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特許7261453移動式歯科診療装置および歯科診療システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】移動式歯科診療装置および歯科診療システム
(51)【国際特許分類】
   A61C 19/00 20060101AFI20230413BHJP
【FI】
A61C19/00 D
A61C19/00 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019020684
(22)【出願日】2019-02-07
(65)【公開番号】P2020127560
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000141598
【氏名又は名称】株式会社吉田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】根本 忠明
(72)【発明者】
【氏名】坂田 和隆
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-532541(JP,A)
【文献】特開2000-166995(JP,A)
【文献】特開平01-175849(JP,A)
【文献】特開2004-159998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科診療で使用する歯科診療モジュールと、
移動手段および前記移動手段を制御する移動制御手段を有する移動モジュールと、
前記移動モジュールを駆動するための駆動エネルギ供給部と、を備えた移動式歯科診療装置であって、
前記移動制御手段は、当該移動式歯科診療装置の配置に関連する装置配置情報に基づいて所定の位置に移動させ、
さらに、前記移動式歯科診療装置が配置された後の位置修正に関する位置修正情報を取得する位置修正情報取得手段を有し、
前記位置修正情報取得手段は、修正後の修正位置と前記修正位置における経過時間とを対応付けて取得する、
ことを特徴とする移動式歯科診療装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動式歯科診療装置であって、
前記移動制御手段は、前記歯科診療を行う術者、前記術者を補助する補助者および前記歯科診療を受ける患者の何れかである診療関与者又は前記診療関与者が座る椅子の少なくとも一部分を基準として当該移動式歯科診療装置を配置する、
ことを特徴とする移動式歯科診療装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の移動式歯科診療装置であって、
前記移動制御手段は、
診療開始前の時点で、移動に適した待機位置に当該移動式歯科診療装置を移動させ、
患者導入又は診療開始の時点で、前記歯科診療に適した診療位置に当該移動式歯科診療装置を移動させる、
ことを特徴とする移動式歯科診療装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項の何れか一項に記載の移動式歯科診療装置であって、
前記装置配置情報は、前記歯科診療を行う術者、前記術者を補助する補助者および前記歯科診療を受ける患者の何れかに関する診療関与者情報ならびに前記歯科診療の内容に関する診療情報の少なくとも何れか一方に対応付けられている、
ことを特徴とする移動式歯科診療装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項の何れか一項に記載の移動式歯科診療装置であって、
通信ネットワークを介して通信可能な処理部を備えた情報共有先との間で情報の送受信を行う通信手段を備える、
ことを特徴とする移動式歯科診療装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項の何れか一項に記載の移動式歯科診療装置と、
患者導入又は診療開始に伴って移動しない非移動式歯科診療装置と、を備える、
ことを特徴とする歯科診療システム。
【請求項7】
請求項に記載の移動式歯科診療装置と、前記情報共有先と、を備える歯科診療システムであって、
前記移動式歯科診療装置又は前記情報共有先は、
前記装置配置情報を記憶する装置配置情報記憶手段と、
前記移動式歯科診療装置が配置された後の位置修正に関する位置修正情報を記憶する位置修正情報記憶手段と、
前記位置修正情報に基づいて新たな装置配置情報を決定し、前記装置配置情報を更新する装置配置情報更新手段と、を有する、
ことを特徴とする歯科診療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動式歯科診療装置および歯科診療システムに係り、特に、移動手段を用いて自律移動可能な移動式歯科診療装置および歯科診療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1のように、着脱可能な診療モジュールを有し、可搬(移動)することを可能とする可搬型歯科診療装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-142604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、医者(術者)や衛生士(補助者)などが自身で可搬型歯科診療装置を移動する必要があり、労力を要するという問題があった。また、所定の位置に移動する際に可搬型歯科診療装置に触れるので、衛生上好ましくなかった。
【0005】
本発明は、前記した事情に鑑みてなされたものであり、移動の労力を低減できるとともに衛生面で有利な移動式歯科診療装置および歯科診療システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、歯科診療で使用する歯科診療モジュールと、移動手段および前記移動手段を制御する移動制御手段を有する移動モジュールと、前記移動モジュールを駆動するための駆動エネルギ供給部と、を備えた移動式歯科診療装置であって、前記移動制御手段は、当該移動式歯科診療装置の配置に関連する装置配置情報に基づいて所定の位置に移動させ、さらに、前記移動式歯科診療装置が配置された後の位置修正に関する位置修正情報を取得する位置修正情報取得手段を有し、前記位置修正情報取得手段は、修正後の修正位置と前記修正位置における経過時間とを対応付けて取得する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、移動の労力を低減できるとともに衛生面で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る歯科診療システムの概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る歯科診療システムの一例を示す図である。
図3】移動式歯科診療装置としてのドクターモジュールの概略構成図である。
図4】移動式歯科診療装置としてのアシスタントモジュールの概略構成図である。
図5】移動式歯科診療装置としてのスピットンモジュールの概略構成図である。
図6A】本発明の実施形態に係る歯科診療システムの処理の一例を示すフローチャートである。
図6B】本発明の実施形態に係る歯科診療システムの処理の一例を示すフローチャートである。
図6C】本発明の実施形態に係る歯科診療システムの処理の一例を示すフローチャートである。
図6D】本発明の実施形態に係る歯科診療システムの処理の一例を示すフローチャートである。
図7】術者の位置に対応付けた移動式歯科診療装置の診療位置の例示であり、(a)は「12時のポジション」における診療位置を示し、(b)は「10時のポジション」における診療位置を示し、(c)は「9時のポジション」における診療位置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0010】
<実施形態に係る歯科診療システムの構成について>
図1を参照して、実施形態に係る歯科診療システム1の構成について説明する。歯科診療システム1は、歯科診療を行うためのシステムであり、歯科診療ユニット2と、情報処理装置6と、位置検出装置7と、を備える。
歯科診療ユニット2は、一つ以上の歯科診療装置3からなり、歯科診療ユニット2を構成する歯科診療装置3は、術者、補助者および患者(以下では、まとめて「診療関与者」と称する)が歯科診療で使用するものである。そのため、歯科診療装置3は、歯科診療で使用する機能を備えており、以下ではその機能を実現する構成要素を特に「歯科診療モジュール10」と称する。
【0011】
術者が使用する歯科診療装置3は、例えば、エアタービンハンドピースやマイクロモータハンドピース等のインスツルメントやこれらを有する装置、足踏み操作用のフットコントローラ、患者を照らす無影灯、術者が座る椅子などである。
補助者が使用する歯科診療装置3は、例えば、シリンジ、バキューム、排唾器具などやこれらを有する装置、補助者が座る椅子などである。
患者が使用する歯科診療装置3は、例えば、うがい鉢(スピットン)などやこれらを有する装置、患者が座る椅子などである。
【0012】
歯科診療ユニット2には、自律移動可能な歯科診療装置3が少なくとも一つ含まれている。自律移動とは、診療関与者の操縦や操作によらずに予め設定された制御に従って自動で移動することを意味し、診療関与者の操縦や操作によって位置を変更する移動とは区別される。
以下では、自律移動可能な歯科診療装置3を特に「移動式歯科診療装置4」と称し、自律移動可能でない歯科診療装置3を特に「非移動式歯科診療装置5」と称する。非移動式歯科診療装置5には、移動手段を有するものの自律移動できないものや移動手段を有さない床などに固定された歯科診療装置3も含まれる。なお、歯科診療ユニット2を構成するもの全てが移動式歯科診療装置4であってもよい。
【0013】
移動式歯科診療装置4は、歯科診療モジュール10に加えて、移動モジュール20と、装置情報モジュール30とを備える。
【0014】
移動モジュール20は、自律移動を実現する構成要素であり、例えば、移動式歯科診療装置4を移動させるための移動手段20aと、移動手段20aを制御する移動制御手段20bとからなる。移動の方法(つまり、移動手段20aの種類)は特に限定されず、ここでの移動には、車輪を回転させて進行する走行、脚部を用いた歩行、空中を移動する飛行などが含まれる。移動制御手段20bは、例えば、CPU(Central Processing Unit)によるプログラム実行処理や、専用回路等により実現される。
【0015】
移動制御手段20bは、移動式歯科診療装置4の配置に関連する装置配置情報に基づいて移動式歯科診療装置4の位置を変更(移動)させる。移動制御手段20bは、例えば、患者導入又は診療開始に伴って、診療関与者又は診療関与者が座る椅子の少なくとも一部分(例えば、頭部を置くヘッドセットや座面など)を基準として移動式歯科診療装置4を配置する。より具体的な一例として、移動制御手段20bは、診療開始前の時点では診療関与者の移動に適した(例えば、診療関与者の邪魔にならない)待機位置に移動式歯科診療装置4を位置させておき、患者導入や診療開始の時点で診療に適した(例えば、診療関与者に近寄った)診療位置に移動式歯科診療装置4を移動させる。また、移動制御手段20bは、診療終了後に診療関与者の移動に適した(例えば、診療関与者の邪魔にならない)待機位置に移動式歯科診療装置4を再び移動させる。移動制御手段20bの詳細は後記する。
【0016】
装置情報モジュール30は、自律移動の制御に必要な情報の取得や保持を実現する構成要素である。装置情報モジュール30は、例えば、移動式歯科診療装置4の位置情報や診療関与者の位置情報などを取得する位置情報取得手段30aと、移動式歯科診療装置4の配置に関する装置配置情報を記憶する装置配置情報記憶手段30bと、移動式歯科診療装置4が配置された後の位置修正に関する位置修正情報を取得する位置修正情報取得手段30cからなる。位置情報は、例えば、任意に設定された座標系での移動式歯科診療装置4の時刻毎の座標値(例えば、緯度、経度、標高)、基準となる位置に対する方向および距離などであってよい。また、装置配置情報は、例えば、診療関与者の位置又は診療関与者が座る椅子の少なくとも一部分の位置の座標値などである。装置配置情報は、診療関与者の一部分又は診療関与者が座る椅子の少なくとも一部分の画像であってもよい。位置情報を取得する方法(つまり、位置情報取得手段30aの種類)は特に限定されず、ここでの取得には、他の装置(情報共有先)からの信号の受信、自身が有する機器を用いた検出、他の装置(情報共有先)との通信などが含まれる。
【0017】
位置修正情報は、例えば、修正後の向きや座標値(例えば、緯度、経度、標高)、基準となる位置に対する方向および距離などであってよい。初期設定(工場出荷時に予め登録される装置配置情報やクラウド上にあがっている他の術者の統計から定めた位置等)において、診療関与者が意図した位置に移動式歯科診療装置4が必ずしも配置されない場合が想定される。その場合、診療関与者は、実際の診療になった際に移動式歯科診療装置4の位置を自分の好みに合わせて修正する。
【0018】
位置情報取得手段30aは、例えば、情報共有先(例えば、位置検出装置7)から位置情報を受信する通信ユニット(通信手段)、GPS(Global Positioning System)ユニット、IMES(Indoor Messaging System)ユニット、BLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)やWi-Fiなどの通信技術を用いた測位技術に対応する装置、レーザー距離計などである。なお、位置情報取得手段30aは、これらの手段と慣性航法(INS)とを併用してもよい。ここでは、位置検出装置7から診療室内にいる診療関与者や様々な装置の位置情報を取得する場合を想定して説明する。
【0019】
装置配置情報記憶手段30bは、例えば、HDD(hard disk drive)やメモリであって、装置配置情報を自身の自律移動の制御に必要な範囲内で記憶する。装置配置情報は、診療の開始前に予め術者や補助者によって登録される。装置配置情報は、位置修正情報によって更新されたものであってもよい。ここでは、情報処理装置6を用いて登録された装置配置情報を無線通信によって取得および記憶する場合を想定して説明する。
【0020】
位置修正情報取得手段30cは、例えば、修正後の修正位置と当該修正位置における経過時間とを対応付けて取得する。位置情報が変化しないことを読み取る方法としては、レーザー測距による位置が変化しない、GPSで取得する座標位置が変わらない、移動手段20aの駆動部(モータ等)の出力がない、医院内又は移動式歯科診療装置4に備わるカメラ画像上での位置が変わらないことなどが挙げられる。
【0021】
情報処理装置6は、自律移動の制御に必要な情報を管理する構成要素である。情報処理装置6は、例えば、PC(Personal Computer)であって、移動式歯科診療装置4と無線通信可能である。情報処理装置6は、例えば、装置配置情報設定手段6aと、装置配置情報記憶手段6bと、装置配置情報抽出手段6cと、位置修正情報記憶手段6dと、装置配置情報更新手段6eとを備える。装置配置情報設定手段6a、装置配置情報記憶手段6b、装置配置情報抽出手段6c、位置修正情報記憶手段6dおよび装置配置情報更新手段6eは、例えば、CPU(Central Processing Unit)によるプログラム実行処理や、専用回路等により実現される。情報処理装置6の設置場所は特に限定されない。なお、情報処理装置6が備える機能(例えば、装置配置情報設定手段6a、装置配置情報記憶手段6bおよび装置配置情報抽出手段6c)の一部を移動式歯科診療装置4が備える構成であってもよい。
【0022】
装置配置情報設定手段6aは、歯科診療システム1を構成する移動式歯科診療装置4の装置配置情報の設定を実現する機能であり、例えば、図示しない入力手段を介して装置配置情報の入力を受け付ける。装置配置情報設定手段6aによって設定された装置配置情報は、装置配置情報記憶手段6bに記憶される。
【0023】
装置配置情報記憶手段6bは、歯科診療システム1を構成する移動式歯科診療装置4の装置配置情報を記憶する。装置配置情報記憶手段6bは、例えば、各々の移動式歯科診療装置4に対応付けて待機位置や診療位置の座標値を記憶する。なお、装置配置情報記憶手段6bに記憶される装置配置情報は、診療関与者に関する診療関与者情報および歯科診療の内容に関する診療情報の少なくとも何れか一方に対応付けられていてもよい。診療関与者情報には、診療関与者を識別する情報や診療関与者の身体的特徴の情報などが広く含まれ、例えば、診療関与者の名称、診療関与者に与えられたID(Identification)、診療関与者の身長などである。つまり、一つの移動式歯科診療装置4に対して、複数の待機位置や診療位置の座標値が登録されていてもよい。装置配置情報を診療関与者情報に対応付けた場合、診療関与者の好みに合わせた位置に移動式歯科診療装置4を配置できる。また、装置配置情報を診療情報に対応付けた場合、診療情報に合わせた位置に移動式歯科診療装置4を配置できる。なお、診療情報には、診療に関する情報が広く含まれ、例えば、診療中の術者の位置情報も含まれる。
【0024】
装置配置情報抽出手段6cは、装置配置情報記憶手段6bから装置配置情報を抽出し、移動式歯科診療装置4に通知する。装置配置情報記憶手段6bで診療関与者情報や診療情報に対応付けられて装置配置情報が記憶されている場合、例えば診療情報や診療を担当する術者に応じた装置配置情報を抽出し、移動式歯科診療装置4に通知する。
【0025】
位置修正情報記憶手段6dは、移動式歯科診療装置4が配置された後の位置修正に関する位置修正情報を記憶する。位置修正情報は、例えば、実際の診療になった際の移動式歯科診療装置4の位置である。位置修正情報記憶手段6dは、修正後の修正位置と当該修正位置における経過時間とを対応付けて記憶するのがよい。特に、位置修正情報記憶手段6dは、所定の診療において位置情報が変化しない(止まっている時間が長い)位置を記憶するのがよい。
【0026】
装置配置情報更新手段6eは、位置修正情報に基づいて新たな装置配置情報を決定し、装置配置情報設定手段6aに記憶される装置配置情報を更新する。装置配置情報更新手段6eは、例えば、所定の診療において位置情報が変化しない(止まっている時間が長い)位置を新たな配置位置として装置配置情報を更新する。また、装置配置情報更新手段6eは、位置修正情報の分析を行うことで最適な配置位置を決定し、決定した最適な配置位置によって装置配置情報を更新してもよい。最適な配置位置を決定する方法は、例えば、統計的な手法を用いて確率の高い位置を新たな配置位置とする方法、平均化したものを新たな配置位置とする方法、最新の修正位置を新たな配置位置とする方法などであってよい。
【0027】
位置検出装置7は、診療室内に存在するものの位置を検出する構成要素である。位置検出装置7は、例えば、カメラであって、移動式歯科診療装置4と無線通信可能である。位置検出装置7は、例えば、位置情報検出手段7aを備える。位置情報検出手段7aは、例えば、CPU(Central Processing Unit)によるプログラム実行処理や、専用回路等により実現される。なお、位置検出装置7が備える機能(例えば、位置情報検出手段7a)の一部を移動式歯科診療装置4が備える構成であってもよい。
【0028】
位置情報検出手段7aは、診療室内に存在するものの位置を検出する機能であり、例えば、撮影手段を介して撮影した映像(画像を含む)を画像解析し、移動式歯科診療装置4、非移動式歯科診療装置5、診療関与者の位置を検出する。位置情報検出手段7aは、検出したこれらの位置情報を移動式歯科診療装置4に通知する。位置情報検出手段7aによる位置情報の通知は、情報共有先(例えば、情報処理装置6)を介して行われてもよく、また、各々の移動式歯科診療装置4による自律移動の制御に必要な範囲内で行われればよい。
【0029】
<実施形態に係る歯科診療システムの構成の例示>
実施形態に係る歯科診療システム1の一例を図2に示す。歯科診療システム1は、歯科診療を行う場所(例えば、歯科医院内の診療室)に配置される。図2に示すように、ここでの歯科診療システム1は、患者が着座する患者用椅子5Aと、術者が着座する術者用椅子5Bと、補助者が着座する補助者用椅子5Cと、術者が操作するドクターモジュール4Aと、補助者が操作するアシスタントモジュール4Bと、患者がうがいをするスピットンモジュール4Cと、を備える。また、歯科診療システム1は、図示しない無影灯を備える。
【0030】
患者用椅子5A、術者用椅子5B、補助者用椅子5C、ドクターモジュール4A、アシスタントモジュール4B、スピットンモジュール4Cおよび図示しない無影灯は、歯科診療装置3の一例である。なお、歯科診療システム1は、ここで説明した以外の歯科診療装置3を含む構成であってもよく、また、歯科診療システム1は、ここで説明した歯科診療装置3の一部の装置を除く構成であってもよい。
【0031】
ここでの患者用椅子5A、術者用椅子5B、補助者用椅子5Cおよび図示しない無影灯は自律移動できず、一方、ドクターモジュール4A、アシスタントモジュール4Bおよびスピットンモジュール4Cは自律移動可能である。そのため、ドクターモジュール4A、アシスタントモジュール4Bおよびスピットンモジュール4Cは、移動式歯科診療装置4の一例であり、また、患者用椅子5A、術者用椅子5B、補助者用椅子5Cおよび図示しない無影灯は、非移動式歯科診療装置5の一例である。ここで、図2の仮想線(二点鎖線)は、ドクターモジュール4A、アシスタントモジュール4Bおよびスピットンモジュール4Cが待機位置にある状態を示し、符号βを付した矢印は待機位置から診療位置までの走行ルートを示し、符号αを付した矢印は診療位置から待機位置までの走行ルートを示している。なお、ここで自律移動しないとした患者用椅子5A、術者用椅子5B、補助者用椅子5Cおよび図示しない無影灯の内の少なくとも何れかが自律移動するもの(つまり、移動式歯科診療装置4)であってもよい。また、自律移動するとしたドクターモジュール4A、アシスタントモジュール4Bおよびスピットンモジュール4Cの内の少なくとも何れかが自律移動しないもの(つまり、非移動式歯科診療装置5)であってもよい。
【0032】
(患者用椅子5A、術者用椅子5B、補助者用椅子5Cおよび無影灯)
患者用椅子5Aおよび図示しない無影灯は、床面に固定されており、診療室内を移動することができない。一方、術者用椅子5Bおよび補助者用椅子5Cは、床面と接する部分に移動用の車輪(キャスター)を有するものの、移動制御手段20bを有さないので診療室内を自律移動することができない。
【0033】
(ドクターモジュール4A)
図3を参照して、ドクターモジュール4Aの構成について説明する。
ドクターモジュール4Aは、歯科診療モジュール10Aと、移動モジュール20Aと、装置情報モジュール30Aと、を備える。
【0034】
歯科診療モジュール10Aは、水供給端子10Aaと、注液装置10Abと、エア供給端子10Acと、圧縮エアタンク10Adと、電源供給端子10Aeと、バッテリ10Afと、操作部10Agと、インスツルメント制御手段10Ahと、エアタービンハンドピース10Aiと、マイクロモータハンドピース10Ajと、を備える。
【0035】
エアタービンハンドピース10Aiは、歯科用タービンハンドピースの一種であり、注水しながら圧縮空気の力によって切削工具を高速回転させて歯を研削する。
マイクロモータハンドピース10Ajは、歯科用タービンハンドピースの一種であり、注水しながら電気モータの力によって切削工具を高速回転させて歯を研削する。
歯科診療モジュール10Aは、エアタービンハンドピース10Aiやマイクロモータハンドピース10Ajに代えて、あるいはこれらのインスツルメントに加えて他のインスツルメントを備える構成であってもよい。
【0036】
注液装置10Abは、インスツルメント(ここでは、エアタービンハンドピース10Aiやマイクロモータハンドピース10Aj)に診療液(例えば、水)を供給するものである。診療液は、水の他に歯科診療に使用するための洗浄液、消毒液等の液体であってもよい。注液装置10Abは、例えば、診療液を貯留する貯留容器、診療液を送り出すポンプ、ポンプとインスツルメントとを接続する診療液配管、インスツルメントへの注液量を制御する電磁弁などを備える。
水供給端子10Aaは、水道などの外部水源に注液装置10Abを接続する接続部である。水供給端子10Aaを介して、注液装置10Abを構成する貯留容器内に診療液である水を補給する。
【0037】
圧縮エアタンク10Adは、エアタービンハンドピース10Aiへ供給するエアを蓄えるものである。エアタービンハンドピース10Aiは、圧縮エアタンク10Adから供給されたエアの力によって切削工具を高速回転させる。
エア供給端子10Acは、外部のエア供給源に圧縮エアタンク10Ad接続する接続部である。エア供給端子10Acを介して、圧縮エアタンク10Ad内にエアを補給する。
【0038】
バッテリ10Afは、ドクターモジュール4Aを駆動するための電力を蓄えるものである。バッテリ10Afに蓄えられる電力は、例えば、マイクロモータハンドピース10Ajに供給されて切削工具を高速回転させたり、移動モジュール20Aに供給されて移動モジュール20Aを駆動させたりする。バッテリ10Afは、駆動エネルギ供給部の一例であり、歯科診療モジュール10A以外に設けられていてもよい。
電源供給端子10Aeは、商用電源などの外部電源にバッテリ10Afを接続する接続部である。電源供給端子10Aeを介して、バッテリ10Afを充電する。
【0039】
操作部10Agは、インスツルメントを操作するインスツルメント操作部などを備えている。
インスツルメント操作部としては、エアタービンハンドピース10Aiおよびマイクロモータハンドピース10Ajをオン・オフするメインスイッチや、例えば水量や回転速度を制御するなどの付加的なサブスイッチを備えている。例えば、サブスイッチには、選択スイッチ、水量ボリュームスイッチ、パワーボリュームスイッチ、オプチカスイッチ、正転逆転スイッチ、注水スイッチを設けてもよい。
【0040】
インスツルメント制御手段10Ahは、インスツルメントの動作を制御するものである。インスツルメント制御手段10Ahは、例えば、エアタービンハンドピース10Aiの作動を制御する電磁弁などであってよく、また、マイクロモータハンドピース10Ajや図示しないスケーラなどにおいては、それらを制御するための基板などであってよい。
【0041】
移動モジュール20Aは、前述した通りである。移動モジュール20Aは、自律移動を実現する構成要素であり、例えば、移動式歯科診療装置4を移動させるための移動手段20Aaと、移動手段20Aaを制御する移動制御手段20Abとを備える。ここでの移動手段20Aaは、床面と接する部分に設置される車輪、車輪を回転させるモータなどであり、ドクターモジュール4Aは診療室内を走行する。
【0042】
装置情報モジュール30Aは、前述した通りである。装置情報モジュール30Aは、自律移動の制御に必要な情報の取得を実現する構成要素であり、例えば、移動式歯科診療装置4の位置情報や診療関与者の位置情報などを取得する位置情報取得手段30Aaと、移動式歯科診療装置4の配置に関する装置配置情報を記憶する装置配置情報記憶手段30Abとを備える。
【0043】
(アシスタントモジュール4B)
図4を参照して、アシスタントモジュール4Bの構成について説明する。
アシスタントモジュール4Bは、歯科診療モジュール10Bと、移動モジュール20Bと、装置情報モジュール30Bと、を備える。なお、移動モジュール20Bおよび装置情報モジュール30Bは、ドクターモジュール4Aの移動モジュール20Aおよび装置情報モジュール30Aと同様なので、ここでは説明を省略する。
【0044】
歯科診療モジュール10Bは、水供給端子10Baと、注液装置10Bbと、エア供給端子10Bcと、圧縮エアタンク10Bdと、トリプルシリンジ10Beと、を備える。
また、歯科診療モジュール10Bは、電源供給端子10Bfと、バッテリ10Bgと、排水端子10Bhと、排水タンク10Biと、バキュームモータ10Bjと、セパレータ10Bkと、操作部10Blと、バキューム10Bmと、排唾器具10Bnと、を備える。
【0045】
トリプルシリンジ10Beは、術野を注視しやすくするために、口腔内を洗浄や乾燥させるための器具である。トリプルシリンジ10Beは、「水」、「空気」、「水+空気(スプレー)」の3通りを噴出することができる。
【0046】
注液装置10Bbは、トリプルシリンジ10Beに診療液である水を供給するものである。注液装置10Bbは、例えば、診療液を貯留する貯留容器、診療液を送り出すポンプ、ポンプとトリプルシリンジ10Beとを接続する診療液配管、トリプルシリンジ10Beへの注液量を制御する電磁弁などを備える。
水供給端子10Baは、水道などの外部水源に注液装置10Bbを接続する接続部である。
【0047】
圧縮エアタンク10Bdは、トリプルシリンジ10Beへ供給するエアを蓄えるものである。
エア供給端子10Bcは、外部のエア供給源に圧縮エアタンク10Bd接続する接続部である。
【0048】
バキューム10Bmは、術者の視野確保や口腔内の衛生の保持のために、口腔内の切削粉塵・水・唾液などを吸引排除するものである。ドクターやアシスタントが吸引排除の必要な位置にバキューム10Bmを持っていって使用される。
排唾器具10Bnは、治療部位の除湿、術者の視野確保のために、口腔内に溜まった唾液・水・洗浄液を吸引排除するものである。排唾器具10Bnは、切削粉塵を吸引するだけの能力はない。排唾器具10Bnは、U字状を呈しており、患者の口腔内に保持して使用される。例えば、術者が1人で診療を行っているときには、排唾器具10Bnを用いることで唾液がたまるのを防ぎ、バキューム10Bmを持ち出す手間を省くことができる。
【0049】
バキュームモータ10Bjは、吸引力を発生させるものである。バキューム10Bmや排唾器具10Bnは、バキュームモータ10Bjを用いて患者の口腔内の唾液などを吸引するものである。
セパレータ10Bkは、バキューム10Bmや排唾器具10Bnによって吸い取ったものから唾液等の液体と空気等の気体とを分離する(排唾の気液分離)。
【0050】
排水タンク10Biは、バキューム10Bmや排唾器具10Bnによって吸い取られ、セパレータ10Bkで分離された唾液を貯留するものである。
排水端子10Bhは、下水道などの外部の排出手段に排水タンク10Biを接続する接続部である。排水端子10Bhを介して、排水タンク10Bi内の唾液を排出する。
【0051】
バッテリ10Bgは、アシスタントモジュール4Bを駆動するための電力を蓄えるものである。バッテリ10Bgに蓄えられる電力は、例えば、バキュームモータ10Bjに供給されてバキュームモータ10Bjを駆動させたり、移動モジュール20Bに供給されて移動モジュール20Bを駆動させたりする。バッテリ10Bgは、駆動エネルギ供給部の一例であり、歯科診療モジュール10B以外に設けられていてもよい。
電源供給端子10Bfは、商用電源などの外部電源にバッテリ10Bgを接続する接続部である。
【0052】
操作部10Agは、バキューム10Bmを操作するバキューム操作部、排唾器具10Bnを操作する排唾操作部、トリプルシリンジ10Beを操作するシリンジ操作部などを備えている。
【0053】
(スピットンモジュール4C)
図5を参照して、スピットンモジュール4Cの構成について説明する。
スピットンモジュール4Cは、歯科診療モジュール10Cと、移動モジュール20Cと、装置情報モジュール30Cと、を備える。なお、移動モジュール20Cおよび装置情報モジュール30Cは、ドクターモジュール4Aの移動モジュール20Aおよび装置情報モジュール30Aと同様なので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0054】
歯科診療モジュール10Cは、水供給端子10Caと、注液装置10Cbと、給水制御手段10Ccと、給水部10Cdと、スピットン洗浄部10Ceと、を備える。
また、歯科診療モジュール10Cは、排水端子10Cfと、排水タンク10Cgと、スピットン10Chと、電源供給端子10Ciと、バッテリ10Cjと、を備える。
【0055】
給水部10Cdは、うがい用のコップに水を注入するものである。
スピットン10Chは、患者がうがいを行う受けである。
スピットン洗浄部10Ceは、スピットン10Chに洗浄用の水を流し、スピットン10Chを洗浄するものである。
【0056】
注液装置10Cbは、給水制御手段10Ccを介して、給水部10Cdやスピットン洗浄部10Ceに水を供給するものである。注液装置10Cbは、例えば、診療液を貯留する貯留容器、診療液を送り出すポンプ、ポンプと給水部10Cdやスピットン洗浄部10Ceとを接続する診療液配管、給水部10Cdやスピットン洗浄部10Ceへの注液量を制御する電磁弁などを備える。
水供給端子10Caは、水道などの外部水源に注液装置10Cbを接続する接続部である。
【0057】
給水制御手段10Ccは、供給先の切り替えを制御し、給水部10Cdおよびスピットン洗浄部10Ceに水を供給する。例えば、給水制御手段10Ccは、所定の位置にコップが置かれたことを検出して、給水部10Cdに水を供給する。また、給水制御手段10Ccは、補助者による操作によって、スピットン洗浄部10Ceに水を供給する。
【0058】
排水タンク10Cgは、スピットン10Chに吐き出された水などを貯留するものである。
排水端子10Cfは、下水道などの外部の排出手段に排水タンク10Cgを接続する接続部である。排水端子10Cfを介して、排水タンク10Cg内の水を排出する。
【0059】
バッテリ10Cjは、スピットンモジュール4Cを駆動するための電力を蓄えるものである。バッテリ10Cjに蓄えられる電力は、例えば、移動モジュール20Cに供給されて移動モジュール20Cを駆動させたりする。バッテリ10Cjは、駆動エネルギ供給部の一例であり、歯科診療モジュール10C以外に設けられていてもよい。
電源供給端子10Ciは、商用電源などの外部電源にバッテリ10Cjを接続する接続部である。
【0060】
なお、移動式歯科診療装置4における水、電気、エア、排水等の外部との各接続部(各供給端子)は、ワンタッチジョイントにより構成してもよい。
例えば、ドクターモジュール4Aの水供給端子10Aa、エア供給端子10Acおよび電源供給端子10Aeは、ワンタッチジョイントにより構成してもよい。
また、アシスタントモジュール4Bの水供給端子10Ba、エア供給端子10Bc、電源供給端子10Bfおよび排水端子10Bhは、ワンタッチジョイントにより構成してもよい。
また、スピットンモジュール4Cの水供給端子10Ca、排水端子10Cfおよび電源供給端子10Ciは、ワンタッチジョイントにより構成してもよい。
【0061】
<実施形態に係る歯科診療システムの処理の例示>
実施形態に係る歯科診療システム1の処理について、図6A図6Dを参照しながら説明する(適宜、図1から図5を参照)。図6A図6Dは、本発明の実施形態に係る歯科診療システムの処理の一例を示すフローチャートである。
【0062】
≪第1パターン≫
図6Aを参照して、歯科診療システム1の第1パターンの処理について説明する。第1パターンは、診療室内に患者を導入した後で移動式歯科診療装置4が続いて入室する場合であり、入室した移動式歯科診療装置4が待機位置に移動することなく診療位置に直接移動する。診察終了後は、患者が退出する前に移動式歯科診療装置4が退室する。
【0063】
患者が診療室に入室する前の状態では、歯科診療システム1の内の移動式歯科診療装置4は診療室の室外(初期位置)にある。つまり、患者が診療室に入室する前の状態では、患者用椅子5A、術者用椅子5B、補助者用椅子5C、および図示しない無影灯は診療室内にあり、一方、ドクターモジュール4A、アシスタントモジュール4B、およびスピットンモジュール4Cは診療室外にある。なお、移動式歯科診療装置4は、診療室内の隅部等の特定領域にあってもよい。
【0064】
また、術者または補助者は、診療関与者情報や診療情報などを情報処理装置6に診療開始前に予め登録し、情報処理装置6は、診療関与者情報や診療情報に対応する装置配置情報(例えば、診療位置)を移動式歯科診療装置4に通知する。
【0065】
(S10:患者導入)
最初に、補助者は、待合室にいる患者を診療室内に導き、それに従って患者は診療室に入室する(S10)。そして、患者は、診療室内にある患者用椅子5Aに着座する。
【0066】
(S11:移動式歯科診療装置入室およびS12:診療位置への移動)
次に、移動式歯科診療装置4は、患者が入室した診療室に同じく入室し(S11)、診療位置に移動する(S12)。なお、患者が入室するタイミングと移動式歯科診療装置4が入室するタイミングとの先後は、特に限定されない(詳細は、第3,4パターンを参照)。つまり、患者が入室した後で移動式歯科診療装置4が入室してもよいし、移動式歯科診療装置4が入室した後で患者が入室してもよいし、患者と移動式歯科診療装置4とが同時に入室してもよい。この際、患者の入室の検出は、例えば、診療室内に設置される位置検出装置7を用いて行われる。患者を患者用椅子5Aに着座させたときに移動式歯科診療装置4が入室してもよい。その場合、例えば、患者用椅子5Aにセンサを設け、そのセンサによって患者が着座したことを検出してもよいし、移動式歯科診療装置4にカメラを設け、そのカメラによって患者が着座したことを検出してもよい。
【0067】
診療位置は、術者が診療を行い易い位置であって、複数の診療位置が存在していてもよい。例えば、診療情報や診療関与者情報と診療位置とを予め関連づけておき、診療情報や診療関与者情報から適切な診療位置を決定してもよい。術者の位置と診療位置とを関連づけた場合を図7に例示する。ここでは、仰向けになった患者K1を平面視した状態で、患者K1の頭部に仮想的なアナログ時計を置いた場合を想定し、頭頂部方向を12時の方向としたときに、対象物(術者K2、補助者K3、移動式歯科診療装置4)の方向を時計の時間の方向であらわす。
【0068】
図7(a)は、「12時のポジション」における移動式歯科診療装置4の診療位置を示すものである。12時の位置(仰向けになった患者K1の頭頂部付近)に術者K2がおり、4時の位置(仰向けになった患者K1の左手付近)に補助者K3がいる。ここでは、術者K2は術者用椅子5Bに座っており、補助者K3は立っている。この場合、ドクターモジュール4Aの診療位置は術者K2の右手側傍であり、アシスタントモジュール4Bの診療位置は補助者K3の背後であり、スピットンモジュール4Cの診療位置は患者K1の左足横である。
【0069】
図7(b)は、「10時のポジション」における移動式歯科診療装置4の診療位置を示すものである。10時の位置(仰向けになった患者K1の頭部右斜め上)に術者K2がおり、3時の位置(仰向けになった患者K1の頭部左側)に補助者K3がいる。ここでは、術者K2は術者用椅子5Bに座っており、補助者K3は補助者用椅子5Cに座っている。この場合、ドクターモジュール4Aの診療位置は術者K2の右手側離れた場所であり、アシスタントモジュール4Bの診療位置は補助者K3の左手側傍であり、スピットンモジュール4Cの診療位置は患者K1の左足横である。
【0070】
図7(c)は、「9時のポジション」における移動式歯科診療装置4の診療位置を示すものである。9時の位置(仰向けになった患者K1の頭部右側)に術者K2がおり、術者K2に対向する3時の位置(仰向けになった患者K1の頭部左側)に補助者K3がいる。ここでは、術者K2は術者用椅子5Bに座っており、補助者K3は補助者用椅子5Cに座っている。この場合、ドクターモジュール4Aの診療位置は術者K2の右手側傍であり、アシスタントモジュール4Bの診療位置は補助者K3の左手側傍であり、スピットンモジュール4Cの診療位置は患者K1の左足横である。
【0071】
図7(a)~図7(c)では、術者K2は、診療位置にあるドクターモジュール4Aを用いて患者K1を診療する。また、補助者K3は、診療位置にあるアシスタントモジュール4Bを用いて術者K2の診療を補助する。また、患者K1は、診療位置にあるスピットンモジュール4Cを用いてうがいを行う。なお、診療期間中に術者K2が移動や体勢を変更した場合に、移動式歯科診療装置4はその動きに追随して診療位置を変更してもよい。診療位置の変更は、図7(a)~図7(c)に示した術者K2のポジション変更に伴う移動であってもよいし、ポジション変更を伴わない微修正程度の移動であってもよい。また、術者K2が診療の合間に患者K1への説明を行う場合、説明中の移動式歯科診療装置4は、説明の邪魔にならない位置(例えば、待機位置など)に移動してもよい。
【0072】
(S13:診療開始)
次に、術者は、患者用椅子5Aに着座する患者の診療を開始する(S13)。なお、術者や補助者は、適宜のタイミングで診療室に入室すればよい。つまり、術者や補助者が入室するタイミングは、様々なタイミングが想定され、特に限定されない。
【0073】
(S14:診療終了およびS15:移動式歯科診療装置退室)
診療が終了した場合(S14)、移動式歯科診療装置4は、診療室から退室する(S15)。診療終了は、例えば、術者が診療終了を示す言葉を発したとき、診療終了を示す合図を手で作ったときなどであってよい。
【0074】
(S16:患者退出)
次に、術者や補助者は、患者に対して患者用椅子5Aから立ち上がることを促すとともに患者を診療室外に導き、それに従って患者は診療室から退室する(S16)。なお、患者が退室するタイミングと移動式歯科診療装置4が退室するタイミングとの先後は、特に限定されない(詳細は、第2~4パターンを参照)。つまり、患者が退室した後で移動式歯科診療装置4が退室してもよいし、移動式歯科診療装置4が退室した後で患者が退室してもよいし、患者と移動式歯科診療装置4とが同時に退室してもよい。この際、患者の退室の検出は、例えば、診療室内に設置される位置検出装置7を用いて行われる。
【0075】
≪第2パターン≫
図6Bを参照して、歯科診療システム1の第2パターンの処理について説明する。第2パターンは、診療室内に患者を導入した後で移動式歯科診療装置4が続いて入室する点で第1パターンと共通するが、入室した移動式歯科診療装置4が待機位置に移動して待機し、診療開始により診療位置に移動する点が第1パターンと主に異なる。
【0076】
患者が診療室に入室する前の状態では、歯科診療システム1の内の移動式歯科診療装置4は診療室の室外(初期位置)にある。また、術者または補助者は、診療関与者情報や診療情報などを情報処理装置6に診療開始前に予め登録し、情報処理装置6は、診療関与者情報や診療情報に対応する装置配置情報(例えば、待機位置や診療位置)を移動式歯科診療装置4に通知する。
【0077】
(S20:患者導入)
最初に、補助者は、待合室にいる患者を診療室内に導き、それに従って患者は診療室に入室する(S20)。そして、患者は、診療室内にある患者用椅子5Aに着座する。
【0078】
(S21:移動式歯科診療装置入室およびS22:待機位置への移動)
次に、移動式歯科診療装置4は、患者が入室した診療室に同じく入室し(S21)、入室した移動式歯科診療装置4は、待機位置へ移動する(S22)。待機位置は、予め診療室内に設定された位置であって、患者や術者が入室・退室する際に邪魔にならない位置や目につかない位置であるのがよい。待機位置は、例えば患者用椅子5Aの背板の裏側などであってよい。また、診療室に駆動エネルギ供給装置が備えられている場合、駆動エネルギ供給装置の位置が待機位置であってもよい(つまり、移動式歯科診療装置4は、駆動エネルギ供給装置で駆動エネルギ(例えば、電力)の供給を受けながら待機してもよい)。なお、患者が入室するタイミングと移動式歯科診療装置4が入室するタイミングとの先後は、特に限定されない。
【0079】
(S23:診療開始)
次に、術者は、患者用椅子5Aに着座する患者の診療を開始する(S23)。なお、術者や補助者は、適宜のタイミングで診療室に入室すればよい。つまり、術者や補助者が入室するタイミングは、様々なタイミングが想定され、特に限定されない。診療開始は、例えば、術者が入室したとき、術者が術者用椅子5Bに着座したとき、診療開始を示す言葉を発したとき、診療開始を示す合図を手で作ったときなどであってよい。
【0080】
(S24:診療位置への移動)
診療の開始後、移動式歯科診療装置4は、待機位置から診療位置に移動する(S24)。診療位置は、術者が診療を行い易い位置であって、複数の診療位置が存在していてもよい。例えば、診療情報や診療関与者情報と診療位置とを予め関連づけておき、診療情報や診療関与者情報から適切な診療位置を決定してもよい。移動式歯科診療装置4は、診療が終了するまで診療位置にとどまる。
【0081】
(S25:診療終了およびS26:待機位置への移動)
診療が終了した場合(S25)、移動式歯科診療装置4は、診療位置から待機位置に移動する(S26)。診療終了は、例えば、術者が診療終了を示す言葉を発したとき、診療終了を示す合図を手で作ったときなどであってよい。
【0082】
(S27:患者退出)
次に、術者や補助者は、患者に対して患者用椅子5Aから立ち上がることを促すとともに患者を診療室外に導き、それに従って患者は診療室から退室する(S27)。
【0083】
(S28:移動式歯科診療装置退室)
次に、移動式歯科診療装置4は、診療室から退室する(S28)。なお、患者が退室するタイミングと移動式歯科診療装置4が退室するタイミングとの先後は、特に限定されない。この際、患者の退室の検出は、例えば、診療室内に設置される位置検出装置7を用いて行われる。また、第1パターンのように、診療の終了とともに移動式歯科診療装置4を退室させてもよい。
【0084】
≪第3パターン≫
図6Cを参照して、歯科診療システム1の第3パターンの処理について説明する。第3パターンは、診療室内に患者を導入する前に移動式歯科診療装置4が事前に入室する点で第1,2パターンと異なる。入室した移動式歯科診療装置4は待機位置に移動して待機し、診療開始により診療位置に移動する。
【0085】
患者が診療室に入室する前の状態では、歯科診療システム1の内の移動式歯科診療装置4は診療室の室外(初期位置)にある。また、術者または補助者は、診療関与者情報や診療情報などを情報処理装置6に診療開始前に予め登録し、情報処理装置6は、診療関与者情報や診療情報に対応する装置配置情報(例えば、待機位置や診療位置)を移動式歯科診療装置4に通知する。
【0086】
(S30:移動式歯科診療装置入室およびS31:待機位置への移動)
移動式歯科診療装置4は、患者が入室する前に診療室に入室し(S30)、入室した移動式歯科診療装置4は、待機位置へ移動する(S31)。ここでの待機位置は、第2パターンと同様である。
【0087】
(S32:患者導入)
次に、補助者は、待合室にいる患者を診療室内に導き、それに従って患者は診療室に入室する(S32)。そして、患者は、診療室内にある患者用椅子5Aに着座する。
【0088】
(S33:診療開始からS38:移動式歯科診療装置退室まで)
次に、術者は、患者用椅子5Aに着座する患者の診療を開始する(S33)。なお、第3パターンの診療開始(S33)から移動式歯科診療装置4の退室(S38)までの処理は、第2パターンのS23からS28までの処理と同様なので、詳細な説明は省略する。
【0089】
≪第4パターン≫
図6Dを参照して、歯科診療システム1の第4パターンの処理について説明する。第4パターンは、診療室内に患者を導入する前に移動式歯科診療装置4が事前に入室する点で第3パターンと共通するが、待機位置で待機している移動式歯科診療装置4が患者の導入により診療位置に移動する点が第3パターンと異なる。
【0090】
(S40:移動式歯科診療装置入室およびS42:患者導入まで)
第4パターンの移動式歯科診療装置4の入室(S40)から患者導入(S42)までの処理は、第3パターンのS30からS32までの処理と同様なので、詳細な説明を省略する。
【0091】
(S43:診療位置への移動)
患者の導入後、移動式歯科診療装置4は、待機位置から診療位置に移動する(S43)。ここでの診療位置は、第2パターンと同様である。なお、移動式歯科診療装置4が診療位置への移動を開始するタイミングは、例えば、患者の入室を検出したときや、患者が患者用椅子5Aに着座したときである。移動式歯科診療装置4は、診療が終了するまで診療位置にとどまる。
【0092】
(S44:診療開始)
次に、術者は、患者用椅子5Aに着座する患者の診療を開始する(S44)。なお、術者や補助者は、適宜のタイミングで診療室に入室すればよい。つまり、術者や補助者が入室するタイミングは、様々なタイミングが想定され、特に限定されない。
【0093】
(S45:診療終了からS48:移動式歯科診療装置退室まで)
第4パターンの診療終了(S45)から移動式歯科診療装置4の退室(S48)までの処理は、第3パターンのS35からS38までの処理と同様なので、詳細な説明は省略する。
【0094】
以上のように構成された本発明の実施形態に係る移動式歯科診療装置4および歯科診療システム1は、以下のような作用効果を奏する。
つまり、移動式歯科診療装置4は、歯科診療で使用する歯科診療モジュール10と、移動手段20aおよび移動制御手段20bを有する移動モジュール20と、移動モジュール20を駆動するための駆動エネルギ供給部(例えば、バッテリ10Af,10Bg,10Cj)と、を備える。そして、移動制御手段20bは、移動式歯科診療装置4の配置に関連する装置配置情報に基づいて所定の位置に移動させる。そのため、移動の労力を低減できるとともに衛生面で有利である。移動式歯科診療装置4を有する歯科診療システム1も同様である。
【0095】
また、移動式歯科診療装置4は、移動制御手段20bが、歯科診療を行う術者、術者を補助する補助者および歯科診療を受ける患者の何れかである診療関与者、又は前記診療関与者が座る椅子の少なくとも一部分を基準として移動式歯科診療装置4を配置する。そのため、診療を円滑に開始することができる。
【0096】
また、移動式歯科診療装置4の移動制御手段20bは、診療開始前の時点で、診療関与者の移動に適した待機位置に移動式歯科診療装置4を移動させ、患者導入又は診療開始の時点で、歯科診療に適した診療位置に移動式歯科診療装置4を移動させる。そのため、移動式歯科診療装置4が診療関与者の移動の妨げになるのを防ぐことができる。
【0097】
また、移動式歯科診療装置4は、移動式歯科診療装置4が配置された後の位置修正に関する位置修正情報を取得する位置修正情報取得手段30cをさらに有し、位置修正情報取得手段30cは、修正後の修正位置と前記修正位置における経過時間とを対応付けて取得する。そのため、実際の診療における移動式歯科診療装置4の位置のフィードバックが可能になり、診療関与者の好みに応じた制御を実現できる。
【0098】
また、移動式歯科診療装置4における装置配置情報は、診療関与者に関する診療関与者情報および歯科診療の内容に関する診療情報の少なくとも何れか一方に対応付けられている。そのため、診療関与者の好みに合わせた位置や診療情報に合わせた位置に移動式歯科診療装置4を配置できる。
【0099】
また、移動式歯科診療装置4は、通信ネットワークを介して通信可能な処理部を備えた情報共有先との間で情報の送受信を行う通信手段を備える。そのため、リアルタイムな情報を取得することができる。
【0100】
また、歯科診療システム1は、移動式歯科診療装置4と、情報共有先と、を備える歯科診療システムであって、移動式歯科診療装置4又は前記情報共有先は、装置配置情報を記憶する装置配置情報記憶手段6bと、移動式歯科診療装置4が配置された後の位置修正に関する位置修正情報を記憶する位置修正情報記憶手段6dと、位置修正情報に基づいて新たな装置配置情報を決定し、装置配置情報を更新する装置配置情報更新手段6eと、を有する。そのため、診療関与者の好みに合わせた位置や診療情報に合わせた位置に移動式歯科診療装置4を配置できる。
【0101】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されず、適宜変更して実施することが可能である。
【0102】
特定の場所や部位を診療位置や待機位置として登録しておいてもよい。例えば、患者用椅子5A、術者用椅子5B、補助者用椅子5Cの一部分(例えば、頭部を置くヘッドセットや座面など)を基準にして、移動式歯科診療装置4を診療位置や待機位置に移動させてもよい。また、術者、補助者、患者の体の一部(例えば、患者の口腔)を基準にして、移動式歯科診療装置4を診療位置や待機位置に移動させてもよい。
【0103】
また、移動式歯科診療装置4の移動制御手段20bは、最適な診療位置や待機位置を例えば人工知能技術を用いて学習し、移動式歯科診療装置4の位置を制御するようにしてもよい。
【0104】
また、実施形態では、位置検出装置7を用いて診療室内にいる診療関与者や様々な装置の位置を検出していたが、移動式歯科診療装置4がこれらの位置を検出してもよい。
【符号の説明】
【0105】
1 歯科診療システム
2 歯科診療ユニット
3 歯科診療装置
4 移動式歯科診療装置
5 非移動式歯科診療装置
6 情報処理装置(情報共有先)
6a 装置配置情報設定手段
6b 装置配置情報記憶手段
6c 装置配置情報抽出手段
6d 位置修正情報記憶手段
6e 装置配置情報更新手段
7 位置検出装置(情報共有先)
10 歯科診療モジュール
10Af,10Bg,10Cj バッテリ(駆動エネルギ供給部)
20 移動モジュール
20a 移動手段
20b 移動制御手段
30 装置情報モジュール
30a 位置情報取得手段
30b 装置配置情報記憶手段
30c 位置修正情報取得手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7