IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越ポリマー株式会社の特許一覧

特許7261572射出成形用樹脂組成物、射出成形品、及び射出成形品の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】射出成形用樹脂組成物、射出成形品、及び射出成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20230413BHJP
   C08K 3/30 20060101ALI20230413BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
C08L27/06
C08K3/30
B29C45/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018232284
(22)【出願日】2018-12-12
(65)【公開番号】P2020094117
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】桜井 宏之
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-053725(JP,A)
【文献】特開2002-053726(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108674333(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106905691(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106751321(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103102607(CN,A)
【文献】特開昭54-006044(JP,A)
【文献】特開2017-159627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、B29C45
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均重合度が400~1000である塩化ビニル系樹脂、硫酸バリウム、改質剤、滑剤及び安定剤を含み、
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対する前記硫酸バリウムの割合が50~300質量部である、射出成形用樹脂組成物。
【請求項2】
前記改質剤が、メタクリル酸メチル/アクリル酸エステル共重合体を含む、請求項1に記載の射出成形用樹脂組成物。
【請求項3】
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対する可塑剤の割合が5質量部未満である、請求項1又は2に記載の射出成形用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の射出成形用樹脂組成物からなる射出成形品。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の射出成形用樹脂組成物を160~220℃で射出成形する、射出成形品の製造方法。
【請求項6】
圧縮比1.5~2.5のフルフライトスクリュを備える射出成形機を用いて射出成形する、請求項に記載の射出成形品の製造方法。
【請求項7】
成形後の射出成形品を急冷する、請求項又はに記載の射出成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用樹脂組成物、射出成形品、及び射出成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形品は、建材、住設、土木等の様々な分野において広く用いられている。射出成形品の製造に用いる樹脂組成物として、硬質系の樹脂を用いることで、耐久性及び耐候性に優れた射出成形品が得られる。
射出成形品としては、例えば、PBT樹脂を含む樹脂組成物を用いて製造された射出成形品が挙げられる。また、PBT樹脂に硫酸バリウムが配合された樹脂組成物を用いて製造された射出成形品も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-233066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
射出成形品に硫酸バリウムを配合することで、機械的強度が高くなり、また重厚感が増す。しかし、特許文献1のようなPBT樹脂を用いた樹脂組成物は、射出成形時の収縮率が高いため、得られる射出成形品の寸法安定性が劣る傾向があり、またヒケやフローマークが生じて外観が悪化しやすい。
また、射出成形においては、成形性に優れ、ヤケ等の不具合を抑制できることも重要である。
【0005】
本発明は、成形性に優れ、また機械的強度及び衝撃強度が高く、重厚感があり、寸法安定性に優れ、外観に優れた射出成形品が得られる射出成形用樹脂組成物、及び、前記射出成形用樹脂組成物を用いた射出成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]平均重合度が400~1000である塩化ビニル系樹脂、硫酸バリウム、改質剤、滑剤及び安定剤を含み、
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対する前記硫酸バリウムの割合が10~300質量部配合されている、射出成形用樹脂組成物。
[2]前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対する可塑剤の割合が5質量部未満である、[1]に記載の射出成形用樹脂組成物。
[3][1]又は[2]に記載の射出成形用樹脂組成物からなる射出成形品。
[4][1]又は[2]に記載の射出成形用樹脂組成物を160~220℃で射出成形する、射出成形品の製造方法。
[5]圧縮比1.5~2.5のフルフライトスクリュを備える射出成形機を用いて射出成形する、[4]に記載の射出成形品の製造方法。
[6]成形後の射出成形品を急冷する、[4]又は[5]に記載の射出成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、成形性に優れ、また機械的強度及び衝撃強度が高く、重厚感があり、寸法安定性に優れ、外観に優れた射出成形品が得られる射出成形用樹脂組成物、及び、前記射出成形用樹脂組成物を用いた射出成形品及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[射出成形用樹脂組成物]
本発明の射出成形用樹脂組成物は、平均重合度が400~1000である塩化ビニル系樹脂(以下、「PVC系樹脂」と記す。)、硫酸バリウム、改質剤、滑剤及び安定剤を含む。
【0009】
PVC系樹脂は、塩化ビニル由来の繰り返し単位の割合が全繰り返し単位に対して50質量%以上の重合体である。PVC系樹脂は、塩化ビニルの単独重合体であってもよく、塩化ビニルと、塩化ビニルと共重合可能なビニル系単量体との共重合体であってもよい。PVC系樹脂が共重合体である場合、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよく、グラフト共重合体であってもよい。
本発明の射出成形用樹脂組成物に含まれるPVC系樹脂は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0010】
PVC系樹脂中の塩化ビニル由来の繰り返し単位の割合は、全繰り返し単位に対して、50質量%以上であり、75質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0011】
PVC系樹脂の平均重合度は、300~1000であり、400~900が好ましく、500~800がより好ましい。PVC系樹脂の平均重合度が前記範囲の下限値以上であれば、機械的強度が高い射出成形品が得られる。PVC系樹脂の平均重合度が前記範囲の上限値以下であれば、流動性が良好で成形性に優れ、フローマークやウェルドラインを抑制でき、外観に優れた射出成形品が得られる。
【0012】
塩化ビニルと共重合可能なビニル系単量体としては、特に限定されず、例えば、脂肪酸ビニルエステル、メタクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、シアン化ビニル、ビニルエーテル、α-オレフィン、不飽和カルボン酸又はその酸無水物、塩化ビニリデン、臭化ビニル、各種ウレタン等が挙げられる。
【0013】
脂肪酸ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニル等が挙げられる。アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等が挙げられる。メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられる。シアン化ビニルとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。ビニルエーテルとしては、ビニルメチルエーテル、ビニルブチルエーテル、ビニルオクチルエーテル等が挙げられる。α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブチレン等が挙げられる。不飽和カルボン酸又はその酸無水物類としては、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等が挙げられる。
塩化ビニルと共重合可能なビニル系単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
塩化ビニルとグラフト重合可能な重合体としては、例えば、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/一酸化炭素共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル/一酸化炭素共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体、エチレン/プロピレン共重合体、アクリロニトリル/ブタジエン共重合体、ポリウレタン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、メタクリル酸メチル/ブタジエン/スチレン共重合体、アクリロニトリル/ブタジエン/α-メチルスチレン共重合体、ポリブチルアクリレート、ブチルゴム、ポリスチレン、スチレン/ブタジエン共重合体、アクリルゴム等が挙げられる。
【0015】
硫酸バリウムとしては、特に限定されず、市販されているものを使用できる。硫酸バリウムは、シリカ、アルミナ等で表面処理されたものを使用してもよい。ただし、PVC系樹脂に対する分散性に優れる点から、表面処理していない硫酸バリウムが好ましい。
本発明の射出成形用樹脂組成物に含まれる硫酸バリウムは、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0016】
硫酸バリウムの平均一次粒子径は、0.1~10μmが好ましく、0.5~5μmがより好ましい。硫酸バリウムの平均一次粒子径が前記範囲の下限値以上であれば、硫酸バリウムが凝集しにくく、配合でのブロッキングや金属への粘着が発生せず、成形性に優れる。硫酸バリウムの平均一次粒子径が前記範囲の上限値以下であれば、物性が良好で特に耐衝撃性と外観に優れた射出成形品が得られやすい。
なお、硫酸バリウムの平均一次粒子径は、電子顕微鏡やレーザー回析・散乱式粒子径分析測定器により測定される。
【0017】
硫酸バリウムのpHは、5.0~9.0が好ましく、6.5~8.5がより好ましい。硫酸バリウムのpHが前記範囲内であれば、射出成形用樹脂組成物の熱安定性に優れ、またPVC系樹脂に対する硫酸バリウムの分散性に優れる。
なお、硫酸バリウムのpH値は、JIS K5101に準拠した煮沸法によって測定される。
【0018】
本発明の射出成形用樹脂組成物中の硫酸バリウムの割合は、PVC系樹脂100質量部に対して、10~300質量部であり、30~200質量部が好ましく、50~150質量部がより好ましい。硫酸バリウムの割合が前記範囲の下限値以上であれば、機械的強度に優れ重量感が出る。硫酸バリウムの割合が前記範囲の上限値以下であれば、成形性に優れ表面硬度が向上する。
【0019】
改質剤としては、例えば、耐衝撃改良剤、ゲル化促進剤、耐熱改質剤、難燃化剤、弾性付与剤、帯電防止剤、界面活性剤、導電性付与剤等が挙げられる。本発明の射出成形用樹脂組成物に含まれる改質剤は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0020】
耐衝撃改良剤としては、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、塩素化ポリエチレン、メチルメタクリレート/ブタジエン/スチレン共重合体、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体、アクリルゴム等が挙げられる。ゲル化促進剤としては、ポリメタクリル酸メチル等が挙げられる。
耐熱改質剤としては、メタクリル酸メチル/アクリル酸エステル共重合体(以下、「MMA系共重合体」と記す。)、マレイミドを使用した共重合体等が挙げられる。
難燃化剤としては、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、アンチモン酸ソーダ、リン酸エステル及びリン酸化合物、塩素化パラフィン、塩素化オレフィン、ヘキサブロモベンゼン等が挙げられる。
弾性付与剤としては、部分架橋NBR、アクリルゴム、ポリウレタン等が挙げられる。
【0021】
改質剤としては、MMA系共重合体が特に好ましい。
MMA系共重合体に用いるアクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸-n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸-n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル等が挙げられる。MMA系共重合体に用いるアクリル酸エステルは、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0022】
MMA系共重合体の重量平均分子量は、300万以上が好ましい。MMA系共重合体の重量平均分子量が前記範囲の下限値以上であれば、MMA系共重合体の分散性、溶融強度が向上する。
【0023】
本発明の射出成形用樹脂組成物中の改質剤の割合は、PVC系樹脂100質量部に対して、1~100質量部が好ましく、5~70質量部がより好ましい。
本発明の射出成形用樹脂組成物中のMMA系共重合体の割合は、PVC系樹脂100質量部に対して、1~30質量部が好ましく、3~15質量部がより好ましい。MMA系共重合体の割合が前記範囲の下限値以上であれば、射出成形品の機械的強度、溶融強度が向上する。MMA系共重合体の割合が前記範囲の上限値以下であれば、射出成形用樹脂組成物の流動性が向上し、成形性に優れる。
【0024】
滑剤としては、特に限定されず、市販の滑剤を使用できる。滑剤の具体例としては、例えば、脂肪族炭化水素系滑剤、高級脂肪族アルコール系滑剤、脂肪族アミド系滑剤、脂肪酸エステル系滑剤、金属石けん等が挙げられる。
【0025】
脂肪族炭化水素系滑剤としては、低分子ワックス、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、流動パラフィン等が挙げられる。高級脂肪族アルコール系滑剤としては、ステアリルアルコール等が挙げられる。脂肪族アミド系滑剤としては、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、メチレンビステアロアミド等が挙げられる。脂肪酸エステル系滑剤としては、モノステアリン酸グリセリン、ジアミノステアリン酸エチル、ブチルステアレート等が挙げられる。
【0026】
滑剤としては、外部滑性の高い滑剤が好ましく、ポリエチレンワックス、パラフィンワックスがより好ましい。本発明の射出成形用樹脂組成物に含まれる滑剤は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0027】
本発明の射出成形用樹脂組成物中の滑剤の割合は、PVC系樹脂100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、0.5~5質量部がより好ましい。滑剤の割合が前記範囲の下限値以上であれば、射出成形品の離型性が向上し、外観に優れた射出成形品が得られやすくなる。滑剤の割合が前記範囲の上限値以下であれば、成形性に優れる。
【0028】
安定剤としては、特に限定されず、例えば、鉛系安定剤、錫系安定剤、有機金属塩系安定剤、金属石ケン系安定剤、アンチモン系安定剤、ホスフェート系安定剤、エポキシ化油安定剤、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、紫外線吸収剤等が挙げられる。本発明の射出成形用樹脂組成物に含まれる安定剤は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0029】
鉛系安定剤としては、三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、塩基性亜硫酸鉛、二塩基性フタル酸鉛、鉛白、鉛のラウレート又はステアレート等が挙げられる。
錫系安定剤としては、ブチル錫マレート、オクチル錫マレート、ジ-n-アルキル錫メルカプチド、ジ-n-アルキル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫ラウリルメルカプチド、ジオクチル錫S,S’-ビス-(イソオクチルメルカプトアセテート)、ジブチル錫ビス-イソオクチルチオグリコレート、ジ-(n-オクチル)錫マレートポリマー、ジブチル錫メルカプトプロピオナート等が挙げられる。
有機金属塩系安定剤及び金属石ケン系安定剤としては、カルシウム、カドミウム、バリウムまたは亜鉛のラウレート又はステアレート等が挙げられる。
アンチモン系安定剤としては、アンチモンメルカプトカルボン酸塩又はエステル塩等が挙げられる。
エポキシ化油安定剤としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、硫黄、メチレン基等で二量体化したビスフェノール等のヒンダートフェノール、サリチル酸エステル、ベンゾフェノン、べンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0030】
本発明の射出成形用樹脂組成物中の安定剤の割合は、PVC系樹脂100質量部に対して、1~15質量部が好ましく、2~10質量部がより好ましい。安定剤の割合が前記範囲の下限値以上であれば、熱安定性が向上し、ヤケや異物が発生しない。安定剤の割合が前記範囲の上限値以下であれば、加工性に優れる。
【0031】
本発明の射出成形用樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、PVC系樹脂、硫酸バリウム、改質剤、滑剤及び安定剤以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、充填剤、着色剤、発泡剤等が挙げられる。
【0032】
充填剤としては、特に限定されず、例えば、酸化物系充填剤、水酸化物系充填剤、硫酸塩系充填剤及び亜硫酸塩系充填剤、炭素系充填剤、無機繊維系充填剤、金属粉系充填剤、耐熱性樹脂等が挙げられる。充填剤としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
炭酸塩系充填剤としては、炭酸マグネシウム、ドーソナイト等が挙げられる。酸化物系充填剤としては、シリカ、ケイ藻土、酸化チタン等が挙げられる。水酸化物系充填剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。硫酸塩系充填剤及び亜硫酸塩系充填剤としては、硫酸カルシウム等が挙げられる。ケイ酸塩系充填剤としては、タルク、クレー、マイカ、ケイ酸カルシウム等が挙げられる。炭素系充填剤としては、カーボンブラック、グラファイト等が挙げられる。無機繊維系充填剤としては、中空又は中実ガラスビーズ、ガラス短繊維、金属繊維、カーボン短繊維、カーボン繊維等が挙げられる。金属粉系充填剤としては、鉄粉、銅粉等が挙げられる。耐熱性樹脂としては、ポリイミド、シリコーン等が挙げられる。
【0034】
着色剤としては、特に限定されず、例えば、無機顔料、有機顔料、染料が挙げられる。着色剤としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
無機顔料としては、例えば、金属粉類(アルミニウム粉、ブロンズ粉等)、炭素塩類(カーボンブラック等)、酸化物類(酸化チタン、亜鉛華、ベンガラ等)、硫酸塩類(沈降性硫酸バリウム等)、炭酸塩類(炭酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム等)、ケイ酸塩類(クレー、群青等)、クロム酸塩類(黄鉛等)、アルミン酸塩類(コバルトブルー等)、フェロシアン化合物類(紺青等)等が挙げられる。
【0035】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料類(トルイジンレッド、パーマネントカーミンFB、ジスアゾイエローAAA、レーキレッドC等)、多環式顔料類(フタロシアニンブルー、インダントロンブルー、キナクリドンレッド等)、染付レーキ類(ビクトリアピュアブルーBOレーキ、アルカリブルートナー等)、アジン顔料類、蛍光顔料類等が挙げられる。
染料としては、塩基性染料、酸性染料、油溶染料、分散染料等が挙げられる。
【0036】
発泡剤としては、特に限定されず、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、アゾイソブチロニトリル(AIBN)、オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、パラトルエンスルホニルヒドラジド(TSH)等が挙げられる。
【0037】
本発明の射出成形用樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、可塑剤を含んでもよいが、ヤケが生じにくく、成形性に優れる点から、可塑剤を含まないことが好ましい。たとえ本発明の射出成形用樹脂組成物が可塑剤を含む場合でも、本発明の射出成形用樹脂組成物中の可塑剤の割合は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、5質量部未満が好ましく、1質量部未満がより好ましい。
【0038】
可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル類(フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジ-n-オクチル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ブチルベンジル、又は炭素数11~13程度の高級アルコールのフタル酸エステル等)、脂肪族二塩基酸エステル類(アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジブチル等)、リン酸エステル類(リン酸トリブチル、リン酸トリ-2-n-エチルヘキシル、リン酸トリクレジル、リン酸トリフェニル等)、トリメリット酸エステル類(トリメリット酸-トリ-2-エチルヘキシル、トリメリット酸トリブチル等)、グリコールエステル類(ペンタエリスリトールエステル、ジエチレングリコールベンゾエート等)、エポキシ化エステル類(エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等)、クエン酸エステル類(アセチルトリブチルシトレート、アセチルトリオクチルシトレート、トリ-n-ブチルシトレート等)、テトラ-n-オクチルピロメリテート、ポリプロピレンアジペート、その他のポリエステル系可塑剤等が挙げられる。
【0039】
本発明の射出成形用樹脂組成物の190℃、6.08×10-1における粘度は、1.3×10~2.5×10Pa・sであり、1.5×10~2.2×10Pa・sが好ましい。樹脂組成物の粘度が前記範囲の下限値以上であれば、バリや反り、変形を抑制できる。射出成形用樹脂組成物の粘度が前記範囲の上限値以下であれば、樹脂組成物の流動性が優れるため、フローマークやウェルドラインが生じることが抑制され、外観に優れた射出成形品が得られる。
射出成形用樹脂組成物の粘度は、例えば、PVC系樹脂の平均重合度や滑剤の含有量を調節することで調節できる。
なお、射出成形用樹脂組成物の粘度は、キャピラリーレオメーターにより測定される。
【0040】
本発明の射出成形用樹脂組成物の製造方法は、特に限定されず、例えば、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー等の混合機によって混合した後、バンバリーミキサー、ミキシングロール、押出機等により混練することで製造できる。
【0041】
[射出成形品]
本発明の射出成形品は、前記した本発明の射出成形用樹脂組成物を射出成形することによって得られる成形品である。本発明の射出成形品の態様は、本発明の射出成形用樹脂組成物を用いる以外は、特に限定されない。
【0042】
射出成形品の曲げ弾性率は、3000~5000MPaが好ましく、3500~4500MPaがより好ましい。射出成形品の曲げ弾性率が前記範囲の下限値以上であれば、高強度な射出成形品となり、肉厚の薄い射出成形品とすることが可能となる。射出成形品の曲げ弾性率が前記範囲の上限値以下であれば、加工性に優れる。射出成形品の曲げ弾性率は、例えば、PVCの平均重合度、改質剤や充填材の含有量により調節できる。
なお、射出成形品の曲げ弾性率は、JIS K 7171やASTMD790により測定される。
【0043】
射出成形品の表面の鉛筆硬度は、HB~2Hが好ましく、F~Hがより好ましい。射出成形品の表面の鉛筆硬度が前記範囲の下限値以上であれば、表面に発生するキズが目立ちにくくなる。射出成形品の表面の鉛筆硬度が前記範囲の上限値以下であれば、柔軟性があり、折り曲げた場合に表面のヒビ割れが発生しない。射出成形品の表面の鉛筆硬度は、例えば、改質剤の含有量により調節できる。
なお、射出成形品の表面の鉛筆硬度は、JIS K 5600により測定される。
【0044】
射出成形品の表面のロックウェル硬さは、80~140が好ましく、100~130がより好ましい。射出成形品の表面のロックウェル硬さが前記範囲の下限値以上であれば、射出成形品の強度に優れる。射出成形品の表面のロックウェル硬さが前記範囲の上限値以下であれば、金型からの離形性に優れる。射出成形品の表面のロックウェル硬さは、例えば、可塑剤の含有量により調節できる。
なお、射出成形品の表面のロックウェル硬さは、JIS K 7202により測定される。
【0045】
射出成形品の密度は、1.5~2.0が好ましく、1.6~1.9がより好ましい。射出成形品の密度が前記範囲の下限値以上であれば、射出成形品の強度に優れる。射出成形品の密度が前記範囲の上限値以下であれば、射出成形品の加工性に優れる。射出成形品の密度は、例えば、充填剤や可塑剤の含有量により調節できる。
なお、射出成形品の密度は、JIS K 7112やJIS K 7222により測定される。
【0046】
本発明の射出成形品の形状は、特に限定されず、用途に応じて適宜設定できる。
本発明の射出成形品の用途は、特に限定されず、例えば、陶器製品の代替品、金属製品の代替え品、木材製品の代替え品等が挙げられる。射出成形品の鉛筆硬度、ロックウェル硬度及び密度を前記した範囲に制御すれば、陶器のような物性の射出成形品となる。
【0047】
[射出成形品の製造方法]
本発明の射出成形品の製造方法は、本発明の射出成形用樹脂組成物を160~220℃に加熱して射出成形する方法である。
本発明の射出成形品の製造方法は、本発明の射出成形用樹脂組成物を用い、金型に射出する射出成形用樹脂組成物の温度(射出温度)を160~220℃に制御する以外は、公知の方法を採用できる。例えば、射出成形機の射出ユニットにおいて本発明の射出成形用樹脂組成物を溶融混練し、160~220℃で金型内に射出し、所定の温度まで冷却した後に射出成形品を脱型する。
【0048】
使用する射出成形機としては、樹脂のヤケや、ガスの発生によるヒケ等の不具合が生じることを抑制しやすく、優れた外観の射出成形品が得られやすい点から、圧縮比が1.5~2.5のフルフライトスクリュを備える射出成形機が好ましい。圧縮比は、標準的なスクリュとしては、2以上であり、高粘度の樹脂のヤケや、ガスの発生を防止するために低圧縮なスクリュとしては、2未満が好ましい。また、フルフライトスクリュは、樹脂が滞留しにくくヤケが生じにくい点から、逆止弁を備えないものがより好ましい。
射出成形機の金型は、目的の射出成形品の形状に応じて適宜設計すればよい。
【0049】
射出成形用樹脂組成物の射出温度は、160~220℃であり、170~200℃が好ましく、170~190℃がより好ましい。射出温度が前記範囲の下限値以上であれば、射出成形品の加工性に優れる。射出温度が前記範囲の上限値以下であれば、射出成形品のヤケやガスの発生が抑えられる。
【0050】
本発明においては、成形後に射出成形品を急冷することが好ましい。PVC系樹脂を含む樹脂組成物は高粘度になる傾向があるが、表面側を高温にして流動性を高め、成形後に急冷するヒートサイクル方式を採用することで、射出成形品の表面の艶を向上させることができる。
【0051】
射出成形用樹脂組成物を固化する際の金型のキャビティ面の温度は、20~140℃であり、30~70℃が好ましく、30~50℃がより好ましい。前記キャビティ面の温度が前記範囲の下限値以上であれば、射出成形用樹脂組成物の流動性が向上し、成形性に優れる。前記キャビティ面の温度が前記範囲の上限値以下であれば、射出成形品のヒケや変形に優れる。
【0052】
射出成形品を急冷する方法は、特に限定されず、例えば、金型から脱型した射出成形品を水と接触させて急冷する方法が挙げられる。射出成形品を水と接触さる態様は、特に限定されず、例えば、射出成形品を水中に浸漬する方法が挙げられる。
射出成形品と接触させる水の温度は、10~50℃が好ましく、20~40℃がより好ましい。
【0053】
以上説明したように、本発明においては、平均重合度が400~1000のPVC系樹脂、硫酸バリウム、改質剤、滑剤及び安定剤を含み、かつ硫酸バリウムの配合量を特定の範囲に制御した射出成形用樹脂組成物を用いる。PVC系樹脂はPBT樹脂に比べて成形時の収縮率が低い。また、硫酸バリウムが配合されることでPVC系樹脂の変形及び収縮が低減されるため、寸法安定性に優れた射出成形品が得られる。また、成形時の変形及び収縮が低減されるうえ、滑剤が配合されることで成形性及び離型性も優れているため、ヒケやフローマーク、ヤケ等の不具合が生じることが抑制され、外観に優れた射出成形品が得られる。さらに、用いるPVC系樹脂は硬質系のため、得られる射出成形品は耐久性及び耐候性にも優れている。
【0054】
また、本発明の射出成形品は、硫酸バリウムが配合されていることで、機械的強度及び衝撃強度が高く、重厚感もある。そのため、例えば、重厚感があるものの割れ等の破損が生じやすい陶器等の代替品として有用である。
【0055】
また、射出成形においては、一般に肉厚に差がある部分を有する射出成形品を製造しようとした場合にヒケが生じやすく、外観が悪化しやすい傾向がある。しかし、本発明の射出成形用樹脂組成物を用いれば、肉厚に差がある部分を有する射出成形品を製造する場合でも、ヒケの発生を充分に抑制でき、外観に優れた射出成形品を得ることができる。
そのため、本発明は、最も薄肉な部分の厚みに対する最も肉厚な部分の厚みの比率が1~30倍である射出成形品の製造に有用であり、前記比率が2~5倍である射出成形品の製造に特に有用である。
【実施例
【0056】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[原料]
本実施例で使用した原料を以下に示す。
(PVC系樹脂)
A-1:製品名「TK-700」(塩化ビニルの単独重合体、平均重合度:700、信越化学工業株式会社製)。
A-2:製品名「TK-500」(塩化ビニルの単独重合体、平均重合度:500、信越化学工業株式会社製)。
【0057】
(PBT樹脂)
X-1:製品名「トレコン 1101H」(ポリブチレンテレフタレート、東レ株式会社製)。
【0058】
(硫酸バリウム)
B-1:製品名「B-54」(硫酸バリウム、平均一次粒子径:1.2μm、pH:7.5、堺化学工業株式会社製)。
【0059】
(改質剤)
C-1:MMA系共重合体(製品名「メタブレンP-530A」、三菱化学株式会社製、重量平均分子量:310万)。
【0060】
(滑剤)
D-1:VPN-963(製品名「エステル系ワックス」、コグニスジャパン株式会社製)。
【0061】
(安定剤)
E-1:錫系安定剤(製品名「アデカスタブ465E」、株式会社ADEKA製)。
【0062】
[粘度]
樹脂組成物の190℃、6.08×10-1における粘度は、東洋精機製作所製キャピログラフ1Dにより測定した。
【0063】
[実施例1]
PVC系樹脂A-1の50質量部、PVC系樹脂A-2の50質量部、硫酸バリウムB-1の80質量部、改質剤C-1の8質量部、滑剤D-1の2質量部、及び安定剤E-1の5質量部を混合して射出成形用樹脂組成物とした。得られた射出成形用樹脂組成物の190℃、6.08×10-1における粘度は1.8×10Pa・sであった。
標準の圧縮比が2.5のスクリュを備える射出成形機を用い、射出温度を190℃、固化時の金型のキャビティ面の温度を40℃として射出成形を行い、平板状の射出成形品を得た。
【0064】
[実施例2]
組成を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして射出成形用樹脂組成物を調製した。
圧縮比が1.8のフルフライトスクリュ(低圧縮スクリュ)を備える射出成形機を用い、成形後に100℃の射出成形品を脱型し、30℃の水に浸漬して急冷した以外は、実施例1と同様にして射出成形品を得た。
【0065】
[実施例3、4]
組成を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして射出成形用樹脂組成物を調製した。
圧縮比が1.5のフルフライトスクリュ(低圧縮スクリュ)を備える射出成形機を用いた以外は、実施例1と同様にして射出成形品を得た。
【0066】
[比較例1、2]
組成を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして射出成形用樹脂組成物を調製し、実施例2と同様にして射出成形品を得た。
【0067】
[比較例3]
組成を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして射出成形用樹脂組成物を調製し、射出成形品を得た。
【0068】
[比較例4]
組成を表1に示すとおりに変更し、得られた射出成形用樹脂組成物の230℃、6.08×10-1における粘度が0.6×10Pa・sである以外は、実施例1と同様にして射出成形用樹脂組成物を調製し、射出成形品を得た。
【0069】
[評価方法]
各例の評価方法は、以下のとおりである。
(成形性)
各例の射出成形における成形性は、射出成形した時の成形性(流動性)を、以下の基準により評価した。
〇:全く問題なく成形できる。
△:成形が多少困難(離形不良、ヤケ不良、製品の変形不良)。
×:成形が困難(離形不良、ヤケ不良、製品の変形不良)。
【0070】
(成形品の外観)
各例の射出成形品の外観は、表面を目視にて観察して、以下の基準により評価した。
〇:全く外観に問題がない。
△:フローマーク、ウェルドライン、バリがかすかに確認できる。
×:フローマーク、ウェルドライン、バリ、硫酸バリウムの分散不良が確認できる。
【0071】
(曲げ弾性率)
各例の射出成形品の曲げ弾性率は、引張・圧縮・曲げ試験機を用い、JIS K 7171に準拠して、試験速度10mm/minの条件で測定した。
【0072】
(鉛筆硬度)
各例の射出成形品の表面の鉛筆硬度は、鉛筆引っかき硬度試験機を用い、JIS K 5600-5-4に準拠して、先端の荷重750g、先端の角度45°、速度1mm/sの条件で測定した。
【0073】
(ロックウェル硬さ)
各例の射出成形品の表面のロックウェル硬さは、ロックウェル硬さ試験機を用い、JIS K 7202に準拠して、Rスケールの条件で測定した。
【0074】
(密度)
各例の射出成形品の密度は、自動比重計を用い、JIS K7112に準拠して、A法の条件で測定した。
【0075】
(成形収縮率)
各例の射出成形品の成形収縮率は、150mm×150mm×3.2mmの試験片金型で成形した試験片をn=10個取り、23℃で24時間経過後、試験片の縦、横の寸法をノギスで測定し、収縮率を算出した。
【0076】
各例の製造条件及び評価結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示すように、本発明の射出成形用樹脂組成物を用いた実施例1~4では、成形性に優れ、また得られた射出成形品は機械的強度が高く、重厚感があり、寸法安定性に優れ、外観にも優れていた。
一方、硫酸バリウムを配合していない比較例1~3で得られた射出成形品は、曲げ弾性率が低く機械的強度が不充分であり、また密度が低く重厚感が劣り、また同じPVC系樹脂を用いた実施例に比べて成形収縮率が高く寸法安定性が劣っていた。さらに比較例1、3で得られた射出成形品は、表面硬度が低かった。また、PVC系樹脂の代わりにPBT樹脂を用いた比較例4では、成形後の変形が大きく、表面硬度が低く表面傷が付きやすく、成形収縮率が高く寸法安定性が劣っていた。