(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】水冷ケーブルの劣化検出方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/52 20200101AFI20230413BHJP
G01R 31/58 20200101ALI20230413BHJP
G01R 15/18 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
G01R31/52
G01R31/58
G01R15/18 A
(21)【出願番号】P 2019007666
(22)【出願日】2019-01-21
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】一條 卓也
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 雄紀
(72)【発明者】
【氏名】千賀 友裕
(72)【発明者】
【氏名】木村 祐太
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】実公昭59-39774(JP,Y2)
【文献】特開昭50-1322(JP,A)
【文献】特開2015-59751(JP,A)
【文献】特開2007-298483(JP,A)
【文献】特開昭60-82067(JP,A)
【文献】実開昭56-61466(JP,U)
【文献】特開昭51-45784(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108627738(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/50-31/74
G01R 15/00-15/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉体に電源を供給するための水冷ケーブルの劣化検出方法であって、
前記電源から前記炉体へ向か
う第1水冷ケーブルと、前記炉体から前記電源へ向か
う第2水冷ケーブルと、を対にして
この対を複数設けて電源回路が構成され
、前記第1水冷ケーブル及び第2水冷ケーブルからなる前記水冷ケーブルは略平行に並置されて配置されており、
単一のセンサワイヤが、並置された前記水冷ケーブルの一方の端部から順に前記水冷ケーブルの前後に移動するように前記水冷ケーブルの間を蛇行して他方の端部まで延び、更に前記他方の端部にある前記水冷ケーブルを周回して同様に順に前記水冷ケーブルの前後に移動するように前記水冷ケーブルの間を蛇行して前記一方の端部まで延びて、並置された前記水冷ケーブルの1つおきに前記センサワイヤの巻回される方向が同一になるとともに、前記1つおきの位置に前記第1水冷ケーブル及び前記第2水冷ケーブルの対を配置して、
前記炉体の操業時において、前記第1水冷ケーブル及び前記第2水冷ケーブルの外周にそれぞれ生じる磁界の強さの絶対値の差分を
前記単一のセンサワイヤの両端に接続された変成器にて連続的に測定することを特徴とする水冷ケーブルの劣化検出方法。
【請求項2】
2本の前記第1水冷ケーブル及び2本の前記第2水冷ケーブルがこの順に略平行に並置されていることを特徴とする請求項1記載の水冷ケーブルの劣化検出方法。
【請求項3】
前記単一のセンサワイヤは可撓性を有するロゴスキーコイルからな
ることを特徴とする請求項1
又は2に記載の水冷ケーブルの劣化検出方法
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧且つ大電流を用いる装置と電源との間を電気的に接続する水冷ケーブルの劣化を検出する方法に関し、特に、装置から接続を外すことなく操業時にあっても劣化状態を検出可能な水冷ケーブルの劣化検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大型電気炉や誘導溶解炉のように、高電圧且つ大電流を操業に必要とされる装置においては、通常の電源ケーブルでは径を太くする必要があるためケーブルの重量もかさみ、大きなケーブル収容スペースや、高い強度の支持材も必要となる。そこで、ケーブル内部に冷却機構を設けた冷却ケーブルが用いられる。典型的には、絶縁被覆を有する導線の内部に長手軸に沿って通水孔を設けつつ可撓性を保持した内部水冷ケーブルが使用される。また、内部水冷ケーブルを複数本並列に接続して大きな電流を分割して供給することで冷却効率を上げることも行われている。
【0003】
このような水冷ケーブルの劣化は装置の操業上で大きな問題を生じさせ得る。そのため、結線を取り外して検査が行われる。一方、検査の手間を考慮すると、結線状態のままで、劣化状態を検査又は一定程度の劣化の検出を行うことが望まれる。
【0004】
例えば、特許文献1では、複数本ずつが並列に接続された水冷ケーブルにダミーの交流電流を供給し抵抗値を測定することで、装置に接続したまま水冷ケーブルの劣化を検出する方法を開示している。詳細には、水冷ケーブルを1次配線とするカレントトランスの2次巻線に交流電源を接続し、水冷ケーブルに流れる交流電流及びその両端間の交流電圧を個別に測定する。これから算出されるインピーダンスについて、交流電源の周波数を変化させることで得られるリアクタンスを除去して、水冷ケーブルの抵抗値を算出し、一定程度の劣化を検出するのである。
【0005】
特許文献1に述べられているように、水冷ケーブルは複数本ずつが並列に接続されているため、1本の水冷ケーブルが劣化、断線しても装置への給電は停止しないが、他の水冷ケーブルに負担が生じる。そこで、水冷ケーブルの劣化を早期に検出すべく、操業中にあっても異常を検出する方法が要望される。かかる場合、検出のためのダミーの電流を水冷ケーブルに供給したりすることはできない。
【0006】
特許文献2では、水冷ケーブルではないが、操業時の電線の周囲に生じる磁界の変化から断線を検出する方法を開示している。詳細には、磁界測定手段の磁界測定面を電線の断面中心側に向けて配置し、操業中に電線が断線した場合、電線周囲の磁界に変化が生じるから、これを磁界測定手段によって測定するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-59751号公報
【文献】特開2002-228700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
水冷ケーブルにおいても操業時の電線の周囲に生じる磁界の変化を測定することができる。一方で、大型電気炉や誘導溶解炉のような装置では、操業時にあっては制御のため電流値を変化させることから、水冷ケーブルの断線については磁界の変化で検出できるものの、劣化状態までを検出することはできなかった。
【0009】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、装置から接続を外すことなく操業時にあっても劣化状態を検出可能な水冷ケーブルの劣化検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による方法は、炉体に電源を供給するための水冷ケーブルの劣化検出方法であって、前記電源から前記炉体へ向かう単数又は複数本の第1水冷ケーブルと、前記炉体から前記電源へ向かう単数又は複数本の第2水冷ケーブルと、を対にして電源回路が構成されており、前記炉体の操業時において、前記第1水冷ケーブル及び前記第2水冷ケーブルの外周にそれぞれ生じる磁界の強さの絶対値の差分を変成器にて連続的に測定することを特徴とする。
【0011】
かかる発明によれば、電源から炉体への電流値の変動に関係なく、操業時にあっても水冷ケーブルの劣化を検出できるから、より早期に且つ確実に該劣化の状態を検出可能となるのである。
【0012】
上記した発明において、可撓性を有するロゴスキーコイルからなる単一のセンサワイヤを前記第1水冷ケーブル及び前記第2水冷ケーブルのそれぞれの外周に巻回して前記差分を計測することを特徴としてもよい。かかる発明によれば、水冷ケーブルの収納されている空間が狭くとも、より早期に且つ確実にその劣化の状態を検出可能となるのである。
【0013】
上記した発明において、前記センサワイヤは、互いに逆向きの電流を流れるように略平行に並置された前記第1水冷ケーブル及び前記第2水冷ケーブルのそれぞれの外周に同数回ずつ巻回され、且つ、全て同一方向に巻回されていることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、水冷ケーブルの収納されている空間が狭くとも、より早期に且つ確実にその劣化の状態を検出可能となるのである。
【0014】
上記した発明において、前記センサワイヤは、互いに逆向きの電流を流れるように略平行に並置されそれぞれ複数からなる前記第1水冷ケーブル及び前記第2水冷ケーブルのそれぞれの外周に同数回ずつ巻回され、且つ、前記第1水冷ケーブル及び前記第2水冷ケーブルについて左回り及び右回りに同数ずつ巻回されていることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、第1及び第2水冷ケーブルがそれぞれ複数であっても少ないセンサワイヤで確実にその劣化の状態を検出することが可能となるのである。
【0015】
前記センサワイヤは、前記第1水冷ケーブル及び前記第2水冷ケーブルの間を蛇行させて配置されることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、水冷ケーブルをより狭い空間に収納しつつ、確実にその劣化の状態を検出可能とし得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】水冷ケーブルの劣化検出方法の実施例に用いる装置のブロック図である。
【
図2】水冷ケーブルにセンサワイヤを巻回させた1例を示す図である。
【
図3】水冷ケーブルにセンサワイヤを巻回させた他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による1つの実施例としての水冷ケーブルの劣化検出方法について、
図1及び
図2を用いて説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施例による方法によって劣化を検出される水冷ケーブル1は、炉体2を加熱させる図示しないコイルに電源3から高電圧で大電流の交流を供給するものである。炉体2は、例えば誘導加熱炉の本体である。水冷ケーブル1は、大電流を内部の導体に通電させることによってかかる導体を発熱させるが、かかる発熱を抑制させるために内部に水冷機構を有する。水冷ケーブル1のその他の詳細な構造については公知であるので説明を省略する。
【0019】
水冷ケーブル1は、出湯作業に伴う炉体2の傾動などの動作に追従できるよう可撓性を有し、たるむように配置されている。そのため、炉体2の動作に伴って水冷ケーブル2は変形を繰り返し、部分的な破損などの劣化を生じることがある。本実施例における劣化検出方法は、このような劣化を迅速に発見しようとするものである。
【0020】
水冷ケーブル1は、電源3から炉体2へ向かう「行き」と炉体2から電源3へ向かう「帰り」とで対となって電源回路を構成しており、この対が複数配置される。交流を供給するため、「行き」と「帰り」とは、事実上の区別はないが、ある時刻での電流の向きを基準にするなどして、適宜、定められる。そして、行きと帰りとを略平行に並置することで互いに逆向きの電流が流れるようにされる。これらの水冷ケーブル1には、交流によって変化する電流に伴ってその周囲に発生させる磁界の強さを測定できるよう、変成器(変流器)4に接続されたセンサワイヤ5が配置される。
【0021】
センサワイヤ5は、典型的にはロゴスキーコイルであって、水冷ケーブル5の外周に巻回されることで、水冷ケーブル5に流れる電流に伴って形成される磁界を外側から検出し、その強さを測定できる。変成器4は、所定のサンプリング間隔で、連続的にかかる測定を継続させることができる。
【0022】
図2に示すように、センサワイヤ5は、「行き」の水冷ケーブル1aと、「帰り」の水冷ケーブル1bとの両者を1本ずつ2本まとめた外周に1周(1回)巻回されている。そして、両者の外周に生じる磁界の強さの絶対値の差分を単一のセンサワイヤ5及び変成器4で測定できるようになされている。ここでは、行きと帰りとでは、電流の向きが逆(矢印参照)なので、巻回する方向を同じにして、逆向きの電流に伴う逆向きの磁界による起電力を互いに打ち消し合うように単一のセンサワイヤ5を巻回し、上記した差分を得ている。
【0023】
このようにすることで、行きと帰りとで閉じた回路を形成しているときは、同じ電流が逆向きに流れるので、磁界の強さの絶対値の差分はゼロになる。ところが、水冷ケーブル1の一部に劣化が生じると、行きと帰りとで電流に差が生じ、磁界の強さの絶対値の差分がゼロではなくなり、水冷ケーブル1の劣化を検出できる。
【0024】
このように、行きと帰りとの電流に差異が生じたことで水冷ケーブル1の劣化を検出するから、水冷ケーブル1への通電中に、例えば炉体1を含む炉の操業中であっても、装置から水冷ケーブル1の接続を外すことなく、劣化の検出ができる。また、2つのケーブルのそれぞれにセンサを設ける必要がなく、1組のセンサワイヤ5及び変成器4での検出を可能とする。なお、センサワイヤ5は、水冷ケーブル1a及び1bにそれぞれ1周ずつ巻回したが、同数であれば複数回の巻回であってもよい。
【0025】
次に、他の実施例としての水冷ケーブルの劣化検出方法について、
図3を用いて説明する。
【0026】
図3に示すように、「行き」の水冷ケーブル1aと、「帰り」の水冷ケーブル1bは、互いに電流の向きを逆にするように、それぞれ2本ずつ合計4本が並置される。そして、上記した実施例と同様に、水冷ケーブル1aと水冷ケーブル1bとで同一方向にセンサワイヤ5が巻回される。このとき、4本の水冷ケーブル1のうち、行きと帰りとの対について同一方向にセンサワイヤ5を巻回させればよく、行き同士、帰り同士についてはセンサワイヤ5の向きは同一でも逆でもよい。
【0027】
本実施例では、水冷ケーブル1a同士は、センサワイヤ5を逆向きに巻回させる。つまり、2本の水冷ケーブル1aのうち一方を右回りに、他方を左回りにする。同様に、水冷ケーブル1bについても右回りと左回りとを1本ずつにする。また、水冷ケーブル1aの2本を隣り合わせて、水冷ケーブル1bの2本を隣り合わせて、4本を直線上に配置する。その結果、図示するように、水冷ケーブル1a及び水冷ケーブル1bの間を蛇行し、交互に前後に移動するように単一のセンサワイヤ5が巻回されるようにできる。
【0028】
この場合においても、同一方向にセンサワイヤ5を巻回させた水冷ケーブル1a及び1bの外周に生じる磁界の強さの絶対値の差分を単一のセンサワイヤ5及び変成器4で測定できる。すなわち、隣り合う水冷ケーブル1同士はセンサワイヤ5が逆向きに巻回されるので、センサワイヤ5の巻回される方向は1つおきに同一になる。つまり、1つおきに水冷ケーブル1a及び1bを配置して行きと帰りとの対として、前述の実施例と同様に水冷ケーブル1の対の2本において磁界の強さの絶対値の差分を測定できる。そして、水冷ケーブル1に劣化がなければ、かかる対における磁界の強さの絶対値の差分はゼロになる。この対をさらに増やしても、水冷ケーブル1に劣化がなければ、磁界の強さの絶対値の差分の合計はゼロになる。よって、水冷ケーブル1の一部に破損による劣化が生じると、行きと帰りとの対の一部で電流に差が生じ、磁界の強さの絶対値の差分がゼロではなくなり、劣化を検出できる。つまり、水冷ケーブル1の劣化を検出できる。
【0029】
本実施例では、水冷ケーブル1の行きと帰りとの対の2つに単一のセンサワイヤ5を巻回させた場合を説明したが、行きと帰りとの対を増やしても同様である。つまり、この対においてセンサワイヤ5を同一方向に同数ずつ巻回させれば、かかる対を増やすことができる。このように、単一のセンサワイヤ5を巻回させることができる限りにおいては、変成器4を複数必要としないから、水冷ケーブル1の数が多くてもコストを上昇させずに水冷ケーブル1の劣化を検出できる。
【0030】
以上、本発明の代表的な実施例及びこれに基づく改変例を説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0031】
1、1a、1b 水冷ケーブル
2 炉体
3 電源
4 変成器
5 センサワイヤ