(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】複合シートの製造方法及び複合シートの製造装置
(51)【国際特許分類】
B29C 65/08 20060101AFI20230412BHJP
【FI】
B29C65/08
(21)【出願番号】P 2020190491
(22)【出願日】2020-11-16
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 颯太
(72)【発明者】
【氏名】黒田 圭介
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-099883(JP,A)
【文献】特開2011-110606(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111633995(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1シート及び第2シートが接合した複数の接合部を有し、第1シートにおける前記接合部以外の少なくとも一部が、第2シート側と反対側に突出した凸部を形成しており、且つ前記接合部に貫通孔を有する複合シートの製造方法であって、
互いに噛み合う凹凸を周面に有する第1ロール及び第2ロールを、両ロールの噛み合い状態下に互いに逆方向に回転させながら、両ロールの噛み合い部に第1シートを導入して該第1シートを凹凸形状に変形させる賦形工程と、
凹凸形状に変形させた第1シートを第1ロールの周面に保持しつつ搬送し、搬送中の第1シートに第2シートを重ね合わせる重ね合わせ工程と、
重ね合わされた第1シート及び第2シートを、第1ロールの凸部と超音波接合機の超音波ホーンとの間に挟んで超音波振動を印加して、前記貫通孔を有する前記接合部が複数形成されてなる複合シートを得る超音波処理工程と、
前記貫通孔の形成によって発生したシート片を吸引して除去する第1吸引工程と、
凹凸形状に賦形された部分が第1ロールの凹凸部に嵌まり合った状態で搬送される前記複合シートに、回転するブラシロールを接触させて、該複合シートに付着している前記シート片を剥がすブラッシング工程と、
を含み、
前記第1吸引工程及び前記ブラッシング工程が単一のフードによって画成された空間内で行われる複合シートの製造方法。
【請求項2】
前記ブラッシング工程によって剥がされた前記シート片を吸引して除去する第2吸引工程を含む請求項1に記載の複合シートの製造方法。
【請求項3】
前記ブラッシング工程の後に、前記複合シートにおける第2シート側を、周面に凹凸を有し且つ回転する第3ロールに抱かせる請求項1又は2に記載の複合シートの製造方法。
【請求項4】
前記第3ロールの周速度が、前記複合シートの搬送方向に対して逆回転する場合、もしくは、前記複合シートの搬送速度よりも遅く順回転する場合は、上流方向に対して正の相対速度をもつ、又は、前記複合シートの搬送速度よりも速く順回転する場合は、前記上流方向に対して負の相対速度をもつ請求項3に記載の複合シートの製造方法。
【請求項5】
前記ブラシロールの周速度が、前記複合シートの搬送方向に対して逆回転する場合、もしくは、前記複合シートの搬送速度よりも遅く順回転する場合は、上流方向に対して正の相対速度をもつ、又は、前記複合シートの搬送速度よりも速く順回転する場合は、前記上流方向に対して負の相対速度をもつ請求項1~4のいずれか一項に記載の複合シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合シートの製造方法及び複合シートの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野において、特許文献1には、第1シートと第2シートとを重ね合わせて形成した複合シートを凹凸ロールと超音波ホーンとの間に挟んで超音波振動を印加して、貫通孔を有する融着部を有する複合シートの製造方法が開示されている(同文献段落[0017]~[0025]、
図3等)。また、特許文献2には、起毛加工部の下流側に繊維除去用凸ローラ、繊維除去用凸ローラに対向配置された繊維吸引部及び繊維除去用凸ローラと繊維吸引部との間に配置された除電部を有する繊維回収部により起毛不織布から脱落する繊維屑を回収する不織布の製造方法が開示されている(同文献段落[0013]、[0020]~[0027]、
図1等)。さらに、特許文献3には、シートの搬送方向に回転する回転ブラシと、回転ブラシに近接して設けられたエアー吸引装置とを用いて、シート表面をブラッシングして、シート表面に付着した異物をたたき出し、エアー吸引する製造方法が開示されている(同文献段落[0014]~[0022])。また、特許文献4には、吸引ボックス内に配置されたかき取りローラの周面を搬送される毛布の面に接触させて毛玉を除去する毛玉除去方法が開示されている(同文献請求項1、
図1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-99883号公報
【文献】特開2016-113723号公報
【文献】特開2002-172707号公報
【文献】特開昭62-6968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、貫通孔を形成する際に発生するシート片を回収する回収機構が設けられていないので、シート片を回収することができなかった。また、上記特許文献2に記載の技術は、起毛加工部の下流側で繊維屑を回収するものであるため、起毛加工部と繊維回収部との間では、繊維屑を回収できず装置の汚染を防止できなかった。さらに、上記特許文献3に記載の技術は、シート表面に付着した異物を除去するためのものであり、貫通孔の形成によって発生するシート片を回収できなかった。また、上記特許文献4に記載の技術は、搬送中の毛布を吸引ボックスで吸引することにより膨出させてかき取りローラを毛布の面に接触させるものであり、吸引のみで毛布を引き付けているため、毛布とかき取りローラを毛布の面に安定して接触させられず、毛玉を確実に除去できなかった。
【0005】
したがって、本発明の課題は、貫通孔の形成によって発生したシート片を除去して装置の汚染を防止し、且つ高品質の製品を得ることに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1シート及び第2シートが接合した複数の接合部を有し、第1シートにおける前記接合部以外の少なくとも一部が、第2シート側と反対側に突出した凸部を形成しており、且つ前記接合部に貫通孔を有する複合シートの製造方法であって、互いに噛み合う凹凸を周面に有する第1ロール及び第2ロールを、両ロールの噛み合い状態下に互いに逆方向に回転させながら、両ロールの噛み合い部に第1シートを導入して該第1シートを凹凸形状に変形させる賦形工程と、凹凸形状に変形させた第1シートを第1ロールの周面に保持しつつ搬送し、搬送中の第1シートに第2シートを重ね合わせる重ね合わせ工程と、重ね合わされた第1シート及び第2シートを、第1ロールの凸部と超音波接合機の超音波ホーンとの間に挟んで超音波振動を印加して、前記貫通孔を有する前記接合部が複数形成されてなる複合シートを得る超音波処理工程と、前記貫通孔の形成によって発生したシート片を吸引して除去する第1吸引工程と、凹凸形状に賦形された部分が第1ロールの凹凸部に嵌まり合った状態で搬送される前記複合シートに、回転するブラシロールを接触させて、該複合シートに付着している前記シート片を剥がすブラッシング工程と、を含む複合シートの製造方法を提供するものである。
【0007】
また、本発明は、第1シート及び第2シートが接合した複数の接合部を有し、第1シートにおける前記接合部以外の少なくとも一部が、第2シートと反対側に突出した凸部を形成しており、且つ前記接合部に貫通孔を有する複合シートの製造装置であって、互いに噛み合う凹凸を周面に有し且つ回転軸が互いに平行になるように配置された第1ロール及び第2ロールと、第1ロールの周面に対向するように配置された超音波ホーンを有する超音波接合機と、第1ロールの回転方向に関し前記超音波接合機よりも下流の位置であって且つ第1ロールの周面に対向するように配置されたブラシロールと、を備える、複合シートの製造装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、貫通孔の形成によって発生したシート片を除去するので、装置の汚染を防止でき、高品質の製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の複合シートの製造方法及び装置により製造される複合シートの一例を示す要部斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す複合シートを第1シート側から見た拡大平面図である。
【
図3】
図3は、本発明の複合シートの製造方法及び本発明の複合シートの製造装置を示す概略図である。
【
図4】
図4は、
図3に示す第1ロールの要部を拡大して示す斜視図である。
【
図5】
図5は、
図3に示す超音波接合機の要部を示す図であり、
図3中の左側から見た状態を示す図である。
【
図6】
図6は、(a)本発明の複合シートの製造方法及び装置におけるブラッシングのメカニズムを説明する図であり、(b)一般的なロールを用いた場合のブラッシングのメカニズムを説明する図である。
【
図7】
図7は、第1吸引工程及びブラッシング工程が単一のフードで行われる場合の製造装置の部分拡大図である。
【
図8】
図8は、第3ロールの周面の凹凸について説明するための図である。
【
図9】
図9は、第3ロールの凹凸の角部によりシート片をかき取る様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明をその好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。まず、本発明の複合シートの製造方法又は製造装置により製造される複合シートについて、
図1を参照しつつ説明する。
【0011】
図1に示す複合シート10は、本発明の複合シートの製造方法又は製造装置により製造される複合シートの一例であり、
図1に示すように、第1シート1及び第2シート2が接合した多数の接合部4を有し、第1シート1における接合部4以外の部分の少なくとも一部が、第2シート2側とは反対側に突出した凸部5を形成している。
【0012】
複合シート10は、吸収性物品の表面シート等として好ましく用いられる。吸収性物品の表面シートとして用いられるときには、第1シート1が、着用者の肌側に向けられる面を形成し、第2シート2が、着用時に吸収体側に向けられる面を形成する。
【0013】
凸部5及び接合部4は、複合シート10の面と平行な一方向であるX方向に、交互に且つ一列をなすように配置されており、そのような列が、複合シート10の面と平行で且つ当該一方向(X方向)に直交する方向であるY方向に、多列に形成されている。互いに隣接する列における凸部5及び接合部4は、それぞれ、X方向にずれて配置されており、より具体的には、半ピッチずれて配置されている。複合シート10において、Y方向は、製造時における流れ方向(MD方向、搬送方向)と一致し、X方向は、製造時における流れ方向に直交する方向(CD方向、幅方向)と一致している。
【0014】
第1シート1及び第2シート2は、シート材料から構成されている。シート材料としては、例えば、不織布、織布及び編み地などの繊維シートや、フィルムなどを用いることができ、肌触り等の観点から繊維シートを用いることが好ましく、特に、不織布を用いることが好ましい。第1シート1及び第2シート2を構成するシート材料の種類は同じであっても、異なっていてもよい。
【0015】
第1シート1及び第2シート2を構成するシート材料として不織布を用いる場合の不織布としては、例えば、エアスルー不織布、スパンボンド不織布、スパンレース不織布、メルトブローン不織布、レジンボンド不織布、ニードルパンチ不織布等が挙げられる。これらの不織布を2種以上組み合わせた積層体や、これらの不織布とフィルム等とを組み合わせた積層体を用いることもできる。
【0016】
不織布を構成する繊維としては、各種の熱可塑性樹脂からなる繊維を用いることができる。不織布以外のシート材料としても、構成繊維や構成樹脂が、各種の熱可塑性樹脂からなるものが好ましく用いられる。
【0017】
複合シート10は、
図1に示されるように、第1シート1側の面に、X方向及びY方向の両方向において凸部5に挟まれた多数の凹部3を有しており、個々の凹部3の底部に、貫通孔14を有する接合部4が形成されている。複合シート10は、全体としてみると、第1シート1側の面に、凹部3と凸部5とからなる起伏の大きな凹凸を有し、第2シート2側の面は、平坦であるか、第1シート1側の面に対して相対的に起伏が小さい略平坦面となっている。
【0018】
複合シート10における個々の接合部4は、
図2に示すように、Y方向に長い、略長方形状の平面視形状を有しており、それぞれの内側に、平面視形状が略長方形状の貫通孔14が形成されている。すなわち、個々の接合部4は、貫通孔14を囲む環状に形成されている。貫通孔14は、一つの接合部4に一つのみ形成されていることが好ましく、接合部4の位置との関係において予め決められた特定の位置に形成されていることが好ましい。また、貫通孔14は、平面視形状が接合部4の外周縁の平面視形状と相似形であっても相似形でなくてもよいが、相似形であることが好ましい。
【0019】
接合部4においては、第1シート1及び第2シート2の少なくとも一方を構成する熱融着性樹脂が溶融固化していることによって第1シート1と第2シート2とが結合している。第1シート1及び第2シート2が、不織布等の繊維シートから構成されている場合、接合部4においては、第1シート1及び第2シート2の構成繊維は、溶融するか溶融した樹脂に埋没して、目視においては繊維状の形態を観察できないこと、すなわち、外観上フィルム化した状態となっていることが好ましい。
【0020】
次に、本発明の複合シートの製造方法について説明する。まず、
図3を参照して、複合シートの製造装置20について説明する。複合シートの製造装置20は、第1ロール31、第2ロール32、超音波処理部40及び超音波振動を印加する前のシートを制御された所定の温度に予熱する予熱手段6を備えている。
【0021】
第1ロール31及び第2ロール32は、互いに噛み合う凹凸(不図示)を周面に有している。また、第1ロール31と第2ロール32とは、回転軸が互いに平行になるように配置されている。第1ロール31及び第2ロール32を回転させながら、両ロール(31,32)の噛み合い部に第1シートを導入することにより、第1シートが、第1ロール31の周面の凹凸の形状に沿った凹凸形状に賦形されるようになっている。なお、
図3においては、第1ロール31及び第2ロール32の周面の凹凸の図示は省略している。
【0022】
図4には、第1ロール31の周面の一部が示されている。第1ロール31は、所定の歯幅を有する平歯車31a,31b・・・を複数枚組み合わせてロール状に形成したものである。各歯車の歯が、第1ロール31の周面における凹凸形状の凸部35を形成しており、凸部35の先端面35cが、後述する超音波接合機41の超音波ホーン42の先端面42tとの間で、接合対象である第1シート1及び第2シート2を加圧する加圧面となっている。
【0023】
各歯車の歯幅(歯車の縦軸方向の長さ)は、複合シート10の凹部3つまり接合部4におけるX方向の寸法を決定し、各歯車の歯の厚み(歯車の回転方向の長さ)は、複合シート10の凹部3つまり接合部4におけるY方向の寸法を決定する。隣り合う歯車は、歯のピッチが半ピッチずつずれるように組み合わされている。その結果、第1ロール31は、周面が凹凸形状となっている。本実施形態においては、各凸部35の先端面35cは、第1ロール31の回転方向が長辺で、軸方向が短辺の矩形状となっている。先端面35cは、回転方向の方が長い形状であると、第1ロール31の凸部35一つにおける超音波ホーン42の先端面42tとの接触時間を長くして温度を上げやすくすることができるので好ましい。
【0024】
第1ロール31における各歯車の歯溝部は、第1ロール31の周面における凹凸の凹部を形成している。各歯車の歯溝部の底部には、吸引孔34が形成されている。吸引孔34は、ブロワや真空ポンプなどの吸引源(不図示)に通じ、第1ロール31と第2ロール32との噛み合い部から、第1シート1と第2シート2との合流部までの間で吸引が行われるように制御されている。したがって、第1ロール31と第2ロール32との噛み合いによって凹凸形状に変形された第1シートは、吸引孔34による吸引力によって、第1ロール31の凹凸に沿った形状に変形した状態で、第1シート1と第2シート2との合流部及び超音波接合機による超音波振動の印加部36に搬送される。
【0025】
この場合、
図4に示すように、隣り合う歯車間に所定の隙間Gを設けておくと、第1シート1に無理な伸長力を加えたり、第1ロール31及び第2ロール32の噛み合い部で、第1シート1を切断したりすることを抑制することができ、第1シート1を第1ロール31の周面に沿った形状に変形させ得るので好ましい。
【0026】
第2ロール32は、周面に、第1ロール31の周面の凹凸と互いに噛み合う凹凸形状を有している。第2ロール32は、吸引孔34を有しない以外は、第1ロール31と同様の構成を有している。そして、互いに噛み合う凹凸を有する第1ロール31及び第2ロール32を回転させながら、両ロール(31,32)の噛み合い部に、第1シート1を導入することにより、第1シート1を凹凸形状に変化させることができる。噛み合い部においては、第1シート1の複数箇所が、第2ロール32の凸部35によって第1ロール31の周面の凹部に押し込まれ、第1シート1の押し込まれた部分が、製造される複合シート10の凸部5となる。第2ロール32の周面には、第1ロール31の凹部に挿入される複数の凸部が形成されているが、第2ロール32に、第1ロール31の凹部のすべてに対応する凸部が形成されていることは必須ではない。
【0027】
超音波処理部40は、
図3に示すように、超音波ホーン42を備えた超音波接合機41を備えており、凹凸形状に変形させた状態の第1シート1上に第2シート2を重ね合わせた後、両シート(1,2)を、第1ロール31の凸部と超音波ホーン42との間に挟んで部分的に超音波振動を印加し、貫通孔14を有する接合部4を形成する。なお、第1シート1及び第2シート2の接合と、貫通孔14の形成とは、必ずしも同時に行われなくてもよい。両シート(1,2)を接合してから、所定時間経過後に貫通孔14を形成するようにしてもよい。
【0028】
超音波接合機41は、
図3及び
図5に示すように、超音波発振器(図示せず)、コンバータ43、ブースタ44及び超音波ホーン42を備えている。超音波発振器は、コンバータ43と電気的に接続されており、超音波発振器により発生された周波数15kHzから50kHz程度の波長の高電圧の電気信号が、コンバータ43に入力される。超音波発振器は、不図示の可動台上又可動台外に設置されている。
【0029】
コンバータ43は、ピエゾ電圧素子等の電圧素子を内蔵し、超音波発振器から入力された電気信号を圧電素子により機械的振動に変換する。ブースタ44は、コンバータ43から発せられた機械的振動の振幅を調整、好ましくは、増幅して超音波ホーン42に伝達する。超音波ホーン42は、アルミ合金やチタン合金などの金属の塊でできており、使用する周波数で正しく共振するように設計されている。ブースタ44から超音波ホーン42に伝達された超音波振動は、超音波ホーン42の内部においても増幅又は減衰されて、接合対象である第1シート1及び第2シート2に印加される。超音波接合機41としては、市販の超音波ホーン、コンバータ、ブースタ、超音波発振器を組み合わせて用いることができる。
【0030】
超音波接合機41は、可動台に固定されており、可動台の位置を第1ロール31の周面に近づく方向に向かって進退させることで、超音波ホーン42の先端面42tと、第1ロール31の凸部35の先端面35cとの間のクリアランス及び積層された第1シート1及び第2シート2に対する加圧力を調節できる。
【0031】
そして、第1ロール31の凸部35の先端面35cと超音波接合機41の超音波ホーン42の先端面42tとの間に挟んで加圧しながら、接合対象である第1シート1及び第2シート2に超音波振動を印加することにより、第1シート1における、凸部35の先端面35c上に位置する部分のそれぞれが、第2シート2に接合し、接合部4が形成されるとともに、両シート(1,2)を貫通する貫通孔14が、溶融部分に囲まれた状態で形成される。
【0032】
好ましい実施形態において、複合シートの製造装置20は、第1ロール31内に配置されたヒータ61を有する予熱手段6を備えている。より具体的には、第1ロール31内に配置されたヒータ61等の加熱手段、超音波振動を印加する前のシートの温度を計測可能な測温手段(不図示)及び測温手段の測定値に基づいてヒータ61の温度を制御する温度制御部(不図示)を備えている。測温手段による測定値に基づいてヒータ61による第1ロール31の周面の加熱温度を制御することにより、超音波振動を印加される直前の第1シート1の温度を所望の温度に高精度に制御することができる。
【0033】
好ましい実施系形態において、ヒータ61は、第1ロール31の長軸方向に沿って第1ロール31に埋め込まれている。また、ヒータ61は、第1ロール31の回転軸の周囲における外周部の近傍に、周方向に間隔を設けて複数配置されている。ヒータ61による第1ロール31の周面の加熱温度は、温度制御部によって制御されており、複合シートの製造装置20の運転中、超音波振動の印加部36に導入される第1シート1の温度を所定の範囲の温度に維持することができる。
【0034】
予熱手段6は、加熱対象物に外部から熱エネルギーを加えて加熱する加熱手段を備えることが好ましい。加熱手段としては、例えば、電熱線を用いたカートリッジヒータ等が挙げられるが、これに限られず、各種公知の加熱手段を特に制限なく用いることができる。なお、超音波接合機は、接合対象物に超音波振動を印加し、それにより接合対象物を発熱及び溶融させて接合させるものであり、ここでいう加熱手段には含まれない。
【0035】
本実施形態の製造方法においては、
図3に示すように、第1ロール31及び第2ロール32を回転させながら、原反ロール(不図示)から繰り出した第1シート1を両ロール(31,32)の噛み合い部に導入して、凹凸形状に変形させる(賦形工程)。そして、凹凸形状に変形させた第1シート1を第1ロール31上に保持しつつ搬送し、搬送中の第2シート2を重ね合わせる(重ね合わせ工程)。重ね合わされた両シート(1,2)を第1ロール31の凸部35と超音波接合機の超音波ホーン42との間に挟んで、超音波振動を印加する(超音波処理工程)。超音波処理工程において、超音波振動の印加時に、貫通孔14を有する接合部4を形成する。
【0036】
そして、超音波処理工程において、貫通孔14の形成によって発生したシート片11(トリム)を超音波ホーン42の直後において吸引装置50により吸引して回収する(第1吸引工程)。第1吸引工程の後において、凹凸形状に賦形された部分が第1ロールの凹凸部に嵌まり合った状態で搬送される複合シート10に、回転するブラシロール60を接触させて、複合シート10に付着しているシート片11を剥がす(ブラッシング工程)。
【0037】
ここで、シート片11を剥がすメカニズムについて
図6を参照して説明する。
図6(a)は、本実施形態におけるブラッシングのメカニズムを説明する図であり、
図6(b)は、一般的なロールにおけるブラッシングのメカニズムを説明する図である。
図6(a)に示したように、凹凸を周面に有する第1ロール31上においては、複合シート10(賦形シート)が、第1ロール31の凹部に収まっているため、複合シート10の厚みが均一となり、ブラシロール60が均一にシート片11に接触し、シート片11を効率よく複合シート10から剥がすことができる。これに対して、
図6(b)に示したように、一般的なロール70上において、シート片11をブラッシングする場合、第1ロール31のように、複合シート10が凹部に収まっていないため、ロール70上において、複合シート10が浮いている状態となるため、複合シート10の厚みが均一とはならず、シート片11に加わる力が均一にならないため、シート片11の剥がし残しが多数発生してしまう。そのため、本実施形態においては、凹部を有する第1ロール31上において、シート片の吸引、ブラッシングを行っている。
【0038】
なお、ブラシロール60は、第1ロール31の回転方向に関し超音波接合機41より下流側の位置であって且つ第1ロール31の周面に対向するように配置されている。また、ブラシロール60は、毛先が第1ロール31の周面に接触しない位置に配置される。
【0039】
上述した第1吸引工程及びブラッシング工程は、
図7に示したように、単一のフード51によって画成された空間内で行われてもよい。つまり、
図7に示したように、ブラシロール60は、フード51に覆われ、フード51の内部の空間に配置されている。そして、吸引装置50によるシート片11の吸引と、ブラシロール60によるシート片11の剥離とが同時に行われてもよい。このようにすることにより、ブラシロール60でシート片11を剥がしつつ、剥離されたシート片11を吸引装置で吸引できるので、シート片11が飛散することがなく、高効率、省スペースでシート片11の除去、回収を行うことができる。
【0040】
また、ブラシロール60の周速度は、複合シート10の搬送速度に対して相対速度を持っている。つまり、複合シート10の搬送方向に対して逆回転をする場合、もしくは、複合シート10の搬送速度よりも遅く順回転する場合は上流方向に対して正の相対速度をもつ、あるいは、複合シート10の搬送速度よりも速く順回転する場合は上流方向に対して負の相対速度をもつ。
【0041】
このように、ブラシロール60の周速度を制御すると、複合シート10に加わる力を変えることができるため、シート片11のかき取り量を制御することが可能となる。また、ブラシロール60のブラシ部分の材質は、例えば、プラスチックや樹脂、金属、木材、などであるが、これらには限定されない。さらに、ブラシロール60は、周面にブラシを有するものであるが、例えば、周面に凹凸を有するものであっても、周面にフェルトなどを巻き付けたものであっても、シート片11に対して抵抗となり、シート片11をかき落とすことができるものであれば、どのような形態のものであってもよい。
【0042】
そして、吸引装置50による第1吸引工程及びブラシロール60によるブラッシング工程の後に、複合シート10における第2シート2側を、周面に凹凸を有し且つ回転する第3ロール33に抱かせて(
図7参照)、複合シート10が搬送される。このように、第3ロール33に複合シート10の第2シート2側を抱かせることにより、シート片11が第3ロール33の凹凸の角部に引っ掛かり、シート片11が剥がされる。
【0043】
ここで、
図8を参照して、第3ロール33の周面の凹凸について説明する。第3ロール33は、周面に、第3ロール33の軸方向に沿って複数の長い溝37が彫られた凹凸形状となっている。なお、凹凸形状のパターンは、
図8に示したパターンには限定されない。第3ロール33を回転させた場合、複合シート10に均一に角部が接触するようなパターンであればいずれのパターンであってもよい。
【0044】
そして、
図9に示したように、第3ロールに複合シート10を抱かせると、第2シート2側に突出したシート片11を長い溝37の角部38に引っ掛けて取り除くことが可能となる。なお、
図9において、第3ロール33は、右向き矢印の方向へ回転しており、複合シート10は、左向き矢印の方向へ搬送されている。
【0045】
また、第3ロール33の周速度は、複合シート10の搬送速度に対して相対速度を持っている(
図9の右側が上流側、左側が下流側)。つまり、複合シート10の搬送方向に対して逆回転する場合、もしくは、複合シート10の搬送速度よりも遅く順回転する場合は上流方向に対して正の相対速度をもつ、あるいは、複合シート10の搬送速度よりも速く順回転する場合は上流方向に対して負の相対速度をもつ。
【0046】
第3ロール33による抱き角は大きい方がより多くのシート片11をかき取ることができる。また、第3ロール33の周面の凹凸の高さは特に限定されない。第3ロール33の周面の凹凸は、例えば、周面に凹凸ほどの大きな溝や山がなくても、周面がザラザラするような程度の凹凸が形成されていれば足りる。
【0047】
本実施形態の製造方法においては、超音波振動の印加に先立ち、第1シート1及び第2シート2の少なくとも一方を、両シート(1,2)の融点未満、融点より50℃低い温度以上に加熱しておくことが好ましい。すなわち、超音波振動の印加に先立ち、以下の(1)及び(2)のいずれか一方又は双方を行うことが好ましい。(1)第1シート1を第1シート1の融点未満、融点より50℃低い温度以上に加熱しておく。(2)第2シート2を第2シート2の融点未満、融点より50℃低い温度以上に加熱しておく。
【0048】
好ましくは、第1シート1を第1シート1の融点未満、融点より50℃低い温度以上に加熱しておくとともに、第2シート2を第2シート2の融点未満、融点より50℃低い温度以上に加熱しておく。
【0049】
第1シート1を第1シート1の融点未満、融点より50℃低い温度以上とする方法としては、例えば、第1ロール31上の第1シート1の温度を、第1ロール31及び第2ロール32の噛み合い部と、超音波接合機による超音波振動の印加部36との間において測定し、測定値が、前述した特定の範囲内となるように、第1ロール31の周面の温度を制御する。
【0050】
第1シート1を特定の範囲の温度に予熱する方法としては、第1シート1が特定の範囲の温度となるように、第1ロール31の周面の温度を第1ロール31内に配したヒータにより制御する方法に代えて、多様な方法を用いることができる。例えば、第1ロール31の周面の近傍にヒータや熱風の吹き出し口、遠赤外線の照射装置を設け、これらにより、第1シート1を沿わせる前又は後の第1ロール31の周面の温度を制御する方法、噛み合い部において第1シート1に接触する第2ロール32を加熱し、周面の温度制御により第1シート1の温度を制御する方法、第1ロール31に沿わせる前の第1シート1に対して、加熱されたローラに接触させたり、高温に維持した空間を通過させたり、熱風を吹き付けたりする方法等が挙げられる。
【0051】
他方、第2シート2を第2シート2の融点未満、融点より50℃低い温度以上とする方法としては、第1シート1と合流させる前の第2シート2の温度を第2シート2の搬送路上に配置した測温手段で計測し、計測値が前述した特定の範囲内となるように、第2シート2の搬送路上に配した第2シート2の加熱手段(不図示)の温度を制御することが好ましい。第2シート2の加熱手段は、加熱されたローラ等を接触させる等の接触方式でもよいし、高温に維持した空間を通過させたり、熱風を吹き付けたり貫通させたり赤外線を照射する等の非接触式でもよい。
【0052】
第1シート1及び第2シート2の融点は、以下の方法により測定される。例えば、Perkin-Elmer社製の示差走査熱量測定装置(DSC)PYRIS Diamond DSCを用いて測定する。測定データのピーク値から融点を割り出す。第1シート1又は第2シート2が、不織布等の繊維シートであり、構成繊維が、芯鞘型、サイド・バイ・サイド型等の複数成分からなる複合繊維である場合、シートの融点は、DSCにより測定した複数の融点の内、最低温度の融点を複合繊維シートの融点とする。
【0053】
本実施形態の複合シートの製造方法においては、このように、重ね合わせた第1シート1及び第2シート2を第1ロール31の凸部と超音波接合機の超音波ホーン42との間に挟んで超音波振動を印加し、貫通孔14を有する接合部4を形成する。本実施形態の複合シートの製造方法においては、第1シート1及び第2シート2の少なくとも一方を両シート(1,2)が溶融しない前述した特定の範囲の温度に予熱しておき、その上で、一方又は双方が予熱された状態の両シート(1,2)に対して、超音波振動を印加するのが好ましい。この場合、超音波振動を印加する際の条件、例えば、印加する超音波振動の波長、強度、両シート(1,2)を加圧する圧力等を調節して、超音波振動により、両シート(1,2)が溶融して接合部4が形成されるとともに、両シート(1,2)を貫通する貫通孔14が、溶融部分に囲まれた状態で形成されるようにする。
【0054】
本実施形態の複合シートの製造方法によれば、このように、第1シート1及び第2シート2の少なくとも一方、好ましくは双方を、ヒータ等の加熱手段によりシートが溶融しない程度の高温に予め加熱しておき、その上で、第1ロール31の凸部35と超音波接合機の超音波ホーン42との間で加圧しつつ超音波振動を印加し、貫通孔14を有する接合部4を形成させることにより、両シート(1,2)を予熱しない場合に比べて、貫通孔14を有する接合部4をより確実に形成することができるとともに、両シート(1,2)を融点を超える温度に予熱した場合に生じやすい不都合、例えば、溶融樹脂の搬送手段への付着やシートの搬送ロールへの巻き付き等の不具合も生じにくいため、装置のメンテナンス負担も小さい。
【0055】
また、第1ロール31の凸部35と超音波接合機の超音波ホーン42との間で接合部4の形成と貫通孔14の形成とを同時に行うことで、接合部4の位置と貫通孔14の位置との間に位置ずれも生じない。
【0056】
本実施形態の複合シートの製造方法により得られる複合シート10は、凹凸を有する上に凹部の底部に貫通孔14を有する接合部4を有するため、肌触りや平面方向における液の拡散防止性に優れており、また、通気性や液の引き込み性にも優れている。複合シート10は、かかる特性を生かして、吸収性物品の表面シートとして好ましく用いられるが、複合シート10の用途はそれに限られるものではない。
【0057】
前述した1又は2以上の効果が確実に奏されるようにする観点から、本発明の製造方法及び製造装置は、以下の構成を有することが好ましい。
【0058】
(1)第1シート1は、第1シート1の融点より50℃低い温度以上、該融点未満に予熱することが好ましく、第1シート1の融点より20℃低い温度以上、該融点より5℃低い温度以下に予熱することが更に好ましい。(2)第2シート2は、第2シート2の融点より50℃低い温度以上、該融点未満に予熱することが好ましく、第2シート2の融点より20℃低い温度以上、該融点より5℃低い温度以下の温度に予熱することが更に好ましい。
【0059】
第1シート1及び第2シート2それぞれの予熱温度は、貫通孔14の形成し易さの観点から、好ましくは、100℃以上、より好ましくは、130℃以上であり、また、搬送手段への付着防止や搬送ロールへの巻きつき防止の観点から、好ましくは、150℃以下、より好ましくは、145℃以下である。
【0060】
また、接合部4、貫通孔14の形成しやすさの観点から、第1ロール31の凸部35の先端面35cと超音波ホーン42の先端面42tとの間に挟んで第1シート1及び第2シート2に加える加圧力は、好ましくは、10N/mm以上、より好ましくは、15N/mm以上であり、また好ましくは、150N/mm以下、より好ましくは、120N/mm以下であり、また好ましくは、10N/mm以上150N/mm以下、より好ましくは、15N/mm以上120N/mm以下である。ここで、加圧力は、いわゆる線圧であり、超音波ホーン42の加圧力(N)を超音波ホーン42と触れる凸部35の歯幅(X方向)の合計(第1ロール31の凹部は含まない)の長さで除した値(単位長さあたりの圧力)で示す。
【0061】
また、接合部4、貫通孔14の形成のし易さの観点から、印加する超音波振動の周波数は、好ましくは、15kHz以上、より好ましくは、20kHz以上であり、また好ましくは、50kHz以下、より好ましくは、40kHz以下であり、また好ましくは、15kHz以上50kHz以下、より好ましくは20kHz以上40kHz以下である。周波数の測定は、レーザ変位計等でホーン先端の変位を計測することにより行われる。サンプリングレート200kHz以上、精度1μm以上にすることで周波数を測定する。
【0062】
また、接合部4、貫通孔14の形成のし易さの観点から、印加する超音波振動の振幅は、好ましくは、20μm以上、より好ましくは、25μm以上であり、また好ましくは、50μm以下、より好ましくは、40μm以下であり、また好ましくは、20μm以上50μm以下、より好ましくは、25μm以上40μm以下である。振幅の測定は、レーザ変位計等でホーン先端の変位を計測することにより行われる。サンプリングレート200kHz以上、精度1μm以上にすることで振幅を測定する。
【0063】
そして、本発明の製造方法又は製造装置により製造される複合シート10は、例えば、使い捨ておむつ、生理用ナプキン、パンティライナー、失禁パッドなどの吸収性物品の表面シートとして好適に用いられる。
【0064】
また、吸収性物品の表面シート以外の用途に用いることもできる。例えば、吸収性物品のシートとして、表面シートと吸収体との間に配置されるシート、立体ギャザー(防漏壁)形成用のシート(特にギャザーの内壁を形成するシート)等に用いることができる。また、吸収性物品以外の用途として、清掃シート、特に液吸収を主とする清掃シートや対人用の化粧シート等として用いることができる。清掃シートに用いる場合、凸部において、平滑でない被清掃面への追従性が良好であるため、第1シート1側を被清掃面に向けて使用することが好ましい。化粧シートとして用いる場合、凸部において対象者の肌に追従し、また、マッサージ効果を発現するとともに、余分な化粧材(別途使用)や汗の吸収をおこなうことができるため、第1シート1側を肌側に向けて使用することが好ましい。
【符号の説明】
【0065】
10 複合シート
1 第1シート
2 第2シート
3 凹部
4 接合部
14 貫通孔
5 凸部
6 予熱手段
11 シート片
20 複合シートの製造装置
31 第1ロール
32 第2ロール
33 第3ロール
34 吸引孔
35 凸部
35c 先端面
36 超音波振動の印加部
37 溝
38 角部
40 超音波処理部
41 超音波接合機
42 超音波ホーン
50 吸引装置
51 フード
60 ブラシロール
70 一般的なロール