(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】安全帯のフック係止状態検出装置
(51)【国際特許分類】
A62B 35/00 20060101AFI20230413BHJP
E04G 21/32 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
A62B35/00 J
A62B35/00 C
A62B35/00 Z
E04G21/32 D
(21)【出願番号】P 2019099314
(22)【出願日】2019-05-28
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000106287
【氏名又は名称】サンコー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111349
【氏名又は名称】久留 徹
(72)【発明者】
【氏名】小柳 利朗
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0231402(US,A1)
【文献】特開2015-204997(JP,A)
【文献】特開2020-043964(JP,A)
【文献】特開2007-044166(JP,A)
【文献】特開2014-004006(JP,A)
【文献】特開2017-051271(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0031899(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62B 35/00
E04G 21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フックの鉤部の平面状の表面を覆い、当該フックの鉤部の内側縁部を露出させるように設けられるカバー本体と、
当該カバー本体に設けられ、前記フックの鉤部の内側湾曲部を跨る部分を検知領域とする光センサーと、
前記フックの鉤部を周回するようにカバー本体に取り付けられる周回部材と、
前記フックの表面側にカバー本体を押圧させるネジと、
を設けるようにしたフックの係止状態検出装置。
【請求項2】
前記ネジが、光センサーを構成する発光部と受光部の間の上部に設けられるものである請求項1に記載のフックの係止状態検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高所作業を行う際に使用される安全帯のフックに関するものであり、より詳しくは、フックが手摺やロープなどに係止されたか否かを検出できるようにしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、作業者が高所で作業を行う場合、身体に安全帯を取り付けて作業することが義務付けられている。この安全帯は、
図6に示すように、ロープの両端にフックを取り付けてなるもので、一方のフックを作業者のハーネス側に取り付け、他方のフックを作業場の手摺やロープなどに取り付けて作業者の落下を防止できるようにしたものである。
【0003】
ところで、このような作業者が安全帯を身体に取り付けて使用する場合、作業者によっては、その安全帯のフックを手摺などに掛けずに作業する場合があり、危険を免れ得ない。
【0004】
そこで、フックを手摺などに係止させたか否かを検知できるように、係止状態検出機能を備えた安全帯のフックが提案されている。
【0005】
例えば、下記の特許文献1には、フックの鉤部の内側上端(手摺などが接触する部分)に回動可能なレバーを設け、フックを手摺などに係止させてレバーに接触させた場合に、センサーやスイッチなどによって係止状態を検出して、その信号を出力できるようにしたシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような構造では、次のような問題を有する。
【0008】
すなわち、上述のような、鉤部にレバーやセンサーなどを取り付ける構造では、製造段階で、あらかじめその鉤部に回動可能なレバーやセンサーを取り付けておかなければならない。このため、市場に流通しているフックに対して係止状態検出部付きのフックを用いたシステムを構築する場合、全てをセンサー付きの新たなフックに交換しなければならず、コストが高くなるといった問題がある。
【0009】
そこで、本発明は上記課題に着目してなされたもので、既存の安全帯のフックに対しても、簡単に手摺などへの係止状態を検出できるようにしたフックの係止状態検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は上記課題を解決するために、フックの鉤部の平面状の表面を覆い、当該フックの鉤部の内側縁部を露出させるように設けられるカバー本体と、当該カバー本体に設けられ、前記フックの鉤部の内側湾曲部を跨る部分を検知領域とする光センサーと、前記フックの鉤部を周回するようにカバー本体に取り付けられる周回部材と、前記フックの表面側にカバー本体を押圧させるネジと、を設けるようにしたものである。
【0011】
また、このような発明において、前記ネジを、光センサーを構成する発光部と受光部の間の上部に設けるようにする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、鉤部に後付けでカバー本体を取り付けるだけで、手摺などへの係止状態を検出することができるようになり、市場に流通している既存の安全帯のフックを利用して安全なシステムを構築することができるようになる。また、鉤部の形状は、どのメーカーでもほぼ同じ形状をしているため、この部分に係止状態検出装置を取り付けることで、係止状態を検出することができるようになるとともに、カバー本体を鉤部側に設けるようにしているため、フックを手で持った場合に、カバー本体を手で覆うようなことがなくなり、手で誤った検出をしてしまうようなことがなくなる。さらには、係止状態において最も負荷が掛かる鉤部の内側縁部をカバー本体で覆わないようにしているため、大きな負荷が掛かった場合であっても、そのカバー本体が破損してしまうことがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施の形態における係止状態検出装置を取り付けたフックを示す図
【
図3】同形態における係止状態検出装置の分解斜視図
【
図5】他の実施の形態におけるフックへの取り付け状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
【0015】
この実施の形態におけるフック1の係止状態検出装置2は、
図6に示すような高所で作業を行う作業者に所持させて使用されるものであって、
図1に示すように、フック1を構成する鉤部11に装着されるカバー本体21と、そのカバー本体21の内部に設けられ、フック1が手摺などの被係止部8に係止されたか否かを検出する係止状態検出部3とを備えて構成されるものである。そして、特徴的に、そのカバー本体21を鉤部11に対して後付けで着脱可能に取り付けられるようにするために、鉤部11の表面を挟み込むように取り付けるようにすることで、既に市場に流通しているフック1に対しても、係止状態検出機能を持たせるようにしたものである。以下、本実施の形態のおける係止状態検出装置2について、詳細に説明する。なお、実施の形態の説明において、フック1の湾曲した内側開口部分の縁部を「内側縁部12」とし、フック1の外側の湾曲した部分を「外側縁部13」として説明する。
【0016】
この係止状態検出装置2が取り付けられるフック1は、安全帯のランヤードを構成するものであって、
図1や
図2に示すように、鉤状に構成された板状の鉤部11と、その鉤部11の開口部Sを開閉する外れ止め装置14と、その外れ止め装置14を不意に開かせないようにするための安全装置15などを備えて構成される。そして、フック1を手摺などの被係止部8に係止させる場合には、外れ止め装置14と安全装置15を同時に持って外れ止め装置14を鉤部11の内側開口領域に回動させ、被係止部8に鉤部11を係止させるようにするとともに、この鉤部11を被係止部8に係止させた後は、図示しないバネの力によって外れ止め装置14や安全装置15が元の位置に復元させ、外れ止め装置14を安全装置15に当接させて固定することで、外れ止め装置14を不意に開かせないようにしている。
【0017】
このフック1に取り付けられる係止状態検出装置2は、カバー本体21と、係止状態検出部3を備えて構成されるものであって、被係止部8に係止されたことを示す信号を外部のセンター装置7(
図6参照)に送信できるようになっている。
【0018】
このカバー本体21は、
図1や
図3に示すように、鉤部11の上部近傍の表面を挟み込むように取り付けられるものであって、鉤部11の形状に沿った湾曲形状に構成されている。このカバー本体21の内側縁部26は、
図1や
図4の断面図に示すように、フック1への装着時において、鉤部11の内側縁部12からさらに内側の開口領域に突出させないようにしている。このとき、カバー本体21を鉤部11の内側縁部12から更に内側に突出させると、フック1を係止させて荷重が掛かった場合に、カバー本体21に直接その荷重が直接掛かかり、カバー本体21が破損したり、カバー本体21がフック1から外れてしまう可能性がある。そこで、この実施の形態では、カバー本体21を鉤部11の内側縁部12から突出させないようにしている。また、このカバー本体21をフック1に固定する場合、鉤部11に貫通穴を設けてボルトやナットで固定することもできるが、このような貫通穴を設けると、鉤部11の強度が低下してしまう。そこで、ここでは、鉤部11に貫通穴を設けることなく、カバー本体21の内側にスリット22(
図3や
図4参照)を設けておき、そのスリット22に鉤部11に挟み込ませるようにして固定できるようにしている。このスリット22の内側底部23(
図4参照)は、鉤部11の外側縁部13に当接するようになっており、その内側底部23を鉤部11の外側縁部13を当接させた状態で鉤部11の表面を覆い、その状態で、カバー本体21の表面に設けられたネジ穴24にネジ25(
図4参照)を取り付けて、そのネジ25の押圧力で鉤部11に固定できるようになっている。
【0019】
なお、このようなカバー本体21を取り付ける場合、
図5に示すような方法で取り付けることもできる。
【0020】
図5におけるカバー本体21の取り付け方法は、カバー本体21と鉤部11を周回するようなベルトや紐などの周回部材27を設け、この周回部材27によってカバー本体21を鉤部11の外側縁部13側に押し当てるように固定できるようにしたものである。このとき、この周回部材27の取り付け位置としては、係止状態検出部3の光センサーの光軸を遮らないような位置に設けることが好ましい。
【0021】
また、このカバー本体21に設けられる係止状態検出部3は、フック1が被係止部8に係止されたことを検出できるようにしたものであって、ここでは、光センサーが用いられる。この光センサーは、鉤部11の縦軸方向の中央線を跨ぐような左右位置に発光部31や受光部32を備えて構成される。そして、その光軸を横切るように被係止部8が移動することによって「係止状態」であることを検出できるようになっている。なお、このような光センサーを設けた場合、太陽光などによって誤検出を生じてしまう可能性がある。そこで、ここでは、受光部32を光軸孔34の内側奥部に設けておき、これによって直接太陽光が入り込まないようにしている。この光軸孔34に深さとしては、カバー本体21の発光部31の後方から光を照射させた場合に、その光が直接受光部32に届かないような深さにしておく。
【0022】
ところで、このような係止状態検出部3を設けた場合、フック1を作業服のリング81(
図6参照)などに係止させて移動する場合があり、このような場合にまで、光が遮光されて「係止状態」であることが検出されてしまう可能性がある。そこで、作業服のリング81にフック1が装着されたことを検知する装着検知部6(
図3参照)を設けておき、その装着検知部6によってフック1が身体に装着されたことを検知した際に、係止状態検出部3に検出機能を停止させるようにしている。このような装着検知部6としては、種々の方法が考えられるが、例えば、身体側にマグネット61を取り付けておくとともに、フック1側にそのマグネット61を検知するマグネット検知部で構成された装着検知部6を設けておく。そして、マグネット検知部の検知領域内にマグネット61が近づいた場合に、そのフック1が身体に装着されたとみなして、係止状態検出部3による機能を停止させる。
【0023】
また、このカバー本体21には、
図3に示すように、電源部4が取り付けられており、その電源部4から係止状態検出部3や装着検知部6、送信部5などに電源を供給する。そして、装着検知部6によってフック1が身体から離れた場合(すなわち、係止状態検出部3が作動状態の場合)であって、かつ、係止状態検出部3によって「係止状態」であることが検出された場合、送信部5を介してセンター装置7に無線で「係止状態」である旨の信号を出力する。なお、この「係止状態」をセンター装置7に送信する場合、作業者が所持しているスマートホンなどの無線端末装置71にBlue tooth(登録商標)などを介して信号を出力し、その無線端末装置71からセンター装置7に出力するようにしてもよい。
【0024】
センター装置7では、その係止状態を時系列で記録しておくほか、係止状態のパターンが所定のパターンに含まれるか否かなどを判断することによって、適正にフック1が被係止部8に係止されているか否かを判断し、作業者に注意を促すようにする。
【0025】
次に、このように構成されたフック1や係止状態検出装置2を用いて作業を行う場合の操作について説明する。
【0026】
まず、作業を行うに際に、事前に係止状態検出装置2のカバー本体21をフック1に取り付けておく。このカバー本体21を取り付ける際は、カバー本体21のスリット22をフック1の鉤部11の外側縁部13に沿って上から挿入していく。そして、カバー本体21の表面に設けられたネジ穴24からネジ25を螺着させて、ネジ25で鉤部11の表面を押圧させる。このとき、カバー本体21の内側縁部26は、鉤部11の内側縁部12から突出しないような状態になっており、また、発光部31と受光部32の光軸は、フック1の中央線CLを跨ぐような状態となっている。
【0027】
そして、このようにカバー本体21を取り付けた後、図示しない電源をONにすることによって、係止状態の検出や、センター装置7への送信などが可能となる。
【0028】
このような状況のもと、作業者がフック1を作業服のリング81に装着して作業現場に向かう途中においては、身体に装着したマグネット61とフック1の装着検知部6が近い状態にあるため、装着検知部6によって、係止状態検出部3が停止状態になり、係止されたか否かの信号が出力されない。
【0029】
一方、作業者が現場に到着して作業を開始する場合、作業服のリング81に係止していたフック1を取り外す。これにより、装着検知部6がマグネット61から離れ、係止状態検出部3の検出動作がONになる。そして、このような状況のもと、作業者がフック1を被係止部8に係止させると、そのフック1の自重によって、フック1の内側縁部12の上端部分に接触するように係止される。この係止動作の途中、被係止部8が、係止状態検出部3の光軸を横切るように移動するため、光が遮断されて、「係止状態」であることが検出される。
【0030】
そして、このように「係止状態」が検出されると、送信部5や無線端末装置71を介してセンター装置7に「係止状態」であることを送信する。
【0031】
この信号を受信したセンター装置7では、その係止状態を時系列で記録し、あるいは、係止パターンが所定のパターン条件に含まれるか否かなどを検出し、例えば、所定時間の間に基準値回数以上の係止状態が検出されていなかった場合は、適正に係止を行っていないと判断して、警告を発するようにする。このとき、センター装置7との送受信をスマートホンなどの無線端末装置71を介して行っている場合は、その無線端末装置71に警報音を出させるようにする。
【0032】
このように上記実施の形態によれば、
フック1の鉤部11の平面状の表面を覆い、当該フック1の鉤部11の内側縁部を露出させるように設けられるカバー本体21と、当該カバー本体21に設けられ、前記フック1の鉤部11の内側湾曲部を跨る部分を検知領域とする発光部31および受光部32からなる光センサーと、前記フック1の鉤部11を周回するようにカバー本体21に取り付けられる周回部材27と、前記フック1の表面側にカバー本体21を押圧させるネジ21と、を設けるようにしたので、後付けでカバー本体21を取り付けるだけで、手摺などへの係止状態を検出することができるようになる。これにより、市場に流通している既存の安全帯のフック1を利用して安全なシステムを構築することができるようになる。また、鉤部11の形状は、どのメーカーでもほぼ同じ形状をしているため、この部分に係止状態検出装置を取り付けることで、係止状態を検出することができるようになる。さらには、カバー本体21を鉤部11側に設けるようにしているため、フック1を手で持った場合に、カバー本体21を手で覆うようなことがなくなり、手で誤った検出をしてしまうようなことがなくなる。
【0033】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。
【0034】
例えば、上記実施の形態では、手摺などへ適正なタイミングで係止していない場合、警告を発するようにしているが、この警告を係止状態検出装置2側で発するようにしてもよい。
【0035】
また、上記実施の形態では、光センサーを中央線CLを横切るように設けるようにしたが、この光センサーを下方側に設けると、ロープなどのような細い被係止部8に係止させた場合、「透光」「遮光」「透光」の状態となり、受光部32によるON、OFF、ONの変化を検知する必要がある。このとき、ロープが揺れてフック1が跳ね上がると、ON、OFFが繰り返されることになるため、係止状態であるのか、非係止状態であるのかが分からなくなる。このため、この光軸を被係止部8が係止された状態となる位置に設けるにようにするとよい。このような位置に設ければ、ロープなどに係止させた場合であっても、常に「遮光」の状態(OFFの状態)となり、係止状態を確実に判断することができるようになる。
【符号の説明】
【0036】
1・・・フック
11・・・鉤部
12・・・内側縁部
13・・・外側縁部
14・・・外れ止め装置
2・・・係止状態検出装置
21・・・カバー本体
22・・・スリット
23・・・内側底部
24・・・ネジ穴
25・・・ネジ
26・・・内側縁部
27・・・周回部材
3・・・係止状態検出部
31・・・発光部
32・・・受光部
4・・・電源部
5・・・送信部
6・・・装着検知部
61・・・マグネット
7・・・センター装置
71・・・無線端末
8・・・被係止部
81…リング