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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】スパークプラグ用絶縁体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20230413BHJP
   H01T 21/02 20060101ALI20230413BHJP
   C04B 35/64 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
H01T13/20 E
H01T21/02
C04B35/64
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020117544
(22)【出願日】2020-07-08
(65)【公開番号】P2022014979
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142745
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 世子
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100148275
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】河辺 文人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 治樹
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 大輝
【審査官】片岡 弘之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭47-025523(JP,A)
【文献】実開昭58-094631(JP,U)
【文献】特開平08-119443(JP,A)
【文献】特開2000-100546(JP,A)
【文献】特開2006-185795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/20
H01T 21/02
C04B 35/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
匣鉢に、焼成されてスパークプラグ用絶縁体となる複数の略筒状の成形体を立てながら並べて配置する成形体供給工程と、
前記成形体供給工程において前記匣鉢内の隣り合う2つの側面と前記成形体との間に生じた隙間を埋めるスペーサを配置するスペーサ配置工程と、
前記成形体および前記スペーサが配置された前記匣鉢を焼成炉に配置して前記成形体を焼成する焼成工程と、
を含むスパークプラグ用絶縁体の製造方法であって、
前記匣鉢内の隣り合う2つの側面の一方を第1側面とし、他方を第2側面としたとき、
前記成形体供給工程では、前記成形体は前記匣鉢内に千鳥配列で配置され、前記第1側面と対向する前記成形体の列は、前記第2側面と対向する前記成形体の列より疎に並び、
前記スペーサ配置工程では、
前記第1側面側の前記隙間に、前記第1側面に沿う方向の前記成形体の列であって、前記第1側面に最も近接する列と、2番目に近接する列と、の両方に接触し得る凹凸形状を有する第1スペーサを配置し、
前記第2側面側の前記隙間に、前記第1スペーサの前記凹凸形状よりも小さな凹凸形状を有する第2スペーサを配置する、スパークプラグ用絶縁体の製造方法。
【請求項2】
前記スペーサ配置工程で用いられる前記第1スペーサおよび前記第2スペーサは、前記焼成工程で焼失する材料で形成されている、請求項1に記載のスパークプラグ用絶縁体の製造方法。
【請求項3】
前記材料は、発泡スチロールである、請求項2に記載のスパークプラグ用絶縁体の製造方法。
【請求項4】
前記成形体は、長手方向に対し垂直方向に突出し、最大の外径を有する最大外径部を有し、
前記第1スペーサおよび前記第2スペーサは、前記匣鉢内の前記隙間に配置されたときに、前記成形体の前記最大外径部に接触する、請求項1から3のいずれか1項に記載のスパークプラグ用絶縁体の製造方法。
【請求項5】
前記第1スペーサおよび前記第2スペーサの寸法は、前記匣鉢内に生じる前記隙間の寸法よりも小さい、請求項1から4のいずれか1項に記載のスパークプラグ用絶縁体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパークプラグに備えられている絶縁体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンなどの内燃機関の着火手段として、スパークプラグが用いられている。スパークプラグは、軸状の中心電極と、その中心電極を内側に保持する円筒状の絶縁体と、その絶縁体を内側に保持する主体金具とを有している。
【0003】
スパークプラグに備えられている絶縁体は、アルミナ等の絶縁性セラミック粉末を成形してセラミック成形体を作り、これを焼成することによって製造される。セラミック成形体を焼成する際には、例えば、特許文献1に示されるように、複数のセラミック成形体が、セラミック製の焼成用治具(例えば、容器状のセラミック鞘)内に立てられた状態で密に配置される。そして、複数のセラミック成形体は、セラミック鞘内に収容された状態で焼成炉内に搬送され、加熱焼成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-100546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スパークプラグに用いられる絶縁体は、その用途に応じて多様な寸法を有している。そのため、セラミック鞘などの容器内に、複数のセラミック成形体を密に並べて配置していくと、最終的に容器内の残りの空間にセラミック成形体を配置できない隙間が生じることがある。
【0006】
このような隙間が生じた状態でセラミック成形体が収容された容器を運搬すると、容器内でセラミック成形体が傾いてしまう可能性がある。セラミック成形体が傾いた状態で焼成されると、得られる絶縁体が曲がった形状となり望ましくない。
【0007】
そこで、本発明では、絶縁体の曲がりや変形を抑制することのできるスパークプラグ用絶縁体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面にかかるスパークプラグ用絶縁体の製造方法は、匣鉢に、焼成されてスパークプラグ用絶縁体となる複数の略筒状の成形体を立てながら並べて配置する成形体供給工程と、前記成形体供給工程において前記匣鉢内の隣り合う2つの側面と前記成形体との間に生じた隙間を埋めるスペーサを配置するスペーサ配置工程と、前記成形体および前記スペーサが配置された前記匣鉢を焼成炉に配置して前記成形体を焼成する焼成工程と、を含む。このスパークプラグ用絶縁体の製造方法において、前記匣鉢内の隣り合う2つの側面の一方を第1側面とし、他方を第2側面としたとき、前記成形体供給工程では、前記成形体は前記匣鉢内に千鳥配列で配置され、前記第1側面と対向する前記成形体の列は、前記第2側面と対向する前記成形体の列より疎に並ぶ。また、前記スペーサ配置工程では、前記第1側面側の前記隙間に、前記第1側面に沿う方向の前記成形体の列であって、前記第1側面に最も近接する列と、2番目に近接する列と、の両方に接触し得る凹凸形状を有する第1スペーサを配置し、前記第2側面側の前記隙間に、前記第1スペーサの前記凹凸形状よりも小さな凹凸形状を有する第2スペーサを配置する。
【0009】
上記の製造方法によれば、匣鉢内に各成形体を配置した後に匣鉢内の隣り合う2つの側面にできる各隙間を、所定形状のスペーサで埋めることによって、その後の焼成工程などにおいて匣鉢内で各成形体が傾くことを抑制することができる。そのため、匣鉢内で各成形体が傾くことなく配置された状態で、成形体の焼成を行うことができ、得られる絶縁体の曲がりや破損などを抑制することができる。
【0010】
上記の本発明の一局面にかかるスパークプラグ用絶縁体の製造方法において、前記スペーサ配置工程で用いられる前記第1スペーサおよび前記第2スペーサは、前記焼成工程で焼失する材料で形成されていてもよい。
【0011】
上記の製造方法によれば、焼成工程後の絶縁体に、スペーサに由来する異物が付着することを抑制することができる。
【0012】
上記の本発明の一局面にかかるスパークプラグ用絶縁体の製造方法において、前記材料は、発泡スチロールであってもよい。
【0013】
上記の製造方法によれば、スペーサが発泡スチロールで形成されていることで、所定形状への加工を容易に行うことができる。これにより、所望の寸法および形状を有するスペーサを容易に形成することができる。
【0014】
上記の本発明の一局面にかかるスパークプラグ用絶縁体の製造方法において、前記成形体は、長手方向に対し垂直方向に突出し、最大の外径を有する最大外径部を有し、前記第1スペーサおよび前記第2スペーサは、前記匣鉢内の前記隙間に配置されたときに、前記成形体の前記最大外径部に接触してもよい。
【0015】
上記の製造方法によれば、匣鉢内に配置される各成形体の傾きをより確実に抑えることができる。
【0016】
上記の本発明の一局面にかかるスパークプラグ用絶縁体の製造方法において、前記第1スペーサおよび前記第2スペーサの寸法は、前記匣鉢内に生じる前記隙間の寸法よりも小さくてもよい。
【0017】
上記の製造方法によれば、匣鉢内に配置される各成形体同士の間、および、スペーサと成形体との間に遊びを形成することができ、匣鉢内の隙間にスペーサを簡単に配置することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明の一局面にかかるスパークプラグ用絶縁体の製造方法によれば、曲がりや変形の抑制されたスパークプラグ用絶縁体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態にかかるスパークプラグ用絶縁体の製造方法において焼成に付される匣鉢および成形体などを示す平面図である。
図2図1に示す匣鉢並びに匣鉢内に配置された成形体およびスペーサを示す断面模式図である。
図3】一実施形態にかかるスパークプラグ用絶縁体の外観および内部構成を示す片側断面図である。
図4】一実施形態にかかるスパークプラグ用絶縁体の製造方法において匣鉢内にスペーサが配置される前の状態を示す平面図である。
図5】本発明の一実施形態にかかるスパークプラグ用絶縁体の製造方法に使用される匣鉢を示す平面図である。
図6】一実施形態にかかるスパークプラグ用絶縁体の製造方法に使用される第1スペーサを示す平面図である。
図7】一実施形態にかかるスパークプラグ用絶縁体の製造方法に使用される第2スペーサを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0021】
本実施形態では、本発明の一例として、スパークプラグ用絶縁体30を製造する方法について説明する。図3には、スパークプラグ用絶縁体30(以下、単に絶縁体30とも称する)の構成を示す。
【0022】
絶縁体30は、スパークプラグの構成部品の一つである。絶縁体30は、スパークプラグの長手方向に延びる略円筒形状の部材である。絶縁体30は、主として、後端側胴部31、最大外径部32、先端側胴部33、および軸孔34などを有している。後端側胴部31は、最大外径部32の後端側に位置する。先端側胴部33は、最大外径部32の先端側に位置する。最大外径部32は、絶縁体30の長手方向に対し垂直方向(絶縁体30の径方向ともいう)に突出し、最大の外径を有する部分である。略筒状の絶縁体30の内側に位置する軸孔34には、後端側胴部31の方向において端子金具が配置され、先端側胴部33の方向において中心電極が配置される。なお、中心電極とは、スパークプラグがエンジンに取り付けられたときに燃焼室内に配置され、燃料を燃焼させる電極である。端子金具とは、高圧ケーブル(図示せず)が接続される棒状の部材である。
【0023】
絶縁体30は、絶縁性、耐熱性、および熱伝導性に優れた材料で形成されている。例えば、絶縁体30は、アルミナ系セラミックなどで形成されている。絶縁体30は、絶縁性セラミック粉末を成形してセラミック成形体を作り、これを焼成することによって製造される。以下では、絶縁体30が焼成される前のセラミック成形体を筒状成形体40(あるいは、成形体40)と呼ぶ。
【0024】
続いて、絶縁体30の製造方法において、筒状成形体40の焼成に関する一連の工程を説明する。なお、絶縁体30の製造方法において、筒状成形体40を形成する工程などの成形体供給工程の前に行われる各工程については、従来公知のスパークプラグ用絶縁体の製造方法と同様の方法を適用することができる。
【0025】
絶縁体30の焼成に関する一連の工程には、以下の各工程が含まれる。
(1)成形体供給工程
(2)スペーサ配置工程
(3)焼成工程
【0026】
図1および図2には、筒状成形体40が焼成されるときの状態を示す。図1に示すように、成形体40は、箱状の匣鉢1内に複数個並べられた状態で焼成工程に移される。図2は、図1に示す匣鉢1のA-A線部分の断面構成を示す。図4は、成形体供給工程において、匣鉢1内に成形体40が並べて配置された状態を示す。図5は、絶縁体30の製造に使用される匣鉢1の構成を示す。図6は、絶縁体30の製造に使用される第1スペーサ10の構成を示す。図7は、絶縁体30の製造に使用される第2スペーサ20の構成を示す。なお、図示する上での便宜上、図1図2、および図4においては、成形体40の一部が省略されている。また、図6においては第1スペーサ10の一部が省略され、図7においては第2スペーサ20の一部が省略されている。
【0027】
匣鉢1は、上面視で略長方形状を有する絶縁性の箱型の構造体である。図5に示すように、匣鉢1の内部は、主として、第1側面1a、第2側面1b、第3側面1c、第4側面1d、および底面1eで構成されている。第1側面1aおよび第3側面1cは、略長方形状の匣鉢1の長手方向の側面を形成している。第2側面1bおよび第4側面1dは、略長方形状の匣鉢1の短手方向の側面を形成している。
【0028】
以下では、説明の便宜上、匣鉢1の長手方向をX方向とし、短手方向をY方向とする。また、図5に示すように、第3側面1c側をXa側とし、第1側面1a側をXb側とし、第4側面1d側をYa側とし、第2側面1b側をYb側とする。
【0029】
上記(1)の成形体供給工程では、匣鉢1に、複数の成形体40を立てながら並べて配置する。成形体供給工程では、図2に示すように、成形体40の先端側(すなわち、絶縁体30の先端側胴部33側)を上方にした状態で(すなわち、匣鉢1の底面1e側に成形体40の後端側が位置するように)匣鉢1内に成形体40を並べていくことが好ましい。これは、成形体40の先端側と後端側とを比較すると、後端側の方がより径が大きいためである。匣鉢1の底面1e上に成形体40の後端面(すなわち、絶縁体30の後端側胴部31の端面)を配置することで、成形体40を匣鉢1内で自立可能な状態とすることができる。
【0030】
この成形体供給工程では、例えば、特許文献2(特開2006-185795号公報)に記載されているように、匣鉢1を水平面に対して傾斜させ、最も下方に位置する匣鉢1の一側面に沿うように各成形体40を並べて配置する(特許文献2の図2(A)(B))。
【0031】
成形体供給工程において、匣鉢1を水平面に対して傾斜させる場合には、上記の4つの側面のうちの何れか1つの側面を下方に配置し、下方に位置する一側面の下端部を基点として匣鉢1を傾斜させる。以下では、匣鉢1の短手方向の一側面(すなわち、第4側面1d)を下方に配置して、匣鉢1内に複数の成形体40を配置していく場合を例に挙げて説明する。
【0032】
成形体供給工程では、匣鉢1内の一つの角部(具体的には、隣り合う第3側面1cと第4側面1dとで形成される角部)に一つの成形体40を位置合わせする。そして、この成形体40を基準として、複数の成形体40を縦横(X方向およびY方向)に配列させる。個々の成形体40を順に配置する場合には、先ず、匣鉢1の第4側面1dに沿って複数の成形体40をXa側からXb側へと並べる。このようにして並べられた各成形体40は、X方向の第1列XAを構成する。
【0033】
次に、第1列XAの各成形体40に隣接するように、複数の成形体40をXa側からXb側へと並べる。このようにして並べられた各成形体40は、X方向の第2列XBを構成する。なお、このとき断面が略円形状の成形体を匣鉢1内に隙間なく詰めていくと、図4などに示すように、各成形体40は千鳥配列で配置される。
【0034】
ここで、千鳥配列とは、列状に並んだ各物体を互い違いに配置することをいう。図4に示す例では、Y方向に隣接する2列(例えば、第1列XAと第2列XB)に配置される各成形体40の軸位置(中心)を、成形体40の断面径の半分の径だけずらして配置している。これは、千鳥配列の一例である。
【0035】
このようにして匣鉢1内に成形体40を千鳥配列で並べていくと、最終的には、図4に示すような状態で各成形体40が配置される。その結果、匣鉢1内の第1側面1aと対向する成形体40の列(Y方向の列)は、第2側面1bと対向する成形体40の列(X方向の列)より疎に並んだ状態となる。例えば、図4に示す例では、第1側面1aと対向するY方向に並んだ各成形体40における個々の成形体40同士の間隔は、第2側面1bと対向するX方向に並んだ各成形体40における個々の成形体40同士の間隔よりも広い状態となっている。
【0036】
次に、上記(2)のスペーサ配置工程を行う。スペーサ配置工程では、成形体供給工程で匣鉢1内に成形体40を並べて配置した後に、匣鉢1内の隣り合う2つの側面と各成形体40との間に生じた隙間を埋めるためのスペーサを匣鉢1内に配置する。
【0037】
図4では、スペーサ(具体的には、第1スペーサ10および第2スペーサ20)が匣鉢1内に配置される前の状態を示す。成形体供給工程において、匣鉢1内の第4側面1dおよび第3側面1c側から成形体40を順に配置していくと、匣鉢1内の隣り合う2つの側面(例えば、第1側面1aおよび第2側面1b)と各成形体40との間には、隙間が生じる。
【0038】
例えば、匣鉢1内の第1側面1aと、この第1側面1aに最も近接する列に配置されている各成形体40(図4に示す例では、Y1列に配置されている各成形体40)との間には、隙間G1が生じる。また、匣鉢1内の第2側面1bと、この第2側面1bに最も近接する列に配置されている各成形体40(図4に示す例では、X1列に配置されている各成形体40)との間には、隙間G2が生じる。
【0039】
これは、成形体40の外形の寸法は、スパークプラグの種類および用途などに応じて種々に異なる一方、焼成時に使用される匣鉢1は、通常は、所定の寸法に設定されているためである。このような隙間が生じた状態で成形体40が収容された匣鉢1を運搬すると、匣鉢1内で成形体40が傾いてしまう可能性がある。
【0040】
そこで、スペーサ配置工程では、第1スペーサ10を用いて隙間G1を埋めるとともに、第2スペーサ20を用いて隙間G2を埋める。図6には、第1スペーサ10の外観形状を示す。図7には、第2スペーサ20の外観形状を示す。
【0041】
図6に示すように、第1スペーサ10は、凹凸形状15を有している。凹凸形状15は、第1スペーサ10が匣鉢1内に配置されたときに成形体40の列と対向する側に設けられており、各成形体40の最大外径部32の形状に沿うような波型の形状となっている。凹凸形状15は、主として、張り出し面11、凹み面12、および傾斜面13で構成されている。また、第1スペーサ10において、凹凸形状15が形成されている面の反対側の面は、平坦面14となっている。なお、張り出し面11は、凹み面12よりも平坦面14から離れている。傾斜面13は、張り出し面11と凹み面12とを接続する。凹凸形状15の長さ、つまり、張り出し面11、凹み面12、および傾斜面13の数は、匣鉢1の大きさに合わせて適宜調整される。
【0042】
第1スペーサ10が匣鉢1内の隙間G1を埋めるように配置されると、凹凸形状15の凹み面12および傾斜面13は、Y方向に並んだ各成形体40の列のうちの第1側面1aに最も近接するY1列の各成形体40と接触し得る(図1参照)。また、第1スペーサ10が匣鉢1内の隙間G1を埋めるように配置されると、凹凸形状15の張り出し面11は、Y方向に並んだ各成形体40の列のうちの第1側面1aに2番目に近接するY2列の各成形体40と接触し得る(図1参照)。
【0043】
このように、第1スペーサ10の凹凸形状15は、匣鉢1の第1側面1aに沿う方向(すなわち、Y方向)の成形体40の列であって、第1側面1aに最も近接するY1列の各成形体40と、2番目に近接するY2列の各成形体40との両方に接触し得る。
【0044】
また、図7に示すように、第2スペーサ20は、凹凸形状25を有している。凹凸形状25は、第2スペーサ20が匣鉢1内に配置されたときに成形体40の列と対向する側に設けられており、各成形体40の最大外径部32の形状に沿うような波型の形状となっている。凹凸形状25は、主として、凸部を形成する傾斜面21と、凹み面22とで構成されている。また、第2スペーサ20において、凹凸形状25が形成されている面の反対側の面は、平坦面24となっている。
【0045】
なお、第2スペーサ20の凹凸形状25は、第1スペーサ10の凹凸形状15と比較して、起伏の小さな凹凸形状となっている。すなわち、第2スペーサ20の凹凸形状25は、2つの傾斜面で凸部を形成しており、第1スペーサ10が有しているような張り出し面11を有していない。また、凹凸形状25の長さ、つまり、傾斜面21および凹み面22の数は、匣鉢1の大きさに合わせて適宜調整される。
【0046】
第2スペーサ20が匣鉢1内の隙間G2を埋めるように配置されると、凹凸形状25の傾斜面21および凹み面22は、X方向に並んだ各成形体40の列のうちの第2側面1bに最も近接するX1列の各成形体40のみと接触し得る(図1参照)。すなわち、第2スペーサ20の凹凸形状25は、第2側面1bに2番目に近接するX2列の各成形体40とは接触しない(図1参照)。
【0047】
以上のようにして、匣鉢1内に各成形体40を配置した後に匣鉢1内の隣り合う2つの側面(例えば、第1側面1aおよび第2側面1b)にできる各隙間G1およびG2は、第1スペーサ10および第2スペーサ20によってそれぞれ埋められる(図1および図2参照)。これにより、焼成工程を行うために焼成炉へ匣鉢1を搬送する際などに、匣鉢1内で各成形体40が傾くことを抑制することができる。そのため、匣鉢1内で各成形体40が傾くことなく配置された状態で、成形体40の焼成を行うことができ、得られる絶縁体30の曲がりや破損などを抑制することができる。
【0048】
なお、第1スペーサ10および第2スペーサ20は、匣鉢1内の隙間G1およびG2に配置されたときに、成形体40の最大外径部32に接触することが好ましい。例えば、図2に示す例では、隙間G1内に配置された第1スペーサ10の張り出し面11は、Y2列に位置する成形体40の最大外径部と接触している。
【0049】
これにより、匣鉢1内に配置される各成形体40の傾きをより確実に抑えることができる。
【0050】
また、第1スペーサ10および第2スペーサ20の寸法は、匣鉢1内に生じる各隙間G1またはG2の寸法よりも小さく設定されていることが好ましい。例えば、各スペーサ10および20は、それぞれが配置される隙間G1またはG2の寸法に対して、1-2mm程度小さいことが好ましい。これにより、匣鉢1内に配置される各成形体40同士の間、および、各スペーサ10および20と成形体40との間に遊びを形成することができ、匣鉢1内に各スペーサ10および20を配置しやすくなる。
【0051】
例えば、第1側面1aに形成される隙間G1の幅広の部分の寸法をA1とすると(図4参照)、第1スペーサ10の張り出し面11部分の厚さは、寸法A1よりも1-2mm程度小さいことが好ましい。また、第1側面1aに形成される隙間G1の幅狭の部分の寸法をA2とすると(図4参照)、第1スペーサ10の凹み面12部分の厚さは、寸法A2よりも1-2mm程度小さいことが好ましい。
【0052】
同様に、第2側面1bに形成される隙間G2の幅広の部分の寸法をB1とすると(図4参照)、第2スペーサ20の凸部の頂点部分の厚さは、寸法B1よりも1-2mm程度小さいことが好ましい。また、第2側面1bに形成される隙間G2の幅狭の部分の寸法をB2とすると(図4参照)、第2スペーサ20の凹み面22部分の厚さは、寸法B2よりも1-2mm程度小さいことが好ましい。
【0053】
なお、第1スペーサ10が、隙間G1の寸法に対して、上述した程度に小さなサイズで形成されている場合も、第1スペーサ10の凹凸形状15が各列Y1およびY2に位置する各成形体40に接触し得る状態の範疇に含まれる。
【0054】
また、スペーサ配置工程で用いられる第1スペーサ10および第2スペーサ20は、後に行われる焼成工程で焼失する材料で形成されていることが好ましい。これにより、焼成工程後の絶縁体30に、第1スペーサ10または第2スペーサ20に由来する異物が付着することを抑制することができる。焼成工程で焼失する材料とは、例えば、1000℃以上の温度で気化する材料である。
【0055】
第1スペーサ10および第2スペーサ20の材料としては、例えば、ポリスチレンなどの樹脂材料が挙げられる。より具体的には、発泡スチロールなどが挙げられる。発泡スチロールは、軽量であり、安価であり、所定形状への加工がしやすいなどの利点を有している。そのため、第1スペーサ10および第2スペーサ20を発泡スチロールで形成すれば、所望の寸法および形状に容易に成形することができる。
【0056】
スペーサ配置工程の後に、上記(3)の焼成工程を行う。焼成工程では、成形体40並びに第1スペーサ10および第2スペーサ20が配置された匣鉢1を、焼成炉に配置して成形体40を焼成する。スペーサ配置工程から焼成工程へ移行する際には、例えば、特許文献1に記載されているように、ローラコンベアなどの搬送機構を用いて匣鉢1を焼成炉へ搬送する。焼成時の温度は、例えば、1000℃以上1800℃以下の範囲内とすることができる。焼成工程については、従来公知のスパークプラグ用絶縁体の製造方法において実施される焼成工程と同様の方法を適用することができる。
【0057】
上述したように、第1スペーサ10および第2スペーサ20は、例えば、発泡スチロールなどの焼成工程で焼失する材料で形成されている。そのため、焼成工程の終了時には、匣鉢1内には第1スペーサ10および第2スペーサ20は存在しない。匣鉢1内には、成形体40を焼成して得られた絶縁体30が残される。
【0058】
以上のようにして、スパークプラグ用絶縁体30を製造することができる。
【0059】
(まとめ)
本実施形態にかかるスパークプラグ用絶縁体30の製造方法は、成形体供給工程と、スペーサ配置工程と、焼成工程とを含む。成形体供給工程では、匣鉢1に、焼成されてスパークプラグ用絶縁体30となる複数の略筒状の成形体40を立てながら並べて配置する。スペーサ配置工程では、成形体供給工程において匣鉢1内の隣り合う2つの側面と成形体40との間に生じた隙間(例えば、隙間G1およびG2)を埋めるスペーサ(例えば、第1スペーサ10および第2スペーサ20)を配置する。ここで、匣鉢1内の隣り合う2つの側面の一方を第1側面1aとし、他方を第2側面1bとする。焼成工程では、成形体40およびスペーサが配置された匣鉢1を焼成炉に配置して成形体40を焼成する。
【0060】
成形体供給工程では、成形体40は匣鉢1内に千鳥配列で配置される。匣鉢1内で配列された各成形体40において、第1側面1aと対向する成形体40の列(例えば、Y列)は、第2側面1bと対向する成形体40の列(例えば、X列)よりも疎に並んでいる。
【0061】
スペーサ配置工程では、匣鉢1内の第1側面1a側の隙間G1に第1スペーサ10を配置し、匣鉢1内の第2側面1b側の隙間G2に第2スペーサ20を配置する。第1スペーサ10は、第1側面1aに沿うY方向の成形体40の列であって、第1側面1aに最も近接する列(例えば、Y1列)と、2番目に近接する列(例えば、Y2列)との両方に接触し得る凹凸形状15を有する。第2スペーサ20は、第1スペーサ10の凹凸形状15よりも小さな凹凸形状25を有する。
【0062】
所定の大きさの匣鉢内に成形体を並べていくと、匣鉢内の寸法が成形体の外形寸法に合わせて設計されていない限り、匣鉢内の隣り合う2つの側面には隙間が形成される。このような隙間が生じた状態で成形体が収容された匣鉢を移送すると、匣鉢内では各成形体がぐらつき、傾いてしまう。そのため、匣鉢内では、できるだけ隙間が形成されない状態で、成形体が収容されることが望ましい。しかし、成形体40の外形の寸法は、スパークプラグの種類および用途などに応じて種々に異なっている。種々の寸法を有する成形体に応じて異なる大きさの匣鉢を用意するのは汎用性に欠ける。
【0063】
そこで、本実施形態にかかる製造方法のように、匣鉢1内に各成形体40を配置した後に匣鉢1内の隣り合う2つの側面にできる各隙間G1およびG2を第1スペーサ10および第2スペーサ20によって埋めることで、匣鉢1内で各成形体40が傾くことを抑制することができる。そのため、匣鉢1内で各成形体40が傾くことなく配置された状態で、成形体40の焼成を行うことができ、得られる絶縁体30の曲がりや破損などを抑制することができる。また、本実施形態にかかる製造方法によれば、汎用性の高い匣鉢を使用して成形体の焼成を行うことができる。
【0064】
以上のように、本実施形態にかかる製造方法によれば、曲がりや変形を抑制することのできるスパークプラグ用絶縁体を製造することができる。
【0065】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、本明細書で説明した実施形態の構成を互いに組み合わせて得られる構成についても、本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1 :匣鉢
1a :(匣鉢の)第1側面
1b :(匣鉢の)第2側面
10 :第1スペーサ
15 :(第1スペーサの)凹凸形状
20 :第2スペーサ
25 :(第2スペーサの)凹凸形状
30 :スパークプラグ用絶縁体
32 :最大外径部
40 :筒状成形体(成形体)
G1 :隙間
G2 :隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7