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特許7261726リチウムイオンバッテリのための一体化電極セパレーターアセンブリの形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】リチウムイオンバッテリのための一体化電極セパレーターアセンブリの形成方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20230413BHJP
   H01G 11/26 20130101ALI20230413BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20230413BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20230413BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20230413BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230413BHJP
   H01M 50/409 20210101ALI20230413BHJP
【FI】
H01M4/139
H01G11/26
H01G11/52
H01G11/84
H01M4/02 A
H01M4/13
H01M50/409
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019205667
(22)【出願日】2019-11-13
(62)【分割の表示】P 2015540807の分割
【原出願日】2013-11-01
(65)【公開番号】P2020038837
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2019-12-13
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-24
(31)【優先権主張番号】61/721,593
(32)【優先日】2012-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】900 First Avenue,King of Prussia,Pennsylvania 19406 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・シュミットハウザー
(72)【発明者】
【氏名】スコット・ガルーリー
(72)【発明者】
【氏名】ラミン・アミン-サナイェイ
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】ウエンシェン・ホー
(72)【発明者】
【氏名】ローズマリー・ハインゼ
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】羽鳥 友哉
【審判官】粟野 正明
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-265874号公報
【文献】特開2001-155717号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.電気導電材料を電極スラリーでコートすることによって電極を形成する工程と、
b.フルオロポリマーラテックスに、電気化学的に安定な粉末状無機材料の水分散液を添加し、これらを混合して水性フルオロポリマーセパレーター分散体を形成する工程と、
c.前記水性フルオロポリマーセパレーター分散体を前記電極上にコートし、その間に前記電極が湿潤状態である工程と、
d.前記cの工程でコートされた電極を乾燥させて、一体化電極セパレーターアセンブリを形成する工程と
を含む、一体化電極セパレーターアセンブリを形成するための方法であって、
前記工程bのフルオロポリマーが少なくとも70モル%のフッ化ビニリデンモノマー単位及び500nm未満の平均粒度を有するポリフッ化ビニリデンポリマーである、一体化電極セパレーターアセンブリを形成するための方法。
【請求項2】
前記電極スラリーが溶剤ベースである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電極スラリーが水性である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記電極スラリーが水性フルオロポリマー電極組成物である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記水性フルオロポリマーセパレーター分散体が、界面活性剤、沈降剤、湿潤剤、増粘剤、レオロジー変性剤、不堅牢定着剤、充填剤、均展材、消泡剤、pH緩衝剤からなる群から選択される1種以上の添加剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記フルオロポリマーは、ASTM方法D-3835に準じて450°F(232℃)及び100sec-1において測定された溶融粘度が1.0キロポアズよりも大きい高分子量フルオロポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法で製造された一体化電極セパレーターアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一体化電極セパレーター(IES)、及び自立膜セパレーターの代替物としてリチウムイオンバッテリ内においてのそれらの使用に関する。一体化電極セパレーターは、電極をフルオロポリマー水性系エマルション又は懸濁液でコートする工程と、コーティングを乾燥させて強靭な、多孔性セパレーター層を電極上に製造する工程とから得られる。水性フルオロポリマーコーティングは任意選択により、分散された無機粒子と、より高い使用温度又はより高いイオン導電率などの電極性能を改良するためのその他の添加剤とを含有してもよい。一体化電極セパレーターは、より薄い、より均一なセパレーター層、及びより簡単でコストを節減する製造プロセスのために別個のバッテリ構成部品(セパレーター膜)を無くすなどのいくつかの利点を提供する。水性セパレーターコーティングを溶剤流延電極ならびに水性流延電極と組合せて、2つの別個のプロセス工程において、又は一工程のプロセスにおいてどちらかで使用することができる。
【背景技術】
【0002】
リチウム金属バッテリ、リチウムイオンバッテリ、リチウムポリマーバッテリ、及びリチウムイオンポリマーバッテリなどのリチウムバッテリは、駆動電圧や、水性電解質を使用する従来のバッテリ(例えばNi-MHバッテリ)のエネルギー密度よりも高いエネルギー密度のために使用量が増加している。
【0003】
リチウムイオンバッテリ及びリチウムイオンポリマーバッテリは、カソード積層体、アノード積層体、及びアノードとカソードとの間のセパレーターからなる。バッテリセパレーターの機能は、通電のための回路を完成するために必要とされるイオン電荷キャリアを同時に可能にしたまま、陽極と陰極との間の電気的接触を防ぐことである。リチウムイオンバッテリにおいて使用される最も一般的なタイプのセパレーターは、微孔性ポリオレフィン膜である。残念なことに、ポリオレフィン膜セパレーターは、いくつかの欠点を有する。それらは、バッテリにおいて使用される従来の電解質によって湿潤性ではなく、適切に湿潤されない島をセパレーター上にもたらす。さらに大きな欠点は、バッテリ温度がそれらのポリオレフィン材料の軟化点(約130℃以下)に近づく時に引き起こされるポリオレフィンセパレーターの収縮又は溶融であり、火災及び爆発をもたらし得るバッテリ内の短絡回路の可能性を生じる。最後に、従来のセル構成においての自立セパレーターは、セル材料のコストの2番目に大きな一因であり、セルのコストの14%(参考文献:Takeshita,H,LIB-related Study Program 08-09である。
【0004】
セパレーターについてポリオレフィンに代わるすぐれた別の選択肢は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)であり、ポリオレフィンの湿潤及び耐熱性より優れた湿潤及び高い耐熱性を有する。米国特許第7,662,517号明細書には、PVDF/無機材料層をポリオレフィンセパレーター上にコートして、高温においての寸法安定性、湿潤性、及び可撓性を改良することが記載されている。これらの新規なセパレーターはより弾性であるが、ポリオレフィン系セパレーターがまだ基材として存在しているので、高温においてのセパレーターの収縮を防ぐことはできない。
【0005】
米国特許第8147732号明細書に記載されているように、微孔性膜がPVDF樹脂から製造されている。しかしながら、これらのPVDF膜の多孔度はポリオレフィンと比較して低く、特に、薄い、欠陥のない膜の製造は困難であることが判明しており、材料コストがより高い厚めの膜の使用を必要とするので、コストが高い。
【0006】
現在の設計の安全性及び性能を同様に維持又は改良する既存の自立セパレーターに代わる別の選択肢を見出すことが望ましい。
【0007】
米国特許出願公開第20100330268号明細書には、ポリマー母材(例えばPVDF)中に分散されたシリカゲル粒子で電極をコートすることによってリチウムイオンバッテリ用のセパレーターを製造することが記載されている。この方法は、有機溶剤を使用して、電極をコートするためのポリマー溶液を形成する。これらの溶液コーティングは、乾燥して非孔質層になる。電流は、連続した網目構造を形成してもしなくてもよい、シリカ領域を通して移動される。また、電極層及びセパレーター層の形成は、別個の工程において実施されなければならない。
【0008】
米国特許出願公開第2011/0217585号明細書には、セラミックポリマースラリーが電極上に直接に噴霧されるか又はコートされる一体化複合セパレーターが記載されている。各電極上のセラミック層は、ポリフッ化ビニリデンホモポリマー又はコポリマーであり得るポリマー層によって隔てられる。ポリマーは有機溶剤に溶解され、溶液は固体非多孔質フィルムを形成し、したがって、ポリマー溶液は、紡糸繊維又は被覆線としてどちらかで適用され、電解質及びLiイオンの通過のためにポリマー間に間隔を提供しなければならない。水性ポリマー分散体は言及されない。
【0009】
リチウムイオンバッテリの電極コーティングにおいて使用するための水性フルオロポリマー分散体が、Arkema Inc.に対する米国特許出願公開第20100304270号明細書、及び米国特許出願公開第20120015246号明細書に記載されており、セパレーターのための水性フルオロポリマー分散体が、米国特許出願第61/601278号明細書に記載されている。ポリマー溶剤溶液と異なり、水性コーティングは、乾燥されて接触点において付着することができるポリマー粒子を含有し、連続フィルムではなく、多孔性の連続したウェブ状膜を形成する。
【0010】
一体化電極セパレーターアセンブリは、フルオロポリマー水性分散体を電極積層体上に直接にコートし、次に、コートされた電極を乾燥させて、電極の外部に付着した多孔性フルオロポリマーセパレーター膜を製造することによって製造され得ることが見出された。これらのフルオロポリマー一体化電極セパレーターアセンブリはいくつかの利点があり、例えば(1)自立ポリマー膜の代替物として水系フルオロポリマースラリーを使用することによって60~65%以上、セパレーター関連のコストを低減する、(2)水系フルオロポリマーの使用によって電極スラリー中での危険な溶剤の使用を止め、(3)一体化電極セパレーター(IES)構成を利用することによって製造プロセスを簡素化する、及び(4)既存の技術を使用して製造されたバッテリと比較してバッテリの性能及び安全性を改良する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、相互に結合したフルオロポリマー粒子を含む多孔性フルオロポリマーセパレーター層がこれに直接に付着された少なくとも1つの電極を含む一体化電極セパレーターアセンブリに関する。
【0012】
また、本発明は、バッテリ、キャパシタ、電気二重層キャパシタ、膜電極アセンブリ又は燃料セルの一部としての一体化電極セパレーターアセンブリに関する。
【0013】
本発明はさらに、
a)カソードアセンブリを含む電極とアノードアセンブリを含む電極とを別々に形成する工程と、
b)水性フルオロポリマーセパレーター分散体を形成する工程と、
c)前記水性フルオロポリマーセパレーター分散体を少なくとも1つの電極上にコートする工程と、
d)前記コートされた電極を乾燥させて、一体化電極セパレーターを形成する工程とを含む、一体化電極セパレーターアセンブリを形成するための方法に関する。
【0014】
本発明の一実施形態において、工程a)、c)及びd)が単一操作として組合せられ、そこで、溶剤流延電極も同様に機能するが、電気導電材料を最初に好ましくは水性フルオロポリマー電極組成物でコートし、乾燥させ、次に前記水性フルオロポリマーセパレーター分散体でコートし、次に乾燥させて一体化電極セパレーターを形成する。
【0015】
本発明の第2の実施形態において工程a)、c)及びd)が単一操作として組合せられ、そこで電気導電材料と水性フルオロポリマーセパレーター分散体とのスラリーを集電体上に同時に流延し、乾燥させて一体化電極セパレーターアセンブリを形成する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
別記しない限り、パーセンテージは、本明細書中で用いられるとき重量パーセントであり、別記しない限り、分子量は重量平均分子量である。
【0017】
引用された全ての参考文献を参照によって本願明細書に組み込む。
【0018】
本発明の水性フルオロポリマー分散体又はエマルションは、1つ又は複数の電極上に強靭な、薄い、多孔網目構造を形成する-典型的なリチウムイオンバッテリ内にある既製のセパレーターフィルム又は膜の機能を果たす。
【0019】
水性フルオロポリマー分散体は、水性媒体中に分散されたフルオロポリマー粒子からなる。フルオロポリマー粒子は、500nm未満、好ましくは400nm未満、そしてより好ましくは300nm未満の平均粒度を有する。小さな粒度(<200nm直径)は、コーティング混合物の安定性や非沈降性に関する利点を有する場合がある。
【0020】
フルオロポリマー粒子は組成が均質であってもよく、又は例えばコアー-シェル構造など、粒子内で変化するように公知の方法で形成されてもよい。不均質構造物を使用して、水性分散体から最終多孔性セパレーター層により容易に変化することができる粒子を作ってもよい。
【0021】
本発明を実施する方法はその特定の実施形態、すなわち、主乳化剤としてフッ素化されない乳化剤を使用して水性乳化重合において調製されたポリフッ化ビニリデン(PVDF)系ポリマーに対して一般に説明される。本発明の方法はPVDF系ポリマーに対して一般に説明されたが、類似した重合技術を他のフッ素化されたモノマーのホモポリマー及びコポリマー、そして一般にセパレーターのコーティングのためのそれらの調合物の調製に適用することができ、より具体的には、フッ化ビニリデン(VDF)、テトラフルオロエチレン(TFE)、及び/又はクロロトリフルオエチレン(CTFE)と-(フッ素化された又はフッ素化されない)共反応性モノマー、例えばヘキサフロオロプロピレン(HFP)、ペルフルオロビニルエーテル、ビニルアセテート、アクリレート、メタクリレート等とのコポリマーに適用することができることを当業者は認識する。非フッ素化界面活性剤が好ましいが、フッ素系界面活性剤の使用もまた、本発明によって考えられる。
【0022】
本明細書において使用された用語「フッ化ビニリデンポリマー」(PVDF)には、通常は高分子量のホモポリマー、コポリマー、及びターポリマーをその意味に含める。PVDFのコポリマーはより軟質である-より低いTm及び低減された結晶構造を有するので、それらが特に好ましい。このようなコポリマーには、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオエチレン、ヘキサフルオロプロペン、フッ化ビニル、ペンタフルオロプロペン、テトラフルオロプロペン、ペルフルオロメチルビニルエーテル、ペルフルオロプロピルビニルエーテル、及びフッ化ビニリデンと容易に共重合する一切の他のモノマーからなる群から選択される少なくとも1つのコモノマーと共重合されたフッ化ビニリデン少なくとも50モルパーセント、好ましくは少なくとも70モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より好ましくは少なくとも80モル%、さらにより好ましくは少なくとも85モル%を含有するコポリマーを含める。特に好ましいのは、少なくとも約70~90モルパーセントまでのフッ化ビニリデン、及び相応して10~30モルパーセントのヘキサフルオロプロペンからなるコポリマーである。フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロペン及びテトラフルオロエチレンのターポリマーもまた、本明細書において具体化される、フッ化ビニリデンコポリマーのクラスの代表例である。
【0023】
セパレーターコーティング組成物に使用するためのPVDFは好ましくは高分子量を有する。高分子量とは、本明細書中で用いられるとき、ASTM方法D-3835によって、450°F及び100sec-1において測定された。時に1.0キロポアズより大きい溶融粘度を有するPVDFを意味する。
【0024】
本発明において使用されるPVDFは一般に、水性フリーラジカル乳化重合を用いて当技術分野に公知の重合手段によって調製されるが、懸濁重合、溶液重合及び超臨界CO2重合方法もまた使用されてもよい。一般的な乳化重合方法において脱イオン水、重合の間に反応体塊を乳化することができる水溶性界面活性剤及び任意選択のパラフィン蝋防汚剤を、反応器に入れる。混合物を攪拌し、脱酸素化する。次に、予め決められた量の連鎖移動剤、CTAを反応器に導入し、反応器温度を所望のレベルに上げ、フッ化ビニリデンと1つ又は複数のコモノマーを反応器に供給する。モノマーの初充填を実施し、反応器内の圧力が所望のレベルに達し、開始剤エマルション又は溶液を導入して重合反応を開始する。反応の温度は、使用される開始剤の特性に応じて変化することができ、当業者はその方法を知っている。典型的に温度は約30℃~150℃、好ましくは約60℃~110℃である。所望の量のポリマーが反応器内で達せられると、モノマーの供給が停止されるが、開始剤の供給は場合により継続されて残留モノマーを消費する。(未反応モノマーを含有する)残留ガスが脱気され、ラテックスが反応器から回収される。
【0025】
重合において使用される界面活性剤は、過フッ素化、部分フッ素化、及び非フッ素化界面活性剤など、PVDF乳化重合において有用である当技術分野に公知の任意の界面活性剤であってもよい。好ましくは、規制上の理由のために、本発明のPVDFエマルションは一切のフッ素化界面活性剤を用いずに(フッ素系界面活性剤を含有しない)製造され、加工される。PVDF重合において有用な非フッ素化界面活性剤はイオン性及び非イオン性の両方でありうるが、例えば、3-アリルオキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸塩、ポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸、及びそれらの塩、ポリエチレングリコール及び/又はポリプロピレングリコール及びそれらのブロックコポリマー、アルキルホスホネート及びシロキサン系界面活性剤などが含まれるがそれらに限定されない。
【0026】
PVDF重合は、10~60重量パーセント、好ましくは10~50パーセントの固形分レベルを一般に有するラテックスをもたらす。
【0027】
本発明において、PVDFポリマー粒子が一般にコーティング組成物中に存在しているが、しかしながら、いくつかの異なったポリマーバインダーのブレンド、好ましくは全てのフルオロポリマーバインダー、最も好ましくは全てのPVDFバインダーもまた使用されてもよい。一実施形態において、不堅牢定着剤によって軟化されうる熱可塑性フルオロポリマーだけが使用される。
【0028】
本発明において溶剤系フルオロポリマー溶液よりもフルオロポリマー分散体又はエマルションを使用するいくつかの利点がある(PVDFが好ましく、典型的なフルオロポリマーとして使用される)。これらには、性能、製造及び環境上の利点があり、例えば、限定されないが、
a)水性PVDF系組成物は、溶剤系PVDF組成物よりも使用及び加工するのにより安全であり、健康に対してより危険でなく、より環境に優しい。
b)水性PVDF分散体は有利には、非フッ素化界面活性剤を使用して合成される。
c)水性PVDF分散体は合成しただけで使用することができ、単離して乾燥させて粉末にする必要がない-時間及びエネルギーを節減する。
d)水は、典型的に使用される有機溶剤よりも低い沸点を有するので、コーティングは、必要ならばより低い温度、又はより短い時間で乾燥され得る。
e)水性PVDF分散体は、不堅牢定着剤を使用することによって、軟化されて添加剤粒子と電極とに付着することができるPVDF粒子を含有する-乾燥した時に電極上にセパレーター層をもたらす。
f)PVDF系コポリマーは有利には低い溶融温度又は低~ゼロの結晶含量を有し、その結果、より低いフィルム形成温度を有することができ、及び/又はより少ない不安定溶媒を必要とし得る。
【0029】
水性フルオロポリマーエマルションを製造しただけで使用してセパレーターコーティングを形成することができ、又はポリマー粒子及びその他の添加剤の水性スラリーの一部として使用することができ、ポリマー粒子はバインダーとして作用し、乾燥されたセパレーター層内に連続した、ウェブ状構造物を形成する。少量の1つ又は複数の水と混和性の他の溶剤、例えばエチレングリコールをPVDFラテックス中に混合して凍結融解安定性を改良してもよい。
【0030】
添加剤を水性フルオロポリマー分散体中にブレンドし、最適な数及び分布のミクロボイドを形成して多孔度を制御するのを助けることができる。また、添加剤は、フルオロポリマー粒子が一緒に接合して連続したセパレーター構造物を形成する速度を制御するのを助けることができ、フルオロポリマー粒子間のより強い接着を促進する(定着剤)ことによって寸法安定性及び靭性などのセパレーター層の性質に影響を与え、セパレーターの物理的形状を維持するのを助けることができる。
【0031】
ナノ粘土、ヒュームドシリカ、ヒュームドアルミナ、及びナノサイズ金属酸化物及び関連した無機添加剤などの無機材料は、水系調合物と相溶性であり、本発明においてセパレーターコーティングの一部として使用され得る。これらの無機材料を粉末として水性フルオロポリマーに添加して、フルオロポリマースラリーを形成する。これらの任意選択の無機材料は、スラリー安定性、適用の容易性、コスト、長期バッテリ性能に与える効果、そして最も重要なことには、高温においての複合体の寸法安定性に基いて適切な判断により選択され得る。
【0032】
無機材料は、それらの物理的性質が200℃以上の高温においても変化されないことを特徴としており、無機粒子を使用するセパレーターコーティング層は、すぐれた耐熱性を有することができる。
【0033】
無機粉状材料は電気化学的に安定していなければならない(駆動電圧の範囲において酸化及び/又は還元を受けない)。さらに、無機材料は好ましくは、高いイオン導電率を有する。低密度の無機粉状材料は、製造されるバッテリの重量を低減することができるので、より高密度の材料よりも好ましい。誘電率は好ましくは5以上である。本発明において有用な無機粉状材料には、BaTiO3、Pb(Zr,Ti)O3、Pb1-xLaxZry3(0<x<1、0<y<1)、PBMg3Nb2/33、PbTiO3、ハフニア(HfO(HfO2)、SrTiO3、SnO2、CeO2、MgO、NiO、CaO、ZnO、Y23、Al23、TiO2、SiC、ZrO2、ケイ酸ホウ素、BaSO4、ナノ粘土、ヒュームドシリカ、ヒュームドアルミナ、又はそれらの混合物などが含まれるがそれらに限定されない。
【0034】
本発明のセパレーター層は、粉状無機材料のサイズ、無機材料の含有量及び無機材料とバインダーポリマーとの混合比を制御することによって数マイクロメートルのサイズを有する細孔を形成することができる。
【0035】
粉状無機材料は好ましくは、0.001~10ミクロンのサイズを有する。サイズが0.001ミクロン未満であるとき、無機粒子は不十分な分散性を有する。サイズが10ミクロンより大きいとき、コーティングは同じ固形分で厚さが増加し、機械的性質の低下をもたらす。さらに、このような過度に大きい細孔は、反復される充電/放電サイクルの間に内部短絡が発生される可能性を増加させる場合がある。粉状無機材料は、ポリマー固形分と粉状無機材料との合計に基づいて0~99重量パーセント、好ましくは30~95重量パーセント、そしてより好ましくは50~90重量パーセントにおいてフルオロポリマースラリー中に存在し得る。粉状無機材料の含有量が99重量パーセントより大きいとき、ポリマー含有量は非常に低くて、無機材料の間の十分な接着をもたらすことができず、最後に形成されたセパレーターの機械的性質の低下をもたらす。
【0036】
一実施形態において、アノード及びカソード上のフルオロポリマーセパレーターコーティングが異なっており、一方の層はフルオロポリマーに富み(50重量パーセントを超えるフルオロポリマーそして好ましくは75重量パーセントを超えるポリマー)、電極間の電気的接触を防ぎ、イオン導電率を改良する。他方の層は無機材料に富み(50重量パーセントを超える無機材料及び好ましくは75重量パーセントを超える無機材料)、ナノサイズ無機添加剤の導入によって高温寸法安定性をもたらすことができる。従って、最適にするための2つのスラリー調合物があり得る:一方はフルオロポリマーに富み、他方は無機材料に富む。例えば、フルオロポリマーに富む層を有するコーティングは、可撓性、耐衝撃性の他、ホットスポットを軽減する高温の電解質による高膨潤を提供する。無機材料に富むコーティングは、寸法安定性を得て、高温、すなわち>150℃においてセラミックタイプの絶縁層として作用して破局的壊損を防ぐ。セパレーター層の強靭さは、厚さ、機械的結着性、ならびに室温及び高温の電解質による膨潤を測定することによって決定される。
【0037】
一実施形態において、電極の一方だけ(アノード又はカソードのどちらか)が、アノード及びカソード要素の間の唯一のバリアとして作用する一体化セパレーター層を有し、他方の電極はコートされない。
【0038】
別の実施形態において、アノード及びカソード電極の両方が、アノード及びカソード要素の間のバリアとして作用する一体化セパレーターコーティングを有し、より高い安全性値をもたらす。
【0039】
本発明の1つの安全性の利点は、電解質分布を調節することによってバッテリ内のホットスポットの形成を軽減することができることである。より高い温度において一体化電極セパレーターのコーティングは電解質によって膨潤し、電極間の隔たりをより大きくし、ホットスポットにおいて電極から電解質を奪う。結果として、局所的なイオン移動が減少し、ホットスポットを急冷する。ホットスポットが冷却するとき、セパレーター層は電解質を放出し、その原寸に戻り、通常動作を再開する。
【0040】
当技術分野に公知の1つ又は複数の他の添加剤を低い有効レベルにおいて添加して、水性フルオロポリマースラリー、加工、又は最終セパレーターコーティングの特定の性質を強化してもよい。これらには、界面活性剤、沈降剤、湿潤剤、増粘剤、レオロジー変性剤、不堅牢定着剤、充填剤、均展材、消泡剤、pH緩衝剤の他、所望の電極要件を満たしたまま水系調合物において典型的に使用されるその他の補助剤などが含まれるがそれらに限定されない。
【0041】
界面活性剤及び/又は沈降防止剤は、水100部当り0~10部、好ましくは0.1~10部、より好ましくは0.5~5部においてフルオロポリマー組成物に添加されてもよい。これらの沈降防止剤又は界面活性剤をフルオロポリマー分散体ポスト重合に添加して、一般に貯蔵性を改良し、スラリーの調製の間にさらなる安定化を提供する。また、界面活性剤/沈降防止剤は、重合プロセスから残っている組成物中に存在している。有用な沈降防止剤には、イオン性物質、例えばアルキル硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩の塩(例えばラウリル硫酸ナトリウム及びラウリル硫酸アンモニウム)及び部分フッ素化アルキル硫酸塩、カルボン酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩の塩(例えば、DuPontによって商標名CAPSTONEとして販売されている沈降防止剤)、及び非イオン性界面活性剤、例えばTRITON Xシリーズ(Dow製)及びPLURONICシリーズ(BASF製)などがあるがそれらに限定されない。一実施形態において、アニオン界面活性剤だけが使用される。フッ素化界面活性剤は、重合プロセスからか又は水性分散体を形成又は濃縮する時の付加的なポスト重合からのどちらの残留界面活性剤も組成物中に存在しないことが好ましい。
【0042】
湿潤剤を水100部当り0~5部、好ましくは0~3部において組成物中に導入してもよい。界面活性剤は湿潤剤として機能しうるが、また、湿潤剤は非界面活性剤を含めてもよい。いくつかの実施形態において、湿潤剤は有機溶剤でありうる。任意選択の湿潤剤の存在によって、フッ化ビニリデンポリマーの水性分散体中への粉状無機材料の均一な分散を可能にする。有用な湿潤剤には、イオン性及び非イオン性界面活性剤、例えばTRITONシリーズ(Dow製)、BYKシリーズ(ALTANA製)及びPLURONICシリーズ(BASF製)の他、NMP、DMSO、及びアセトンなどを含めるがそれらに限定されない水性分散体と相溶性である有機液体などがあるがそれらに限定されない。
【0043】
増粘剤及びレオロジー変性剤は、フルオロポリマーセパレーター組成物中に水100部当り0~10部、好ましくは0~5部において存在してもよい。水溶性増粘剤又はレオロジー変性剤を上記の分散体に添加することによって、コーティングプロセスのために適切なスラリー粘度を提供しながら無機粉状材料の沈降を防ぐか又は遅らせる。有用な増粘剤には、ACRYSOLシリーズ(Dow Chemical製)、ヒュームドシリカ及び/又はヒュームドアルミナ、部分的に中和されたポリ(アクリル酸)又はポリ(メタクリル酸)、例えばLubrizol製のCARBOPOL、及びカルボキシル化アルキルセルロース、例えばカルボキシル化メチルセルロース(CMC)などがあるがそれらに限定されない。調合物のpHを調節することによって増粘剤のいくつかの有効性を改良することができる。有機レオロジー変性剤の他に、無機レオロジー変性剤もまた単独で又は組み合わせて使用することができる。有用な無機レオロジー変性剤には、モントモリロン石及びベントナイトなどの天然粘土、ラポナイトなどの人工粘土、及びシリカ、及びタルクなどの他の粘土などがあるがそれらに限定されない無機レオロジー変性剤などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0044】
任意選択の不堅牢定着剤は、本発明の組成物から形成されたコーティングにおいて必要とされる相互結合性をもたらすために役立つ。「不堅牢定着剤」とは、本明細書中で用いられるとき、コートした後に組成物の相互結合性を増加させる薬剤を意味する。そのとき、不堅牢定着剤は、一般に(化学物質の)蒸発によって又は(加えられたエネルギーの)散逸によって、形成された基材から除去され得る。
【0045】
不堅牢定着剤は、電極を形成する間の水性組成物の成分の相互結合性をもたらす有効量において使用された、化学物質、圧力と併用されたエネルギー源、又は組み合わせであってもよい。化学不堅牢定着剤について、組成物は、水100部当り1つ又は複数の不堅牢定着剤0~150部、好ましくは1~100部、より好ましくは2~30部を含有する。好ましくはこれは有機液体であり、水に可溶性又は混和性である。この有機液体はフルオロポリマー粒子のための可塑剤として作用し、それらを粘着性にし、乾燥工程の間に分散的な接着点として作用させることができる。フルオロポリマー粒子は、製造の間に軟化し、流動し、粉状材料に付着することができ、不可逆的である高い接続性を有する電極をもたらす。一実施形態において有機液体は潜溶剤であり、室温においてフルオロポリマー樹脂を溶解しないか又は実質的に膨潤させない溶剤であるが、高温においてフルオロポリマー樹脂を溶媒和させる。一実施形態において有用な有機溶剤はN-メチル-2-ピロリドンである。他の有用な不堅牢定着剤薬剤には、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスファミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、ジメチルスクシネート、ジエチルスクシネート及びテトラエチル尿素などがあるがそれらに限定されない。
【0046】
不堅牢定着剤としてのエネルギーの場合、有用なエネルギー源には、熱、赤外線放射線、及び高周波(RF)などがあるがそれらに限定されない。熱だけについては、電極上でPVDF組成物を処理する間の温度は、ポリマーの融点よりも約20~50℃高いのがよい。エネルギーだけが不堅牢定着剤として使用されるとき、熱は、良好な相互結合性のために圧力-例えばカレンダー処理工程と組み合わせられるのが好ましい。
【0047】
本発明の水性フルオロポリマーセパレーターコーティング組成物は多くの異なった方法で得ることができる。
【0048】
一実施形態において、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)分散体を(好ましくは一切のフッ素系界面活性剤を用いずに)形成する。予め決められた量のいずれかの沈降防止剤又は界面活性剤を水中で希釈し、十分な貯蔵安定度をラテックスに提供するために攪拌しながらPVDF分散体ラテックスに後添加する。このPVDF分散体/沈降防止混合物に、攪拌下で任意選択の湿潤剤を添加し、その後に、いずれかの増粘剤、不堅牢定着剤を添加し、次に、必要ならば、pHを増粘剤が有効であるための適切な範囲に至らせる。CMCなどのいくつかの増粘剤は、広範囲のpH、すなわちCMCについてpH3~9において有効である。次に、任意選択の粉状無機材料及び他の成分を、撹拌しながら混合物に添加する。粉状無機材料を不堅牢定着剤、潜溶剤又は湿潤剤中に分散させて、水性PVDFバインダー調合物と混合する前に粉状材料の湿潤をもたらすことが有利である場合がある。次に、最終組成物を高剪断混合にかけ、組成物中の粉状材料の一様な分布を確実にする。本発明の最終水性組成物は、電極上へのーティングのために有用な粘度を有するのがよい。有用な粘度は、適用方法に応じて20rpm及び25℃において1,000~20,000cpsの範囲である。
【0049】
水性フルオロポリマーセパレーターコーティングを少なくとも1つの電極上に、当技術分野に公知の手段によって、例えば刷毛、ローラー、インクジェット、スキージー、泡付与装置、流し塗、真空めっき、スロットダイコーター、又は噴霧によって適用する。
【0050】
本発明の電極は当技術分野に公知の電極である。これは、公知の方法、例えば1)溶剤溶液中のPTFE又はPVDFバインダーを使用して粉状電極材料を導電基材に結合する工程、2)フルオロポリマー粒子と粉状電極形成材料とを有する水性組成物を使用して、連続した、多孔性ポリマー網目構造を形成する工程によって製造された予備形成されたカソード及びアノード積層体を備える。
【0051】
好ましい実施形態において、水性フルオロポリマー電極材料と水性セパレーター材料とが単一操作で適用される-時間と費用を節減する。予備形成された電極は必要とされず、そしてセパレーター膜は必要とされない。一体化電極セパレーターアセンブリは、本発明の電極スラリー(溶剤系又は水性系のどちらか)及び水性フルオロポリマー組成物がマルチスロットダイコーターを使用して導電基材上に同時に適用され、次に乾燥されて一体化電極セパレーターアセンブリを形成する単一プロセスにおいて製造される。
【0052】
本発明の一体化セパレーターを用いて当技術分野に公知の手段によって電気化学デバイス、例えばバッテリ、キャパシタ、電気二層キャパシタ、膜電極組体(MEA)又は燃料電池を形成することができる。
【0053】
本発明の一体化電極セパレーターは、先行技術よりもいくつかの利点があり、例えば、限定されないが、
1.IESセパレーターは、層が電極上に直接にコートされるので、従来の自立セパレーターと比較して欠陥を有する可能性がそれほど高くない。薄い多孔性自立フィルムの取扱いはしばしば、微小な孔、ゲル、皺、及び汚染物質などの欠陥をもたらすが、それらはリチウムイオンバッテリにおいて起こり得る安全上の問題点(短絡回路)である。新規な技術によってセパレーターを製造するための方法は、高い品質を確実にする高度の管理を伴なう。品質管理の向上と薄いセパレーター層を取扱う必要がないため、
【0054】
2.製造費は、未処理のポリオレフィン系セパレーターに比べて著しく少ない。
【0055】
3.安全性は、全水性フルオロポリマー系の使用によってポリオレフィン系セパレーター及び有機溶剤系よりも改善される。
【0056】
4.内部抵抗は、ポリオレフィン系セパレーターの内部抵抗より低い。水性フルオロポリマーの細孔を通しての電解質流/移動度に対する抵抗は、セパレーター層が電解質と相溶性であり、電極上に連続的に流延されるので、低めである。自立セパレーターは鮮明な境界を有し、それは、境界面においてのイオン移動度に対して妨害及び抵抗を引き起こし得る。対照的に、我々が提案する技術は、セルのインピーダンスの低下をもたらすであろう電極とコートされた層との間の相互接続性と連続性を提供する。
【0057】
5.無極性ポリオレフィンセパレーターと対照的に、電解質と水系フルオロポリマーとが両方とも極性であるとき、湿潤性は増加する。
【0058】
6.in-situセパレーターはPVDF系樹脂をベースとしており、それは化学的及び電気化学安定性であることが判明しているので、化学的/電気化学的安定性はポリオレフィンよりもずっと良い。
【0059】
7.細孔径は調整可能であり、電極の細孔体積と同等か又はそれ以上の細孔体積を有する。細孔径及び分布は、延伸が必要とされないので自立セパレーターの細孔径及び分布よりも均一であると予想される。
【0060】
8.微小な孔の検出は、組立ラインの前に、コートされた電極について実施されている状態である。興味深いことに、セル組立後の不良率は減少し、セルの安全性は増加する。一方の電極上のセパレーターコーティングの未検出欠陥は、セルの積層中に対向する電極上のコーティングによって軽減される。
【0061】
9.in-situセパレーター及び電極の一体化構造のためにほとんど又は全く収縮が予想されないので、寸法安定性は改善する。さらに、フルオロポリマーは、自立ポリオレフィンセパレーターが示す温度及び収縮制限条件を有さず、それは、セルをより高温で乾燥させることを可能にし、より高い処理量をもたらす。
【0062】
10.自立セパレーターがないので、ゆがみは生じない。現在、自立セパレーターのストリップが電極への積層のために配置されるとき、ミスアライメントがしばしば観察される。ミスアライメント(ゆがみ)はエッジ欠陥ならびにより多い屑の発生を伴なう。
【0063】
11.ホットスポットの軽減はスマートレスポンスにより提供される:in-situセパレーターは、電極境界面の局所温度に合わせることによってセル内のホットスポット形成を軽減することができる。コートされた層は、より高い温度において膨潤して有効なイオン移動を低減し、冷却される時にその原寸に戻る。
【0064】
12.提案された水系フルオロポリマーの溶融温度は高めであるので、溶融完全性はポリオレフィン系セパレーターよりも優れている。さらに、それらの溶融温度を超える温度でも、垂直力下で最小流量を有する高溶融粘度樹脂を選択することができる。
【実施例
【0065】
全般
本発明のラテックスは、乳化剤を使用してフルオロポリマーを製造するための典型的な方法によって調製される。乳化剤はイオン性又は非イオン性であってもよく、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及び/又はポリテトラメチレングリコールのブロックを含有する乳化剤であってもよい。好ましくは、フッ素化されるか又は部分的にフッ素化された界面活性剤は、この方法において使用されず、そのとき、製造されたフルオロポリマー中に存在していない。製造されたフルオロポリマー分散体は良好なラテックス安定性及び貯蔵寿命を有し、凝固物を含有しない。これらの好ましい分散体は、フッ素化されるか又は部分的にフッ素化された界面活性剤を絶対に含有しない-フッ素化界面活性剤は、合成において又は後添加においてのどちらにおいても使用されない。
【0066】
重合方法において、乳化剤を重合前に前もって全て添加することができ、重合の間に連続的に供給し、重合の前に及び次いで重合の間に部分的に供給するか、又は重合が開始してしばらく進行した後に供給することができる。
【0067】
実施例1
80ガロンのステンレス鋼反応器内に、345lbsの脱イオン水、250グラムのPLURONIC 31R1(BASF製のフッ素化されていない非イオン性界面活性剤)、及び0.3lbsのプロパンを入れた。排気の後、撹拌が23rpmにおいて開始され、反応器が加熱された。反応器温度が100℃の所望の整定値に達した後、VDFの充填が開始された。次に、約35lbsのVDFを反応器内に入れることによって反応器圧力を650psiに上げた。反応器圧力が安定化された後、1.0重量%の過硫酸カリウム及び1.0重量%の酢酸ナトリウムから製造された4.5lbsの開始剤溶液を反応器に添加して重合を開始した。開始剤溶液の追加的な添加の速度を調節して約70ポンド/時間の最終VDF重合速度を獲得及び維持した。約150ポンドのVDFが反応塊に導入されるまでVDF単独重合を継続した。VDFの供給を停止し、バッチを反応温度において完全に反応させ、減少圧力において残留モノマーを消費した。25分後に撹拌を停止し、反応器を冷却し、脱気し、ラテックスを回収した。回収されたラテックス中の固形分を重量測定技術によって測定すると約27重量%であり、ASTM方法D-3835によって、450°F及び100sec-1において約27kpの溶融粘度が測定された。樹脂の溶融温度がASTM方法D-3418によって測定され、約162℃であった。重量平均粒度をNICOMPレーザー光散乱計測器によって測定すると約150nmであった。
【0068】
実施例2
80ガロンのステンレス鋼反応器内に、345lbsの脱イオン水、250グラムのPLURONIC 31R1(BASF製のフッ素化されていない非イオン性界面活性剤)、及び0.6lbsのエチルアセテートを入れた。排気の後、攪拌が23rpmにおいて開始され、反応器が加熱された。反応器温度が100℃の所望の整定値に達した後、VDF及びHFPモノマーを全モノマーの40重量%のHFP比を使用して反応器に導入した。次に、約35lbsの全モノマーを反応器内に入れることによって反応器圧力を650psiに上げた。反応器圧力が安定化された後、1.0重量%の過硫酸カリウム及び1.0wt%の酢酸ナトリウムから製造された開始剤溶液5.0lbsを反応器に添加して重合を開始した。開始時に、HFPのVDFに対する比が、供給材料中の全モノマーに対して16.5%のHFPに達するように調節された。また、開始剤溶液のさらなる添加の速度を調節して、ほぼ70ポンド/時間のVDF及びHFPの最終的な総合重合速度を得て、維持した。約160ポンドのモノマーが反応塊に導入されるまでVDF及びHPFの共重合を継続した。HFPの供給を停止するが、約180lbsの全モノマーが反応器に供給されるまでVDFの供給を継続した。VDFの供給を停止し、バッチを反応温度において完全に反応させ、減少圧力において残留モノマーを消費した。40分後、開始剤の供給と撹拌を停止し、反応器を冷却し、脱気し、ラテックスを回収した。回収されたラテックス中の固形分を重量測定技術によって測定すると約32重量%であり、ASTM方法D-3835によって、450°F及び100sec-1において約28kpの溶融粘度が測定された。樹脂の溶融温度をASTMD3418に従って測定すると約120℃であった。重量平均粒度をNICOMPレーザー光散乱計測器によって測定すると約160nmであった。
【0069】
実施例3
80ガロンのステンレス鋼反応器内に、345lbsの脱イオン水、250グラムのPLURONIC 31R1(BASF製のフッ素化されていない非イオン性界面活性剤)、及び0.35lbsのエチルアセテートを入れた。排気の後、攪拌が23rpmにおいて開始され、反応器が加熱された。反応器温度が100℃の所望の整定値に達した後、VDF及びHFPモノマーを全モノマーの13.2重量%のHFP比を使用して反応器に導入した。次に、約35lbsの全モノマーを反応器内に入れることによって反応器圧力を650psiに上げた。反応器圧力が安定化された後、1.0重量%の過硫酸カリウム及び1.0wt%の酢酸ナトリウムから製造された開始剤溶液3.5lbsを反応器に添加して重合を開始した。開始時に、HFPのVDFに対する比が、供給材料中の全モノマーに対して4.4%のHFPに達するように調節された。また、開始剤溶液のさらなる添加の速度を調節して、ほぼ90ポンド/時間のVDF及びHFPの最終的な総合重合速度を得て、維持した。約160ポンドのモノマーが反応塊に導入されるまでVDF及びHPFの共重合を継続した。HFPの供給を停止するが、約180lbsの全モノマーが反応器に供給されるまでVDFの供給を継続した。VDFの供給を停止し、バッチを反応温度において完全に反応させ、減少圧力において残留モノマーを消費した。40分後、開始剤の供給と撹拌を停止し、反応器を冷却し、脱気し、ラテックスを回収した。回収されたラテックス中の固形分を重量測定技術によって測定すると約32重量%であり、ASTM方法D-3835によって、450°F及び100sec-1において約38kpの溶融粘度が測定された。樹脂の溶融温度がASTM方法D-3418によって測定され、約152℃であった。重量平均粒度をNICOMPレーザー光散乱計測器によって測定すると約160nmであった。
【0070】
次に、実施例1~3の上記のPVDF系ラテックスを水性セパレーターコーティング組成物中に配合し、セパレーターに適用し、乾燥させた。
【0071】
実施例4~6
2gのBYK-346(BYK-Chemie製)、20gのDI水、及び20gのトリエチルホスフェート(TEP)を含む3つの同じ原液を調製した。これらの原液を独立に実施例1~3の80gのラテックスに添加し、それぞれ実施例4~6と呼ぶ。
【0072】
実施例7~9
第2の工程において、DI水中のCARBAPOL 940(Lubrizol製)の1%水溶液30g及びDI水中のLiOH(中和剤)の0.7%水溶液6gからなる3つの同じ原液を調製した。これらの原液を個別に実施例4~6に添加し、それぞれ実施例7~9と呼び、凝固させずにラテックスを濃縮した。
【0073】
実施例10~12
1.5gのAEROXIDE ALU C(EVONIK製のヒュームドアルミナ)を210gのDI水に添加した。次に、この混合物を実施例1~3のラテックスに添加し、それらを凝固させずにラテックスの濃縮を起こさせた。これらはそれぞれ実施例10~12と呼ばれる。
【0074】
実施例13
セパレーター又はIESの高温イオン導電率は、流延の前にナノセラミックをセパレータースラリーに添加することによって改良され得る。3部の実施例7、1部の実施例9、及び2部のAERODIP W 640 ZX(EVONIK製)を混合してセパレータースラリーを製造した。
【0075】
セパレーター形成の評価
セパレーター形成の品質は、以下に説明される水系スラリーの従来の方法によってアノード及びカソード電極の両方を作製することによって評価された。
【0076】
表1の水系アノードスラリー組成物を銅箔上に流延し、炉内で15分間130℃においてそして次にさらに10分間170℃において乾燥させた。
【0077】
【表1】
【0078】
表2の水系カソードスラリー組成物をアルミニウム箔上に流延し、炉内で15分間130Cにおいてそしてさらに10分間170Cにおいて乾燥させた。
【0079】
【表2】
【0080】
アノード電極又はカソード電極のどちらかをドクターブレードコーターを使用して実施例7~13の試料でコートした。セパレーターのクラッキングを防ぐために、セパレーターを流延する前に、多孔性乾燥電極を水又は例えばアルコール又はエーテルなどの他の不活性溶剤で湿潤することができる。
【0081】
また、セパレーターを湿潤電極上に同時又は順次流延することによって一体化電極セパレーターを製造した。例として、カソードをアルミニウム箔(乾燥厚さが50~70ミクロン)上に流延し、乾燥前に、実施例7~13のスラリーをドクターブレードコーターを使用して湿潤電極上に流延して、乾燥時に厚さ10~30ミクロンのセパレーターを製造した。
【0082】
次に、複合一体化電極セパレーターを炉内で170℃において15分間にわたって乾燥させた。電極上の固体の均一な流延セパレーターの実電子抵抗は、100k-ohm-cm2超であった。流延セパレーターの乾燥厚さは約10ミクロンであった。
【0083】
2つの2030コインセルはIESアノード及びカソードを使用して構成され、従来のセパレーターは使用されなかった。BASF LP57(EC/EMC内に1M LiPF6、各セル内に50~100mg充填)標準電解質を使用した。セルは、良い開回路電圧及びサイクル経過を示した。5サイクルの弱電流形成の後(C/10)、バッテリはまた、期待された開回路電圧を示す。