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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】血液保存容器および血液採取器具
(51)【国際特許分類】
   A61J 1/05 20060101AFI20230413BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
A61J1/05 313N
G01N1/10 V
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022578956
(86)(22)【出願日】2022-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2022029137
【審査請求日】2023-01-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521465005
【氏名又は名称】ナッジヘルステック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 映美
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 肇
【審査官】村上 勝見
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2010-0105282(KR,A)
【文献】特開2019-100858(JP,A)
【文献】特開2014-200267(JP,A)
【文献】特開2018-103076(JP,A)
【文献】特開平09-113421(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0335812(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0371048(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 1/05
G01N 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液を格納、保存する血液保存容器と、
前記血液保存容器に着脱可能に取り付けられる採血チップと、を備え、
前記血液保存容器は、軸方向一方側に第1開口を有し前記血液を格納する採血空間が形成された格納容器と、
前記格納容器の軸方向他方側に設けられ、軸方向他方側に第2開口を有し前記血液を保存する保存空間が形成された透明な密閉容器と、
前記第2開口を覆うように前記密閉容器の軸方向他方側において回転可能に設けられたダイアル部と、を備え、
前記採血空間と前記保存空間との間には、前記採血空間と前記保存空間とに連続する分離流路が形成され、
前記採血空間は、軸方向他方側において前記分離流路に連続するように形成され、
前記分離流路は、前記採血空間に比して横断面が小さく形成され、
前記保存空間は、前記分離流路に比して横断面が大きく形成され、
前記ダイアル部は、軸方向一方側に突出して形成され、前記保存空間の容量を調節するプランジャと、内周面が径方向に凹んだ嵌合部と、を備え、
前記密閉容器の軸方向他方側の端部には、前記第2開口を有し、軸方向他方側に突出する突出部が形成され、
前記突出部は、径方向に膨出し、前記ダイアル部の前記嵌合部と回転可能に嵌合しており、
前記ダイアル部にはネジ溝が形成された貫通孔が軸線方向に沿って形成され、
前記プランジャには、前記貫通孔に螺入するネジ部が設けられており、前記プランジャは、前記ダイアル部を回転させることにより、前記保存空間の内面に稠密に接触した状態で軸線方向に移動自在となっており、
前記採血チップは、前記格納容器の軸方向一方側において前記第1開口を塞ぐように着脱可能に取り付けられており、軸方向一方側において流路の内周面の一部が露出するように採血用開口が形成された採血部を備え、
前記採血用開口は、軸線方向に対してアングルカットされた形状に形成され、前記採血部は前記採血用開口において露出した前記内周面の一部に試料となる血液が接触すると、毛細管現象により前記血液が前記流路内に流入するように構成された、
血液採取器具。
【請求項2】
前記採血チップは、軸方向他方側において、前記第1開口から前記採血空間に挿入される接続部を備え、
前記接続部の外周面には、軸方向に沿って少なくとも1つの第1溝部が形成されている、
請求項1に記載の血液採取器具。
【請求項3】
前記採血用開口が、軸線方向に対して30度から45度の範囲の角度をなし、0.5mmから1.2mmの範囲の径である、請求項1または2に記載の血液採取器具。
【請求項4】
前記採血用開口が、血液の液滴の形状に合わせて湾曲した傾斜形状をなす、請求項1または2に記載の血液採取器具。
【請求項5】
前記ダイアル部は、外周面と内周面とを切り欠くように軸方向に沿って対称に形成された2つのスリットを備え、
前記スリットは、前記外周面を押圧することによりスリット幅が縮小し、
前記嵌合部は、前記スリット幅の縮小と共に変形し、前記密閉容器の前記突出部との嵌合が解除され、
前記ダイアル部は、前記嵌合部と前記突出部との嵌合が解除された際に前記プランジャと共に前記密閉容器から取り外される、
請求項1または2に記載の血液採取器具。
【請求項6】
前記分離流路には、前記採血空間と、前記保存空間とを連通させ、或いは遮蔽するストッパが設けられ、
前記ストッパは、前記分離流路および前記保存空間の軸線方向と交差する方向へ移動可能に設けられている、
請求項1または2に記載の血液採取器具。
【請求項7】
軸方向一方側において流路の内周面の一部が露出するように採血用開口が形成された採血部、及び前記採血部の軸方向他方側に設けられ、円筒状に形成されたシリンダ部を有する採血チップと、前記シリンダ部の内部空間に挿入される押し出し具と、を備え、
前記採血用開口は、軸線方向に対してアングルカットされた形状に形成され、前記採血部は前記採血用開口において露出した前記内周面の一部に試料となる血液が接触すると、毛細管現象により前記血液が前記流路内に流入するように構成され、
前記シリンダ部に形成されたシリンダ内周面には、軸方向に沿って少なくとも1つの第2溝部が形成され、
前記第2溝部は、前記シリンダ内周面の軸方向他方側の端部から所定の長さに形成されており、採血時に前記押し出し具が前記シリンダ部の前記内部空間に挿入された際の空気抜き流路を構成し、
前記押し出し具は、
前記内部空間に挿入され軸方向に沿って移動自在に設けられたピストンと、
前記ピストンの軸方向一方側に連続して形成された操作部と、を備え、
前記操作部を操作し前記ピストンを前記内部空間内において軸方向に沿って移動させることにより、前記シリンダ内周面の前記第2溝部が形成されていない軸方向一方側の領域において、前記ピストンの外周面が前記シリンダ内周面に隙間なく嵌合し、前記流路内に採血された前記血液を前記採血用開口から吐出させる、
血液採取器具。
【請求項8】
血液を格納、保存する血液保存容器であって、
軸方向一方側に第1開口を有し前記血液を格納する採血空間が形成された格納容器と、
前記格納容器の軸方向他方側に設けられ、軸方向他方側に第2開口を有し前記血液を保存する保存空間が形成された密閉容器と、
前記第2開口を覆うように前記密閉容器の軸方向他方側において回転可能に設けられたダイアル部と、を備え、
前記採血空間と前記保存空間との間には、前記採血空間と前記保存空間とに連続する分離流路が形成され、
前記採血空間は、軸方向他方側において前記分離流路に連続するように形成され、
前記分離流路は、前記採血空間に比して横断面が小さく形成され、
前記保存空間は、前記分離流路に比して横断面が大きく形成され、
前記ダイアル部は、軸方向一方側に突出して形成され、前記保存空間の内面に接触した状態で軸線方向へ移動自在なプランジャと、前記密閉容器と嵌合する嵌合部と、外周面と内周面とを切り欠くように軸方向に沿って対称に形成された2つのスリットとを備え、
前記スリットは、前記外周面を押圧することによりスリット幅が縮小し、
前記嵌合部は、前記スリット幅の縮小と共に変形し、前記密閉容器との嵌合が解除され、
前記ダイアル部は、前記嵌合部と前記密閉容器との嵌合が解除された際に前記プランジャと共に前記密閉容器から取り外される、
血液保存容器。
【請求項9】
前記分離流路には、前記採血空間と、前記保存空間とを連通させ、或いは遮蔽するストッパが設けられ、
前記ストッパは、前記分離流路および前記保存空間の軸線方向と交差する方向へ移動可能に設けられている、
請求項に記載の血液保存容器。
【請求項10】
血液を格納、保存する血液保存容器と、
前記血液保存容器に着脱可能に取り付けられる採血チップと、を備え、
前記血液保存容器は、軸方向一方側に第1開口を有し前記血液を格納する採血空間が形成された格納容器と、
前記格納容器の軸方向他方側に設けられ、軸方向他方側に第2開口を有し前記血液を保存する保存空間が形成された透明な密閉容器と、
前記第2開口を覆うように前記密閉容器の軸方向他方側において回転可能に設けられたダイアル部と、を備え、
前記採血チップは、前記格納容器の軸方向一方側において前記第1開口を塞ぐように着脱可能に取り付けられており、軸方向一方側において流路の内周面の一部が露出するように採血用開口が形成された採血部を備え、
前記採血空間と前記保存空間との間には、前記採血空間と前記保存空間とに連続する分離流路が形成され、
前記採血空間は、軸方向他方側において前記分離流路に連続するように形成され、
前記分離流路は、前記採血空間に比して横断面が小さく形成され、
前記保存空間は、前記分離流路に比して横断面が大きく形成され、
前記ダイアル部は、軸方向一方側に突出して形成され、前記保存空間の容量を調節するプランジャと、内周面が径方向に凹んだ嵌合部と、を備え、
前記密閉容器の軸方向他方側の端部には、前記第2開口を有し、軸方向他方側に突出する突出部が形成され、
前記突出部は、径方向に膨出し、前記ダイアル部の前記嵌合部と回転可能に嵌合しており、
前記ダイアル部にはネジ溝が形成された貫通孔が軸線方向に沿って形成され、
前記プランジャには、前記貫通孔に螺入するネジ部が設けられており、前記プランジャは、前記ダイアル部を回転させることにより、前記保存空間の内面に稠密に接触した状態で軸線方向に移動自在となっている、血液採取器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量血液の採取および血液検体の作成、保管、分析に利用される血液採取器具および血液保存容器に関する。
【背景技術】
【0002】
疾患の発現状況を精査したり、体の健康状態を調べたりするため、血液検査などの人体体液を試料として分析する検査が行われている。一般に血液採取は、上腕静脈に針刺をするシリンジ採取等の静脈採血が知られている。乳幼児や、血管が細い患者、あるいは脆弱な患者などは、静脈採血が困難である場合がある。このような場合、指先などから末梢血を検査試料として採取することが知られている。
【0003】
化学、免疫学、血液学など各分野における血液検査に必要な検査試料は、一つの検査項目あたり数μリットルから数十μリットル程度の容量を必要とすることが一般的である。この他、微量の血液を採取し、高感度に分析可能な技術が広く開示されている。
【0004】
近年、体液等に含まれる成分の遺伝子変異等を検出するリキッドバイオプシー技術により、細胞外小胞エクソソームが関与する疾患メカニズムが明らかとなりつつある。体内の様々な細胞は、タンパク質やマイクロRNA、mRNAなどの機能分子をエクソソームに積み込み、近傍の細胞や遠隔地の細胞にエクソソームを介してメッセージを送っていることが確認されている。微量の血液を採取する微量血液検査は、エクソソーム分析などの新検査技術への応用が期待される他、無症状の疾病リスクをもつ一般の生活者を対象として、がんなどの疾病リスクを早期のスクリーニングを可能とすることが期待される。
【0005】
一般に、微量採血を行う場合は、指先などをランセットで穿刺して出血した微量血液から、採血具などを用いてあらかじめ決められた一定量を吸引する方法が知られている。このような末梢血検体の採取方法は、侵襲性を軽微にしつつ、且つ、採血容量不足や出血時の圧迫による体血液混入や溶血リスクを低減し、検査に必要十分な可能な限りの少量の血液を採取することが望ましい。
【0006】
生化学、免疫学などをはじめとする血液検査分野において、採取した血液を検査試料として保存、分析するためには、一般に、あらかじめ血液の約45%程度を占める血球部(赤血球、白血球、血小板)と血漿または血清部を分離する必要があり、血球と血漿(血清)との分離には、標準法として遠心分離技法が広く用いられている。
【0007】
また静脈採血では、シリンジを用いて1mリットル以上の血液採取を行い、あらかじめ試験管内に封入された分離剤によって、血球部と血漿部を遠心分離することが知られている。ところが、数10μリットル程度の血液採取を行う末梢血の微量採取おいて、直径数mm程度の小さな容器に血液を封入し、静脈採血試験管と同様に分離剤を使った遠心分離を行うことは困難である。遠心時に、分離剤粘性のため分離面付近で血液の一部が分離剤と混和されたままシリンジの壁面に残るなどの状態が引き起こされ、血漿(血清)と血球との適正な分離ができない場合がある。また、分離剤を使用して物理的な遠心分離をした場合、分離された下部血球を試料として使うことができないため、血球分析が必要な場合は二度の穿刺採血を行わなければならない。
【0008】
微量血液検査において、小型の血液保存容器を使用する場合は、分離剤を使用せず採血後全血をそのまま迅速に遠心分離して検査試料とするのが一般的である。しかし、遠心分離後の上部血漿(血清)を検査試料として分注する際に血球成分の混和吸引を避ける必要があるため、分離面近くの試料吸引ができない。このことにより、試料の収率は大幅に低下する。例えば、直径4mmのチューブを用いて60μリットルの血液を遠心分離した場合、血球部比率が45%とすると、上部血漿の高さは約2.15mmで、分離面から1mmが実務的な吸引限界と考えられ、平均的に吸引することができる血漿量は約15μリットル程度となり、全血液量に対する血漿試料の量比率が55%であるにもかかわらず、血漿収率は約25%となる。従って、指先などからの微量血液検査を行う場合は、検査に必要な血漿などの試料量の4倍量程度の血液採取を行うのが一般的である。
【0009】
自己採血検査では、微量血液検体を遠心分離ではなく、複数枚の透過膜を使用して血漿分離する膜分離法が使われる場合がある。この方法で使われる採血具は、穿刺した指先に貯留した血液を、抗凝固剤を含有したフィルタに吸わせ、吸引後のフィルタを緩衝液中に落として震盪することで、血液を緩衝液中に湧出させ、この血液と緩衝液の混和溶液を膜透過して血液を濾過して血球と血漿を分離することで検査試料を作成している。しかし、本法で作成される検査試料は全血を非定量希釈して膜透過分離させた血漿試料であり、膜透過のために設定された希釈液の浸透圧と血球浸透圧の格差によって、希釈液への血球溶液の湧出が起り得る。このため正確な項目濃度測定ができず、また血漿希釈率が不明となる。一般に希釈液中に溶し込んだ外部物質濃度をマーカーとして、希釈前後のマーカー濃度差異から希釈率を推定する方法が用いられているが、前述の血球内水分の湧出影響や、希釈液内マーカー濃度の経時的変化の不可避性などの問題があり、当該測定方法の精度信頼度が低く、標準的な検査法として採用されていない。
【0010】
指先などに貯留した血液の採血には、一般に毛細管現象を利用したキャピラリーと呼ばれる器具が使われる。指先などに貯留された血液は、表面張力によって液面を縮ませようとする力が加わっており、結果的に液面を押し上げている。液面を押し上げる力は壁面付近の表面張力の垂直成分に等しいので、この力と吸い上げた液体の重さがつりあうまでキャピラリー内の液面を押し上げる毛細管現象が生じる。キャピラリー採血は、先端を血球面に接触させ、毛細管現象を利用して適量の微量血液の採取を行う。キャピラリーは、長さ10mm程度、内径1mm以下、厚み0.2mm程度のガラス製の直管が一般的であり、医師や看護師など第三者によって、数μから数10μリットル程度の採血に使用されることが多い。
【0011】
採血量が100μリットル以上の比較的多量の末梢血採取では、指先などに貯留した血液をベロ付き保管容器に直接流し込む方法を用いる場合がある。本法は、指先などに十分に貯留された血液を流れ落下させずに保管容器に収納しないとならないことから、医師や看護師などの熟練した第三者によって行われることが一般的である。
【0012】
指先などの微量血液採取を第三者に頼らずに自己採取するための採血具は、一般的にキャピラリーやベロつき容器ではなく、自己採血用に設計された専用の採血具を用いることが多い。例えば、0.5mmから1.0mm前後の先端径を持つ細管吸引部とこれに連なるテーパ状の円錐形状の出口構造もったプラスティック管が用いられることがある。ランセットなどで穿刺して指先に貯留した血液に対して、採血器具の先端を斜め下から接触させて毛細管現象で吸引した血液を、自重圧力で容器内に流入させる。ただし、プラスティックは、その壁表面が疎水特性を持っているため先端部が血液と接触する際に撥水性が生じ、そのままでは毛細管吸引力を働かせることができない。そのため、一般に毛細管現象を利用した採血器具としてプラスティック管を使用する場合は、接触吸引するための対処法、例えば内壁面の親水性加工など、が行われる。
【0013】
指先などに貯留した微量血液用の採血具は、血液の採取時に、採血具の先端を貯留した血液に触れることが避けられず、この際に貯留液表面と指先表面の間に生じていた摩擦が壊されると、貯留血液の表面張力が失われる。この状態で、指先穿刺穴から継続して血液を押し出すと、押し出された血液は指先に留まることができずに、指先面を流れ落ちてしまう。この現象が、指先など抹消微量血液の自己採取を困難にする要因となっており、この対策として、指先穿刺部に貼付するドーナツ形状のテープなどを使用する場合がある。この種の一般的な血液採取に関連する技術として下記の特許文献1、2が既に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2012-185146号公報
【文献】特開2018-105830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
各種血液検査を目的とした微量血液の自己採取においては、指先などをランセットで穿刺し、この穿刺部に貯留された少量の血液をプラスティック製の採血チップで吸引する方法が多く用いられている。このような自己採血を目的とした専用の採血具では、一般に毛細管先端からピペットチップ様の傾斜形状をつくることによって検査必要量、通常数10μリットルから100μリットル程度の血液を溶血具内に流入させる。ただし、プラスティックは、その壁表面が疎水特性を持っているため先端部が血液と接触する際に撥水性が生じ、そのままでは毛細管吸引力が働かず、吸引具を用いて血液を溶血具内に流入させる必要がある。
【0016】
採血後に保存された微量血液を試料として各種の成分濃度検査を行う場合、一般的に、分離した血漿部は希釈液で希釈して希釈血漿溶液を試料とし、血球部は溶血させて成分を測定する。分離血漿を希釈する場合は、血漿を定量分注し、当該液を定量の希釈液を用いて希釈し、定率希釈血漿溶液を作成する。検査試料として定率希釈血漿溶液を測定した場合は、実測定値に希釈率を乗じた値を報告値とする。この希釈作業においては、あらかじめ定められた分注量に対する正確な分注作業が検査精度を維持するために必須である。ところが、血漿部と血球部が物理的に分離されておらず、血球と血漿の直接的な接触分離面が存在していると、例えば30μリットルの血液を3mm径の容器で遠心分離した場合、上部血漿量はわずか2mmの深さしかなく、正確かつ十分量の分注を行うことが難しい。
【0017】
血液試料は、採取または遠心後に血球と血漿(血清)を物理的に分離せずに放置すると、血球内にある成分、例えばグルコース、尿素窒素など、が血漿(血清)部に湧出し分析結果に影響を与える。したがって、採血後に検体を輸送するなど検査実施までに一定時間を要する場合、血漿と血球の物理的な分離を行う必要がある。この分離には、一般的に分離剤を用いた遠心分離技法が使われる。しかし、一般的な微量採血に用いる内径数mm程度、10mm未満の小さな採血具または保存容器内で、分離剤による遠心分離を行った場合、分離面が確実に構築されず分離剤を使用した分離を安定的に行うことが難しい。また分離剤によって血漿分離を行った場合、分離剤下部に分離された血球を分析試料として使うことができないため、血球分析が必要な場合は別採血が必要となる。
【0018】
血液検査では、検査項目とその組合せによって分析に必要な血液量が異なる。上腕静脈採血では、一般に1mリットル以上の定量採血を行うことで様々な検査の実施を可能としているが、一方採取血液の多くは余剰量となり廃棄される。微量血液検査では、利用者の侵襲性を軽減し、限られた採血量を最大限に利用して検査を行うために、項目毎に高感度測定が可能な試料濃度範囲を設定し、この範囲内で検体を希釈し、検査に必要な試料量を確保して測定を行う。しかし、一般的な微量採血では、採血量および希釈率(希釈検体量)を固定的に設定する。このため、検査項目や項目組合せも固定的にならざるを得ず、検査目的に応じた柔軟な項目設定は難しい。
【0019】
本発明は、上記の各問題に鑑み、指先などに貯留された微量の血液から、その都度検査用途によって変化する採血必要量に応じた血液量を迅速かつ簡単に採取し、同一容器中で添加剤混和および血球と血漿の物理的な分離・格納し、定量分注すること無しに正確な検体の希釈測定を可能にすることで最小量の血漿を分析試料として利用し、採血業務および検査業務負担を軽減し、血液項目分析に関する検査を安定的かつ効率的に実現するための血液保存容器および血液採取器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一態様は、血液を格納、保存する血液保存容器と、前記血液保存容器に着脱可能に取り付けられる採血チップと、を備え、前記血液保存容器は、軸方向一方側に第1開口を有し前記血液を格納する採血空間が形成された格納容器と、前記格納容器の軸方向他方側に設けられ、軸方向他方側に第2開口を有し前記血液を保存する保存空間が形成された透明な密閉容器と、前記第2開口を覆うように前記密閉容器の軸方向他方側において回転可能に設けられたダイアル部と、を備え、前記採血空間と前記保存空間との間には、前記採血空間と前記保存空間とに連続する分離流路が形成され、前記採血空間は、軸方向他方側において前記分離流路に連続するように形成され、前記分離流路は、前記採血空間に比して横断面が小さく形成され、前記保存空間は、前記分離流路に比して横断面が大きく形成され、前記ダイアル部は、軸方向一方側に突出して形成され、前記保存空間の容量を調節するプランジャと、内周面が径方向に凹んだ嵌合部と、を備え、前記密閉容器の軸方向他方側の端部には、前記第2開口を有し、軸方向他方側に突出する突出部が形成され、前記突出部は、径方向に膨出し、前記ダイアル部の前記嵌合部と回転可能に嵌合しており、前記ダイアル部にはネジ溝が形成された貫通孔が軸線方向に沿って形成され、前記プランジャには、前記貫通孔に螺入するネジ部が設けられており、前記プランジャは、前記ダイアル部を回転させることにより、前記保存空間の内面に稠密に接触した状態で軸線方向に移動自在となっており、前記採血チップは、前記格納容器の軸方向一方側において前記第1開口を塞ぐように着脱可能に取り付けられており、軸方向一方側において流路の内周面の一部が露出するように採血用開口が形成された採血部を備え、前記採血用開口は、軸線方向に対してアングルカットされた形状に形成され、前記採血部は前記採血用開口において露出した前記内周面の一部に試料となる血液が接触すると、毛細管現象により前記血液が前記流路内に流入するように構成された、血液採取器具である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、採血業務および検査業務負担を軽減し、血液項目分析に関する検査を安定的かつ効率的に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態にかかる血液採取器具の組立て状態を示す縦断面図である。
図2】血液採取器具の構成を示す分解斜視断面図である。
図3】格納容器を閉塞する容器蓋の構成を示す断面図である。
図4】血液採取器具の使用状態を示す断面図である。
図5】血液採取器具を用いた採血方法を示す断面図である。
図6】血液採取器具の使用方法を示す断面図である。
図7】血液保存容器を用いた遠心分離方法を示す断面図である。
図8】血液保存容器から血球を分注する方法を示す断面図である。
図9】血液保存容器の血漿を測定する方法を示す断面図である。
図10】血液採取器具から血液を吐出する方法を示す断面図である。
図11】変形例に係る血液採取器具の構成を示す分解斜視図である。
図12】変形例に係る採血チップの構成を示す斜視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ本発明にかかる血液保存容器およびこれを利用した血液採取器具の一実施形態を説明する。以下の説明においては、互いに直交するXYZ軸が設定され、Z軸方向を軸方向、Z軸において+Z側を軸方向一方側、-Z側を軸方向他方側等という。
【0024】
図1に示されるように、血液採取器具1は、血液を採取するための採血チップ400と、採血チップ400が取り付けられる血液保存容器10とを備えている。血液保存容器10は、採血チップ400により採血された血液を格納、保存するように形成されている。血液保存容器10は、血液を格納する採血空間102が形成された格納容器100と、血液を保存する保存空間302が形成された密閉容器300と、密閉容器300に設けられたダイアル部350と、を備える。血液保存容器10は、採血チップ400に代えて後述の容器蓋200により密閉される。
【0025】
格納容器100、密閉容器300および採血チップ400は、例えば、ポリカーボネイトやアクリロニトリルブタジエンスチレンなど透明、硬質な高分子化合物素材で製作されることが好ましく、血液採取、血液分離、血液保管の様子を外部から容易に視認することができる。格納容器100と密閉容器300とは、所定の長さを持った細径の分離流路10Rにより連通している。
【0026】
格納容器100には、微量血液が封入される。血液保存容器10は、後述のように採血後、遠心分離機にかけられ、遠心分離完了時に血漿部を格納容器100内に、血球部を密閉容器300内に物理的に分離した状態で収容する。血液保存容器10は、遠心分離後に分離流路10Rを封止する機構であるストッパ250が設けられている。
【0027】
ストッパ250は、後述のように、押し込み操作に基づいて分離流路10Rを封止する。ストッパ250により、分離流路10Rを閉鎖し、格納容器100に保存された血漿部と、密閉容器300に保存された血球部に再混和が起こらない物理的分離状態を維持することができる。
【0028】
格納容器100は、例えば、円筒状に形成されている。格納容器100の内部には、微量血液を格納する採血空間102が形成されている。採血空間102の軸方向に直交する断面形状(横断面)は、円形である。採血空間102の軸方向一方側の端部には、円形の第1開口101が形成されている。第1開口101には、後述の採血チップ400接続される。採血空間102の軸方向一方側の端部の外周面には、径方向に突出するフランジ部101Fが形成されている。
【0029】
第1開口101には、採血チップ400を取り外し、後述の容器蓋200(図3参照)が取り付けられる。容器蓋200により、採血空間102が密閉される。これにより、血液保存容器10は、採血から、検体輸送、遠心分離、検体測定までの一切の検査業務を検体の分注なしに行うことができる。採血空間102の軸方向に他方側には、端部に向かうほど断面積が減少する第1テーパ部103が形成されている。第1テーパ部103は、溶液溜りとして形成されている。
【0030】
第1テーパ部103の軸方向他方側の端部は、後述の分離流路10Rに連続している。即ち、採血空間102は、軸方向他方側において分離流路10Rに連続するように形成されている。格納容器100の軸方向他方側には、密閉容器300が設けられている。
【0031】
密閉容器300には、格納容器100に格納された血液が保存される。密閉容器300は、円筒状に形成されている。密閉容器300の内部には、血液を保存する保存空間302が形成されている。保存空間302の軸方向に直交する断面形状(横断面)は、円形である。保存空間302の軸方向一方側には、保存空間302に向かうほど断面積が拡大する第2テーパ部303が形成されている。第2テーパ部303の軸方向一方側の端部は、分離流路10Rに連続している。保存空間302は、分離流路10Rを介して採血空間102と連続している。
【0032】
分離流路10Rは、採血空間102と保存空間302とを連続するように形成されている。分離流路10Rの横断面は、採血空間102の横断面に比し小さく形成されている。分離流路10Rの横断面は、保存空間302の横断面に比し小さく形成されている。即ち、保存空間302の横断面は、分離流路10Rの横断面に比して大きく形成されている。保存空間302は、シリンダ状に形成されている。
【0033】
保存空間302の軸方向他方側の端部には、円形の第2開口301が形成されている。密閉容器300の軸方向他方側の端部には、第2開口301を有し軸方向他方側に突出する突出部304が形成されている。突出部304の外周面305は、径方向に膨出して形成されている。突出部304には、ダイアル部350が回転可能に嵌め込まれている。
【0034】
ダイアル部350は、軸線L方向に沿って突出するプランジャ360を備えている。ダイアル部350の軸方向一方側の端部には、突出部304に嵌合する嵌合部351が設けられている。嵌合部351の内周面352は、径方向に凹んで形成されている。嵌合部351の内周面352は、突出部304の外周面305と嵌合する。これにより、ダイアル部350は、密閉容器300の軸方向他方側に回転可能に設けられている。ダイアル部350には、軸線L方向に沿って外周面と内周面とを切り欠くように2つのスリット354が軸線Lに関して対称に形成されている。スリット354は、外周面を押圧することによりスリット幅が縮小する。嵌合部351は、スリット幅の縮小と共に径方向に広がるように変形し、内周面352と突出部304の外周面305との嵌合が解除される。ダイアル部350は、嵌合部351と突出部304の外周面305との嵌合が解除された際にプランジャ360と共に密閉容器300から取り外される。即ち、ダイアル部350の外周面を両横方向から強く圧迫すると、スリット354の幅が縮んで嵌合部351が広がり、突出部304からダイアル部350が外れる。ダイアル部350と共にプランジャ360も密閉容器300から外れるため、保存空間302からプランジャ360を引き抜くことができる。
【0035】
ダイアル部350には、軸線L方向に沿って貫通孔353が形成されている。貫通孔353には、ネジ溝353Mが形成されている。貫通孔353には、プランジャ360に形成されたネジ部361が螺入されている。これにより、プランジャ360は、ダイアル部350の内側において軸方向に沿って突出して設けられる。
【0036】
プランジャ360の軸方向一方側の端部には、円形断面を有する頭部362が形成されている。頭部362の外径は、保存空間302の内径に比して若干小さく形成されている。頭部362は、ピストン状に形成されている。頭部362は、保存空間302の内面に稠密に接触した状態で軸線L方向に沿ってスライド移動可能に形成されている。
【0037】
頭部362は、第2開口301から保存空間302に挿入される。上記構成により、プランジャ360は、ダイアル部350を軸線L回りに回転させると、ネジ部361が貫通孔353に対して回転し、頭部362が保存空間302の内面に稠密に接触した状態で軸線L方向に沿って移動自在となる。
【0038】
格納容器100、密閉容器300は、製作工程の容易さ、および、ネジ部361とネジ溝353Mとの回転および回転に伴うプランジャ360の回転を伴う動作を考慮して、横断面が真円形で形成される。格納容器100、密閉容器300は、相対回転を伴わない個所については、真円以外の横断面形状に形成されていてもよい。格納容器100,密閉容器300は、例えば、外周面の断面形状を取り扱い性向上の目的で、多角形状や非真円状に形成してもよく、あるいは外周面に適宜凹凸部が形成されていてもよい。
【0039】
分離流路10Rには、軸線Lと直交する方向に貫通孔10Sが連続して形成されている。貫通孔10Sには、ストッパ250が嵌め込まれている。ストッパ250は、押し込み操作を行うための押圧部251と、貫通孔10Sに挿入されるスライド部252とを備えている。押圧部251を押圧すると、スライド部252が貫通孔10Sに沿って移動し、分離流路10Rを塞ぎ採血空間102と、保存空間302とを遮蔽する。この状態から押圧部251を引っ張ると、スライド部252が貫通孔10Sに沿って移動し、分離流路10Rを開放する。これにより、採血空間102と、保存空間302とが連通する。
【0040】
即ち、ストッパ250は、分離流路10Rに軸線L方向と交差する方向へ移動可能に設けられており、採血空間102と、保存空間302とを連通させ、或いは遮蔽するように設けられている。このストッパ250を貫通孔10Sに押し込むことにより、分離流路10Rが閉鎖される。ストッパ250を用いて分離流路10Rを閉鎖することにより、格納容器100に保存された血漿部と、密閉容器300に保存された血球部に再混和が起こらない物理的分離状態を維持することができる。
【0041】
採血チップ400は、格納容器100の軸方向一方側において第1開口101を塞ぐように着脱可能に取り付けられる。採血チップ400は、全体として円錐状をなす筒状に形成されている。採血チップ400は、軸方向一方側に設けられた採血部401と、軸方向他方側に設けられた接続部405とを備えている。
【0042】
採血部401は、軸方向一方側の端部に向かうほど横断面の断面積が縮小するテーパ形状に形成されている。採血チップ400は、軸線L方向に沿って流路430(図4参照)が形成されている。採血部401の軸方向一方側の端部には、流路430の内周面430Hの一部が露出するように採血用開口403が形成されている。採血部401の接続部405の軸方向他方側の端部には、採血用開口403と連通する接続用開口405Hが形成されている。
【0043】
採血用開口403は、後述のキャップ500を被せることによって密閉されるように形成されている。採血用開口403は、例えば内径0.5mm~1.5mmに形成されている。採血用開口403は、露出した流路430の内周面の一部に試料となる血液が接触することにより、毛細管現象に基づいて血液が流路430内に流入するように形成されている。
【0044】
採血用開口403は、軸線L方向に対してアングルカットされた形状に形成されている。採血用開口403は、軸線L方向に対して30度から45度の範囲、好ましくは40度前後でアングルカットされて形成されている。採血用開口403は、軸線L方向に対して直線的または血液の液滴の形状に合わせて湾曲した傾斜形状に形成されている。
【0045】
一般に毛細管現象を利用した採血器具としてプラスティック管を使用する場合は、接触吸引するための対処法、例えば内壁面の親水性加工など、が必要となる。これに比して、採血部401は、採血用開口403が形成されていることにより、流路430に親水性加工を不要としつつ、毛細管現象に基づいて血液を流路430内に流入させることができる。
【0046】
さらに、採血部401の内周または外周には、採血時に採血用開口403の上方向を示す上方向マーク409、および外部から採血量を確認する指標となる計量線408が形成されている。計量線408は、例えば50μリットルと100μリットルにマークされる。
【0047】
接続部405は、採血チップの軸方向他方側に設けられ、格納容器100の軸方向一方側の第1開口101から採血空間102に挿入される。接続部405の外周面は、格納容器100の第1開口101に稠密に挿入される外径に形成されている。接続部405は、第1開口101を塞ぐように格納容器100に着脱可能に取り付けられる。接続部の外周面には、軸方向に沿って少なくとも1つの第1溝部406が形成されている。
【0048】
第1溝部406は、例えば、2~4本形成されており、1mm幅程度の幅に形成されている。第1溝部406は、血液吸引および採取血液の容器格納の際の空気抜きとして機能するように形成されている。接続部405の周囲には、フランジ部101Fに接触する段差部407が形成されている。段差部407は、接続部の外周面の外径に比して大きい外径となるように形成されている。
【0049】
採血チップ400の内周面430Hの軸方向他方側は、格納容器の開口部140と連通する接続用開口405Hとなっている。接続用開口405Hは、例えば、内径が8mm~15mmに形成される。採血チップ400は、第1開口101において容器蓋200と取り換えられる。
【0050】
図3に示されるように、容器蓋200は、第1開口101を塞ぐように形成されている。容器蓋200の外周面の外径は、第1開口101の内周面に稠密に嵌合するように形成されている。容器蓋200軸方向一方側の端部には、径方向に突出するフランジ部220が形成されている。フランジ部220は、格納容器100の第1開口101の周囲のフランジ部101Fに当接する。容器蓋200の軸方向他方側の端部には、第1開口101を閉塞する円板状の底部210が形成されている。
【0051】
容器蓋200は、第1開口101から、格納容器100の採血空間102に所定深さまで挿入され、採血空間102を密閉する。上記構成により、血液採取器具1は、採血チップ400により吸引した試料を格納容器100において格納することができる。格納容器100には、容器蓋200を取り付けることにより、試料を遠心分離して遠心分離後の血漿を密閉することができる。
【0052】
血液採取器具1は、格納容器100の下部に分離流路10Rを通じて設けられた密閉容器300に遠心分離された血球を格納密閉することができる。密閉容器300には、血球量を調整可能に遠心分離された血球を格納密閉することができる。格納容器100には、EDTA、ヘパリン、クエン酸ナトリウム、フッ化ナトリウムなどの抗凝固剤を含む後述の添加剤21を図3に示す様にあらかじめ封入または内壁面に塗布することができる。
【0053】
図4に示されるように、格納容器100には、添加剤21を封入または塗布する代わりに、添加剤を溶解した溶液20を充填することもできる。格納容器100に充填される溶液20は、生理理食塩水、リン酸バッファー、グッドバッファーなどにEDTA、ヘパリン、クエン酸ナトリウム、フッ化ナトリウムなどをあらかじめ所定量溶解した水溶液である。
【0054】
格納容器100は、添加剤21を封入または添加剤を溶融した溶液20を充填した後、容器蓋200で密閉され、採血時まで保管される。添加剤を溶融した溶液20を充填した格納容器100を使用する場合は、採血直前に、格納容器100から容器蓋200を外して採血チップ400を取り付け、転倒して溶液20全量を採血チップ400内に充填し、その後採血チップ400を外して添加剤溶液を全量廃棄する。これによって格納容器内壁130および採血チップ400の流路430には、所定量の添加剤21が残留した濡れ性状態が作られる。
【0055】
血液採取器具1によれば、採血チップ400の先端部の採血用開口403は、0.5mmから1.2mm径範囲、好ましくは0.8mm径前後の細管を30°から45°範囲、好ましくは40°前後にアングルカットされていることが好ましい。
【0056】
血液採取器具1によれば、採血チップ400は、採血用開口403と6mmから12mm範囲、好ましくは8mm前後の接続用開口405Hとを繋ぐ流路430を有するテーパ形状の採血部401により血液試料を採取することができる。血液採取器具1によれば、採血チップ400の接続部405に第1溝部406が形成されているため、採血用開口403を貯留試料の上部に接触させて試料を吸引する際に、第1溝部406から空気を追い出し、採血用開口403から血液試料を吸引することができる。
【0057】
血液採取器具1によれば、採血チップ400の接続部405に設けられた第1溝部406が格納容器100の密閉性を解放するため、血液試料を採血後に、先端を上方にして容器ごと縦に静置することにより、採血チップ400に吸引された血液試料を自重で格納容器100側に移動することができる。血液採取器具1によれば、血液を格納容器100に格納した後、採血チップ400を血液保存容器10から外し、同梱の容器蓋200をセットして格納容器100の採血空間102を密閉することができる。
【0058】
血液採取器具1によれば、血液保存容器10を数回転倒し添加剤を血液に混和した後、血液保存容器10をそのままアダプタ600を介して試験官にセットし、遠心分離機にかけることができる。このとき、血液保存容器10は、500Gから1500Gの範囲、好ましくは1000G前後で2分から5分の範囲、好ましくは3分前後で遠心される。アダプタ600は、格納容器100の外周面と試験管800の内周面との間の隙間を埋める筒状部601と、試験管800の上端部に当接し位置決めするフランジ部602とを備えている。
【0059】
血液採取器具1によれば、格納容器100において分離された血漿を分離流路10R上部の採血空間102に保存すると共に、血球を分離流路10Rの下部の密閉容器300に保存することができる。血液採取器具1によれば、分離後に分離流路10Rにストッパ250を差込んで格納容器100と密閉容器300とを遮断し、血漿部と血球部とを物理的に完全に分断することができる。
【0060】
血液採取器具1によれば、遠心後に、血漿と血球がそれぞれの格納域に入りきらずに余剰部分が生じた場合は、ダイアル部350を回転し、プランジャ360を軸線L方向に沿って移動させ、保存空間302の容量を調節した後、20秒~30秒程度の短時間再遠心を行い、その後ストッパ250を差込んで血漿部と血球部を遮断する。直ちに血漿を取り出したい場合は、血液保存容器10から容器蓋200を外して血漿部を分注する。格納容器100には分離された血漿のみが保存されているため、必要量を最大量まで無駄なく吸引することができる。
【0061】
また格納容器100の採血空間102には、直接一定量の希釈液、例えば100μリットルから500μリットル程度、好ましくは200μリットル前後の専用希釈液などを注入して血漿と均等混和して検査試料を作成することができる。この場合は希釈混和後の容器にアダプタ600をセットして検査試験管に入れてそのまま検査装置にかけられる。また密閉容器300に分離密閉された血球は、ダイアル部350とプランジャ360を外して、密閉容器300からそのままサンプルカップに分注して、検査試料として利用される。ダイアル部350には、上述したように2つのスリット354が対象に設けられており、ダイアル部350を横方向から摘むことで、スリット354の幅が縮んで嵌合部351が広がり、密閉容器300の突出部304からダイアル部350が外れ、保存空間302からプランジャ360を引き抜くことができる。
【0062】
通常、利用者は、採血チップ400の計量線408にマークされた50μリットル、100μリットル、または200μリットルの採血量を目安に採血を行う。採血量は、測定項目の組み合わせによって、必要量の目安が予め提示されている。血液採取器具1によれば、利用者は、測定項目に必要な採血量を採取するだけでなく、採血チップ400に実際に採血できた採血量に基づいて、適宜、検査項目の選択や変更を行うことも可能で、採取した血液を無駄なく利用することができる。
【0063】
血液採取器具1によれば、利用者は、採血量に合わせてダイアル部350を回してプランジャ360の位置をあらかじめ調整し、保存空間302の容量を調整することで、確実な血漿分離をすることができる。
【0064】
次に、血液保存容器10と、これを利用した血液採取器具1による採血の手順について説明する。
【0065】
図5に示されるように、格納容器100は、採血に際し、先端に採血チップ400を連結した状態で使用する。連結時には基端部410外壁に設けられた第1溝部406によって容器内の密閉状態が解かれ、血液の吸引が可能となる。図5において、符号2は先端方向から見た指先の表面を示す。一般に、指の表面は凸曲面状であるが、説明の便宜上、平面状に表現した。指先に針等を刺して出血させると、出血した血液Bは、表面張力によって指先で水滴様となって貯留される。この水滴様の血液Bに採血チップ400の上方向マーク409を上部にした状態で、採血用開口403を横または横下から貯留血液上表面に隙間なく密着させる。
【0066】
そうすると、採血用開口403において露出した流路430の内周面430Hの一部に濡れ性が生じ、これによって先端内壁と同一面で連続した内周面430Hに連なる採血用開口403において毛細管現象が優位に働く。この状態において、水滴状の血液Bの表面張力と重力との均衡が崩れ、指先2から採血チップ400へ血液が流入する。この状態において、指先2の表面の血液Bは、採血チップ400の流路430内に取り込まれた採血B1となる。
【0067】
図6に示されるように、採血完了後には、血液採取器具1は、採血チップ400と格納容器100の連結状態において縦置きの状態を保持される。このとき、流路430には、第1溝部406によって空気の通路が確保されているため、流路430内に空気が流入することができる。これにより、採血B1は、自重の作用に基づいて、分注することなく採血チップ400の流路430内から格納容器100内に自然落下する。
【0068】
図7に示されるように、格納容器100に採血B1を移動させた後、採血チップ400は格納容器100から抜き取られる。格納容器100の第1開口101には、容器蓋200が挿入される。図7(a)に示されるように、格納容器100は、容器蓋200により密閉される。容器蓋200により密閉された採血空間102には、採血B1が密封され、保存される。
【0069】
この状態において、密閉された格納容器100は、転倒が繰り返され、採血B1とあらかじめ封入された添加剤成分21(図3参照)とが混和される。これにより、採血B1は、適正な保存状態で管理される。
【0070】
図7(b)に示されるように、格納容器100に移動した採血B1は、その後、遠心分離される。この遠心分離は、500Gから1,500Gの範囲、好ましくは遠心加速度1,000G前後で、比較的低速回転において行われることが好ましい。この条件で遠心分離を行うことにより、格納容器100の分離流路10Rおよび保存空間302への重力負荷が軽減され、安定的な分離を行うことができる。
分離終了後、採血空間102には、血漿B2が溜まり、保存空間302には、血球B3が溜まる。保存空間302に分離格納された血球B3は、その保存状態を外部から確認することができる。
【0071】
分離流路10Rに血球B3が残っている場合、ダイアル部350を回転することによりプランジャ360の位置が調整され、保存空間302の容量を大きくして、20秒から30秒程度の短時間再遠心によって分離状態が適正化される。
【0072】
図7(c)に示すように、遠心分離が完了した後、ストッパ250が押し込まれる。ストッパ250により、分離流路10Rが封鎖される。格納容器100と密閉容器300とに血漿部と血球部とを物理的に隔離することができる。
【0073】
血液保存容器10は、プランジャ360に設けられたネジ部361とダイアル部350のネジ溝353Mとの回転に基づいて、ネジのピッチが形成された距離の範囲内においてプランジャ360を軸線L方向に沿って移動させることにより、血球B3を格納する保存空間302の容量を再調節することができる。したがって、使用者は、血漿、血球の分離状態を確認しながら血漿、血球の分離検体を効率良く作成することができる。
【0074】
血液保存容器10によれば、ダイアル部350が設けられていることにより、求める精度に応じてプランジャ360のネジ部361及びネジ溝353Mの回転あたりのピッチを適切に設定することにより、微調整が可能となる。血液保存容器10によれば、例えば、1回転、あるいは2回転という利用者が容易に操作することが可能な回転数あたり2~3μリットル単位での容量の微調整が可能となる。なお、プランジャ360のネジ部361及びネジ溝353Mに代えて、プランジャ360の移動量を調整可能であれば、例えば、操作者が感知可能なクリック感を有する微小な凹凸嵌合部等の他の構成が設けられていてもよい。
【0075】
血液保存容器10によれば、例えば、血液検体の血球比率が当初の設定値より大きく、遠心分離後に血球の一部が格納容器100内に残った場合には、密閉容器300の容量を大きく、逆に採血量が不足気味などで血漿量が少ない場合には、ダイアル部350を回転させてプランジャ360の位置を調整し、保存空間302の有効容量を小さく調節することができる。その後、血液保存容器10を再度、短時間遠心分離機にかけることで、血漿と、血球との分離を的確に完了することができる。
【0076】
血液保存容器10によれば、ダイアル部350により構成された遠心分離後の容量調整機能を使用することにより、採血された血液中の血漿部を最大容量に近い容量まで分離することができる。例えば、最初の血球容量比率を女性35%、男性40%程度に小さく設定し、遠心後の密閉容器300の血球格納状態によって保存空間302をジャストサイズに微調整して再遠心するなど。血液保存容器10によれば、採血量が比較的少ないことが懸念される高齢者の採血においても、個々の血液検体毎に異なる血漿および血球容量を簡単に最適化させることができる。
【0077】
血液保存容器10によれば、格納容器100および容器蓋200は、保管、運搬、操作、遠心分離に伴う外力に耐える適正な厚みを有し、確実な密閉性を備えている。血液保存容器10によれば、容器蓋200を閉じた時の格納容器100内の容積は、300μリットル~400μリットルに小さく形成されている。血液保存容器10によれば、検体保管時の水分蒸発などの環境要因による濃度変化を最小化することができる。検体輸送時に採血B1が濃縮されるリスクを最小化することは、微量血液試料の安定分析のために重要である。なお、格納容器100の密閉性に関しては、減圧テストを行うことにより、所期の密閉性能を担保されているか否かを確認することが望ましい。
【0078】
図8に示されるように、検体測定時には、まずダイアル部350がプランジャ360と一緒に格納容器100から外される。その後、保存空間302に分注器具Vが挿入され、保存空間302に保存された血球B3を分注して、HbA1c(ヘモグロビンA1c値)などの血球B3を試料とする項目が測定される。
【0079】
図9に示されるように、検体の測定時には、採血空間102に分離格納された血漿B2を100μリットル~500μリットル、より好ましくは100μリットルから300μリットル程度の希釈液Cを格納容器100に直接滴下して希釈し、よく混和する。希釈倍率は、同時測定する検査項目によって異なるが、通常30倍以下、より好ましくは10倍以下に設定される。
【0080】
格納容器100内に分離された血漿B2をサンプルカップに定量分注しないことにより、血漿量にかかわらず血漿B2は、全量そのまま試料としての利用することができる。これによって、検体測定時における血漿B2の希釈倍率を低下させることができ、検査精度の向上のみならず、検査対象項目数の拡大が可能になる。
【0081】
図9(b)に示されるように、格納容器100内の希釈液Cは、既知濃度のマーカー物質をグッドバッファー、リン酸バッファー、生理食塩水などの水溶液に均等混和した液であり、血漿B2を希釈するために用いられる。希釈液に溶解するマーカー物質は、血漿B2中に存在せず、水によく溶け、高感度の吸光度測定が可能であり、光・温湿度など環境への高い耐性を持有することを特徴とする物質である。マーカー物質は、例えば、塩化コリンなどを利用することができる。
【0082】
図9(c)に示すように、格納容器100に保存された非定量の希釈血漿B4を均等混和した後に、格納容器100を直接生化学検査装置にセットして、該検査装置の吸引針900を格納容器100の採血空間102へ挿入して試料を取り出す。
取り出された希釈血漿B4は、生化学分析の1項目として希釈マーカー濃度の吸光度が測定される。
【0083】
上述した測定を行うために、血液保存容器10は、標準寸法の試験管800に嵌る10mm~12mmの筒外径に形成されていることが望ましく、フランジ部101Fは、アダプタ600の縁において支持されるように形成されていることが望ましい。また、採血空間102の最下部には、吸引針900にて血漿試料を最大量吸引可能とするように円錐状の第1テーパ部103が形成されていることが望ましい。
【0084】
水溶液の希釈率は、一般に対象溶液を混和した後のマーカー含有量(吸光度)を希釈直前に測定した元水溶液のマーカー含有量(吸光度)で除すことによって求めることができる。混合血液中の希釈率の和は常に“1”となるので、血漿希釈率は、1から血溶液希釈率を減ずることで求めることができる。従って、血漿希釈倍率は、1を血漿希釈率で除することで算出することができる。同一検体を試料として同時測定された各検査項目の測定値に上記演算で求めた血漿希釈倍率を乗じた値が各検査項目の検査値となる。このとき、希釈マーカーの元吸光度測定が希釈検体のマーカー吸光度測定と時間差なく行なわれることで、希釈マーカー測定時の誤差要因となる環境因子の影響を排除することができ、測定値すなわち希釈倍率の信頼性を保証できる。
【0085】
ただし、本法によって検査値を求めることができる項目は、吸光度対濃度で表す項目の検量線が直線的であることが条件となる。もし、直線的な検量線が得られない場合は、希釈した対象域で検量線を再作成することによって対応することができる。
【0086】
図10に示すように、血液採取器具1は、POCT(Point Of Care Testing)機器と連動して、現場での即時検査用の採血器具として用いることができる。検査試料は、採取した全血あるいは遠心分離した血漿のいずれかを選択して利用する。図10(a)に示されるように、全血を用いる場合は、採血、混和後に検査機器の指定する受け皿に採血チップ400の先端から試料を吐出する。
【0087】
図10(b)に示すように、分離血漿を試料として用いる場合は、格納容器100を遠心分離し、ストッパ250で血漿と血球を隔離した後に、全血の場合と同様に受け皿に血漿を吐出することができる。採血チップ400の先端に僅かに試料が残った場合は、採血チップ400の先端を受け皿に触れ採血チップ400を軽くタッピングすることで、ほぼ全量を吐出することができる。
【0088】
[変形例]
以下、本発明の変形例について説明する。以下の説明において、上記実施形態と同一の構成については同一の名称及び符号を用い、重複する説明は適宜省略する。
【0089】
本実施形態においては、上記実施形態の採血チップ400の構成を用いて、独立した血液採取器具1Aを構成することができる。
【0090】
図11及び図12に示されるように、血液採取器具1Aは、採血を行う採血チップ400Xと、採血チップ400Xに取り付けられる押し出し具700とを備えている。採血チップ400Xは、軸方向一方側において流路の内周面の一部が露出するように採血用開口403が形成された採血部401を備えている。
【0091】
採血チップ400Xは、採血用開口403において露出した内周面430Hの一部に試料となる血液が接触することにより血液が流路内430に流入するように形成されている採血部401と、採血部401の軸方向他方側には、円筒状に形成されたシリンダ部480が設けられている。シリンダ部480の内部空間には、押し出し具700が挿入される。シリンダ部480の外周面には、上方向マーク409と同様の機能を有する上方向マーク489が形成されている。シリンダ部480に形成されたシリンダ内周面481には、軸線L方向に沿って少なくとも1つの第2溝部482が形成されている。
【0092】
第2溝部482は、シリンダ内周面481の軸方向他方側の端部から所定の長さに形成されている。シリンダ内周面481には、例えば、4本の第2溝部482が形成されており、採血時に押し出し具700が挿入された際の空気抜き流路を構成する。
【0093】
押し出し具700は、シリンダ部480の内部空間に挿入されピストン701とピストン701の軸方向一方側に連続して形成された操作部702と、を備える。ピストン701は、シリンダ部480の内部空間において軸線L方向に沿って移動自在に設けられている。ピストン701は、円柱状に形成されている。ピストン701の外径は、シリンダ部480の内径に比して若干小さく形成されている。ピストン701の軸方向他方側には、棒状の操作部702が設けられている。
【0094】
血液採取器具1Aは、上記構成により、操作部702を操作しピストン701を内部空間において軸方向に沿って移動させることにより、採血部401の流路430内に採血された血液を採血用開口403から吐出させることができる。血液採取器具1Aは、親水性加工を必要しないプラスティック性の汎用的な微量採血具として利用できる。
【0095】
採血時は、第2溝部482が形成されているシリンダ部480の中間部の手前までピストン701を差込んだ状態で、採血チップ400と同様の操作手順で血液を吸引する。この状態においては、ピストン701により閉塞されたシリンダ部480の内部空間は、第2溝部482を介して外部空間と連通している。即ち、血液採取器具1Aは、ピストン701を用いて血液を吸引するのではなく、毛細管現象により採血用開口403から血液を流路430内に吸引することができる。
【0096】
血液の吸引後は、操作部702を操作してピストン701を第2溝部482が形成されていないシリンダ部480の内周面の中間部を超えた領域に押し込んで採血チップ400に貯留された血液を保存容器などに吐出する。シリンダ内周面481の第2溝部482が形成されていない軸方向一方側の領域においては、ピストン701の外周面と、シリンダ内周面481とが隙間なく嵌合する。
【0097】
採血後は、ピストン701がシリンダ内周面481の中間部を超えた領域に押し込まれ、シリンダ部480内の空気が漏れなく圧縮され血液を採血チップ部から押し出すことができる。また、採血チップ400X先端のシリンダ内周面481に前述した抗凝固剤などの添加剤を塗布することで、血液の吸引と吐出時に血液に添加剤を混和することができる。図11及び図12に示された血液採取器具1Aを使用することで、全血を遠心分離せずにそのまま試料として検査する血液学項目検査などを効率よく行うことができ、マウスなど小動物の実験用採血具としても利便性が高い。
【0098】
上述した各実施形態あるいは、その要旨を逸脱しない範囲で変形した実施形態に係る採血用器具によれば、採血した血液中の血漿部を分注せずに検査試料として一滴の無駄なく利用することができる。採血用器具によれば、従来の採血器具に比べて検査に必要な採血量を半減することができる。例えば、生化学13項目を対象とした微量血液検査では、一般に10倍から15倍程度の希釈検査が行われており、最低でも15μリットル程度の血漿を必要とするため60μリットル以上の採血量を求められることが多い。
【0099】
上記実施形態の採血用器具を使用することにより、標準的なヘマトクリット値血液であれば30μリットル程度の採血で60μリットル採血時と同等の血漿量を採取することができ、かつその全量を検査試料とすることができる。
【0100】
また、採血用器具によれば、採取した血漿を直接マーカー入りの希釈溶液で希釈し、希釈率は事後測定することが可能となるため、一般的な微量採血検査のように採血量をあらかじめ決めて採血する必要がなく、検査する項目の組み合わせに応じて都度最低必要量の採血を行えばよく、利用者への侵襲性負担を軽減することができる。
【0101】
上述したように採血用器具によれば、採血チッププラスティック細管の先端をアングルカットすることで、液面密着時に先端内壁に自動的に濡れ性を発生させることができる。先端をアングルカットしたプラスティック細管の先端ホールを貯留液体の上面部に隙間なく密着させると、血液表面と細管内壁とが直接接触する部分が生じ、この部分に液が溜まり濡れ性状態が生じる。これによって先端部に毛細管現象が有意に働き、疎水性表面を持つプラスティック内壁であるにもかかわらず、先端部から容器内へ液体の吸引が可能になる。
【0102】
プラスティック採取容器は、下方向に向けて広がるテーパ形状が造られているので、吸引された液体は毛細管現象に加えて重力によっても斜め下へと引かれて必要量までの吸引が継続する。結果、従来のプラスティック採血具で必要とされた内壁の親水性加工処理などの対策が不要となり、製造工数および製造原価の低減が可能となる。
【0103】
吸引時には、アングルカットされた採血具先端は貯留された血液など液体表面の上部に接触させるので、接触時に指先表面との間で形成されている貯留液体の表面張力を壊さず、従って液体の流れ落ちを誘発しない。このため、流れ落ち防止用テープなどを使わずに、貯留液体の継続した吸引が可能になる。また、採血チップで採取された血液は、採血チップと容器の嵌合部に作られた空気抜きスリットによって自重で格納容器内へ自然落下するため、分注操作なしに、安全かつ確実に良質な血液試料を格納容器内に誘導、保存することができる。
【0104】
採取血液は密閉された格納容器100内で添加剤と混和され、遠心によって血球は分離流路10Rで仕切られた密閉容器300内に移動する。その後、ストッパ250によって格納容器100と密閉容器300とが遮断され、血球と血漿の物理的分離が完了する。分離された血漿および血球試料はそれぞれ格納容器100、密閉容器300内で密閉されて保存されるため、血液輸送など様々な管理状態においても、標準的な保存要件を満たす限りは、検査試料としての質的保証が得られる。
【0105】
密閉容器300の血球格納容量は、プランジャ360を軸線L方向に沿って移動することによって自由に変更できる。プランジャ360の位置を調整して遠心時の血球収納用容量を変化させることで、採取血漿量を最大化するだけでなく、採血量やヘマトクリット率が異なる採血検体に対しても血漿部と血球部の適切な分離を行うことができ、血漿量の最大化が可能となる。結果、一般的にヘマトクリット率の低い女性や高齢者の採血容量を減少させ、侵襲性負担を軽減することが可能になる。
【0106】
分離された血漿は、血球部または分離剤と完全に遮断され分離面での接点を持たないため、その全量を分析試料として用いることができる。分離面接点を有する採血具に比べて、より多くの血漿を試料化することで分析試料の希釈率を減少させ分析対象となる試料中成分濃度を高めることができる。結果として、採血量の減少に留まらず、検査精度の向上や検査対象項目の拡大が期待できる。
【0107】
検査ラボでの検体測定においては、遠心後に血漿部と血球部を当該容器内で密閉遮断することで、希釈液を直接格納容器内に滴下し、血漿分注を行わずに、分離された血漿を格納容器100内で混和希釈し、アダプタ600を使用して容器を検査用試験管にセットして検査機器にかける。また密閉容器はその軸部を取り外し、密閉容器内に保存された血球を取り出し、分注、検査する。これによって、検査業務の効率化だけでなく、マニュアル計量作業がなくなり検査精度向上を図ることができる。
【0108】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0109】
1、1A 血液採取器具
10 血液保存容器
10R 分離流路
100 格納容器
101 第1開口
101F フランジ部
102 採血空間
103 第1テーパ部
130 格納容器内壁
140 開口部
160 シリンダ部
200 容器蓋
210 底部
220 フランジ部
250 ストッパ
251 押圧部
252 スライド部
300 密閉容器
301 第2開口
302 保存空間
303 第2テーパ部
304 突出部
305 外周面
350 ダイアル部
351 嵌合部
352 内周面
353 貫通孔
353M ネジ溝
354 スリット
360 プランジャ
361 ネジ部
362 頭部
400、400X 採血チップ
401 採血部
403 採血用開口
405 接続部
405H 接続用開口
406 第1溝部
408 計量線
409 上方向マーク
430 流路
430H 内周面
480 シリンダ部
481 シリンダ内周面
482 第2溝部
500 キャップ
600 アダプタ
700 押し出し具
701 ピストン
702 操作部
800 試験管
900 吸引針
【要約】
採血された血液を格納、保存する血液保存容器であって、中空状に構成された格納容器と、前記格納容器の端部に取り付けられる密閉容器とを備え、前記格納容器は、軸方向一方側に採血チップに接続される第1開口が形成された採血空間と、前記採血空間の軸方向他端側に連続し、前記採血空間に比して横断面が小さく形成された分離流路と、軸方向他方側が前記分離流路に連続し、軸方向他方側に第2開口が形成され、前記分離流路に比して横断面が大きく形成された保存空間と、を有し、前記密閉容器は、記格納容器の前記保存空間の軸方向他方側において前記第2開口を覆うように軸線方向に沿って移動可能に被せられるダイアル部と、前記ダイアル部の内側に突出して形成され、前記保存空間の内面に接触した状態で軸線方向へ移動自在な密閉容器軸部を有する、血液保存容器である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12