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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】抗ウイルス剤及び抗ウイルス組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20230413BHJP
   A61K 31/737 20060101ALI20230413BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230413BHJP
   A61P 31/22 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K31/737
A61P31/12
A61P31/22
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018023663
(22)【出願日】2018-02-14
(65)【公開番号】P2019137644
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-01-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】304040441
【氏名又は名称】江南化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108280
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 洋平
(72)【発明者】
【氏名】林 京子
(72)【発明者】
【氏名】大谷 淨治
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 匡博
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-507943(JP,A)
【文献】特表2011-512319(JP,A)
【文献】International Journal of Biological Macromolecules,2017年,Vol.102,pp.605-612
【文献】Carbohydrate Research,2017年,Vol.453-454,pp.1-9
【文献】Planta Medica,1999年,Vol.65,pp.439-441
【文献】Planta Medica,2004年,Vol.70,pp.813-817
【文献】日本薬学会年会要旨集,2007年,Vol.127th, No.2,p.109, Abstract No.28P1-pm219
【文献】日本薬学会北陸支部平成19年度第2回総会及び第117回例会、日本病院薬剤師会北陸ブロック第18回学術大会 プログラム講演要旨集,2007年,Vol.117th,p.12, Abstract No.B-7
【文献】Antiviral Research,2009年,Vol.83, No.3,pp.282-289
【文献】日本薬学会年会要旨集,2008年,Vol.128th, No.3,Abstract No.27PE-am107
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/105
A61K
A61P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥したヒトエグサを水で洗浄し、95℃~100℃の熱水で6時間抽出し、得られた熱水抽出液を純水に対して透析し、凍結乾燥した後、凍結乾燥物を水に溶解し、陰イオン交換クロマトグラフィーにアプライし、連続的に溶出させることで得られたラムナン硫酸を含有し、ヒトヘルペスウイルス1(HSV-1)の潜伏感染からの回帰発症に対する活性を示す、HSV-1の潜伏感染からの回帰発症を抑制するための抗ウイルス用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス剤及び抗ウイルス組成物などに関し、特にヒトヘルペスウイルス潜伏感染からの回帰発症に対する薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ウイルスは20ナノメートル~300ナノメートル程度の大きさからなる微小な粒子であって、主としてタンパク質からなるカプシドと、その内部にある核酸(DNAまたはRNA)から構成されている。ウイルスの複製は、殆ど全ての作用を宿主細胞に依存している。ウイルスが宿主細胞の内部に侵入すると、カプシド内の核酸を放出した後、ウイルスを構成する要素が複製される。その過程において、ウイルス特異的な酵素を必要とする。宿主細胞内で作製された新たなウイルス粒子は、その宿主細胞から放出され、他の宿主細胞に感染する。
ウイルスには、ゲノムとしてDNAを有するDNAウイルスと、RNAを有するRNAウイルスとに大別される。このうち、DNAウイルスには単純ヘルペスウイルス(HSV)などが、RNAウイルスにはインフルエンザウイルス(IFV)などがある。
【0003】
単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)は、口や角膜などからの初感染後、一過性の急性感染症状(口内炎など)を呈したり、無症状のまま急性期を経過したりする。その後、感染部位の近くの神経細胞に感染し、最終的には三叉神経節に潜伏感染した状態となる。潜伏感染状態は、初感染の約1ヵ月後に成立し、感染力のあるウイルス粒子は検出できなくなる。このまま感染者の一生を過ごせば問題は起きない。ところが、紫外線、発熱、種々のストレスなどによって、ウイルスDNAから感染力のあるウイルス粒子が産生され、神経細胞を伝って口唇や角膜などの皮膚表面に達し、増殖を繰り返して、口唇ヘルペスや角膜ヘルペスなどの症状をもたらすことがある。上記過程のうち、潜伏感染の成立に対抗する薬剤の研究開発が行われている(特許文献1)。
【0004】
また、IFVは、呼吸器感染症であるインフルエンザを引き起こす。日本国では、毎年冬に数百万人のインフルエンザ患者が報告されており、高い罹患率と死亡率を伴う。特に、乳幼児や高齢者にとっては重要な疾患であって、高齢者では肺炎の合併率が高く、死亡者の多くが高齢者である。インフルエンザ治療剤については、有効性が認知されている一方で、副作用や耐性ウイルス株の出現等の問題がある。また、アマンタジンでは、A型ウイルスのM2蛋白を阻害する効果があるがB型ウイルスの蛋白には結合できず効果がない等、同じ活性成分でもウイルスの型によって効果が異なることが知られている。このように、IFVに有効で安全性の高い薬剤は少ないうえに、耐性ウイルスの出現なども問題視されているため、新規メカニズムの抗IFV剤の開発が行われている(特許文献2)。
【0005】
一方、アオサなどに含まれるラムナン硫酸に関する研究開発が行われている(特許文献3,4)。ラムナン硫酸は、ラムノースを構成単糖の主成分とする硫酸化多糖類であり、数十万~数百万程度の分子量で天然に広く分布している。ラムナン硫酸には、血糖値上昇抑制効果や血管障害改善効果などが知られている。これまでに種々の合成硫酸化多糖体や天然物由来の硫酸化多糖体について抗ウイルス活性が研究されてきている。さらに硫酸化多糖体は免疫賦活能を有することが報告されてきた(非特許文献1)。HSVが潜伏感染から回帰発症へと移行する際には、生体の免疫機能低下が起こっていることから、免疫機能を高めることで回帰発症を阻止できると考えられる。この点を検証するためには、潜伏感染状態から回帰発症をもたらす時期にラムナン硫酸を投与して、回帰発症阻止効果と抗体量の変化とを検討する必要がある。一方、培養細胞を用いた活性試験では、硫酸化多糖体がきわめて強い抗ウイルス活性を示すが、ヒト試験においては有効性を示さなかったことが報告されている(非特許文献2,3)。このような培養細胞と生体との間に有効性の差異が生じるのは、硫酸化多糖体が殺ウイルス活性を有しないためであるとして、生体へ硫酸化多糖体を適用する場合には殺ウイルス活性を有することが必要であることが指摘されている(非特許文献4)。本特許では、ラムナン硫酸が殺ウイルス活性を有することを証明し、その利点を生かすためにHSVによる皮膚ヘルペスモデルマウスにラムナン硫酸を外用する、すなわち、感染部位にラムナン硫酸を直接塗布するという手段によって、ヘルペス感染症に対する有効性を評価する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-184252号公報
【文献】特開2017-193520号公報
【文献】特開2008-184390号公報
【文献】特開2009-057283号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】I.A. Schepetkin, M.T. Quinn, International Immunopharmacology, 6巻、317-333ページ、2006年
【文献】J. Cohen, Science, 319巻、1026-1027ページ、2008年
【文献】V. Pirrone, B. Wigdahl, F.C. Krebs, Antiviral Research, 90巻、168-182ページ、2011年
【文献】J.S. Said, E. Trybala, S. Gorander, M. Ekblad, J.A. Liljeqvist, E. Jennische, S. Lange, T. Bergstrom, Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 60巻、1049-1057ページ、2016年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、HSV-1の回帰発症を阻止するという観点からは十分な開発は行われていなかった。また、HSVについては、生後間もない頃に唾液などを介して感染することも多く、現実的に初感染を阻止して潜伏感染を防ぐことは不可能である。潜伏感染の成立を阻止するには、生まれてから一生の間、薬を飲み続ける必要があり、現実的ではない。一方、回帰発症は、潜伏感染が成立後に、ストレスなどで健康を害した時に誘発されるものであるから、回帰発症を阻止する観点から研究開発を行うことは重要である。このように、HSVの潜伏感染・回帰発症に対して効果的な薬剤は開発されていない状態であった。また、ラムナン硫酸については、生体に対する効果が十分に知られていなかった。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、抗ウイルス作用を示す組成物、抗ウイルス用食品組成物、特にHSVの潜伏感染・回帰発症に対抗する薬剤などを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、硫酸化多糖類には、抗ウイルス作用があることを見出し、基本的には本発明を完成するに至った。
こうして、本発明に係る組成物は、硫酸化多糖類を含有し、抗ウイルス効果を示すことを特徴とする。
上記発明において、硫酸化多糖類は、ラムナン硫酸であることが好ましい。また、ウイルスとしては、インフルエンザウイルス(IFV)またはヒトヘルペスウイルス(HSV)であることが好ましい。またHSVの場合には、HSV-1であることがより好ましい。また、抗ウイルス効果としては、殺ウイルス活性であることが好ましい。
本発明の組成物は、医薬品(医薬組成物)として提供できる。
また、本発明の組成物は、ウイルス感染症の予防又は治療に用いられる抗ウイルス用食品組成物として提供できる。
医薬組成物は、ウイルスの増殖阻害作用・殺ウイルス活性を示すために有効な量のラムナン硫酸に加えて、薬学的に許容される担体・添加剤を配合することにより提供される。この医薬組成物は、医薬品または医薬部外品として提供される。医薬組成物は、内用的または外用的に用いられる。この医薬組成物は、内服剤、静脈注射、皮下注射、皮内注射、筋肉注射及び/又は腹腔内注射等の注射剤、経粘膜適用剤、経皮適用剤等の製剤形態で使用できる。特に、ラムナン硫酸は、経口投与または経皮投与によっても効果があるので、内服剤、経粘膜適用剤、経皮適用剤として好ましく用いられる。
【0010】
また、医薬組成物の剤型としては、適当に設定できるが、例えば錠剤、顆粒剤、カプセル剤、粉末剤、散剤などの固形製剤、液剤、懸濁剤などの液状製剤、軟膏剤、またはゲル剤等の半固形剤が例示される。
食品分野では、ウイルスの増殖阻害・殺ウイルス作用を生体内で発揮できる有効量のラムナン硫酸を食品素材として、各種食品に配合することにより、食品組成物を提供できる。このとき、食品分野において、抗ウイルス効果・ウイルス増殖阻害用などと表示された食品組成物を提供できる。食品組成物としては、一般の食品に加え、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、病院患者用食品、サプリメント等が例示される。加えて、食品添加物として用いられる。
食品組成物としては、例えば畜肉加工品、農産加工品、飲料(清涼飲料、アルコール飲料、炭酸飲料、乳飲料、果汁飲料、茶、コーヒー、栄養ドリンク、濃縮飲料など)、粉末飲料(粉末ジュース、粉末スープなど)、菓子(キャンディ(のど飴)、クッキー、ビスケット、ガム、グミ、チョコレート等)、パン、シリアル、調味料などが例示される。
【0011】
特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品などの場合には、カプセル、トローチ、シロップ、顆粒、粉末などの形状としても提供できる。特定保健用食品とは、生理学的機能等に影響を与える保健機能成分を含む食品であって、消費者庁長官の許可を得て特定の保健の用途に適する旨を表示可能なものである。本発明では、特定の保健用途としてウイルス感染症の予防・治療、ウイルス増殖の阻害、殺ウイルス効果などと表示して販売される食品となる。栄養機能食品とは、栄養成分(ビタミン、ミネラル)の補給のために利用される食品であって、栄養成分の機能を表示するものである。栄養機能食品として販売するためには、一日当たりの摂取目安量に含まれる栄養成分量が定められた上限値、下限値の範囲内にある必要があり、栄養機能表示だけでなく注意喚起表示等もする必要がある。
【0012】
機能性表示食品とは、事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品である。販売前に安全性及び機能性の根拠に関する情報などが消費者庁長官へ届け出られたものである。
本発明は、ラムナン硫酸を有効成分として含み、ウイルス感染症患者、ウイルス感染症を罹患したヒト以外の動物を対象とした抗ウイルス剤用特定保健用食品、抗ウイルス剤栄養機能食品、抗ウイルス剤機能性表示食品として用いられる。
本発明は、ラムナン硫酸を有効成分として含み、生体、例えばウイルス感染症を罹患する前のヒト、ウイルス感染症予備軍のヒト、ヒト以外の動物を対象とした抗ウイルス剤用特定保健用食品、抗ウイルス剤用栄養機能食品、抗ウイルス剤用機能性表示食品として用いられる。
【0013】
本発明に係る組成物の用法としては、例えばHSVの場合には、潜伏感染した三叉神経からウイルス粒子が産生されて、口唇ヘルペスや角膜ヘルペスとなるので、経口的に内服薬として、または唇や角膜などに直接またはこれらの部位の近傍にスプレー・塗布などにより投与できる。また、例えばIFVの場合には、ヒト上気道(鼻腔や咽頭)で感染し易いため、スプレーによって鼻腔内又は口腔内への直接噴霧、吸入器による鼻腔内又は口腔内への導入により投与できる。この他に、うがい薬によって口腔内へ導入できるほか、点鼻等による経鼻投与、のど飴・トローチ・ガムなどによる経口投与、マスクなど用いることもできる。その他のウイルスの場合には、各ウイルスの感染経路などに鑑みて、適当な投与方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、抗ウイルス作用を示す組成物、抗ウイルス用食品組成物、特にHSVの潜伏感染・回帰発症に対抗する薬剤などを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ラムナン硫酸が、HSV-2に対する殺ウイルス活性を持つことを示す棒グラフである。
図2】ラムナン硫酸が、IFVに対する殺ウイルス活性を持つことを示す棒グラフである。
図3】HSV-1によるの皮膚ヘルペスに対し、サンプルを経口投与したときの結果を示すグラフである。
図4】HSV-1によるの皮膚ヘルペスに対し、サンプルを塗布したときの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。
<ラムナン硫酸の調製>
ラムナン硫酸としては、天然由来のどのような物でも用いることができる。本実施形態では、ヒトエグサから熱水抽出して得たものを用いた。簡単に説明すると次の通りである。乾燥した海藻を水で洗浄し、熱水(95℃~100℃)で6時間抽出した。得られた熱水抽出液を純水に対して透析し、凍結乾燥した。この凍結乾燥物を水に溶解した後、陰イオン交換クロマトグラフィーにアプライし、連続的に溶出させ、ラムナン硫酸を精製した。これを発明の試料として用いた。
なお、本発明に使用可能な硫酸化多糖類(例えば、ラムナン硫酸)は、上記方法以外にも各種方法によって調製できる。また、原料としては、ヒトエグサに限られず、アナアオサ、リボンアオサなどを用いることができる。
【0017】
<試験1:HSVの潜伏感染・回帰発症に対する効果確認試験>
HSVの潜伏感染・回帰発症系は、小型実験動物(マウス)で再現することができる。BALB/cマウスの角膜にHSV-1を接種し、潜伏感染が成立する1ヵ月後に、薬物刺激を与えて回帰発症を誘導した。この回帰発症に対し、ラムナン硫酸の経口投与が有効であるか否かを評価した。HSV-1として、回帰発症率が最も高いとされているMcKrae株を用いた。
1.試験方法
(1)潜伏感染・回帰発症系
麻酔下のBALB/cマウスに対し、左右の角膜を23ゲージ針束で3回ずつ交差して擦過後、HSV-1 McKrae株(1×105 PFU/5μl/mouse)を接種した。その後、14日間に渡って、角膜の症状(Lesion scores)を記録した。感染3日後及び5日後に、PBS 0.1 mlずつで左右の角膜を洗浄し、回収した洗浄液をplaque assayに供した。生存したマウスについて、発症の程度及び左右角膜のウイルス量のデータに基づいて、均等に1群7匹ずつ、後述の通り3群に分けた。
【0018】
感染28日後に1回目の血清採取(尾採血)を行い、中和抗体価を測定した。その日から感染37日後まで、被検体を1日2回(9時と18時)経口投与した。
感染35日後に1200mg/kgの酪酸ナトリウム(NaB)を腹腔内注射した。翌日(感染36日後)に、更に600mg/kgのNaBを腹腔内注射した後、4時間後に43℃の温浴に10分間浸漬した。
感染38日後(初回のNaB処置から3日後)に、全血、左右の眼球、左右の三叉神経節(TG)、脳を採取した。全血から血清を調製し、2回目の中和抗体価を測定した。1回目の中和抗体価の測定値と比較し、被検体投与による抗体価の変動を検討した。また、眼球、TG、脳については、超音波処理し、遠心後、上清からウイルスの検出を試みた。
(2)群分け
下記3群を用いた。
#1 陰性対照群:滅菌水(Control)を0.4 ml/dayとして経口投与した。
#2 陽性対照群:アシクロビル(ACV)を1mg/0.4ml/dayとして経口投与した。
#3 ラムナン硫酸群:ラムナン硫酸を5mg/0.4ml/dayとして経口投与した。
【0019】
2.試験結果
BALB/cマウス30匹に対し、HSV-1を接種したところ、6匹が感染6日後~14日後に死亡した。生存した24匹中、角膜に症状が認められず、かつ角膜からウイルスが検出されなかったマウスが3匹認められた。そのため、残りの21匹を#1~#3の各群に7匹ずつ振り分けた。
初感染から35日後及び36日後に、回帰発症を引き起こすために、2回のNaB注射及び1回の熱刺激処置を行った。この回帰発症処置によって、死亡例は認めなかった。
表1には各群の回帰発症率を、表2には各群の中和抗体価をそれぞれ示した。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
表1に示した通り、陰性対照群#1では、眼球及び三叉神経節において、25%の累積回帰発症率が認められた。また、陽性対照群#2(ACV)では、18%の累積回帰発症率であった。これに対し、ラムナン硫酸群#3では、3.6%と低い回帰発症率であった。
表2に示した通り、陰性対照群#1及び陽性対照群#2では、血清の中和抗体価は、感染28日後と感染37日後の間で変動は認められなかった。これに対し、ラムナン硫酸群#3では、血清の中和抗体価は、感染37日後には、感染28日後に比べ、約1.4倍の上昇が認められた。
なお、全てのマウスについて、脳からウイルスは検出されなかった。
このように、ラムナン硫酸は、HSV-1の潜伏感染・回帰発症系において、有効に回帰発症を抑制することが明らかとなり、この効果にはラムナン硫酸の免疫機能刺激作用によるウイルス特異的抗体の上昇が寄与していると推察された。
【0023】
<試験2:殺ウイルス活性試験>
一般に、ウイルスは宿主となる細胞内に侵入し、細胞内で増殖した後に、細胞外に放出される。抗ウイルス効果として、細胞内でのウイルス増殖を抑制するものと、細胞外のウイルス粒子の感染力を失わせるものがある。後者の作用は、殺ウイルス活性(virucidal effect)、不活化効果(inactivation)などと呼ばれている。ラムナン硫酸について、殺ウイルス活性の有無を調べた。
1.試験方法
(1)ウイルス株-宿主細胞系
ウイルス株-宿主細胞系として、次の2種類を用いた。HSV-2(単純ヘルペスウイルス2型)-Vero細胞(アフリカミドリザル由来細胞)及びIFV(インフルエンザウイルス)-MDCK細胞(イヌ腎由来細胞)を用いた。
【0024】
(2)殺ウイルス活性試験法
各ウイルスについて、ストック溶液をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で希釈し、それぞれ2×105 PFU/mLに調製したものをウイルス溶液とした。このウイルス溶液0.5mLと被験溶液0.5mLとを混合し、検体溶液とした。被験溶液として、10,100及び1000μg/mLに調製したラムナン硫酸溶液を用いた。陰性対照として、PBSを用いた。
検体溶液を調製後、室温に置き、0,1,10及び30分後に10μLずつ採取し、990μLのPBSと混合して、1000μLの100倍希釈溶液とした。100倍希釈溶液から100μLを採取し、予め単層状に培養した宿主細胞に振り掛け、室温で1時間感染させた。ここにプラークアッセイ用培地を重層し、37℃にて2~3日間培養した。プラークの出現を確認後、クリスタルバイオレット液で細胞を固定・染色し、顕微鏡下でプラーク数を測定した。0時間のプラーク数を100%として、各処理時間経過後の残存ウイルス量を求めた。
【0025】
2.試験結果
図1にはHSV-2に対する殺ウイルス活性試験の結果を、図2にはIFVに対する殺ウイルス活性試験の結果を、それぞれ示した。
図1に示すように、ラムナン硫酸は、10μg/mL~1000μg/mLの濃度域において、HSV-2に対して、時間依存的・濃度依存的に殺ウイルス活性を示した。
図2に示すように、ラムナン硫酸は、10μg/mLにおいて、1分間の処理時間でIFVの感染力をほぼ半減させた。但し、濃度依存的な活性は顕著には認められなかった。
このように、ラムナン硫酸は、濃度依存的にHSV-2の殺ウイルス活性を示すことが明らかとなった。しかも、ラムナン硫酸とウイルスの混合液を100倍希釈しても殺ウイルス活性がみられたことから、ラムナン硫酸とウイルスとの相互作用は不可逆的であるといえる。
【0026】
<試験3:HSV-1による皮膚ヘルペスに対する効果確認試験>
1.試験方法
(1)ヘルペス症状発症系
ペントバルビタール(50 mg/kg)麻酔下のBALB/cマウス(6週齢、♀)の左側腹の毛をバリカンと除毛クリームによって除毛した。後述の通り、マウスを6群に分けた。各群のサンプルを、経口投与群(#1~#3)ではウイルス接種7日前から14日後までの間、塗布群(#4~#6)ではウイルス接種1日前から14日後までの間、1日2回(9時と18時)投与した。塗布群では、除毛部分について、後述の5%エマルジョンをマウス一匹あたりに約50mg~60mgを綿棒で塗布した。
#4~#6の塗布群に与える5%エマルジョン液は次の通りに調製した。50mlチューブに、egg L-α-phosphatidylcholine 400 mg、スクワレン1.5g、サンプル889.5 mgを加え、50℃で約20分間加熱した。グリセリン0.35 mlと蒸留水14.65 mlの混合液を加え、vortex乳化処理した(90秒間)。50mlチューブを氷冷し、ポリトロン乳化(20,000 rpm、5分間)した。これを5%エマルジョン液とした。サンプルとして、#4にはPBSを、#5にはアシクロビル(ACV)を、#6にはラムナン硫酸(Rhamnan sulfate)をそれぞれ用いた。
【0027】
HSV-1(2×105 PFU/50μl/mouse) をマイクロシリンジで除毛部分に注射した。14日間に渡って、帯状に出現するヘルペス症状の発症程度(lesion score)と死亡例を記録した。発症程度として、次の0~5の基準を用いた。
0:無症状
1:1~2カ所に点状の皮膚病変(点状の炎症)
2:皮膚病変部が線状に伸びて、約1/2の領域に拡大する
3:皮膚病変部が線状に伸びて、全体に拡大する
4:足の麻痺や脳炎症状
5:死亡
【0028】
(2)群分け
下記6群を用いた(各群についてn=5)。
#1 陰性対照群:滅菌水(Control)を0.4ml/dayとして経口投与した。ウイルス接種7日前から14日後まで投与した。
#2 陽性対照群(経口):アシクロビル(ACV)を1mg/0.4ml/dayとして経口投与した。ウイルス接種7日前から14日後まで投与した。
#3 ラムナン硫酸群(経口):ラムナン硫酸を5mg/0.4ml/dayとして経口投与した。ウイルス接種7日前から14日後まで投与した。
#4 陰性対照群:PBSで調製したエマルジョン液を塗布投与した。ウイルス接種1日前から14日後まで投与した。
#5 陽性対照群(塗布):アシクロビル(ACV)の5%エマルジョン液を塗布投与した。ウイルス接種1日前から14日後まで投与した。
#6 ラムナン硫酸群(塗布):ラムナン硫酸の5%エマルジョン液を塗布投与した。ウイルス接種1日前から14日後まで投与した。
【0029】
2.試験結果
表3,4及び図3,4には、ヘルペス症状の発症頻度の結果を、表5には、死亡例の結果を、それぞれ示した(全て平均値を示す)。表3はラムナン硫酸を経口投与した場合であり、表4はラムナン硫酸をウイルス接種部位に塗布した場合である。表3及び表4中において、「*」はp<0.05、「**」はp<0.01、「***」はp<0.001で陰性対照群に対する有意差が認められたことを示す。
【表3】
【0030】
【表4】
【0031】
【表5】
【0032】
表3及び図3に示すように、ラムナン硫酸は、経口投与時にヘルペス症状の進展を抑制する効果を示した。また、表4及び図4に示すように、局所投与時には、更に発症抑制効果が高くなり、アシクロビルに匹敵する効果が認められた。
また、表5に示すように、ラムナン硫酸は、経口投与時にマウスの生存率を高めた。ラムナン硫酸を塗布すると、更に生存率が80%と高くなり、死亡例(1例)でも延命効果が認められた。
このように、本実施形態によれば、抗ウイルス作用を示す組成物、抗ウイルス用食品組成物、特にIFVの感染、HSVの潜伏感染・回帰発症に対抗する薬剤などを提供できた。
図1
図2
図3
図4