(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】栽培システム及び栽培方法
(51)【国際特許分類】
F21V 14/04 20060101AFI20230413BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20230413BHJP
F21V 33/00 20060101ALI20230413BHJP
F21V 29/503 20150101ALI20230413BHJP
F21V 29/67 20150101ALI20230413BHJP
F21Y 101/00 20160101ALN20230413BHJP
F21Y 103/00 20160101ALN20230413BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20230413BHJP
F21Y 115/15 20160101ALN20230413BHJP
F21Y 115/20 20160101ALN20230413BHJP
F21Y 115/30 20160101ALN20230413BHJP
【FI】
F21V14/04
A01G7/00 601A
F21V33/00 400
F21V29/503
F21V29/67 100
F21Y101:00 100
F21Y103:00
F21Y115:10
F21Y115:15
F21Y115:20
F21Y115:30
(21)【出願番号】P 2019039699
(22)【出願日】2019-03-05
【審査請求日】2021-12-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、人工知能技術適用によるスマート社会の実現/生産性分野委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】514108263
【氏名又は名称】株式会社ファームシップ
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【氏名又は名称】藤本 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173222
【氏名又は名称】藤本 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100151149
【氏名又は名称】西村 幸城
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 由久
(72)【発明者】
【氏名】北島 正裕
【審査官】山崎 晶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/024682(WO,A1)
【文献】実開平03-021597(JP,U)
【文献】米国特許第09901039(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21V 14/04
A01G 7/00
F21V 33/00
F21V 29/503
F21V 29/67
F21Y 101/00
F21Y 103/00
F21Y 115/10
F21Y 115/15
F21Y 115/20
F21Y 115/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多段式の棚に、植物を植栽する培地、送風・照明装置を備え、各棚で栽培を行えるように構成されている栽培システムであって、
送風・照明装置は、棚の下側に配され、その下方の植物を照明するためのものであり、風を起こすために移動する
送風手段である移動部と、光源部と
、移動部及び光源部の駆動に必要な部材を内蔵する装置本体とを有し、
前記移動部の移動により、前記光源部からの光の照射方向又は照射位置が動的に変化するようにし
、
上下の棚に挟まれた空間を上下二つに区画する区画板の上方に送風・照明装置を設けるとともに、区画板の送風・照明装置に対応する位置に開口を設け、この開口を通じて区画板の下方に対する吸排気を行うようにしたことを特徴とする
栽培システム。
【請求項2】
前記区画板に光透過性を持たせてある請求項1に記載の
栽培システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の栽培システムを用いる栽培方法。
【請求項4】
前記光源部を消灯している期間の少なくとも一部で前記移動部も停止させる請求項3に記載の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、植物工場で栽培に用いられる栽培システム及び栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物工場等で使用される栽培システム(植物育生装置)は、多段式の棚に照明器具、養液循環装置、空気循環装置などを備え、各棚で栽培を行えるように構成されている(特許文献1)。照明器具は熱を発し、その熱によって光源温度が高まると、発光効率が低下するため、空気循環装置によって排熱することが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-121074号公報
【文献】特開昭59-120034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の植物育成装置で用いられる照明器具は、蛍光灯やLEDを光源とすることが多い。しかし、こうした光源の直下では高い照度が得られるが、そこから離れるにつれて照度が低下し、斯かる照度のむらが各棚での植物の生育不均一を招来する恐れがある。
【0005】
この点、特許文献2には、栽培圃の上方に複数の光源を配するに際し、栽培圃の周辺部分に向かうにしたがって光源の間隔を狭め、かつ、栽培圃の周囲に反射率の高い垂れ幕を設けて、栽培圃の照度分布を均一化する栽培方法が開示されているが、この方法では、垂れ幕によって排熱が妨げられ、ひいては発光効率が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、照度の均一化を達成しながら、光源部の発光効率の向上をも図ることが可能な栽培システム及び栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る栽培システムは、多段式の棚に、植物を植栽する培地、送風・照明装置を備え、各棚で栽培を行えるように構成されている栽培システムであって、送風・照明装置は、棚の下側に配され、その下方の植物を照明するためのものであり、風を起こすために移動する送風手段である移動部と、光源部と、移動部及び光源部の駆動に必要な部材を内蔵する装置本体とを有し、前記移動部の移動により、前記光源部からの光の照射方向又は照射位置が動的に変化するようにし、上下の棚に挟まれた空間を上下二つに区画する区画板の上方に送風・照明装置を設けるとともに、区画板の送風・照明装置に対応する位置に開口を設け、この開口を通じて区画板の下方に対する吸排気を行うようにした(請求項1)。
【0008】
上記栽培システムにおいて、前記区画板に光透過性を持たせてあってもよい(請求項2)。
【0009】
【0010】
【0011】
【0012】
他方、上記目的を達成するために、本発明に係る栽培方法は、前記栽培システムを用いる(請求項3)。
【0013】
上記栽培方法において、前記光源部を消灯している期間の少なくとも一部で前記移動部も停止させてもよい(請求項4)。
【発明の効果】
【0014】
本願発明では、照度の均一化を達成しながら、光源部の発光効率の向上をも図ることが可能な栽培システム及び栽培方法が得られる。
【0015】
すなわち、本願の各請求項に係る発明の栽培システムでは、移動部の移動により、光源部からの光の照射方向又は照射位置が動的に変化することにより、光の分布が広がり、照度の均一性が高まることになる。また、移動部の移動により流体の流れが起こり、それにより、光源部付近の空気の撹拌・排熱が行われるようにすれば、光源部の発光効率を高レベルに維持することが容易となる。
【0016】
【0017】
【0018】
請求項4に係る発明の栽培方法では、植物の栽培に支障を来すことなく省エネを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る栽培システムの構成の一部を概略的に示す説明図である。
【
図2】(A)及び(B)は、前記栽培システムに用いる照明装置の第1及び第2の例の構成を概略的に示す説明図である。
【
図3】前記照明装置の第3の例の構成を概略的に示す説明図である。
【
図4】(A)及び(B)は、前記照明装置の第4の例の構成を概略的に示す説明図であり、(A)では空気の流れを、(B)では照明の状態を、各々示している。
【
図5】(A)及び(B)は、前記照明装置の第5の例の構成を概略的に示す正面図及び底面図である。
【
図6】前記照明装置の第6の例の構成を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら以下に説明する。
【0021】
図1に示す栽培システムは、例えば植物工場内に設置される多段式の棚(上下に間隔をおいて複数配された棚)1に、植物Pを植栽する培地(図示していない)、この培地に養液を供給するための養液循環装置(図示していない)、送風・照明装置(照明装置の一例)2などを備え、各棚1で栽培を行えるように構成されている。なお、
図1には、栽培システムの一部のみを示してある。
【0022】
送風・照明装置2は、棚1の下側に配され、その下方の植物Pを照明するためのものであり、
図2(A)に示すように、風(流体の流れ)を起こすために移動する移動部3と、光源部4(
図2(B)参照。なお、
図2(A)と
図2(B)は異なる実施例を示すが、光源部4は共通する。)と、装置本体5とを有する。
【0023】
移動部3は、送風手段を構成するものであり、
図2(A)に示す移動部3は回転羽根である。ここで、送風は、空気(流体)に流れを作ったり、圧力差を設けたりすることで、行うことができる。また、ここで言う送風は、流体に応力を与え、流れを作ったり変えたりすることである。吸気、排気、循環、撹拌のいずれかを少なくとも含む。流体は、気体、液体、アモルファス、液晶のいずれかを少なくとも含む。
【0024】
移動部3の移動は、ファンやプロペラのような回転でも、ピストンのような往復運動でも、これらの組み合わせやその他のものでもよく、風(流体の流れ)を起こせるものであればよい。
【0025】
移動部3を有する具体的な送風手段(送風装置)としては、ファンやポンプが挙げられる。ファンの形式としては、多翼ファンやターボファンなどの遠心送風機、プロペラファンや二重反転ファンなどの軸流送風機、斜流ファンや混流ファンなどの斜流送風機、横流ファンや貫流ファンなどの横断流送風機が挙げられる。ポンプの形式としては、遠心式ポンプやプロペラポンプや粘流ポンプなどの非容積式ポンプ、往復動ポンプや回転ポンプなどの容積式ポンプ、ジェットポンプ、気泡ポンプ、水槌ポンプ、水中ポンプなどが挙げられる。本発明に用いるのは、遠心送風機、軸流送風機、往復動ポンプの一種であるダイヤフラムポンプなど、空気の流れが水や油などの液体に触れず汚染が少ないポンプの利用が好ましい。液体を介する場合は、この出口において、液体をトラップする装置を設けるなどして、生産物や周辺部の汚染を抑えることが必要になるし、長期的に汚染をゼロにすることは困難である。液体を介するポンプを用いる場合は、食用に認められた液体を用いることが重要となる。
【0026】
光源部4には、無機有機のLEDやレーザーなどの半導体発光素子、蛍光灯などの放電管、白熱灯などのフィラメント発光機、放射光や蛍光などエネルギー遷移によるものなど、光を発するものであれば広く使用可能である。なお、光源部4は、装置本体5の適宜の位置に設けてあればよく、本例では、装置本体5の下部に光源部4を設けてある。
【0027】
装置本体5は、移動部3及び光源部4の駆動に必要な部材を内蔵するものであり、例えば移動部3が回転羽根で送風機を構成するものである場合、移動部3を移動(軸回りに回転)させるための駆動部(モータ)等を内蔵する。この場合、光源部4は、例えば、装置本体5においてこの駆動部等を避けた位置に配すればよい。
【0028】
また、本例では、移動部3及び光源部4はともに電気で駆動するものであり、電源は同じ経路によって供給されることが好ましい。ここで、同じ経路とは、必ずしも同じ導線を流れるということではなく、一括して供給できればよい。そして、導線(電源配線)は、共有化するか、別々に設けたものを束ねて実質的に1本として扱えるようにし、さらには移動部3、光源部4及び装置本体5を一体化しておくことが、移動部3、光源部4及び装置本体5の設置・固定のための部材(例えばコネクタ等の配線経路部材)が削減し、配線作業等の設置作業の効率化・容易化を図れ、誤配線や故障の防止等にも寄与するという点で好ましい。電源は交流でも直流でも、その組み合わせでもよく、電源供給は有線でも無線でもよく、バッテリーから行うようにしてもよい。
【0029】
しかも、移動部3、光源部4及び装置本体5を一体化した場合、筐体が一体化できるので、全体の体積効率も高めることができ、意匠的にも美観が得られる。
【0030】
ここで、送風・照明装置2を栽培に用いることを考えた場合、液肥などの液体を用いるため、漏電・感電対策を行うことが好ましい。電源または装置本体5を絶縁構造にすることで、原動力を直結しないことが、万一電源ケーブルが露出し筐体や人体に触れた場合に、電流に制限がかかり、損害を小さくすることができる。また、途中に漏電ブレーカなどの安全器を入れることも好ましい。
【0031】
図2(A)に示す例では、移動部3は光源部4からの光(直接光)が照射される位置に配されているので、移動部3の移動(回転)により、光源部4からの光の照射方向が動的に変化し、光の分布が広がり、照度の均一性が高まることになる。
【0032】
また、移動部3の移動(回転)により下向き(装置本体5から遠ざかる向き)に流れる風(流体の流れ)が起こることにより、光源部4付近の空気が撹拌され排熱されるので、光源部4の発光効率を高レベルに維持することが容易となる。
【0033】
ところで、例えば
図2(A)に示す送風・照明装置2を設けた
図1に示す栽培システムにより栽培を行う場合、移動部3の回転数は、少なくとも1回/日以上、1回/秒以下とすることが考えられる。これより少なすぎると、植物Pの光合成効率は高まらず、これより多すぎると電力コストが掛かり過ぎるし、植物Pの破損も生じ易くなる。
【0034】
そして、暗いときは、植物Pは光合成をほぼ行わないので、蒸散も抑えられる。そのため、移動部3による換気はあまり必要ない。従って、光源部4を消灯している期間の少なくとも一部で移動部3も停止させることにより、植物Pの栽培に支障を来すことなく省エネを図ることができる。
【0035】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。例えば、以下のような変形例を挙げることができる。
【0036】
図2(A)には、移動部3として4枚の回転羽根を有するプロペラファンを示したが、
図2(B)には、移動部3として円筒体の外周面から外向き放射状に延びる8枚の回転羽根が設けられた遠心型の回転羽根を示してある。この場合、光源部4からの光を対象物(植物P)に直接あてる経路を設け、その部分の光の経路を変えないようにすることができる。
【0037】
図3には、光源部4を装置本体5に設けるのではなく、
図2(B)に示した移動部3の下面(下部)に設け、光源部4からの光の照射位置を動的に変化させる例を示している。このように移動部3に光源部4を設ける場合、その設ける位置は移動部3の下部(下面)に限らず、他の箇所であってもよい。例えば、光源部4を
図3に示す移動部3の上部(上面)にも設けるとともに、その上方にある装置本体5の下面を光反射部として構成してもよい。
【0038】
さらに、移動部3に光源部4を設けるのではなく、移動部3自体が発光し光源部4を兼ねるように構成してもよい。換言すれば、光源部4が移動部3を構成するような形状とし、この光源部4を移動させることにより風(流体の流れ)が起こるようにしてもよい。
【0039】
図4(A)及び(B)に示すように、移動部3が、その移動(回転)により上向き(装置本体5に近づく向き)に流れる風(流体の流れ)が起こるように構成されていてもよく、この場合、装置本体5の下部に設けた光源部4を効果的に冷却することができ、その発光効率を高レベルに維持することがより容易となる。
【0040】
なお、光源部4に連なる例えば金属製の光源冷却部(図示していない)を設け、移動部3がこの光源冷却部に向けて流れる風(流体の流れ)を起こすように構成されていてもよい。すなわち、光源冷却部を風(流体の流れ)で冷却することに伴い、光源部4が冷却するようにしてあれば、光源部4の発光効率を高レベルに維持することが容易となる。
【0041】
移動部3と照射対象物の間に光源部4を設けた場合に、光源部4が照射対象物に向かって光を照射せず、移動部3側に向かって照射するようにしてもよく、この場合、光源部4からの光は、移動部3あるいはその奥に設置された反射部で反射され、反射した光が光源部4を透過して照射対象物に光があてられるようにすることが考えられる。すなわち、この場合、光源部4に光透過性を持たせる。
【0042】
図5(A)及び(B)に示すように、空間を二つに区画する区画板6の一面側(図示例では上方)に送風・照明装置2を設けるとともに、区画板6の送風・照明装置2に対応する位置に開口7を設け、この開口7を通じて区画板6の他面側(図示例では下方)に対する吸排気を行うようにしてもよい。この場合、区画板6に光透過性を持たせておくのが好ましい。
【0043】
光源部4からの光を、適宜の反射部材に反射させて利用する場合、反射は、拡散型でも正反射型でも、それらの組み合わせでもよい。その全反射率は、20%以上、50%以上、70%以上、さらには80%以上とすることが考えられる。
【0044】
光源部4からの光を、適宜の透過部材に透過させて利用する場合、透過は、拡散型でも正反射型でも、それらの組み合わせでもよい。その全透過率は、20%以上、50%以上、70%以上、さらには80%以上とすることが考えられる。
【0045】
移動部3を有する送風手段(送風装置)として、ポンプを用いる場合は、例えば、
図6に示すように、ポンプ8内で回転する羽根車(インペラ)(図示していない)と一体的に回転し、ポンプ8外に配されたプロペラである移動部3を、光源部4と植物Pとの間に配するようにすることが考えられる。
図6には海藻栽培を行う場合を示してあり、液体中(水中又は養液中)に配された植物Pの周囲の液(水)が、ポンプ8によって生じた流れによって循環・撹拌されるようにしてある。
【0046】
送風・照明装置2の機械部分において、油などの潤滑剤を用いる場合も、食品用に認められたものを使うことが好ましい。
【0047】
なお、本明細書で挙げた変形例どうしを適宜組み合わせてもよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0048】
1 棚
2 送風・照明装置
3 移動部
4 光源部
5 装置本体
6 区画板
7 開口
8 ポンプ
9 プロペラ
P 植物