IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ IMV株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-振動試験装置 図1
  • 特許-振動試験装置 図2
  • 特許-振動試験装置 図3
  • 特許-振動試験装置 図4
  • 特許-振動試験装置 図5
  • 特許-振動試験装置 図6
  • 特許-振動試験装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】振動試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/02 20060101AFI20230412BHJP
   G01M 7/04 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
G01M7/02 G
G01M7/04
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021139381
(22)【出願日】2021-08-27
(65)【公開番号】P2023032978
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2022-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000100676
【氏名又は名称】IMV株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130199
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 充弘
(72)【発明者】
【氏名】周藤 睦人
(72)【発明者】
【氏名】内山 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】中村 勝彦
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-241089(JP,A)
【文献】特開2021-033486(JP,A)
【文献】特開2004-301571(JP,A)
【文献】特開2005-254941(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109188258(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/02- 7/04
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動台を加振する加振機を備えた振動試験装置であって、
前記加振機に印加する電流および電圧を制御することにより、前記加振機の駆動を制御する駆動制御部と、
前記加振機の振動を制御する電流を検知する電流検知部と、
前記加振機の振動を制御する電圧を検知する電圧検知部と、
前記振動台の運動に関する物理量を検知する運動検知部と、
前記電流検知部、前記電圧検知部、および前記運動検知部から出力される検知信号に基づいて、故障判定、故障予知、および性能限界判定を含む、前記振動試験装置の状態に関する判定を行う判定部と、を有し、
前記運動検知部から出力される検知信号に基づいて、前記振動台の6自由度運動についての物理量を算出する運動算出部をさらに有し、
前記判定部は、前記運動算出部で算出された6自由度運動についての物理量を加味して、前記振動試験装置の状態を判定する、
振動試験装置。
【請求項2】
前記運動算出部で算出された6自由度運動についての物理量の履歴を記憶する運動記憶部をさらに有し、
前記判定部は、前記運動記憶部に記憶された6自由度運動についての物理量の履歴を加味して、前記振動試験装置の状態を判定する、
請求項1に記載の振動試験装置。
【請求項3】
前記判定部は、
前記6自由度運動についての物理量のうち、前記加振機の加振方向に沿った運動以外の運動についての物理量のいずれかが、所定の閾値を越えた場合、前記振動試験装置に故障が発生している旨の判定、前記振動試験装置に故障が発生する確率が上昇している旨の判定、および、前記振動試験装置が性能限界に達している旨の判定のうち、少なくともいずれかの判定を行う、
請求項1または請求項2に記載の振動試験装置。
【請求項4】
前記振動台の6自由度運動についての物理量と、前記電流検知部および前記電圧検知部から出力される検知信号に基づいて、前記振動台の6自由度運動と電流および電圧との間の伝達率を算出する伝達率算出部をさらに有し、
前記判定部は、算出された前記伝達率を加味して、前記振動試験装置の状態を判定する、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の振動試験装置。
【請求項5】
前記伝達率算出部で算出された伝達率の履歴を記憶する伝達率記憶部をさらに有し、
前記判定部は、前記伝達率記憶部に記憶された伝達率の履歴を加味して、前記振動試験装置の状態を判定する、
請求項4に記載の振動試験装置。
【請求項6】
前記判定部は、
前記伝達率のうち、前記加振機の加振方向に沿った運動以外の運動についての物理量に基づいて算出される伝達率のいずれかが、所定の閾値を越えた場合、前記振動試験装置に故障が発生している旨の判定、前記振動試験装置に故障が発生する確率が上昇している旨の判定、および、前記振動試験装置が性能限界に達している旨の判定のうち、少なくともいずれかの判定を行う、
請求項4または請求項5に記載の振動試験装置。
【請求項7】
前記判定部は、
前記伝達率のうち、前記加振機の加振方向に沿った運動についての物理量に基づいて算出される伝達率が、所定の閾値を下回った場合、前記振動試験装置が性能限界に達している旨の判定を行う、
請求項4から請求項6のいずれか1項に記載の振動試験装置。
【請求項8】
前記運動検知部は、前記振動台における互いに離隔した3点以上の位置に配置される3軸加速度センサを含む、
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の振動試験装置。
【請求項9】
前記振動試験装置の状態に関する判定は、
前記振動試験装置の故障部位の推測に関する判定、および、振動台に保持された供試体の重心位置に関する判定のいずれかをさらに含む、
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の振動試験装置。
【請求項10】
前記判定部が、前記振動試験装置に故障が発生している旨の判定を行った場合、
前記駆動制御部は、前記加振機を停止させる、
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の振動試験装置。
【請求項11】
前記判定部によって判定された判定結果、および、前記判定部による判定に用いられたデータを、ネットワークを介して接続されたデータベースに出力する通信部をさらに有する、
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の振動試験装置。
【請求項12】
前記判定部による判定に用いられる閾値は更新可能であり、
前記通信部に接続されるネットワークを介して、前記閾値が更新される、
請求項11に記載の振動試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動台を加振する加振機を備え、故障判定、故障予知、および性能限界判定を含む自己診断を行うことができる振動試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車用の部品やタイヤ等、種々の物品について振動試験を行うための振動試験装置が知られている。振動試験装置が備える加振機は、振動台を有している。振動台に供試体を保持した状態で振動台を振動させることにより、振動試験が行われる。加振機によって実際の使用状態を模擬するように供試体を振動させることにより、物品の振動特性や安全性に関する評価を行うことができる。
【0003】
ところで、振動台を加振すると、振動台は加振方向に振動するだけでなく、加振方向ではない方向にも振動(クロストーク)する場合がある。振動台を鉛直方向に加振した場合には、クロストークは水平方向に発生する。クロストークが発生する原因として、振動台の支持機構の僅かな隙間や、加振機の経年劣化等が考えられる。特許文献1のように、クロストークの発生を抑制するようにした振動試験装置も提案されている。
【0004】
振動台のクロストークは、機構上避けられない面もあるが、加振機の経年劣化が進行することによってクロストークが徐々に増大する場合がある。クロストークがあるレベルを超えて大きくなると、振動試験の精度が悪化するおそれがある。また、振動台のクロストークが大きくなった状態でメンテナンスせずに使用を続けることにより、加振機が故障するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-2731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、振動台を加振すると、振動台にはクロストークだけでなく、回転方向の振動も発生する場合がある。例えば、振動台を鉛直軸方向(Z軸方向)に加振した場合、振動台には、水平方向(X軸方向、Y軸方向)に発生するクロストークに加えて、X軸、Y軸およびZ軸のそれぞれの軸回りに回転方向の振動が発生する場合がある。
【0007】
つまり、振動台を加振機で加振すると、振動台は、加振方向の振動を含めて6自由度運動を生じる場合がある。6自由度運動は、直交する3軸(X軸、Y軸、およびZ軸)のそれぞれの軸方向の運動と、X軸、Y軸およびZ軸のそれぞれの軸回りの回転運動である。この6自由度運動は、振動台を1軸方向(例えばZ軸方向)のみ加振する振動試験装置においても生じる可能性があり、振動台を複数方向(例えばX軸、Y軸およびZ軸方向)に加振する多軸の振動試験装置においても生じる可能性がある。
【0008】
振動台の6自由度運動は、様々な要因によって発生すると考えられる。例えば振動台の支持機構など加振機の経年劣化や、振動台に保持する供試体の重心位置が加振機の加振軸から外れている場合など、様々な要因によって振動台に6自由度運動が生じる。また、6自由度運動は、長期間に渡る経年劣化によって徐々に増大する場合があるほか、振動試験中の短時間内に急増する場合もある。
【0009】
6自由度運動を完全に防ぐことは容易ではないが、振動台の6自由度運動があるレベルを超えて大きくなると、振動試験の精度に影響を及ぼすおそれがある。また、振動試験装置の故障の予兆として6自由度運動が生じている場合には、そのままメンテナンスを行わずに使用を続けることによって振動試験装置が故障するおそれがある。また、供試体の重心位置が加振機の加振軸から外れている場合には、重心位置が外れた状態のまま強い加速度で加振することにより、振動試験装置が故障するおそれもある。
【0010】
このように、振動台の6自由度運動は、振動試験の精度に影響を及ぼし、振動試験装置の故障にも繋がる現象である。しかしながら、振動台の6自由度運動のうち、軸回りの回転運動とクロストークは、それぞれ運動の方向が異なるため、クロストークを検知する手段では軸回りの回転運動を検知することはできない。このため、振動台に生じるクロストークを検知して評価するだけでは、軸回りの回転運動は評価に含まれず、振動試験装置の故障に関する評価を精度よく行うことは困難である。
【0011】
また、振動台の6自由度運動は、様々な要因によって発生するものである。このため、振動台の6自由度運動を検知できたとしても、振動台の6自由度運動のみから振動試験装置の故障に関する評価を精度よく行うことは困難である。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、振動試験装置の故障判定、故障予知、および性能限界判定を含む、振動試験装置の状態に関する自己診断を精度良く行うことができる振動試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上述の課題を解決するための手段を以下のように構成している。すなわち、本発明の振動試験装置は、
振動台を加振する加振機を備えた振動試験装置であって、
前記加振機に印加する電流および電圧を制御することにより、前記加振機の駆動を制御する駆動制御部と、
前記加振機の振動を制御する電流を検知する電流検知部と、
前記加振機の振動を制御する電圧を検知する電圧検知部と、
前記振動台の運動に関する物理量を検知する運動検知部と、
前記電流検知部、前記電圧検知部、および前記運動検知部から出力される検知信号に基づいて、故障判定、故障予知、および性能限界判定を含む、前記振動試験装置の状態に関する判定を行う判定部と、
を有する(第1の構成)。
【0014】
ここで、故障判定は、加振機の故障している旨の判定を含めて、振動試験装置のいずれかの構成部分に故障が生じている旨の判定をいう。
故障予知は、加振機に故障が生じる確率が高まっている旨の判定を含めて、振動試験装置のいずれかの構成部分に故障が生じる確率が高まっている旨の判定をいう。
性能限界判定は、加振機の性能(加振機が許容する周波数、振幅、加速度、供試体の重量など)上の限界に達している旨の判定を含めて、振動試験装置のいずれかの構成部分が限界に達している旨の判定をいう。
【0015】
上記構成によれば、判定部は、電流検知部、電圧検知部、および運動検知部から出力される検知信号に基づいて、故障判定、故障予知、および性能限界判定を含む、振動試験装置の状態に関する判定を行う。
このため、振動試験装置は、故障判定、故障予知、および性能限界判定を含む振動試験装置の状態に関する自己診断を精度良く行うことができる。これにより、故障が発生したと判定された場合には早期に振動試験装置を停止させることができ、故障が予知された場合には、早期にメンテナンスを行って振動試験装置の故障を未然に防ぐことができる。
また、振動試験装置の状態を確認しながら振動試験を行うことができるため、健全な状態の振動試験装置を用いて振動試験を行うことができ、振動試験の品質を安定化させることができる。
【0016】
本発明の振動試験装置の具体構成として、以下の構成が挙げられる。
上記第1の構成において、
前記運動検知部から出力される検知信号に基づいて、前記振動台の6自由度運動についての物理量を算出する運動算出部をさらに有し、
前記判定部は、前記運動算出部で算出された6自由度運動についての物理量を加味して、前記振動試験装置の状態を判定してもよい(第2の構成)。
【0017】
上記構成によれば、判定部は、運動算出部で算出された6自由度運動についての物理量を加味して、振動試験装置の状態を判定する。
振動台の6自由度運動についての評価を加えることにより、振動試験装置は、故障判定、故障予知、および性能限界判定を含む振動試験装置の状態に関する自己診断を精度良く行うことができる。
【0018】
上記第2の構成において、
前記運動算出部で算出された6自由度運動についての物理量の履歴を記憶する運動記憶部をさらに有し、
前記判定部は、前記運動記憶部に記憶された6自由度運動についての物理量の履歴を加味して、前記振動試験装置の状態を判定してもよい(第3の構成)。
【0019】
上記構成によれば、判定部は、運動記憶部に記憶された6自由度運動についての物理量の履歴を加味して、振動試験装置の状態を判定する。
このため、振動台の6自由度運動の経時的な変化等を評価することができ、故障判定、故障予知、および性能限界判定を含む振動試験装置の状態に関する自己診断を精度良く行うことができる。
【0020】
上記第2または第3の構成において、
前記判定部は、
前記6自由度運動についての物理量のうち、前記加振機の加振方向に沿った運動以外の運動についての物理量のいずれかが、所定の閾値を越えた場合、前記振動試験装置に故障が発生している旨の判定、前記振動試験装置に故障が発生する確率が上昇している旨の判定、および、前記振動試験装置が性能限界に達している旨の判定のうち、少なくともいずれかの判定を行ってもよい(第4の構成)。
【0021】
上記構成によれば、6自由度運動についての物理量のうち、加振機の加振方向に沿った運動以外の運動についての物理量、すなわち、クロストークや振動台の回転運動のいずれかが所定の閾値を越えた場合には、振動試験装置に故障が発生している可能性、振動試験装置に故障が発生する確率が上昇している可能性、および、振動試験装置が性能限界に達している可能性が高いため、これらの判定を行うことができる。
【0022】
上記第2から第4のいずれかの構成において、
前記振動台の6自由度運動についての物理量と、前記電流検知部および前記電圧検知部から出力される検知信号に基づいて、前記振動台の6自由度運動と電流および電圧との間の伝達率を算出する伝達率算出部をさらに有し、
前記判定部は、算出された前記伝達率を加味して、前記振動試験装置の状態を判定してもよい(第5の構成)。
【0023】
上記構成によれば、判定部は、振動台の6自由度運動と電流および電圧との間の伝達率を加味して、振動試験装置の状態を判定する。
振動台の6自由度運動だけでなく、伝達率を加味することにより、様々な要因によって発生する振動試験装置の故障や性能限界について、故障判定、故障予知、および性能限界判定を含む振動試験装置の状態に関する自己診断を精度良く行うことができる。
【0024】
上記第5の構成において、
前記伝達率算出部で算出された伝達率の履歴を記憶する伝達率記憶部をさらに有し、
前記判定部は、前記伝達率記憶部に記憶された伝達率の履歴を加味して、前記振動試験装置の状態を判定してもよい(第6の構成)。
【0025】
上記構成によれば、判定部は、伝達率記憶部に記憶された伝達率の履歴を加味して、振動試験装置の状態を判定する。
このため、伝達率の経時的な変化等を評価することができ、故障判定、故障予知、および性能限界判定を含む振動試験装置の状態に関する自己診断を精度良く行うことができる。
【0026】
上記第5または第6の構成において、
前記判定部は、
前記伝達率のうち、前記加振機の加振方向に沿った運動以外の運動についての物理量に基づいて算出される伝達率のいずれかが、所定の閾値を越えた場合、前記振動試験装置に故障が発生している旨の判定、前記振動試験装置に故障が発生する確率が上昇している旨の判定、および、前記振動試験装置が性能限界に達している旨の判定のうち、少なくともいずれかの判定を行ってもよい(第7の構成)。
【0027】
上記構成によれば、伝達率のうち、加振機の加振方向に沿った運動以外の運動についての物理量に基づいて算出される伝達率、すなわち、クロストークや振動台の回転運動のいずれかに基づいて算出される伝達率が所定の閾値を越えた場合には、振動試験装置に故障が発生している可能性、振動試験装置に故障が発生する確率が上昇している可能性、および、振動試験装置が性能限界に達している可能性が高いため、これらの判定を行うことができる。
【0028】
上記第5から第7のいずれかの構成において、
前記判定部は、
前記伝達率のうち、前記加振機の加振方向に沿った運動についての物理量に基づいて算出される伝達率が、所定の閾値を下回った場合、前記振動試験装置が性能限界に達している旨の判定を行ってもよい(第8の構成)。
【0029】
上記構成によれば、伝達率のうち、加振機の加振方向に沿った運動についての物理量に基づいて算出される伝達率が所定の閾値を下回った場合には、例えば、供試体の重量が大きいことにより所望の加速度が出せない場合など、振動試験装置が性能限界に達している可能性が高いため、振動試験装置が性能限界に達している旨の判定を行うことができる。
【0030】
上記第1から第8のいずれかの構成において、
前記運動検知部は、前記振動台における互いに離隔した3点以上の位置に配置される3軸加速度センサを含んでもよい(第9の構成)。
【0031】
上記構成によれば、運動検知部は、振動台における互いに離隔した3点以上の位置に配置される3軸加速度センサを含む。
このため、振動台に配置する運動検知部の数量を最小限にしつつ、振動台の6自由度運動についての物理量を算出することができる。
【0032】
上記第1から第9のいずれかの構成において、
前記振動試験装置の状態に関する判定は、
前記振動試験装置の故障部位の推測に関する判定、および、振動台に保持された供試体の重心位置に関する判定のいずれかをさらに含んでもよい(第10の構成)。
【0033】
上記構成によれば、振動試験装置の状態に関する判定は、振動試験装置の故障部位の推測に関する判定、および、振動台に保持された供試体の重心位置に関する判定のいずれかをさらに含む。
このため、振動試験装置の故障部位の推測によってメンテナンスが容易になる。また、振動台に保持された供試体の重心位置に関する判定によって供試体の設置を正確かつ容易に行うことができる。
【0034】
上記第1から第10のいずれかの構成において、
前記判定部が、前記振動試験装置に故障が発生している旨の判定を行った場合、
前記駆動制御部は、前記加振機を停止させてもよい(第11の構成)。
【0035】
上記構成によれば、振動試験装置に故障が発生している旨の判定がされた場合、加振機を停止させる。
これにより、振動試験装置に故障が発生した場合に、振動試験装置を安全に停止させることができる。
【0036】
上記第1から第11のいずれかの構成において、
前記判定部によって判定された判定結果、および、前記判定部による判定に用いられたデータを、ネットワークを介して接続されたデータベースに出力する通信部をさらに有してもよい(第12の構成)。
【0037】
上記構成によれば、通信部は、判定部によって判定された判定結果、および、判定部による判定に用いられたデータを、ネットワークを介して接続されたデータベースに出力する。
これにより、複数の振動試験装置の自己診断結果と、それに関するデータをデータベースに蓄積でき、蓄積されたデータを自己診断の精度向上のために利用することが可能となる。
【0038】
上記第1から第12のいずれかの構成において、
前記判定部による判定に用いられる閾値は更新可能であり、
前記通信部に接続されるネットワークを介して、前記閾値が更新されてもよい(第13の構成)。
【0039】
上記構成によれば、通信部に接続されるネットワークを介して、判定部の閾値が更新される。
このため、振動試験装置の自己診断の精度を継続的に向上させていくことができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明の振動試験装置によれば、振動試験装置の故障判定、故障予知、および性能限界判定を含む、振動試験装置の状態に関する自己診断を精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1図1は、本発明の実施形態1に係る振動試験装置の構成を示す図である。
図2図2は、加振機を振動軸に沿って切断した断面図である。
図3図3は、図1の加振機を+Z軸方向側から-Z軸方向側に見た状態における平面図である。
図4図4は、自己診断システムの構成を示す概略図である。
図5図5は、6自由度運動のうち、軸回りの回転についてのコヒーレンス変化の一例を示すグラフである。
図6図6は、6自由度運動のうちの軸回りの回転について、伝達率の履歴の一例を示すグラフである。
図7図7は、振動試験装置の状態に関する判定結果を報知する、表示画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
[実施形態1]
以下、図面を参照し、本発明の実施形態1に係る振動試験装置200を詳しく説明する。図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。なお、説明を分かりやすくするために、以下で参照する図面においては、構成が簡略化または模式化して示されたり、一部の構成部材が省略されたりしている。また、各図に示された構成部材間の寸法比は、必ずしも実際の寸法比を示すものではない。
【0043】
[全体構成]
図1は、本発明の実施形態1に係る振動試験装置200の構成を示す図である。図1に示すように、振動試験装置200は、加振機100、制御部110、アンプ170、およびディスプレイ190などから構成されている。
【0044】
加振機100は、振動台48を有しており、振動台48には、試験対象である供試体Wが保持される。供試体Wを保持した状態で振動台48を振動させることにより、振動試験を行うことができる。振動台48には、3軸加速度センサ135および制御用センサ136が配置されている。
【0045】
制御部110は、加振機100の駆動を制御する。制御部110は、駆動制御部120および自己診断部130を有している。
【0046】
駆動制御部120は、加振機100に印加する電流および電圧を制御することにより、加振機100の駆動を制御して、所望の周波数、振幅、加速度、振動パターンなど、振動試験に必要な振動を供試体Wに加える。駆動制御部120から出力される制御信号は、アンプ170を介して加振機100に入力される。加振機100で発生させた振動(応答振動)が試験に必要な所望の振動(目標振動)に合致しているかどうかを判定し、判定結果を駆動制御部120による制御信号に反映させるため、振動台48に設けられた制御用センサ136からの検知信号は、A/D変換器180を介して駆動制御部120に入力される。
【0047】
自己診断部130は、加振機100の故障判定、故障予知、および性能限界判定を含む、振動試験装置200の状態に関する判定を行う。具体的には、自己診断部130は、3軸加速度センサ135からの入力に基づいて算出される振動台48の6自由度運動、電流検知部171および電圧検知部172からの検知信号などに基づいて、振動試験装置200の状態に関する判定を行う。
【0048】
3軸加速度センサ135は、振動台48の振動に関する物理量を検知し、検知信号は、A/D変換器160を介して自己診断部130に入力される。3軸加速度センサ135によって検知された物理量によって振動台48の6自由度運動が算出される。
【0049】
電流検知部171および電圧検知部172は、アンプ170に配置されている。電流検知部171は、加振機100の振動を制御する電流を検知する。電圧検知部172は、加振機100の振動を制御する電圧を検知する。電流検知部171および電圧検知部172からの検知信号は、A/D変換器160を介して自己診断部130に入力される。
【0050】
ディスプレイ190は、加振機100の振動に関する設定画面、加振機100の運転状況、および自己診断部130による自己診断結果などを表示する。制御部110への入力は、タッチパネルタイプのディスプレイ190などの入力装置を用いて行う。
【0051】
[加振機]
次に、加振機100の構成について説明する。図2は、加振機100を振動軸L1に沿って切断した断面図である。図3は、図1の加振機100を+Z軸方向側から-Z軸方向側に見た状態における平面図である。本実施形態では、Z軸方向を垂直方向(鉛直方向)とし、Y軸方向を水平方向とし、YZ平面に垂直な方向をX軸方向とする。
【0052】
図2に示すように、加振機100は、動電型加振機であり、振動軸L1がZ軸方向に対して平行となるように配置されており、Z軸方向の振動を発生させる。加振機100は、ヨーク20、励磁コイル31,32、筒体40、ドライブコイル51等を備えている。
【0053】
ヨーク20は、第1ヨーク部21、第2ヨーク部22、および第3ヨーク部23を一体的に組み合わせて構成されている。第2ヨーク部22の内周面には、励磁コイル31,32が取り付けられている。励磁コイル31,32は、円筒状に巻回されており、振動軸L1方向に離隔した状態で並んで取り付けられている。第1ヨーク部21の外周面と、第2ヨーク部22の内周面との間には、励磁コイル31,32により形成された静磁場による磁気回路、および磁気ギャップが形成されている。
【0054】
筒体40は、ヨーク20の内側に収容され、ヨーク20に対して可動する部分である。筒体40の内部には、Z軸方向に延びる案内軸42が設けられている。案内軸42の周囲には、案内軸42をZ軸方向に案内するガイドローラ44が、120度間隔で3箇所に配置されている。ガイドローラ44は、第1ヨーク部21の内壁面に支持されている。また、筒体40の一端側(+Z軸方向側)は、ヨーク20に対して突出しており、支持装置46によってZ軸方向に案内されるように支持されている。
【0055】
ドライブコイル51は、磁気ギャップ内に配置される振動発生用のコイルである。ドライブコイル51は、筒体40の他端部(-Z軸方向側)の外周面に巻回されている。ドライブコイル51は、励磁コイル31,32と、ヨーク20(第1ヨーク部21、および第2ヨーク部22)との対向間の磁気ギャップ内に、励磁コイル31,32およびヨーク20に対し非接触の状態で挿入されている。
【0056】
駆動制御部120(図1参照)からアンプ170を介して励磁コイル31,32に直流電流を供給することにより、励磁コイル31,32を取り巻くヨーク20内に磁気回路(静磁場)が生成される。また、駆動制御部120からアンプ170を介してドライブコイル51に所定周波数の交流電流を供給することにより、磁気ギャップに生成される静磁場とドライブコイル51に供給される交流電流との相互作用(ローレンツ力)により、ドライブコイル51が磁束の方向と直交する方向にスライドする。具体的には、ドライブコイル51に流れる電流の向きに応じて、ドライブコイル51および筒体40は、ヨーク20から外方へ向けて進出(前進)する方向(+Z軸方向)のスライドと、ヨーク20へ向けて内方(-Z軸方向)へ退出(後退)する方向のスライドとを繰り返し行う。つまり、ドライブコイル51および筒体40(可動部)は、ドライブコイル51に供給される交流電流の周波数に応じて、ヨーク20(固定部)に対してZ軸方向に沿って振動する。
【0057】
筒体40の他端側(+Z軸方向側)には、振動台48が設けられている。振動台48には供試体Wが保持される。加振機100では、駆動制御部120から供給される直流電流および交流電流によって加振機100を駆動することにより、ドライブコイル51、筒体40、および振動台48が一体的にZ軸方向に沿って振動して、供試体Wに対するZ軸方向の加振が行われる。
【0058】
図3に示すように、支持装置46は、Z軸方向に沿って往復動する筒体40と、筒体40の周囲に配置されるヨーク20(第3ヨーク部23)の端部との間に配置されている。
【0059】
振動台48には、複数の3軸加速度センサ135が設けられている。3軸加速度センサ135は、直交する3軸方向の加速度を検知可能なセンサである。互いに離隔した3箇所以上の位置において3軸方向の加速度を検知することにより、その検知信号に基づいて振動台48の6自由度運動を算出することが可能となる。本実施形態では、振動台48における互いに離隔した3箇所にそれぞれ3軸加速度センサ135が配置されている。各3軸加速度センサ135は、加速度を検知できる直交する3軸方向を、X軸、Y軸およびZ軸に合わせて配置することが好ましい。
【0060】
なお、振動台48の運動に関する物理量を検知して、この検知信号に基づいて、振動台48の6自由度運動についての物理量を算出できればよいため、振動台48に設けられるセンサは3軸加速度センサに限定されない。例えば、1軸加速度センサや2軸加速度センサなど、様々なセンサを組み合わせて6自由度運動の算出に必要な物理量を検知してもよい。また、センサを配置する位置については、加速度センサであれば振動台48の加速度を検知できればよく、特に限定されない。
【0061】
[自己診断システム]
図4は、自己診断システム150の構成を示す概略図である。自己診断システム150は、加振機100の故障判定、故障予知、および性能限界判定を含む、振動試験装置200の状態に関する自己診断を実行するシステムである。
【0062】
自己診断システム150による判定には、現在の運転状態に基づく判定と、現在の運転状態と過去の運転状態の履歴とを比較した結果に基づく判定が含まれている。また、過去の運転状況との比較に基づく判定については、様々な時間軸の判定が含まれている。例えば振動試験装置200の導入時からの履歴に基づくような長期的な判定や、現在実行中の振動試験の開始時点から現時点までの履歴に基づくような短期的な判定が含まれている。また、自己診断システム150は、振動試験装置200のメンテナンス時だけでなく、振動試験装置200の運転時には振動試験中も含めて常時自己診断を実行する。
【0063】
自己診断システム150は、制御部110、アンプ170、加振機100を備えている。
【0064】
制御部110は、駆動制御部120、自己診断部130、記憶部140、および通信部149を有している。
【0065】
駆動制御部120は、加振機100に印加する電流および電圧を制御することにより、加振機100の駆動を制御する。また、駆動制御部120は、自己診断部130による判定結果に応じて、加振機100の駆動を停止するなどの制御も行う。
【0066】
自己診断部130は、加振機100の故障判定、故障予知、および性能限界判定を含む、振動試験装置200の状態に関する判定を行う。自己診断部130は、運動算出部131、伝達率算出部132、および判定部134を有している。
【0067】
運動算出部131は、振動台48に設けられた複数の3軸加速度センサ135から出力される検知信号に基づいて、振動台48の6自由度運動についての物理量を算出する。6自由度運動は、直交する3軸(X軸、Y軸、およびZ軸)のそれぞれの軸方向の運動と、X軸、Y軸およびZ軸のそれぞれの軸回りの回転運動である。6自由度運動についての物理量は、6自由度運動を変位、速度、加速度、回転角度、角速度、角加速度などで表記した時の量をいう。本実施形態では、振動台48の6自由度運動についての物理量として、X軸、Y軸、およびZ軸のそれぞれの軸方向における加速度と、X軸、Y軸およびZ軸のそれぞれの軸回りにおける加速度を算出する。
【0068】
伝達率算出部132は、運動算出部131によって算出される振動台48の6自由度運動についての物理量と、電流検知部171および電圧検知部172から出力される検知信号に基づいて、振動台48の6自由度運動と電流および電圧との間の伝達率を算出する。本実施形態では、伝達率の算出に用いる振動台48の6自由度運動についての物理量として、X軸、Y軸、およびZ軸のそれぞれの軸方向における加速度と、X軸、Y軸およびZ軸のそれぞれの軸回りにおける加速度を用いる。
【0069】
ここで、加振方向(Z軸方向)における振動台48の加速度をAとし、電流検知部171から出力される検知信号(加振機100に印加される電流値)をIとし、電圧検知部172から出力される検知信号(加振機100に印加される電流値)をEとして、加速度と電流についての伝達率、および加速度と電圧についての伝達率を次のように算出する。
加振方向における加速度と電流についての伝達率=A/I
加振方向における加速度と電圧についての伝達率=A/E
【0070】
また、加振方向(Z軸方向)以外の振動台48の加速度をそれぞれBとし、電流検知部171から出力される検知信号(加振機100に印加される電流値)をIとし、電圧検知部172から出力される検知信号(加振機100に印加される電流値)をEとして、加速度と電流についての伝達率、および加速度と電圧についての伝達率を次のように算出する。
加振方向以外における加速度と電流についての伝達率=B/I
加振方向以外における加速度と電圧についての伝達率=B/E
なおBは、Z軸方向における加速度以外の、X軸、およびY軸のそれぞれの軸方向における加速度と、X軸、Y軸およびZ軸のそれぞれの軸回りにおけるそれぞれの加速度である。
【0071】
上記の伝達率は、振動台48の6自由度運動の加速度と、加振機100に印加される電流値、および加振機100に印加される電圧値によって算出されるため、振動台48に保持される供試体Wの重量が未知であっても伝達率を算出することが可能である。また、算出された伝達率を用いて、振動試験装置200の状態に関する判定を行うことが可能である。
【0072】
判定部134は、電流検知部171、電圧検知部172、および3軸加速度センサ135から出力される検知信号に基づいて、故障判定、故障予知、および性能限界判定を含む、振動試験装置200の状態に関する判定を行う。
【0073】
判定部134は、例えば、運動算出部131で算出された振動台48の6自由度運動の加速度と、伝達率算出部132で算出された伝達率の両方を用いて、振動試験装置200の状態を判定する。また判定部134は、例えば、6自由度運動の加速度の履歴、すなわち6自由度運動の加速度の経時的な変化と、伝達率の履歴、すなわち伝達率の経時的な変化の両方を用いて、振動試験装置200の状態を判定する。判定部134による具体的な判定については後に詳細に説明する。
【0074】
記憶部140は、振動試験装置200の状態の判定に関するデータを記憶している。記憶部140には、故障判定基準データ141、故障予知判定基準データ142、性能限界判定基準データ143、6自由度運動履歴データ147、および伝達率履歴データ148が蓄積されている。
【0075】
故障判定基準データ141は、振動試験装置200の故障に関する判定基準、例えば加振機100に故障が発生しているかどうかを判定するための判定基準データである。具体的には、例えば、加振方向における加速度と電流についての伝達率(A/I)、加振方向における加速度と電圧についての伝達率(A/E)、加振方向以外における加速度と電流についての伝達率(B/I)、および加振方向以外における加速度と電圧についての伝達率(B/E)に関して、加振機100に故障が発生していると判定する際に参照される閾値が含まれている。
【0076】
故障予知判定基準データ142は、振動試験装置200の故障予知に関する判定基準、例えば加振機100に故障が発生している確率を判定するための判定基準データである。具体的には、例えば、加振方向における加速度と電流についての伝達率(A/I)、加振方向における加速度と電圧についての伝達率(A/E)、加振方向以外における加速度と電流についての伝達率(B/I)、および加振方向以外における加速度と電圧についての伝達率(B/E)に関して、加振機100に故障が発生する確率と、その確率で故障が発生すると判定する際に参照される閾値が含まれている。
【0077】
性能限界判定基準データ143は、振動試験装置200の性能限界判定に関する判定基準、例えば加振機100の駆動が性能の限界に達していると判定するための判定基準データである。具体的には、例えば、加振方向における加速度と電流についての伝達率(A/I)、加振方向における加速度と電圧についての伝達率(A/E)、加振方向以外における加速度と電流についての伝達率(B/I)、および加振方向以外における加速度と電圧についての伝達率(B/E)に関して、加振機100の駆動が性能の限界に達していると判定する際に参照される閾値が含まれている。
【0078】
6自由度運動履歴データ147は、運動算出部131で算出された6自由度運動の物理量の履歴に関するデータである。例えば、運動算出部131によって6自由度運動の加速度が算出されると、算出結果は記憶部140において6自由度運動履歴データ147として蓄積される。
【0079】
伝達率履歴データ148は、伝達率算出部132で算出された伝達率の履歴に関するデータである。伝達率算出部132によって伝達率が算出されると、算出結果は記憶部140において伝達率履歴データ148として蓄積される。
【0080】
なお、自己診断システム150は、上記構成に限定されない。例えば、加振機100の内部および外部の物理量を検知するセンサをさらに設けてもよい。例えば、加振機100の内部の物理量を検知するセンサとして、加振機100の排気温度を検知する温度センサを設けてもよい。また、加振機100の外部の物理量を検知するセンサとして、加振機100の周囲の雰囲気温度を検知する温度センサを設けてもよい。
【0081】
判定部134は、運動算出部131で算出された振動台48の6自由度運動の物理量、および伝達率算出部132で算出された伝達率から振動試験装置200の状態を評価するだけでなく、他の物理量を用いて振動試験装置200の状態を評価してもよい。また、例えばコヒーレンス関数等の他の関数を用いて振動試験装置200の状態を評価してもよい。
【0082】
判定部134で判定された判定結果は、ディスプレイ190(図1参照)への表示や、音声などによって振動試験装置200のオペレータに報知される。
【0083】
通信部149は、判定部134によって判定された判定結果、および、判定部134による判定に用いられたデータを、ネットワークを介して接続されたクラウドサーバ(図示せず)に出力する。
【0084】
ネットワークには、複数の振動試験装置200が接続されており、クラウドサーバは、故障判定、故障予知、および性能限界判定を含む、振動試験装置200の状態に関する判定を学習する機械学習装置を有していてもよい。機械学習装置は、学習結果をネットワークに接続された振動試験装置200に出力してもよい。振動試験装置200の自己診断システム150は、判定を行う際に参照する判定基準データを更新可能とし、機械学習装置から出力される学習結果に対応させて、判定基準データを更新させるようにしてもよい。この場合、複数の振動試験装置200の自己診断結果を自己診断の精度向上に利用することができ、機械学習装置による学習結果を各振動試験装置200に反映させることにより、自己診断の精度を継続的に向上させていくことができる。
【0085】
[評価項目]
続いて、振動試験装置200の状態に関する判定に用いられる評価項目の一例と、判定結果の一例について説明する。
【0086】
図5は、6自由度運動のうち、軸回りの回転についてのコヒーレンス変化の一例を示すグラフである。コヒーレンス変化は、振動試験装置200の状態に関する判定に用いられる評価項目のうちの一つである。図5の左図は加振機100が正常な状態での値を示しており、右図は、同一の加振機100に異常が生じた状態での値を示している。各グラフの横軸は振動の周波数であり、縦軸はコヒーレンスの値である。図5では、加振機100に供給される電流(入力)に対する、軸回りの回転(出力)についての線形性を示している。コヒーレンスの値が1に近づくほど、その周波数における線形性が高いことを示している。
【0087】
左図の正常値においても、コヒーレンスは全ての周波数領域において1ではなく、周波数によって線形性が高い領域(1に比較的近い領域)と、線形性が低い領域(1に比較的遠い領域)とがある。このような周波数とコヒーレンスとの関係は、加振機100ごとに異なる特性である。このためコヒーレンスが所定値(例えば0.5)を下回っただけでは加振機100に異常が生じたと判定することはできない。記憶部140には、振動試験装置200の運転中に算出されたコヒーレンスの履歴が蓄積されている。
【0088】
左図のような特性を有する加振機100において、例えば経年劣化が進行すると、右図のように線形性の低い周波数領域が増大してくる場合がある。ある時点におけるコヒーレンスの値のみから加振機の100の状態を精度よく判定することは困難であるが、判定部134は、記憶部140に記憶されているこのようなコヒーレンスの経時的な変化を評価項目に加えて判定することにより、加振機100の故障判定、故障予知、および性能限界判定を含む、振動試験装置200の状態に関する判定の精度を高めることができる。
【0089】
図6は、6自由度運動のうちの軸回りの回転について、伝達率の履歴の一例を示すグラフである。振動台48の6自由度運動のうち加振方向以外の運動についての伝達率の履歴は、振動試験装置200の状態に関する判定に用いられる評価項目の一つである。グラフの横軸は振動の周波数であり、縦軸は伝達率である。図6には、複数本のグラフの線で示されており、各グラフの線が、ある時点における伝達率と周波数の関係を示している。図6において正常値と示されているグラフは、加振機100が正常な状態における伝達率と周波数の関係を示している。異常値と示されているグラフは、同一の加振機100に異常が生じた状態における伝達率と周波数の関係を示している。
【0090】
正常な状態においても、軸回りの回転についての伝達率は一定ではなく、周波数によって伝達率が高い領域と、伝達率が低い領域とがある。このような周波数と伝達率との関係は、加振機100ごとに異なる特性である。記憶部140には、振動試験装置200の運転中に算出された伝達率の履歴が蓄積されている。
【0091】
正常値と示されているグラフのような特性を有する加振機100において、例えば経年劣化が進行すると、異常値と示されているグラフのように、加振方向以外の運動についての伝達率が増大してくる場合がある。判定部134は、記憶部140に記憶されているこのような伝達率の経時的な変化を評価項目に加え、伝達率の履歴を加味して判定することにより、加振機100の故障判定、故障予知、および性能限界判定を含む、振動試験装置200の状態に関する判定の精度を高めることができる。
【0092】
[判定]
判定部134による判定の一例について説明する。
【0093】
[6自由度運動に基づく判定]
振動台48の6自由度運動のうち、例えば加振機100の加振方向に沿った加速度以外の加速度のいずれかが、あるレベルを超えて大きくなると、振動試験の精度に影響を及ぼすおそれがある。また、加振機100の故障の予兆として6自由度運動が生じている場合には、そのままメンテナンスを行わずに使用を続けることによって加振機100が故障するおそれがある。また、供試体Wの重心位置が加振機100の加振軸から外れている場合には、重心位置が外れた状態のまま強い加速度で加振することにより、加振機100が故障するおそれもある。
【0094】
このため、判定部134は、6自由度運動のうち、例えば加振機100の加振方向に沿った加速度以外の加速度のいずれかが、故障判定基準データ141、故障予知判定基準データ142、および性能限界判定基準データ143として記憶されている所定の閾値を越えた場合、加振機100に故障が発生している旨の判定、加振機100に故障が発生する確率が上昇している旨の判定、および、加振機100が性能限界に達している旨の判定のうち、少なくともいずれかの判定を行うようにしてもよい。また、故障に関する判定には、加振機100の故障部位の推測に関する判定を含めてもよい。
【0095】
また、加振機100の故障ではないが、供試体Wのセッティング上の問題として、供試体Wの重心位置が加振機100の加振軸から外れている可能性もあるため、振動台48に保持された供試体Wの重心位置が加振機100の加振軸から外れている旨の判定を含めてもよい。
【0096】
判定部134が、振動試験装置200に故障が発生している旨の判定を行った場合、駆動制御部120は、加振機100を停止させる制御を行ってもよい。
【0097】
[伝達率に基づく判定]
加振機100が正常である場合、加振方向(Z軸方向)以外の振動台48の加速度Bは小さいため、伝達率B/Iおよび伝達率B/Eは小さいが、加振機100の経年劣化が進行するなどにより加速度Bが増大して、伝達率B/Iおよび伝達率B/Eが増大する傾向がある。
【0098】
このため判定部134は、伝達率のうち、加振機100の加振方向に沿った加速度以外の加速度に基づいて算出される伝達率B/Iおよび伝達率B/Eのいずれかが、故障判定基準データ141、故障予知判定基準データ142、および性能限界判定基準データ143として記憶されている所定の閾値を越えた場合、加振機100に故障が発生している旨の判定、加振機100に故障が発生する確率が上昇している旨の判定、および、加振機100が性能限界に達している旨の判定のうち、少なくともいずれかの判定を行うようにしてもよい。また、故障に関する判定には、加振機100の故障部位の推測に関する判定を含めてもよい。
【0099】
また、加振機100の故障ではないが、供試体Wのセッティング上の問題として、供試体Wの重心位置が加振機100の加振軸から外れている可能性もあるため、振動台48に保持された供試体Wの重心位置が加振機100の加振軸から外れている旨の判定を含めてもよい。
【0100】
判定部134が、振動試験装置200に故障が発生している旨の判定を行った場合、駆動制御部120は、加振機100を停止させる制御を行ってもよい。
【0101】
一方、加振機100の加振方向における加速度と電流についての伝達率(A/I)、および加振方向における加速度と電圧についての伝達率(A/E)については、周波数、振幅、加速度、供試体Wの重量などによって変動する。また、加振方向における伝達率A/Iおよび伝達率A/Eには、供試体Wの重量が含まれていない。このため、例えば、加振機100によって加えようとする振動の周波数、振幅、および加速度に対して、供試体Wの重量が大きい場合には、加振方向における伝達率A/Iおよび伝達率A/Eが小さくなる傾向がある。
【0102】
このため判定部134は、加振機100の加振方向における伝達率A/Iおよび伝達率A/Eのいずれかが、故障判定基準データ141、故障予知判定基準データ142、および性能限界判定基準データ143として記憶されている所定の閾値を下回った場合、加振機100が性能限界に達している旨の判定を行うようにしてもよい。
【0103】
[判定結果の報知]
図7は、振動試験装置200の状態に関する判定結果を報知する表示画面の一例を示す図である。加振機100の故障判定、故障予知、および性能限界判定を含む、振動試験装置200の状態に関する自己診断には、現在の運転状態に基づく判定、運転状態の短期的な履歴に基づく判定、および運転状態の長期的な履歴に基づく判定が含まれている。
【0104】
図7aは、現在の運転状態に基づく判定結果の一例を示している。この表示画面に示された判定結果は、現在の運転状態に基づく判定結果である。表示画面には、リアルタイム定格チェックの結果、注意として「現在MAX加振力の70%以上」と表示され、加振機100の性能限界判定の判定結果が報知されている。
【0105】
図7bは、運転状態の短期的な履歴に基づく判定結果の一例を示している。この表示画面に示された判定結果は、現在実行中の振動試験の開始時点から現時点までの履歴に基づく短期的な判定結果である。表示画面には、警告として「加振開始時よりドライブ電流が増加しています。ドライブコイルの異常が疑われます」と表示され、加振機100の故障判定もしくは故障予知判定の判定結果、および加振機100の故障部位の推測に関する判定結果が報知されている。また対処として「本加振を即座に停止し点検を行って下さい」と表示され、オペレータに具体的な対応策を報知している。
【0106】
図7cは、運転状態の長期的な履歴に基づく判定結果の一例を示している。この表示画面に示された判定結果は、定期点検時点(点検実施日2020/04/15)における運転状態と、基準データ取得日(2020/02/15)における運転状態の履歴との比較に基づく長期的な判定結果である。表示画面には、警告として「基準値よりドライブ電流が増加しています。歪率が悪化しています。ドライブコイルの異常が疑われます」と表示され、加振機100の故障判定もしくは故障予知判定の判定結果、および加振機100の故障部位の推測に関する判定結果が報知されている。また対処として「装置を停止してIMVサービスに御連絡下さい」と表示され、オペレータに具体的な対応策を報知している。
【0107】
以上説明した本実施形態に係る振動試験装置200によれば、振動試験装置200の故障判定、故障予知、および性能限界判定を含む、振動試験装置200の状態に関する自己診断を精度良く行うことができる。
【0108】
[変形例]
今回開示した実施形態は、すべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、本発明の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0109】
本実施形態では、1軸方向に加振する加振機100を有する振動試験装置200について説明したが、2軸または3軸など、多軸の振動試験装置に本発明を適用してもよい。また、振動台48の構成は一例であって、他の構成の振動台であってもよい。
【符号の説明】
【0110】
200 振動試験装置
100 加振機
48 振動台
120 駆動制御部
134 判定部
135 3軸加速度センサ(運動検知部)
171 電流検知部
172 電圧検知部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7