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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】コイン形電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/109 20210101AFI20230413BHJP
   H01M 50/184 20210101ALI20230413BHJP
   H01M 50/153 20210101ALI20230413BHJP
   H01M 50/562 20210101ALI20230413BHJP
   H01M 50/588 20210101ALI20230413BHJP
   H01M 50/591 20210101ALI20230413BHJP
   H01M 50/122 20210101ALI20230413BHJP
   H01M 50/124 20210101ALI20230413BHJP
【FI】
H01M50/109
H01M50/184 E
H01M50/153
H01M50/562
H01M50/588
H01M50/591 101
H01M50/122
H01M50/124
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019176424
(22)【出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2021057113
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000136354
【氏名又は名称】株式会社フコク
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 忠義
(72)【発明者】
【氏名】喜古 知裕
(72)【発明者】
【氏名】中村 理奈
(72)【発明者】
【氏名】大坪 修一
(72)【発明者】
【氏名】大舘 一之
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0159092(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0020436(US,A1)
【文献】国際公開第2016/179504(WO,A1)
【文献】特開昭59-049109(JP,A)
【文献】国際公開第2018/084075(WO,A1)
【文献】特表2007-533100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/10-198
H01M 50/50-598
H01M 10/04-39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底板部と該底板部の周縁から立ち上がる側部とを有する電池ケースと、
天板部と該天板部から前記側部の内側へ延びる周縁部とを有する封口板と、
前記側部と前記周縁部との間に圧縮されて介在するガスケットと、
前記電池ケースと前記封口板、及び前記ガスケットにより密閉された発電要素と、
前記電池ケース及び前記封口板の少なくとも一方の外側表面に配した感圧導電膜と
を有し、
前記感圧導電膜は、導電性粒子を保持する第一エラストマー層と、第一エラストマー層の少なくとも一方の面に配され、第一エラストマー層に保持された導電性粒子のうち少なくとも一部の導電性粒子が接する第二エラストマー層とを有し、
前記導電性粒子の平均粒子径が第一エラストマー層のエラストマー部分の厚み以上であり、前記導電性粒子が第一エラストマー層の平面方向に単層に配されたコイン形電池。
【請求項2】
前記導電性粒子の平均粒子径が、第一エラストマー層のエラストマー部分の厚みより大きい、請求項1に記載のコイン形電池。
【請求項3】
第二エラストマー層が、前記電池ケース及び前記封口板の少なくとも一方の外側表面に接して配される、請求項1又は2に記載のコイン形電池。
【請求項4】
第二エラストマー層に接する前記導電性粒子が、第二エラストマー層とは反対側に向けて、第一エラストマー層のエラストマー部分よりも突出している、請求項1~3のいずれか1項に記載のコイン形電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイン形電池に関し、さらに詳しくは誤飲に対する安全性を高めたコイン形電池に関する。
【背景技術】
【0002】
コイン形電池は、小型機器やメモリバックアップなどの電源として広く用いられている。一般的なコイン形電池では、ペレット状の正極及び負極と、これらの電極間に介在するセパレータと、電解液とを含む発電要素が、電池ケース、封口板及びガスケットにより構成される外装体に収容された状態で、電池ケースの開口部を、ガスケットを介して封口板の周縁部にかしめることで密閉されている。
【0003】
コイン形電池の用途の拡大に伴って誤飲事故件数も増加しており、コイン形電池の誤飲対策の重要性が増している。コイン形電池が生体内に取り込まれると、電池ケース及び封口板のそれぞれの端子面が体液と接触して正負極間が短絡する。この短絡により水の電気分解を伴う電流が流れて負極端子側の体液がアルカリ性に変化する。このアルカリ性の体液が、食道壁などの生体組織に損傷を与える。
【0004】
コイン形電池の誤飲に対処した技術が特許文献1に記載されている。その技術では、シリコーンエラストマーのようなポリマーマトリクス中に、粒子表面にナノスケールの粗さを有する導電性微粒子が分散された、感圧型の量子トンネル複合コーティング(quantum tunneling composite coating:QTCC)の膜を用いる。この感圧コーティング膜は閾値以上の加圧力が印加されると導電性微粒子間の距離が近づき、量子トンネル効果により導電状態となる、逆に閾値未満の加圧力が印加されても、導電性微粒子間の距離が離れているために量子トンネル効果が得られず、電気的絶縁状態が維持される。特許文献1によれば、このような感圧コーティング膜によりコイン形電池の正極ないし負極端子の少なくとも一方を覆い、感圧導電性の閾値を人体の消化管内で受ける圧力よりも大きくする。これにより、コイン形電池を誤飲した際に、消化管内における電池の短絡を防ぐことができるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第9741975号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された上記の感圧コーティング膜は、粒子表面にナノスケールの粗さを有する導電性粒子同士がポリマーマトリクス中に略均一分散した状態にある。この感圧コーティング膜を加圧により通電させる場合、通電方向に導電性粒子間の距離を量子トンネル効果が発現するところまで近づけることが必要であり、加圧力に対する応答性には制約がある。すなわち、加圧力が通電のための閾値以上であっても、閾値付近であると、通電時の抵抗が高く、本来的に低抵抗が要求されるコイン形電池において電池性能を十分に引き出すことができない。また、十分な加圧力を印加したとしても、通電時には表面の粗い導電性粒子の接触部分に電流が集中する。この電流の集中は局所的な発熱を生じ、ポリマーマトリクスや導電性粒子自体の劣化を引き起こして電池抵抗の上昇に繋がる。
【0007】
本発明は、感圧導電性の閾値以上の加圧下において、すばやく低抵抗の通電状態を実現でき、また通電状態において加圧力による電池抵抗の変動と極端な電流集中が少なく、さらに繰り返し使用しても所望の感圧導電性を発現することができる感圧導電機能を有し、かつ誤飲時の安全性にも優れるコイン形電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記課題は下記の手段により解決された。
〔1〕
底板部と該底板部の周縁から立ち上がる側部とを有する電池ケースと、
天板部と該天板部から前記側部の内側へ延びる周縁部とを有する封口板と、
前記側部と前記周縁部との間に圧縮されて介在するガスケットと、
前記電池ケースと前記封口板、及び前記ガスケットにより密閉された発電要素と、
前記電池ケース及び前記封口板の少なくとも一方の外側表面に配した感圧導電膜と
を有し、
前記感圧導電膜は、導電性粒子を保持する第一エラストマー層と、第一エラストマー層の少なくとも一方の面に配され、第一エラストマー層に保持された導電性粒子のうち少なくとも一部の導電性粒子が接する第二エラストマー層とを有し、
前記導電性粒子の平均粒子径が第一エラストマー層のエラストマー部分の厚み以上であり、前記導電性粒子が第一エラストマー層の平面方向に単層に配されたコイン形電池。
〔2〕
前記導電性粒子の平均粒子径が、第一エラストマー層のエラストマー部分の厚みより大きい、〔1〕に記載のコイン形電池。
〔3〕
第二エラストマー層が、前記電池ケース及び前記封口板の少なくとも一方の外側表面に接して配される、〔1〕又は〔2〕に記載のコイン形電池。
〔4〕
第二エラストマー層に接する前記導電性粒子が、第二エラストマー層とは反対側に向けて、第一エラストマー層のエラストマー部分よりも突出している、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のコイン形電池。
【0009】
本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコイン形電池は、感圧導電膜の閾値以上の加圧下ですばやく低抵抗の通電状態を実現でき、また通電状態において加圧力による電池抵抗の変動と、極端な電流集中が少なく、さらに繰り返し使用しても所望の感圧性を発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、一般的なコイン形電池の形態を示す概略断面図である。
図2図2は、本発明のコイン形電池の好ましい形態を示す概略断面図である。
図3図3は、本発明のコイン形電池の好ましい形態を示す概略断面図である。
図4図4は、本発明のコイン形電池の好ましい形態を示す概略断面図である。
図5図5は、本発明のコイン形電池の好ましい形態を示す概略断面図である。
図6図6は、本発明のコイン形電池の好ましい形態を示す概略断面図である。
図7図7は、本発明のコイン形電池の好ましい形態を示す概略断面図である。
図8図8は、本発明のコイン形電池の好ましい形態を示す概略断面図である。
図9図9は、本発明のコイン形電池の好ましい形態を示す概略断面図である。
図10図10は、本発明に用いる感圧導電膜の好ましい形態を示す模式的断面図である。
図11図11は、本発明に用いる感圧導電膜の好ましい形態を示す模式的断面図である。
図12図12は、本発明に用いる感圧導電膜の好ましい形態を示す模式的断面図である。
図13図13は、本発明に用いる感圧導電膜の好ましい形態を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[コイン形電池]
本発明のコイン形電池の好ましい実施形態を、図面を参照して説明する。なお、各図面は、本発明の理解を容易にするための説明図であり、各部材のサイズないし相対的な大小関係等は説明の便宜上大小を変えている場合があり、実際の関係をそのまま示すものではない。また、本発明で規定する事項以外はこれらの図面に示された外形、形状に限定されるものでもない。本発明において「コイン形電池」には、ボタン形電池も含まれる。すなわち、コイン形電池の形状および直径は特に限定されない。例えば、電池の厚さが直径より大きいボタン形電池もコイン形電池に包含されるものとする。
【0013】
図1は、一般的なコイン形電池の構成を概略的に示す縦断面図である。図1に示すコイン形電池は、電池ケース1と封口板6とガスケット5により構成される外装体を具備する。
電池ケース1は、底板部1aと、この底板部1aの周縁から立ち上がる側部1bとを有し、平面視で円形の底浅の電池缶である。
封口板6は、天板部6aと、この天板部6aから電池ケース1の側部1bの内側へと延びる周縁部6bとを有する。
ガスケット5は、電池ケース1の側部1bの内側で、かつ封口板6の周縁部6bとの間に圧縮された状態で介在している。つまり、ガスケット5は、電池ケース1の側部1bの内側で、かつ封口板6の周縁部6bの外側に配され、電池ケース1と封口板6との間の隙間を封止している。また、ガスケット5は、電池ケース1と封口板6とを電気的に絶縁するため、封口板6の周縁部6bを、周縁部6bの端部を含めて覆うように配されることが好ましい。
【0014】
外装体の内部には発電要素が収容されている。発電要素は、正極2、負極3、セパレータ4および電解液(図示せず)を含む。図示例では、正極2は電池ケース1の底板部1aに接して配置されている。よって、電池ケース1の底板部1aの外側表面は、正極端子として機能する。一方、負極3は封口板6の天板部6aに接して配置される。よって、封口板6の天板部6aの外側表面は、負極端子として機能する。
【0015】
図1の形態において、電池ケース1の形成材料は正極電位で耐腐食性を有する金属板を用いることが望ましい。例えばリチウム電池の場合、電池ケース1の形成材料としてステンレス鋼(SUS430、SUS444、SUS329Jなど)、チタン、チタン合金などを用いることが望ましい。電池ケースの外面側にニッケルめっき層が形成されることが望ましい。
【0016】
図1の形態において、封口板6の形成材料は負極端子として機能すれば特に制限されない。封口板6の形成材料として所定の機械的強度を有する金属板を用いることが好ましく、なかでもステンレス鋼(SUS304、SUS316、SUS430など)が好適である。また、安価な普通鋼や炭素鋼などの金属板を用いることもできる。普通鋼とは、JISに規定されるSS材、SM材、SPCC材のような鋼材である。炭素鋼は、S10C、S20C、S30C、S45C、S55Cのような鋼材であり、機械構造用合金鋼に属する。普通鋼や炭素鋼を用いる場合には、電池の内面側に、錆止め用のめっき層(例えばニッケルめっき層)を形成することが望ましい。通常、普通鋼や炭素鋼で形成された封口板の内面側と外面側の両面にニッケルめっき層が形成される。また、ステンレス鋼で形成された封口板の外面側にもニッケルめっき層が形成される。
【0017】
本発明のコイン形電池は、電池ケース1及び封口板6の少なくとも一方の外側表面(すなわち、正極端子の外側表面及び負極端子の外側表面のうち少なくとも一方の面)に後述する感圧導電膜が配されている。この感圧導電膜により覆われる範囲は、本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じて適宜に設定することができる。感圧導電膜の配置形態の好ましい例について説明する。
【0018】
<感圧導電膜の配置-1>
図2に示すように、封口板6の天板部6aの外側表面に接して感圧導電膜7を設けることができる。この場合、封口板6の天板部6a以外の露出部位には、誤飲の際の外部短絡を防ぐために絶縁性コーティング8を施す必要がある。この絶縁性コーティング8により、感圧導電膜7とガスケット5との間に位置する、封口板6の側部6bの外側表面をコーティングする。この絶縁性コーティング8は、誤飲した際の体液の侵入をより確実に防ぐ観点から、感圧導電膜7の端部から電池ケース1の側部1bの端部にかけて、当該両端部を覆うように施すことが好ましい(図2にはこの形態を示した)。
【0019】
<感圧導電膜の配置-2>
図3に示すように、封口板6の天板部6aの外側表面と、封口板6の周縁部6bの外側表面のうちガスケット5によって覆われた部分までの間を感圧導電膜7で直に覆う形態とすることもできる。この場合、封口板6の外側表面は露出部分がないため、絶縁性コーティング8による処理は必ずしも必要ではない。しかし、誤飲した際の体液の侵入と外部短絡を、より確実に防ぐ観点からは、感圧導電膜7の端部から電池ケース1の側部1bの端部にかけて、当該両端部を覆うように絶縁性コーティング8を施すことが好ましい(図3にはこの形態を示した)。
【0020】
<感圧導電膜の配置-3>
図4に示すように、電池ケース1の外側表面に接して、その全体に亘り感圧導電膜7を設けることができる。この場合、電池ケース1の側部1bの端部は、誤飲の際の外部短絡を防ぐために絶縁性コーティング8を施す必要がある。この絶縁性コーティング8は、誤飲した際の体液の侵入と外部短絡をより確実に防ぐ観点から、感圧導電膜7の端部から封口板6の周縁部6bにかけて設けることができる。また、感圧導電膜7の端部から封口板6の天板部6aの端部にかけて、当該両端部を覆うように施すこともできる(図4にはこの形態を示した)。
【0021】
<感圧導電膜の配置-4>
図5に示すように、電池ケース1の外側表面と、電池ケース1の側部1bの端部からガスケット5の途中までの間を感圧導電膜7で直に覆う形態とすることもできる。この場合、電池ケース1の表面は露出部分がないため、絶縁性コーティング8による処理は必ずしも必要ではない。しかし、誤飲した際の体液の侵入と外部短絡をより確実に防ぐ観点からは、感圧導電膜7の端部から、封口板6の周縁部6bにかけて設けることができる。また、感圧導電膜7の端部から封口板6の天板部6aの端部まで、すなわち両端部を覆うように絶縁性コーティング8を施すこともできる(図5にはこの形態を示した)。
【0022】
なお、図2図5に示した絶縁性コーティング8は、感圧導電膜をコイン形電池に配置後にコーティングすることができるが、本発明はこの形態に限定されない。コーティング方法としては、例えば、絶縁性材料を溶剤に溶かして調製したコーティング液を塗布又は噴霧したのち、溶剤を揮発させることにより絶縁膜を形成する方法が挙げられる。
【0023】
感圧導電膜の配置1~4については上述の通り、絶縁性コーティング8を設けることが好ましい。他方、感圧導電膜の導電性を担う導電性粒子の配置を規制することで、閾値以上の加圧力でも面方向へ導通しない異方性の機能を感圧導電膜に付与することができる。このような異方性感圧導電膜を用いることにより、この感圧導電膜を電池表面の所望の部位を覆うように配するだけで、絶縁性コーティング8を設けずとも、誤飲した際の体液の侵入と外部短絡をより確実に防ぐことができる。このような形態の例について説明する。なお、感圧導電膜に異方性の機能を発現させるための導電性粒子の配置については詳細を後述する。
【0024】
<感圧導電膜の配置-5>
図6に示す感圧導電膜の配置では、封口板6の、外側表面に露出している部分の全体と、そこから電池ケース1の側部1bの端部にかけて、当該端部を覆うように、異方性の機能を有する感圧導電膜7で一体に覆う形態とする。この形態は、感圧導電膜7が面方向には導通しないため、絶縁性コーティング8を施さなくても誤飲時の外部短絡をより確実に防ぐことができ好ましい。(図6にはこの形態を示した)。
【0025】
<感圧導電膜の配置-6>
図7に示すように、電池ケース1の外側表面全体と、当該外側表面から封口板6の周縁部6bにかかるように、異方性の機能を有する感圧導電膜7で一体に覆う形態とすることもできる。この形態は、電池ケース1の外側表面全体と、当該外側表面から封口板6の天板部6aの端部ないしその付近にかけて感圧導電膜7で一体に覆う形態とすることが好ましい。この形態は、絶縁性コーティング8を施さなくても誤飲時の外部短絡をより確実に防ぐことができ好ましい。
【0026】
感圧導電膜の構成の詳細は後述するが、感圧導電膜が第二エラストマー層10を介して電池ケースや封口板に接する場合には、第二エラストマー層10を絶縁性コーティングとして所望の部位に設けて、この第二エラストマー10上の所望の部位に、平面方向に単層に、かつ互いに非接触に配された導電性粒子を含む第一エラストマー層9を設けた形態とすることもできる。このような形態の一例を図8及び図9に示す。
【0027】
(感圧導電膜)
本発明に用いる感圧導電膜は、外部から一定以上の加圧力が印加されていないときには絶縁(高抵抗)状態にあり、外部から一定以上の加圧力が印加された場合に、膜厚方向に導電(低抵抗)状態を作り出すことができる感圧導電膜である。
本発明に用いる感圧導電膜は、導電性粒子を保持する第一エラストマー層と、第一エラストマー層の少なくとも一方の面に配され、第一エラストマー層に保持された導電性粒子のうち少なくとも一部の導電性粒子が接する第二エラストマー層とを有する。前記導電性粒子は、第一エラストマー層の平面方向に単層に配されている。
本発明に用いる感圧導電膜の好ましい実施形態について説明する。
【0028】
-感圧導電膜[形態1]-
本発明に用いる感圧導電膜の好ましい一例(形態1)を、図10に示した模式的断面図を用いて説明する。形態1の感圧導電膜12は、導電性粒子11を保持する第一エラストマー層9(第一エラストマーと導電性粒子11とを合わせて第一エラストマー層9と称す)と、第一エラストマー層9の下面に配され導電性粒子11の少なくとも一部が接する第二エラストマー層10とを有する。第二エラストマー層10は導電性粒子11と導電性基材13(コイン形電池の封口板又は電池ケースに相当)との間の絶縁層として機能する。
導電性粒子11は、その平均粒子径が、第一エラストマー層9のエラストマー部分の厚みより大きく、かつ導電性粒子11の少なくとも一部は、第一エラストマー層9のエラストマー部分から突出している。製造面を考慮すると、形態1において、第一エラストマー層9に保持され第二エラストマー層10に接する導電性粒子11は、第二エラストマー層10の側に突出していないことが好ましい。
【0029】
形態1において、外部から接触端子(外部端子)により、感圧導電膜12の厚さ方向(図10の上から下に向けて)に一定以上の圧力が加わった場合、第一エラストマー層9に保持された導電性粒子11が第二エラストマー層10を突き破り、導電性粒子11により導電性基材13と外部端子とが電気的に接続される。つまり、「外部端子-導電性粒子11-導電性基材13」の電気回路を形成する。この電気回路の導通にはエラストマー層が関与せず、それゆえ抵抗が外部からの加圧力に依存しないため、低抵抗の導通状態を実現できる。
【0030】
形態1において、導電性粒子は、第一エラストマー層9の平面方向に、単層に配されている。従って、感圧導電膜は、その厚さ方向への加圧により、膜厚方向にすばやく低抵抗の通電状態を作り出せる。
なお、本発明において「導電性粒子が第一エラストマー層の平面方向に単層に配される」とは、導電性粒子が第一エラストマー層の平面方向に実質的に単層に配されていることを意味する。すなわち、本発明の効果を損なわない範囲で、第一エラストマー層の一部において、2つ以上の導電性粒子が第一エラストマー層の厚さ方向に重なり合って(例えば、導電性粒子間の間に粒子が乗っていたり、2つの粒子が膜厚方向に重なっていたりする状態で)存在していてもよい。「導電性粒子が第一エラストマー層の平面方向に単層に配され」た形態は、第一エラストマー層を構成する全導電性粒子のうち70%(個数基準)以上が膜厚方向に重なり合わずに単層に配されていることであり、すべての導電性粒子が膜厚方向に重なり合わずに単層に配されていることも好ましい。
【0031】
上述のように、導電性粒子11の平均粒子径は第一エラストマー層9のエラストマー部分の厚みより大きく、かつ導電性粒子11の少なくとも一部が第一エラストマー層9のエラストマー部分から突出している。第一エラストマー層9のエラストマー部分から突出するとは、導電性粒子11が外部端子(接触端子)と直接接触できる状態にあることを意味する。すなわち、導電性粒子11の粒子径と第一エラストマー層9のエラストマー部分の厚みが同一である場合を含む。
また、第一エラストマー層9のエラストマー部分と第二エラストマー層10の総厚みよりも、導電性粒子11の平均粒子径が大きくなるように設定することが好ましい。こうすることで、一定以上に加圧して導電性粒子11を導電性基材13と接触させた状態において、この導電性粒子11と外部端子との接触を確実に担保でき、圧力変化に伴う抵抗の変動をより抑えることができる。
【0032】
形態1の感圧導電膜は、印加した圧力を開放すると、第一エラストマー層9及び第二エラストマー層10の弾性が複合的に作用して、導電性粒子11を加圧前の位置(図10の状態)に戻すことができる。導電性粒子11が加圧前の位置に戻ることにより第二エラストマー層10の破れも自身の弾性により塞がれ、初期の絶縁状態を回復することができる。この回復性を、本発明では「自己修復性」と称す。
【0033】
感圧導電膜12が自己修復性を示すことにより、電子機器からコイン形電池を挿抜しても、誤飲した際の外部短絡を防ぎながら、使用時には、機器の端子の印加圧力に対して安定的な導通状態を実現できる。
【0034】
続いて、形態1における導電性粒子11、第一エラストマー層9、第二エラストマー層10についてより詳しく説明する。
【0035】
--導電性粒子11--
導電性粒子11は、一次粒子及び二次粒子であり、一次粒子であることが好ましい。これは、導電性粒子11が外部端子により押し付けられ、第二エラストマー層10を破り、導電性基材13と直接接触した状態で、より低抵抗の安定した導通状態を達成できるためである。導電性粒子11は、真球状であることが好ましい。真球状であることは、拡大観察等することで把握することができる。本発明において「真球状」とは、球体であることを指し、球体が完全な球形である場合のみならず、一見して球形と把握できる略球形である場合も含む。
導電性粒子11が真球状である場合、次式で表される真球度が70~100であることが好ましい。
真球度=100×[1-(Sa-Sb)/Sa]
Sa:導電性粒子の平面画像における導電性粒子の外接円の面積
Sb:導電性粒子の平面画像における導電性粒子の内接円の面積
真球度は、本発明に用いる導電性粒子11を無作為に50個、顕微鏡観察し、これらの平面画像に基づき得られた外接円及び内接円の面積を上記式に当てはめ、50個各々の真球度を算出し、これら50の真球度の値の平均値として定義される。
また、導電性粒子11が真球状である場合、その形状を円形度で規定してもよい。円形度は、導電性粒子または導電性粒子が保持された膜の平面視観察に基づき決定することができる。円形度は、最大値を1として、図形が複雑なほど数値が小さくなる。円形度は、次の計算式で求めることができる。
円形度=4π×(面積)÷(周囲長)
例えば、半径10の真円の場合、円形度=「4π×(10×10×π)÷(10×2×π)」=1(最大値)となる。つまり、円形度において真円は、最も複雑ではない図形ということになる。ちなみに、正方形の円形度は0.785、正三角形の円形度は約0.604で、正三角形のほうが正方形よりも複雑な図形ということになる。導電性粒子11の円形度は0.7~1.0が好ましい。
【0036】
導電性粒子11の材料としては、導電性を確保できるものであれば特に限定されない。例えば、金属粒子、金属被覆粒子、導電性非金属粒子(黒鉛等)が挙げられる。
金属粒子としては、Au、Ag、Cu、Ni、Pd、プラチナなどが挙げられる。金属被覆粒子としては、銅-銀被覆粒子、ガラス-銀被覆粒子、シリカ-銀被覆粒子、ジビニルベンゼン共重合体-Ni/Au被覆粒子などを使用できる。コストおよび導電性能を考慮するとガラス-銀被覆粒子、シリカ-銀被覆粒子などが好ましい。導電性非金属粒子としては球状のメーソカーボンマイクロビーズや球形化処理された人造黒鉛等が好ましい。
機器使用時の導電性粒子と電池の接触安定性から、導電性粒子としては電池外表面のニッケルメッキと同じ、Ni系の金属粒子が好ましい。また、導電性などを高める目的で一部添加剤を含んでもよい。
【0037】
導電性粒子11の平均粒子径dは、10≦d≦200μmであることが好ましい。平均粒子径は体積基準メジアン径とする。メジアン径とは粒径分布を累積分布として表したときの累積50%に相当する。第一エラストマー層に用いる導電性粒子は粒度分布がある程度単分散化されたものが好ましい。第一エラストマーに保持されたすべての導電性粒子11のうち、70%(個数基準)以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくはすべての導電性粒子11の粒子径が、平均粒子径±平均粒子径×0.5の範囲内にあることが好ましく、さらに好ましくは、平均粒子径±平均粒子径×0.4の範囲内にあることが好ましい。粒度分布の測定方法は、例えばレーザー回折散乱法による機器分析であっても良く、又は、実際の膜の表面から粒度を測定してもよい。
平均粒子径dが10μm以上であることにより、導電性粒子11の取り扱い性が向上し、また、より確実に、平面方向に所望の単層に導電性粒子11を配することができる。導電性粒子11の平均粒子径dは20μm以上が好ましく、30μm以上がさらに好ましい。一方、導電性粒子11の平均粒子径dが200μm以下であることにより、感圧導電膜7の総厚を抑えることができ、コイン形電池への適用性を高めることができる。コイン形電池は、使用機器へ対応するためのサイズ規格(厚み、直径)が決まっている。規格交差内のサイズに抑えながら電池容量も確保する観点から、導電性粒子11の平均粒子径dは150μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。
上記の導電性粒子の説明は、後述する形態2~4にも好ましく適用される。
【0038】
上記導電性粒子を用いた感圧導電膜のより好ましい形態である異方性感圧導電膜に関し、本発明に適用可能な形態をここで説明する。異方性感圧導電膜は、通常は、感圧導電膜の面方向に横断する電気回路は形成されず、膜厚方向に加圧部分が導通する。しかし、本発明において、例えば、上述した感圧導電膜の配置-5と配置-6の場合には、それらの形態から理解されるように、ガスケットに配置されている部分のみが異方性の導電を発現できれば良い。このような感圧導電膜も、本発明においては異方性感圧導電膜の一形態である。このような感圧導電膜の具体的なイメージとしては、コイン形電池を平面視した場合に、表面に露出したガスケット部分と同等、またはそれより大きい面積で、ドーナツ状に異方性の導電部分が存在する形態である。また、本発明において異方性感圧導電膜は、全面が異方性の導電性を有しても良い。異方性の導電を発現するには、導電性粒子同士が、無負荷並びに荷重印加時のいずれにおいても面方向に接触せず、面方向の電気回路が形成されないことを意味する。隣接する互いに非接触の導電性粒子間の距離は10μm~400μmであることが好ましく、より好ましくは50~300μmであり、さらに好ましくは100~200μmである。
【0039】
ここで、感圧導電膜の加圧力による抵抗変化の測定方法等について、以下に記載する。
【0040】
感圧導電膜の加圧力による抵抗変化は、例えば、金属板上に膜を貼り付け上部から端子を当てて直流法または交流法で測定可能である。直流法では測定時間によっては発熱による影響を受けて安定した値が得られないので、交流法の方が好ましい。また、コイン形電池との接合面の影響や膜自身が異方性の導電を発現しているかを確実に確認するためには、コイン形電池に感圧導電膜を配した状態において、交流法(1KH)で測定することが好ましい。測定は数箇所について行ったほうが好ましい。例えば、膜の中心と最外周近傍付近2箇所の計3箇所、好ましくはさらに膜の中心と最外周の間で2箇所を加えた計5箇所以上である。測定箇所についてはそれ以外の部分を測定しても良いが、一定間隔、例えば1mm間隔で測定することで膜の均一性も確認できる。異方性の導電確認にはカシメ部近傍の正極ケース又は封口板を測定する。異方性が無い場合は電池単独よりも低い抵抗値となってしまう。加圧する荷重としては、0.1~10N、好ましくは0.3~7N、更に好ましくは0.5~5Nである。
【0041】
上述のような測定方法で測定した感圧導電膜をもつ電池の抵抗値は、無負荷に近い状態(例えば0.01N)では、好ましくは500Ω以上であり、より好ましくは1000Ω以上である。閾値以上の加圧力では、好ましくは50Ω以下、より好ましくは30Ω以下、さらに好ましくは10Ω以下である。また、予め感圧導電膜を配していない電池単体で抵抗値を測定しておいて、この抵抗値を感圧導電膜を配した電池の抵抗値から差し引いて感圧導電膜の抵抗値を評価することもできる。その差分に基づく抵抗値は、閾値の加圧力以上で、好ましくは10Ω以下、より好ましくは5Ω以下、更に好ましくは2Ω以下である。なお、一般的なコイン形電池の抵抗は、サイズにより異なるが、通常は3Ω~40Ω程度である。
【0042】
--第一エラストマー層9--
第一エラストマー層9は、導電性粒子11を保持し、また自己修復性を実現するための層である。第一エラストマー層9としては、シリコーン系、アクリル系、ウレタン系などの各種のエラストマーが使用できる。
また、第一エラストマー層9の物性値について説明すると、第一エラストマー層9を構成するエラストマー部分の100%モジュラスは、好ましくは0.1MPa以上であり、より好ましくは0.5MPa以上、さらに好ましくは1.0MPa以上である。第一エラストマー層9を構成するエラストマー部分の100%モジュラスを0.1MPa以上とすることにより、自己修復性をより確実に発現させることができ、100%モジュラスを高めることにより自己修復性をより高めることができる。第一エラストマー層9を構成するエラストマー部分の100%モジュラスは、通常は10MPa以下であり、7MPa以下とするのが実際的である。100%モジュラスは、JIS K 6251に準拠する引張試験により得られるエラストマーの100%伸長時(2倍伸長時)の応力値のことであり、引張荷重を試験片の試験前の断面積で除した値を指す。
【0043】
導電性粒子11の、第一エラストマー層9のエラストマー部分表面からの突出部分の高さは、導電性粒子11の平均粒子径dの半分以下(1/2d以下)であることが好ましく、導電性粒子11の平均粒子径dの半分よりも小さいこと(好ましくは4/9d以下)がより好ましい。このような突出高さとすることにより、導電性粒子3を第一エラストマー層9内に、より確実に保持することができ、自己修復性をより高めることができる。また、導電性粒子11の、第一エラストマー層9のエラストマー部分表面からの突出部分の高さは、1/20d以上とすることが好ましく、1/10d以上とすることがより好ましい。こうすることで、外部端子との接触の際の高い応答性をより確実に担保することができる。さらに、導電性粒子11の突出高さは、第二エラストマー層の厚みよりも大きいことが好ましい。
【0044】
第一エラストマー層9のエラストマー部分の体積抵抗率は好ましくは1×10Ω・cm以上であり、より好ましくは1×1010Ω・cm以上である。
【0045】
感圧導電膜12の第一エラストマー層9の形成は、第一エラストマーもしくはその前駆体と、導電性粒子11とを、体積比で、好ましくは[第一エラストマーもしくはその前駆体]:[導電性粒子11]=0.1:1~20:1、より好ましくは[第一エラストマーもしくはその前駆体]:[導電性粒子11]=0.3:1~16:1、更に好ましくは[第一エラストマーもしくはその前駆体]:[導電性粒子11]=0.5:1~14:1として、必要により溶媒中に混合して混合液(導電性粒子の分散液)を得て、この混合液を、導電性粒子11が単層になるように塗布し、乾燥ないし硬化させることにより行うことができる。上記の体積比とすることにより、第一エラストマーにより導電性粒子11をより確実に保持することができ、また、導電性粒子11と外部端子との接点も十分に確保することができる。
例えば、体積比で、[第一エラストマーもしくはその前駆体]/[導電性粒子11]=0.5/1以上とすることにより、導電性粒子11の、第一エラストマー層9のエラストマー部分表面からの突出部分の高さは、導電性粒子11の平均粒子径dの半分以下(1/2d以下)とすることができる。したがって、導電性粒子11を第一エラストマー層9内に、より確実に保持することができ、導電性粒子11の脱落を防ぐことができる。
感圧導電膜の全面で異方性を発現させるためには、上記体積比を、[第一エラストマーもしくはその前駆体]:[導電性粒子11]=0.5:1~14:1、好ましくは2:1~14:1の範囲として成膜することが好ましい。かかる成膜により、より確実に、導電性粒子11を感圧導電膜の全面に亘って互いに非接触に、第一エラストマー層9中に配することができる。また、所望の感圧導電性能を損なわない範囲で、例えば、球状のシリコーンエラストマーパウダーやシリコーンレジンパウダーなどの固体状の電気絶縁性粒子(例えば、信越化学工業製KMP-601)を第一エラストマーとして上記混合物中に配合し、成膜することもできる。
【0046】
第一エラストマー層のエラストマー部分の厚さは、導電性粒子の粒径、自己修復性能等を考慮して適宜に設定することができる。例えば、5~100μmとすることができ、10~100μmがより好ましく、20~100μmがさらに好ましい。この好ましい層厚は、後述する形態2~4にも好ましく適用される。
【0047】
--第二エラストマー層10--
第二エラストマー層10は、一定の加圧状態にさらされるまで、電気絶縁性を担保するための層である。また第一エラストマー層とともに複合的に作用して自己修復性を実現する。
第二エラストマー層10は、引張強さが好ましくは0.05MPa以上である。第二エラストマー層10の引張強さを0.05MPa以上とすることにより、加圧状態を解除したときに、導電性粒子11によって破られた第二エラストマー層10をより確実に回復させることができる。また、第二エラストマー層10の引張強さは、好ましくは8.0MPa以下である。引張強さを8.0MPa以下とすることにより、加圧したときに、導電性粒子11によって第二エラストマー層10をより確実に突き破ることができる。
引張強さとは、JIS K 6251に準拠して測定した際に、試験片が切断するまで引っ張った時に記録される最大の引張力を、試験片の試験前の断面積で除した値である。
【0048】
第二エラストマー層には電気絶縁性が求められ、その体積抵抗率は好ましくは1×10Ω・cm以上であり、より好ましくは1×1010Ω・cm以上である。
【0049】
第二エラストマー層の厚さは、導電性粒子の粒径、絶縁性能等を考慮し適宜に設定することができる。例えば、0.1~100μmとすることができ、1~80μmがより好ましく、2~50μmがさらに好ましい。この好ましい層厚は、後述する形態2~4にも好ましく適用される。
【0050】
本発明に用いる感圧導電膜において、第一エラストマー層のエラストマー部分の厚さと、第二エラストマー層の厚さとの関係は、適宜に設定することができる。低抵抗のすばやい感圧導電性と自己修復性の両立をより高いレベルで実現する観点からは、第一エラストマー層のエラストマー部分の厚さが、第二エラストマー層の厚さよりも厚いことが好ましい。
【0051】
本発明に用いる感圧導電膜は、第二エラストマー層を薄くした形態とすることができ、このことは、本発明のコイン型電池の性能の向上や、電池の寸法上の制約の低減において大きな利点である。第二エラストマー層を薄く形成することにより得られる技術的な作用を、特許文献1記載の技術との対比に基づき以下に説明する。
【0052】
特許文献1における感圧型の量子トンネル複合コーティング(QTCC)では、乾燥状態(液体の無い状態で)で、ボタン電池に対して、平面状の一定面積の端子(電極)により荷重を印加して、直流法により電池の電圧をモニタリングしている。
ボタン電池単独(QTCC無)の場合には、端子(電極)が電池に当たってから1N/sq cmの荷重で急激に電池電圧(閉回路電圧)が発現し、その後は一定の電池電圧値となっている。一方、QTCCを表面に配置したボタン電池では、荷重が25N/sq cmを超えたあたりから変位量0.1~0.2mmの範囲で電池電圧(閉回路電圧)が徐々に増加し、100N/sq cmの荷重で、ボタン電池単独(QTCC無)の場合と同等の電池電圧値となり、その後一定となっている。
このことから、QTCCは、25N/sq cmから100N/sq cmの荷重範囲内で、膜厚が0.1~0.2mm小さくなることにより、膜自身の抵抗値が変化していることがわかる。実際の機器の端子などでは先端が尖ったような状態のものもあり、一部分のみを集中して強く押すとその部分の膜厚が局所的に薄くなり導通し、異方性導電状態となる。このよう異方性導電状態では、局所的な導通部分に電流が集中し、ジュール熱により膜を構成する樹脂部分の劣化などが起こってしまう。
これに対し、本発明に用いる感圧導電性膜の場合には、第二エラストマー層を極薄膜にも設計することができ、その結果、加圧により「外部端子-導電性粒子-電池端子」の電気回路を瞬時に形成することが可能となる。しかも、荷重による抵抗値の変化をほとんど生じないレベルへと抑えることもできる。
また、本発明に用いる感圧導電膜ではQTCCのような極端な電流集中を起こさないため、様々な機器に応用しても電池性能を十分に引き出すことが可能となる。また、本発明の感圧導電性膜は厚さの制約が少なく、その厚さを所望の薄膜状とすることができる。したがって、電池容量が制限されたり、機器への装着にあたり寸法的な影響が生じたりすることを防ぐことができる。
【0053】
本発明に用いる感圧導電膜において、第一エラストマー層及び第二エラストマー層には、層形成の際の塗布状態の良否の確認のために、顔料、染料などを含ませても良い。長波長の紫外線(波長315-400nm、UVA、Ultraviolet A)を放射するブラックライトで膜表面を照らして塗布状態の良否を確認できるようにしておけば、通常光ではわからない膜の塗布状態の確認が容易となる。
【0054】
上述の絶縁性コーティング8の材料について説明すると、絶縁性コーティング8の構成材料には、第一エラストマー層や第二エラストマー層と同様、エラストマー材料を用いることができる。例えば、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、フッ素含有ゴムなどのゴム系材料を用いることができる。また、絶縁性コーティング8の塗布状態の確認のために、絶縁性コーティング材料に顔料、染料を含ませてもよい。長波長の紫外線(波長315-400nm、UVA、Ultraviolet A)を放射するブラックライトで絶縁性コーティング表面を照らして塗布状態の良否を確認できるようにしておけば、絶縁性コーティングの塗布状態の確認が容易となるため好ましい。
【0055】
--感圧導電膜12の製造--
感圧導電膜12は、塗布法により形成することができる。
例えば、離型シート上に、第二エラストマーを溶媒中に溶解ないし分散してなる第二エラストマー含有液を塗布し、乾燥して第二エラストマー層を形成する。この第二エラストマー層は、紫外線硬化型又は熱硬化型の第二エラストマー前駆体を必要により溶媒中に溶解してなる溶液を離型シート上に塗布し、必要により乾燥し、次いで紫外線又は加熱により硬化反応(付加反応、縮合反応等)させて形成することもできる。なお、第二エラストマーないしその前駆体が低粘度の液状である場合には、溶媒への溶解ないし分散、乾燥は必要としない。
形成した第二エラストマー層の厚さは0.1~100μmとすることが好ましく、1~80μmとすることがより好ましく、2~50μmとすることがさらに好ましい。
【0056】
続いて、第二エラストマー層上に第一エラストマー層を形成する。例えば、第一エラストマーを溶媒中に溶解ないし分散してなる第一エラストマー含有液中に、導電性粒子を体積比で、第一エラストマー:導電性粒子=0.5:1~14:1となるように混合して得た混合液(導電性粒子の分散液)を、第二エラストマー層上に塗布し、塗布膜上に平板を重ねて、平板で加圧して導電性粒子を単層に並べ、平板を外してから、乾燥することで第二エラストマー層上に第一エラストマー層を形成することができる。
上記第一エラストマー含有液は、紫外線硬化型又は熱硬化型の第一エラストマー前駆体
を必要により溶媒中に溶解してなる溶液とすることもできる。この場合、第二エラストマー層上に形成した塗布膜上に平板を重ねて、平板で加圧して導電性粒子を単層に並べ、平板を外してから乾燥し、その後、紫外線又は熱により硬化反応(付加反応、縮合反応等)させ、第二エラストマー層上に第一エラストマー層を得ることもできる。
なお、第一エラストマーないしその前駆体それ自体が低粘度の液状である場合には、溶媒への溶解ないし分散、乾燥は必要としない。この場合、第二エラストマー層上に形成した塗布膜上に平板を重ねて、平板で加圧して導電性粒子を単層に並べ、その状態で紫外線又は熱により硬化反応させた後、平板を外して、第二エラストマー層上に第一エラストマー層を得ることもできる。
上記の平板としては、ガラス板、樹脂板、金属板等を、必要により表面処理を施して用いることができる。フッ素系コーティングを施したガラス板を用いることが、離型性の観点で好ましい。または、上記平板の代わりにエラストマー板で加圧した状態で、紫外線又は加熱することによっても、導電性粒子を単層に並べた第二エラストマー層上に第一エラストマー層が形成された積層体を得ることができる。
形成した第一エラストマー層のエラストマー部分の厚さは5~100μmとすることが好ましく、10~100μmとすることがより好ましく、20~100μmとすることがさらに好ましい。
こうして得られた感圧導電膜12は、コイン形電池の導電性基材13(例えば封口板の天板部6a)に装着する形状に切り出し、離型シートから剥がして、第二エラストマー層と導電性基材13とが接するように導電性基材13上に張り付けることができる。こうして、感圧導電膜12を具備したコイン形電池を得ることができる。
【0057】
また、コイン形電池の製造において、感圧導電膜12を、電池ケース1や封口板6等の導電性基材13上に直接形成することもできる。この場合、上記の剥離シートに代えて、感圧導電性を発現させたいコイン形電池表面上に、上記と同様にして第二エラストマー層9及び第一エラストマー層9を順次に形成する。
【0058】
層形成時間の短縮の観点から、第一及び第二のエラストマー層の形成には、紫外線硬化型又は熱硬化型のエラストマー前駆体を用いることが好ましい。
【0059】
本発明に用いる感圧導電膜の好ましい別の実施形態について説明する。
【0060】
-感圧導電膜[形態2]-
本発明に用いる感圧導電膜12の別の例(形態2)を図11に示す。形態2では、外部端子等による加圧前の状態において、第一エラストマー9により保持された導電性粒子11の少なくとも一部が導電性基材13と接触している。この導電性粒子11の、導電性基材側とは反対側に、第二エラストマー層10が設けられる。第二エラストマー層10により絶縁状態を確保しながらも、外部端子により導電性基材13側へと垂直方向に一定以上に加圧されると、導電性粒子11の直上の第二エラストマー層10が外部端子により突き破られ、良好な導通状態を実現できる。また、形態1と同様に、加圧状態を開放すれば自己回復性を示す。
形態2の感圧導電膜は、形態1の感圧導電膜の各層の形成方法に準じて適宜に形成することができる。
【0061】
-感圧導電膜[形態3]-
本発明に用いる感圧導電膜12のさらに別の例(形態3)を図12に示す。形態3では、導電性粒子11を保持している第一エラストマー層9の両面に第二エラストマ層10を備え、これら2層の第二エラストマー層10は、少なくとも一部の導電性粒子の両端と接している。第二エラストマー層10により絶縁状態を確保しながらも、外部端子により導電性基材13側へと垂直方向に一定以上に加圧されると、導電性粒子11の直上の第二エラストマー層10が外部端子により突き破られ、また導電性粒子11により導電性基材側の第二エラストマー層も突き破られ、良好な導通状態を実現できる。また、形態1と同様に、加圧状態を開放すれば自己回復性を示す。
形態3の感圧導電膜は、形態1の感圧導電膜の各層の形成方法に準じて適宜に形成することができる。
【0062】
-感圧導電膜[形態4]-
本発明に用いる感圧導電膜12のさらに別の例(形態4)を図13に示す。形態4は、形態1において、第一エラストマー層9から突出した導電性粒子11の表面を、第二エラストマー層10で被覆した感圧導電膜である。このような構成とすることで、所定の加圧下にない場合の絶縁性をより確実に確保することができる。形態4は、形態1において、導電性粒子11を第二エラストマー層の構成材料で被覆した形態としたものである。
ここで、本発明において「第一エラストマー層」及び[第二エラストマー層]は、材料の違いにより区別しているのではなく、本発明の効果の発現における機能の違いにより区別している。したがって、形態4では導電性粒子11を第二エラストマー層の構成材料で被覆しているが、第二エラストマー層を構成するのは当該被覆の一部である。すなわち、当該被覆層のうち、感圧導電膜12の厚さ方向において第一エラストマー層9のエラストマー部分から突出している部分(図13において、導電性粒子11の、第一エラストマー層9のエラストマー部分から突出した部分を覆う被覆層)が第二エラストマー層であり、その他の被複層部分(第一エラストマーに覆われた被覆層部分)は第一エラストマー層を構成する。したがって、図13において第一エラストマー層9上に配された第二エラストマー層10は、面方向において、第一エラストマー層のエラストマー部分で分断された状態で存在している。
形態4の感圧導電膜は、形態1の感圧導電膜の各層の形成方法に準じて適宜に形成することができる。
【0063】
上記では感圧導電膜の形態について説明したが、本発明に用いる感圧導電膜は、本発明の規定を満たす限り、上記の形態に限定されるものではなく、上記の各形態の種々の変形例を本発明のコイン形電池の感圧導電膜として適用することができる。
【0064】
本発明のコイン形電池は、感圧導電膜が上記の特定構造を有し、自己修復性を示すために、使用機器に装着された後に取り外されても、コイン形電池の誤飲による生体の損傷を効果的に抑制することができる。また、導電性粒子が第一エラストマー層中に単層に配された構成により、一粒子で加圧方向に導通させることでき、一定以上の加圧下において、すばやく低抵抗の通電状態を実現することができ、電流の極端な集中も生じにくい。
【0065】
本発明を表1に示す実施例および比較例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明がこれらの形態に限定されるものではない。
【実施例
【0066】
[分析方法]
<層厚>
感圧導電膜の断面をもとに、非接触式レーザー顕微鏡で測定した。
【0067】
<導電性粒子の平均粒子径>
マイクロトラック・ベル株式会社製マイクロトラックSyncにて測定した。
【0068】
<引張強さ、100%モジュラス>
JIS K 6251に準拠して測定した。試験片形状は、JIS5号ダンベルを採用した。
【0069】
<体積抵抗率>
JIS K 6271に準拠して、二重リング法にて測定した。
【0070】
[実施例1]
図1に示すようなコイン形電池を以下のように作製した。
正極活物質として空気中400℃で10時間焼成した焼成電解二酸化マンガンを用いて、この焼成電解二酸化マンガンと、導電剤である膨張黒鉛とを乾式混合した。得られた混合粉に、結着剤であるポリテトラフルオロエチレン含む分散水溶液を加えて湿式混合した。得られた混合物を乾燥することで正極合剤を作製した。正極合剤を直径15mm、厚さ2mmの円柱状に打錠成型して正極2の打錠体を作製した。その正極2の打錠体を250℃で8時間乾燥させた。一方、厚さ0.6mmの金属リチウム箔を直径16mmの円形に打ち抜いて負極3を作製した。電解液には、プロピレンカーボネートと1,2-ジメトキシエタンとを体積比2:1で混合した非水溶媒に、溶質として過塩素酸リチウム(LiClO4)を濃度1.0mol/Lで溶解させた非水電解液を用いた。
表面に厚み3μmのニッケルめっき層を有するSUS430(厚み250μm)を絞り加工して、底板部の直径が20mm、側部1bの高さが2.8mmの電池ケース1を作製した。
表面に厚み3μmのニッケルめっき層を有するSUS430(厚み250μm)をプレス加工して、天板部6aの直径が17mmの封口板6を作製した。
ブロンアスファルトと鉱物油からなる封止剤を塗布したポリプロピレン製のガスケット5を封口板6に配置した。封口板6の天板部6aの内側に負極3を貼り付けた。次に、厚さ300μmのポリプロピレン製の不織布をセパレータ4として載置した。その後、セパレータ4の上に正極2を載置した。その後、非水電解液を封口板6内に注液した。予めブロンアスファルトと鉱物油からなる封止剤を電池ケース1の側部1bの内側に塗布しておき、その電池ケース1を封口板6に被せた後、電池ケース1の側部1bの端部を内側に湾曲させて、ガスケット5を介して封口板6の周縁部6bにかしめてコイン形電池(CR2032、20.0mmφ×厚さ3.2mm、)を作製した。組み立て後の電池(約3.5V)を、電池電圧が3.2Vとなるように所定の電気容量分だけ予備放電させた。
上記のようにして作製したコイン形電池(CR2032、20.0mmφ×厚さ3.2mm)の封口板の外側表面全体と、当該外側表面から電池ケースの側部1bの端部にかけての全体を導電性基材として、導電性基材上に図10に示す感圧導電膜、続いて絶縁性コーティング8を形成して、図2に示すコイン形電池を製造した。以下に具体的に説明する。
【0071】
上記導電性基材の表面に、紫外線(UV)硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:KER-4410、信越化学工業社製)を塗布し、形成した塗膜をUV照射し、60℃で2時間加熱して、厚さ20μmの第二エラストマー層を形成した。
続いて、UV硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:KER-4510、信越化学工業社製)に対して、平均粒子径70μm(すべての導電性粒子の粒子径が65~75μmの範囲内にある)の導電性粒子(銀をガラスビーズ表面にコーティングしたガラス-銀被覆粒子。以下も同様。)を、体積比で、前駆体:導電性粒子=2:1になるように混合した。この混合物をディスペンサーで真空脱泡しながら第二エラストマー層上に吐出して塗膜を形成した。フッ素系コーティングを施したガラス板を塗膜上に重ね、ガラス板で加圧(0.1N~4.9Nの間の調整値)して導電性粒子を単層に並べた。その後、UV照射し、60℃で2時間加熱することにより塗膜を硬化させ、ガラス板を取り除き、エラストマー部分の厚さが40μmの第一エラストマー層を形成した。なお、UV光源としてUV-LED(365nm)を使用した。作製した第二エラストマー層の引張強さは3.0MPa、第一エラストマー層のエラストマー部分の100%モジュラスは1.0MPaであった。続いて、スチレンブタジエンゴムをトルエンに溶解した溶液を塗布した後、70℃で乾燥して絶縁性コーティング8を形成した。こうして感圧導電膜を配置したコイン形電池を得た。
【0072】
[実施例2]
実施例1において、第二エラストマー層の形成材料をUV硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:KER-4551、信越化学工業社製)に変更し、また第一エラストマー層の形成材料をUV硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:KER-4410、信越化学工業社製)に変更した。作製した第二エラストマー層の引張強さは0.05MPa、第一エラストマー層のエラストマー部分の100%モジュラスは0.1MPaであった。それら以外は実施例1と同様にしてコイン形電池を得た。
【0073】
[実施例3]
実施例1において、第二エラストマー層の形成材料をUV硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:KER-4551、信越化学工業社製)に変更した。作製した第二エラストマー層の引張強さは0.05MPaであった。それ以外は、実施例1と同様にしてコイン形電池を得た。
【0074】
[実施例4]
実施例1において、第二エラストマー層の形成材料をUV硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:KER-4510、信越化学工業社製)に変更し、また第一エラストマー層の形成材料をUV硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:KER-4410、信越化学工業社製)に変更し、導電性粒子を平均粒子径10μm(すべての導電性粒子の粒径がCV値4%範囲内にある)の導電性粒子に変更し、前駆体と導電性粒子を体積比で、前駆体:導電性粒子=11:1になるようにした。作製した第二エラストマー層の引張強さは8.0MPa、第一エラストマー層のエラストマー部分の100%モジュラスは0.1MPaであった。また各層の膜厚を下表に示す通りとした。それら以外は、実施例1と同様にしてコイン形電池を得た。
【0075】
[実施例5]
作製したコイン形電池(商品名:CR2032、20.0mmφ×厚さ3.2mm)の封口板の外側表面全体と、当該外側表面から電池ケースの側部1bの端部にかけての全体を導電性基材として、導電性基材上に図10に示す感圧導電膜、続いて絶縁性コーティング8を形成して、図2に示すコイン形電池を製造した。以下に具体的に説明する。
上記導電性基材の表面に、熱硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:LSR7005、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)を塗布し、形成した塗膜を、セラミックヒーターを用いて60℃で30分間加熱して硬化させ、厚さ50μmの第二エラストマー層を形成した。
続いて、加熱硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:LSR7070、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)に対して、平均粒子径150μm(すべての導電性粒子の粒径が145~155μmの範囲内にある)の導電性粒子を、体積比で、前駆体:導電性粒子=2.5:1になるように混合した。この混合物をディスペンサーで真空脱泡しながら第二エラストマー層上に吐出して塗膜を形成した。フッ素系コーティングを施したガラス板を塗膜上に重ね、ガラス板で加圧(0.1N~4.9Nの間の調整値)して導電性粒子を単層に並べた。その後、セラミックヒーターを用いて60℃で30分間加熱して硬化させ、ガラス板を取り除き、エラストマー部分の厚さが90μmの第一エラストマー層を形成した。作製した第二エラストマー層の引張強さは0.1MPa、第一エラストマー層のエラストマー部分の100%モジュラスは2.5MPaであった。なお、エラストマー層の硬化速度は白金触媒を用いて調整した。それら以外は実施例1と同様にしてコイン形電池を得た。
【0076】
[実施例6]
作製したコイン形電池(商品名:CR2032、20.0mmφ×厚さ3.2mm)の封口板の外側表面全体と、当該外側表面から電池ケースの側部1bの端部にかけての全体を導電性基材として、導電性基材上に図11に示す感圧導電膜、続いて絶縁性コーティング8を形成して、図2に示すコイン形電池を製造した。以下に具体的に説明する。
加熱硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:LSR2070、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)に対して、平均粒子径100μm(すべての導電性粒子の粒径が95~105μmの範囲内にある)の導電性粒子を、体積比で、前駆体:導電性粒子=2.8:1になるように混合した。この混合物をディスペンサーで真空脱泡しながら、導電性基材の表面に吐出して塗膜を形成した。フッ素系コーティングを施したガラス板を塗膜上に重ね、ガラス板で加圧(0.1N~4.9Nの間の調整値)して導電性粒子を単層に並べた。その後、セラミックヒーターを用いて60℃で30分間加熱して硬化させ、ガラス板を取り除き、エラストマー部分の厚さが100μmの第一エラストマー層を形成した。
続いて、第一エラストマー層上に、熱硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:LSR2020、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)を塗布し、形成した塗膜を、セラミックヒーターを用いて60℃で30分間加熱して硬化させ、厚さ10μmの第二エラストマー層を形成した。作製した第一エラストマー層のエラストマー部分の100%モジュラスは2.5MPa、第二エラストマー層の引張強さは6.2MPaであった。なお、エラストマー層の硬化速度は白金触媒を用いて調整した。それら以外は実施例1と同様にしてコイン形電池を得た。
【0077】
[実施例7]
作製したコイン形電池(商品名:CR2032、20.0mmφ×厚さ3.2mm)の封口板の外側表面全体と、当該外側表面から電池ケースの側部1bの端部にかけての全体を導電性基材として、導電性基材上に図12に示す感圧導電膜、続いて絶縁性コーティング8を形成して、図2に示すコイン形電池を製造した。以下に具体的に説明する。
上記導電性基材の表面に、紫外線(UV)硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:KER-4510、信越化学工業社製)を塗布し、形成した塗膜をUV硬化して、厚さ10μmの第二エラストマー層を形成した。
続いて、UV硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:KER-4510、信越化学工業社製)に対して、平均粒子径50μm(すべての導電性粒子の粒径が45~55μmの範囲内にある)の導電性粒子を、体積比で、前駆体:導電性粒子=3:1になるように混合した。この混合物をディスペンサーで真空脱泡しながら第二エラストマー層上に吐出して塗膜を形成した。フッ素系コーティングを施したガラス板を塗膜上に重ね、ガラス板で加圧(0.1N~4.9Nの間の調整値)して導電性粒子を単層に並べた。その後、UV照射により塗膜を硬化させ、ガラス板を取り除き、エラストマー部分の厚さが50μmの第一エラストマー層を形成した。
さらに、第一エラストマー層上に、UV硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:KER-4510、信越化学工業 社製)を塗布し、形成した塗膜をUV硬化して、厚さ0.1μmの第二エラストマー層を形成した。作製した第二エラストマー層の引張強さは8.0MPa、第一エラストマー層のエラストマー部分の100%モジュラスは0.1MPaであった。なお、UV光源としてUV-LED(365nm)を使用した。それら以外は実施例1と同様にしてコイン形電池を得た。
【0078】
[実施例8]
作製したコイン形電池(商品名:CR2032、20.0mmφ×厚さ3.2mm)の封口板の外側表面全体と、当該外側表面から電池ケースの側部1bの端部にかけての全体を導電性基材として、導電性基材上に図10に示す感圧導電膜、続いて絶縁性コーティング8を形成して、図2に示すコイン形電池を製造した。以下に具体的に説明する。
上記導電性基材の表面に、アクリルエラストマー(商品名:クラリティLA3320、クラレ社製)をトルエンで溶解させた溶液を塗布し、塗膜を乾燥させて、厚さ20μmの第二エラストマー層を形成した。
さらに、アクリルエラストマー(商品名:クラリティLA2250、クラレ社製)をトルエンに溶解させた溶液に対して、平均粒子径50μm(すべての導電性粒子の粒径が45~55μmの範囲内にある)の導電性粒子を、体積比で、アクリルエラストマー:導電性粒子=2:1になるように混合した。この混合物をディスペンサーで真空脱泡しながら第二エラストマー層上に吐出して塗膜を形成した。フッ素系コーティングを施したガラス板を塗膜上に重ね、ガラス板で加圧(0.1N~4.9Nの間の調整値)して導電性粒子を単層に並べた。その後、塗膜を乾燥させ、ガラス板を取り除き、エラストマー部分の厚さが30μmの第一エラストマー層を形成した。作製した第二エラストマー層の引張強さは3.2MPa、第一エラストマー層のエラストマー部分の100%モジュラスは3.5MPaであった。それら以外は実施例1と同様にしてコイン形電池を得た。
【0079】
[実施例9]
実施例1において、第二エラストマー層の形成材料を、熱硬化型ウレタンエラストマー前駆体(商品名:ニッポラン963、東ソー社製 に対して、商品名:エムシー115、東ソー社製を混合)に変更した。また第一エラストマー層の形成材料を熱硬化型ウレタンエラストマー前駆体(商品名:PANDEX CPU-P130T、DIC社製 に対して、1,4-ブタンジオール/トリメチロールプロパンの混合物(7/3、質量比)を混合)に変更し、導電性粒子を平均粒子径50μm(すべての導電性粒子の粒径が45~55μmの範囲内にある)の導電性粒子に変更し、前駆体と導電性粒子を体積比で、前駆体:導電性粒子=6:1になるようにした。作製した第二エラストマー層の引張強さは6.0MPa、第一エラストマー層のエラストマー部分の100%モジュラスは4.0MPaであった。また各層の膜厚を下表に示す通りとした。それら以外は、実施例1と同様にしてコイン形電池を得た。
【0080】
上記各実施例で用いた導電性粒子は、いずれも真球度が70以上であり、円形度は0.7以上であった。
【0081】
[比較例1]
作製したコイン形電池(商品名:CR2032、20.0mmφ×厚さ3.2mm)の封口板の外側表面全体と、当該外側表面から電池ケースの側部1bの端部にかけての全体を導電性基材として、導電性基材上に下記のようにして感圧導電膜を形成し、図2に示すコイン形電池を製造した。
付加硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:LSR7030、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社社製)に対して、複数のスパイク状の突起を有したニッケル粒子(ニッケルパウダー、Vale社製、平均粒子径3μm)を、体積比で、前駆体:ニッケル粒子=4:1になるように混合した。この混合物を、170℃×10分間、プレス熱硬化して、厚さ300μmのシートを得た。このシートを、上記導電性基材の表面の形状に切り出して、切り出したシートを、導電性接着剤を用いて上記導電性基材表面へ張り付けた。それら以外は実施例1と同様にしてコイン形電池を得た。
【0082】
[比較例2]
比較例1において、混合物中の付加硬化型シリコーンエラストマー前駆体とニッケル粒子の配合比を、体積比で、前駆体:ニッケル粒子=7:3としたこと以外は、比較例1と同様にしてコイン形電池を得た。
比較例1と比較例2は、米国特許第9741975号明細書に記載された感圧コーティング膜を有する形態に相当する。
【0083】
[比較例3]
作製したコイン形電池(CR2032、20.0mmφ×厚さ3.2mm)をそのまま用いた。
【0084】
[試験例1] 加圧通電特性
外部端子先端R1mm(株式会社ミスミ:コンタクトプローブNP60、先端形状N)の球面を用いて、コイン形電池負極端子面上の感圧導電膜へ垂直方向(縦方向、負極から正極に向かう方向)に荷重を加えたとき、1kHzの交流法で内部抵抗を測定した。測定した内部抵抗は、感圧導電膜の略中心と最外周付近の2箇所、合計3か所の測定値の平均値である。各負極端子面に対する荷重は0.01N、0.25N、0.5N、3N、5Nと段階的に上げた。なお、感圧導電膜の無い電池の各荷重における抵抗(抵抗A)を予め測定しておき、感圧導電膜を有するコイン形電池の各荷重における抵抗値から対応する荷重における抵抗Aを差し引いた値を内部抵抗値とした。この内部抵抗値を<表1>に示す。
【0085】
[試験例2] 自己修復性
上記加圧通電特性の評価では、まず荷重0.25Nで測定し、その後、荷重を解除して無負荷に近い状態(例えば、0.01N)とし、再度荷重が0.25Nになるように繰り返し往復させたときの内部抵抗を測定した。0.5N、3N、5Nも同様に繰り返し往復させたときの内部抵抗を測定した。測定した内部抵抗は、感圧導電膜の略中心と最外周付近の2箇所、合計3か所の測定値の平均値である。
内部抵抗値は試験例1と同様に、感圧導電膜を有するコイン形電池の抵抗値から抵抗Aを差し引いた値とした。最大荷重位置から初期位置に戻したときに、内部抵抗が通電状態(抵抗2Ω以下)から絶縁状態(抵抗1000Ω以上(O.R.))に回復できた回数を、下記評価基準に当てはめ、自己修復性を評価した。
結果を<表1>に示す。
【0086】
<自己修復性評価基準>
◎:10回以上
〇:5~9回
△:1~4回
×:0回
【0087】
[試験例3] コイン形電池の誤飲時の絶縁性能
深さ15mmのシャーレの底部に豚肉を原料とする加工食肉(ハム)を載置し、続いて体液の代わりに生理食塩水をシャーレに注ぎ、ハム全体を生理食塩水に浸した。
続いて、上記で調製したコイン形電池を、封口板がハムに接触するようにハムの上に載置した。このとき、電池が浮かないように電池のケース底面(底板部の外面。この状態では液面側に底板部が位置している。)を、生理食塩水の液面より僅かに下にして、ケース底面に食塩水の膜が形成される状態にした。この状態で、25℃で30分間放置した。その後、封口板と接触していたハムの状態を目視で観察した。外部短絡が生じていると、ハムが変色する。
結果を<表1>に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
表1に示されるように、エラストマー層中に導電性粒子を単層に配していない比較例1のコイン形電池は、通電状態を生じる加圧下においても加圧力が小さいと抵抗が大きかった。つまり、閾値以上の加圧下ですばやく低抵抗の通電状態を実現できず、また、通電状態において加圧力による電池抵抗の変動を生じやすいものであった。
これに対し、実施例1~9のコイン形電池はいずれも、0.01Nでは絶縁状態を維持でき、0.25Nの荷重ですばやく低抵抗の通電状態を実現できることがわかった。また、実施例1~9のコイン形電池は、誤飲した際の安全性を担保でき、自己修復性にも優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明に係るコイン形電池は、様々な機器に使用でき、産業的価値が大きい。
【符号の説明】
【0091】
1 電池ケース
1a 底板部
1b 側部
2 正極
3 負極
4 セパレータ
5 ガスケット
6 封口板
6a 天板部
6b 周縁部
7 感圧導電膜
8 絶縁性コーティング
9 第一エラストマー層
10 第二エラストマー層
11 導電性粒子
12 感圧導電膜
13 導電性基材(コイン形電池の電池ケースないし封口板)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13