IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 能美防災株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-消火設備 図1
  • 特許-消火設備 図2
  • 特許-消火設備 図3
  • 特許-消火設備 図4
  • 特許-消火設備 図5
  • 特許-消火設備 図6
  • 特許-消火設備 図7
  • 特許-消火設備 図8
  • 特許-消火設備 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】消火設備
(51)【国際特許分類】
   A62C 35/11 20060101AFI20230413BHJP
   A62C 37/00 20060101ALI20230413BHJP
   G08B 17/00 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
A62C35/11
A62C37/00
G08B17/00 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019189956
(22)【出願日】2019-10-17
(65)【公開番号】P2021062161
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】中川 治靖
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 裕之
(72)【発明者】
【氏名】飯澤 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩司
(72)【発明者】
【氏名】松尾 涼平
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-093540(JP,A)
【文献】特開2011-206279(JP,A)
【文献】特開2005-021237(JP,A)
【文献】特開平11-276619(JP,A)
【文献】特開2019-164708(JP,A)
【文献】特開平09-139870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 2/00-99/00
G08B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災感知器と、消火領域に複数設置されて少なくとも水平方向に旋回して火源位置を検知する火源探査装置と回動式放水ノズルとを備える消火装置と、前記火災感知器の火災信号に基づいて前記消火装置を制御する中央制御盤とを備え、該中央制御盤が火源を消火するのに最適な消火装置を選択して放水を実行させる消火設備であって、
前記中央制御盤は、
前記消火装置の放水射程範囲を示す防護半径を含む消火装置情報と、二つの前記消火装置を結んだ直線である基準線の長さ及び該基準線と前記消火装置の設置面とがなす角である基準角を含む基準情報を記憶する記憶手段と、
火源を特定した消火装置から、前記火源探査装置の水平方向の旋回角を取得する火源検知角度取得手段と、
火源を特定した一つの消火装置に対し、火源を特定した他の消火装置を、前記一つの消火装置から前記火源までの水平距離である火源水平距離を計算するための計算ペアとして選定する計算ペア選定手段と、
前記一つの消火装置と前記他の消火装置間における前記基準線の長さ、前記基準角及び前記旋回角に基づいて、前記火源水平距離を算出する火源水平距離算出手段と、
該火源水平距離算出手段で算出した各消火装置の前記火源水平距離及び前記防護半径に基づいて、放水する消火装置を選択する消火装置選択手段と、を備え、
前記火源水平距離算出手段は、前記計算ペアとして他の消火装置が複数選定された場合、その中から、前記一つの消火装置と前記火源を結んだ直線と、前記他の消火装置と前記火源を結んだ直線との交差角が90°に最も近いものを高信頼計算ペアとして選出し、
前記一つの消火装置と前記高信頼計算ペアの他の消火装置間における前記基準線の長さ、前記基準角及び前記旋回角に基づいて、前記火源水平距離を算出することを特徴とする消火設備。
【請求項2】
火災感知器と、消火領域に複数設置されて少なくとも水平方向に旋回して火源位置を検知する火源探査装置と回動式放水ノズルとを備える消火装置と、前記火災感知器の火災信号に基づいて前記消火装置を制御する中央制御盤とを備え、該中央制御盤が火源を消火するのに最適な消火装置を選択して放水を実行させる消火設備であって、
前記中央制御盤は、
前記消火装置の放水射程範囲を示す防護半径を含む消火装置情報と、二つの前記消火装置を結んだ直線である基準線の長さ及び該基準線と前記消火装置の設置面とがなす角である基準角を含む基準情報を記憶する記憶手段と、
火源を特定した消火装置から、前記火源探査装置の水平方向の旋回角を取得する火源検知角度取得手段と、
火源を特定した一つの消火装置に対し、火源を特定した他の消火装置を、前記一つの消火装置から前記火源までの水平距離である火源水平距離を計算するための計算ペアとして選定する計算ペア選定手段と、
前記一つの消火装置と前記他の消火装置間における前記基準線の長さ、前記基準角及び前記旋回角に基づいて、前記火源水平距離を算出する火源水平距離算出手段と、
該火源水平距離算出手段で算出した各消火装置の前記火源水平距離及び前記防護半径に基づいて、放水する消火装置を選択する消火装置選択手段と、を備え、
前記火源探査装置は、垂直方向に俯仰して火源位置を検知する機能をさらに有し、
前記火源検知角度取得手段は、前記火源探査装置の垂直方向の俯角を取得し、
前記火源水平距離算出手段は、前記一つの消火装置と前記火源を結んだ直線と前記他の消火装置と前記火源を結んだ直線の交差角が160°以上となる前記計算ペアにおいては、前記旋回角に代えて、前記俯角を用いて前記火源水平距離を算出することを特徴とする消火設備。
【請求項3】
火災感知器と、消火領域に複数設置されて少なくとも水平方向に旋回して火源位置を検知する火源探査装置と回動式放水ノズルとを備える消火装置と、前記火災感知器の火災信号に基づいて前記消火装置を制御する中央制御盤とを備え、該中央制御盤が火源を消火するのに最適な消火装置を選択して放水を実行させる消火設備であって、
前記中央制御盤は、
前記消火装置の放水射程範囲を示す防護半径を含む消火装置情報と、二つの前記消火装置を結んだ直線である基準線の長さ及び該基準線と前記消火装置の設置面とがなす角である基準角を含む基準情報を記憶する記憶手段と、
火源を特定した消火装置から、前記火源探査装置の水平方向の旋回角を取得する火源検知角度取得手段と、
火源を特定した一つの消火装置に対し、火源を特定した他の消火装置を、前記一つの消火装置から前記火源までの水平距離である火源水平距離を計算するための計算ペアとして選定する計算ペア選定手段と、
前記一つの消火装置と前記他の消火装置間における前記基準線の長さ、前記基準角及び前記旋回角に基づいて、前記火源水平距離を算出する火源水平距離算出手段と、
該火源水平距離算出手段で算出した各消火装置の前記火源水平距離及び前記防護半径に基づいて、放水する消火装置を選択する消火装置選択手段と、を備え、
前記火源水平距離算出手段は、補正手段を有し、
該補正手段は、基準線長さに応じて予め設定された誤差補正値を前記火源水平距離に加算することを特徴とする消火設備。
【請求項4】
火災感知器と、消火領域に複数設置されて少なくとも水平方向に旋回して火源位置を検知する火源探査装置と回動式放水ノズルとを備える消火装置と、前記火災感知器の火災信号に基づいて前記消火装置を制御する中央制御盤とを備え、該中央制御盤が火源を消火するのに最適な消火装置を選択して放水を実行させる消火設備であって、
前記中央制御盤は、
前記消火装置の放水射程範囲を示す防護半径を含む消火装置情報と、二つの前記消火装置を結んだ直線である基準線の長さ及び該基準線と前記消火装置の設置面とがなす角である基準角を含む基準情報を記憶する記憶手段と、
火源を特定した消火装置から、前記火源探査装置の水平方向の旋回角を取得する火源検知角度取得手段と、
火源を特定した一つの消火装置に対し、火源を特定した他の消火装置を、前記一つの消火装置から前記火源までの水平距離である火源水平距離を計算するための計算ペアとして選定する計算ペア選定手段と、
前記一つの消火装置と前記他の消火装置間における前記基準線の長さ、前記基準角及び前記旋回角に基づいて、前記火源水平距離を算出する火源水平距離算出手段と、
該火源水平距離算出手段で算出した各消火装置の前記火源水平距離及び前記防護半径に基づいて、放水する消火装置を選択する消火装置選択手段と、を備え、
前記消火装置選択手段は、前記防護半径から前記火源水平距離を差し引いた値が最も大きい前記消火装置を選択することを特徴とする消火設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大空間の消火領域に複数の消火装置が設置されている消火設備に関する。
【背景技術】
【0002】
消火対象の領域(消火領域)が大空間である場合などに用いられる消火設備では火源探査装置及び回動式放水ノズルを備える消火装置が壁面に複数設置されている。回動式放水ノズルを備える消火装置は半円形状の放水射程範囲(この放水射程範囲の半径を以降、「防護半径」という)を有しており、各消火装置の放水射程範囲をオーバーラップさせて配置し、消火領域をもれなく防護している。
【0003】
このような消火装置が設置されている消火領域に火災が発生すると、当該消火領域内に設置されている火災感知器(煙感知器など)が火災発生を感知し、各消火装置の火源探査装置が火源位置の探査を開始する。火源探査によって火源の位置を特定できた消火装置は、特定した位置に回動式放水ノズルを指向して放水を行う。
【0004】
このとき、火源位置を特定できたすべての消火装置から放水を行うと、一時に大量の水を放水するため、水源水量を多く持つ必要があり、大きな消火水槽が必要となる。また、ポンプも大量に送水することが可能なものとするか、もしくは複数のポンプを用意する必要がある。さらに広範囲に消火水による水損が生じてしまうため、消火に最適な消火装置を1台選択して放水を行う必要がある。
このような消火装置の選択方法が特許文献1に開示されており、特許文献1によれば、同一火源に対して複数の火災検知器(火源探査装置)が火源を検知した場合には、最も火源に近い消火装置を選択して消火を行うことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4016364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のような最も火源に近い消火装置を選択する方法は、消火領域に設置されている全ての消火装置の防護半径が等しい場合には有効であるが、防護半径の異なる消火装置が混在しているような場合には適用することができない。
それは、防護半径の異なる消火装置が混在すると、火源に最も近い消火装置であっても、他よりも防護半径が小さいためにその火源を消火するのに最適ではないという状態が生じうるからである。
【0007】
防護半径の異なる消火装置が混在する状態は、消火能力の異なる消火装置が混在して設置される場合はもちろん、同じ消火能力の消火装置が設置されている場合でも生じうる。例えば、一般的に放水ノズルの防護半径は、床から近い位置(低い位置)に設置されたときに小さくなり、床から遠い位置(高い位置)に設置されたときに大きくなるので、同じ消火能力の消火装置であっても、異なる高さに設置されれば、防護半径も異なる状態となる。
このような要素も考慮した消火装置の制御プログラムを作成することも可能であるが、設置高さ等は現場ごとに異なる要素であるため、現場に特化した制御プログラムをその都度作成する必要があり、制作コストが高額化するという問題がある。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、現場に特化した制御プログラムを必要とすることなく、防護半径の異なる消火装置が混在して設置されている消火設備でも、火源を消火するのに最適な消火装置を選択することができる消火設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る消火設備は、火災感知器と、消火領域に複数設置されて少なくとも水平方向に旋回して火源位置を検知する火源探査装置と回動式放水ノズルとを備える消火装置と、前記火災感知器の火災信号に基づいて前記消火装置を制御する中央制御盤とを備え、該中央制御盤が火源を消火するのに最適な消火装置を選択して放水を実行させるものであって、前記中央制御盤は、前記消火装置の放水射程範囲を示す防護半径を含む消火装置情報と、二つの前記消火装置を結んだ直線である基準線の長さ及び該基準線と前記消火装置の設置面とがなす角である基準角を含む基準情報を記憶する記憶手段と、火源を特定した消火装置から、前記火源探査装置の水平方向の旋回角を取得する火源検知角度取得手段と、火源を特定した一つの消火装置に対し、火源を特定した他の消火装置を、前記一つの消火装置から前記火源までの水平距離である火源水平距離を計算するための計算ペアとして選定する計算ペア選定手段と、前記一つの消火装置と前記他の消火装置間における前記基準線の長さ、前記基準角及び前記旋回角に基づいて、前記火源水平距離を算出する火源水平距離算出手段と、該火源水平距離算出手段で算出した各消火装置の前記火源水平距離及び前記防護半径に基づいて、放水する消火装置を選択する消火装置選択手段と、を備えたことを特徴とするものである。
【0010】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記火源水平距離算出手段は、前記計算ペアとして他の消火装置が複数選定された場合、その中から、前記一つの消火装置と前記火源を結んだ直線と、前記他の消火装置と前記火源を結んだ直線との交差角が90°に最も近いものを高信頼計算ペアとして選出し、前記一つの消火装置と前記高信頼計算ペアの他の消火装置間における前記基準線の長さ、前記基準角及び前記旋回角に基づいて、前記火源水平距離を算出することを特徴とするものである。
【0011】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記火源探査装置は、垂直方向に俯仰して火源位置を検知する機能をさらに有し、前記火源検知角度取得手段は、前記火源探査装置の垂直方向の俯角を取得し、前記火源水平距離算出手段は、前記一つの消火装置と前記火源を結んだ直線と前記他の消火装置と前記火源を結んだ直線の交差角が160°以上となる前記計算ペアにおいては、前記旋回角に代えて、前記俯角を用いて前記火源水平距離を算出することを特徴とするものである。
【0012】
(4)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記火源水平距離算出手段は、補正手段を有し、該補正手段は、基準線長さに応じて予め設定された誤差補正値を前記火源水平距離に加算することを特徴とするものである。
【0013】
(5)また、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のものにおいて、前記消火装置選択手段は、前記防護半径から前記火源水平距離を差し引いた値が最も大きい前記消火装置を選択することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る消火設備は、火源探査装置が検知した火源検知角度から、各消火装置の火源水平距離を算出し、算出した火源水平距離と各消火装置の防護半径に基づいて放水する消火装置を選択しているので、防護半径の異なる消火装置が混在して設置されている消火設備でも、火源を消火するのに最適な消火装置を選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係る消火設備を説明するブロック図である。
図2】本発明の実施の形態に係る消火装置の動作を説明する図である。
図3】旋回角の測定誤差によって生じる火源水平距離の誤差を説明する図である(その1)。
図4】旋回角の測定誤差によって生じる火源水平距離の誤差を説明する図である(その2)。
図5】本発明の実施例に係る消火装置の設置例及び火源位置を説明する図である。
図6】本発明の実施例に係る旋回角を説明する図である。
図7】本発明の実施例に係る旋回角を用いた火源水平距離の算出方法を説明する図である(その1)。
図8】本発明の実施例に係る旋回角を用いた火源水平距離の算出方法を説明する図である(その2)。
図9】本発明の実施例に係る俯角を用いた火源水平距離の算出方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施の形態に係る消火設備1は、図1に示すように、火災感知器3と、消火領域5に複数設置されて少なくとも水平方向に旋回して火源位置を検知する火源探査装置7と回動式放水ノズル9とを備える消火装置11(図2参照)と、火災感知器3の火災信号に基づいて消火装置11を制御する中央制御盤13とを備え、中央制御盤13が火源15を消火するのに最適な消火装置11を選択して放水を実行させるものである。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0017】
<火災感知器>
火災感知器3は、煙感知器等の火災の発生を感知するものであり、消火領域5内を常に監視している。火災感知器3は、煙の検出などにより火災の発生を感知すると、火災信号(移報信号)を中央制御盤13に送信する。
【0018】
<消火装置>
消火装置11は、火源の位置を検知し、さらに火源として検知したものが炎であることを確定し火源を特定する火源探査装置7と、火源探査装置7に対応して設けられた回動式放水ノズル9とを備えるものであり、消火領域5に複数設置されている。消火装置11の各構成と動作について、図2を用いて説明する。
【0019】
《火源探査装置》
火源探査装置7は、中央制御盤13の起動指示(起動信号)に従って、水平方向に旋回及び垂直方向に俯仰して火源位置を検知し、該検知した火源15の方向に指向して炎特有の事象を検知することで火源15が炎であることを確定するものである。更に、火源15を特定時の旋回角及び俯角の情報を中央制御盤13に送信する。
【0020】
本実施の形態における火源探査装置7は、図2に示すように、火源15の位置を検知する赤外線リニアセンサ17と炎特有の事象を検知する炎検知器19によって構成されている。
赤外線リニアセンサ17と炎検知器19の動作については後述する。
【0021】
《回動式放水ノズル》
回動式放水ノズル9(以降、単に「ノズル」ともいう)は、火源探査装置7と一体となって回動し、火源探査装置7が特定した火源15の方向に指向して放水するものである。回動式放水ノズル9の放水は、遠投・中投・近投ノズルを組み合わせて構成されており、設置位置の真下から所定の距離(防護半径)離れたところまで帯状に放水が可能である。さらに、180°回動可能であるので一つの回動式放水ノズル9の放水射程範囲は半円状となる。上述したように、この半円の半径(防護半径)は回動式放水ノズル9の放水性能及び設置高さによって定まる。
以上のように構成される消火装置11の火災発生時の動作について図2(a)~図2(e)を用いて説明する。
【0022】
平常時(火災発生前)、待機状態の消火装置11の回転式放水ノズル9、赤外線リニアセンサ17、炎検知器19は設置壁面内部に格納されている(図2(a))。なお、待機状態は、消費電力の大きい機器類に電力を供給しない省電力の状態であり、平常時の消火装置11を待機状態することで、電力消費量を抑えている。
火災が発生すると、火災感知器3からの火災信号を受信した中央制御盤13から各消火装置11に起動信号が送信され、各消火装置11が一斉に起動し、火源探査を開始する(図2(b))。
【0023】
起動した消火装置11は、赤外線リニアセンサ17、炎検知器19、回動式放水ノズル9が一体となって旋回し、赤外線リニアセンサ17が旋回範囲の中で最も温度の高い場所を検出する。その後赤外線リニアセンサ17が垂直方向に俯仰し、高温部の幅方向の中心で最も下の位置を火源15の位置として検知する(図2(c))。
その後、炎検知器19はその指向方向を赤外線リニアセンサ17が検知した火源15の位置に向け、炎検知器19が炎特有の波長や揺らぎを検知することで、炎であることを確定し、火源15を特定したこと及び火源位置検知時の水平方向の旋回角及び垂直方向の俯角の情報を中央制御盤13に送信する(図2(d))。
回動式放水ノズル9は、中央制御盤13から放水指示を受信すると、赤外線リニアセンサ17が検知した火源15の位置に指向して放水を実行する(図2(e))。
【0024】
なお、本実施の形態における消火装置11は、火源探査装置7が、赤外線リニアセンサ17と炎検知器19の二つの構成からなる例を説明したが、本発明はこれに限るものではなく、火源位置の探査及び炎検知を同時に行うことができるような一体構造のものであってもよい。
【0025】
<中央制御盤>
中央制御盤13は、各消火装置11から火源までの距離の計算を実行するのに必要な各種情報を記憶する記憶手段21と、火源検知角度取得手段23と、計算ペア選定手段25と、火源水平距離算出手段27と、消火装置選択手段29を備えている。なお、中央制御盤13に予め設定されたプログラムが実行されることで、各手段が実現される。
中央制御盤13の各構成について以下に説明する。
【0026】
《記憶手段》
記憶手段21は、消火装置情報31、基準情報33、誤差補正情報35及び火災感知器3や消火装置11から取得した情報等を記憶するものである。
消火装置情報31は、消火設備1に設置された各消火装置11に関する情報であり、消火装置11の型式、設置高さ、防護半径等の情報を含むものである。
基準情報33は、各消火装置11が他のどの消火装置11と放水射程範囲が重なるまたは接しているかを示す情報や、2台の消火装置11を平面視で結んだ直線である基準線の長さ、基準線37と消火装置11の設置面とがなす角である基準角等の情報を含むものである。
誤差補正情報35は、後述する補正手段27aで使用する情報であり、基準線の長さに応じた誤差補正値等の情報を含むものである。
【0027】
《火源検知角度取得手段》
火源検知角度取得手段23は、火災感知器3からの火災信号を受信すると、火災感知器3の監視エリアに設置されている全ての消火装置11に対して起動信号を送信し、火源15を特定した消火装置11から旋回角及び俯角情報をそれぞれ取得するものである。取得した旋回角及び俯角等の情報は記憶手段21に記憶される。
【0028】
《計算ペア選定手段》
計算ペア選定手段25は、火源水平距離算出手段27が、火源15までの距離を計算するのに用いる他の消火装置11を選定するものである。
本実施の形態における計算ペア選定手段25の選定対象となる他の消火装置11は、火源15を特定している消火装置11である。
計算ペアとして選定対象となる他の消火装置11が2台以上ある場合は、そのいずれかを計算ペアとして選定すればよい。
【0029】
《火源水平距離算出手段》
火源水平距離算出手段27は、各消火装置11に対して、水平方向における火源15までの距離(火源水平距離)をそれぞれ算出するものである。
本実施の形態における火源水平距離の算出方法は、計算ペアとして選定された2台の消火装置11について平面視で2台の消火装置11と火源15を結んだ三角形を想定し、2台の消火装置11の旋回角から三角関数を用いて算出する。
なお、具体的な計算方法は後述の実施例で詳細に説明する。
【0030】
《消火装置選択手段》
消火装置選択手段29は、火源水平距離算出手段27で算出した各消火装置11の火源水平距離及び記憶手段21に記憶された各消火装置11の防護半径に基づいて、火源15を消火するのに最適な消火装置11を選択し、放水を実行させるものである。例えば、防護半径から火源水平距離算出手段27で算出した火源水平距離を差し引いて、その値がもっとも大きい消火装置11を選択して放水を実行させるとよい。
【0031】
また、消火装置選択手段29が消火装置11を選択する他の方法として、例えば、算出した各消火装置11の火源水平距離及び各消火装置11の防護半径に基づいて、火源15が防護半径内に位置しているかどうかを判定し、火源15が防護半径内に位置している消火装置11が複数あるような場合には、その中で、火源15を検知したときの俯角が最も大きい消火装置11を選択するようにしてもよい。俯角が最も大きい消火装置11を選択するのは、最も下を向いて火源を検知した消火装置11が、多くの場合に火源15に最も近いからである。
【0032】
上述したような本実施の形態の消火設備1が設置された消火領域5内に火災が生じた場合の、火災感知から放水実行までの動作は以下の通りである。
まず、火災を感知した火災感知器3から火災信号を受信した中央制御盤13の火源検知角度取得手段23は、該当する消火領域5内に設置された全ての消火装置11に対して起動信号を送信する。
中央制御盤13から起動信号を受信した各消火装置11は一斉に火源15位置の探査を開始し、火源15を特定した消火装置11は中央制御盤13に火源検知角度を送信する(図2参照)。火源検知角度取得手段23は火源検知角度を受信し、この情報が記憶手段21に記憶される。
【0033】
計算ペア選定手段25は、火源15を検知した各消火装置11に対し、計算に用いる他の消火装置11を計算ペアとして選定する。
火源水平距離算出手段27は、火源水平距離の算出対象である一つの消火装置11と、計算ペアの他の消火装置11の旋回角や、基準情報などに基づいて火源水平距離を算出する。
消火装置選択手段29は、各消火装置11の火源水平距離と防護半径に基づいて、火源15を消火するのに最適な消火装置11を選択し、放水指示を送信する。
中央制御盤13から放水指示を受信した消火装置11は回動式放水ノズル9を火源15に指向して放水を実行する。
【0034】
以上のように本実施の形態における消火設備1では、各消火装置11の防護半径と火源15までの距離に基づいて、放水を実行する消火装置11を選択しているので、防護半径が異なる消火装置11が混在する場合であっても、火源15を消火するのに最適な消火装置11を選択することができる。
【0035】
なお、上記の説明では計算ペアとして他の消火装置11が2台以上選定された場合いずれかの計算ペアを用いることとした。しかし、複数の計算ペアが選定された場合、火源水平距離算出手段27は各計算ペアにおいてそれぞれ火源水平距離を算出し、そして、複数得られた火源水平距離の候補の中から、予め設定された優先条件に従って、最も優先順位の高い計算結果を、火源水平距離として確定するようにしてもよい。
以下、上記優先条件を説明するために、まずは、火源検知角度の誤差に対する火源水平距離の算出誤差について図3を用いて説明する。
【0036】
本実施の形態における火源水平距離は、上述したとおり、消火装置11の火源検知角度を用いて算出するが、この火源検知角度は火源探査装置7に搭載されたセンサが火源15を検知した時に得られるものであり、火源15の実際の位置に対し、数度程度の測定誤差が生じる場合がある。誤差を含んだ火源検知角度で火源水平距離を算出すれば、その計算結果にも影響を与える。そこで、消火装置11の火源検知角度(旋回角)に最大1°の測定誤差があった場合の例を図3に示す。なお、この測定誤差について、実際の火源方向に対して、図中、時計回りに1°のずれ角を「-1°」、反時計回りに1°のずれ角を「+1°」と表記する。
図3は対面して設置された消火装置Aと消火装置Bを平面視した状態である。破線はそれぞれの防護半径を示している。以降、複数の消火装置11を説明するにあたり、消火装置11とその位置を特定するためアルファベット(A、B、・・・)を付して説明する。
【0037】
図3に示す位置に火源15がある時、消火装置Aの実際の火源水平距離はlである。この時、消火装置Aの火源検知角度である旋回角が+1°測定誤差があり、かつ、消火装置Bの旋回角も+1°測定誤差があるとき、それらの検知角度を用いて算出される火源水平距離はl´である。
このlとl´の差が、2台の消火装置A、Bにそれぞれ1°測定誤差があった場合の火源水平距離の算出誤差である。そして、2台の消火装置A、Bと火源15の位置関係によって、同じ1°の測定誤差でも、算出誤差の大きさは異なる。その一例を図4に示す。
【0038】
図4は、対面して設置された消火装置Aと消火装置Bを平面視した状態である。図4(a)は、2台の消火装置A、Bと火源15を結んだときに、消火装置Aと火源15を結んだ直線と、消火装置Bと火源15を結んだ直線の交差角が120°となる例である。図4(b)はこの交差角が90°、図4(c)は60°となる例である。それぞれ楕円部分の拡大図を示し、拡大図内の黒点を実際の火源15の位置とする。
また、拡大図内の白抜き点はいずれも、消火装置A及び消火装置Bに1°の測定誤差があった時の火源検知位置であり、「消火装置A:-1°、消火装置B:-1°」「消火装置A:-1°、消火装置B:+1°」「消火装置A:+1°、消火装置B:-1°」「消火装置A:+1°、消火装置B:+1°」の4パターンを示している。
【0039】
図4(a)~図4(c)において、基準線方向をX、基準線と直交する方向をYとすると、白抜き点で示した火源検知位置は、上記交差角が大きくなるとX方向にずれ、さらに、上記交差角が小さくなるとY方向にずれる。
これらの理由により、測定誤差が最大であった時の4つの火源検知位置における火源水平距離の平均が最も実際の火源水平距離に近いのは図4(b)に示した交差角が90°の場合である。
従って、平面視において2台の消火装置11と火源15を結んだときに、一つの消火装置11と火源15を結んだ直線と、他の消火装置11と火源15を結んだ直線の交差角が90°に最も近い計算ペアによる計算結果を、火源水平距離として用いるのが好ましい。
【0040】
上述したように、上記交差角が90°に最も近い計算ペアによる算出結果を優先順位の高い計算結果として選択することにより、旋回角の誤差による火源水平距離の算出誤差がより小さいものを火源水平距離として確定することができる。
【0041】
また、この旋回角の誤差による火源水平距離の算出誤差は、火源15が2台の消火装置11間の基準線の近傍にあるとき、特に大きく生じる。火源水平距離算出手段は、予め定めた判断基準によって、火源15が2台の消火装置11間の基準線の近傍にあると判断される計算ペアにおいては、旋回角に代えて、火源探査装置7の垂直方向の俯角を用いた算出方法で火源水平距離を求めるのが好ましい。
火源15が基準線に近いほど、前述した交差角は180°に近い値となるので、例えば、前記交差角が160°以上になるような計算ペアについては、俯角を用いた算出方法とする。俯角を用いた算出方法では、2台の消火装置11の基準線を側面視した状態で、2台の消火装置11と火源を結んだ三角形を想定し、それぞれの俯角から三角関数を用いて算出する。
なお、一つの消火装置11における火源水平距離の候補が俯角を用いて求めたものしかなかった場合には、その中で最も大きい値を火源水平距離として確定すればよい。
俯角を用いた火源水平距離の算出方法は、後述の実施例で詳細に説明する。
【0042】
上述したように、2台の消火装置11と火源15の位置関係によって、火源水平距離の算出方法を変えるようにしたことで、火源検知角度の測定誤差による影響がより小さい方法で火源水平距離を算出することができる。
【0043】
また、算出した火源水平距離が実際の火源水平距離を下回ることを防ぐため、予め設定された誤差補正値を火源水平距離に加算するために、補正手段27aを備えるようにしてもよい。補正手段27aによって誤差補正を行う理由は以下のとおりである。
【0044】
例えば、図3に示した例では、旋回角の1°の測定誤差により、算出した火源水平距離が実際の火源水平距離よりも短い。これは、火源15が防護半径内にない消火装置Aが放水する消火装置11として選択される可能性を含むものであり、消火の確実性を欠くことになり好ましくない。
測定誤差がある旋回角を用いて算出した場合の火源水平距離の誤差は、火源15が一点鎖線で示す基準線の近傍にあるとき大きくなると前述したが、さらにこの誤差は、基準線の長さが長い、即ち、計算ペアの消火装置11が遠いほど大きくなるものでもある。
【0045】
そこで、2台の消火装置11の火源検知角度にそれぞれ1°誤差があった場合に生じる火源水平距離の誤差を、消火装置間距離(基準線の長さと同じ)に応じて予め求めておき、記憶手段21に記憶している(誤差補正情報35)。予め求めておいたその値を、火源水平距離の算出後さらに加算する。
誤差補正情報35の具体例については、後述の実施例で説明する。
【0046】
このように、火源15が基準線近傍にある場合にはより安全性の高い計算方法で火源水平距離を算出し、さらに、2台の消火装置11間の距離に応じて影響が大きくなる測定誤差についても、消火装置11の火源検知角度の測定誤差による算出誤差を設定しておけば、算出した火源水平距離が実際の火源水平距離を下回ることがないようになっており、安全性を向上させている。
【0047】
なお、本実施の形態は、計算ペア選定手段25が他の消火装置11を選定する選定条件として、火源15を特定していることに加えて、放水射程範囲が重なる、または接しているものとしてもよい。このような追加条件によって選定対象となる計算ペアを絞り込むことで、上述したような各計算ペアにおいてそれぞれ火源水平距離を算出するようにしたときの演算処理を減らすことができる。
【実施例
【0048】
以上のように構成された消火設備1における、消火装置選択までの計算過程を、具体的な消火装置11の設置例及び火災例を用いて説明する。
図5に示すように、消火領域5である壁に囲まれた矩形状のホールには、消火装置A~Hが壁面に40m間隔で設置されている。破線は各消火装置A~Hの回動式放水ノズル9の放水射程範囲を示している。このように、各ノズルの放水射程範囲が互いに重なり、消火領域5をもれなく防護している。
このような消火設備1に対し、中央制御盤13には事前に消火装置情報31として、各ノズルの型式や、各消火装置A~Hの設置高さ、放水射程範囲の半径(防護半径)が予め記憶されている。
ここで、消火装置A~Dの設置高さは16m、消火装置E~Hの設置高さは12m、防護半径はすべて37mとする。
【0049】
さらに、中央制御盤13には基準情報33として、放水射程範囲が重なる、または接している消火装置(ここでは防護半径隣接消火装置という)の情報や、基準線長さ、基準角が事前に記憶されている。ここでの基準情報33を表1~表3に示す。防護半径隣接消火装置の関係にない消火装置間の基準線長さ及び基準角は本実施例では計算に使用しないため「-」として表記を省略する。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
上述したような消火装置A~Hが設置されたホールに火災が生じ、図5に示す位置に火源15があるものとする。
火災が発生すると、図示しない火災感知器3が煙の検出などにより火災の発生を感知し、火災信号(移報信号)を中央制御盤13に送信する。火災信号を受信した中央制御盤13の火源検知角度取得手段23は、消火装置A~Hに対し、起動指令を送信する。
【0054】
待機状態であった消火装置A~Hが中央制御盤13から起動指令を受信すると、一斉に起動し、消火装置A~Hに設けられている火源探査装置7が、反時計回りに旋回して火源15位置の探査を開始する。本火災例では火源15位置を検知し、かつ、炎であることを確定(火源特定)したのは消火装置B、C、D、G、Hの5台とする。
火源15を特定した消火装置B、C、D、G、Hは、火源15を検知した角度である旋回角β及び俯角γを中央制御盤13に送信し、中央制御盤13の火源検知角度取得手段23はこれを取得する。
【0055】
旋回角βは図6に示すように、各消火装置B、C、D、G、Hの設置面から反時計回りに火源方向まで旋回した角度であり、本火災例で火源特定した各消火装置B、C、D、G、Hの火源探査装置7の旋回角βB、βC、βD、βG、βHは以下のとおりである。他の火源検知角度である俯角γについては後述する。
消火装置Bの火源探査装置7の旋回角βB=22.58°
消火装置Cの火源探査装置7の旋回角βC=52.31°
消火装置Dの火源探査装置7の旋回角βD=130.68°
消火装置Gの火源探査装置7の旋回角βG=116.79°
消火装置Hの火源探査装置7の旋回角βH=60.67°
【0056】
火源検知角度を取得した中央制御盤13は、火源特定した消火装置B、C、D、G、Hについて、火源水平距離の計算を開始する。
中央制御盤13の計算ペア選定手段25は、表2に示した防護半径隣接消火装置の情報に基づいて、計算ペアを選定する。一つの消火装置につき、計算ペアとして選定対象となるのは、火源15を特定しており、かつ、本実施例では、加えて防護半径が隣接する関係にある消火装置である。例えば消火装置Bの場合、計算ペアとして選定されるのは、火源特定した消火装置(B、C、D、G、H)であり、かつ、防護半径が隣接する関係にある消火装置(A、C、E、F、G)である消火装置C、Gの2台である。消火装置C、D、G、Hについても同様に計算ペアを選定する。
【0057】
中央制御盤13の火源水平距離算出手段27は、計算ペア選定手段25が選定した計算ペアの組み合わせにおいて、旋回角または俯角を用いて火源水平距離を算出する。まず、旋回角を用いた火源水平距離の算出方法について説明する。
火源水平距離を求める消火装置と、その計算ペアの他の消火装置と火源(ここでは便宜上火源Oとする)とを平面視でそれぞれを直線で結び三角形を形成する。例えば、消火装置Bの火源水平距離を求める場合、消火装置Bと、その計算ペアの消火装置Gと、火源Oによって形成する三角形は図7に一点鎖線で示す三角形BGOである。
【0058】
この三角形BGOにおいて、直線BGは前述したように、消火装置Bと消火装置Gの基準線であるので、基準情報(表3)より、基準角αは以下のとおりである。
消火装置Bの設置面と基準線BGがなす基準角αBG=57.17°
消火装置Gの設置面と基準線BGがなす基準角αGB=57.17°
【0059】
続いて、基準角α、旋回角βより求められる、三角形BGOの三つの角は以下のとおりである。
基準線BGと直線BOがなす角である消火装置Bの偏り角θBG=34.59°
基準線BGと直線GOがなす角である消火装置Gの偏り角θGB=59.62°
直線BOと直線GOがなす角である火源頂点角φBG=85.79°
【0060】
基準情報(表2)より、基準線BGの長さは73.78mであるので、正弦定理より直線BOの長さは下記式(1)で求めることができる。
BO=BG/sin(φBG)・sin(θGB) ・・・(1)
ここで、求められた直線BOの長さ(63.82m)を、計算ペアとして消火装置Gを用いて算出した消火装置Bの暫定火源水平距離aとする。
【0061】
消火装置Bは消火装置Gの他に、消火装置Cも計算ペアとして選定されているので、同じように、図8に示すような火源水平距離を求める消火装置Bと、その計算ペアの消火装置Cと火源Oによって形成される三角形BCOから、基準情報33及び旋回角を用いて直線BOの長さ(消火装置Bの暫定火源水平距離a)を求める。
【0062】
同様に、消火装置C、D、G、Hについても、計算ペア選定手段25で選定されたすべての計算ペアを用いてそれぞれ暫定火源水平距離aを算出する。
火源特定した消火装置B、C、D、G、Hのそれぞれについて、各計算ペアを用いて算出した、偏り角θ、火源頂点角φ、暫定火源水平距離aをまとめたものを表4~表6に示す。計算ペアとして選定されていない組み合わせは計算を行わないので表中「-」としている。
【0063】
【表4】
【0064】
【表5】
【0065】
【表6】
【0066】
なお、表6に示したもののうち、例えば、消火装置Cの計算ペアとして消火装置Hを用いたときの暫定火源水平距離aのように数値の下に下線が引かれたものは、上述した旋回角を用いた算出方法ではなく、俯角を用いて算出したものである。
俯角を用いた計算は、前述したように、基準線と火源が近いような計算ペアの場合に用いるものである。本実施例では、2つの偏り角θの和が20°以下、即ち、火源頂点角φが160°以上になるような計算ペアについては、俯角を用いて暫定火源水平距離aを算出している。以降に、俯角を用いた算出方法について説明する。
【0067】
図9は、消火装置Cと消火装置Hを、図6の矢視KK方向から側面視した図である。
c、hHは消火装置情報31に記憶されている消火装置C、Hの設置高さであり、前述したようにhc=16m、hH=12mである。
俯角γは図9に示すように、火源探査装置7が水平方向から火源方向まで下向きに回動した時の角度であり、消火装置C、Hの火源探査装置7の俯角γC、γHは以下のとおりである。
消火装置Cの火源探査装置7の俯角γC=24.33°
消火装置Hの火源探査装置7の俯角γH=13.09°
【0068】
C′は消火装置C設置高さの水平線と消火装置H設置面との交差点である。C″は火源高さの水平線と消火装置C設置面との交差点である。消火装置Hに対するH′、H″も同様である。
ここで、CC′、HH′、C″H″の長さは、それぞれ基準線長さ(消火装置間水平距離)に相当するので、基準情報33(表2)より73.38mである。
これらの情報から、下記に示す式(2)~(9)を用いて求められるC″Oの長さ(30.89m)を、計算ペアとして消火装置Hを用いて算出した消火装置Cの暫定火源水平距離aとする。
【0069】
【数1】
【0070】
続いて、補正手段27aにより、基準線長さに応じて予め設定された誤差補正値を、表6に示した暫定火源水平距離aに加算する。前述したように、本実施例では、2台の消火装置の火源検知角度がそれぞれ1°誤差があった場合に生じる火源水平距離の誤差について、基準線の長さに応じて生じる誤差の大きさを予め求め、誤差補正情報35として記憶している。本実施例における誤差補正値は、0.0503×基準線長さとし、各消火装置における誤差補正値を表7に示す。また、暫定火源水平距離a(表6)に誤差補正値(表7)を加算した暫定火源水平距離bを表8に示す。
【0071】
【表7】
【0072】
【表8】
【0073】
続いて、火源水平距離算出手段27は、表8に示した暫定火源水平距離bより、最も計算信頼度の高いものを火源水平距離として確定する。前述したように、本実施例では、火源頂点角Φが最も90°に近くなるような消火装置を計算ペアに用いた計算結果を優先的に選択する。そこで、表9に各消火装置の各計算ペアにおける火源頂点角の90°からの差を示し、その値が最も小さい計算ペアを高信頼消火装置として示す。
【0074】
【表9】
【0075】
表8に示した各消火装置の暫定火源水平距離bの中から、高信頼消火装置を計算ペアとしたときの値を各消火装置の火源水平距離として確定する。確定した各消火装置の火源水平距離を表10に示す。
【0076】
【表10】
【0077】
続いて、消火装置選択手段29は火源水平距離算出手段27が算出した火源水平距離に基づいて、消火装置B、C、D、G、Hの中から放水を実行する消火装置を選択する。
選択する消火装置は消火装置情報31に記憶されている防護半径から火源水平距離を差し引いた値が最も大きいものとする。本実施例では、表11に示すように、防護半径から火源水平距離を差し引いた距離Lが最も大きいのは消火装置Cであるので、消火装置選択手段29は消火装置Cを選択して放水を実行させる。
【0078】
【表11】
【0079】
ここで、例えばすべての消火装置で距離Lがマイナスの値になってしまった場合には、各火源水平距離から補正手段27aで加算した誤差補正値を引き、誤差補正する前の火源水平距離、即ち、暫定火源水平距離aの値で距離Lを再計算するとよい。その場合にも、再計算した距離Lが最も大きい消火装置を選択して放水を実行させる。
【0080】
上述した例では各消火装置11の防護半径が同じであるが、本発明は防護半径から火源水平距離を差し引いた距離Lの値で放水する消火装置11を選択しているので、防護半径が異なる消火装置11が混在していても火源15を消火するのに最適な消火装置11を選択することが可能である。
【0081】
なお、本実施例では計算ペアとして選定されたすべての消火装置について暫定火源水平距離を求め、その中から高信頼消火装置を計算ペアとしたときの値を各消火装置の火源水平距離として確定する例を示した。しかし、本発明はその限りではなく、先に高信頼消火装置を決定してから、高信頼消火装置を計算ペアに用いた演算のみ行うようにしてもよい。
例えば、消火装置Bの計算ペアとして選定された消火装置C、Gの場合、火源頂点角φBCとφBGのうち、90°により近いのはφBGであるから、高信頼消火装置である消火装置Gを計算ペアとして算出した暫定火源水平距離bを消火装置Bの火源水平距離として確定し、消火装置Cを計算ペアとした演算は行わないようにしてもよい。このようにすることで、火源水平距離を算出するための演算処理を減らすことができる。
【0082】
なお、上記は旋回角による計算方法で火源水平距離を求める計算ペアがひとつでもある場合を想定しているものであり、選定された計算ペアのすべてにおいて、俯角を用いて計火源水平距離を算出する場合はその限りではない。例えば、選定された計算ペアにおいて、すべての火源頂点角φが160°以上であった場合には、高信頼消火装置の決定は行わず、俯角を用いた計算方法でそれぞれの計算ペアを用いた暫定火源水平距離を算出し、その中で最も大きい値を火源水平距離として確定するとよい。
【符号の説明】
【0083】
1 消火設備
3 火災感知器
5 消火領域
7 火源探査装置
9 回動式放水ノズル
11 消火装置
13 中央制御盤
15 火源
17 赤外線リニアセンサ
19 炎検知器
21 記憶手段
23 火源検知角度取得手段
25 計算ペア選定手段
27 火源水平距離算出手段
27a 補正手段
29 消火装置選択手段
31 消火装置情報
33 基準情報
35 誤差補正情報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9