(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】ノンアルコールビールテイスト飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20230413BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20230413BHJP
A23L 2/60 20060101ALI20230413BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20230413BHJP
【FI】
A23L2/00 B
A23L2/38 J
A23L2/60
A23L27/00 F
A23L27/00 Z
(21)【出願番号】P 2019026330
(22)【出願日】2019-02-18
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】廣澤 秀二郎
(72)【発明者】
【氏名】土橋 竜也
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-060930(JP,A)
【文献】特開2012-070708(JP,A)
【文献】国際公開第2015/132974(WO,A1)
【文献】特開2017-216892(JP,A)
【文献】特開2014-168464(JP,A)
【文献】勝田 康夫 Katta,飲料新トレンドに有用な難消化性デキストリン,希少糖含有シロップ,月刊フードケミカル 2013年12月号 ,第29巻, 第12号,川添 辰幸 株式会社食品化学新聞社,2013年12月01日,44~47頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C12C
C12G
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-プシコース0.03~0.5質量%及びアセスルファムK0.0003~0.002質量%を含有する
、モルト風味を有するノンアルコールビールテイスト飲料。
【請求項2】
モルト風味を有するノンアルコールビールテイスト飲料中に、D-プシコース0.03~0.5質量%及びアセスルファムK0.0003~0.002質量%が含まれるように調製する
、モルト風味を有するノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項3】
モルト風味を有するノンアルコールビールテイスト飲料中に、D-プシコース0.03~0.5質量%及びアセスルファムK0.0003~0.002質量%となるように含ませる、
モルト風味を有するノンアルコールビールテイスト飲料のモルト風味を増強する方法。
【請求項4】
モルト風味を有するノンアルコールビールテイスト飲料中でD-プシコース0.03~0.5質量%及びアセスルファムK0.0003~0.002質量%となるように添加して使用するための、D-プシコース及びアセスルファムKを含んでなる
モルト風味を有するノンアルコールビールテイスト飲料のモルト風味増強用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンアルコールビールテイスト飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向の高まりや飲用シーン、嗜好の多様化により、糖質やアルコールが低減された低カロリーのノンアルコールビールテイスト飲料の需要が増えている。しかし、アルコールや糖質は、酒類の風味やコクに大きく寄与しているため、これらを低減すると、風味やコクが損なわれてしまうという問題があった。そのため、ノンアルコールビールテイスト飲料において、ビール特有の味わいやコク等の風味が感じられるよう様々な技術が開発されており、そのひとつに、香気成分や甘味成分を利用する方法がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、ビール様のアルコール感、香味、清涼感などの風味を付与することができるビール風味付与剤が開示されている。しかし、このビール風味付与剤は、その必須構成成分である甘味料として、プシコースやアセスルファムKを含むことができる一方、アルコール類その他複数の香気成分をも必須の構成成分とするものであり、ノンアルコールのビールテイスト飲料には適用できない。
【0004】
また、特許文献2には、ビール風味飲料の製造に際して、少なくともD-プシコース又はD-アロースを副原料として添加することにより、良好な香味、ボディ感、キレが付与されたビール風味飲料が開示されている。しかし、後述のとおり、D-プシコースなどの希少糖だけでは、ノンアルコールビールテイスト飲料のモルト風味が十分に増強されない。
【0005】
さらに、特許文献3には、異性化糖100質量部に対して希少糖1~150質量部の割合で含む、高甘味度甘味料の呈味改良のための組成物が開示されている。しかし、当該発明の目的は、高甘味度甘味料の異味を改善することであって、ノンアルコールビールテイスト飲料の課題であるモルト風味の改善を目的とはしていない。
【0006】
すなわち、ノンアルコールビールテイスト飲料のモルト風味の改善は、いまだ十分ではなかったといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-27309号公報
【文献】特開2012-60930号公報
【文献】特開2012-70708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、低カロリーやノンアルコールといった特徴を付加したために、低減しがちなモルト風味を増強するためのノンアルコールビールテイスト飲料用の組成物、及びその組成物を利用したノンアルコールビールテイスト飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、ノンアルコールビールテイスト飲料について種々検討したところ、D-プシコース及びアセスルファムKのそれぞれを特定量配合することにより、モルト風味を増強できることを見出した。これまでに、D-プシコース及びアセスルファムKを含有するビール風味飲料は知られていたが(例えば、特許文献1)、特に「ノンアルコール」のビール風味飲料において、D-プシコース及びアセスルファムKの含量を特定範囲とすることにより、モルト風味が増強されることは、本発明者にとって驚くべきことであった。
【0010】
すなわち、本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の(1)~(4)から構成されるものである。
(1)D-プシコース0.03~0.5質量%及びアセスルファムK0.0003~0.002質量%を含有するノンアルコールビールテイスト飲料。
(2)ノンアルコールビールテイスト飲料中に、D-プシコース0.03~0.5質量%及びアセスルファムK0.0003~0.002質量%が含まれるように調製する、ノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法。
(3)ノンアルコールビールテイスト飲料中に、D-プシコース0.03~0.5質量%及びアセスルファムK0.0003~0.002質量%となるように含ませる、ノンアルコールビールテイスト飲料のモルト風味を増強する方法。
(4)ノンアルコールビールテイスト飲料中でD-プシコース0.03~0.5質量%及びアセスルファムK0.0003~0.002質量%となるように添加して使用するための、D-プシコース及びアセスルファムKを含んでなるノンアルコールビールテイスト飲料のモルト風味増強用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、モルト風味が増強されたノンアルコールビールテイスト飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料は、ノンアルコールビール、ビールテイスト飲料、ノンアルコールビール風味飲料とも呼ばれ、アルコール度数が1%未満のビール風味を有する飲料のことをいう。
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法には、糖化発酵時にアルコールが生成しないようにする方法、清涼飲料水にビール風味を付与する方法があり、「ビールテイスト」「ビール風味」などといえるためには、本物のビールに含まれるような香味成分が含まれることを前提とする。
【0013】
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料のモルト風味とは、上記の、ノンアルコールビールテイスト飲料一般に含まれる香味成分に由来するものであって、大麦、小麦、ライ麦及びオート麦等の麦芽に由来する風味及びこれらに類似する風味のことをいう。ノンアルコールビールテイスト飲料のうち、その製法上、モルト風味が本来的に生成されない場合にあっては、このモルト風味を付与する目的で、麦芽から抽出したモルトエキス、モルトフレーバー、ビールフレーバーなどの香料が添加されることがあり、モルトフレーバーの市販品としては、たとえば、Malt Flavouring(WILD Flavors and Specialty Ingredients社製)等が、ビールフレーバーの市販品としては、Wheat Beer Flavouring(WILD Flavors and Specialty Ingredients社製)等が使用される。そして、モルトフレーバーやモルトエキスの添加量は、特に限定されるものではないが、添加する場合は、最終製品に対して少なくとも0.001質量%以上であることを要する。
【0014】
本発明におけるD-プシコースは、もっとも簡便には、D-フラクトースを原料に酵素(エピメラーゼ)によって生産されるが、酵素的に生産されたものに限らず、化学的に生産されたものでもよい。また、本発明で使用するD-プシコースの配合量は、最終製品のノンアルコールビールテイスト飲料に対して0.03~0.5質量%であり、0.05~0.5質量%が好ましく、0.1~0.5質量%がより好ましい。これは、D-プシコースの配合量を0.03質量%未満とすると、モルト風味を増強する効果が十分ではなく、0.5質量%を超えると過度な甘味によりノンアルコールビールテイスト飲料全体の味質のバランスを崩すためである。なお、D-プシコースの添加時期及び方法は、特に限定されない。
【0015】
本発明におけるアセスルファムK(アセスルファムカリウムの略)は、いわゆる高甘味度甘味料であって、市販品として入手可能であり、例えば、サネット(MCフードスペシャリティーズ社製)などが挙げられる。また、本発明で使用するアセスルファムKの添加量は、最終製品のノンアルコールビールテイスト飲料に対して、0.0003~0.002質量%であり、0.0005~0.002質量%が好ましく、0.001~0.002質量%がより好ましい。これは、アセスルファムKの配合量を0.0003質量%未満とすると、モルト風味を増強する効果が十分ではなく、0.002質量%を超えると、過度な甘味によりノンアルコールビールテイスト飲料全体の味質のバランスを崩すためである。なお、アセスルファムKの添加時期及び方法は、特に限定されない。
【0016】
また、本発明のノンアルコールビールテイスト飲料には、最終製品の風味に影響を与えない範囲で、アセスルファムK以外の高甘味度甘味料やその他副原料を使用することもできる。高甘味度甘味料としては、例えば、ステビア抽出物、スクラロース、ネオテーム、サッカリン、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ソーマチン、ラカンカ抽出物などが挙げられ、その他副原料としては、クエン酸、ビタミンC、カラメル色素、ホップエキス等が挙げられる。
【0017】
本発明のモルト風味増強用の組成物の形状は、特に限定されないが、例えば、水溶液、錠剤、顆粒等の形状により使用することができる。
【0018】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0019】
(モルト風味の増強効果の検討)
表1の組成に従い、特定量のD-プシコース及び/又はアセスルファムKを配合した各ノンアルコールビールテイスト飲料を調製し、モルト風味の強弱について評価した。
【0020】
まず、少量の水にD-プシコース及び/又はアセスルファムKを溶解し、クエン酸、ビタミンC、カラメル色素、ホップエキス、ビールフレーバー、モルトフレーバーを配合し、水で20質量部に調製した。最後に炭酸水80質量部を配合し、100質量部に調製して容器に充填したものを、評価に用いた。評価は、よく訓練された10名のパネラーによる官能評価によって行い、対照と比較して、モルト風味が増強されていると感じた人の数が10~9人のときは「◎」、8~6人のときは「○」、5~3人のときは「△」、2~0人のときは「×」と評価し、「○」以上の評価を好適であると判断した。
【0021】
【0022】
評価の結果、D-プシコース0.3質量%及びアセスルファムK0.001質量%を配合すると、対照と比較して、モルト風味が増強したノンアルコールビールテイスト飲料が得られた(実施例1)。
【0023】
(D-プシコース及びアセスルファムKの配合量の検討)
次に、表2の組成に従って、D-プシコース0.01質量%~1.0質量%及びアセスルファムK0.0001質量%~0.003質量%の範囲で配合した、各ノンアルコールビールテイスト飲料を調製した。評価方法は、上記と同様とした。なお、D-プシコース及びアセスルファムK以外の配合は、表1と同様であるため省略した。
【0024】
【0025】
評価の結果、D-プシコースを0.03~0.5質量%、及びアセスルファムKを0.0003~0.002質量%の範囲で組み合わせて添加すると、モルト風味が増強されたノンアルコールビールテイスト飲料が得られた(実施例2~11)。
【0026】
(D-プシコースと各種高甘味度甘味料の組み合わせの検討)
次に、表3の組成に従って、D-プシコースと、各種高甘味度甘味料を配合して、ノンアルコールビールテイスト飲料を調製した。なお、各種高甘味度甘味料の配合量は、全飲料の甘味度が同等となるよう調整した。評価方法は、上記と同様とした。また、D-プシコース及びアセスルファムK以外のその他の配合は表1と同様であるため省略した。
【0027】
【0028】
評価の結果、アセスルファムK以外の高甘味度甘味料(アスパルテーム、スクラロース又はステビア抽出物)を、D-プシコースに組み合わせて配合しても、モルト風味の向上したノンアルコールビールテイスト飲料は得られなかった(比較例16~18)。
【0029】
(各種糖とアセスルファムKの組み合わせの検討)
表4の組成に従って、各種糖のいずれかとアセスルファムKとを添加し、各ノンアルコールビールテイスト飲料を調製した。評価方法は上記と同様とした。なお、各種糖及びアセスルファムK以外の配合は表1と同様であるため省略した。
【0030】
【0031】
評価の結果、D-プシコース以外の糖をアセスルファムKと組み合わせて配合しても、モルト風味の向上した各ノンアルコールビールテイスト飲料は得られなかった(比較例19~24)。
【0032】
以上の結果から、D-プシコースを0.03~0.5質量%、及びアセスルファムKを0.0003~0.002質量%の範囲で組み合わせて配合すると、モルト風味の向上したノンアルコールビールテイスト飲料を提供することができる。