(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】生産管理システム及び生産管理方法
(51)【国際特許分類】
G05B 19/418 20060101AFI20230413BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20230413BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G06Q50/04
(21)【出願番号】P 2019066322
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】村上 良
(72)【発明者】
【氏名】本多 文博
(72)【発明者】
【氏名】厚坂 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】酒井 亨
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-033466(JP,A)
【文献】特開2015-090532(JP,A)
【文献】特開2003-084819(JP,A)
【文献】特開2009-265699(JP,A)
【文献】特開2000-084801(JP,A)
【文献】特開2004-178572(JP,A)
【文献】特開平11-096210(JP,A)
【文献】特開2007-188306(JP,A)
【文献】特開2004-355172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
G06Q 50/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の加工職場を有し、オーダーに応じて製造対象部品を製造する製造工場の生産管理システムであって、
前記製造工場が製造可能な製造対象部品の品目の少なくとも一部をカテゴリに分類する製造対象部品分類部と、
前記カテゴリごとに、前記製造対象部品の素材ワークが前記製造工場に投入されてから当該製造対象部品が完成するまでの状態である仕掛品の最大数である最大仕掛数を設定する最大仕掛数設定部と、
前記製造工場での前記カテゴリごとの現在の仕掛数が、前記最大仕掛数設定部で設定された前記最大仕掛数を超えないように、前記素材ワークを前記製造工場に投入するタイミングを制御する素材ワーク投入制御部と、
を備え
、
前記製造対象部品分類部は、前記素材ワークが前記製造工場に投入されてから前記製造対象部品が完成するまでに前記加工職場を通過する経路の類似度に基づいて、複数の前記製造対象部品に対する分類を行い、
前記製造対象部品分類部が前記分類を行う場合の前記経路の類似度は、当該経路が通過する前記加工職場の負荷が増大するのに伴って、当該類似度に与える影響が増大するように計算されることを特徴とする生産管理システム。
【請求項2】
請求項
1に記載の生産管理システムであって、
前記製造対象部品分類部は、複数の前記製造対象部品に対する分類を階層クラスタリング手法によって行うことを特徴とする生産管理システム。
【請求項3】
複数の加工職場を有し、オーダーに応じて製造対象部品を製造する製造工場の生産管理システムであって、
前記製造工場が製造可能な製造対象部品の品目の少なくとも一部をカテゴリに分類する製造対象部品分類部と、
前記カテゴリごとに、前記製造対象部品の素材ワークが前記製造工場に投入されてから当該製造対象部品が完成するまでの状態である仕掛品の最大数である最大仕掛数を設定する最大仕掛数設定部と、
前記製造工場での前記カテゴリごとの現在の仕掛数が、前記最大仕掛数設定部で設定された前記最大仕掛数を超えないように、前記素材ワークを前記製造工場に投入するタイミングを制御する素材ワーク投入制御部と、
前記製造対象部品に対する納入リードタイムを設定する納入リードタイム設定部と、
を備え、
前記納入リードタイム設定部は、
前記製造対象部品が完成してから納入するまでの時間として達成すべき基準である目標在庫余裕時間と、
前記素材ワークが前記製造工場に投入されてから前記製造対象部品が完成するまでに通過するそれぞれの前記加工職場で加工を完了するのに必要な時間である職場リードタイムと、
に基づいて、前記納入リードタイムを設定し、
前記素材ワーク投入制御部は、前記納入リードタイムに基づいて、前記素材ワークを前記製造工場に投入するタイミングを制御することを特徴とする生産管理システム。
【請求項4】
請求項
3に記載の生産管理システムであって、
前記職場リードタイムは、過去に当該加工職場で前記素材ワークを加工するのに実際に要した時間に基づいて定められることを特徴とする生産管理システム。
【請求項5】
請求項
3又は
4に記載の生産管理システムであって、
前記職場リードタイムを、職場リードタイム推定モデルによって推定可能であり、
前記職場リードタイム推定モデルは、少なくとも、当該製造対象部品が分類された前記カテゴリと、当該製造対象部品の材質と、を変数として、前記職場リードタイムを推定することを特徴とする生産管理システム。
【請求項6】
請求項
3から
5までの何れか一項に記載の生産管理システムであって、
前記納入リードタイム設定部は、前記職場リードタイムに基づいて、前記製造対象部品が完成してから納入するまでの在庫余裕時間が前記目標在庫余裕時間を達成するオーダーの比率が予め定められた条件を満たすように、前記納入リードタイムを設定することを特徴とする生産管理システム。
【請求項7】
請求項
3から
6までの何れか一項に記載の生産管理システムであって、
前記納入リードタイム設定部は、
集計対象期間における前記製造対象部品のオーダーのそれぞれについて、当該製造対象部品が完成してから納入するまでに実際に在庫した在庫時間である実績在庫余裕時間を求めて、前記目標在庫余裕時間と比較し、
前記集計対象期間において、前記製造対象部品の前記実績在庫余裕時間が前記目標在庫余裕時間を達成できなかったオーダーの比率が第1閾値を下回る場合、当該製造対象部品の前記納入リードタイムを減少するように調整し、
前記集計対象期間において、前記製造対象部品の前記実績在庫余裕時間が前記目標在庫余裕時間を達成できなかったオーダーの比率が第2閾値を上回る場合、当該製造対象部品の前記納入リードタイムを増加するように調整することを特徴とする生産管理システム。
【請求項8】
請求項
3から
7までの何れか一項に記載の生産管理システムであって、
前記素材ワーク投入制御部は、同一の前記カテゴリに属する前記製造対象部品に関して複数のオーダーがあるとき、当該オーダーで定められた納入時期から前記納入リードタイムだけ遡った計画投入日から投入待ちとなっている期間の長さに基づいて投入優先度を決定し、
前記素材ワーク投入制御部は、複数のオーダーの前記素材ワークが、前記投入優先度に基づく順番で投入されるように制御することを特徴とする生産管理システム。
【請求項9】
請求項
3から
8までの何れか一項に記載の生産管理システムであって、
前記製造対象部品分類部は、前記製造対象部品をカテゴリに分類するときに、前記製造対象部品の一部については何れの前記カテゴリにも属しないように分類を行い、
前記素材ワーク投入制御部は、何れの前記カテゴリにも属しない前記製造対象部品については、仕掛品の数にかかわらず、オーダーで定められた納入時期から前記納入リードタイムだけ遡った計画投入日に前記素材ワークが投入されるように制御することを特徴とする生産管理システム。
【請求項10】
請求項
3から
9までの何れか一項に記載の生産管理システムであって、
ある前記カテゴリに属する前記製造対象部品に関し、前記製造工場で対象期間内において製造された完成品の出来高が目標数を下回る場合に、当該製造工場の運用の改善について分析する改善分析部を備え、
前記改善分析部は、
前記カテゴリに対応する前記製造対象部品が通過する複数の前記加工職場のそれぞれについて、当該加工職場に滞留する仕掛品の数と、当該加工職場を通過するリードタイムと、当該加工職場の加工出来高と、の関係を求めることにより、当該加工職場での目標加工出来高を達成するために、当該加工職場に投入すべき適正な投入量である適正投入量を求め、
複数の前記加工職場のうち前記製造対象部品が通過する経路の最下流に位置する前記加工職場を最初に着目し、
着目した前記加工職場に関して、前記適正投入量と、実績投入量の平均値と、を比較して、前記実績投入量の平均値が前記適正投入量よりより余裕範囲を超えて上回っている場合、又は、前記実績投入量が長時間増加する傾向がある場合は、当該加工職場の加工能力の増強が必要であると判定し、そうでない場合は、当該加工職場よりも前記経路の1つ上流に位置する前記加工職場に着目する処理を、前記経路の最上流に位置する前記加工職場まで反復し、
前記経路に含まれる全ての前記加工職場について、加工能力の増強が必要であると判定しなかった場合には、前記最大仕掛数設定部で設定された当該カテゴリに対する前記最大仕掛数の増加が必要であると判定することを特徴とする生産管理システム。
【請求項11】
複数の加工職場を有し、オーダーに応じて製造対象部品を製造する製造工場の生産管理方法であって、
製造対象部品の品目の少なくとも一部をカテゴリに分類する製造対象部品分類ステップと、
前記製造対象部品分類ステップで分類された前記カテゴリごとに、前記製造対象部品の素材ワークが前記製造工場に投入されてから当該製造対象部品が完成するまでの状態である仕掛品の最大数である最大仕掛数を設定する最大仕掛数設定ステップと、
前記製造工場での前記カテゴリごとの現在の仕掛数が、前記最大仕掛数設定ステップで設定された前記最大仕掛数を超えないように、前記素材ワークを前記製造工場に投入するタイミングを制御する素材ワーク投入制御ステップと、
を含
み、
前記製造対象部品分類ステップでは、前記素材ワークが前記製造工場に投入されてから前記製造対象部品が完成するまでに前記加工職場を通過する経路の類似度に基づいて、複数の前記製造対象部品に対する分類を行い、
前記製造対象部品分類ステップで前記分類を行う場合の前記経路の類似度は、当該経路が通過する前記加工職場の負荷が増大するのに伴って、当該類似度に与える影響が増大するように計算されることを特徴とする生産管理方法。
【請求項12】
複数の加工職場を有し、オーダーに応じて製造対象部品を製造する製造工場の生産管理方法であって、
製造対象部品の品目の少なくとも一部をカテゴリに分類する製造対象部品分類ステップと、
前記製造対象部品分類ステップで分類された前記カテゴリごとに、前記製造対象部品の素材ワークが前記製造工場に投入されてから当該製造対象部品が完成するまでの状態である仕掛品の最大数である最大仕掛数を設定する最大仕掛数設定ステップと、
前記製造工場での前記カテゴリごとの現在の仕掛数が、前記最大仕掛数設定ステップで設定された前記最大仕掛数を超えないように、前記素材ワークを前記製造工場に投入するタイミングを制御する素材ワーク投入制御ステップと、
前記製造対象部品に対する納入リードタイムを設定する納入リードタイム設定ステップと、
を含み、
前記納入リードタイム設定ステップでは、
前記製造対象部品が完成してから納入するまでの時間として達成すべき基準である目標在庫余裕時間と、
前記素材ワークが前記製造工場に投入されてから前記製造対象部品が完成するまでに通過するそれぞれの前記加工職場で加工を完了するのに必要な時間である職場リードタイムと、
に基づいて、前記納入リードタイムを設定し、
前記素材ワーク投入制御ステップでは、前記納入リードタイムに基づいて、前記素材ワークを前記製造工場に投入するタイミングを制御することを特徴とする生産管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の加工職場を有する製造工場に適用可能な生産管理システム及び生産管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、上記のような製造工場を対象として、生産計画に基づいて生成されたワークの投入タイミングに従ってワークを投入する生産管理システムが知られている。特許文献1は、この種の生産システムを開示する。
【0003】
特許文献1の生産システムは、取り決められた運用手順に従って作業者による作業へのワークの投入・搬出作業を行い、複数の装置から生産に係わる生産実績データを管理し、複数の装置、被組立物/被加工物及び作業者に対してモデル化し、該モデル化データとその日の生産計画データから、ワークの投入・搬出タイミングと、作業者の作業割り当てを決定する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1の構成は、被組立物/被加工物ごとに生産実績データをモデル化する必要があるので、特に多品種少量生産を行う工場において管理負担が過大となり易く、改善が望まれていた。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、生産の安定性を確保でき、多品種少量生産の大規模な工場でも管理負担が少ない生産管理システム及び生産管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の生産管理システムが提供される。即ち、この生産管理システムは、複数の加工職場を有し、オーダーに応じて製造対象部品を製造する製造工場に用いられる。この生産管理システムは、製造対象部品分類部と、最大仕掛数設定部と、素材ワーク投入制御部と、を備える。前記製造対象部品分類部は、前記製造工場が製造可能な製造対象部品の品目の少なくとも一部をカテゴリに分類する。前記最大仕掛数設定部は、前記カテゴリごとに、前記製造対象部品の素材ワークが前記製造工場に投入されてから当該製造対象部品が完成するまでの状態である仕掛品の最大数である最大仕掛数を設定する。前記素材ワーク投入制御部は、前記製造工場での前記カテゴリごとの現在の仕掛数が、前記最大仕掛数設定部で設定された前記最大仕掛数を超えないように、前記素材ワークを前記製造工場に投入するタイミングを制御する。前記製造対象部品分類部は、前記素材ワークが前記製造工場に投入されてから前記製造対象部品が完成するまでに前記加工職場を通過する経路の類似度に基づいて、複数の前記製造対象部品に対する分類を行う。前記製造対象部品分類部が前記分類を行う場合の前記経路の類似度は、当該経路が通過する前記加工職場の負荷が増大するのに伴って、当該類似度に与える影響が増大するように計算される。
【0009】
本発明の第2の観点によれば、以下の生産管理方法が提供される。即ち、この生産管理方法は、複数の加工職場を有し、オーダーに応じて製造対象部品を製造する製造工場に適用される。この生産管理方法は、製造対象部品分類ステップと、最大仕掛数設定ステップと、素材ワーク投入制御ステップと、を含む。前記製造対象部品分類ステップでは、製造対象部品の品目の少なくとも一部をカテゴリに分類する。前記最大仕掛数設定ステップでは、前記製造対象部品分類ステップで分類された前記カテゴリごとに、前記製造対象部品の素材ワークが前記製造工場に投入されてから当該製造対象部品が完成するまでの状態である仕掛品の最大数である最大仕掛数を設定する。前記素材ワーク投入制御ステップでは、前記製造工場での前記カテゴリごとの現在の仕掛数が、前記最大仕掛数設定ステップで設定された前記最大仕掛数を超えないように、前記素材ワークを前記製造工場に投入するタイミングを制御する。前記製造対象部品分類ステップでは、前記素材ワークが前記製造工場に投入されてから前記製造対象部品が完成するまでに前記加工職場を通過する経路の類似度に基づいて、複数の前記製造対象部品に対する分類を行う。前記製造対象部品分類ステップで前記分類を行う場合の前記経路の類似度は、当該経路が通過する前記加工職場の負荷が増大するのに伴って、当該類似度に与える影響が増大するように計算される。
【0010】
これにより、製造工場の最大仕掛数を制限することで、製造工場における製造リードタイムを安定させることができる。また、製造工場での最大仕掛数を、品目ごとではなくカテゴリごとに設定するため、管理負担を低減することができる。この効果は、特に多品種少量生産の大規模な製造工場において好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生産の安定性を確保でき、多品種少量生産の大規模な工場でも管理負担が少ない生産管理システム及び生産管理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る生産管理システムを説明する模式図。
【
図3】目標在庫余裕時間に基づいて納入LTを決定する方法を説明するグラフ。
【
図4】生産管理システムにおいて行われる生産管理方法を示すフローチャート。
【
図5】クラスタリング処理のサブルーチンを示すフローチャート。
【
図6】納入LT調整処理のサブルーチンを示すフローチャート。
【
図7】改善分析処理のサブルーチンを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る生産管理システム100が適用される工場の例を示す模式図である。
図2は、製造対象部品の納入LTを説明するグラフである。
【0014】
図1には、組立工場4が必要とする部品を供給するサプライチェーンが示されている。このサプライチェーンには、素材倉庫1と、製造工場2と、完成品倉庫3と、が含まれている。
【0015】
素材倉庫1は、素材ワークを保管することができる。素材ワークは、製造工場2で生産する製造対象部品の材料である。
【0016】
製造工場2は、素材ワークに対して加工等の作業を行い、製造対象部品を完成させる。生産管理システム100は、この製造工場2の生産を管理する。
【0017】
完成品倉庫3には、製造工場2で生産した製造対象部品の完成品を保管することができる。
【0018】
組立工場4は、複数の製造対象部品を組み合わせて、完成品、又は、より大きな部品を組み立てる。
【0019】
以下では、製造対象部品の各状態を区別するために、完成した製造対象部品を完成品と呼び、製造工場2内で加工中の製造対象部品をワークと呼び、製造工場2に投入する前の製造対象部品の素材を素材ワークと呼ぶことがある。生産管理システム100は、製造工場2を流れるワークの数に着目して、生産管理を行う。
【0020】
製造工場2は、ジョブショップ生産方式を採用しており、複数の加工職場から構成されている。各加工職場には1以上の加工機械が配置されていることが通常であるが、加工機械が配置されない加工職場があっても良い。ジョブショップ生産方式は周知であるので簡単に説明するが、多品種少量生産において最も一般的とされる形態である。ジョブショップ生産方式では、加工職場(加工機械)のレイアウトにおいて機能の観点が重視され、似た機能を有する職場は近くに配置される。ジョブショップ生産方式では、異なる工程順を持つ製造対象部品が同一の加工職場(加工機械)を共有する。
【0021】
以下の説明においては、
図1に示すそれぞれの加工職場を特定するために、各加工職場を、第1加工職場21、第2加工職場22、第3加工職場23、第4加工職場24、第5加工職場25、第6加工職場26、第7加工職場27、第8加工職場28、第9加工職場29と呼ぶことがある。加工職場の数は限定されず、例えば数百の加工職場により構成される大規模な工場にも本発明を適用することができる。
【0022】
製造対象部品は、製造工場2において素材ワークから完成品になるまでの間に、少なくとも1つの加工職場を通過する。この通過経路は、製造対象部品ごとに異なる。
図1では、5つの互いに異なる製造対象部品(品目A~E)が、
図1に示す第1経路51、第2経路52、第3経路53、第4経路54をそれぞれ通過する例が示されている。
【0023】
品目A及び品目Bは、何れも、第1経路51を通過する。第1経路51は、第6加工職場26、第8加工職場28、第9加工職場29の順に通過する経路である。
【0024】
品目Cは、第2経路52を通過する。第2経路52は、第3加工職場23、第4加工職場24、第7加工職場27の順に通過する経路である。
【0025】
品目Dは、第3経路53を通過する。第3経路53は、第3加工職場23、第4加工職場24、第5加工職場25の順に通過する経路である。
【0026】
品目Eは、第4経路54を通過する。第4経路54は、第1加工職場21、第2加工職場22の順に通過する経路である。
【0027】
本実施形態の生産管理システム100は、製造工場2へのオーダーに基づいて、製造工場2に対して素材ワークの投入指示等を出力することができる。
【0028】
生産管理システム100は、主として、品目分類部(製造対象部品分類部)11と、WIP上限数設定部(最大仕掛数設定部)12と、納入LT設定部13と、オーダー受付部14と、素材ワーク投入制御部15と、改善分析部16と、を備える。WIPは、Work-In-Processの略称であり、完成品になる前の仕掛品を意味する。WIPは、上述の製造対象部品の各状態(完成品、ワーク、及び素材ワーク)のうち、ワークに相当する。LTは、リードタイム(Lead Time)の略称である。
【0029】
本実施形態の生産管理システム100は、公知のコンピュータ(図略)から構成されている。このコンピュータは、例えば、製造工場2に設置されているサーバコンピュータとすることができる。コンピュータは、図略のCPU、ROM、RAM、HDD、入出力部等を備える。HDDには、各種プログラムやデータ等が記憶されている。HDDに記憶されるプログラムには、本発明の生産管理方法を実現するための生産管理プログラムが含まれる。CPUは、各種プログラム等をHDDから読み出して実行することができる。生産管理システム100においては、上記のハードウェアとソフトウェアの協働によって、上記のコンピュータを、品目分類部11、WIP上限数設定部12、納入LT設定部13、オーダー受付部14、素材ワーク投入制御部15及び改善分析部16として動作させることができる。
【0030】
品目分類部11は、製造工場2で製造される多数の製造対象部品を、適宜の数のカテゴリに分類する。
【0031】
品目分類部11は、製造工場2において素材ワークから完成品になるまでに通過する加工職場の経路に着目して、経路が類似する製造対象部品は同一のカテゴリに属し、経路が類似しない製造対象部品は異なるカテゴリに属するように、それぞれ分類する。この分類手法としては、適宜のクラスタリング手法、例えば階層クラスタリング手法が用いられる。
【0032】
ところで、生産管理手法の1つとして、CONWIPが知られている。CONWIPは、CONstant WIPの略称である。CONWIPでは、工場に存在しているワーク(WIP)の数に品目ごとに上限が定められて、この上限を超えないように工場への素材投入量が制限される。これにより、工場内でのリードタイムを安定化させることができる。
【0033】
詳細は後述するが、本実施形態では、製造対象部品ごと(品目ごと)ではなく、分類によって得られたカテゴリごとにWIP上限値が設定される。そして、カテゴリごとにWIP上限値を超えないように監視しながら、製造工場2に素材ワークが投入される。このように、本実施形態では、カテゴリごとのCONWIPが行われる。従って、カテゴリは、製造工場2に存在するワークの数の上限を定める基準となる。
【0034】
クラスタリングには、クラスタリングの対象同士が似ているかそうでないかを数値で示す類似度が用いられる。本実施形態において、製造対象部品の間の類似度は、2つの製造対象部品が共通の加工職場を通過すれば高くなり、そうでなければ低くなるように定められる。製造工場2には機能が同一の加工職場が複数存在することもあるが、この場合は、まとめて1つの加工職場とみなして類似度を計算することが好ましい。製造工場2を通過する加工職場の経路間の類似度としては、例えば、レーベンシュタイン距離を用いて定めることができる。加工職場の経路は、例えば、各加工職場を一意に示す文字を並べた文字列として表現することができる。レーベンシュタイン距離は、互いに異なる2つの文字列のうち一方を他方の文字列と同一にするために必要になる最小編集コストとして定義される。編集とは、例えば、文字(加工職場を意味する)の挿入及び削除である。
【0035】
品目分類部11は、製造対象部品の経路間の類似度を計算するとき、加工負荷が大きい加工職場を経路が通過しているか否かが類似度に与える影響が強くなるように、類似度を計算する。
【0036】
具体的には、品目分類部11は、製造工場2に含まれる全ての加工職場のそれぞれに、当該加工職場の計画負荷に応じた重み係数を設定する。この計画負荷は、所定期間内における加工職場の予定加工数と、当該加工職場の加工能力と、に基づいて求めることができる。
【0037】
品目分類部11は、編集コストを計算する場合に、この重み係数に応じて、レーベンシュタイン距離を計算するときの編集コストを変更する。具体的には、計画負荷が高い加工職場を挿入/削除する場合の編集コストを、計画負荷が低い加工職場を挿入/削除する場合の編集コストよりも、大きく設定している。これにより、計画負荷が高い加工職場を共通して通過する経路(製造対象部品)は、計画負荷が低い加工職場を共通して通過する経路(製造対象部品)よりも、同一のカテゴリに分類され易くなる。従って、計画負荷が高い加工職場を重視したWIP上限値の設定を行うことができる。
【0038】
品目分類部11は、上記レーベンシュタイン距離の代わりに、例えばコサイン類似度を用いて、2つの経路間の類似度を計算しても良い。
【0039】
階層クラスタリングでは、計算した経路間の距離(類似度)が最も似ている組み合わせから順番に同一のクラスタに分類していく手順を繰り返す。手順が進むにつれて、経路とクラスタの距離、又は、クラスタとクラスタの距離の計算が必要になる。本実施形態では、クラスタとクラスタとの距離を計算するときは、それぞれのクラスタから1つずつ取り出された経路の全ての組合せの中で、最も似ていない経路間の距離を、当該2つのクラスタ間の距離とする(最長距離法)。これにより、クラスタに属する製造対象部品の数に偏りが生じにくい分類を実現できる。ただし、品目分類部11は、最長距離法の代わりに、最短距離法、重心法、群平均法、ウォード法等の階層クラスタリング手法を用いて、製造対象部品を分類することもできる。
【0040】
クラスタリングを階層的に進めていくに従って、何れかのクラスタに属する経路(言い換えれば、製造対象部品)の割合が増加していく。品目分類部11は、何れかのクラスタに分類された製造対象部品が、製造対象部品の総数の大部分(例えば、90%以上)となった時点で、クラスタリングを完了させる。
【0041】
このように、品目分類部11は、製造対象部品の全てが何れかのクラスタに属するまで階層クラスタリングを進めることはせず、何れのクラスタにも属しない製造対象部品が少し残る程度となった時点で、クラスタリングを打ち切る。この方法と、上記の最長距離法との組合せにより、どれとも似ていない孤立した製造対象部品を無理してクラスタに分類しないようにすることができる。これにより、クラスタ(カテゴリ)の数が過大になることを防止できるので、管理負担を抑制できる。
【0042】
品目分類部11が以上の処理を行うことにより、それぞれの製造対象部品が何れのクラスタ(カテゴリ)に属するか、それとも何れのクラスタ(カテゴリ)にも属しないのか、の情報を得ることができる。
図1では、製造対象部品の5つの品目について分類された例が、素材ワークへのハッチングをカテゴリごとに異ならせることによって表現されている。この例では、品目Aと品目Bが第1カテゴリC1に分類され、品目Cと品目Dが第2カテゴリC2に分類されている。品目Eは、どのカテゴリにも分類されていない。製造対象部品とカテゴリの対応関係は、生産管理システム100のコンピュータに記憶される。
【0043】
WIP上限数設定部12は、カテゴリごとのWIP上限値を設定する。WIP上限値は、製造工場2での実際の生産を模擬したシミュレーション計算を行う等、公知の手段を用いて得ることができる。
【0044】
納入LT設定部13は、製造対象部品ごとの納入LTを設定する。納入LTとは、素材ワークが製造工場2に投入されてから組立工場4に完成品を納入するまでに確保すべき時間である。詳細は後述するが、この納入LTと、オーダーにおいて定められた納入日と、に基づいて、素材ワークが製造工場2に投入されるタイミング(計画投入日)が定められる。なお、納入LTの初期値を求める場合と、現行の納入LTを更新する場合とで、納入LT設定部13の動作は異なる。
【0045】
納入LTについて詳細に説明する。納入LTを定めるために考慮される要素としては、
図2に示すように、投入待ち時間と、製造工場2を通過して完成品となるのに必要な工場通過LTと、在庫余裕時間と、が考えられる。
【0046】
投入待ち時間は、予め定めた計画投入日が到来してから、実際に製造工場2へ投入されるまでの時間である。投入待ち時間の間、素材ワークは投入待ち保管部1aにて保管される。
【0047】
工場通過LTは、製造工場2に素材ワークが投入されてから、完成品が仕上がるまでの時間である。上述したように、製造対象部品が異なれば、ワークが製造工場2の加工職場をどのように通過するかが変わる。また、同一の加工職場でも、ワークが異なれば、作業に必要な時間が変わる。例えば、同一の形状のワークを同じ形状に加工する場合でも、例えば鉄とアルミニウムというように材質が異なれば、機械加工に必要な時間が異なる。従って、工場通過LTは、製造対象部品に応じて様々である。
【0048】
在庫余裕時間は、製造工場2において素材ワークに対する全ての作業が完了して完成品となってから、組立工場4へ納入するまでの在庫時間である。在庫余裕時間の間、完成品は完成品倉庫3にて保管される。
【0049】
納入LT設定部13は、納入LTの初期値を、適宜の手法によって求める。良く知られたリトルの法則によれば、リードタイムは、WIPの数を工場の能力で除算することにより得ることができる。納入LTの初期値は、製造対象部品ごとに、例えば上述のシミュレーションによって求めることができる。納入LTの初期値が定められた後、製造工場2における実際の運用が開始される。いったん定めた納入LTを納入LT設定部13が調整する処理については後述する。
【0050】
オーダー受付部14は、製造工場2に対するオーダーを受け付ける。オーダー受付部14が受け付けたオーダーは、オーダーリストに追加される。
【0051】
組立工場4において、所定の日(以下、組立必要日という。)に部品を組み立てる見込みとなり、当該部品を製造工場2で製造する必要が生じた場合を考える。この場合、製造工場2へ製造を依頼するオーダーが生成されて、このオーダーがオーダー受付部14によって受け付けられる。オーダーには、納期の情報として、上述の組立必要日の情報が含まれる。
【0052】
素材ワーク投入制御部15は、オーダー受付部14が受け付けたオーダーに基づいて、製造工場2に対する素材ワークの投入タイミングを制御する。
【0053】
具体的に説明すると、素材ワーク投入制御部15は、オーダー受付部14が受け付けたオーダーのそれぞれについて、計画投入日を定める。計画投入日とは、当該オーダーに係る素材ワークを製造工場2に投入する予定日を意味する。素材ワーク投入制御部15は、計画投入日を、組立必要日から当該製造対象部品の納入LTだけ遡った日となるように定める。
【0054】
素材ワーク投入制御部15は、オーダーリストに含まれるオーダーに基づいて、素材ワークを製造工場2に投入する。
【0055】
素材ワーク投入制御部15は、原則として、受け付けられたオーダーに関する素材ワークを、計画投入日に製造工場2に投入するように、指示を行う。この指示は、例えば、コンピュータが投入指示をディスプレイに表示したり、投入指示書をプリンタで出力したりすることにより実現される。
【0056】
ただし、上述したように、製造工場2に存在することが許容されるワークの数の上限がカテゴリごとに定められている。計画投入日が到来しても、投入しようとする製造対象部品のカテゴリと同一のカテゴリのワークが製造工場2に既に存在し、その数がWIP上限値に達している場合には、素材ワークは投入されない。やがて、製造工場2内のワークが完成品となると、当該カテゴリにおける製造工場2でのWIPの数が上限値を下回る。素材ワーク投入制御部15は、それまで待ってから、素材ワークを製造工場2に投入する指示を行う。
【0057】
製造工場2に存在するカテゴリごとのワーク数の上限値は、カンバン5を用いて管理されている。カンバン5は、カンバン保管部5aに、カテゴリごとにWIP上限値の数だけ予め用意されている。何れかのカテゴリに分類されている素材ワークは、必ず、1つにつき当該カテゴリの1つのカンバン5が付けられた形で製造工場2に投入される。製造工場2での作業によってワークが完成品になると、完成品からカンバン5が外され、カンバン保管部5aに戻される。カテゴリごとのカンバン5の残り数は、当該カテゴリにおいて素材ワークを幾つ製造工場2に投入できるかを示している。
【0058】
例えば、計画投入日が既に到来しているオーダーが複数受け付けられ、それぞれの素材ワークは同一のカテゴリに属しているが、WIP上限値の関係で、当該カテゴリの素材ワークを1つしか製造工場2に投入できない場合(カンバン5の残りが1つしかない場合)が生じ得る。この場合、投入待ちとなっている何れのオーダーの素材ワークを投入すべきかが問題になる。この点、本実施形態の素材ワーク投入制御部15は、投入待ちのために納入LTが侵食されている割合(侵食率)を各オーダーについて計算し、この侵食率が高いオーダーから素材ワークを投入する。侵食率について具体例を説明すると、納入LTが50日であり、現時点で10日を投入待ちで費やしている場合は、侵食率は20%になる。この順番の制御によって、投入待ち時間の偏りを抑制し、全体として良好な操業を実現することができる。
【0059】
オーダーが対象とする製造対象部品の中には、上述したとおり、何れのカテゴリにも属しないものもある。この場合は、WIPの数の上限は特に設けられていない。素材ワーク投入制御部15は、同一の製造対象部品に係るWIPの数に関係なく、素材ワークを、計画投入日に製造工場2に投入する。
【0060】
何れのカテゴリにも属しない製造対象部品について、カンバン5を付けて製造工場2に投入することもできる。この場合、「カテゴリ分類外」という特別なカンバン5を用意すれば良い。WIPの数の制限がないので、この特別なカンバンは、十分に多い数を準備しておく。
【0061】
次に、納入LT設定部13が行う納入LTの調整処理について説明する。
【0062】
製造工場2に投入された素材ワークのそれぞれは、様々な加工職場をワークとして通過し、最終的に完成品になる。
【0063】
製造工場2においては、データベースが構築されている。オーダー、製造工場2に投入される素材ワーク、及び加工職場等には、それぞれを特定するための識別情報が付与されている。ワークが加工職場を通過するごとに、素材ワークごとに、加工職場が作業に着手した日時、作業が完了した日時の情報が、データベースに蓄積される。実際に工場に投入された日時、完成品となった日時、組立工場4に納入された日時も、素材ワークごとにデータベースに蓄積される。
【0064】
製造工場2での運用がある程度行われ、実績データがある程度収集された後、納入LT設定部13は、初期値として設定された納入LTを調整するために、以下の処理を行う。
【0065】
納入LTは、上述のとおり、投入待ち時間と、工場通過LTと、在庫余裕時間と、に分けて考えることができる。
【0066】
投入待ち時間に関しては、生産管理の観点で言えば、ゼロにすることが好ましい。従って、納入LT設定部13が新しい納入LTを設定する場合、
図2の投入待ち時間はゼロとして計算する。
【0067】
工場通過LTに関しては、上述したように、製造対象部品が異なれば、製造対象部品が通過する加工職場が変わる。従って、工場通過LTは、製造対象部品ごとに異なる。それぞれの加工職場では、ワークが当該加工職場に投入されてから、加工作業が完了するまでの時間(以下、職場LTと呼ぶことがある。)が異なる。また、同一の加工職場でも、作業するワークが異なれば職場LTが異なる。製造対象部品の工場通過LTは、当該製造対象部品が通過する加工職場のそれぞれの職場LTの総和として求めることができる。
【0068】
納入LT設定部13が新しい納入LTを設定するためには、それぞれの職場LTが必要になる。本実施形態において、納入LT設定部13は、各製造対象部品の生産量に応じて、異なる手法を用いて職場LTを取得している。
【0069】
上述したように製造工場2は多品種少量生産を行っているが、各製造対象部品が当該工場で生産される数量は、製造対象部品によって異なる。そこで、納入LT設定部13は、製造対象部品の生産量が所定量以上である場合は、当該製造対象部品が通過するそれぞれの加工職場の実績職場LTを当該加工職場の職場LTとして用いる。実績職場LTは、上述のデータベースへの記録内容を参照することにより得ることができる。
【0070】
製造対象部品の生産量が所定量未満である場合、実績に乏しいため、実績職場LTを求めることが難しい。そこで、この場合は、納入LT設定部13は、予め構築された職場LT推定モデル(職場リードタイム推定モデル)を用いて、加工職場の職場LTを推定している。職場LT推定モデルは、例えば、以下のようにして得ることができる。即ち、製造対象部品が品目分類部11によって分類されたカテゴリ、及び、製造対象部品の材質を入力とし、当該製造対象部品に対して作業を行った加工職場の実績職場LTを出力とした学習データを、加工職場ごとに準備する。この学習データを用いて、機械学習モデルに入力と出力との関係を学習させ、学習済モデルを構築する。学習済モデルは、加工職場ごとに構築される。この学習済モデル(職場LT推定モデル)に、製造対象部品のカテゴリ及び材質を入力することにより、当該加工職場の職場LTを推定することができる。
【0071】
在庫余裕時間に関しては、短く設定し過ぎると、製造対象部品の完成が間に合わず納入できない状況が発生し易くなる。一方で、在庫余裕時間が長過ぎるのも、在庫維持費用等の観点から好ましくない。これらの事情を考慮して、本実施形態では、納入LT設定部13が新しい納入LTを設定する場合に参照する基準として、目標在庫余裕時間が定義されている。目標在庫余裕時間は、上記のトレードオフの事情のバランスを考慮して、短くも長くもないように人為的に設定される。本実施形態では、目標在庫余裕時間は、納入LTに対する割合(例えば、1/3)の形で設定されている。ただし、これに限定されず、例えば日数の形で定めることもできる。
【0072】
上述のとおり、製造工場2へのオーダーは、組立工場4で部品を組み立てる必要が生じることに起因して生成される。ただし、組立工場4で部品を組み立てる日(上述の組立必要日)は、オーダーの生成時点では計画日であって、実際の組立必要日がそれと異なる場合もあり得る。即ち、実際の組立必要日は、オーダーの時点で予定していた日から前倒しになったり、後倒しになったりすることがある。製造工場2で製造対象部品が実際に完成する日も、各加工職場で起きる外乱等の影響により、バラツキが生じる。製造対象部品の実際の完成日が実際の組立必要日より後になってしまうと、納期割れとなる。
【0073】
この事情を考慮して、納入LT設定部13が新しい納入LTを設定する場合は、実績の在庫余裕時間の分布が用いられる。具体的には、所定の集計対象期間(例えば、直近の1ヵ月)において、ある製造対象部品に関する全てのオーダーについて、製造工場2で完成品となってから組立工場4に納入されるまでの時間(即ち、在庫余裕時間)を計算し、上述の目標在庫余裕時間と比較する。これにより、ある製造対象部品に関して、目標在庫余裕時間を達成できたオーダー及び達成できなかったオーダーが、全てのオーダーに対してどのくらいの割合となっているかを求めることができる。
【0074】
目標在庫余裕時間を達成できなかったオーダーが所定割合(例えば5%)未満であった場合は、余裕が多過ぎると考えられる。そこで、納入LT設定部13は、当該製造対象部品について、新しい納入LTを現状の納入LTから所定の割合(例えば、20%)だけ減少させた値となるように定める。
【0075】
目標在庫余裕時間を達成できなかったオーダーが所定割合(例えば15%)を上回った場合は、余裕が少な過ぎると考えられる。そこで、納入LT設定部13は、当該製造対象部品について、新しい納入LTを現状の納入LTから所定の割合(例えば、20%)だけ増加させた値となるように定める。
【0076】
目標在庫余裕時間を達成できなかったオーダーが、5%以上かつ15%以下であった場合は、新しい納入LTとして、現状の納入LTの値をそのまま用いる。
【0077】
上記の納入LTの更新は、1ヵ月ごとに、全ての製造対象部品について反復して行われる。この処理を継続することにより、製造工場2は最終的には、目標在庫余裕時間を達成できないオーダーの割合が10%前後となるような、負荷が適度である状態に収束することになる。
【0078】
製造対象部品の生産量が所定量未満である場合、在庫余裕時間の分布は実績に基づいて求めることが難しいので、これに代えて、上述の職場LT推定モデルの出力結果が用いられる。即ち、それぞれの職場LT推定モデルの出力結果である職場LTは、平均値と分散の形で(言い換えれば、確率分布の形で)得ることができるようになっている。この職場LTを、ワークが通過するそれぞれの加工職場について求め、結果を積算することにより、工場通過LTの推定値を確率分布の形で得ることができる。
【0079】
オーダー時点で計画されていた組立必要日と、実際の組立必要日と、の差についても、例えば全ての製造対象部品について集計することにより、確率分布として得ることができる。この確率分布と、工場通過LTの確率分布と、により、在庫余裕時間の確率分布を求めることができる。ただし、組立必要日のバラツキを考慮せず、計画されていた組立必要日と実際の組立必要日が一致するとみなしても良い。
【0080】
在庫余裕時間の確率分布が、
図3に概念図として示されている。
図3のグラフの横軸が在庫余裕時間であり、ゼロは、製造対象部品の完成が納入のタイミングにぎりぎり間に合ったことを意味する。マイナスは、納期割れを意味する。この確率分布を参照すれば、目標在庫余裕時間をどの基準値に定めれば、目標在庫余裕時間を達成できないオーダーの割合が適度な値(例えば、10%)となるかを、分布の面積割合に着目して計算により求めることができる。納入LT設定部13は、この基準値を実現するための目標在庫余裕時間を用いて、新しい納入LTを計算により得る。
【0081】
次に、改善分析部16について説明する。改善分析部16は、それぞれのカテゴリに属する製造対象部品に関し、製造された完成品の出来高の実績に基づいて、製造工場2の運用の改善について分析する。
【0082】
改善分析部16は、各カテゴリについて、所定の集計対象期間(例えば、1ヵ月)における上記出来高の平均を、予め設定された出来高の目標数と比較する。集計対象期間における出来高の平均が目標数以上である場合、そのカテゴリに割り当てられている製造工場2の能力の一部を他に振り向けた方が、全体として良好な操業を実現できる可能性が高い。そこで、改善分析部16は、WIP上限数設定部12に、当該カテゴリについてのWIP上限数を所定数(例えば、10%)減少させる。
【0083】
出来高の平均が目標数を下回る場合、その原因を特定することが好ましい。そこで、改善分析部16は、そのカテゴリに属する製造対象部品が製造工場2において通過する経路を下流側から上流側に辿るようにして、各加工職場を分析する。
【0084】
以下では、
図1に示す品目A及び品目Bが同一のカテゴリ(第1カテゴリC1)に分類されており、何れも、製造工場2で通過する経路が第1経路51で同一である場合について説明する。第1経路51は、第6加工職場26、第8加工職場28、第9加工職場29の順に通過する経路である。
【0085】
先ず、改善分析部16は、当該経路における最下流に位置する第9加工職場29に着目する。改善分析部16は、第9加工職場29に対して、当該第9加工職場29の平均WIPと、適正WIPと、を求める。
【0086】
平均WIPは、上述の集計対象期間において、当該第9加工職場29に投入された実績投入量の平均値である。当該平均WIPは、例えば、第9加工職場29から取得した実績データから求めることができる。
【0087】
適正WIPは、目標出来高を達成するために、第9加工職場29に投入すべき適正投入量である。当該適正WIPは、例えば、第9加工職場29に滞留するワークの数と、第9加工職場29を通過する職場LTと、第9加工職場29の出来高と、の関係を表すLOCから求めることができる。LOCとは、ロジスティック操作曲線(Logistic Operation Curve)を意味する。LOCの計算手法は良く知られているため、説明を省略する。
【0088】
改善分析部16は、求めた平均WIPと、適正WIPと、を比較する。平均WIPが適正WIPを上回っている場合、改善分析部16は、第9加工職場29の加工能力が不足であると判定し、第9加工職場29の加工能力を増強する必要があることを工場管理者に知らせる。
【0089】
なお、上記場合の代わりに、第9加工職場29から取得した実績投入量が長時間増加する傾向がある場合においても、改善分析部16は、第9加工職場29の加工能力を増強する必要があると判定しても良い。
【0090】
一方、平均WIPが適正WIP以下である場合、第9加工職場29より上流側の加工職場からの供給量が不足していると考えられる。この場合は、改善分析部16は、第9加工職場29よりも1つ上流側に位置する第8加工職場28に着目して、第9加工職場29と同様の分析を行う。
【0091】
分析は、加工能力に問題がある加工職場が見つかるまで、第9加工職場29、第8加工職場28、第6加工職場26の順に行われる。分析の結果、全ての加工職場の加工能力に問題がなかった場合は、製造工場2への素材ワークの投入量の不足が出来高未達の原因であると考えられる。そこで、改善分析部16は、WIP上限数設定部12に、当該カテゴリについてのWIP上限数を所定数(例えば、10%)増加させる。
【0092】
以上の処理を定期的に行うことで、出来高未達の原因となっている加工職場を特定でき、また、カテゴリごとのWIP上限数が適正化されるので、製造工場2の能力を効率良く発揮させることができる。
【0093】
次に、生産管理システム100において行われる具体的な処理を、フローチャートを参照しながら説明する。
【0094】
図4の処理がスタートすると、品目分類部11により、製造対象部品の品目のクラスタリングが行われる(ステップS101)。クラスタリングのサブルーチンについては後述する。その後、WIP上限数設定部12によって、WIPの上限数が、例えばシミュレーション計算によって定められる(ステップS102)。その後、実際に運用が開始され、素材ワーク投入制御部15は、カテゴリごとのWIPが上限値を超えないように、素材ワークの製造工場2への投入を管理する(ステップS103)。
【0095】
運用中は、加工職場の実績職場LT、製造対象部品の実績納入LT、製造対象部品の実績在庫余裕時間等の実績データ等が収集される(ステップS104)。収集データの蓄積がある程度進行した段階で、後に行われる納入LTの調整のために、職場LT推定モデルの構築が行われる(ステップS105)。
【0096】
その後、必要なタイミングで、納入LTの調整と改善分析が行われる(ステップS106及びステップS107)。これらのサブルーチンについては後述する。その後、処理はステップS103に戻る。
【0097】
図5を参照して、クラスタリング処理について具体的に説明する。
【0098】
図4のステップS101で
図5のサブルーチンが呼び出されると、品目分類部11は先ず、製造対象部品が製造工場2において加工職場を通過する経路同士の類似度を計算する(ステップS201)。その後、品目分類部11は、最も近い製造対象部品又はクラスタを、1つのクラスタにまとめる(ステップS202)。次に、製造対象部品の全てのうち、何れかのクラスタに分類された割合が、90%以上か否かを判定する(ステップS203)。割合が90%未満の場合は、処理がステップS202に戻り、品目分類部11が上記の処理を繰り返す。割合が90%以上になると、クラスタリング処理が完了する。
【0099】
図6を参照して、納入LTの調整処理について具体的に説明する。なお、
図6では代表して1つの製造対象部品についての処理が示されているが、実際には、
図6のサブルーチンが呼び出される度に、全ての製造対象部品について同様の処理が行われる。
【0100】
図4のステップS106で
図6のサブルーチンが呼び出されると、納入LT設定部13は先ず、1つの製造対象部品に着目して、当該製造対象部品の生産量が所定の閾値以上であるか否かを判定する(ステップS301)。生産量が閾値未満であると判定された場合は、納入LT設定部13は、当該製造対象部品が通過する各加工職場の職場LTを、職場LT推定モデルにより推定し、これを積算することにより、工場通過LTの分布を推定する(ステップS302)。納入LT設定部13は、推定された工場通過LTと、目標在庫余裕時間を達成する比率が90%となる在庫余裕時間と、に基づいて、新しい納入LTを計算により得る(ステップS303)。その後、当該製造対象部品に対する納入LT調整処理が終了する。
【0101】
ステップS301の判断で、当該製造対象部品の生産量が一定以上であると判定された場合、納入LT設定部13は、所定の集計対象期間における当該製造対象部品に係る全てのオーダーについて、実績在庫余裕時間と、目標在庫余裕時間と、を比較することで、実績在庫余裕時間が目標在庫余裕時間を達成していないオーダーの比率が第1閾値(例えば、5%)未満であるか否かを判定する(ステップS304)。目標在庫余裕時間を達成していないオーダーの比率が5%未満であると判定された場合、納入LT設定部13は、当該製造対象部品のオーダーに対する納入LTを、例えば20%減少するように調整する(ステップS305)。
【0102】
ステップS304の判断で、目標在庫余裕時間を達成していないオーダーの比率が5%以上である場合、納入LT設定部13は、当該オーダーの比率が第2閾値(例えば、15%)を上回るか否かを判定する(ステップS306)。当該オーダーの比率が15%を上回ると判定された場合、納入LT設定部13は、当該製造対象部品のオーダーに対する納入LTを、例えば20%増加するように調整する(ステップS307)。当該オーダーの比率が15%以下であると判定された場合、ステップS307の処理は行われない。何れの場合も、その後、当該製造対象部品に対する納入LT調整処理が終了する。
【0103】
図7を参照して、改善分析処理について具体的に説明する。なお、
図7では代表して1つのカテゴリについての処理が示されているが、実際には、
図7のサブルーチンが呼び出される度に、全てのカテゴリについて同様の処理が行われる。
【0104】
図4のステップS107で
図7のサブルーチンが呼び出されると、改善分析部16は先ず、所定の集計対象期間における当該カテゴリの出来高の平均値と、目標出来高と、を比較し、出来高平均値が目標出来高に対して不足しているか否かを判定する(ステップS401)。出来高の平均値が目標出来高以上であるときは、改善分析部16は、WIP上限数設定部12に、当該カテゴリのWIP上限数が例えば10%減少するように調整させる(ステップS402)。その後、当該カテゴリに関する改善分析処理を終了する。
【0105】
ステップS401の判断で、カテゴリの出来高の移動平均値が目標出来高に対して不足していると判定された場合、改善分析部16は、当該カテゴリに属する製造対象部品を加工するための最終の工程を行う加工職場に着目する(ステップS403)。この加工職場は、言い換えれば、製造工場2においてワークが移動する経路の最も下流に位置する加工職場である。
【0106】
改善分析部16は、着目した加工職場に関して、所定の集計対象期間において当該加工職場に投入されたワークの実績投入量の平均値である平均WIPを求めて、上記のように求められた当該加工職場の適正WIPと比較し、平均WIPが適正WIP以下であるか否かを判定する(ステップS404)。
【0107】
ステップS404の判断で、平均WIPが適正WIPを上回っていると判定された場合、改善分析部16は、着目した加工職場の加工能力を増強する必要があると判定し、コンピュータのディスプレイに表示する等して、工場管理者等に助言を行う(ステップS405)。その後、当該カテゴリに関する改善分析処理を終了する。
【0108】
ステップS404の判断で、着目した加工職場の平均WIPが適正WIP以下であると判定された場合、改善分析部16は、当該加工職場が、製造対象部品を加工するための最初の工程を行う職場であるか否かを判定する(ステップS406)。この加工職場は、言い換えれば、製造工場2においてワークが移動する経路の最も上流に位置する加工職場である。
【0109】
ステップS406の判断で、着目した加工職場が行う工程が最初の工程であると判定された場合、ワークが通過する全ての加工職場の能力に問題がなく、出来高の目標未達は素材ワークの投入量の不足が原因と考えられる。そこで、改善分析部16は、WIP上限数設定部12に、当該カテゴリのWIP上限数が例えば10%増加するように調整させる(ステップS407)。その後、当該カテゴリに関する改善分析処理を終了する。
【0110】
ステップS406の判断で、着目した加工職場が行う工程が最終工程ではないと判定された場合、改善分析部16は、着目する加工職場を、1つ前の工程を行う加工職場に変更する(ステップS408)。その後、処理はステップS404に戻って、WIPの比較処理が繰り返される。
【0111】
大規模な工場の中には、例えば、加工職場が数百あり、製造可能な製造対象部品の品目が数万点となるような工場も存在する。このような多品種少量生産に従来の投入管理手法(例えば、CONWIP)を適用しようとすると、品目ごとにWIP上限数を決定して保守する必要があって煩雑になり、また、WIP上限数が極めて小さい値となりがちで、現実の運用になじまなかった。また、出来高が目標に対して不足する場合にはWIP上限数を増加させることが原則とされていたが、例えば加工職場の能力不足に原因がある場合にはWIP上限数を増加させても無駄であり、従来は正しく対処することが困難であった。この点、本実施形態によれば、品目を分類したカテゴリを基準としてWIP上限数が決定されるので、設定及び保守が必要なパラメータの数を大きく削減できる。従って、運用の煩雑さを効果的に減らすことができる。また、適正WIPに着目して出来高未達の原因を自動的に分析できるため、生産管理の著しい効率化が可能になる。
【0112】
次に、加工職場において作業待ちのワークが複数ある場合の作業の順番について説明する。加工職場において、複数のワークが作業待ちとなる状況が考えられ、このときに、どのオーダーのワークから作業に着手すべきかが問題になる。本実施形態では、この場合は、計画投入日から現在までの期間が納入LTを侵食している割合(侵食率)を計算し、この侵食率が高いオーダーから優先して、ワークに対する作業を行う。これにより、全体として良好な操業を実現することができる。
【0113】
侵食率は、例えば、カンバン5を電子カンバンとすることで、各加工職場が正確かつ容易に把握することができる。電子カンバンは、例えば電子ペーパー等から構成されたディスプレイを備えており、定期的に(例えば1日1回)、侵食率等の表示が更新される。納入LTがどの程度侵食されているかが分かり易いように、侵食率が低い場合は緑色、中程度の場合は黄色、高い場合は赤色となるように表示色を異ならせても良い。
図1においては、ワーク又は素材ワークの近くに、侵食率を棒グラフでグラフィカルに示したカンバン5の表示例が描かれている。各加工職場では、例えば、赤、黄、緑の順でワークへの作業に着手する旨、ルールを定めておく。これにより、作業順の間違いを減らすことができる。
【0114】
以上に説明したように、本実施形態の生産管理システム100は、複数の加工職場を有し、オーダーに応じて製造対象部品を製造する製造工場2に用いられる。この生産管理システム100は、品目分類部11と、WIP上限数設定部12と、素材ワーク投入制御部15と、を備える。品目分類部11は、製造工場2が製造可能な製造対象部品の品目の少なくとも一部をカテゴリに分類する。WIP上限数設定部12は、カテゴリごとに、製造対象部品の素材ワークが製造工場2に投入されてから製造対象部品が完成するまでの状態である仕掛品の最大数であるWIP上限数を設定する。素材ワーク投入制御部15は、製造工場2でのカテゴリごとの現在のWIP数が、WIP上限数設定部12で設定されたWIP上限数を超えないように、素材ワークを製造工場2に投入するタイミングを制御する。
【0115】
これにより、製造工場2のWIP上限数を制限することで、製造工場2における製造LTを安定させることができる。また、製造工場2でのWIP上限数を、品目ごとではなくカテゴリごとに設定するため、管理負荷を低減することができる。この効果は、特に多品種少量生産の大規模な製造工場2において好適である。
【0116】
また、本実施形態の生産管理システム100において、品目分類部11は、素材ワークが製造工場2に投入されてから製造対象部品が完成するまでに加工職場を通過する経路の類似度に基づいて、複数の製造対象部品に対する分類を行う。
【0117】
これにより、製造工場2において良く似た経路を通過する製造対象部品は、同一のカテゴリに分けられて、1つのWIP上限数でまとめて管理される可能性が高くなる。従って、製造工場におけるワークの滞留状況の変動幅を効果的に抑制することができる。一方、大きく異なる経路を通過する製造対象部品は、別々のカテゴリに分けられて、互いに独立したWIP上限数で管理される可能性が高くなる。従って生産管理を全体的に良好に行うことができる。
【0118】
また、本実施形態の生産管理システム100において、品目分類部11が分類を行う場合の経路の類似度は、経路が通過する加工職場の負荷が増大するのに伴って、類似度に与える影響が増大するように計算される。
【0119】
これにより、製造対象部品同士が製造工場2において互いに一部異なる経路を通過するとしても、経路に共通して含まれる加工職場の負荷が大きかった場合は、同一のカテゴリに分けられる可能性が高くなる。従って、負荷が大きい加工職場を重視してWIPの数が管理されるので、製造工場2の操業を安定して行うことができる。
【0120】
また、本実施形態の生産管理システム100において、品目分類部11は、複数の製造対象部品に対する分類を階層クラスタリング手法によって行う。
【0121】
これにより、分類を適切に行うことができる。
【0122】
また、本実施形態の生産管理システム100は、製造対象部品に対する納入LTを設定する納入LT設定部13を備える。納入LT設定部13は、目標在庫余裕時間と、職場LTと、に基づいて、納入LTを設定する。目標在庫余裕時間は、製造対象部品が完成してから納入するまでの時間として達成すべき基準である。職場LTは、素材ワークが製造工場2に投入されてから製造対象部品が完成するまでに通過するそれぞれの加工職場で加工を完了するのに必要な時間である。素材ワーク投入制御部15は、納入LTに基づいて、素材ワークを製造工場2に投入するタイミングを制御する。
【0123】
これにより、製造工場2で実際に加工が行われる時間と、目標在庫余裕時間と、の両方に配慮した適切なタイミングで、素材ワークを製造工場2へ投入することができる。
【0124】
また、本実施形態の生産管理システム100においては、職場LTは、過去に加工職場で素材ワーク又はワークを加工するのに実際に要した時間に基づいて定められる。
【0125】
これにより、職場LTとして実績値を用いて、納入LTを精度良く定めることができる。
【0126】
また、本実施形態の生産管理システム100においては、職場LTを、職場LT推定モデルによって推定可能である。職場LT推定モデルは、少なくとも、製造対象部品が分類されたカテゴリと、製造対象部品の材質と、を変数として、職場LTを推定する。
【0127】
これにより、製造実績が乏しい製造対象部品についても、納入LTを合理的に定めることができる。
【0128】
また、本実施形態の生産管理システム100において、納入LT設定部13は、職場LTに基づいて、製造対象部品が完成してから納入するまでの在庫余裕時間が目標在庫余裕時間を達成するオーダーの比率が予め定められた条件を満たすように、納入LTを設定する。
【0129】
これにより、目標在庫余裕時間を指標として、好ましい納入LTを定めることができる。
【0130】
また、本実施形態の生産管理システム100において、納入LT設定部13は、集計対象期間における製造対象部品のオーダーのそれぞれについて、製造対象部品が完成してから納入するまでに実際に在庫した在庫時間である実績在庫余裕時間を求めて、目標在庫余裕時間と比較する。集計対象期間において、製造対象部品の実績在庫余裕時間が目標在庫余裕時間を達成できなかったオーダーの比率が第1閾値を下回る場合、納入LT設定部13は、製造対象部品の納入LTを減少するように調整する。集計対象期間において、製造対象部品の実績在庫余裕時間が目標在庫余裕時間を達成できなかったオーダーの比率が第2閾値を上回る場合、納入LT設定部13は、製造対象部品の納入LTを増加するように調整する。
【0131】
これにより、在庫余裕時間の実績を考慮して、納入LTを合理的に調整することができる。
【0132】
また、本実施形態の生産管理システム100において、素材ワーク投入制御部15は、同一のカテゴリに属する製造対象部品に関して複数のオーダーがあるとき、オーダーで定められた納入時期(組立必要日)から納入LTだけ遡った計画投入日から投入待ちとなっている期間の長さに基づいて、投入優先度を決定する。素材ワーク投入制御部15は、複数のオーダーの素材ワークが、投入優先度に基づく順番で製造工場2に投入されるように制御する。
【0133】
これにより、外乱等の影響を平準化でき、製造工場2の操業を安定させることができる。
【0134】
また、本実施形態の生産管理システム100において、品目分類部11は、製造対象部品をカテゴリに分類するときに、製造対象部品の一部については何れのカテゴリにも属しないように分類を行う。素材ワーク投入制御部15は、何れのカテゴリにも属しない製造対象部品については、WIPの数にかかわらず、オーダーで定められた納入時期(組立必要日)から納入LTだけ遡った計画投入日に素材ワークが投入されるように制御する。
【0135】
これにより、製造対象部品の一部(例えば、他と殆ど似ていない特殊な製造対象部品)については分類外とすることで、カテゴリ数が過多になって管理負荷が増大するのを防止することができる。また、分類外となった製造対象部品についても、生産管理を適切に行うことができる。
【0136】
また、本実施形態の生産管理システム100は、改善分析部16を備える。改善分析部16は、あるカテゴリに属する製造対象部品に関し、製造工場2で対象期間内において製造された完成品の出来高が目標数を下回る場合に、製造工場2の運用の改善について分析する。改善分析部16は、以下の処理を行う。即ち、カテゴリに対応する製造対象部品が通過する複数の加工職場のそれぞれについて、加工職場に滞留する仕掛品の数と、加工職場を通過するLTと、加工職場の加工出来高と、の関係を求めることにより、加工職場での目標加工出来高を達成するために加工職場に投入すべき適正な投入量である適正WIPを求める。複数の加工職場のうち製造対象部品が通過する経路の最下流に位置する加工職場に最初に着目する。[A]着目した加工職場に関して、適正WIPと、実績WIPの平均値と、を比較する。[B]実績WIPの平均値が適正WIPより余裕範囲を超えて上回っている場合、又は、実績WIPが長時間増加する傾向がある場合は、加工職場の加工能力の増強が必要であると判定する。[C]そうでない場合は、加工職場よりも経路の1つ上流に位置する加工職場に着目する。上記の[A]~[C]の処理を、経路の最上流に位置する加工職場まで反復する。経路に含まれる全ての加工職場について、加工能力の増強が必要であると判定しなかった場合には、WIP上限数設定部12で設定されたカテゴリに対するWIP上限数を増加させる。
【0137】
これにより、完成品の出来高が目標未達である場合に、その原因を自動的に特定することができる。従って、特定された原因に応じて、加工職場における加工機械を増加させたり、WIP上限数を調整したりすることで、生産をより効率良く行うことができ、納期遵守率を向上することができる。
【0138】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0139】
負荷が大きくなりがちな加工職場は、製品のトレンド等の影響で変化する。これを考慮して、ある程度の期間が経過したら品目分類部11がクラスタリングを定期的に行って、カテゴリへの分類を更新しても良い。
【0140】
品目分類部11がクラスタリングを行うときの経路間の類似度は、経路に含まれる加工職場の負荷を考慮せずに計算することもできる。
【0141】
図7のステップS404で、改善分析部16が平均WIPと適正WIPとを比較するときに、ある程度の余裕範囲を考慮しても良い。この場合、平均WIPが適正WIPを上回っていても、適正WIPを基準とした余裕範囲に入っていれば、当該加工職場の加工能力が不足であるとは判定されない。
【0142】
WIP上限数は、カンバン5以外の方法で管理されても良い。
【0143】
改善分析部16は、省略されても良い。
【0144】
品目分類部11は、製造対象部品の全てが何れかのクラスタ(カテゴリ)に属するまで、階層クラスタリングを継続しても良い。この場合でも、WIP上限数等のパラメータの管理負担をある程度少なくすることができる。
【0145】
製造工場2を構成する全ての加工職場が1つの経営主体によって運営されても良いし、加工職場のうち一部が別の経営主体によって運営されても良い。
【符号の説明】
【0146】
2 製造工場
11 品目分類部(製造対象部品分類部)
12 WIP上限数設定部(最大仕掛数設定部)
15 素材ワーク投入制御部
16 改善分析部
100 生産管理システム