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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】スタッド溶接ガン
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/20 20060101AFI20230413BHJP
【FI】
B23K9/20 E
B23K9/20 G
B23K9/20 F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018227721
(22)【出願日】2018-12-04
(65)【公開番号】P2020089903
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】391002052
【氏名又は名称】日本ドライブイット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100194113
【弁理士】
【氏名又は名称】八木田 智
(72)【発明者】
【氏名】勝野 裕史
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-146248(JP,A)
【文献】実開昭58-143067(JP,U)
【文献】実開昭63-011184(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2004/0056005(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングの内部に、軸線方向に移動可能に筒状本体を収容し、該筒状本体の前端にスタッドを把持するコレットを備え、該コレットの前部には先端に向けて拡径するテーパー部が形成され、前記コレット及び筒状本体をハウジング前方に向けて付勢する付勢手段を有し、前記筒状本体及び前記スタッドを把持した前記コレットを前記付勢手段の力に抗して前記ハウジング内方に移動させた後、コンデンサに蓄積されたエネルギを放電して、スタッドと母材との間でアークを発生させてスタッドを母材に溶接するコンデンサ放電型スタッド溶接ガンであって、
前記スタッド、前記コレット及び前記筒状本体の前記ハウジング内方への移動に連動して、前記コレットの絞り込みを行うコレット締め付け機構を設け、該コレット締め付け機構が、少なくとも前記スタッド、前記コレット及び前記筒状本体が前記ハウジング内方に移動する前に、前記コレットのテーパー部後方の前記コレットを絞らない位置に該コレット締め付け機構を保持する保持手段を備えている
ことを特徴とするスタッド溶接ガン。
【請求項2】
前記コレット締め付け機構が、少なくとも前記テーパー部の最大外径より小さく、かつ、前記テーパー部の最小外径より大きいか又はそれに等しい内径を有するロックリングを備え、
前記コレットが前記ロックリングの内側に軸線方向に移動可能に配置され、
前記コレットをハウジング内方に移動させる過程で、前記ロックリングが前記コレットのテーパー部に接触して、テーパー部を径方向内方に絞り込むように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のスタッド溶接ガン。
【請求項3】
前記ロックリングをコレットの先端方向に向けて付勢するロックリング付勢手段を備えている
ことを特徴とする請求項2に記載のスタッド溶接ガン。
【請求項4】
スタッドを前記コレットに挿入しスタッド端部がストップ棒に当接した初期状態の時、前記ロックリングを、前記ロックリング付勢手段の力に抗して前記コレットにおけるテーパー部後方に保持するために前記ハウジング先端に取り付けられた先端金具内に設けられた係止フランジを備え、前記係止フランジが、前記保持手段を構成する
ことを特徴とする請求項3に記載のスタッド溶接ガン。
【請求項5】
スタッド、コレット及び筒状本体のハウジング内方への移動が前記スタッドを母材に押し付けて前記スタッドを加圧した状態で行なう
ことを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載のスタッド溶接ガン。
【請求項6】
スタッド、コレット及び筒状本体のハウジング内方への移動が前記スタッドを前記スタッド溶接ガンの内方へ押し込み保持し、母材と前記スタッドの間に隙間を設けた状態となるように行なう
ことを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載のスタッド溶接ガン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端部にコレットを備え、該コレットでスタッドを把持した状態で母材に対するスタッドの溶接を行うスタッド溶接ガンの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
スタッド溶接ガンの先端部に、スタッドを保持して溶接電流を流すためにコレットを設けることは従来から行われている。
【0003】
図10は、特許文献1に開示された従来のコンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接ガンの部分断面図である。
【0004】
図中、符号100は円筒状ハウジングを示しており、このハウジング100の後端にはキャップ101が取外し可能に装着されている。また、ハウジング100にはハンドル102が設けられており、ハンドル102にはトリガボタン103が設けられている。
【0005】
ハウジング100の内部には導電体材料の筒状本体104が不図示の軸受けによって軸線方向に摺動可能に支持されている。筒状本体104の先端にはスタッドSを取り付けるためのコレット105が挿入されており、このコレット105は、締付ナット106によって筒状本体104に固定される。
【0006】
図11は、従来のコレット105の概略平面図である。
【0007】
図面に示すように、コレット105は、円筒状本体110に、その中心軸線周りに当角度で長手方向に延びる複数のスリ割り111を設け、これらスリ割り111により複数に分割された把持片113を形成して成り、使用すべきスタッドSをコレット105の先端から把持片113を開きながら押し込むことにより、スタッドSが適切な把持力でコレット105、即ち、把持片113によって保持される。
【0008】
上記コレット105は、その把持片113の弾性力のみでスタッドSを保持するように構成されているが、コレットの締め付け手段を別途設けることも提案されている(特許文献2)。特許文献2には、溶接ガン内部に内蔵されたシリンダに連結杆を介して締付け環を設け、シリンダと共に該締付け環を軸線方向に移動させることにより、該締付け環でコレットのテーパー部を締め付ける機構を溶接ガン本体の外部に設けた溶接ガンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5812685号
【文献】公開実用新案公報昭60-80071号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1ではコレット105は、スリ割り111を設けて、把持片113に径方向の弾性を持たせることによりスタッドSを保持するように構成されている。ところで、コレット105は、その製造工程において、スリ割り加工を施す過程で、コレットの先端(スタッド挿入側)方向に向かって把持片113が拡径する。そのため、最終の組立工程では、プライヤー等の工具でコレット105の把持片113の根本部分を径方向内方に締め付けて、把持片113を、先端に向けて縮径するように絞り込むことでスタッド径に応じた適切な把持力を持たせると共に、適宜箇所にOリング114を装着して把持力を維持している。
【0011】
また、溶接現場においては、溶接時の熱影響、スタッド脱着時の斜め挿入やこじり等が原因で、繰り返しの使用により把持片113が径方向外方に広がったままの形に変形して把持力が弱くなるという問題があり、この問題を解決するためにも、使用者は、定期的にプライヤー等の工具でコレット105の把持片113の根本部分を径方向内方に締め付けて、把持片113を、先端に向けて縮径するように絞り込むことで把持力を回復させる必要があった。
【0012】
スタッドには、おねじスタッドとめねじスタッドがあり、コレットとの対応において管理上及び溶接作業の利便性のため、同一のコレットを使用することが一般的である。例えば、M6おねじスタッドは、外径6mmでめねじ部M3のめねじスタッドと、M8おねじスタッドは、外径8mmでめねじ部M4又はM5のめねじスタッドと、M10おねじスタッドは、外径10mmでめねじ部M5又はM6のめねじスタッドと共用して使用される。ところが、おねじスタッドは転造で製造されることがほとんどでねじ規格内であってもその外径のバラツキが大きい。めねじスタッドは切削で製造されることが多くその外径はφ6mm程でほぼ均一である。
このためり、実際に同一のコレットを使用したとしてもスタッドをコレットに装着するための保持力の微調整をする必要がある。
【0013】
しかし、上記した従来の方法では、コレット105の把持片113をどの程度絞るかは作業者の感覚に依存するため、絞りが強すぎてスタッドSがコレット105に入れ難くなったり、絞りが弱すぎてスタッドSが緩む可能性がある等の問題がある。また、このようにスタッドSを把持する重要なコレット105の把持力を作業者の感だけで調整する従来の方法では、作業者に求められる熟練度が高くなり、作業者に負担を強いることになる。そして、なにより、定期的にプライヤー等でコレットを絞る作業は面倒である。
【0014】
また、通常、コレット105の把持片113を絞る際、溶接でのスパークが起きないように、保持片113はきつく絞られる。そして、スタッドのコレット105への挿入に際しては、スタッド先端に設けられた放電のための突起(チップ)部分を親指の腹で押し込むことになるため、多数個の溶接を行なうときは痛みや苦痛を伴うことが有り得る。
【0015】
また、把持片の先端のゴム製Oリングは、溶接でのスパッタ、溶接熱又は溶接雰囲気等の影響を受けて劣化し易く、溶接作業の現場で頻繁に交換をしなければならないという問題がある。
【0016】
特許文献2に開示されている溶接ガンは、軸線方向の割溝によって分割された先端部の外側周面が先端へ向かって大径となるテーパー状に形成されているコレットと、このコレットを囲んで軸線方向可動に設けられ内側周面が前記コレット先端部の外側周面と同じテーパー状に形成されている締付け環を備えており、溶接ガン内部に内蔵されたシリンダに連結杆を介して前記締付け環を連結することで、シリンダの動作により、締付け環が軸線方向先端側又は後端側に動くように構成されている。そして、前記締付け環の先端側又は後端側への動きにより、コレットを縮径又は拡径してスタッドを保持又は解放する。
【0017】
この特許文献2に係る発明においては、コレット周辺に締付け環及びこれを移動するための機構(連結杆等)が配置されるため、通常の溶接手順であるスタッドのコレットへの挿入、溶接ガンの溶接部材への加圧、スタッドの溶接に加えて、スタッドのコレットへの挿入の次に、締付け環による締付け工程が別途必要になり溶接作業性が悪くなる。また、溶接ガンの取回しが悪くなり、溶接する部材の端部側が立ち上がり壁となっている場合は端部側でのスタッドの溶接を阻害する要因となる。
【0018】
更に、スタッドをコレットに挿入したときの初期保持力の調整を締付け環が取り付けられる連結杆の出し入れにより行なうため調整が面倒である。
さらに、シリンダを介して締付け環を駆動するための外部動力及びその機構が必要になる等、溶接ガンの機構が複雑になり、さらに溶接ガンの重量が増える等の問題がある。
【0019】
引用文献2に係る溶接ガンには、上記の他、下記の問題点もある。
・ コレット締付け環が溶接ガン外部に設けられているのでスパッタの影響を受けやすく、ぶつけたりして破損しやすい。
・ 構造が複雑で、故障しやすい、メンテナンス性に劣る。
・ コレット締付け機構による重量の増加により、スプリング重量荷が大きくなり、後述するアルミスタッド等のギャップ方式による溶接の場合には、押し込み重量が大きくなり対応が難しい。
・ 締付け環により溶接個所が視認しにくく、溶接個所への位置決め及び垂直だしが難しい。
【0020】
本発明は、上記した従来の問題点を解決し、コレットの把持力を自動的に調整することができるスタッド溶接ガンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記した目的を達成するために、本発明に係るスタッド溶接ガンは、ハウジングの内部に、軸線方向に移動可能に筒状本体を収容し、該筒状本体の前端にスタッドを把持するコレットを備え、前記コレット及び筒状本体をハウジング前方に向けて付勢する付勢手段を有し、前記筒状本体及びスタッドを把持したコレットを前記付勢手段の力に抗してハウジング内方に移動させた後、コンデンサに蓄積されたエネルギを放電して、スタッドと母材との間でアークを発生させてスタッドを母材に溶接するコンデンサ放電型スタッド溶接ガンにおいて、スタッド、コレット及び筒状本体のハウジング内方への移動に連動して、コレットの絞り込みを行うコレット絞り込み機構を設けたことを特徴とする。
前記スタッド溶接ガンは、スタッド、コレット及び筒状本体のハウジング内方への移動が前記スタッドを母材に押し付けて前記スタッドを加圧した状態で行なう、所謂、コンタクト方式の溶接ガンであってもよく、また、スタッド、コレット及び筒状本体のハウジング内方への移動が前記スタッドを前記スタッド溶接ガンの内方へ押し込み保持し、母材と前記スタッドの間に隙間を設けた状態となるように行なう、所謂、ギャップ方式の溶接ガンであってもよい。
【0022】
好ましくは、前記コレットが先端に向けて拡径するテーパー部を備え、 前記コレット絞り込み機構が、少なくとも前記テーパー部の最大外径より小さく、かつ、前記テーパー部の最小外径より大きいか又はそれに等しい内径を有するロックリングを備え、前記コレットが前記ロックリングの内側に軸線方向に移動可能に配置され、前記コレットをハウジング内方に移動させる過程で、前記ロックリングが前記コレットのテーパー部に接触して、テーパー部を径方向内方に絞り込むように構成され得る。
【0023】
また、前記ロックリングをコレットの先端方向に向けて付勢するロックリング付勢手段が設けられ得る。この場合、スタッドを加圧していない時に、前記ロックリングを、前記ロックリング付勢手段の力に抗して前記コレットにおけるテーパー部後方に保持する保持手段が設けられ得る。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るスタッド溶接ガンは、ハウジングの内部に、軸線方向に移動可能に筒状本体を収容し、該筒状本体の前端にスタッドを把持するコレットを備え、前記コレット及び筒状本体をハウジング前方に向けて付勢する付勢手段を有し、前記筒状本体及びスタッドを把持したコレットを前記付勢手段の力に抗してハウジング内方に移動させた後、コンデンサに蓄積されたエネルギを放電して、スタッドと母材との間でアークを発生させてスタッドを母材に溶接するコンデンサ放電型スタッド溶接ガンにおいて、スタッド、コレット及び筒状本体のハウジング内方への移動に連動して、コレットの絞り込みを行うコレット絞り込み機構を設けているので、コレットにスタッドを取り付けた後、溶接ガンの通常の溶接操作を行うだけで、コレットの絞りこみを行うことが可能になる。
前記溶接ガンが、スタッド、コレット及び筒状本体のハウジング内方への移動が前記スタッドを母材に押し付けて前記スタッドを加圧した状態で行なう、所謂、コンタクト方式の溶接ガンである場合には、コレットにスタッドを取り付けた後に、スタッドを加圧するだけでコレットの絞り込みが可能になる。
また、前記溶接ガンが、スタッド、コレット及び筒状本体のハウジング内方への移動が前記スタッドを前記スタッド溶接ガンの内方へ押し込み保持し、母材と前記スタッドの間に隙間を設けた状態となるように行なう、所謂、ギャップ方式の溶接ガンである場合には、コレットにスタッドを取り付けた後、筒状本体及びスタッドを把持したコレットをハウジング内方に移動するだけでコレットの絞り込みを行うことが可能になる。
【0025】
また、前記コレットに先端に向けて拡径するテーパー部を形成し、前記コレット絞り込み機構に、少なくとも前記テーパー部の最大外径より小さく、かつ、前記テーパー部の最小外径より大きいか又はそれに等しい内径を有するロックリングを設け、前記コレットを、前記ロックリングの内側に軸線方向に移動可能に配置し、前記コレットをハウジング内方に移動させる過程で、前記ロックリングが前記コレットのテーパー部に接触して、テーパー部を径方向内方に絞り込むように構成することで、スタッドを溶接ガンの内方へ移動する過程でコレットを絞り込むことが可能になり、また、コレット本体とストップ棒を交換することにより様々な径と長さのスタッドを使用することが可能になる。
【0026】
さらに、前記ロックリングをコレットの先端方向に向けて付勢するロックリング付勢手段を設けることにより、該ロックリング付勢手段の付勢力を調整するだけで、ロックリングがコレットを締め付ける力を調整することが可能になる。
【0027】
さらに、スタッドを加圧していない時に、前記ロックリングを、前記ロックリング付勢手段の力に抗して前記コレットにおけるテーパー部後方に保持する保持手段を設けることで、初期状態(即ち、スタッド加圧位置にない状態)においては、コレットが締め付けられないので、スタッドをコレットに取り付けやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係るスタッド溶接ガンの一実施例であるコンタクト式溶接ガンのスタッド押出機構部分の軸線方向断面図であり、この図面では、スタッドは加圧されていない。
図2図1に示した断面図において、スタッドが加圧された状態を示す図である。
図3】コレットの軸線方向断面図である。
図4】コレット絞り込み機構を構成する主たる構成要素の軸線方向断面図である。
図5図1に示したスタッド溶接ガンにおけるコレット絞り込み機構に対応する部分を拡大した軸線方向断面図であり、この図面ではスタッドは加圧されていない。
図6図5に示した断面図において、ロックリングの最大絞込み位置までコレットが移動した状態を示す図である。
図7図5に示した断面図において、スタッドが加圧された状態を示す図である。
図8】本発明に係るスタッド溶接ガンの別の実施例であるギャップ式溶接ガンのスタッド押出機構部分の軸線方向断面図であり、この図面では、スタッドは押し込まれていない。
図9図8に示した断面図において、スタッドが押し込まれ、母材(図示せず)とスタッドとの間に隙間を設けた状態を示す図である。
図10】従来のコンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接ガンの部分断面図である。
図11】従来のコレットの概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面に示した幾つかの実施例を参照して本発明に係るコレット組立体の実施の形態について説明していく。
【0030】
図1及び図2は、本発明に係るスタッド溶接ガンの一実施例であるコンタクト式溶接ガンの一部の概略長手方向断面図である。この実施例に係るスタッド溶接ガンは、基本構造は、図10に示したコンデンサ放電型スタッド溶接ガンと同じ構造であり、スタッドを母材に押し当てることでスタッドを加圧する所謂コンタクト方式のスタッド溶接ガンである。図1はスタッド加圧前の状態を示し、図2はスタッド加圧後の状態を示している。
【0031】
図面に示すように、このスタッド溶接ガンはハウジング1を備え、該ハウジング1の内部には導電性材料から成る筒状本体3が軸線方向に摺動可能に支持されている。
【0032】
図中符号3aは筒状本体3に設けられた径方向外方に突出する環状フランジを示しており、符号5は、前記環状フランジ3aと係止することで筒状本体3の先端方向への移動を規制する規制部材を示している。
また、ハウジング1の内部には筒状本体3を先端方向に向けて押圧するスプリング7が設けられており、このスプリング7によって、筒状本体3は、その環状フランジ3aが規制部材5に係止する位置まで先端方向に動かされている。
【0033】
筒状本体3の先端には、スタッドSを保持するコレット10がナット9によって固定されている。
【0034】
図面に示すように、コレット10の内部には、スタッドストップ棒15が配置され、該ストップ棒15は、その筒状本体3に固定されているストップ棒ベース15aに当接している。
【0035】
ハウジング1の先端には、筒状本体3の前部、ナット9及びコレット10を覆う円筒状の中間金具17及び先端金具19が固定されている。
【0036】
図3は、コレット10の概略軸方向断面図を示している。図面に示すように、コレット10は、この実施例では、二分割式のコレットであり、コレット本体11と、コレット本体11の後端に接続されるコレット延長部13とからなる。コレット本体11と延長部13は一体でもよいが、2体にすることにより、コレット本体及びストップ棒の交換が容易にでき、更に異なるサイズの径及び長さのスタッドが簡便に使用できるという効果がある。
【0037】
コレット本体11は、中心軸線周りに当角度で長手方向に延びる複数のスリ割り11aと、スリ割り11aの後端部に位置するスリ割り窓11bとが形成されている。前記スリ割り11a及びスリ割り窓11bを形成することで、コレット本体11には、複数に分割された把持片11cが形成される。このようにして形成された把持片11cは、その後端がコレット本体11に片持ち支持された樋状の形態であり、径方向外方及び内方に向けて若干の弾性を有する。この実施例では、前記スリ割り11aは、90°の当角度で4本形成されており、従って、4つの把持片11cが形成されている。尚、スリ割り窓4は無くてもよいが、これを設けることでスリ割り加工が容易に成ることと、バネ性の調整が可能となる。
【0038】
また、コレット本体11の前部には、先端に向けて拡径するテーパー部11dが形成されている。図中T1は、テーパー部11dにおける最大外径を示しており、T2はテーパー部11dにおける最小外径を示している。
【0039】
前記したように構成されたコレット10を覆う円筒状の中間金具17及び先端金具19の内部には、スタッドS、コレット10及び筒状本体3の動作に連動してコレット本体11を締め付けるコレット締め付け機構20が設けられている(図1及び図2参照)。
【0040】
図4は、コレット締め付け機構20の主たる構成要素の軸方向断面図である。図面に示すように、このコレット締め付け機構20は、少なくともコレット本体11におけるテーパー部11dの最大外径T1より小さく、かつ、最小外径T2より大きいか、それに等しい内径T3を有するロックリング21と、該ロックリング21が直接先端金具19に接触するのを防止するためにロックリング21と先端金具19との間に設けられる絶縁ワッシャ23と、該ロックリング21をコレット本体11の先端方向に向けて付勢するロックリング付勢手段25とから成る。
【0041】
前記ロックリング付勢手段25は、スプリング27と、一対のスプリングリテーナ29及び31とから成り、スプリング27によって常時コレット本体11の先端方向に向けて前記ロックリング21を押圧するように構成されている。前記スプリング27の弾性力は、ロックリング21が、コレット本体11における把持片11cを径方向内方に絞りながら、コレット本体11のテーパー部11に沿って、コレット本体11の先端方向に移動できる力に調整されている。
【0042】
特に、図5から明らかなように、上記したように構成された、コレット締め付け機構20は、中間金具17及び先端金具19の内部に配置され、このコレット締め付け機構20に、コレット10が軸線方向に移動可能に配置される。コレット締め付け機構20における後側スプリングリテーナ29は、中間金具17に設けられたスプリング係止部材17aに常時係止しているように配置される。一方、前記絶縁ワッシャ23、ロックリング21及び前側スプリングリテーナ31は、スタッドSがコレット10に挿入されスタッドSの端部がストップ棒15の先端に当接した状態におけるスタッドSの加圧前の状態において、前記絶縁ワッシャ23を介して、先端金具19に形成された係止フランジ19aに係止するように配置されている。
【0043】
コレット締め付け機構20の各構成部材の位置及び寸法は、図1及び図5に示す加圧前の状態において、ロックリング21がコレット本体11におけるテーパー部11dより後方に位置するように、即ち、ロックリング21がコレット本体11の把持片11cを径方向内方に絞らない位置にロックリング21を保持できるように決められている。
【0044】
これにより、加圧前の状態において、ロックリング21は、絶縁ワッシャ23を介して係止フランジ19aと係止して、スプリング27の力に抗してその位置、即ち、テーパー部11dより後方位置に保持される。
【0045】
上記した加圧前の状態からスタッドSを不図示の溶接する母材にハウジング内方に向けて加圧するとストップ棒15、筒状本体3、ナット9及びコレット10(コレット延長部材13及びコレット本体11)が、スプリング7の力に抗してハウジング1の内方に移動する(図2及び図6参照)。この間、コレット本体11は、ロックリング21の内側を通過するようにハウジング内方に移動するが、ロックリング21の内径T3がコレット本体11のテーパー部11dの最大外径T1より小さいため、ロックリング21がコレット本体11のテーパー部11d(即ち、把持片11c)を径方向内方に絞り込む。図6は、ロックリング21がコレット本体11のテーパー部11d(即ち、把持片11c)を最も絞り込む最大絞込み位置までコレット10を移動させた状態を示している。尚、ロックリング21がコレット本体11のテーパー部11dを最も絞り込む最大絞込み位置は、コレット本体11に装着されたスタットSの径により異なる。即ち、スタッドSの径が小さい場合には、最大絞込み位置はテーパー部11の最大外径位置に近い位置になり、スタッドSの径が大きい場合には、最大外径位置から離れた位置になる。このように、ロックリング21をスプリング27で先端方向に向けて押圧し、コレット10の軸線方向後方への動きに連動して、ロックリング21がコレット本体11の把持片11cを締め付けるように構成することで、ロックリング21は、使用するスタッドSの径に応じて、溶接時にスパーク無く又スタッド外周面を損傷することが無い適度な締め付け力でコレット本体11を締め付けるようになる。
【0046】
ロックリング21は、最大絞込み位置よりテーパー部11の先端方向に進めないので、図6に示す位置から、さらにコレット10をハウジング内方に向けて移動すると、ロックリング21がコレット本体11のテーパー部11に係止して、ロックリング21、絶縁ワッシャ23及び前側スプリングリテーナ31が、スプリング27の力に抗して、コレット本体11と共にハウジング内方に向けて移動する(図2及び図7参照)。
【0047】
加圧後の状態において、ロックリング21は、先端金具19の係止フランジ19aから離れているので、ロックリング21は、スプリング27によってコレット本体11の先端に向けて常に押圧されている状態に保たれ、結果として、コレット本体11が絞られた状態に維持されることになる。
【0048】
上記した構成により、加圧前はコレット本体11が絞られていない状態なので、スタッドSを容易にコレット本体11に装着することが可能になり、加圧後はコレット本体11がロックリング21によって絞られた状態に維持されるので、コレット本体11でスタッドSを適度な力で保持することが可能になる。さらに、加圧を解除すると、コレット本体11は再び先端方向に向けて移動し、ロックリング21(及び絶縁ワッシャ23)が先端金具19の係止フランジ19aに係止して、コレット本体11を解放し、コレット本体11の締め付けが解放される。
これらの手順は、従来のスタッドのコレットへの挿入、スタッドの母材への加圧、スタッドの溶接これに続く溶接されたスタッドからの溶接ガンの抜取りの手順と何ら変わること無く実施でき、溶接作業の手順変更をまったく伴わないで溶接作業が可能である。
【0049】
上記した実施例では、所謂、コンタクト方式のスタッド溶接ガンを例に挙げて説明をしているが、本発明に係るスタッド溶接ガンは本実施例に限定されることなく、例えば、ハウジング内部に筒状本体を引き上げて保持するソレノイドを備え、スタッド先端から母材を離間した状態で放電を行うギャップ方式のスタッド溶接ガンを用いてもよいことは勿論である。
図8及び図9は、本発明に係るコレット絞り込み機構を備えたギャップ方式の溶接ガンの実施例の長手方向部分断面図である。図8及び図9において、図1図7に示した実施例と同一又は同等の構成要素には、図1図7の実施例に用いた符号と同一の符号を付して、詳細な説明は省略する。
図8は、ギャップ方式の溶接ガンにおいて、図1に示したコンタクト方式の実施例と同じように、スタッドSを、その後端部がストップ棒15の先端に当接する位置まで、前記コレット10に挿入した状態(初期状態)を示している。
図9は、ギャップ方式の溶接ガンにおいて、図2に示したコンタクト方式の実施例と同じように、その後端部がストップ棒15の先端に当接する位置までスタッドSをコレット10に挿入した状態(初期状態)から、スタッドSを手で押し込み、溶接ガンに内蔵したソレノイド40にアーマチュア41が吸着保持された状態を示している。
図8に示す状態から、スタッドSを押し込むことにより、ストップ棒15、筒状本体3、ナット9、コレット10(コレット延長部材13及びコレット本体11)及びシャフト42、アーマチュアシャフト43、アーマチュア41が一体的に後退しアーマチュア41がソレノイド40に吸着保持される(図9)。
この時スプリング7はハウジング1に固定された後部規制部材44により付勢力を得るようになっている。
このスタッドSをコレット10へ装着した後にハウジング1に押し込んで、シャフト42をソレノイド40で吸着する工程の間にコレット締め付け機構20はコンタクト方式と同じ動きをして、使用するスタッドSの径に応じて、溶接時にスパーク無く又スタッド外周面を損傷することが無い適度な締め付け力でコレット本体11を締め付けるようになる。
また、これらの手順は、従来のギャップ方式溶接ガンでのスタッドのコレットへの挿入、スタッドの溶接ガンのソレノイド機構による保持と母材とスタッド先端との隙間(ギャップ)形成、スタッドの溶接、これに続く溶接されたスタッドからの溶接ガンの抜取りの手順となり、ギャップ方式においても従来の手順と何ら変わること無く実施でき、溶接作業の手順変更をまったく伴わないで溶接作業が可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 ハウジング
3 筒状本体
3a 環状フランジ
5 規制部材
7 スプリング
9 ナット
10 コレット
11 コレット本体
11a スリ割り
11b スリ割り窓
11c 把持片
11d テーパー部
13 コレット延長部
15 ストップ棒
15a ストップ棒ベース
17 中間金具
17a スプリング係止部材
19 先端金具
19a 係止フランジ

20 コレット締め付け機構
21 ロックリング
23 絶縁リング
25 ロックリング付勢手段
27 スプリング
29 リテーナ
31 リテーナ

40 ソレノイド
41 アーマチュア
42 シャフト
43 アーマチュアシャフト
44 後部規制部材

T1 テーパー部最大外径
T2 テーパー部の最小外径
T3 ロックリング内径

100 円筒状ハウジング
101 キャップ
102 ハンドル
103 トリガボタン
104 筒状本体
105 コレット
106 締付ナット
110 円筒状本体
111 スリ割り
113 把持片
S スタッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11