(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】皮膚外用剤、トランスグルタミナーゼ1産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、保湿因子産生促進剤、バリア機能改善剤、セラミド産生促進剤、医薬品
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20230413BHJP
A61K 36/744 20060101ALI20230413BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230413BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230413BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230413BHJP
A23L 33/105 20160101ALN20230413BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61K36/744
A61P17/00
A61P43/00 111
A61Q19/00
A23L33/105 ZNA
(21)【出願番号】P 2018246603
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田所 修平
(72)【発明者】
【氏名】山羽 宏行
(72)【発明者】
【氏名】坂井田 勉
【審査官】松本 要
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-519850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 36/00-36/9068
A23L 31/00-33/29
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度100~130℃にて2~4時間水蒸気加熱処理をする蒸気加熱処理工程と、乾燥工程とを含む工程を2~3回繰り返したクチナシの抽出物を含有
することを特徴とする、トランスグルタミナーゼ1産生促進用皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の加熱処理を行ったクチナシの抽出物を含有することにより、トランスグルタミナーゼ1産生促進作用、フィラグリン産生促進作用、保湿因子産生促進作用、バリア機能改善作用、セラミド産生促進作用に優れた外用剤及び内用剤を提供する。
【背景技術】
【0002】
トランスグルタミナーゼはヒトを含めた動物の臓器中に分布する。分子量は3万から10万程度のタンパク質である。主な作用は皮膚最外層に存在する遊離のグルタミン酸残基とリシン残基との反応を触媒し、ε-リシン(γ-グルタミル)結合からなる架橋を形成することにより、表面構造を緻密化することである。反応系の組成によって3つの反応様式がある。いずれの場合もペプチド鎖中のグルタミン酸残基のγ-カルボキシアミド基がアシル供与体となるが、アミン化合物が存在する場合にはそのアミノ基がアシル受容体となり、アミン化合物のペプチドへの付加反応が起こる。ペプチド中のリシン残基のε-アミノ基がアシル受容体として反応すると、ε-リシン-イソペプチド結合によるペプチド鎖間の架橋が形成される。以上の反応は、角化過程でインボルクリンやロリクリンなど疎水性のタンパク質が共有結合で架橋されて、不溶性のコーニファイドエンベロープ(cornified envelope(角質肥厚膜))と呼ばれる細胞膜の裏打ちタンパク質となり角層の安定化に寄与する。この形成において最も重要な役割を担うトランスグルタミナーゼの活性欠乏は、魚鱗癬など皮膚バリアを失う重篤な疾患となる。近年は、セラミドも単独では充分なバリア効果を発揮できず当該酵素による架橋が角質バリアの充実に重要であることも明らかになりつつある。したがって、トランスグルタミナーゼの発現の促進や活性の増強は、表皮角質細胞を正常化し、乾燥肌やアトピー性皮膚炎症状の軽減、及び魚鱗癬の予防や治療に有効である。トランスグルタミナーゼ産生促進剤として、月見草抽出物、パントテインスルホン酸カルシウムやグルコン酸カルシウム等の外用剤が提案されている(特許文献1~2)。しかし、さらなるトランスグルタミナーゼ産生促進剤が求められている。
【0003】
角質層の保湿性に重要な役割を果たしているのが天然保湿因子(NMF)であることは古くから知られており、これまでNMF成分は保湿剤の開発に応用されてきた。角質層におけるNMFの減少は、その保湿性を低下させ乾燥を招く。その結果として乾燥性のカユミが引き起こされる。角質層の保湿性維持の目的でNMFの産生を高めるためにはケラチノサイトにおけるフィラグリンあるいはプロフィラグリンの生成促進が重要であると考えられるようになり、特許文献3、4等の植物成分を用いたフィラグリンあるいはプロフィラグリンの生成促進剤が報告されている。
【0004】
セラミドは、スフィンゴ脂質の一種であり、スフィンゴシンと脂肪酸がアミド結合した化合物群の総称である。セラミドは、細胞膜において高濃度で存在することが知られている。又、セラミドは、角質細胞間脂質の構成成分の一種であり、角化の過程において細胞外に分泌され、皮膚のバリア機能や水分保持能に重要な役割を果たしている。さらに、セラミドは、シグナル伝達物質として、細胞の増殖、分化及びアポトーシス等を制御することが知られている。これらのことから、セラミドの産生を促進する物質には、細胞の増殖抑制、分化誘導及びアポトーシスの誘導効果等が期待でき、これらの異常に起因する疾患に対する治療効果が期待できると考えられる。セラミドとの関連性が高い皮膚疾患として、例えば、扁平上皮癌、乾癬及びアトピー性皮膚炎等が挙げられる。これらのことから、皮膚におけるセラミドの産生を促進することによって、扁平上皮癌、乾癬及びアトピー性皮膚炎等の皮膚疾患を治療及び予防することが可能である。
【0005】
ヒト皮膚には、7系統のセラミドが存在することが確認されており、全種類のセラミドが角質層に存在する比率で補うことが理想的である。従来、この様な肌荒れ、乾燥肌の予防改善に有効な化粧料として、セラミドが種々の皮膚外用剤に配合されているが、ヒトの皮膚に存在する全種類のセラミドを適正な比率で補充することは技術的に困難であった。したがって、生体内におけるセラミド産生を促進する事が重要であると考えられる。セラミド産生促進剤としては、特許文献5、6が報告されている。
【0006】
クチナシ(アカネ科クチナシ属、学名Gardenia jasminoides)は、梅雨時にジャスミンに似た甘い香りのある純白の花を咲かせる植物である。これまでに、クチナシには、コラゲナーゼ阻害作用(特許文献7)、ATP産生促進作用(特許文献8)、セラミド産生促進作用(特許文献9)が報告されている。しかしながら、これまでにクチナシに特定の加熱処理を行う事で、トランスグルタミナーゼ1産生促進作用、フィラグリン産生促進作用、保湿因子産生促進作用、及びセラミド産生促進作用が増強することは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-91376号公報
【文献】特開平11-100320号公報
【文献】特開2001-261568号公報
【文献】特開2002-201125号公報
【文献】特開平8-217658号公報
【文献】特開2001-220345号公報
【文献】特開2003-2813号公報
【文献】特開2009-256272号公報
【文献】特開2002-370998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特定の加熱処理を行ったクチナシの抽出物に、トランスグルタミナーゼ1産生促進作用、フィラグリン産生促進作用、保湿因子産生促進作用、バリア機能改善作用、及びセラミド産生促進作用をより高める事を見出し、安全で安定性に優れた、トランスグルタミナーゼ1産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、保湿因子産生促進剤、バリア機能改善剤、及びセラミド産生促進剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(7)からなる。
【0010】
(1)蒸気加熱処理工程と、乾燥工程とを含む工程で処理したクチナシの抽出物を含有することを特徴とする皮膚外用剤。
(2)前記抽出物を含有することを特徴とするトランスグルタミナーゼ1産生促進剤。
(3)前記抽出物を含有することを特徴とするフィラグリン産生促進剤。
(4)前記抽出物を含有することを特徴とする保湿因子産生促進剤。
(5)前記抽出物を含有することを特徴とするバリア機能改善剤。
(6)前記抽出物を含有することを特徴とするセラミド産生促進剤。
(7)前記抽出物を含有することを特徴とする医薬品。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に用いるクチナシは、アカネ科クチナシ属のクチナシ(学名:Gardenia jasminoides)であり、高さは30~60センチくらいになり、夏季に白色の花を咲かせ、ジャスミンのような芳香を漂わせる。果実は生薬に使用され、「サンシシ」と呼ばれる。
【0012】
本発明における特定の加熱処理とは、生又は乾燥したクチナシについて、蒸気加熱処理工程と、乾燥工程を含む工程で処理することをいう。さらには、蒸気加熱処理を行ったのち、乾燥を行うことがより好ましい。蒸気加熱処理としては、水蒸気、過熱水蒸気等の蒸気を、高湿度雰囲気下、例えば、湿度80%以上の雰囲気下で対象物を加熱する処理をいう。蒸気を対象物に直接接触させることによって行うことができる。また、加熱は常圧下および加圧下で行うことができる。蒸気加熱処理の条件としては、温度は、70~180℃が好ましく、100~130℃がより好ましい。時間は、温度によって異なるが、1~10時間が好ましく、2~4時間がより好ましい。これらの温度及び時間の条件はあくまで例示であり、温度及び時間の相互の関係で適宜変更できる。また、本発明における蒸気加熱処理は、連続式またはバッチ式のスチーマー(蒸し器)やオートクレーブなどを用いて行うことができる。また、乾燥工程としては、植物体の乾燥方法として通常用いられる方法が利用できる。例えば、自然乾燥(風乾)、天日乾燥、乾熱乾燥、通風乾燥、熱風乾燥、噴霧乾燥、減圧乾燥、真空乾燥等が挙げられ、好ましくは、乾熱乾燥、通風乾燥、熱風乾燥である。乾燥する温度及び乾燥時間は特に限定されないが、温度は40~70℃が好ましく、乾燥時間は乾燥温度、蒸気加熱処理後のクチナシの水分含量、乾燥する総量によって異なるが、概ね4~24時間の範囲である。本発明における加熱処理の回数は、1~5回行うことが好ましく、2~3回がより好ましい。
【0013】
本発明におけるクチナシの抽出物とは、クチナシの花、実(果実)、種子、葉、茎、根等の植物体の一部又は全草を前記の加熱処理を行った後に抽出したものである。好ましくは、実(果実)を加熱処理したものが良い。その抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出したものであってもよいし、常温抽出したものであってもよい。また、抽出には、植物体をそのまま使用してもよく、乾燥、粉砕、細切等の処理を行ってもよい。
【0014】
抽出方法は、特に限定されないが、水もしくは熱水、または水と有機溶媒の混合溶媒を用い、撹拌またはカラム抽出する方法等により行うことができる。抽出溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)が挙げられる。好ましくは、水、低級アルコール及び液状多価アルコール等の極性溶媒が良く、特に好ましくは、水、エタノール、1,3-ブチレングリコール及びプロピレングリコールがよい。これらの溶媒は一種でも二種以上を混合して用いてもよい。特に好ましい抽出溶媒としては、水、または水-エタノール系の混合極性溶媒が挙げられる。溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えばクチナシの全草(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であればよいが、抽出後に濃縮を行ったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類や抽出時の圧力等によって適宜選択できる。
【0015】
上記抽出物は、抽出した溶液のまま用いてもよいが、必要に応じて、本発明の効果を奏する範囲で、濃縮(減圧濃縮、膜濃縮等による濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いてもよい。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いてもよい。
【0016】
本発明は、上記抽出物をそのまま使用しても良く、抽出物の効果を損なわない範囲内で、化粧品、医薬部外品、医薬品又は食品等に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、キレート剤、賦形剤、皮膜剤、甘味料、酸味料等の成分が含有されていてもよい。
【0017】
保湿因子産生促進剤とは、フィラグリン及びプロフィラグリンを前駆物質とする、天然保湿因子の産生を高める物質のことを指す。
【0018】
バリア機能改善剤とは、角質細胞間脂質の構成成分の一種であるセラミドの産生を促進すること、細胞膜の裏打ちタンパク質の産生酵素の1種であるトランスグルタミナーゼ1の産生を促進することにより、角化の正常化に関与し、外的ストレスから肌を守る作用を高める物質を指す。
【0019】
本発明は、化粧品、医薬部外品、医薬品、食品のいずれにも用いることができ、その剤形としては、例えば、化粧水、クリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール剤、エッセンス、パック、洗浄剤、浴用剤、ファンデーション、打粉、口紅、軟膏、パップ剤、錠菓、カプセル剤、チョコレート、ガム、飴、飲料、散剤、顆粒剤、錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、シロップ剤、丸剤、懸濁剤、液剤、乳剤、坐剤、注射用溶液等が挙げられる。
【0020】
外用の場合、本発明に用いる上記抽出物の含有量は、固形物に換算して0.0001重量%以上が好ましく、0.001~10重量%がより好ましい。さらに、0.01~5重量%が最も好ましい。0.0001重量%未満では十分な効果は望みにくい。10重量%を越えると、効果の増強は認められにくく不経済である。
【0021】
内用の場合、摂取量は年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なる。通常、成人1人当たりの1日の摂取量としては、5mg以上が好ましく、10mg~5gがより好ましい。さらに、20mg~2gが最も好ましい。
【0022】
次に本発明を詳細に説明するため、実施例として本発明に用いる抽出物の製造例、実験例及び処方例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。製造例に示す%とは重量%を示す。
【実施例1】
【0023】
加熱処理したクチナシの抽出物の製造例
加熱処理したクチナシの抽出物を以下のとおり製造した。製造例1~4において抽出材料にはクチナシの実を用いた。
【0024】
(製造例1)加熱処理したクチナシの熱水抽出物の調製
121℃で2時間蒸気加熱処理したのち、60℃で5時間乾熱乾燥したクチナシの実の乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して加熱処理したクチナシの熱水抽出物を1.4g得た。
【0025】
(製造例2)加熱処理したクチナシの50%エタノール抽出物の調製
121℃で2時間蒸気加熱処理したのち、60℃で5時間乾熱乾燥したクチナシの実の乾燥物10gを200mLの50%エタノール水溶液に室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固して加熱処理したクチナシの50%エタノール抽出物を1.1g得た。
【0026】
(製造例3)加熱処理したクチナシの熱水抽出物2の調製
121℃で2時間蒸気加熱処理したのち、60℃で5時間乾熱乾燥させる処理を2回繰り返したクチナシの実の乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して加熱処理したクチナシの熱水抽出物2を1.4g得た。
【0027】
(製造例4)加熱処理したクチナシの50%エタノール抽出物2の調製
121℃で2時間蒸気加熱処理したのち、60℃で5時間乾熱乾燥させる処理を2回繰り返したクチナシの実の乾燥物10gを200mLの50%エタノール水溶液に室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固して加熱処理したクチナシの50%エタノール抽出物2を1.1g得た。
【0028】
(比較製造例1)未処理のクチナシの熱水抽出物の調製
クチナシの実の乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して未処理のクチナシの熱水抽出物を1.4g得た。
【0029】
(比較製造例2)未処理のクチナシの50%エタノール抽出物の調製
クチナシの実の乾燥物10gを200mLの50%エタノール水溶液に室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固して未処理のクチナシの50%エタノール抽出物を1.1g得た。
【実施例2】
【0030】
(処方例1) 化粧水
処方 含有量(%)
1.加熱処理したクチナシの熱水抽出物(製造例1) 2.0
2.1,3-ブチレングリコール 8.0
3.グリセリン 2.0
4.キサンタンガム 0.02
5.クエン酸 0.01
6.クエン酸ナトリウム 0.1
7.エタノール 5.0
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(40E.O.) 0.1
10.香料 適量
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~6及び11と、成分7~10をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合し濾過して製品とする。
【0031】
(比較処方例1) 従来の化粧水
処方例1において、加熱処理したクチナシの熱水抽出物を精製水に置き換えたものを、従来の化粧水とした。
【0032】
(処方例2) クリーム
処方 含有量(%)
1.加熱処理したクチナシの50%エタノール抽出物(製造例2) 1.0
2.スクワラン 5.5
3.オリーブ油 3.0
4.ステアリン酸 2.0
5.ミツロウ 2.0
6.ミリスチン酸オクチルドデシル 3.5
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ベヘニルアルコール 1.5
9.モノステアリン酸グリセリン 2.5
10.香料 0.1
11.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
12.1,3-ブチレングリコール 8.5
13.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2~9を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1及び11~13を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分10を加え、さらに30℃まで冷却して製品とする。
【0033】
(比較処方例2) 従来のクリーム
処方例2において、加熱処理したクチナシの50%エタノール抽出物を精製水に置き換えたものを、従来のクリームとした。
【0034】
(処方例3) 乳液
処方 含有量(%)
1.加熱処理したクチナシの50%エタノール抽出物(製造例2) 0.01
2.スクワラン 5.0
3.オリーブ油 5.0
4.ホホバ油 5.0
5.セタノール 1.5
6.モノステアリン酸グリセリン 2.0
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(20E.O.) 2.0
9.香料 0.1
10.プロピレングリコール 1.0
11.グリセリン 2.0
12.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
13.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~8を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分10~13を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分9を加え、さらに30℃まで冷却して製品とする。
【0035】
(処方例4) ゲル剤
処方 含有量(%)
1.加熱処理したクチナシの熱水抽出物2(製造例3) 1.0
2.エタノール 5.0
3.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
4.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.) 0.1
5.香料 適量
6.1,3-ブチレングリコール 5.0
7.グリセリン 5.0
8.キサンタンガム 0.1
9.カルボキシビニルポリマー 0.2
10.水酸化カリウム 0.2
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2~5と、成分1及び6~11をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合して製品とする。
【0036】
(処方例5) パック
処方 含有量(%)
1.加熱処理したクチナシの50%エタノール抽出物2(製造例4) 1.0
2.加熱処理したクチナシの50%エタノール抽出物(製造例2) 5.0
3.ポリビニルアルコール 12.0
4.エタノール 5.0
5.1,3-ブチレングリコール 8.0
6.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
7.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(20E.O.) 0.5
8.クエン酸 0.1
9.クエン酸ナトリウム 0.3
10.香料 適量
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~11を均一に溶解し製品とする。
【0037】
(処方例6) ファンデーション
処方 含有量(%)
1.加熱処理したクチナシの50%エタノール抽出物2(製造例4) 1.0
2.ステアリン酸 2.4
3.ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(20E.O.) 1.0
4.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 2.0
5.セタノール 1.0
6.液状ラノリン 2.0
7.流動パラフィン 3.0
8.ミリスチン酸イソプロピル 6.5
9.カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.1
10.ベントナイト 0.5
11.プロピレングリコール 4.0
12.トリエタノールアミン 1.1
13.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
14.二酸化チタン 8.0
15.タルク 4.0
16.ベンガラ 1.0
17.黄酸化鉄 2.0
18.香料 適量
19.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2~8を加熱溶解し、80℃に保ち油相とする。成分19に成分9をよく膨潤させ、続いて、成分1及び10~13を加えて均一に混合する。これに粉砕機で粉砕混合した成分14~17を加え、ホモミキサーで撹拌し75℃に保ち水相とする。油相に水相をかき混ぜながら加え、乳化する。その後、冷却し、45℃で成分18を加え、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
【0038】
(処方例7) 浴用剤
処方 含有量(%)
1.加熱処理したクチナシの熱水抽出物2(製造例3) 1.0
2.炭酸水素ナトリウム 50.0
3.黄色202号(1) 適量
4.香料 適量
5.硫酸ナトリウムにて全量を100とする
[製造方法]成分1~5を均一に混合し製品とする。
【0039】
(処方例8) 軟膏
処方 含有量(%)
1.加熱処理したクチナシの熱水抽出物(製造例1) 5.0
2.加熱処理したクチナシの50%エタノール抽出物2(製造例4) 1.0
3.ポリオキシエチレンセチルエーテル(30E.O.) 2.0
4.モノステアリン酸グリセリン 10.0
5.流動パラフィン 5.0
6.セタノール 6.0
7.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
8.プロピレングリコール 10.0
9.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分3~6を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1、2及び7~9を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
【0040】
(処方例9) 散剤
処方 含有量(%)
1.加熱処理したクチナシの熱水抽出物2(製造例3) 1.0
2.乾燥コーンスターチ 39.0
3.微結晶セルロース 60.0
[製造方法]成分1~3を混合し、散剤とする。
【0041】
(処方例10) 錠剤
処方 含有量(%)
1.加熱処理したクチナシの50%エタノール抽出物(製造例2) 5.0
2.乾燥コーンスターチ 25.0
3.カルボキシメチルセルロースカルシウム 20.0
4.微結晶セルロース 40.0
5.ポリビニルピロリドン 7.0
6.タルク 3.0
[製造方法]成分1~4を混合し、次いで成分5の水溶液を結合剤として加えて顆粒成型する。成型した顆粒に成分6を加えて打錠する。1錠0.52gとする。
【0042】
(処方例11) 錠菓
処方 含有量(重量%)
1.加熱処理したクチナシの50%エタノール抽出物(製造例2) 2.0
2.乾燥コーンスターチ 49.8
3.エリスリトール 40.0
4.クエン酸 5.0
5.ショ糖脂肪酸エステル 3.0
6.香料 0.1
7.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~4及び7を混合し、顆粒成型する。成型した顆粒に成分5及び6を加えて打錠する。1粒1.0gとする。
【0043】
(処方例12) 飲料
処方 含有量(重量%)
1.加熱処理したクチナシの熱水抽出物(製造例1) 0.05
2.ステビア 0.05
3.リンゴ酸 5.0
4.香料 0.1
5.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2及び3を少量の水に溶解する。次いで、成分1、4及び5を加えて混合する。
【0044】
次に、本発明の効果を詳細に説明するため、実験例を挙げる。
【実施例3】
【0045】
実験例1 保湿因子産生及びバリア機能改善促進試験
10%FCSを含むDMEM培地にて培養したケラチノサイトに、最終の濃度が細胞毒性を示さない1、10、及び100μg/mLとなるように無血清培地に加え、24時間培養した。試料未添加群を対照とした。細胞に、RNAiso(タカラバイオ株式会社)を加え、定法によりRNAを抽出した。得られた総RNAを基にRT-PCR法により、NMF産生因子としてfilaggrin(FLG)、calpain 1(CAPN)、角質形成酵素としてtransglutaminase 1(TGM1)、セラミド合成酵素として3-ketodihydrosphingosine reductase(KDSR)、内部標準としてglyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase (GAPDH) mRNA発現量を測定した。RT-PCR法には、SYBR Select Master Mix (Thermo Fisher Scientific K.K.)を用いた。95 ℃ 2 分の初期変性を行った後、PCR反応として 95 ℃ 15 秒、60 ℃ 30 秒を 1 cycle として40cycle 行った。その他の操作は、定められた方法に従い、FLG、CAPN、TGM1及びKDSRのmRNA発現量をGAPDH mRNA発現量に対する割合として求めた。なお、各遺伝子の発現量の測定に使用したプライマーは次のとおりである。
【0046】
FLGのプライマーセット
GGCACTGAAAGGCAAAAAGG(配列番号1)
AAACCCGGATTCACCATAATCA(配列番号2)
CAPNのプライマーセット
TGCTCCATAGACATCTCCAG(配列番号3)
GAATGACATCCAGAACTCCC(配列番号4)
TGM1のプライマーセット
CACCTGAACCATGATTCTGTC(配列番号5)
AGAAGATGCCACTGCTAGTC(配列番号6)
KDSRのプライマーセット
ATTCGGTTTCACAGCCTACTC(配列番号7)
ATATGGCTTCACCTCCATCTG(配列番号8)
GAPDHのプライマーセット
TGCACCACCAACTGCTTAGC(配列番号9)
TCTTCTGGGTGGCAGTGATG(配列番号10)
【0047】
これらの実験結果を表1に示した。その結果、本発明の加熱処理したクチナシの熱水抽出物2(製造例3)について、優れたFLG、TGM1、及びKDSRのmRNA発現促進作用を示した。その効果は未処理のクチナシの熱水抽出物よりも著しく高かった。製造例1~2、4の加熱処理したクチナシの抽出物も試験を実施し、同様の効果が認められた。
【0048】
【0049】
実験例2 使用試験
処方例1の化粧水及び比較処方例1の従来の化粧水を用いて、シワ、たるみがある5人(25~65才)を対象に1ヶ月間の使用試験を行った。使用後、シワ、たるみの程度をアンケートにより判定した。
【0050】
その結果、本発明の抽出物を含有する皮膚外用剤により、シワ、たるみが軽減した。尚、試験期間中、皮膚トラブルは一人もなく、安全性においても問題なかった。また、処方成分の劣化についても問題なかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のことから、本発明の特定の加熱処理したクチナシの抽出物は、優れたトランスグルタミナーゼ1産生促進作用、フィラグリン産生促進作用、保湿因子産生促進作用、バリア機能改善作用、及びセラミド産生促進作用を有し、安定性にも優れていた。よって、本発明のクチナシの抽出物は、美容分野だけでなく、老化による機能低下の抑制、ガンの予防、治療等といった医療分野にも利用でき、食品、化粧品、医薬部外品及び医薬品等への応用ができる。
【配列表】