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  • 特許-ポリマー含浸基材ゴムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】ポリマー含浸基材ゴムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/04 20200101AFI20230413BHJP
   C08C 2/00 20060101ALI20230413BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
C08J7/04 U CEQ
C08C2/00
C08J7/00 302
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019164599
(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公開番号】P2021042296
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】皆川 康久
(72)【発明者】
【氏名】田中 敬二
(72)【発明者】
【氏名】松野 寿生
(72)【発明者】
【氏名】西尾 和也
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-227702(JP,A)
【文献】特開2019-023252(JP,A)
【文献】特開昭61-103885(JP,A)
【文献】国際公開第2015/087656(WO,A1)
【文献】特開2014-031429(JP,A)
【文献】特開2018-193422(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0040870(US,A1)
【文献】米国特許第05527618(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00-33/18
B29C71/04
C08C1/00-4/00
C08J7/00-7/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材ゴムに、該基材ゴムに対する膨潤性を有する溶媒を用いたポリマー溶液を含浸する工程を含むポリマー含浸基材ゴムの製造方法であって、
前記溶媒は、酢酸エチル及びジメチルスルホキシド(DMSO)からなる群より選択される少なくとも1種を含むものであり、
前記ポリマーは、以下の(1)及び(2)からなる群より選択される少なくとも1種を含むものであるポリマー含浸基材ゴムの製造方法。
(1)アルコキシアルキル(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリロイルモルホリンからなる群より選択される少なくとも1種の単独重合体及び共重合体、
(2)アルコキシアルキル(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリロイルモルホリンからなる群より選択される少なくとも1種と、他のモノマーとの共重合体
【請求項2】
含浸後にポリマー溶液の溶媒を除去した後、ポリマー溶液に用いた溶媒で洗浄する請求項1記載のポリマー含浸基材ゴムの製造方法。
【請求項3】
基材ゴムが架橋ゴムである請求項1又は2記載のポリマー含浸基材ゴムの製造方法。
【請求項4】
基材ゴムは、プラズマ処理、電子線照射処理、及び紫外線照射処理からなる群より選択される少なくとも1種の処理が施されたものである請求項1~3のいずれかに記載のポリマー含浸基材ゴムの製造方法。
【請求項5】
基材ゴムは、天然ゴム、脱タンパク天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、及びアクリロニトリル-ブタジエンゴムからなる群より選択される少なくとも1種のゴム成分で構成される請求項1~のいずれかに記載のポリマー含浸基材ゴムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー含浸基材ゴムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療・医用分野などにおいて使用されるゴム製の医療・医用製品、ガスケット、キャップ、ゴム栓、カテーテル、チューブ、パッキン、Oリング等は、使用時に体内・体外で血液に接することに起因して、それらの表面に血小板等の血球細胞や、タンパク質が接着・吸着し、本来の機能が損なわれるという問題がある。
【0003】
一方、特許文献1~2には、親水性モノマーを重合したポリマーを医療・医用基盤、フィルター、流路、チューブ表面にコーティングする技術が提案されているが、ゴムに適した他の技術の提供も望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2005-516736号公報
【文献】特表2005-523981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記課題を解決し、優れたタンパク質や、血小板等の血球細胞の低吸着性を付与できるポリマー含浸基材ゴムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基材ゴムに、該基材ゴムに対する膨潤性を有する溶媒を用いたポリマー溶液を含浸する工程を含むポリマー含浸基材ゴムの製造方法に関する。
【0007】
含浸後にポリマー溶液の溶媒を除去した後、ポリマー溶液に用いた溶媒で洗浄することが好ましい。
【0008】
基材ゴムは、架橋ゴムであることが好ましい。
【0009】
基材ゴムは、プラズマ処理、電子線照射処理、及び紫外線照射処理からなる群より選択される少なくとも1種の処理が施されたものであることが好ましい。
【0010】
溶媒は、酢酸エチル及びジメチルスルホキシド(DMSO)からなる群より選択される少なくとも1種を含むものであることが好ましい。
【0011】
ポリマーは、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリロイルモルホリン、ポリメタクリロイルモルホリン、ポリアクリルアミド、及びポリメタクリルアミドからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
基材ゴムは、天然ゴム、脱タンパク天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、及びアクリロニトリル-ブタジエンゴムからなる群より選択される少なくとも1種のゴム成分で構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、基材ゴムに、該基材ゴムに対する膨潤性を有する溶媒を用いたポリマー溶液を含浸する工程を含むポリマー含浸基材ゴムの製造方法である。従って、該製造方法により得られたポリマー含浸基材ゴムは、基材ゴムにポリマーが含浸、固定(主に物理的に)されたものであるため、洗浄等でポリマーが洗い流されることが抑制できる。よって、ポリマー含浸基材ゴムを繰り返し使用しても、所望の性能を維持できる。また、タンパク質や、血小板等の血球細胞の吸着を抑制できるため、これらの低吸着性を良好に付与することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明により、ポリマー含浸基材ゴムを製造する工程を示す模式図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、基材ゴムに、該基材ゴムに対する膨潤性を有する溶媒を用いたポリマー溶液を含浸する工程を含むポリマー含浸基材ゴム(ポリマーが含浸した基材ゴム)の製造方法である。
【0016】
基材ゴムへの膨潤性を持つ溶媒を用いたポリマー溶液を、浸漬等により基材ゴムに含浸させると、ポリマーが溶媒とともに基材ゴム中に浸透し、その後溶媒を除去すると、含浸・固定された(主に物理的に固定化された)ポリマー含浸基材ゴムが作製される。そして、そのポリマー含浸基材ゴムに血液等の体液や、タンパク質を接触させた場合、血小板、赤血球等の血球細胞や、タンパク質の吸着、接着を抑制できる。
【0017】
従って、例えば、ポリマー含浸基材ゴムと血液等の体液を接触させた状態で、体液を排出(除去)した場合に、ポリマー含浸基材ゴムの表面に対する血球細胞の吸着、接着を充分に抑制できる。
【0018】
基材ゴムとしては特に限定されず、例えば、天然ゴム、脱タンパク天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴムなどのジエン系ゴム、ブチルゴム(イソプレンユニットを不飽和度として数パーセント含むブチルゴム)、ハロゲン化ブチルゴム(クロロブチルゴム、ブロモブチルゴム等)などが挙げられる。
【0019】
基材ゴムとして、架橋ゴムも好適に使用できる。基材ゴムの架橋は、加硫ゴムからの抽出物が少なくなる点から、トリアジンによる架橋ゴムが好ましい。この場合、受酸剤を含んでもよく、好適な受酸剤としては、ハイドロタルサイト、炭酸マグネシウムが挙げられる。
【0020】
ゴムの加硫は硫黄で行うこともできる(硫黄加硫)。その場合、硫黄加硫で一般に使用されている加硫促進剤、酸化亜鉛、フィラー、シランカップリング剤などの配合剤を添加してもよい。フィラーとしては、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウムなどを好適に使用できる。
【0021】
なお、ゴムの加硫条件は適宜設定すれば良く、ゴムの加硫温度は、好ましくは150℃以上、より好ましくは170℃以上、更に好ましくは175℃以上である。
【0022】
基材ゴムとして、プラズマ処理、電子線照射処理、紫外線照射処理等の処理を施したものを好適に使用できる。これらの処理により基材ゴム表面が酸化され、ポリマー溶液に含浸時にポリマーの含浸が充分に進み、所望の効果が得られる傾向がある。
【0023】
プラズマ処理としては、水素プラズマ照射、アルゴンプラズマ照射等の公知の方法が挙げられる。照射条件は、基材ゴムへのダメージ等を考慮して適宜選択すればよく、例えば、プラズマ照射時間は、5~1000秒間が好適である。
【0024】
電子線照射処理は、電子を照射する処理の全般であり、アーク放電、コロナ放電等の放電現象、γ線照射処理等が挙げられる。加速電圧は、基材ゴムへのダメージ等を考慮して適宜選択すればよい。
【0025】
紫外線照射処理としては、公知の紫外線照射装置を用いて実施できる。該装置としては、光源、灯具、電源、冷却装置、搬送装置等を備えたものが挙げられる。光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプ、カリウムランプ、水銀キセノンランプ、フラッシュランプなどが挙げられる。光源の波長や、紫外線照射の条件は、特に制限はなく、適宜選択すればよい。
【0026】
前記ポリマーとしては、例えば、各種モノマーの単独重合体、共重合体が挙げられる。具体的には、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリロイルモルホリン、ポリメタクリロイルモルホリン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド等が挙げられる。ポリマーとしては、親水性を有する親水性ポリマーが好適であり、例えば、1種又は2種以上の親水性モノマーの単独重合体及び共重合体、1種又は2種以上の親水性モノマーと他のモノマーとの共重合体等が挙げられる。
【0027】
親水性モノマー等のモノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート)、(メタ)アクリルアミド、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体((メタ)アクリロイルモルホリン等)、などが挙げられる。なかでも、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロイルモルホリンが好ましく、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートがより好ましく、2-メトキシエチルアクリレートが特に好ましい。
【0028】
他のモノマーは、本発明の効果を阻害しない範囲内であれば特に限定されないが、ベタイン系モノマー、潮解性モノマー等を好適に使用できる。ベタイン系モノマーとしては、カルボキシベタイン、スルホベタイン、ホスホベタインなどが挙げられる。潮解性モノマー(空気中の水分(水蒸気)を取り込んで自発的に水溶液になる性質を持つモノマー)としては、アルカリ金属含有モノマー(分子中にアルカリ金属を含むモノマー)等が挙げられ、なかでも、3-スルホプロピル(メタ)アクリレートアルカリ金属塩が好ましく、3-スルホプロピルメタクリル酸カリウムが特に好ましい。
【0029】
ポリマー溶液(ポリマーを溶媒に溶解した溶液)における溶媒としては、ポリマーを溶解可能な水や有機溶剤等が使用可能であり、例えば、アルコール(メタノール、エタノール等)、アセトン、ベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、酢酸エチル、THFなどが挙げられる。なかでも、酢酸エチル及びジメチルスルホキシド(DMSO)からなる群より選択される少なくとも1種を含む溶媒が好ましい。
【0030】
本発明では、ポリマー溶液における溶媒として、基材ゴムに対する膨潤性を有する溶媒が使用される。本発明において、膨潤性とは、基材ゴムが70℃以下で溶解はしないが、基材ゴムに浸透していく性質を意味する。このとき、基材ゴムは、溶媒の浸透により、若干体積が増加する。
【0031】
基材ゴムに対する膨潤性を有する溶媒として、基材ゴムを膨潤させる一方で、該基材ゴムを溶解せず、ポリマーを溶解させることができる溶媒を使用することが好ましい。この場合、ゴム製の医療・医用製品、ガスケット、キャップ、ゴム栓、カテーテル、チューブ、パッキン、Oリング等のような過酷な使用状態((1)速い流れ場中での使用、(2)酸、アルカリ又はアルコール等の溶液中での使用(ポリマーが溶解しない溶媒で、前記ポリマー溶液の溶媒とは異なる使用、前記ポリマー溶液の溶媒の場合は含浸温度と異なる温度での使用等)、(3)繰り返し使用、等)でもポリマーが離脱せず、かつ血球細胞やタンパク質の吸着、接着を顕著に抑制することが可能となる。
【0032】
本発明では、基材ゴムに前記ポリマー溶液を含浸する工程が行われる。本発明において、含浸とは、ポリマーを基材ゴム中に浸透させることを意味する。含浸方法としては、ポリマーが基材ゴム中に浸透する方法であれば特に限定されず、適用可能であり、例えば、基材ゴムへのポリマー溶液の塗布や吹き付け、ポリマー溶液中への基材ゴムの浸漬などが挙げられる。
【0033】
本発明では、基材ゴムへのポリマー溶液を用いたポリマーの含浸後、適宜、乾燥等により溶媒を除去することで、ポリマーが基材ゴム中に含浸・固定(主に物理固定)した基材ゴム(ポリマー含浸基材ゴム)が得られる。なお、含浸後にポリマー溶液の溶媒を除去した後、ポリマー溶液に用いた溶媒で洗浄する方法や、該洗浄後に更に未含浸ポリマーを除去する方法、等を採用してもよい。
【0034】
図1は、本発明の製造方法により、ポリマー含浸基材ゴムを製造する工程を示す模式図の一例である。基材ゴム11に、該基材ゴム11に対する膨潤性を有する溶媒12にポリマー13を溶解させたポリマー溶液を含浸させると、溶媒12及びポリマー13が基材ゴム11中に侵入する。次いで、乾燥等を施すと、溶媒12は除去される一方で、ポリマー13は基材ゴム11中に残存、固定化され、ポリマー13が基材ゴム11中に固定化されたポリマー含浸基材ゴム(ポリマー含浸層の膜厚14)が作製される。
【0035】
ポリマー含浸基材ゴムにおけるポリマー含浸層の膜厚は、好ましくは1~200nm、より好ましくは1~100nm、更に好ましくは1~50nm、特に好ましくは1~30nmである。上記範囲内であると、良好なタンパク質や血球細胞に対する低吸着性が得られる傾向がある。
【0036】
本発明の製造方法により得られるポリマー含浸基材ゴムは、医療・医用分野などにおいて使用されるゴム製の医療・医用製品、ガスケット、キャップ、ゴム栓、カテーテル、チューブ、パッキン、Oリング等に適用できる。このような製品では、洗浄等でポリマーが洗い流されることを防止できる。また、表面に対する血小板等の血球細胞やタンパク質の低吸着性を実現できる。
【0037】
医療・医用製品は、例えば、表面の全部又は一部がポリマー含浸層を有するポリマー含浸基材ゴムで構成された製品部を作製し、更に必要に応じて他の部材(部品)を付加することにより、製造できる。
【0038】
具体的には、基材ゴムに対する膨潤性を有する溶媒を用いたポリマー溶液を基材ゴム表面に塗工(噴霧)する方法等、公知の手法により、基材ゴム表面の全部又は一部にポリマー溶液を含浸することで、ポリマー含浸層を有するポリマー含浸基材ゴムからなる製品が作製される。そして、得られた製品部に、必要に応じて他の部品を追加することで、医療・医用製品を製造できる。
【0039】
塗工(噴霧)方法などは、従来公知の材料及び方法を適用できる。
含浸時間(保持時間)は、導入する液種等により適宜設定すれば良いが、5分~20時間が好ましく、30分~10時間がより好ましく、1時間~8時間が更に好ましい。含浸後、適宜、余分なポリマー溶液を排出し、乾燥してもよい。
【0040】
医療・医用製品において、ポリマー含浸基材ゴムの表面の少なくとも一部は、水の接触角が25~95度であることが好ましく、25~92度であることがより好ましい。所定の水の接触角を有する場合、本発明の効果が良好に得られる。
【0041】
本発明の製造方法で得られたポリマー含浸基材ゴムを用いて血液又は体液を検査できる。
具体的には、前記のとおり、ポリマー含浸層を有するポリマー含浸基材ゴムを用いた医療・医用製品を使用することで、血液又は体液中の血球細胞やタンパク質の粘着・接着を抑制できる。
【実施例
【0042】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を用いて、2-メトキシエチルアクリレートを80℃で6時間熱重合し、ポリ2-メトキシエチルアクリレート(PMEA)を作製した(分子量Mn:約15000、Mw:約50000)。
シリコン基板の上にクロロブチルゴムの2wt%トルエン溶液を3000rpmでスピンコートした。
このゴム基板を上記ポリ2-メトキシエチルアクリレートの0.5wt%酢酸エチル溶液に23℃で5時間浸漬後、酢酸エチルを除去し、次いで、酢酸エチルで洗浄し、真空乾燥してPMEA含浸クロロブチルゴム基板を作成した。
【0044】
(実施例2)
AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を用いて、2-メトキシエチルアクリレートを80℃で6時間熱重合し、ポリ2-メトキシエチルアクリレート(PMEA)を作製した(分子量Mn:約15000、Mw:約50000)。
シリコン基板の上にクロロブチルゴムの2wt%トルエン溶液(6-(ジブチルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールをクロロブチルゴムに対して2wt%含む)を3000rpmでスピンコートして、180℃6時間熱処理して架橋させた。
このゴム基板を上記ポリ2-メトキシエチルアクリレートの0.5wt%酢酸エチル溶液に23℃で5時間浸漬後、酢酸エチルを除去し、次いで、酢酸エチルで洗浄し、真空乾燥してPMEA含浸クロロブチルゴム基板を作成した。
【0045】
(実施例3)
クロロブチルゴムの5wt%トルエン溶液に変更、及び、6-(ジブチルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールをクロロブチルゴムに対して4wt%に変更、したこと以外は、実施例2と同様にしてPMEA含浸クロロブチルゴム基板を作成した。
【0046】
(実施例4)
180℃6時間熱処理して架橋させた後、プラズマ処理(出力:10.5W、600秒照射)を追加したこと以外は、実施例3と同様にしてPMEA含浸クロロブチルゴム基板を作成した。
【0047】
(実施例5)
プラズマ処理(出力:10.5W)を30秒照射に変更したこと以外は、実施例4と同様にしてPMEA含浸クロロブチルゴム基板を作成した。
【0048】
(実施例6)
AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を用いて、2-メトキシエチルアクリレートを80℃で6時間熱重合し、ポリ2-メトキシエチルアクリレート(PMEA)を作製した(分子量Mn:約15000、Mw:約50000)。
シリコン基板の上にイソプレンゴムの2wt%トルエン溶液を3000rpmでスピンコートした。
このゴム基板を上記ポリ2-メトキシエチルアクリレートの0.2wt%ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液に23℃で2時間浸漬後、DMSOを除去し、次いで、メタノールで洗浄し、真空乾燥してPMEA含浸イソプレン基板を作成した。
【0049】
(実施例7)
AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を用いて、2-メトキシエチルアクリレートを80℃で6時間熱重合し、ポリ2-メトキシエチルアクリレート(PMEA)を作製した(分子量Mn:約15000、Mw:約50000)。
シリコン基板の上にイソプレンゴムの2wt%トルエン溶液を3000rpmでスピンコートした。
このゴム基板を上記ポリ2-メトキシエチルアクリレートの0.2wt%ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液に23℃で2時間浸漬後、DMSOを除去し、次いで、DMSOで洗浄し、真空乾燥してPMEA含浸イソプレン基板を作成した。
【0050】
(比較例1)
シリコン基板の上にクロロブチルゴムの2wt%トルエン溶液を3000rpmでスピンコートした(クロロブチルゴム基板)。
【0051】
(比較例2)
シリコン基板の上にイソプレンゴムの2wt%トルエン溶液を3000rpmでスピンコートした(イソプレンゴム基板)。
【0052】
実施例、比較例で作製した基板を以下の方法で評価した。
【0053】
(ポリマー含浸層の膜厚)
ポリマー含浸層の膜厚は、ポリマー含浸層が形成された基板の断面を、TEMを使用し、加速電圧15kV、10000倍で測定(撮影)した。
【0054】
(血小板粘着量)
実施例、比較例で作製した基板表面に、血漿に血小板を混合し、血小板濃度(播種密度)を4×10cells/cmに調整した液を滴下し、37℃で1時間静置した。表面をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄した後、1%グルタルアルデヒドで固定した(37℃で2時間放置)。その後、再度リン酸緩衝生理食塩水及び蒸留水で洗浄した。
このサンプルをSEMで観察し、吸着した血小板の数を数えた。なお、比較例1の数を1.00として、相対値で比較した。
【0055】
(水の接触角)
基板表面に蒸留水1μlを滴下し、1秒後の接触角をθ/2法(室温)で測定した。
【0056】
(たんぱく質吸着量)
基板表面に、リン酸緩衝生理食塩水にフルオレセインイソチオシアネートでラベリングした牛血清アルブミンを10mg/mLで混合した液を滴下し、37℃で1時間静置した。表面をリン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄した。
このサンプルを蛍光顕微鏡で観察し、535nmの蛍光強度を測定した。なお、比較例1の数を1.00として、相対値で比較した。数字が小さいほど、たんぱく質吸着量が少ないことを示す。
【0057】
【表1】
【0058】
ポリマー含浸層を持つ実施例の基板表面は、比較例に比べ、血小板粘着量、たんぱく質吸着量が共に少なく、低血小板吸着量、低たんぱく質吸着量が得られた。
【0059】
ポリ2-メトキシエチルアクリレート以外の他の親水性ポリマーを用いた場合、クロロブチルゴム、イソプレンゴム以外の他の基材ゴムを用いた場合、プラズマ処理に代えて、電子線照射処理や紫外線照射処理を施した場合でも、同様の効果が得られた。
また、基材がゴムのため、伸縮性、シール性が期待でき、架橋を施したものは耐永久歪性の向上が期待できる。
【符号の説明】
【0060】
11 基材ゴム
12 基材ゴムに対する膨潤性を有する溶媒
13 ポリマー
14 ポリマー含浸層の膜厚
図1