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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】電気制御車両
(51)【国際特許分類】
   A61H 3/04 20060101AFI20230412BHJP
   B62B 3/00 20060101ALN20230412BHJP
【FI】
A61H3/04
B62B3/00 G
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021567530
(86)(22)【出願日】2020-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2020048149
(87)【国際公開番号】W WO2021132324
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-01-07
(31)【優先権主張番号】P 2019235275
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 浩明
【審査官】佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/013534(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/04
B62B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に設けられた車輪に制動力を付与するブレーキと、
前記車体の速度を取得する速度取得部と、
前記車体の加速度を取得する加速度取得部と、
前記加速度取得部で取得された加速度が閾値以上となったときに前記ブレーキを電気的に制御して制動力を強めるブレーキ制御部と、
前記速度取得部で取得された速度に応じて前記閾値を変更する閾値変更部とを備える
使用者によって入力された力を主動力源として車輪を回転させ駆動する電気制御車両。
【請求項2】
前記閾値変更部は、前記速度取得部で取得された速度が小さいときには前記閾値を相対的に高める請求項1に記載の電気制御車両。
【請求項3】
前記閾値変更部は、前記速度取得部で取得された速度が大きいときには前記閾値を相対的に低める請求項1又は2に記載の電気制御車両。
【請求項4】
車体に設けられた車輪に制動力を付与するブレーキと、
前記車体の速度を取得する速度取得部と、
前記車体の加速度を取得する加速度取得部と、
前記車体の加加速度を取得する加加速度取得部と、
前記ブレーキを電気的に制御し前記加加速度取得部が取得した加加速度が所定の閾値以下であり、かつ前記加速度取得部で取得された加速度が所定の閾値以上となったときに制動力を強めるブレーキ制御部と、
前記速度取得部が取得した速度に応じて前記加速度に関する閾値を変更する閾値変更部とを備える
使用者によって入力された力を主動力源として車輪を回転させ駆動する電気制御車両。
【請求項5】
車体に設けられた車輪に制動力を付与するブレーキと、
前記車体の速度を取得する速度取得部と、
前記車体の加速度を取得する加速度取得部と、
前記ブレーキを電気的に制御し前記加速度取得部で取得された加速度が所定の閾値以上となったときに制動力を強め、前記速度取得部で取得された速度が所定の閾値以下になったときに制動力を弱めるブレーキ制御部と、
前記速度取得部で取得した速度に応じて前記加速度に関する閾値を変更する閾値変更部とを備える
使用者によって入力された力を主動力源として車輪を回転させ駆動する電気制御車両。
【請求項6】
前記ブレーキ制御部は、前記速度取得部で取得された速度が所定の期間以上、前記閾値以下になったときに前記ブレーキに付与している制動力を弱める請求項に記載の電気制御車両。
【請求項7】
前記閾値変更部は、前記速度取得部で取得された速度に応じて前記所定の期間を変更する請求項に記載の電気制御車両。
【請求項8】
前記ブレーキ制御部は、前記速度取得部で取得された速度が前記速度に関する閾値以下になったときに徐々にブレーキ力を低下させて前記ブレーキの制動力を弱める、請求項4又は5に記載の電気制御車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気制御車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、老人や脚力の弱い人の歩行を補助するための電気制御車両が知られている(例えば特許文献1)。電気制御車両は、歩行時に歩行者(使用者)と一体となって使用される。一部の電気制御車両は、使用者が転倒しそうになったときにモータのトルクブレーキを利用して電気制御車両を停止させ使用者の転倒を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-187485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
使用者の転倒を検出する手段の一例として、測距センサにより使用者と電気制御車両との距離を経時的にモニタリングし使用者と電気制御車両との距離が一定以上になったときに転倒が発生したと判断してブレーキを作動させる技術がある。しかしながら使用者と電気制御車両との間の距離を測定しただけでは、例えばコートやネクタイなどの衣服が測距センサを遮ったり、使用者の身体が転倒以外の理由で測距センサの検出領域から外れたり、測距センサが濡れたり汚れたりしたときにブレーキを作動させてしまう可能性があった。従って、使用者の転倒を検出する技術には未だ改善の余地が残されている。
【0005】
本発明は新たな解決手段により使用者の転倒を検出し安全性を高められる電気制御車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、加速度センサと、ブレーキと、加速度センサで検出された加速度が閾値以上となったときにブレーキを電気的に制御して制動力を強めるブレーキ制御部と、速度に応じて閾値を変更する閾値変更部とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施の形態による歩行車の斜視図である。
図2】同歩行車の側面図である。
図3】同歩行車の制御系統のブロック図である。
図4】転倒ブレーキの閾値と速度との関係を示すグラフである。
図5】使用者が転倒しそうになったときの加速度の時間毎の変化を示すグラフである。
図6】転倒ブレーキ作動時の制動力と時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態による電気制御車両ついて説明する。以下の説明では、同一の構成には同一の符号を付し、それらについての繰り返しの説明は省略する。以下の実施形態では電気制御車両として、例えば高齢者の歩行を補助する歩行車を例示する。しかしながら電気制御車両としては、少なくとも電力によりブレーキを制御するあらゆる車両を採用できる。電気制御車両は、使用者が押す等して車両に入力された力を主動力源として車輪を回転させ駆動する。このような電気制御車両の一例としては歩行車の他に車椅子、ベビーカー、荷を搬送するための台車などがある。
【0009】
以下の説明を明確化するために、まずは以下の説明で用いられる用語の意味を説明する。本明細書においてブレーキとは、機械的ブレーキと電気的ブレーキの二種類のブレーキを含む。機械的ブレーキとは、車輪又は車軸に対して使用者の意図的操作によりブレーキシュー等の摩擦要素を接触させて摩擦要素の制動力により車輪の回転数を低下させるブレーキをいう。電気的ブレーキとは、使用者の意図的操作によらず電気的な制御により車輪の回転で生じる運動エネルギーを回収することで制動力により車輪の回転数を低下させるブレーキである。また電気的ブレーキは、モータを通常の駆動方向とは逆方向に回転駆動させて車輪の回転数を低下させるブレーキも含む。また本明細書において電気制御車両とは、少なくとも電気的ブレーキを備える車両を意味する。したがって、車両全体において電気で制御される要素が電気的ブレーキのみであっても電気制御車両に含まれる。また本明細書において方向を示す用語として、前方向及び後方向を用いることがある。前方向とは、車両の通常の使用状態において車両を前進させる方向を意味し、後方向とは車両の通常の使用状態において車両を前進させる方向を意味する。また本明細書において車両の姿勢を示す用語として「ピッチ角度」、「ロール角度」、及び「ヨー角度」を用いることがある。ピッチ角度とは、車幅方向に延びる軸(ピッチ軸)周りにおける角度を意味する。ロール角度とは、車両の前後方向に延びる軸(ロール軸)周りにおける角度を意味する。ヨー角度とは、車両の上下方向に延びる軸(ヨー軸)周りにおける角度を意味する。また、ピッチング、ローリング、及びヨーイングとは、それぞれの対応する軸周りにおける回転運動を意味する。また路面の傾斜角度とは、車両の走行面の傾斜角度を意味する。路面の傾斜角度は、実質的には車両の傾斜角度と同一であると推定され、ピッチ軸若しくはロール軸周りの角度、又はピッチ軸及びロール軸周りの角度の組み合わせによって示される。
【0010】
図1は、本発明の一実施の形態による歩行車の斜視図である。図2は、図1の歩行車100の側面図である。図1及び図2に示すように、歩行車100は、本体フレーム11と、本体フレーム11に設けられた一対の前輪12及び一対の後輪13と、本体フレーム11に設けられた支持パッド(身体支持部)14とを備えている。歩行車100は、老人や脚力の弱い人の歩行を補助する。使用者は、歩行車100の使用時に支持パッド14に前腕や肘を載せて、支持パッド14に体重(荷重)をかけた状態で、ハンドルバー15とブレーキレバー16とをつかみながらハンドルバー15を押して使用者が歩行車100に力を付与し歩行動作を行う。従ってハンドルバー15が使用者からの力を受ける受け部となり、歩行車100は受け部で受けた力で移動する。
【0011】
本体フレーム11は、歩行車100の設置面に垂直な方向から所定の角度だけ傾斜する一対の支持フレーム21を備えている。支持フレーム21は、一例としてパイプ状部材により構成される。支持フレーム21の下端側には、一対の下段フレーム51が水平に配設されている。下段フレーム51の前端側には、一対の前輪12が取り付けられている。下段フレーム51の後端側には、一対のリンク機構55が設けられている。
【0012】
一対の下段フレーム51の上方には、一対の上段フレーム54が設けられている。上段フレーム54の後端側には、一対の後輪フレーム57の一端側が軸56を介して回動可能に結合されている。後輪フレーム57の他端側には、一対の後輪13がそれぞれ設けられている。
【0013】
一対の支持フレーム21の上端部には、それぞれ一対のハンドル24が設けられている。一対のハンドル24は、歩行車100の設置面に対して概ね水平に設けられる。一対のハンドル24は、一例としてパイプ状部材により構成される。一対のハンドル24には、着座時に使用者が姿勢を安定させるためにつかまるグリップ部23(図2参照)がそれぞれ設けられている。また、一対のハンドル24の前方側には、ハンドル24と一体なパイプ状のハンドルバー15が形成されている。ハンドルバー15の一端は一対のハンドル24のうちの一方のハンドル24に結合され、ハンドルバー15の他端は他方のハンドル24に結合されている。なお、ハンドルバー15が、ハンドル24とは別部材により構成されてもよい。
【0014】
一対の後輪13の外周には、一対のブレーキシュー25(図1において省略、図2参照)が設けられている。ブレーキシュー25は、本体フレーム11内に配設されたブレーキワイヤー(図示せず)の一端に接続される。ワイヤーの他端は、ハンドルバー15の両側に設けられた一対のブレーキユニット61のワイヤー接続機構に連結される。なお、ワイヤーは本体フレーム11内に格納されているが、ワイヤーを本体フレームの外側に配設して、外観上、使用者から見えるような構成にしてもよい。
【0015】
ハンドルバー15の前下方向には、ハンドルバー15に対向するようにブレーキレバー16が配置されている。ブレーキレバー16の両端部はそれぞれ、一対のブレーキユニット61に連結されている。ブレーキレバー16の両端部は、巻きばね等の付勢手段を介してブレーキユニット61に取り付けられている。使用者は、ブレーキレバー16を手前に(図2の矢印R1の方向に)引くことで、ワイヤアクションにより、機械的ブレーキをかけることができる。すなわち、ブレーキレバー16の操作によりブレーキシュー25を制御できる。
【0016】
使用時には使用者は、ブレーキレバー16を手前側に(ハンドルバー15に近づける方向に)ブレーキ作動位置まで引く。ブレーキレバー16と連結されたワイヤーのアクションによって、ブレーキシュー25が移動してブレーキシュー25が後輪13の外周を押圧する。これによって、機械的なブレーキが行われる。使用者がブレーキレバー16から手を離すと、ブレーキレバー16は元の位置(通常位置)に戻る。これに伴って、ブレーキシュー25も後輪13から離れ機械的なブレーキが解除される。また、ブレーキレバー16は矢印R1の反対方向(下側)に降ろすことができるようになっている。ブレーキレバー16をパーキング位置まで降ろすことで、ワイヤアクションを介してブレーキシュー25で後輪13を押圧した状態を維持するパーキングブレーキがかけられる。
【0017】
一対のハンドル24の上方に、一対のハンドル24にまたがるようにして、上述した支持パッド14が搭載されている。支持パッド14は、使用者の身体の一部を支持する身体支持部の一形態である。本実施の形態では、使用者の前腕または肘またはこれらの両方を支持する使用形態を想定する。ただし、あご、手、または胸など、別の部位を支持する使用形態も可能である。
【0018】
ハンドル24と支持パッド14との間には、使用者により歩行車100が歩行に使用されているかを検出するための検出機構71(図2参照)が設けられている。具体的には、検出機構71は、支持パッド14に使用者から荷重(体重)がかけられているか、又は使用者が支持パッド14に接触しているかを検出する。
【0019】
支持パッド14の形状は、一例として馬蹄状であるが、これに限定されず、他の任意の形状でもよい。支持パッド14は、一例として、スポンジまたはゴム製素材のようなクッション材を、木板または樹脂板などの板材の上に置き、樹脂性や布製の任意の被覆材で被覆したものとして構成される。ただし、この構成に限定されず、他の任意の構成でもよい。
【0020】
支持パッド14の下面の左右両側には、一対のアーム部材26の一端側が固定されている。アーム部材26の他端側は、一対のハンドルバー15の外側にそれぞれ回動可能に取り付けられている。使用者は、支持パッド14を上方に押し上げる(跳ね上げる)ことで、支持パッド14が図2の矢印R2の方向に回動し、所定位置(退避位置)で固定される(図2の仮想線参照)。シート部37上には、使用者の上半身を収容する空間が確保される。この状態で使用者は、一対のグリップ部23を両手でつかみながら支持パッド14を背中側にしてシート部37に着座できる。グリップ部23をつかむことで、使用者は、着座の際に自身の姿勢を安定させられる。このように、支持パッド14は、押し上げられる前の位置(通常位置)において歩行車のシート部37に使用者が着座することを阻害し、押し上げられた後の位置(退避位置)において、シート部37に使用者が着座することを許容する。
【0021】
ここでは、使用者が手動で支持パッド14を押し上げる構成を示したが、別の例として、図示しないロック機構を設け、ロック機構により固定を解除することで、自動的に支持パッド14が押し上げられる構成でもよい。または、アーム部材26を回動させる電動機構(モータ等)を設け、電動機構をスイッチ起動により作動させることで、支持パッド14を押し上げる構成でもよい。
【0022】
一対の上段フレーム54の間には、収容部27(図2参照)が吊り下げられるように設けられている。収容部27は、上方が開口した袋形状を有し、内部に荷を収容できる。収容部27は、樹脂性でもよく、布製であってもよい。収容部27の蓋部として、上述した着座用のシート部37が設けられている。
【0023】
収容部27の後ろ側に、一対の上段フレーム54から下方向に延在したレバー28が設けられている。レバー28は、使用者がレバー28を脚で踏みつけることが可能な位置に配設されている。使用者がレバー28を下げることで一対の後輪フレーム57および一対の後輪13が、一対の前輪12に近づくようにリンク機構55が折り畳まれる。その結果、歩行車100を折畳める。
【0024】
図3は、制御系統のブロック図である。歩行車100は制御部101と、センサ群103と、モータ105と、バッテリ107とを備える。歩行車100は、センサ群103で検知された各種情報を制御部101に供給する。制御部101は、センサ群103から供給された情報を処理しモータ105を制御する。制御部101、モータ105、センサ群103、及びバッテリ107は、1つの筐体内に収容され、制御対象となる後輪13と一体的に設けられてもよい。この場合、一対の後輪13の各々に制御部101、モータ105、センサ群103、及びバッテリ107を収容した筐体を取り付けてもよい。また、センサ群103のうち後輪13の回転数を検出するセンサ及びモータ105を一対の後輪13の各々に対応させて配置し、それ以外の制御部101とバッテリ107を収容部27内に収容してもよい。また、一対の後輪13の各々に制御部101、バッテリ107、後輪13の回転数を検出するセンサ、及び傾斜角を検出するセンサを収容した筐体を取り付けてもよい。
【0025】
〔モータ〕
モータ105は、後輪13の車軸と接続されており制御部101による制御のもと後輪13の回転数を制御する。より具体的にはモータ105は、制動力を発生させて後輪13の回転数を抑制する電気式ブレーキとして機能する。モータ105は、後輪13の回転により生じた運動エネルギーにより回転する。モータ105が回転することで運動エネルギーが回収されモータ105による後輪13の制動力を高め、これにより後輪13の回転数を低下させる。モータ105が回収した運動エネルギーはバッテリ107に蓄えられる。したがってモータ105は、回生ブレーキ又は発電ブレーキとして機能する。なお、バッテリ107が外部電源を用いて充電可能な場合には、モータ105によってバッテリ107を充電する必要はなく、電気式ブレーキとして渦電流ブレーキや電磁式リターダのような運動エネルギーを回収して消費するブレーキを用いてもよい。回生ブレーキとして用いられるモータ105としては、サーボモータ、ステッピングモータ、ACモータ、DCモータ等がある。また例えば歩行車100がアシスト機能を備えている場合、モータ105は歩行車100を前進させる方向とは逆方向に回転して後輪13の回転数を低下させる逆転ブレーキを発生させてもよい。
【0026】
〔バッテリ〕
バッテリ107は、制御部101に電気的に接続され制御部101が駆動するための電力を供給する。また、バッテリ107をセンサ群103の各センサと電気的に接続しセンサ群103を駆動するための電力を供給してもよい。バッテリ107としてはリチウムイオン電池のような二次電池又はキャパシタ(コンデンサ)を用いることができる。バッテリ107は、外部電源を用いて充電可能なものであってもよいし、モータ105で回収した電気エネルギーのみによって充電されるものであってもよい。
【0027】
〔センサ群〕
センサ群103は、単数又は複数のセンサを備え各センサの検出結果を制御部101に送信する。センサ群103は、ピッチ軸、ロール軸、及びヨー軸周りの車両の角速度を検出する角速度センサ111と、ピッチ軸、ロール軸、及びヨー軸周りの車両の加速度を検出する加速度センサ113と、後輪13の回転数及び回転方向を検出する速度センサ115とを備える。角速度センサ111及び加速度センサ113として、これらを組み合わせた6軸慣性センサを用いてもよい。また、例えばヨー軸周りの角速度及び加速度を検出する必要がない場合には、少なくともピッチ軸及びロール軸周りの角速度及び加速度を検出可能な4軸慣性センサを用いてもよい。速度センサ115としてはホール素子を用いてもよいし、モータ105の逆起電力から速度を算出してもよい。また加速度センサの代わりに地磁気センサを用いてもよい。各センサの検出結果は、有線方式又は無線方式で信号として制御部101に送信される。
【0028】
また、センサ群103は車両のピッチ軸又はピッチ軸周りの水平面に対する傾斜角度を検出する傾斜センサ117を備えていてもよい。また、ロール角を検出する必要がない場合には、ピッチ軸周りの角速度及びロール軸方向の加速度を検出可能なセンサを用いてもよい。またピッチ角又はロール軸周りの回転を検出するためには加速度だけを検出できればよく、必ずしも角速度は必要ではない。また、水平面に対する傾斜角度又は傾斜の有無を検出するために加速度センサ113の検出値の履歴又は経時的な変化を用いてもよく、この場合には傾斜センサ117は不要である。また、センサ群103は加加速度を検出するためのジャークセンサ119を備えていてもよい。また、加加速度を取得するために加速度センサ113の検出値を微分して算出してもよく、この場合にはジャークセンサ119は不要である。また速度を検出するために加速度センサ113の検出値を積分してもよく、この場合には速度センサ115は不要である。また前後方向の加速度を検出する加速度センサ113を設けずに、速度センサ115の検出値を微分して前後方向の加速度を算出してもよい。この場合、前後方向の加加速度を算出するために速度センサ115の検出値を2階微分してもよい。このように速度、加速度、及び加加速度の取得は、加速度センサ113、速度センサ115、及びジャークセンサ119の少なくとも何れか1つを用いれば実現可能である。従って、速度センサ115は制御部101と共働して速度取得部及び加速度取得部に相当し得るし、加速度センサ113も制御部101と共働して速度取得部及び加速度取得部に相当し得る。
【0029】
〔走行抵抗推定部〕
歩行車100は、走行抵抗推定部121を備えていてもよい。走行抵抗推定部121は、歩行車100が走行している路面の抵抗を推定する。一例として走行抵抗推定部121は、歩行車100の走行時の鉛直方向の加速度を経時的にモニタリングし、路面の走行抵抗を推定する。また、走行抵抗推定部121は走行路面を撮像し、撮像画像を解析して路面の抵抗を推定してもよい。
【0030】
〔制御部〕
制御部101は、モータ105を制御することによりブレーキを制御する。制御部101は、MPU(Micro Processing Unit)のような各種演算処理を行うプロセッサ、情報及び命令を格納するメモリ、プロセッサによる演算の際に用いられる一時メモリのようなハードウェアにより構成される。制御部101はバッテリ107と電気的に接続され各ハードウェアを駆動するための電力はバッテリ107から供給される。制御部101は、各センサから得られた検出結果を利用してモータ105による制動力を強めたり弱めたりする。具体的には制御部101は、各センサから得られた検出結果を利用して制動力の大きさを演算し、制動力を発生させるために必要な抵抗値をモータ105に送信することで制動力の強さを調整する。
【0031】
制御部101は、それぞれ異なる作動条件で、異なる制動原理に基づき制動力を発生させる速度ブレーキ制御部123、傾斜ブレーキ制御部125、及び転倒ブレーキ制御部127を備える。実施形態の例では、転倒ブレーキ制御部127が「ブレーキ制御部」又は「第1ブレーキ制御部」として機能し、傾斜ブレーキ制御部125及び速度ブレーキ制御部123の少なくとも一方が「第2ブレーキ制御部」として機能する。制御部101は、歩行車100の走行環境、走行状態等の各種条件を検出し様々な制動原理によりモータ105により制動力を発生させる。速度ブレーキ制御部123は、入力された速度値に基づいて速度を制御する。傾斜ブレーキ制御部125は、入力された走行路面の傾斜値(又は歩行車100のピッチ角)に基づいて速度を制御する。「ブレーキ制御部」としての転倒ブレーキ制御部127は、入力された加速度に基づいてモータ105を制御して使用者の転倒を抑制する。ブレーキシュー25が速度ブレーキ制御部123、傾斜ブレーキ制御部125、又は転倒ブレーキ制御部127により電気的に制御できる場合には、速度ブレーキ、傾斜ブレーキ、及び転倒ブレーキをブレーキシュー25の制御だけで行ってもよい。また、ブレーキシュー25が速度ブレーキ制御部123、傾斜ブレーキ制御部125、及び転倒ブレーキ制御部127により電気的に制御できる場合には、速度ブレーキ、傾斜ブレーキ、及び転倒ブレーキをブレーキシュー25とモータ105との組み合わせで実行してもよい。
【0032】
〔アシスト制御〕
また歩行車100は、歩行車100の加速をアシストするアシスト機能を備えていてもよい。アシスト制御部129は、加速度センサ113で検出された歩行車100の前進方向への加速度に基づいてアシスト力を算出する。アシスト制御部129はモータ105で生じさせるアシスト力を算出し、算出値に基づきモータ105を制御する。モータ105はアシスト制御部129による制御に基づいて後輪13にアシスト力を付与し、歩行車100に前進力を付与する。アシスト制御部129は、ピッチ角センサの検出値に基づく上り傾斜の有無、走行抵抗推定部121による走行抵抗の推定値等に基づいてアシスト力を増減させてもよい。
【0033】
以下、制御部101による具体的なモータ105の制御プロセスについて説明する。以下の説明において制御部101、速度ブレーキ制御部123、傾斜ブレーキ制御部125、転倒ブレーキ制御部127、及びアシスト制御部129が主体的に行う動作は、プロセッサがメモリに格納された命令及び情報を参照し一時メモリ上で演算を実行することで実現される。
【0034】
〔速度ブレーキ〕
一例として速度ブレーキ制御部123は、歩行車100の速度が所定以上になったときに速度を抑制して速度ブレーキを作動させる。この場合、速度ブレーキ制御部123は速度センサ115の検出値を取得し検出値をモニタリングする。速度ブレーキが作動すると、例えばモータ105が制動力を発生させ後輪13の回転速度を抑制する。これにより歩行車100の速度が抑制され安全性を高められる。
【0035】
〔傾斜ブレーキ〕
一例として傾斜ブレーキ制御部125は、歩行車100が走行する路面が所定角度以下の下り傾斜であるときに傾斜ブレーキを作動させて歩行車100の速度を抑制する。また他の例として、傾斜ブレーキ制御部125は、歩行車100が所定距離にわたり所定角度以下の傾斜を走行し続けている場合に傾斜ブレーキを発生させてもよい。また他の例として、傾斜ブレーキ制御部125は、歩行車100が所定時間にわたり所定角度以下の傾斜を走行し続けている場合に傾斜ブレーキを発生させてもよい。これらの場合、傾斜ブレーキ制御部125は加速度センサ113又は傾斜センサ117の検出値を取得し加速度を継続的にモニタリングする。傾斜ブレーキが作動すると、例えばモータ105が制動力を発生させ後輪13の回転速度を抑制する。これにより歩行車100の速度が抑制され安全性を高められる。
【0036】
〔転倒ブレーキ〕
一例として転倒ブレーキ制御部127は、使用者が転倒する可能性が高い場合に歩行車100の速度を抑制して転倒ブレーキを作動させる。歩行車100が平地を走行中に使用者が転倒する場合、歩行車100の加速度が急速に増加する傾向にある。従って転倒ブレーキ制御部127は、歩行車100の加速度が所定の閾値以上となった場合に転倒の恐れがあるとして転倒ブレーキを作動させる。
【0037】
また、制御部101は転倒ブレーキ制御部127が参照する閾値を管理し、状況に応じて変更する閾値変更部131を備える。
【0038】
図4は、転倒ブレーキの閾値と速度との関係を示すグラフである。図4では縦軸に加速度の閾値を示し、横軸に歩行車100の速度を示す。図4に示すように歩行車100の現在の速度が遅い場合には加速度の閾値が相対的に高くなり、歩行車100の現在の速度が速い場合には加速度の閾値が相対的に低くなる。また、図示の例では中速領域において加速度の閾値を速度が速くなるに従って漸減させている。閾値変更部131は、速度センサ115の検出値を参照し検出された速度に対応する閾値を読み出す。次いで閾値変更部131は読み出した閾値を、転倒ブレーキを作動させる閾値として設定する。閾値変更部131は、一連の閾値を変更する処理を少なくとも歩行車100が前進している間、継続する。
【0039】
低速領域の閾値は、使用者が意図的に歩行車100を急加速させたい場合の加速度を考慮して比較的高めに設定される。また歩行車100を高速で進行させている状態で使用者が転倒しそうになっても、歩行車100の加速度はそれほど高くならず変化が少ないことが考えられる。従って高速領域の閾値は低速領域よりも相対的に低く設定するのがよい。図示の例では、速度A未満を低速領域とし、速度A以上、速度B未満を中速領域とし、速度B以上を高速領域としている。速度Aのときの加速度に関する閾値を1とした場合に、速度A未満の低速領域では加速度に関する閾値は例えば10に設定される。中速領域では速度が大きくなるにつれて加速度に関する閾値が1/3まで漸減する。高速領域では加速度に関する閾値が1/3に設定される。
【0040】
図示の例では、閾値を実質的に高速領域、中速領域、及び低速領域の三段階に分けている。しかしながら閾値を高速領域、中速領域、及び低速領域において段階的に分けず、速度と閾値が、速度が増加するにつれて閾値が低下するような一次関数又は二次関数によって表される関係を有していてもよい。また上述の例では閾値を三段階に分けたが、高速領域における閾値と低速領域における閾値との二段階に分けてもよい。この場合、閾値変更部131は、例えば通常運手時には閾値を高速領域に設定しおき速度が所定値よりも低くなったときに閾値を相対的に高めるという二値制御を行ってもよい。また、図示の例では高速領域と低速領域における閾値を一定としたが、これらの領域においても速度が大きくなるにつれて閾値を漸減させてもよい。また、各領域内で加速度に関する閾値と速度を反比例させてもよい。
【0041】
このように走行時の速度に基づいて転倒ブレーキを作動させるための加速度に関する閾値を変更できる。これにより、低速時及び高速時における転倒の検出精度を高められる。また低速時に加速度に関する閾値を相対的に高くすることで、使用者が意図的に加速しようとしたときに転倒ブレーキが作動するのを抑制できる。また歩行車100は測距センサを用いることなく高い精度で転倒のおそれを検出できる。なお、このような効果は歩行車100に補助的に測距センサを設け、転倒の検出精度を更に高めることを妨げるものではない。
【0042】
〔転倒ブレーキと、他のブレーキとの関係〕
転倒ブレーキと、他の電気的ブレーキとでは制動原理、即ちモータ105により制動力を発生させるときの検出値が異なる。したがって、例えば傾斜ブレーキが作動している間に転倒ブレーキを作動させる条件が満たされることも考えられる。例えば下り傾斜を進行中に傾斜ブレーキが作動しておりこの状態で使用者が転倒しそうになった場合、既に傾斜ブレーキにより減速力が発生しているため転倒時には加速が少ないことが考えられる。速度ブレーキの作動中でも同様の理由により転倒時には加速が少ないことが考えられる。
【0043】
従って、転倒ブレーキとは異なる制動原理(この例では傾斜ブレーキと速度ブレーキの少なくとも何れか一方)によりモータ105の制動力が制御されている場合に閾値変更部131が閾値を変更してもよい。例えば転倒ブレーキが作動する加速度に関する閾値を1とした場合、転倒ブレーキ以外のブレーキにより制動力が作用している間は、加速度に関する閾値が1/3に変更される。閾値変更部131は傾斜ブレーキ制御部125及び速度ブレーキ制御部123の状態を検出し、傾斜ブレーキ及び速度ブレーキの発生の有無を検知する。
【0044】
また、閾値変更部131が速度に基づいて加速度に関する閾値を変更する場合には、転倒ブレーキとは異なる制動原理によりモータ105の制動力が制御されている間、閾値変更部131が加速度に関する閾値を補正してもよい。なおここでいう閾値を補正することとは閾値を変更することの具体的な1つの手段であり、閾値を変更することに含まれる。一例として、傾斜ブレーキが作動している間は、閾値変更部131は図4に関連して説明した閾値を元の値の1/3倍に補正する。従って、閾値変更部131は、低速領域での閾値を10/3にし、高速領域での閾値を1/9にし、中速領域での閾値を1/3から1/9まで漸減させる。
【0045】
このように転倒ブレーキとは制動原理の異なる他のブレーキが作動している間は閾値を変更し、又は補正することで転倒の検出精度を高められる。転倒ブレーキとは制動原理の異なる他のブレーキが作動している間に転倒ブレーキを発生させる場合には、転倒ブレーキと他のブレーキの制動力の合計が転倒ブレーキを単独で作動させたときの制動力と等しくなるように制御してもよい。
【0046】
〔転倒ブレーキとアシスト制御との関係〕
歩行車100がアシスト機能を備えている場合、アシスト制御を実行中に転倒ブレーキを作動させる条件が満たされることも考えられる。アシスト制御を実行中には、使用者によって歩行車100を押す力、及びモータ105のアシスト力の合計が歩行車100を加速させる。したがって、アシスト制御を実行中にはアシスト制御を実行していない場合と比較して歩行車100の加速度が加速度に関する閾値に達し易い傾向にある。従って、アシスト制御部129がアシスト制御を実行している間、閾値変更部131が閾値を変更してもよい。例えば転倒ブレーキが作動する加速度に関する閾値を1とした場合、アシスト制御部129がアシスト制御を実行している間は、加速度に関する閾値が1.3に変更される。閾値変更部131はアシスト制御部129の状態を検出し、アシスト制御の有無を検知する。
【0047】
また、閾値変更部131が速度に基づいて加速度に関する閾値を変更する場合には、アシスト制御部129によりアシスト制御が実行されている間、閾値変更部131が加速度に関する閾値を補正してもよい。一例として、アシスト制御が実行されている間、閾値変更部131は図4に関連して説明した閾値を元の値の1.3倍に補正する。従って、閾値変更部131は、低速領域での閾値を13にし、高速領域での閾値を1.3/3にし、中速領域での閾値を1.3から1.3/3まで漸減させる。
【0048】
このようにアシスト制御を実行している間は閾値を変更し、又は補正することで転倒の検出精度を高められる。具体的にはアシスト制御の実行中に使用者が転倒していないにも関わらず転倒ブレーキが作動するのを抑制できる。
【0049】
〔転倒ブレーキとピッチ角との関係〕
閾値変更部131は、歩行車100が走行している路面の傾斜に応じて閾値を変更してもよい。例えば歩行車100が上り傾斜を走行中に使用者が転倒しそうになった場合、上り傾斜の抵抗により歩行車100の加速度が上がり難いことが考えられる。この場合には、転倒ブレーキが作動し難い。反対に歩行車100が下り傾斜を走行中には加速度が上がり易く使用者が転倒していなくても加速度が閾値に達することが考えられる。例えば歩行車100が上り傾斜を走行中の場合、使用者は歩行車100に体重をかけるために前傾姿勢を取り使用者の重心位置が歩行車100から離れる傾向にある。またこのとき使用者は歩行車100を押し上げるために加速する傾向にある。このような場合、転倒ブレーキの閾値を高めに設定しておかなければ頻繁に転倒ブレーキが作動する可能性がある。反対に歩行車100が下り傾斜を走行中には使用者が歩行車100を身体に近づける傾向にあり、使用者が転倒しそうになっても歩行車100が加速しにくい。この場合は、閾値を低めに設定しておかなければ転倒の検知が遅れる可能性がある。従って閾値変更部131は、ピッチ角センサの検出値に基づいて閾値を変更してもよい。例えば転倒ブレーキが作動する加速度に関する閾値を1とした場合、歩行車100が下り傾斜を走行している間は加速度に関する閾値が1/3に変更され、歩行車100が上り傾斜を走行している間は加速度に関する閾値が1.3に変更される。閾値変更部131はピッチ角センサの検出値に基づき上り傾斜又は下り傾斜の有無を判断する。
【0050】
また、閾値変更部131が速度に基づいて加速度に関する閾値を変更する場合には、上り傾斜又は下り傾斜を走行中に、閾値変更部131が加速度に関する閾値を補正してもよい。一例として、歩行車100が下り傾斜を走行中している間、閾値変更部131は図4に関連して説明した閾値を元の値の1.3倍に補正する。従って、閾値変更部131は、低速領域での閾値を13にし、高速領域での閾値を1.3/3にし、中速領域での閾値を1.3から1.3/3まで漸減させる。一方で歩行車100が上り傾斜を走行している間、閾値変更部131は図4に関連して説明した閾値を元の値の1/3倍に補正する。従って、閾値変更部131は、低速領域での閾値を10/3にし、高速領域での閾値を1/9にし、中速領域での閾値を1/3から1/9まで漸減させる。
【0051】
このようにピッチ角に基づいて閾値を変更し、又は補正することで転倒の検出精度を高められる。具体的には歩行車100が下り傾斜を走行中には、転倒ブレーキの閾値を下げることで転倒していないにも関わらず転倒ブレーキが作動するのを抑制できる。また歩行車100が上り傾斜を走行中には、転倒ブレーキの閾値を上げることで転倒をより検出し易くする。
【0052】
〔転倒ブレーキと走行抵抗との関係〕
閾値変更部131は、歩行車100が走行している路面の抵抗に応じて閾値を変更してもよい。例えば歩行車100が走行抵抗の高い路面を走行中には、使用者が転倒しそうになっても加速度が上がり難いことが考えられる。この場合には、転倒ブレーキが作動し難い。従って閾値変更部131は、走行抵抗推定部121の推定結果に基づいて閾値を変更してもよい。例えば転倒ブレーキが作動する加速度に関する閾値を1とした場合、歩行車100が走行抵抗の高い路面を走行している間は加速度に関する閾値が1/3に変更される。この場合、走行抵抗を二値的に検出できればよく、走行抵抗推定部121を簡易的な構成にしてもよい。また走行抵抗の検出精度の高い走行抵抗推定部121を用いた場合、閾値変更部131は走行抵抗が高くになるにつれて加速度に関する閾値を低くしてもよい。
【0053】
また、閾値変更部131が速度に基づいて加速度に関する閾値を変更する場合には、歩行車100が走行抵抗の高い路面を走行中に、閾値変更部131が加速度に関する閾値を補正してもよい。一例として、歩行車100が走行抵抗の高い路面を走行している間、閾値変更部131は図4に関連して説明した閾値を元の値の1/3倍に補正する。従って、閾値変更部131は、低速領域での閾値を10/3にし、高速領域での閾値を1/9にし、中速領域での閾値を1/3から1/9まで漸減させる。
【0054】
このように走行抵抗に基づいて閾値を変更し、又は補正することで転倒の検出精度を高められる。具体的には歩行車100が走行抵抗の高い路面を走行中には、転倒ブレーキの閾値を下げることで転倒をより検出し易くする。
【0055】
以上のように歩行車100は、歩行車100の走行速度に基づいて加速度の閾値を変更し、転倒の検出精度を高められる。これにより歩行車100は適切なタイミングで転倒ブレーキを作動させられる。
【0056】
また、閾値変更部131は、転倒ブレーキ以外のブレーキの作動状況、アシスト制御の作動状況、ピッチ角、及び走行抵抗に基づいて閾値を変更できる。閾値変更部131が転倒ブレーキ以外のブレーキの作動状況、アシスト制御の作動状況、ピッチ角、及び走行抵抗に基づいて閾値を変更する場合、必ずしも閾値変更部131が速度に基づいて閾値を変更する機能を備えていなくてもよい。
【0057】
また閾値変更部131が速度に基づいて閾値を変更する機能を備えている場合、閾値変更部131は速度に基づいて加速度の閾値を変更し、さらに転倒ブレーキ以外のブレーキの作動状況、アシスト制御の作動状況、ピッチ角、及び走行抵抗に基づいて加速度に関する閾値を補正する。従って転倒ブレーキ制御部127は補正後の加速度に関する閾値に基づいて転倒ブレーキの制動力を制御する。
【0058】
〔転倒ブレーキと、加加速度との関係〕
閾値変更部131が速度に応じて加速度に関する閾値を変更する態様において、転倒ブレーキ制御部127は加加速度に基づいて転倒ブレーキを作動させないようにしてもよい。例えば使用者が横断歩道を渡ろうとして意図的に歩行車100を加速させたいことが考えられる。このような場合に歩行車100の加速度が加速度に関する閾値に達し転倒ブレーキが作動するのは好ましくない。
【0059】
図5は、使用者が転倒しそうになったときの加速度の時間毎の変化を示すグラフである。使用者が意図的に歩行車100を加速させる場合、実線L1で示すように歩行車100の加速度が増加し続ける傾向にある。使用者が転倒して歩行車100が加速する場合、破線L2で示すように歩行車100の加速度は増加するが使用者の身体の鉛直方向に対する傾斜角度が大きくなるにつれて歩行車100の加速度が鈍化するか、減少する傾向にある。従って、転倒ブレーキ制御部127は歩行車100の加加速度を参照し、加加速度が加加速度に関する閾値以下になっていることを条件として、加速度が加速度に関する閾値以上となったときに転倒ブレーキを作動させる。簡潔に言えば、歩行車100の加加速度の値が転倒ブレーキを作動させるための条件となる。
【0060】
転倒ブレーキ制御部127は、速度センサ115の検出値を2階微分するか加速度センサ113の検出値を微分し加加速度を取得する。センサ群103にジャークセンサ119が設けられている場合には、ジャークセンサ119の検出値を取得してもよい。加加速度に関する閾値は、利用者の姿勢、状態を推定するための基準の値であり、例えば値0を設定できる。加加速度に関する閾値を値0に設定すると、加速度が増加している場合には転倒ではなく使用者による意図的な加速であると判断される。転倒ブレーキ制御部127は加加速度が閾値0を超えている場合、加速度センサ113の検出値が加速度に関する閾値を超えていたとしても転倒ブレーキを作動させない。反対に加速度が減少している場合には加加速度が閾値0以下となる。この場合、加速度センサ113の検出値が加速度に関する閾値を超えた場合に転倒ブレーキを作動させる。これにより、使用者の意図的な加速に対して転倒ブレーキが作動するのを抑制できる。
【0061】
〔転倒ブレーキの解除条件〕
上述したいずれかの方法により作動した転倒ブレーキを解除するための条件は以下の通りであることが好ましい。
【0062】
一例として転倒ブレーキ制御部127は、転倒ブレーキにより制動力を強めた後の経過時間に基づいて転倒ブレーキを解除してもよい。この場合、転倒ブレーキ制御部127は転倒ブレーキにより制動力を強めたときに時間の計測を開始し、予め決められた時間(例えば0.2秒)に関する閾値を経過した後、転倒ブレーキを解除し制動力を弱める。転倒ブレーキ制御部127は、歩行車100の転倒ブレーキが一定時間作動したら使用者が体勢を立て直したと推定する。このタイミングで転倒ブレーキを解除することにより、転倒ブレーキにより制動力が高められたまま使用者が歩行車100を押し始めるのを抑制できる。
【0063】
また歩行車100がアシスト機能を備えておりモータ105を逆転させる逆転ブレーキにより制動力を高められる場合には、転倒ブレーキ制御部127は更に小さい閾値(例えば0.1秒)に基づいて転倒ブレーキを解除してもよい。逆転ブレーキにより制動力を高めた場合、逆転ブレーキをかけ続けると歩行車100が後進するおそれがある。従って、この場合転倒ブレーキ制御部127は逆転ブレーキにより制動力を高めた後、0.1秒経過後に転倒ブレーキを解除する。
【0064】
また他の例として転倒ブレーキ制御部127は、転倒ブレーキにより制動力を強めた後、歩行車100の速度が、予め決められた速度に関する閾値を所定時間下回っていたら転倒ブレーキを解除してもよい。所定時間の経過の判断は、予め決められた時間に関する閾値(例えば0.2秒)を超えたか否かで判断できる。また、閾値変更部131は歩行車100の速度に応じて時間に関する閾値を変更してもよい。例えば歩行車100の速度が遅い場合には時間に関する閾値を低くし、歩行車100の速度が速い場合には時間に関する閾値を高くする。転倒ブレーキ制御部127は、歩行車100の速度が一定時間だけ一定速度を下回っていたら使用者が体勢を立て直したと判断する。このタイミングで転倒ブレーキを解除することにより、転倒ブレーキにより制動力が高められたまま使用者が歩行車100を押し始めるのを抑制できる。また歩行車100の速度から使用者の体勢を判断することで、使用者が体勢を立て直していないにも関わらず転倒ブレーキを解除するのを抑制できる。なお、転倒ブレーキ制御部127が使用者の体勢を判断するためには速度に代えて歩行車100の加速度を参照してもよい。
【0065】
また他の例として、センサ群103により検出可能であり使用者の体勢に関連する条件に予め点数を付与しておき、条件が達成される度に点数を加算し、合計点数が一定値以上になったときに転倒ブレーキを解除してもよい。例えば徐行状態(例えば時速0.5km以下の走行)になったときに1点を加算し、停止状態(例えば時速0.1km以下の走行)になったときに10点を加算し、後進(例えば後方に時速0.1km以上の走行)になったときに20点を加算する。転倒ブレーキ制御部127はセンサ群103の検出値から条件が達成される度に点数を加算し、合計点数が例えば200点になったときに転倒ブレーキを解除する。
【0066】
このような転倒ブレーキの解除条件を設定することで、使用者が体勢を立て直した後にスムーズに歩行を再開できる。
【0067】
図6は転倒ブレーキ作動時の制動力と時間との関係を示すグラフである。図6に示すように転倒ブレーキを解除する場合、モータ105による制動力を徐々に弱めてもよい。この場合、逆転ブレーキと回生ブレーキとを組み合わせることができる。転倒ブレーキを作動させて転倒する使用者を支えるときは強い制動力が必要となる。転倒ブレーキ制御部127は転倒ブレーキを作動させるとき、及び転倒ブレーキを維持する間はモータ105を逆転させ逆転ブレーキを発生させる。転倒ブレーキの解除条件が達成された後、転倒ブレーキ制御部127はモータ105を制御して逆転ブレーキを回生ブレーキに切り替える。次いで転倒ブレーキ制御部127は回生ブレーキにより制動力を徐々に弱める。これにより、転倒を防止するときには強い制動力を作用させ、使用者が歩行を再開するときには徐々に制動力を弱められる。図示の例では制動力を漸減させているが、制動力を一定の変化量で単位時間あたりの減少量を減少させて弱めたり、段階的に弱めたりしてもよい。モータ105が逆転ブレーキ機能を有していない場合、又は逆転ブレーキを発生させるだけの電力がバッテリ107に残っていない場合には回生ブレーキの強さを段階的に調整してもよい。
【0068】
また、転倒ブレーキの作動時にも回生ブレーキと逆転ブレーキとを組み合わせてもよい。この場合、転倒ブレーキにより制動力を高めるときに僅かな時間だけ回生ブレーキを作動させる。その後、モータ105を逆回転させることで逆転ブレーキにより制動力を更に高める。このような制御により転倒ブレーキの作動時に急停止を抑制できる。また急減速によるギア破損等を抑制できる。
【0069】
以上のように歩行車100によれば適切なタイミングで転倒ブレーキを作動させ、使用者の安全性を高められる。
【0070】
上述の実施形態は例示であり、各構成は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。特に上述の例では複数の数値を示したが、各数値は使用される歩行車100の性能、機能等に基づいて適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、電気制御車両の分野において産業上利用性を有する。
【符号の説明】
【0072】
100 歩行車、 101 制御部、 103 センサ群、 105 モータ、 113 加速度センサ、 115 速度センサ、 121 走行抵抗推定部、 123 速度ブレーキ制御部、 125 傾斜ブレーキ制御部、 127 転倒ブレーキ制御部、 129 アシスト制御部、 131 閾値変更部
図1
図2
図3
図4
図5
図6