(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】薬物動態が改善された血液凝固第IX因子
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20230413BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20230413BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20230413BHJP
A61K 38/36 20060101ALI20230413BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20230413BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20230413BHJP
C07K 14/745 20060101ALN20230413BHJP
【FI】
C07K19/00
C12P21/02 C
A61P7/04
A61K38/36
A61K47/68
C12N15/62 Z
C07K14/745 ZNA
(21)【出願番号】P 2019514607
(86)(22)【出願日】2018-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2018016932
(87)【国際公開番号】W WO2018199214
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-04-09
(31)【優先権主張番号】P 2017088670
(32)【優先日】2017-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】井川 智之
(72)【発明者】
【氏名】舩木 美歩
(72)【発明者】
【氏名】宮下 紘幸
【審査官】幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-298805(JP,A)
【文献】特開2016-116519(JP,A)
【文献】特表2015-525222(JP,A)
【文献】特開2016-180002(JP,A)
【文献】Kazuhiko Tomokiyo et al.,Induction of Acquired Factor IX Inhibitors in Cynomolgus Monkey (Macaca Fascicularis): A New Primate Model of Hemophilia B.,Thromb. Res.,2001年05月15日,Vol.102, No.4,p.363-374,doi: 10.1016/s0049-3848(01)00253-5
【文献】SHMUEL GILLIS et al.,γ-Carboxyglutamic acids 36 and 40 do not contribute to human factor IX function.,Protein Sci.,1997年01月,Vol.6, No.1,p.185-196,doi: 10.1002/pro.5560060121
【文献】Claudia K. Derian et al.,Inhibitors of 2-Ketoglutarate-dependent Dioxygenases Block Aspartyl β-Hydroxylation of Recombinant Human Factor IX in Several Mammalian Expression Systems.,J. Biol. Chem.,1989年04月25日,Vol.264, No.12,p.6615-6618
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12P 21/00
C07K 16/00
C07K 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
修飾されたGLAドメインを含む改善された血漿中半減期および、バイオアベイラビリティのいずれか、または両方を有する血液凝固第IX因子であって、
前記血液凝固第IX因子はFcRn結合タンパク質との融合体であり、かつ前記修飾は、以下の(i)~(iv)からなる群より選択される一以上の修飾である血液凝固第IX因子;
(i)GLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片のGLAドメインへの非共有結合;
(ii)天然型と比較した、GLAドメインにおけるGla残基数の減少;
(iii)GLAドメインにおける一以上のグルタミン酸残基の欠損および他のアミノ酸への置換のいずれか、または両方;および
(iv)GLAドメインの一部又は全部の欠損。
【請求項2】
前記修飾は;
(i)天然型血液凝固第IX因子と比較した、GLAドメインにおけるGla残基数の減少であって、天然型血液凝固第IX因子と比較した、GLAドメインにおけるGla残基数の数が、11個または12個の減少であるか;または
(ii)GLAドメインの全部の欠損である、請求項1に記載の血液凝固第IX因子。
【請求項3】
前記抗体断片は、Fab、F(ab')2、又はscFvである、
請求項1に記載の血液凝固第IX因子。
【請求項4】
GLAドメインを修飾する工程を含む血液凝固第IX因子の血漿中半減期および、バイオアベイラビリティのいずれか、または両方を改善する方法であって、
前記血液凝固第IX因子はFcRn結合タンパク質との融合体であり、かつ前記修飾する工程は、以下の(i)~(iv)からなる群より選択される一以上の工程である方法;
(i)GLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片をGLAドメインに非共有結合させる工程;
(ii)天然型と比較し、GLAドメインにおけるGla残基数を減少させる工程;
(iii)GLAドメインにおける一以上のグルタミン酸残基の欠損、および他のアミノ酸への置換のいずれか、または両方を行う工程;および
(iv)GLAドメインの一部又は全部を欠損させる工程。
【請求項5】
前記修飾は;
(i)天然型血液凝固第IX因子と比較した、GLAドメインにおけるGla残基数の減少であって、天然型血液凝固第IX因子と比較した、GLAドメインにおけるGla残基数の数が、11個または12個の減少であるか;または
(ii)GLAドメインの全部の欠損である、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
GLAドメインを修飾する工程を含む血液凝固第IX因子の血漿中半減期および、バイオアベイラビリティのいずれか、または両方を制御する方法であって、
前記血液凝固第IX因子はFcRn結合タンパク質との融合体であり、かつ前記修飾する工程は、以下の(i)~(iv)からなる群より選択される一以上の工程である方法;
(i)GLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片をGLAドメインに非共有結合させる工程;
(ii)天然型と比較し、GLAドメインにおけるGla残基数を減少させる工程;
(iii)GLAドメインにおける一以上のグルタミン酸残基の欠損、および他のアミノ酸への置換のいずれか、または両方を行う工程;および
(iv)GLAドメインの一部又は全部を欠損させる工程。
【請求項7】
前記修飾は;
(i)天然型血液凝固第IX因子と比較した、GLAドメインにおけるGla残基数の減少であって、天然型血液凝固第IX因子と比較した、GLAドメインにおけるGla残基数の数が、11個または12個の減少であるか;または
(ii)GLAドメインの全部の欠損である、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
GLAドメインを修飾する工程を含む血液凝固第IX因子の血漿中半減期および、バイオアベイラビリティのいずれか、または両方が改善された血液凝固第IX因子を製造する方法であって、
前記血液凝固第IX因子はFcRn結合タンパク質との融合体であり、かつ前記修飾する工程は、以下の(i)~(iv)からなる群より選択される一以上の工程である方法;
(i)GLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片をGLAドメインに非共有結合させる工程;
(ii)天然型と比較し、GLAドメインにおけるGla残基数を減少させる工程;
(iii)GLAドメインにおける一以上のグルタミン酸残基の欠損、および他のアミノ酸への置換のいずれか、または両方を行う工程;および
(iv)GLAドメインの一部又は全部を欠損させる工程。
【請求項9】
前記修飾は;
(i)天然型血液凝固第IX因子と比較した、GLAドメインにおけるGla残基数の減少であって、天然型血液凝固第IX因子と比較した、GLAドメインにおけるGla残基数の数が、11個または12個の減少であるか;または
(ii)GLAドメインの全部の欠損である、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
さらに、GLAドメインが修飾された血液凝固第IX因子を単離する工程を含む、
請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~2のいずれかに記載の血液凝固第IX因子、
または請求項8~10のいずれかの方法により製造された血液凝固第IX因子
を有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項12】
FIX欠損疾患の予防および、治療のいずれか、または両方に用いられる医薬組成物である、
請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
FIX欠損疾患が血友病Bである、
請求項12に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物動態が改善された血液凝固第IX因子(FIX)、FIXの薬物動態を改善する方法、FIXの薬物動態を制御する方法、薬物動態が改善されたFIXの製造方法、FIXと抗体との複合体、薬物動態が改善されたFIXまたは複合体を有効成分として含有する医薬組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
血友病Bは、先天性のFIXの機能低下または欠損による出血異常症である。血友病B患者の出血に対しては、ヒト由来FIX製剤が通常投与される(on-demand投与)。また、出血イベントを防ぐために、予防的に、FIX製剤が静脈内に投与される(非特許文献1)(予防投与)。リコンビナントFIX製剤の血漿中半減期は、約17~19時間程度であるため、継続的な予防のためには、週に2~3回、FIX製剤が患者に投与される(非特許文献1)。
【0003】
頻回の静脈内注射は患者への負担が大きいため、近年、半減期延長型のFIX製剤が開発されている(非特許文献1)。最近承認されたFIX-Fc(一般名eftrenonacog alfa、商品名Alprolix)は、1分子のFIXのC末端にIgG1抗体のFcを連結することにより、半減期を約82時間程度に延長し、基本的には投与間隔を週1回に延長することに成功している。しかしその投与経路は静脈内注射であることから、更なる患者の負担の軽減が求められている(非特許文献1)。FIX-Fcは、ヒトIgGのFcを融合することで、ヒトIgGと同じFcRnを介した細胞内取り込みからのリサイクルを促進することで半減期を延長している(非特許文献2)。ヒトIgGは、血管内皮細胞など分布しうるほとんどの細胞に取り込まれても、エンドソーム内の酸性pHにおいてFcRnに結合し、細胞表面にリサイクルされ、中性でFcRnから解離することにより、ライソソームによる分解を回避している。このFcによるリサイクル作用により、ヒトIgGの半減期は2週間から4週間と極めて長い(非特許文献3)。
【0004】
それに対して、同じFcを有するFIX-Fcの半減期は約82時間とヒトIgGと比較して非常に短いが、その原因はこれまで報告されておらず、分かっていない。FIX-Fc以外にもPEG化FIXやFIX-Albuminなどの半減期延長型のFIX製剤が開発されているが、いずれも投与経路は静脈内注射であり、半減期もそれぞれ約93時間と約92時間であり、ヒトIgGと比べると大幅に短い(非特許文献3)。PEG化されたFab分子であるCertolizumab pegol(商品名Cimzia)の半減期は約14日程度であり(非特許文献4)、アルブミンの半減期も約19日程度である(非特許文献5)。それらと比較してPEG化FIXとFIX-Albuminの半減期は非常に短いが、FIX-Fc同様、その原因はこれまで報告されておらず、分かっていない。
【0005】
このようにFIXに半減期延長素子(Half-life elongation element)であるFc、PEG、Albuminを融合させても十分に長い半減期が得られない原因はFIXにあると考えられるが、その原因は分かっていない。また、同様にFIXが皮下投与可能なFIX製剤として開発されないのはバイオアベイラビリティが低いからと考えられるが、同様にその原因は分かっていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】J Blood Med. 2016 Apr 1;7:27-38.
【文献】Blood. 2010 Mar 11;115(10):2057-64.
【文献】J Pharm Sci. 2004 Nov;93(11):2645-68.
【文献】Expert Opin Drug Metab Toxicol. 2015 Feb;11(2):317-27
【文献】Mol Cell Ther. 2016 Feb 27;4:3.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような中、FIXの短い血漿中半減期および低いバイオアベイラビリティの原因を解明し、既存の半減期延長型FIX製剤と比較して血漿中半減期が延長され、バイオアベイラビリティが改善されたFIXが創製できれば、長い投与間隔および皮下投与による出血予防が可能となる。本発明は上記のような状況に鑑みてなされたものであり、薬物動態が改善されたFIX、FIXの薬物動態を改善する方法、FIXの薬物動態を制御する方法、薬物動態が改善されたFIXの製造方法、FIXと抗体との複合体、薬物動態が改善されたFIXまたは当該複合体を有効成分として含有する医薬組成物等を提供することを目的とする。より具体的には、FIXの短い血漿中半減期および低いバイオアベイラビリティの原因を解明し、血漿中半減期が延長され、および/またはバイオアベイラビリティが改善されたFIX、FIXの血漿中半減期を延長し、および/またはバイオアベイラビリティを改善する方法、FIXの血漿中半減期、および/またはバイオアベイラビリティを制御する方法、血漿中半減期が延長され、および/またはバイオアベイラビリティが改善されたFIXの製造方法、FIXと抗体との複合体、血漿中半減期、および/またはバイオアベイラビリティが改善されたFIXまたは当該複合体を有効成分として含有する医薬組成物、および/または血友病Bの治療に用いられる当該医薬組成物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく、FIX-Fcの短い血漿中半減期および低いバイオアベイラビリティの原因の解明を試みたところ、FIX-FcのGLAドメインに含まれるGla残基が原因であることを明らかにした。FIX-FcのGLAドメインを欠損させることによって血漿中半減期を延長し、バイオアベイラビリティを改善することに成功した。また、FIX-FcのGla化を阻害することによって血漿中半減期を延長し、バイオアベイラビリティを改善することに成功した。また、GLAドメインを認識する抗体により、Gla残基による薬物動態を悪化させる機能を阻害することによっても、血漿中半減期を延長し、バイオアベイラビリティを改善することに成功した。本発明はこのような知見に基づくものであり、以下を提供するものである。
〔1〕修飾されたGLAドメインを含む改善された血漿中半減期および、バイオアベイラビリティのいずれか、または両方を有する血液凝固第IX因子。
〔2〕前記修飾は、以下の(i)~(iv)からなる群より選択される一以上の修飾である〔1〕に記載の血液凝固第IX因子;
(i)GLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片のGLAドメインへの非共有結合;
(ii)天然型と比較した、GLAドメインにおけるGla残基数の減少;
(iii)GLAドメインにおける一以上のグルタミン酸残基の欠損および他のアミノ酸への置換のいずれか、または両方;および
(iv)GLAドメインの一部又は全部の欠損。
〔3〕前記抗体断片は、Fab、F(ab')2、又はscFvである、〔2〕に記載の血液凝固第IX因子。
〔4〕前記血液凝固第IX因子はFcRn結合タンパク質との融合体、または、FcRn結合タンパク質ならびにGLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片との融合体である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の血液凝固第IX因子。
〔5〕GLAドメインを修飾する工程を含む血液凝固第IX因子の血漿中半減期および、バイオアベイラビリティのいずれか、または両方を改善する方法。
〔6〕前記修飾する工程は、以下の(i)~(iv)からなる群より選択される一以上の工程である〔5〕に記載の方法;
(i)GLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片をGLAドメインに非共有結合させる工程;
(ii)天然型と比較し、GLAドメインにおけるGla残基数を減少させる工程;
(iii)GLAドメインにおける一以上のグルタミン酸残基の欠損、および他のアミノ酸への置換のいずれか、または両方を行う工程;および
(iv)GLAドメインの一部又は全部を欠損させる工程。
〔7〕GLAドメインを修飾する工程を含む血液凝固第IX因子の血漿中半減期および、バイオアベイラビリティのいずれか、または両方を制御する方法。
〔8〕前記修飾する工程は、以下の(i)~(iv)からなる群より選択される一以上の工程である〔7〕に記載の方法。
(i)GLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片をGLAドメインに非共有結合させる工程;
(ii)天然型と比較し、GLAドメインにおけるGla残基数を減少させる工程;
(iii)GLAドメインにおける一以上のグルタミン酸残基の欠損、および他のアミノ酸への置換のいずれか、または両方を行う工程;および
(iv)GLAドメインの一部又は全部を欠損させる工程。
〔9〕GLAドメインを修飾する工程を含む血液凝固第IX因子の血漿中半減期および、バイオアベイラビリティのいずれか、または両方が改善された血液凝固第IX因子を製造する方法。
〔10〕前記修飾する工程は、以下の(i)~(iv)からなる群より選択される一以上の工程である〔9〕に記載の方法;
(i)GLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片をGLAドメインに非共有結合させる工程;
(ii)天然型と比較し、GLAドメインにおけるGla残基数を減少させる工程;
(iii)GLAドメインにおける一以上のグルタミン酸残基の欠損、および他のアミノ酸への置換のいずれか、または両方を行う工程;および
(iv)GLAドメインの一部又は全部を欠損させる工程。
〔11〕さらに、GLAドメインが修飾された血液凝固第IX因子を単離する工程を含む、〔9〕または〔10〕に記載の方法。
〔12〕血液凝固第IX因子とGLAドメインを認識する抗体またはその抗体断片との複合体。
〔13〕〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の血液凝固第IX因子、〔9〕~〔11〕のいずれかの方法により製造された血液凝固第IX因子、または〔12〕に記載の複合体を有効成分として含有する医薬組成物。
〔14〕FIX欠損疾患の予防および、治療のいずれか、または両方に用いられる医薬組成物である、〔13〕に記載の医薬組成物。
〔15〕FIX欠損疾患が血友病Bである、〔14〕に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0009】
生体に投与されたFIXは、通常は速やかに消失し、血漿中半減期を長く保つことは困難であった。血漿中半減期を延長するために、種々の生体分子の修飾が試みられている。しかしFIXにおいては、他の生体分子と比較した場合に、FIXに固有の問題によって、修飾による血漿中半減期の延長効果を十分に得ることができていなかった。血漿中有効濃度を長期間にわたって維持することが困難なFIXに固有の問題が、本発明によって解消した。すなわち、FIXのGLAドメインの修飾によって、FIXの血漿中濃度を長期にわたって維持できることを本発明は明らかにした。本発明によって、血漿中半減期の延長作用がIgGに比して十分に得られなかったFIX-Fcの血漿中半減期も延長することができた。Fcによる血漿中半減期の延長効果を十分に生かすことのできないFIXに固有の問題点を見出し、その改良手段を実現したことが本発明の効果である。
更に、本発明の好ましい態様においては、血漿中半減期の延長のみならず、皮下投与によってFIX-Fcの血漿中濃度を高く維持することに成功した。この結果は、FIX-Fcのバイオアベイラビリティの改善を意味している。現在、FIX製剤の多くは、出血の予防的な投与を目的として継続的に投与される場合であっても、静脈注射を必要としている。静脈注射は、投与箇所が限定されるため、特に長期にわたる投与を前提とするFIXにおいては、患者の負担が大きい。FIXのバイオアベイラビリティを改善し、たとえば皮下投与を可能としたことによって、本発明は、患者の負担を大きく軽減する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、FIX-Fc(Alprolix)またはGLAドメイン欠損FIX-Fcをマウスに静脈内または皮下投与後の血漿中濃度推移を示す。図中、縦軸はFIXの血漿中濃度(μg/mL)を、横軸は投与後の時間(日)を示す。
【
図2】
図2は、FIX-Fc(Alprolix)またはGla化欠損FIX-Fcをマウスに静脈内または皮下投与後の血漿中濃度推移を示す。図中、縦軸はFIXの血漿中濃度(μg/mL)を、横軸は投与後の時間(日)を示す。
【
図3】
図3は、FIX-Fc(Alprolix)またはGla化欠損FIX-Fcをカニクイザルに静脈内または皮下投与後の血漿中濃度推移を示す。図中、縦軸はFIXの血漿中濃度(μg/mL)を、横軸は投与後の時間(日)を示す。
【
図4】
図4は、FIX単独またはFIXと抗FIX抗体Aもしくは抗FIX抗体Bを同時にマウスに静脈内または皮下投与後のFIXの血漿中濃度推移を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一局面において、本発明は、修飾されたGLAドメインを含む改善された血漿中半減期および、バイオアベイラビリティのいずれか、または両方を有するFIXに関する。あるいは本発明は、天然型FIXよりも長い血漿中半減期および、天然型FIXよりも高いバイオアベイラビリティのいずれか、または両方を有するFIX修飾体に関する。
【0012】
FIX
FIXは、ヒト由来のFIXに限定されず、ヒト、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、およびネズミ由来のFIXであってよい。一局面において、FIXはヒトFIXであり、461アミノ酸残基からなる未成熟型ヒトFIX(配列番号1)から、46アミノ酸からなるN末端シグナル配列およびプロペプチド領域が除かれた415アミノ酸残基からなるヒトFIXをいう(例えば、UniProtKB/Swiss-Prot Accession P00740-1を参照)。尚、天然型ヒトFIXは配列番号1の47位から461位で示される。FIXには、 FIXの典型的な特徴を有する FIXの任意の形態を含む。FIXは、一般的には、GLAドメイン(γ-カルボキシグルタミン酸残基を含む領域)、2つのEGFドメイン(ヒトEGFホモロジードメイン)、活性化ペプチドドメイン、ならびにC末端プロテアーゼドメインを含む。しかし必ずしもこれらを含むものに限定されず、当該技術分野で公知のこれらのドメインと同義なドメインを含んでいてもよく、また一部が欠損した断片であってもよい。FIXまたは配列バリアントは、米国特許4,770,999号、米国特許7,700,734号に説明されるようにクローン化されており、ヒトFIXをコードするDNAは単離されている(例えば、Choo et al., Nature 299:178-180 (1982) and Kurachi et al., Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A. 79:6461-6464 (1982)参照)。これらの公知の配列バリアントには、例えばFIXの作用を増強するアミノ酸置換を有するものが含まれるが、必ずしもこれらに限定されない。以下、本願において、単に「FIX」と記載した場合、それは、特に断りが無ければ、その配列バリアントも含む。
特定の態様において、本発明のFIX修飾体は天然型FIXよりも長い血漿中半減期および、天然型FIXよりも高いバイオアベイラビリティのいずれか、または両方を有しており、例えば、以下の(i)~(iv)からなる群より選択される一以上の修飾を有する。
(i)GLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片のGLAドメインへの非共有結合
(ii)天然型と比較した、GLAドメインにおけるGla残基数の減少
(iii)GLAドメインにおける一以上のグルタミン酸残基の欠損および他のアミノ酸への置換のいずれか、または両方
(iv)GLAドメインの一部又は全部の欠損
【0013】
GLAドメイン
GLAドメインはGla残基(γ-カルボキシグルタミン酸残基)を含む領域であり、配列番号1の47~92のアミノ酸残基を含みうる。FIXは、配列番号1における1-46(シグナル配列)を欠き、FIXにおけるGLAドメインは、一般に、配列番号1の47-92に相当する。
【0014】
Gla化(gamma-carboxilation)
グルタミン酸残基がビタミンKの存在下でGla残基へとカルボキシル化されることを言う。ビタミンK依存的にカルボキシル化されるFIXは、ビタミンK依存性凝固因子の一つである。
【0015】
本発明において、FIX修飾体は、その修飾の前後でFIXの作用が維持されるのが望ましい。具体的には、FIXは、活性型第XI因子(FXIa)や活性型第VII因子(FVIIa)複合体の作用によって活性化され、セリンプロテアーゼ活性を備えた活性型第IX因子(FIXa)を生じる。そしてFIXaが活性化された第VIII因子(FVIIIa)とともに第X因子の活性化に関与する。したがって、本発明においては、FIX修飾体は、以上のようなFIXが関与する反応カスケードを構成することができるものであることが好ましい。FIXの作用は、血液凝固を構成する各因子中、FIXを欠く状態の血液試料等にFIX修飾体を加えてその血液凝固能や酵素作用を評価し、修飾されていないFIXの作用と比較することにより検証することができる。あるいは、FIX修飾体が活性化されて生成される活性型のFIX修飾体において、FIXaが本来備えているセリンプロテアーゼ活性が維持されていれば、FIX修飾体がFIXの作用を維持したことがわかる。その作用の比較の結果、修飾されていないFIXの作用に対して、通常は70%以上、たとえば80%以上、好ましくは90%以上あるいは95%以上の作用が維持された場合に、FIX修飾体においてFIXの作用が維持されたと見なすことができる。
【0016】
血漿中半減期(t1/2)
血漿中半減期とは血漿中薬物濃度が半減するまでの時間をいう。本発明において血漿中半減期が改善されたか否かは、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、サル等を用いた薬物動態試験(PK)を実施することによって適宜評価することができる。例えば、体内動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight)を用いて、付属の手順書に従いNoncompartmental解析することによって適宜評価することができる。
血漿中半減期の評価によって、天然型FIXと比較して、例えば20%以上、好ましくは30%以上、たとえば40%以上、より具体的には50%以上、更には60%以上の半減期の延長が見られたときに、血漿中半減期が「改善された」、あるいは「延長した」と見なすことができる。本発明の好ましい態様においては、天然型FIXと比較して、少なくとも1.5倍以上、たとえば2倍以上、具体的には3倍を越える血漿中半減期を達成することもできる。
【0017】
バイオアベイラビリティー(生物学的利用能:BA)
「バイオアベイラビリティー」(bio-availability)なる用語は、投与後の生理的活性の部位で薬剤又は他の物質が吸収されるか又は利用可能となる程度又は速度を指す。血管外から投与された薬物が全身循環血中に到達し、作用するかの指標である。評価したい投与方法(例えばSC投与)における濃度曲線下面積(AUC_SC)を投与量(Dose_SC)で割った値をIV投与時のAUC(AUC_IV)を投与量(Dose_IV)で割った値で割った値として評価される。つまり、(AUC_SC/Dose_SC)/(AUC_IV/Dose_IV)で計算される。クリアランス(CL)は投与量DoseをAUCで割った値であるため、例えば、IV投与時のCLをSC投与時のCLで割ることによってSC投与時のBAを算出することが可能である。吸収が悪く、AUCが十分に評価できない場合は最高血漿中濃度(Cmax)から推定される。ポリペプチドの生物学的利用能は、当分野で公知のインビボ薬物動態学的方法によって検定されてよい。
FIXのバイオアベイラビリティの評価によって、天然型FIXと比較して、例えば20%以上、好ましくは30%以上、たとえば40%以上、より具体的には50%以上、更には60%以上のバイオアベイラビリティーが得られたときに、バイオアベイラビリティーが「改善された」、あるいは「高まった」と見なすことができる。本発明の好ましい態様においては、天然型FIXと比較して、少なくとも1.5倍以上、たとえば2倍以上、具体的には3倍を越えるバイオアベイラビリティーを達成することもできる。
【0018】
別の局面において、本発明は、修飾されたGLAドメインを含む改善された血漿中半減期および、バイオアベイラビリティのいずれか、または両方を有するFIXであって、前記修飾は以下の(i)~(iv)からなる群より選択される一以上の修飾であるFIXに関する。
(i)GLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片のGLAドメインへの非共有結合
(ii)天然型と比較した、GLAドメインにおけるGla残基数の減少
(iii)GLAドメインにおける一以上のグルタミン酸残基の欠損および他のアミノ酸への置換のいずれか、または両方
(iv)GLAドメインの一部又は全部の欠損
本発明における「修飾されたGLAドメイン」とは、前記(i)~(iv)からなる群より選択される一以上の修飾を有するGLAドメインを含むが、血漿中半減期および/またはバイオアベイラビリティが改善されたFIXを与えるものであれば、必ずしもこれらに限定されない。
特定の態様において、修飾されたGLAドメインとは、GLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片が非共有結合しているGLAドメインをいう。
一つの局面において、GLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片はGLAドメインに非共有結合すればよく、GLAドメイン全体を認識する抗体又はその抗体断片であってもよく、またGLAドメインの一部を認識する抗体又はその抗体断片であってもよい。また別の局面において、GLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片はGla残基を有するGLAドメインを特異的に認識する抗体である。
別の特定の態様において、修飾されたGLAドメインとは、天然型と比較したときのGLAドメインにおけるGla残基数が減少したGLAドメインをいう。Gla残基数が、天然型FIXに比較して、少なくとも1個減少していればよく、好ましくは2個、3個、4個、5個、6個、より好ましくは7個、8個、9個、10個、最も好ましくは11個、12個減少している。
別の特定の態様において、修飾されたGLAドメインとは、GLAドメインにおけるグルタミン酸残基の少なくとも一以上が欠損および他のアミノ酸への置換のいずれか、または両方が行われたGLAドメインをいう。グルタミン酸残基の欠損および他のアミノ酸への置換のいずれか、または両方は、少なくとも1残基について行われればよく、好ましくは2残基、3残基、4残基、5残基、6残基、より好ましくは7残基、8残基、9残基、10残基、最も好ましくは11残基、12残基について行われる。
別の特定の態様において、修飾されたGLAドメインとは、GLAドメインの一部又は全部が欠損したGLAドメインをいう。ヒトFIXのGLAドメインは未成熟型FIX(配列番号1)の47位-92位であるため、例えばヒトFIXのGLAドメインの一部の欠損とは47位から92位の間の少なくとも1残基以上の欠損であればよく、好ましくは5残基以上、10残基以上、さらに好ましくは20残基以上、30残基以上、40残基以上である。また、GLAドメインの全部の欠損とは、配列番号1の47位~92位のアミノ酸残基の欠損をいう。
尚、本発明の目的が達成される限り、修飾されたGLAドメインには他のアミノ酸残基の置換、付加、欠損等が含まれていてもよい。
たとえば、ヒトFIXにおけるGLAドメインは12個のグルタミン酸残基(Glu/E)を含む。これらのGlu/Eは、未成熟型FIX(配列番号1)においては、53位、54位、61位、63位、66位、67位、72位、73位、76位、79位、82位、86位に相当する(それぞれFIXの7位、8位、15位、17位、20位、21位、26位、27位、30位、33位、36位、40位)。したがって、これらGlu/E残基のいずれか一つ以上を、欠失あるいは置換することによって、本発明の「修飾されたGLAドメイン」を得ることができる。本発明において、複数のGlu/E残基を欠失あるいは置換することによって、欠失したGlu/E残基と、他のアミノ酸残基に置換されたGlu/E残基とが、一つの分子上で混在したFIXが得られる。
【0019】
たとえば、ヒトFIXにおけるGLAドメインは12個のグルタミン酸残基(Glu/E)を含む。これらのGlu/Eは、未成熟型FIX(配列番号1)においては、53位、54位、61位、63位、66位、67位、72位、73位、76位、79位、82位、86位に相当する(それぞれFIXの7位、8位、15位、17位、20位、21位、26位、27位、30位、33位、36位、40位)。したがって、これらGlu/E残基のいずれかを、欠失あるいは置換することによって、本発明のFIX修飾体を得ることができる。
【0020】
ポリペプチド
本発明において、ポリペプチドとは、通常、10アミノ酸程度以上の長さを有するペプチド、およびタンパク質を指す。また、通常、生物由来のポリペプチドであるが、特に限定されず、例えば、人工的に設計された配列からなるポリペプチドであってもよい。また、天然ポリペプチド、あるいは合成ポリペプチド、組換えポリペプチド等のいずれであってもよい。さらに、上記のポリペプチドの断片もまた、本発明におけるポリペプチドに含まれる。
本発明において、ポリペプチドは、単離されたものであることができる。単離とは、一般的に、ポリペプチドが実質的に均一で、他の夾雑物を含まないことを言う。本発明において、ポリペプチドは、好ましくは、ポリペプチドの他に生物由来の成分を検出し得るレベルで含まない。ポリペプチドの純度が、例えば80%、あるいは90%、好ましくは95%、より好ましくは98%、更に好ましくは99%以上である時、夾雑物を含まないと言う。ポリペプチドの純度は、電気泳動法等の公知の手法によって決定することができる。
【0021】
一局面において、本発明は、FIXとFcRn結合タンパク質との融合体、またはFIX、FcRn結合タンパク質およびGLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片との融合体を提供する。
【0022】
本明細書においてFcRn結合タンパク質は、例えばIgG又はアルブミンが挙げられるが、これらに限定されず、FcRnと結合し得る(結合活性もしくは親和性を有する)タンパク質であればよい。好ましくは、本発明におけるFcRn結合タンパク質は、特に制限されないが、ヒトIgG、ヒトIgGの重鎖、ヒトIgGのFc、ヒトIgGのFcの一部またはこれらの改変体であり、FcRnと結合し得るタンパク質であれば、本発明のFcRn結合タンパク質に含まれる。
【0023】
本明細書で用語「Fc」は、少なくとも定常領域の一部分を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために用いられる。この用語は、天然型配列のFcおよび変異体Fcを含む。一態様において、FcはヒトIgGのFcであり、IgGはIgG1、IgG2、IgG3、IgG4のいずれであってもよい。一態様において、ヒトIgGのFcは、ヒンジ、CH2およびCH3を含む。一態様において、ヒトIgGのFcはCys226から、またはPro230から、重鎖のカルボキシル末端まで延びる。ただし、FcのC末端のリジン (Lys447) またはグリシン‐リジン(Gly446-Lys447)は、存在していてもしていなくてもよい。本明細書では別段特定しない限り、Fcまたは定常領域中のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD 1991 に記載の、EUナンバリングシステム(EUインデックスとも呼ばれる)にしたがう。尚、「抗体」、「免疫グロブリン」および「イムノグロブリン」なる用語は互換性をもって広義な意味で使われる。
【0024】
本明細書において、FIXとFcRn結合タンパク質との融合体とは、FIXとFcRn結合タンパク質とが融合(共有結合)したタンパク質をいう。一態様において、FcRn結合タンパク質との融合体とは、FIX-ヒンジ-CH2-CH3とヒンジ-CH2-CH3の会合体である。尚、本発明においてFcとの融合体は、「-Fc」とも記載する。
【0025】
本明細書において、FIX、FcRn結合タンパク質およびGLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片との融合体とは、FIX、FcRn結合タンパク質およびGLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片を含み、FIXがFcRn結合タンパク質および、GLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片のいずれか、または両方と融合(共有結合)したタンパク質をいう。例えば、FIXとFcRn結合タンパク質とが共有結合し、さらにFcRn結合タンパク質とGLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片とが共有結合した融合体であってもよい。一態様において、当該融合体とは、FIXおよびGLAドメインを認識する抗体又はその抗体断がそれぞれFcと共有結合している融合体である。また、例えば、FIXとGLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片とが共有結合し、さらに当該GLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片とFcRn結合タンパク質とが共有結合した融合体であってもよい。また、FIXがFcRn結合タンパク質及びGLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片と、それぞれ共有結合した融合体であってもよい。
【0026】
FIXをコードするDNAは前述した公知のヒトFIXをコードするDNAを基に作製することができる。アミノ酸残基の置換、挿入あるいは欠損は当業者に公知の方法で行うことが出来る。
アミノ酸残基を置換する場合には、別のアミノ酸残基に置換することで、例えば次の(a)~(c)のような点について改変する事を目的とする。
(a) シート構造、若しくは、らせん構造の領域におけるポリペプチドの背骨構造;
(b) 標的部位における電荷若しくは疎水性、または
(c)側鎖の大きさ。
アミノ酸残基は一般の側鎖の特性に基づいて以下のグループに分類される:
(1) 疎水性: ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile;
(2) 中性親水性: cys、ser、thr、asn、gln;
(3) 酸性: asp、glu;
(4) 塩基性: his、lys、arg;
(5) 鎖の配向に影響する残基: gly、pro;及び
(6) 芳香族性: trp、tyr、phe。
これらの各グループ内でのアミノ酸残基の置換は保存的置換と呼ばれ、一方、他グループ間同士でのアミノ酸残基の置換は非保存的置換と呼ばれる。本発明における置換は、保存的置換であってもよく、非保存的置換であってもよく、また保存的置換と非保存的置換の組合せであってもよい。保存的置換によって、元のアミノ酸残基と性状が似ているアミノ酸残基に置換されるので、ポリペプチド全体の理化学的性状や生物学的活性に与える影響を小さくすることができる。
【0027】
アミノ酸配列の改変は、当分野において公知の種々の方法により調製される。これらの方法には、次のものに限定されるわけではないが、部位特異的変異誘導法(Hashimoto-Gotoh, T, Mizuno, T, Ogasahara, Y, and Nakagawa, M. (1995) An oligodeoxyribonucleotide-directed dual amber method for site-directed mutagenesis. Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Oligonucleotide-directed mutagenesis of DNA fragments cloned into M13 vectors.Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer,W, Drutsa,V, Jansen,HW, Kramer,B, Pflugfelder,M, and Fritz,HJ(1984) The gapped duplex DNA approach to oligonucleotide-directed mutation construction. Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Oligonucleotide-directed construction of mutations via gapped duplex DNA Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA(1985) Rapid and efficient site-specific mutagenesis without phenotypic selection.Proc Natl Acad Sci U S A. 82, 488-492)、PCR変異法、カセット変異法等の方法により行うことができる。
【0028】
FIXは当業者に公知の遺伝子組換え技術を用いて作製することが可能である。具体的には、FIXをコードするDNAを構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させればよい。
ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Scriptなどが挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM-T、pDIRECT、pT7などを用いることができる。
FIXを生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1-Blueなどの大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーター、araBプロモーター、またはT7プロモーターなどを持っていることが不可欠である。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX-5X-1、pEGFP、またはpETなどが挙げられる。
【0029】
また、ベクターには、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。ポリペプチド分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えばリポフェクチン法、リン酸カルシウム法、DEAE-Dextran法を用いて行うことができる。
大腸菌発現ベクターの他、例えば、ポリペプチドを製造するためのベクターとしては、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(Invitrogen社製)や、pEGF-BOS 、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac-to-BAC baculovairus expression system」(GIBCO BRL社製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(Invitrogen社製)、pNV11、SP-Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)が挙げられる。
【0030】
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター、MMTV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター、CAGプロモーター、CMVプロモーターなどを持っていることが不可欠であり、形質転換細胞を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13などが挙げられる。
【0031】
FIXを生産する際、ビタミンKエポキシド還元酵素(VKOR)、ビタミンK依存性γ-グルタミルカルボキシラーゼ(GGCX)およびフューリンのいずれか、またはこれら二以上の組み合わせを発現する細胞を用いてもよい。GGCXはGla化を促進する酵素であり、その補酵素であるビタミンKはVKORにより産生される。GGCXはFIXのプロペプチド領域に結合しGla化を促進する。フューリンはプロペプチド領域を切断する。実施例においても確認されたように、VKORおよびフューリン、とFIXの共発現によって、FIXのビタミンK依存性のGal化が抑制される結果、GLAドメインのGla化レベルが低下する。その結果、FIX自体を天然型アミノ酸配列のままで発現した場合であっても、Gla化レベルが低下したポリペプチドとして回収することができる。
VKOR、GGCXおよびフューリンのいずれか、またはこれら二つ以上を同一のベクターに組み込んでもよく、別々のベクターに組み込んでもよい。またVKOR、GGCXおよびフューリンのいずれか、またはこれら二つ以上をFIXと同じベクターに組み込んでもよい。 また、VKOR、GGCXおよびフューリンは同時に発現させてもよく、順次発現させてもよい。
ヒトのGGCXのDNA配列(GenBank: KJ891238.1, Wu, S.-M., Cheung, W.-F., Frazier, D., Stafford, D. W. Science 254: 1634-1636, 1991)は、米国特許5,268,275号に記載されている。ヒトVKORのDNAは、2004年(Li et al., Nature 427:541-543, 2004, Rost et al., Nature 427:537-541, 2004)に記載されている。
フューリンはカルシウム依存性の対塩基性アミノ酸変換酵素(PACE)であり、特定の配列内のアルギニンのC末端ペプチド結合を特異的に切断する。フューリンはいくつかのヒトプロタンパク質の成熟に関与している。フューリンをコードするDNAおよびアミノ酸配列はすでに公知である(EMBO J. 5: 2197-2202, 1986)。
【0032】
さらに、遺伝子を安定的に発現させ、かつ、細胞内での遺伝子のコピー数の増幅を目的とする場合には、核酸合成経路を欠損したCHO細胞にそれを相補するDHFR遺伝子を有するベクター(例えば、pCHOIなど)を導入し、メトトレキセート(MTX)により増幅させる方法が挙げられ、また、遺伝子の一過性の発現を目的とする場合には、SV40 T抗原を発現する遺伝子を染色体上に持つCOS細胞を用いてSV40の複製起点を持つベクター(pcDなど)で形質転換する方法が挙げられる。
【0033】
複製開始点としては、また、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることもできる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0034】
FIXの回収は、例えば、形質転換した細胞を培養した後、分子形質転換した細胞の細胞内又は培養液より分離することによって行うことが出来る。FIXの分離、精製は、遠心分離、硫安分画、塩析、限外濾過、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーなどの方法を適宜組み合わせて行うことができる。
【0035】
本発明で使用する抗体は特に制限されないが、モノクローナル抗体であることが好ましい。モノクローナル抗体としては、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヒツジ、ラクダ、サル等の動物由来のモノクローナル抗体だけでなく、キメラ抗体、ヒト化抗体、二重特異性抗体など人為的に改変した遺伝子組換え型抗体も含まれる。組換え型抗体は、それをコードするDNAをハイブリドーマ、または抗体を産生する感作リンパ球等の抗体産生細胞からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主(宿主細胞)に導入し産生させることにより得ることができる。
【0036】
ヒト抗体の取得方法は既に知られており、例えば、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を目的の抗原で免疫することで目的のヒト抗体を取得することができる(国際特許出願公開番号WO 93/12227, WO 92/03918,WO 94/02602, WO 94/25585,WO 96/34096, WO 96/33735参照)。
【0037】
遺伝子組換え型抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。具体的には、たとえばキメラ抗体は、免疫動物の抗体のH鎖およびL鎖の可変領域と、ヒト抗体のH鎖およびL鎖の定常領域からなる抗体である。免疫動物由来の抗体の可変領域をコードするDNAを、ヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることによって、キメラ抗体を得ることができる。
【0038】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される遺伝子組換え型抗体である。ヒト化抗体は、免疫動物由来の抗体のCDRを、ヒト抗体のCDRへ移植することによって構築される。その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP 239400、国際特許出願公開番号WO 96/02576、Sato K et al, Cancer Research 1993, 53: 851-856、国際特許出願公開番号WO 99/51743参照)。
【0039】
本発明で使用する抗体断片は、特に制限されないが、完全抗体が認識する抗原に結合する当該完全抗体の一部分を含む、当該完全抗体以外の分子のことをいう。抗体断片の例は、これらに限定されるものではないが、Fv、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')2、ダイアボディ、線状抗体、単鎖抗体分子(例えば、scFv)および、抗体断片から形成された多重特異性抗体を含む。
【0040】
抗体修飾物としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を挙げることができる。本発明に使用する抗体には、これらの抗体修飾物も包含される。本発明に使用する抗体修飾物においては、結合される物質は限定されない。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野において既に確立されている。
【0041】
あるいは本発明は、更に別の態様において、GLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片を、FIXに非共有結合させることによって、GLAドメインを修飾することもできる。GLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片はGla残基を有するGLAドメインを特異的に認識する抗体であってもよい。以下、本発明において、GLAドメインに非共有結合して、当該部分を修飾する抗体又はその抗体断片を、「GLAドメイン修飾抗体又はその抗体断片」という。具体的には、予めGLAドメイン修飾抗体又はその抗体断片を、FIXに接触させて、GLAドメインが修飾されたFIXを得、当該FIXを投与することができる。あるいは、FIXとともにGLAドメイン修飾抗体又はその抗体断片を投与して、投与されるFIXを生体中で修飾することもできる。
更に本発明は、GLAドメイン修飾抗体又はその抗体断片を、FIXに非共有結合させ、ついで前記抗体でGLAドメインが修飾されたFIXを単離する工程を含む、修飾されたGLAドメインを有するFIXの製造方法を提供する。あるいは本発明は、予めGLAドメイン修飾抗体又はその抗体断片をFIXに共有結合させ、GLAドメインが修飾されたFIXを対象に投与する工程含む、FIX欠損疾患の治療および予防のいずれか、または両方のための方法に関する。加えて本発明は、GLAドメイン修飾抗体又はその抗体断片を、FIXとともに対象に投与する工程を含む、FIX欠損疾患の治療および予防のいずれか、または両方のための方法に関する。
【0042】
本発明において、「FIX欠損疾患」とは、何らかの病因によって血漿中のFIXレベルが正常な範囲に満たない状態が継続している疾患を言う。ここで、血漿中のFIXレベルとは、FIXのタンパク質レベルと生物学的な活性レベルの両方を含む。したがって、FIXのタンパク質レベル、および生物学的な活性レベルのいずれかが、正常な範囲に満たない場合に、FIX欠損疾患であるという。一般に、成人の健常者の血漿中におけるFIXレベルは、APTT:活性型部分トロンボプラスチン時間によって活性を評価される。したがって、この範囲に満たない場合には、FIX欠損疾患とされる。代表的なFIX欠損疾患は、血友病Bである。
【0043】
GLAドメイン修飾抗体又はその抗体断片は、公知の方法によって得ることができる。すなわち、GLAドメインを有するFIX、あるいはそのGLAドメインの少なくとも一部を含むポリペプチド、またはGla残基を有するGLAドメインを有するFIX、あるいはそのGLAドメインの少なくとも一部を含むポリペプチドを免疫原として必要な抗体を得ることができる。抗体又はその抗体断片は、必要に応じ、GLAドメインに対する特異性あるいはGla残基を有するGLAドメインに対する特異性を確認して、GLAドメイン修飾抗体又はその抗体断片を選択することができる。GLAドメイン修飾抗体又はその抗体断片の、FIX修飾能は、例えば実施例に記載したように、実際に修飾されたFIXとともに薬物動態評価用モデル動物に投与して、その血漿中薬物動態を評価することによって知ることができる。本発明において、GLAドメイン修飾抗体又はその抗体断片は、好ましくはモノクローナル抗体である。また、本発明のGLAドメイン修飾抗体断片は、そのFIX修飾能が維持される限り、FabやF(ab')2、あるいはscFv等であることもできる。あるいは、投与される動物に合ったFcを組み合わせて、キメラ化することもできる。たとえば、ヒトへの投与を目的とする場合には、ヒトFcを利用することができる。更に、可変領域内のCDRを残してヒト配列に組み替えることによって、GLAドメイン修飾抗体又はその抗体断片をヒト化することもできる。
【0044】
本明細書における抗体又はその抗体断片のGLAドメインもしくはGla残基への非共有結合を評価するにはカルシウム存在下もしくは非存在下でSPRやELISAなどの当業者に一般的に知られている方法を用いて検証できる。
【0045】
別の局面において、本発明は、GLAドメインを修飾する工程を含むFIXの血漿中半減期及び/又はバイオアベイラビリティを改善する方法を提供する。あるいは本発明は、GLAドメインを修飾する工程を含む、FIXの血漿中半減期およびバイオアベイラビリティのいずれか、または両方を改善する方法を提供する。
別の局面において、本発明は、GLAドメインを修飾する工程を含む、FIXの血漿中半減期およびバイオアベイラビリティのいずれか、または両方を改善する方法であって、前記修飾する工程は、以下の(i)~(iv)からなる群より選択される一以上の工程である前記方法に関する。
(i)GLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片をGLAドメインに非共有結合させる工程
(ii)天然型と比較し、GLAドメインにおけるGla残基数を減少させる工程
(iii)GLAドメインにおける一以上のグルタミン酸残基の欠損、および他のアミノ酸への置換のいずれか、または両方を行う工程
(iv)GLAドメインの一部又は全部を欠損させる工程
【0046】
また、別の局面において、本発明は、GLAドメインを修飾する工程を含むFIXの血漿中半減期及び/又はバイオアベイラビリティを制御する方法を提供する。あるいは本発明は、GLAドメインを修飾する工程を含む、FIXの血漿中半減期およびバイオアベイラビリティのいずれか、または両方を制御する方法を提供する。
別の局面において、本発明は、本発明は、GLAドメインを修飾する工程を含む、FIXの血漿中半減期およびバイオアベイラビリティのいずれか、または両方を制御する方法であって、前記修飾する工程は、以下の(i)~(iv)からなる群より選択される一以上の工程である前記方法に関する。
(i)GLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片をGLAドメインに非共有結合させる工程
(ii)天然型と比較し、GLAドメインにおけるGla残基数を減少させる工程
(iii)GLAドメインにおける一以上のグルタミン酸残基の欠損、および他のアミノ酸への置換のいずれか、または両方を行う工程
(iv)GLAドメインの一部又は全部を欠損させる工程
本発明において、FIXの血漿中半減期の制御とは、通常、血漿中半減期の延長を指す。すなわち本発明は、GLAドメインを修飾する工程を含む、FIXの血漿中半減期の延長方法に関する。同様に、本発明における「バイオアベイラビリティ」の改善は、通常は、バイオアベイラビリティを高めることを指す。したがって本発明は、GLAドメインを修飾する工程を含む、FIXのバイオアベイラビリティを高める方法に関する。
【0047】
また、別の局面において、本発明は、GLAドメインを修飾する工程を含むFIXの血漿中半減期及び/又はバイオアベイラビリティが改善したFIXを製造する方法を提供する。あるいは本発明は、GLAドメインを修飾する工程を含む、FIXの血漿中半減期およびバイオアベイラビリティのいずれか、または両方が改善したFIXを製造する方法を提供する。
別の局面において、本発明は、GLAドメインを修飾する工程を含む、FIXの血漿中半減期およびバイオアベイラビリティのいずれか、または両方が改善したFIXを製造する方法であって、前記修飾する工程は、以下の(i)~(iv)からなる群より選択される一以上の工程である方法に関する。
(i)GLAドメインを認識する抗体又はその抗体断片をGLAドメインに非共有結合させる工程
(ii)天然型と比較し、GLAドメインにおけるGla残基数を減少させる工程
(iii)GLAドメインにおける一以上のグルタミン酸残基の欠損、および他のアミノ酸への置換のいずれか、または両方を行う工程
(iv)GLAドメインの一部又は全部を欠損させる工程
本発明において、FIXの血漿中半減期およびバイオアベイラビリティのいずれか、または両方が改善したFIXを製造する方法は、GLAドメインが修飾されたFIXを単離する工程を含むことができる。
【0048】
本発明におけるFIXとGLAドメインを認識する抗体またはその抗体断片との複合体は、GLAドメインを認識する抗体またはその抗体断片がFIXを特異的に認識して非共有結合している結合体であってもよく、またはGLAドメインを認識する抗体またはその抗体断片とFIXがリンカー等を介して連結している連結体であってもよい。また、その連結体において、GLAドメインを認識する抗体またはその抗体断片がFIXを特異的に認識して非共有結合していてもよい。当該複合体はFc融合体であってもよい。
【0049】
別の局面において、本発明は、FIX又は複合体を有効成分として含有する医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、FIX又は複合体に加えて医薬的に許容し得る担体を導入し、公知の方法で製剤化することが可能である。すなわち本発明は、FIX又は複合体と医薬的に許容し得る担体を配合あるいは混合する工程を含む、医薬組成物の製造方法を提供する。あるいは本発明は、FIX又は複合体を含む、FIX欠損疾患の治療および予防のいずれか、または両方のための医薬組成物を提供する。さらに本発明は、FIX欠損疾患の治療および予防のいずれか、または両方のための医薬組成物の製造における、FIX又は複合体の使用に関する。また本発明は、FIX欠損疾患の治療および予防のいずれか、または両方におけるFIX又は複合体の使用に関する。
【0050】
例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を担体として挙げることができる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な容量が得られるようにするものである。
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0051】
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50と併用してもよい。
【0052】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0053】
投与は好ましくは非経口投与であり、具体的には、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型などが挙げられる。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。
【0054】
また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。本発明の医薬組成物の投与量としては、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは、例えば、患者あたり0.001から100000 mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができるが、これらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量、投与方法は、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0055】
一局面において、本発明の医薬組成物は、FIXおよび/またはFIXaの活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患の予防および/または治療に用いられる医薬組成物である。特定の態様において、より具体的には、本発明の医薬組成物は、血友病Bの予防および/または治療に用いられる医薬組成物である。
【0056】
本発明によって、FIXの血中薬物動態、およびバイオアベイラビリティのいずれか、あるいは好ましくは両方が改善された。まずFIXの薬物動態の改善により、FIXの血中半減期は、FIX-Fc融合体に比べて2~3倍に延びた。この結果は、FIX-Fcで必要とされていた投与間隔を、2~3倍に延長することを可能とすることを意味する。したがって本発明は、FIXの投与を必要とする対象に、本発明のFIX修飾体を投与する工程を含む対象の治療方法であって、本発明のFIX修飾体を、FIX-Fcで必要とされていた投与間隔の少なくとも2倍、好ましくは3倍以上の投与間隔で投与する、方法を提供する。あるいは本発明は、FIXの投与を必要とする対象に投与するための、本発明のFIX修飾体を含む医薬組成物であって、本発明のFIX修飾体を、FIX-Fcで必要とされていた投与間隔の少なくとも2倍、好ましくは3倍以上の投与間隔で投与するための組成物を提供する。更に本発明は、本発明のFIX修飾体の、FIXの投与を必要とする対象の治療における使用であって、本発明のFIX修飾体を、FIX-Fcで必要とされていた投与間隔の少なくとも2倍、好ましくは3倍以上の投与間隔で投与するための使用に関する。別の態様において、本発明は、FIXの投与を必要とする対象の治療のための医薬組成物の製造における本発明のFIX修飾体の使用であって、本発明のFIX修飾体を、FIX-Fcで必要とされていた投与間隔の少なくとも2倍、好ましくは3倍以上の投与間隔で対象に投与するための医薬組成物の製造における使用をも提供する。
【0057】
次に本発明は、FIXのバイオアベイラビリティの改善をもたらした。バイオアベイラビリティの改善によって、本発明のFIX修飾体は、FIXの投与を必要とする対象の皮下に投与することで、FIX-Fc融合体を静脈投与した場合と同等の治療効果を得ることができる。したがって、本発明は、FIXの投与を必要とする対象に、本発明のFIX修飾体を投与する工程を含む対象の治療方法であって、本発明のFIX修飾体を、対象の皮下に投与する方法を提供する。あるいは本発明は、FIXの投与を必要とする対象に投与するための、本発明のFIX修飾体を含む医薬組成物であって、本発明のFIX修飾体を対象の皮下に投与するための組成物を提供する。更に本発明は、本発明のFIX修飾体の、FIXの投与を必要とする対象の治療における使用であって、本発明のFIX修飾体を対象の皮下に投与するための使用に関する。別の態様において、本発明は、FIXの投与を必要とする対象の治療のための医薬組成物の製造における本発明のFIX修飾体の使用であって、本発明のFIX修飾体を対象の皮下に投与するための医薬組成物の製造における使用をも提供する。
【0058】
なお本明細書で用いられているアミノ酸の3文字表記と1文字表記の対応は以下の通りである。
アラニン:Ala:A
アルギニン:Arg:R
アスパラギン:Asn:N
アスパラギン酸:Asp:D
システイン:Cys:C
グルタミン:Gln:Q
グルタミン酸:Glu:E
グリシン:Gly:G
ヒスチジン:His:H
イソロイシン:Ile:I
ロイシン:Leu:L
リジン:Lys:K
メチオニン:Met:M
フェニルアラニン:Phe:F
プロリン:Pro:P
セリン:Ser:S
スレオニン:Thr:T
トリプトファン:Trp:W
チロシン:Tyr:Y
バリン:Val:V
【0059】
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0060】
〔実施例1〕FIX-Fcのマウスにおける薬物動態に及ぼすGLAドメインの影響
1-1.GLAドメイン欠損FIX-Fcの調製
FIXとヒトIgG1のFcの融合蛋白質であるFIX-Fc(Alprolix)の半減期は約82時間であり、半減期が約18時間のFIXと比較して半減期が4~5倍程度延長しているが、同じヒトIgG1のFcを有するモノクローナル抗体の2~3週間の半減期と比較すると、大幅に半減期が短い。
この短い半減期の原因はこれまで報告されていない。そこで我々はFIX-Fcの蛋白質のうちFIXのGLAドメインがこの短い半減期の原因ではないか、という仮説を立てた。そこで、GLAドメインが欠損したFIX-Fcの分子(FIX-Fc GLA Domain Less; FIX-Fc DL)を調製した。以下、本願では特に断らないかぎりFIXはヒトFIXを使用した。
FIX-Fc DLの発現は以下の通りに行った。FIX-DL-hinge-CH2-CH3(配列番号2)とhinge-CH2-CH3(配列番号3)をコードする発現ベクターを当業者公知の方法で作成し、Expi293 (Life technologies)の一過性発現システムを用いて遺伝子導入を行った。遺伝子導入後、2日目にエンハンサー(Life technologies)とともにビタミンK1(Sigma-Aldrich)を添加し、培養上清を5日目に回収した。得られた培養上清から、HiTrap Heparin HP 1 mL(GE Healthcare)とSuperdex200 10/300 increase (GE Healthcare)を用いて当業者公知の方法でFIX-Fc DLを精製し、PACE法を用いて濃度を算出した。
【0061】
1-2.AlprolixとFIX-Fc DLのマウスにおける薬物動態評価
マウスを用いた薬物動態試験(PK試験)が下記の方法で実施された。マウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)の尾静脈(IV)あるいは背部皮下(SC)に、Alprolix(商品名;FIXとFcの融合タンパク)あるいはFIX-Fc DLが2mg/kgで単回投与された。投与後5分、2時間、4時間、7時間、1日、3日、7日、14日、28日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
【0062】
マウス血漿中のAlprolixおよびFIX-Fc DLの濃度はELISA法にて測定された。具体的には、抗ヒトFIX抗体固相化プレート(AssayPro)に血漿中濃度として10.0、5.00、2.50、1.25、0.625、0.313、0.156 μg/mLのAlprolixまたはFIX-Fc DLを含む検量線試料と100倍以上希釈されたマウス血漿試料が調製され、抗ヒトFIX抗体固相化プレートの各ウェルに50 μLで分注されてから、室温で2時間撹拌させた。その後、ビオチン抗ヒトFIX抗体(AssayPro)を室温で1時間反応させた。次いで、反応後のプレートを洗浄し、さらにSP conjugate(AssayPro)を室温で30分反応させた。反応後の反応液の発色反応がChromogen substrate(AssayPro)を基質として行われた。反応停止液(AssayPro)を添加することによって反応が停止された各ウェルの反応液の450 nmの吸光度が、マイクロプレートリーダーにて測定された。マウス血漿中のAlprolixおよびFIX-Fc DL濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。
【0063】
AlprolixあるいはFIX-Fc DLをマウスに静脈内あるいは皮下投与した後の血漿中濃度推移を
図1に示した。Alprolixと比較してFIX-Fc DLは大幅に暴露が向上し、静脈内あるいは皮下投与のいずれにおいても高い血漿中濃度を維持した。得られた血漿中濃度推移からPKパラメーターを算出し、表1にまとめた
【0064】
【0065】
表1に示すとおり、Alprolixと比較してFIX-Fc DLは皮下投与時に半減期が2.02日から6.99日まで3.46倍向上し、さらにバイオアベイラビリティが32.6%から81.1%まで2.49倍改善した。このことから、FIX-Fcの短い半減期と低いバイオアベイラビリティの主な原因はFIXのGLAドメインの分子構造に起因することが明らかとなった。
【0066】
〔実施例2〕FIX-Fcのマウスにおける薬物動態に及ぼすGLAドメイン中のGla化の及ぼす影響
2-1.Gla化欠損FIX-Fcの調製
実施例1の結果からFIX-Fcの短い半減期と低いバイオアベイラビリティの主な原因はFIXのGLAドメインの分子構造に起因することが明らかとなった。 次にこのGLAドメインのうち、どのアミノ酸が寄与しているかの検討を行った。そこで我々はGLAドメインのうち翻訳後修飾によってグルタミン酸(Glu)がGla化によって出来るGlaアミノ酸がこの短い半減期の原因ではないか、という仮説を立てた。そこで、Gla化が欠損した(すなわちGLAドメインのGluはGluのまま)FIX-Fcの分子(FIX-Fc Gla Modification Less; FIX-Fc ML)を調製した。
【0067】
FIX-Fc MLの発現は以下の通りに行った。FIX-hinge-CH2-CH3(配列番号4)とhinge-CH2-CH3(配列番号3)をコードする発現ベクターを当業者公知の方法で作成し、Expi293 (Life technologies)の一過性発現システムを用いてFurin/VKORとともに遺伝子導入を行った。遺伝子導入後、2日目にエンハンサー(Life technologies)とともにビタミンK1(Sigma-Aldrich)を添加し、5日目に培養上清を回収した。得られた培養上清から、HiTrap MabSelect Sure 5 mL (GE Healthcare)、HiLoad Superdex200 PG 26/60 (GE Healthcare) カラムを用いて当業者公知の方法でFIX-Fc MLを精製し、PACE法を用いて濃度を算出した。
【0068】
精製されたFIX-Fc MLのGla数の評価は、公知の方法(Method Mol Biol. 2016 446:85-94.)に準じて行った。すなわち、FIX-Fcを窒素ガス封入減圧下でKOHを用い、110℃で20時間、アルカリ加水分解した後、過塩素酸で中和した。中和後、加水分解物にエタンチオール共存下でo-フタルアルデヒドを反応させ蛍光標識した。標識後、Zorbax Eclipse AAAカラムを用いた逆相HPLCにより分析し、加水分解物中のアミノ酸の濃度を測定した。アスパラギン酸の濃度をもとにFIX-Fc分子中のGla数を算出した結果、FIX-Fc ML中のGla数は0.6であった。同時に測定したAlporlix分子中のGla数は12.4となり、報告されている数値11.2±0.5(Blood. 2010 Mar 11;115(10):2057-64.)に近い値であった。
【0069】
2-2.AlprolixとFIX-Fc MLのマウスにおける薬物動態評価
マウスを用いたPK試験が下記の方法で実施された。マウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)の尾静脈あるいは背部皮下に、AlprolixあるいはFIX-Fc MLが2mg/kgで単回投与された。投与後5分、2時間、4時間、7時間、1日、3日、7日、14日、28日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
【0070】
マウス血漿中のAlprolixおよびFIX-Fc MLの濃度はELISA法にて測定された。具体的には、抗ヒトFIX抗体固相化プレート(AssayPro)に血漿中濃度として10.0、5.00、2.50、1.25、0.625、0.313、0.156 μg/mLのAlprolixまたはFIX-Fc MLを含む検量線試料と100倍以上希釈されたマウス血漿試料が調製され、抗ヒトFIX抗体固相化プレートの各ウェルに50 μLで分注されてから、室温で2時間撹拌させた。その後、ビオチン抗ヒトFIX抗体(AssayPro)を室温で1時間反応させた。プレートを洗浄後、さらにSP conjugate(AssayPro; Streptavidin-Peroxidase Conjugate)を室温で30分反応させた。反応後の反応液を除いてプレートを洗浄後、発色反応がChromogen substrate(AssayPro)を基質として行われた。反応停止液(AssayPro)を添加することによって反応が停止された各ウェルの反応液の450 nmの吸光度が、マイクロプレートリーダーにて測定された。マウス血漿中のAlprolixおよびFIX-Fc ML濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。
【0071】
AlprolixあるいはFIX-Fc MLをマウスに静脈内あるいは皮下投与した後の血漿中濃度推移を
図2に示した。Alprolixと比較してFIX-Fc MLは大幅に暴露が向上し、静脈内あるいは皮下投与のいずれにおいても高い血漿中濃度を維持した。
図1と
図2の比較より、FIX-Fc DLとFIX-Fc MLの血漿中濃度推移はほぼ同等であった。得られた血漿中濃度推移からPKパラメーターを算出し、表2にまとめた。
【0072】
【0073】
表2に示すとおり、Alprolixと比較してFIX-Fc MLは皮下投与時に半減期が2.02日から7.00日まで3.47倍向上し、さらにバイオアベイラビリティが32.6%から85.5%まで2.62倍改善した。このことから、FIX-Fcの短い半減期と低いバイオアベイラビリティの主な原因はFIXのGla化(すなわちグルタミン酸の翻訳後修飾によって出来るGlaアミノ酸)に起因することが明らかとなった。
【0074】
〔実施例3〕FIX-FcおよびGla化欠損FIX-Fcのカニクイザルにおける薬物動態
カニクイザルを用いたPK試験が下記の方法で実施された。カニクイザル(カンボジア産)の静脈あるいは皮下に、AlprolixあるいはFIX-Fc MLが1mg/kgで単回投与された。投与後10分、30分、2時間、7時間、1日、2日、4日、7日、14日、28日、56日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、13,000 rpmで10分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
【0075】
カニクイザル血漿中のAlprolixおよびFIX-Fc MLの濃度はELISA法にて測定された。具体的には、Anti-Human IgG(Southern Biotech)をNunc-Immuno Plate, MaxiSoup (Nalge nunc International)に分注し、5℃で1晩静置した後に1%BSA(w/v)および1mg/mL Goat IgGを含有したPBS-Tween溶液を用いて1時間ブロッキングすることによってAnti-Human IgG固相化プレートが作製された。血漿中濃度として3.00、1.50、0.750、0.375、0.188、0.0938、0.0469 μg/mLのAlprolixおよびFIX-Fc MLを含む検量線試料と100倍以上希釈されたカニクイザル血漿試料が調製され、Anti-Human IgG固相化プレートの各ウェルに100 μLで分注されてから、室温で1時間撹拌させた。その後、ビオチン抗ヒトFIX抗体(社内調製)を室温で1時間反応させた後、さらにStreptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)を室温で1時間反応させた。反応液を除去してプレートを洗浄後、発色反応が、ABTS(Roche Diagnostics)を基質として用いて行われた。各ウェルの反応液の405 nmの吸光度が、490 nmの吸光度をリファレンスとしてマイクロプレートリーダーにて測定された。カニクイザル血漿中のAlprolixおよびFIX-Fc ML濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。
【0076】
AlprolixあるいはFIX-Fc MLをカニクイザルに静脈内あるいは皮下投与した後の血漿中濃度推移を
図3に示した。Alprolixと比較してFIX-Fc MLは大幅に暴露が向上し、静脈内あるいは皮下投与のいずれにおいても高い血漿中濃度を維持した。得られた血漿中濃度推移からPKパラメーターを算出し、表3にまとめた。
【0077】
【0078】
表3に示すとおり、Alprolixと比較してFIX-Fc MLは皮下投与時に半減期が4.35日から7.50日まで1.72倍向上し、さらにバイオアベイラビリティが29.7%から56.9%まで1.92倍改善した。このことから、FIX-Fcの短い半減期と低いバイオアベイラビリティの主な原因はFIXのGla化(すなわちグルタミン酸の翻訳後修飾によって出来るGlaアミノ酸)に起因することが明らかとなった。
【0079】
〔実施例4〕FIXのGLAドメインを認識する抗体を投与することによるFIXの薬物動態への影響
4-1.FIXのGLAドメインを認識する抗体の調製
ヒトFIXaを用いて動物を免疫することによって得られた抗体Aの重鎖(配列番号5)と軽鎖(配列番号6)およびWO2001087339のSB249417を参考にして遺伝子を全合成した抗体Bの重鎖(配列番号7)と軽鎖(配列番号8)をコードする発現ベクターをそれぞれ当業者公知の方法で作製し、FS293 (Life technologies)の一過性発現システムを用いて当業者公知の方法で抗体を調製した。得られた培養上清から、当業者公知の方法により抗体A、Bをそれぞれ精製し、PACE法を用いて濃度を算出した。抗体AはEGFドメインを認識するのに対して、抗体BはGLAドメインを認識する抗体である。
【0080】
4-2.抗FIX抗体とFIXの同時投与薬物動態試験
マウスを用いたPK試験が下記の方法で実施された。マウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)の尾静脈あるいは背部皮下に、FIX(クリスマシンM静注用)を0.6mg/kgの用量で、単独、あるいは、8mg/kgの抗FIX抗体Aもしくは抗FIX抗体Bと同時に単回投与された。投与後5分、2時間、4時間、7時間、1日、2日、7日、14日、21日、28日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
【0081】
マウス血漿中のFIX濃度はELISA法にて測定された。具体的には、抗ヒトFIX抗体固相化プレート(AssayPro)に血漿中濃度として10.0、5.00、2.50、1.25、0.625、0.313、0.156 μg/mLのFIXを含む検量線試料と100倍以上希釈されたマウス血漿試料が調製され、抗ヒトFIX抗体固相化プレートの各ウェルに50 μLで分注されてから、室温で2時間撹拌させた。その後、ビオチン抗ヒトFIX抗体(AssayPro)を室温で1時間反応させた。プレートを洗浄後、さらにSP conjugate(AssayPro)を室温で30分反応させた。反応液を除いてプレートを洗浄後、発色反応がChromogen substrate(AssayPro)を基質として行われた。反応停止液(AssayPro)を添加することによって反応が停止された各ウェルの反応液の450 nmの吸光度が、マイクロプレートリーダーにて測定された。マウス血漿中のFIX濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。
【0082】
マウス血漿中の抗FIX抗体Aもしくは抗FIX抗体B共存下におけるFIXの濃度はELISA法にて測定された。具体的には、抗ヒトFIX抗体固相化プレート(AssayPro)に血漿中濃度として10.0、5.00、2.50、1.25、0.625、0.313、0.156 μg/mLのFIXを含む検量線試料と100倍以上希釈されたマウス血漿試料が2μg/mLの抗FIX抗体Aもしくは抗FIX抗体Bを含有するアッセイバッファーを用いて調製され、抗ヒトFIX抗体固相化プレートの各ウェルに50 μLで分注されてから、室温で2時間撹拌させた。その後、ビオチン抗ヒトFIX抗体(AssayPro)を室温で1時間反応させた。プレートを洗浄後、さらにSP conjugate(AssayPro)を室温で30分反応させた。反応液を除いてプレートを洗浄後、発色反応がChromogen substrate(AssayPro)を基質として行われた。反応停止液(AssayPro)を添加することによって反応が停止された各ウェルの反応液の450 nmの吸光度が、マイクロプレートリーダーにて測定された。マウス血漿中のFIX濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。
【0083】
マウスの静脈内あるいは皮下にFIX単独投与あるいはFIXと抗FIX抗体Aもしくは抗FIX抗体Bと同時投与した後のFIX血漿中濃度推移を
図4に示した。FIX単独と比較してFIXと抗FIX抗体Aもしくは抗FIX抗体Bを同時に投与することによってFIXは大幅に暴露が向上した。FIXの暴露向上に対する影響は抗FIX抗体Aと比較して抗FIX抗体Bの方が強く、静脈内および皮下投与時において高い血漿中濃度を維持した。得られた血漿中濃度推移からPKパラメーターを算出し、表4にまとめた。
【0084】
【0085】
表4に示すとおり、抗FIX抗体BによってGla化の薬物動態悪化機能を阻害することで、FIXの血漿中半減期は抗FIX抗体Aによる1.01日から3.13日まで3.10倍向上した。 抗FIX抗体Aとの同時皮下投与時にはFIXのCmaxは0.217ug/mLだったが、抗FIX抗体Bと同時皮下投与することによってCmaxは2.16ug/mLになり、9.95倍向上した。また、抗FIX抗体Aとの同時皮下投与時にはFIXのBAは算出できなかったが、抗FIX抗体Bと同時皮下投与した際のBAは63.1%と良好であった。
このことから、Gla化あるいはGLAドメインを抗体で中和することで、FIX-Fcの短い半減期と低いバイオアベイラビリティは大幅に改善できることが確認された。
【0086】
〔実施例5〕発現条件によりGla化数をコントロールしたFIX-Fcの調製および薬物動態の評価
5-1.Gla化数をコントロールしたFIX-Fcの調製
FIX-FcのGLAドメインにおけるグルタミン酸(E)をコードする塩基配列をN末から順に1つずつグルタミン(Q)もしくはアスパラギン酸(D)をコードする塩基配列に変更した発現ベクターを作成した。本ベクターを用いてFIX-Fcを発現させた場合、12個中常に1か所はGla化されていないFIX-Fcが発現されることが予想される。本発現ベクターを用いてGla化数をコントロールしたFIX-Fc(FIX-Fc Modification controlled; FIX-Fc MC)を調製した。
【0087】
FIX-Fc MCの発現は以下の通りに行った。FIX-hinge-CH2-CH3(配列番号4)とhinge-CH2-CH3(配列番号5)をコードする発現ベクターを当業者公知の方法で作成し、Expi293(Life technologies)の一過性発現システムを用いてFurin/VKORとともに遺伝子導入を行った。遺伝子導入後、2日目にエンハンサー(Life technologies)とともにビタミンK1(Sigma-Aldrich)を添加し、5日目に培養上清を回収した。得られた培養上清から、HiTrap MabSelect Sure 5 mL(GE Healthcare)、HiLoad Superdex200 PG 26/60(GE Healthcare)カラムを用いて当業者公知の方法でFIX-Fc MCを精製し、PACE法を用いて濃度を算出した。
精製されたFIX-Fc MCのGla数は、実施例2に記載した方法(Method Mol Biol. 2016 446:85-94., Blood. 2010 Mar 11;115(10):2057-64.)により評価する。
【0088】
5-2.抗FIX抗体とFIX-Fc MCの同時投与薬物動態試験
マウスを用いたPK試験を下記の方法で実施する。マウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)の尾静脈あるいは背部皮下に、FIX-Fc MCを単独、あるいは、抗FIX抗体Aもしくは抗FIX抗体Bと同時に単回投与する。投与後一定時間ごとに採血し遠心分離することによって、血漿を得る。マウス血漿中のFIX-Fc MC濃度はELISA法にて測定される。血漿中濃度推移からPKパラメーターを算出する。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によって、FIXの血中薬物動態、およびバイオアベイラビリティのいずれか、あるいは好ましくは両方が改善された。FIXの血中薬物動態の改善によって、FIXの投与を必要とする患者に、公知のFIX製剤に比べて、より長い投与間隔で投与した場合であっても、同等の効果を得ることができる。あるいは、FIXのバイオアベイラビリティの改善は、FIXの投与を必要とする患者に、静脈投与に依存せず皮下投与による投与を可能とする。体表面から静脈へのアクセスが可能な位置に投与位置が限られる静脈投与とは異なり、皮下投与は、幅広い場所に投与することができる投与方法である。そのため、特に長期にわたる投与を必要とするFIX欠損疾患の患者の、治療負担を低下させることができる。
【配列表】