(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】複合体および複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/352 20140101AFI20230412BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20230412BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20230412BHJP
B29C 65/52 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
B23K26/352
B23K26/00 N
B32B15/08 N
B29C65/52
(21)【出願番号】P 2020518372
(86)(22)【出願日】2019-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2019018875
(87)【国際公開番号】W WO2019216439
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2018092176
(32)【優先日】2018-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018224951
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】595138155
【氏名又は名称】ダイセルミライズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】板倉 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 潔
(72)【発明者】
【氏名】宇野 孝之
(72)【発明者】
【氏名】片山 昌広
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特許第5959689(JP,B2)
【文献】特開2016-107609(JP,A)
【文献】特許第5860190(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/352
B23K 26/00
B32B 15/08
B29C 65/44
B29C 65/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成形体と接着剤層からなる複合体であって、
前記金属成形体が、表層部に形成された多孔構造部を有しているものであり、
前記接着剤層が、前記多孔構造部を含む部分に形成されているものであり、
下記の方法により測定された前記金属成形体の前記多孔構造部の最大高低差の平均が30~200μmの範囲であり、かつ前記平均最大高低差を算出する根拠となった最大高低差の範囲が、前記平均最大高低差を基準としたとき±40%の範囲内にあるものである、複合体。
(平均最大高低差の測定方法)
前記金属成形体の多孔構造部のうちの20mm×20mmの面積領域(20mm×20mm未満の場合は全面積領域)について、長さ500μm範囲を最大で10箇所ランダムに選択し、前記最大で10箇所の長さ500μmの範囲内の多孔構造物の孔の最大高低差をSEMの断面写真から計測し、前記最大高低差の平均値を求める。
【請求項2】
前記金属成形体の多孔構造部の平均最大高低差が40~150μmの範囲であり、かつ前記平均最大高低差を算出する根拠となった最大高低差の範囲が、前記平均最大高低差を基準としたとき±35%の範囲内にあるものである、請求項1記載の複合体。
【請求項3】
前記金属成形体の多孔構造部の平均最大高低差が60~125μmの範囲であり、かつ前記平均最大高低差を算出する根拠となった最大高低差の範囲が、前記平均最大高低差を基準としたとき±35%の範囲内にあるものである、請求項1記載の複合体。
【請求項4】
前記金属成形体の多孔構造部の平均最大高低差が70~100μmの範囲であり、かつ前記平均最大高低差を算出する根拠となった最大高低差の範囲が、前記平均最大高低差を基準としたとき±35%の範囲内にあるものである、請求項1記載の複合体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載の複合体と非金属成形体が、前記複合体の接着剤層を介して一体化されたものである、金属成形体および非金属成形体からなる複合体。
【請求項6】
第1金属成形体と第2金属成形体の接合面に接着剤層を有している複合体であって、
前記第1金属成形体が、表層部に形成された第1多孔構造部を有しており、前記第2金属成形体が、表層部に形成された第2多孔構造部を有しているものであり、
前記接着剤層が、前記第1多孔構造部を含む部分と前記第2多孔構造部を含む部分の少なくとも一方に形成されているものであり、
下記の方法により測定された前記第1金属成形体の第1多孔構造部と前記第2金属成形体の第2多孔構造部のそれぞれの最大高低差の平均が30~200μmの範囲であり、かつ前記平均最大高低差を算出する根拠となったそれぞれの最大高低差の範囲が、前記平均最大高低差を基準としたとき±40%の範囲内にあるものである、複合体。
(平均最大高低差の測定方法)
前記金属成形体の第1多孔構造部と第2多孔構造部のうちの20mm×20mmの面積領域(20mm×20mm未満の場合は全面積領域)について、長さ500μm範囲を最大で10箇所ランダムに選択し、前記最大で10箇所の長さ500μmの範囲内の多孔構造物の孔の最大高低差をSEMの断面写真から計測し、前記最大高低差の平均値を求める。
【請求項7】
前記第1金属成形体の第1多孔構造部と前記第2金属成形体の第2多孔構造部のそれぞれの平均最大高低差が40~150μmの範囲であり、かつ前記平均最大高低差を算出する根拠となった最大高低差の範囲が、前記平均最大高低差を基準としたとき±35%の範囲内にあるものである、請求項6記載の複合体。
【請求項8】
前記第1金属成形体の第1多孔構造部と前記第2金属成形体の第2多孔構造部のそれぞれの平均最大高低差が60~125μmの範囲であり、かつ前記平均最大高低差を算出する根拠となった最大高低差の範囲が、前記平均最大高低差を基準としたとき±35%の範囲内にあるものである、請求項6記載の複合体。
【請求項9】
前記第1金属成形体の第1多孔構造部と前記第2金属成形体の第2多孔構造部のそれぞれの平均最大高低差が70~100μmの範囲であり、かつ前記平均最大高低差を算出する根拠となった最大高低差の範囲が、前記平均最大高低差を基準としたとき±35%の範囲内にあるものである、請求項6記載の複合体。
【請求項10】
請求項1記載の複合体の製造方法であって、
連続波レーザーを使用し、前記金属成形体の表面に対して2000mm/sec以上の照射速度でレーザー光を連続照射して表層部に多孔構造部を形成させるとき、下記の(a)~(d)の要件を満たすようにレーザー光を連続照射する工程と、
前記金属成形体表面に接着剤を塗布して、前記多孔構造部を含む部分に接着剤層を形成させる工程を有している、複合体の製造方法。
(a)出力が4~250W
(b)スポット径が20~80μm
(c)エネルギー密度が1~100MW/cm
2
(d)繰り返し回数が1~10回
【請求項11】
要件(c)エネルギー密度が10~80MW/cm
2、
要件(d)繰り返し回数が1~8回である、請求項10記載の複合体の製造方法。
【請求項12】
要件(c)エネルギー密度が20~50MW/cm
2、
要件(d)繰り返し回数が1~8回である、請求項10記載の複合体の製造方法。
【請求項13】
請求項5記載の金属成形体および非金属成形体からなる複合体の製造方法であって、
請求項10記載の製造方法により複合体を製造した後、
前記複合体の接着剤層と非金属成形体を接合させる工程を有している、金属成形体および非金属成形体からなる複合体の製造方法。
【請求項14】
請求項6記載の複合体の製造方法であって、
連続波レーザーを使用して、前記第1金属成形体の表面と前記第2金属成形体の表面に対して2000mm/sec以上の照射速度でレーザー光を連続照射して、それぞれの表層部に第1多孔構造部と第2多孔構造部を形成させるとき、下記の(a)~(d)の要件を満たすようにレーザー光を連続照射する工程と、
前記第1金属成形体表面と前記第1金属成形体表面の少なくとも一方に接着剤を塗布して、前記第1多孔構造部を含む部分と前記第2多孔構造部を含む部分の少なくとも一方に接着剤層を形成する工程と、
前記接着剤層を介して前記第1金属成形体と前記第2金属成形体を接合させる工程を有している、複合体の製造方法。
(a)出力が4~250W
(b)スポット径が20~80μm
(c)エネルギー密度が1~100MW/cm
2
(d)繰り返し回数が1~10回
【請求項15】
要件(c)エネルギー密度が10~80MW/cm
2、
要件(d)繰り返し回数が1~8回である、請求項14記載の複合体の製造方法。
【請求項16】
要件(c)エネルギー密度が20~50MW/cm
2、
要件(d)繰り返し回数が1~8回である、請求項14記載の複合体の製造方法。
【請求項17】
前記接着剤が熱硬化性樹脂系接着剤であり、接着剤層を介して前記第1金属成形体と前記第2金属成形体を接合させる工程の後、前記接着剤層の熱硬化性樹脂系接着剤を加熱硬化させる工程を有している、請求項14~16のいずれか1項記載の複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属成形体と接着剤からなる複合体を含む複合体とその製造方法に関する。
【0002】
背景技術
金属成形体の表面に連続波レーザー光線を連続照射して粗面化して多孔構造にした後、接着剤層を介して樹脂成形体や他の金属成形体と接合して複合成形体を製造する発明が知られている(特許第5959689号公報(特許文献1)、特許第5860190号公報(特許文献2)参照)。前記接着剤層は、金属成形体の粗面化された多孔構造部分に入り込んだ接着剤により形成されているものであり、孔構造が複雑であるほど接着剤層による接合効果が高く、同じ孔構造であれば孔深さが深いほど接着剤層による接合強度が高いと考えられる。
【0003】
発明の概要
本発明は、金属成形体が有する多孔構造部の孔深さの平均最大高低差を従来技術のものよりも浅くして、かつ孔深さ(孔深さの最大高低差)のばらつきを小さくすることで、より高い接合強度と耐久性を得ることができた複合体とその製造方法を提供することを課題とする。
【0004】
本発明は、金属成形体と接着剤層からなる複合体であって、
前記金属成形体が、表層部に形成された多孔構造部を有しているものであり、
前記接着剤層が、前記多孔構造部を含む部分に形成されているものであり、
下記の方法により測定された前記金属成形体の前記多孔構造部の最大高低差の平均が30~200μmの範囲であり、かつ前記平均最大高低差を算出する根拠となった最大高低差の範囲が、前記平均最大高低差を基準としたとき±40%の範囲内にあるものである、複合体を提供する。
(平均最大高低差の測定方法)
前記金属成形体の多孔構造部のうちの20mm×20mmの面積領域(20mm×20mm未満の場合は全面積領域)について、長さ500μm範囲を最大で10箇所ランダムに選択し、前記最大で10箇所の長さ500μmの範囲内の多孔構造物の孔の最大高低差をSEMの断面写真から計測し、前記最大高低差の平均値を求める。
【0005】
また本発明は、前記複合体の製造方法であって、
連続波レーザーを使用し、前記金属成形体の表面に対して2000mm/sec以上の照射速度でレーザー光を連続照射して表層部に多孔構造部を形成させるとき、下記の(a)~(d)の要件を満たすようにレーザー光を連続照射する工程と、
前記金属成形体表面に接着剤を塗布して、前記多孔構造部を含む部分に接着剤層を形成させる工程を有している、複合体の製造方法を提供する。
(a)出力が4~250W
(b)スポット径が20~80μm
(c)エネルギー密度が1~100MW/cm2
(d)繰り返し回数が1~10回
【0006】
また本発明は、第1金属成形体と第2金属成形体の接触面に接着剤層を有している複合体であって、
前記第1金属成形体が、表層部に形成された第1多孔構造部を有しており、前記第2金属成形体が、表層部に形成された第1多孔構造部を有しているものであり、
前記接着剤層が、前記第1多孔構造部を含む部分と前記第2多孔構造部を含む部分の少なくとも一方に形成されているものであり、
下記の方法により測定された前記第1金属成形体と前記第2金属成形体の前記第1多孔構造部と前記第2多孔構造部の最大高低差の平均が30~200μmの範囲であり、かつ前記平均最大高低差を算出する根拠となった最大高低差の範囲が、前記平均最大高低差を基準としたとき±40%の範囲内にあるものである、複合体を提供する。
(平均最大高低差の測定方法)
前記金属成形体の第1多孔構造部と第2多孔構造部のうちの20mm×20mmの面積領域(20mm×20mm未満の場合は全面積領域)について、長さ500μm範囲を最大で10箇所ランダムに選択し、前記最大で10箇所の長さ500μmの範囲内の多孔構造物の孔の最大高低差をSEMの断面写真から計測し、前記最大高低差の平均値を求める。
【0007】
また本発明は、前記複合体の製造方法であって、
連続波レーザーを使用して、前記第1金属成形体の表面と前記第2金属成形体の表面に対して2000mm/sec以上の照射速度でレーザー光を連続照射して、それぞれの表層部に第1多孔構造部と第2多孔構造部を形成させるとき、下記の(a)~(d)の要件を満たすようにレーザー光を連続照射する工程と、
前記第1金属成形体表面と前記第1金属成形体表面の少なくとも一方に接着剤を塗布して、前記第1多孔構造部を含む部分と前記第2多孔構造部を含む部分の少なくとも一方に接着剤層を形成する工程と、
前記接着剤層を介して前記第1金属成形体と前記第2金属成形体を接合させる工程を有している、複合体の製造方法を提供する。
(a)出力が4~250W
(b)スポット径が20~80μm
(c)エネルギー密度が1~100MW/cm2
(d)繰り返し回数が1~10回
【0008】
本発明の複合体は、金属成形体に形成された多孔構造部の最大高低差のばらつきを小さくすることで、他の成形体との接合強度を高めることができ、さらに耐水性と耐湿性を含む接合強度の耐久性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の複合体の中間体となる粗面化された金属成形体の平面図。
【
図2】
図1のII-II間の断面の多孔構造を示す概念図。
【
図3】実施例および比較例においてレーザー光照射したアルミニウム板の平面図。
【
図4】実施例および比較例で得た複合体の接合強度の測定方法を説明するための図。
【
図5】実施例1で粗面化して多孔構造部を形成したアルミニウム板(接着剤層を介して一体化された2枚のアルミニウム板からなる複合体)の厚さ方向の部分断面のSEM写真。
【
図6】比較例1で粗面化して多孔構造部を形成したアルミニウム板(接着剤層を介して一体化された2枚のアルミニウム板からなる複合体)の厚さ方向の部分断面のSEM写真。
【
図7】(a)は実施例3の接着剤層を介して一体化された2枚のアルミニウム板からなる複合体の厚さ方向の部分断面のSEM写真であり、(b)は比較例1の接着剤層を介して一体化された2枚のアルミニウム板からなる複合体の厚さ方向の部分断面のSEM写真である。(a)と(b)は同一縮尺である。
【0010】
発明を実施するための形態
<第1複合体>
本発明の複合体(第1複合体)は、金属成形体と接着剤層からなる複合体である。第1複合体は、以下において説明する本発明の第2複合体および第3複合体の製造中間体となるものである。
【0011】
第1複合体の金属成形体は、表層部に形成された多孔構造部を有しているものである。金属成形体に使用できる金属は特に制限されるものではなく、用途に応じて適宜選択することができるものである。例えば、鉄、各種ステンレス、アルミニウム、亜鉛、チタン、銅、黄銅、クロムめっき鋼、マグネシウムおよびそれらを含む合金(ステンレスは除く)、タングステンカーバイド、クロミウムカーバイドなどのサーメットから選ばれるものを挙げることができ、これらの金属に対して、アルマイト処理、めっき処理などの表面処理を施したものに適用できる。
【0012】
金属成形体の形状および大きさは、用途に応じて設定することができる。金属成形体の多孔構造部は、特許文献1、2の発明に記載されている粗面化後の表層部の断面構造と同じものであり、厚さ方向に形成された開口部を有する幹孔と、幹孔の内壁面から幹孔とは異なる方向に形成された枝孔からなる開放孔と、厚さ方向に形成された開口部を有していない内部空間を有しており、さらに前記開放孔と前記内部空間を接続するトンネル接続路と前記開放孔同士を接続するトンネル接続路を有しているものである。
【0013】
本発明の複合体では、下記の方法により測定された金属成形体の表面からの多孔構造部の最大高低差の平均が30~200μmの範囲であり、かつ前記平均最大高低差を算出する根拠となった最大高低差の範囲が、前記平均最大高低差を基準としたとき±40%の範囲内にあるものである。
(平均最大高低差の測定方法)
前記金属成形体の多孔構造部のうちの20mm×20mmの面積領域(20mm×20mm未満の場合は全面積領域)について、長さ500μm範囲を最大で10箇所ランダムに選択し、前記最大で10箇所の長さ500μmの範囲内の多孔構造物の孔の最大高低差をSEMの断面写真から計測し、前記最大高低差の平均値を求める。
【0014】
図1、
図2により上記の平均最大高低差の測定方法を説明する。
図1は、金属成形体10の表面の一部が粗面化されて多孔構造部11が形成された状態を示している。粗面化された多孔構造部11は、粗面化条件が一定であれば断面構造はほぼ同じであり、多孔構造部11の位置による違いはないと考えてよい。よって、多孔構造部11の全体から20mm×20mmの面積領域(測定面積領域)12を任意に選択し、測定面積領域についてSEM(走査型電子顕微鏡)により10箇所の断面構造写真を撮影する。
【0015】
図2は多孔構造部を示したものであるが、これは測定方法を説明するためのものであり、上記した多孔構造部の具体的な形態を示すものではない。10箇所のSEM写真のそれぞれについて、
図2に示すとおり長さ500μmの範囲について、最も高いピーク部分20aと最も低い部分(底部分)21の高低差(Hmax)を計測した後、10箇所のHmax平均値(平均最大高低差)を求める。最も高いピーク部分20aとその他のピーク部分20b~20dは、金属成形体10が溶融して盛り上がった状態を示している。なお、本発明における表層部の厚さは、
図2における最も高いピーク部分20aから最も深い孔の底21までの距離であるから、表層部の厚さは最大高低差Hmaxと同じになる。
【0016】
粗面化された面積が20mm×20mm未満の場合には、粗面化された全面積について測定する。また粗面化された面積が20mm×20mm未満で、かつ非常に狭く10箇所の測定が困難である場合には、1~9箇所の範囲で測定する。さらに粗面化された面積が非常に大きな場合であっても、粗面化条件が同一であれば多孔構造部の構造には差がないと考えられるため、任意の1箇所の20mm×20mmの面積領域(測定面積領域)について測定すればよいが、必要に応じて2~5箇所の20mm×20mmの面積領域(測定面積領域)を任意に選択して測定することもできる。
【0017】
金属成形体10の多孔構造部11の平均最大高低差は30μm~200μmの範囲であり、好ましくは40μm~150μm、より好ましくは60μm~125μm、さらに好ましくは70μm~100μmの範囲である。
【0018】
平均最大高低差を算出する根拠となった最大高低差の範囲が、前記平均最大高低差を基準としたとき±40%の範囲内(平均最大高低差が100μmのとき、最大高低差の範囲は60μm~140μmである)にあるものであり、好ましくは±35%の範囲内にあるものであり、より好ましくは±32%の範囲内にあるものである。
【0019】
第1複合体の接着剤層は、
図1に示すとおり、少なくとも多孔構造部11を含む金属成形体10の面(ピーク20a~20d)を覆って、多孔構造部11の凹凸形状に対応するように形成されているものである。接着剤層は、多孔構造部11の外側の金属成形体10の面(多孔構造部11が形成されていない面)まで形成されていてもよい。
【0020】
接着剤層は、多孔構造部11がある金属成形体10表面の凹凸に対応した微小な凹凸が形成された状態であり、接着剤層の厚みはできるだけ均一であることが好ましいが、一部に不均一な厚さ部分が存在していてもよい。接着剤層の厚みは、上記した金属成形体10の多孔構造部11の平均最大高低差の範囲と同じ範囲であることが好ましい。接着剤層の厚みと金属成形体10の多孔構造部11の平均最大高低差が上限値200μm以下であると、第1複合体の接着剤層を介して他の成形体と接合させたときに第1複合体と他の成形体の接合面(接着面)における接着剤層の厚みを均一に保つことで接合力を高めることができることと、接着剤層内に気泡が混入することを防止して耐久性が向上されるため好ましい。接着剤層の厚みと金属成形体10の多孔構造部11の平均最大高低差が下限値30μm以上であると、第1複合体の接着剤層を介して他の成形体と接合させたときに接合力を高めることができる。
【0021】
接着剤層を形成する接着剤は、特に制限されるものではなく、公知の熱可塑性樹脂系接着剤、熱硬化性樹脂系接着剤、ゴム系接着剤などのほか、湿気硬化型接着剤を使用することができる。
【0022】
熱可塑性樹脂系接着剤としては、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、アクリル系接着剤、ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、アイオノマー、塩素化ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、プラスチゾル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリアミド、ナイロン、飽和無定形ポリエステル、セルロース誘導体などを挙げることができる。
【0023】
熱硬化性樹脂系接着剤としては、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レソルシノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ビニルウレタンなどを挙げることができる。
【0024】
ゴム系接着剤としては、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ニトリルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体、ポリイソブチレン-ブチルゴム、ポリスルフィドゴム、シリコーンRTV、塩化ゴム、臭化ゴム、クラフトゴム、ブロック共重合体、液状ゴムなどを挙げることができる。
【0025】
湿気硬化型接着剤としては、シアノアクリレート系の瞬間接着剤などを挙げることができる。
【0026】
<第2複合体>
本発明の第2複合体は、第1複合体と非金属成形体が、第1複合体の接着剤層を介して一体化されたものである。非金属成形体としては、ガラス、セラミックス、石、岩石、煉瓦、コンクリート、モルタル、樹脂、ゴム、木材から選ばれる成形体、および前記各成形体の2種以上からなる複合成形体を使用することができる。また非金属成形体は、前記各材料からなる既設品であってもよい。非金属成形体は、材料の種類に応じて、第1複合体の接着剤層と接合される面に粗面化処理がされたものを使用する。非金属成形体に対する前記粗面化処理は、材料の種類に応じて、サンドブラスト処理、やすりによる粗面化処理、薬品処理などを実施することができる。
【0027】
<第3複合体>
本発明の第3複合体は、第1金属成形体と第2金属成形体の接合面に接着剤層を有している複合体である。
第3複合体は、
第1複合体(第1多孔構造部を有する第1金属成形体と接着剤層からなる複合体)と第2金属成形体の第2多孔構造部)が、第1複合体の接着剤層を介して一体化されたもの、
第1a複合体(第1多孔構造部を有する第1金属成形体と接着剤層からなる複合体)と第1b複合体(第2多孔構造部を有する第2金属成形体と接着剤層からなる複合体)が、それぞれの接着剤層を介して一体化されたもののいずれかである。
【0028】
第1a複合体と第1b複合体は、いずれも上記した第1複合体と同じものである。第1金属成形体と第2金属成形体は、異なる金属からなる成形体を使用するが、必要に応じて同じ金属からなる成形体を使用することもできる。第1金属成形体と第2金属成形体の形状と大きさなどは特に制限されるものではなく、用途に応じて選択することができる。
【0029】
<第1複合体の製造方法>
本発明の第1複合体の製造方法を説明する。まず、連続波レーザーを使用し、金属成形体10の表面に対して2000mm/sec以上の照射速度でレーザー光を連続照射して粗面化することにより表層部に多孔構造部を形成させる。前記の連続波レーザーによるレーザー光の連続照射方法は、特許文献1、2に記載されている方法と同様に実施することができるが、以下の(a)~(d)の要件を満たすようにレーザー光を連続照射することが必要である。この工程の粗面化処理により金属成形体の表面からの多孔構造部の最大高低差の平均が30~200μmの範囲であり、かつ前記平均最大高低差を算出する根拠となった最大高低差の範囲が、前記平均最大高低差を基準としたとき±40%の範囲内にある多孔構造部が形成される。
【0030】
要件(a)
レーザーの出力は4~250Wであり、好ましくは50~250Wであり、より好ましくは100~250Wであり、さらに好ましくは150~220Wである。
【0031】
要件(b)
レーザー光のスポット径は20~80μmであり、好ましくは20~50μmであり、より好ましくは20~35μmである。
【0032】
要件(c)
レーザー光照射時のエネルギー密度は1~100MW/cm2であり、好ましくは10~80MW/cm2であり、より好ましくは20~50MW/cm2である。レーザー光照射時のエネルギー密度は、レーザー光の出力(W)と、レーザー光(スポット面積(cm2)(π・〔スポット径/2〕2)から次式:レーザー光の出力/スポット面積により求められる。要件(c)は要件(a)と要件(b)から算出されるものであり、金属成形体の粗面化状態を制御する上で要件(c)が重要になるため、要件(a)の数値範囲と要件(b)の数値範囲から計算される要件(c)の数値が上記範囲から外れる部分があるときは、上記要件(c)の数値範囲が優先するものである。
【0033】
要件(d)
レーザー光照射時の繰り返し回数は1~10回、好ましくは1~8回である。レーザー光照射時の繰り返し回数は、レーザー光を線状に照射するとき、1本のライン(溝)を形成するために照射する合計回数である。1本のラインに繰り返し照射するときは、双方向照射と一方向照射を選択することができる。双方向放射は、1本のライン(溝)を形成するとき、ライン(溝)の第1端部から第2端部に連続波レーザーを照射した後、第2端部から第1端部に連続波レーザーを照射して、その後は、第1端部から第2端部、第2端部から第1端部というように繰り返し連続波レーザーを照射する方法である。一方向照射は、第1端部から第2端部への一方向の連続波レーザー照射を繰り返す方法である。
【0034】
要件(a)~(d)を除いたレーザー光の照射条件は以下のとおりである。連続波レーザーの照射速度は、2,000~20,000mm/secが好ましく、5,000~20,000mm/secがより好ましく、8,000~20,000mm/secがさらに好ましい。連続波レーザー光を直線状に照射するとき、隣接する照射ライン(隣接する照射により形成された溝)同士の間隔(ライン間隔)は、0.01~0.2mmが好ましく、0.03~0.15mmがより好ましい。ライン間隔は、全てのライン間隔が同一であってもよいし、一部または全部のライン間隔が異なっていてもよい。
【0035】
波長は300~1200nmが好ましく、500~1200nmがより好ましい。
【0036】
焦点はずし距離は、-5~+5mmが好ましく、-1~+1mmがより好ましく、-0.5~+0.1mmがさらに好ましい。焦点はずし距離は、設定値を一定にしてレーザー照射しても良いし、焦点はずし距離を変化させながらレーザー照射しても良い。例えば、レーザー照射時に、焦点はずし距離を徐々に小さくしたり、周期的に大きくしたり小さくしたりしてもよい。
【0037】
連続波レーザーは公知のものを使用することができ、例えば、YVO4レーザー、ファイバーレーザー(好ましくはシングルモードファイバーレーザー)、エキシマレーザー、炭酸ガスレーザー、紫外線レーザー、YAGレーザー、半導体レーザー、ガラスレーザー、ルビーレーザー、He-Neレーザー、窒素レーザー、キレートレーザー、色素レーザーを使用することができる。これらの中でもエネルギー密度が高められることから、ファイバーレーザーが好ましく、特にシングルモードファイバーレーザーが好ましい。
【0038】
次の工程にて、前工程にて金属成形体10の表面を粗面化した多孔構造部に接着剤を塗布して、前記多孔構造部に接着層を形成して第1複合体を得る。接着剤として熱硬化性樹脂系接着剤を使用するときは、プレポリマーを塗布した状態で保持する。接着剤層の表面は、多孔構造部の表面の凹凸に対応した微小な凹凸が形成された状態になる。
【0039】
<第2複合体の製造方法>
本発明の第2複合体の製造方法を説明する。上記の製造方法により第1複合体を製造する。次に、必要に応じて粗面化処理した非金属成形体の接着面を第1複合体の接着剤層に押しつけた状態で維持する。接着剤層が熱可塑性樹脂系接着剤からなるものであるときは、必要に応じて加熱して接着剤層を軟らかくした状態で、非金属成形体の接着面と接着させることができる。また接着剤層が熱硬化性樹脂系接着剤のプレポリマーからなるものであるときは、接着後に加熱雰囲気に放置してプレポリマーを加熱硬化させる。
【0040】
<第3複合体の製造方法>
本発明の第3複合体の製造方法(第1実施形態、第2実施形態)を説明する。
【0041】
(第1実施形態)
第1複合体の製造方法のレーザー光による粗面化工程と同様にして、第1金属成形体と第2金属成形体のそれぞれを粗面化して第1多孔構造部と第2多孔構造部を形成する。次に、第1金属成形体の第1多孔構造部に接着剤を塗布して接着剤層を形成して、第1a複合体を製造する。次に、第1a複合成形体の接着剤層と第2金属成形体の多孔構造部を互いに押しつけて接着・一体化することで第3複合体を製造する。接着剤層が熱可塑性樹脂系接着剤からなるものであるときは、必要に応じて加熱して接着剤層を軟らかくした状態で、非金属成形体の接着面と接着させることができる。また接着剤層が熱硬化性樹脂系接着剤のプレポリマーからなるものであるときは、接着後に加熱雰囲気に放置してプレポリマーを加熱硬化させる。
【0042】
(第2実施形態)
第1複合体の製造方法と同様にして、第1金属成形体と接着剤層からなる第1a複合体と、第2金属成形体と接着剤層からなる第1b複合体を製造する。次に、第1a複合体の接着剤層と第1b複合体の接着剤層を互いに押しつけて接着・一体化することで第3複合体を製造する。接着剤層が熱可塑性樹脂系接着剤からなるものであるときは、必要に応じて加熱して接着剤層を軟らかくした状態で、非金属成形体の接着面と接着させることができる。また接着剤層が熱硬化性樹脂系接着剤のプレポリマーからなるものであるときは、接着後に加熱雰囲気に放置してプレポリマーを加熱硬化させる。
【0043】
本発明の複合体と複合体の製造方法は、以下に示す好ましい実施形態も含むものである。
【0044】
(1)下記の方法により測定された金属成形体の表面からの多孔構造部の最大高低差の平均が30~200μmの範囲であり、かつ前記平均最大高低差を算出する根拠となった最大高低差の範囲が、前記平均最大高低差を基準としたとき±40%の範囲内にある多孔構造部を含む金属成形体(粗面化された金属成形体)。
(平均最大高低差の測定方法)
前記金属成形体の多孔構造部のうちの20mm×20mmの面積領域(20mm×20mm未満の場合は全面積領域)について、長さ500μm範囲を最大で10箇所ランダムに選択し、前記最大で10箇所の長さ500μmの範囲内の多孔構造物の孔の最大高低差をSEMの断面写真から計測し、前記最大高低差の平均値を求める。
【0045】
(2)上記(1)の多孔構造部を含む金属成形体(粗面化された金属成形体)の製造方法。
【0046】
(3)上記(1)の多孔構造部を含む金属成形体(粗面化された金属成形体)と他の材料(接着剤は含まない)からなる成形体からなる複合成形体。前記他の材料からなる成形体は、熱可塑性樹脂成形体、熱硬化性樹脂成形体、電子線硬化性樹脂成形体、エラストマー成形体、ゴム成形体、多孔構造部を含む金属成形体(粗面化された金属成形体)とは異なる金属からなる金属成形体から選ばれるものである。
【0047】
(4)上記(3)の複合成形体の製造方法。
【0048】
金属成形体と樹脂成形体からなる複合成形体は、例えば特許第5774246号公報に記載の方法により、多孔構造部を含む金属成形体(粗面化された金属成形体)と樹脂成形体を一体化させることができる。
【0049】
前記の一体化方法としては、
前工程においてレーザー光が照射された金属成形体の接合面(多孔構造部を含む面)を含む部分を金型内に配置して、前記樹脂成形体となる樹脂を射出成形する工程、または
前工程においてレーザー光が照射された金属成形体の接合面(多孔構造部を含む面)を含む部分を金型内に配置して、少なくとも前記接合面(多孔構造部を含む面)と前記樹脂成形体となる樹脂を接触させた状態で圧縮成形する工程、のいずれかの方法を適用することができる。その他、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂の成形方法として使用される公知の成形方法も適用することができる。熱可塑性樹脂を使用した場合には、溶融した樹脂に圧力などをかけることで、金属成形体に形成された多孔構造部(孔や溝やトンネル接続路)内に樹脂を入り込ませた後、樹脂を冷却固化させることで複合成形体を得られる方法であればよい。射出成形や圧縮成形のほか、射出圧縮成形などの成形方法も使用することができる。
【0050】
熱硬化性樹脂を使用した場合には、液状或いは溶融状態の樹脂(プレポリマー)に圧力などをかけることで、金属成形体に形成された多孔構造部(孔や溝やトンネル接続路)内に樹脂を入り込ませた後、樹脂を熱硬化させることで複合成形体を得られる成形方法であればよい。射出成形や圧縮成形のほか、トランスファー成形などの成形方法も使用することができる。
【0051】
圧縮成形法を適用するときは、例えば、型枠内に接合面(多孔構造部を含む面)が露出された状態で(接合面が表側になった状態で)金属成形体を配置し、そこに熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂(但し、プレポリマー)を入れた後で、圧縮する方法を適用することができる。なお、射出成形法と圧縮成形法で熱硬化性樹脂(プレポリマー)を使用したときは、後工程において加熱などをすることで熱硬化させる。
【0052】
金属成形体とゴム成形体からなる複合成形体は、例えば、特開2016-107609号公報に記載の以下に示す、粗面化された金属成形体の接合面(多孔構造部を含む面)とゴム成形体を一体化させる方法を適用することができる。金属成形体とゴム成形体を一体化させる方法としては、プレス成形法、トランスファー成形法が好ましい。
【0053】
プレス成形法を適用するときは、レーザー光が照射された金属成形体の接合面(多孔構造部を含む面)を含む部分を金型内に配置して、金属成形体の接合面(多孔構造部を含む面)に対して、加熱および加圧した状態で前記ゴム成形体となる未硬化ゴムをプレスした後、冷却後に取り出す。
【0054】
トランスファー成形法を適用するときは、レーザー光が照射された金属成形体の接合面(多孔構造部を含む面)を含む部分を金型内に配置して、金属成形体の接合面(多孔構造部を含む面)に対して、未硬化ゴムを金型内に射出成形し、その後、加熱および加圧して金属成形体の接合面(多孔構造部を含む面)とゴム成形体を一体化させ、冷却後に取り出す。なお、使用するゴムの種類によっては、主として残留モノマーを除去するため、金型から取り出した後、オーブンなどでさらに二次加熱(二次硬化)する工程を付加することができる。
【0055】
異なる金属からなる金属成形体同士の複合成形体は、例えば、特許第5860190号公報に記載の以下に示す、金属成形体同士を一体化させる方法を適用することができる。金型内に粗面化した融点の高い第1金属成形体を接合面(多孔構造部を含む面)が上になるように配置する。その後、例えば周知のダイカスト法を適用して、溶融状態の第1金属成形体(例えば鉄、ステンレス)の金属よりも融点の低い金属(例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、マグネシウムおよびそれらを含む合金)を金型内に流し込んだ後、冷却する。
【0056】
実施例
実施例1、2、3、比較例1
各例2枚ずつのアルミニウム板(A5025)(縦100mm、横25mm、厚み3mm)10に対して、下記レーザー装置を使用して、
図3に示す多孔構造部11となる粗面化領域(25mm×12.5mm)12に対して表1に示す条件でレーザー光を連続照射して粗面化して多孔構造部を形成した。
【0057】
(レーザー装置)
発振器:IPG-Ybファイバー;YLR-300-SM(シングルモードファイバーレーザー)
ガルバノミラー SQUIREEL(ARGES社製)
集光系1:fc=80mm/fθ=163mm
集光系2:fc=80mm/fθ=100mm
【0058】
次に、各例2枚のアルミニウム板10の粗面化部(多孔構造部)11を上にした状態でホットプレート上に置いて予熱した(50℃,15分間)。次に、接着剤(EP106NL,工業用一液性エポキシ接着剤,セメダイン(株)製)をアルミニウム板10の粗面化部(多孔構造部)11に塗布し、加熱硬化しない状態で本発明の第1複合体を得た。次に、各例について
図4に示すように2枚のアルミニウム板10の接着剤塗布面(第1複合体の接着剤層)を合わせた状態でクリップにより固定し、140℃で1時間保持して接着剤を硬化させて第3複合体を製造した。
【0059】
実施例1、2、3、比較例1の第3複合体を用い、
図4に示すようにしてせん断試験を行ってせん断接合強度を評価した。せん断試験は、
図4に示すとおり、ステンレス(SUS304)のスペイサー101を介して、2枚のアルミニウム板の接着物(第3複合体)を試験機のチャック100により固定して実施した。また実施例1、2、3、比較例1の第3複合体を、50℃の温水に浸漬させて、浸漬から7日後、30日後に
図4に示すようにしてせん断試験を行ってせん断接合強度を評価した。結果を表1に示す。
【0060】
(せん断試験条件)
試験機:オリエンテック社製テンシロン(UCT-1T)
引張速度:5mm/min
チャック間距離:50mm
【0061】
また、せん断接合強度の測定試験後の実施例1~3と比較例1の第3複合体を使用し、2枚のアルミニウム10の接着面に対して垂直方向に超音波カッターで切断して、切断面のSEM写真(実施例1は
図5、比較例1は
図6、実施例3と比較例1の対比は
図7)を撮影した。
図5、
図6、
図7から、実施例1、3、比較例1の平均最大高低差(10箇所の平均)を計測し、その結果を表1に示す。また平均最大高低差を基準としたときの最大高低差の範囲も表1に示す。実施例2のSEM写真は省略しているが、同様にして測定した。
【0062】
図5、
図6は、いずれも白い部分がアルミニウム板の多孔構造部を示し、その上に付着されているものが接着剤を示している。
図5は200倍、
図6は100倍であり、
図5と
図6の対比からでも孔深さの違いは明確であるが、
図6を200倍にしたときは、孔深さの違いがより顕著になることが分かる。
図7は、(a)が実施例3の切断面のSEM写真、(b)が比較例1の切断面のSEM写真であり、同一縮尺で示している。
図7(a)、(b)中には、いずれも円形乃至は不定形の黒い部分が認められるが、これらはいずれも2枚のアルミニウム板の間の接着剤層に存在している気泡であり、実施例3(
図7(a))の気泡は、比較例1(
図7(b))と比べると非常に小さくなっていることが確認できた。結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
当業者の技術常識からは、第3複合体で使用されている金属成形体の多孔構造部の孔深さが大きいほどせん断接合強度が高くなると考えられるが、実施例1~3と比較例1の対比から明らかなとおり、平均最大高低差の明確な違いにも拘わらず、せん断接合強度は同程度であった。
【0065】
また温水浸漬試験の結果からは、実施例1~3の第3複合体の方がせん断接合強度の低下が小さく、耐水性と耐湿性を含む耐久性が高いことが確認された。さらに実施例1~3と比較例1における温水浸漬試験結果の差は、上記した接着剤層に残存している気泡の大きさ(一つずつの気泡の外径と気泡の合計体積)の大小が影響しているものと考えられる。なお、実施例1~3において、このように接着剤層中の気泡の大きさが小さくなることには、孔深さの平均最大高低差が小さく、脱気され易いことが寄与しているものと考えられる。
【0066】
実施例4
実施例1と同様にしてアルミニウム板を粗面化して、多孔構造部を形成させた。次に、処理後のアルミニウム板を使用して、接合面(多孔構造部のある面)に接着剤(コニシ(株)製MOS7-200)を塗布し、GF60%強化PA66樹脂(プラストロンPA66-GF60-01(L7):ダイセルポリマー(株)製)からなる板を接合させ、アルミニウム板/PA66-GF60-01(L7)板の複合成形体を得た。
【0067】
産業上の利用可能性
本発明の複合体とその製造方法によれば、金属成形体と非金属成形体の複合体、金属成形体同士の複合体を得ることができる。金属成形体と非金属成形体の複合体の場合には、金属代替品、金属成形体と非金属成形体の両方の性質が要求される用途に利用することができる。金属成形体と金属成形体の場合には、異なる性質を有する金属成形体の複合体にすることによって、例えば一端と他端、または表と裏で性質の異なる金属複合体として利用することができる。本発明の複合体は、具体的には自動車の内装部品および外装部品、電子機器および電気機器のハウジング、家具、建築材料、花びん、鏡、各種日用品などに使用することができる。また本発明の複合体は、接合部分の耐湿性および耐水性が優れているため、金属成形体や非金属成形体の種類を選択することで耐湿性および耐水性が要求される用途全般に使用することができる。耐湿性および耐水性が要求される用途としては、水周り用途(台所、洗面所、浴室などで使用する物品用途)、水作業で使用する各種部品用途、屋外で使用する各種物品用途、農業用途、水辺、水上または水中で使用する用途(船舶や漁業で使用する物品用途も含む)などが好適である。
【0068】
符号の説明
10 金属成形体
11 粗面化部(多孔構造部)
12 測定領域
20a~20d 多孔構造部のピーク部分
21 多孔構造部の孔の最深部底