫通孔241a及び内側カバー240の貫通孔240aを通じて内側カバー240の内部に流入する。また、内側カバー240の内部に流入した排気は、内側カバー240の貫通孔240b及び外側カバー241の貫通孔241bを通じて外部に排出される。したがって、ガスセンサ20には、図4に矢印Fで示されるような排気の流れが形成される。センサ素子21は、内側カバー240の内部に流入する排気中の酸素濃度及びアンモニア濃度を検出する。
【0038】
図5に示されるように、SCU22は、ヒータ制御部220と、ポンプ電流検出部221と、センサ電流検出部222と、モニタ電流検出部223と、電圧調整部224と、通信部225と、ガス濃度演算部226と、混成電位検出部227とを備えている。
ヒータ制御部220は、ヒータ59に印加される電圧を制御することにより、ヒータ59の発熱量を制御する。例えば、ヒータ制御部220は、センサセル42のセンサ電極56と共通電極58との間に印加されているセンサ電圧Vsを交流的に変化させることによりセンサセル42のインピーダンスを検出し、検出されたセンサセル42のインピーダンスと、予め定められた目標インピーダンスとの偏差に基づいて通電デューティ比DHTを設定する。通電デューティ比DHTは、所定の周期時間に対するヒータ59の通電時間の割合を示すものであって、「0[%]」から「100[%]」までの範囲の値に設定される。通電デューティ比DHTの値が大きいほど、所定の周期時間におけるヒータ59の通電時間の割合が大きくなるため、ヒータ59の発熱量が大きくなる。ヒータ制御部220は、設定された通電デューティ比DHTに基づいてヒータ59の印加電圧を制御することによりヒータ59の発熱量を制御して、固体電解質体51,52の温度を活性化温度に保持する。
【0039】
ポンプ電流検出部221は、ポンプ電極55と共通電極58との間に流れるポンプ電流Ipを検出する。
センサ電流検出部222は、センサ電極56と共通電極58との間に流れるセンサ電流Isを検出する。
【0040】
モニタ電流検出部223は、モニタ電極57と共通電極58との間に流れるモニタ電流Imを検出する。
電圧調整部224は、ポンプ電極55と共通電極58との間にポンプ電圧Vpを印加するとともに、センサ電極56と共通電極58との間にセンサ電圧Vsを印加し、さらにモニタ電極57と共通電極58との間にモニタ電圧Vmを印加する。なお、電圧調整部224は、混成電位セル44の検知電極65と基準電極66との間には電圧を印加していない。
【0041】
通信部225は、通信線31を介してSCU22とエンジンECU30との間で各種通信を行う部分である。
ガス濃度演算部226は、ポンプ電流検出部221により検出されるポンプ電流Ip、センサ電流検出部222により検出されるセンサ電流Is、及びモニタ電流検出部223により検出されるモニタ電流Imに基づいて排気中の酸素濃度及びNOx濃度を演算する。具体的には、ポンプ電流Ipは排気中の酸素濃度と相関関係がある。また、センサ電流Isは排気中のNOx濃度及び残留酸素と相関関係がある。さらに、モニタ電流Imは排気中の残留酸素と相関関係がある。これらの関係を利用し、ガス濃度演算部226は、ポンプ電流Ipに基づいて排気中の酸素濃度を演算式やマップ等を用いて演算する。また、ガス濃度演算部226は、センサ電流Isからモニタ電流Imを減算することにより、NOx濃度に相関する電流値「Is-Im」を求めるとともに、求めた電流値「Is-Im」から演算式やマップ等を用いて排気中のNOx濃度を演算する。ガス濃度演算部226は、演算された酸素濃度演算値及びNOx濃度演算値の情報を、通信部225を介してエンジンECU30に送信する。
【0042】
混成電位検出部227は、混成電位セル44の検知電極65と基準電極66との間に発生する混成電位セル44の起電力VNH3を検出する。混成電位検出部227は、検出された混成電位セル44の起電力VNH3の情報を、通信部225を介してエンジンECU30に送信する。
【0043】
エンジンECU30はSCU22から酸素濃度演算値及びNOx濃度演算値の情報を取得する。また、エンジンECU30は、SCU22から送信される混成電位セル44の起電力VNH3の情報に基づいて排気中のアンモニア濃度を演算する。
具体的には、エンジンECU30はガス濃度演算部300を有している。混成電位セル44の起電力VNH3は排気中の酸素濃度及びアンモニア濃度と相関関係がある。これを利用し、ガス濃度演算部226は、SCU22から取得した酸素濃度演算値と混成電位セル44の起電力VNH3とから演算式やマップ等を用いて排気中のアンモニア濃度pNH3を演算する。なお、エンジンECU30は、演算されたアンモニア濃度演算値pNH3を尿素水添加弁17の尿素水添加制御等に用いる。
【0044】
このように、本実施形態のエンジンシステム1では、エンジンECU30によりアンモニア濃度演算値pNH3が演算されるため、エンジンECU30がガスセンサ20の構成要素の一つとなっている。
本実施形態では、アンモニア濃度pNH3が検知対象ガス成分の濃度に相当する。また、起電力VNH3が、検知対象ガス成分の濃度に応じて混成電位セル44に発生する起電力に相当する。
【0045】
ところで、図2に示されるようなガスセンサ20では、混成電位セル44の検知電極65が外部に晒されているため、排気管11を流れる排気の流速が変化すると、検知電極65を流れる排気の流速も変化する。この検知電極65における排気の流速の変化が、ガスセンサ20により検出されるアンモニア濃度演算値pNH3に誤差を生じさせる要因となる。
【0046】
具体的には、排気の流速とアンモニア濃度演算値との関係を発明者らが実験的に測定したところ、図6に示されるような測定結果が得られた。図6は、排気中の実際のアンモニア濃度が「100[ppm]」である状況において混成電位セル44の検知電極65を流れる排気の流速を変化させた場合に検知電極65により検出されるアンモニア濃度演算値pNH3の推移を示したものである。
【0047】
図6に示されるように、排気の流速Vex及びアンモニア濃度演算値pNH3は基本的には相関関係がある。すなわち、排気の流速Vexが速くなるほどアンモニア濃度演算値pNH3が増加する。これは、排気の流速Vexが速くなるほど、単位時間当たりに検知電極65に接触する排気の流量が増加するため、混成電位セル44の検知電極65により検出されるアンモニア濃度が増加するためであると考えられる。
【0048】
また、混成電位セル44の検知電極65により検出されるアンモニア濃度は、排気の流速Vexだけでなく、混成電位セル44の周辺の環境温度の影響を受けて変化する。具体的には、混成電位セル44の検知電極65の温度が上昇すると、以下の式f3,f4に示されるようなアンモニアの燃焼反応が発生する。
【0049】
4NH+3O→2N+6HO (f3)
4NH+5O→4NO+6HO (f4)
式f3及びf4に示されるようなアンモニアの燃焼反応が生じると、検知電極65により検出されるアンモニア濃度が減少する。よって、混成電位セル44の周辺の環境温度とガスセンサ20のアンモニア濃度演算値pNH3との間には、混成電位セル44の周辺の環境温度が上昇するほどアンモニア濃度演算値pNH3が減少するという関係が成立する。なお、本実施形態の混成電位セル44の周辺の環境温度は、センサ素子21の周辺を流れる排気温Texと相関を有している。よって、本実施形態のガスセンサ20では、排気温Texが上昇するほどガスセンサ20のアンモニア濃度演算値pNH3が減少することとなる。
【0050】
このように排気の流速Vexや排気温Texに応じてガスセンサ20のアンモニア濃度演算値pNH3にばらつきが生じると、排気中のアンモニア濃度を適切に検出することができない。そこで、本実施形態のガスセンサ20は、排気の流速Vex及び排気温Texに基づいて混成電位セル44の起電力検出値VNH3を補正した上で、補正された起電力VNH3に基づいて排気中のアンモニア濃度演算値pNH3を演算する。
【0051】
次に、エンジンECU30のガス濃度演算部300によるアンモニア濃度演算値pNH3の演算手順について具体的に説明する。
図7に示されるように、ガス濃度演算部300は、密度演算部301と、流速演算部302と、流速補正部303と、温度補正部304と、濃度演算部305とを備えている。
【0052】
密度演算部301は、排気圧Pex及び排気温Texに基づいて排気の密度ρexを演算する。具体的には、密度演算部301は、大気圧センサ36により検出される大気圧Pairに、予め定められた所定圧力ΔPを加算することにより排気圧Pexを求める。
【0053】
なお、大気圧Pairと排気圧Pexとの差圧に相当する所定圧力ΔPと、排気の流量Qexと、排気の密度ρexとの間には以下の式f5に示される関係が成立する。
ΔP∝Qex^(2/ρ) (f5)
所定圧力ΔPは上記の式f5の関係を用いて実車環境に合わせ込むように予め設定されている。
【0054】
密度演算部301は、排気圧Pex及び排気温Texから演算式やマップ等を用いて排気の密度ρexを演算する。
流速演算部302は、排気量Qex及び排気の密度ρexから以下の式f6に基づいて排気の流速Vexを演算する。なお、式f6において、「A」は排気管11の断面積を示す。
【0055】
Vex=Qex/(ρ×A) (f6)
なお、排気量Qexが吸気管18を流れる空気量と略同一であることを利用して、流速演算部302は、排気量Qexとして、流量センサ32により検出される吸気量Gaを用いる。
【0056】
流速補正部303は、流速演算部302により演算される排気の流速Vexに基づいて混成電位セル44の起電力検出値VNH3を補正する。具体的には、流速補正部303は、図8に示されるような排気の流速Vexと混成電位セル44の出力感度Kaとの関係を示すマップを有しており、図8に示されるマップを用いることにより排気の流速Vexから出力感度Kaを演算する。なお、図8に示されるマップは、発明者らが予めモデル等を用いて排気の流速Vexと出力感度Kaとの関係を求めることにより作成されており、エンジンECU30のメモリに記憶されている。流速補正部303は混成電位セル44の起電力VNH3と出力感度Kaとから以下の式f7に基づいて起電力補正値VNH3’を演算する。
【0057】
NH3’=VNH3/Ka (f7)
図7に示されるように、温度補正部304は、流速補正部303により演算される起電力VNH3’を、排気温センサ33により検出される排気温Texを用いて更に補正する。具体的には、温度補正部304は、図9に示されるような排気温Texと混成電位セル44の出力感度Kbとの関係を示すマップを有しており、図9に示されるマップを用いることにより排気温Texから出力感度Kbを演算する。なお、図9に示されるマップは、発明者らが予めモデル等を用いて排気温Texと出力感度Kbとの関係を求めることにより作成されるとともに、エンジンECU30のメモリに記憶されている。温度補正部304は、混成電位セル44の起電力VNH3と出力感度Kbとから以下の式f8に基づいて起電力補正値VNH3’’を演算する。
【0058】
NH3’’=VNH3’/Kb (f8)
濃度演算部305は、温度補正部304により演算される混成電位セル44の起電力VNH3’’と、SCU22から取得した酸素濃度演算値pO2とから演算式やマップ等を用いてアンモニア濃度演算値pNH3を演算する。なお、混成電位セル44の起電力VNH3’’及び酸素濃度演算値pO2からアンモニア濃度演算値pNH3を演算する方法としては、上記の特許文献1に記載される方法等の種々の方法を採用することができる。
【0059】
以上説明した本実施形態のガスセンサ20によれば、以下の(1)及び(2)に示される作用及び効果を得ることができる。
(1)ガス濃度演算部300は、排気の流速Vexに基づいて混成電位セル44の起電力検出値VNH3を補正する。このような構成によれば、排気の流速Vexに応じて混成電位セル44の起電力検出値VNH3が変化した場合であっても、その排気の流速Vexに応じて混成電位セル44の起電力検出値VNH3が補正される。これにより、排気の流速Vexの影響を排除しつつアンモニア濃度pNH3を演算することができるため、アンモニア濃度演算値pNH3の演算精度を向上させることができる。
【0060】
(2)ガス濃度演算部300は、混成電位セル44の温度として排気温Texを用いた上で、排気温Texに基づいて混成電位セル44の起電力検出値VNH3を更に補正する。このような構成によれば、排気温Texの影響を排除しつつアンモニア濃度pNH3を演算することができるため、アンモニア濃度演算値pNH3の演算精度を更に向上させることができる。
【0061】
<第2実施形態>
次に、ガスセンサ20の第2実施形態について説明する。以下、第1実施形態のガスセンサ20との相違点を中心に説明する。
第1実施形態のガスセンサ20は、排気の流速Vex及び排気温Texに基づいて混成電位セル44の起電力検出値VNH3を補正するものであった。これに対し、本実施形態のガスセンサ20は、排気の流速Vexと相関を有するヒータ59の通電エネルギEHTと、混成電位セル44の温度と相関を有する混成電位セル44の交流アドミタンスYNH3とに基づいて混成電位セル44の起電力検出値VNH3を補正する。
【0062】
具体的には、図1に示されるようなガスセンサ20では、排気の流速Vexが速くなるほど、ガスセンサ20を通過する排気の流量が増加するため、センサ素子21から排気に逃げる熱量が多くなる。すなわち、排気の流速Vexが速くなるほど、センサ素子21の温度が低下する。そのため、固体電解質体51,52の温度を活性化温度に保持するためには、排気の流速Vexが速くなるほど、ヒータ59の発熱量を大きくする必要があるため、ヒータ59の通電デューティ比DHTが大きく設定される。
【0063】
例えば、図10に示されるように、時刻t10から時刻t11までの期間、通電デューティ比DHTが「D1」に設定されているとする。この場合、ヒータ59を流れる電流IHT、及びヒータ59に印加されている電圧VHT図10(A),(B)に示されるように推移する。このとき、所定の周期時間を「T1」とすると、ヒータ59の通電時間は「T1×D1」となる。
【0064】
一方、時刻t11以降、排気の流速Vexが速くなった場合には、ヒータ59の発熱量を大きくするために、通電デューティ比DHTが「D1」よりも大きい「D2」に設定される。結果的に、ヒータ59の通電時間は「T1×D2」に変更される。このように、排気の流速Vexが速くなるとヒータ59の通電時間が長くなるため、ヒータ59の発熱量が大きくなる。
【0065】
また、ヒータ59に印加されている電圧を「VHT」とし、ヒータ59を流れる電流を「IHT」とするとき、ヒータ59の通電エネルギEHTは、ヒータ電圧VHT、ヒータ電流IHT、及び通電デューティ比DHTから以下の式f9に基づいて求めることができる。
【0066】
HT=VHT×IHT×DHT (f9)
式9に示されるように、ヒータ59の通電エネルギEHTと通電デューティ比DHTとの間には相関関係がある。上述の通り、排気の流速Vexと通電デューティ比DHTとの間にも相関関係がある。よって、ヒータ59の通電エネルギEHTは排気の流速Vexと相関関係を有することとなる。
【0067】
また、混成電位セル44の温度は、混成電位セル44の検知電極65と基準電極66との間の交流アドミタンスと相関関係がある。
以上を踏まえ、本実施形態のガスセンサ20は、排気の流速Vexに代えて、それと相関を有するヒータの通電エネルギEHTを用いるとともに、混成電位セル44の温度に代えて、それと相関を有する混成電位セル44のアドミタンスを用いた上で、それらに基づいて混成電位セル44の起電力検出値VNH3を補正する。
【0068】
次に、本実施形態のガス濃度演算部300による混成電位セル44の起電力検出値VNH3の補正手順について詳しく説明する。
図2に破線で示されるように、本実施形態のガスセンサ20では、SCU22からヒータ59に電力を供給するための給電線に電圧センサ37及び電流センサ38が設けられている。電圧センサ37は、ヒータ59に印加されている電圧VHTを検出するとともに、検出されたヒータ電圧VHTに応じた信号をSCU22に送信する。電流センサ38は、ヒータ59を流れる電流IHTを検出するとともに、検出されたヒータ電流IHTに応じた信号をSCU22に送信する。SCU22は、電圧センサ37及び電流センサ38のそれぞれの出力信号に基づいてヒータ電圧VHT及びヒータ電流IHTの情報を取得するとともに、取得したそれらの情報、及び通電デューティ比DHTの情報をエンジンECU30に送信する。
【0069】
一方、図11に示されるように、エンジンECU30のガス濃度演算部300は、流速補正部303と、温度補正部304と、濃度演算部305とを備えている。
流速補正部303は、ヒータ59の通電エネルギEHTに基づいて混成電位セル44の起電力検出値VNH3を補正する。具体的には、流速補正部303は、SCU22から送信されるヒータ電圧VHT、ヒータ電流IHT、及び通電デューティ比DHTの情報から上記のf9を用いてヒータ59の通電エネルギEHTを演算する。本実施形態では、ヒータ59の通電エネルギEHTが、排気の流速Vexと相関を有する流速相関パラメータに相当する。
【0070】
流速補正部303は、図12に示されるようなヒータ59の通電エネルギEHTと混成電位セル44の出力感度Kaとの関係を示すマップを有しており、図12に示されるマップを用いることによりヒータ59の通電エネルギEHTから出力感度Kaを演算する。なお、図12に示されるマップは、発明者らが予め実験等を行ってヒータ59の通電エネルギEHTと混成電位セル44の出力感度Kaとの関係を求めることにより作成されており、エンジンECU30のメモリに記憶されている。流速補正部303は、混成電位セル44の起電力VNH3と出力感度Kaとから上記の式f7に基づいて、起電力補正値VNH3’を演算する。
【0071】
図11に示されるように、温度補正部304は、流速補正部303により演算される起電力VNH3’を混成電位セル44のアドミタンスYNH3を用いて更に補正する。
具体的には、図5に破線で示されるように、SCU22はアドミタンス検出部228を更に備えている。アドミタンス検出部228は、図13(B)に示されるような交流電圧VNH3を混成電位セル44の検知電極65と基準電極66との間に印加する。これにより、図13(A)に示されるような交流電流INH3が混成電位セル44の検知電極65と基準電極66との間に流れる。このとき、アドミタンス検出部228は、図13(B)に示される電圧振幅ΔVNH3と、図13(A)に示される電流振幅ΔINH3とから以下の式f10,f11に基づいて混成電位セル44の交流インピーダンスZNH3及び交流アドミタンスYNH3を求める。
【0072】
NH3=ΔVNH3/ΔINH3 (f10)
NH3=1/ZNH3 (f11)
アドミタンス検出部228は、求めた混成電位セル44の交流アドミタンスYNH3の情報を通信線31を介してエンジンECU30に送信する。
【0073】
エンジンECU30の温度補正部304は、図14に示されるような混成電位セル44の交流アドミタンスYNH3と出力感度Kbとの関係を示すマップを有しており、図14に示されるマップを用いることにより交流アドミタンスYNH3から出力感度Kbを演算する。なお、図14に示されるマップは、発明者らが予め実験等を行って混成電位セル44の交流アドミタンスYNH3と出力感度Kbとの関係を求めることにより作成されており、エンジンECU30のメモリに記憶されている。温度補正部304は、流速補正部303により演算される起電力VNH3’と出力感度Kbとから上記の式f8に基づいて起電力補正値VNH3’’を演算する。
【0074】
本実施形態では、混成電位セル44の交流アドミタンスYNH3が、混成電位セル44の温度と相関を有する温度相関パラメータに相当する。
以上説明した本実施形態のガスセンサ20によれば、以下の(3)及び(4)に示される作用及び効果を得ることができる。
【0075】
(3)ガス濃度演算部300は、排気の流速Vexとして、それと相関を有するヒータ59の通電エネルギEHTを用いる。このような構成によれば、センサ素子21及びSCU22において検出可能なパラメータを用いて混成電位セル44の起電力VNH3を補正することができるため、補正に必要なガスセンサ20の構成を簡素化することができる。
【0076】
(4)ガス濃度演算部300は、混成電位セル44の温度として、それと相関を有する混成電位セル44の交流アドミタンスYNH3を用いる。このような構成によれば、センサ素子21及びSCU22において検出可能なパラメータを用いて混成電位セル44の起電力VNH3を更に補正することができるため、補正に必要なガスセンサ20の構成を簡素化することができる。
【0077】
<第3実施形態>
次に、ガスセンサ20の第3実施形態について説明する。以下、第1実施形態のガスセンサ20との相違点を中心に説明する。
図1に示されるようなガスセンサ20では、エンジン10の回転速度Neが速くなるほど排気の流速Vexが速くなる。また、エンジン10の負荷が大きくなるほど排気温が上昇するため、混成電位セル44の温度が高くなる。このように、エンジン回転速度Neは排気の流速Vexと相関関係を有し、エンジン負荷は混成電位セル44の温度と相関関係を有する。
【0078】
これを利用し、本実施形態のガスセンサ20では、排気の流速Vexと相関を有するエンジン回転速度Ne、及び混成電位セル44の温度と相関を有するエンジン負荷に基づいてアンモニア濃度演算値pNH3を補正する。本実施形態では、エンジン回転速度Neが、排気の流速Vexと相関を有する流速相関パラメータとして用いられるエンジン10の状態量に相当する。また、エンジン負荷が、混成電位セル44の温度と相関を有する温度相関パラメータとして用いられるエンジン10の状態量に相当する。
【0079】
次に、本実施形態のアンモニア濃度演算値pNH3の補正手順について詳しく説明する。
図15に示されるように、エンジンECU30のガス濃度演算部300は、濃度演算部305と、濃度補正部306とを備えている。
【0080】
濃度演算部305は、混成電位セル44の起電力検出値VNH3及び酸素濃度演算値pO2に基づいて演算式やマップ等を用いてアンモニア濃度演算値pNH3を演算する。
濃度補正部306は、エンジン回転速度Ne及びエンジン負荷Leに基づいてアンモニア濃度演算値pNH3を補正する。
【0081】
具体的には、濃度補正部306は、エンジン回転速度Neや吸気量Ga、アクセル開度Pa等からエンジン負荷Leをマップ等を用いて演算する。濃度補正部306は、図16に示されるような3次元マップを用いてエンジン回転速度Ne及びエンジン負荷Leから出力感度Kcを演算する。図16に示されるマップでは、エンジン回転速度Neが速くなるほど出力感度Kcの値が大きくなり、またエンジン負荷Leが大きくなるほど出力感度Kcの値が小さくなるように設定されるようになっている。図16に示されるマップは、発明者らが予め実験等を行ってエンジン回転速度Ne、エンジン負荷Le、及び出力感度Kcの関係を求めることにより作成されており、エンジンECU30のメモリに記憶されている。
【0082】
濃度補正部306は、SCU22から送信されるアンモニア濃度演算値pNH3と出力感度Kcとから以下の式f12に基づいてアンモニア濃度補正値pNH3’を演算する。
NH3’=pNH3/Kc (f12)
以上説明した本実施形態のガスセンサ20によれば、以下の(5)及び(6)に示される作用及び効果を得ることができる。
【0083】
(5)ガス濃度演算部300は、排気の流速Vexとして、それと相関を有するエンジン回転速度Neを用いる。このような構成によれば、エンジンECU30が取得可能なパラメータを用いてアンモニア濃度演算値pNH3を補正することができるため、補正に必要なガスセンサ20の構成を簡素化することができる。
【0084】
(6)ガス濃度演算部300は、混成電位セル44の温度として、それと相関を有するエンジン負荷Leを用いる。このような構成によれば、エンジンECU30が取得可能なパラメータを用いてアンモニア濃度演算値pNH3を更に補正することができるため、補正に必要なガスセンサ20の構成を簡素化することができる。
【0085】
(変形例)
次に、第3実施形態のガスセンサ20の変形例について説明する。
図17に示されるように、ガス濃度演算部300は、エンジン回転速度Ne及びエンジン負荷Leに代えて、アクセル開度Paに基づいてアンモニア濃度演算値pNH3を補正してもよい。具体的には、ガス濃度演算部300は、図18に示されるようなアクセル開度Paと出力感度Kcとの関係を示すマップを有しており、図18に示されるマップを用いることによりアクセル開度Paから出力感度Kcを演算する。なお、図18に示されるマップは、発明者らが予め実験等を行ってアクセル開度Paと出力感度Kcとの関係を求めることにより作成されており、エンジンECU30のメモリに記憶されている。ガス濃度演算部300は、アンモニア濃度演算値pNH3と出力感度Kcとから上記の式f12に基づいてアンモニア濃度補正値pNH3’を演算する。本変形例では、アクセル開度Paが、排気の流速Vexと相関を有する流速相関パラメータとして用いられる車両の状態量に相当し、且つ混成電位セル44の温度と相関を有する温度相関パラメータとして用いられる車両の状態量に相当する。
【0086】
このような構成によれば、アンモニア濃度演算値pNH3の補正に必要なパラメータが更に少なくなるため、補正に必要なガスセンサ20の構成を簡素化することができる。
<第4実施形態>
次に、ガスセンサ20の第4実施形態について説明する。以下、第1実施形態のガスセンサ20との相違点を中心に説明する。
【0087】
図1に示されるようなエンジンシステム1では、流量センサ32とセンサ素子21とがずれて配置されている。そのため、流量センサ32により検出される吸気量Gaを、ガスセンサ20の近傍を流れる排気量Qexとして用いると、実際の排気量と、演算に用いられる排気量Qexとに乖離が生じる。これは、混成電位セル44の起電力検出値VNH3の補正時期が適切な時期からずれる要因となる。
【0088】
具体的には、図19(A)に示されるように、例えば時刻t20で車両の速度が速くなったとすると、それに伴って吸気量Ga及び排気量Qexが図19(B)に示されるように増加する。すなわち、図19(B)に実線で示されるように時刻t20で吸気量Gaが増加した後、図19(B)に二点鎖線で示されるように、時刻t20から所定時間が経過した時刻t22で排気量Qexが増加し始める。このように、吸気量Gaが変化した時点から排気量Qexが変化するまでにはタイムラグが存在する。
【0089】
この際、排気中のアンモニア濃度が一定であるとすると、排気量Qexの変化に伴って混成電位セル44の起電力検出値VNH3図19(C)に一点鎖線で示されるように変化する。このとき、センサ素子21の周辺の実際の排気量に基づいて起電力検出値VNH3が補正されれば、起電力補正値VNH3’’は一定値Vaを示すはずである。ところが、第1実施形態のガスセンサ20のように吸気量Gaに基づいて混成電位セル44の起電力検出値VNH3の補正が行われると、センサ素子21の周辺の排気量Qexが変化していないにも関わらず、起電力検出値VNH3の補正が行われる。結果的に、起電力補正値VNH3’’が理想値Vaからずれてしまう。
【0090】
そこで、本実施形態のエンジンECU30は、排気量Qexに基づく起電力検出値VNH3の補正処理と、起電力検出値VNH3のなまし処理とを併用することにより、起電力検出値VNH3の誤差を抑制する。本実施形態では、なまし処理がフィルタリング処理に相当する。
【0091】
具体的には、図20に示されるように、本実施形態のエンジンECU30のガス濃度演算部300は、なまし処理部307を更に備えている。なまし処理部307は、単位時間当たりの吸気量の変化量ΔGaが所定値以上になったと判断した場合、その時点から所定時間T2が経過するまでの期間、起電力検出値VNH3に対してなまし処理を実行することにより起電力なまし値VNH3’’’を演算する。
【0092】
例えば図19(B)に示されるように吸気量Gaが変化した場合、なまし処理部307は、単位時間当たりの吸気量の変化量ΔGaが所定値以上になったと時刻t21で判断すると、この時刻t21から所定時間T2が経過する時刻t23までの期間、起電力検出値VNH3に対してなまし処理を施す。そのため、図19(C)に一点鎖線で示されるように実際の起電力検出値VNH3が変化した場合であっても、図19(C)に実線で示されるように、起電力なまし値VNH3’’’は理想値Vaに近い値で推移する。
【0093】
一方、図20に示される濃度演算部305は、なまし処理が行われている期間、すなわち図19に示される時刻t21から時刻t23までの期間、起電力なまし値VNH3’’’に基づいてアンモニア濃度演算値pNH3を演算する。また、濃度演算部305は、なまし処理が終了した後、すなわち時刻t23以降、上述した起電力補正値VNH3’’に基づいてアンモニア濃度演算値pNH3を演算する。図19(C)に実線で示されるように、時刻t23以降、起電力補正値VNH3’’は理想値Vaに近い値で推移しているため、アンモニア濃度演算値pNH3を適切に演算することができる。
【0094】
以上説明した本実施形態のガスセンサ20によれば、以下の(7)に示される作用及び効果を得ることができる。
(7)ガス濃度演算部300は、単位時間当たりの吸気量の変化量ΔGaが所定値以上であると判断したとき、混成電位セル44の起電力検出値VNH3に対してなまし処理を施す。このような構成によれば、流量センサ32による吸気量Gaの検出時期と、センサ素子21における排気量Qexの変化時期との間にずれが生じる場合であっても、理想値Vaに近い値を有する起電力なまし値VNH3’’’に基づいてアンモニア濃度演算値pNH3を演算することができる。よって、アンモニア濃度演算値pNH3の演算精度を確保することができる。
【0095】
<他の実施形態>
なお、上記実施形態は、以下の形態にて実施することもできる。
・第1実施形態の流速補正部303は、排気の流速Vexに代えて排気量Qexを用いて混成電位セル44の起電力VNH3を補正してもよい。排気量Qexが増加する場合としては、排気の流速Vexが速くなる場合と、排気圧Pexが増加する場合とが存在する。排気の流速Vexに対する混成電位セル44の出力感度Kaの変化は図8に示される通りである。排気圧Pexに対する混成電位セル44の出力感度Kdの変化を実験的に求めたところ、図21に示されるような結果を得ることができた。図8及び図21を比較して明らかなように、排気圧Pexに対する出力感度Kdよりも排気の流速Vexに対する出力感度Kaの方が大きい傾向がある。実車環境では、排気圧Pexよりも排気の流速Vexの方が大きく変化するため、排気量Qexの変化傾向と排気の流速Vexの変化傾向とは略一致する。そのため、排気量Qexを用いて混成電位セル44の起電力VNH3を補正することも可能である。
【0096】
・第1実施形態のガス濃度演算部300は、排気温Texだけでなく、排気圧Pexに基づいて混成電位セル44の起電力VNH3を補正してもよい。具体的には、ガス濃度演算部300は、図21に示されるマップを利用して排気圧Pexから混成電位セル44の出力感度Kdを求めた上で、この出力感度Kdに基づいて混成電位セル44の起電力VNH3を補正してもよい。すなわち、ガス濃度演算部300は、排気温Tex及び排気圧Pexの少なくとも一方に基づいて混成電位セル44の起電力VNH3を補正してもよい。
【0097】
・第1実施形態のガスセンサ20では、混成電位セル44の起電力VNH3に対して排気の流速Vexに基づく補正を行っているが、これに代えて、起電力VNH3に基づいて演算されるアンモニア濃度演算値pNH3に対して排気の流速Vexに基づく補正を行ってもよい。
【0098】
・第1実施形態の温度補正部304は、排気温Texに基づいて混成電位セル44の起電力VNH3’を補正するものであるが、これに代えて、センサ素子21の周辺の排気管11の内壁面の温度に基づいて起電力VNH3’を補正してもよい。上記の式f3,f4に示されるアンモニアの燃焼反応は、混成電位セル44の検知電極65の温度の上昇に伴って発生し易くなる。混成電位セル44の検知電極65の温度は、それと熱的に繋がっている排気管11の内壁面の温度の影響を最も受けやすい。そのため、排気管11の内壁面の温度に基づいて起電力VNH3’を補正することで、より的確に起電力VNH3’を補正することが可能となる。
【0099】
・第1及び第2実施形態のガスセンサ20は、混成電位セル44の起電力VNH3を補正するものであるが、第3実施形態のガスセンサ20のように、アンモニア濃度演算値pNH3を補正してもよい。また、第3実施形態のガスセンサ20は、混成電位セル44の起電力VNH3を補正してもよい。
【0100】
・第2実施形態のガスセンサ20は、混成電位セル44の温度と相関を有するパラメータとして、混成電位セル44の交流アドミタンスYNH3に代えて、センサセル42の交流アドミタンスやヒータ59の抵抗等を用いてもよい。
・第4実施形態のガス濃度演算部300の構成は、第2実施形態のガス濃度演算部300や第3実施形態のガス濃度演算部300にも適用可能である。例えば第2実施形態のガス濃度演算部300は、混成電位セル44の起電力検出値VNH3に対してなまし処理を施してもよい。また、第3実施形態のガス濃度演算部300は、エンジン回転速度Neやエンジン負荷Le、アクセル開度Pa等になまし処理を施してもよい。
【0101】
・第4実施形態のガス濃度演算部300が混成電位セル44の起電力検出値VNH3に対して施す処理は、なまし処理に限らず、移動平均処理等の種々のフィルタリング処理であってもよい。また、フィルタリング処理に代えて、マスキング処理等を用いてもよい。
【0102】
・各実施形態のガスセンサ20では、エンジンECU30がアンモニア濃度演算値pNH3の演算を行っているが、これに代えて、SCU22がアンモニア濃度演算値pNH3の演算を行ってもよい。
・本開示に記載のSCU22、エンジンECU30、並びにそれらの制御方法は、コンピュータプログラムにより具体化された1つ又は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された1つ又は複数の専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載のSCU22、エンジンECU30、並びにそれらの制御方法は、1つ又は複数の専用ハードウェア論理回路を含むプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載のSCU22、エンジンECU30、並びにそれらの制御方法は、1つ又は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと1つ又は複数のハードウェア論理回路を含むプロセッサとの組み合わせにより構成された1つ又は複数の専用コンピュータにより、実現されてもよい。コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。専用ハードウェア論理回路及びハードウェア論理回路は、複数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路により実現されてもよい。
【0103】
・本開示は上記の具体例に限定されるものではない。上記の具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素、及びその配置、条件、形状等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0104】
20:ガスセンサ
41:ポンプセル(酸素濃度検出部)
44:混成電位セル
59:ヒータ
65:検知電極
66:基準電極
226,300:ガス濃度演算部
図1
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