(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】ミクロン珪素-炭素複合負極材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20230413BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230413BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20230413BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20230413BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
C01B33/02 Z
H01M4/36 B
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2021550276
(86)(22)【出願日】2021-01-15
(86)【国際出願番号】 CN2021072182
(87)【国際公開番号】W WO2021143855
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2021-08-27
(31)【優先権主張番号】202010052236.5
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520031405
【氏名又は名称】天津大学
【住所又は居所原語表記】No.92 Weijin Road, Nankai District Tianjin 300072, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】楊 全紅
(72)【発明者】
【氏名】陳 凡奇
(72)【発明者】
【氏名】韓 俊偉
(72)【発明者】
【氏名】肖 菁
(72)【発明者】
【氏名】孔 ▲とく▼斌
(72)【発明者】
【氏名】陶 瑩
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/119256(WO,A1)
【文献】特開2005-056705(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0051670(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106058181(CN,A)
【文献】特開2020-161709(JP,A)
【文献】特開2015-078096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
H01M 4/36
C01B 33/02
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロンシリコン粒子を炭素が含まれる雰囲気中で化学気相成長反応させて、炭素被覆のミクロンシリコン第1粒子を取得し、前記炭素被覆のミクロンシリコン第1粒子における前記炭素の質量比が7%~18%であるステップと、
前記炭素被覆のミクロンシリコン第1粒子を第1混合溶媒に分散させて、分散液を得るステップと、
前記分散液にアルカリを加えてから加熱して、前記アルカリにより前記ミクロンシリコン粒子の一部をエッチングさせ、炭素被覆のミクロンシリコン第2粒子を得るステップと、
前記炭素被覆のミクロンシリコン第2粒子と酸化グラフェンとを第2混合溶媒に分散させて混合液を取得し、前記混合液を水熱反応させ、還元された酸化グラフェン-炭素珪素複合のヒドロゲルを得るステップと、
前記ヒドロゲルを加熱することにより、前記ヒドロゲル中の水分を除去してミクロン珪素-炭素複合負極材料を得るステップと、を備え
、
前記第1混合溶媒は、水とエタノールの混合溶媒であり、
前記第1混合溶媒において、水とエタノールとの体積比は0.8:1~1:1であり、
前記第2混合溶媒は、水とエタノールとの混合溶媒であり、
前記第2混合溶媒において、水とエタノールとの体積比は、0.8:1~1:1であることを特徴とするミクロン珪素-炭素複合負極材料の製造方法。
【請求項2】
前記化学気相成長反応は、
アルゴンガス雰囲気下で行われ、前記アルゴンガスの流量が30~50mL/minであり、昇温のレートが5~10℃/minである昇温段階と、
メタンとアルゴンガスとの混合雰囲気下で行われ、前記メタンの流量が30~50mL/minであり、前記アルゴンガスの流量が30~50mL/minであり、恒温する温度が900~1000℃であり、恒温する時間が40~60minである、恒温段階と、
アルゴンガス雰囲気下で行われ、前記アルゴンガスの流量が30~50mL/minであり、降温のレートが5~10℃/minであり、降温後に自然冷却する降温段階と、を備えることを特徴とする請求項1に記載のミクロン珪素-炭素複合負極材料の製造方法。
【請求項3】
前記分散液において、前記炭素被覆のミクロンシリカ第1粒子の濃度は、1~3mg/mLであることを特徴とする請求項1に記載のミクロン珪素-炭素複合負極材料の製造方法。
【請求項4】
前記分散液において、前記アルカリの濃度は、0.5~1mol/Lであり、前記分散液の加熱温度は、70~80℃であることを特徴とする請求項1に記載のミクロン珪素-炭素複合負極材料の製造方法。
【請求項5】
前記炭素被覆のミクロンシリコン第2粒子と前記酸化グラフェンとの質量比は、2:1~3:1であり、
前記混合液において、前記酸化グラフェンの濃度は、1.5~2mol/Lであることを特徴とする請求項1に記載のミクロン珪素-炭素複合負極材料の製造方法。
【請求項6】
前記水熱反応の温度は、180~200℃であり、
前記水熱反応の時間は、6~10hであることを特徴とする請求項1に記載のミクロン珪素-炭素複合負極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電池技術分野に関し、特に、ミクロン珪素-炭素複合負極材料、前記ミクロン珪素-炭素複合負極材料の製造方法、負極シート、およびリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンは次世代のリチウムイオン電池負極材料として貯蔵量が豊富であり、且つその理論的なリチウム貯蔵比容量は、全ての合金化リチウム貯蔵元素で最も高いため、黒鉛の代わりに商用のリチウムイオン電池の負極材料となる大きな潜在力を備えている。現時点では、シリコン負極に関する研究は著しい成果が得られている。しかし、ナノ化技術の多くは、ナノシリコンを活物質として電極材料とカーボン構造のナノデザインを構築することを含むので、材料のタップ密度と電極密度を低減しなければならず、シリコン負極体積性能の向上が制約されるようになる。
【0003】
平均粒径分布が3~5μmのミクロンシリコンは、コストが安く、タップ密度が高い等の特長を有し、ナノシリコンの固有欠陥を効果的に回避する。しかし、サイズが増加すると、活性粒子の内部応力を効果的に緩衝させる能力が低下する。シリコン活性粒子のサイズが150nmを超えると、その充放電時に、内部応力によってより小さなナノ粒子に破砕され、活物質の一部が電気接触から外れるだけではなく、材料の比表面積が増大され、新鮮なシリコンの表面が露出され、SEI膜が粒子表面で繰り返し成長し続けるため、そのサイクルの安定性が著しく制約されることが判明されている。
【0004】
また、ミクロンシリコン負極では、従来の表面炭素被覆構造ではサイクル安定性を効果的に保証することができないが、これは、電池のサイクル時にシリコン材料が極めて大きな体積膨張を生じるせいである。一つの原因としては、シリコンの膨張は異方性であり、ミクロンサイズの寸法の異なるシリコン粒子に対して、各粒子に対して、体積膨張を緩衝するための空間を正確に設計することは困難である。もう一つの原因は、上記の空間の存在により、シリコン材料は極性シートの圧着中にその完全性を維持するのが困難になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本出願では、内部のミクロンオーダーのシリコン粒子の膨張を効果的に緩衝しつつ、外部から圧密過程の圧力に耐えられることができるミクロン珪素-炭素複合負極材料の製造方法を提供する。
また、本出願は、前記方法により製造されたミクロン珪素-炭素複合負極材料も提供する。
また、本出願は、前記ミクロン珪素-炭素複合負極材料からなる負極シートをさらに提供する。
また、本出願は、前記負極シートを備えるリチウムイオン電池をさらに提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願は、
ミクロンシリコン粒子を炭素が含まれる雰囲気中で化学気相成長反応させて、炭素被覆のミクロンシリコン第1粒子を取得し、前記炭素被覆のミクロンシリコン第1粒子における前記炭素の質量比が7%~18%であるステップと、
前記炭素被覆のミクロンシリコン第1粒子を第1混合溶媒に分散させて、分散液を得るステップと、
前記分散液にアルカリを加えてから加熱して、前記アルカリにより前記ミクロンシリコン粒子の一部をエッチングさせ、炭素被覆のミクロンシリコン第2粒子を得るステップと、
前記炭素被覆のミクロンシリコン第2粒子と酸化グラフェンとを前記第2混合溶媒に分散させて混合液を取得し、前記混合液を水熱反応させ、還元された酸化グラフェン-炭素珪素複合のヒドロゲルを得るステップと、
前記ヒドロゲルを加熱することにより、前記ヒドロゲル中の水分を除去してミクロン珪素-炭素複合負極材料を得るステップと、を備えるミクロン珪素-炭素複合負極材料の製造方法を提供する。
【0007】
本出願は、密度0.8~1.2g/cm3である方法により製造されるミクロン珪素-炭素複合負極材料をさらに提供する。
【0008】
本出願は、前記ミクロン珪素-炭素複合負極材料からなる負極電極シートをさらに提供する。
【0009】
本出願は、正極シートおよび上記負極シートを備えるリチウムイオン電池をさらに提供する。
【発明の効果】
【0010】
本願においる方法により製造されたミクロン珪素-炭素複合負極材料は、内部のミクロンオーダーのシリコン粒子の膨張を効果的に緩衝しつつ、外部から圧密過程の圧力に耐えられる多段階のバッファリング構造を有することで、ミクロン珪素-炭素複合負極材料による負極シート及びリチウムイオン電池が長いサイクル寿命という特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本願実施例1で作製した炭素被覆のミクロンシリコン第2粒子のTEM図及びEDSスペクトルである。
【
図2】本願比較例3で作製した炭素被覆のミクロンシリコン第1粒子のTEM図及びEDSスペクトルである。
【
図3】本願実施例1で作製したミクロン珪素-炭素複合負極材料のSEM図である。
【
図4】本願実施例1で作製したミクロン珪素-炭素複合負極材料のTEM図である。
【
図5】本願実施例1における異なるステップで作製したミクロンシリコン粒子、炭素被覆のミクロンシリコン第2粒子、およびミクロン珪素-炭素複合負極材料でそれぞれ構築されたリチウムイオン電池負極のサイクル特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本出願の実施例における技術的解決手段は、本出願の実施例における図面を参照して以下に明確かつ完全に説明される。なお、記載された各実施例は、本出願の実施形態の一部に過ぎず、すべての実施例ではないことは明らかである。創造的な努力なしに本出願の実施例に基づいて当業者によって得られる他のすべての実施例は、本出願の範囲内である。
【0013】
本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、特に定義されない限り、本出願が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本出願の明細書で使用される用語は、具体的に実施例を説明するためのものであり、本出願を限定するものではない。
【0014】
本願が所定の目的を達成するために取り得る技術手段及び効能を更に述べるために、以下、図面及び好適な実施形態を結合して、以下に詳細に説明する。
【0015】
また、
図1を参照して、本願のある実施例には、以下のステップを含むミクロン珪素-炭素複合負極材料の製造方法が提供される。
【0016】
ステップS11では、ミクロンシリコン粒子を炭素が含まれる雰囲気中で化学気相蒸着反応させて、炭素被覆のミクロンシリコン第1粒子に対する炭素の質量比が7%~18%の炭素被覆のミクロンシリコン第1粒子を得る。
【0017】
具体的には、粒径分布の範囲が3~5μmのミクロンシリコン粒子を積載容器内に入れ、ミクロンシリコン粒子が収納された積載容器を反応容器に入れ、炭素を含む雰囲気中で化学気相蒸着反応を行い、炭素被覆のミクロンシリコン第1粒子を得られる。
【0018】
ある実施例において、前記炭素を含むガスは、メタンである。
【0019】
ある実施例において、前記積載容器はルツボである。
【0020】
ある実施例において、前記反応容器は、管状炉である。
【0021】
ある実施形態において、前記化学気相成長反応は、
アルゴンガス雰囲気下で行われ、前記アルゴンガスの流量が30~50mL/minであり、昇温のレートが5~10℃/minである昇温段階と、
メタンとアルゴンガスとの混合雰囲気下で行われ、前記メタンの流量が30~50mL/minであり、前記アルゴンガスの流量が30~50mL/minであり、恒温する温度が900~1000℃であり、恒温する時間が40~60minである、恒温段階と、
アルゴンガス雰囲気下で行われ、前記アルゴンガスの流量が30~50mL/minであり、降温のレートが5~10℃/minであり、降温後に自然冷却する降温段階と、を備える。その中で、前記降温段階では、400℃まで降温して自然冷却することができる。
【0022】
化学気相成長法により得られる炭素被覆層(即ち、炭素被覆のミクロンシリカ第1粒子における前記炭素)は、ポリマーの熱分解により得られた炭素被覆層に比べ、黒鉛化度に高いので、電気伝導率と機械特性に優れる。
【0023】
ステップS12では、炭素被覆のミクロンシリコン第1粒子を第1混合溶媒に分散させて、分散液を得る。
具体的には、炭素被覆のミクロンシリカ第1粒子を、第1混合溶媒に超音波により分散させ、均一な分散液を得た。
【0024】
ある実施例において、第1混合溶媒は、水とエタノールの混合溶媒である。ここで、第1混合溶媒において、水とエタノールとの体積比は0.8:1~1:1である。ここで、第1混合溶媒中のエタノールは、炭素被覆のミクロンシリコン第1粒子を分散させるのに有利であり、第1混合溶媒中の水は、後に添加されるアルカリを溶解させるのに有利である。
上記分散液において、炭素被覆のミクロンシリカ第1粒子の濃度は、1~3mg/mLである。
【0025】
ステップS13では、前記分散液にアルカリを加えてから加熱して、アルカリによりミクロンシリコン粒子の一部をエッチングさせ、炭素被覆のミクロンシリコン第2粒子を得る。
【0026】
具体的には、上記分散液にアルカリを加え、上記分散液を加熱して、アルカリによりミクロンシリコン粒子をエッチングして、エッチングにより生成した水素ガスが上記分散液から逃し、反応の時間を制御することにより、ミクロンシリコン粒子を異なるエッチング度にし、次いで該分散液に対して超音波処理及び濾過を順次行い、濾過後のケークを洗浄、乾燥して、炭素被覆のミクロンシリコン第2粒子を得る。
【0027】
その中で、エッチングにより、炭素被覆層とミクロンシリコン第2粒子との間に隙間が生じ、すなわち、炭素被覆層とミクロンシリコン第2粒子との間に適切な空間が備える。上記空間は、ミクロンシリコン粒子の体積膨張を緩衝することができる。
【0028】
ある実施例において、前記アルカリは、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムの少なくとも一方を含む。前記分散液において、前記アルカリの濃度は、0.5~1mol/Lである。
【0029】
ある実施例において、前記分散液の加熱温度は、70~80℃である。
【0030】
ある実施例において、前記超音波処理の時間は、4~10minである。
【0031】
ある実施例において、前記洗浄は、水とエタノールとを交互に洗浄することができる。
【0032】
ある実施例において、前記乾燥の温度は、70~80℃である。
【0033】
ステップS14では、炭素被覆のミクロンシリコン第2粒子と酸化グラフェンとを第2混合溶媒に分散させて混合液を取得し、前記混合液を水熱反応させ、還元された酸化グラフェン-炭素珪素複合のヒドロゲルを得る。
【0034】
具体的には、第2混合溶媒に炭素被覆のミクロンシリコン第2粒子と酸化グラフェンを超音波により分散させて混合液を得た後、この混合液を水熱反応釜に加えて水熱反応させることにより、酸化グラフェンを還元させ、酸化グラフェン-炭素珪素複合を還元させてヒドロゲルを得る。
【0035】
ある実施形態において、炭素被覆のミクロンシリコン第2粒子と酸化グラフェンとの質量比2:1~3:1である。
前記混合液において、酸化グラフェンの濃度は1.5~2mol/Lである。
【0036】
ある実施形態において、第2混合溶媒は、水とエタノールとの混合溶媒である。ここで、第2混合溶媒には、水とエタノールとの体積比が、0.8:1~1:1である。
【0037】
ある実施例において、上記水熱反応の温度は180~200℃であり、前記水熱反応の時間は6~10hである。
【0038】
ステップS15には、ヒドロゲルを加熱することにより、前記ヒドロゲル中の水分を除去して前記ミクロン珪素-炭素複合負極材料を得る。
前記水分除去過程では、ヒドロゲルにおける還元された酸化グラフェンが収縮して緻密な3次元ネットワークを形成して、炭素被覆のミクロンシリコン第2粒子が還元された酸化グラフェンの3次元ネットワーク中に分散される。
【0039】
ある実施例において、水分除去の温度は60~80℃であり、水分除去の時間は24~48hである。
【0040】
本願ある態様において、密度が0.8~1.2g/cm3であるミクロン珪素-炭素複合負極材料が提供される。
【0041】
ミクロン珪素-炭素複合負極材料にミクロンスケールの領域を選択して、ミクロンスケールの領域内のミクロン珪素-炭素複合負極材料の機械特性をテストして、その結果は、ミクロンスケールの領域内に、ミクロン珪素-炭素複合負極材料が150MPaを超える降伏強さと8.6%の降伏ひずみを示すことを表わす。同様に、ミクロンケールの領域では、ミクロン珪素-炭素複合負極材料は、1.7GPaである強度と15%である高い塑性を示す。
【0042】
本願のある実施例は、ミクロン珪素-炭素複合負極材料からなる負極シートを提供する。
【0043】
本願のある実施例は、上記正極シートおよび上記負極シートを備えるリチウムイオン電池を提供する。
【0044】
以下、本願について実施例および比較例によって具体的に説明する。
【実施例1】
【0045】
第1ステップでは、粒径分布範囲が3μm~5μmであるミクロンシリコン粒子SiMP1.0gをルツボに入れ、このミクロンシリコン粒子が載置されたルツボを管状炉内に移送し、アルゴンガス流量50mL/minで昇温速度10℃/minで管状炉を1000℃まで加熱し、その後、この温度でメタンガスを流量50mL/minで通気し、反応時間60minとした。反応終了後、メタンガスを止めて、アルゴンガスの流量を一定に保ったまま、400℃まで10℃/minの速度で降温した後、室温まで自然冷却して、炭素被覆のミクロンシリカ第1粒子を得る。
【0046】
第2ステップでは、炭素被覆のミクロンシリコン第1粒子500mgを、水100mLとエタノール100mLとの混合溶媒に、超音波により分散させ、均一な分散液を得る。
【0047】
第3ステップでは、前記分散液に水酸化ナトリウム6gを加え、前記分散液の温度を80℃までに加熱して、15分間維持する。分散液に気泡が発生した後、5min間超音波処理し、次いで濾過し、水とエタノールで交互に洗浄し、70℃で乾燥させて炭素被覆のミクロンシリコン第2粒子SiMP@Cを得た。
【0048】
第4ステップでは、SiMP@C300mg及び酸化グラフェン15mgを水50mLとエタノール50mLの混合溶媒に超音波分散させて混合液を取得し、次いで、上記混合液を水熱反応釜に入れて180℃で水熱反応6hを行い、還元された酸化グラフェン-珪素炭素複合ヒドロゲルを得る。
【0049】
第5ステップでは、得られたヒドロゲルを700℃で24h乾燥して、ミクロン珪素-炭素複合負極材料SiMP@C-GNを得る。
【実施例2】
【0050】
実施例2と実施例1との相違点は、第1ステップにおいて、メタンガスの流量を30mL/minとする。
【実施例3】
【0051】
実施例3と実施例1との相違点は、第1ステップにおいて、アルゴンガス流量40mL/minで昇温速度7℃/minで管状炉を700℃まで加熱し、その後、この温度でメタンガスを流量50mL/minで通気し、反応時間40minとした。反応終了後、メタンガスを止めて、アルゴンガスの流量を一定に保ったまま、400℃まで7℃/minの速度で降温した後、室温まで自然冷却する。
【実施例4】
【0052】
実施例4と実施例1との相違点は、第4ステップにおいて、SiMP@Cの用量が400mgであり、水の用量が40mLであり、エタノール用量が60mLである。
【実施例5】
【0053】
実施例5と実施例1との相違点は、第3ステップにおいて、水酸化ナトリウムの用量が4gである。
【実施例6】
【0054】
実施例6と実施例1との相違点は、第3ステップにおいて、水酸化ナトリウムを水酸化カリウムに変更する。
【実施例7】
【0055】
実施例7と実施例1との相違点は、前記分散液中に気泡が発生した後、8min超音波処理する。
【実施例8】
【0056】
実施例8と実施例1との相違点は、第4ステップにおいて、SiMP@Cの用量が250mgであり、水の用量が60mLであり、エタノール用量が40mLである。
【実施例9】
【0057】
実施例9と実施例1との相違点は、第4ステップにおいて、酸化グラフェン-の用量が170mgである。
【実施例10】
【0058】
実施例10と実施例1との相違点は、第5ステップにおいて、乾燥の温度が30mL/minとする。
【比較例1】
【0059】
実施例1の第1ステップで得られた炭素被覆のミクロンシリコン第1粒子を、そのままミクロン珪素-炭素複合負極材料とする。
【比較例2】
【0060】
実施例1の第3ステップで得られた炭素被覆のミクロンシリコン第2粒子SiMP@Cを、そのままミクロン珪素-炭素複合負極材料とする。
【比較例3】
【0061】
第1ステップでは、粒径分布範囲が3μm~5μmであるミクロンシリコン粒子1.0gをルツボに入れ、このミクロンシリコン粒子が載置されたルツボを管状炉内に移送し、アルゴンガス流量50mL/minで1000℃まで昇温速度10℃/minで管状炉を加熱し、その後、この温度でメタンガスを流量50mL/minで通気し、反応時間60minとした。反応終了後、メタンガスを止めて、アルゴンガスの流量を一定に保ったまま、400℃まで10℃/minの速度で降温した後、室温まで自然冷却して、炭素被覆のミクロンシリカ第1粒子を得る。
第2ステップでは、炭素被覆のミクロンシリコン第1粒子300mgおよび酸化グラフェン-150mgを、水50mLとエタノール50mLとの混合溶媒に、超音波により分散させ、混合液を取得し、次で、この混合液を水熱反応釜に加えて180℃で水熱反応6hを行うことにより、酸化グラフェン-炭素珪素複合を還元させてヒドロゲルを得る。
第5ステップでは、得られたヒドロゲルを700℃で24h乾燥して、ミクロン珪素-炭素複合負極材料SiMP@C-GNを得る。
【比較例4】
【0062】
比較例4と実施例1との相違点は、第1ステップにおいて、粒径分布範囲が3μm~5μmであるシリコン粒子をナノシリコン粒子に変更する。
【比較例5】
【0063】
比較例5における第1ステップ~第3ステップは、実施例1における第1ステップ~第3ステップと同様であり、具体的には、実施例1を参照する。
第4ステップでは、SiMP@C300mg及び酸化グラフェン150mgを水50mLとエタノール50mLの混合溶媒に超音波分散させた後、真空濾過して、70℃で乾燥して複合材料を得た。
第5ステップでは、前記複合材料を50mL/minのアルゴンガス流量で、800℃で熱処理2hを行い、昇温レートが50℃/minとしてミクロン珪素-炭素複合負極材料を得る。
【0064】
図1を参照して、実施例1で作製されたミクロン珪素-炭素複合負極材料では、炭素被覆のミクロンシリコン第2粒子SiMP@Cにおける炭素被覆層が内部のシリコン粒子に対して良好な被覆を果たし、両者の間に適当な空間が確保されている。
【0065】
図2を参照して、比較例3で作製されたミクロン珪素-炭素複合負極材料では、炭素被覆のミクロンシリコン第1粒子における炭素被覆層は内部のシリコン粒子に対する被覆性が悪く、両者の間隔が大きい。
【0066】
図3及び
図4を参照して、実施例1で作製されたミクロン珪素-炭素複合負極材料では、内部に分散されたミクロンシリコンの活性粒子が連続して緻密な還元された酸化グラフェンネットワークで密着結合して、内部のミクロンシリコンの活性粒子を強固に定めた。
【0067】
実施例1における異なるステップで作製されたミクロンシリコン粒子SiMP、炭素被覆のミクロンシリコン第2粒子SiMP@C、ミクロン珪素-炭素複合負極材料SiMP@C-GNのそれぞれをリチウムイオン電池の負極として構築され、そのサイクル性能をそれぞれテストされた。
【0068】
図5を参照して、電流密度1A/gで、SiMP@C-GNにより構築された電極は、1000サイクル後にも750mAh/gの比容量に維持できる。比較として、1000サイクル後にSiMP@Cで構築された電極の比容量は300mAh/gしか残らず、20サイクル後にSiMPで構築された電極の比容量は400mAh/g未満である。このことから、本願における前記ミクロン珪素-炭素複合負極材料の多層緩衝構造は、優れた有効性を有するとともに、導電ネットワークやバッファネットワークとして外層の連続して緻密な還元された酸化グラフェンの役割も示唆している。
【0069】
実施例1~10および比較例1~4で作製された材料を、それぞれ導電性カーボン、バインダーSBRと質量比96:2:2で電極シートを調製し、リチウムシートを対極として半電池を組み立て、フルオロエチレンカーボネート(FEC)10vol%と、ビニレンカーボネート(VC)1vol%添加剤を含むエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(EC/DEC、1:1、v/v)という電解液を用い、電流密度1A/gで性能試験の結果を以下の表に示す。
【0070】
【0071】
表1から明らかなように、
1.実施例1と実施例2、3とを比較することにより、化学気相成長による炭素被覆層の含有量が低下すると、内部のシリコン活性粒子が効果的に保護されず、材料のサイクル安定性が低下する。
2.実施例1と実施例4、8及び9、実施例1と対比例1、2から明らかなように、複合材料中で外層のグラフェン相対的な含有量の減少から消失するまでに伴い、応力緩衝効果が低減され、材料のサイクル安定性が低下した。
3.実施例1と実施例7、比較例3とを比較すると、エッチングの程度の増加に伴い、材料全体のサイクル安定性が改善されたが、活物質が減少するほど発揮される容量が低下することがわかった。
4.実施例1と対比4を比較すると、ナノシリコンを原料とした場合、材料のサイクル性能は若干向上するものの、ミクロンシリコンを原料として製造した複合材料よりも密度が遥かに低いため、本願における多層バッファ構造は、ミクロンシリコン負極に適用して高い体積性能が得られることが分かった。
【0072】
本願における前記方法で作製される前記ミクロン珪素-炭素複合負極材料は、内部に対して、サイクル中に粉砕なミクロンシリコン粒子を安定して、外部に対して、シートの圧密過程における大きな圧力を抵抗可能な強靭性多段緩衝構造である。
【0073】
具体的には、内層の高黒鉛化の炭素シェル及び適度な空間により機械的な柔軟性に優れ、内部のミクロンシリコン粒子を効率よく安定させ、破れて露出した新鮮な表面を保護することができ、外層が緻密に収縮した還元された酸化グラフェンネットワークは、内部の珪素-炭素活性粒子(SiMP@C)を力学的及び電気的な全体として密着結合させ、電極構造の強靭化を図り、リチウムを脱離および嵌め込む過程で、機械的バッファと連続的な速やかな電子伝達を実現しつつ、組み立てを経て、シート同士が重なり合うことによる高強度および高弾性率の還元された酸化グラフェンの緻密ネットワークは内部の珪素-炭素活性粒子の圧密過程における全体性を最大に保つことができる。
【0074】
また、本願で調製された前記ミクロン珪素-炭素複合負極材料はリチウムイオン電池の負極(圧密密度1.0g/cm3)として1000サイクルの超長サイクル寿命を実現しており、高い容量(750mAh/g)を維持することができ、ミクロンシリコン負極の実用化には重要な意味を有する。
【0075】
以上の説明は、本出願について最適化した具体的な実施形態の一つに過ぎないが、実際の応用過程においてこのような実施形態に限られるものではない。当業者にとって、本出願の技術構想に基づいてなされた他の変形および変更は、本願の保護範囲に属するべきである。