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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】床材用接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/04 20060101AFI20230413BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20230413BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20230413BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20230413BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20230413BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230413BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20230413BHJP
   C08L 33/02 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
C08L75/04
C09J175/04
C09J11/04
C09J11/08
C08K3/36
C08L101/00
C08G18/00 C
C08L33/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019052694
(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2020152815
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000103541
【氏名又は名称】オート化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】浅井 直樹
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-034828(JP,A)
【文献】特開2002-194679(JP,A)
【文献】特開2007-045958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水性ポリウレタンエマルジョンと、(B)微粉状シリカと、(C)増粘剤((B)微粉状シリカを除く)と、を含有する水性ポリウレタン系エマルジョン組成物であって、
JIS A 5536:2015 6.3.2d)3)に規定する水中浸せき引張接着強さが0.5N/mm以上であり、JIS A 5536:2015 6.3.3e)2)に規定する水中浸せき剥離接着強さが10.0N/25mm以上であり、
前記(C)増粘剤に対する前記(B)微粉状シリカの配合割合が、質量比にて、1.0以上6.0以下であり、
前記(A)水性ポリウレタンエマルジョンの固形分100質量部に対し、前記(B)微粉状シリカを3.0質量部以上10質量部以下、前記(C)増粘剤を1.0質量部以上3.5質量部以下含有する水性ポリウレタン系エマルジョン組成物。
【請求項2】
前記(A)水性ポリウレタンエマルジョンの含水率が、50質量%以上80質量%以下である請求項に記載の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物。
【請求項3】
前記(C)増粘剤が、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びポリビニルアルコールからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物。
【請求項4】
床材用接着剤組成物である請求項1乃至のいずれか1項に記載の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業性及び接着性、特に耐水接着性に優れた床材用ウレタン系エマルジョン型接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成樹脂製床材などの床材の現場施工には、有機溶剤系の接着剤が広く使用されている。しかし、有機溶剤系の接着剤では、有機溶剤による、作業環境、人体に対する安全性及び火災等の問題があり、近年、有機溶剤を使用しないエマルジョン型の水系接着剤が使われるようになってきている。
【0003】
しかしながら、一般に、水系接着剤は、有機溶剤系接着剤に比べ耐水性が低いため、含水率が高いコンクリート下地やセメントモルタル下地等に接着された床材が、剥離する場合がある。さらに、床材を施工するときに、作業効率から、水系接着剤の塗布後に十分な可使時間を有することが求められている。
【0004】
これらの問題を解決するために、重量平均分子量20万以上のアクリル系樹脂を含むアクリル系エマルジョンと、ロジン系樹脂を含む粘着付与剤と、を含む床材用水系接着剤(特許文献1)、リン酸塩化合物を含む(メタ)アクリル系共重合体のエマルジョン系の床材用接着剤組成物(特許文献2)等が提案されている。
【0005】
しかし、JIS A 5536:2015においては、アクリル樹脂系のエマルジョン型接着剤には耐水形の規定はなく、一方で、耐水形の規定のあるエポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系または変成シリコーン樹脂系のエマルジョン型接着剤において、床材用水系接着剤として、耐水形の性能を満たす接着剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-265370号公報
【文献】特開2017-218547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、可使時間が長期化され、耐水接着性に優れた水性ポリウレタン系エマルジョン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、以下の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物が有効であることを見出した。本発明の構成の要旨は以下の通りである。
[1](A)水性ポリウレタンエマルジョンと、(B)微粉状シリカと、(C)増粘剤と、を含有する水性ポリウレタン系エマルジョン組成物であって、
JIS A 5536:2015 6.3.2d)3)に規定する水中浸せき引張接着強さが0.5N/mm以上であり、JIS A 5536:2015 6.3.3e)2)に規定する水中浸せき剥離接着強さが10.0N/25mm以上である水性ポリウレタン系エマルジョン組成物。
[2]前記(C)増粘剤に対する前記(B)微粉状シリカの配合割合が、質量比にて、1.0以上6.0以下である[1]に記載の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物。
[3]前記(A)水性ポリウレタンエマルジョンの固形分100質量部に対し、前記(B)微粉状シリカを3.0質量部以上10質量部以下、前記(C)増粘剤を1.0質量部以上3.5質量部以下含有する[1]または[2]に記載の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物。
[4]前記(A)水性ポリウレタンエマルジョンの含水率が、50質量%以上80質量%以下である[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物。
[5]前記(C)増粘剤が、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びポリビニルアルコールからなる群から選択される少なくとも1種である[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物。
[6]床材用接着剤組成物である[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の態様によれば、有機溶剤系接着剤ではなく水系接着剤として使用できるので、樹脂床材の施工現場の作業環境やシックハウス症候群等の床材を施工した建築物の利用者の健康問題等を改善できるとともに、水系接着剤として使用するにあたり、可使時間が長期化されるので作業効率が向上しつつ、エマルジョン型JIS A 5536:2015における耐水形の規定を満たす耐水接着性に優れた水系接着剤を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物について、詳細に説明する。
【0011】
本発明の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物は、(A)水性ポリウレタンエマルジョンと、(B)微粉状シリカと、(C)増粘剤と、を含有する水性ポリウレタン系エマルジョン組成物であって、JIS A 5536:2015 6.3.2d)3)に規定する水中浸せき引張接着強さが0.5N/mm以上であり、JIS A 5536:2015 6.3.3e)2)に規定する水中浸せき剥離接着強さが10.0N/25mm以上である。本発明の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物は、JIS A 5536:2015 6.3.2d)3)に規定する水中浸せき引張接着強さが0.5N/mm以上であり、JIS A 5536:2015 6.3.3e)2)に規定する水中浸せき剥離接着強さが10.0N/25mm以上であることにより、例えば、床材用接着剤組成物として使用した場合に、耐水接着性に優れた水系接着剤としての機能を発揮する。
【0012】
上記水中浸せき剥離接着強さは10.0N/25mm以上であれば特に限定されず、その上限値としては、例えば、30.0N/25mmが挙げられる。また、上記水中浸せき引張接着強さが0.5N/mm以上であれば特に限定されないが、その上限値としては、例えば、1.50N/mmが挙げられる。
【0013】
次に、本発明の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の構成成分について、以下に説明する。本発明の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物は、(A)水性ポリウレタンエマルジョンと、(B)微粉状シリカと、(C)増粘剤と、を含有する。
【0014】
(A)水性ポリウレタンエマルジョン
本発明における水性ポリウレタンエマルジョンは、(a)有機ポリイソシアネート、(b)高分子ポリオール、(c)アニオン性基を有する活性水素含有化合物、(d)鎖延長剤、(e)中和剤及び(f)接着性付与剤を反応させることで得ることができる。
【0015】
(a)有機ポリイソシアネート
有機ポリイソシアネートは、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物である。有機ポリイソシアネートとしては、イソシアネート基が芳香族炭化水素に結合している芳香族系ポリイソシアネート、芳香環を有しかつイソシアネート基が脂肪族炭化水素基に結合している芳香脂肪族ポリイソシアネート、脂肪族炭化水素基のみからなる脂肪族系ポリイソシアネートなどが挙げられる。
【0016】
芳香族系ポリイソシアネートとしては、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、これらの混合物等のジフェニルメタンジイソシアネート類(MDI類);2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、これらの混合物等のトルエンジイソシアネート類(TDI類);フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネートなどが挙げられる。
【0017】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、キシリレンジイソシアネートなどが挙げられ、脂肪族系ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;シクロヘキサンジイソシアネート、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート等の脂環族ポリイソシアネートなどが挙げられる。
【0018】
有機ポリイソシアネートとしては、さらに、上記したジイソシアネートのカルボジイミド変性体、ビウレット変性体、アロファネート変性体、二量体、三量体、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)などが挙げられる。
【0019】
これらの有機ポリイソシアネートのうち、脂環族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネートが好ましい。これらは、単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
(b)高分子ポリオール
高分子ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオキシアルキレン系ポリオール、炭化水素系ポリオール、ポリ(メタ)アクリル系ポリオール、動植物系ポリオール、これらのコポリオール、上記ポリオールの2種以上の混合物などが挙げられる。なお、本明細書中、「高分子」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の数平均分子量が1,000以上であることを意味し、「低分子」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の数平均分子量が1,000未満であることを意味する。高分子ポリオールのゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の数平均分子量は、1,000~100,000が好ましく、1,000~30,000がより好ましく、1,000~20,000が特に好ましい。数平均分子量が1,000未満のポリオールでは、得られる水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の硬化後の伸びなどのゴム弾性物性が低下してしまう。一方で、高分子ポリオールの数平均分子量が100,000を超えると、得られる水性ポリウレタンエマルジョンの粘度が高くなる傾向にある。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは「アクリル及び/またはメタクリル」を意味する。
【0021】
ポリエステルポリオールとしては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、へキサヒドロオルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸等のポリカルボン酸、上記ポリカルボン酸のエステル、上記ポリカルボン酸無水物等の1種以上と、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-シクロへキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイド付加物、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の低分子ポリオール類、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン等の低分子ポリアミン類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等の低分子アミノアルコール類の1種以上との脱水縮合反応で得られる、ポリエステルポリオールまたはポリエステルアミドポリオールが挙げられる。また、低分子ポリオール類、低分子ポリアミン類、低分子アミノアルコール類を開始剤として、ε-カプロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル(ラクトン)モノマーの開環重合で得られるラクトン系ポリエステルポリオールが挙げられる。
【0022】
ポリカーボネートポリオールとしては、前記ポリエステルポリオールの合成に用いられる低分子ポリオール類とホスゲンとの脱塩酸反応、または前記低分子ポリオール類とジエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等とのエステル交換反応で得られるものが挙げられる。
【0023】
ポリオキシアルキレン系ポリオールとしては、前記ポリエステルポリオールの合成に用いられる低分子ポリオール類、低分子ポリアミン類、低分子アミノアルコール類、ポリカルボン酸や、ソルビトール、マンニトール、ショ糖(スクロース)、グルコース等の糖類系低分子多価アルコール類;ビスフェノールA、ビスフェノールF等の低分子多価フェノール類の一種以上を開始剤として、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン等の環状エーテル化合物の1種以上を開環付加重合あるいは共重合(以下、「重合あるいは共重合」を(共)重合ということがある。)させた、ポリオキシエチレン系ポリオール、ポリオキシプロピレン系ポリオール、ポリオキシブチレン系ポリオール、ポリオキシテトラメチレン系ポリオール、ポリ-(オキシエチレン)-(オキシプロピレン)-ランダムまたはブロック共重合系ポリオール等が挙げられる。また、ポリオキシアルキレン系ポリオールとして、前記ポリエステルポリオールやポリカーボネートポリオールを開始剤としたポリエステルエーテルポリオール、ポリカーボネートエーテルポリオールなどが挙げられる。また、ポリオキシアルキレン系ポリオールとして、これらの各種ポリオールと有機イソシアネートとを、イソシアネート基に対し水酸基過剰で反応させて、分子末端を水酸基としたポリオール等が挙げられる。
【0024】
また、必要に応じて、ポリウレタン変性用として、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等の低分子モノアルコール類を開始剤として、前記プロピレンオキシド等の環状エーテル化合物を開環付加重合させたポリオキシプロピレン系モノオール等のポリオキシアルキレン系モノオールなどを使用することもできる。ポリオキシアルキレン系ポリオールのアルコール性水酸基の数は、特に限定されないが、1分子当たり平均2個以上が好ましく、2~4個がより好ましく、2~3個が特に好ましい。
【0025】
なお、本明細書中、前記ポリオキシアルキレン系ポリオール、前記ポリオキシアルキレン系モノオールなどの「系」とは、分子1モル中の水酸基を除いた部分の50質量%以上が、ポリオキシアルキレンで構成されていることを意味する。従って、残りの部分がエステル、ウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ(メタ)アクリレート、ポリオレフィンなどの他の構造体で変性されていてもよい。ポリオキシアルキレンで構成されている部分は、50質量%以上であれば、特に限定されないが、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が特に好ましい。
【0026】
炭化水素系ポリオールとしては、例えば、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール等のポリオレフィンポリオール;水添ポリブタジエンポリオール、水添ポリイソプレンポリオール等のポリアルキレンポリオール;塩素化ポリプロピレンポリオール、塩素化ポリエチレンポリオール等のハロゲン化ポリアルキレンポリオールなどが挙げられる。
【0027】
ポリ(メタ)アクリル系ポリオールとしては、水酸基含有(メタ)アクリル系単量体を少なくとも含有するエチレン性不飽和化合物を重合開始剤の存在下又は不存在下において、バッチ式又は連続重合などの公知のラジカル重合の方法により、好ましくは150~350℃、さらに好ましくは210~250℃で高温連続重合反応して得られるものが、反応生成物の分子量分布が狭く低粘度になるため好適である。ポリ(メタ)アクリル系ポリオールは、水酸基含有(メタ)アクリル系単量体を単独で重合して得られるものであってもよく、水酸基含有(メタ)アクリル系単量体の2種以上を共重合して得られるものであってもよく、水酸基含有(メタ)アクリル系単量体の1種又は2種以上と水酸基含有(メタ)アクリル系単量体以外のエチレン性不飽和化合物(他のエチレン性不飽和化合物)とを共重合して得られるものであってもよい。これらのうち、ポリ(メタ)アクリル系ポリオールの水酸基の含有量を調節することが容易で、硬化樹脂の物性を選択し易い点から、水酸基含有(メタ)アクリル系単量体の1種又は2種以上とこれら以外のエチレン性不飽和化合物の1種又は2種以上とを共重合して得られるものが好ましい。前記共重合の際、水酸基含有(メタ)アクリル系単量体を、ポリ(メタ)アクリル系ポリオール1分子当たりの平均水酸基官能数が1.0~10.0個となるように使用するのが好ましく、1.2~3.0個となるように使用するのが特に好ましい。ポリ(メタ)アクリル系ポリオール1分子当たりの平均水酸基官能数が10.0個を超えると、硬化後の物性が硬くなってゴム状弾性が低下する傾向にある。このうち、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の数平均分子量が1,000~30,000のポリ(メタ)アクリル系ポリオールが好ましく、2,000~15,000のポリ(メタ)アクリル系ポリオールが特に好ましい。また、ポリ(メタ)アクリル系ポリオールのガラス転移温度(Tg)は、0℃以下が好ましく、-70~-20℃がより好ましく、-70~-30℃が特に好ましい。また、ポリ(メタ)アクリル系ポリオールの25℃における粘度は、100,000mPa・s以下が好ましく、50,000mPa・s以下が特に好ましい。数平均分子量30,000、Tg0℃、25℃における粘度100,000mPa・sをそれぞれ超えると、得られる組成物の施工時の作業性が低下する傾向がある。
【0028】
水酸基含有(メタ)アクリル系単量体としては、有機イソシアネート化合物のイソシアネート基との反応性の良さ、および得られるイソシアネート基含有ウレタン系プレポリマーの粘度の点から、アルコール性水酸基含有(メタ)アクリル系単量体が好ましく、具体的には、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の多価アルコールのモノアクリレート類又は水酸基残存ポリアクリレート類などが挙げられる。
【0029】
他のエチレン性不飽和化合物としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、ブタジエン、クロロプレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、(メタ)アクリル酸、酢酸ビニル、スチレン、2-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、グリシジル(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリウレタンジ(メタ)アクリレート、アクリル酸ダイマー、ポリエステルポリ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらのうち、エチレン性不飽和化合物としては、硬化後の特性などの点から、(メタ)アクリル酸エステル系化合物のモノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリルなどの(メタ)アクリル系化合物が好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルが更に好ましい。
【0030】
これらは単独でまたは2種以上を混合して使用できる。また炭素数9以下の(メタ)アクリル系単量体の1種又は2種以上と炭素数10以上の(メタ)アクリル系単量体の1種又は2種以上とを組み合わせて使用してもよい。
【0031】
動植物系ポリオールとしては、例えば、ヒマシ油系ポリオールなどが挙げられる。
【0032】
上記した各種高分子ポリオールは、単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの高分子ポリオールのうち、ゴム物性や耐水接着性が良好な点で、ポリオキシアルキレン系ポリオールが好ましく、ポリオキシテトラメチレン系ポリオールが特に好ましい。
【0033】
(c)アニオン性基を有する活性水素含有化合物
アニオン性基を有する活性水素含有化合物は、その化合物中にアニオン性基および活性水素(基)をそれぞれ1つ以上有する化合物である。アニオン性基を有する活性水素含有化合物の活性水素(基)を有機ポリイソシアネートのイソシアネート基と反応させてウレタンプレポリマー中にアニオン性基を導入することにより、アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーは、水に乳化、分散し易くなる。アニオン性基を有する活性水素含有化合物としては、例えば、カルボキシル基を有する活性水素含有化合物、スルホン基を有する活性水素含有化合物等を挙げることができる。これらは、単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
カルボキシル基を有する活性水素含有化合物としては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA)、2,2-ジメチロールブタン酸(DMBA)、2,2-ジメチロールペンタン酸、2,2-ジメチロールヘキサン酸、2,2-ジメチロールヘプタン酸、2,2-ジメチロールオクタン酸、2,2-ジメチロールノナン酸、2,2-ジメチロールデカン酸等が挙げられる。
【0035】
スルホン基を有する活性水素含有化合物としては、例えば、ジヒドロキシブタンスルホン酸、ジヒドロキシプロパンスルホン酸、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノブタンスルホン酸、1,3-フェニレンジアミン-4,6-ジスルホン酸、ジアミノブタンスルホン酸、ジアミノプロパンスルホン酸、3,6-ジアミノ-2-トルエンスルホン酸、2,4-ジアミノ-5-トルエンスルホン酸、N-(2-アミノエチル)-2-アミノエタンスルホン酸、2-アミノエタンスルホン酸、N-(2-アミノエチル)-2-アミノブタンスルホン酸等が挙げられる。
【0036】
これらのうち、アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーがより水に乳化、分散し易く、水性ポリウレタン系エマルジョン組成物が耐水接着性により優れることから、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA)、2,2-ジメチロールブタン酸(DMBA)が好ましい。
【0037】
(d)鎖延長剤
鎖延長剤は、その化合物中に活性水素(基)を有する化合物であり、アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのイソシアネート基と反応(鎖延長)して、アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを高分子化させるものである。アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを高分子化させてアニオン性基を有するポリウレタン樹脂とすることで、水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の硬化物形成性が向上し、水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の硬化物が、下地材との耐水接着性に特に優れるものとなる。
【0038】
鎖延長剤としては、例えば、エチレンジアミン、1,4-テトラメチレンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,4-ヘキサメチレンジアミン、3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、キシリレンジアミン、ピペラジン、アジポイルヒドラジド、ヒドラジン(水和物を含む)、イソホロンジアミン、2,5-ジメチルピペラジン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアミン化合物、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のジオール化合物、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール類、低分子ポリオール、低分子アミノアルコール、水等が挙げられる。これらはいずれも1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、鎖延長剤として水を使用する場合は、分散媒体である水が鎖延長剤を兼ねることになる。これらのうち、水への溶解性やアニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのイソシアネート基との反応性に優れることから一級ジアミンが好ましく、ヒドラジン(水和物を含む)、イソホロンジアミンが特に好ましい。
【0039】
(e)中和剤
アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーの水への乳化、分散を向上させるため、中和剤を用いてアニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマー中のアニオン性基を中和することが好ましい。アニオン性基を中和剤で中和することでアニオン性基がアニオン性基塩となり水との親和性が向上し、アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーが水へ乳化、分散し易くなる。
【0040】
中和剤としては、例えば、アンモニア、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、トリプロピルアミン、N-メチルモルホリン、メチルジイソプロピルアミン、エチルジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-フェニルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、2-アミノ-2-エチル-1-プロパノール等の有機アミン類、リチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの無機アルカリ類等が挙げられる。これらはいずれも1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の貯蔵安定性が良好となる点、及び水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の乾燥硬化時に飛散させることにより除去し得るので耐水性の低下を防止できる点から、揮発性の第3級アミンが好ましく、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミンが特に好ましい。
【0041】
(f)接着性付与剤
接着性付与剤は、アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのイソシアネート基と反応性を有する活性水素(基)および加水分解性(架橋性)シリル基を有する化合物である。イソシアネート基と反応性を有する活性水素(基)および加水分解性シリル基を有する化合物を、アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのイソシアネート基と反応させて、アニオン性基を有するポリウレタン樹脂中に加水分解性シリル基を導入することで、水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の硬化物が下地材との耐水接着性に特に優れるものとなる。すなわち、アニオン性基を有するポリウレタン樹脂中の加水分解性シリル基が下地材と化学的に作用することで接着性が向上するとともに、加水分解性シリル基が互いに縮合しアニオン性基を有するポリウレタン樹脂が高分子化することで耐水性が向上する。接着性付与剤としては、例えば、アミノシランカップリング剤、メルカプトシランカップリング剤等が挙げられる。これらはいずれも1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
アミノシランカップリング剤としては、例えば、アミノメチルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)アミノメチルトリメトキシシラン、アミノメチルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)メチルトリブトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-アミノイソブチルトリメトキシシラン、N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノ-2-メチルプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0043】
メルカプトシランカップリング剤としては、例えば、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルエチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルエチルジエトキシシラン、3-メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、2-メルカプトエチルメチルジメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0044】
これらのうち、アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのイソシアネート基との反応性が高く、水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の耐水接着性に優れる点から、アミノシランカップリング剤が好ましい。
【0045】
アニオン性基を有するポリウレタン樹脂中の加水分解性シリル基のケイ素原子の含有量は、特に限定はされないが、0.01質量%~3.0質量%が好ましく、0.1質量%~3.0質量%がより好ましく、0.3質量%~2.0質量%が特に好ましい。アニオン性基を有するポリウレタン樹脂中の加水分解性シリル基のケイ素原子の含有量が0.01質量%未満では下地材(特に、無機材料)に対する接着性が低下する傾向が生じる場合があり、加水分解性シリル基のケイ素原子の含有量が3.0質量%超では水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の貯蔵安定性が低下する場合がある。
【0046】
鎖延長剤および接着性付与剤の使用量の合計は、アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのイソシアネート基とのモル比(アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのイソシアネート基のモル数/鎖延長剤および接着性付与剤の活性水素(基)の合計モル数)で1.0~1.3/1.0であることが好ましく、1.0~1.2/1.0がより好ましく、1.0~1.1/1.0が特に好ましい。
【0047】
上記各成分を反応させて得られる水性ポリウレタンエマルジョンの固形分率は、例えば、20~50質量%が好ましく、30~45質量%が特に好ましい。すなわち、水性ポリウレタンエマルジョンの含水率は、例えば、50~80質量%が好ましく、55~70質量%が特に好ましい。
【0048】
(B)微粉状シリカ
微粉状シリカが水性ポリウレタン系エマルジョン組成物に配合されることにより、水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の耐水接着性の向上に寄与する。微粉状シリカとしては、例えば、ヒュームドシリカが挙げられる。市販されているヒュームドシリカとしては、日本アエロジル株式会社製の「アエロジル 130」、「アエロジル 200」、「アエロジル 300」、「アエロジル R106」、株式会社トクヤマ製の「レオロシール」、キャボットコーポレーション製の「CAB-O-SIL」、「CAB-O-SPERSE」等が挙げられる。
【0049】
微粉状シリカの配合量は、(A)水性ポリウレタンエマルジョン100質量部(固形分)に対して、3.0質量部~10重量部の範囲が好ましく、4.5重量部~9.0重量部の範囲が特に好ましい。微粉状シリカの配合量は、3.0質量部未満では十分な耐水接着性が得られない傾向にあり、一方で、10質量部超では水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の指触乾燥性時間が短くなって十分な可使時間を確保できずに作業性が低下する傾向にある。
【0050】
(C)増粘剤
増粘剤が水性ポリウレタン系エマルジョン組成物に配合されることにより、水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の可使時間の長期化に寄与する。増粘剤としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、アルカリ膨潤型(メタ)アクリル系エマルジョン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリビニルアルコール、合成スメクタイト等が挙げられる。これらのうち、水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の可使時間をより確実に確保し、また、貯蔵安定性を得る点から、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウムが好ましい。
【0051】
増粘剤の配合量は、(A)水性ポリウレタンエマルジョン100質量部(固形分)に対して、1.0質量部~3.5質量部の範囲が好ましく、1.5質量部~3.0質量部の範囲が特に好ましい。増粘剤の配合量は、1.0質量部未満では水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の指触乾燥性時間が短くなって十分な可使時間を確保できずに作業性が低下する傾向、また、水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にあり、一方で、3.5質量部超では十分な耐水接着性が得られない傾向にある。
【0052】
増粘剤に対する微粉状シリカの配合割合は、水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の耐水接着性と十分な可使時間の確保をバランスよく向上させる点から、質量比にて、1.0以上6.0以下が好ましく、2.0以上5.0以下が特に好ましい。
【0053】
次に、本発明に用いる水性ポリウレタンエマルジョンの製造方法について説明する。本発明に用いる水性ポリウレタンエマルジョンの製造方法としては、従来公知の方法を用いることができ、特に制限はない。具体的には、例えば、下記の工程を含む製造方法を挙げることができる。
【0054】
(I) 有機ポリイソシアネートと、高分子ポリオール及びアニオン性基を有する活性水素含有化合物とを反応させてアニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成する工程
(II) 中和剤を用いてアニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのアニオン性基を中和する工程
(III)アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを水に乳化、分散する工程
(IV) アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーと鎖延長剤及び接着性付与剤を反応させてアニオン性基を有するポリウレタン樹脂を合成する工程
(V) (I)~(IV)の工程で有機溶剤を使用した場合は、有機溶剤を除去する工程
【0055】
上記各工程について、以下に説明する。
(I)アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーは、ガラス製やステンレス製等の反応容器内で、有機ポリイソシアネートと、高分子ポリオール及びアニオン性基を有する活性水素含有化合物とを、一括あるいは逐次的に反応させて、アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマー中にイソシアネート基が残存するようにして合成する。有機ポリイソシアネートと高分子ポリオールとを反応させる割合は、イソシアネート基と水酸基(ただし、アニオン性基を有する活性水素含有化合物に含まれる水酸基は除く。)との反応モル比(イソシアネート基/水酸基)が、好ましくは1.2~5.0/1.0、より好ましくは1.2~4.0/1.0、特に好ましくは1.3~3.0/1.0である。前記モル比が1.2/1.0未満であるとアニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーの粘度が高くなり、大量の溶剤が必要となる場合がある。また、前記モル比が5.0/1.0を超えると、アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーの分子量が小さく、水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の塗膜形成性が低下する場合がある。
【0056】
アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基含有量は、1.0~20質量%が好ましく、3.0~15質量%がより好ましく、5.0~10質量%が特に好ましい。イソシアネート基含有量が1.0質量%未満では、アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーの粘度が高くなり、大量の溶剤が必要となる場合がある。また、イソシアネート基含有量が20質量%超では、水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の塗膜形成性が低下する場合がある。
【0057】
アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマー中のアニオン性基含有量は、0.3~6.0質量%が好ましい。
【0058】
アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーの合成は、イソシアネート基と湿気(水分)との反応を避けるため、反応容器内の空気を予め窒素で置換したり、窒素気流下で行うことが好ましい。また、アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーの合成の際には、後述する他の活性水素含有化合物、有機溶剤や反応触媒を使用することができる。他の活性水素含有化合物を使用する場合のアニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーの合成は、有機ポリイソシアネートと高分子ポリオールとアニオン性基を有する活性水素含有化合物と他の活性水素含有化合物を一括で反応させてもよいし、有機ポリイソシアネートと高分子ポリオールと他の活性水素含有化合物を反応させた後、さらにアニオン性基および活性水素含有化合物を仕込み逐次に反応させてもよいし、有機ポリイソシアネートとアニオン性基および活性水素含有化合物を反応させた後、さらに高分子ポリオールと他の活性水素含有化合物を仕込み逐次に反応させてもよい。
【0059】
(II)上記の通り、アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーの水への乳化、分散を向上させるため、中和剤を用いてアニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマー中のアニオン性基を中和することが好ましい。アニオン性基を中和剤で中和することでアニオン性基がアニオン性基塩となり水との親和性が向上し、アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーが水へ乳化、分散し易くなる。
【0060】
中和剤は、アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを水に乳化、分散する前、または水に乳化、分散するのと同時に使用することができる。また、アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成する際に高分子ポリオールとアニオン性基を有する活性水素含有化合物を仕込む操作と同時に使用してもよい。アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーが水に乳化、分散し易い点で、アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを水に乳化、分散する前に使用することが好ましい。
【0061】
中和剤の使用量は、アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマー中のアニオン性基に対し、モル比(アニオン性基と塩を形成可能な中和剤のモル数/アニオン性基のモル数)で0.6~1.1/1.0が好ましく、0.8~1.0/1.0が特に好ましい。中和剤の使用量が前記モル比で0.6未満ではアニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーが水へ乳化、分散しづらくなる傾向があり、また、水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の貯蔵安定性が低下する場合がある。また、中和剤の使用量が前記モル比で1.1超では、特に中和剤として有機アミンを使用した場合に、水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の臭気が強くなる。
【0062】
(III)アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを水に乳化、分散させる方法としては、例えば、容器中で攪拌しながらアニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーに水を一括または逐次に加え乳化、分散させる方法、または容器中で攪拌しながら水にアニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを一括または逐次に加え乳化、分散させる方法がある。アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを水に乳化、分散させる操作は、従来公知の攪拌機によって行うことができる。上記した乳化、分散させる操作に使用できる装置としては、次工程で得られるアニオン性基を有するポリウレタン樹脂の粒子径の調整が比較的容易で均一な水分散体を得ることができる点から、ホモミキサー、ホモジェナイザー、ディスパー、ラインミキサー、衝突混合を利用した分散装置、超音波振動を利用した分散装置等を挙げることができる。
【0063】
(IV)アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーに鎖延長剤と接着性付与剤とを一括または逐次に加え、アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのイソシアネート基と反応させてアニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを高分子化させることで、アニオン性基を有するポリウレタン樹脂が得られる。上記反応温度としては、0~60℃が好ましく、5~40℃がより好ましく、5~30℃が特に好ましい。鎖延長剤および接着性付与剤の使用量の合計は、アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのイソシアネート基とのモル比(アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのイソシアネート基のモル数/鎖延長剤および接着性付与剤の活性水素(基)の合計モル数)で1.0~1.3/1.0であることが好ましく、1.0~1.2/1.0がより好ましく、1.0~1.1/1.0が特に好ましい。
【0064】
なお、この工程は、(III)アニオン性基を有するイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを水に乳化、分散させる工程と同時に行うこともできる。また、アニオン性基を有するポリウレタン樹脂を得る際には、必要に応じて、後述する反応停止剤を使用することができる。
【0065】
(V)有機溶剤を除去する方法としては、常圧蒸留または減圧蒸留が挙げられる。蒸留の際に有機溶剤を留去し易くするため、蒸留の際に、有機溶媒に分散したアニオン性基を有するポリウレタン樹脂を加温してもよい。加温常圧蒸留または加温減圧蒸留により有機溶剤を留去する場合は、有機溶剤と同時に水も留去することがあるため、留去する有機溶剤の種類に応じて加温温度を適宜設定する必要がある。
【0066】
有機溶剤を用いる場合、有機溶剤としては、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーやアニオン性基を有するポリウレタン樹脂を溶解させ、水との親和性(混和性)があるものであれば、いずれも使用できる。具体的には、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン、ジイソブチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン系溶剤:ジエチレングリコールジメチルエーテルやジエチレングリコールジエチルエーテルやトリエチレングリコールジメチルエーテル等のポリエチレングリコールジアルキルエーテル系溶剤:メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤:酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、メトキシプロピルアセテート、3-メトキシブチルアセテート、2-エチルブチルアセテート、2-エチルヘキシルアセテート、酢酸シクロヘキシル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸ブチル、酪酸ブチル、アジピン酸ジオクチル、グルタル酸ジイソプロピル等のエステル系溶剤:エチレングリコ-ルエチルエ-テルアセテ-ト、プロピレングリコ-ルメチルエ-テルアセテ-ト、3-メチル-3-メトキシブチルアセテ-ト、エチル-3-エトキシプロピオネ-ト等のグリコ-ルエ-テルエステル系溶剤:テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、ジエトキシエタン等のエ-テル系溶剤:ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート系溶剤が挙げられる。前記有機溶剤は1種又は2種以上使用することができる。これらのうち、除去操作が容易であり、水との親和性に優れることから、アセトン、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、ジメチルカーボネート等が好ましい。
【0067】
上記(I)~(V)の工程により、アニオン性基を有するポリウレタン樹脂が水に乳化、分散した(A)水性ポリウレタンエマルジョンを得ることができる。
【0068】
アニオン性基を有するポリウレタン樹脂の粒子径
上記(I)~(V)の工程で得られるアニオン性基を有するポリウレタン樹脂の平均粒子径は、10~1,000nmであることが好ましく、20~500nmであることがより好ましく、40~400nmであることが特に好ましい。アニオン性基を有するポリウレタン樹脂の平均粒子径が10nm未満では水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の乾燥性、耐水接着性が低下する傾向にあり、平均粒子径が1,000nmを超えると水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。なお、本発明における平均粒子径は、レーザー回折分散法粒度分布測定によって求められる数値である。
【0069】
他の活性水素含有化合物
本明細書において、他の活性水素含有化合物は、高分子ポリオール、アニオン性基を有する活性水素含有化合物、鎖延長剤、接着性付与剤、後述する反応停止剤以外の数平均分子量が1,000未満の活性水素含有化合物である。
【0070】
他の活性水素含有化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、3,5-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールおよびトリプロピレングリコール等の低分子の脂肪族ポリオール;シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール等の低分子の脂環式ポリオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド(以下、「EO」という場合もある。)付加物であるビスフェノールAのEO2モル付加物、ビスフェノールAのEO4モル付加物、ビスフェノールAのEO6モル付加物、ビスフェノールAのEO8モル付加物、ビスフェノールAのEO10モル付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド(以下、「PO」という場合もある。)付加物であるビスフェノールAのPO2モル付加物、ビスフェノールAのPO3モル付加物およびビスフェノールAのPO5モル付加物等の低分子の芳香族ポリオール;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキシトール類、ペンチトール類、グリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、テトラメチロールプロパン等の水酸基を3つ以上有する低分子のポリオール等が挙げられる。これらは、いずれも1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0071】
反応停止剤
反応停止剤としては、例えば、モノアルコール類、モノアミン類、アルカノールアミン類等や、これらの混合物が使用でき、また、フェニルイソシアネート、ブチルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート等のようなモノイソシアネートも反応停止剤として使用できる。具体的には、モノアルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、2-エチルヘキサノール等が挙げられる。モノアミン類としては、例えば、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等の1級アミンや、ジエチルアミン、ジブチルアミン等の2級アミンが挙げられる。アルカノールアミン類としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0072】
本発明に用いる(A)水性ポリウレタンエマルジョンを合成する際に、必要に応じて、公知のウレタン化触媒を用いることができる。ウレタン化触媒としては、具体的には、例えば、亜鉛、錫、ジルコニウム、ビスマス、コバルト、マンガン、鉄等の金属と、オクテン酸、ナフテン酸等の有機酸との金属塩;ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート等の有機金属と有機酸との塩;トリエチレンジアミン、トリ-n-ブチルアミン、1,4-ジアザビシクロ〔2,2,2〕オクタン(DABCO)、1,8-ジアザビシクロ〔5,4,0〕ウンデセン-7(DBU)等の有機アミンやその塩等が挙げられる。これらは、いずれも1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。水性ポリウレタンエマルジョンを合成する際におけるウレタン化の反応温度は、30℃~120℃が好ましく、50℃~100℃がより好ましく、60℃~80℃が特に好ましい。
【0073】
本発明の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物は、上記成分の他に、本発明の目的を損なわない範囲で添加剤を使用することができる。添加剤としては、具体的には、上記接着性付与剤以外の他の接着性付与剤、消泡剤、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、フィラー、安定剤、上記増粘剤以外の他の増粘剤等を挙げることができる。これらの添加剤は、いずれも1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0074】
他の接着性付与剤としては、具体的には、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3,4-エポキシシクロヘキシルトリエトキシシラン、3,4-エポキシシクロヘキシルエチルメチルジメトキシシラン等のエポキシシランカップリング剤、ビニルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプルピルトリメトキシシラン、3-アクリキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のビニル基や(メタ)アクリロイル基を有する不飽和炭化水素シランカップリング剤、およびメチルシリケート、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン等の炭化水素シランカップリング剤、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイドシランカップリング剤が挙げられる。
【0075】
消泡剤としては、具体的には、例えば、鉱物油系ノニオン系界面活性剤、ポリジメチルシロキサンオイル、EO若しくはPO変性のジメチルシリコーンまたはジメチルシリコーンエマルジョン等のシリコーン系消泡剤、鉱物油、アセチレンアルコール等のアルコール系消泡剤が挙げられる。
【0076】
本発明の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の固形分濃度は、(A)水性ポリウレタンエマルジョンの固形分であるアニオン性基を有するポリウレタン樹脂、(B)微粉状シリカ、(C)増粘剤、および必要に応じて使用される添加剤(ただし、乾燥硬化後に水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の硬化物となる成分)の合計量が水性ポリウレタン系エマルジョン組成物全体の25質量%~65質量%の範囲であることが好ましく、35質量%~55質量%の範囲であることが特に好ましい。(A)水性ポリウレタンエマルジョンの固形分であるアニオン性基を有するポリウレタン樹脂、(B)微粉状シリカ、(C)増粘剤、および必要に応じて使用される添加剤の合計量が水性ポリウレタン系エマルジョン組成物全体の25質量%未満では、揮発成分が多いため水性ポリウレタン系エマルジョン組成物塗布後の乾燥硬化が遅くなる傾向や、塗膜成分量が少なくなり十分には水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の硬化物膜を確保できない場合がある。一方で、(A)水性ポリウレタンエマルジョンの固形分であるアニオン性基を有するポリウレタン樹脂、(B)微粉状シリカ、(C)増粘剤、および必要に応じて使用される添加剤の合計量が水性ポリウレタン系エマルジョン組成物全体の65質量%超では、水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にあり、また、水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の粘度が上昇して塗布作業性が低下する傾向がある。本発明の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を使用でき、例えば、上記のようにして調製した(A)水性ポリウレタンエマルジョンに、(B)微粉状シリカ、(C)増粘剤、および必要に応じて使用される添加剤を所定量添加後に、撹拌、混合することで、製造することができる。
【0077】
本発明の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物は、含水率が高いコンクリート下地やセメントモルタル下地等に接着される床材等に対する床材用接着剤組成物として使用することができる。本発明の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物は、床材用接着剤組成物として使用すると、作業性及び接着性、特に耐水接着性に優れた効果を発揮する。
【実施例
【0078】
以下、本発明について、実施例等により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
水性ポリウレタンエマルジョンWU-1の製造
<合成例1>
攪拌機、温度計、窒素シール管および加熱・冷却装置付き反応容器に、窒素ガスを流しながら、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(保土谷化学工業株式会社製、PTG 2000、数平均分子量2,000)344g、イソホロンジイソシアネート(IPDI)126g、ジブチルチンジラウレート(DBTDL)0.03gを仕込み、80℃で2時間反応した。次いで、この反応液を50℃まで冷却した後、ジメチロールプロピオン酸(DMPA)23.5g、トリエチルアミン(TEA)17.7g、アセトン194gを加えて3時間反応させた。さらにこの反応液にアセトン216gを加えて30℃まで冷却し、3-アミノプロピルトリエトキシシラン8.5gを加え攪拌し、ヒドラジン一水和物10g、イソプロピルアルコール(IPA)103g、水778gからなる混合液を加えて高速攪拌し、この液よりアセトンとIPAを留去して、水性ポリウレタンエマルジョンWU-1を得た。得られた水性ポリウレタンエマルジョンWU-1は、固形分41質量%、25℃における粘度110mPa・s、平均粒子径78nmであった。
【0080】
実施例1~3、比較例1~7
下記表1に示す配合割合で、各成分を混合し、実施例1~3、比較例1~7の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物を調製した。(B)微粉状シリカとしては、ヒュームドシリカ(レオロシールQS-102、株式会社トクヤマ製)、(C)増粘剤としては、ポリアクリル酸ナトリウム(アロンA-20L、東亞合成株式会社製)を使用した。なお、下記表1において、実施例及び比較例の各成分の配合は質量部を意味し、配合量の空欄は配合なしを意味する。
【0081】
評価項目及び試験方法は、以下の通りである。
(1)90度剥離接着強さ(常態、水中浸せき後)
得られた水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の常態剥離接着強さ及び水中浸せき剥離接着強さは、下地材に大きさ70mm×150mmで厚さ10mmのモルタル板を、床材はビニル床タイル(東リ株式会社製、ロイヤルストーン)を用いて、JIS A 5536:2015 6.3.3e)1)及び6.3.3e)2)に準じて、待ち時間を0分として90度剥離で行った。
【0082】
(2)引張接着強さ(常態、水中浸せき後)
得られた水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の常態引張接着強さ及び水中浸せき引張接着強さは、下地材に大きさ70mm×70mmで厚さ20mmのモルタル板を、床材はビニル床シート(タキロンシーアイ株式会社製、タキストロンMTシート)を用いて、JIS A 5536:2015 6.3.2d)1)及び6.3.2d)3)に準じて、待ち時間を0分として行った。
【0083】
(3)指触乾燥時間
得られた水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の指触乾燥時間の測定方法は、次の通りである。大きさ70mm×150mm、厚さ10mmのモルタル板及び前記モルタル板の上にレベラー(宇部興産建材株式会社製、床レベラー一般用)を550g/m(3mm厚時)塗布して23℃、相対湿度50%下で7日間養生したものを下地として使用し、この上に23℃、相対湿度50%下で、得られた水性ポリウレタン系エマルジョン組成物をJIS A 5536:2015 6.2b)1)に示すくし目ごてで塗布した。塗布した線状の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物について、23℃、相対湿度50%下に静置し、エチルアルコールで清浄にした指先で表面の3か所に軽く触れ、くし目ごてで塗布してから、水性ポリウレタン系エマルジョン組成物が指先に付着しなくなるまでに要した時間を測定し、指触乾燥時間とした。床材の現場施工では、作業性から、一般的に少なくとも15分程度の可視時間は必要とされることから、指触乾燥時間が16分以上で合格と判定した。
【0084】
評価結果を下記表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
上記表1から、(A)水性ポリウレタンエマルジョンと、(B)微粉状シリカと、(C)増粘剤と、を含有し、水中浸せき剥離接着強さが10.0N/25mm以上、水中浸せき引張接着強さが0.5N/mm以上である実施例1~3の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物は、耐水接着性に優れていた。また、実施例1~3では、指触乾燥時間が17分以上と指触乾燥性時間を長期化でき十分な可使時間を確保できることから作業性に優れていることが判明した。また、実施例1~3では、水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の指触乾燥性時間の長期化に寄与するが耐水接着性を低下させ得る(C)増粘剤に対する、水性ポリウレタン系エマルジョン組成物の耐水接着性の向上に寄与するが指触乾燥性を低下させうる(B)微粉状シリカの配合割合が、質量比にて、2.35以上4.70以下であった。また、実施例1~3では、(A)水性ポリウレタンエマルジョンの固形分100質量部に対し、(B)微粉状シリカを5.7質量部以上8.6質量部以下、(C)増粘剤を1.8質量部以上2.4質量部以下含有していた。
【0087】
一方で、(C)増粘剤が含まれておらず、(A)水性ポリウレタンエマルジョンの固形分100質量部に対し(B)微粉状シリカを11.4質量部含む比較例1では、10.0N/25mm以上の水中浸せき剥離接着強さと、0.5N/mm以上の水中浸せき引張接着強さが得られたが、十分な指触乾燥性時間が得られず、(B)微粉状シリカが含まれていない比較例2、3では、十分な指触乾燥性時間は得られたが、水中浸せき剥離接着強さが10.0N/25mm未満であり、耐水接着性が得られなかった。また、比較例1にさらに(C)増粘剤を2.4質量部配合した比較例4では、十分な指触乾燥性時間は得られたが、水中浸せき剥離接着強さが10.0N/25mm未満であり、耐水接着性が得られなかった。また、比較例1にさらに(C)増粘剤を1.8質量部配合した比較例5では、依然として、十分な指触乾燥性時間が得られなかった。また、(A)水性ポリウレタンエマルジョンの固形分100質量部に対し(B)微粉状シリカを2.4質量部、(C)増粘剤を3.7質量部含む比較例6、(A)水性ポリウレタンエマルジョンの固形分100質量部に対し(B)微粉状シリカを1.2質量部、(C)増粘剤を7.3質量部含む比較例7では、十分な指触乾燥性時間が得られたが、水中浸せき剥離接着強さが10.0N/25mm未満であり、耐水接着性が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の水性ポリウレタン系エマルジョン組成物は、可使時間が長期化され、耐水接着性に優れているので、特に、含水率が高いコンクリート下地やセメントモルタル下地等に接着される床材等に対する床材用接着剤組成物として利用価値が高い。