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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】低温流体輸送配管保冷用断熱材
(51)【国際特許分類】
   F16L 59/147 20060101AFI20230413BHJP
【FI】
F16L59/147
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019115633
(22)【出願日】2019-06-21
(65)【公開番号】P2021001659
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】309012122
【氏名又は名称】日清紡ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉村 和彦
(72)【発明者】
【氏名】平川 永晃
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-176511(JP,A)
【文献】特開2015-117792(JP,A)
【文献】特表2014-511923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温流体輸送配管の外表面を被覆する保冷用の断熱材であって、
前記断熱材が、硬質ウレタンフォームのスラブ成形品である基材と、
前記基材の配管側となる内側面に形成された樹脂コーティング層(1)と、
前記基材の前記樹脂コーティング層(1)とは反対側の外側面に形成された樹脂コーティング層(2)とを有し、
前記樹脂コーティング層(1)の配管側である内側面、及び前記樹脂コーティング層(2)の外側面の少なくともいずれか一方の側に、ガスバリア層が形成されている、低温流体輸送配管保冷用断熱材。
【請求項2】
前記樹脂コーティング層(1)の内側面、及び前記樹脂コーティング層(2)の外側面の少なくともいずれか一方の側に形成されている前記ガスバリア層が、樹脂フィルムとアルミニウム箔との積層複合フィルムである、請求項に記載の低温流体輸送配管保冷用断熱材。
【請求項3】
前記樹脂コーティング層(1)が、ポリウレア樹脂を含む、請求項1又は2に記載の低温流体輸送配管保冷用断熱材。
【請求項4】
前記樹脂コーティング層(2)が、ポリウレア樹脂を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の低温流体輸送配管保冷用断熱材。
【請求項5】
前記断熱材は、配管の長さ方向に縦割りされた縦割部材が組み合わされてなり、前記縦割部材同士の突き合わせ面には、前記基材が露出している、請求項1~のいずれか1項に記載の低温流体輸送配管保冷用断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化天然ガス(LNG)や液化窒素等の低温流体の輸送に用いられる配管を被覆する保冷用断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
LNG(常圧下での沸点:約-162℃)、液化窒素(常圧下での沸点:約-196℃)や液化酸素(常圧下での沸点:約-183℃)等の低温流体の輸送に用いられる配管は、通常、配管を外気から断熱して保冷するために、硬質ウレタンフォーム等の断熱材で被覆されている。
【0003】
このような配管保冷用の断熱材としては、一般に、当該配管の外形に合わせて作製した金型内に、硬質ウレタンフォーム原料を注入発泡して得られたモールド成形品が用いられている。
例えば、特許文献1に、縦割り円筒状の硬質ウレタンフォームのモールド成形品を用いた断熱カバーが開示されている。前記断熱カバーは、該モールド成形品の配管側とは反対側面の表面に、ウレタン系コーティング剤による補強層が積層され、該補強層の表面に合成樹脂皮膜アルミ箔が、粘着材で貼着されているものである。
【0004】
また、予め作製した硬質ウレタンフォームのブロック(スラブ)から切り出して製造されるスラブ成形品による断熱材も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-117792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載されているようなモールド成形品は、種々の配管形状に対応した多数の金型が必要となる。このため、金型の作製及び管理のコストが掛かる。さらに、金型での注入発泡成形の度に該金型を清掃する作業負担も生じる。
【0007】
また、上記特許文献1における断熱カバーは、粘着性アスファルトを介して、配管の外側面に嵌合するように取り付けられているが、アスファルトと硬質ウレタンフォームは線膨張係数が異なり、冷却時の収縮度の差により、低温下では粘着性アスファルトが機能せずに剥離するおそれがある。
前記断熱カバーの配管側となる内側面は、該配管内を流通する低温流体によって-160℃以下の極低温にまで冷却され、該断熱カバーの外表面の温度が外気の露点を下回ると、該断熱カバーの外表面で結露が生じる。前記粘着性アスファルトが剥離すると、万一、この結露水が、2つ割形の分割円筒形からなる断熱カバーの各分割部材の接合部分等に侵入した場合、該結露水は、配管の外表面にまで達し、硬質ウレタンフォームに浸透し、断熱カバー全体が吸水した状態となり、断熱効果の著しい低下を招くこととなる。
【0008】
一方、スラブ成形品による断熱カバーは、上述したような金型に起因するコストや作業負担等の問題はないものの、モールド成形品において金型に接する部分に形成される無発泡で硬い、スキン層と呼ばれる表面層が成形されない。スラブ成形品は、表面に気泡が露出した状態であり、このままの状態では、配管への取付け施工時に、当て傷や破損等のいわゆるメカニカルダメージを受けやすい。
【0009】
このようなメカニカルダメージを受けた場合にも、断熱カバーの外表面には結露が生じやすい。また、硬質ウレタンフォームは、冷却時に、内部の閉気泡が減圧状態になる。このため、スキン層のないスラブ成形品は、湿気や結露水が硬質ウレタンフォームに侵入しやすく、断熱効果の急激な低下を招くおそれがある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、液化天然ガスや液化窒素等の低温流体の輸送配管の外表面を被覆する断熱材であって、従来よりも低コストで、硬質ウレタンフォームのメカニカルダメージや経時劣化を抑制することができ、断熱効果の持続性に優れた低温流体輸送配管保冷用断熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の低温流体輸送配管保冷用断熱材(以下、単に、断熱材とも言う。)は、硬質ウレタンフォームのスラブ成形品を基材とし、所定の層構成とすることにより、持続性に優れた良好な断熱効果を奏することを見出したことに基づくものである。
【0012】
すなわち、本発明によれば、以下の[1]~[6]が提供される。
[1]低温流体輸送配管の外表面を被覆する保冷用の断熱材であって、前記断熱材が、硬質ウレタンフォームのスラブ成形品である基材と、前記基材の配管側となる内側面に形成された樹脂コーティング層(1)と、前記基材の前記樹脂コーティング層(1)とは反対側の外側面に形成された樹脂コーティング層(2)とを有する、低温流体輸送配管保冷用断熱材。
[2]前記樹脂コーティング層(1)の配管側である内側面、及び前記樹脂コーティング層(2)の外側面の少なくともいずれか一方の側に、ガスバリア層が形成されている、上記[1]に記載の低温流体輸送配管保冷用断熱材。
[3]前記樹脂コーティング層(1)の内側面、及び前記樹脂コーティング層(2)の外側面の少なくともいずれか一方の側に形成されている前記ガスバリア層が、樹脂フィルムとアルミニウム箔との積層複合フィルムである、上記[2]に記載の低温流体輸送配管保冷用断熱材。
[4]前記樹脂コーティング層(1)が、ポリウレア樹脂を含む、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の低温流体輸送配管保冷用断熱材。
[5]前記樹脂コーティング層(2)が、ポリウレア樹脂を含む、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の低温流体輸送配管保冷用断熱材。
[6]前記断熱材は、配管の長さ方向に縦割りされた縦割部材が組み合わされてなり、前記縦割部材同士の突き合わせ面には、前記基材が露出している、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の低温流体輸送配管保冷用断熱材。
【発明の効果】
【0013】
本発明の低温流体輸送配管保冷用断熱材によれば、低温流体の輸送配管の外表面を被覆する断熱材であって、従来よりも低コストで、メカニカルダメージや経時劣化を抑制することができ、持続性に優れた良好な断熱効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の断熱材の実施形態の一例を示す断面模式図である。
図2】本発明の断熱材の実施形態の他の例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の断熱材の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
本発明の低温流体輸送配管保冷用断熱材は、低温流体輸送配管(以下、単に、配管とも言う。)の外表面を被覆する保冷用の断熱材である。
図1に、本発明の断熱材の実施形態の一例を示す。図1は、配管1の径方向の断面図である。図1に示す断熱材10は、硬質ウレタンフォームのスラブ成形品である基材11と、基材11の配管側となる内側面に形成された樹脂コーティング層(1)12と、基材11の樹脂コーティング層(1)12とは反対側の外側面に形成された樹脂コーティング層(2)13とを有する。
このような層構成の断熱材によれば、従来よりも低コストで、硬質ウレタンフォームのメカニカルダメージや経時劣化を抑制することができ、持続性に優れた良好な断熱効果を奏する。
【0017】
[基材]
断熱材10の基材11は、硬質ウレタンフォームのスラブ成形品である。
低温流体輸送配管保冷用断熱材においては、従来は、一般に、モールド成形品が用いられていたが、本発明では、スラブ成形品を用いることにより、断熱材を低コストで製造することができる。
【0018】
上述したように、モールド成形品は、断熱材で被覆する配管の種々の形状に応じて、金型の設計及び作製が必要であり、金型の準備及び管理のためのコストや作業負担を要する。
また、金型での注入発泡成形後、冷却して変形や収縮を抑制するため、通常、数十分間以上の養生時間を経過してから脱型される。このため、生産性を向上させるには、金型数を増やす必要がある。
また、金型内の表面には、通常、離型容易性の観点から、離型剤を塗布したり、あるいはまた、樹脂フィルム等の成形面材をセットした後に、原料を注入発泡し、硬質ウレタンフォームの自己接着力によって、成形面材と一体化させたりする場合もある。配管への取付け施工時において、接着剤等による断熱材の接合部分では、このような離型剤による被覆面(離型層)や成形面材は、接合一体化のために削ぎ落とす必要がある。このような点からも、モールド成形品による断熱材は、製造コスト及び生産性の面で不利である。
【0019】
これに対して、スラブ成形品は、連続発泡ラインで製造された硬質ウレタンフォームのブロック(スラブ)から、曲面加工が可能な2次元カッター等でCADデータ等に基づいて、所望の形状に切り出すことにより製造される。このため、スラブ成形品は、モールド成形品よりも、低コストで製造することができる。また、切り出し加工は、数十秒~数分で完了するため、モールド成形品よりも生産性に優れる。また、モールド成形品のような離型層は有しないため、配管への取付け施工時に接着剤等による断熱材の接合一体化のための表面を削ぎ落とす必要はなく、作業負担の面でもモールド品よりも有利である。
【0020】
一方で、スラブ成形品は、モールド品のようなスキン層がないため、そのままの状態では、配管への取付け施工時に、メカニカルダメージを受けやすい。このため、スラブ成形品の表面は、メカニカルダメージの抑制のために保護されることが望ましい。
本発明では、スラブ成形品を基材11とし、基材11の表面に、スキン層と同等程度の強度を持つ樹脂コーティング層を形成することにより、低コストで、配管への取付け施工時のメカニカルダメージを抑制することができ、持続性に優れた良好な断熱効果を奏する断熱材を提供することができる。
【0021】
配管1の径方向における基材11の厚さは、該基材11の密度や求められる断熱効果の程度等に応じて適宜設定することができる。断熱材10の施工容易性等の観点から、通常、10~100mm程度であり、好ましくは20~90mm、より好ましくは25~80mmである。
【0022】
前記硬質ウレタンフォームとしては、断熱材として公知のものを用いることができ、一液型で製造されるものであってもよく、また、ポリイソシアネート含有液とポリオール含有液との二液型で製造されるものであってもよい。発泡剤としては、公知のものを用いることができ、例えば、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)、ハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、水等が好適に用いられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0023】
また、前記硬質ウレタンフォームは、低温流体輸送配管の保冷を目的とすることから、JIS A 9511:2017においてA種硬質ウレタンフォーム保温材の保温筒1種に区分される特性を有しているものが好ましい。具体的には、前記硬質ウレタンフォームは、密度が25kg/m3以上であることが好ましく、熱伝導率(23℃)が0.029W/(m・K)以下であることが好ましい。
【0024】
[樹脂コーティング層]
断熱材10は、基材11の配管側となる内側面に樹脂コーティング層(1)12を有し、基材11の樹脂コーティング層(1)12とは反対側の外側面に樹脂コーティング層(2)13を有している。
樹脂コーティング層(1)12及び樹脂コーティング層(2)13は、硬質ウレタンフォームのスラブ成形品である基材11の気泡が露出している表面を被覆し、配管1への取付け施工時の基材11へのメカニカルダメージを抑制する役割を有している。
【0025】
また、基材11の気泡が露出している表面は、断熱材10の運搬時や配管1への取付け施工時にメカニカルダメージを受けやすく、メカニカルダメージを受けた場合、当該部分において、断熱性が不十分となり、結露が生じる可能性が高くなる。
本発明の断熱材10は、基材11の表面に樹脂コーティング層が形成されていることにより、このようなメカニカルダメージに起因する結露の発生を抑制することができる。樹脂コーティング層(2)13は、特に、取付け施工時に使用される結束バンド等によってメカニカルダメージがより生じやすい基材11の外側面を保護する役割を有している。
【0026】
また、断熱材は、上記のようなメカニカルダメージの有無を問わず、経時劣化が進行して熱伝導率が上昇した場合や、設計条件を超える高温多湿の使用環境条件下において、外表面に結露が生じることがある。また、屋外配管の場合には、ラッキングと呼ばれる金属カバーの隙間から雨水が侵入することがある。このような場合においても、樹脂コーティング層(1)12及び樹脂コーティング層(2)13は、基材11への結露水や雨水の侵入を抑制することができ、断熱材10の断熱効果が急激に低下することを抑制することができる。
【0027】
樹脂コーティング層(1)12及び樹脂コーティング層(2)13は、上記のように、基材11のメカニカルダメージの抑制や基材11への結露水の侵入の抑制の観点から、例えば、ポリウレア樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等により形成されることが好ましい。樹脂コーティング層(1)12及び樹脂コーティング層(2)13は、同一の樹脂で形成されていても、異なる樹脂で形成されていてもよい。
これらの樹脂のうち、防水性の観点から、ポリウレア樹脂がより好ましい。特に、施工容易性等の観点から、ポリイソシアネートを主剤とし、アミン化合物を硬化剤とした二液硬化型であり、また、可使時間が5分以内の速硬化型のポリウレア樹脂が好適に用いられる。
【0028】
樹脂コーティング層(1)12及び樹脂コーティング層(2)13の各厚さは、上述したメカニカルダメージからの基材11の保護や、結露水等の侵入による急激な断熱効果の低下の抑制等の観点から、配管1内の低温流体の温度や配管1の大きさ及び形状、これらの樹脂コーティング層に用いられる樹脂の種類等に応じて適宜設定される。配管1の外形に合わせた断熱材の設計及び製造容易性、コスト等も考慮して、好ましくは50~1000μm、より好ましくは200~800μm、さらに好ましくは300~500μmである。
【0029】
前記樹脂コーティング層の形成方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができ、樹脂の種類やコーティング部分の形状や大きさ等に応じて、適宜選択される。
例えば、樹脂コーティング層(2)13は、配管1の形状に沿った円筒形の基材11の外側面に形成されるため、スプレーコートで塗布することにより、効率的に形成することができる。これに対して、樹脂コーティング層(1)12は、基材11の内側面の凹面状部分に形成されるため、特に、凹面の曲率が大きい場合には、均一な塗布厚さとする上で、ローラーやハケ、コテ等により塗布することが好ましい。
【0030】
[ガスバリア層]
樹脂コーティング層(1)12の配管側である内側面の側、及び/又は、樹脂コーティング層(2)13の外側面の側には、断熱材の基材11に対する防湿性を高めるため、ガスバリア層が形成されていることが好ましい。
ガスバリア層は、樹脂コーティング層(1)12の内側面、及び、樹脂コーティング層(2)13の外側面のいずれか一方の側のみに形成してもよく、また、両方の側に形成してもよい。
図1に示す断熱材10は、樹脂コーティング層(2)13の外側面にガスバリア層14が形成されているものである。基材11よりも外側に形成されるガスバリア層14は、特に、防湿性を高める上で効果的である。
【0031】
ガスバリア層を、樹脂コーティング層(1)12の内側面、及び、樹脂コーティング層(2)13の外側面の両方の側に形成する場合、断熱材10の外表面側からの吸湿による急激な断熱効果の低下を抑制する観点から、樹脂コーティング層(2)13の外側面の方が、樹脂コーティング層(1)12の内側面よりも防湿性の高いガスバリア層を形成することが好ましい。
このように両方の側にガスバリア層を形成した場合、熱伝導率の低い基材11の内部の閉気泡内の発泡ガスが外気と置換される速度が抑制されることによる熱伝導率の上昇の抑制効果も得られる。
【0032】
ガスバリア層は、基材11に対する防湿性や断熱材の製造容易性等の観点から、例えば、ガスバリアのためのアルミニウム等の金属箔や、アルミナやシリカ等の無機酸化物を蒸着又は積層させた樹脂フィルムの上に、断熱材10の外表面保護のための樹脂フィルムを積層させた複合フィルムが挙げられる。また、前記樹脂フィルムと、クラフト紙等の紙基材等との積層複合フィルム等も挙げられる。
前記樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、ポリエチレン等が好適に用いられる。無機酸化物を蒸着又は積層させる樹脂フィルムと、断熱材10の外表面保護のための樹脂フィルムとは、同一であっても、異なっていてもよい。
また、樹脂コーティング層(1)12の内側面、及び、樹脂コーティング層(2)13の外側面の両方の側に、ガスバリア層を形成する場合、両方のガスバリア層の材質は、同一であっても、異なっていてもよい。
【0033】
これらの中でも、ガスバリア層の形成容易性やコスト等の観点から、前記樹脂フィルムと、金属箔との積層複合フィルムが好ましく、前記樹脂フィルムとアルミニウム箔との積層複合フィルムがより好ましく、特に、PETとアルミニウム箔との積層複合フィルムが好ましい。より具体的には、断熱材の防湿性や表面保護、施工容易性等の観点から、厚さが30~150μm、好ましくは50~120μm、より好ましくは50~100μmのPETフィルムと、厚さが10~50μm、好ましくは15~45μm、さらに好ましくは20~30μmのアルミニウム箔との積層フィルムが好適に用いられる。
なお、通常、ステンレス鋼製である配管1は、該配管1と異種の金属が接触すると、該接触部分で生じる局部電流によって、配管1が錆等による腐食劣化を引き起こすおそれがあるため、金属が配管1に接しないように留意する必要がある。
【0034】
ガスバリア層は、樹脂コーティング層(1)12の内側面、及び/又は、樹脂コーティング層(2)13の外側面に、接して形成されていてもよく、また、粘着剤層等を介して形成されていてもよい。
例えば、前記積層複合フィルムは、アクリル樹脂系やゴム系等の粘着剤により、樹脂コーティング層(1)12の内側面、及び/又は、樹脂コーティング層(2)13の外側面に形成することができる。予め粘着剤層を備えている積層複合フィルムの粘着シートを用いることにより、より簡便に、ガスバリア層全体を樹脂コーティング層に対して密着させることができる。
また、前記積層複合フィルムにより樹脂コーティング層(2)13の外側面にガスバリア層を形成する場合、例えば、樹脂コーティング層(2)13の外側面に一続きの前記積層複合フィルムを巻き付けた後、該積層複合フィルムの端部のみを粘着剤層を備えている積層複合フィルムの粘着シート(テープ)で固定するようにしてもよい。
いずれの場合も、ガスバリア層は、樹脂コーティング層(1)12の内側面の全面、及び/又は、樹脂コーティング層(2)13の外側面の全面を被覆するように形成されることが好ましい。
【0035】
[縦割部材]
前記断熱材は、配管を被覆する際の施工容易性の観点から、配管の長さ方向に縦割りされた縦割部材が組み合わされてなることが好ましい。図1に示す断熱材10は、配管の長さ方向に縦割りされた2つの縦割部材10a及び10bが組み合わされてなるものである。
前記縦割部材は、通常、図1に示すような2分割(半割)であるが、3分割や4分割であってもよい。
【0036】
縦割部材10a及び10bは、配管1の外側面において、図1に示すように組み合わされ、組み合わせる際の縦割部材10a及び10bの突き合わせ面F1a及びF1bには、基材11が露出している。
配管1の外側面において、基材11が面方向で不連続となる部分があると、該部分での熱伝導率が周囲と異なり、該部分から基材11の経時劣化が進行しやすくなり、また、断熱効果が全体で均一になりにくい。
このため、縦割部材10aと10bとを組み合わせた場合に、基材11が連続した状態となるように、突き合わせ面F1a及びF1bにおいては、基材11の露出面同士が直接、突き合わされることが好ましい。
【0037】
なお、前記積層複合フィルムにより樹脂コーティング層(2)13の外側面にガスバリア層を形成する場合、図1に示すように、縦割部材10a及び10bのそれぞれにガスバリア層14が形成されるようにしてもよい。このとき、配管1を被覆するようにして組み合わせた縦割部材10a及び10bは、突き合わせ面F1a及びF1bが組み合わされる部分の外側面で、積層複合フィルムの粘着テープ等により、組み合わせた状態で固定されるようにすることが好ましい。
また、ガスバリア層14は、縦割部材10a及び10bを組み合わせた後、組み合わせた縦割部材10a及び10bの両方の外側面を、前記積層複合フィルムで被覆することにより形成してもよい。ガスバリア層14は、断熱材10の外表面側からの吸湿による急激な断熱効果の低下を抑制する観点から、配管1への取付け施工時に、突き合わせ面F1a及びF1bが組み合わされる部分を跨ぐように、又は、巻き付けるように、ガスバリアテープを貼着させて形成することが好ましい。
【0038】
図2に、本発明の断熱材の他の実施形態の例を示す。図2は、配管1の径方向の概略断面図である。図2に示す断熱材は、配管1の外側面が断熱材ユニット(1)20で被覆され、さらに、断熱材ユニット(1)20の外側面が断熱材ユニット(2)30で被覆されている構造を有している。断熱材ユニット(1)20及び断熱材ユニット(2)30のそれぞれは、図1に示した断熱材10と同様の層構成で形成することができる。断熱材ユニット(1)20及び断熱材ユニット(2)30の各層構成は、同一であってもよく、異なっていてもよい。それぞれの層構成の詳細の説明は、図1の断熱材10と同様であるため、省略する。
【0039】
断熱材ユニット(1)20は、断熱材10と同様に、半割の縦割部材20a及び20bが、それぞれの突き合わせ面F2aとF2bとで組み合わされている。同様に、断熱材ユニット(2)30は、半割の縦割部材30a及び30bが、それぞれの突き合わせ面F3aとF3bとで組み合わされている。
本発明の断熱材は、このように、断熱材10と同様の層構成を有する1組の断熱材ユニットを、配管1の径方向に2組以上繰り返し積層するように形成してもよい。なお、防湿性の観点から、少なくとも断熱材ユニット(2)20の最外層がガスバリア層として形成されていることが好ましい。
図2に示す断熱材は、断熱材ユニット(1)20及び断熱材ユニット(2)30の2組で構成されているものであるが、配管1内の低温流体の温度や配管1の大きさ及び形状によって、求められる断熱効果に応じて、断熱材ユニットを3組以上としてもよい。
【0040】
断熱材ユニット(1)20の突き合わせ面F2a及びF2bの位置は、断熱材ユニット(2)30の突き合わせ面F3a及びF3bの位置に対して、配管1の軸中心に90°回転した位置関係にある。
各断熱材ユニットにおいては、縦割部材の突き合わせ面の位置での断熱効果が、他の部分の断熱効果に比べて低い可能性があるため、複数の断熱材ユニットの各突き合わせ面の位置が重ならないように、ずらして配置することが好ましい。
【0041】
[施工方法]
本発明の断熱材は、予め配管1の外形に合わせた形状で成形されることにより、配管1の外側面に容易に取り付けることができる。特に、前記断熱材が縦割部材からなる場合には、配管1を被覆するように該縦割部材を組み合わせればよく、配管1への取付け施工を効率的に行うことができる。
断熱材の最外層表面は、必要に応じてテープ等で断熱材を固定するようにしてもよく、また、断熱材への接触による傷や剥離を防止する観点から、ステンレス鋼板等による外装材(ラッキング)を巻き付けておくことも好ましい。
【実施例
【0042】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0043】
[断熱材の熱伝導率の経時変化評価]
下記において作製した各断熱材試料の試験体について、JIS A 1412-2:1999に準じた方法により、熱伝導率の測定を行い、10週間経過するまでの経時変化を評価した。
なお、JIS A 9511:2017の規格においては、下記の硬質ウレタンフォームによる断熱材(A種 保温筒1種1号)の熱伝導率(23℃)は0.029W/(m・K)以下とされている。
【0044】
(試料1)
硬質ウレタンフォーム(発泡剤:水、密度40kg/m3)のスラブから、200mm×200mm×厚さ25mmのウレタンボードを切り出し、これを基材とした。
前記基材の厚さ方向に対して垂直な表面の両面に、二液硬化型ポリウレア樹脂(主剤:ポリイソシアネート、硬化剤:アミン化合物、速硬化型:可使時間2分)を坪量500g/m2で、ポリベラで塗布し、室温(25℃)で20分間養生して、厚さ380~460μmの樹脂コーティング層を形成した。
前記基材の両面の樹脂コーティング層のそれぞれの表面全面に、PETとアルミニウム箔との積層複合フィルム(コニシ株式会社製、アルミテープ「ボンドVF840」;PET:厚さ75μm、アルミニウム箔:厚さ25μm、アルミニウム箔側にアクリル系粘着剤)を貼付し、ガスバリア層を形成した。
【0045】
(比較試料1)
試料1の作製において、基材表面に、樹脂コーティング層を形成せずに、ガスバリア層を形成した。
【0046】
評価の結果、比較試料1は、試験開始時点での熱伝導率は0.026W/(m・K)であったが、1.5日経過までに、硬質ウレタンフォーム単体での熱伝導率のJIS規格である0.029W/(m・K)を超え、経時とともに上昇し続け、2週間経過時点では0.035W/(m・K)にまで達した。
これに対して、試料1は、熱伝導率が、0.027~0.028W/(m・K)の範囲内であり、経時変化がほとんどなく、0.029W/(m・K)以下を保持していることが認められた。したがって、本発明の断熱材は、経時劣化が抑制され、持続性に優れた良好な断熱効果を奏するものであると言える。
【符号の説明】
【0047】
1 配管
10 断熱材
11 基材
12 樹脂コーティング層(1)
13 樹脂コーティング層(2)
14 ガスバリア層
20 断熱材(1)
30 断熱材(2)
10a,10b,20a,20b,30a,30b 縦割部材
図1
図2