(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】生体情報測定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/02 20060101AFI20230413BHJP
A61B 5/1455 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
A61B5/02 310C
A61B5/02 310G
A61B5/1455
(21)【出願番号】P 2020510990
(86)(22)【出願日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2019013643
(87)【国際公開番号】W WO2019189596
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2018064067
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307014555
【氏名又は名称】北海道公立大学法人 札幌医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100202913
【氏名又は名称】武山 敦史
(74)【代理人】
【識別番号】100222922
【氏名又は名称】和田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 有一
【審査官】高松 大
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-038911(JP,A)
【文献】特表2013-533753(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0081562(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0051147(US,A1)
【文献】スイス国特許発明第00669101(CH,A5)
【文献】米国特許出願公開第2018/0035933(US,A1)
【文献】国際公開第2016/160478(WO,A1)
【文献】特表2011-519634(JP,A)
【文献】国際公開第2013/161729(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0281435(US,A1)
【文献】国際公開第2017/091107(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/107198(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02
A61B 5/1455
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側から挟み込むように耳介の舟状窩に装着される装着手段と、
前記装着手段の一部に設けられ
、耳輪内を走行する動脈の生体情報を測定する測定手段と
、を備え
、
前記装着手段は、その先端部で耳介の舟状窩を両側から挟んで圧迫し、耳輪を圧迫しないように形成されたクリップであり、
前記測定手段は、前記クリップが耳介の舟状窩に装着された場合に前記測定手段が耳輪を圧迫しないように前記クリップの先端部よりも基端側に設けられている、
生体情報測定装置。
【請求項2】
両側から挟み込むように耳介の舟状窩に装着される装着手段と、
前記装着手段の一部に設けられ、前記装着手段が耳介の舟状窩に装着された場合に耳輪を圧迫しないように配置され、耳輪内を走行する動脈の生体情報を測定する測定手段と、を備え、
前記装着手段は、その基端部にて互いに接続され、その先端部にて耳介の舟状窩を両側から挟み込むことが可能な第1部材及び第2部材を備え、
前記測定手段は、前記第2部材に設けられ、光を放射する発光素子と、前記発光素子と対向するように前記第2部材に設けられ、前記発光素子から放射されて測定対象部位を透過した透過光を受光する受光素子と、を備える
、
生体情報測定装置。
【請求項3】
前記第2部材は、
前記第1部材と回転可能に連結される基端部と、
前記基端部の基端側に設けられ、前記基端部に対して垂直方向に延びており、前記発光素子を支持する第1センサ支持部と、
前記基端部の先端側に設けられ、前記基端部に対して垂直方向に延びており、前記発光素子に対向する向きで前記受光素子を支持する第2センサ支持部と、
前記第2センサ支持部の先端側に設けられ、前記第2センサ支持部と同一の方向に延びており、前記第1部材の先端部と共に耳介の舟状窩を両側から挟み込む先端部と、
を備える、
請求項
2に記載の生体情報測定装置。
【請求項4】
前記第1部材は、その先端部に設けられ、耳介の舟状窩に接触した場合に耳介の舟状窩の形状に合わせて弾性変形する弾性変形手段を備える、
請求項
2又は
3に記載の生体情報測定装置。
【請求項5】
前記測定手段は、透過光を用いて生体情報を測定する非接触式のセンサを備え、
前記装着手段は、前記装着手段が耳介の舟状窩を両側から挟み込むように装着された場合に、前記測定手段が耳輪に接触しないように構成されている、
請求項1
から4のいずれか1項に記載の生体情報測定装置。
【請求項6】
前記測定手段は、耳輪内を走行する動脈の脈波を測定する脈波センサを備える、
請求項1
から5のいずれか1項に記載の生体情報測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被験者に装着したまま生体情報を常時測定することが可能な生体情報測定装置(ウェアラブルデバイス)が知られている。例えば、特許文献1には、耳たぶに装着可能なクリップと、血液量や脈拍数等の生体情報を検知するセンサと、を備える生体情報測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の生体情報測定装置では、クリップで耳たぶの一部を挟み込んだ場合、血液量や脈拍数等を検知するセンサが耳たぶに押し付けられ、生体の血液量や脈拍数等が検知される耳たぶの動脈も一緒に圧迫される。このため、特許文献1の生体情報測定装置では、生体の血液量や脈拍数等の生体情報を正確に測定することが困難である、という問題がある。
【0005】
本発明は、このような背景に基づいてなされたものであり、耳介に装着された場合であっても耳介を走行する動脈からの生体情報を正確に測定することが可能な生体情報測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る生体情報測定装置は、
両側から挟み込むように耳介の舟状窩に装着される装着手段と、
前記装着手段の一部に設けられ、耳輪内を走行する動脈の生体情報を測定する測定手段と、を備え、
前記装着手段は、その先端部で耳介の舟状窩を両側から挟んで圧迫し、耳輪を圧迫しないように形成されたクリップであり、
前記測定手段は、前記クリップが耳介の舟状窩に装着された場合に前記測定手段が耳輪を圧迫しないように前記クリップの先端部よりも基端側に設けられている。
上記目的を達成するために、本発明の第2の観点に係る生体情報測定装置は、
両側から挟み込むように耳介の舟状窩に装着される装着手段と、
前記装着手段の一部に設けられ、前記装着手段が耳介の舟状窩に装着された場合に耳輪を圧迫しないように配置され、耳輪内を走行する動脈の生体情報を測定する測定手段と、を備え、
前記装着手段は、その基端部にて互いに接続され、その先端部にて耳介の舟状窩を両側から挟み込むことが可能な第1部材及び第2部材を備え、
前記測定手段は、前記第2部材に設けられ、光を放射する発光素子と、前記発光素子と対向するように前記第2部材に設けられ、前記発光素子から放射されて測定対象部位を透過した透過光を受光する受光素子と、を備える。
【0007】
前記測定手段は、透過光を用いて生体情報を測定する非接触式のセンサを備え、
前記装着手段は、前記装着手段が耳介の舟状窩を両側から挟み込むように装着された場合に、前記測定手段が耳輪に接触しないように構成されてもよい。
【0008】
前記測定手段は、耳輪内を走行する動脈の脈波を測定する脈波センサを備えてもよい。
【0011】
前記第2部材は、
前記第1部材と回転可能に連結される基端部と、
前記基端部の基端側に設けられ、前記基端部に対して垂直方向に延びており、前記発光素子を支持する第1センサ支持部と、
前記基端部の先端側に設けられ、前記基端部に対して垂直方向に延びており、前記発光素子に対向する向きで前記受光素子を支持する第2センサ支持部と、
前記第2センサ支持部の先端側に設けられ、前記第2センサ支持部と同一の方向に延びており、前記第1部材の先端部と共に耳介の舟状窩を両側から挟み込む先端部と、
を備えてもよい。
【0012】
前記第1部材は、その先端部に設けられ、耳介の舟状窩に接触した場合に耳介の舟状窩の形状に合わせて弾性変形する弾性変形手段を備えてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耳介に装着された場合であっても耳介を走行する動脈からの生体情報を正確に測定することが可能な生体情報測定装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係る生体情報測定システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】
図2の耳介の一部を外耳輪及び舟状窩を含む横断面で切断した断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る生体情報測定装置の外側面の構成を示す斜視図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る生体情報測定装置の内側面の構成を示す斜視図である。
【
図6】
図5の生体情報測定装置を上下反転して図示した斜視図である。
【
図7】本発明の実施の形態に係る生体情報測定装置を耳介に装着した様子を示す図である。
【
図8】本発明の実施の形態に係る生体情報測定装置を上方から観察した様子を示す平面図である。
【
図9】本発明の実施の形態に係る生体情報測定装置の構成を示すブロック図である。
【
図10】本発明の実施の形態に係る解析装置の構成を示すブロック図である。
【
図11】発光素子から放射された光が生体組織に吸収される様子を説明するための図である。
【
図12】容積脈波データ転送処理の流れを示すフローチャートである。
【
図13】解析処理の流れを示すフローチャートである。
【
図15a】実施例におけるセンサ位置のパターンを示す図である。
【
図15b】実施例におけるセンサ角度のパターンを示す図である。
【
図16】実施例における実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る生体情報測定装置を説明する。各図面においては、同一又は同等の部分に同一の符号を付している。
【0016】
図1を参照して、本実施の形態に係る生体情報測定システム1の構成を説明する。
図1は、生体情報測定システム1の構成を示すブロック図である。生体情報測定システム1は、被験者の生体組織内の動脈から脈波を測定し、測定された脈波に基づいて脈拍数、動脈血中酸素飽和度(Percutaneous Oxygen Saturation:SpO2)等の各種のデータを算出して医師等のユーザに提供する。
【0017】
脈波は、心臓から血液が送り出されることに伴い発生する動脈の脈拍の変化を捉えた波形である。脈波には、動脈の内圧変化を波形にした圧脈波と、動脈の容積変化を波形にした容積脈波と、が含まれる。本実施の形態に係る生体情報測定システム1では、耳介の内部を走行する動脈における容積脈波を測定する。
【0018】
生体情報測定システム1は、生体情報測定装置100と、解析装置200と、を備える。生体情報測定装置100と解析装置200とは、インターネット等の通信回線を介して相互に通信可能に接続されている。
【0019】
生体情報測定装置100は、被験者の耳介に装着可能であって、耳介の容積脈波を測定可能なウェアラブルデバイスである。生体情報測定装置100は、解析装置200からの操作信号に基づいて、耳介の内部を走行する動脈における容積脈波を測定し、測定された容積脈波に関する容積脈波データを解析装置200に送信する。
【0020】
解析装置200は、被験者に装着された生体情報測定装置100に対して操作信号を供給すると共に、生体情報測定装置100から容積脈波データを取得し、脈拍数、SpO2などの各種のデータを算出して医師等のユーザに提供する。医療機関にいる医師等のユーザは、生体情報測定システム1を用いて、在宅環境等にある被験者の心血管系の状態を監視できる。
【0021】
理解を容易にするために、生体情報測定装置100を説明する前に、
図2及び
図3を参照して耳介の解剖学的な構造を説明する。
図2は、耳介を正面から観察した様子を示す図である。耳介は、耳のうち外部に飛び出した部分のことである。耳介の上端部から後端部に向けて湾曲して延びている内側に折れ曲がった部分が「耳輪」であり、外耳道側で耳輪に隣接する部分が「舟状窩」である。「耳輪」の下方には、「ダーウィン結節」が形成されている。耳介の下端部にある垂れ下がった部分が耳朶(耳たぶ)である。耳たぶは、会話時に動いてしまうが、耳輪は、会話時であっても動かないという特性を有する。
【0022】
耳介の内部では、いずれも外頸動脈より延びる後耳介動脈(Posterior Auricular Artery:PAA)及び浅側頭動脈(Superficial Temporal Artery:STA)が上下に走行している。STAは、耳輪の内部を走行する血管であり、PAAは、舟状窩の内部を走行する血管である(Ulusal BG, et al., Anatomical and technical aspects of harvesting the auricle as a neurovascular facial subunit transplant in humans, Plast Reconstr Surg, 2007 Nov, 120(6), 1540-1545)。STAとPAAとは、互いに独立した部位を走行しているため、一方の動脈を圧迫しても他方の動脈における生体情報の測定に影響を及ぼすことがない。また、耳輪の表面部には、直径約40μmの比較的太い動脈血管が走行しているため(Zilinsky I, et al., The arterial blood supply of the helical rim and the earlobe-based advancement flap (ELBAF): a new strategy for reconstructions of helical rim defects, J Plast Reconstr Aesthet Surg, 2015 Jan, 68(1), 56-62)、耳輪は、脈波信号を測定するのに極めて有用な部位である。
【0023】
図3は、
図2の耳介の一部を外耳輪及び舟状窩を含む横断面で切断した断面図である。
図3から理解できるように、耳介の舟状窩の内部には軟骨があり、その軟骨が外耳輪まで延びているため、舟状窩を両側から挟み込んだとしても、外耳輪の組織、動脈及び静脈が圧迫されることがない。以下、舟状窩を両側から挟み込んで耳介に装着されると共に、外耳輪内部の浅側頭動脈における容積脈波を測定する場合を例に生体情報測定装置100の構成を説明する。
【0024】
図4は、耳介への装着時に外部から視認できる生体情報測定装置100の外側面の構成を図示した斜視図であり、
図5及び
図6は、それぞれ耳介への装着時に外部から視認できない生体情報測定装置100の内側面の構成を図示した斜視図である。
図6の生体情報測定装置100は、
図5の生体情報測定装置100を上下反転して図示したものである。
図7は、生体情報測定装置100を耳介に装着した様子を示す斜視図である。生体情報測定装置100は、被験者の耳介を挟み込むクリップ110と、クリップ110に設けられ、耳介の動脈における容積脈波を測定する脈波センサ120と、脈波センサ120からの容積脈波データを解析装置200に送信する通信アンテナ(図示せず)と、脈波センサ120及び通信アンテナに電力を供給するバッテリ(図示せず)と、を備える。
【0025】
クリップ110は、被験者の耳介を挟み込むようにして装着可能な装着手段の一例である。クリップ110は、脈波センサ120により容積脈波が測定される測定対象部位を圧迫しないように、測定対象部位と異なる位置にある装着対象部位を挟み込むように構成されている。より詳細に説明すると、クリップ110は、装着対象部位である舟状窩を両側から挟み込んで装着した場合に、脈波センサ120が測定対象部位であって、舟状窩から離れている耳輪の動脈(STA)における容積脈波を測定するように構成されている。
【0026】
なお、「圧迫しない」とは、完全に圧迫しない場合(測定対象部位に対する圧力がゼロ)のみならず、容積脈波の測定に影響を与えない程度に圧迫する場合(例えば、測定対象部位に対する圧力が10mmHg以下)を含むものとする。また、脈波センサ120は、測定対象部位に接触するように配置されてもよく、測定対象部位から離して配置されてもよい。言い換えれば、脈波センサ120は、生体の一部に接触することで動脈の生体信号を測定可能な接触式のセンサであってもよく、生体の一部に接触せずとも動脈の生体信号を測定可能な非接触式のセンサであってもよい。
【0027】
クリップ110は、第1部材111と、第1部材111に対して回転軸113を介して回転可能に支持された第2部材112と、第1部材111の先端部と第2部材112の先端部とが互いに近接するように付勢するバネ(図示せず)と、を備える。第1部材111と第2部材112とは、バネで付勢されることにより、それぞれの先端部で耳介を両側から挟み込むように構成されている。以下、第1部材111及び第2部材112のいずれにおいても、回転軸113が設けられている側を「基端側」、回転軸113から離れた側を「先端側」と呼ぶこととする。
【0028】
第1部材111は、第2部材112が回転可能に連結された基端部111Aと、基端部111Aの先端側に設けられ、基端部111Aに対して鉛直方向に延びるように形成されている先端部111Bと、先端部111Bに支持され、耳介と接触するように配置されたクッション111Cと、を備える。基端部111Aと先端部111Bとは、全体としてL字状に形成され、基端部111Aと先端部111Bとの接続部(折れ曲がり部)の外側面は、緩やかな円弧を描くように湾曲して形成されている。
【0029】
基端部111Aは、基端側に向かって互いに平行に延びる一対の延出部と、を備え、全体として略コの字状に形成されている。一対の延出部の先端部には、それぞれ回転軸113を挿通可能な貫通孔が設けられている。貫通孔に回転軸113が挿通されることで、基端部111Aは、第2部材112に固定された回転軸113の周りに回転可能に支持されている。基端部111Aには、その中心部に第2部材112の後述する第1センサ支持部112Bを収容する空間111Dが形成されている。このため、第2部材112に対して第1部材111を折り曲げた場合に、第1センサ支持部112Bが空間111Dに入り込み、第2部材112に対する第1部材111の回転が妨げられることがない。
【0030】
クッション111Cは、耳介と接触して耳介の形状に合わせて弾性変形する弾性変形手段の一例である。クッション111Cは、例えば、ポリウレタン等の樹脂材料から形成され、先端部111Bの先端側の面と内側の面とを覆うように、全体としてL字形に形成されている。クッション111Cのうち先端部111Bの先端側から延びた部分は、第1部材111及び第2部材112で耳介を挟み込んだ場合に、装着対象部位である舟状窩を圧迫するように形成されている。また、クッション111Cのうち先端部111Bの内側面に設けられた部分は、耳輪の内側に接触して変形し、クリップ110が耳介の外部に移動することを制限する。このため、第1部材111及び第2部材112にて耳介を挟み込んだ場合、被験者が日常生活の自由行動時に体動を発生させたとしても、耳介の装着対象部位から外れないようにクリップ110を固定できる。
【0031】
第2部材112は、第1部材111が回転可能に連結された基端部112Aと、基端部112Aの基端側の端部に設けられ、脈波センサ120の発光素子を支持する第1センサ支持部112Bと、基端部112Aの先端側の端部に設けられ、脈波センサ120の受光素子を支持する第2センサ支持部112Cと、第2センサ支持部112Cの先端側に延びるように設けられ、耳介と接触してクッション111Cと共に耳介を挟み込む先端部112Dと、を備える。以下、理解を容易にするために、基端部112Aが延びる方向をX軸、第1センサ支持部112B及び第2センサ支持部112Cが延びる方向をY軸、第2部材112の上下方向をZ軸とする直交座標系を使用する。
【0032】
基端部112Aは、X軸方向に離れて対向する端部にてそれぞれ第1センサ支持部112Bと第2センサ支持部112Cとを支持する部材である。基端部112Aには、X軸方向に延びZ軸方向に並んだ一対のスリット112Eが形成されている。一対のスリット112Eは、基端部112Aの外側面から内側面に向かって貫通しており、互いに平行に形成されている。耳介で発生した湿気は、クリップ110の内部から一対のスリット112Eを通ってクリップ110の外部に排出される。
【0033】
第1センサ支持部112Bは、脈波センサ120の発光素子121を支持する。第1センサ支持部112Bは、基端部112Aの基端側であって、一対のスリット112Eにより挟まれた部分から、基端部112Aに対して垂直方向に延びるようにYZ平面上に形成されている。
【0034】
第2センサ支持部112Cは、脈波センサ120の受光素子122を支持する。第2センサ支持部112Cは、基端部112Aの先端側から、基端部112Aに対して垂直方向に延びるようにYZ平面上に形成されている。第1センサ支持部112Bと第2センサ支持部112Cとは、互いに対向して配置されている。このため、基端部112A、第1センサ支持部112B及び第2センサ支持部112Cは、Z軸方向から観察すると略コの字状に形成されている。
【0035】
先端部112Dは、クッション111Cと共に装着対象部位を挟み込む挟持手段の一例である。先端部112Dは、第2センサ支持部112Cの先端部から、第2センサ支持部112Cと同じ方向、すなわち基端部112Aに対して垂直方向に延びるようにYZ平面上に形成されている。先端部112Dは、基端部から先端部に向かって次第に窄まるように形成された三角形状を有する。先端部112Dは、耳介に接触するよう構成されているため、その側端部に面取りが施されており、その先端部にも丸みが付けられている。
【0036】
第2部材112は、基端部112A及び第2センサ支持部112Cの端部からそれぞれXY平面上に互いに平行に延びており、耳介に面で接触する一対の耳介接触部112F、112Gをさらに備える。耳介接触部112F、112Gは、耳介に接触する内側面が耳介の形状に合わせて凹状の湾曲面で形成されている。このため、耳介接触部112F、112Gは、クリップ110を耳介の所定の位置に位置決めすると共に、耳介に装着されたクリップ110の姿勢が傾くことを防止できる。
【0037】
第1部材111(クッション111Cを除く)及び第2部材112は、例えば、樹脂材料で形成されており、好ましくは白色の樹脂材料から形成されている。第1部材111(クッション111Cを除く)及び第2部材112を白色の樹脂材料で形成するのが好ましい理由は、脈波センサ120の発光素子から放射される赤外線又は赤色光等が第1部材111及び第2部材112で吸収され、脈波の測定に影響を及ぼすことを防ぐためである。
【0038】
バネは、第1部材111と第2部材112とを互いに近接させるように付勢する付勢手段の一例である。バネは、例えば、板バネである。バネは、被験者が日常的な活動を行う際に体動が発生したとしても、クリップ110が耳介から脱落しない程度の弾性力で耳介を挟み込むように構成されている。
【0039】
脈波センサ120は、光電脈波法を用いて動脈における容積脈波を測定する測定手段の一例である。脈波センサ120は、例えば、体表から赤外線又は赤色光等を照射し、体内を透過した赤外線又は赤色光等の光量を検知することで容積脈波を測定する透過型の光電式容積脈波センサである。脈波センサ120は、クリップ110により挟み込まれる装着対象部位とは異なる位置にある測定対象部位を測定するようにクリップ110に設けられている。
【0040】
図8は、生体情報測定装置100をZ軸方向から観察した平面図である。脈波センサ120は、赤外線又は赤色光等を耳介に向けて放射する発光素子121と、発光素子121から放射されて耳介を透過した透過光を受光する受光素子122と、を備える。発光素子121は、例えば、赤外線又は赤色光等を放射するLED(Light Emitting Diode)等であり、一定の周期で点滅するように構成されている。
【0041】
受光素子122は、例えば、赤外線又は赤色光等を受光するフォトダイオード又はフォトトランジスタ等である。受光素子122は、透過光を受光することにより発生した電気信号を増幅し、A/D(アナログ/デジタル)変換したデータを生体情報測定装置100の通信アンテナに供給する。
【0042】
発光素子121と受光素子122とは、それぞれYZ平面上で互いに対向して配置されている第1センサ支持部112B及び第2センサ支持部112Cの内側面に支持されている。このため、発光素子121と受光素子122とは、クリップ110を耳介に対してどのような向きで装着したとしても、互いの位置関係が変化することがない。
【0043】
脈波センサ120は、ランベルト・ベールの法則を利用して光電式容積脈波(Photo-plethysmogram:PG)を測定する。ランベルト・ベールの法則によると、一層でなる溶液中を光が直線的に透過する場合、光の吸収率I/I0は、溶液の濃度C及び通過する液層の厚さDに比例する。したがって、光の吸収率I/I0は、動静脈を考慮した平均吸光係数をεとして、以下の式で表される。なお、Iは、透過光の強度であり、I0は、放射光の強度である。
I/I0=exp(-εCD) …(1)
【0044】
放射光の強度I0は、発光素子121により規定され、平均吸光係数ε及び溶液の濃度Cは、測定対象部位と血液の濃度とにより規定される。また、透過光の強度Iは、受光素子122により測定される。このため、式(1)を用いて液層の厚さDを算出することができる。そして、式(1)を用いて算出された液層の厚さDに基づいて動脈の血液容積を算出することで、容積脈波を得ることができる。
【0045】
図9は、生体情報測定装置100のハードウェア構成を示すブロック図である。生体情報測定装置100は、測定部130と、バッテリ140と、通信部150と、記憶部160と、制御部170と、を備える。生体情報測定装置100の各部は、内部バスで相互に接続されている。
【0046】
測定部130は、制御部170からの指示に基づいて容積脈波データを取得して、制御部170に出力する。測定部130は、例えば、測定対象部位の容積脈波を測定する脈波センサ120を備える。
【0047】
バッテリ140は、生体情報測定装置100の各部の動作に必要な電力を供給する。
【0048】
通信部150は、インターネット等の通信ネットワークに接続することが可能なインターフェースである。通信部150は、解析装置200の通信部、外部の端末、サーバ、メモリ等と通信ネットワークを介して通信する。通信部150は、例えば、容積脈波データを解析装置200に送信する通信アンテナを備える。
【0049】
記憶部160は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等を備える。記憶部160は、制御部170に実行されるプログラムや各種のデータを記憶する。また、記憶部160は、制御部170が処理を実行するためのワークメモリとして機能する。
【0050】
記憶部160は、脈波センサ120により測定された容積脈波データを、被験者の識別情報(例えば、ユーザID(Identification))とデータの取得日時に関する情報とに対応付けて記憶する。
【0051】
制御部170は、CPU(Central Processing Unit)等を備え、解析装置200の各部の制御を行う。制御部170は、記憶部160に記憶されているプログラムを実行することにより、
図12の容積脈波データ転送処理を実行する。
【0052】
制御部170は、測定部130から所定のサンプリング周期で容積脈波データを取得して、被験者の識別情報とデータの取得日時に関する情報とに対応付けて記憶部160に記憶させる。また、制御部170は、通信部150を制御して、容積脈波データをユーザの識別情報とデータの取得日時に関する情報と共に解析装置200に送信させる。以上が、生体情報測定装置100の構成である。
【0053】
図10は、解析装置200のハードウェア構成を示すブロック図である。解析装置200は、例えば、汎用コンピュータである。
【0054】
解析装置200は、操作部210と、表示部220と、通信部230と、記憶部240と、制御部250と、を備える。解析装置200の各部は、内部バス(図示せず)を介して相互に接続されている。
【0055】
操作部210は、ユーザの指示を受け付け、受け付けた操作に対応する操作信号を制御部250に供給する。操作部210は、例えば、キーボード、マウスを備える。操作部210は、例えば、生体情報測定装置100による脈波の測定条件に関する指示(脈波測定の開始や終了に関する指示、サンプリング周期に関する指示等)を受け付ける。
【0056】
表示部220は、制御部250から供給される画像データに基づいて、ユーザに向けて各種の画像を表示する。表示部220は、例えば、液晶パネル、有機EL(Electro Luminescence)パネルを備える。
【0057】
通信部230は、インターネット等の通信ネットワークに接続することが可能なインターフェースである。通信部230は、生体情報測定装置100の通信部150、外部の端末、サーバ、メモリ等と通信ネットワークを介して通信する。
【0058】
記憶部240は、RAM、ROM、フラッシュメモリ、ハードディスク装置等を備える。記憶部240は、制御部250に実行されるプログラムや各種のデータを記憶する。また、記憶部240は、制御部250が処理を実行するためのワークメモリとして機能する。さらに、記憶部240は、容積脈波記憶部241と、規準化容積脈波記憶部242と、脈拍数記憶部243と、神経性圧反射感度記憶部244と、SpO2記憶部245と、を備える。
【0059】
容積脈波記憶部241は、生体情報測定装置100により測定された容積脈波を、被験者の識別情報とデータの取得日時に関する情報とに対応付けて記憶する。
【0060】
規準化容積脈波記憶部242は、生体情報測定装置100により測定された容積脈波に基づいて算出された光電式の規準化容積脈波(規準化脈波容積(Normalized Pulse Volume:NPV))を、被験者の識別情報とデータの取得日時に関する情報とに対応付けて記憶する。
【0061】
規準化容積脈波は、以下の式で表される。ただし、PGacは、容積脈波交流成分である。また、PGdcは、容積脈波直流成分である。PGdcは、生体組織に放射される光の光量から生体に吸収される光量を差し引いて算出された透過光量の拍動期間における平均値に基づいて算出される。
NPV=PGac/PGdc …(2)
【0062】
図11は、容積脈波交流成分PGacと容積脈波直流成分PGdcとを説明するための図である。
図11に示すように、生体組織に吸収される光量(吸光量)は、動脈の脈動と関係なく吸収される非脈動成分と、動脈が脈動した場合に吸収される脈動成分と、静脈により吸収される静脈依存成分と、組織により吸収される組織成分と、で構成される。体格等の違いの影響を受けて組織成分には個人差があるため、組織成分の割合が変化した場合、吸光量に占める脈動成分の割合も変化し、結果として容積脈波PVにも個人差の影響が反映されてしまう。
【0063】
他方、規準化容積脈波は、容積脈波交流成分PGacに対する容積脈波直流成分PGdcの比であって、無次元の絶対量であるため、組織成分の違いに影響されることがない。このため、規準化容積脈波は、被験者、測定日時、測定条件等が異なる場合であっても互いに数値を比較することができる。
【0064】
図10に戻り、脈拍数記憶部243は、生体情報測定装置100により測定された容積脈波に基づいて算出された脈拍数データを、被験者の識別情報とデータの取得日時に関する情報とに対応付けて記憶する。脈拍数は、例えば、1分間当たりの動脈の脈動の数である。
【0065】
神経性圧反射感度記憶部244は、生体情報測定装置100により測定された容積脈波に基づいて算出された神経性圧反射感度を、被験者の識別情報とデータの取得日時に関する情報とに対応付けて記憶する。神経性圧反射感度は、交感神経系による影響を受けていない圧反射系列における規準化容積脈波と拍間隔との相関を示す回帰直線の傾きであり、神経性の圧反射機能の状態を示す一つの指標である。
【0066】
SpO2記憶部245は、生体情報測定装置100により測定された容積脈波に基づいて算出されたSpO2を、被験者の識別情報とデータの取得日時に関する情報とに対応付けて記憶する。SpO2は、動脈の血液に含まれる酸素の飽和度を示す。
【0067】
制御部250は、CPU等を備え、解析装置200の各部の制御を行う。制御部250は、記憶部240に記憶されているプログラムを実行することにより、
図13の解析処理を実行する。
【0068】
制御部250は、機能的には、容積脈波取得部251と、規準化容積脈波算出部252と、脈拍数算出部253と、神経性圧反射感度算出部254と、SpO2算出部255と、を備える。
【0069】
容積脈波取得部251は、生体情報測定装置100から容積脈波を取得して、容積脈波記憶部241に容積脈波を登録する。
【0070】
規準化容積脈波算出部252は、容積脈波取得部251により取得された容積脈波に基づいて規準化容積脈波を算出して、規準化容積脈波記憶部242に規準化容積脈波を登録する。より詳細に説明すると、規準化容積脈波算出部252は、容積脈波取得部251により取得された容積脈波に基づいて、動脈の拍動毎に、容積脈波交流成分PGacの振幅を容積脈波直流成分PGdcの平均値で除算することにより、規準化容積脈波を算出する。
【0071】
脈拍数算出部253は、容積脈波データに対応する脈拍の間隔(脈拍間隔)を時系列で取得し、取得された脈拍間隔に基づいて単位時間当たりの脈拍数を算出して、脈拍数記憶部243に脈拍数を登録する。
【0072】
神経性圧反射感度算出部254は、規準化容積脈波算出部252により算出された規準化容積脈波と、脈拍数算出部253により取得された脈拍間隔と、に基づいて、血管の交感神経系による影響を受けていない圧反射系列を検出し、当該圧反射系列における神経性圧反射感度を算出する。また、神経性圧反射感度算出部254は、算出された神経性圧反射感度を神経性圧反射感度記憶部244に登録する。
【0073】
SpO2算出部255は、取得された容積脈波に基づいてSpO2を算出する。より詳細に説明すると、SpO2算出部255は、動脈の血液で吸収される赤外線又は赤色光の吸光率の差を利用して、血液における酸素と結合していない還元ヘモグロビンと酸素と結合している酸素ヘモグロビンとの比率を算出することにより、SpO2を算出する。また、SpO2算出部255は、算出されたSpO2をSpO2記憶部245に登録する。以上が、解析装置200の構成である。
【0074】
次に、生体情報測定システム1を用いて実行される生体情報の測定方法を説明する。
【0075】
まず、ユーザは、被験者の耳介に生体情報測定装置100を装着する。より詳細に説明すると、ユーザは、指を用いてバネの弾性力に抗してクリップ110の第1部材111及び第2部材112を押し広げて、
図4~
図6に示すように第1部材111の先端部111Bと第2部材112の先端部112Dとの間隔を広げる。次に、ユーザは、第1部材111及び第2部材112で耳介の舟状窩を両側から挟み込むようにクリップ110を配置する。
【0076】
次に、ユーザは、第1部材111及び第2部材112を閉じることにより、
図7に示すように被験者の耳介に生体情報測定装置100を装着する。このとき、生体情報測定装置100が上記のように構成されているため、脈波センサ120は、第1部材111及び第2部材112による舟状窩への圧迫の影響を受けない耳輪の動脈の容積脈波を測定するように配置される。
【0077】
次に、ユーザは、操作部210を操作して、容積脈波の測定開始日時と測定終了日時を指示する。解析装置200は、操作部210からの操作信号を受け付けると、容積脈波の測定開始日時と測定終了日時に関する情報を生体情報測定装置100に送信する。生体情報測定装置100の通信部150が解析装置200からの情報を受け付けると、生体情報測定装置100は、
図12の容積脈波データ転送処理を実行する。
【0078】
(容積脈波データ転送処理)
以下、
図12を参照して、解析装置200から容積脈波の測定を指示された場合に生体情報測定装置100が実行する容積脈波データ転送処理を説明する。容積脈波データ転送処理は、対象測定部位から容積脈波データを取得して、解析装置200に送信する処理である。
【0079】
まず、制御部170は、脈波センサ120が検出した信号から容積脈波データを取得する(ステップS101)。より詳細に説明すると、制御部170は、発光素子121から所定のサンプリング周期で放射光を発光させ、耳介の測定対象部位を透過した透過光を受光素子122で受光させることにより、脈波センサ120に動脈の容積脈波を測定させ、容積脈波データを取得する。
【0080】
次に、制御部170は、ステップS101で取得された容積脈波データを識別情報及びデータ取得日時と対応付けて記憶部160に記憶させる(ステップS102)。
【0081】
次に、制御部170は、ステップS101で取得された容積脈波データを識別情報及びデータ取得日時と対応付けて解析装置200に転送する(ステップS103)。解析装置200は、生体情報測定装置100から容積脈波データを取得すると、
図13の解析処理を実行する。
【0082】
なお、記憶部160に記憶された容積脈波データは、解析装置200への転送から一定期間経過した後に記憶部160から消去してもよい。
【0083】
次に、制御部170は、ステップS101の処理から所定のサンプリング周期が経過したかどうか判定する(ステップS104)。所定のサンプリング周期が経過した場合(ステップS104;Yes)、ステップS105に移動する。他方、所定のサンプリング周期が経過していない場合(ステップS104;No)、所定のサンプリング周期が経過するまで処理を待機する。
【0084】
次に、制御部170は、測定開始日時から所定時間が経過したかどうかを判定する(ステップS105)。所定時間は、測定開始日時及び測定終了日時に基づいて設定される。所定時間が経過した場合(ステップS105;Yes)、処理を終了する。他方、所定時間経過していない場合(ステップS105;No)、ステップS101の処理に戻る。以上が、容積脈波データ転送処理の流れである。
【0085】
(解析処理)
以下、
図13を参照して、生体情報測定装置100から容積脈波データを受信した場合に解析装置200が実行する解析処理を説明する。解析処理は、容積脈波データに基づいて各種のデータを算出する処理である。
【0086】
まず、容積脈波取得部251は、生体情報測定装置100の通信部150から送信された容積脈波を通信部230にて受信させ、容積脈波データを取得し、容積脈波記憶部241に登録する(ステップS201)。
【0087】
次に、規準化容積脈波算出部252は、ステップS201で取得した容積脈波に基づいて規準化容積脈波を算出し、算出された規準化容積脈波を規準化容積脈波記憶部242に登録する(ステップS202)。
【0088】
次に、脈拍数算出部253は、ステップS201で取得した容積脈波に基づいて脈拍間隔を取得し、取得された脈拍間隔に基づいて脈拍数を算出し、算出された脈拍数を脈拍数記憶部243に登録する(ステップS203)。
【0089】
次に、神経性圧反射感度算出部254は、ステップS202で算出された規準化容積脈波とステップS203で取得された脈拍間隔とに基づいて神経性圧反射感度を算出し、算出された神経性圧反射感度を神経性圧反射感度記憶部244に登録する(ステップS204)。
【0090】
次に、SpO2算出部255は、ステップS201にて取得した容積脈波に基づいてSpO2を算出し、算出されたSpO2をSpO2記憶部245に登録する(ステップS205)。
【0091】
次に、制御部250は、ステップS201で取得した容積脈波とステップS202~ステップS205で算出された各種データとを一覧表示する表示画面を作成する(ステップS206)。
【0092】
図14は、各種のデータを一覧で表示する表示画面の一例である。表示画面は、平均血圧MBPを波形で表示すると共に、算出された規準化容積脈波(規準化脈波容積NPV)、脈拍間隔IBI、神経性圧反射感度nBRSを波形で表示する。
図14のEventは、被験者が自身の行動事象の内容と時間とを記録した結果を、解析装置200に登録して表示画面に表示したものである。Eventに関する情報は、例えば、被験者により被験者の通信端末に入力され、被験者の通信端末から解析装置200に送信される。Eventの数字は、被験者の具体的な行動事象の内容と時間とを示す。例えば、Event1は、被験者が21:00頃に喫煙したことを示す。なお、
図14では、脈拍数、SpO2の表示を省略して図示している。
【0093】
次に、制御部250は、ステップS206で作成された表示画面を表示部220に表示させ(ステップS207)、処理を終了する。以上が、解析装置200が実行する解析処理の流れである。
【0094】
容積脈波の測定終了後、ユーザは、第1部材111及び第2部材112を押し広げて、耳輪からクリップ110を取り外す。以上の工程により、生体情報測定システム1を用いた脈波測定が終了する。
【0095】
上記のとおり生体情報測定装置100は被験者の耳介に装着可能に構成されているため、生体情報測定システム1を以下の用途で用いることができる。例えば、心疾患イベントは、危険要因(例えば、LDLコレステロール値等)をコントロールしたとしても疾患発症率がさほど減少せず、しかも発生する時期を予知することは困難である。このため、生体情報測定装置100を被験者の耳介に装着しておき、容積脈波データを測定させることで、心疾患イベントの発生を24時間体制で監視することができる。
【0096】
また、心疾患イベントを引き起こす前状態を特定することができれば、心疾患イベントの予知を実現できる。このため、生体情報測定装置100を装着した多数の被験者から容積脈波データを取得し、容積脈波データの全体的な傾向を分析することで、心疾患イベントの前状態を特定することもできる。
【0097】
(実施例)
次に、
図15a、
図15b及び
図16を参照して、生体情報測定装置の有用性を評価するための検証実験とその結果を示す。本実験では、耳介の舟状窩をクリップで挟み込んだ場合に、耳輪の動脈(STA)における容積脈波をセンサで測定可能な生体情報測定装置を作成して使用した。この生体情報測定装置では、クリップに対してセンサの傾きを所定のセンサ角度に変更可能に構成した。
【0098】
図15aは、実施例におけるセンサ位置のパターンを示す図、
図15bは、実施例におけるセンサ角度のパターンを示す図である。本実験では、生体情報測定装置を
図15aに示す耳輪の各センサ位置1~4に装着した場合における動脈の容積脈波を測定した。また、センサ位置1~4毎に、
図15bに示すセンサ角度を0°、5°、15°と変更した場合の容積脈波の変化を調べた。
【0099】
センサ角度は、耳介に生体情報測定装置を装着した場合に、センサから放射される光の向きにより特定される。センサ角度が0°の場合、センサから放射される光の向きは、第1部材111に対して垂直方向である。また、センサ角度が5°の場合、センサから放射される光の向きは、第1部材111に対して垂直方向から外耳道側に5°傾いた向きである。本実験では、各センサ位置1~4及び各センサ角度0°、5°、15°において、37人の被験者を対象として容積脈波を測定し、測定結果に統計処理を施した。
【0100】
図16は、実施例における実験結果を示すグラフである。
図16の縦軸は、容積脈波の自然対数LnPGであり、横軸は、各センサ位置1~4である。また、センサ位置1~4毎に、センサ角度0°、5°、15°の場合の容積脈波の測定結果を示した。
図16に示すように、センサ位置4の場合、センサ位置1~3の場合に比べて、容積脈波が低めに測定されたが、センサ位置1~3の場合、ほぼ同等の値の容積脈波を測定することができた。このため、ダーウィン結節よりも上方にある耳輪であれば、どの部分であっても互いに比較可能な容積脈波を測定可能であることが理解できる。
【0101】
また、各センサ位置1~4のいずれにおいても、生体情報測定装置のセンサ角度が変化した場合であっても、生体情報測定装置により測定された容積脈波の数値がそれほど変化しないことも見て取れる。このため、生体情報測定装置100は、センサ角度が変化したとしても、高い精度で容積脈波を測定可能であることが理解できる。したがって、ダーウィン結節よりも上方にある耳輪であれば、いかなる角度で生体情報測定装置が装着されたとしても、互いに比較可能な容積脈波を測定可能であることが理解できる。以上が、生体情報測定装置の有用性を評価するための検証実験とその結果の説明である。
【0102】
以上説明したとおり、実施の形態に係る生体情報測定装置100は、生体の一部に装着可能なクリップ110と、クリップ110に設けられ、クリップ110により装着される装着対象部位とは異なる測定対象部位における容積脈波を測定する脈波センサ120と、を備える。このため、容積脈波を正確に測定できると共に、ユーザビリティの高いウェアラブルデバイスを実現できる。
【0103】
また、実施の形態に係る生体情報測定装置100は、クリップ110で耳介の舟状窩を両側から挟み込んだ場合に、耳輪内を走行する動脈の容積脈波を測定可能に構成された脈波センサ120を備える。このため、舟状窩を両側から挟み込んだとしても圧迫されない耳輪内を走行する動脈の容積脈波を測定することで、容積脈波をさらに正確に測定できる。
【0104】
さらに、実施の形態に係る生体情報測定装置100は、口を動かした際に上下に移動する耳たぶに装着される特許文献1の生体情報測定装置とは異なり、体動の影響を受けにくい耳輪内を走行する動脈の容積脈波を測定するように構成されている。このため、被験者が日常生活において会話等を行う場合であっても容積脈波を正確に測定できる。
【0105】
そして、本発明はこれに限られず、以下に述べる変形も可能である。
【0106】
(変形例)
上記実施の形態では、容積脈波データの検出対象部位として耳介を用いていたが、本発明はこれに限られない。動脈の脈波を検出できる部位であれば、いかなる部位であってもよい。例えば、内耳、手首、指、腕、首、頭、足等であってもよい。また、体動を無視できる状況であれば、例えば、耳たぶを容積脈波データの検出対象部位としてもよい。
【0107】
上記実施の形態では、装着手段としてクリップ110を用いていたが、本発明はこれに限られない。装着手段としては、例えば、イヤフォン、イヤリング、眼鏡、サングラス、ブレスレット、バンド、紐、指輪、リング等であってもよい。また、装着手段に所望の装飾(アクセサリ)を施してもよい。
【0108】
上記実施の形態では、クッション111Cを第1部材111の先端部111Bに設けていたが、本発明はこれに限られない。例えば、クッション等の弾性部材を第2部材112の先端部112Dに設けてもよく、先端部111Bと先端部112Dとに設けてもよい。また、クッション111Cは必須の構成ではなく、先端部111Bから取り外して使用してもよい。
【0109】
上記実施の形態では、第1部材111及び第2部材112が回転軸113を介して開閉可能に構成されていたが、本発明はこれに限られない。例えば、第1部材111の基端部及び第2部材112の基端部を接続して一体に形成し、第1部材111及び第2部材112を弾性変形可能な材料で形成することで、第1部材111の先端部及び第2部材112の先端部を開閉可能に構成してもよい。また、第1部材111を弾性変形可能な材料で形成し、第1センサ支持部112B及び第2センサ支持部112Cの位置関係がずれないように、第2部材112を第1部材111よりも剛性がある材料で形成してもよい。
【0110】
上記実施の形態では、容積脈波データの受信が終了した後に、規準化容積脈波データ等を算出して表示部220に表示していたが、本発明はこれに限られない。例えば、通信部150に一定期間毎に容積脈波データをまとめて送信させ、通信部230に容積脈波データを受信させ、制御部250にて受信した容積脈波データに基づいて各種データをリアルタイムで算出し、表示部220に表示される表示画面を一定期間毎に更新してもよい。
【0111】
上記実施の形態では、脈波データとして容積脈波データを用いていたが、本発明はこれに限られない。例えば、脈波データとして圧脈波データを用いてもよい。
【0112】
上記実施の形態では、脈波センサ120として透過型の光電式脈波センサを用いていたが、本発明はこれに限られない。例えば、赤外線又は赤色光等を生体に向けて照射し、生体内で反射した反射光を測定することで、容積脈波を測定する反射型の光電式脈波センサを用いてもよい。なお、反射型の光電式脈波センサで容積脈波を測定する場合、個人差がある光の散乱を補正する方法が確立されていないため、測定データを個人間で比較することができず、SpO2等の算出も困難である。このため、透過型の光電式脈波センサで光電式容積脈波を測定することが好ましい。
【0113】
上記実施の形態では、測定手段として脈波を測定する脈波センサ120を用いていたが、本発明はこれに限られない。測定手段としては脈波を測定するものに限られず、生体情報を測定する測定手段であればいかなるものを用いてもよい。例えば、血圧、心音、心電図を測定するセンサであってもよい。また、生体情報を測定する測定手段に加えて、GPS(Global Positioning System)センサ、加速度センサ等の測定手段を用いてもよい。
【0114】
上記実施の形態では、容積脈波に基づいて脈拍数、神経性圧反射感度、SpO2を算出していたが、本発明はこれに限られない。例えば、容積脈波に基づいて血管年齢、ストレスレベル等と数値化して算出してもよい。
【0115】
上記実施の形態においては、生体情報測定装置100、解析装置200が別々の装置であったが、本発明はこれに限定されない。例えば、生体情報測定装置100、解析装置200を一体に構成してもよい。また、生体情報測定装置100と通信アンテナとを別体に構成してもよく、生体情報測定装置100の動作に必要な電力を別体の電源(バッテリ)から供給してもよい。この場合、生体情報測定装置100にケーブルと接続可能な入出力I/F(インターフェース)を設けて、生体情報測定装置100と通信アンテナ又は電源とケーブルを介して電気的に接続するように構成してもよい。
【0116】
上記実施の形態では、操作部210と表示部220とは別体に構成されていたが、本発明はこれに限られない。例えば、操作部210と表示部220とは、タッチパネルによって一体に構成されてもよい。タッチパネルは、所定の操作を受け付ける操作画面を表示すると共に、操作画面においてユーザが接触操作を行った位置に対応する操作信号を制御部250に供給すればよい。
【0117】
上記実施の形態では、脈波センサ120により測定された容積脈波データを、データの取得日時に関する情報に対応付けて記憶部160に記憶していたが、本発明はこれに限られない。例えば、脈波センサ120により測定された容積脈波データを解析装置200に転送した後、データの取得日時に関する情報に対応付けて記憶部240に記憶してもよい。
【0118】
上記実施の形態では、脈波センサ120により測定された容積脈波データをそのまま解析処理に用いていたが,本発明はこれに限られない。例えば、解析処理の実行前又は実行中に、容積脈波データにフィルター処理を施してもよく、加速度センサ等の情報に基づいて容積脈波データの補正を実行してもよい。
【0119】
上記実施の形態においては、規準化容積脈波データ等の各種データは、解析装置200の記憶部240に記憶されていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、各種データは、その全部又は一部が通信ネットワークを介して外部のサーバやコンピュータ等に記憶されていてもよい。
【0120】
上記実施の形態では、通信ネットワークとしてインターネットを用いていたが、本発明はこれに限られない。例えば、通信ネットワークは、LAN(Local Area Network)や専用線等を用いて実現してもよい。
【0121】
上記実施の形態においては、解析装置200は、記憶部240に記憶されたプログラムに基づいて動作していたが、本発明はこれに限定されない。例えば、プログラムにより実現された機能的な構成をハードウェアにより実現してもよい。
【0122】
上記実施の形態では、解析装置200は、パーソナルコンピュータ等の汎用コンピュータであったが、本発明はこれに限られない。例えば、解析装置200は、専用のシステムで実現してもよく、クラウド上に設けられたコンピュータであってもよい。また、解析装置200が実行する処理は、例えば、上述の物理的な構成を備える装置が、記憶部240に記憶されたプログラムを実行することによって実現されていたが、本発明は、プログラムとして実現されてもよく、そのプログラムが記録された記憶媒体として実現されてもよい。
【0123】
また、上述の処理動作を実行させるためのプログラムを、フレキシブルディスク、CD-ROM(Compact Disk Read-Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disk)、MO(Magneto-Optical Disk)等のコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に格納して配布し、そのプログラムをコンピュータにインストールすることにより、上述の処理動作を実行する装置を構成してもよい。
【0124】
上記実施の形態では、生体情報測定装置100を人体に装着していたが,本発明はこれに限られない。ヒト以外の動物に生体情報測定装置100を装着可能に構成してもよい。
【0125】
上記の実施形態は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、請求の範囲に記載した発明の趣旨を逸脱しない範囲でさまざまな実施の形態が可能である。各実施の形態や変形例で記載した構成要素は自由に組み合わせることが可能である。また、請求の範囲に記載した発明と均等な発明も本発明に含まれる。
【0126】
本出願は、2018年3月29日に出願された日本国特許出願2018-64067号に基づくものであり、その明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書を含むものである。上記日本国特許出願における開示は、その全体が本明細書中に参照として含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の生体情報測定装置は、生体に装着された場合であっても生体情報を正確に測定できるため、有用である。
【符号の説明】
【0128】
1 生体情報測定システム
100 生体情報測定装置
110 クリップ
111 第1部材
111A 基端部
111B 先端部
111C クッション
111D 空間
112 第2部材
112A 基端部
112B 第1センサ支持部
112C 第2センサ支持部
112D 先端部
112E スリット
112F,112G 耳介接触部
113 回転軸
120 脈波センサ
121 発光素子
122 受光素子
130 測定部
140 バッテリ
150,230 通信部
160,240 記憶部
170,250 制御部
200 解析装置
210 操作部
220 表示部
241 容積脈波記憶部
242 規準化容積脈波記憶部
243 脈拍数記憶部
244 神経性圧反射感度記憶部
245 SpO2記憶部
251 容積脈波取得部
252 規準化容積脈波算出部
253 脈拍数算出部
254 神経性圧反射感度算出部
255 SpO2算出部