(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】樹脂組成物および成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/06 20060101AFI20230413BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20230413BHJP
C08L 83/08 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
C08L23/06
C08L23/26
C08L83/08
(21)【出願番号】P 2019062752
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河相 龍宜
(72)【発明者】
【氏名】関 亮一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝太郎
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-204405(JP,A)
【文献】特開2000-007819(JP,A)
【文献】特開2009-270025(JP,A)
【文献】特開2001-225415(JP,A)
【文献】特開2012-025904(JP,A)
【文献】特開2018-119018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/06
C08L 83/08
C08L 23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
135℃デカリン溶媒中で測定した極限粘度が6~40dl/gである超高分子量ポリ
エチレンと、極限粘度が0.1~5dl/gである低分子量ないし高分子量ポリ
エチレンとからなるポリ
エチレン組成物(A-1)を、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性した変性ポリ
エチレン組成物(A-2)、および
アミノ基、カルボキシル基、アルコール性水酸基およびメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも1つを有するオルガノポリシロキサン(B)
を含み、
前記不飽和カルボン酸またはその誘導体の変性量が、前記変性ポリ
エチレン組成物(A-2)に対して0.0002~0.005mol/100gであることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記オルガノポリシロキサン(B)が、アミノ基を有するオルガノポリシロキサンであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記オルガノポリシロキサン(B)のアミノ基の官能基当量が、100~100000g/molの範囲にあることを特徴とする請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記オルガノポリシロキサン(B)の25℃における動粘度が、50~20000mm
2/sの範囲にあることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記変性ポリ
エチレン組成物(A-2)と前記オルガノポリシロキサン(B)の合計100質量部に対して、前記変性ポリ
エチレン組成物(A-2)の含有量が50~99.9質量部であり、前記オルガノポリシロキサン(B)の含有量が50~0.1質量部であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物および該樹脂組成物を含む成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂などに代表されるエンジニアリングプラスチックは、優れた耐熱性、耐油性、成形性、剛性、強靭性などの特徴を有しているため電動工具、一般工業部品、機械部品、電子部品、自動車内外装部品、エンジンルーム内部品、自動車電装部品などの種々の機能部品として広く利用されている。
【0003】
例えば特許文献1には、ポリアセタール樹脂組成物に潤滑油を配合することで、摺動性が向上した効果が開示されている。しかしながら、ポリアセタールを主成分とする樹脂組成物は、高温環境下での使用において、変色等の問題が生じる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、摺動性を向上させるとともに、高温環境下での使用においても変色を抑制することができる樹脂組成物および該樹脂組成物から得られる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討した結果、変性ポリオレフィン組成物と、変性オルガノポリシロキサンを配合することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の態様の例としては、例えば下記[1]~[6]が挙げられる。
【0007】
[1] 135℃デカリン溶媒中で測定した極限粘度が6~40dl/gである超高分子量ポリオレフィンと、極限粘度が0.1~5dl/gである低分子量ないし高分子量ポリオレフィンとからなるポリオレフィン組成物(A-1)を、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性した変性ポリオレフィン組成物(A-2)、および
アミノ基、カルボキシル基、アルコール性水酸基およびメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも1つを有するオルガノポリシロキサン(B)
を含み、
前記不飽和カルボン酸またはその誘導体の変性量が、前記変性ポリオレフィン組成物(A-2)に対して0.0002~0.005mol/100gであることを特徴とする樹脂組成物。
[2] 前記オルガノポリシロキサン(B)が、アミノ基を有するオルガノポリシロキサンであることを特徴とする項[1]に記載の樹脂組成物。
[3] 前記オルガノポリシロキサン(B)のアミノ基の官能基当量が、100~100000g/molの範囲にあることを特徴とする項[2]に記載の樹脂組成物。
[4] 前記オルガノポリシロキサン(B)の25℃における動粘度が、50~20000mm2/sの範囲にあることを特徴とする項[1]~[3]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[5] 前記変性ポリオレフィン組成物(A-2)と前記オルガノポリシロキサン(B)の合計100質量部に対して、前記変性ポリオレフィン組成物(A-2)の含有量が50~99.9質量部であり、前記オルガノポリシロキサン(B)の含有量が50~0.1質量部であることを特徴とする項[1]~[4]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[6] 項[1]~[5]のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、摺動性を向上させるとともに、高温環境下での使用においても変色を抑制することができる樹脂組成物および該樹脂組成物から得られる成形体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
[樹脂組成物]
本発明に係る樹脂組成物は、
135℃デカリン溶媒中で測定した極限粘度が6~40dl/gである超高分子量ポリオレフィン(A-1-1)と、極限粘度が0.1~5dl/gである低分子量ないし高分子量ポリオレフィン(A-1-2)とからなるポリオレフィン組成物(A-1)を、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性した変性ポリオレフィン組成物(A-2)、および
アミノ基、カルボキシル基、アルコール性水酸基およびメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも1つを有するオルガノポリシロキサン(B)を含み、
前記不飽和カルボン酸またはその誘導体の変性量が、前記変性ポリオレフィン組成物(A-2)に対して0.0002~0.005mol/100gであることを特徴とする。
【0010】
本発明の樹脂組成物において、前記変性ポリオレフィン組成物(A-2)と前記オルガノポリシロキサン(B)の合計100質量部に対し、前記成分(A-2)の含有量は、好ましくは50~99.9質量部、より好ましくは70~99質量部、特に好ましくは90~98質量部であり、前記成分(B)の含有量は、好ましくは50~0.1質量部、より好ましくは30~1質量部、特に好ましくは10~2質量部である。
【0011】
また、樹脂組成物100gあたりに含まれる、変性ポリオレフィン組成物(A-2)に由来する不飽和カルボン酸またはその誘導体の変性量(F1)は、好ましくは0.00001~0.01、より好ましくは0.0002~0.005である。
【0012】
樹脂組成物100gあたりに含まれる、前記オルガノポリシロキサン(B)に由来する官能基(アミノ基、カルボキシル基、アルコール性水酸基またはメルカプト基)のモル数(F2)は、好ましくは0.0001~0.01、より好ましくは0.001~0.005である。(F1)および(F2)が前記範囲内にあることによって、本発明の効果である摺動性を向上させるとともに、高温環境下での使用においても変色を抑制することができる樹脂組成物が得られる。
【0013】
前記(F1)と(F2)の比率(F1)/(F2)は、好ましくは0.055以上であり、より好ましくは0.1以上である。(F1)/(F2)の上限は特に限定されないが、好ましくは20以下である。(F1)/(F2)が前記範囲内にあることによって、本発明の効果である摺動性を向上させるとともに、高温環境下での使用においても変色を抑制することができる樹脂組成物が得られる。
【0014】
<ポリオレフィン組成物(A-1)>
ポリオレフィン組成物(A-1)は、前記超高分子量ポリオレフィン(以下「ポリオレフィン(A-1-1)」ともいう。)と、前記低分子量ないし高分子量ポリオレフィン(以下「ポリオレフィン(A-1-2)」ともいう。)とを含む。
【0015】
前記ポリオレフィン(A-1-1)のデカリン溶媒中135℃で測定した極限粘度[η]は、6~40dl/g、好ましくは10~38dl/g、より好ましくは20~35dl/gである。極限粘度[η]が前記範囲内にあるポリオレフィン(A-1-1)を使用することにより、耐摩耗性、自己潤滑性などに優れた樹脂組成物および成形体が得られる。
【0016】
前記ポリオレフィン(A-1-1)は、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、1-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-イコセンなどのα-オレフィンの単独重合体または共重合体である。本発明においては、エチレン単独重合体、およびエチレンと他のα- オレフィンとからなる、エチレンを主成分とする共重合体が好ましい。
【0017】
前記ポリオレフィン(A-1-1)の密度(D:ASTM D1505に準じて測定)は、0.920g/cm3 以上、0.935g/cm3 未満であることが好ましい。
ポリオレフィン組成物(A-1)中の前記ポリオレフィン(A-1-1)の含有量は、前記ポリオレフィン(A-1-1)と前記ポリオレフィン(A-1-2)との合計量に対して、好ましくは5~45質量%、より好ましくは10~30質量%、さらに好ましくは10~25質量%である。
【0018】
前記ポリオレフィン(A-1-2)は、デカリン溶媒中135℃で測定した極限粘度[η]が、0.1~5dl/g、好ましくは0.1~2dl/gである。極限粘度[η]が前記範囲内にあるポリオレフィン(A-1-2)を使用することにより、超高分子量ポリオレフィンの性質を持ち、かつ、柔軟性を併せ持つ樹脂組成物および成形体が得られる。
【0019】
前記ポリオレフィン(A-1-2)は、前記ポリオレフィン(A-1-1)より極限粘度の低いものであれば特に制限されるものではなく、前記ポリオレフィン(A-1-1)の極限粘度[η]と、前記ポリオレフィン(A-1-2)の極限粘度[η]との差は、好ましくは23~39dl/g、より好ましくは23~37dl/gである。
【0020】
前記ポリオレフィン(A-1-2)は、前記ポリオレフィン(A-1-1)と同様に、α-オレフィンの単独重合体または共重合体である。エチレン単独重合体、およびエチレンと他のα-オレフィンとからなる、エチレンを主成分とする共重合体が好ましい。
【0021】
また、前記ポリオレフィン(A-1-2)の密度は、0.935g/cm3 以上であることが好ましい。
ポリオレフィン組成物(A-1)中の前記ポリオレフィン(A-1-2)の含有量は、前記ポリオレフィン(A-1-1)と前記ポリオレフィン(A-1-2)との合計量に対して、好ましくは55~95質量%、より好ましくは70~90質量%、さらに好ましくは75~90質量%である。
【0022】
前記ポリオレフィン(A-1-2)および前記ポリオレフィン(A-1-2)を含むポリオレフィン組成物(A-1)のデカリン溶媒中135℃で測定した極限粘度[η]は、好ましくは2~15dl/gであり、より好ましくは3~10dl/g、さらに好ましくは4~6dl/gである。
【0023】
≪ポリオレフィン組成物(A-1)の調製方法≫
前記ポリオレフィン組成物(A-1)は、前記ポリオレフィン(A-1-1)と前記ポリオレフィン(A-1-2)とを、公知の方法で混合することによって得られる。
【0024】
また、オレフィンの重合時に、特定のチーグラー型触媒を用いる多段階重合を行なって前記ポリオレフィン(A-1-1)と前記ポリオレフィン(A-1-2)とを特定の割合で含む混合物を製造することによってポリオレフィン組成物(A-1)を得ることができる。
【0025】
多段階重合によって前記ポリオレフィン(A-1-1)と前記ポリオレフィン(A-1-2)とを含むポリオレフィン組成物(A-1)を調製する方法としては、マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする高活性固体状チタン触媒成分および有機アルミニウム化合物触媒成分から形成されるチーグラー型触媒の存在下にオレフィンを多段階重合させる方法が採用される。例えば、まず、1段の重合工程において、オレフィンを重合させて前記ポリオレフィン(A-1-1)を生成させ、その他の段の重合工程において、水素の存在下にオレフィンを重合させて前記ポリオレフィン(A-1-2)を生成させることにより、前記ポリオレフィン(A-1-1)および前記ポリオレフィン(A-1-2)を含む組成物を得ることができる。
【0026】
前記多段階重合において使用されるチーグラー型触媒は、固体状チタン触媒成分と有機アルミニウム化合物触媒成分とから構成される特定の性状の触媒である。
前記固体状チタン触媒成分としては、たとえば、粒度分布が狭く、平均粒径0.01~5μm程度のものであり、微小球体が数個固着したような形態の高活性微粉末状触媒成分を用いることが好ましい。このような性状を有する高活性微粉末状チタン触媒成分は、例えば、特開昭56-811号公報に記載された固体状チタン触媒成分において、液体状態のマグネシウム化合物と液体状態のチタン化合物を接触させて固体生成物を析出させる際に析出条件を厳密に調整することによって製造することができる。より具体的には、特開昭56-811号公報に開示された方法において、塩化マグネシウムおよび高級アルコールを溶解した炭化水素溶液と、四塩化チタンとを低温で混合し、次いで50~100℃程度に昇温して固体生成物を析出させる際に、塩化マグネシウム1モルに対し、0.01~0.2モル程度の微量のモノカルボン酸エステルを共存させるとともに強力な撹拌条件下に該析出を行なうものである。さらに必要に応じて四塩化チタンで洗浄してもよい。このようにして、活性および粒子状態ともに満足すべき固体触媒成分を得ることができる。この触媒成分は、たとえば、チタンを約1~6質量%程度含有し、ハロゲン/チタン(原子比)が約5~90、マグネシウム/チタン(原子比)が約4~50の範囲にあるものである。
【0027】
また、上記のようにして得られる固体状チタン触媒成分のスラリーを高速で剪断処理することにより得られる、粒度分布が狭く、平均粒径が通常0.01~5μm、好ましくは0.05~3μmの範囲にある微小球体からなるものも、高活性微粉末状チタン触媒成分として好適に用いられる。高速剪断処理の方法としては、例えば、不活性ガス雰囲気中で固体状チタン触媒成分のスラリーを市販のホモミキサーを用いて適当な時間処理する方法が採用される。その際、触媒性能の低下を防止するために、予めチタンと等モル量の有機アルミニウム化合物を添加しておく方法を採用することもできる。さらに、処理後のスラリーの粗粒を篩で除去する方法を採用することもできる。これらの方法によって、上記微小粒径の高活性微小粉末状チタン触媒成分を得ることができる。
【0028】
前記高活性微粉末状チタン触媒成分と有機アルミニウム化合物触媒成分とを用い、必要に応じて電子供与体を併用して、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、灯油等の炭化水素溶媒中で、通常、0~100℃の範囲の温度条件下、少なくとも2段以上の多段階重合工程で、例えばオレフィン単独、またはオレフィンを主成分とする単量体混合物をスラリー重合することによって、前記ポリオレフィン(A-1-1)と前記ポリオレフィン(A-1-2)とを含む組成物を製造することができる。
【0029】
前記有機アルミニウム化合物触媒成分としては、具体的には、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム;ジエチルアルミニウムクロリド、ジイソブチルアルミニウムクロリド等のジアルミニウムクロリド;エチルアルミニウムセスキクロリド等のアルキルアルミニウムセスキクロリドなどが挙げられ、これらは1種単独または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0030】
前記多段階重合工程においては、少なくとも2槽以上の重合槽が、通常、直列に連結された多段階重合装置が採用され、たとえば、2段重合法、3段重合法、・・・・・・n段重合法が行なわれる。また、1個の重合槽で回分式重合法により多段階重合法を実施することも可能である。この多段階重合工程のうちの少なくとも1個の重合槽においては特定量の超高分子量ポリオレフィンを生成させることが必要である。この超高分子量ポリオレフィンを生成させるための重合工程は、第一段の重合工程であってもよいし、中間の重合工程であってもよいし、また2段以上の複数段であってもよい。第一段重合工程において前記ポリオレフィン(A-1-1)を生成させることが、重合処理操作および生成ポリオレフィンの物性の制御の点から好適である。この重合工程においては、全工程で重合されるオレフィンの5~45質量%を重合させることにより、所定の極限粘度[η]の前記ポリオレフィン(A-1-1)を生成させる。さらには全重合工程で重合されるモノマーの10~30質量%、特に10~25質量%を重合させることにより、所定の極限粘度の超高分子量ポリオレフィン(A-1-1)を生成させることが好ましい。
【0031】
前記多段階重合工程において前記ポリオレフィン(A-1-1)を生成させる重合工程では、前記高活性チタン触媒成分と有機アルミニウム触媒成分からなる特定のチーグラー型触媒の存在下に重合が行われる。この重合は、気相重合法で実施することもできるし、液相重合法で実施することもできる。いずれの重合法においても、前記ポリオレフィン(A-1-1)を生成させる重合工程では、重合反応は必要に応じて不活性媒体の存在下に実施される。例えば、気相重合法では、必要に応じて不活性媒体からなる希釈剤の存在下に実施され、液相重合法では、必要に応じて不活性媒体からなる溶媒の存在下に実施される。
【0032】
前記ポリオレフィン(A-1-1)を生成させる重合工程では、チタン原子として媒体1リットル当り約0.001~20ミリグラム原子、好ましくは約0.005~10ミリグラム原子の量で含み、かつ有機アルミニウム化合物触媒成分を、Al/Ti(原子比)が約0.1~1000、好ましくは約1~500となるような割合で含む高活性チタン触媒成分を使用することが望ましい。
【0033】
前記ポリオレフィン(A-1-1)を生成させる重合工程における温度は、通常、約-20~120℃、好ましくは約0~100℃、特に好ましく約5~95℃の範囲である。また、重合反応の圧力は、上記温度で液相重合または気相重合が可能な圧力範囲であればよく、たとえば、大気圧~約100Kg/cm2、好ましくは大気圧~約50Kg/cm2の範囲である。また、重合時間は、全重合ポリオレフィンの生成量が高活性チタン触媒成分中のチタン1ミリグラム原子当り約1000g以上、好ましくは約2000g以上となるように設定すればよい。また、重合工程において、前記ポリオレフィン(A-1-1)を生成させるためには、重合反応を水素の不存在下に行なうことが好ましい。さらに、重合反応を実施後、重合体を不活性媒体雰囲気下で一旦単離し、保存しておくことも可能である。
【0034】
前記ポリオレフィン(A-1-1)を生成させる重合工程において用いられる不活性媒体としては、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、灯油等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジクロルエタン、メチレンクロリド、クロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素などが挙げられ、これらは1種単独または2種以上を組み合わせて用いられる。特に脂肪族炭化水素が好ましい。
【0035】
また、上述した方法において、前記ポリオレフィン(A-1-1)を生成させる重合工程以外の他の重合工程では、水素の存在下に残余のモノマーを重合反応させることにより、前記ポリオレフィン(A-1-2)が生成される。前記ポリオレフィン(A-1-1)を生成させる重合工程が第一段の重合工程であれば、第二段以降の重合工程がこの水素の存在下に行なわれる前記ポリオレフィン(A-1-2)の生成工程である。前記ポリオレフィン(A-1-2)の重合工程が前記ポリオレフィン(A-1-1)の生成工程の後に位置している場合、前記ポリオレフィン(A-1-2)の重合工程には、前記ポリオレフィン(A-1-1)を含む反応混合物が供給される。また、前記ポリオレフィン(A-1-2)の重合工程が前記ポリオレフィン(A-1-1)が生成される重合工程の前に位置する場合、前段階で生成した前記ポリオレフィン(A-1-2)および前記ポリオレフィン(A-1-1)が供給され、いずれの場合にも連続して重合が実施される。その際、当該重合工程には、通常、原料単量体混合物および水素が供給される。当該重合工程が第一段階の重合工程である場合には、前記高活性チタン触媒成分および有機アルミニウム化合物触媒成分からなる触媒が供給され、当該重合工程が第二段階以降の重合工程である場合には、前段階で生成した重合反応混合物中に含まれている触媒をそのまま使用することもできるし、必要に応じて前記高活性チタン触媒成分および/または有機アルミニウム化合物触媒成分を追加補充してもよい。
【0036】
前記ポリオレフィン(A-1-1)生成の重合工程以外の重合工程における水素の供給割合は、当該重合工程に供給されるモノマー1モルに対して、通常0.01~50モル、好ましくは0.05~30モルの範囲である。
【0037】
前記ポリオレフィン(A-1-1)生成の重合工程以外の重合工程における重合槽内の重合反応混合物中の各触媒成分の濃度は、重合容積1リットル当り、前記処理された触媒をチタン原子に換算して約0.001~0.1ミリグラム原子、好ましくは約0.005~0.1ミリグラム原子とし、重合系のAl/Ti(原子比)が約1~1000、好ましくは約2~500となるように調整することが好ましい。また、必要に応じて、有機アルミニウム化合物触媒成分を追加使用してもよい。重合系中には、他に分子量、分子量分布等を調節するために、水素、電子供与体、ハロゲン化炭化水素などを共存させてもよい。
【0038】
重合温度は、スラリー重合、気相重合が可能な温度範囲で、かつ約40℃以上、より好ましくは約50~100℃の範囲である。また、重合の圧力は、たとえば、大気圧~約100Kg/cm2、特に大気圧~約50Kg/cm2の範囲が推奨される。そして重合体の生成量が、チタン触媒成分中のチタン1ミリグラム原子当り約1000g以上、特に好ましくは約5000g以上となるような重合時間を設定するのがよい。
【0039】
前記ポリオレフィン(A-1-1)生成の重合工程以外の重合工程は、同様に気相重合法で行なうこともできるし、また液相重合法で行なうこともできる。もちろん、各重合工程で異なる重合法を採用してもよい。液相重合法の中ではスラリー懸濁重合法が好適に採用される。いずれの場合にも、重合工程では重合反応は、通常、不活性媒体の存在下に実施される。たとえば、気相重合法では、不活性媒体希釈剤の存在下に実施され、液相スラリー懸濁重合法では不活性媒体溶媒の存在下に実施される。不活性媒体としては、前記ポリオレフィン(A-1-1)の生成の重合工程において例示した不活性媒体と同じものを例示することができる。
また、前記多段階重合は、回分式、半連続式または連続式のいずれの形式でも行なうことができる。
【0040】
<変性ポリオレフィン組成物(A-2)>
変性ポリオレフィン組成物(A-2)は、前記ポリオレフィン組成物(A-1)を不飽和カルボン酸またはその誘導体によってグラフト変性した変性ポリオレフィンを含む組成物である。
【0041】
変性に使用される不飽和カルボン酸として、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、エンドシス-ビシクロ[2,2,1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸(ナジック酸TM)などが挙げられる。
【0042】
また、その誘導体としては、酸ハライド、エステル、アミド、イミド、無水物などが挙げられ、具体的には、塩化マレニル、マレイミド、アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド、グリシジルメタクリレート、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、グリシジルマレエートなどが挙げられる。
【0043】
これらの変性用単量体は、1種単独でも2種以上を組み合わせても用いられる。これらの中でも、無水マレイン酸が、反応性が高く、強度および外観の良好な成型物を得ることができるため好ましい。
【0044】
変性ポリオレフィン組成物(A-2)において、前記変性用単量体によるグラフト変性量は、0.0002~0.005mol/100g、より好ましくは0.0002~0.005mol/100gある。変性量は、変性ポリオレフィン組成物(A-2)中の不飽和カルボン酸またはその誘導体由来の構成成分の含有量である。変性ポリオレフィン組成物(A-2)の変性量が前記範囲であることにより、摺動性に優れ、かつ高温環境下での使用においても変色およびブリードオフが生じ難い樹脂組成物を得ることができる。
【0045】
≪変性ポリオレフィン組成物(A-2)の調製方法≫
前記ポリオレフィン組成物(A-1)を前記変性用単量体で変性する方法としては、従来公知の種々の方法が採用できる。具体的には、前記ポリオレフィン組成物(A-1)を溶媒に懸濁または溶解させて、通常、80~200℃の温度で、変性用単量体とラジカル重合開始剤等を添加混合してグラフト共重合させる方法、あるいは融点以上、例えば180~300℃の温度で溶融混練下に変性用単量体とラジカル重合開始剤とを接触させる方法などが挙げられる。また、前記ポリオレフィン(A-1-1)と前記ポリオレフィン(A-1-2)の両方を予め変性用単量体で変性した後、両者を混合してもよい。
【0046】
前記溶媒としては、具体的には、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素系溶媒;トリクロロエチレン、パークロロエチレン、ジクロロエチレン、ジクロロエタン、クロロベンゼン等の塩素化炭化水素系溶媒;エタノール、イソプロパノール等の脂肪族アルコール系溶媒;アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、1種単独でも2種以上を組み合わせても用いられる。
【0047】
前記ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物、アゾ化合物等のラジカル開始剤が挙げられる。前記有機過酸化物としては、具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m-トリオイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、(2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシアセテート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパ-オキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシフェニルアセテート、t-ブチルパーオキシ-s-オクテート、t-ブチルパーオキシピバレート、クミルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシエチルアセテートなどが挙げられる。前記アゾ化合物としては、具体的には、アゾイソブチロニトリル、ジメチルアゾイソブチレートなどが挙げられる。これらのラジカル開始剤は、1種単独または2種以上を組合わせて用いられる。
【0048】
さらに、上記のようにして調製した変性ポリオレフィン組成物(A-2)に対し、変性前のポリオレフィン組成物(A-1)を配合してもよい。この方法は、(A-2)におけるグラフト変性量を低く設定する場合、例えば、0.5質量%以下のグラフト変性量の場合は、(A-2)の調製の際の不飽和カルボン酸、またはその誘導体の配合量を精度良く計量することは困難な場合があるため好ましい。すなわち、高いグラフト変性量、例えば、0.5質量%以上のグラフト変性量を有する変性ポリオレフィン組成物(A-2)を上記の方法で調製し、これを変性前のポリオレフィン組成物(A-1)と混合することで、所望の、例えば0.5質量%以下のグラフト変性量の変性ポリオレフィン組成物を得ることができる。この場合、変性ポリオレフィン組成物(A-2)と変性前のポリオレフィン組成物(A-1)は、完全に相溶するため、一つの成分とみなすことができる。このため、以下においては、前記組成物(A-1)と(A-2)を混合して得られた組成物も変性ポリオレフィン組成物(A-2)と称する。
【0049】
<オルガノポリシロキサン(B)>
前記オルガノポリシロキサン(B)は、分子中にアミノ基、カルボキシル基、アルコール性水酸基およびメルカプト基からなる群から選ばれる少なくとも1つを有するシリコーンであれば特に限定されるものではないが、下記一般式(1)または(2)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0050】
【0051】
【0052】
式(1)および(2)中、複数のR1は、各々独立に水素原子、メチル基またはフェニル基を表し、中でもメチル基が好ましい。複数のXは、各々独立にアミノ基、カルボキシル基、アルコール性水酸基またはメルカプト基、またはこれらの少なくとも1つを含む基を表し、中でもアミノ基およびアミノ基を含む有機基が好ましい。nおよびmは、それぞれ1以上の整数を表す。これらの中でも、式(1)で示される化合物が好ましい。
【0053】
前記オルガノポリシロキサン(B)は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
前記オルガノポリシロキサン(B)がアミノ基を有する場合、アミノ基の官能基当量は、特に限定されないが、好ましくは100~100000g/mol、より好ましくは500~3000g/mol、さらに好ましくは600~2500g/molである。
【0054】
前記オルガノポリシロキサン(B)の動粘度は、25℃において50~20000mm2/sの範囲にあることが好ましい。なお、この動粘度は、オストワルド粘度計を用いた25℃における値である。
【0055】
<その他の成分>
本発明の樹脂組成物は、前記変性ポリオレフィン組成物(A-2)と、前記オルガノポリシロキサン(B)の他に、本発明の効果を阻害しない範囲で、樹脂用添加剤、他の樹脂または重合体を任意に含有してもよい。
【0056】
前記樹脂用添加剤としては、例えば、核剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、顔料、染料、充填剤(フィラー)、滑剤、可塑剤、離型剤、酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、界面活性剤、帯電防止剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、スリップ防止剤、発泡剤、結晶化助剤、防曇剤、(透明)核剤、老化防止剤、塩酸吸収剤、衝撃改良剤、架橋剤、共架橋剤、架橋助剤、粘着剤、軟化剤、加工助剤、石油樹脂、ワックス、オレフィン系オイルなどが挙げられる。これらの添加剤は、1種単独でも、適宜2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0057】
前記他の樹脂または重合体としては、下記の熱可塑性樹脂(P)を用いることができる。前記他の樹脂または重合体の添加量は、樹脂組成物の総質量に対して、0.1~30質量%であることが好ましい。
【0058】
≪熱可塑性樹脂(P)≫
前記熱可塑性樹脂(P)は、特に制限されないが、例えば、以下の樹脂が挙げられる。
熱可塑性ポリオレフィン系樹脂;例えば、低密度、中密度、高密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリ3-メチル-1-ペンテン、ポリ3-メチル-1-ブテン、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、1-ブテン・α-オレフィン共重合体、環状オレフィン共重合体、塩素化ポリオレフィン、およびこれらのオレフィン系樹脂を変性した変性ポリオレフィン樹脂(ただし、前記組成物(A-2)を除く。)、
熱可塑性ポリアミド系樹脂;例えば、脂肪族ポリアミド(ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612)、
熱可塑性ポリエステル系樹脂;例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステル系エラストマー、
熱可塑性ビニル芳香族系樹脂;例えば、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、スチレン系エラストマー(スチレン・ブタジエン・スチレンブロックポリマー、スチレン・イソプレン・スチレンブロックポリマー、スチレン・イソブチレン・スチレンブロックポリマー、これらの水素添加物)、
熱可塑性ポリウレタン;塩化ビニル樹脂;塩化ビニリデン樹脂;アクリル樹脂;エチレン・酢酸ビニル共重合体;エチレン・メタクリル酸アクリレート共重合体;アイオノマー;エチレン・ビニルアルコール共重合体;ポリビニルアルコール;フッ素系樹脂ポリカーボネート;ポリアセタール;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンサルファイドポリイミド;ポリアリレート;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ロジン系樹脂;テルペン系樹脂および石油樹脂;
共重合体ゴム;例えば、エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体、プロピレン・α-オレフィン・ジエン共重合体、1-ブテン・α-オレフィン・ジエン共重合体、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ネオプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、ポリイソブチレンゴム、天然ゴム、シリコーンゴム等が例示される。
【0059】
ポリプロピレンとしては、上記の通りアイソタクティックポリプロピレンとシンジオタクティックポリプロピレンが挙げられる。アイソタクティックポリプロピレンは、ホモポリプロピレンであっても、プロピレン・炭素数2~20のα-オレフィン(ただしプロピレンを除く)ランダム共重合体であっても、プロピレンブロック共重合体であってもよい。
【0060】
ポリ4-メチル-1-ペンテンは、4-メチル-1-ペンテンの単独重合体、または4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体である。4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィンランダム共重合体の場合、4-メチル-1-ペンテンと共重合するα-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどの炭素数2~20 、好ましくは6~20のα-オレフィンが挙げられる。これらは、1種単独で、あるいは2種以上組み合せて用いることができる。
【0061】
ポリエチレンとしては、上記の通り従来公知の手法で製造されている、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレンを使用することができる。
【0062】
ポリブテンとしては、1-ブテンのホモポリマー、あるいは1-ブテンと、1-ブテンを除くオレフィンとの共重合体である。オレフィンは、上記のものが挙げられ、これらのオレフィンは、単独で、または2種以上組み合せて用いることができる。共重合体として、例えば、1-ブテン・エチレンランダム共重合体、1-ブテン・プロピレンランダム共重合体、1-ブテン・メチルペンテン共重合体、1-ブテン・メチルブテン共重合体、1-ブテン・プロピレン・エチレン共重合体などが挙げられる。このような共重合体において、耐熱性の点から、1-ブテン含有量が50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることが更に好ましく、85%以上であることが特に好ましい。
【0063】
前記変性ポリオレフィン組成物(A-2)以外の変性ポリオレフィン樹脂は、上述したポリオレフィン樹脂にエチレン性不飽和結合含有モノマーを、有機過酸化物を用いてグラフト変性することにより得ることができる。変性ポリオレフィンが有する官能基の種類としては、ハロゲン原子、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、水酸基、アミノ基、アミド基、イミド基、エステル基、アルコキシシラン基、酸ハライド基およびニトリル基等が挙げられる。
【0064】
ロジン系樹脂としては、天然ロジン、重合ロジン、マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸などで変性した変性ロジン、ロジン誘導体が挙げられる。また、このロジン誘導体としては、前記の天然ロジン、重合ロジンまたは変性ロジンのエステル化物、フェノール変性物およびそのエステル化物などが挙げられる。さらに、これらの水素添加物も挙げることができる。
【0065】
テルペン系樹脂としては、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテン、テルペンフェノール、テルペンアルコール、テルペンアルデヒドなどからなる樹脂が挙げられ、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテンなどにスチレンなどの芳香族モノマーを重合させた芳香族変性のテルペン系樹脂なども挙げられる。また、これらの水素添加物も挙げることができる。
【0066】
石油樹脂としては、たとえば、タールナフサのC5留分を主原料とする脂肪族系石油樹脂、C9留分を主原料とする芳香族系石油樹脂およびそれらの共重合石油樹脂が挙げられる。すなわち、C5系石油樹脂(ナフサ分解油のC5留分を重合した樹脂)、C9系石油樹脂(ナフサ分解油のC9留分を重合した樹脂)、C5C9共重合石油樹脂(ナフサ分解油のC5留分とC9留分とを共重合した樹脂)が挙げられ、タールナフサ留分のスチレン類、インデン類、クマロン、その他ジシクロペンタジエンなどを含有しているクマロンインデン系樹脂、p-ターシャリブチルフェノールとアセチレンの縮合物に代表されるアルキルフェノール類樹脂、ο-キシレン、p-キシレンまたはm-キシレンをホルマリンと反応させてなるキシレン系樹脂なども挙げられる。
【0067】
また、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂および石油樹脂は、耐候性および耐変色性に優れるために水素添加誘導体が好ましい。前記樹脂の環球法による軟化点は、40~180℃の範囲にあることが好ましい。また、前記樹脂のGPCにより測定される数平均分子量(Mn)分子量は100~10,000程度の範囲にあることが好ましい。ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油樹脂として市販品を使用することもできる。
【0068】
また上述した各熱可塑性樹脂(P)として、市販品を使用することもできる。これらの熱可塑性樹脂(P)の中から1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。
【0069】
≪添加剤≫
先に例示列挙した各添加剤のうち、核剤としては、オレフィン重合体の成形性をさらに改善させる、すなわち結晶化温度を高め結晶化速度を速めるために公知の核剤が使用可能である。具体的には、ジベンジリデンソルビトール系核剤、リン酸エステル塩系核剤、ロジン系核剤、安息香酸金属塩系核剤、フッ素化ポリエチレン、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)リン酸ナトリウム、ピメリン酸やその塩、2,6-ナフタレン酸ジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド等が挙げられる。核剤の配合量は、特に限定されないが、上記オレフィン重合体100質量部に対して、好ましくは0.1~1質量部である。核剤は、重合中、重合後、あるいは成形加工時など適宜添加が可能である。
【0070】
アンチブロッキング剤としては、公知のアンチブロッキング剤が使用可能である。具体的には、微粉末シリカ、微粉末酸化アルミニウム、微粉末クレー、粉末状もしくは液状のシリコーン樹脂、テトラフロロエチレン樹脂、微粉末架橋樹脂、例えば架橋されたアクリル、メタクリル樹脂粉末等をあげることができる。これらのうちでは、微粉末シリカおよび架橋されたアクリル、メタクリル樹脂粉末が好ましい。
【0071】
顔料としては、無機含量(酸化チタン、酸化鉄、酸化クロム、硫化カドミウム等)、有機顔料(アゾレーキ系、チオインジゴ系、フタロシアニン系、アントラキノン系)が挙げられる。染料としてはアゾ系、アントラキノン系、トリフェニルメタン系等が挙げられる。これら顔料および染料の添加量は、特に限定されないが、樹脂組成物の総質量に対して、合計で、通常5質量%以下、好ましくは0.1~3質量%である。
【0072】
充填剤(フィラー)としては、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ繊維、金属(ステンレス、アルミニウム、チタン、銅等)繊維、カーボンブラック、シリカ、ガラスビーズ、珪酸塩(珪酸カルシウム、タルク、クレー等)、金属酸化物(酸化鉄、酸化チタン、アルミナ等)、金属の炭酸塩(硫酸カルシウム、硫酸バリウム)および各種金属(マグネシウム、珪素、アルミニウム、チタン、銅等)粉末、マイカ、ガラスフレーク等が挙げられる。これらの充填剤は1種単独または2種以上の併用いずれでもよい。
【0073】
滑剤としては、ワックス(カルナバロウワックス等)、高級脂肪酸(ステアリン酸等)、高級アルコール(ステアリルアルコール等)、高級脂肪酸アミド(ステアリン酸アミド等)等が挙げられる。
【0074】
可塑剤としては、芳香族カルボン酸エステル(フタル酸ジブチル等)、脂肪族カルボン酸エステル(メチルアセチルリシノレート等)、脂肪族ジアルボン酸エステル(アジピン酸-プロピレングリコール系ポリエステル等)、脂肪族トリカルボン酸エステル(クエン酸トリエチル等)、リン酸トリエステル(リン酸トリフェニル等)、エポキシ脂肪酸エステル(ステアリン酸エポキシブチル等)、石油樹脂等が挙げられる。
【0075】
離型剤としては、高級脂肪酸の低級(C1~4)アルコールエステル(ステアリン酸ブチル等)、脂肪酸(C4~30)の多価アルコールエステル(硬化ヒマシ油等)、脂肪酸のグリコールエステル、流動パラフィン等が挙げられる。
【0076】
酸化防止剤としては、公知の酸化防止剤が使用可能である。具体的には、フェノール系(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール等)、多環フェノール系(2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール等)、リン系(テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4-ビフェニレンジホスフォネート等)、イオウ系(チオジプロピオン酸ジラウリル等)、アミン系(N,N-ジイソプロピル-p-フェニレンジアミン等)、ラクトン系の酸化防止剤等が挙げられ、これらを数種類組み合わせても使用できる。
【0077】
難燃剤としては、有機系難燃剤(含窒素系、含硫黄系、含珪素系、含リン系等)、無機系難燃剤(三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、赤リン等)が挙げられる。
【0078】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸系、アクリレート系等が挙げられる。
抗菌剤としては、4級アンモニウム塩、ピリジン系化合物、有機酸、有機酸エステル、ハロゲン化フェノール、有機ヨウ素等が挙げられる。
【0079】
界面活性剤としては、非イオン性、アニオン性、カチオン性または両性の界面活性剤を挙げることができる。非イオン性界面活性剤としては、高級アルコールエチレンオキシド付加物、脂肪酸エチレンオキシド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキシド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキシド付加物等のポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤、ポリエチレンオキシド、グリセリンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビットもしくはソルビタンの脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミンの脂肪族アミド等の多価アルコール型非イオン性界面活性剤などが挙げられ、アニオン性界面活性剤としては、例えば、高級脂肪酸のアルカリ金属塩等の硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩等のスルホン酸塩、高級アルコールリン酸エステル塩等のリン酸エステル塩などが挙げられ、カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩などが挙げられる。両性界面活性剤としては、高級アルキルアミノプロピオン酸塩等のアミノ酸型両面界面活性剤、高級アルキルジメチルベタイン、高級アルキル時ヒドロキシエチルベタイン等のベタイン型両性界面活性剤などが挙げられる。
【0080】
帯電防止剤としては、上記の界面活性剤、脂肪酸エステル、高分子型帯電防止剤が挙げられる。脂肪酸エステルとしてはステアリン酸やオレイン酸のエステルなどが挙げられ、高分子型帯電防止剤としてはポリエーテルエステルアミドが挙げられる。
【0081】
上記充填剤、滑剤、可塑剤、離型剤、酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、界面活性剤、帯電防止剤などの各種添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない範囲内で用途に応じて、特に限定されないが、樹脂組成物の総質量に対して、それぞれ、0.1~30質量%であることが好ましい。
【0082】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物は、前記変性ポリオレフィン組成物(A-2)、前記オルガノポリシロキサン(B)、および必要に応じてその他の成分を、溶融ブレンドまたはドライブレンドすることによって製造することができる。前記オルガノポリシロキサン(B)はマスターバッチを用いてもよく、溶融ブレンドまたはドライブレンドは公知の方法で行うことができる。
【0083】
[成形体]
本発明の樹脂組成物は、従来公知の方法、具体的には、例えば、射出成形法、異形押出成形法、共押出成形法、パイプ成形法、チューブ成形法、異種成形体の被覆成形法、インジェクションブロー成形法、ダイレクトブロー成形法、Tダイシートまたはフィルム成形法、インフレーションフィルム成形法、プレス成形法などの成形方法により、容器状、トレー状、シート状、ベルト状、棒状、フィルム状または各種成形体の被覆などに成形することができる。
【0084】
特に、本発明の樹脂組成物を樹脂成形体の被覆に用いる場合は、共押出成形法を用いることが好ましい。
上記成形方法で得られた成形体は、従来公知のポリオレフィン用途に広く使用できるが、特に耐摩耗性、自己潤滑性、薄肉成形などの特性のバランスに優れているので、これらが要求される用途として、例えば、鋼管、電線、自動車スライドドアレールなどの金属の被覆(積層)、耐圧ゴムホース、自動車ドア用ガスケット、クリーンルームドア用ガスケット、自動車グラスランチャンネル、自動車ウェザーストリップなどの各種熱可塑性樹脂やゴムの被覆(積層)、ホッパーやシュートなどのライニング、ギアー、軸受、ローラー、テープリール、各種ガイドレールやエレベーターレールガイド、各種保護ライナー材などの摺動材などに使用される。
【実施例】
【0085】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお、本発明の実施例および比較例における測定方法は以下の通りである。
【0086】
<極限粘度[η]>
デカリン溶媒を用いて、135℃で極限粘度[η]を測定した。すなわち、サンプルの造粒ペレット(約20mg)をデカリン溶媒(15mL)に溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリン溶媒(5mL)を追加して希釈した後、前記と同様に比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返し、サンプルの濃度(C)を0に外挿したときのηsp/Cの値をオレフィン重合体の極限粘度[η]とした。
極限粘度[η]=lim(ηsp/C) (C→0)
【0087】
<摩擦係数>
JIS K7218「プラスチックの滑り摩耗試験A法」に準拠して、松原式摩擦摩耗試験機を使用して静摩擦係数を測定した。試験条件は、相手材:ポリアセタール、速度:2.7cm/秒、荷重:160kg、測定環境温度:23℃とした。
【0088】
<高温環境下での変色評価>
プレス成型(190℃、5分間)により得られた試験片(100mm×100mm×3mmt)を、80℃のエアーオーブン中で18時間加熱し、外観を目視で評価した。
【0089】
<固体状チタン触媒成分の調製>
無水塩化マグネシウム95.2g、デカン398.4gおよび2-エチルヘキシルアルコ-ル306gを温度140℃で6時間加熱反応させて均一溶液とした後、この溶液中に安息香酸エチル17.6gを添加し、更に130℃にて1時間攪拌混合を行なった。得られた均一溶液を室温まで冷却した後、この均一溶液50mlを0℃に保持した四塩化チタン200ml中に一定の撹拌速度で攪拌しつつ1時間にわたって全量滴下装入した。装入終了後、この混合液の温度を2.5時間かけて80℃に昇温し、80℃になったところで混合液中に安息香酸エチル2.35gを添加し、2時間同温度にて攪拌下保持した。2時間の反応終了後、熱濾過にて固体部を採取し、この固体部を100mlの四塩化チタンにて再懸濁させた後、90℃で2時間、加熱反応を行った。反応終了後、再び熱濾過にて固体部を採取し、温度90℃のデカンおよびヘキサンで洗液中に遊離のチタン化合物が検出されなくなるまで充分洗浄した。以上の操作によって調製した固体状チタン触媒成分はデカンスラリ-として保存した。
【0090】
ICP法で分析したところ、固体状チタン触媒成分中、Ti成分が3.5質量%含まれていた。ベックマン・コールター社製レーザー回折散乱法粒度分布測定装置で測定した触媒粒子の平均粒径は7μmであった。
【0091】
<ポリオレフィン組成物(A-1a)の調製>
充分に窒素置換された攪拌機付24Lのオートクレーブに12Lの精製n-デカンを添加した後、トリエチルアルミニウムをアルミニウム換算で14ミリモル、および前記固体状チタン触媒成分をチタン換算で0.3ミリモル加え、十分に撹拌しながら45℃まで昇温しつつ、4.2L/分の速度でエチレンを供給して重合を開始した。オートクレーブの内圧は6kg/cm2・Gに保持した。重合温度は45~46℃に維持した。エチレンを880L供給した時点でエチレンの供給を一旦停止し、内圧が3kg/cm2・Gとなるまで温度を一定に保持した後、速やかに常圧まで脱圧した。なお、この段階で得られたスラリーを少量サンプリングし、デカンとヘキサンとで洗浄して白色固体サンプル(a)を得た。
【0092】
次いで、水素を41リットル導入し、温度を85℃に上げつつエチレンを11.6L/分の速度で供給しながら2段目の重合を開始した。全圧を6.4kg/cm2・G、温度は85℃に保持した。エチレンを3800L供給したところで、エチレンの供給を停止し、内圧が3kg/cm2・Gになるまで温度は85℃に保持し、その後、常圧および常温まで脱圧および冷却して重合終了とした。
【0093】
重合終了後、得られたスラリーから固体状白色固体を分離し、デカンおよびヘキサンで洗浄した後、これを80℃で減圧乾燥した。得られた白色固体(ポリオレフィン組成物(A-1a))の密度は0.967g/cm3、極限粘度[η]は5.73dl/gであった。一方、白色固体サンプル(a)は、極限粘度[η]が28dl/gであった。また、エチレンの供給量より、第1段目で製造した超高分子量ポリオレフィンの含有量は19.0質量%であった。第2段目で生成した重合体の極限粘度は下記式より推算すると、0.5dl/gであった。
[η]all=[η]A×wtA+[η]B×wtB
[η]all:ポリマー全体(ポリオレフィン組成物)の極限粘度(dl/g)
[η]A:超高分子量ポリオレフィンの極限粘度(dl/g)
wtA:超高分子量ポリオレフィンの含有量(質量%)
[η]B:低分子量ないし高分子量ポリオレフィンの極限粘度(dl/g)
wtB:低分子量ないし高分子量ポリオレフィンの含有量(質量%)
【0094】
<変性ポリオレフィン組成物(A-2a)の製造>
上記で得たポリオレフィン組成物(A-1a)100質量部、無水マレイン酸0.8質量部、および有機過酸化物(日本油脂(株)製「パーヘキシン-25B」)0.07質量部、をヘキシェルミキサーで混合し、得られた混合物を270℃に設定した100mmφの二軸押出機で、混練時間1分30秒程で溶融グラフト変性することによって、変性ポリオレフィン組成物(A-2a)を得た。
【0095】
[実施例1~5および比較例1~3]
<樹脂組成物の製造>
オルガノポリシロキサン(B)としてアミノ変性シリコーンオイル「KF-861」(信越化学工業製、25℃での動粘度3500mm2/s、官能基当量2000g/mol)を下記表1に示す量で使用し、変性ポリオレフィン組成物(A-2)として上記で得られたポリオレフィン組成物(A-1a)および変性ポリオレフィン組成物(A-2a)を下記表1に示す量で使用して、バッチ式混練機により190℃、5分間、50rpmの条件で溶融混練して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をプレス成型(190℃、5分間)して試験片(100mm×100mm×3mmt)を作成し、上記評価を行った。結果を下記表1に示す。なお、下記表1において、比較例1で用いているポリオレフィン組成物(A-1a)は、ポリオレフィン組成物(A-2a)を用いていないので、ポリオレフィン組成物(A-2)ではなくポリオレフィン組成物(A-1)に該当するが、便宜的にポリオレフィン組成物(A-2)の欄に記載している。
【0096】
【0097】
表1に示すように、実施例1~5は、摩擦係数が低く、高温試験後も変色が見られなかったが、無水マレイン酸による変性をしていない比較例1、および変性量が0.000106(mol/100g)であった比較例2は、摩擦係数は低いものの、高温試験後に変色が認められた。オルガノポリシロキサン(B)を使用しなかった比較例3は、高温試験後に変色は見られなかったが、摩擦係数が高かった。