(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】水性グラビアインキ
(51)【国際特許分類】
C09D 11/037 20140101AFI20230413BHJP
【FI】
C09D11/037
(21)【出願番号】P 2018236526
(22)【出願日】2018-12-18
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118131
【氏名又は名称】佐々木 渉
(72)【発明者】
【氏名】水島 龍馬
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】松園 拓人
(72)【発明者】
【氏名】植田 泰史
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-246807(JP,A)
【文献】特開平10-176132(JP,A)
【文献】特開2006-045511(JP,A)
【文献】特開2006-037082(JP,A)
【文献】特開2006-008734(JP,A)
【文献】特表2016-505648(JP,A)
【文献】特表2006-523735(JP,A)
【文献】国際公開第2017/047267(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0142110(US,A1)
【文献】国際公開第2018/173901(WO,A1)
【文献】特開2003-128995(JP,A)
【文献】特開2003-113341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料粒子A、ポリマー粒子B、防腐性化合物、及び水を含む水性グラビアインキであって、
顔料粒子Aが、顔料を含有するポリマー粒子Aであり、ポリマー粒子Aを構成するポリマーが、ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、及びポリウレタン樹脂から選ばれる1種以上であり、ポリマー粒子Aの平均粒径が
200nm以上450nm以下で、かつ、
ポリマー粒子Aの粒径分布における多分散指数が0.08以上0.32以下であり、
ポリマー粒子Bを構成するポリマーが、ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、及びポリウレタン樹脂から選ばれる1種以上であり、ポリマー粒子Bの平均粒径が30nm以上
180nm以下で、かつ、ポリマー粒子Bの粒径分布における多分散指数が0.08以上0.32以下であり、
防腐性化合物が、
1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、ブチル-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、及び2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンから選ばれる1種以上であり、
インキ中のポリマー粒子Aの含有量が5質量%以上40質量%以下であり、
インキ中のポリマー粒子Bの含有量が5質量%以上25質量%以下であり、
インキ中の防腐性化合物の含有量が、0.01質量%以上1質量%以下である、水性グラビアインキ。
【請求項2】
ポリマー粒子Aを構成するポリマーが、ビニル系樹脂である、請求項1に記載の水性グラビアインキ。
【請求項3】
ビニル系樹脂が、スチレン-アクリル系樹脂である、請求項2に記載の水性グラビアインキ。
【請求項4】
インキ中のポリマー粒子Aに対するポリマー粒子Bの質量比〔ポリマー粒子B/ポリマー粒子A〕が、0.2以上3以下である、請求項1~3のいずれかに記載の水性グラビアインキ。
【請求項5】
更に、ノニオン性界面活性剤を含有する、請求項1~
4のいずれかに記載の水性グラビアインキ。
【請求項6】
ノニオン性界面活性剤が、アセチレングルコール系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤から選ばれる1種以上である、請求項
5に記載の水性グラビアインキ。
【請求項7】
ノニオン性界面活性剤の含有量が0.1質量%以上5質量%以下である、請求項
5又は
6に記載の水性グラビアインキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性グラビアインキに関する。
【背景技術】
【0002】
グラビア印刷は、インキを受容するセルを形成したグラビア版を用いて、インキを印刷媒体に転写する印刷方法である。セルの深さやセルの間隔(線数)によって印刷の品質をコントロールすることができ、高精細な印刷が行えることから汎用されている。
グラビア印刷に用いられるグラビアインキは、作業環境の改善を目指し、ノントルエン系油性インキが用いられているが、揮発性有機化合物低減やCO2削減には至っておらず、労働環境、地球環境の観点に加え、防災上の観点、更には食品関連に使用する場合の残留溶剤の観点から問題がある。また、グラビア印刷では油性インキの使用量が多いため、多品種、小ロット化の市場ニーズに応えにくいという問題がある。
そのため、水性インキを用いるグラビア印刷が注目されている。しかし、水性インキにおいては、乾燥不良や表面張力による版面へのインキ濡れ不良のために、印刷媒体に対する密着性が劣り、高品質の印刷物を得られ難いという問題がある。
【0003】
印刷媒体に対する密着性等の塗膜物性を改善するために、インキ中に樹脂エマルジョンを配合する技術が知られている。
例えば、特許文献1には、インキ安定性、印刷適性、塗膜物性に優れるグラビア印刷に好適なインキとして、個数分布における粒子径分布の粒子径50nm未満の粒子が全粒子の20重量%未満であり、かつ粒子径50~600nmの範囲の粒子が全粒子の60重量%以上であるような粒子径分布を有する樹脂エマルジョンをベヒクルとして用いる水性印刷インキが開示されている。そして、その実施例では、水性印刷インキを水にてザーンカップ粘度#3-25秒になるように希釈し、発泡塩化ビニルゾルをコートした塩ビ壁紙原反に印刷したのち、得られた印刷物を220℃の熱風オーブンにて45秒間加熱発泡させ、加熱発泡加工後の塗膜物性(接着性、耐水性、耐摩擦性、耐薬品性)を評価したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、印刷媒体として樹脂フィルムの利用が進んでいるが、印刷画像に傷や剥がれがあると商品の価値を低下させるため、印刷において樹脂フィルム等の低吸液性又は非低吸液性印刷媒体に対する印刷画像の高い密着性が求められている。
しかしながら、特許文献1に記載の水性インキは、印刷物を220℃で加熱発泡加工した後の塗膜物性が優れるというものであり、インキ中のポリマー粒子が軟化又は溶融する温度条件で使用されており、加熱処理が制限されるPETフィルムやポリプロピレンフィルム等の低吸液性又は非低吸液性の印刷媒体に対しては密着性が不十分である。
また、油性グラビアインキやアルコール含有量が多い水性グラビアインキでは、油性の溶剤やアルコールによりインキの防腐性が担保されるが、水の含有量が多い水性グラビアインキでは、防腐防錆性が劣る傾向がある。インキ中で細菌等が増加すると保存安定性に影響する。これを改善するため、水の含有量が多い水性グラビアインキに対しては、防腐性化合物をインキに配合して防腐性を担保することが考えられる。特許文献1では、配合できる成分として、防腐剤、防黴剤、抗菌剤が羅列されているが、それらの種類や配合効果については何ら記載されていない。
本発明は、インキの密着性及び保存安定性に優れ、高品質の印刷物を得ることができる水性グラビアインキを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、顔料粒子A、ポリマー粒子Bを含む水性グラビアインキにおいて、顔料粒子Aとポリマー粒子Bのそれぞれの平均粒径と多分散指数を特定の範囲に調整し、かつ特定の防腐性化合物を含有させることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は、顔料粒子A、ポリマー粒子B、防腐性化合物、及び水を含む水性グラビアインキであって、顔料粒子Aの平均粒径が140nm以上550nm以下で、かつ、顔料粒子Aの粒径分布における多分散指数が0.08以上0.32以下であり、
ポリマー粒子Bの平均粒径が30nm以上220nm以下で、かつ、ポリマー粒子Bの粒径分布における多分散指数が0.08以上0.32以下であり、
防腐性化合物が、イソチアゾリン化合物、芳香族アルコール化合物、及びピリチオン金属錯体から選ばれる1種以上である、水性グラビアインキを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、インキの密着性及び保存安定性に優れ、高品質の印刷物を得ることができる水性グラビアインキを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[水性グラビアインキ]
本発明の水性グラビアインキ(以下、「本発明のインキ」ともいう)は、顔料粒子A、ポリマー粒子B、防腐性化合物、及び水を含む水性グラビアインキであって、顔料粒子Aの平均粒径が140nm以上550nm以下で、かつ、顔料粒子Aの粒径分布における多分散指数が0.08以上0.32以下であり、
ポリマー粒子Bの平均粒径が30nm以上220nm以下で、かつ、ポリマー粒子Bの粒径分布における多分散指数が0.08以上0.32以下であり、
防腐性化合物が、イソチアゾリン化合物、芳香族アルコール化合物、及びピリチオン金属錯体から選ばれる1種以上である。
【0009】
本発明の水性グラビアインキによれば、インキの密着性及び保存安定性に優れ、高品質の印刷物を得ることができる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明のインキは、特定の平均粒径と小さな多分散指数を有する顔料粒子A及びポリマー粒子Bを含有する。
顔料粒子Aの多分散指数が小さいと粒径分布が狭くなるため、印刷媒体表面上で、顔料粒子Aがより均一なサイズで表面凹凸が少ない状態で均一に定着する。この結果、顔料粒子Aの密着性が向上すると考えられる。
ポリマー粒子Bにおいても顔料粒子Aと同様の働きがあると考えられ、ポリマー粒子Bの多分散指数が小さいと粒径分布が狭くなり、印刷媒体表面上で、ポリマー粒子Bがより均一なサイズで表面凹凸が少ない状態で均一に定着するため、密着性が向上すると考えられる。
また、特定の防腐性化合物を用いることにより、適度なイオン性や疎水性の強さにより防腐性化合物が顔料粒子Aやポリマー粒子Bに吸着することなく、顔料粒子A及びポリマー粒子Bを安定に保持でき、また菌の増殖を抑制できるので、印刷面の形成過程でインキが凝集せずに安定性が向上し、顔料粒子A及びポリマー粒子Bが印刷媒体表面で均一に広がることで均一な膜が形成されて定着するため、密着性が向上すると考えられる。
さらに、顔料粒子A及びポリマー粒子Bの粒径分布が狭いため均一な粒子サイズとなり、顔料粒子A間及びポリマー粒子B間の電荷反発の均一化で保存安定性が向上すると考えられる。
この結果、インキの密着性及び保存安定性に優れ、高品質の印刷物を得ることができると考えられる。
【0010】
<顔料粒子A>
本発明のインキで用いられる顔料粒子Aは、無機顔料粒子及び有機顔料粒子のいずれであってもよい。
顔料粒子Aを構成する無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物等が挙げられる。黒色インキにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。白色インキにおいては、二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等の金属酸化物等の白色顔料が挙げられる。
顔料粒子Aを構成する有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
色相は特に限定されず、有彩色インキにおいては、イエロー、マゼンタ、シアン、レッド、ブルー、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
【0011】
白色顔料を用いる場合は、分散性の観点から、二酸化チタンが好ましい。二酸化チタンの結晶構造には、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型があるが、結晶の安定性、隠蔽性、及び入手性の観点から、ルチル型酸化チタンが好ましい。
二酸化チタンは、未処理のものを用いることもできるが、良好な分散性を得る観点から、表面処理されたものが好ましい。二酸化チタンの表面処理としては、アルミナ、シリカ、酸化亜鉛、ジルコニア、酸化マグネシウム等の無機物による表面処理や、チタンカップリング剤、シランカップリング剤、高級脂肪酸金属塩等の公知の疎水化処理剤で表面処理されたものであってもよい。
二酸化チタンの平均一次粒子径は、白色度の観点から、一次粒子の長径の算術平均で、好ましくは140nm以上、より好ましくは150nm以上、更に好ましくは200nm以上であり、そして、隠蔽性の観点から、好ましくは450nm以下、より好ましくは400nm以下、更に好ましくは350nm以下である。
ルチル型二酸化チタンの市販品例としては、石原産業株式会社製の商品名:タイペークR、CR、PFシリーズ、堺化学工業株式会社製の商品名:Rシリーズ、テイカ株式会社製の商品名:JR、MTシリーズ、チタン工業株式会社製の商品名:KURONOS KRシリーズ、huntsmann社製の商品名:TRシリーズ等が挙げられる。
【0012】
本発明で用いられる顔料粒子Aの好適形態としては、自己分散型顔料粒子、及び顔料をポリマーに含有させた顔料粒子の形態が挙げられるが、顔料の分散安定性を向上させる観点から、顔料をポリマーに含有させた顔料粒子、即ち顔料を含有するポリマー粒子A(以下、「顔料含有ポリマー粒子A」ともいう)の形態が好ましい。本明細書において「顔料含有ポリマー粒子A」は、ポリマーが顔料を包含する形態、ポリマーと顔料からなる粒子の表面に顔料の一部が露出している形態、ポリマーが顔料の一部に吸着している形態等の粒子を含む。
なお、自己分散型顔料粒子とは、アニオン性親水基又はカチオン性親水基の1種以上を、直接又は他の原子団を介して顔料の表面に結合することで、界面活性剤やポリマーを用いることなく水系媒体に分散可能である顔料粒子を意味する。
【0013】
(顔料粒子Aの平均粒径)
本発明のインキ中における顔料粒子Aの平均粒径は、インキの密着性及び保存安定性を向上させる観点から、140nm以上550nm以下である。顔料粒子Aの平均粒径は、公知の方法により粉砕、分散処理することにより調整することができる。
顔料粒子Aの平均粒径は、好ましくは150nm以上、より好ましくは200nm以上、更に好ましくは250nm以上であり、そして、好ましくは500nm以下、より好ましくは490nm以下、更に好ましくは450nm以下である。
顔料粒子Aの平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0014】
(顔料粒子Aの粒径分布における多分散指数)
本発明のインキ中における顔料粒子Aの粒径分布における多分散指数は、インキの密着性及び保存安定性を向上させる観点から、0.08以上0.32以下である。
「多分散指数(Polydispersity Index:PDI)」とは、粒径分布の幅を評価するための指数であり、動的光散乱法によって測定され、「高分子の構造(2)散乱実験と形態観察 第1章 光散乱」(共立出版 高分子学会編)、又はJ.Chem.Phys.,70(B),15 Apl.,3965(1979)に記載のキュムラント法を用いた解析から求めることができる。
顔料粒子Aの多分散指数は、上記と同様の観点から、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.11以上、更に好ましくは0.12以上であり、そして、好ましくは0.30以下、より好ましくは0.29以下、更に好ましくは0.27以下である。
顔料粒子Aの多分散指数は、実施例に記載の方法により測定される。
顔料粒子Aの平均粒径及び多分散指数は、顔料の一次粒子径、及び顔料を水等の媒体中に分散させる際の分散強度や分散時間等の分散条件で調整することができる。また、平均粒径及び多分散指数を満たす市販品を選択して用いることもできる。
【0015】
(顔料粒子Aを構成するポリマー)
顔料粒子Aを構成するポリマーとしては、水溶性ポリマー及び水不溶性ポリマーのいずれでもよいが、水不溶性ポリマーがより好ましい。すなわち、顔料粒子Aは、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子Aであることがより好ましい。
水不溶性ポリマーとは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに飽和するまで溶解させたときに、その溶解量が10g未満であるポリマーをいい、その溶解量は好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。アニオン性ポリマーの場合、溶解量は、ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
用いられるポリマーとしては、ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等から選ばれる1種以上が挙げられるが、顔料の分散安定性の観点から、ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物等のビニル単量体の付加重合により得られるビニル系樹脂が好ましい。また、架橋剤で架橋されたポリマーを用いることもできる。
顔料粒子Aを構成するポリマーは、インキの保存安定性を向上させる観点から、ビニルモノマーの付加重合により得られるビニル系樹脂が好ましい。
ビニル系樹脂としては、(a1)イオン性モノマー由来の構成単位と、(a2)ノニオン性モノマー由来の構成単位を含むアクリル樹脂が好ましい。
【0016】
(a1)イオン性モノマーとしては、アニオン性モノマーが好ましく、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー等が挙げられる。これらの中では、カルボン酸モノマーがより好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上が更に好ましい。
(a2)ノニオン性モノマーは、水や水溶性有機溶剤との親和性が高いモノマーであり、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが好ましく、メトキシポリエチレングリコール(n=1~30)(メタ)アクリレートが更に好ましい。ノニオン性モノマーの市販品例としては、新中村化学工業株式会社製のNKエステルMシリーズ、日油株式会社製のブレンマーPEシリーズ、PMEシリーズ、50PEPシリーズ、50POEPシリーズ等が挙げられる。
【0017】
顔料粒子Aを構成するポリマーは、更に(a3)疎水性モノマー由来の構成単位を含んでもよい。(a3)疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー、片末端に重合性官能基を有するマクロモノマー等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数6以上18以下のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
芳香族基含有モノマーとしては、炭素数6以上22以下の芳香族基を有するビニル系モノマーが好ましく、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレート等がより好ましい。スチレン系モノマーとしては、スチレン、2-メチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等が好ましく、芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート等が好ましい。
【0018】
(顔料粒子Aを構成するポリマー中における各構成単位の含有量)
顔料粒子Aを構成するポリマー中における(a1)~(a3)成分に由来する構成単位の含有量は、インキの分散安定性を向上させる観点から、次のとおりである。
(a1)成分の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
(a2)成分の含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは60質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。
(a3)成分の含有量は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0019】
(顔料粒子Aを構成するポリマーの製造)
顔料粒子Aを構成するポリマーは、(a1)イオン性モノマー、(a2)ノニオン性モノマー等を含むモノマー混合物を公知の溶液重合法等により共重合させることにより製造できる。
前記ポリマーの重量平均分子量は、インキの分散安定性、及び印刷媒体への密着性を向上させる観点から、好ましくは3千以上、より好ましくは5千以上、更に好ましくは1万以上であり、そして、好ましくは10万以下、より好ましくは5万以下、更に好ましくは3万以下である。
前記ポリマーの酸価は、顔料の分散性及びポリマーの吸着性の観点から、好ましくは100mgKOH/g以上、より好ましくは150mgKOH/g以上、更に好ましくは200mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは350mgKOH/g以下、より好ましくは300mgKOH/g以下、更に好ましくは250mgKOH/g以下である。
なお、重量平均分子量及び酸価の測定は実施例に記載の方法により行うことができる。
【0020】
(顔料含有ポリマー粒子Aの製造)
顔料含有ポリマー粒子Aは、分散体として下記工程Iを有する方法により、効率的に製造することができる。更に、下記工程II及び工程IIIを有する方法により製造してもよい。工程Iで有機溶媒を含まない場合は、工程IIを省略できる。工程IIIは任意である。
工程I:ポリマー、顔料、及び必要に応じて、有機溶媒、中和剤、界面活性剤等を含有する混合物を分散処理して、顔料含有ポリマー粒子の分散体を得る工程
工程II:工程Iで得られた分散体から有機溶媒を除去して、顔料含有ポリマー粒子の水分散体を得る工程
工程III:工程Iで得られた分散体又は工程IIで得られた水分散体と架橋剤を混合し、架橋処理して、顔料を含有する架橋ポリマー粒子の水分散体を得る工程
【0021】
顔料粒子Aを構成するポリマーがアニオン性基を有するアニオン性ポリマーの場合、中和剤を用いてポリマー中のアニオン性基を中和してもよい。中和剤を用いる場合は、pHが7以上11以下になるように中和することが好ましい。中和剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、各種アミン等の塩基が挙げられる。また、該ポリマーを予め中和しておいてもよい。
前記ポリマーのアニオン性基の中和度は、インキの分散安定性を向上させる観点から、アニオン性基に対して10モル%以上100モル%以下が好ましく、20モル%以上90モル%以下がより好ましく、30モル%以上80モル%以下が更に好ましい。
ここで中和度は、前記ポリマーがアニオン性基を有する場合、前記ポリマーのアニオン性基に対する中和剤の使用当量として下記式によって求めることができる。中和剤の使用当量が100モル%以下の場合、中和度と同義である。中和剤の使用当量が100モル%を超える場合には、中和剤が前記ポリマーの酸基に対して過剰であることを意味し、この時のポリマーの中和度は100モル%とみなす。
中和剤の使用当量(モル%)=〔{中和剤の添加質量(g)/中和剤の当量}/[{ポリマーの加重平均酸価(mgKOH/g)×ポリマーの質量(g)}/(56×1000)]〕×100
【0022】
架橋剤は、顔料含有ポリマー粒子Aを構成するポリマーがアニオン性基を有する場合、該アニオン性基と反応する官能基を有する化合物が好ましく、分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物、分子中に2以上のオキサゾリン基を有する化合物、分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物が挙げられる。これらの中でも、分子中に2以上4以下のエポキシ基を有する化合物が好ましく、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルがより好ましい。
顔料含有ポリマー粒子Aを構成するポリマー中における酸成分の架橋率は、インキの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは20モル%以上であり、そして、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、更に好ましくは60モル%以下である。
【0023】
本発明のインキ中の顔料粒子Aを構成するポリマーの含有量は、密着性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。
本発明のインキ中の顔料に対する顔料粒子Aを構成するポリマーの質量比〔ポリマー/顔料〕は、インキの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは0.2/99.8~70/30、より好ましくは0.5/99.5~60/40、更に好ましくは1/99~50/50である。
【0024】
顔料粒子Aの製造に使用するポリマーであるビニル系樹脂の具体例としては、例えば、「アロンAC-10SL」(東亜合成株式会社製)等のポリアクリル酸、「ジョンクリル67」、「ジョンクリル611」、「ジョンクリル678」、「ジョンクリル680」、「ジョンクリル690」、「ジョンクリル819」(以上、BASFジャパン株式会社製)等のスチレン-アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0025】
<ポリマー粒子B>
本発明のインキは、印刷媒体上で成膜して密着性を向上させる観点から、顔料を含有しないポリマー粒子B(以下、「ポリマー粒子B」という)を含む。ポリマー粒子Bは、顔料を含有せず、ポリマー単独で構成される水不溶性ポリマー粒子であることが好ましい。
ポリマー粒子Bを構成するポリマーとしては、ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレン-アクリル系樹脂等が挙げられるが、インキの密着性及び保存安定性を向上させる観点から、ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、及びポリウレタン樹脂から選ばれる1種以上が好ましく、ビニル系樹脂がより好ましい。また、架橋剤で架橋されたポリマーを用いることができる。
ポリマー粒子Bは、それが水中に分散した水分散体として用いることが好ましい。ポリマー粒子Bは、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0026】
前記ビニル系樹脂としては、(b1)イオン性モノマーと(b2)疎水性モノマーとを含むモノマー混合物Bを共重合させてなる水不溶性ビニル系樹脂が好ましい。
(b1)成分は、前記(a1)成分と同様であるが、それらの中でも、インキの密着性及び保存安定性を向上させる観点から、アニオン性モノマーが好ましく、カルボン酸モノマーがより好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上が更に好ましい。
(b2)成分は、前記(a3)成分と同様のアルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー、マクロモノマー等が挙げられる。これらの中でも、アルキル(メタ)アクリレートが好ましく、炭素数1以上22以下、好ましくは炭素数1以上10以下のアルキル基を有するものがより好ましく、前記例示化合物が更に好ましく、メチル(メタ)アクリレートと2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートとの併用がより更に好ましい。
【0027】
(ポリマー粒子Bを構成するポリマー中における各構成単位の含有量)
ポリマー粒子Bを構成するポリマー中における(b1)及び(b2)成分に由来する構成単位の含有量は、インキの密着性及び保存安定性を向上させる観点から、次のとおりである。
(b1)成分の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。
(b2)成分の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上であり、そして、好ましくは99質量%以下、より好ましくは97質量%以下、更に好ましくは95質量%以下である。
【0028】
前記ポリマーは、(b1)イオン性モノマー、(a2)ノニオン性モノマー等を含むモノマー混合物を公知の溶液重合法等により共重合させることにより製造できる。
商業的に入手しうるポリマー粒子Bの分散体としては、例えば、「Neocryl A1127」(DSM Neo Resins社製、アニオン性自己架橋水系アクリル系樹脂)、「ジョンクリル390」(BASFジャパン株式会社製)等のアクリル系樹脂、「WBR-2018」「WBR-2000U」(大成ファインケミカル株式会社製)等のウレタン系樹脂、「SR-100」、「SR102」(以上、日本エイアンドエル株式会社製)等のスチレン-ブタジエン樹脂、「ジョンクリル7100」、「ジョンクリル7600」、「ジョンクリル734」、「ジョンクリル780」、「ジョンクリル537J」、「ジョンクリル538J」、「ジョンクリルPDX-7164」、「ジョンクリルPDX-7775」(以上、BASFジャパン株式会社製)等のスチレン-アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0029】
(ポリマー粒子Bの平均粒径)
ポリマー粒子Bの平均粒径は、インキの密着性及び保存安定性を向上させる観点から、30nm以上220nm以下である。
ポリマー粒子Bの平均粒径は、上記と同様の観点から、好ましくは32nm以上、より好ましくは40nm以上、更に好ましくは50nm以上であり、そして、好ましくは200nm以下、より好ましくは180nm以下、更に好ましくは150nm以下である。
また、ポリマー粒子Bの平均粒径は、インキの密着性及び保存安定性を向上させる観点から、顔料粒子Aの平均粒径よりも小さいことが好ましい。ポリマー粒子Bの平均粒径と顔料粒子Aの平均粒径との差が、上記と同様の観点から、好ましくは70nm以上、より好ましくは100nm以上、更に好ましくは150nm以上、より更に好ましくは180nm以上であり、そして、好ましくは350nm以下、より好ましくは320nm以下、更に好ましくは290nm以下である。
【0030】
(ポリマー粒子Bの粒径分布における多分散指数)
ポリマー粒子Bの粒径分布における多分散指数は、インキの密着性及び保存安定性を向上させる観点から、0.08以上0.32以下である。
「多分散指数(Polydispersity Index:PDI)」は、前記と同義である。
ポリマー粒子Bの多分散指数は、上記と同様の観点から、好ましくは0.09以上、より好ましくは0.10以上、更に好ましくは0.11以上であり、そして、好ましくは0.30以下、より好ましくは0.29以下、更に好ましくは0.28以下である。
ポリマー粒子Bの平均粒径、多分散指数は、実施例に記載の方法により測定される。
ポリマー粒子Bの平均粒径及び多分散指数は、ポリマーを水等の媒体中に分散させる際の分散強度や分散時間等の分散条件で調整することができる。また、前記の平均粒径及び多分散指数を満たす市販品を選択して用いることもできる。
【0031】
ポリマー粒子Bを構成するポリマーの重量平均分子量は、インキの密着性及び保存安定性を向上させる観点から、好ましくは10万以上、より好ましくは20万以上、更に好ましくは30万以上であり、そして、好ましくは250万以下、より好ましくは100万以下、更に好ましくは60万以下である。
ポリマー粒子Bを構成するポリマーの酸価は、インキ保存安定性を向上させる観点から、好ましくは20mgKOH/g以上、より好ましくは30mgKOH/g以上、更に好ましくは40mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは70mgKOH/g以下、より好ましくは65mgKOH/g以下、更に好ましくは60mgKOH/g以下である。
なお、ポリマーの重量平均分子量と酸価は、実施例に記載の方法により測定される。
【0032】
<防腐性化合物>
本発明のインキは、防腐性化合物を含む。本発明に用いられる防腐性化合物は、イソチアゾリン化合物、芳香族アルコール化合物、及びピリチオン金属錯体から選ばれる1種以上である。本発明に用いられる防腐性化合物は、インキの密着性及び保存安定性を向上させる観点から、イソチアゾリン化合物がより好ましい。これらの防腐性化合物は、インキに防腐性能を付与するだけでなく、インキの凝集を抑制して保存安定性を向上し、印刷媒体に対する顔料粒子A及びポリマー粒子Bの密着性を向上させると考えられる。
【0033】
(イソチアゾリン化合物)
イソチアゾリン化合物は、窒素原子及び硫黄原子を含む複素5員環を有する化合物である。その具体例としては、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-エチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-エチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-エチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-エチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-t-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-シクロヘキシル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、ブチル-ベンゾイソチアゾリン-3-オン等が挙げられる。
これらの中では、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-エチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-エチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-シクロヘキシル-4-イソチアゾリン-3-オン、及び1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、ブチル-ベンゾイソチアゾリン-3-オンから選ばれる1種以上が好ましく、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、ブチル-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、及び2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンから選ばれる1種以上がより好ましく、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、及びブチル-ベンゾイソチアゾリン-3-オンから選ばれる1種以上が更に好ましい。
【0034】
(芳香族アルコール化合物)
芳香族アルコール化合物としては、ベンジルアルコール、2-フェニルエタノール、2-フェノキシエタノール、フェノキシイソプロパノール、3-(4-クロロフェノキシ)-1,2-プロパンジオール等が挙げられる。これらの中では、2-フェノキシエタノール及びフェノキシイソプロパノールから選ばれる1種以上が好ましく、2-フェノキシエタノールがより好ましい。
【0035】
(ピリチオン金属錯体)
ピリチオン金属錯体は、一つ以上のピリチオン分子と、一つ以上の金属との組合せからなる化合物であり、より具体的には、2-ピリジルチオール-1-オキシド又はジ(2-ピリジルチオール-1-オキシド)等のピリチオン化合物の金属錯体である。
ピリチオン金属錯体の金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、銅、亜鉛、及びビスマス等が挙げられる。
これらの中では、ピリチオンナトリウム錯体及びピリチオン亜鉛錯体が好ましく、ピリチオン亜鉛錯体がより好ましい。ピリチオン亜鉛錯体は、米国特許第2,809,971号明細書に開示されているように、1-ヒドロキシ-2-ピリジンチオン(ピリチオン酸)又はその可溶性塩と硫酸亜鉛等の亜鉛塩とを反応させることにより得ることができる。
上記の防腐性化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
<界面活性剤>
本発明においては、インキの密着性及び保存安定性を向上させる観点から、更に界面活性剤を含有することが好ましい。
用いる界面活性剤は、印刷媒体への濡れ性の観点から、ノニオン性界面活性剤が好ましく、アセチレングリコール系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤から選ばれる1種以上がより好ましく、アセチレングリコール系界面活性剤とシリコーン系界面活性剤とを含有することが更に好ましい。
【0037】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、上記と同様の観点から、炭素数8以上22以下のアセチレングリコール及び該アセチレングリコールのエチレン付加物が好ましく、炭素数8以上22以下のアセチレングリコールがより好ましい。前記アセチレングリコールの炭素数は、好ましくは10以上、より好ましく12以上であり、そして、好ましくは20以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは16以下である。具体的には、レベリング性を向上させる観点から、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、及び2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオールから選ばれる1種以上のアセチレングリコール、及び該アセチレングリコールのエチレンオキシド付加物が挙げられる。これらの中でも、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールが好ましい。
【0038】
アセチレングリコール系界面活性剤のHLBは、好ましくは0以上、より好ましくは1以上、更に好ましくは2以上、より更に好ましくは2.5以上であり、そして、好ましくは5以下、より好ましくは4.5以下、更に好ましくは4以下、より更に好ましくは3.5以下である。
ここで、HLB(親水性親油性バランス;Hydrophile-Lypophile Balance)値は、界面活性剤の水及び油への親和性を示す値であり、グリフィン法により次式から求めることができる。
HLB=20×[(界面活性剤中に含まれる親水基の分子量)/(界面活性剤の分子量)]
界面活性剤中に含まれる親水基としては、例えば、水酸基及びエチレンオキシ基が挙げられる。
【0039】
商業的に入手し得るこれらの具体例としては、日信化学工業株式会社製のサーフィノール104(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、EO平均付加モル数:0、HLB:3.0)、同104E(サーフィノール104のエチレングリコール50%希釈品)、同104PG-50(サーフィノール104のプロピレングリコール50%希釈品)、サーフィノール420(サーフィノール104のEO平均付加モル数:1.3、HLB:4.7)、川研ファインケミカル株式会社製のアセチレノールE13T(EO平均付加モル数:1.3、HLB:4.7)等が挙げられる。
【0040】
シリコーン系界面活性剤としては、ジメチルポリシロキサン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、メチルフェニルポリシロキサン、脂肪酸変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、脂肪族アルコール変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、環状シリコーン、アルキル変性シリコーン等が挙げられる。これらの中でも、ポリエーテル変性シリコーンが印刷媒体への濡れ性の観点から好ましい。
ポリエーテル変性シリコーンとしては、PEG-3ジメチコン、PEG-9ジメチコン、PEG-9PEG-9ジメチコン、PEG-9メチルエーテルジメチコン、PEG-10ジメチコン、PEG-11メチルエーテルジメチコン、PEG/PPG-20/22ブチルエーテルジメチコン、PEG-32メチルエーテルジメチコン、PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、ラウリルPEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン等が挙げられる。これらの中でも、特にPEG-11メチルエーテルジメチコンが好ましい。
商業的に入手しうるとしてシリコーン系界面活性剤の具体例としては、信越化学工業株式会社のシリコーン KF-6011、KF-6012、KF-6013,KF-6015、KF-6016、KF-6017、KF-6028、KF-6038、KF-6043、エボニック・ジャパン株式会社製のTEGO wet240、TEGO wet270等が挙げられる。
【0041】
界面活性剤は、上記以外の他の界面活性剤を含んでもよい。他の界面活性剤としては、好ましくはアニオン性界面活性剤、上記以外のノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。
以上の界面活性剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
<その他の成分>
本発明のインキは、その用途に応じて、任意成分として、水溶性有機溶剤、pH調整剤、粘度調整剤、消泡剤、防錆剤等の各種添加剤を含有することができる。
【0043】
(水性グラビアインキ中の各成分の含有量)
本発明のインキ中の各成分の含有量は、インキの密着性及び保存安定性を向上させる観点から、以下のとおりである。なお、ここでいうインキは、そのまま印刷に用いることができる状態に調整されたものを意味し、この状態におけるインキ中の各成分の含有量を示す。
本発明のインキ中の顔料粒子Aの含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは8質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは28質量%以下である。
本発明のインキ中のポリマー粒子Bの含有量は、インキの密着性を向上させる観点から、好ましくは2質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、そして、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。
本発明のインキ中の顔料粒子Aに対するポリマー粒子Bの質量比〔ポリマー粒子B/顔料粒子A〕は、インキの安定性の観点から、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.4以上であり、そして、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1以下である。
本発明のインキ中の防腐性化合物の含有量は、好ましくは0.002質量%以上、より好ましくは0.004質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上、より更に好ましくは0.04質量%以上、更に好ましくは0.06質量%以上であり、そして、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下である。
【0044】
本発明のインキ中の界面活性剤、特にノニオン性界面活性剤の含有量は、印刷媒体への濡れ性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
本発明のインキ中のアセチレングリコール系界面活性剤の含有量は、印刷媒体への濡れ性を向上させる観点から、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは0.7質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3.5質量%以下である。
本発明のインキ中のアセチレングリコール系界面活性剤とシリコーン系界面活性剤の合計量に対するアセチレングリコール系界面活性剤の質量比〔アセチレングリコール系界面活性剤/界面活性剤合計量〕は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.3以上であり、そして、好ましくは1.2以下、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.8以下である。
本発明のインキ中の水の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは52質量%以上、更に好ましくは55質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは68質量%以下、更に好ましくは65質量%以下である。
【0045】
20℃における本発明のインキのザーンカップ粘度は、インキの密着性及び保存安定性を向上させる観点から、好ましくは10秒以上、より好ましくは12秒以上、更に好ましくは13秒以上であり、そして、好ましくは25秒以下、より好ましくは20秒以下、更に好ましくは18秒以下である。
20℃における本発明のインキのpHは、分散安定性を向上させる観点から、好ましくは5.5以上、より好ましくは6.0以上、更に好ましくは6.5以上であり、そして、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.5以下、更に好ましくは10.0以下である。
【0046】
<印刷媒体>
本発明のインキを用いて、グラビア印刷を行う場合の印刷媒体に特に制限はないが、密着性の観点から、低吸液性又は非低吸液性印刷媒体に好適である。例えば、コート紙、アート紙、合成紙、加工紙等の低吸液性の紙;ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム、塩化ビニルフィルムナイロンフィルム等の非低吸液性の樹脂フィルム等が挙げられる。これらの中でも、高温に加熱しなくても密着性に優れる点で、加熱温度が制限される樹脂フィルムを印刷媒体とすることが好ましい。
近年、印刷媒体として樹脂フィルムの利用が進んでいるが、本発明のインキは、樹脂フィルムに対しても密着性が優れている。樹脂フィルムとしては、印刷物を製造した後の打ち抜き加工等の後加工適性の観点から、ポリエステルフィルム及びポリプロピレンフィルムが好ましい。これらの樹脂フィルムは、二軸延伸フィルム、一軸延伸フィルム、無延伸フィルムであってもよい。
また、グラビア印刷適性を向上させる観点から、コロナ放電処理、プラズマ放電処理等の放電加工による表面処理を行った樹脂フィルムを用いてもよい。
【実施例】
【0047】
以下の製造例、実施例、比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り、「質量部」及び「質量%」である。各物性の測定は、以下の方法により行った。
【0048】
(1)ポリマーの重量平均分子量の測定
N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲルクロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC-8320GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSKgel SuperAWM-H、TSKgel SuperAW3000、TSKgel guardcolum Super AW-H)、流速:0.5mL/min〕により、標準物質として分子量既知の単分散ポリスチレンキット〔PStQuick B(F-550、F-80、F-10、F-1、A-1000)、PStQuick C(F-288、F-40、F-4、A-5000、A-500)、東ソー株式会社製〕を用いて測定した。
測定サンプルは、ガラスバイアル中に樹脂0.1gを前記溶離液10mLと混合し、25℃で10時間、マグネチックスターラーで撹拌し、シリンジフィルター(DISMIC-13HP PTFE 0.2μm、アドバンテック株式会社製)で濾過したものを用いた。
【0049】
(2)顔料水分散体、ポリマーエマルションの固形分濃度の測定
赤外線水分計「FD-230」(株式会社ケツト科学研究所製)を用いて、測定試料5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)の条件にて乾燥させた後、測定試料の水分(%)を測定し、下記式により固形分濃度を算出した。
固形分濃度(%)=100-測定試料の水分(%)
【0050】
(3)顔料水分散体、ポリマーエマルション中の粒子の平均粒径、多分散指数の測定
レーザー粒子解析システム(大塚電子株式会社製、型番:ELS-8000、キュムラント解析)を用いてキュムラント平均粒径を測定し、該キュムラント平均粒径を顔料水分散体及びポリマーエマルション中の粒子の平均粒径とした。また多分散指数を求めた。
測定用サンプルには、測定する粒子の濃度が5×10-3質量%になるよう水で希釈した分散液を用いた。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。
【0051】
製造例1(顔料含有ポリマー粒子A1を含む顔料水分散液1の製造)
2Lフラスコにイオン交換水236部を計量し、スチレン-アクリル系ポリマー(BASF社製、商品名:ジョンクリル690、重量平均分子量:16500、酸価:240mgKOH/g、Tg:105℃)60部、5N水酸化ナトリウム溶液36.5部(ナトリウム中和度60モル%)を投入した。アンカー翼を用いて200rpmで2時間撹拌し、ポリマー水溶液332.5部(固形分濃度19.9%)を得た。
500mlのポリ容器に直径0.8mmのジルコニアビーズ(株式会社ニッカトー製、商品名:XTZボール)554部(ビーズ充填率:30体積%)を投入し、ポリマー水溶液25.1部、顔料として二酸化チタン(石原産業株式会社製、商品名:CR-90、塩素法酸化チタン(ルチル型)、平均一次粒子径250nm、Al・Si処理)を200部、イオン交換水を194.9部加えて、ペイントシェーカー(淺田鉄工株式会社製、商品名:PS-1943)を用いて2時間分散を行った。その後、200メッシュ金網でジルコニアビースを除去し、固形分濃度50%の顔料含有ポリマー粒子A1を含む顔料水分散液1(顔料含有量:48.8%、平均粒径:154nm、多分散指数:0.11)974部を得た。
【0052】
製造例2~5(顔料含有ポリマー粒子A2~A5を含む顔料水分散液2~5の製造)
製造例1において、顔料の分散条件を表1に示すように変更した以外は、製造例1と同様にして、固形分50%の顔料含有ポリマー粒子A2~A5を含む顔料水分散液2~5を得た。結果を表1に示す。
【0053】
【0054】
実施例1(水性グラビアインキ1の調製)
表2に記載のインキ組成となるように、製造容器内に製造例1で得られた顔料含有ポリマー粒子1を含む顔料水分散液1 52.5部(インキ中の顔料:25%、顔料粒子A:26%に相当)に、ポリマーエマルションP1(BASF社製、商品名:ジョンクリル PDX-7775、スチレン・アクリルポリマーエマルション、平均粒径73nm、酸価55mgKOH/g、多分散指数0.11、固形分濃度:45%、インキ中のポリマー粒子B:12%に相当)26.7部を加え、150rpmで撹拌を行った。
更にアセチレングリコール系界面活性剤(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール(HLB:3.0)、日信化学工業株式会社製、商品名:サーフィノール104、有効分100%)1.0部、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(エボニック社製、商品名:TEGO wet240、有効分100%)0.5部、防腐性化合物A1(ロンザジャパン株式会社製、商品名:プロキセルLV(S)、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、有効分20%)0.10部、及びイオン交換水19.2部を加え、室温下で30分撹拌を行った後、ステンレス金網(200メッシュ)で濾過し、インキ1を得た。結果を表2に示す。なお、表2中の各成分量の合計は100部である。
【0055】
実施例2~12、比較例1~6(水性グラビアインキ2~12、31~36の調製)
実施例1において、表2に示す条件に変更した以外は、実施例1と同様にして水性グラビアインキ2~12、31~36を調製した。
【0056】
なお、表2中の各表記の詳細は下記のとおりである。
(ポリマーエマルション)
・P1:BASF社製、商品名:ジョンクリル PDX-7775、アクリルポリマーエマルション、平均粒径73nm、多分散指数0.11
・P2:株式会社ADEKA製、商品名:アデカボンタイターHUX-564、ポリウレタンエマルション、平均粒径180nm、多分散指数0.20
・P3:高松油脂株式会社製、商品名:ペスレジンA-645GH、ポリエステルエマルション、平均粒径34nm、多分散指数0.28
・P4:星光PMC株式会社製、商品名:KE-1062、スチレンアクリルエマルション、平均粒径93nm、多分散指数0.06
・P5:株式会社ADEKA製、商品名:アデカボンタイター HUX-232、ポリウレタンエマルション、平均粒径25nm、多分散指数0.33
なお、ポリマーエマルションP1~P5の固形分(ポリマー粒子B)濃度はいずれも45%である。
(防腐性化合物)
・A1:ロンザジャパン株式会社製、商品名:プロキセルLV(S)、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、有効分20%
・A2:Sigma Aldrich社製、商品名:ProClin950、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン及び5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの混合物、有効分9.5%
・A3:東京化成工業株式会社製、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、有効分100%
・A4:ロンザジャパン株式会社製、商品名:DENSIL DN、ブチル―ベンゾイソチアゾリン-3-オン、有効分100%
・A5:ロンザジャパン株式会社製、商品名:Zinc Omdine ZOE、ジンクピリチオン、有効分55%
・A6:東京化成工業株式会社製、2-フェノキシエタノール、有効分100%
【0057】
実施例1~12で得られたインキ1~12、及び比較例1~6で得られたインキ31~36を用いて、下記の印刷試験を行い、密着性、保存安定性を評価した。結果を表2に示す。
<印刷試験>
実施例及び比較例で得られたインキを用いて、PETフィルム(フタムラ化学株式会社製、商品名:FE-2001、#12)のコロナ放電処理面にグラビア印刷を行った。
印刷は、卓上グラビア印刷テスト機(松尾産業株式会社製、商品名:Kプリンティングプルーファー)を用いて付属の電子彫刻プレート(線数175線/インチ、版深度31μm)で網点100%のベタ印刷を行い、ホットプレート上(60℃)で5分間乾燥したのち、印刷物を得た。
【0058】
<密着性の評価>
ベタ印刷部に接着テープ(ニチバン株式会社製、商品名:セロテープ(登録商標)、CT-15S、15mm幅)を貼り付け、剥がした後の印刷物の剥がれ面積を以下の指標で評価した。
A:剥がれ面積0%以上5%未満
B:剥がれ面積5%以上10%未満
C:剥がれ面積10%以上20%未満
D:剥がれ面積20%以上50%未満
E:剥がれ面積50%以上
なお、C以上あれば実用面で問題はない。
【0059】
<保存安定性の評価>
実施例及び比較例で得られたインキを40℃に設定した恒温槽で1ヶ月保存し、初期平均粒径からの変化率を以下の指標で評価した。
粒径変化率(%)=〔(保存後のインキ平均粒径/保存前のインキ平均粒径)-1〕×100
A:粒径変化率0%以上5%未満
B:粒径変化率5%以上10%未満
C:粒径変化率10%以上20%未満
D:粒径変化率20%以上50%未満
E:粒径変化率50%以上
なお、C以上あれば実用面で問題はない。
【0060】
【0061】
表2から、実施例1~12の水性グラビアインキは、比較例1~6の水性グラビアインキに比べて、インキの密着性及びインキの保存安定性に優れていることが分かる。このことから、本発明の水性グラビアインキを用いれば、高品質のグラビア印刷物を得ることができることが分かる。