(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 161/00 20060101AFI20230413BHJP
C10M 135/00 20060101ALN20230413BHJP
C10M 143/12 20060101ALN20230413BHJP
C10M 143/14 20060101ALN20230413BHJP
C10M 135/18 20060101ALN20230413BHJP
C10M 137/10 20060101ALN20230413BHJP
C10M 137/08 20060101ALN20230413BHJP
C10M 137/04 20060101ALN20230413BHJP
C10M 137/02 20060101ALN20230413BHJP
C10M 137/12 20060101ALN20230413BHJP
C10M 139/00 20060101ALN20230413BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20230413BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20230413BHJP
C10N 20/04 20060101ALN20230413BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20230413BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20230413BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20230413BHJP
【FI】
C10M161/00
C10M135/00
C10M143/12
C10M143/14
C10M135/18
C10M137/10 A
C10M137/08
C10M137/10 B
C10M137/04
C10M137/02
C10M137/12
C10M139/00 A
C10N10:12
C10N20:02
C10N20:04
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N40:04
(21)【出願番号】P 2019025582
(22)【出願日】2019-02-15
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390023630
【氏名又は名称】エクソンモービル・テクノロジー・アンド・エンジニアリング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ExxonMobil Technology and Engineering Company
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】小西 智也
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-159496(JP,A)
【文献】特開2017-132875(JP,A)
【文献】特開2018-016729(JP,A)
【文献】特開2010-059374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(E)成分を含む潤滑油組成物であって、
(A)潤滑油基油、
(B)リン系極圧剤、
(C)活性硫黄量0.5~30質量%を有する硫黄系極圧剤、
(D)無灰分散剤、及び
(E)数平均分子量500~3000を有し、少なくとも1の末端に官能基を有するポリジエン
該潤滑油組成物の100℃における動粘度が2~10mm
2/sであ
り、
該潤滑油組成物が、(F)モリブデンジチオカーバメイト(MoDTC)及びモリブデンジチオホスフェイト(MoDTP)から選ばれる少なくとも1種のモリブデンを有する摩擦調整剤をさらに含み、
該潤滑油組成物中のモリブデン含有量が100~1500ppmであることを特徴とする、前記潤滑油組成物。
【請求項2】
前記(E)成分における官能基が、カルボキシル基、エステル基、無水カルボキシル基、水酸基、グリシジル基、ウレタン基及びアミノ基から選ばれる、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記(B)リン系極圧剤が、
(B1)炭素数4~30のアルキル基を有するリン酸エステルのアミン塩、及び
(B2)チオリン酸エステルアミン塩
から選ばれる1種以上を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記(B)リン系極圧剤が、(B3)アルキル基を1つ又は2つ有し、該アルキル基がいずれも炭素数4~10を有する、酸性リン酸エステルをさらに含むことを特徴とする、請求項3に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記(B)リン系極圧剤が、
(B4)亜リン酸エステル、及び
(B5)ホスホン酸エステル
から選ばれる少なくとも1種をさらに含むことを特徴とする、請求項3又は4に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記(C)硫黄系極圧剤が、硫化オレフィン、硫化油脂、硫化エステル、ポリサルファイド、及びチアジアゾールから選ばれる少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記(D)無灰分散剤がホウ素を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
前記潤滑油組成物中の硫黄含有量が0.3~5質量%である、請求項1~
7のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
前記潤滑油組成物中のリン含有量が200~2000ppmである、請求項1~
8のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
前記潤滑油組成物がハイブリッド自動車に使用される、請求項1~
9のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
前記潤滑油組成物が変速機油用に使用される、請求項1~
10のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
前記潤滑油組成物がギヤ油用に使用される、請求項1~
11のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物、特に、自動車用として適用できる潤滑油組成物に関する。より詳細には、自動車用変速機用として好適な潤滑油組成物、自動車用ギヤ油用として好適な潤滑油組成物、さらにはハイブリッド自動車用として好適な潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油組成物は自動車用及び機械用など多岐の用途に使用されている。近年、自動車用潤滑油組成物の低粘度化が、省燃費化の観点から求められている。しかし潤滑油組成物の低粘度化は油膜形成能に影響を及ぼす。低粘度化は、本来省燃費を実現させるためのものであるが、従来の潤滑油組成物として使用されたものをそのまま低粘度化しても、油膜形成能に劣るため、かえって摩擦が高くなることによって、省燃費を実現できなくなる場合がある。また、低粘度化によって、油膜形成能が低下すると、金属同士の直接的な接触が起こる結果、十分な潤滑がおこなわれなくなり、その結果として摩耗が激しくなるため、潤滑油組成物としての機能を十分に果たさなくなる。
【0003】
特許文献1には、自動車用ギヤ油として好適に使用される潤滑油組成物が記載されており、基油、粘度指数向上剤、モリブデン系摩擦調整剤、ホウ素含有分散剤、並びに硫黄系極圧剤、リン系極圧剤、及び硫黄-リン系極圧剤から選ばれる少なくとも二種の極圧剤、又は硫黄-リン系極圧剤を含む潤滑油組成物が記載されている。特許文献1は、該潤滑油組成物は省燃費性と極圧性とを両立し、さらにはせん断安定性、酸化安定性、及び耐摩耗性を有すると記載している。
【0004】
また特許文献2には、自動車用ギヤ油、とくにディファレンシャルギヤ油として好適な潤滑油組成物が記載されている。特定の硫黄系極圧剤を含む潤滑油組成物が、低粘度化してもベアリング摩耗、ギヤ歯面におけるスコーリングの発生を抑制できることを記載している。
特許文献3には、最終減速機用潤滑油組成物として、モリブデン系摩擦調整剤と、硫黄を含有する極圧剤との併用により、耐摩耗性、耐焼き付性に優れた潤滑油組成物が記載されている。
特許文献4には、エステル系基油に、モリブデン系摩擦調整剤と、硫黄系極圧剤とを添加したギヤ油用潤滑油組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-190897号公報
【文献】特開2017-132875号公報
【文献】WO2016/136873
【文献】WO2015/056784
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献はいずれも、低粘度化に伴う省燃費性に加えて、保存安定性を確保しつつ、低摩耗且つ良好なスコーリング特性をさらに両立させることについては、課題として開示もなければ示唆もない。本発明者らは、低粘度化しながらも、優れた摩耗防止性及び耐スコーリング性を有する潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、特定構造を有する高分子系摩擦調整剤を加えて、低粘度化に加えて保存安定性を維持しつつ低摩耗を実現し、優れた摩耗防止性及び耐スコーリング性を有することを見出した。これに加えて、炭素数の少ない短鎖アルキル基を有する酸性リン酸エステルとモリブデン摩擦調整剤とを含有する潤滑油組成物が、さらに所定の亜リン酸エステル又はホスホン酸エステルを含むことにより、低粘度及び低摩擦を有し、且つ優れた摩耗防止性及び耐スコーリング性を有する潤滑油組成物を提供できることを見出し、本発明を成すに至った。
【0008】
すなわち本発明は、下記(A)~(E)成分を含む潤滑油組成物であって、
(A)潤滑油基油、
(B)リン系極圧剤、
(C)活性硫黄量0.5~30質量%を有する硫黄系極圧剤、
(D)無灰分散剤、及び
(E)数平均分子量500~3000を有し、少なくとも1の末端に官能基を有するポリジエン
該潤滑油組成物の100℃における動粘度が2~10mm2/sであることを特徴とする、前記潤滑油組成物を提供する。
【0009】
本発明の好ましい態様は、以下のとおりである。
(1)前記(E)成分における官能基が、カルボキシル基、エステル基、無水カルボキシル基、水酸基、グリシジル基、ウレタン基及びアミノ基から選ばれる。
(2)前記(B)リン系極圧剤が、
(B1)炭素数4~30のアルキル基を有するリン酸エステルのアミン塩、及び
(B2)チオリン酸エステルアミン塩
から選ばれる1種以上を含むことを特徴とする。
(3)前記(B)リン系極圧剤が、(B3)アルキル基を1つ又は2つ有し、該アルキル基がいずれも炭素数4~10を有する、酸性リン酸エステルをさらに含むことを特徴とする。
(4)前記(B)リン系極圧剤が、
(B4)亜リン酸エステル、及び
(B5)ホスホン酸エステル
から選ばれる少なくとも1種をさらに含むことを特徴とする。
(5)前記(C)硫黄系極圧剤が、硫化オレフィン、硫化油脂、硫化エステル、ポリサルファイド、及びチアジアゾールから選ばれる少なくとも1種である。
(6)前記(D)無灰分散剤がホウ素を有する。
(7)さらに(F)モリブデンを有する摩擦調整剤を含む。
(8)前記(F)モリブデンを有する摩擦調整剤がモリブデンジチオカーバメイト(MoDTC)及びモリブデンジチオホスフェイト(MoDTP)から選ばれる少なくとも1種である。
(9)前記潤滑油組成物中の硫黄含有量が0.3~5質量%である。
(10)前記潤滑油組成物中のリン含有量が200~2000ppmである。
(11)前記潤滑油組成物中のモリブデン含有量が100~1500ppmである。
(12)前記潤滑油組成物がハイブリッド自動車に使用される。
(13)前記潤滑油組成物が変速機油用に使用される。
(14)前記潤滑油組成物がギヤ油用に使用される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の潤滑油組成物は、低粘度した場合においても低摩擦を有し、且つ、ギヤ油に要求される摩耗防止性を有することができる。さらには、より低粘度化された条件において、前記効果に加えて、優れた耐スコーリング性を有する潤滑油組成物を与えることができる。本発明の潤滑油組成物は、特には、ハイブリッド自動車用、変速機用、及びギヤ油用として好適に使用することができる。
【0011】
(A)潤滑油基油
本発明における潤滑油基油は特に限定されることはなく、潤滑油基油として従来公知のものが使用できる。潤滑油基油としては、鉱油系基油、合成系基油、及びこれらの混合基油が挙げられる。
【0012】
鉱油系基油の製法は限定されるものではない。鉱油系基油としては、水素化精製油、触媒異性化油などに溶剤脱蝋または水素化脱蝋などの処理を施した高度に精製されたパラフィン系鉱油(高粘度指数鉱油系潤滑油基油)が好ましい。また、上記以外の鉱油系基油としては、例えば、潤滑油原料をフェノール、フルフラールなどの芳香族抽出溶剤を用いた溶剤精製により得られるラフィネート、シリカ-アルミナを担体とするコバルト、モリブデンなどの水素化処理触媒を用いた水素化処理により得られる水素化処理油などが挙げられる。例えば、100ニュートラル油、150ニュートラル油、500ニュートラル油などを挙げることができる。
【0013】
合成系基油としては、例えば、メタン等の天然ガスからフィッシャー・トロプシュ合成で得られたワックス等の原料を水素化分解処理及び水素化異性化処理して得られる基油(いわゆるフィッシャー・トロプシュ由来基油)、ポリ-α-オレフィン基油、ポリブテン、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、ポリグリコールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル、及び、シリコン油などを挙げることができる。なお、ポリ-α-オレフィン(PAO)基油は、特に制限されるものではないが、例えば1-オクテンオリゴマー、1-デセンオリゴマー、エチレン-プロピレンオリゴマー、イソブテンオリゴマー並びにこれらの水素化物を使用できる。
【0014】
上記潤滑油基油は1種単独でも良いし、2種以上の併用であってもよい。2種以上の潤滑油基油を併用する場合は、鉱油系基油同士、合成系基油同士、または鉱油系基油と合成系基油の組合せであってよく、その態様は限定されない。
【0015】
潤滑油基油の動粘度は、本発明の要旨を損なわない限り制限されることはない。特には、低粘度の潤滑油組成物を得るためには、潤滑油基油全体が100℃における動粘度1~9mm2/sを有することが好ましく、さらに好ましくは1~8mm2/s、一層好ましくは2~6mm2/sを有するのがよい。潤滑油基油の100℃における動粘度が前記上限値超であると、潤滑油組成物の低粘度化を図ることが困難となり、省燃費性を達成することが困難となる可能性がある。また100℃における動粘度が前記下限値未満であると、省燃費性は達成できるが、摩耗特性に悪影響を及ぼすことがある。
【0016】
(B)リン系極圧剤
本発明の潤滑油組成物は、リン系極圧剤を有するが、その種類は限定されることはない。なお、本発明におけるリン系極圧剤は、硫黄を含有しないリンを含有する極圧剤、硫黄を含有するとともにリンを含有する極圧剤の両方を意味することとする。
なお、第1態様として、(B1)炭素数4~30のアルキル基を有するリン酸エステルのアミン塩及び(B2)チオリン酸エステルアミン塩のうち1種以上を有することが好ましい。
また、第2態様として、(B3)アルキル基を1つ又は2つ有し、該アルキル基がいずれも炭素数4~10を有する、酸性リン酸エステルをさらに含むことが好ましい。
さらに、第3態様として、(B4)亜リン酸エステル及び(B5)ホスホン酸エステルから選ばれる少なくとも1種をさらに含むことが好ましい。
【0017】
(B1)炭素数4~30のアルキル基を有するリン酸エステルのアミン塩
炭素数4~30のアルキル基を有するリン酸エステルのアミン塩とは(R1O)bP(=O)(OH)3-b・(NHcR2O3-c)3-bで表される。前記式においてb,c=1又は2であり、b,cが異なる値である化合物の混合物であってもよい。上記式において、R1とR2は互いに独立に炭化水素基である。炭化水素基であれば、直鎖状であっても分岐を有していてもよい。炭化水素基としては、炭素数4~30のアルキル基であることが好ましい。(B1)成分は上記アルキル基を有する酸性リン酸エステルのアミン塩の1種単独でも2種以上の併用であってもよい。R1とR2の炭素数は、それぞれ4~30の範囲であり、炭素数4~20の範囲が好ましく、炭素数4~16の範囲がさらに好ましく、これらはそれぞれ独立してアルキル基であることが好ましい。
【0018】
本発明の潤滑油組成物中に含まれるリン酸エステルのアミン塩の量は、特に限定されることないが、潤滑油組成物全体の質量に対して、リン原子含有量として100~1500質量ppmが好ましく、180~1200質量ppmがより好ましく、200~1000質量ppmがさらに好ましい。含有量が上記上限値を超えると、スラッジが発生する可能性があり好ましくない。含有量が上記下限値を下回ると、摩耗が高くなる可能性が高く、好ましくない。2種以上のリン酸エステルのアミン塩を併用する場合は合計としてのリン原子含有量が上記範囲を満たすように配合すればよい。
【0019】
(B2)チオリン酸エステルアミン塩
チオリン酸エステルのアミン塩とは、(R3O)dP(=X)(XH)3-d・(NHeR4O3-e)3-dで表される。前記式において、d,e=1又は2であり、d,eが異なる値である化合物の混合物として使用することもできる。Xは酸素原子又は硫黄原子であるが、少なくとも1つは酸素原子である。上記式において、R3とR4は互いに独立に炭素数4~30のアルキル基である。炭素数4~30のアルキル基であれば、直鎖状であっても分岐を有していてもよい。(B2)成分は上記チオリン酸エステルアミン塩の1種単独でも2種以上の併用であってもよい。R3とR4の炭素数は、限定されることはないが、炭素数4~30の範囲で好ましく、炭素数4~20の範囲がより好ましく、炭素数4~16の範囲がさらに好ましい。
【0020】
本発明の潤滑油組成物中に含まれるチオリン酸エステルのアミン塩の量は、特に限定されることないが、潤滑油組成物全体の質量に対して、リン原子含有量として100~1500質量ppmが好ましく、180~1200質量ppmがより好ましく、200~1000質量ppmがさらに好ましい。含有量が上記上限値を超えると、スラッジが発生する可能性があり好ましくない。含有量が上記下限値を下回ると、摩耗が高くなる可能性が高く、好ましくない。2種以上のチオリン酸エステルのアミン塩を併用する場合は合計としてのリン原子含有量が上記範囲を満たすように配合すればよい。
【0021】
本発明の潤滑油組成物においては、第1態様として、(B1)成分又は(B2)成分のいずれかを有することが好ましいが、(B1)成分及び(B2)成分を有することがより好ましい。
【0022】
(B3)アルキル基を1つ又は2つ有し、該アルキル基がいずれも炭素数4~10を有する、酸性リン酸エステル
本発明の第2態様として、(B3)アルキル基を1つ又は2つ有し、該アルキル基がいずれも炭素数4~10を有する、酸性リン酸エステルを含むことが好ましい。
当該酸性リン酸エステルとは(R5O)aP(=O)(OH)3-aで表される。前記式においてa=1又は2であり、aが異なる値である化合物の混合物として使用することもできる。上記式において、R1は互いに独立に炭素数4~10のアルキル基である。炭素数4~10のアルキル基のなかで、好ましくはブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、及びオクチル基であり、分岐を有していてもよい。(B)成分は上記アルキル基を有する酸性リン酸エステルの1種単独でも2種以上の併用であってもよい。R5の炭素数は少ないほど好ましい。特には、炭素数4のアルキル基を有する酸性リン酸エステルが摩擦係数の低減効果により優れるため、好ましい。
【0023】
該酸性リン酸エステルとしては、好ましくは、酸性リン酸(ジ)ブチルエステル、酸性リン酸(ジ)ペンチルエステル、酸性リン酸(ジ)ヘキシルエステル、及び酸性リン酸(ジ)オクチルエステルが挙げられる。より好ましくは、酸性リン酸(ジ)ブチルエステル、又は酸性リン酸(ジ)ヘキシルエステルであり、最も好ましくは酸性リン酸(ジ)ブチルエステルである。
【0024】
本発明の潤滑油組成物中に含まれる該酸性リン酸エステルの量は、特に限定されることないが、潤滑油組成物全体の質量に対して、リン原子含有量として100~1500質量ppmが好ましく、180~1200質量ppmがより好ましく、200~1000質量ppmがさらに好ましい。含有量が上記上限値を超えると、スラッジが発生する可能性があり好ましくない。含有量が上記下限値を下回ると、摩擦が高くなる可能性が高く、省燃費に寄与しない可能性があり、好ましくない。2種以上の酸性リン酸エステルを併用する場合は合計としてのリン原子含有量が上記範囲を満たすように配合すればよい。
【0025】
本発明の第3態様として、(B4)亜リン酸エステル、(B5)ホスホン酸エステルから選ばれる少なくとも1種からなるリン系極圧剤を含むことが好ましい。(B4)成分又は(B5)成分を含有することにより、潤滑油組成物の摩耗を低減することができる。
【0026】
(B4)亜リン酸エステルとは、例えば、下記式(1)又は(2)で表される化合物である。
(R6O)bP(=O)(OH)2-bH (1)
(R7O)3P (2)
上記式(1)においてb=1又は2であり、かつR6は、互いに独立に、炭化水素基である。上記式(2)において、R7は、互いに独立に、炭化水素基である。R6及びR7の炭素原子数は特に制限されるものでない。
【0027】
上記式(1)において、R6は、好ましくは炭素数4~30のアルキル基であり、より好ましくは炭素数4~20のアルキル基、さらに好ましくは炭素数4~12のアルキル基、最も好ましくは炭素数4~8のアルキル基であるのがよい。上記式(2)においてR7は、好ましくは炭素数4~30のアルキル基、より好ましくは炭素数4~20のアルキル基、さらに好ましくは炭素数4~12のアルキル基であり、最も好ましくは炭素数4~8のアルキル基である。
【0028】
上記亜リン酸エステルとしては、例えば、亜リン酸トリブチルエステル、亜リン酸ジブチルエステル、亜リン酸モノブチルエステル、亜リン酸トリペンチルエステル、亜リン酸ジペンチルエステル、亜リン酸モノペンチルエステル、亜リン酸トリヘキシルエステル、亜リン酸ジヘキシルエステル、亜リン酸モノヘキシルエステル、亜リン酸トリヘプチルエステル、亜リン酸ジヘプチルエステル、亜リン酸モノヘプチルエステル、亜リン酸トリオクチルエステル、亜リン酸ジオクチルエステル、及び亜リン酸モノオクチルエステルが挙げられる。中でも、亜リン酸トリブチルエステル、亜リン酸トリペンチルエステル、亜リン酸トリヘキシルエステル、亜リン酸トリヘプチルエステル、及び亜リン酸トリオクチルエステルが好ましく用いられる。
【0029】
(B5)ホスホン酸エステルは、下記式で表される。
(R8O)(R9O)(R10)P(=O) (3)
式(3)において、R8及びR9は、互いに独立に、水素原子又は一価炭化水素基であり、R8及びR9の少なくとも一方は一価炭化水素基であり、R10は一価炭化水素基である。
【0030】
上記式(3)において、R8及びR9は、互いに独立に、水素原子又は好ましくは炭素数1~30の一価炭化水素基であって、少なくとも一方が炭化水素基である。即ち、R8及びR9のうちいずれかは好ましくは炭素数1~30のアルキル基であり、より好ましくは炭素数2~20のアルキル基であり、炭素数4~18のアルキル基であることが一層好ましく、炭素数8~18のアルキル基であることが最も好ましい。
【0031】
上記式(3)においてR10は、好ましくは炭素数1~30の一価炭化水素基であり、より好ましくはアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数2~20のアルキル基であり、最も好ましくは炭素数4~18のアルキル基であり、特には炭素数8又は18のアルキル基である。
【0032】
ホスホン酸エステルとしては、例えば、ブチルホスホン酸ジメチル、ブチルホスホン酸ジエチル、ブチルホスホン酸ジプロピル、ブチルホスホン酸ジブチル、ブチルホスホン酸ジペンチル、ブチルホスホン酸ジヘキシル、ブチルホスホン酸ジヘプチル、ブチルホスホン酸ジオクチル、ヘキシルホスホン酸ジメチル、ヘキシルホスホン酸ジエチル、ヘキシルホスホン酸ジプロピル、ヘキシルホスホン酸ジブチル、ヘキシルホスホン酸ジペンチル、ヘキシルホスホン酸ジヘキシル、ヘキシルホスホン酸ジヘプチル、ヘキシルホスホン酸ジオクチル、オクチルホスホン酸ジメチル、オクチルホスホン酸ジエチル、オクチルホスホン酸ジプロピル、オクチルホスホン酸ジブチル、オクチルホスホン酸ジペンチル、オクチルホスホン酸ジヘキシル、オクチルホスホン酸ジヘプチル、オクチルホスホン酸ジオクチル、デシルホスホン酸ジメチル、デシルホスホン酸ジエチル、デシルホスホン酸ジプロピル、デシルホスホン酸ジブチル、デシルホスホン酸ジヘキシル、デシルホスホン酸ジオクチル、デシルホスホン酸ジデシル、ドデシルホスホン酸ジメチル、ドデシルホスホン酸ジエチル、ドデシルホスホン酸ジプロピル、ドデシルホスホン酸ジブチル、ドデシルホスホン酸ジヘキシル、ドデシルホスホン酸ジオクチル、ドデシルホスホン酸ジデシル、ドデシルホスホン酸ジドデシル、テトラデシルホスホン酸ジメチル、テトラデシルホスホン酸ジエチル、テトラデシルホスホン酸ジプロピル、テトラデシルホスホン酸ジブチル、テトラデシルホスホン酸ジヘキシル、テトラデシルホスホン酸ジオクチル、テトラデシルホスホン酸ジデシル、テトラデシルホスホン酸ジドデシル、テトラデシルホスホン酸ジテトラデシル、ヘキサデシルホスホン酸ジメチル、ヘキサデシルホスホン酸ジエチル、ヘキサデシルホスホン酸ジプロピル、ヘキサデシルホスホン酸ジブチル、ヘキサデシルホスホン酸ジヘキシル、ヘキサデシルホスホン酸ジオクチル、ヘキサデシルホスホン酸ジデシル、ヘキサデシルホスホン酸ジドデシル、ヘキサデシルホスホン酸ジテトラデシル、オクタデシルホスホン酸ジメチル、オクタデシルホスホン酸ジエチル、オクタデシルホスホン酸ジプロピル、オクタデシルホスホン酸ジブチル、オクタデシルホスホン酸ジペンチル、オクタデシルホスホン酸ジヘキシル、オクタデシルホスホン酸ジヘプチル、オクタデシルホスホン酸ジオクチル、オクタデシルホスホン酸ジオクタデシルなどが挙げられる。
【0033】
(B)成分の潤滑油組成物中における含有量は、特に限定されることないが、リン原子含有量として200~2000質量ppmが好ましく、300~1700質量ppmがより好ましく、300~150質量ppmがさらに好ましい。含有量が上記上限値を超えると、スラッジが発生する可能性があり、好ましくない。含有量が上記下限値を下回ると、摩擦が高くなる可能性が高く、省燃費に寄与しない可能性があり、好ましくない。2種以上を併用する場合は合計としてのリン原子含有量が上記範囲を満たすように配合すればよい。
【0034】
(C)硫黄系極圧剤
本発明の潤滑油組成物は硫黄系極圧剤を含有する。硫黄系極圧剤は耐焼付性を付与し、ギア油用の潤滑油組成物として好適に機能することができる。(C)成分は公知の硫黄系極圧剤から選択されることができる。好ましくは、硫化オレフィン、硫化油脂、硫化エステル、ポリサルファイド及びチアジアゾールから選ばれる少なくとも1種であり、特には硫化オレフィン、硫化油脂、硫化エステルが好ましい。尚、本発明において(C)成分はリンを有する極圧剤を包含しない。
【0035】
本発明において硫黄系極圧剤は活性硫黄を該極圧剤の質量に対して30質量%以下で有すること、好ましくは15質量%以下で有すること、より好ましくは13質量%以下で有することを特徴とする。活性硫黄量が上記上限値超であると、金属腐食を起こすだけでなく、摩耗の発生を抑制することができなくなる。なお、活性硫黄量の下限値は、極圧性確保のためには、極圧剤の質量に対して0.5質量%以上であり、さらに好ましくは1質量%以上であり、一層好ましくは3質量%以上であるのがよい。
【0036】
ここで、活性硫黄量とはASTM D1662に規定される方法により測定されるものである。ASTM D1662に基づく活性硫黄量は、より詳細には以下の手順により測定することができる。
1.200ml用のビーカーに硫黄系添加剤(活性硫黄系極圧剤)50gと銅粉5gを入れ、スターラで攪拌しながら温度を150℃まで上げる。
2.150℃に達したら、更に銅粉を5g加え、30分間攪拌する。
3.攪拌終了後、ASTM D130準拠の銅板をビーカーへ入れて浸漬させる。このとき、銅板に変色が見られたら、さらに銅粉を5g加えて30分間攪拌する(この操作を変色が認められなくなるまで続ける)。
4.銅板変色が認められなくなったら、ろ過により硫黄系添加剤中の銅粉を除去し、添加剤に含まれる硫黄量を測定する。
活性硫黄量は以下のように算出される。
活性硫黄量(質量%)=銅粉と反応前の硫黄量(質量%)-銅粉と反応後の硫黄量(質量%)
【0037】
本発明の潤滑油組成物において上記硫黄系極圧剤の含有量は限定されることはないが、潤滑油組成物全体の質量に対して好ましくは0.1質量%~15質量%、より好ましくは0.2質量%~12質量%、さらに好ましくは0.3質量%~10質量%である。含有量が上記上限値を超えると摩耗発生は抑制できるがスラッジが発生するようになり、場合により金属腐食を発生させることがあるため好ましくない。
【0038】
本発明の潤滑油組成物において、硫黄含有量は限定されることはないが、潤滑油組成物全体の質量に対して好ましくは0.3~5質量%、より好ましくは0.4~4質量%、さらに好ましくは0.5~3質量%である。含有量が上記上限値を超えると摩耗発生は抑制できるがスラッジが発生するようになり、場合により金属腐食を発生させることがあるため好ましくない。
【0039】
硫化オレフィン及びポリサルファイドは下記一般式(4)で表される。なお、後述するように、硫化オレフィンはオレフィン類を硫化して得られるものであり、ポリサルファイドはオレフィン類以外の炭化水素原料を硫化して得られる。
R11-Sx-(R12-Sx-)n-R13 (4)
【0040】
上記式(4)中、R11及びR13は互いに独立に、一価の炭化水素基であり、例えば炭素数2~20の、直鎖構造または分岐鎖を有する、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、及び、炭素数2~26の芳香族炭化水素基等を挙げることができる。より詳細には、エチル基、プロピル基、ブチル基、ノニル基、ドデシル基、プロペニル基、ブテニル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、及びヘキシルフェニル基などがある。
【0041】
上記式(4)中、R12は、炭素数2~20の、直鎖構造または分岐鎖を有する、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、及び炭素数6~26の芳香族炭化水素基等を挙げることができる。より詳細には、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、及びフェニレン基などが挙げられる。
【0042】
上記式(4)中、xは互いに独立に、1以上の整数であり、好ましくは1~8の整数である。xが小さいと極圧性が小さくなり、xが大きすぎると熱酸化安定性が低下する傾向にある。極圧性及び熱酸化安定性を共に得るためには、括弧内に示される単位におけるxが1~6の整数であるのが好ましく、より好ましくは2~4の整数であり、特に好ましくは2または3である。
【0043】
硫化オレフィンとしては、例えば、ポリイソブチレン及びテルペン類などのオレフィン類を、硫黄その他の硫化剤で硫化して得られるものが挙げられる。
【0044】
ポリサルファイド化合物としては、例えば、ジイソブチルジサルファイド、ジオクチルポリサルファイド、ジ-tert-ブチルポリサルファイド、及びジ-tert-ベンジルポリサルファイドなどが挙げられる。
【0045】
硫化油脂は、油脂と硫黄との反応生成物であり、油脂としてラード、牛脂、鯨油、パーム油、ヤシ油、ナタネ油などの動植物油脂を使用し、これを硫化反応して得られるものである。この反応生成物は、単一のものではなく、種々の物質の混合物であり、化学構造そのものは明確でない。
【0046】
硫化エステルは、上記油脂と各種アルコールとの反応により得られる脂肪酸エステルを硫化することにより得られるものである。硫化油脂と同様、化学構造そのものは明確でない。
【0047】
チアジアゾールは含窒素硫黄複素環化合物であり特に構造は限定されない。含窒素複素環系化合物は高吸着性を有し、少量でも高い耐焼付き性向上効果を得られるため好ましい。例えば、下記一般式(5)で示される1,3,4-チアジアゾール化合物、下記一般式(6)で示される1,2,4-チアジアゾール化合物、及び一般式(7)で示される1,4,5-チアジアゾール化合物が挙げられる。
【化1】
上記式(5)~(7)中、R
1~R
6は、互いに独立に、水素原子又は炭素数1~30の一価炭化水素基であり、a、b、c、d、e及びfはそれぞれ0~8の整数である。
【0048】
炭素数1~30の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができる。
【0049】
該チアジアゾールとしては、例えば、2-アミノ-5-メチル-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ジメチル-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ジエチル-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ビス(n-ヘキシルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ビス(n-オクチルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ビス(n-ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ビス(1,1,3,3-テトラメチルブチルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、3,5-ビス(n-ヘキシルジチオ)-1,2,4-チアジアゾール、3,5-ビス(n-オクチルジチオ)-1,2,4-チアジアゾール、3,5-ビス(n-ノニルジチオ)-1,2,4-チアジアゾール、3,5-ビス(1,1,3,3-テトラメチルブチルジチオ)-1,2,4-チアジアゾール、4,5-ビス(n-ヘキシルジチオ)-1,2,3-チアジアゾール、4,5-ビス(n-オクチルジチオ)-1,2,3-チアジアゾール、4,5-ビス(n-ノニルジチオ)-1,2,3-チアジアゾール、4,5-ビス(1,1,3,3-テトラメチルブチルジチオ)-1,2,3-チアジアゾール及びこれらの混合物などが挙げられる。中でも2,5-ビス(1,1,3,3-テトラメチルブチルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールが好ましい。
【0050】
(D)無灰分散剤
本発明において使用する(D)無灰分散剤は、従来公知のものを使用すればよく、特に制限されるものでない。
【0051】
無灰分散剤は、ホウ素を有さなくてもよいし、ホウ素を有していてもよい。例えば、炭素数40~400の、直鎖構造又は分枝構造を有するアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体、あるいはアルケニルコハク酸イミドの変性品等が挙げられる。無灰分散剤は1種類を単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。また、ホウ素化無灰分散剤を使用することもできる。ホウ素化無灰分散剤は潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤をホウ素化したものである。ホウ素化は一般に、含窒素化合物にホウ酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和することにより行われる。
上記アルキル基又はアルケニル基の炭素数は、好ましくは40~400であり、より好ましくは60~350である。アルキル基及びアルケニル基の炭素数が前記下限値未満であると、化合物の潤滑油基油に対する溶解性が低下する傾向にある。また、アルキル基及びアルケニル基の炭素数が上記上限値を超えると、潤滑油組成物の低温流動性が悪化する傾向にある。上記アルキル基及びアルケニル基は、直鎖構造を有していても分枝構造を有していてもよい。好ましい態様としては、例えば、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマー、エチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基又は分枝状アルケニル基等が挙げられる。
コハク酸イミドには、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとがある。本発明の潤滑油組成物は、モノタイプ及びビスタイプのうちいずれか一方を含有してもよいし、あるいは双方を含有してもよい。
【0052】
例えば、ホウ素化コハク酸イミドの製造方法としては、特公昭42-8013号公報及び同42-8014号公報、特開昭51-52381号公報、及び特開昭51-130408号公報等に開示されている方法等が挙げられる。具体的には例えば、アルコール類やヘキサン、キシレン等の有機溶媒、軽質潤滑油基油等にポリアミンとポリアルケニルコハク酸(無水物)にホウ酸、ホウ酸エステル、又はホウ酸塩等のホウ素化合物を混合し、適当な条件で加熱処理することにより得ることができる。この様にして得られるホウ素化コハク酸イミドに含まれるホウ素含有量は通常0.1~4質量%とすることができる。特に、アルケニルコハク酸イミド化合物のホウ素変性化合物(ホウ素化コハク酸イミド)は耐熱性、酸化防止性及び摩耗防止性に優れるため好ましい。
【0053】
ホウ素化無灰分散剤中に含まれるホウ素含有量は、特に制限はないが、0.01質量%~7質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましい。ホウ素化無灰分散剤として好ましくはホウ素化コハク酸イミドであり、特にはホウ素化ビスコハク酸イミドが好ましい。ホウ素化無灰分散剤は、ホウ素/窒素質量比(B/N比)は特に制限されないが、0.1以上、好ましくは0.2以上を有するものであり、好ましくは0.5未満、より好ましくは0.4以下を有するものが好ましい。
なお、2種類以上の無灰分散剤を使用する場合は、無灰分散剤全量中に有するホウ素含有量が0.3質量%以下であればよく、たとえば、ホウ素を0.5質量%有する無灰分散剤と、ホウ素を有しない無灰分散剤とを半量ずつ混合した場合は、無灰分散剤中のホウ素含有量が0.25質量%となるので、(D)成分の要件を満たす。
【0054】
(D)成分は、潤滑油組成物中に0.1~3質量%有することが好ましく、0.1~2質量%有することがさらに好ましく、0.2~1質量%有することが最も好ましい。
【0055】
(E)官能基を有するポリジエン
本発明の潤滑油組成物は(E)数平均分子量500~3000を有し、少なくとも1の末端に官能基を有するポリジエンを有することを特徴とする。該共重合体は、油膜形成ポリマーとしての役割を有し、官能基を含むことにより、摩擦を低減でき、且つ、油膜を維持して疲労寿命を向上することができる。
【0056】
(E)成分は、ポリジエンの分子鎖の少なくとも1の末端が官能基の導入により変性されたものである(以下、末端変性ポリジエンということがある)。ポリジエンとは、単量体ジエンを(共)重合して得られたものであり、飽和ポリジエンとは、前記のようにして得られたポリジエンの炭素-炭素二重結合が水素化により飽和された水素化物である。本発明の潤滑油組成物は該末端変性ポリジエンを含むことを特徴とする。当該末端変性ポリジエンは、末端変性不飽和ポリジエンであってもよいし、末端変性飽和ポリジエンであってもよい。なお、潤滑油基油への溶解性の観点からは、末端変性飽和ポリジエンを使用することが好ましい。官能性基を有するポリジエンは、摺動面に吸着し、部分的に組成物を高粘度化させて、潤滑油組成物の油膜厚さを厚くする。これにより、低粘度化した潤滑油組成物における、ギア歯面やベアリングの金属疲労や摩耗を抑制、部品保護性能を向上することができる。
【0057】
末端変性飽和ポリジエンの数平均分子量は500~3000である。より好ましくは600~2500であり、最も好ましくは800~2000である。数平均分子量が上記下限値未満では、耐金属疲労特性が悪くなるという問題があり、数平均分子量が上記上限値を超えると、増粘効果が大きくなって省燃費性が阻害されるという問題があり、好ましくない。数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレンを標準物質とした値である。
【0058】
前記単量体ジエンとしては、炭素数4~10の不飽和結合を少なくとも2個有する炭化水素を挙げることができる。例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン,2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、4,5-ジメチル-1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、クロロプレン等の共役ジエン、および、1,4-ペンタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン等の非共役ジエンを挙げることができる。金属疲労寿命の延長にとって有効な末端変性ポリジエンを提供するための観点から、好ましい単量体ジエンは、共役ジエンであり、さらに好ましいジエンは1,3-ブタジエンおよびイソプレンである。
【0059】
かかる単量体ジエンを重合して得られるポリジエンの構造は、例えば、ポリブタジエンの場合、1,2-付加によるもの、または、1,4-付加により得られるものでもよい。また、両者が混在したものでもよい。
【0060】
本発明における飽和ポリジエンは、上記単量体ジエンの重合体のほか、単量体ジエンと他の単量体との共重合体であってもよい。かかる単量体ジエンと共重合する他の単量体としては、例えば、ビニル系芳香族炭化水素が好ましく、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、t-ブチルスチレン等が挙げられる。
【0061】
上記の通り、(E)成分は、ポリジエンの分子鎖の少なくとも1の末端が官能基の導入により変性されたものである。ポリジエン分子鎖の片末端のみに官能基が導入されたものでも、ポリジエン分子鎖の両末端に官能基が導入されたものでもよい。さらに、ポリジエン分子鎖が分岐を有する場合は、該分岐鎖末端に官能基が導入されたものでもよい。金属疲労寿命を延長し、維持する作用を促進する観点からは、少なくとも両末端に官能基が導入されていることが好ましい。
【0062】
本発明における官能基とは、酸素、イオウ、窒素およびリンからなる群より選択される少なくとも一種のヘテロ原子を含有する官能基が挙げられる。好ましい官能基としては、カルボキシル基、エステル基、無水カルボキシル基、水酸基、グリシジル基、ウレタン基及びアミノ基等を挙げることができる。中でも、金属疲労寿命の改善の観点から、特に好ましくは、カルボキシル基、水酸基、グリシジル基またはアミノ基であり、最も好ましいのは水酸基である。
【0063】
官能基の数は、ポリジエン1分子あたり、平均1~10個であり、好ましくは1.5個以上である。官能基数が平均1に達しないと油膜形成能を十分に発揮できず金属疲労寿命が著しく短くなり、一方、平均10個を超えると溶解性の低下の問題が生ずるおそれがある。
【0064】
上記の通り、飽和ポリジエンは、ポリジエンの主鎖にある炭素-炭素二重結合が水素化されたものである。水素化の程度は、ヨウ素価または臭素価のレベルで判定することができる。ヨウ素価が100以下、または臭素価が63以下であることが好ましく、少なくともいずれかを満たせばよい。ヨウ素価としては、特に、好ましくは80以下であり、さらに好ましくは20以下である。水素化の程度が小さいと、極性の低い基油への溶解性が劣るという難点がある。なお、水素化はポリジエン主鎖にある二重結合において選択的に行なわれるのがよく、官能基の水素化は回避されるが好ましい。なお、ヨウ素価および臭素価は、それぞれASTM D 1959およびJISK 2605に準拠して測定することができる。
【0065】
末端変性飽和ポリジエンは、より詳細には、下記式(8)で表される化合物を挙げることができる。
【化2】
式(8)中、Xは一価の官能基であり、Yは水素原子または一価の官能基である。Yが水素原子の場合は片末端に官能基が導入されたポリジエンとなり、Yが一価の官能基である場合は両末端に官能基が導入されたポリジエンとなる。一価官能基は上述した通りであり、好ましくは、カルボキシル基、水酸基、無水カルボキシル基、エステル基、アミノ基、及びグリシジル基等が挙げられる。R
1は、炭素数1~6の一価炭化水素基である。好ましくは、直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基であり、特にはアルキル基が好ましい。mは、0または1~100、好ましくは10~60の整数であり、nは、0または1~100、好ましくは10~60の整数である。上記末端変性飽和ポリジエンは、市場において適合するものを選択し、入手することができる。
【0066】
本発明の潤滑油組成物において(E)成分の配合量は、潤滑油組成物全体の質量に対して0.6~4.0質量%であり、好ましくは0.8~3.8質量%であり、さらに好ましくは1.0~3.6質量%である。(E)成分の配合量が上記下限値未満では、金属疲労寿命を改善する効果が不十分となる。また上記上限値を超えても、金属疲労寿命の改善効果がさらに増加することはほとんどなく、却って粘度が増加して弊害が生ずるおそれがあり好ましくない。
【0067】
(F)モリブデンを有する摩擦調整剤
本発明の潤滑油組成物においては、さらに(F)モリブデンを有する摩擦調整剤を有することが好ましい。(F)モリブデンを有する摩擦調整剤は従来公知の化合物であればよく、特に制限されない。例えば、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)およびモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)等の硫黄を含有する有機モリブデン化合物、モリブデン化合物と硫黄含有有機化合物又はその他の有機化合物との錯体、ならびに硫化モリブデンおよび硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等を挙げることができる。上記モリブデン化合物としては、例えば、二酸化モリブデンおよび三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸および(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩およびアンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデンおよびポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩又はアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等が挙げられる。上記硫黄含有有機化合物としては、例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイドおよび硫化エステル等が挙げられる。特に、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)およびモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)等の有機モリブデン化合物が好ましい。
【0068】
モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)は下記式[I]で表される化合物であり、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)は下記[II]で表される化合物である。
【0069】
【0070】
【0071】
上記一般式[I]および[II]において、R1~R8は、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1~30の一価炭化水素基である。炭化水素基は直鎖状でも分岐状でもよい。該一価炭化水素基としては、炭素数1~30の直鎖状または分岐状アルキル基;炭素数2~30のアルケニル基;炭素数4~30のシクロアルキル基;炭素数6~30のアリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基等を挙げることができる。アリールアルキル基において、アルキル基の結合位置は任意である。より詳細には、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基およびオクタデシル基等、およびこれらの分岐状アルキル基を挙げることができ、特に炭素数3~8のアルキル基が好ましい。また、X1およびX2は酸素原子または硫黄原子であり、Y1およびY2は酸素原子または硫黄原子である。
【0072】
(F)成分として、硫黄を含まない有機モリブデン化合物も使用できる。このような化合物としては、例えば、モリブデン-アミン錯体、モリブデン-コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、およびアルコールのモリブデン塩等が挙げられる。
【0073】
さらに本発明におけるモリブデンを有する摩擦調整剤(F)として、米国特許第5,906,968号に記載されている三核モリブデン化合物を用いることもできる。
【0074】
潤滑油組成物中における(F)成分の量は、モリブデン原子の量として100ppm~1500ppmであるのが好ましく、より好ましくは200ppm~1400ppmであり、最も好ましくは250ppm~1300ppmである。上記下限値よりも少ない場合には、長期摩擦特性が高くなることがある。上記上限値より多い場合には、デポジットが発生して清浄性に劣ることがある。
【0075】
なお、本発明においては、低摩擦化を実現させるために、(B)成分として、(B3)アルキル基を1つ又は2つ有し、該アルキル基がいずれも炭素数4~10を有する、酸性リン酸エステル及び、(B4) 亜リン酸エステル、(B5) ホスホン酸エステルから選ばれる少なくとも1種を含み、さらに(F)成分として、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)およびモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
これにより、摩耗特性、耐スコーリング性に加え、低摩擦化を実現させることができ、さらなる省燃費化に寄与することが可能となる。
【0076】
その他の添加剤
本発明の潤滑油組成物は、上記(A)~(F)成分に加えて、その他の公知の添加剤を含有することができる。例えば、前記(F)成分以外の摩擦調整剤、摩耗防止剤、金属清浄剤、無灰分散剤、極圧剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、粘度指数向上剤、消泡剤、流動点降下剤、抗乳化剤、及び、防錆剤を挙げることができる。これらの添加剤は1種単独でも、2種以上の併用であってもよい。
【0077】
(F)成分に該当しない摩擦調整剤としては、例えばエステル、アミン、アミド、及び硫化エステルなどが挙げられる。上記摩擦調整剤を使用する場合は、通常、潤滑油組成物中に0.01~3質量%で配合される。
【0078】
摩耗防止剤としては、従来公知のものを使用することができる。中でも、リンを有する摩耗防止剤が好ましく、特には下記式で示されるジチオリン酸亜鉛(ZnDTP(ZDDPともいう))が好ましい。
【0079】
【0080】
上記式において、R1及びR2は、各々、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子または炭素数1~26の一価炭化水素基である。一価炭化水素基としては、炭素数1~26の第1級(プライマリー)または第2級(セカンダリー)アルキル基;炭素数2~26のアルケニル基;炭素数6~26のシクロアルキル基;炭素数6~26のアリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基;またはエステル結合、エーテル結合、アルコール基またはカルボキシル基を含む炭化水素基である。R1及びR2は、好ましくは炭素数2~12の、第1級または第2級アルキル基、炭素数8~18のシクロアルキル基、炭素数8~18のアルキルアリール基であり、各々、互いに同一であっても異なっていてもよい。特にはジアルキルジチオリン酸亜鉛が好ましく、第1級アルキル基は、炭素数3~12を有することが好ましく、より好ましくは炭素数4~10である。第2級アルキル基は、炭素数3~12を有することが好ましく、より好ましくは炭素数3~10である。上記ジチオリン酸亜鉛は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。また、ジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)を組合せて使用してもよい。
【0081】
摩耗防止剤を使用する場合は、潤滑油組成物中に、通常0.1~5.0質量%で、好ましくは0.2~3.0質量%で配合される。なお、潤滑油組成物中におけるリン量は、限定されないが、100~1500ppmであることが好ましく、200~1400ppmであることがより好ましく、300~1300ppmであることが最も好ましい。
【0082】
金属清浄剤としては、公知のものが使用できる。たとえば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を有する清浄剤を使用することができる。アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、及びバリウムを使用することが好ましい。
【0083】
金属清浄剤としては、例えば、ナトリウムサリシレート、ナトリウムスルホネート、ナトリウムフェネート、ナトリウムカルボキシレート、カルシウムサリシレート、カルシウムスルホネート、カルシウムフェネート、カルシウムカルボキシレート、マグネシウムサリシレート、マグネシウムスルホネート、マグネシウムフェネート、及びマグネシウムカルボキシレートが挙げられる。これらのうち、カルシウムサリシレート、カルシウムスルホネート、カルシウムフェネート、カルシウムカルボキシレート、マグネシウムサリシレート、マグネシウムスルホネート、マグネシウムフェネート、及びマグネシウムカルボキシレートが好ましく、カルシウムサリシレート、カルシウムスルホネート、マグネシウムサリシレート、及びマグネシウムスルホネートがより好ましい。これら金属清浄剤は、1種単独であっても、2種以上の併用であってもよい。2種以上を併用する場合は、同一の種類(たとえば、カルシウムサリシレート)で塩基価が異なるものを使用することもできる。また、併用する場合は、カルシウムサリシレート、カルシウムスルホネートから選ばれる1種と、マグネシウムサリシレート、マグネシウムスルホネートから選ばれる1種とを混合するように、カルシウム清浄剤とマグネシウム清浄剤との併用であってもよい。
【0084】
上記金属清浄剤の塩基価は、5~450mg/KOH・gが好ましく、70~400mg/KOH・gがより好ましく、100~400mg/KOH・gが最も好ましい。
【0085】
金属不活性化剤は、公知の物を使用することができる。たとえば、ベンゾトリアゾール、1,3,4-チオジアゾリル-2,5-ビスジアルキルジチオカーバメートなどが挙げられる。金属不活性化剤は、特に限定されないが、潤滑油組成物中に0.01~5質量%で配合されることが好ましい。
【0086】
粘度指数向上剤は、公知の物を使用することができる。粘度指数向上剤として、例えば、ポリメタアクリレート、分散型ポリメタアクリレート、オレフィンコポリマー(ポリイソブチレン、エチレン-プロピレン共重合体)、分散型オレフィンコポリマー、ポリアルキルスチレン、スチレン-ブタジエン水添共重合体、スチレン-無水マレイン酸エステル共重合体、星状イソプレン等を含むものが挙げられる。さらに、少なくともポリオレフィンマクロマーに基づく繰返し単位と炭素数1~30のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに基づく繰返し単位とを主鎖に含む櫛形ポリマーを用いることもできる。
【0087】
粘度指数向上剤は通常、上記ポリマーと希釈油とから成る。低粘度化に図る必要がない場合には、特に限定されないが、0.001~20質量%添加することが好ましく、0.1~20質量%添加することがより好ましく、1~15質量%添加することが好ましい。ただし、低粘度化を図る場合には、添加しないことが好ましく、添加する場合であっても潤滑油組成物中に0.001~1質量%とすることが好ましく、0.001~0.5質量とすることがより好ましい。
【0088】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1000~10万mm2/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo-ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。消泡剤の含有量は、限定されることはないが、潤滑油組成物中に0.001~1質量%で配合される。
【0089】
流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマー等が使用できる。流動点降下剤の含有量は、限定されることはないが、潤滑油組成物中に0.01~3質量%で配合されることが好ましい。
【0090】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。抗乳化剤の含有量は、限定されることはないが、潤滑油組成物中に0.01~5質量%で配合されることが好ましい。
【0091】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。防錆剤の含有量は、限定されることはないが、潤滑油組成物中に0.01~5質量%で配合されることが好ましい。
【0092】
潤滑油組成物
潤滑油組成物の動粘度は省燃費性を確保するため、100℃の動粘度が2~10mm2/sであり、2~8mm2/sであることが好ましく、3~8mm2/sであることが好ましい。
潤滑油組成物中の硫黄含有量は、限定的ではないが、0.3~5質量%が好ましく、0.4~4質量%がより好ましく、0.5~3質量%がさらに好ましい。
潤滑油組成物中のリン含有量は、限定的ではないが、200~2000ppmが好ましく、200~1900質量ppmがより好ましく、300~1700質量ppmがさらに好ましい。
潤滑油組成物中のモリブデン含有量は、限定的ではないが、100~1500ppmが好ましく、100~1200質量ppmがより好ましく、250~1000質量ppmが最も好ましい。
【0093】
本発明の潤滑油組成物は、特に限定されることはないが、自動車用潤滑油、特にハイブリッド自動車用潤滑油として好適に使用することができる。
また、本発明の潤滑油組成物は、特に、変速機油用潤滑油、ギヤ油用潤滑油として好適に使用することができる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
実施例及び比較例の潤滑油組成物を構成する各成分は以下の通りである。
(A)潤滑油基油
(A1)GTL基油(以下、「GTL-8」と記載することがある。)
(100℃の動粘度=8.0mm2/s、粘度指数=124、%Cp=100%、%Cn=0%)
(A2)GTL基油(以下、「GTL-4」と記載することがある。)
(100℃の動粘度=4.2mm2/s、粘度指数=122、%Cp=100%、%Cn=0%)
(B)リン系極圧剤
(B1)リン酸エステルアミン塩(炭素数8~12のアルキル基を有するものの混合物)
(B2)チオリン酸エステルアミン塩(炭素数8~12のアルキル基を有するものの混合物)
(B3)炭素数4のアルキル基を有する酸性リン酸エステル(以下、「C4アルキル酸性リン酸エステル」と記載することがある。)
(B4)炭素数4のアルキル基を有する亜リン酸エステル(以下、「C4亜リン酸エステル」と記載することがある。)
(B5)炭素数18のアルキル基を有するホスホン酸エステル(以下、「C18ホスホン酸エステル」と記載することがある。)
(C)硫黄系極圧剤
(C1)硫化オレフィン(活性硫黄量;11質量%)
(C2)硫化エステル (活性硫黄量;1.4質量%)
(C3)硫化油脂 (活性硫黄量;4.1質量%)
(D)無灰分散剤
(D1)ポリイソブテニルコハク酸イミド(ビスイミドタイプ、ポリブテニル基の分子量2,000、窒素1.7質量%、ホウ素1.9質量%)
(D2)ポリイソブテニルコハク酸イミド(ビスイミドタイプ、ポリブテニル基の分子量3,000、窒素3.0質量%、ホウ素1.3質量%)
(E)末端に官能基を有するポリジエン
(E1)両末端水酸基含有飽和ポリブテン(数平均分子量(Mn)1000)
(E2)両末端水酸基含有飽和ポリブテン(数平均分子量(Mn)3000)
(E3)両末端カルボキシル基含有飽和ポリブテン(数平均分子量(Mn)1000)
(E4)両末端水酸基含有不飽和ポリブテン(数平均分子量1000(Mn))
(E5)末端未変性飽和ポリブテン(数平均分子量(Mn)3000)(比較用)
(E6)両末端ウレタン基含有飽和ポリブテン(数平均分子量(Mn)1000)
(F)モリブデン摩擦調整剤
(F1)モリブデンジチオカーバメート(MoDTC、モリブデン含有量10質量%)
(F2)モリブデンジチオホスフェート(MoDTP、モリブデン含有量 9質量%)
(G)その他の添加剤
オレイン酸アミド、流動点降下剤
【0095】
[実施例1~13、比較例1及び2、並びに参考例1及び2]
上記した各成分を表1~3記載の組成及び量で配合して潤滑油組成物を調整した。配合量は、潤滑油組成物全量(100質量部)に対する質量部であるが、ppmで表記したものは潤滑油組成物全量に対する各元素量(ppm)である。これらの潤滑油組成物について下記の試験を行った。結果を表1~3に示す。尚、参考例1及び2は、100℃での動粘度11.4mm2/sを有する、従来の潤滑油組成物である。該組成物についても同じ試験を行った。
(1)40℃と100℃における動粘度(KV40、KV100)
ASTM D445に準拠して測定した。
(2)粘度指数
JIS K2283に準拠して測定した。
(3)摩擦係数:
プレート試験片(材質:AISI 52100 steel)からなるPCS Instruments社製標準試験片と、相手となる直径0.75インチのボール試験片(材質:AISI 52100 steel)からなるPCS Instruments社製標準試験片を用いて、各潤滑油組成物についてボールオンディスク摩擦試験を行った。試験荷重37N、すべり率50%、油温100℃一定)として、ボールオンディスク摩擦試験を行い、試験開始直後のすべり速度0.4m/sでの平均摩擦係数を本試験における摩擦係数とした。摩擦係数が0.05以下のものを合格とした。
(4)摩耗痕径
ASTM D4172で規定される四球摩耗試験機を用い、油温40℃、荷重40kgf、回転数:100rpm、時間60分の条件で試験を行い、試験終了後の摩耗痕径を測定した。摩耗痕径は0.40mm以下であれば良好である。
(5)スコーリング性評価
ASTM D4172で規定される四球摩耗試験機を用い、以下の条件で試験を行い、焼付きが発生した時の回転数を記録した。油温:室温、荷重:100kgf、回転数:30秒ごとに100rpmずつ増加。回転数(rpm)が1000以上となった場合を合格とした。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
上記表3の比較例1に示す通り、参考例1及び2に示すような従来品の組成を有する潤滑油組成物の粘度を下げると、摩擦係数が大きくなってしまう。また、比較例2に示す通り、比較例1の潤滑油組成物の組成に、末端に官能基を一つも有さない飽和ポリジエン(E5)を配合しても、摩擦係数は大きいままであった。これに対し、表1及び2に示す通り、末端に官能基を有するポリジエンを含有する本発明の潤滑油組成物は、低粘度を有しながら、参考例と同等に摩擦係数が低く、且つ、耐摩耗性及び耐スコーリング性にも優れていた。更には、本発明の潤滑油組成物は、表2の実施例9~13に示すように、特定のリン系極圧剤(B3)~(B5)をさらに配合することにより、低粘度及び低摩擦を有し、且つ、耐摩耗性及び耐スコーリング性を更に向上することができる。