(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】SiC被覆ケイ素質材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/42 20060101AFI20230413BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
C23C16/42
C04B41/87 G
(21)【出願番号】P 2018045520
(22)【出願日】2018-03-13
【審査請求日】2021-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】石橋 佑基
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-092761(JP,A)
【文献】特開昭59-203799(JP,A)
【文献】特開昭60-224783(JP,A)
【文献】特開2003-257960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/42
C04B 41/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素質基材に1150℃以下の温度で第1のSiC層を被覆する第1製膜工程と、
前記ケイ素質基材に1200~1400℃の温度で第2のSiC層をCVD法で被覆する第2製膜工程と、からなり、
前記第1製膜工程では、厚さ0.5μm以上40μm以下の第1のSiC層を製膜し、
前記第2成膜工程では、厚さ50μm以上5000μm以下の第2のSiC層を製膜し、
前記ケイ素質基材は、セラミック繊維を有する複合材である
ことを特徴とするSiC被覆ケイ素質材の製造方法。
【請求項2】
前記第1製膜工程は、CVD法により行う請求項1に記載のSiC被覆ケイ素質材の製造方法。
【請求項3】
前記ケイ素質基材は、シリコンの内部に骨材として前記セラミック繊維を有する複合材である請求項1又は2に記載のSiC被覆ケイ素質材の製造方法。
【請求項4】
前記ケイ素質基材は、炭素源を隙間に含む前記セラミック繊維に溶融シリコンを含浸させて、シリコンと炭素源を反応させて反応焼結SiCを生成してなるSiC/SiC複合材である請求項1又は2に記載のSiC被覆ケイ素質材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC被覆ケイ素質材の製造方法、及び、SiC被覆ケイ素質材に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCは、耐熱性、耐酸化性などに優れているために、様々な素材の表面にCVD法で被覆されて使用されている。
基材としては、焼結体のSiC、炭素、C/C複合材、SiC/SiC複合材などが適用されており、基材の持つ性能を生かし、弱点をCVD-SiCの被覆を形成することにより補って、様々な用途で使用されている。
【0003】
特許文献1には、溶融ケイ素を用いて繊維含有プリフォームに含浸させる溶融含浸(MI)法によるセラミックマトリックス複合材をCVD-SiCで改良する技術が記載されている。
溶融含浸法で製造されたSiC/SiC複合材は、炭素源を隙間に含むSiC繊維に濡れ性の高い溶融シリコンを含浸しているので、シリコンが隙間なく充填されている一方、含浸されたシリコンは完全に反応しにくく、遊離ケイ素として残留している。
このような遊離ケイ素が耐クリープ性を低下させるため、遊離ケイ素を有しないセラミックマトリックス材料中にセラミック繊維強化材料を外側層として含む構成のセラミックマトリックス複合材物品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、セラミック繊維にシリコンの溶融含浸プロセスを適用した後に化学気相成長プロセス(CVD)による気相含浸(CVI)を用いている。
セラミック繊維としてSiC繊維等を使用していて、溶融含浸するシリコンとセラミック繊維間の濡れ性が高い場合には、セラミック繊維間にシリコンが隙間なく含浸され、表面が完全にシリコンで覆われる。この場合、隙間のないシリコンの基材の上にCVD-SiCの被覆が形成された状態となり、セラミック繊維とCVD-SiCとの接触が形成されない。
このような構造であると、シリコンとシリコンの上に形成されたCVD-SiCの被覆との接合力が弱いと、CVD-SiCの被覆が剥がれてしまうことがある。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑み、シリコンあるいはケイ素質の基材の上に強固なCVD-SiC被覆を形成することのできる、SiC被覆ケイ素質材の製造方法、及び、強固なCVD-SiC被覆が形成されたSiC被覆ケイ素質材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のSiC被覆ケイ素質材の製造方法は、ケイ素質基材に1150℃以下の温度で第1のSiC層を被覆する第1製膜工程と、
ケイ素質基材に1200~1400℃の温度で第2のSiC層をCVD法で被覆する第2製膜工程と、からなることを特徴とする。
【0008】
本発明のSiC被覆ケイ素質材の製造方法では、ケイ素質基材に対して、1150℃以下の低温で第1のSiC層を被覆する第1製膜工程と、さらに1200~1400℃の高温でCVD法により第2のSiC層を被覆する第2製膜工程を行う。
ケイ素質基材に対して1150℃以下の低温で第1のSiC層を被覆すると、シリコンの蒸発を抑制した状態でのSiC層の被覆を行うことができる。
その後1200~1400℃の高温で第2のSiC層をCVD法で形成すると、厚いSiC層を効率よく形成することができる。また、第2製膜工程では、シリコンの蒸発が第1のSiC層によって抑制されているために原料ガスの成分比が崩れないので、異質の層が形成されにくくなる。そのため、表面が剥がれにくい強固なSiC被覆が形成されたSiC被覆ケイ素質材を得ることができる。
【0009】
本発明のSiC被覆ケイ素質材の製造方法において、上記第1製膜工程では、厚さ0.5μm以上の第1のSiC層を製膜することが好ましい。
【0010】
第1のSiC層の厚さが0.5μm以上であると、ケイ素質基材からのシリコンの蒸発を充分に抑えることができるので、第2製膜工程でより均質な第2のSiC層を形成することができる。
【0011】
本発明のSiC被覆ケイ素質材の製造方法において、上記第1製膜工程は、CVD法により行うことが好ましい。
本発明のSiC被覆ケイ素質材の製造方法において、第1製膜工程の方法は限定されるものではないが、第1製膜工程がCVD法であると、第2製膜工程もCVD法で行われるため、同一のCVD製膜装置を使用して連続的に第1製膜工程と第2製膜工程を行うことができるために好ましい。また、第1のSiC層と第2のSiC層が共にCVDにより形成された層であると、第1のSiC層と第2のSiC層の適合性がよく、より強固なSiC被覆が形成されたSiC被覆シリコン基材を得ることができる。
【0012】
本発明のSiC被覆ケイ素質材の製造方法において、上記第1のSiC層は、上記第2のSiC層よりも厚さが薄いことが好ましい。
【0013】
低温で行われる第1の製膜工程は、第2の製膜工程よりも製膜速度が遅くなるので、第1のSiC層の厚さを、第2のSiC層よりも薄くすることにより、全体の製膜にかかる時間を短縮することができる。
【0014】
本発明のSiC被覆ケイ素質材の製造方法において、上記ケイ素質基材は、シリコンのみからなることが好ましい。
【0015】
ケイ素質基材がシリコンのみからなると、シリコンに光透過性がないのでSiC被覆ケイ素質材を光透過性のない半導体治具に用いるために適している。また、半導体治具の表面のSiC層を剥離しにくくすることができる。
【0016】
本発明のSiC被覆ケイ素質材の製造方法において、上記ケイ素質基材は、シリコンの内部に骨材を有する複合材であることが好ましい。
【0017】
ケイ素質基材が、シリコンの内部に骨材を有する複合材であると、高強度のSiC被覆ケイ素質材を得ることができる。
【0018】
本発明のSiC被覆ケイ素質材の製造方法において、上記ケイ素質基材は、マトリックスが反応焼結SiCであるSiC/SiC複合材であることが好ましい。
【0019】
ケイ素質基材を構成するSiC/SiC複合材のマトリックスが反応焼結SiCであると、SiC繊維が強度を確保し、溶融シリコンを用いて内部までマトリックスが形成されているので、高強度のSiC被覆ケイ素質材を得ることができる。
【0020】
本発明のSiC被覆ケイ素質材は、ケイ素質基材の表面に第1のSiC層が設けられ、上記第1のSiC層の表面に第2のSiC層が設けられたSiC被覆ケイ素質材であって、
上記第1のSiC層は上記第2のSiC層よりも厚さが薄いことを特徴とする。
【0021】
ケイ素質基材の表面に第1のSiC層が形成されていると、第2のSiC層が形成される過程でシリコンの蒸発が抑制されるので、剥がれにくい強固なSiC被覆が形成されたSiC被覆ケイ素質材となる。
【0022】
本発明のSiC被覆ケイ素質材では、上記第1のSiC層の厚さは0.5μm以上であることが好ましい。
【0023】
第1のSiC層の厚さが0.5μm以上であると、ケイ素質基材からのシリコンの蒸発を充分に抑えた状態で第2のSiC層の形成がされるので、より均質な第2のSiC層を有するSiC被覆ケイ素質材となる。
【0024】
本発明のSiC被覆ケイ素質材では、上記第1のSiC層は上記第2のSiC層よりも緻密な層であることが好ましい。
第1のSiC層が緻密な層であると、ケイ素質基材からのシリコンの蒸発を充分に抑えた状態で第2のSiC層の形成がされるので、より均質な第2のSiC層を有するSiC被覆ケイ素質材となる。
【0025】
本発明のSiC被覆ケイ素質材において、上記ケイ素質基材は、シリコンのみからなることが好ましい。
【0026】
ケイ素質基材がシリコンのみからなり、剥がれにくい強固なSiC被覆が形成されたSiC被覆ケイ素質材は光透過性のない半導体治具に用いるために適している。
【0027】
本発明のSiC被覆ケイ素質材において、上記ケイ素質基材は、シリコンの内部に骨材を有する複合材であることが好ましい。
【0028】
ケイ素質基材がシリコンの内部に骨材を有する複合材であると、高強度のSiC被覆ケイ素質材とすることができる。
【0029】
本発明のSiC被覆ケイ素質材において、上記ケイ素質基材は、マトリックスが反応焼結SiCからなるSiC/SiC複合材であることが好ましい。
【0030】
ケイ素質基材を構成するSiC/SiC複合材のマトリックスが反応焼結SiCであると、SiC繊維が強度を確保し、溶融シリコンを用いて内部までマトリックスが形成されているので、高強度のSiC被覆ケイ素質材とすることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、シリコンあるいはケイ素質の基材の上に強固なCVD-SiC被覆を形成することのできる、SiC被覆ケイ素質材の製造方法、及び、強固なCVD-SiC被覆が形成されたSiC被覆ケイ素質材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、本発明のSiC被覆ケイ素質材の一部を示す断面顕微鏡写真である。
【
図2】
図2は
図1における破線部を拡大した断面顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、比較例1で得たSiC被覆ケイ素質材の断面顕微鏡写真である。
【
図4】
図4は、比較例1で得られたSiC被覆ケイ素質材のSiC層が繊維状の堆積物の層で剥離した表面の顕微鏡写真である。
【0033】
(発明の詳細な説明)
以下、本発明について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0034】
まず、本発明のSiC被覆ケイ素質材の製造方法により製造することのできる、本発明のSiC被覆ケイ素質材について説明する。
本発明のSiC被覆ケイ素質材は、ケイ素質基材の表面に第1のSiC層が設けられ、上記第1のSiC層の表面に第2のSiC層が設けられたSiC被覆ケイ素質材であって、
上記第1のSiC層は上記第2のSiC層よりも厚さが薄いことを特徴とする。
【0035】
図1は、本発明のSiC被覆ケイ素質材の一部を示す断面顕微鏡写真であり、
図2は
図1における破線部を拡大した断面顕微鏡写真である。
図1及び
図2に示すSiC被覆ケイ素質材は後述する実施例1で製造したSiC被覆ケイ素質材である。
図2には、ケイ素質基材の表面に第1のSiC層が設けられ、第1のSiC層の表面に第2のSiC層が設けられていることが示されている。
図1及び
図2から、第1のSiC層の厚さが第2のSiC層より薄いことがわかる。
また、第1のSiC層は第2のSiC層よりも緻密な層となっていることが好ましい。
本発明のSiC被覆ケイ素質材を構成する第2のSiC層は、第1のSiC層の表面に設けられた層であり、その厚さが厚い層である。また、第1のSiC層に比べると粗である(緻密でない)ことが好ましい。
これらについては、破断面をSEMで確認し、第2のSiC層は反射電子像の濃度が変わっている部分を境に組織が粗くなっていることで確認できる。
【0036】
本発明のSiC被覆ケイ素質材を構成するケイ素質基材は、特に限定されないが、シリコンのみからなるケイ素質基材、シリコンの内部に骨材を有する複合材、マトリックスが反応焼結SiCからなるSiC/SiC複合材が挙げられる。
マトリックスが反応焼結SiCからなるSiC/SiC複合材は、例えば溶融含浸法で得られるSiC/SiC複合材であり、未反応のSiがまとまって存在するのでSiのX線回折ピークが検出されることで確認することができる。
シリコンのみからなるケイ素質基材としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン等からなるウェハーが挙げられる。
【0037】
シリコンの内部に骨材を有する複合材としては、骨材としてはセラミック繊維、炭素繊維が挙げられ、セラミック繊維としてはSiC繊維、アルミナ繊維、ムライト繊維、及び、シリカ繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種のセラミック繊維が好ましく、SiC繊維であることがより好ましい。また、マトリックスとしては、シリコン、反応焼結SiCが挙げられる。反応焼結SiCでは、シリコンが含浸されて得られているので、表面に残留シリコンが多く存在するSiC/SiC複合材を構成する。
セラミック繊維及び炭素繊維の繊維径は5~25μmであることが好ましい。
繊維径は、ケイ素質基材の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより測定することができる。
【0038】
マトリックスが反応焼結SiCからなるSiC/SiC複合材としては、炭素源を隙間に含むSiC繊維に溶融シリコンを含浸させて、シリコンと炭素源を反応させて反応焼結SiCを生成してなる複合材が挙げられる。
【0039】
本発明のSiC被覆ケイ素質材を構成する第1のSiC層は、ケイ素質基材の表面に設けられた層であり、第2のSiC層よりも厚さが薄い層である。
第1のSiC層の厚さは0.5μm以上であることが好ましい。第1のSiC層の厚さが0.5μm以上であると、ケイ素質基材からのシリコンの蒸発を充分に抑えた状態で第2のSiC層の形成がされるので、より均質な第2のSiC層を有するSiC被覆ケイ素質材となる。
また、第1のSiC層の厚さは40μm以下であることが好ましい。
第1のSiC層を厚く形成しようとすると製膜に時間がかかるため、製造効率の観点からは厚すぎないことが好ましい。
第1のSiC層を形成する方法は特に限定されるものではないが、CVD法で形成された層であることが好ましい。
【0040】
本発明のSiC被覆ケイ素質材を構成する第2のSiC層は、第1のSiC層の表面に設けられた層であり、第1のSiC層よりも厚さが厚い層である。破断面をSEMで確認し、第2のSiC層は反射電子像の濃度が変わっている部分を境に組織が粗くなっていることで確認できる。
第2のSiC層の厚さは50μm以上であることが好ましい。第2のSiC層が、SiC被覆ケイ素質材においてSiC被覆による効果を主に発揮させるための層であるので、耐熱性、耐酸化性等の効果を発揮させるために充分な厚みが必要である。
また、第2のSiC層の厚さは5000μm以下であることが好ましい。第2のSiC層をこれ以上厚く形成したとしてもSiC被覆による効果がそれ以上向上しないと考えられる。
第2のSiC層はCVD法で形成された層であることが好ましい。
【0041】
続いて、本発明のSiC被覆ケイ素質材の製造方法について説明する。
本発明のSiC被覆ケイ素質材の製造方法は、ケイ素質基材に1150℃以下の温度で第1のSiC層を被覆する第1製膜工程と、
ケイ素質基材に1200~1400℃の温度で第2のSiC層をCVD法で被覆する第2製膜工程と、からなることを特徴とする。
【0042】
まず、ケイ素質基材を準備する。ケイ素質基材としては上記に説明した、シリコンのみからなるケイ素質基材、シリコンの内部に骨材を有する複合材、マトリックスが反応焼結SiCからなるSiC/SiC複合材等を使用することができる。
【0043】
このケイ素質基材に対して1150℃以下の温度で第1のSiC層を被覆する第1製膜工程を行う。
第1製膜工程の具体的な方法としては、CVD法によるSiC層の形成、イオンプレーティング、スパッタリングなどのPVD法によるSiC層の形成、等が挙げられる。
これらの中ではCVD法によることが好ましい。
第1製膜工程がCVD法であると、第2製膜工程もCVD法で行われるため、同一のCVD製膜装置を使用して連続的に第1製膜工程と第2製膜工程を行うことができるために好ましい。また、第1のSiC層と第2のSiC層が共にCVDにより形成された層であると、第1のSiC層と第2のSiC層の適合性がよく、より強固なSiC被覆が形成されたSiC被覆シリコン基材を得ることができる。
【0044】
第1製膜工程を1150℃以下の温度で行うと、シリコンの蒸気圧が低い状態で製膜を行うことになるため、シリコンの蒸発を抑制した状態でのSiC層の被覆を行うことができる。
第1製膜工程では、厚さ0.5μm以上の第1のSiC層を製膜することが好ましく、第1のSiC層の厚さが0.5μm以上であると、ケイ素質基材からのシリコンの蒸発を充分に抑えることができる。
また、第1製膜工程をCVD法で行う場合、1150℃以下の低温での製膜となることから製膜に時間を要する。そのため、第1のSiC層の厚さは必要以上に厚くし過ぎないようにすることが好ましく、第2製膜工程で製膜する第2のSiC層の厚さの方が厚くなる。
【0045】
続いて、1200~1400℃の高温でCVD法により第2のSiC層を被覆する第2製膜工程を行う。
第2製膜工程はCVD法により行われる。温度を1200~1400℃の高温にしているので厚いSiC層を効率よく形成することができる。また、第2製膜工程では、シリコンの蒸発が第1のSiC層によって抑制されているために原料ガスの成分比が崩れないので、異質の層が形成されにくくなる。そのため、表面が剥がれにくい強固なSiC被覆が形成されたSiC被覆ケイ素質材を得ることができる。
第2製膜工程では、厚さ50μm以上の第2のSiC層を製膜することが好ましく、第2のSiC層の厚さが50μm以上であると、SiC被覆ケイ素質材においてSiC被覆による耐熱性、耐酸化性等の効果を充分に発揮させることができる。
【0046】
なお、第1製膜工程及び第2製膜工程において、CVD法によりSiC層を形成する厚さを調整する方法としては、温度及び時間を変更する方法を採用することができる。
【0047】
(実施例)
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
(第1製膜工程)
ケイ素質基材(Si)をCVD炉に入れ、1100℃でSiCを60分間製膜した。
ここで製膜したSiC層が第1のSiC層である。
【0049】
(第2製膜工程)
次に1250℃に温度を上げて同様に60分間SiCを製膜しSiC被覆ケイ素質材を得た。
ここで製膜したSiC層が第2のSiC層である。
【0050】
得られたSiC被覆ケイ素質材を厚さ方向に切断し、断面を走査電子顕微鏡で観察した。
ケイ素質基材の上の表面に第1のSiC層が形成され、第1のSiC層の表面に第2のSiC層が形成されており、第1のSiC層と第2のSiC層が密着して形成されていることが確認された(
図1及び
図2を参照)。第1のSiC層の厚さは30μm、第2のSiC層の厚さは270μmであった。
また、第1のSiC層の厚さが第2のSiC層の厚さよりも薄く、第1のSiC層は第2のSiC層よりも緻密な層であることも確認された。
【0051】
(比較例1)
実施例と同様のケイ素質基材(Si)をCVD炉に入れ、1250℃でSiCを製膜した。
得られたSiC被覆ケイ素質材を厚さ方向に切断し、断面を走査電子顕微鏡で観察した。
図3は、比較例1で得たSiC被覆ケイ素質材の断面顕微鏡写真である。
ケイ素質基材の上にSiC層は形成されているが、繊維状の堆積物がケイ素質基材とSiC層の間に形成され、ケイ素質基材とSiC層は密着しておらず、容易に剥がれた。
【0052】
剥がれたSiC被覆ケイ素質材の表面には、繊維状の堆積物が形成されていた。
図4は、比較例1で得られたSiC被覆ケイ素質材のSiC層が繊維状の堆積物の層で剥離した表面の顕微鏡写真である。
【0053】
最初に1100℃での第1製膜工程を行い、その後1250℃での第2製膜工程を行った実施例1では、繊維状の堆積物が観察されず、層間は密着していた。一方、最初に1250℃での製膜工程を行った比較例1では、繊維状の堆積物が確認され、層間は密着していなかった。このことから、1250℃以上での製膜を最初に行うと、ケイ素質基材のSiが少しずつ蒸発してSiC被覆が剥離しやすくなることが確認された。