(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】農業用途向けのナトリウム水、高塩度水、または高ナトリウム水の水処理
(51)【国際特許分類】
C02F 1/469 20230101AFI20230413BHJP
B01D 61/44 20060101ALI20230413BHJP
B01D 61/52 20060101ALI20230413BHJP
B01D 61/54 20060101ALI20230413BHJP
B01D 61/46 20060101ALI20230413BHJP
C02F 1/20 20230101ALI20230413BHJP
C02F 1/76 20230101ALI20230413BHJP
C02F 1/78 20230101ALI20230413BHJP
A01G 25/00 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
C02F1/469
B01D61/44 500
B01D61/52 500
B01D61/54
B01D61/46
B01D61/46 500
C02F1/20 Z
C02F1/76 A
C02F1/78
A01G25/00 501
(21)【出願番号】P 2019556182
(86)(22)【出願日】2018-05-08
(86)【国際出願番号】 US2018031588
(87)【国際公開番号】W WO2018208768
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-03-15
(32)【優先日】2017-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513180152
【氏名又は名称】エヴォクア ウォーター テクノロジーズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Evoqua Water Technologies LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】ゲイリー シー ガンジ
(72)【発明者】
【氏名】フレデリック シー ウィルキンス
(72)【発明者】
【氏名】リ-シャン リャン
(72)【発明者】
【氏名】ポール ティー ライス
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-539402(JP,A)
【文献】特表2008-500170(JP,A)
【文献】登録実用新案第3164558(JP,U)
【文献】特開平11-262771(JP,A)
【文献】特開2000-051865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/46- 1/48
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
C02F 1/20- 1/26
C02F 1/30- 1/38
C02F 1/70- 1/78
A01G 25/00-29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
灌漑用途に適した水を提供する方法であって、
酸化化合物を未処理供給水または前処理水に添加することと、前記未処理供給水から鉄、マンガン、硫黄、セレン、重金属、ならびに他の無機物質および有機物質の1つ以上で構成されるin situ被酸化性化合物を沈殿およびろ過することとにより、前記未処理供給水から前記前処理水を生成すること;
前記前処理水を電気透析装置に供給すること;
多価アニオン種および多価カチオン種の一方または双方を優先的に保持して、多価イオンに対する一価イオンの比率が前記前処理水よりも低い処理水のストリームを生成しながら、一価アニオン種および一価カチオン種の一方または双方の一部を前記前処理水から選択的に除去することにより、前記電気透析装置において前記前処理水を処理すること;および
前記処理水を灌漑用水分配システムに導くこと、
を含み、
選択されたアクティブな消耗ストリームの電圧勾配で、前記電気透析装置のアノードおよびカソードの間に電圧を印加することを更に含む、方法。
【請求項2】
前記前処理水より低いナトリウム吸収率(SAR)値を有する処理水、および前記前処理水より高いSAR値を有する濃縮水のストリームを生成することを更に含む、請求項1に記載の方法であって、
前記SAR値は、以下の式:
【数1】
(式中、[Na
+]はナトリウム種の濃度(mol/m
3)であり、[Ca
2+]はカルシウム種の濃度(mol/m
3)であり、[Mg
2+]はマグネシウム種の濃度(mol/m
3)である。)
によって算出される、方法。
【請求項3】
20未満のSAR値を有する処理水を生成することを更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記電気透析装置のアニオン選択膜でのアクティブ分極電圧を超えて、前記電気透析装置のアノードおよびカソードの間に電圧を印加することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記処理水のpHを前記前処理水のpHよりも低くするのに十分な速度で、前記前処理水を前記電気透析装置の希釈区画に流すことを更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記電気透析装置のアニオン透過膜でのアクティブ分極電圧を超えて、前記電気透析装置のアノードおよびカソードの間に電圧を印加することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記処理水のpHを前記前処理水のpHよりも低くするのに十分な流量で、前記前処理水を前記電気透析装置の希釈区画に流すことを更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記電気透析装置のカチオン透過膜でのアクティブ分極電圧を超えて、前記電気透析装置のアノードおよびカソードの間に電圧を印加することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記カチオン透過膜内の間隙水のpHを前記処理水のpHよりも低くするのに十分な流量で、前記前処理水を前記電気透析装置の希釈区画に流すことを更に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
選択されたイオン消耗膜表面速度、pH条件、温度、分極条件、ならびに/または一価アニオンおよび/もしくは一価カチニオンに対する特定の多価アニオンおよび/もしくは多価カチオンの相対的な境界層濃度条件で、前記電気透析装置を動作させて、その結果、水素イオンもしくは水酸化物イオンのin situ生成に関連して、または水素イオンもしくは水酸化物イオンの任意のin situ生成に優先して、アニオン性中間体もしくはカチオン性中間体またはイオン錯体が前記膜表面に形成されることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記アニオン性中間体もしくはカチオン性中間体またはイオン錯体が、これらのアニオンおよび/またはカチオンならびに中性成分が電場の不存在で十分に混合された平衡状態下にある場合より
も、アニオン選択膜およびカチオン選択膜の一方または両方に対して、相対的に透過性が高くなるか、または相対的に不透過性が低くなる条件下で、前記電気透析装置を動作させることを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記前処理水を前記電気透析装置に供給することは、一価および二価のアニオンならびに一価および二価のカチオンを含む前処理水を前記電気透析装置に供給することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記前処理水を前記電気透析装置に供給することは、海水、汽水、淡水、および生成水のうちの前処理された1つを前記電気透析装置に供給することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記前処理水を前記電気透析装置に供給することは、ナトリウムイオンのモル濃度がカルシウムイオンのモル濃度よりも高い水を前記電気透析装置に供給することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記前処理水を前記電気透析装置に供給することは、塩化物イオンのモル濃度が硫酸イオンのモル濃度よりも高い水を前記電気透析装置に供給することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記前処理水から前記一価アニオン種および前記一価カチオン種の一方または双方を選択的に除去することは、多価イオン種のフラクション除去と比較して、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、重炭酸イオン、硝酸イオン、セレン酸水素イオン、亜セレン酸水素イオンおよびその他の一価イオン種の1つ以上のより大きいフラクションを前記前処理水から除去することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記前処理水中の前記多価アニオン種および前記多価カチオン種の一方または双方を保持することは、一価イオン種のフラクション除去と比較して、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、炭酸イオン、セレン酸イオン、亜セレン酸イオン、硫酸イオン、およびその他の多価イオン種の1つ以上のより大きいフラクションを前記前処理水中に保持することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
50マイクロメートル超のサイズを有する粒子状物質を除去するために、未処理供給水をろ過することによって前記前処理水を生成することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記電気透析装置への供給水として前記電気透析装置の外部の供給源から入る前記前処理水に、硫酸または塩酸を添加することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
未処理供給水から前記前処理水を生成することは、硫酸または塩酸を前記未処理供給水に添加することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記未処理供給水から溶存ガス成分を除去することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記未処理供給水から前記前処理水を生成することは、前記未処理
供給水を酸素含有ガスで曝気すること、オゾン、塩素および二酸化塩素のうちの1つ以上を含む酸化化合物および消毒化合物を使用すること、ならびに酸化媒体を含む媒体ベッドを介したろ過によって処理することの1つ以上によって、前記未処理
供給水中にin situ酸化条件を生成することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記未処理供給水から前記前処理水を生成することは、強制ドラフト脱気装置内で前記未処理供給水を処理することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記電気透析装置の濃縮ストリームの精製または特定された生成物の成分を原料として使用して、酸化化合物またはpH調整化合物を生成すること、および電気化学的酸化/還元装置で前記酸化化合物またはpH調整化合物を処理して、前記前処理水を生成するために前処理システムによって利用される化学物質を生成することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記処理水のストリーム中のナトリウム濃度を監視すること、および
前記電気透析装置の動作パラメータを調整して、前記電気透析装置の前記処理水のストリームおよび/または濃縮水のストリームにおける所望のSAR値または特定のイオン成分もしくは非イオン成分の濃度を維持すること、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記処理水のストリームにおける処理水のSAR値を決定すること、および
前記電気透析装置の動作電流および前記電気透析装置への供給水のpHの一方または両方を調整して、前記電気透析装置からの前記処理水のストリームおよび/または濃縮水のストリームにおける前記所望のSAR値およびpHの1つ以上を維持すること、
を更に含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記電気透析装置で生成された濃縮物ストリームの流出液を利用して、前記電気透析装置への未処理供給水を調整および前処理するための原料として使用される試薬を生成することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
熱または電気を生成するために、前記電気透析装置で生成された濃縮物ストリームの流出液を利用することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記濃縮物ストリームから前記熱または電気を生成することは、前記濃縮物ストリームをソーラーポンドに導くことを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
精製された固体化学化合物を特定するために、蒸発プロセスを選択的に引き起こすことを更に含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
蒸留、クロマトグラフィーイオン遅延プロセス、結晶化、および選択的蒸発の1つまたは組み合わせを使用して、前記電気透析装置由来の濃縮水から、更に使用するための試薬を生成することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記灌漑
用水分配システムからの前記処理水で土壌を灌漑すること、前記土壌の電気抵抗を監視すること、および前記電気抵抗に少なくとも部分的に基づいて前記土壌の灌漑速度を調整することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
灌漑用途に適した水を提供する方法であって、
前処理水を電気透析装置に供給すること;
前記電気透析装置のカチオン透過膜でのアクティブ分極電圧を超えて、前記電気透析装置のアノードおよびカソードの間に電圧を印加することと、前記カチオン透過膜内の間隙水のpHを処理水のpHよりも低くするのに十分な流量で、前記前処理水を前記電気透析装置の希釈区画に流すこととによって、多価アニオン種および多価カチオン種の一方または双方を優先的に保持して、多価イオンに対する一価イオンの比率が前記前処理水よりも低い前記処理水のストリームを生成しながら、一価アニオン種および一価カチオン種の一方または双方の一部を前記前処理水から選択的に除去することにより、前記電気透析装置において前記前処理水を処理すること;および
前記処理水を灌漑用水分配システムに導くこと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
灌漑用途に適した水を提供する方法であって、
前処理水を電気透析装置に供給すること;
選択されたアクティブな消耗ストリームの電圧勾配で、前記電気透析装置のアノードおよびカソードの間に電圧を印加することと、選択されたイオン消耗膜表面速度、pH条件、温度、分極条件、ならびに/または一価アニオンおよび/もしくは一価カチニオンに対する特定の多価アニオンおよび/もしくは多価カチオンの相対的な境界層濃度条件で、前記電気透析装置を動作させて、その結果、水素イオンもしくは水酸化物イオンのin situ生成に関連して、または水素イオンもしくは水酸化物イオンの任意のin situ生成に優先して、アニオン性中間体もしくはカチオン性中間体またはイオン錯体が前記膜表面に形成されることとによって、多価アニオン種および多価カチオン種の一方または双方を優先的に保持して、多価イオンに対する一価イオンの比率が前記前処理水よりも低い前記処理水のストリームを生成しながら、一価アニオン種および一価カチオン種の一方または双方の一部を前記前処理水から選択的に除去することにより、前記電気透析装置において前記前処理水を処理すること;および
前記処理水を灌漑用水分配システムに導くこと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、35USC§119(e)に基づいた、2017年5月8日に提出された米国仮出願第62/502,957号(発明の名称“WATER TREATMENT OF SODIC, HIGH SALINITY, OR HIGH SODIUM WATERS FOR AGRICULTURAL APPLICATIONS”)、および2017年9月19日に提出された米国仮出願第62/560,417号(発明の名称“WATER TREATMENT FOR AGRICULTURAL APPLICATIONS”)の優先権を主張し、これら出願のそれぞれの全内容は参照により本明細書に援用される。
【技術分野】
【0002】
本明細書に開示される態様および実施形態は、一般に、作物灌漑用水ならびに飲料水を提供するシステムおよび方法に関し、より詳細には、許容できない溶解固形分を有する水から灌漑用水および/または飲料水を提供するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
脱塩または除塩とは、例えば水から塩を除去する水処理プロセスを指す。いくつかの例では、水の供給源は汽水または海水であり、その脱塩技術は、飲用飲料水に関する地方自治体の要件の少なくとも一部を提供する。脱塩技術には通常、蒸留および逆浸透技術に基づく技術が含まれる。脱塩水はまた、例えばプロセス供給水、ボイラー供給水、飲用水、飲料水、および灌漑用水として、商業用途および工業用途でも消費され得る。脱塩水を利用し得る産業の特定の例には、製薬業、鉱業、製紙およびパルプ産業、ならびに農業が含まれる。
【発明の概要】
【0004】
本明細書で開示される態様および実施形態には、被処理水を電動分離装置に導入して、約20未満のナトリウム吸収率(SARまたはRNa)値を有する灌漑用水を提供することを含む方法が含まれる。SAR値は、次式に従って決定することができる。
【数1】
式中、[
Na
+
]は灌漑用水中のナトリウム種の濃度(mol/m
3)、[
Ca
2+
]は灌漑用水中のカルシウム種の濃度(mol/m
3)、[
Mg
2+
]は灌漑用水中のマグネシウム種の濃度(mol/m
3)である。
【0005】
他の態様および実施形態は、被処理水の供給源と流体接続する電動分離装置と、前記電動分離装置と流体接続する灌漑用水分配システムとを備える灌漑システムを含む。
【0006】
本開示の一態様によれば、灌漑の使用、再使用、および/または更なる使用に適した水を提供する方法が提供される。前記方法は、前処理水を電気透析装置に供給すること;多価アニオン種および多価カチオン種の一方または双方を優先的に保持して、多価イオンに対する一価イオンの比率が前記前処理水よりも低い処理水のストリームを生成しながら、一価アニオン種および一価カチオン種の一方または双方の一部を前記前処理水から選択的に除去することにより、前記電気透析装置において前記前処理水を処理すること;および前記処理水を灌漑用水分配システムに導くこと、を含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、前記方法は、前記前処理水より低いナトリウム吸収率(SAR)値を有する処理水、および前記前処理水より高いSAR値を有する濃縮水のストリームを生成することを更に含む。前記方法は、20未満のSAR値を有する処理水を生成することを更に含み得る。
【0008】
いくつかの実施形態では、前記方法は、前記電気透析装置のアニオン選択膜でのアクティブ分極電圧を超えて、前記電気透析装置のアノードおよびカソードの間に電圧を印加することを更に含む。本明細書で用語が使用される場合、アクティブ分極電圧は、任意の構成成分の希釈水のストリームおよび濃縮水のストリームと、前記希釈区画および濃縮区画を通る流量および温度の任意の動作条件との組み合わせで、アニオン選択性イオン交換膜およびカチオン選択性イオン交換膜の少なくとも一方の表面または表面付近に局所的な電圧勾配を生成する任意の所定の電気透析装置に印加されるDC動作電圧である。前記アクティブ分極電圧は、これらに限定されないが溶存溶質および/または水を含む1つ以上の希釈ストリームフィードのイオン成分または非イオン成分に局所的な化学変化または解離を引き起こすことができる。前記方法は、前記処理水のpHを前記前処理水のpHよりも低く、且つ前記アニオン選択膜内の間隙水のpHを前記処理水のpHよりも高くするのに十分な流量で、前記前処理水を前記電気透析装置の希釈区画に流すことを更に含み得る。
【0009】
いくつかの実施形態では、前記方法は、前記電気透析装置のアニオン透過膜でのアクティブ分極電圧を超えて、前記電気透析装置のアノードおよびカソードの間に電圧を印加することを更に含む。前記方法は、前記処理水のpHを前記前処理水のpHよりも低くするのに十分な流量で、前記前処理水を前記電気透析装置の希釈区画に流すことを更に含み得る。
【0010】
いくつかの実施形態では、前記方法は、前記電気透析装置のカチオン透過膜でのアクティブ分極電圧を超えて、前記電気透析装置のアノードおよびカソードの間に電圧を印加することを更に含む。前記方法は、前記カチオン透過膜内の間隙水のpHを前記処理水のpHよりも低くするのに十分な流量で、前記前処理水を前記電気透析装置の前記希釈区画に流すこと更に含み得る。
【0011】
いくつかの実施形態では、前記方法は、選択されたアクティブな消耗ストリームの電圧勾配で、前記電気透析装置のアノードおよびカソードの間に電圧を印加することを更に含む。前記方法は、選択されたイオン消耗膜表面速度、pH条件、温度、分極条件、ならびに/または一価アニオンおよび/もしくは一価カチニオンに対する特定の多価アニオンおよび/もしくは多価カチオンの相対的な境界層濃度条件で、前記電気透析装置を動作させて、その結果、アニオン性中間体もしくはカチオン性中間体またはイオン錯体が前記膜表面に形成されることを更に含み得る。前記アニオン性中間体もしくはカチオン性中間体またはイオン錯体は、水素イオンもしくは水酸化物イオンのin situ生成に関連して、または水素イオンもしくは水酸化物イオンの任意のin situ生成に優先して形成され得る。前記アニオン性中間体もしくはカチオン性中間体またはイオン錯体が、これらのアニオンおよび/またはカチオンならびに中性成分が電場の不存在で十分に混合された平衡状態下にある場合よりも、前記アニオン選択膜およびカチオン選択膜の一方または両方に対して、相対的に透過性もしくは不透過性が高くなるか、または相対的に透過性もしくは不透過性が低くなり得る
【0012】
本明細書で用語が使用される場合、多価アニオンおよび/または多価カチオンは、二価アニオンおよび/または二価カチオンを含む。本明細書に記載されるように、イオンの原子価状態は、電場の非存在下でよく混合された溶液の平衡状態における原子価状態として、多価または一価として分類される。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記前処理水を前記電気透析装置に供給することは、一価および二価のアニオンならびに一価および二価のカチオンを含む前処理水を前記電気透析装置に供給することを含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、前記前処理水を前記電気透析装置に供給することは、海水、汽水、淡水、および生成水のうちの前処理された1つを前記電気透析装置に供給することを含む。本明細書で用語が使用される場合、海水は、典型的には約20,000ppm~約40,000ppm、より典型的には約35,000ppmの総溶解固形分(TDS)レベルを有する海洋由来の水である。汽水は、約1,000ppm~約10,000ppmのTDSレベルを有する水である。塩水(saline water)または塩水(salt water)は10,000ppm以上のTDSを有する。ブラインは、約35,000ppm超のTDSを有する非常に塩辛い水である。飲料水は、典型的には約1000ppm未満、好ましくは約500ppm未満のTDSを有する。
【0015】
いくつかの実施形態では、前記前処理水を前記電気透析装置に供給することは、ナトリウムイオンのモル濃度がカルシウムイオンのモル濃度よりも高い水を前記電気透析装置に供給することを含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、前記前処理水を前記電気透析装置に供給することは、塩化物イオンのモル濃度が硫酸イオンのモル濃度よりも高い水を前記電気透析装置に供給することを含む。
【0017】
他の実施形態では、前記前処理水を前記電気透析装置に供給することは、ナトリウムイオンのモル濃度が塩化物イオンのモル濃度よりも高い水を前記電気透析装置に供給することを含む。
【0018】
他の実施形態では、前記前処理水を前記電気透析装置に供給することは、硫酸イオンのモル濃度が塩化物イオンのモル濃度よりも高い水を前記電気透析装置に供給することを含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、前記前処理水から前記一価アニオン種および前記一価カチオン種の一方または双方の一部を選択的に除去することは、多価イオン種のフラクション除去と比較して、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、重炭酸イオン、硝酸イオン、セレン酸水素イオン、亜セレン酸水素イオンまたはその他の一価イオン種を前記前処理水から除去することを含む。前記前処理水中の前記多価アニオン種および前記多価カチオン種の一方または双方の一部を保持することは、一価イオン種のフラクション除去と比較して、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、炭酸イオン、セレン酸イオン、亜セレン酸イオン、硫酸イオン、およびその他の多価イオン種の1つ以上を前記前処理水中に保持することを含み得る。
【0020】
いくつかの実施形態では、前記方法は、少なくとも約70%の電流効率で、好ましくは少なくとも約85%の電流効率で前記電気透析装置を動作させることを含み得る。前記方法は、更に含み得る。前記方法は、前記電気透析装置の希釈区画のアニオン選択膜で水素イオンが生成され、かつ/または前記電気透析装置の希釈区画のカチオン選択膜で水酸化物イオンが生成されるアクティブ分極電圧を超える条件下などで、前記電気透析装置を動作させることを含み得る。
【0021】
前記方法は、硫酸水素イオン(HSO4
-)、重炭酸イオン(HCO3
-)、ホウ酸イオン(H2BO3
-)、セレン酸水素イオン(HSeSO4
-)、または亜セレン酸水素イオン(HSeO3
-)が、一価アニオン選択膜を通って、前記電気透析装置の濃縮区画に入る、かつ/またはカルシウム水素ホウ素(CaH2BO3
+)やマグネシウム水素ホウ素(MgH2BO3
+)などのイオン錯体が、前記カチオン一価選択膜を通って、前記電気透析システムの濃縮区画に入るアクティブ分極電圧条件下で、前記電気透析装置を動作させることを更に含み得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、前記方法は、スクリーンフィルター、バッグフィルター、メディアフィルター、カーボンフィルター、サンドフィルター、プレコートフィルター、カートリッジフィルター、および/または膜フィルターなどのフィルターおよびフィルターの組み合わせを使用して、公称サイズ50マイクロメートル超、25マイクロメートル超、10マイクロメートル超または1マイクロメートル超の粒子状物質を除去するためにフィルターを用いることで、前記電気透析装置への前記未処理供給水および/または前記電気透析装置の希釈ストリーム入口への前記前処理水を前処理することを更に含み得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、前記方法は、前記電気透析装置の外部の供給源から前記電気透析装置の希釈区画に入る前処理水に、酸、例えば硫酸または塩酸を添加することを更に含み得る。
【0024】
前記方法は、前記電気透析装置への供給水として前記電気透析装置の外部の供給源から入る前処理水に、硫酸および塩酸のいずれかを添加することを更に含み得る。
【0025】
いくつかの実施形態では、前記方法は、硫酸または塩酸を未処理供給水、または部分的もしくは完全に前処理し最終的に希釈ストリーム区画および濃縮ストリーム区画に供給した後の水に添加することにより、前記未処理供給水から前記前処理水を生成することを更に含み得る。
【0026】
いくつかの実施形態では、前記方法は、オゾン、塩素または二酸化塩素などの酸化化合物を前記未処理供給水または部分処理供給水に添加すること、および/または紫外線消毒を単独または組み合わせて使用して水を処理することによって、前記未処理供給水から前記前処理水を生成することを更に含み得る。
【0027】
いくつかの実施形態では、前記方法は、前記未処理供給水または部分処理供給水から、二酸化炭素またはその他の溶存ガス成分を除去することを更に含み得る。
【0028】
前記未処理供給水から前記前処理水を生成することは、前記未処理供給水から、鉄、マンガン、硫黄、セレン、重金属、ならびに他の無機物質および有機物質の1つ以上で構成されるin situ被酸化性化合物を沈殿およびろ過することを更に含み得る。
【0029】
前記未処理供給水から前記前処理水を生成することは、前記未処理給水を酸素含有ガスで曝気すること、オゾン、塩素および二酸化塩素のうちの1つ以上を含む酸化化合物および消毒化合物を使用すること、ならびにマンガン生砂などの酸化媒体を含む媒体ベッドを介したろ過によって処理することの1つ以上によって、前記未処理給水中にin situ酸化条件を生成することを更に含み得る。前記未処理供給水から前記前処理水を生成することは、強制ドラフト脱気装置、真空ストリッパー、および/または1つ以上の化学物質供給システム内で前記未処理供給水を処理することを含み得る。
【0030】
いくつかの実施形態では、塩素、二酸化塩素、塩酸、硫酸、水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウムなどの酸化化合物またはpH調整化合物の生成は、前記電気透析装置の濃縮ストリームの精製または特定された生成物の成分を原料として使用すること、例えば、例えば、前処理システムによって最終的に利用される化学物質を生成するために、1つ以上の電気化学的酸化/還元装置で使用するための関連成分の供給などで実現される。
【0031】
いくつかの実施形態では、前記方法は、前記処理水のストリーム中のナトリウム濃度を監視すること、および前記電気透析装置の動作パラメータを調整して、前記処理水のストリームおよび/または濃縮水のストリームにおける所望のSAR値もしくはナトリウム度の値、または特定のイオン成分もしくは非イオン成分の濃度のいずれかを維持すること、を更に含み得る。前記方法は、前記処理水のストリームにおける処理水のSAR値または潜在的に有毒な成分(飲料水の硝酸イオンなど)もしくは非毒性成分(灌漑用水の硝酸イオンなど)のレベルを決定すること、および前記電気透析装置の動作電流または前記電気透析装置への供給水のpHを調整して、前記所望のSAR値または潜在的有毒性の安全レベルもしくは非毒性成分の好適レベルまたは前記処理水のストリームおよび/または前記濃縮水のストリームにおけるpHを維持することを更に含み得る。
【0032】
いくつかの実施形態では、前記方法は、熱または電気を生成するために、前記電気透析装置への供給水を調整および前処理するために使用される原料として必要な試薬を生成するために、供給水のフラッキングなど他のローカルプロセスで使用するために生成された化合物を再利用するために、または他の商業用途のための化学製品で使用するために、前記電気透析装置で生成された濃縮物ストリームの流出液を利用すること更に含み得る。
【0033】
前記濃縮物ストリームから前記熱または電気を生成することは、低温発電機などを使用して生成され得る電気の生成のためのエネルギー源として利用される熱水を生成するために前記濃縮物ストリームをソーラーポンドに導くこと、および次いで他の商業用途における使用のために、選択的に、蒸発プロセスに精製された固体化学化合物を特定させることを更に含み得る。濃縮ストリームの流出液が蒸発によってさらに濃縮されるような実施では、電気透析装置は、一価選択性アニオン膜を利用して構成され、潜在的に有毒な多価亜セレン酸および亜セレン酸の蒸発ポンドへの移動を最小限に抑えるように動作させ得る。
【0034】
試薬を生成することは、さらなる使用のために固体または濃縮液体溶液の生成を特定または精製するために、蒸留および/またはクロマトグラフィーイオン遅延プロセス、結晶化、もしくは選択的蒸発などの他のユニットプロセスの1つまたは組み合わせを使用して、前記電気透析装置由来の濃縮水を処理することによって実現される。
【0035】
いくつかの実施形態では、前記方法は、前記処理水で灌漑される土壌の電気抵抗を監視すること、および前記電気抵抗に少なくとも部分的に基づいて前記土壌の灌漑速度を調整すること更に含み得る。
【0036】
別の態様によれば、電気透析装置を動作させる方法が提供される。前記方法は、前記電気透析装置の消耗区画に10ppm未満、または5ppm未満のホウ素元素を含む前処理水を供給すること;前記電気透析装置の前記消耗区画内で9.5未満、例えば8.5、7.5、6.5以下のバルクpHを維持すること;前記前処理水中の前記ホウ素の少なくとも50%が前記消耗区画から除去される条件下で、前記電気透析装置を動作させること;および前記前処理水中のホウ素元素の濃度よりも少なくとも50%低いホウ素元素の濃度を含有する処理水を、前記電気透析装置の前記消耗区画から排出すること、を含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、前記電気透析装置の前記消耗区画に前記前処理水を供給することは、一価選択性カチオン膜を含む電気透析装置に前記前処理水を供給することを含む。
【0038】
別の態様によれば、電気透析装置が提供される。前記電気透析装置は、アノード、カソード、アニオン交換膜、およびカチオン交換膜を含む。アニオン交換膜およびカチオン交換膜の少なくとも一方が一価選択性である。前記電気透析装置は、多価イオン種を保持して、電気透析装置に導入される水よりも低いナトリウム吸収率(SAR)値、低い塩度、または低い毒性レベルを有する処理水のストリームと、前記電気透析装置に導入される前記水よりも高いSAR値または高い塩度を有する濃縮水のストリームとを生成しながら、前記電気透析装置に導入される水から一価イオン種および/またはイオン性中間体またはイオン錯体が選択的に除去される条件下で前記電気透析装置を動作させ、且つ前記電気透析装置のアクティブ分極電圧を超える電圧を前記アノードおよび前記カソードの間に印加するように構成されたコントローラを更に含む。前記コントローラは、前記電気透析装置内で水分解を生じさせ、前記電気透析装置に導入される前記水のpHよりも前記処理水のpHを低下させるのに十分な速度で、前記電気透析装置の希釈区画を通して前記電気透析装置に導入された前記水を流すように更に構成され得る。
【0039】
いくつかの実施形態では、前記電気透析装置は一価選択性カチオン膜を含む。
【0040】
いくつかの実施形態では、前記コントローラは、前記電気透析装置の消耗区画内で前記電気透析装置に9.5未満のバルクpH、例えば8.5以下、または7.5以下、または6.5未満のバルクpHを維持させ、且つ、前記消耗区画を流れ、前記消耗区画に導入されたときに10ppm未満、例えば5ppm未満の元素ホウ素濃度を有する前記前処理水から、少なくとも50%のホウ素を除去するのに十分なアノードおよびカソードの間の電圧ならびに前記消耗区画を通る前処理水の流量で、前記電気透析装置が動作するように更に構成される。
【0041】
いくつかの実施形態では、前記アニオン交換膜は、官能基を含有する化合物を更に含み、前記官能基は、前記化合物を含まない実質的に同様のアニオン交換膜と比較して、前記アニオン交換膜上で発生する水分解の傾向および量を増加させる。前記官能基は、第三級アミン官能基であり得る。前記化合物はジメチルエタノールアミンを含むか、ジメチルエタノールアミンからなっていてもよい。
【0042】
別の態様によれば、灌漑用水システムが提供される。前記灌漑用水システムは、希釈区画入口、濃縮区画入口、希釈物出口、および濃縮物出口と、アノードおよびカソードと、アニオン交換膜およびカチオン交換膜とを含有する電気透析装置を備える。アニオン交換膜およびカチオン交換膜の少なくとも一方が一価選択性である。前記電気透析装置は、多価イオン種を保持して、前記電気透析装置に導入される水よりも低いナトリウム吸収率(SAR)値を有する処理水のストリームと、前記電気透析装置に導入される前記水よりも高いSAR値を有する濃縮水のストリームとを生成しながら、前記電気透析装置に導入された前記水から一価イオン種が選択的に除去される条件下で、前記電気透析装置を動作させ、且つアノードおよびカソードの間に電圧を印加し、前記電気透析装置内で水分解を生じさせ、前記電気透析装置に導入される前記水のpHよりも前記処理水のpHを低下させるのに十分な速度で、前記電気透析装置の希釈区画を通して前記電気透析装置に導入された前記水を流すように構成されたコントローラを更に含む。前記システムは、前記希釈区画入口および濃縮区画入口の上流に流体接続可能な被処理水の供給源;および前記希釈物出口に流体接続可能な灌漑使用点を更に備える。
【0043】
いくつかの実施形態では、前記システムは、前記被処理水の供給源と、前記希釈区画入口および濃縮区画入口との間で流体連通する前処理システムを更に含む。前記前処理システムは、前記被処理水の供給源に接続可能な入口;および投与点において前記被処理水にpH調整剤を投与するように構成されるpH調整剤の供給源を含み得る。前記前処理システムは、前記投与点の下流に入口を有する脱気装置を更に含み得る。前記前処理システムは、前記脱気装置の出口の下流と流体連通する粒子フィルターと、前記電気透析装置の前記希釈区画入口および濃縮区画入口と流体連通する出口とを更に含み得る。
【0044】
いくつかの実施形態では、前記灌漑システムは、前記脱気装置の上流で前記投与点の下流、ならびに前記脱気装置の下流で前記希釈区画入口および濃縮区画入口の上流の1つ以上に配置された少なくとも1つのpHセンサーを更に含み得る。
【0045】
いくつかの実施形態では、前記灌漑システムは、前記希釈物出口から出る処理水のSAR値を決定するように構成されたSAR値センサーを更に含み得る。前記コントローラは、前記SAR値センサーから前記処理水のSAR値の表示を受信し、且つ前記電気透析装置の動作を制御して所望のSAR値を有する処理水を生成するように更に構成され得る。
【0046】
いくつかの実施形態では、前記灌漑システムは、前記灌漑使用点での土壌の導電率を測定するように構成された導電率センサーを更に含み得る。前記コントローラは、前記灌漑使用点での前記土壌の前記導電率の表示を受信し、且つ前記土壌の前記導電率の前記表示に少なくとも部分的に基づいて、前記灌漑使用点への処理水の流量を調整するように更に構成され得る。
【0047】
いくつかの実施形態では、前記灌漑システムは、前記電気透析装置の希釈ストリームまたは濃縮ストリームへの所望の入力および/もしくは出力濃度、ならびに/または前記電気透析装置の希釈ストリームまたは濃縮ストリームからの所望の入力および/もしくは出力濃度を制御するために、特定のイオンまたは特定の溶存成分濃度を測定し、前記前処理システムおよび/または前記電気透析装置の動作パラメータを調整するように構成された特定の化合物センサーを更に含み得る。
【0048】
いくつかの実施形態では、前記灌漑システムは、前記濃縮物出口と流体連通し、前記電気透析装置由来の濃縮物ストリームから熱および電気の一方を生成するように構成されたシステムを更に含む。
【0049】
いくつかの実施形態では、前記灌漑システムは、前記電気透析装置から回収された化合物を使用して1つ以上の化学試薬を合成するための原料の供給源となるように構成された濃縮物出口と流体連通するシステムを更に含む。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】灌漑用水の生産システムおよび供給システムの実施形態の概略図である。
【
図2】
図2Aは、単一ステージの貫流構成で動作する電気透析装置の概略図である
。図2Bは、濃縮物再循環を伴う単一ステージの構成で動作する電気透析装置の概略図
である。
【
図3】本明細書に開示される1つ以上の実施形態で利用され得る電気透析装置の一部の概略図である。
【
図4】並列に動作する電気透析システムを含む灌漑用水の生産システムおよび供給システムの実施形態の一部の概略図である。
【
図5】一価選択性ではないカチオン交換膜を含む電気透析装置を使用したバッチ動作試験におけるカルシウム、マグネシウムおよびナトリウムの典型的な経時的除去を示すグラフである。
【
図6】一価選択性のカチオン交換膜を含む電気透析装置を使用したバッチ動作試験におけるカルシウム、マグネシウムおよびナトリウムの典型的な経時的除去を示すグラフである。
【
図7】
カソード区画、アノード区画、濃縮区画、および希釈区画を含むイオン移動
装置の概略図である。
【
図8】
一価選択性のカチオン交換膜を含む電気透析装置を使用したバッチ動作試験
におけるカルシウム、マグネシウムおよびナトリウムならびにホウ素の典型的な経時的除去を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本明細書に開示される態様および実施形態は、以下の説明に記載されるかまたは図面に示される構成の詳細および構成要素の配置に限定されない。本明細書で開示される態様および実施形態は、他の実施形態が可能であり、様々な方法で実施または実行することができる。
【0052】
本明細書で開示される1つ以上の態様は、農業施設に適した水を提供するためのシステムおよび技術を含む。本明細書に開示される他の態様は、飲料水または人間の使用もしくは消費に適した水、ならびに家畜および家禽に適した水を提供することができる。本明細書に開示されるいくつかのシステムおよび技術は、非飲用水を農業、家畜、家禽、および/またはヒトの消費に適したものに変換またはさもなければ適したものにすることができる。更なる態様は、1つ以上の所望の特性を有する製品を提供するために、処理対象の流体から他の種よりもいくつかの種を優先的または選択的に除去するシステムおよび技術を含むことができる。非選択的手法とは対照的に、いくつかの選択的除去の態様は、混合などの追加の後処理プロセスを回避または削減することにより、費用対効果がより高くなる。したがって、本明細書で開示されるシステムおよび技術は、意図された使用により適した処理水を経済的に提供し得る。
【0053】
いくつかの実施形態では、いくつかのタイプの種は処理されたストリーム中に保持され、他のタイプの種は優先的に除去される。得られた生成物流体は、様々な用途に利用することができ、かつ/またはそうでなければ1つ以上の目的を満たすことができる。他の態様は、特定の目的を満たすように調整された1つ以上の特性または特徴を有する水を提供するシステムおよび技術を含むことができる。したがって、いくつかの実施形態は、1つ以上の属性を有する1つ以上の水ストリームまたは水体を提供するシステムおよび技術を含むことができ、当該1つ以上の属性は当該ストリームまたは水体が利用される使用地点または施設の1つ以上のパラメータに基づいて調整された。
【0054】
更なる態様は、農業、工業、商業、および/または住宅のサービスのために水を経済的に提供するシステムおよび技術を含むことができる。さらに、いくつかの特定の態様は、複数の要件または純度もしくは品質のレベルにかなう水を提供することを含むことができる。いくつかの実施形態では、システムおよび技術は、混合使用施設で1つ以上の水ストリームまたは水体を提供することができる。特に有利な態様は、当該複数の水流または水体の各々は高い固形分を有する水の供給源から、それぞれが異なる要件を有し得る複数の使用点に、それぞれが異なる水質レベルを有し得る複数の水流または水体を提供することを含むことができる。そのような態様は、例えば非飲用水を処理して、飲用可能、および/または灌漑、家畜および/または家禽の消費、および/または人間の消費もしくは使用に適するようにするシステムおよび技術を提供することができる。
【0055】
いくつかの態様では、その中に溶解した高レベルの1つ以上の好ましくない種を有する水を処理して、そのような種の濃度を許容レベルまで除去するか、少なくとも低下させることができる。1つ以上の好ましくない種は、未処理供給水を特定の用途に適さないものにする任意の種であり得る。例えば、水は、高レベルまたは不所望な濃度の一価カチオンおよび/またはアニオンを含むことがあり、当該高レベルまたは不所望な濃度の一価カチオンおよび/またはアニオンは、土壌中の水の保持、または例えば多価種を含む他の種の吸着を不利にまたは望ましくなく妨げる。要件が作物の灌漑に関連する場合、不所望の状態または特性は、灌漑される土壌の浸透性および/または浸透特性に影響を及ぼす1つ以上の種を含有する水を含むことができる。例えば、いくつかの態様は、非一価種よりも一価種を優先的に除去するために水をレンダリングまたは処理することを含み得る。
【0056】
1つ以上の特定の態様は、被処理水を電動分離装置に提供または導入することを含むシステムおよび/または方法に関する実施形態を含むことができる。いくつかの実施形態は、1つ以上の被処理水の供給源および少なくとも1つの灌漑用水分配システムに流体接続された、または少なくとも接続可能な電動分離装置を含む灌漑システムを含み得る。
【0057】
他の態様では、いくつかの実施形態は、飲料水を提供する方法を含み得る。特に、いくつかの態様は、熱駆動分離技術またはユニット操作なしで灌漑用水および/または飲料水を提供することができる。例えば、いくつかの実施形態では、該方法は、被処理水を提供し、電動分離装置で被処理水の少なくとも一部を処理して第一処理水を生成する1つ以上の行為またはステップを含むことができる。該方法は、被処理水の一部、典型的には別個の部分を1つ以上の他の電動分離装置または圧力駆動分離装置で処理して第二処理水を生成する1つ以上の行為を更に含むことができる。いくつかの実施形態では、該方法は、第一処理水と第二処理水とを混合して、飲料水を生成するステップをさらに含むことができる。飲料水は通常、目標または所望の総溶解固形分(TDS)含有量を有する。
【0058】
飲料水を提供するシステムに関する態様は、被処理水の供給源と、被処理水の供給源、圧力駆動分離またはその双方に流体接続または接続可能な1つ以上の電動分離装置とを含むことができる。例えば、以下でさらに詳細に説明するように、1つ以上の電動分離装置は、1つ以上の電動分離装置の処理水出口に流体接続された、または接続可能な1つ以上の入口を有する1つ以上のミキサーに流体接続され得る。ミキサーは、1つ以上の生成物ストリームを少なくとも部分的に混合または結合することを促進する任意の混合ユニット操作を含むことができる。
【0059】
被処理水は、海水、塩水、汽水、淡水、生成水(油井またはガス井でオイルおよびガスとともに副産物として生成される水)、および/または高濃度の溶解した固体もしくは塩を含有する水を含むことができる。被処理水の他の供給源は、浸透および/または毒性を考慮して農業施設での使用に適さない水を含むことができる。
【0060】
本明細書で開示されるシステムおよび技術は、適切な場合、それらの1つ以上の動作原理を促進する前処理サブシステムを含むことができる。1つ以上の実施形態では、1つ以上の前処理ユニット操作および後処理ユニット操作を利用することができる。例えば、本明細書に開示されるシステムおよび技術は、被処理水中の任意の懸濁固体の少なくとも一部を分離または除去する1つ以上のフィルターを含む前処理サブシステムを含み得る。そのような前処理サブシステムは、典型的には、本明細書に開示されるシステムの下流のユニット操作にダメージを与える粒子状物質を除去する。他の前処理ユニット操作には、例えば、マイクロフィルター、ならびにサイズが1ミクロン以上の懸濁固体を除去し得る沈殿作用ベースのシステムが含まれる。
【0061】
さらなる前処理操作を利用して、1つ以上のユニット操作の有効性を改善することができる。例えば、前処理サブシステムは、分離操作の前に被処理水をそれぞれ冷却または加熱するクーラーまたはヒーターを含むことができる。未処理供給物ストリームまたは任意の中間プロセスストリームの冷却は、例えば、被処理ストリームからの不所望の種の輸送を促進するため、または所望の種の輸送を妨げるために実行され得る。同様に、加熱を行って、未処理供給物ストリームまたは1つ以上の中間プロセスストリームの温度を、例えば1つ以上の分離装置の経済的または効率的な運転を促進する所望の温度に上げることができる。加熱プロセスの非限定的な例は、プロセスまたはシステムの関連するまたはユニット操作であり得るヒーター、炉、または熱交換器を含み得る。例えば、加熱は、本明細書に開示される処理システムに必ずしも関連付けられていない発電所の熱交換器を介して提供されてもよい。
【0062】
後処理ユニット操作により、処理水中の1つ以上の種の濃度を洗練、除去、または低下させる場合がある。例えば、1つ以上のイオン交換カラムを利用して、電動分離装置で容易に除去されない種を除去することができる。後処理操作において、通常は除去されるか、少なくとも好ましくは非毒性および/または不都合でないレベルまで濃度が低下する種の非限定的な例には、アルミニウム、ヒ素、ベリリウム、カドミウム、コバルト、クロム、銅、鉄、フッ化物、リチウム、マンガン、モリブデン、ニッケル、鉛、セレン、スズ、チタン、タングステン、バナジウム、ホウ素、および亜鉛などの、土壌の凝集に影響を与える可能性のあるもの、水の浸透に影響を与える可能性のあるもの、および/または植物の成長に有毒なものが含まれる。1つ以上の後処理操作で対処できる他の種には、限定されないが、硝酸塩、亜硝酸塩、バナジウム、硫化物などの飲料水に含まれる人間、家禽、および/または家畜にとって有毒または好ましくないものが含まれる。消毒プロセスを実行して、人間および/または家畜に有害であり得るコロニー形成微生物の濃度を少なくとも部分的に不活性化または低減することもできる。
【0063】
あるいは、または1つ以上のポリッシングユニット操作と組み合わせて、システムおよび技術は、1つ以上の種を処理水の少なくとも一部に追加することを含み得る。例えば、石膏を追加して、1つ以上の所望の種の濃度を調整したり、水の特性を調整したりすることができる。他の添加物は、水が灌漑に使用されるときに作物の成長を促進する肥料または他のサプリメントを含み得る。
【0064】
電動装置は、通常、電位場を利用して、1つ以上の種、典型的には所望の種および不所望の種を含み得る標的種を、キャリアまたは流体から移動させる原動力を生成する。電気駆動装置は、移動中に標的種を分離し、かつ/または復帰プロセスもしくは逆プロセスを阻害する1つ以上の構成要素を利用することができる。そのような装置の非限定的な例には、電流逆転電気透析(EDR)装置および電気脱イオン化(EDI)装置を含む電気透析(ED)装置が含まれる。本明細書で使用される場合、電気透析装置は、EDR装置およびEDI装置を含む。しかし、本明細書で開示される態様および実施形態は、そのような電気駆動装置の1つまたは組み合わせに限定されず、被処理流体中における他の種に対する1つ以上の標的種の優先的な移動を促進する原動力を提供する他の装置において実施され得る。
【0065】
電動分離装置は、通常、イオン選択膜を利用して分離現象を促進する。いくつかの実施形態では、選択性透過膜は、他の種に比べていくつかの種の輸送を優先的または選択的に可能にすることができる。例えば、カチオン選択膜は、電動分離装置のいくつかの区画で利用され得る。他の実施形態では、アニオン選択膜は、1つ以上の区画で利用され得る。さらに他の実施形態では、電動分離装置は、一価カチオン種または一価アニオン種の移動を選択的に促進するために、1つ以上の一価選択膜を含み得る。本開示の目的のために、一価選択膜は、任意の所定の制御された動作条件および等モル濃度の二価イオンおよび一価イオンを含む所定の前処理された希釈ストリームの下で、DC電場の印加時に、二価イオンの移動に対する一価イオンの移動のモルベースでの比が1よりも大きくなるように、任意の所定の電気透析装置で動作できるものである。
【0066】
いくつかの実施形態では、分離装置は、典型的には該装置の1つ以上の濃縮区画に、一価カチオン選択膜および1つ以上の一価アニオン選択膜を含み得る。市販の一価選択膜の非限定的な例には、NEOSEPTA(登録商標)カチオン選択膜およびアニオン選択膜(アストム株式会社、東京、日本、またはトクヤマ株式会社、東京、日本)が含まれる。
【0067】
圧力駆動分離装置は、通常、1つ以上のバリアを利用して、そこを通る1つの種の移動を阻害し、別の種の浸透を可能にする。分離現象を促進する原動力には、通常、被処理流体の加圧が含まれる。圧力駆動分離装置の非限定的な例には、マイクロろ過装置、ナノろ過(NF)装置、および逆浸透(RO)システムが含まれる。
【0068】
農産業が直面している最大の問題の1つは、塩類土壌もしくはナトリウム質土壌または過剰な硫酸塩による自己栄養化の傾向がある土壌の形成を防ぐことである。そのような土壌は、作物の収穫量を減らすか、または特定の作物の栽培を困難もしくは不可能にする。塩類土壌は、水および栄養分の吸収を妨げるか、または窒素やリンなどの栄養分の植物への放出を促進し、葉焼けなどを引き起こす。ナトリウム質土壌および硫酸塩の多い土壌は、土壌の凝集を防ぎ、不浸透性の土壌またはpHの高い土壌をもたらす。作物の損傷を引き起こすのは、全体の塩度だけでなく、カルシウムや硫酸塩などの比較的良性または有用な成分に対する、ナトリウムや塩化物などの特に問題のある成分または炭酸塩などのアルカリ性成分の比率である。現在、農産業は、塩類土壌またはナトリウム質土壌の根本原因である灌漑水または塩類の侵入を完全に処理するコストに対応することができない。
【0069】
いくつかの態様および実施形態は、灌漑目的に有用な水を生成するために被処理水から有用な不純物のかなりの部分を維持しながら、問題の不純物を選択的に除去する電気透析方法およびシステムを含む。この方法により、単位ED膜面積あたりの非常に高い水処理量が可能になり、処理コストが大幅に削減される。さらに、この方法は、通常機器を汚したりスケールしたりするイオン、溶解シリカ、および有機物質が除去されず、したがってそれらの濃度による問題を引き起こさないため、トラブルのないオペレーションを提供し得る。さらに、この方法は、問題のイオンのみを除去するだけでなく、処理後の化学物質の添加を必要とせずに、生成水のpHの固有の低下により、ナトリウム質土壌の生成も防ぐことができる。
【0070】
塩類土壌またはナトリウム質土壌を生成する典型的な地下水は、カルシウムイオンおよび硫酸イオンに比べて高い割合のナトリウムイオンおよび塩化物イオンを含む。それはまた、灌漑に使用して土壌中にナトリウム性を生じさせるとき、水のポテンシャルを高めるアルカリ性のレベルを含み得る。そのような土壌は、大量の硫酸を添加した石膏などの改良剤で処理され得る。土壌問題の根本的な原因は灌漑用水自体の組成比であるため、これはせいぜい暫定的な解決策にすぎない。
【0071】
いくつかの態様および実施形態は、一価選択膜による流入灌漑水の電気透析処理を含む。灌漑用水のカルシウムおよび硫酸塩が維持される一方で、ナトリウム、塩化物、アルカリ度が選択的に除去される。ナトリウムおよび塩化物を完全に除去する必要はない。望ましくは、ナトリウムおよび/または塩化物の一部を除去して、処理水のナトリウム吸収率を、最終的に塩類土壌またはナトリウム質土壌をもたらさないものに変更する。除去されるナトリウムおよび/またはカルシウムの量は、凝集および排水能力の土壌特性、利用可能な浸出降雨の量、ならびに供給水中の利用可能なカルシウムおよび硫酸塩の量とともに、栽培される作物の特定の感度に調整することができる。例えば、果物、ナッツ、柑橘類などの非常に敏感な作物は、2~8のSAR値を有する水で灌漑され得、豆などの敏感な作物は、最大8~18のSAR値を有する水で灌漑され得、クローバー、オート麦、イネなどの中程度に耐性のある作物は、最大18~46のSAR値を有する水で灌漑され得、小麦、大麦、トマト、ビート、背の高い小麦草(tall wheat grass)、クレステッドグラス(crested grass)などの耐性作物は、最大46~102のSAR値を有する水で灌漑され得る。過剰のナトリウムおよび硫酸塩がある実施では、実施形態は、一価選択性カチオン膜および非選択性アニオン膜の使用を含み得る。電気透析装置の濃縮区画のスケーリングポテンシャルは、濃縮ストリーム中のカルシウムの最小化により、そのような状況下でも制御可能なままである。
【0072】
本明細書で開示される態様および実施形態は、灌漑目的に適した水を生成するための塩水の非常に低コストな処理を提供する。これは、一価イオンのみを部分的に除去するだけでなく、スループットが向上するように高電圧(分極レベル以上)で動作させることでも達成される。少量の塩しか除去できないため、電力消費は脱塩の大きなコストではない可能性があり、したがって50%範囲の電流効率で動作し、単位膜面積あたりの塩度除去率が高いため、スループットが高くても費用対効果は依然として高いことが可能である。本明細書に開示される電気透析システムの他の実施形態は、約70%超または約85%超の電流効率で動作させ得る。一般的に言えば、本明細書に開示される電流密度で電気透析システムを動作させるため、希釈ストリームは酸性(例えば、約6以下のpH)になるか、希釈ストリームは酸性(例えば、約6以下のpH)に維持される。ナトリウム質になる可能性のある土壌が、そのことが発生するのを防止するためにpH低下から利益を享受し得るため、このことは追加の利点を提供する。pH低下と一価の部分除去の組み合わせは、水質を有害ではなく、作物に理想的なものにする。
【0073】
いくつかの実施形態では、アニオン膜は一価選択性であり、処理水中に自然に硫酸塩が存在する可能性があるため、低電流効率動作での水分解による希釈ストリームのアニオン表面での水素イオン生成は、濃縮物ストリームにある程度移動し得るいくらかの量のHSO4
-イオンを生成する可能性がある。しかしながら、この効果は、アニオン膜が塩基性になるのを緩和し、残留アルカリ度によるスケーリングから保護するのを助ける。追加の外部硫酸を濃縮物ストリームに添加することができ、必要に応じて極性反転と組み合わせて、炭酸塩スケールを防ぐ。高アルカリ性の水を使用する実施形態では、供給物を硫酸で前処理し、次いで、水がEDに入る前に生じた二酸化炭素を除去することができる。この前酸性化および炭素除去は、塩化物を追加せずに生成水の硫酸塩含有量を増加させ、さらに生成物および濃縮物のpHを低下させ、作物にとって生成水をより良いものとし、EDをアルカリスケーリングに対してより許容性にする。低pHは塩類傾向土壌またはナトリウム質傾向土壌中の作物により適しているため、pHを上方に調整する必要はないかもしれない。この組み合わせにより、必要なカルシウムおよび硫酸塩のレベルに比べて、ナトリウムおよび塩化物の除去量をさらに低減させ、したがって装置のコストをさらに削減する。あるいは、過剰の硫酸塩を含む供給水については、塩酸を利用して酸性化することが好ましい場合がある。
【0074】
別の実施形態では、ED装置は、一価カチオン透過膜および非選択性アニオン透過膜を使用して、非常に高い速度と分極電圧を超える電圧とで動作させ得る。したがって、ナトリウムが除去され得、カチオン膜が分極され得る。これにより、カチオン膜および濃縮物ストリームのpHが低下し、希釈ストリームのカチオン膜の希釈側のpHが上昇する。膜のこの組み合わせは、炭酸カルシウムまたは水酸化マグネシウムをスケーリングすることなくEDデバイスを動作させながら、希釈ストリームから硫酸塩と塩化物の両方を除去する。これは、ナトリウム質土壌および土壌中の硫酸カルシウムを沈殿させる土壌に適しているはずである。ナトリウムは塩化物よりも土壌にとって大きな問題になることがある。
【0075】
ほとんどの海水中には、同等の基準で塩素よりも過剰のナトリウムが存在するため、この動作モードは、海水の供給で動作する場合、農業用水または他の水を生成するためにも好ましい場合がある。そのような実施では、所望のSAR値の水を生成するために十分なナトリウムを除去するために、且つ一価選択性カチオン膜を通る希釈ストリームからのホウ素の移動および除去のために一価選択性カチオン膜にアクティブ分極条件を形成するために、一価アニオンに加えて多価アニオンも除去することが望ましい場合がある。
【0076】
また、前酸性化、脱ガス、および炭素除去には、追加の有益な効果を有する。例えば、水中に任意の硫化物として硫黄が存在する場合、溶解した鉄およびマンガン化合物とともに硫黄も除去または沈殿される。また、点滴灌漑やスプリンクラータイプの灌漑などの下流の灌漑プロセスに問題を引き起こすことが知られている鉄バクテリアの形成の可能性を避けるために、水は通気され得る
【0077】
カルシウムおよび硫酸塩のごく一部のみが濃縮物ストリームに入る可能性があるため、非常に高い水回収率でEDを動作させることもでき、したがって濃縮物の廃棄問題を軽減することができる。高い水回収率はまた、(ROや蒸留などの膜プロセスとは対照的に)溶解したシリカ(pHが約9.5未満など)が濃縮区画に移動しないようなED装置の動作によっても可能であり、したがって、シリカ沈殿によるスケーリングの可能性を回避することができる。汚染問題を引き起こすそのような塩度の大量流出という形の代わりに、適切な廃棄もしくは塩源としてのさらなる使用のため、ソーラーポンドのエネルギー生成のため、または塩の商業的使用もしくは塩素もしくは腐食剤の製造のために、塩(ほとんどがナトリウムおよび塩化物)は濃縮および管理され得る。
【0078】
EDシステムへの導入前における被処理原水の前処理も、安定した動作を維持するために重要であり得る。鉄(Fe)やマンガン(Mn)などの地下水中に見出される汚染物質は、イオン交換膜を汚すことによって、EDの動作に有害な影響を与え得る。除去は、最初に原水を例えば硫酸で酸性化すること、次に一例としての強制ドラフト脱気装置を使用することを含み得、原水を曝気し、FeおよびMnを酸化および沈殿させる。一度沈殿すると、FeおよびMnは砂フィルターで除去することができる。砂フィルターの一例は、ペンシルバニア州ピッツバーグのEvoqua Water Technologies LLCが製造するVortisand(登録商標)製品である。酸性化後に原水を曝気する追加の利点は、酸性化によりアルカリ性が二酸化炭素に変換され、原水から散布されるため、アルカリ性が除去されることである。このことは、ED装置において炭酸カルシウムの沈殿を防ぐのを助ける。さらに、ほとんどの地下水は溶存酸素を含んでいるとしてもいてもごく僅かであり、本質的に嫌気性なので、曝気は、硫化水素の除去や、水と接触する金属機器の腐食を引き起こし得る硫黄利用バクテリアの抑制など、他の利点を有する。
【0079】
灌漑に適した水を生成するためのED技術の使用は、様々なイオンを溶液から選択的に除去する能力により、他のタイプの浄水装置よりも有利な点を提供する。灌漑用水の場合、適切なナトリウム吸収率(SAR)を有する生成水を得ることが重要である。SARの式は次の通りである:
【数2】
【0080】
したがって、水の化学的性質に応じて、一価選択性イオン交換膜を使用することにより、灌漑に望まれる好ましいSARを有する生成水を得ることができる。一価選択膜はカチオン性またはアニオン性のいずれかであることができ、これは、例えば、カチオン交換一価選択膜が、Ca2+およびMg2+のより少ない部分を除去しながら、Na+およびK+などの一価イオンを優先的に除去することを意味する。一価アニオン選択膜は、SO4
2-のより少ない部分を除去しながら、Cl-およびHCO3
-を優先的に除去する。EDモジュールでは、供給水の化学的性質に応じて、4つの異なるイオン交換膜の組み合わせを使用することができる:
非選択性アニオン膜および非選択性カチオン膜
一価選択性アニオン膜および非選択性カチオン膜
非選択性アニオン膜および一価選択性カチオン膜
一価選択性アニオン膜および一価選択性カチオン膜。
【0081】
マルチステージEDモジュールが使用される場合、各ステージで異なるイオン交換膜の組み合わせを使用することができる。
【0082】
塩類土壌またはナトリム質土壌の多くの領域では、様々な作物に有害な土壌のアルカリ性のため、硫酸などの酸が土壌の処理に使用される。基本的に、土壌を処理するために定期的に大量の硫酸が畑に散布される。EDを使用して灌漑用水を処理する別の好ましい側面は、特定の動作条件下でEDからの生成水を酸性にすることができることである。これらの動作条件は、生成水のpHを低下させる水分解(主にアニオン膜表面で発生する)を引き起こすのに必要な電圧よりも高い電圧を印加することを含み得る。
【0083】
他の実施では、膜材料および動作条件の選択に応じて、水分解がカチオン交換膜で優先的に発生し得る。このことは、希釈区画に供給される前処理水に対して希釈区画を出る生成水のpHを上昇させ、且つ濃縮区画を通過する水および/またはカチオン交換膜内の間隙水のpHを低下させ得る。これらのpH変化は、希釈区画側からカチオン交換膜に流入または通過する水分解反応から形成された水素イオンと、消耗区画の水酸化物イオンの濃度が増加することによって引き起こされ得る。
【0084】
アニオン交換膜は、一次アニオン性イオンゲノモノマー、例えば四級アミン官能基を含むものを含有する強塩基イオン交換部位を含む。特定の動作条件下では、水はそのような膜で分解されるが、追加の官能基を有する化合物もアニオン交換膜に組み込むことにより、アニオン膜上で分解する水の傾向および量を増加させるか、または水分解が発生する電圧を低減させることができる。膜上での水の分解を促進し得る追加の官能基を有する1つの可能な化合物は、ジメチルエタノールアミンである。この化合物は、例えば、第三級アミン官能基を有する別の化合物とともにイオン交換膜に組み込むことができる。他のアニオン性官能基としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレートで架橋されたトリメチルアンモニウムエチルメタクリルクロリドの重合により形成されたポリマーに含まれる官能基、またはトリメチルアンモニウムエチルメタクリルクロリド、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、およびジビニルベンゼンで架橋された中性モノマー(例えば、ヒドロキシエチルアクリレートまたはヒドロキシメタクリレート)の重合により形成されたポリマーに含まれる官能基が挙げられる。これらの官能基は、強塩基性官能性モノマーおよび架橋性モノマーを含む本モノマー混合物に、追加の官能基を有する追加モノマー(複数可)を添加することにより、イオン交換膜に組み込むことができる。追加の官能基は、非選択性アニオン膜および一価選択性アニオン膜に追加され得る。したがって、例えば、水分解を促進するために、第二官能基をさらに含む一価選択性アニオン膜を有することが可能であろう。この例では、SO4
2-イオンが存在する場合、アルカリ性土壌に適した酸性の生成水を生成する硫酸をin-situで生成することが可能である。弱酸官能基を含むモノマーなどの第二官能性モノマーはカチオン交換膜にも追加され得る。
【0085】
別の態様では、選択的イオン交換体を使用して、電気透析装置の前または後に、ホウ素などの不所望のイオン種を除去することができる。
【0086】
別の態様では、錯アニオンまたは錯カチオンが、カチオン一価選択膜またはアニオン一価選択膜の分極膜表面でそれぞれ生成されるように、電気透析装置は動作され得る。例えば、水の解離定数よりもやや大きい水素解離定数を有する弱イオン化水和H3BO3としての溶存ホウ素は、ホウ素として約1~3ppmでナトリウム水中に存在し得、約3~5ppmの濃度で海水中に存在し得る。飲料水については、ホウ素濃度が2ppm未満、好ましくは1ppm未満、より好ましくは0.5ppm未満であることが好ましい。作物の灌漑で使用する場合、ホウ素は1ppm未満の微量の植物栄養素としてしばしば望まれる。しかしながら、1ppmを超える濃度では、一部の作物は過剰なホウ素によって悪影響を受ける。逆浸透、ナノろ過、または電気透析などの膜プロセスを介して過剰なホウ素を除去する以前の方法は、ホウ素のイオン化が増加するように水のpHを9.5~11に上げることを含む。そのようなイオン化条件下では、ホウ素は許容レベルまで除去され得る。
【0087】
しかし、ナトリウム水では、目的はpHを下げることであり、したがって、そのようなホウ素処理および不要なアニオンの添加後に水をさらに処理するには、さらなる酸性化ステップが必要になる。さらに、目的が水中のカルシウムおよびマグネシウムを維持することである場合、pHを上げると、水がスケーリングしやすくなり、膜装置内で水酸化カルシウムおよび/または水酸化マグネシウムの有害な沈殿が生じやすくなる。本明細書に開示される態様および実施形態は、一価選択膜の使用によりこれらの困難を回避するように構成および動作させることができる。
【0088】
電気透析装置は、アノード-カソードの電位差で動作させることができ、当該電位差は、水分解をもたらすアクティブ分極電圧よりも低いが、ホウ素がその水素から解離されるアクティブ分極電圧またはセレンがその水素から解離されるアクティブ分極電圧よりも高い電圧を、カチオン一価選択膜を横切って存在させる。(希釈ストリーム中に残る)比較的高レベルの残留カルシウムおよび残留マグネシウムの存在と、希釈ストリームが精製される際におけるナトリウムおよびカリウムなどの大量の一価イオンの欠如の組み合わせにより、ホウ素およびセレンが希釈ストリームから除去される。カチオン膜表面で生じる電圧勾配により、一価カチオンであるCaH2BO3
+などのホウ素錯体の局所的な形成がもたらされる。ホウ素と水の解離定数の違いにより、この電圧範囲での動作が可能である。標準条件(1気圧、25℃)では、H3BO3の第一解離定数(pKa)は9.27であり、水の解離定数は14である。ホウ素に関しての分極条件下で形成されたホウ素錯体は、一価イオン除去の電流効率を過度に低下させ、または処理中の希釈区画の水のpHを上昇させることなく、一価選択性カチオン膜によって除去することができる。標準条件では、H2SeO3の解離定数は2.46である。セレンに関しての分極条件下で形成されたセレン錯体は、一価選択性アニオン膜によって除去することができる。
【0089】
水の解離およびホウ素の解離が発生する相対アクティブ分極電圧は、それぞれH2OおよびH3BO3の解離定数から計算され得る。水がイオンに解離するための解離定数Kは10-14(またはK)である。ネルンストの式を使用すると、化学ポテンシャルE=-0.0592log10Kであり、水の場合、E=0.829である。これは正の数であるため、標準条件下で水を分解するには0.829ボルトかかる。水溶性ホウ素の第一イオン化定数:H3BO3 = H2BO3
- + H+について同様の計算を実行すると、解離定数は5.4E-10である。これをネルンストの式に当てはめると、log10(5.4E-10)は-9.268なので、E=0.549になる。ホウ素の解離の電圧電位は、水の解離の電圧電位よりも小さい正の数であるため、ホウ素を最初の解離に分解するのに0.549ボルトしかかからず、これは水の場合よりも小さい。したがって、ホウ素の解離は、水よりも、電気透析装置のアノードおよびカソードの間に印加される電圧が低くて起こり得、ホウ素の解離は水の解離なしで実行され得る。同様の計算は、セレンの解離が、水よりも、電気透析装置のアノードおよびカソードの間に印加される電圧が低くて起こり得、セレンの解離が水の解離なしで実行され得ることを示す。
【0090】
さらに、電気透析装置がアニオン一価選択膜で構成され、カチオン膜での分極レベル以下であるが、アニオン膜での分極水分解レベルを超える電圧レベルで動作する場合、アニオン膜中の間隙水は局所的な高いpHで作用するため、同時に希釈区画のバルク液体のpHを下げながら、アニオン膜表面近くの任意のホウ素化合物は一価のホウ酸アニオンに変換され、さらにアニオン膜を通して除去される。例えば、アニオン膜とカチオン膜の両方を通してホウ素を除去することが可能である。
【0091】
同様に、汽水の地下水には、一価の亜セレン酸水素(HSeO3
-)およびセレン酸水素(HSeO4
-)ならびに/または二価の亜セレン酸(SeO32
-)およびセレン酸(SeO42
-)の混合物の形で、過剰なレベルのセレンを含有し得る。水分解分極電流未満で動作する一価選択性アニオン膜の使用により、一価の亜セレン酸水素および/またはセレン酸水素は、一価のアニオン選択膜によって被処理水から除去され、かつ/または分極電流で動作することにより、亜セレン酸および/またはセレン酸は、二価イオンから水素型一価イオンに変換され、一価選択性アニオン膜を通して除去され得る。この効果は、必要に応じて、硫酸塩や炭酸塩などのイオンについて、一価選択性アニオン膜を通して二価イオンを除去するためにも利用され得る。ED装置からの濃縮流出液が蒸発ポンドに送られる場合に、セレンの除去が毒性条件をもたらす実施では、高レベルのセレンは、化学還元剤などの処理ステップを使用して(被処理水をゼロ価鉄のベッドに通すなど)、または固定フィルム生物学的処理によって、独立して除去され得る。
【0092】
他の態様では、生成水のNa+含有量を分析し、動作電圧または動作電流を調整して生成水における特定のSAR値を維持するために、コントロールが使用される。
【0093】
別の態様では、濃縮溶出液は一価が高く、二価が低いことを考慮して、ED装置用の濃縮物ストリームを収集し、フラッキング目的に使用することができる。
【0094】
別の態様では、ED装置の濃縮物ストリームは、熱または電気を生成するために配置または使用される。濃縮物ストリームは、原水に比べて大量のイオンを含有する。この廃水は、廃棄されるか、何らかの有益な方法で使用される必要がある。1つの可能な処分方法は、深井戸注入である。この技術は、今日、石油およびガスの抽出からの逆流水に使用されている。
【0095】
ソーラーポンドは、太陽光線が浅いプールの底に接触することで作動し、浅いプールの底に隣接する水を加熱する。プールの底の水が加熱されると、その上のより低温の水よりも密度が低くなり、対流が始まる。ソーラーポンドは、この対流を妨げることで水を温める。下層の水が完全に飽和するまで、塩が水に添加される。ポンドの底の高塩度水はその上の低塩度水と容易に混ざらないため、水の下層が加熱されると、下層および上層で対流が別々に発生し、2つの層の間には穏やかな混合しかない。これにより、熱損失が大幅に減少し、30℃の低塩度水を維持しながら、高塩度水が最高90℃になることができる。次いで、この熱い塩水は、タービンを介して、または熱エネルギー源として、発電に使用するためにポンプで排出することができる。ED装置の濃縮物ストリームを処理するためにソーラーポンドを使用することは、塩類土壌またはナトリウム質土壌がしばしば見出される乾燥地域において特に有利である。
【0096】
別の実施形態では、ED装置を利用する浄水システムは、点滴灌漑と組み合わせて使用される。点滴灌漑は、植物の根域に直接水と栄養分をゆっくりと正確に適用することである。点滴灌漑システムは、マイクロ灌漑システムまたは液的灌漑システムとも呼ばれ、理想的な水分レベルを維持するのを助け、より深い根およびより多くの作物の形成を促進する。点滴灌漑は、蒸発および流出を減らすことで水を節約する。点滴灌漑を使用する場合、バイオフィルムと微生物の成長を制御するために消毒剤を使用することが望ましい場合がある。使用できる可能性のある潜在的に好ましい消毒剤は、二酸化塩素および次亜塩素酸塩、例えば次亜塩素酸カルシウムを含むが、これは土壌にナトリウムを加えないからである。そのような消毒剤は、ED装置の濃縮ストリーム流出液を介して供給水から回収された化合物を利用して電気化学的に生成され得る。
【0097】
他の実施形態では、水中のイオン化合物を測定するために、インラインSARモニターを使用される。このデバイスは、供給水を、ほぼ純粋な塩化ナトリウム除去液と、Ca2+、Mg2+、SO4
2-および残りのNaClを含む希釈液とに分離するための、一価選択性カチオン膜を備えたマイクロEDセルを含む。供給物ストリーム、希釈ストリームおよび除去ストリームの導電率を測定し、合成溶液および物質収支の計算から実験室で導き出された方程式を使用して、Ca2++Mg2+に対するNa+の比率を推定することができる。
【0098】
他の実施形態では、土壌の電気抵抗が測定される。土壌の電気抵抗を測定するためのそのような装置は、様々な深さでロッドの周りに電極を巻き付けたロッドを含み得る。電極付きのロッドが土壌中に挿入され、電極間の電気抵抗が例えば1000Hzで測定される。水分量と化学的性質が変化するにつれて、灌漑に使用される水の量を増やすか、または植物の根の構造近くのSAR値を変更するために、カルシウム、マグネシウム、およびナトリウムの量を変えて水を使用することも可能である。植物の根から水が抽出されると、塩が濃縮され、植物に有害となる可能性のある塩濃度に加えて、根付近のSAR値が変化する。
【0099】
いくつかの実施形態では、灌漑用途の水を提供する方法は、前処理水を電気透析装置に供給すること、および前記電気透析装置のアニオン透過膜でのアクティブ分極電圧を超えて、前記電気透析装置のアノードおよびカソードの間に電圧を印加することを含む。前記方法は、前記電気透析装置のカチオン透過膜でのアクティブ分極電圧を超えて、前記電気透析装置のアノードおよびカソードの間に電圧を印加することを更に含み得る。前記方法は、前記処理水のpHを前記前処理水のpHよりも低くするのに十分な流量で、前記前処理水を前記電気透析装置の希釈区画に流すこと、および/または、前記カチオン透過膜内の間隙水のpHを前記処理水のpHよりも低くするのに十分な流量で、前記前処理水を前記電気透析装置の前記希釈区画に流すことを更に含み得る。
【0100】
前記方法は、1)選択されたアクティブな消耗ストリームの電圧勾配で、前記電気透析装置のアノードおよびカソードの間に電圧を印加すること、および/または、2)選択されたイオン消耗膜表面速度、pH条件、温度、分極条件、ならびに/または一価アニオンおよび/もしくは一価カチオンに対する特定の多価アニオンおよび/もしくは多価カチオンの相対的な境界層濃度条件で、前記電気透析装置を動作させて、その結果、水素イオンもしくは水酸化物イオンのin situ生成に関連して、または水素イオンもしくは水酸化物イオンの任意のin situ生成に優先して、アニオン性中間体もしくはカチオン性中間体またはイオン錯体が前記膜表面に形成されること、および/または、3)前記アニオン性中間体もしくはカチオン性中間体またはイオン錯体が、これらのアニオンおよび/もしくはカチオンまたは中性成分が電場の不存在で十分に混合された平衡状態下にある場合よりも、前記アニオン選択膜およびカチオン選択膜の一方または両方に対して、相対的に透過性が高くなるか、または相対的に不透過性が低くなる条件下で、前記電気透析装置を動作させること、を更に含み得る。
【0101】
前記前処理水から前記一価アニオン種および前記一価カチオン種の一方または双方を選択的に除去することは、多価イオン種のフラクション除去と比較して、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、重炭酸イオン、硝酸イオン、セレン酸水素イオン、亜セレン酸水素イオンおよびその他の一価イオン種の1つ以上のより大きいフラクションを前記前処理水から除去することを含み得る。前記前処理水中の前記多価アニオン種および前記多価カチオン種の一方または双方を保持することは、一価イオン種のフラクション除去と比較して、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、炭酸イオン、セレン酸イオン、亜セレン酸イオン、硫酸イオン、およびその他の多価イオン種の1つ以上のより大きいフラクションを前記前処理水中に保持することを含み得る。
【0102】
前記方法は、1)前記電気透析装置の希釈区画のアニオン選択膜で水素イオンが生成され、かつ/または前記電気透析装置の希釈区画のカチオン選択膜で水酸化物イオンが生成されるアクティブ分極電圧を超える条件下で、前記電気透析装置を動作させること、および/または、2)硫酸水素イオン、重炭酸イオン、ホウ酸イオン、セレン酸水素イオン、および亜セレン酸水素イオンの1つ以上が、前記アニオン選択膜を通って、前記電気透析装置の濃縮区画に入るアクティブ分極電圧条件下で、前記電気透析装置を動作させること、および/または、3)カルシウム水素ホウ素(CaH2BO3
+)およびマグネシウム水素ホウ素(MgH2BO3
+)のいずれかを含むイオン錯体が、前記カチオン選択膜を通って、前記電気透析システムの濃縮区画に入るアクティブ分極電圧条件下で、前記電気透析装置を動作させること、を更に含み得る。
【0103】
前記方法は、前記電気透析装置のカチオン透過膜でのアクティブ分極電圧を超えて、前記電気透析装置のアノードおよびカソードの間に電圧を印加することを更に含み得る。前記方法は、前記カチオン透過膜内の間隙水のpHを前記処理水のpHよりも低くするのに十分な流量で、前記前処理水を前記電気透析装置の前記希釈区画に流すことを更に含み得る。
【0104】
前記方法は、硫酸または塩酸を未処理供給水に添加することにより、前記未処理供給水から前記前処理水を生成すること、酸化化合物を未処理供給水および前記前処理水の1つに添加することにより、前記未処理供給水から前記前処理水を生成すること、および/または前記未処理供給水から溶存ガス成分を除去すること、を更に含み得る。前記未処理供給水から前記前処理水を生成することは、1)前記未処理供給水から、鉄、マンガン、硫黄、セレン、重金属、ならびに他の無機物質および有機物質の1つ以上で構成されるin situ被酸化性化合物を沈殿およびろ過すること、または2)前記未処理給水を酸素含有ガスで曝気すること、オゾン、塩素または二酸化塩素のうちの1つ以上を含む酸化化合物および消毒化合物を使用すること、ならびに酸化媒体を含む媒体ベッドを介したろ過によって処理することの1つ以上によって、前記未処理給水中にin situ酸化条件を生成すること、を更に含み得る。
【0105】
前記方法は、前記電気透析装置への供給水として前記電気透析装置の外部の供給源から入る前処理水に、硫酸または塩酸のいずれかを添加することを更に含み得る。
【0106】
前記方法は、前記電気透析装置の濃縮ストリームの精製または特定された生成物の成分を原料として使用して、酸化化合物およびpH調整化合物の1つを生成すること、および電気化学的酸化/還元装置で前記酸化化合物およびpH調整化合物の1つを処理して、前記前処理水を生成するために前処理システムによって利用される化学物質を生成することを更に含み得る。
【0107】
前記方法は、1)前記処理水のストリーム中のナトリウム濃度を監視すること、および前記電気透析装置の動作パラメータを調整して、前記電気透析装置の前記処理水のストリームおよび/または濃縮水のストリームにおける所望のSAR値および特定のイオン成分もしくは非イオン成分の濃度のいずれかを維持すること、および/または、2)前記処理水のストリームにおける処理水のSAR値を決定すること、および前記電気透析装置の動作電流および前記電気透析装置への供給水のpHの一方または両方を調整して、前記電気透析装置からの前記処理水のストリームおよび/または濃縮水のストリームにおける前記所望のSAR値およびpHの1つ以上を維持すること、を更に含み得る。
【0108】
前記方法は、前記電気透析装置で生成された濃縮物ストリームの流出液を利用して、前記電気透析装置への未処理供給水を調整および前処理するための原料として使用される試薬を生成することを更に含み得る。
【0109】
前記方法は、前記濃縮物ストリームから熱または電気を生成すること、前記濃縮物ストリームをソーラーポンドに導くこと、および任意に他の商業用途における使用のために、選択的に、蒸発プロセスに精製された固体化学化合物を特定させることを更に含み得る。
【0110】
前記方法は、蒸留、クロマトグラフィーイオン遅延プロセス、結晶化、および選択的蒸発の1つまたは組み合わせを使用して、前記電気透析装置由来の濃縮水から、更に使用するための試薬を生成することを更に含み得る。
【0111】
電気透析装置を動作させる方法は、前記電気透析装置の消耗区画に10ppm未満または5ppm未満のホウ素元素を含む前処理水を供給すること;前記電気透析装置の前記消耗区画内で9.5未満または8.5未満、例えば7~8.5または6~7のバルクpHを維持すること;前記前処理水中の前記ホウ素の少なくとも50%が前記消耗区画から除去される条件下で、前記電気透析装置を動作させること;および前記前処理水中のホウ素元素の濃度よりも少なくとも50%低いホウ素元素の濃度を含有する処理水を、前記電気透析装置の前記消耗区画から排出すること、を含み得る。
【0112】
前記電気透析装置の前記消耗区画に前記前処理水を供給することは、一価選択性カチオン膜を含む電気透析装置に前記前処理水を供給することを含み得る。
【0113】
本明細書に開示される電気透析装置は一価選択性カチオン膜を含み得る。前記電気透析装置は、前記電気透析装置の消耗区画内で前記電気透析装置に9.5未満または8.5未満または7.5未満または6.5未満のバルクpHを維持させ、且つ、前記消耗区画を流れ、前記消耗区画に導入されたときに10ppm未満または5ppm未満の元素ホウ素濃度を有する前記前処理水から、少なくとも50%のホウ素を除去するのに十分なアノードおよびカソードの間の電圧ならびに前記消耗区画を通る前処理水の流量で、前記電気透析装置が動作するように更に構成されたコントローラを含み得る。
【0114】
本明細書に開示される灌漑システムは、特定のイオンの濃度を測定するように構成されたセンサーを更に含み、前記コントーラは、前記特定のイオンの濃度を示す前記センサーからの信号の受信に応答して、前記前処理システムおよび/または前記電気透析装置の動作パラメータを調整して、前記処理水のストリーム中の前記特定のイオンの濃度を制御するように更に構成される。
【0115】
灌漑用水システムの一実施形態が、
図1において100で一般的に示されている。未処理供給水の供給源105、例えば井戸からの未処理供給水は、粒子状物質を除去するために、必要に応じて、プレフィルター110、例えばスクリーンフィルターまたは砂フィルターを通過させられる。前ろ過水は、バルブ115およびポンプ120を介して前処理システム125に供給される。前処理システム125は、前ろ過水から1つ以上の不所望の成分を除去するか、前ろ過水の1つ以上の特性または前ろ過水中の1つ以上の種の濃度を変更するための1つ以上のユニット操作を含み得る。前処理システム125は、例えば空気などの酸素含有ガスで前ろ過水を曝気し得る強制ドラフト脱気装置130を含むことができる。強制ドラフト脱気装置130は、前ろ過水中の様々な汚染物質、例えば硫黄、鉄、またはマンガンを酸化させ、前ろ過水から沈殿させることができる。pH調整剤の供給源135、例えば硫酸の供給源(塩酸も使用され得るが、一価選択性アニオン膜を使用する特定の実施では、硫酸を使用して、添加塩化物のレベルの減少を必要とするよりも硫酸塩のレベルを維持または増加させることが望ましい)は、強制ドラフト脱気装置130への導管を通過する際に、前ろ過水にpH調整剤(例えば、硫酸)を投入して、強制ドラフト脱気装置130内の前ろ過水からの汚染物質の沈殿を促進し、流入液の約4.3から流出液の約5.5の間の液体pHで動作することにより形成される二酸化炭素ガスとして炭酸塩と重炭酸塩を除去することができる。前処理システム125は、前ろ過水から沈殿した汚染物質を除去するために、例えば砂フィルターなどの粒子フィルター140をさらに含み得る。他のユニット操作、例えば、メディア、マンガン生砂、カーボンフィルター、ヒーター、クーラー、または電気透析装置への流入pHを微調整するための追加の化学物質(例えば、塩素、オゾン、または二酸化塩素)投与システムが、前処理システム125の実施形態に含まれ得る。
【0116】
前ろ過水は、低いpHの前処理水として前処理システム125を出て、分離システム145に導入され得る。分離システム145を利用して、所望の成分またはイオンを保持して処理水を生成しながら、前処理水から不所望の成分またはイオンを除去することができる。不所望の成分またはイオンは、ナトリウムイオンまたは塩素イオンなどの一価イオンを含み得る。所望の成分またはイオンは、カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの二価イオンまたは多価イオンを含み得る。
【0117】
分離システム145は、例えば電気透析(EDまたはEDR)システムまたは電気脱イオン化(EDI)システムなどの電動分離システムであってもよく、またはそれを含んでいてもよい。
図1に示す特定の実施形態では、分離システム145はEDシステムである。前処理水は、EDシステム145の希釈区画入口155および濃縮区画入口150の一方または両方に入ることができる。スケールの堆積、例えばEDシステム145の濃縮区画を規定する膜上の炭酸カルシウムの堆積の見込みまたは可能性を防止または低減させるため、pH調整剤の第二供給源160からの硫酸または塩酸などのpH調整剤を、EDシステム145の濃縮区画入口150に入る前処理水に添加して、EDシステム145の濃縮区画に流入する前処理水をさらに酸性化することができる。このスケールの可能性の低下は、特にED装置における一価選択膜と組み合わせて使用される場合、浄化水のより高い水回収率での動作と、濃縮物ストリーム180中のより高いレベルの塩度を可能にする。次いで、流出濃縮物ストリーム180は、さらなるプロセシング、例えばエネルギー捕捉のためにソーラーポンドに、塩素もしくは二酸化塩素などの消毒剤化合物の電気化学的生産のための原料として使用するために、塩酸もしくは腐食剤の電気化学的製造に使用するために、石油およびガス生産用の水として使用するために、または精製された塩の生産のための蒸発スペシエーションプロセスもしくはクロマトグラフィースペシエーションプロセスに送られてもよい。追加的または代替的に、pH調整剤、例えばpH調整剤の第二供給源160からの硫酸を、EDシステム145の希釈区画入口155に入る前処理水に加えて、EDシステム145の希釈区画に入る前処理水をさらに酸性化してもよい
【0118】
ED装置は、残留炭酸塩または残留硫酸塩のスケーリングに対する保護として、極性反転モードで動作させ得るが、一価選択膜を含むED装置で動作するシステムでは、スケーリングの可能性が大幅に減少するため、前処理システムで炭酸塩を除去し、供給水のpHを下げ、濃縮水の二価濃度を下げると共に、極性反転なしで動作させることが好ましい場合がある。一般に、極性反転を使用しないシステムは低コストであり、より少ない内部制御システム、より少ないバルブ、費用のより低い電極を必要とし、浄化水のより高い収率を与える。
【0119】
図2Aに示されるように、EDシステム145はワンスルー構成で運転され得、当該ワンスルー構成では、前処理水は250で集合的に示されるEDシステム145の濃縮区画と、255で集合的に示されるEDシステム145の希釈区画の両方を一度だけ通過して、処理水のストリームおよび濃縮物ストリームを生成する。他の実施形態では、例えば、
図2Bに示されるように、前処理水は、EDシステム145の希釈区画255を一度だけ通過して処理水のストリームを生成するが、濃縮区画250で生成された濃縮物は濃縮区画250を通して再循環される。濃縮区画250に加えられる追加の前処理水を使用して、濃縮物ストリームの1つ以上の所望の特性を維持することが例示されている。しかしながら、代替動作モード(図示せず)では、処理された希釈ストリーム水の一部は、ナノろ過などのさらなる膜プロセスによって処理され、該膜プロセスでは、ナノろ過システムからの透過物の一部が、濃縮物ストリーム中の二価イオンの濃度が最小化されるように、濃縮ストリームに対する補給液としてリサイクルされ得る。
【0120】
EDシステム145の実施形態の濃縮区画250および希釈区画255の詳細が
図3に示されている。EDシステムは、アノード310およびカソード305を含む。アノード310とカソード305との間に配置されているのは、複数の濃縮区画250および希釈区画255である。濃縮区画250および希釈区画255は、濃縮区画250および希釈区画255の境界を画定するカチオン選択膜315およびアニオン選択膜320によって分離されている。カチオン選択膜315およびアニオン選択膜320のうちの1つ以上は、二価または多価イオンの移動を防止するか、少なくとも一価イオンよりも少ない程度で二価イオンまたは多価イオンを通過させながら、一価イオンを選択的に通過させる一価選択膜であり得る。カソード区画325は、カソード305とカチオン選択膜315の1つとの間に画定される。アノード区画330は、アノード310とアニオン選択膜320の1つとの間に画定される。供給水335は濃縮区画250に導入され、供給水340は希釈区画255に導入される。供給水335、340は、
図1の前処理システム125からの前処理水であってもよく、
図2Bに示されるようにEDシステム145の出口から再循環された水であってもよい。供給水335、340は、同じ供給源または異なる供給源からのものであり得、同じ組成または異なる組成を有し得る。カソードリンス水345がカソード区画325に導入され、アノードリンス水350がアノード区画330に導入される。いくつかの実施形態では、カソードリンス水345および/またはアノードリンス水350は、供給水335、340および給水335、340の組み合わせのうちの1つであり得る。
【0121】
動作中、電源(図示せず)からの電力は、カソード305およびアノード310を介してEDシステム145を横切って生成される電場に電気エネルギーを提供する。供給水335、340に存在するイオンは、生成された電場の影響下で、イオンとは反対の電荷を有するカソード305またはアノード310の一方に向かって移動し得る。例えば、供給水335、340に存在するナトリウムイオン(Na+)は、カソード305に向かって移動し、供給水335、340に存在する塩化物イオン(Cl-)は、アノード310に向かって移動する。ナトリウムイオンは、アニオン選択膜320を横切って移動することを実質的に防止され得る。塩化物イオンは、カチオン選択膜315を横切って移動することを実質的に防止され得る。したがって、ナトリウムイオンおよび塩化物イオンの濃度は、濃縮区画250で増加し、希釈区画255で減少し得る。多価アニオン、例えば、硫酸イオン(SO4
2-)または炭酸イオン(CO3
2-)は、カチオン選択膜315を横切って移動することを実質的に防止され得、アニオン選択膜が一価イオン選択膜である場合、アニオン選択膜320を横切って移動することを実質的に防止され得る。多価カチオン、例えば、マグネシウム(Mg2+)またはカルシウム(Ca2+)は、アニオン選択膜320を横切って移動することを実質的に防止され得、カチオン選択膜が一価イオン選択膜である場合、カチオン選択性膜315を横切って移動することを実質的に防止され得る。硫酸イオンおよび炭酸イオンは、希釈区画255に保持され得る。希釈区画255における炭酸イオンの保持は、濃縮区画250内の膜上に炭酸イオンがスケールを形成するのを防止することができる。硫酸水素(HSO4
-)イオンは、アニオン選択膜320を通過することができるが、カチオン選択膜315は通過することができない。硫酸水素の濃縮区画250への移動は、濃縮区画250内の水のpHを低下させ得、濃縮区画250に隣接する膜のスケーリングの可能性を低減するのに役立ち得る。
【0122】
カソード305とアノード310の間に十分な電圧が印加されると、典型的にはアニオン選択膜320で、水分解(H2O → H+ + OH-)が発生し得る。水酸化物イオンは、アニオン選択膜310を横切って濃縮区画250に移動し、濃縮区画250のpHを上昇させることがある。水分解反応により生成された水素イオンが希釈区画255を横切ってカチオン選択膜315に移動する時間がなく、したがって希釈区画255内に残り、希釈区画255内の水のpHを低下させるほど十分に、希釈区画255を通る流体の流れが速い場合がある。
【0123】
希釈区画255を出る生成水または処理水355(希釈物)は、流入供給水340よりも多価イオンに対する一価イオンの濃度が低く、したがって流入供給水よりも低いSAR値を有する。濃縮区画250を出る濃縮物360は、流入供給水335よりも多価イオンに対する一価イオンの濃度が高く、したがって流入供給水335または処理水355よりも高いSAR値を有する。カソード区画325を通過したカソードリンス水345およびアノード区画330を通過したアノードリンス水350は、濃縮物360と組み合わされ得る
【0124】
本明細書に開示されるEDシステムの実施形態は、
図3に示されるよりも著しく多数の希釈区画および濃縮区画ならびに関連するアニオン透過膜およびカチオン透過膜を含み得ることを理解されたい。本明細書に開示されるEDシステムの実施形態は、希釈区画および濃縮区画の複数のステージならびに関連するアニオン透過膜およびカチオン透過膜を含み得ることも理解されるべきである。本明細書に開示されるEDシステムの実施形態は、ステージごとの希釈区画および濃縮区画のステージの数の特定の数に限定されない。
【0125】
図1に戻って、希釈物は、EDシステム145の処理水出口165を通って処理水としてEDシステム145の希釈区画から出てもよい。処理水は、灌漑用水分配システム(例えば、EDシステム145の処理水出口165に流体接続された導管)に導入され、作物170の灌漑用水として利用され得る。濃縮物は、濃縮物出口175を通ってEDシステム145の濃縮区画から出てもよい。EDシステム145からの濃縮物は、補助使用点180に送られてもよい。補助使用点180では、濃縮物を使用して、例えばソーラーポンドで熱またはエネルギーを生成することができる。濃縮物は、いくつかの実施形態において、例えばソーラースチルでさらに処理されて、追加の浄化水を生成し、廃棄する濃縮物の量を低減させることができる。いくつかの実施形態では、濃縮物をさらに処理して、経済的に価値のある塩を回収することができる。濃縮物は、さらにまたは代わりに、深井戸注入、フラッキング、または他の目的に使用され得る。
【0126】
灌漑システム100は、様々な場所にいくつかのセンサーを含み得る。灌漑システム100は、例えば、強制ドラフト脱気装置130と粒子フィルター140との間の前処理システム125に配置されたセンサー175を含み得る。センサー175は、例えば、流量計、pHセンサー、または前処理システム内の水の1つ以上の他の特性を監視するように構成されたセンサーのうちの1つ以上であり得る。センサー175は、前処理システム内の水の1つ以上のパラメータに関するデータを灌漑システム100のコントローラ195に提供することができ、該コントローラ195は、受信したデータを利用して、バルブ115、ポンプ120、pH調整剤の供給源135、強制ドラフト脱気装置130、または粒子フィルター140のうちの1つ以上の動作を制御することができる。コントローラ195とシステム100の様々な構成要素との間の通信を提供するための信号ラインは、
図1において破線として示されている。
【0127】
一例では、センサー175が、前処理システム125を通過する水のpHがpH5~8の所望の範囲の外であるという指示をコントローラ195に提供する場合、コントローラ195は、pH調整剤の供給源135から(任意に事前に濾過された)未処理の供給水へのpH調整剤の添加量または添加速度を調整することができる。場合により、(示されていないが)pH調整剤は、濃縮ストリーム流出液の電気化学的処理により合成され得る。コントローラ195は、灌漑システム100のローカルまたは灌漑システム100からリモートのコンピューター化されたコントローラとして実現され得る。
【0128】
EDシステム145からの処理水の1つ以上の特性を監視するために、1つ以上の追加のセンサー185が提供され得る。1つ以上の特性は、pH、温度、導電率、SAR値、選択的イオン濃度、または関心のある他の特性のいずれか1つ以上を含み得る。1つ以上の追加のセンサー185は、測定された特性の表示をコントローラ195に提供することができ、該コントローラ195は、処理水の測定された特性を5~8の望ましい範囲にするように、バルブ115、ポンプ120、pH調整剤の供給源135、強制ドラフト脱気装置130、粒子フィルター140、EDシステム145、またはpH調整剤の供給源160のいずれか1つの1つ以上の動作パラメータを調整し得る。
【0129】
いくつかの実施形態では、灌漑システム100は、処理水が灌漑用水として供給される場所で土壌の1つ以上の特性を測定するための1つ以上のセンサー190を含み得る。1つ以上のセンサー190は、例えば、pHセンサーまたは導電率センサーの1つ以上を含み得る。1つ以上のセンサー190は、コントローラ195に土壌の1つ以上の特性の表示を提供することができ、該コントローラ195は、例えば測定された土壌のpHまたは導電率に基づいて灌漑用水の流量または未処理供給水へのpH調整剤の添加速度を調整するために、灌漑システム100の1つ以上の動作パラメータを調整することができる。
【0130】
図1は非常に概略的であり、灌漑システム100の実施形態は追加の構成要素またはユニット操作、例えば、追加のバルブ、ポンプ、化学薬品投与システム、圧力駆動分離システムもしくは電動分離システム、サンプルポート、センサー、または灌漑システム100の動作を容易にするのに役立つその他の特徴部を含み得る。
【0131】
いくつかの実施形態では、EDシステム145の希釈区画255を出る処理水355で達成可能なSAR値は、EDシステム145で利用される膜の選択性に少なくとも部分的に依存し得る。二価イオン(マグネシウムやカルシウムなど)に対する一価イオン(ナトリウムなど)の膜を介した輸送の選択性は、次の式によって定義され得る:
【数3】
式中、C
iはイオン種iのモル濃度(mol/l)であり、ΔC
iはEDプロセスにおけるイオン種iのモル濃度の変化である。
【0132】
いくつかの実施形態では、例えば、異なるSAR許容値を有する作物が互いに近接して栽培されている場所では、異なるSAR値を有する灌漑用水が望ましい場合がある。そのような実施形態では、高度に選択的な膜を有し、低いSAR値を有する灌漑用水を生成可能な単一のEDシステムを使用してすべての灌漑用水を供給することができるが、より選択性の低い膜を有するEDシステムはより安価であり得る。したがって、異なるSAR値を有する灌漑用水を並行して生成すること、および2つ以上のEDシステム145A、145Bからの処理水を所望の比率で混合して異なる作物405、410のニーズを満たすことが可能な2つ以上のEDシステム145A、145Bを動作させることが有益な場合がある。コントローラ420(
図1のコントローラ195と同じであっても異なっていてもよい)および関連するセンサー425は、2つ以上のEDシステム145A、145Bからの処理水のナトリウム濃度またはSARの他の指標を測定し、異なる作物405、410のニーズを満たすために、2つ以上のEDシステム145A、145Bからの処理水を所望の比率で組み合わせるために、混合バルブ、例えばミキサーまたは流量コントローラ430を調整し得る。2つ以上のEDシステム145A、145Bからの濃縮物ストリームは結合され、補助使用点180に送られてもよい。あるいは、処理水の一部、特に、一価アニオン膜および/または一価カチオン膜で構成された電気透析装置からの希釈ストリーム出口水生成物は、ナノろ過などの膜プロセス(図示せず)を使用してさらに処理され得る。そのような電気透析装置の希釈ストリーム出口水は、ロバストなレベルの多価イオンを維持しながら、一価イオンが枯渇するだろう。そのような供給水組成物は、ナノろ過を使用した塩の効率的かつ低エネルギーな除去に理想的であり、また微量のホウ素などの残留成分の追加除去をもたらし得る。その結果、ナノフィルターからの透過液は飲料水、洗浄、家畜用の水などの用途に理想的であるのに対し、ナノフィルターからの残留物は灌漑用水に有用であり、SAR値はさらに低下する。
【実施例】
【0133】
(実施例1)
井戸水から灌漑に適した水を生成するために電気透析装置を利用する可能性を決定するために、次のテストを実施した;サンプルはテキサスの井戸水から採取された。以下の表1に示すように、井戸水サンプルの様々なイオンの濃度およびpHを測定した。
【0134】
【0135】
モデルを使用して、Evoqua Water Technologies LLCから入手可能で、3つのパスで動作し(6-6-4構成に配置された16個のサブブロック)一価選択性カチオン交換膜を備えたNEXED(登録商標)電気透析装置を使用した、様々な井戸水サンプルの処理をシミュレートした。
【0136】
90%の水分回収率を達成するために濃縮物再循環で動作するNEXED電気透析装置のシミュレーション結果を以下の表2に示す。
【0137】
【0138】
濃縮物の再循環なしで50%の水回収率を達成したNEXED電気透析装置のシミュレーション結果、および濃縮液の再循環ありで90%または75%の水回収率を達成したNEXED電気透析装置のシミュレーション結果を以下の表3に示す。
【0139】
【0140】
これらの結果は、電気透析が、適度に塩分のある地下水から敏感な作物の灌漑に適した生成水を生成するための実行可能なプロセスであることを示している。電気透析装置は、90%の水回収率で、流入水のSARを約50%以上減らすことができる。
【0141】
(実施例2)
電気化学セルにおいてカチオン種をアニオン種から分離するためのカチオン透過膜の有効性を決定するために、次のテストを実施した:アノード、カソード、および単一のカチオン選択膜を含むイオン移動装置が構築された。約800ppmのNa
+、約250ppmのCa
2+、および約80ppmのMg
2+を含む模擬供給水が準備された。
図5は、SARが改善されていない電気透析装置からのカチオンに関して予想される脱塩性能の制御例を提供する。イオン移動装置は、pHの変化を最小限に抑えるために、限られた時間でバッチモードで動作させた。
図5は、0秒から18000秒の動作時間にわたる動作データを提供する。この例で使用したカチオン膜は、一価選択性ではなかった。見ての通り、カチオン膜のアノード側のナトリウム、カルシウムおよびマグネシウムの初期レベルは、それぞれ約800ppm、約250ppmおよび約80ppmであった。ナトリウム、カルシウムおよびマグネシウムの最終レベルは、それぞれ約350ppm、約10ppmおよび約10ppmであった。これらの値に基づいて、希釈ストリーム全体の塩度は約70%減少したが、二価イオンの高い移動性によりSAR値は約17から約21に増加した。このような典型的な汽水タイプがROやナノろ過などの他の標準的な膜プロセスを使用して処理される場合、この同じ効果が見られる場合がある。
【0142】
(実施例3)
電気化学セルでカチオン種をアニオン種から分離するための一価選択性カチオン透過膜の有効性を決定するために、次のテストを実施した:アノード、カソード、および単一のカチオン選択膜を含むイオン移動装置が構築された。約800ppmのNa
+、約250ppmのCa
2+、および約80ppmのMg
2+を含む模擬供給水が準備された。
図6は、SARが改善された、本明細書で開示される電気透析装置からのカチオンに関して予想される脱塩性能の例を提供する。イオン移動装置は、pHの実質的な変化を最小限に抑えるために、限られた時間でバッチモードで動作させた。この図は、0秒から23000秒の動作時間にわたる動作データを提供する。この例で使用したカチオン膜は、一価選択性であった。ご覧のように、カチオン膜のアノード側のナトリウム、カルシウムおよびマグネシウムの初期レベルは、それぞれ約800ppm、約250ppmおよび約80ppmであった。ナトリウム、カルシウムおよびマグネシウムの最終レベルは、それぞれ約150ppm、約250ppmおよび約80ppmであった。これらの値に基づいて、希釈ストリーム全体の塩度は、二価イオンをほとんどまたは全く除去せずに約60%減少した。二価イオンの低い移動性によりSAR値は約18から約3に減少した。
【0143】
(実施例4)
電気化学セルでホウ素を分離するための一価選択性カチオン透過膜の有効性を決定するために、次のテストを実施した:アノード、カソード、単一の一価カチオン選択膜、および該カチオン選択膜の両側のアニオン選択膜を含むイオン移動装置が構築された。装置は
図7に概略的に示されている。
図7に示されるように、イオン移動装置は、カソード区画、アノード区画、濃縮区画、および希釈区画を含むミニED装置である。使用される膜は、7.0cm
2のイオン輸送用の活性面積を有する円形である。カチオン交換膜は中央に配置され、2つのアニオン交換膜によって「サンドイッチ」されている。2つの電極区画は、1.5リットルの0.15M K
2SO
4溶液を含むリザーバーからの0.15M K
2SO
4溶液を使用して、直列のペリスタポンプによって送液された。送液速度は約200ml/分である。4つの区画のすべては、2cmの幅と、7cm
2の面積の円の形をした断面を有する。濃縮物ストリームは、200ml/分の流速でペリスタポンプにより循環される0.3M KClであった。希釈ストリームは合計で約70mlの溶液(ライン内を含む)を含有し、200ml/分で送液された。電流密度は25A/m
2であった。システムは室温で作動し、処理されている水は6.1のpHを有していた。
【0144】
現在の「非効率性」を理解するために、希釈区画内のK+濃度を測定した。イオンクロマトグラフィー(IC)で測定したところ、1%未満のKが希釈区画に存在していた。これは、膜の選択性の程度により、99%の電流効率が達成されることを示していた。
【0145】
希釈区画のサンプルは、ICおよびホウ素分析のために定期的にサンプリングされた。ICテストは、DI水で400倍に希釈され、IC装置に注入された0.250mlのサンプルで実施された。一方、1.00mlのサンプルを使用して、600nmでの光吸収にHachのBoroVer試薬を使用してホウ素濃度を分析した。
【0146】
図8は、0秒から23000秒までの動作時間にわたって脱塩が進行したときの3つのイオンの濃度を示す実験データである。カチオン膜を介した電荷輸送において、Na
+濃度が支配的でなくなると、ホウ素濃度が低下し始めることが明らかになった。見てわかるように、カチオン膜のアノード側のナトリウム、カルシウム、マグネシウム、およびホウ素の初期レベルは、それぞれ約780ppm、約250ppm、約80ppm、および約14ppmであった。ナトリウム、カルシウムおよびマグネシウムの最終レベルは、それぞれ約280ppm、約250ppm、約80ppmであった。これらの値に基づいて、二価イオンの除去はほとんどまたは全くなく、全体の希釈ストリーム塩度は約55%減少した。二価イオンの移動が少ないため、SAR値は約16から約5に低下した。ホウ素レベルは、約14ppmから約11ppmへの初期低下を示し、ナトリウムレベルが残りのカルシウムおよびマグネシウムの合計レベルに近づくレベルまで低下するまで11ppmのままであった。その時点で、ホウ素レベルは7ppm未満に低下した。希釈ストリームのpHの増加を必要とすることなく、50%を超えるホウ素の除去が達成された。
【0147】
本開示の少なくとも1つの実施形態のいくつかの態様をこのように説明してきたが、様々な変更、修正、および改善が当業者に容易に思い浮かぶことが理解されるべきである。そのような変更、修正、および改善は、本開示の一部であることが意図されており、本開示の精神および範囲内にあることが意図されている。例えば、本明細書に開示される任意の1つ以上の実施形態の特徴は、本明細書に開示される任意の他の実施形態の特徴と組み合わされ得る。したがって、前述の説明および図面は単なる例である。
【0148】
本明細書で使用される語法および用語は、説明を目的とするものであり、限定と見なされるべきではない。本明細書で使用される「複数(plurality)」という用語は、2つ以上のアイテムまたは構成要素を指す。「含む(comprising)」、「含む(including)」、「運ぶ(carrying)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、および「含む(involving)」という用語は、明細書の記載または特許請求の範囲中などにかかわらず、オープンエンドの用語、即ち「含むがこれらに限定されない」ことを意味する。したがって、そのような用語の使用は、その後にリストされるアイテム、およびその同等物、ならびに追加のアイテムを包含することを意味する。クレームに関して、それぞれ「からなる(consisting of)」および「から本質的になる(consisting essentially of)」移行句のみがそれぞれ、クローズド移行句またはセミクローズド移行句である。クレーム要素を修飾するためのクレーム中における「第1(first)」、「第2(second)」、「第3(third)」などの順序用語の使用は、それ自体で、あるクレーム要素の別のクレーム要素に対する優先度、優先順位もしくは順序、またはメソッドの動作が実行される時間的順序を意味するものではなく、特定の名前を持つクレーム要素を同じ名前を持つ別の要素と区別するためのラベルとして、当該クレーム要素を区別するため(ただし、順序用語の使用のため)にのみ使用される。