(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】基板処理方法および基板処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/306 20060101AFI20230413BHJP
【FI】
H01L21/306 F
H01L21/306 R
(21)【出願番号】P 2018220727
(22)【出願日】2018-11-26
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋口 鮎美
(72)【発明者】
【氏名】赤西 勇哉
【審査官】船越 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-210644(JP,A)
【文献】特開2010-265524(JP,A)
【文献】特開2004-343013(JP,A)
【文献】特開2005-191143(JP,A)
【文献】特開2005-327782(JP,A)
【文献】特開2010-270365(JP,A)
【文献】特開2013-135081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/306-21/3063
H01L 21/308
H01L 21/465-21/467
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の凹部が形成された表面を有する基板を処理する基板処理方法であって、
表面が露出するように前記凹部内に形成された処理対象層における処理対象物質の結晶粒に対するエッチング速度と、前記処理対象層における結晶粒界に対するエッチング速度とが等しいエッチング液を前記基板の表面に供給することによって、前記処理対象層の少なくとも一部をエッチングして除去する処理対象層除去工程と、
変質流体を前記基板の表面に供給することによって、表面が露出するように前記凹部内に形成された被変質層の表層を変質させて前記処理対象層を形成する処理対象層形成工程と、を含み、
前記処理対象層除去工程における前記基板の表面への前記エッチング液の供給が、前記処理対象層形成工程における前記基板の表面への変質流体の供給が停止された後に開始される、基板処理方法。
【請求項2】
前記処理対象層形成工程が、前記被変質層の表層を変質させて、1原子層または数原子層からなる前記処理対象層を形成する工程を含み、
前記処理対象層除去工程が、前記処理対象層を前記基板の表面から選択的に除去する工程を含む、請求項
1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
複数の凹部が形成された表面を有する基板を処理する基板処理方法であって、
表面が露出するように前記凹部内に形成された処理対象層における処理対象物質の結晶粒に対するエッチング速度と、前記処理対象層における結晶粒界に対するエッチング速度とが等しいエッチング液を前記基板の表面に供給することによって、前記処理対象層の少なくとも一部をエッチングして除去する処理対象層除去工程と、
変質流体を前記基板の表面に供給することによって、表面が露出するように前記凹部内に形成された被変質層の表層を変質させて前記処理対象層を形成する処理対象層形成工程と、を含み、
前記処理対象層除去工程において、前記被変質層の表層を変質させて形成された前記処理対象層をエッチングして除去
し、
前記処理対象層形成工程が、前記被変質層の表層を変質させて、1原子層または数原子層からなる前記処理対象層を形成する工程を含み、
前記処理対象層除去工程が、前記処理対象層を前記基板の表面から選択的に除去する工程を含む、基板処理方法。
【請求項4】
前記処理対象層形成工程と前記処理対象層除去工程とが交互に複数回実行される、請求項
2または3に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記エッチング液が、前記処理対象層をエッチングする際に前記処理対象物質と反応する反応化合物として、前記結晶粒界に存在する隙間よりも大きいサイズを有する化合物を主に含む、請求項1
~4のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記処理対象層形成工程が、前記変質流体としての酸化流体によって、前記被変質層としての金属層の表層を酸化させて、前記処理対象層としての酸化金属層を形成する酸化金属層形成工程を含み、
前記処理対象層除去工程が、前記エッチング液としての酸性薬液によって、前記酸化金属層を前記基板の表面から除去する酸化金属層除去工程を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項7】
前記酸性薬液が、有機酸を含む、請求項6に記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記結晶粒に対するエッチング速度と前記結晶粒界に対するエッチング速度とが等しくなるように、前記処理対象層除去工程において前記基板の表面に供給される前記エッチング液の液種を、複数の前記凹部の幅に応じて複数種のエッチング液のうちから選択するエッチング液種選択工程をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項9】
複数の凹部が形成された表面を有する基板を処理する基板処理方法であって、
表面が露出するように前記凹部内に形成された処理対象層における処理対象物質の結晶粒に対するエッチング速度と、前記処理対象層における結晶粒界に対するエッチング速度とが等しいエッチング液を前記基板の表面に供給することによって、前記処理対象層の少なくとも一部をエッチングして除去する処理対象層除去工程と、
前記結晶粒に対するエッチング速度と前記結晶粒界に対するエッチング速度とが等しくなるように、前記処理対象層除去工程において前記基板の表面に供給される前記エッチング液の液種を、複数の前記凹部の幅に応じて複数種のエッチング液のうちから選択するエッチング液種選択工程と、を含む、基板処理方法。
【請求項10】
前記処理対象層除去工程が、前記エッチング液としての塩基性薬液を供給することによって、前記処理対象層としてのポリシリコン層の表層を前記基板の表面から除去するポリシリコン層除去工程を含む、請求項9に記載の基板処理方法。
【請求項11】
前記塩基性薬液が、有機アルカリを含む、請求項10に記載の基板処理方法。
【請求項12】
複数の凹部が形成された表面を有する基板を処理する基板処理装置であって、
表面が露出するように前記凹部内に形成された処理対象層において処理対象物質の結晶粒に対するエッチング速度と、前記処理対象層において結晶粒界に対するエッチング速度とが等しいエッチング液を前記基板の表面に供給するエッチング液供給ユニットと、
表面が露出するように前記凹部内に形成された被変質層を変質させて前記処理対象層を形成する変質流体を前記基板の表面に供給する変質流体供給ユニットと、
前記変質流体供給ユニットから前記基板の表面に前記変質流体を供給することによって、前記被変質層の表層を変質させて前記処理対象層を形成する処理対象層形成工程と、前記エッチング液供給ユニットから前記基板の表面に前記エッチング液を供給することによって、前記処理対象層の少なくとも一部をエッチングして除去する処理対象層除去工程とを実行するコントローラと、を含み、
前記コントローラが、前記処理対象層形成工程における前記基板の表面への前記変質流体の供給を停止した後に、前記処理対象層除去工程における前記基板の表面への前記エッチング液の供給を開始する、基板処理装置。
【請求項13】
前記コントローラが、前記処理対象層形成工程において、前記被変質層の表層を変質させて、1原子層または数原子層からなる前記処理対象層を形成し、前記処理対象層除去工程において、前記処理対象層を前記基板の表面から選択的に除去する、請求項
12に記載の基板処理装置。
【請求項14】
複数の凹部が形成された表面を有する基板を処理する基板処理装置であって、
表面が露出するように前記凹部内に形成された処理対象層において処理対象物質の結晶粒に対するエッチング速度と、前記処理対象層において結晶粒界に対するエッチング速度とが等しいエッチング液を前記基板の表面に供給するエッチング液供給ユニットと、
表面が露出するように前記凹部内に形成された被変質層を変質させて前記処理対象層を形成する変質流体を前記基板の表面に供給する変質流体供給ユニットと、
前記変質流体供給ユニットから前記基板の表面に前記変質流体を供給することによって、前記被変質層の表層を変質させて前記処理対象層を形成する処理対象層形成工程と、前記エッチング液供給ユニットから前記基板の表面に前記エッチング液を供給することによって、前記被変質層の表層が変質されて形成された前記処理対象層の少なくとも一部をエッチングして除去する処理対象層除去工程とを実行するコントローラと、を含
み、
前記コントローラが、前記処理対象層形成工程において、前記被変質層の表層を変質させて、1原子層または数原子層からなる前記処理対象層を形成し、前記処理対象層除去工程において、前記処理対象層を前記基板の表面から選択的に除去する、基板処理装置。
【請求項15】
前記コントローラが、前記処理対象層形成工程と前記処理対象層除去工程とを交互に複数回実行する、請求項
13または14に記載の基板処理装置。
【請求項16】
前記エッチング液が、前記処理対象層をエッチングする際に前記処理対象物質と反応する反応化合物として、前記結晶粒界に存在する隙間よりも大きいサイズを有する化合物を主に含む、請求項12
~15のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項17】
前記変質流体供給ユニットが、前記変質流体としての酸化流体を前記基板の表面に供給する酸化流体供給ユニットを含み、
前記エッチング液供給ユニットが、前記エッチング液としての酸性薬液を前記基板の表面に供給する酸性薬液供給ユニットを含み、
前記コントローラが、前記処理対象層形成工程において、前記酸化流体供給ユニットから前記基板の表面に前記酸化流体を供給することによって、前記被変質層としての金属層の表層を酸化させて、前記処理対象層としての酸化金属層を形成する酸化金属層形成工程と、前記処理対象層除去工程において、前記酸性薬液供給ユニットから前記基板の表面に前記酸性薬液を供給することによって、前記酸化金属層を前記基板の表面から除去する酸化金属層除去工程とを実行する、請求項12~16のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項18】
前記酸性薬液が、有機酸を含む、請求項17に記載の基板処理装置。
【請求項19】
前記コントローラが、前記結晶粒に対するエッチング速度と前記結晶粒界に対するエッチング速度とが等しくなるように、前記処理対象層除去工程において前記基板の表面に供給される前記エッチング液の液種を、複数の前記凹部の幅に応じて複数種のエッチング液のうちから選択するエッチング液種選択工程を実行する、請求項12~18のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項20】
複数の凹部が形成された表面を有する基板を処理する基板処理装置であって、
表面が露出するように前記凹部内に形成された処理対象層において処理対象物質の結晶粒に対するエッチング速度と、前記処理対象層において結晶粒界に対するエッチング速度とが等しいエッチング液を前記基板の表面に供給するエッチング液供給ユニットと、
前記エッチング液供給ユニットから前記基板の表面に前記エッチング液を供給することによって、前記処理対象層の少なくとも一部をエッチングして除去する処理対象層除去工程と、前記結晶粒に対するエッチング速度と前記結晶粒界に対するエッチング速度とが等しくなるように、前記処理対象層除去工程において前記基板の表面に供給される前記エッチング液の液種を、複数の前記凹部の幅に応じて複数種のエッチング液のうちから選択するエッチング液種選択工程とを実行するコントローラと、を含む、基板処理装置。
【請求項21】
前記エッチング液供給ユニットが、前記処理対象層としてのポリシリコン層を前記基板の表面から除去する前記エッチング液としての塩基性薬液を前記基板の表面に供給する塩基性薬液供給ユニットを含む、請求項20に記載の基板処理装置。
【請求項22】
前記塩基性薬液が、有機アルカリを含む、請求項21に記載の基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板を処理する基板処理方法および基板処理装置に関する。処理対象になる基板には、たとえば、半導体ウエハ、液晶表示装置用基板、有機EL(Electroluminescence)表示装置等のFPD(Flat Panel Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板、セラミック基板、太陽電池用基板等の基板が含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体装置等の製造工程のフロントエンドプロセス(FEOL:Front End of the Line)では、半導体ウエハの表面にポリシリコン層が形成される。FEOLに続くバックエンドプロセス(BEOL:Back End of the Line)では、半導体ウエハの表面に多層の金属層が形成される。
ポリシリコン層や金属層は、基板の表面に存在する凹部内に形成することができる。ポリシリコン層は、たとえば、化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)によって凹部内で結晶を成長させることによって形成されることが知られている(下記特許文献1を参照)。金属層は、たとえば、スパッタリング等の手法によって凹部内にシード層を形成し、その後、電気めっき技術等によって結晶を成長させることによって形成されることが知られている(下記特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2017/168733号
【文献】特開2011-238917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
結晶成長によって凹部内に形成されたポリシリコン層や金属層は、必要に応じてエッチングされて凹部から除去される。金属層は、酸化流体等によって酸化金属層に変化させられた後にエッチングされて凹部から除去される。ポリシリコン層および酸化金属層(以下では、「処理対象層」ということがある。)は、エッチングによって基板の表面の全域において均一に除去されることが好ましいが、互いに幅の異なる凹部が基板の表面に存在する場合、処理対象層のエッチング速度が凹部の幅によって異なることがある。そのため、基板の表面の全域においてエッチング速度が均一にならず、処理対象層のエッチング量が基板の表面内でばらつくことがあった。
【0005】
そこで、この発明の1つの目的は、基板の表面において処理対象層をむらなく除去することができる基板処理方法および基板処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一実施形態は、複数の凹部が形成された表面を有する基板を処理する基板処理方法であって、表面が露出するように前記凹部内に形成された処理対象層における処理対象物質の結晶粒に対するエッチング速度と、前記処理対象層における結晶粒界に対するエッチング速度とが等しいエッチング液を前記基板の表面に供給することによって、前記処理対象層の少なくとも一部をエッチングして除去する処理対象層除去工程を含む、基板処理方法を提供する。
【0007】
この方法によれば、結晶粒に対するエッチング速度と結晶粒界に対するエッチング速度とが等しいエッチング液が基板の表面に供給される。そのため、結晶粒界密度が高い部分と結晶粒界密度が低い部分とが処理対象層に存在する場合であっても、エッチング液を用いることによって、結晶粒界の疎密度合に関わらず、処理対象層を均一にエッチングすることができる。したがって、基板の表面において処理対象層をむらなく除去することができる。
【0008】
基板表面内で結晶粒界の疎密度合にむらが発生する例として、互いに幅の異なる凹部が形成された基板表面で結晶を成長させる場合が挙げられる。結晶粒は、凹部の幅が狭いほど成長しにくく、凹部の幅が広いほど成長しやすい。そのため、凹部の幅が狭いほど小さい結晶粒ができやすく、凹部の幅が広いほど大きい結晶粒ができやすい。すなわち、凹部の幅が狭いほど結晶粒界密度が高くなり、凹部の幅が広いほど結晶粒界密度が低くなる。
【0009】
そのため、互いに幅が異なる複数の凹部が形成された表面を有する基板において、処理対象層を結晶成長により形成する場合や、結晶成長により形成した別の層を変質させて処理対象層を形成する場合には、処理対象層に結晶粒界の疎密が発生していることがある。そこで、結晶粒に対するエッチング速度と結晶粒界に対するエッチング速度とが等しいエッチング液を用いれば、互いに幅が異なる複数の凹部が基板表面に存在する場合であっても、複数の凹部から処理対象層を均一に除去することができる。
【0010】
この発明の一実施形態では、前記エッチング液が、前記処理対象層をエッチングする際に前記処理対象物質と反応する反応化合物として、前記結晶粒界に存在する隙間よりも大きいサイズを有する化合物を主に含む。
処理対象層をエッチングする際に処理対象物質と反応する反応化合物のサイズが結晶粒界に存在する隙間以下の大きさであれば、反応化合物は、結晶粒界において処理対象物質の原子の間に入り込み易い。そのため、反応化合物として、結晶粒界に存在する隙間と同じもしくはそれよりも小さいサイズを有する化合物を主に含むエッチング液を用いた場合、処理対象層の結晶粒界密度が高いほどエッチング速度が上昇する。
【0011】
逆に、処理対象層をエッチングする際に処理対象物質と反応する反応化合物のサイズが結晶粒界に存在する隙間よりも大きければ、反応化合物は、結晶粒界に存在する隙間に入り込みにくい。そのため、反応化合物として結晶粒界に存在する隙間よりもサイズが大きい化合物を主に含むエッチング液を用いた場合、処理対象層の結晶粒界密度が高い場合であってもエッチング速度の上昇を抑制することができる。これにより、互いに幅が異なる複数の凹部が基板表面に存在する場合であっても、凹部から処理対象層を均一に除去することができる。その結果、基板の表面において処理対象層をむらなく除去することができる。
【0012】
この発明の一実施形態では、前記基板処理方法が、変質流体を前記基板の表面に供給することによって、表面が露出するように前記凹部内に形成された被変質層の表層を変質させて前記処理対象層を形成する処理対象層形成工程をさらに含む。
この方法によれば、被変質層の表層を処理対象層に変質させることによって形成された処理対象層が、エッチング液によってエッチングされる。そのため、被変質層を処理対象層に変質させてから処理対象層をエッチングすることでエッチングの精度が高まるような場合にも、結晶粒に対するエッチング速度と結晶粒界に対するエッチング速度とが等しいエッチング液を用いることができる。
【0013】
たとえば、互いに幅が異なる複数の凹部が形成された表面を有する基板において、結晶成長により形成した被変質層を変質させて処理対象層を形成する場合には、被変質層に発生する結晶粒界の疎密が処理対象層にも引き継がれる。そこで、結晶粒に対するエッチング速度と結晶粒界に対するエッチング速度とが等しいエッチング液を用いれば、互いに幅が異なる複数の凹部が基板表面に存在する場合であっても、複数の凹部から処理対象層を均一に除去することができる。
【0014】
この発明の一実施形態では、前記処理対象層除去工程における前記基板の表面への前記エッチング液の供給が、前記処理対象層形成工程における前記基板の表面への変質流体の供給が停止された後に開始される。
この方法によれば、変質流体の供給が停止されてからエッチング液の供給が開始される。そのため、変質流体の供給とエッチング液の供給とが並行して実行される場合と比較して、処理対象層のエッチング量を制御し易い。その結果、処理対象層のエッチング量を精密に制御しつつ、基板の表面において処理対象層をむらなく除去することができる。
【0015】
この発明の一実施形態では、前記処理対象層形成工程が、前記被変質層の表層を変質させて、1原子層または数原子層からなる前記処理対象層を形成する工程を含む。そして、前記処理対象層除去工程が、前記処理対象層を前記基板の表面から選択的に除去する工程を含む。
この方法によれば、処理対象層形成工程では、1原子層または数原子層からなる処理対象層が形成される。処理対象層除去工程において処理対象層を選択的に除去することによって、処理対象層のエッチング量を1原子層単位または数原子層単位で制御することができる。したがって、互いに幅が異なる複数の凹部が基板表面に存在する場合であっても、凹部から処理対象層を原子層単位で均一に除去することができる。その結果、基板の表面において処理対象層をむらなく除去することができる。
【0016】
この発明の一実施形態では、前記処理対象層形成工程と前記処理対象層除去工程とが交互に複数回実行される。処理対象層形成工程において、1原子層または数原子層からなる処理対象層が形成される場合、処理対象層形成工程および処理対象層除去工程を一回ずつ実行することによってエッチングされる処理対象層の厚みは、ほぼ一定である。そのため、処理対象層形成工程および処理対象層除去工程を繰り返し実行する回数を調節することによって、基板の表面において処理対象層をむらなく除去しつつ、所望のエッチング量を達成することができる。
【0017】
この発明の一実施形態では、前記処理対象層除去工程における前記基板の表面への前記エッチング液の供給が、前記処理対象層形成工程における前記基板の表面への変質流体の供給と並行して実行される。
そのため、被変質層を処理対象層に変質させながら、処理対象層を除去することができる。したがって、変質流体の供給が停止されてからエッチング液の供給が開始される場合と比較して、被変質層を速やかに除去することができる。その結果、基板処理に要する時間を低減しつつ、基板の表面において処理対象層をむらなく除去することができる。
【0018】
この発明の一実施形態では、前記処理対象層形成工程が、前記変質流体としての酸化流体によって、前記被変質層としての金属層の表層を酸化させて、前記処理対象層としての酸化金属層を形成する酸化金属層形成工程を含む。そして、前記処理対象層除去工程が、前記エッチング液としての酸性薬液によって、前記酸化金属層を前記基板の表面から除去する酸化金属層除去工程を含む。
【0019】
この方法によれば、酸化流体によって金属層の表層を酸化させることによって酸化金属層が形成され、酸性薬液によって酸化金属層が除去される。そのため、金属層が凹部から露出している場合であっても、金属層を酸化させて酸化金属層を形成した後に酸化金属層をエッチング液で除去することによって、金属層を凹部から均一に除去することができる。
【0020】
この発明の一実施形態では、前記酸性薬液が、有機酸を含む。
この発明の一実施形態では、前記処理対象層除去工程が、前記エッチング液としての塩基性薬液によって、前記処理対象層としてのポリシリコン層の表層を前記基板の表面から除去するポリシリコン層除去工程を含む。
この方法によれば、ポリシリコン層の少なくとも一部を、塩基性薬液を用いて、除去することができる。互いに幅が異なる複数の凹部が基板表面に存在する場合であっても、複数の凹部からポリシリコン層を均一に除去することができる。その結果、基板の表面においてポリシリコン層をむらなく除去することができる。
【0021】
この発明の一実施形態では、前記塩基性薬液が、有機アルカリを含む。
この発明の一実施形態は、前記基板処理方法が、前記結晶粒に対するエッチング速度と前記結晶粒界に対するエッチング速度とが等しくなるように、前記処理対象層除去工程において前記基板の表面に供給される前記エッチング液の液種を、複数の前記凹部の幅に応じて複数種のエッチング液のうちから選択するエッチング液種選択工程をさらに含む。
【0022】
この方法によれば、処理対象層除去工程において基板の表面に供給されるエッチング液の液種が、結晶粒に対するエッチング速度と、結晶粒界に対するエッチング速度とが等しくなるように、基板に形成された複数の凹部の幅に応じて選択される。つまり、処理対象層除去工程において基板に適したエッチング液の液種を選択することができる。
この発明の一実施形態は、複数の凹部が形成された表面を有する基板を処理する基板処理方法であって、表面が露出するように前記凹部内に形成された処理対象層における処理対象物質の結晶粒界の密度に関わらず、前記処理対象層に対するエッチング速度が一定であるエッチング液を前記基板の表面に供給することによって、前記処理対象層の少なくとも一部をエッチングして除去する処理対象層除去工程を含む、基板処理方法を提供する。
【0023】
この方法によれば、結晶粒界の密度に関わらず処理対象層に対するエッチング速度が一定であるエッチング液が基板の表面に供給される。そのため、結晶粒界密度が高い部分と結晶粒界密度が低い部分とが処理対象層に存在する場合であっても、エッチング液を用いることによって、結晶粒界の疎密度合に関わらず、処理対象層を均一にエッチングすることができる。したがって、基板の表面において処理対象層をむらなく除去することができる。
【0024】
前述したように、互いに幅が異なる複数の凹部が形成された表面を有する基板において、処理対象層を結晶成長により形成する場合や、結晶成長により形成した別の層を変質させて処理対象層を形成する場合には、処理対象層に結晶粒界の疎密が発生していることがある。そこで、結晶粒界の密度に関わらず処理対象層に対するエッチング速度が一定であるエッチング液を用いれば、互いに幅が異なる複数の凹部が基板表面に存在する場合であっても、複数の凹部から処理対象層を均一に除去することができる。
【0025】
この発明の一実施形態は、複数の凹部が形成された表面を有する基板を処理する基板処理装置であって、表面が露出するように前記凹部内に形成された処理対象層において処理対象物質の結晶粒に対するエッチング速度と、前記処理対象層において結晶粒界に対するエッチング速度とが等しいエッチング液を前記基板の表面に供給するエッチング液供給ユニットと、前記エッチング液供給ユニットから前記基板の表面に前記エッチング液を供給することによって、前記処理対象層の少なくとも一部をエッチングして除去する処理対象層除去工程を実行するコントローラとを含む、基板処理装置を提供する。
【0026】
この構成によれば、結晶粒に対するエッチング速度と結晶粒界に対するエッチング速度とが等しいエッチング液が基板の表面に供給される。そのため、結晶粒界密度が高い部分と結晶粒界密度が低い部分とが処理対象層に存在する場合であっても、エッチング液を用いることによって、結晶粒界の疎密度合に関わらず、処理対象層を均一にエッチングすることができる。したがって、基板の表面において処理対象層をむらなく除去することができる。
【0027】
前述したように、互いに幅が異なる複数の凹部が形成された表面を有する基板において、処理対象層を結晶成長により形成する場合や、結晶成長により形成した別の層を変質させて処理対象層を形成する場合には、処理対象層に結晶粒界の疎密が発生していることがある。そこで、結晶粒に対するエッチング速度と結晶粒界に対するエッチング速度とが等しいエッチング液を用いれば、互いに幅が異なる複数の凹部が基板表面に存在する場合であっても、複数の凹部から処理対象層を均一に除去することができる。
【0028】
この発明の一実施形態では、前記エッチング液が、前記処理対象層をエッチングする際に前記処理対象物質と反応する反応化合物として、前記結晶粒界に存在する隙間よりも大きいサイズを有する化合物を主に含む。
この構成によれば、結晶粒界に存在する隙間よりも大きいサイズを有する反応化合物を主に含むエッチング液が用いられる。そのため、処理対象層の結晶粒界密度が高い場合であってもエッチング速度の上昇を抑制することができる。これにより、互いに幅が異なる複数の凹部が基板表面に存在する場合であっても、凹部から処理対象層を均一に除去することができる。その結果、基板の表面において処理対象層をむらなく除去することができる。
【0029】
この発明の一実施形態では、前記基板処理装置が、表面が露出するように前記凹部内に形成された被変質層を変質させて前記処理対象層を形成する変質流体を前記基板の表面に供給する変質流体供給ユニットをさらに含む。そして、前記コントローラが、前記変質流体供給ユニットから前記基板の表面に前記変質流体を供給することによって、前記被変質層の表層を変質させて前記処理対象層を形成する処理対象層形成工程を実行する。
【0030】
この構成によれば、被変質層の表層を処理対象層に変質させることによって形成された処理対象層が、エッチング液によってエッチングされる。そのため、被変質層を処理対象層に変質させてから処理対象層をエッチングすることでエッチングの精度が高まるような場合にも、結晶粒に対するエッチング速度と結晶粒界に対するエッチング速度とが等しいエッチング液を用いることができる。
【0031】
前述したように、互いに幅が異なる複数の凹部が形成された表面を有する基板において、結晶成長により形成した被変質層から処理対象層を形成する場合には、被変質層に発生する結晶粒界の疎密が処理対象層にも引き継がれる。そこで、結晶粒に対するエッチング速度と結晶粒界に対するエッチング速度とが等しいエッチング液を用いれば、互いに幅が異なる複数の凹部が基板表面に存在する場合であっても、複数の凹部から処理対象層を均一に除去することができる。
【0032】
この発明の一実施形態では、前記コントローラが、前記処理対象層形成工程における前記基板の表面への前記変質流体の供給を停止した後に、前記処理対象層除去工程における前記基板の表面への前記エッチング液の供給を開始する。
この構成によれば、変質流体の供給が停止されてからエッチング液の供給が開始される。そのため、変質流体の供給とエッチング液の供給とが並行して実行される場合と比較して、処理対象層のエッチング量を制御し易い。その結果、処理対象層のエッチング量を精密に制御しつつ、基板の表面において処理対象層をむらなく除去することができる。
【0033】
この発明の一実施形態では、前記コントローラが、前記処理対象層形成工程において、前記被変質層の表層を変質させて、1原子層または数原子層からなる前記処理対象層を形成し、前記処理対象層除去工程において、前記処理対象層を前記基板の表面から選択的に除去する。
この構成によれば、処理対象層形成工程では、1原子層または数原子層からなる処理対象層が形成される。処理対象層除去工程において処理対象層を選択的に除去することによって、処理対象層のエッチング量を1原子層単位または数原子層単位で制御することができる。したがって、互いに幅が異なる複数の凹部が基板表面に存在する場合であっても、凹部から処理対象層を原子層単位で均一に除去することができる。その結果、基板の表面において処理対象層をむらなく除去することができる。
【0034】
この発明の一実施形態では、前記コントローラが、前記処理対象層形成工程と前記処理対象層除去工程とを交互に複数回実行する。処理対象層形成工程において、1原子層または数原子層からなる処理対象層が形成される場合、処理対象層形成工程および処理対象層除去工程を一回ずつ実行することによってエッチングされる処理対象層の厚みは、ほぼ一定である。そのため、処理対象層形成工程および処理対象層除去工程を繰り返し実行する回数を調節することによって、基板の表面において処理対象層をむらなく除去しつつ、所望のエッチング量を達成することができる。
【0035】
この発明の一実施形態では、前記コントローラが、前記処理対象層除去工程における前記基板の表面への前記エッチング液の供給と、前記処理対象層形成工程における前記基板の表面への変質流体の供給とを並行して実行する。
そのため、被変質層を処理対象層に変質させながら、処理対象層を除去することができる。したがって、変質流体の供給が停止されてからエッチング液の供給が開始される場合と比較して、被変質層を速やかに除去することができる。その結果、基板処理に要する時間を低減しつつ、基板の表面において処理対象層をむらなく除去することができる。
【0036】
この発明の一実施形態では、前記変質流体供給ユニットが、前記変質流体としての酸化流体を前記基板の表面に供給する酸化流体供給ユニットを含み、前記エッチング液供給ユニットが、前記エッチング液としての酸性薬液を前記基板の表面に供給する酸性薬液供給ユニットを含む。
この構成によれば、酸化流体によって金属層の表層を酸化させることによって酸化金属層が形成され、酸性薬液によって酸化金属層が除去される。そのため、金属層が凹部から露出している場合であっても、金属層を酸化させて酸化金属層を形成した後に酸化金属層をエッチング液で除去することによって、金属層を凹部から均一に除去することができる。
【0037】
この発明の一実施形態では、前記酸性薬液が、有機酸を含む。
この発明の一実施形態では、前記エッチング液供給ユニットが、前記処理対象層としてのポリシリコン層を前記基板の表面から除去する前記エッチング液としての塩基性薬液を前記基板の表面に供給する塩基性薬液供給ユニットを含む。
この構成によれば、ポリシリコン層の少なくとも一部を、塩基性薬液を用いて、除去することができる。互いに幅が異なる複数の凹部が基板表面に存在する場合であっても、複数の凹部からポリシリコン層を均一に除去することができる。その結果、基板の表面においてポリシリコン層をむらなく除去することができる。
【0038】
この発明の一実施形態では、前記塩基性薬液が、有機アルカリを含む。
この発明の一実施形態では、前記結晶粒に対するエッチング速度と前記結晶粒界に対するエッチング速度とが等しくなるように、前記処理対象層除去工程において前記基板の表面に供給される前記エッチング液の液種を、複数の前記凹部の幅に応じて複数種のエッチング液のうちから選択するエッチング液種選択工程を実行する。
【0039】
この構成によれば、処理対象層除去工程において基板の表面に供給されるエッチング液の液種が、結晶粒に対するエッチング速度と、結晶粒界に対するエッチング速度とが等しくなるように、基板に形成された複数の凹部の幅に応じて選択される。つまり、処理対象層除去工程において基板に適したエッチング液の液種を選択することができる。
この発明の一実施形態は、複数の凹部が形成された表面を有する基板を処理する基板処理装置であって、表面が露出するように前記凹部内に形成された処理対象層における処理対象物質の結晶粒界の密度に関わらず、前記処理対象層に対するエッチング速度が一定であるエッチング液を前記基板の表面に供給するエッチング液供給ユニットと、前記エッチング液供給ユニットから前記基板の表面に前記エッチング液を供給することによって、前記処理対象層の少なくとも一部をエッチングして除去する処理対象層除去工程を実行するコントローラとを含む、基板処理装置を提供する。
【0040】
この方法によれば、結晶粒界の密度に関わらず処理対象層に対するエッチング速度が一定であるエッチング液が基板の表面に供給される。そのため、結晶粒界密度が高い部分と結晶粒界密度が低い部分とが処理対象層に存在する場合であっても、エッチング液を用いることによって、結晶粒界の疎密度合に関わらず、処理対象層を均一にエッチングすることができる。したがって、基板の表面において処理対象層をむらなく除去することができる。
【0041】
前述したように、互いに幅が異なる複数の凹部が形成された表面を有する基板において、処理対象層を結晶成長により形成する場合や、結晶成長により形成した別の層を変質させて処理対象層を形成する場合には、処理対象層に結晶粒界の疎密が発生していることがある。そこで、結晶粒界の密度に関わらず処理対象層に対するエッチング速度が一定であるエッチング液を用いれば、互いに幅が異なる複数の凹部が基板表面に存在する場合であっても、複数の凹部から処理対象層を均一に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】
図1は、この発明の第1実施形態に係る基板処理装置の内部のレイアウトを示す模式的な平面図である。
【
図2】
図2は、前記基板処理装置で処理される基板の表層付近の断面図である。
【
図3】
図3は、前記基板処理装置に備えられた処理ユニットの模式図である。
【
図4】
図4は、前記基板処理装置の主要部の電気的構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、前記基板処理装置による基板処理の一例を説明するための流れ図である。
【
図6A】
図6Aは、前記基板処理を示す図解的な断面図である。
【
図6B】
図6Bは、前記基板処理を示す図解的な断面図である。
【
図6C】
図6Cは、前記基板処理を示す図解的な断面図である。
【
図6D】
図6Dは、前記基板処理を示す図解的な断面図である。
【
図6E】
図6Eは、前記基板処理を示す図解的な断面図である。
【
図7A】
図7Aは、酸性薬液としてフッ酸を用いた場合のエッチング速度について説明するための模式図である。
【
図7B】
図7Bは、酸性薬液としてフッ酸を用いた場合のエッチング速度について説明するための模式図である。
【
図8A】
図8Aは、酸性薬液として酢酸を用いた場合の結晶粒界でのエッチングの様子について説明するための模式図である。
【
図8B】
図8Bは、酸性薬液として酢酸を用いた場合の結晶粒界でのエッチングの様子について説明するための模式図である。
【
図9】
図9は、前記基板処理において酸化流体供給工程とエッチング液供給工程とが交互に実行されることによる基板の表面状態の変化について説明するための模式図である。
【
図10】
図10は、前記基板処理の別の例を説明するための流れ図である。
【
図11】
図11は、前記基板処理の別の例を示す図解的な断面図である。
【
図12】
図12は、この発明の第2実施形態に係る基板処理装置に備えられた処理ユニットの模式図である。
【
図13】
図13は、第2実施形態に係る基板処理装置で処理される基板の表層付近の断面図である。
【
図14】
図14は、第2実施形態に係る前記基板処理装置による基板処理の一例を説明するための流れ図である。
【
図15】
図15は、第2実施形態に係る前記基板処理装置による基板処理の一例を示す図解的な断面図である。
【
図16】
図16は、この発明の第3実施形態に係る基板処理装置に備えられた処理ユニットの模式図である。
【
図17】
図17は、酸化流体による銅配線の酸化と酸性薬液による酸化銅層のエッチングを繰り返した後の基板表面付近の断面のSEM画像を、酸化流体の液種毎に示した図である。
【
図18】
図18は、銅配線幅と、
図17に示すSEM画像に基づいて取得したエッチング量との関係を、酸化流体の液種毎に示したグラフである。
【
図19】
図19は、酸化流体による銅配線の酸化と酸性薬液による酸化銅層のエッチングを繰り返した後の基板表面付近の断面のSEM画像を、酸性薬液の液種毎に示した図である。
【
図20】
図20は、銅配線幅と、
図19に基づいて取得したエッチング量との関係を、酸性薬液の液種毎に示したグラフである。
【
図21】
図21は、酸化流体による銅配線の酸化と酸性薬液による酸化銅層のエッチングを繰り返した後のエッチング量を、酸化流体および酸性薬液の組み合わせ毎に示したグラフである。
【
図22】
図22は、酸化流体と酸性薬液との混合液で銅配線をエッチングした後の基板表面付近の断面のSEM画像を、酸性薬液の液種毎に示した図である。
【
図23】
図23は、銅配線幅と、
図22に基づいて取得したエッチング量との関係を、酸性薬液の液種毎に示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、この発明の第1実施形態に係る基板処理装置1の内部のレイアウトを説明するための模式的な平面図である。基板処理装置1は、シリコンウエハ等の基板Wを一枚ずつ処理する枚葉式の装置である。
【0044】
基板処理装置1で処理される基板Wは、たとえば、円板状の基板である。
図2は、基板Wの表層付近の断面図である。
図2に示すように、基板Wは、表層付近に、複数のトレンチ101(凹部)が形成された絶縁層100と、表面が露出するように各トレンチ101内に形成された銅配線102(金属層)とを含む。銅配線102の表層が酸化されることで酸化銅層103が形成される。
【0045】
トレンチ101は、たとえば、ライン状である。ライン状のトレンチ101の幅Lは、トレンチ101が延びる方向および基板Wの厚さ方向に直交する方向におけるトレンチ101の大きさのことである。複数のトレンチ101の幅Lは全て同一というわけではなく、基板Wの表層付近には、少なくとも2種類以上の幅Lのトレンチ101が形成されている。
【0046】
後述する基板処理では、銅配線102の表面に、酸化銅層103が形成される。幅Lは、銅配線102および酸化銅層103の幅でもある。
銅配線102は、スパッタリング等の手法によりトレンチ101内に形成されたシード層(図示せず)を核として、電気めっき技術等によって結晶成長させることによって形成されている。
【0047】
銅配線102および酸化銅層103は、複数の結晶粒104によって構成されている。結晶粒104同士の界面のことを結晶粒界105という。結晶粒界105における銅原子(酸化銅分子)同士の間の距離は、結晶粒104を構成する銅原子(酸化銅分子)同士の間の距離よりも広い。そのため、結晶粒界105において銅原子(酸化銅分子)同士の間には、後述する酸性薬液等のエッチング液が入り込むことができる隙間が存在する。結晶粒界105における銅原子の間の隙間は、たとえば、2.6Åである。結晶粒界105における酸化銅分子の間の隙間は、たとえば、3Å~12Åである。
【0048】
結晶粒界105とは、格子欠陥の一種であり、原子配列の乱れによって形成される。結晶粒界105における銅原子(酸化銅分子)同士の間の隙間の寸法は、結晶粒界105の格子欠陥の寸法でもある。
基板表面に形成されたトレンチ101内で金属の結晶を成長させる場合、トレンチ101内に形成される銅の結晶粒104の大きさはトレンチ101の幅Lに応じて変化する。詳しくは、トレンチ101の幅Lが狭いほど、銅の結晶粒104が成長しにくく、トレンチ101の幅Lが広いほど、銅の結晶粒104が成長し易い。そのため、トレンチ101の幅Lが狭いほど小さい結晶粒104ができやすく、トレンチ101の幅Lが広いほど大きい結晶粒104ができやすい。すなわち、トレンチ101の幅Lが狭いほど結晶粒界105の密度が高く、トレンチ101の幅Lが広いほど結晶粒界105の密度が低くなる。
【0049】
各銅配線102の疎密度合は、対応する酸化銅層103に引き継がれる。すなわち、酸化銅層103においても、トレンチ101の幅Lが狭いほど結晶粒界105の密度が高く、トレンチ101の幅Lが広いほど結晶粒界105の密度が低くなる。
図1を参照して、基板処理装置1は、処理液で基板Wを処理する複数の処理ユニット2と、処理ユニット2で処理される複数枚の基板Wを収容するキャリヤCが載置されるロードポートLPと、ロードポートLPと処理ユニット2との間で基板Wを搬送する搬送ロボットIRおよびCRと、基板処理装置1を制御するコントローラ3とを含む。
【0050】
搬送ロボットIRは、キャリヤCと搬送ロボットCRとの間で基板Wを搬送する。搬送ロボットCRは、搬送ロボットIRと処理ユニット2との間で基板Wを搬送する。複数の処理ユニット2は、たとえば、同様の構成を有している。処理液には、後述する酸化流体、エッチング液、リンス液、有機溶剤、被覆剤等が含まれる。
処理ユニット2は、チャンバ8と、チャンバ8内に配置された処理カップ4とを含む。チャンバ8には、チャンバ8内に基板Wを搬入したり、チャンバ8内から基板Wを搬出したりするための出入口(図示せず)が形成されている。チャンバ8には、この出入口を開閉するシャッタユニット(図示せず)が備えられている。
【0051】
図3は、処理ユニット2の構成例を説明するための模式図である。処理ユニット2は、スピンチャック5と、スピンチャック5に保持されている基板Wの上面(上側の主面。表面。)に対向する対向部材6と、対向部材6を吊り下げ支持する支持部材7とをさらに含む。
スピンチャック5は、基板Wを水平に保持しながら基板Wを回転軸線A1まわりに回転させる。回転軸線A1は、基板Wの中央部を通る鉛直な軸線である。スピンチャック5は、基板保持ユニット24と、回転軸22と、スピンモータ23とを含む。
【0052】
基板保持ユニット24は、基板Wを水平に保持する。基板保持ユニット24は、スピンベース21と複数のチャックピン20とを含む。スピンベース21は、水平方向に沿う円板形状を有している。スピンベース21の上面には、複数のチャックピン20が周方向に間隔を空けて配置されている。複数のチャックピン20は、スピンベース21の上面から上方に間隔を隔てた位置で基板Wを把持する。基板保持ユニット24は、基板ホルダともいう。
【0053】
回転軸22は、回転軸線A1に沿って鉛直方向に延びている。回転軸22の上端部は、スピンベース21の下面中央に結合されている。平面視におけるスピンベース21の中央領域には、スピンベース21を上下に貫通する貫通孔21aが形成されている。貫通孔21aは、回転軸22の内部空間22aと連通している。
スピンモータ23は、回転軸22に回転力を与える。スピンモータ23によって回転軸22が回転されることにより、スピンベース21が回転される。これにより、基板Wが回転軸線A1のまわりに回転される。以下では、回転軸線A1を中心とした径方向の内方を単に「径方向内方」といい、回転軸線A1を中心とした径方向の外方を単に「径方向外方」という。スピンモータ23は、基板Wを回転軸線A1のまわりに回転させる基板回転ユニットの一例である。
【0054】
対向部材6は、対向部60と、環状部61と、筒状部62と、複数のフランジ部63とを含む。
対向部60は、基板Wの上面に上方から対向する。対向部60は、平面視で円板状である。対向部60は、スピンチャック5の上方でほぼ水平に配置されている。対向部60は、基板Wの上面に対向する対向面60aを有する。対向部60の中央部には、対向部60を上下に貫通する貫通孔60bが形成されている。
【0055】
環状部61は、対向部60の周縁部から下方に延びる。環状部61は、平面視で基板Wを取り囲んでいる。環状部61の内周面は、下方に向かうに従って、径方向外方に向かうように凹湾曲している。環状部61の外周面は、鉛直方向に沿って延びている。
筒状部62は、対向部60の上面に固定されている。筒状部62は、回転軸線A1を中心とした筒状である。筒状部62の内部空間は、対向部60の貫通孔60bと連通している。複数のフランジ部63は、筒状部62の周方向に互いに間隔を隔てて、筒状部62の上端に配置されている。各フランジ部63は、筒状部62の上端から水平に延びている。
【0056】
詳しくは後述するが、対向部材6は、基板保持ユニット24に対して昇降可能である。対向部材6は、たとえば、基板保持ユニット24に近づくと、磁力によって基板保持ユニット24と係合する。詳しくは、対向部材6は、複数の第1係合部66を含む。複数の第1係合部66は、環状部61よりも径方向内方で対向部60から下方に延びている。複数の第1係合部66は、回転軸線A1まわりの周方向に互いに間隔を隔てて配置されている。
【0057】
基板保持ユニット24は、複数の第1係合部66と凹凸係合可能な複数の第2係合部76を含む。複数の第2係合部76は、回転軸線A1まわりの周方向に互いに間隔を隔てて、複数のチャックピン20よりも径方向外方でスピンベース21の上面に配置されている。
対向部材6の各第1係合部66と、基板保持ユニット24の対応する第2係合部76とが係合しているとき、対向部材6は、スピンベース21と一体回転可能である。スピンモータ23は、回転軸線A1まわりに対向部材6を回転させる対向部材回転ユニットとしても機能する。対向部材6が基板保持ユニット24と係合しているとき、環状部61は、径方向外方(側方)から基板Wを取り囲んでいる(
図3の二点鎖線参照)。
【0058】
処理ユニット2は、基板Wの中心に上方から対向する中央ノズル9をさらに含む。中央ノズル9の先端に設けられた吐出口9aは、対向部材6の筒状部62の内部空間に収容されている。
中央ノズル9は、流体を下方に吐出する複数のチューブ(第1チューブ31、第2チューブ32、第3チューブ33、第4チューブ34および第5チューブ35)と、複数のチューブを取り囲む筒状のケーシング30とを含む。複数のチューブおよびケーシング30は、回転軸線A1に沿って上下方向に延びている。中央ノズル9の吐出口9aは、複数のチューブの吐出口でもある。
【0059】
第1チューブ31は、過酸化水素(H2O2)水等の酸化流体を基板Wの上面に供給する酸化流体供給ユニットとしての機能と、脱イオン水(DIW:Deionized Water)等のリンス液(第1リンス液)を基板Wの上面に供給する第1リンス液供給ユニットとしての機能とを有する。
第1チューブ31は、酸化流体およびリンス液の両方が通る第1共通配管38に接続されている。第1共通配管38は、酸化流体バルブ51が介装された酸化流体配管41と、第1リンス液バルブ52が介装された第1リンス液配管42とに分岐されている。第1リンス液配管42には、第1リンス液バルブ52に加えて、リンス液を脱気する脱気ユニット80が介装されている。
【0060】
酸化流体バルブ51が開かれると、酸化流体が、酸化流体配管41および第1共通配管38を介して第1チューブ31に供給される。そして、酸化流体は、第1チューブ31の吐出口(中央ノズル9の吐出口9a)から下方に連続的に吐出される。第1リンス液バルブ52が開かれると、リンス液が、第1リンス液配管42および第1共通配管38を介して第1チューブ31に供給される。そして、リンス液は、脱気ユニット80によって脱気され、第1チューブ31の吐出口から下方に連続的に吐出される。つまり、第1チューブ31から吐出される流体は、酸化流体バルブ51と第1リンス液バルブ52とを制御することによって、酸化流体とリンス液とのいずれかに切り替えられる。
【0061】
第1チューブ31から吐出される酸化流体は、基板Wの銅配線102の表層を酸化して酸化銅層103を形成する。第1チューブ31から吐出される酸化流体は、基板Wの銅配線102の表層に1原子層または数原子層からなる酸化銅層103を形成する程度の酸化力を有することが好ましい。1原子層または数原子層単位で金属層をエッチングする手法をALWE(Atomic Layer Wet Etching)という。数原子層とは、2原子層から10原子層のことをいう。
【0062】
1原子層または数原子層からなる酸化銅層103を形成するためには、第1チューブ31から吐出される酸化流体のpHが、6~8であることが好ましく、7であることが一層好ましい。1原子層または数原子層からなる酸化銅層103を形成するためには、第1チューブ31から吐出される酸化流体の酸化還元電位が、過酸化水素の酸化還元電位以下であることが好ましい。
【0063】
このように、酸化流体は、金属層を酸化金属層に変質(酸化)させる変質流体として機能する。すなわち、この実施形態では、銅配線102が被変質層として機能し、酸化銅層103が処理対象層として機能する。つまり、第1チューブ31は、基板Wの上面に変質流体を供給する変質流体供給ユニットとしても機能する。
第1チューブ31から吐出される酸化流体が過酸化水素水である場合、酸化流体中の過酸化水素の濃度は、1ppm~100ppmであることが好ましい。
【0064】
第1チューブ31から吐出される酸化流体は、過酸化水素水に限られない。第1チューブ31から吐出される酸化流体は、過塩素酸(HClO4)、硝酸(HNO3)、アンモニア過酸化水素水混合液(SC1)、オゾン化脱イオン水(DIO3)、酸素(O2)溶存水、ドライエア、オゾンガスのうちの少なくとも一種類を含む流体であってもよい。
第1チューブ31から吐出されるリンス液は、DIWに限られず、炭酸水、電解イオン水、希釈濃度(たとえば、1ppm~100ppm程度)の塩酸水、希釈濃度(たとえば、1ppm~100ppm程度)の希釈アンモニア水、還元水(水素水)であってもよい。第1チューブ31から吐出されるリンス液は、脱気されたものであることが好ましい。
【0065】
第2チューブ32は、酢酸水溶液等の酸性薬液を基板Wの上面に供給する酸性薬液供給ユニットとしての機能と、DIW等のリンス液(第2リンス液)を基板Wの上面に供給する第2リンス液供給ユニットとしての機能とを有する。第2チューブ32から吐出される酸性薬液は、エッチング液の一例である。つまり、第2チューブ32は、エッチング液供給ユニットの一例でもある。
【0066】
第2チューブ32は、酸性薬液および第2リンス液の両方が通る第2共通配管39に接続されている。第2共通配管39は、酸性薬液バルブ53が介装された酸性薬液配管43と、第2リンス液バルブ54が介装された第2リンス液配管44とに分岐されている。酸性薬液配管43には、酸性薬液を脱気する脱気ユニット81が介装されている。第2リンス液配管44には、第2リンス液を脱気する脱気ユニット82が介装されている。
【0067】
酸性薬液バルブ53が開かれると、脱気ユニット81によって脱気された酸性薬液が、酸性薬液配管43および第2共通配管39を介して第2チューブ32に供給される。酸性薬液は、第2チューブ32の吐出口(中央ノズル9の吐出口9a)から下方に連続的に吐出される。第2リンス液バルブ54が開かれると、脱気ユニット82によって脱気されたリンス液が、第2リンス液配管44および第2共通配管39を介して第2チューブ32に供給される。リンス液は、第2チューブ32の吐出口から下方に連続的に吐出される。つまり、第2チューブ32から吐出される流体は、酸性薬液バルブ53と第2リンス液バルブ54とを制御することによって、酸性薬液と第2リンス液とのいずれかに切り替えられる。
【0068】
第2チューブ32から吐出される酸性薬液は、酸化銅層103をエッチングする。第2チューブ32から吐出される酸性薬液は、基板Wの酸化銅層103を選択的に除去可能である。そのため、第2チューブ32から吐出される酸性薬液中の溶存酸素は、低減されていることが好ましい。具体的には、酸性薬液中の溶存酸素濃度は、200ppb以下にされていることが好ましく、70ppb以下にされていることが一層好ましい。
【0069】
第2チューブ32から吐出される酸性薬液として酢酸水溶液を用いた場合、結晶粒界105の密度に関わらず、銅配線102に対するエッチング速度が一定となる。詳しくは、第2チューブ32から吐出される酸性薬液として酢酸水溶液を用いた場合、銅配線102における結晶粒104に対するエッチング速度(結晶粒エッチング速度)と、銅配線102における結晶粒界105に対するエッチング速度(結晶粒界エッチング速度)とが等しくなる。酸性薬液としてクエン酸を用いた場合でも、結晶粒エッチング速度と結晶粒界エッチング速度とが等しい。
【0070】
銅配線102に対するエッチング速度は、結晶粒界105の密度に関わらず完全に一定である必要はなく、結晶粒界105の密度に関わらずほぼ一定であればよい。すなわち、この実施形態に係る基板処理装置1によって処理された基板Wが用いられた半導体素子が、正常に機能する程度であれば、結晶粒界105の密度の大小によってエッチング速度が変動してもよい。
【0071】
同様に、結晶粒エッチング速度と結晶粒界エッチング速度とは、完全に一致している必要はなく、両エッチング速度がほぼ等しければよい。結晶粒エッチング速度と結晶粒界エッチング速度とがほぼ等しいとは、この実施形態に係る基板処理装置1によって処理された基板Wが用いられた半導体素子が正常に機能する程度に、結晶粒エッチング速度と結晶粒界エッチング速度とが等しいことをいう。具体的には、基板表面におけるエッチング速度の最小値に対するエッチング速度の最大値の割合が2.0以下である場合には、結晶粒エッチング速度と結晶粒界エッチング速度とがほぼ等しいとみなされる。
【0072】
第2チューブ32から吐出される酸性薬液は、結晶粒界105に存在する隙間よりも大きいサイズを有する化合物を、酸化銅層103をエッチングする際に酸化銅分子108と反応する反応化合物として主に含むことが好ましい。そのためには、第2チューブ32から吐出される酸性薬液は、酢酸水溶液やクエン酸水溶液であることが好ましいが、これらに限られない。つまり、第2チューブ32から吐出される酸性薬液は、酢酸やクエン酸以外の有機酸を含む水溶液であってもよい。
【0073】
「反応化合物のサイズ」とは、酸性薬液が水溶液である場合、水溶液中において対になっている反応化合物のイオンと水素イオンとの全体のサイズのことである。すなわち、反応化合物が酢酸の場合、酢酸のサイズとは、対になった酢酸イオンおよび水素イオンの全体のサイズのことである。反応化合物がクエン酸の場合、クエン酸のサイズとは、対になったクエン酸イオンおよび水素イオンの全体のサイズのことである。
【0074】
無機酸の一種であるフッ酸に含まれるフッ化物イオンおよび水素イオンの全体(イオン対)のサイズは、結晶粒界105に存在する隙間と同じもしくはそれよりも小さい。酢酸やクエン酸のサイズは、フッ化水素よりも大きく、結晶粒界105に存在する隙間よりも大きい。フッ化水素の分子サイズが、0.91Åであるのに対して、分子モデル(模型)から算出される酢酸の分子サイズは、約5Åであり、クエン酸の分子サイズは約10Åである。対になった酢酸イオンおよび水素イオンの全体(イオン対)のサイズは、隙間のサイズよりも大きいと考えられ、具体的には、12Åよりも大きいと考えられる。対になったクエン酸イオンおよび水素イオンの全体(イオン対)のサイズも、隙間のサイズよりも大きいと考えられ、具体的には、12Åよりも大きいと考えられる。
【0075】
「酸性薬液が結晶粒界105に存在する隙間よりも大きいサイズの化合物を反応化合物として主に含む」とは、酸性薬液が単一の反応化合物を含む場合には、その単一の反応化合物が結晶粒界105に存在する隙間よりも大きいサイズを有することをいう。「酸性薬液が結晶粒界105に存在する隙間よりも大きいサイズの化合物を反応化合物として主に含む」とは、酸性薬液が複数の反応化合物を含む場合には、酸性薬液中に含まれる反応化合物のうち、結晶粒界105に存在する隙間よりも大きいサイズの化合物のモル分率が最も大きいことをいう。
【0076】
第2チューブ32から吐出される有機酸水溶液は、たとえば、ギ酸、酢酸、クエン酸、グリコール酸、リンゴ酸等のヒドロキシ酸、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)のうちの少なくとも一種類を含む水溶液であってもよい。第2チューブ32は、有機酸供給ユニットでもある。また、酸性薬液は、有機酸水溶液である必要はなく、有機酸の融液であってもよい。
【0077】
第2チューブ32から吐出される酸性薬液は、結晶粒界105に存在する隙間よりも大きいサイズを有する化合物を反応化合物として主に含んでいれば、結晶粒界105に存在する隙間と同じもしくはそれよりも小さいサイズを有する化合物(たとえば、フッ化水素)を反応化合物として含んでいてもよい。
第2チューブ32から吐出されるリンス液は、DIWに限られず、炭酸水、電解イオン水、希釈濃度(たとえば、1ppm~100ppm程度)の塩酸水、希釈濃度(たとえば、1ppm~100ppm程度)の希釈アンモニア水、還元水(水素水)であってもよい。第2チューブ32から吐出されるリンス液は、脱気されたものであることが好ましい。
【0078】
第3チューブ33は、被覆剤を基板Wの上面に供給する被覆剤供給ユニットとしての機能を有する。被覆剤は、基板Wの上面を被覆し保護する被覆膜を形成する液体である。詳しくは後述するが、被覆剤は、溶媒と溶質を含む。被覆剤に含まれる溶媒が蒸発することによって、基板Wの表面を覆う被覆膜が形成される。被覆膜は、基板Wの表面を単に覆っているだけでもよいし、絶縁層100の表面や銅配線102の表面と化学反応して一体化された状態で基板Wの表面を覆っていてもよい。被覆膜が形成されることによって、基板Wの銅配線102の酸化が防止される。
【0079】
第3チューブ33は、被覆剤バルブ55が介装された被覆剤配管45に接続されている。被覆剤バルブ55が開かれると、被覆剤が、被覆剤配管45から第3チューブ33に供給され、第3チューブ33の吐出口(中央ノズル9の吐出口9a)から下方に連続的に吐出される。
第3チューブ33から吐出される被覆剤は、たとえば、溶質としての昇華性のアクリル系ポリマーを有機溶媒に溶解させた溶液である。昇華性のアクリル系ポリマーを溶解させる有機溶媒としては、PGEE(1-エトキシ-2-プロパノール)等が挙げられる。第3チューブ33から吐出される被覆剤は、表面撥水剤であってもよい。
【0080】
表面撥水剤としては、たとえば、ヘキサメチルジシラザン等の有機シランを有機溶媒に溶解させた液や、デカンチオール等のアルカンチオールを有機溶媒に溶解させた液が挙げられる。有機シランを溶解させる有機溶媒としては、PGMEA(2-アセトキシ-1-メトキシプロパン)等が挙げられる。アルカンチオールを溶解させる有機溶媒としては、ヘプタン等が挙げられる。有機チオールを用いた場合、銅配線102の表面に被覆膜としてのチオール有機分子層が形成されることによって、銅配線102の表面の酸化が防止される。
【0081】
第4チューブ34は、IPA(イソプロピルアルコール)等の有機溶剤を基板Wの上面に供給する有機溶剤供給ユニットとしての機能を有する。第4チューブ34は、有機溶剤バルブ56が介装された有機溶剤配管46に接続されている。有機溶剤バルブ56が開かれると、有機溶剤が、有機溶剤配管46から第4チューブ34に供給され、第4チューブ34の吐出口(中央ノズル9の吐出口9a)から下方に連続的に吐出される。
【0082】
第4チューブ34から吐出される有機溶剤は、リンス液および被覆剤の両方に混和可能であれば、IPA以外の有機溶剤であってもよい。より具体的には、第4チューブ34から吐出される有機溶剤は、IPA、HFE(ハイドロフルオロエーテル)、メタノール、エタノール、アセトンおよびTrans-1,2-ジクロロエチレンのうちの少なくとも1つを含む有機溶剤であってもよい。
【0083】
第5チューブ35は、窒素ガス(N2ガス)等の不活性ガスを吐出する不活性ガス供給ユニットとして機能する。第5チューブ35は、第1不活性ガスバルブ57が介装された第1不活性ガス配管47に接続されている。第1不活性ガスバルブ57が開かれると、不活性ガスが、第1不活性ガス配管47から第5チューブ35に供給され、第5チューブ35の吐出口(中央ノズル9の吐出口9a)から下方に連続的に吐出される。第5チューブ35から吐出される不活性ガスは、対向部材6の筒状部62の内部空間および対向部60の貫通孔60bを通って、対向部60の対向面60aと基板Wの上面との間の空間65に供給される。
【0084】
不活性ガスとは、基板Wの上面に形成された絶縁層100、銅配線102および酸化銅層103等(
図2参照)に対して不活性なガスのことである。第5チューブ35から吐出される不活性ガスは、窒素ガスに限られず、たとえば、アルゴン等の希ガス類であってもよい。
処理ユニット2は、基板Wの下面中央部に向けて窒素ガス等の不活性ガスを吐出する下面ノズル36を含む。下面ノズル36は、スピンベース21の上面中央部で開口する貫通孔21aおよび回転軸22の内部空間22aに挿入されている。下面ノズル36の吐出口36aは、スピンベース21の上面から露出されている。下面ノズル36の吐出口36aは、基板Wの下面中央部に下方から対向する。下面ノズル36は、第2不活性ガスバルブ58が介装された第2不活性ガス配管48に接続されている。
【0085】
第2不活性ガスバルブ58が開かれると、不活性ガスが、第2不活性ガス配管48から下面ノズル36に供給され、下面ノズル36の吐出口36aから上方に連続的に吐出される。スピンチャック5が基板Wを回転させても、下面ノズル36は回転しない。
下面ノズル36から吐出される不活性ガスは、窒素ガスに限られず、たとえば、アルゴン等の希ガス類であってもよい。
【0086】
支持部材7は、対向部材6を支持する対向部材支持部70と、対向部材支持部70よりも上方に設けられ中央ノズル9のケーシング30を支持するノズル支持部71と、対向部材支持部70およびノズル支持部71を連結し鉛直方向に延びる壁部72とを含む。
対向部材支持部70とノズル支持部71と壁部72とによって空間73が区画されている。対向部材支持部70は、支持部材7の下壁を構成している。ノズル支持部71は、支持部材7の上壁を構成している。空間73は、対向部材6の筒状部62の上端部とフランジ部63とを収容する。ケーシング30とノズル支持部71とは密着している。
【0087】
対向部材支持部70は、対向部材6(より詳しくは、フランジ部63)を下方から支持する。対向部材支持部70の中央部には、筒状部62が挿通される筒状部挿通孔70aが形成されている。各フランジ部63には、フランジ部63を上下方向に貫通する位置決め孔63aが形成されている。対向部材支持部70には、対応するフランジ部63の位置決め孔63aに係合可能な係合突起70bが形成されている。各位置決め孔63aに対応する係合突起70bが係合されることによって、回転軸線A1まわりの回転方向において支持部材7に対して対向部材6が位置決めされる。
【0088】
処理ユニット2は、支持部材7を昇降させる支持部材昇降ユニット27を含む。支持部材昇降ユニット27は、たとえば、支持部材7を昇降させるボールねじ機構(図示せず)と、当該ボールねじ機構に駆動力を付与する電動モータ(図示せず)とを含む。支持部材昇降ユニット27は、支持部材リフタともいう。
支持部材昇降ユニット27は、上位置(
図3に実線で示す位置)から下位置(後述する
図6Aに示す位置)までの間の所定の高さ位置に支持部材7を位置させることができる。下位置は、支持部材7の可動範囲において、支持部材7がスピンベース21の上面に最も近接する位置である。上位置は、支持部材7の可動範囲において、支持部材7がスピンベース21の上面から最も離間する位置である。
【0089】
支持部材7は、上位置に位置するとき、対向部材6を吊り下げ支持している。支持部材7は、支持部材昇降ユニット27によって上位置と下位置との間で昇降される際、上位置と下位置との間の係合位置(
図3に二点鎖線で示す位置)を通過する。
支持部材7は、上位置から係合位置まで対向部材6とともに下降する。支持部材7は、係合位置に達すると、対向部材6を基板保持ユニット24に受け渡す。支持部材7は、係合位置よりも下方に達すると、対向部材6から離間する。
【0090】
支持部材7は、下位置から上昇し係合位置に達すると、基板保持ユニット24から対向部材6を受け取る。支持部材7は、係合位置から上位置まで対向部材6とともに上昇する。
このように、対向部材6は、支持部材7が支持部材昇降ユニット27によって昇降されることによって、基板保持ユニット24に対して昇降する。そのため、支持部材昇降ユニット27は、対向部材昇降ユニットとして機能する。すなわち、支持部材昇降ユニット27は、対向部材6も昇降させるため、対向部材リフタ(遮断板リフタ)ともいう。
【0091】
図4は、基板処理装置1の主要部の電気的構成を説明するためのブロック図である。コントローラ3は、マイクロコンピュータを備えており、所定のプログラムに従って、基板処理装置1に備えられた制御対象を制御する。より具体的には、コントローラ3は、プロセッサ(CPU)3Aと、プログラムが格納されたメモリ3Bとを含み、プロセッサ3Aがプログラムを実行することによって、基板処理のための様々な制御を実行するように構成されている。
【0092】
特に、コントローラ3は、搬送ロボットIR,CR、スピンモータ23、支持部材昇降ユニット27、およびバルブ51,52,53,54,55,56,57,58等の動作を制御する。バルブ51,52,53,54,55,56,57,58が制御されることによって、対応するノズルまたはチューブからの流体の吐出が制御される。
図5は、基板処理装置1による基板処理の一例を説明するための流れ図であり、主として、コントローラ3がプログラムを実行することによって実現される処理が示されている。
図6A~
図6Eは、基板処理を示す図解的な断面図である。以下では、主に
図3および
図5を参照しながら基板処理装置1による基板処理について説明する。
図6A~
図6Eについては適宜参照する。
【0093】
基板処理装置1による基板処理では、たとえば、
図5に示すように、基板搬入工程(ステップS1)、酸化流体供給工程(ステップS2)、第1リンス液供給工程(ステップS3)、酸性薬液供給工程(ステップS4)、第2リンス液供給工程(ステップS5)、有機溶剤供給工程(ステップS6)、被覆剤供給工程(ステップS7)、基板乾燥工程(ステップS8)および基板搬出工程(ステップS9)がこの順番で実行される。
【0094】
この基板処理の例では、第2リンス液供給工程(ステップS5)の後、酸化流体供給工程(ステップS2)~第2リンス液供給工程(ステップS5)が所定回数繰り返される。その後、有機溶剤供給工程(ステップS6)以降のステップが実行される。
具体的には、まず、処理ユニット2に基板Wが搬入される前に、対向部材6と基板保持ユニット24とが係合可能となるように、回転方向における対向部材6と基板保持ユニット24との相対位置が調整される。詳しくは、平面視で、対向部材6の第1係合部66と基板保持ユニット24の第2係合部76とが重なるように、回転方向における基板保持ユニット24の位置をスピンモータ23が調整する。
【0095】
そして、複数のトレンチ101が形成された上面を有する基板Wが準備される(基板準備工程)。
図1も参照して、基板処理装置1による基板処理では、基板Wが、搬送ロボットIR,CRによってキャリヤCから処理ユニット2に搬入され、スピンチャック5に渡される(ステップS1)。この後、基板Wは、搬送ロボットCRによって搬出されるまでの間、チャックピン20によって、スピンベース21の上面から上方に間隔を空けて水平に保持される(基板保持工程)。そして、スピンモータ23がスピンベース21を回転させることによって、基板Wを回転させる(基板回転工程)。
【0096】
そして、
図6Aに示すように、支持部材昇降ユニット27が、上位置に位置する支持部材7を下位置まで下降させる。支持部材7は、下位置に移動する前に係合位置を通過する。支持部材7が係合位置を通過する際に、対向部材6と基板保持ユニット24とが磁力によって係合する。これにより、支持部材昇降ユニット27によって、環状部61が径方向外方(側方)から基板Wを取り囲む位置に対向部材6が配置される(対向部材配置工程)。これにより、基板Wは、対向部材6とスピンベース21とによって区画される収容空間67に収容される。基板Wの上面と対向部60の対向面60aとの間の空間65は、収容空間67の一部である。
【0097】
支持部材7が下位置に達した状態で、第1不活性ガスバルブ57および第2不活性ガスバルブ58が開かれる。これにより、第5チューブ35から基板Wの上面に向けて窒素ガス(N2ガス)等の不活性ガスが供給され、下面ノズル36から基板Wの下面に向けて窒素ガス(N2ガス)等の不活性ガスが供給される。基板Wの下面に向けて供給された窒素ガスは、基板Wの上面側に回り込む。そのため、下面ノズル36から吐出された窒素ガスは、結果的に空間65に供給される。これにより、収容空間67全体内の雰囲気が不活性ガスで置換され、結果的に空間65内の雰囲気が不活性ガスに置換される(置換工程)。すなわち、空間65内の酸素濃度が低減される。
【0098】
次に、酸化流体供給工程(ステップS2)が実行される。具体的には、空間65に不活性ガスが充填された状態で、酸化流体バルブ51が開かれる。これにより、
図6Bに示すように、基板Wの上面の中央領域に向けて第1チューブ31から過酸化水素水等の酸化流体(変質流体)が供給(吐出)される(酸化流体供給工程、酸化流体吐出工程)。
酸化流体は、遠心力によって、基板Wの上面の全体に行き渡る。基板W上の酸化流体は、遠心力によって基板Wから径方向外方へ飛散し、処理カップ4によって受けられる。
【0099】
基板Wの上面に酸化流体が供給されることによって、基板Wの銅配線102(
図2参照)の表層が酸化(変質)されて、酸化銅層103(
図2参照)が形成される(酸化金属層形成工程、処理対象層形成工程)。
次に、第1リンス液供給工程(ステップS3)が実行される。具体的には、基板Wの上面への酸化流体の供給が所定時間(たとえば10秒)継続された後、酸化流体バルブ51が閉じられ、第1リンス液バルブ52が開かれる。これにより、第1チューブ31から基板Wの上面の中央領域への酸化流体の供給が停止され、第1チューブ31から基板Wの上面の中央領域へのDIW等のリンス液が供給(吐出)される(第1リンス液供給工程、第1リンス液吐出工程)。つまり、基板Wの上面へ供給される流体が過酸化水素水からDIWに切り替えられる(過酸化水素水→DIW)。
【0100】
第1チューブ31から吐出されるリンス液は、第1リンス液配管42に介装された脱気ユニット80によって脱気されたリンス液である(脱気第1リンス液供給工程)。第1チューブ31からリンス液が吐出される際、収容空間67(空間65)内の雰囲気は、不活性ガスによって既に置換されている。すなわち、リンス液は、脱気されたときの溶存酸素濃度を維持したまま基板Wの上面に供給される。
【0101】
リンス液は、遠心力によって、基板Wの上面の全体に行き渡る。これにより、基板W上の酸化流体がリンス液によって洗い流される。基板W上の酸化流体およびリンス液は、遠心力によって基板Wから径方向外方へ飛散し、処理カップ4によって受けられる。
次に、酸性薬液供給工程(ステップS4)が実行される。基板Wの上面へのリンス液の供給が所定時間(たとえば10秒)継続された後、第1リンス液バルブ52が閉じられる。そして、酸性薬液バルブ53が開かれる。これにより、
図6Cに示すように、基板Wの上面の中央領域に向けて、第2チューブ32から酢酸水溶液等の酸性薬液が供給(吐出)される(酸性薬液供給工程、酸性薬液吐出工程)。
【0102】
酸性薬液は、エッチング液の一例であるため、酸性薬液供給工程は、エッチング液供給工程でもある。また、本実施形態では、酸性薬液として、有機酸を含む酢酸水溶液が用いられているため、酸性薬液供給工程は、有機酸供給工程でもある。
基板Wの上面に着液した酸性薬液は、遠心力によって、基板Wの上面の全体に行き渡る。これにより、基板W上のリンス液が酸性薬液に置換される。基板W上の酸化流体およびリンス液は、遠心力によって基板Wから径方向外方へ飛散し、処理カップ4によって受けられる。
【0103】
基板Wの上面に酸性薬液が供給されることによって、基板Wの酸化銅層103(
図2参照)が選択的に除去される(酸化金属層除去工程、処理対象層除去工程)。すなわち、基板Wの銅配線102において酸化流体によって酸化されて酸化銅層103になった部分が、選択的に除去される。処理対象層除去工程では、全てのトレンチ101内において、銅配線102の少なくとも一部が酸化銅層103に変質し、酸化銅層103がエッチングされて除去される。
【0104】
第2チューブ32から吐出される酸性薬液は、酸性薬液配管43に介装された脱気ユニット81によって脱気された酸性薬液である(脱気酸性薬液供給工程)。第2チューブ32から酸性薬液が吐出される際、収容空間67(空間65)内の雰囲気は、不活性ガスによって既に置換されている。すなわち、酸性薬液は、脱気されたときの溶存酸素濃度を維持したまま基板Wの上面に供給される。
【0105】
酸性薬液中の溶存酸素濃度は、200ppb以下であることが好ましく、70ppb以下であることが一層好ましい。このように、溶存酸素濃度が極めて低い酸性薬液が基板Wの上面に供給される。そのため、酸性薬液によって、酸化銅層103が一層選択的に除去される。
次に、第2リンス液供給工程(ステップS5)が実行される。基板Wの上面への酸性薬液の供給が所定時間(たとえば10秒)継続された後、酸性薬液バルブ53が閉じられ、その代わりに、第2リンス液バルブ54が開かれる。これにより、基板Wの上面の中央領域に向けて第2チューブ32からDIW等のリンス液が供給(吐出)される(第2リンス液供給工程、第2リンス液吐出工程)。つまり、基板Wの上面へ供給される流体が酢酸水溶液からDIWに切り替えられる(酢酸水溶液→DIW)。
【0106】
リンス液は、遠心力によって、基板Wの上面の全体に行き渡る。これにより、基板W上の酸性薬液がリンス液によって洗い流される。基板W上の酸性薬液およびリンス液は、遠心力によって基板Wから径方向外方へ飛散し、処理カップ4によって受けられる。
第2チューブ32から吐出されるリンス液は、第2リンス液配管44に介装された脱気ユニット82によって脱気されたリンス液である(脱気第2リンス液供給工程)。第2チューブ32からリンス液が吐出される際、収容空間67(空間65)内の雰囲気は、不活性ガスによって既に置換されている。すなわち、リンス液は、脱気されたときの溶存酸素濃度を維持したまま基板Wの上面に供給される。
【0107】
第2リンス液供給工程(ステップS5)において基板Wの上面へのリンス液の供給が所定時間(たとえば10秒)継続された後、第2リンス液バルブ54が閉じられ、その代わりに、酸化流体バルブ51が開かれる。これにより、酸化流体供給工程(ステップS2)が再び実行される。そして、二度目の酸化流体供給工程(ステップS2)に続いて第1リンス液供給工程(ステップS3)、酸性薬液供給工程(ステップS4)および第2リンス液供給工程(ステップS5)が順次に実行される。その後、酸化流体供給工程(ステップS2)~第2リンス液供給工程(ステップS5)が所定回数実行される。これにより、処理対象層形成工程と処理対象層除去工程とが交互に複数回実行される。
【0108】
酸化流体供給工程(ステップS2)~第2リンス液供給工程(ステップS5)が所定回数実行された後、有機溶剤供給工程(ステップS6)以降の工程が実行される。言い換えると、最後の第2リンス液供給工程(ステップS5)の後、有機溶剤供給工程(ステップS6)以降の工程が実行される。酸化流体供給工程(ステップS2)~第2リンス液供給工程(ステップS5)が一回ずつ実行されることによって、酸化金属層形成工程および酸化金属層除去工程が一回ずつ(1サイクル)実行される。
【0109】
最後の第2リンス液供給工程(ステップS5)の後、有機溶剤供給工程(ステップS6)が実行される。詳しくは、基板Wの上面へのリンス液の供給が所定時間(たとえば10秒)継続された後、第2リンス液バルブ54が閉じられ、その代わりに、有機溶剤バルブ56が開かれる。これにより、
図6Dに示すように、基板Wの上面の中央領域に向けて第4チューブ34からIPA等の有機溶剤が供給(吐出)される(有機溶剤供給工程、有機溶剤吐出工程)。
【0110】
有機溶剤は、遠心力によって、基板Wの上面の全体に行き渡る。有機溶剤は、第2リンス液と混和する。そのため、基板W上の第2リンス液は、新たに供給される有機溶剤とともに基板W上から排除される。これにより、基板W上の第2リンス液が有機溶剤で置換される。基板W上の第2リンス液および有機溶剤は、遠心力によって基板Wから径方向外方へ飛散し、処理カップ4によって受けられる。
【0111】
次に、被覆剤供給工程(ステップS7)が実行される。詳しくは、基板Wの上面への有機溶剤の供給が所定時間(たとえば10秒)継続された後、有機溶剤バルブ56が閉じられ、その代わりに、被覆剤バルブ55が開かれる。これにより、
図6Eに示すように、基板Wの上面の中央領域に向けて第3チューブ33から被覆剤が供給(吐出)される(被覆剤供給工程、被覆剤吐出工程)。
【0112】
被覆剤は、遠心力によって、基板Wの上面の全体に行き渡る。被覆剤は、有機溶剤と混和する。そのため、基板W上の有機溶剤は、新たに供給される被覆剤とともに基板W上から排除される。これにより、基板W上の有機溶剤が被覆剤で置換され、基板Wの上面が被覆剤によって覆われる。基板W上の有機溶剤および被覆剤は、遠心力によって基板Wから径方向外方へ飛散し、処理カップ4によって受けられる。
【0113】
次に、基板乾燥工程(ステップS8)が実行される。具体的には、被覆剤バルブ55が閉じられる。これにより、基板Wの上面への被覆剤の供給が停止される。そして、基板Wの回転による遠心力および窒素ガスの吹き付けの少なくともいずれかによって、基板W上の被覆剤中の有機溶媒を蒸発させることによって、基板W上に被覆膜が形成される。このとき、スピンベース21内に内蔵されたヒータ(図示せず)等によって基板Wを加熱することによって、被覆剤中の有機溶剤を蒸発させてもよい。
【0114】
そして、スピンモータ23が基板Wをたとえば、2000rpmで回転させる。これによって、基板W上の液成分が振り切られ、基板Wが乾燥される。
その後、スピンモータ23がスピンチャック5の回転を停止させる。そして、第1不活性ガスバルブ57および第2不活性ガスバルブ58が閉じられる。そして、支持部材昇降ユニット27が支持部材7を上位置に移動させる。その後、
図1も参照して、搬送ロボットCRが、処理ユニット2に進入して、スピンチャック5から処理済みの基板Wをすくい取って、処理ユニット2外へと搬出する(ステップS9:基板搬出工程)。その基板Wは、搬送ロボットCRから搬送ロボットIRへと渡され、搬送ロボットIRによって、キャリヤCに収納される。
【0115】
ここで、この実施形態とは異なり、酸性薬液が、酸化銅層103をエッチングする際に酸化銅分子108と反応する反応化合物としてフッ化水素を主に含む液体(フッ酸)である場合を想定する。フッ化水素のサイズ(フッ化物イオン107と水素イオンとが対になったイオン対107Aのサイズ)は、結晶粒界105に存在する隙間106同じもしくはそれよりも小さい。そのため、
図7Aに示すように、酸性薬液に含まれるフッ化物イオン107と水素イオンとが対になったイオン対107Aが結晶粒界105において酸化銅分子108の間に入り込みやすい。すなわち、反応化合物が隙間106に入り込みやすい。したがって、
図7Bに示すように、結晶粒界105においてエッチングが進みやすい。
【0116】
したがって、フッ化水素を反応化合物として主に含むフッ酸を酸性薬液として用いた場合、酸化銅層103の結晶粒界密度が高いほどエッチング速度が上昇する。
一方、第1実施形態のように、酸性薬液が、結晶粒界105に存在する隙間106よりも大きいサイズを有する酢酸を反応化合物として含む酢酸水溶液である場合、
図8Aに示すように、酸性薬液に含まれる酢酸分子109と水素イオンとが対になったイオン対109Aが結晶粒界105において酸化銅分子108の間に入り込みにくい。すなわち、反応化合物が隙間106に入り込みにくい。そのため、
図8Bに示すように、結晶粒104および結晶粒界105のいずれにおいても同程度にエッチングが進行する。つまり、酸性薬液が酢酸等の有機酸を反応化合物として主に含む場合、結晶粒界密度に関わらず、エッチング速度がほぼ一定である。言い換えると、酸性薬液が酢酸等の有機酸を反応化合物として主に含む場合、結晶粒エッチング速度と結晶粒界エッチング速度とがほぼ等しい。
【0117】
そのため、酸性薬液が酢酸等の有機酸を反応化合物として主に含む場合、酸化銅層103の結晶粒界密度に関わらず、酸化銅層103を均一にエッチングしてトレンチ101から除去することができる。すなわち、互いに幅Lが異なる複数のトレンチ101が基板Wの上面に存在する場合であっても、複数のトレンチ101から酸化銅層103を均一に除去することができる。その結果、基板Wの上面において酸化銅層103をむらなく除去することができる。
【0118】
また、第1実施形態によれば、銅配線102の表層を酸化することによって形成された酸化銅層103が、酸性薬液によってエッチングされる。そのため、銅配線102を酸化銅層103に変質させてから酸化銅層103をエッチングすることでエッチングの精度が高まるような場合にも、結晶粒エッチング速度と結晶粒界エッチング速度とが等しいエッチング液を用いることができる。
【0119】
また、第1実施形態によれば、酸化銅層除去工程における基板Wの上面への酸性薬液の供給が、酸化銅層形成工程における基板Wの上面への酸化流体の供給が停止された後に開始される。つまり、酸化流体の供給が停止されてから酸性薬液の供給が開始される。そのため、酸化流体の供給と酸性薬液の供給とが並行して実行される場合と比較して、酸化銅層103のエッチング量を制御し易い。その結果、酸化銅層103のエッチング量を精密に制御しつつ、基板Wの上面において酸化銅層103をむらなく除去することができる。エッチング量は、リセス量ともいい、エッチング深度ともいう。
【0120】
一般に、有機酸は、無機酸と比較して多数の原子で構成されているものが多い。そのため、一般に、有機酸のサイズは、無機酸サイズと比較して大きい。そのため、酸性薬液として有機酸を含む液体を用いた場合、結晶粒界105の疎密度合に関わらず、酸化銅層103を均一にエッチングしてトレンチ101から除去することができる。これにより、互いに幅Lが異なる複数のトレンチ101が基板Wの上面に存在する場合であっても、トレンチ101から酸化銅層103を一層均一に除去することができる。その結果、基板Wの上面において酸化銅層103をむらなく除去することができる。
【0121】
また、第1実施形態によれば、
図9(a)および
図9(b)に示す基板Wの上面に過酸化水素水等の酸化流体を供給することによって、1原子層または数原子層からなる酸化銅層103が銅配線102の表層に形成される(酸化金属層形成工程、処理対象層形成工程)。そして、
図9(c)に示すように、基板Wの上面に酢酸水溶液等の酸性薬液(エッチング液)を供給することによって、
図9(d)に示すように、酸化銅層103が基板Wの上面から選択的に除去される(酸化金属層除去工程、処理対象層除去工程)。
【0122】
酸化金属層形成工程では、1原子層または数原子層からなる酸化銅層103が形成される。銅および酸化銅の1原子層の厚みは、1nm以下(たとえば、0.3nm~0.4nm)である。そのため、酸化金属層除去工程において酸化銅層103を選択的に除去することによって、ナノメートル以下の精度で金属層のエッチング量を制御することができる。したがって、互いに幅Lが異なる複数のトレンチ101が基板Wの上面に存在する場合であっても、トレンチ101から酸化銅層103を原子層単位で均一に除去することができる。その結果、基板Wの上面において酸化銅層103をむらなく除去することができる。
【0123】
また第1実施形態によれば、酸化金属層形成工程と酸化金属層除去工程とが交互に複数回実行される。酸化金属層形成工程および酸化金属層除去工程を一回ずつ実行することによって、酸化される銅配線102の厚みは、ほぼ一定である。すなわち、銅配線102の自己整合酸化が達成されている。そのため、エッチングされる銅配線102の厚み(エッチング量D1)は、ほぼ一定である(
図9(c)参照)。したがって、酸化金属層形成工程および酸化金属層除去工程を繰り返し実行する回数を調節することによって、
図9(e)に示すように所望のエッチング量D2を達成することができる。
【0124】
このように、一定のエッチング量で段階的に銅配線102をエッチングすることをデジタルエッチングという。また、酸化金属層形成工程および酸化金属層除去工程を繰り返し実行することによって金属層(銅配線102)をエッチングすることをサイクルエッチングという。
酸化金属層形成工程において形成される酸化銅層103の厚みは、酸化流体の酸化力に依存する。pHが高いほど、すなわち塩基性が高いほど酸化流体の酸化力は高くなる。過酸化水素水は、pHが6~8であるため、1原子層~数原子層の酸化銅層103を形成するのに適した酸化力を有している。したがって、酸化銅層103を形成するために、過酸化水素水を基板Wの表面に供給する方法であれば、ナノメートル以下の厚みの酸化銅層103を形成することができる。
【0125】
上述したように、第1実施形態の基板処理装置1を用いた基板処理では、酸化流体供給工程(ステップS2)~第2リンス液供給工程(ステップS5)が繰り返して実行される。第1実施形態の基板処理装置1は、酸化流体供給工程(ステップS2)~第2リンス液供給工程(ステップS5)を繰り返すことなく、各工程(ステップS2~ステップS5)を一回ずつ実行する基板処理を実行することもできる。
【0126】
また、第1実施形態の基板処理装置1では、酸化流体供給工程(ステップS2)~第2リンス液供給工程(ステップS5)の代わりに、
図10に示すように、酸化流体および酸性薬液の混合液を基板Wの上面に供給する混合液供給工程(ステップS10)と、基板Wの上面から混合液を洗い流すリンス液供給工程(ステップS11)とが実行されてもよい。この基板処理では、各工程は繰り返されず一回ずつ実行される。
【0127】
詳しくは、基板Wが処理ユニット2に搬入されて基板保持ユニット24に保持された後、対向部材6と基板保持ユニット24とを磁力によって係合させる。そして、スピンモータ23がスピンベース21を回転させることによって、基板Wを回転軸線A1まわりに回転させる。そして、基板Wの上面と対向部60の対向面60aとの間の空間65に不活性ガスを充満させる。この状態で、酸化流体バルブ51および酸性薬液バルブ53が開かれる。
【0128】
これにより、基板Wの上面の中央領域に向けて、中央ノズル9の第1チューブ31から過酸化水素水等の酸化流体が供給(吐出)され、中央ノズル9の第2チューブ32から酢酸水溶液等の酸性薬液が供給(吐出)される。中央ノズル9から吐出された酸化流体および酸性薬液は、たとえば、基板W上の着液点で混合される。これにより、
図11に示すように、酸化流体および酸性薬液の混合液が形成され、混合液が基板Wの上面に供給される(混合液供給工程)。基板Wの上面への酸性薬液の供給と、基板Wの上面への酸化流体の供給とが並行して実行される。
【0129】
基板Wの上面に供給された混合液は、遠心力によって、基板Wの上面の全体に行き渡る。基板W上の混合液は、遠心力によって基板Wから径方向外方へ飛散し、処理カップ4によって受けられる。
基板Wの上面に混合液が供給されることによって、基板Wの銅配線102(
図2参照)の酸化による酸化銅層103(
図2参照)の形成(酸化金属層形成工程、処理対象層形成工程)と、酸化銅層103のエッチングとが同時に進行する(酸化金属層除去工程、処理対象層除去工程)。
【0130】
次に、リンス液供給工程(ステップS11)が実行される。基板Wの上面への混合液の供給が所定時間(たとえば10秒)継続された後、酸化流体バルブ51および酸性薬液バルブ53が閉じられる。一方、第1リンス液バルブ52および第2リンス液バルブ54が開かれる。これにより、基板Wの上面の中央領域に向けて第1チューブ31および第2チューブ32からDIW等のリンス液が供給(吐出)される(リンス液供給工程、リンス液吐出工程)。つまり、基板Wの上面へ供給される流体が混合液からDIWに切り替えられる(混合液→DIW)。
【0131】
基板Wの上面に供給されたリンス液は、遠心力によって、基板Wの上面の全体に行き渡る。基板W上の混合液およびリンス液は、遠心力によって基板Wから径方向外方へ飛散し、処理カップ4によって受けられる。
第1チューブ31および第2チューブ32から吐出されるリンス液は、脱気されたリンス液である(脱気リンス液供給工程)。第1チューブ31および第2チューブ32からリンス液が吐出される際、収容空間67(空間65)内の雰囲気は、不活性ガスによって既に置換されている。すなわち、リンス液は、脱気されたときの溶存酸素濃度を維持したまま基板Wの上面に供給される。リンス液供給工程(ステップS11)では、第1チューブ31および第2チューブ32のいずれか一方からリンス液が吐出されてもよい。
【0132】
その後、
図5に示す基板処理と同様に、有機溶剤供給工程(ステップS6)~基板搬出工程(ステップS9)が実行される。
この基板処理では、酸化銅層除去工程における基板Wの上面への酸性薬液の供給が、酸化銅層形成工程における基板Wの上面への酸化流体の供給と並行して実行される。そのため、銅配線102を酸化銅層103に変質させながら、酸化銅層103を除去することができる。したがって、酸化流体の供給が停止されてから酸性薬液の供給が開始される場合と比較して、
酸化銅層103を速やかに除去することができる。その結果、基板処理に要する時間を低減しつつ、基板Wの上面において酸化銅層103をむらなく除去することができる。
【0133】
吐出口9aから吐出された酸化流体および酸性薬液は、吐出口9aから吐出された直後、吐出口9aから基板Wの上面に向かう間、または基板W上面に着液したときに混合されればよい。予め準備された混合液を吐出することができる中央ノズル9を備えた基板処理装置を用いてこの基板処理を実行することも可能である。
【0134】
<第2実施形態>
図12は、第2実施形態に係る処理ユニット2Pの模式図である。
図13は、第2実施形態に係る基板処理装置で処理される基板の表層付近の断面図である。
図12および
図13ならびに後述する
図14および
図15において、前述の
図1~
図11に示された構成と同等の構成については、
図1等と同一の参照符号を付してその説明を省略する。
第2実施形態に係る処理ユニット2Pが第1実施形態に係る処理ユニット2(
図3参照)と主に異なる点は、処理対象層がポリシリコン層203(
図13参照)である基板W1が用いられる点、および、エッチング液が塩基性薬液である点である。
詳しくは、基板W1は、表層付近に、複数のトレンチ201(凹部)が形成された半導体層200と、表面が露出するように各トレンチ201内に形成されたポリシリコン層203とを含む。
【0135】
トレンチ201は、たとえば、ライン状である。ライン状のトレンチ201の幅L1は、トレンチ201が延びる方向および基板W1の厚さ方向に直交する方向におけるトレンチ201の大きさのことである。複数のトレンチ201の幅L1は全て同一というわけではなく、基板W1の表層付近には、少なくとも2種類以上の幅L1のトレンチ201が形成されている。幅L1は、ポリシリコン層203の幅でもある。
【0136】
ポリシリコン層203は、CVD等の手法によりトレンチ201内に形成されている。ポリシリコン層203は、複数の結晶粒204によって構成されている。結晶粒界205におけるケイ素原子同士の間の距離は、結晶粒204におけるケイ素原子同士の間の距離よりも広い。そのため、結晶粒界205においてケイ素原子同士の間には、後述する塩基性薬液等のエッチング液が入り込むことができる隙間が存在する。結晶粒界205におけるケイ素原子同士の間の隙間は、たとえば、2Å~5Åである。
【0137】
第1実施形態と同様に、結晶粒界205とは、格子欠陥の一種であり、原子配列の乱れによって形成される。結晶粒界205におけるケイ素原子同士の間の隙間の寸法は、結晶粒界205の格子欠陥の寸法でもある。
基板表面に形成されたトレンチ201内でポリシリコンの結晶を成長させる場合、トレンチ201内に形成される結晶粒204の大きさはトレンチ201の幅L1に応じて変化する。詳しくは、トレンチ201の幅L1が狭いほど、結晶粒204が成長しにくく、トレンチ201の幅L1が広いほど、結晶粒204が成長し易い。そのため、トレンチ201の幅L1が狭いほど小さい結晶粒204ができやすく、トレンチ201の幅L1が広いほど大きい結晶粒204ができやすい。すなわち、トレンチ201の幅L1が狭いほど結晶粒界205の密度が高く、トレンチ201の幅L1が広いほど結晶粒界205の密度が低くなる。
【0138】
図12を参照して、処理ユニット2の中央ノズル9は、酸化流体を吐出するようには構成されておらず、酸性薬液を吐出する代わりに塩基性薬液を供給するように構成されている。中央ノズル9は、第1チューブ31を含んでおらず、第2チューブ32が、TMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)水溶液等の塩基性薬液を基板W1の上面に供給する。第2チューブ32は、塩基性薬液供給ユニットとして機能する。第2チューブ32から吐出される塩基性薬液は、エッチング液の一例である。つまり、第2チューブ32は、エッチング液供給ユニットの一例でもある。
【0139】
第2実施形態において、第2チューブ32は、塩基性薬液およびリンス液の両方が通る共通配管90に接続されている。共通配管90は、塩基性薬液バルブ91が介装された塩基性薬液配管92と、リンス液バルブ93が介装されたリンス液配管94とに分岐されている。塩基性薬液配管92には、塩基性薬液を脱気する脱気ユニット84が介装されている。リンス液配管94には、リンス液を脱気する脱気ユニット85が介装されている。
【0140】
塩基性薬液バルブ91が開かれると、脱気された塩基性薬液が、塩基性薬液配管92および共通配管90を介して第2チューブ32に供給される。塩基性薬液は、脱気ユニット84によって脱気され、第2チューブ32の吐出口(中央ノズル9の吐出口9a)から下方に連続的に吐出される。
リンス液バルブ93が開かれると、リンス液が、リンス液配管94および共通配管90を介して第2チューブ32に供給される。リンス液は、脱気ユニット85によって脱気され、第2チューブ32の吐出口から下方に連続的に吐出される。つまり、第2チューブ32から供給される流体が、塩基性薬液バルブ91とリンス液バルブ93とが制御されることによって、塩基性薬液およびリンス液のいずれかに切り替えられる。
【0141】
第2チューブ32から吐出される塩基性薬液としてTMAH水溶液を用いた場合、結晶粒界205の密度に関わらず、ポリシリコン層203に対するエッチング速度が一定となる。詳しくは、第2チューブ32から吐出される塩基性薬液としてTMAH水溶液を用いた場合、結晶粒エッチング速度と結晶粒界エッチング速度とが等しくなる。塩基性薬液としてTMY(トリメチル-2ヒドロキシエチルアンモニウムハイドロオキサイド)水溶液を用いた場合でも、結晶粒エッチング速度と結晶粒界エッチング速度とが等しくなる。
【0142】
ポリシリコン層203に対するエッチング速度は、結晶粒界205の密度に関わらず完全に一定である必要はなく、結晶粒界205の密度に関わらずほぼ一定であればよい。すなわち、この実施形態に係る基板処理装置1によって処理された基板W1が用いられた半導体素子が正常に機能する程度であれば、結晶粒界205の密度の大小によってエッチング速度が変動してもよい。
【0143】
同様に、結晶粒エッチング速度と結晶粒界エッチング速度とは、完全に一致している必要はなく、両エッチング速度がほぼ等しければよい。結晶粒エッチング速度と結晶粒界エッチング速度とがほぼ等しいとは、この実施形態に係る基板処理装置1によって処理された基板W1が用いられた半導体素子が、正常に機能する程度に等しいことをいう。
第2チューブ32から吐出される塩基性薬液は、結晶粒界205に存在する隙間よりも大きいサイズを有する化合物を、ポリシリコン層203をエッチングする際にケイ素原子と反応する反応化合物として主に含むことが好ましい。そのためには、第2チューブ32から吐出される塩基性薬液は、TMAH水溶液であることが好ましいが、これに限られない。つまり、第2チューブ32から吐出される塩基性薬液は、TMAH水溶液以外の有機アルカリを含む水溶液であってもよい。
【0144】
「反応化合物のサイズ」とは、塩基性薬液が水溶液である場合、水溶液中において対になっている反応化合物のイオンと水酸化物イオンとの全体(イオン対)のサイズのことである。すなわち、反応化合物がTMAHの場合、TMAHのサイズとは、対になったTMAHイオンおよび水酸化物イオンの全体(イオン対)のサイズのことである。反応化合物がTMYの場合、TMYのサイズとは、対になったTMYイオンおよび水酸化物イオンの全体(イオン対)のサイズのことである。
【0145】
無機アルカリの一種であるアンモニア水溶液に含まれるアンモニウムイオンおよび水酸化物イオンの全体のサイズは、結晶粒界205に存在する隙間と同じもしくはそれよりも小さい。TMAHやTMYのサイズは、アンモニアのサイズよりも大きく、結晶粒界205に存在する隙間よりも大きい。アンモニアの分子サイズが、約2Åであるのに対して、分子モデル(模型)から算出されるTMAHの分子サイズは、約7Åであり、TMYの分子サイズは、約9Åである。
【0146】
すなわち、アンモニアの分子サイズが、結晶粒界205におけるケイ素原子同士の間の隙間(2Å~5Å)と同じもしくは当該隙間よりも小さい。これに対して、TMAHの分子サイズおよびTMYの分子サイズは、結晶粒界205におけるケイ素原子同士の間の隙間(2Å~5Å)よりも大きい。
対になったTMAHイオンおよび水酸化物イオンの全体(イオン対)のサイズは、隙間のサイズよりも大きいと考えられ、具体的には、5Åよりも大きいと考えられる。対になったTMYイオンおよび水酸化物イオンの全体(イオン対)のサイズも、隙間のサイズよりも大きいと考えられ、具体的には、5Åよりも大きいと考えられる。
【0147】
第2チューブ32から吐出される有機アルカリは、たとえば、TMAHおよびTMYのうちの少なくとも一種類を含む水溶液であってもよい。第2チューブ32は、有機アルカリ供給ユニットでもある。また、塩基性薬液は、有機アルカリ水溶液である必要はなく、有機アルカリの融液であってもよい。
第2チューブ32から吐出される塩基性薬液は、結晶粒界205に存在する隙間よりも大きいサイズの化合物を反応化合物として主に含んでいれば、結晶粒界205に存在する隙間と同じもしくはそれよりも小さいサイズを有する化合物(たとえば、アンモニア)を反応化合物として含んでいてもよい。
【0148】
第2チューブ32から吐出されるリンス液は、DIWに限られず、炭酸水、電解イオン水、希釈濃度(たとえば、1ppm~100ppm程度)の塩酸水、希釈濃度(たとえば、1ppm~100ppm程度)の希釈アンモニア水、還元水(水素水)であってもよい。第2チューブ32から吐出されるリンス液は、脱気されたものであることが好ましい。
図14は、第2実施形態に係る基板処理装置1による基板処理の一例を説明するための流れ図である。
図15は、第2実施形態に係る基板処理装置1による基板処理を示す図解的な断面図である。
【0149】
第2実施形態の基板処理装置1では、たとえば、
図14に示すように、基板搬入工程(ステップS1)、塩基性
薬液供給工程(ステップS20)、リンス液供給工程(ステップS21)、有機溶剤供給工程(ステップS6)、被覆剤供給工程(ステップS7)、基板乾燥工程(ステップS8)および基板搬出工程(ステップS9)がこの順番で実行される。この基板処理では、各工程は繰り返されず一回ずつ実行される。
【0150】
詳しくは、複数のトレンチ201が形成された上面を有する基板W1が準備される(基板準備工程)。そして、基板W1が処理ユニット2に搬入されて基板保持ユニット24に保持された後、対向部材6と基板保持ユニット24とを磁力によって係合させる。そして、スピンモータ23がスピンベース21を回転させることによって、基板W
1を回転軸線A1まわりに回転させる。そして、基板W1の上面と対向部60の対向面60aとの間の空間65に不活性ガスを充満させる。基板W1の上面と対向部60の対向面60aとの間の空間65に不活性ガスを充満させた状態で、塩基性薬液バルブ91が開かれる。これにより、
図15に示すように、基板W1の上面の中央領域に向けて、中央ノズル9の第2チューブ32からTMAH水溶液等の塩基性薬液が供給(吐出)される(塩基性薬液供給工程、塩基性薬液吐出工程)。
【0151】
基板W1の上面に供給された塩基性薬液は、遠心力によって、基板W1の上面の全体に行き渡る。基板W1上の塩基性薬液は、遠心力によって基板W1から径方向外方へ飛散し、処理カップ4によって受けられる。
基板W1の上面に塩基性薬液が供給されることによって、ポリシリコン層203のエッチングが進行し、ポリシリコン層203の少なくとも一部が除去される(ポリシリコン層除去工程、処理対象層除去工程)。処理対象層除去工程では、全てのトレンチ201内において、ポリシリコン層203の少なくとも一部がエッチングされて除去される。
【0152】
次に、リンス液供給工程(ステップS21)が実行される。基板W1の上面への塩基性薬液の供給が所定時間(たとえば10秒)継続された後、塩基性薬液バルブ91が閉じられる。その一方で、リンス液バルブ93が開かれる。これにより、
図15に示すように、基板W1の上面の中央領域に向けて第2チューブ32からDIW等のリンス液が供給(吐出)される(リンス液供給工程、リンス液吐出工程)。つまり、基板W
1の上面へ供給される流体がTMAH水溶液からDIWに切り替えられる(TMAH水溶液→DIW)。
【0153】
第2チューブ32から吐出されるリンス液は、脱気ユニット85によって脱気されたリンス液である(脱気リンス液供給工程)。第2チューブ32からリンス液が吐出される際、収容空間67(空間65)内の雰囲気は、不活性ガスによって既に置換されている。すなわち、リンス液は、脱気されたときの溶存酸素濃度を維持したまま基板W1の上面に供給される。
【0154】
その後、
図5に示す基板処理と同様に、有機溶剤供給工程(ステップS6)~基板搬出工程(ステップS9)が実行される。
図8Aおよび
図8Bの括弧書きを参照して、第2実施形態によれば、塩基性薬液が、結晶粒界205に存在する隙間206よりも大きいサイズを有するTMAHを反応化合物として含むTMAH水溶液である。したがって、第1実施形態と同様に、TMAHイオン209と水酸化物イオンとが対になったイオン対209Aが結晶粒界205においてケイ素原子208の間に入り込みにくい。すなわち、反応化合物が隙間206に入り込みにくい。そのため、結晶粒204および結晶粒界205のいずれにおいても同程度にエッチングが進行する。つまり、塩基性薬液がTMAH等の有機アルカリを反応化合物として主に含む場合、結晶粒界密度に関わらず、エッチング速度がほぼ一定である。言い換えると、塩基性薬液がTMAH等の有機アルカリを反応化合物として主に含む場合、結晶粒エッチング速度と結晶粒界エッチング速度とがほぼ等しい。
【0155】
そのため、塩基性薬液がTMAH等の有機アルカリを反応化合物として主に含む場合、ポリシリコン層203の結晶粒界密度に関わらず、ポリシリコン層203を均一にエッチングしてトレンチ201から除去することができる。すなわち、互いに幅L1が異なる複数のトレンチ201が基板W1の上面に存在する場合であっても、複数のトレンチ201からポリシリコン層203を均一に除去することができる。その結果、基板W1の上面においてポリシリコン層203をむらなく除去することができる。
【0156】
一般に、有機アルカリは、無機アルカリと比較して、多数の原子で構成されているものが多いためサイズが大きい。そのため、塩基性薬液として有機アルカリを含む液体を用いた場合、結晶粒界205の疎密度合に関わらず、ポリシリコン層203を均一にエッチングしてトレンチ201から除去することができる。これにより、互いに幅L1が異なる複数のトレンチ201が基板W1の上面に存在する場合であっても、トレンチ201からポリシリコン層203を一層均一に除去することができる。その結果、基板W1の上面においてポリシリコン層203をむらなく除去することができる。
【0157】
<第3実施形態>
図16は、第3実施形態に係る基板処理装置1に備えられた処理ユニット2Qの模式図である。
図16において、前述の
図1~
図15に示された構成と同等の構成については、
図1等と同一の参照符号を付してその説明を省略する。
第3実施形態に係る処理ユニット2Qが第1実施形態に係る処理ユニット2(
図3参照)と主に異なる点は、基板Wの上面に供給する酸性薬液の液種を切り替えることができる点である。
【0158】
詳しくは、処理ユニット2Qの中央ノズル9の第2チューブ32に接続された第2共通配管39には、フッ酸配管110、酢酸水溶液配管111、クエン酸水溶液配管112および第2リンス液配管44が分岐接続されている。フッ酸配管110には、フッ酸バルブ120が介装されている。酢酸水溶液配管111には、酢酸水溶液バルブ121および脱気ユニット126が介装されている。クエン酸水溶液配管112には、クエン酸水溶液バルブ122および脱気ユニット127が介装されている。フッ酸バルブ120、酢酸水溶液バルブ121およびクエン酸水溶液バルブ122は、コントローラ3によって制御される(
図4を参照)。
【0159】
フッ酸バルブ120が開かれると、フッ酸配管110および第2共通配管39を介して、第2チューブ32にフッ酸が供給される。酢酸水溶液バルブ121が開かれると、酢酸水溶液配管111および第2共通配管39を介して、第2チューブ32に酢酸水溶液が供給される。クエン酸水溶液バルブ122が開かれると、クエン酸水溶液配管112および第2共通配管39を介して、第2チューブ32にクエン酸水溶液が供給される。
【0160】
第3実施形態に係る基板処理装置1では、第1実施形態に係る基板処理装置1と同様の基板処理を実行することができる。第3実施形態に係る基板処理では、酸性薬液供給工程(
図5のステップS4)において基板Wの上面に供給される酸性薬液の液種を、結晶粒エッチング速度と結晶粒界エッチング速度とが等しくなるように複数の液種から選択する酸性薬液種選択工程(エッチング液選択工程)が実行される。
【0161】
酸性薬液種選択工程では、詳しくは、基板処理に用いられる基板Wの上面の全域におけるトレンチ101の幅Lの平均が小さいほど、基板Wの上面に供給される酸性薬液に含まれる反応化合物のサイズが大きくなるように、複数のトレンチ101の幅Lに応じて第2チューブ32から吐出する酸性薬液の液種が選択される。
第3実施形態によれば、エッチング液の液種が、結晶粒エッチング速度と、結晶粒界エッチング速度とが等しくなるように選択される。そのため、処理対象層除去工程において基板Wに適したエッチング液の液種を選択することができる。
【0162】
エッチング液として、塩基性薬液が用いられる場合にも、中央ノズル9から複数種の塩基性薬液を供給可能に構成しておけば塩基性薬液種選択工程を実行することができる。塩基性薬液種選択工程では、塩基性薬液供給工程(
図14のステップS20)において基板W1の上面に供給される塩基性薬液の液種を、結晶粒エッチング速度と結晶粒界エッチング速度とが等しくなるように、複数のトレンチ201の幅L1に応じて第2チューブ32から吐出する塩基性薬液の液種が選択される。
【0163】
以下では、
図17~
図21を用いて、互いに幅が異なる複数のトレンチが表面に形成された基板の均一なエッチングを実証するために行った実験の結果について説明する。以下の実験において、特に記載がない場合、酸化流体として用いられる過酸化水素水(H
2O
2)の質量パーセント濃度は3%であり、酸化流体として用いられるオゾン化脱イオン水(DIO
3)の濃度は7ppmである。また、特に記載がない場合、酸性薬液として用いられるフッ酸(HF)の質量パーセント濃度は0.05%であり、酸性薬液として用いられる酢酸水溶液(AA)およびクエン酸水溶液(CA)の質量パーセント濃度は、0.1%である。
【0164】
まず、互いに異なる幅のトレンチに銅配線が形成された基板にサイクルエッチングを施した後のエッチング量を測定する実験を行った。
具体的には、酸化流体の液種によるエッチング量の違いを比較するための実験と、酸性薬液の液種によるエッチング量の違いを比較するための実験とを行った。以下の各実験では、トレンチ内の銅配線のリセス量(エッチング量)を測定するために走査型電子顕微鏡(SEM)(日立ハイテクノロジーズ製のSU-8000)を用いて、基板の断面を観察した(後述する
図22および
図23に関する実験についても同様)。
【0165】
まず、酸化流体の液種によるエッチング量の違いを比較するための実験について説明する。具体的には、酸性薬液としてフッ酸を用い酸化流体として過酸化水素水を用いたサイクルエッチングを基板に施した後にエッチング量を測定する実験と、酸性薬液としてフッ酸を用い酸化流体としてオゾン化脱イオン水を用いたサイクルエッチングを基板に施した後にエッチング量を測定する実験とを実行した。
【0166】
過酸化水素水を用いたサイクルエッチングでは、基板を、室温の環境下において過酸化水素水で10秒間処理した後、室温の環境下においてフッ酸で10秒間処理することを1サイクルとして、このサイクルを10回行った。過酸化水素水を用いたサイクルエッチングでは、基板を、室温の環境下においてオゾン化脱イオン水で10秒間処理した後、室温の環境下においてフッ酸で10秒間処理することを1サイクルとして、このサイクルを9回行った。
【0167】
図17は、サイクルエッチング後の基板表面付近の断面のSEM画像を、酸化流体の液種毎に示した図である。
図18は、銅配線幅とサイクルエッチング後のエッチング量との関係を、酸化流体の液種毎に示したグラフである。
図17および
図18では、過酸化水素水およびフッ酸を用いたサイクルエッチングを「H
2O
2→HF」で示し、オゾン化脱イオン水およびフッ酸を用いたサイクルエッチングを「DIO
3→HF」で示している。
【0168】
図18に示すように、いずれの酸化流体を用いた場合であっても、銅配線幅が狭いほどエッチング量が増大した。また、酸化流体の液種によるエッチング量の銅配線幅依存性に違いは見られなかった。この結果は、過酸化水素水に含まれる過酸化水素(H
2O
2)のサイズとオゾン化脱イオン水に含まれるオゾン(O
3)のサイズとが同程度であることに基づくと考えられる。すなわち、両酸化流体中の反応化合物のサイズが同程度であるため、結晶粒界への過酸化水素の進入性と結晶粒界へのオゾンの進入性とが同程度となり、いずれの酸化流体を用いた場合にも、トレンチ幅(銅配線幅)が狭いほどエッチング量が増大したものと推察される。
【0169】
次に、酸性薬液の液種によるエッチング量の違いを比較するための実験について説明する。具体的には、酸性薬液としてフッ酸を用い酸化流体として過酸化水素水を用いたサイクルエッチングを基板に施した後にエッチング量を測定する実験と、酸性薬液としてクエン酸水溶液を用い酸化流体として過酸化水素水を用いたサイクルエッチングを基板に施した後にエッチング量を測定する実験と、酸性薬液として酢酸水溶液を用いて酸化流体として過酸化水素水を用いたサイクルエッチングを基板に施した後にエッチング量を測定する実験とを実行した。
【0170】
フッ酸を用いたサイクルエッチングでは、基板を、室温の環境下において過酸化水素水で10秒間処理した後、室温の環境下においてフッ酸で10秒間処理することを1サイクルとして、このサイクルを10回行った。クエン酸水溶液を用いたサイクルエッチングでは、基板を、室温の環境下において過酸化水素水で10秒間処理した後、室温の環境下においてクエン酸水溶液で10秒間処理することを1サイクルとして、このサイクルを5回行った。酢酸水溶液を用いたサイクルエッチングでは、基板を、室温の環境下において過酸化水素水で10秒間処理した後、室温の環境下において酢酸水溶液で10秒間処理することを1サイクルとして、このサイクルを5回行った。
【0171】
図19は、酸化流体による銅配線の酸化と酸性薬液による酸化銅層のエッチングを繰り返した後の基板表面付近の断面のSEM画像を、酸性薬液の液種毎に示した図である。
図20は、銅配線幅とサイクルエッチングによるエッチング量との関係を、酸性薬液の液種毎に示したグラフである。
図19および
図20では、過酸化水素水およびフッ酸を用いたサイクルエッチングを「H
2O
2→HF」で示し、過酸化水素水およびクエン酸水溶液を用いたサイクルエッチングを「H
2O
2→CA」で示している。さらに、過酸化水素水および酢酸水溶液を用いたサイクルエッチングを「H
2O
2→AA」で示している。
【0172】
図19および
図20に示すように、酸性薬液としてフッ酸
を用いた場合、銅配線幅が狭いほどエッチング量が増大した。その一方で、酸性薬液として酢酸水溶液またはクエン酸水溶液を用いた場合には、エッチング量は、銅配線幅に関わらず同程度であった。
詳しくは、酸性薬液としてフッ酸を用いた場合には、幅が大きくなるとエッチング量が小さくなる傾向がみられ、幅が20nmの銅配線についてのエッチング量が35nmであり、幅が440nmの銅配線についてのエッチング量が10nmであった。この実験では、10秒間のフッ酸処理が10回行われていることに基づいて、エッチング速度の最大値が0.35nm/secであり、エッチング速度の最小値が0.1nm/secであることが計算できる。
【0173】
したがって、酸性薬液としてフッ酸を用いた場合、基板表面におけるエッチング速度の最小値に対するエッチング速度の最大値の割合は、3.5であった。したがって、酸性薬液としてフッ酸を用いた場合、結晶粒エッチング速度と結晶粒界エッチング速度とが異なることがわかった。
それに対して、酸性薬液としてクエン酸水溶液を用いた場合には、幅が20nmの銅配線についてのエッチング量が18nmであり、幅が40nmの銅配線についてのエッチング量が13nmであり、幅が120nmの銅配線についてのエッチング量が13nmであり、幅が440nmの銅配線についてのエッチング量が15nmであった。この実験では、10秒間のクエン酸水溶液処理が5回行われていることに基づいて、エッチング速度の最大値が0.36nm/secであり、エッチング速度の最小値が0.26nm/secであることが計算できる。
【0174】
したがって、酸性薬液としてクエン酸水溶液を用いた場合、基板表面におけるエッチング速度の最小値に対するエッチング速度の最大値の割合は、約1.4であった。したがって、酸性薬液としてクエン酸水溶液を用いた場合、結晶粒エッチング速度と結晶粒界エッチング速度とがほぼ等しいことがわかった。
酸性薬液として酢酸水溶液を用いた場合にも、酸性薬液としてクエン酸水溶液を用いた場合と同様の結果が得られた。詳しくは、酸性薬液として酢酸水溶液を用いた場合、幅が20nmの銅配線についてのエッチング量が13nmであり、幅が40nmの銅配線についてのエッチング量が10nmであり、幅が120nmの銅配線についてのエッチング量が13nmであり、幅が440nmの銅配線についてのエッチング量が13nmであった。この実験では、10秒間の酢酸水溶液処理が5回行われていることに基づいて、エッチング速度の最大値は、0.26nm/secであり、エッチング速度の最小値は、0.20nm/secであることが計算できる。
【0175】
したがって、酸性薬液として酢酸水溶液を用いた場合、基板表面におけるエッチング速度の最小値に対するエッチング速度の最大値の割合は、1.3であった。したがって、酸性薬液として酢酸水溶液を用いた場合、結晶粒エッチング速度と結晶粒界エッチング速度とがほぼ等しいことがわかった。
これらの結果は、フッ化水素のサイズ(フッ化物イオンと水素イオンとによって形成されるイオン対の大きさ)が結晶粒界における銅原子同士の間の隙間の大きさよりも小さく、酢酸のサイズ(酢酸イオンと水素イオンとによって形成されるイオン対の大きさ)やクエン酸のサイズ(クエン酸イオンと水素イオンとによって形成されるイオン対の大きさ)が、結晶粒界における銅原子同士の間の隙間の大きさよりも大きいことに基づくと考えられる。
【0176】
詳しくは、フッ化物イオンと水素イオンとによって形成されるイオン対は、結晶粒界における銅原子同士の間の隙間よりも小さいため、結晶粒界に進入しやすい。そのため、幅が20nmまたは50nmの銅配線(結晶粒界密度が高い銅配線)におけるエッチング量が、幅が120nmまたは440nmの銅配線(結晶粒界密度が低い銅配線)におけるエッチング量よりも大きくなったものと推察される。
【0177】
一方、酢酸およびクエン酸のサイズは結晶粒界における銅原子同士の間の隙間よりも大きいため、酢酸イオンと水素イオンとによって形成されるイオン対やクエン酸イオンと水素イオンとによって形成されるイオン対は、結晶粒界に進入しにくく主に結晶粒の表面付近をエッチングする。そのため、酢酸水溶液またはクエン酸水溶液を酸性薬液として用いた場合には、銅配線幅に関わらずエッチング量が同程度であったものと推察される。
【0178】
図21は、サイクルエッチング後のエッチング量を、酸化流体および酸性薬液の組み合わせ毎に示したグラフである。
図21には、
図17~
図20で示した条件下でのサイクルエッチングに加えて、
図17~
図20で示した条件とは異なる条件でサイクルエッチングした結果が示されている。
具体的には、
図21には、過酸化水素水とフッ酸とを用いたサイクルエッチングにおいて、過酸化水素水の質量パーセント濃度を6%に変更した場合のエッチング量が示されている(「6%H
2O
2→HF」を参照)。また、
図21には、過酸化水素水とフッ酸とを用いたサイクルエッチングにおいて、過酸化水素水の質量パーセント濃度を0.75%に変更した場合のエッチング量が示されている(「0.75%H
2O
2→HF」)。
【0179】
さらに、
図21には、過酸化水素水とフッ酸とを用いたサイクルエッチングにおいて、1サイクル当たりの過酸化水素水での処理時間を5秒間に変更したときのエッチング量も示されている(「5sH
2O
2→HF」)。また、
図21には、過酸化水素水とフッ酸とを用いたサイクルエッチングにおいて、1サイクル当たりの過酸化水素水での処理時間を15秒間に変更したときのエッチング量も示されている(「15sH
2O
2→HF」)。
【0180】
さらに、
図21には、
過酸化水素水とフッ酸とを用いたサイクルエッチングにおいて、サイクル数を10回としたときのエッチング量も示されている(「H
2O
2→CA 10サイクル」)。また、
図21には、
過酸化水素水とフッ酸とを用いたサイクルエッチングにおいて、サイクル数を10回とし、かつ、質量パーセント濃度が0.75%である過酸化水素水を用いたときのエッチング量とが示されている(「0.75%H
2O
2→CA」 10サイクル)。
【0181】
図21に示すように、酸性薬液としてフッ酸を用いたサイクルエッチングでは、いずれの条件であっても、幅が小さい銅配線のエッチング量と幅が大きい銅配線のエッチング量の差が大きいという結果が得られた。一方、酸性薬液として
クエン酸を用いたサイクルエッチングでは、いずれの条件であっても、幅が小さい銅配線のエッチング量と幅が大きい銅配線のエッチング量とがほぼ等しいという結果が得られた。
【0182】
次に、互いに異なる幅のトレンチに銅配線が形成された基板に、酸化流体と酸性薬液との混合液によるエッチングを施した後のエッチング量を測定する実験を行った。
具体的には、酸性薬液の液種によるエッチング量の違いを比較するための実験を行った。この実験では、フッ酸と過酸化水素水との混合液によるエッチングを基板に施した後にエッチング量を測定する実験と、クエン酸水溶液と過酸化水素水との混合液によるエッチングを施した後にエッチング量を測定する実験と、酢酸水溶液と過酸化水素水との混合液によるエッチングを施した後にエッチング量を測定する実験とを実行した。
【0183】
フッ酸と過酸化水素水との混合液によるエッチングでは、室温環境下において、過酸化水素の質量パーセント濃度が3%でありフッ化水素の質量パーセント濃度が0.05%である混合液で基板を10秒間処理した。クエン酸水溶液と過酸化水素水との混合液によるエッチングでは、室温環境下において、過酸化水素の質量パーセント濃度が3%でありクエン酸の質量パーセント濃度が0.05%である混合液で基板を20秒間処理した。酢酸水溶液と過酸化水素水との混合液によるエッチングでは、室温環境下において、過酸化水素の質量パーセント濃度が3%であり酢酸の質量パーセント濃度が0.05%である混合液で基板を20秒間処理した。
【0184】
図22は、酸化流体と酸性薬液との混合液で銅配線をエッチングした後の基板表面付近の断面のSEM画像を、酸性薬液の液種毎に示した図である。
図23は、酸化流体と酸性薬液との混合液で銅配線をエッチングしたときの銅配線の幅とエッチング量との関係を、酸性薬液の液種毎に示したグラフである。
図22および
図23では、過酸化水素水およびフッ酸の混合液を用いたエッチングを「H
2O
2/HF」で示し、過酸化水素水およびクエン酸水溶液の混合液を用いたエッチングを「H
2O
2/CA」で示している。さらに、過酸化水素水および酢酸水溶液の混合液を用いたエッチングを「H
2O
2/AA」で示している。
【0185】
図22および
図23に示すように、フッ酸と過酸化水素水との混合液によるエッチングでは、銅配線がいずれの幅であってもエッチング量がトレンチの深さとほぼ同等の80nm~85nm程度であった。つまり、銅配線がいずれの幅であっても、トレンチ内の銅配線が全て除去されてしまったと推察できる。したがって、フッ酸と過酸化水素水との混合液によるエッチングを基板に施した後にエッチング量を測定する実験では、銅配線幅に対するエッチング量の均一性を評価することができなかった。
【0186】
それに対して、クエン酸水溶液と過酸化水素水の混合液によるエッチングでは、幅が20nmの銅配線についてのエッチング量が40nmであり、幅が40nmの銅配線についてのエッチング量が50nmであり、幅が120nmの銅配線についてのエッチング量が45nmであり、幅が440nmの銅配線についてのエッチング量が28nmであった。混合液による処理が10秒間行われていることに基づいて、エッチング速度の最大値が2.5nm/secであり、エッチング速度の最小値が1.4nm/secであることが計算できる。したがって、酸性薬液としてクエン酸水溶液を用いた場合、基板表面におけるエッチング速度の最小値に対するエッチング速度の最大値の割合は、約1.8であった。したがって、クエン酸水溶液と過酸化水素水の混合液によるエッチングでは、結晶粒エッチング速度と結晶粒界エッチング速度とがほぼ等しいことがわかった。
【0187】
酸性薬液として酢酸水溶液を用いた場合にも、酸性薬液としてクエン酸水溶液を用いた場合と同様の結果が得られた。詳しくは、酸性薬液として酢酸水溶液を用いた場合、幅が20nmの銅配線についてのエッチング量が40nmであり、幅が40nmの銅配線についてのエッチング量が42nmであり、幅が120nmの銅配線についてのエッチング量が52nmであり、幅が440nmの銅配線についてのエッチング量が60nmであった。混合液による処理が10秒間行われていることに基づいて、エッチング速度の最大値は、3.0nm/secであり、エッチング速度の最小値は、2.0nm/secであった。
【0188】
したがって、酸性薬液として酢酸水溶液を用いた場合、基板表面におけるエッチング速度の最小値に対するエッチング速度
の最大値の割合は、約1.5であった。酢酸水溶液と過酸化水素水の混合液によるエッチングでは、結晶粒エッチング速度と結晶粒界エッチング速度とがほぼ等しいことがわかった。
これらの結果から、
図17~
図21を用いて説明した互いに異なる幅のトレンチに銅配線が形成された基板にサイクルエッチングを施した後のエッチング量を測定する実験と同様の考察が可能である。すなわち、酢酸およびクエン酸のサイズは結晶粒界における銅原子同士の間の隙間よりも大きいため、酢酸イオンと水素イオンとによって形成されるイオン対やクエン酸イオンと水素イオンとによって形成されるイオン対は、結晶粒界に進入しにくく主に結晶粒の表面付近をエッチングする。そのため、酢酸水溶液またはクエン酸水溶液を酸性薬液として用いた場合には、銅配線幅に関わらずエッチング量が同程度であったものと推察される。
【0189】
この発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、さらに他の形態で実施することができる。
たとえば、基板Wは、銅以外の金属(たとえばクロムやルテニウム)からなる金属層を含んでいてもよい。
また、上述の実施形態では、液体を脱気するために、配管42,43,44,92,94,111,112に介装された脱気ユニット81,82,84,85,126,127を用いている。しかしながら、予め脱気された液体が配管42,43,44,92,94,111,112に供給されてもよい。
【0190】
上述の実施形態では、トレンチ101,201は、ライン状である。しかしながら、トレンチは、ライン状である必要はなく、平面視で閉じた開口部を有する形状であってもよい。具体的には、トレンチは、平面視で、円形状、楕円形状または多角形状であってもよい。
トレンチがこれらの形状である場合、トレンチの幅とは、平面視における最大寸法である。具体的には、トレンチが平面視で円形状である場合、トレンチの幅は、当該円形状における直径である。トレンチが平面視で楕円形状である場合、トレンチの幅は、当該楕円形状の長軸である。トレンチが平面視で四角形状である場合、トレンチの幅は、当該四角形状の対角線である。
【0191】
その他、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0192】
1 :基板処理装置
31 :第1チューブ(酸化流体供給ユニット、変質流体供給ユニット)
32 :第2チューブ(酸性薬液供給ユニット、塩基性薬液供給ユニット、エッチング液供給ユニット)
101 :トレンチ(凹部)
102 :銅配線(被変質層)
103 :酸化銅層(処理対象層)
104 :結晶粒
105 :結晶粒界
106 :隙間
201 :トレンチ(凹部)
203 :ポリシリコン層(処理対象層)
204 :結晶粒
205 :結晶粒界
206 :隙間
W :基板
W1 :基板