(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】タップホルダ
(51)【国際特許分類】
B23G 1/46 20060101AFI20230412BHJP
B23Q 11/10 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
B23G1/46 H
B23G1/46 G
B23Q11/10 C
(21)【出願番号】P 2021199068
(22)【出願日】2021-12-08
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】591028072
【氏名又は名称】株式会社日研工作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】釘宮 弘英
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-078869(JP,A)
【文献】米国特許第05915892(US,A)
【文献】国際公開第2018/212107(WO,A1)
【文献】特開2012-091251(JP,A)
【文献】国際公開第2013/001624(WO,A1)
【文献】特開2018-024065(JP,A)
【文献】国際公開第2008/105043(WO,A1)
【文献】英国特許出願公開第02139535(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23G 1/46
B23B 31/08
B23B 31/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の主軸に取り付けられるタップホルダ本体と、
前記タップホルダ本体に、軸方向隙間および回転方向隙間をもって保持され、前記タップホルダ本体と一体回転するフロート軸と、
前記タップホルダ本体に固定され、前記フロート軸の軸方向の移動量を規定する係止部と、
タップを把持するものであり、前記フロート軸の軸方向先端に取り付けられるタップ保持部と、
前記タップホルダ本体に対する前記フロート軸の軸方向および回転方向の微小移動を吸収する微小移動吸収手段と
、
前記タップホルダ本体と前記フロート軸を一体回転させるために、前記タップホルダ本体と前記フロート軸との界面を通過して延びるドライブピンと、
前記タップホルダ本体に設けられ、前記ドライブピンと前記タップホルダ本体との回転方向の移動量を規定するピン受け入れ穴とを備え、
前記微小移動吸収手段と、前記ドライブピンおよび前記ピン受け入れ穴とは異なる位置に設けられており、
前記ドライブピンと前記ピン受け入れ穴との間には、回転方向隙間および軸方向隙間が設けられている、タップホルダ。
【請求項2】
前記微小移動吸収手段は、前記タップホルダ本体と前記フロート軸との界面を通過するように延び、軸方向および回転方向に弾性力を発揮する弾性体を含む、請求項1に記載のタップホルダ。
【請求項3】
前記弾性体は、前記タップホルダ本体の径方向に延びる軸線を有する円筒体である、請求項2に記載のタップホルダ。
【請求項4】
前記微小移動吸収手段は、周方向に等間隔に3か所設けられる、請求項1~3のいずれかに記載のタップホルダ。
【請求項5】
前記タップ保持部は、前記フロート軸に対して着脱自在に設けられる、請求項1~4のいずれかに記載のタップホルダ。
【請求項6】
前記フロート軸は、前記タップ保持部を受け入れる中心孔を有する把持部を含み、
前記中心孔に挿入される前記タップ保持部を、前記フロート軸に対して芯出しして把持する芯出し把持手段を備える、請求項1~
5のいずれかに記載のタップホルダ。
【請求項7】
前記フロート軸は、前記タップ保持部が前記フロート軸から抜けることを防止する抜け止め手段を備える、請求項
6に記載のタップホルダ。
【請求項8】
前記タップ保持部は、前記タップホルダの軸線と前記タップの軸線とを一致させるタップ芯出し手段を含む、請求項1~
7のいずれかに記載のタップホルダ。
【請求項9】
前記係止部は、前記タップホルダ本体に対する前記フロート軸の軸方向への微小移動をガイドするガイド部を含む、請求項1~
8のいずれかに記載のタップホルダ。
【請求項10】
前記係止部は、前記タップホルダ本体の中心孔に固定され、前記タップホルダ本体側から前記タップ保持部側へクーラントまたはエアを供給する流体通路を有するパイプである、請求項1~
9のいずれかに記載のタップホルダ。
【請求項11】
工作機械の主軸に取り付けられるタップホルダ本体と、
前記タップホルダ本体に、軸方向隙間および回転方向隙間をもって保持され、前記タップホルダ本体と一体回転するフロート軸と、
前記タップホルダ本体に固定され、前記フロート軸の軸方向の移動量を規定する係止部と、
タップを把持するものであり、前記フロート軸の軸方向先端に取り付けられるタップ保持部と、
前記タップホルダ本体に対する前記フロート軸の軸方向および回転方向の微小移動を吸収する微小移動吸収手段と、
前記微小移動吸収手段は、前記タップホルダ本体と前記フロート軸との界面を通過するように延び、軸方向および回転方向に弾性力を発揮する弾性体を含み、
前記弾性体は、前記タップホルダ本体の径方向に延びる軸線を有する円筒体である、タップホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械の主軸に取り付けられる工具ホルダに関し、特にタップを取り付け固定するためのタップホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、NC装置を用いて主軸の回転と軸送りを同期させる同期制御によりタップ加工を行うことが知られている。このような同期制御において、何らかの原因により工作機械の主軸の回転と軸送りとが同期せず、不一致になると、ネジ山の稜線が削れて雌ネジの口径が大きくなったり、ネジ山が痩せたりするなどの不都合が生じる。特に、工作機械の大型化や老朽化などにより、その不都合が顕著になる懸念があった。
【0003】
そこで、主軸の回転と軸送りとの同期誤差を吸収する技術としては、たとえば特開2012-91251号公報(特許文献1)および特開2008-12613号公報(特許文献2)に記載のタップホルダが知られている。
【0004】
特許文献1には、工具ホルダにチャッキングされるシャンク部材と、一端にタップを保持し、シャンク部材に対して前進および後退可能に取り付けられるタップホルダ本体とを備えたタップホルダが開示されている。このタップホルダは、シャンク部材とタップホルダ本体との軸方向の隙間において、軸線方向先端側に付勢する弾性部材と、軸線方向後端側に付勢する弾性部材が設けられていることにより、軸方向の誤差を吸収することができる。
【0005】
特許文献2には、一端にタップを保持するタップコレットと、このタップコレットを受け入れて回転不能に把持固定するタッパー本体とからなるタップホルダが開示されている。タッパー本体の透孔内には、弾性変形可能な樹脂製ボールがほとんど隙間のない状態で保持されている。樹脂製ボールは、タップコレットの凹溝内に突出し、凹溝に密着するよう押圧する。これにより、タップコレットは、タッパー本体と結合して、軸方向の移動が規制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-91251号公報
【文献】特開2008-12613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
タッピング動作時、回転動作と軸送り動作とが同時進行する。そのため、軸方向の誤差が生じていれば、回転方向の誤差も生じている。特許文献1のタップホルダは、シャンク部材とタップホルダ本体との軸方向の隙間に弾性部材が設けられているため、軸方向の同期誤差を吸収することができる。しかし、回転方向の同期誤差を吸収することはできない。
【0008】
また、特許文献2のタップホルダでは、タッパー本体の透孔内に樹脂製ボールが設けられているため、軸方向の微少量の移動を吸収することができるが、回転方向の同期誤差を吸収することはできない。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、軸方向の誤差だけでなく回転方向の誤差も吸収できるタップホルダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のため本発明の一態様に係るタップホルダは、工作機械の主軸に取り付けられるタップホルダ本体と、タップホルダ本体に、軸方向隙間および回転方向隙間をもって保持され、タップホルダ本体と一体回転するフロート軸と、タップホルダ本体に固定され、フロート軸の軸方向の移動量を規定する係止部と、タップを把持するものであり、フロート軸の軸方向先端に取り付けられるタップ保持部と、タップホルダ本体に対するフロート軸の軸方向および回転方向の微小移動を吸収する微小移動吸収手段とを備える。
【0011】
好ましくは、微小移動吸収手段は、タップホルダ本体とフロート軸との界面を通過するように延び、軸方向および回転方向に弾性力を発揮する弾性体を含む。
【0012】
好ましくは、弾性体は、タップホルダ本体の径方向に延びる軸線を有する円筒体である。
【0013】
好ましくは、微小移動吸収手段は、周方向に等間隔に3か所設けられる。
【0014】
好ましくは、タップ保持部は、フロート軸に対して着脱自在に設けられる。
【0015】
好ましくは、タップホルダ本体とフロート軸を一体回転させるために、タップホルダ本体とフロート軸との界面を通過して延びるドライブピンと、タップホルダ本体に設けられ、ドライブピンとタップホルダ本体との回転方向の移動量を規定するピン受け入れ穴とをさらに備える。
【0016】
好ましくは、フロート軸は、タップ保持部を受け入れる中心孔を有する把持部を含み、中心孔に挿入されるタップ保持部を、フロート軸に対して芯出しして把持する芯出し把持手段を備える。
【0017】
好ましくは、フロート軸は、タップ保持部がフロート軸から抜けることを防止する抜け止め手段を備える。
【0018】
好ましくは、タップ保持部は、タップホルダの軸線とタップの軸線とを一致させるタップ芯出し手段を含む。
【0019】
好ましくは、係止部は、タップホルダ本体に対するフロート軸の軸方向への微小移動をガイドするガイド部を含む。
【0020】
好ましくは、係止部は、タップホルダ本体の中心孔に固定され、タップホルダ本体側からタップ保持部側へクーラントまたはエアを供給する流体通路を有するパイプである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、軸方向の誤差だけでなく回転方向の誤差も吸収することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施の形態に係るタップホルダを示す側面図である。
【
図3】
図2のIII-III線に沿う断面図である。
【
図5】タップホルダ本体を取り出して示す図であり、(A)は断面図であり、(B)は
図5(A)の矢印Vから見た平面図である。
【
図6】フロート軸を取り出して示す図であり、(A)は断面図であり、(B)は
図6(A)の矢印VIIbから見た平面図であり、(C)は
図6(A)のVIIc-VIIc線に沿う断面図であり、(D)は
図6(A)のVIId-VIId線に沿う断面図である。
【
図12】タップホルダの変形例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態に係るタップホルダ1を示す側面図であり、
図2は、
図1の一部分を拡大した図である。
図1において、図中の略半分が側面、残りの略半分が断面である。
図1,
図2における矢印Tを軸方向先端側といい、矢印Tの逆向きを軸方向後端側という。また、
図3は、
図2のIII-III線に沿う断面図であり、
図4は、
図2のIV-IV線に沿う断面図である。
【0025】
特に
図1,
図2を参照して、本実施の形態に係るタップホルダ1は、NC装置を用いて主軸の回転と軸送りを同期させる同期制御によりタップ加工を行うものである。タップホルダ1は、ネジ立て用のタップ9を装着するためのものであり、工作機械の主軸に取り付けられる。タップホルダ1は、主な構成要素としてタップホルダ本体2と、係止部3としてのパイプと、フロート軸4と、タップ保持部6とを備える。
【0026】
まず、タップホルダ本体2について説明する。タップホルダ本体2は、工作機械の主軸に取り付けられ、タップホルダ1の後端側に位置するものである。タップホルダ本体2は、一点鎖線で表されるタップホルダ1の軸線に沿って延びる中心孔20を有する。
【0027】
図5は、タップホルダ本体2を取り出して示す図であり、(A)は断面図であり、(B)は
図5(A)の矢印Vから見た平面図である。
図5をさらに参照して、タップホルダ本体2は、工作機械側に位置する後端領域21と、後端領域21よりも軸方向先端側に位置する先端領域22とを含む。中心孔20のうち、後端領域21を軸方向に貫通する中心孔20aは、先端領域22を軸方向に貫通する中心孔20bよりも径方向寸法が小さく形成される。これにより、後端領域21と先端領域22との中心孔20の境界部には、段差部26が設けられる。
【0028】
後端領域21は、その外周面において、工作機械の主軸に着脱自在に装着されるシャンク部25が設けられる。先端領域22は、たとえば円筒形状であり、外周面から中心孔20bに向かって貫通する2つの貫通孔23,24が設けられる。なお、
図1,
図2に示すように、先端領域22の外周面上には、2つの貫通孔23,24を覆う筒状の覆い部27が設けられていてもよい。
【0029】
図2,
図4に示すように、2つの貫通孔のうち後端領域21側に形成される第1貫通孔23は、後述するドライブピン7が貫通するピン受け入れ穴である。第1貫通孔23は、その横断面形状がたとえば楕円状の長孔形状であり、軸方向の寸法が周方向の寸法よりも大きく形成される。具体的には、第1貫通孔23とドライブピン7との間には、軸方向隙間G3,G3および回転方向隙間G4,G4が設けられる。軸方向隙間G3は、回転方向隙間G4よりも大きくてもよい。第1貫通孔23およびドライブピン7については、後述する。
【0030】
2つの貫通孔のうちタップ保持部6側に形成される第2貫通孔24は、後述する弾性体8が貫通する弾性体受け入れ穴である。第2貫通孔24の横断面形状は、たとえば円形状である。第2貫通孔24と弾性体8とは、密接して設けられることが好ましい。弾性体8については、後述する。
【0031】
図3に示すように、第1貫通孔23および第2貫通孔24は、周方向に等間隔に3か所設けられることが好ましい。さらに、加工上の観点から、第1貫通孔23および第2貫通孔24は、軸方向に重なって設けられることが好ましい。
【0032】
図1,
図2に示すように、タップホルダ本体2の中心孔20には、タップホルダ1の軸線に沿って延びる係止部3が固定される。具体的には、係止部3は、タップホルダ本体2側からタップ保持部6側へクーラントまたはエアを供給する流体通路を有するパイプである。パイプ3の中心孔30は、タップホルダ本体2の中心孔20と同様に、一点鎖線で表されるタップホルダ1の軸線に沿って延びる。
【0033】
本実施の形態のパイプ3は、径方向に延びるロックボルト35によりタップホルダ本体2に固定されているが、タップホルダ本体2と係止部3は一体的に形成されていてもよい。パイプ3は、タップホルダ本体2の中心孔20に取り付けられたシールリング31,32によって密封されている。パイプ3は、その軸方向途中位置において、外径側に張り出した外向きフランジ部33が設けられている。外向きフランジ部33とタップホルダ本体2の段差部26との間には、後述するフロート軸4の内向きフランジ部45が配置される。フロート軸4の内向きフランジ部45の軸方向寸法は、タップホルダ本体2の段差部26とパイプ3の外向きフランジ部33との間の軸方向寸法よりも小さく設けられる。これにより、パイプ3は、フロート軸4の軸方向隙間G1,G2を規定する。軸方向隙間G1,G2については後述する。
【0034】
パイプ3の外周面は、外向きフランジ部33の軸方向後端側において、フロート軸4の内向きフランジ部45と当接する当接面34が設けられる。この当接面34は、タップホルダ本体2に対するフロート軸4の軸方向への微小移動をガイドするガイド部として機能する。
【0035】
次に、フロート軸4について説明する。
図6は、フロート軸を取り出して示す図であり、(A)は断面図であり、(B)は
図6(A)の矢印VIIbから見た平面図であり、(C)は
図6(A)のVIIc-VIIc線に沿う断面図であり、(D)は
図6(A)のVIId-VIId線に沿う断面図である。
図1,
図2,
図6を参照して、フロート軸4は、タップホルダ本体2の先端領域22に取り付けられ、タップホルダ1の先端側に位置する。タップホルダ本体2は、一点鎖線で表されるタップホルダ1の軸線に沿って延びる中心孔40を有する。
【0036】
フロート軸4は、タップホルダ本体2の先端領域22に受け入れられて保持される後端領域41と、後端領域41よりも軸方向先端側に設けられる先端領域42とを含む。中心孔40のうち、後端領域41の後端側を軸方向に貫通する中心孔40aは、先端領域42を軸方向に貫通する中心孔40bよりも径方向寸法が小さく形成される。これにより、フロート軸4の後端領域41から中心孔40a,40bの境界部までの領域に、内径側に張り出した内向きフランジ部45が設けられる。後端領域41には、2つの穴部43,44が設けられる。これらの穴部43,44は、タップホルダ本体2に形成される第1,2貫通孔23,24とは異なり、止まり穴であることが好ましい。
【0037】
2つの穴部のうちタップホルダ本体2側に形成される第1穴部43は、フロート軸4がタップホルダ本体2に保持された状態で、タップホルダ本体2の第1貫通孔23と径方向に連通している。第1穴部43は、後述するドライブピン7が固定される穴である。ドライブピン7は、
図7に示されている。ドライブピン7は、第1穴部43に打ち込まれて、その下端部と第1穴部43が圧接固定される。さらに、ドライブピン7の上端部は、タップホルダ本体2の第1貫通孔23を貫通する。つまり、ドライブピン7は、タップホルダ本体2とフロート軸4との界面を通過して延びる。これにより、タップホルダ本体2とフロート軸4は、一体回転する。
【0038】
図4に示すように、タップホルダ本体2の第1貫通孔23の回転方向寸法は、ドライブピン7の直径よりも隙間G4,G4だけ大きいことが好ましい。これにより、第1貫通孔23は、ドライブピン7とタップホルダ本体2との回転方向隙間を規定する。さらに、第1貫通孔23の軸方向寸法は、第1穴部43の直径よりも隙間G3,G3だけ大きいことが好ましい。これにより、第1貫通孔23は、ドライブピン7とタップホルダ本体2との軸方向隙間を規定する。また、軸方向寸法の隙間G3,G3は、上述した隙間G1,G2よりも大きい。隙間G1,G2,G3は、フロート軸4の軸方向の移動量であり、隙間G4は、フロート軸4の回転方向の移動量である。ドライブピン7は、上述した第1貫通孔23と第1穴部43に挿入されるため、周方向に等間隔に3か所設けられる。
【0039】
上述のように、フロート軸4の後端領域41には、内径側に張り出した内向きフランジ部45が設けられている。
図2に示すように、この内向きフランジ部45は、タップホルダ本体2の段差部26とパイプ3の外向きフランジ部33との間に挟まれている。タップホルダ本体2の段差部26とフロート軸4の後端領域41の軸方向後端部との間には、軸方向隙間G1が設けられる。さらに、フロート軸4の内向きフランジ部45とパイプ3の外向きフランジ部33との間には軸方向隙間G2が設けられる。この軸方向隙間G1,G2により、軸方向誤差の吸収を行うことができる。このように、フロート軸4は、タップホルダ本体2に、軸方向隙間および回転方向隙間をもって保持される。
【0040】
図1,
図2,
図6に示すように、2つの穴部のうち軸方向先端側に形成される第2穴部44は、フロート軸4がタップホルダ本体2に保持された状態で、上述したタップホルダ本体2の第2貫通孔24と径方向に連通している。第2穴部44は、後述する微小移動吸収手段8が篏合する穴である。第2貫通孔24の直径は、第2穴部44の直径と略同一であることが好ましい。
【0041】
微小移動吸収手段8は、タップホルダ本体2に対するフロート軸4の軸方向および回転方向の微小移動を吸収する。具体的には、微小移動吸収手段8は、軸方向および回転方向に弾性力を発揮する弾性体である。弾性体8は、タップホルダ本体の径方向に延びる軸線を有する円筒体であることが好ましい。弾性体8の材質は、たとえばゴムまたは合成樹脂などであるが、軸方向および回転方向への圧縮弾性力を有するものであればよい。
【0042】
図8は、弾性体8を取り出して示す斜視図である。
図8に示すように、弾性体8は、本体部80と、本体部80の略中央に延びる筒穴部81とを含む。筒穴部81は、中心孔40に対して径方向に直交する方向に延びている。
図1~
図3に示すように、弾性体8は、タップホルダ本体2とフロート軸4との界面を通過するように延びる。つまり、弾性体8は、タップホルダ本体2の第2貫通孔24とフロート軸4の第2穴部44とを径方向に延在する。弾性体8は、上述した第2貫通孔24と第2穴部44に挿入されるため、周方向に等間隔に3か所設けられる。
【0043】
図9は、芯出し把持手段および抜け止め手段を拡大して示す断面図である。
図2,
図9に示すように、フロート軸4の先端領域42には、タップ保持部6をフロート軸4に締結固定する芯出し把持手段および抜け止め手段が設けられる。先端領域42は、タップ保持部6を受け入れる中心孔40bを有する。先端領域42は、タップ保持部6を把持する把持部として機能する。
【0044】
特に
図6(A)に示すように、フロート軸4の把持部42は、軸方向後端側に形成される雄ネジ部47と、軸方向先端に向かうにつれ先細りとなるテーパー外面46と、雄ネジ部47とテーパー外面46との間に設けられる第3貫通孔48とを含む。
図6(C)に示すように、把持部42には、軸方向先端側が開口し、軸方向後端側が閉じているすり割り49が設けられる。すり割り49は、周方向に等間隔に3つ設けられることが好ましい。また、
図6(D)に示すように、第3貫通孔48は、周方向に等間隔に3つ設けられることが好ましい。3つの第3貫通孔48には、球体51(
図9)がそれぞれ配置される。
【0045】
このフロート軸4の把持部42に対し、クランプナット50が取り付けられている。具体的には、クランプナット50は、筒状部材であり、その内周面において、把持部42の雄ネジ部47に螺合する雌ネジ部57と、軸方向先端にいくほど先細りとなり、把持部42のテーパー外面46に当接するテーパー内面56と、球体51を径方向内側に押し出す球体押出部58とを含む。
【0046】
芯出し把持手段は、タップ保持部6をフロート軸4に対して芯出しして把持するものである。芯出し把持手段の動きは、以下の通りである。クランプナット50を回転させて、雌ネジ部57をフロート軸4の雄ネジ部47に螺合させていく。その結果、すり割り49の周方向の幅が狭くなっていくので、把持部42が徐々に縮径する。タップ保持部6は、全周に亘ってクランプナット50に締め付けられ、把持部42に把持される。これにより、タップ保持部6を着脱自在に把持することができるとともに、タップ保持部6の芯出しを容易に行うことができる。
【0047】
次に、タップ保持部6について説明する。
図10は、タップ保持部6を取り出して示す図である。
図10のタップ保持部6は、タップ9を把持するものであり、いわゆるテーパコレット方式が採用されている。タップ保持部6は、一点鎖線で表されるタップホルダ1の軸線に沿って延びる中心孔60を有する。中心孔60には、タップ9が保持されている。
図1,
図2,
図10に示すように、タップ保持部6は、フロート軸4の軸方向先端に着脱自在に取り付けられる。
【0048】
図9および
図10に示すように、タップ保持部6は、フロート軸4の中心孔40bに挿入される取付部61と、タップ9を保持する保持部62とを含む。取付部61は、その外周面において、上述する球体51が係合する凹部61aが形成される。凹部61aは、断面視半球状であることが好ましい。凹部61aは、全周に亘って延びる溝であってもよいし、周方向等間隔に設けられる窪みであってもよい。
図9に示すように、凹部61aは、タップ保持部6がフロート軸4に取り付けられた場合に、第3貫通孔48と径方向に隣り合う位置に形成される。これにより、球体51は、タップ保持部6の凹部61aと第3貫通孔48との間に位置する。
【0049】
抜け止め手段は、タップ保持部6がフロート軸4から抜けることを防止する。抜け止め手段の動きは、以下の通りである。クランプナット50を回転させて雌ネジ部57をフロート軸4の雄ネジ部47に螺合させていく。その結果、クランプナット50の球体押出部58が球体51を凹部61aに向けて押し出し、球体51と凹部61aとが係合する。これにより、タップ保持部6の抜けおよび回転が規制される。
【0050】
保持部62は、保持部本体63と、保持部本体63の軸方向先端側に設けられるコレット65と、保持部本体63およびコレット65の外周側および軸方向先端側に取り付けられるナット67とを有する。保持部本体63の軸方向先端側には、雄ネジ部64が設けられる。コレット65の軸方向先端側には、軸方向先端に向かうにつれ先細りとなるテーパー外面66が設けられる。コレット65には、軸方向先端側が開口し、軸方向後端側が閉じているすり割り(図示せず)が複数設けられる。ナット67は、筒状部材であり、その内周面において、保持部本体63の雄ネジ部64に螺合する雌ネジ部68と、軸方向先端にいくほど先細りとなり、コレット65のテーパー外面66に当接するテーパー内面69とを有する。
【0051】
タップ保持部6は、タップホルダ1の軸線とタップ9の軸線とを一致させるタップ芯出し手段を含む。タップ芯出し手段の動きは、以下の通りである。ナット67を回転させて雌ネジ部68を保持部本体63の雄ネジ部64に螺合させていく。ナット67のテーパー内面69がコレット65のテーパー外面66にテーパー篏合する。その結果、すり割りの周方向の幅が狭くなっていくので、コレット65が徐々に縮径する。タップ保持部6は、全周に亘ってナット67に締め付けられ、コレット65に把持される。これにより、タップ9の芯出しを容易に行うことができる。
【0052】
図11には、
図10の変形例のタップ保持部6Aが示されている。
図11に示すタップ保持部6Aは、取付部61の形状が
図10のタップ保持部6と略同一であるが、タップ9を保持する保持部62Aの形状は、
図10のタップ保持部6とは異なっている。本実施の形態のタップホルダ1は、芯出し把持手段および抜け止め手段によりタップ保持部6を保持するため、複数の種類のタップ保持部6,6Aを選択的に使用することができる。なお、タップ保持部6におけるタップ9のタップ芯出し手段として、テーパコレット方式が採用されたが、タップ保持部6の熱収縮および熱膨張を利用してタップ9を保持する焼嵌め方式など種々が採用されてもよい。
【0053】
次に、本実施の形態に係るタップホルダ1の動作について説明する。
【0054】
本実施の形態に係るタップホルダ1は、主軸に取り付けられて、タップ9のピッチに合わせて回転および軸送りを同期する。しかしながら、工作機械の大型化や老朽化などにより、同期が崩れ、軸送りに対して主軸の回転が追従できなくなり、主軸の回転と軸送りとがわずかにずれる場合がある。
【0055】
本実施の形態のタップホルダ1は、タップホルダ本体2とフロート軸4の間には軸方向隙間G1が設けられ、フロート軸4と係止部3の間には軸方向隙間G2が設けられている。そのため、タップホルダ本体2の軸方向先端方向(T)またはその逆の方向への微小変位を許容することができる。この微小変位により、弾性体8は軸方向に変形し、さらにその弾性復元力によりフロート軸4を軸方向の元の位置に戻すことができる。これにより、タップ9は自身のピッチに合うように微小前進または微小後進するため、軸方向の微小誤差を吸収して同期させることができる。
【0056】
また、フロート軸4には、軸送りの誤差とともに回転方向の誤差も生じる。本実施の形態のタップホルダ1は、タップホルダ本体2の第1貫通孔23とフロート軸4に固定されているドライブピン7との間には、回転方向隙間G4,G4が設けられている。そのため、タップホルダ本体2の回転方向への微小変位を許容することができる。この微小変位により、弾性体8は回転方向に変形し、さらにその弾性復元力によりフロート軸4を回転方向の元の位置に戻すことができる。これにより、タップ9は自身のピッチに合うように微小回転するため、回転方向の微小誤差を吸収して同期させることができる。
【0057】
このように、本実施の形態に係るタップホルダ1は、タップホルダ本体2とフロート軸4との間に微小移動吸収手段が設けられているため、タップホルダ本体2に対するフロート軸4の軸方向および回転方向の微小移動を吸収し、元の位置に戻すことができる。これにより、精度の高いタップ加工が可能となる。また、フロート軸4が軸方向および回転方向に微小変位しても、弾性体8はドライブピン7と第1貫通孔23の壁面とが当接するまでしか圧縮しない。つまり、ドライブピン7は、弾性体8の回転方向の圧縮および軸方向の圧縮を制限する機械的ストッパーとなる。これにより、ドライブピン7が弾性体8の大きな弾性変形を制限するため、弾性体8の劣化を抑制することができ、耐久性を向上させることができる。
【0058】
さらに、本実施の形態の弾性体8は、タップホルダ本体2の径方向に延びる軸線を有する円筒体であるため、変形量を大きくすることができ、大型化した工作機械においても、主軸の回転と軸送りの誤差による軸方向誤差および回転方向誤差を確実に吸収し、元の位置に戻すことができる。
【0059】
また、上述した芯出し把持手段、タップ保持部6のタップ芯出し手段、および係止部3のガイド部34が設けられることで、タップ9の軸芯をタップホルダ1の軸芯に一致させることができ、振れ精度を向上させることができる。
【0060】
なお、本実施の形態のタップホルダ1は、ドライブピン7および微小移動吸収手段(弾性体8)を共に設ける構成を示したが、
図12に示すタップホルダ1Bのように、微小移動吸収手段(弾性体8)だけが単独で設けられていてもよい。また、本実施の形態のタップホルダ1は、ドライブピン7と微小移動吸収手段(弾性体8)とが異なる位置に設けられたが、同じ位置に設けられていてもよい。
【0061】
また、本実施の形態の微小移動吸収手段は、タップホルダ本体2とフロート軸4との界面を通過するように延びているが、それらの界面を通過するように延びていなくてもよく、たとえば、微小移動吸収手段がドライブピン7と第1貫通孔23との間の隙間に設けられていてもよい。
【0062】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、工作機械において有利に利用される。
【符号の説明】
【0064】
1 タップホルダ、2 タップホルダ本体、3 係止部(パイプ)、4 フロート軸、6,6A タップ保持部、7 ドライブピン、8 微小移動吸収手段(弾性体)、9 タップ、20 中心孔、23 ピン受け入れ穴(第1貫通孔)、34 ガイド部(当接面)42 先端領域(把持部)、46 テーパー外面、48 第3貫通孔、50 クランプナット、51 球体、56 テーパー内面、61,61A タップ保持部、G1,G2,G3 軸方向隙間、G4 回転方向隙間。
【要約】
【課題】軸方向の誤差だけでなく回転方向の誤差も吸収できるタップホルダを提供すること。
【解決手段】タップホルダ(1)は、工作機械の主軸に取り付けられるタップホルダ本体(2)と、タップホルダ本体に、軸方向隙間および回転方向隙間をもって保持されるフロート軸(4)と、タップホルダ本体に固定され、フロート軸の軸方向隙間を規定する係止部(3)と、タップを把持するものであり、フロート軸の軸方向先端に取り付けられタップ保持部(6)と、タップホルダ本体に対するフロート軸の軸方向および回転方向の微小移動を吸収する微小移動吸収手段(8)とを備える。
【選択図】
図2