(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】電極の製造方法および電極ペースト塗工装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20230413BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20230413BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20230413BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230413BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20230413BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20230413BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20230413BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20230413BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20230413BHJP
H01G 13/00 20130101ALI20230413BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/04 Z
B05D1/26 Z
B05D7/24 301E
B05D7/14 G
B05D3/00 D
B05C5/00 101
B05C11/10
H01G11/86
H01G13/00 381
(21)【出願番号】P 2020191777
(22)【出願日】2020-11-18
【審査請求日】2021-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】三村 哲矢
(72)【発明者】
【氏名】榎原 勝志
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-140680(JP,A)
【文献】特開平02-203963(JP,A)
【文献】特開2012-009297(JP,A)
【文献】特開2016-219343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/139
H01M 4/04
B05D 1/26
B05D 7/24
B05D 7/14
B05D 3/00
B05C 5/00
B05C 11/10
H01G 11/86
H01G 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極ペーストを、ダイより集電箔上に塗工する工程と、
前記塗工された電極ペーストを乾燥する工程と、
を包含する電極の製造方法であって、
前記集電箔がバックアップロールにより搬送され、
前記塗工された電極ペーストの厚みおよび幅の少なくともいずれかの変動を測定し、
前記変動が、バックアップロールに起因するものであり、
前記バックアップロールの周速を、前記変動の測定結果に応じて、前記変動が小さくなるように変化させる、電極の製造方法。
【請求項2】
前記バックアップロールの周速を、下記式(2)に基づいて変化させる、請求項
1に記載の電極の製造方法。
V
BR=V
BR_const×{1-(W(x)/W
ave-1)}・・・(2)
V
BR:バックアップロールの周速
V
BR_const:バックアップロールの周速の設定値
W(x):塗工距離xにおける塗工幅、または時間xにおける塗工幅
W
ave:塗工幅の平均値
【請求項3】
前記バックアップロールの周速を、下記式(3)に基づいて変化させる、請求項
1に記載の電極の製造方法。
V
BR=V
BR_const×{D(x’)/D
ave)}・・・(3)
V
BR:バックアップロールの周速
V
BR_const:バックアップロールの周速の設定値
D(x’):塗工距離x’における塗工厚み、または時間x’における塗工厚み
D
ave:塗工厚みの平均値
【請求項4】
集電箔に電極ペーストを塗工するように構成されたダイコータ部と、
前記集電箔を搬送するように構成されたバックアップロールと、
塗工された電極ペーストの厚みおよび幅の少なくともいずれかの変動を測定するように構成された測定部と、
バックアップロールの周速を制御するように構成された制御部と、
を備え、
前記変動が、バックアップロールに起因するものであり、
前記バックアップロールの周速を、前記変動の測定結果に応じて、変動が小さくなるよう変化させるように構成されている、電極ペースト塗工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極ペーストを集電箔にダイ塗工することを含む電極の製造方法に関する。本発明はまた、当該製造方法の実施に好適な電極ペースト塗工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
二次電池、特にリチウムイオン二次電池の電極として、一般的に、集電箔上に活物質を含有する活物質層が設けられた電極が用いられている。このような電極は、一般的に、活物質を含有する電極ペーストを集電箔上に塗工し、当該塗工した電極ペーストを乾燥して活物質層を形成することによって製造される。
【0004】
このような製造方法において、特許文献1には、活物質層の目付量を均一化するために、塗工される電極ペーストの粘度、および塗工乾燥後のドライ状態の塗工膜厚または目付量を非破壊測定によりモニタし、モニタされたペースト粘度に基づきロールコータの塗工ギャップ量とドライ状態の塗工膜厚または目付量との関係を示す収縮率を求め、この収縮率とドライ状態の塗工膜厚または目付量のモニタ値とに基づき塗工ギャップ量を決定し、ドライ状態の塗工膜厚または目付量と塗工ギャップ量とのフィードバック制御により塗工を行うことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術は、ドライ状態の塗工膜厚または目付量に応じてコータの塗工ギャップ量(μm)をフィードバック制御して、活物質層の目付量を均一化しようとするものである。しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、従来技術においては、塗工ギャップ量をフィードバック制御することによって、活物質層の目付量の変動をある程度抑制できるものの、その目付量の変動の抑制に関し未だ改善の余地があることを見出した。
【0007】
そこで、本発明の目的は、電極ペーストの塗工と乾燥とを含む電極の製造方法であって、活物質層の目付量の変動を高度に抑制することができる、電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示される電極の製造方法は、電極ペーストを、ダイより集電箔上に塗工する工程と、前記塗工された電極ペーストを乾燥する工程と、を包含する。ここで、前記集電箔は、バックアップロールにより搬送される。前記塗工された電極ペーストの厚みおよび幅の少なくともいずれかの変動を測定する。前記バックアップロールの周速を、前記変動の測定結果に応じて、前記変動が小さくなるように変化させる。このような構成によれば、活物質層の目付量の変動を高度に抑制することができる、電極の製造方法が提供される。
【0009】
ここに開示される電極の製造方法の好ましい一態様においては、前記測定される変動が、バックアップロールに起因するものである。このような構成によれば、バックアップロールに起因する目付量の変動を高度に抑制することができる。
【0010】
ここに開示される電極の製造方法の好ましい一態様においては、前記バックアップロールの周速を、下記式(2)に基づいて変化させる。このような構成によれば、目付量の変動をより高度に抑制することができる。
VBR=VBR_const×{1-(W(x)/Wave-1)}・・・(2)
VBR:バックアップロールの周速
VBR_const:バックアップロールの周速の設定値
W(x):塗工距離xにおける塗工幅、または時間xにおける塗工幅
Wave:塗工幅の平均値
【0011】
ここに開示される電極の製造方法の好ましい一態様においては、前記バックアップロールの周速を、下記式(3)に基づいて変化させる。このような構成によれば、目付量の変動をより高度に抑制することができる。
VBR=VBR_const×{D(x’)/Dave)}・・・(3)
VBR:バックアップロールの周速
VBR_const:バックアップロールの周速の設定値
D(x’):塗工距離x’における塗工厚み、または時間x’における塗工厚み
Dave:塗工厚みの平均値
【0012】
別の側面から、ここに開示される電極ペースト塗工装置は、集電箔に電極ペーストを塗工するように構成されたダイコータ部と、前記集電箔を搬送するように構成されたバックアップロールと、塗工された電極ペーストの厚みおよび幅の少なくともいずれかの変動を測定するように構成された測定部と、バックアップロールの周速を制御するように構成された制御部と、を備える。当該電極ペースト塗工装置は、前記バックアップロールの周速を、前記変動の測定結果に応じて、変動が小さくなるよう変化させるように構成されている。この塗工装置を用いて電極を製造することにより、目付量の変動を高度に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電極の製造方法を説明するための模式図である。
【
図2】連続して電極ペーストの塗工を行った際に発生する一般的な目付量の変動の一例を示すグラフである。
【
図3】(a)は、電極ペーストが塗工された集電箔を主面に垂直な方向から見た場合の模式図であり、(b)は、目付量の大きい部分の線I-Iでの断面図であり、(c)は、目付量の小さい部分の線II-IIでの断面図である。
【
図4】バックアップロールの周速が一定の場合の塗工距離に対する電極ペーストの幅を示すグラフである。
【
図6】バックアップロールの周速の制御を行う実験における塗工距離に対する塗工幅の変化を示すグラフである。
【
図7】上記実験における塗工距離が35m~45mの区間での活物質層の目付量を示すグラフである。
【
図8】上記実験における塗工距離が65m~75mの区間での活物質層の目付量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明に係る実施の形態を説明する。なお、本明細書において言及していない事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0015】
本実施形態に係る電極の製造方法は、電極ペーストを、ダイより集電箔上に塗工する工程(以下、「塗工工程」ともいう)と、当該塗工された電極ペーストを乾燥する工程(以下、「乾燥工程」ともいう)と、を包含する。ここで、当該集電箔は、バックアップロールにより搬送される。当該塗工された電極ペーストの厚みおよび幅の少なくともいずれかの変動を測定する。当該バックアップロールの周速を、当該変動の測定結果に応じて、当該変動が小さくなるように変化させる。
【0016】
まず、塗工工程について説明する。塗工工程に使用される電極ペーストは、活物質と、溶媒(分散媒)と、を含有する。電極ペーストの構成は、電極ペーストの塗工と乾燥とを含む公知の電極の製造方法に用いられる電極ペーストと同様であってよい。電極ペーストがリチウムイオン二次電池の製造に用いられる例について以下説明する。
【0017】
電極ペーストがリチウムイオン二次電池用の正極ペーストである場合には、正極ペーストは、正極活物質と、溶媒と、を含有する。正極活物質としては、例えばリチウム遷移金属酸化物(例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNiO2、LiCoO2、LiFeO2、LiMn2O4、LiNi0.8Co0.15Al0.5O2、LiNi0.5Mn1.5O4等)、リチウム遷移金属リン酸化合物(LiFePO4等)等が挙げられる。溶媒としては、例えばN-メチルピロリドン(NMP)等が挙げられる。
【0018】
正極ペーストは、導電材、バインダ等をさらに含有していてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の炭素材料等が挙げられる。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。
【0019】
正極ペースト中の各成分の含有量および正極ペーストの固形分濃度は、公知のリチウムイオン二次電池用の正極ペーストと同様であってよい。
【0020】
電極ペーストがリチウムイオン二次電池用の負極ペーストである場合には、負極ペーストは、負極活物質と、溶媒と、を含有する。負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料が挙げられる。溶媒としては、例えば水等が挙げられる。
【0021】
負極ペーストは、バインダ、増粘剤等をさらに含有していてもよい。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)等が挙げられる。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。
【0022】
負極ペースト中の各成分の含有量および負極ペーストの固形分濃度は、公知のリチウムイオン二次電池用の負極ペーストと同様であってよい。
【0023】
なお、本明細書において、「ペースト」とは、固形分の少なくとも一部が分散した分散液のことを指し、よって「ペースト」は、「スラリー」、「インク」等を包含する。
【0024】
塗工工程に用いられる集電箔としては、公知のリチウムイオン二次電池用の集電箔を用いることができる。具体的には、金属箔等が用いられる。正極を製造する場合、集電箔としては、アルミニウム箔が好適である。負極を製造する場合、集電箔としては、銅箔が好適である。
【0025】
集電箔の厚みは、特に限定されず、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0026】
塗工工程の具体的な操作について
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る電極の製造方法を説明するための模式図である。
図1に示す電極ペースト塗工装置100は、塗工工程を実施するのに好適な電極ペースト塗工装置である。なお、塗工工程を実施するための電極ペースト塗工装置は、
図1に示すものに限られない。
【0027】
図1に示す電極ペースト塗工装置100は、集電箔60に電極ペースト70を塗工するように構成されたダイコータ部10と、集電箔60を搬送するように構成されたバックアップロール20と、塗工された電極ペースト70の厚みおよび幅の少なくともいずれかを測定するように構成された測定部30と、バックアップロール20の周速を制御するように構成された制御部と、を備える。なお、集電箔60および電極ペースト70は、電極ペースト塗工装置100の構成部材ではない。
【0028】
ダイコータ部10は、電極ペースト70をダイの吐出口から吐出するよう構成されている。ダイコータ部10の具体的な構成は、通常のダイコータと同様であってよい。例えば、ダイコータ部10は、吐出口を備えるダイと、当該ダイの位置を移動させるように構成されたダイ駆動機構と、から構成されている。ダイコータ部10には、電極ペースト供給系(図示せず)が接続されている。
【0029】
バックアップロール20は、集電箔60を搬送するよう構成されている。バックアップロール20の具体的な構成は、通常のダイ塗工に用いられるバックアップロールと同様であってよい。バックアップロール20は、典型的には、
図1に示すように、ダイコータ10のダイの吐出口の下部に配置される。しかしながら、バックアップロール20の位置は、本実施形態による目付量の変動低減効果が得られる限り、これに限られない。バックアップロール20は、ダイコータ10のダイの吐出口の近傍に配置されることが好ましい。
【0030】
測定部30は、塗工された電極ペースト70の厚み(すなわち、塗工厚み)および幅(すなわち、塗工幅)の少なくともいずれかを測定する。測定部30には、塗工厚みまたは塗工幅の測定に用いられる公知の測定器を用いることができる。測定器は、接触式であっても非接触式であってもよいが、非接触式のもの(例、レーザ変位計)が好ましい。
【0031】
制御部40は、測定部30での測定結果を受け取れるように測定部30と有線または無線で接続されている。また、制御部40は、バックアップロール20の周速等を制御可能なように、バックアップロール20と有線または無線で接続されている。図示例のように、制御部40は、ダイコータ部10の位置(特にギャップ量)を調整できるように、ダイコータ部10と有線または無線で接続されていてもよい。制御部40は、コンピュータによって構成されている。当該コンピュータは、CPUと、後述の制御を行うためのプログラムが格納されたROMと、RAMなどを備えていてもよい。しかしながら、後述の制御が可能な限り、制御部40の構成はこれに限られない。
【0032】
塗工は、集電箔60をバックアップロール20で搬送しながら、ダイコータ部10より、電極ペースト70を集電箔60の上に吐出することにより行うことができる。
【0033】
塗工の際、塗工厚みは、ダイコータ部10と、バックアップロール20との距離(すなわちギャップ量)により制御することができる。このギャップ量は、
図1では、寸法Gとして示されている。塗工厚みは、このギャップ量Gと、集電箔60の厚みとから定まる。
【0034】
ここで、一般的に、連続して電極ペーストの塗工を行うと、
図2に示す例のように電極ペーストの目付量が変動する。また、活物質層の目付量は、電極ペーストの乾燥後の目付量であるため、活物質層の目付量も同様に変動する。
図2においてV1で示される大きな変動は、ペースト粘度の変化等によるものであり、従来技術のようにギャップ量Gをフィードバック制御することにより抑制することが可能である。一方で、V2で示される変動は、バックアップロール20の軸振れ、バックアップロール20の真円度が0でないこと等に起因してギャップ量Gが周期的に変化することによるものであり、従来技術によって抑制することは困難である。本実施形態は、このバックアップロール20に起因する変動V2を抑制するものである。
【0035】
ここで、ダイコータ部10から吐出される電極ペースト70の量は一定である。そのため、
図3(a)および(b)に示すように、目付量が多い部分70aでは、塗工された電極ペースト70の厚みが大きくなる一方で、電極ペースト70の幅が狭くなる。逆に、
図3(a)および(c)に示すように、目付量が小さい部分70bでは、塗工された電極ペースト70の厚みが小さくなる一方で、電極ペースト70の幅が広くなる。なお、
図3は、参照の便宜のために模式的に描かれたものであり、幅と厚みの寸法の変化がわかりやすくなるように、電極ペースト70の塗工状態が誇張して描かれている。
【0036】
そのため、本実施形態では、塗工された電極ペースト70の厚みおよび幅の少なくともいずれかの変動を測定する。電極ペースト70の目付量の変動を把握するには、塗工された電極ペースト70の厚みおよび幅のいずれか一方のみを測定すれば十分である。塗工された電極ペースト70の厚みおよび幅の両方を測定する場合には、塗工異常を容易に検知することが可能である。
【0037】
塗工された電極ペースト70の厚みおよび幅の変動は、公知方法に従い測定することができる。
図1に示す例では、この変動を、測定部30を用いて測定する。なお、この塗工された電極ペースト70に対する測定は、乾燥工程の後に行ってもよい。しかしながら、乾燥による電極ペースト70の厚みおよび幅に対する影響を排除する観点から、乾燥工程の前に行うことが好ましい。
【0038】
ここで、集電箔60を搬送するバックアップロール20の周速によって、生産速度が定まる。したがって、製造現場においては、生産量を正確に把握することが生産管理上最も重要であり、そのため、バックアップロール20の周速を塗工中に変化させることは、通常行われない。しかしながら、あえて本実施形態では、上記の変動の測定結果に応じて、バックアップロール20の周速(周速)を、上記の変動が小さくなるように変化させてさらに塗工を行う。
【0039】
バックアップロール20の周速は、上記の変動が小さくなる限りどのように変化させてもよい。ここで、変動は、上述のように、
図2のV2で示される変動は、バックアップロール20の軸振れ、バックアップロール20の真円度が0でないこと等に起因するもの(すなわち、バックアップロール20に起因するもの)である。よって、上記の変動は、周期的に起こる。
【0040】
そこで、目付量の変動をより高度に抑制する観点から、時間もしくは塗工距離を変数として塗工された電極ペースト70の厚みを関数化し、または時間もしくは塗工距離を変数として塗工された電極ペースト70の幅を関数化し、これに基づいて、周速を、時間もしくは塗工距離を変数として関数化する。
【0041】
この関数化について具体例を説明する。
図4は、バックアップロールの周速が一定の場合の塗工距離に対する電極ペーストの幅を示すグラフである。周期的に電極ペーストの幅が変動していることがわかる。ここで、電極ペーストの幅(塗工幅)の平均値をW
aveとし、塗工距離xにおける塗工幅(または時間xにおける塗工幅)をW(x)とすると、変動割合を示す関数F(x)は、下記式(1)で表すことができる。
F(x)=W(x)/W
ave・・・(1)
【0042】
ここで、塗工幅が小さくなるタイミングでバックアップロール20の周速を大きくすると、電極ペーストの塗工幅を広くすることができる。逆に、塗工幅が大きくなるタイミングでバックアップロール20の周速を小さくすると、電極ペーストの塗工幅を狭くすることができる。そこで、塗工幅の変動に応じて、塗工幅が平均よりも大きくなるような電極ペーストのダイからの吐出タイミングにおいては、バックアップロール20の周速を設定値よりも小さくする。一方で、塗工幅が平均よりも小さくなるような電極ペーストのダイからの吐出タイミングにおいて、バックアップロール20の周速を設定値よりも大きくする。そこで、下記式(2)に基づいてバックアップロール20の周速を変化させる。具体的には、下記式(2)に基づき、変動の周期に合わせてバックアップロール20の周速を変化させる。参照としてこの式(2)をグラフ化したものを
図5に示す。
V
BR=V
BR_const×{1-(W(x)/W
ave-1)}・・・(2)
V
BR:バックアップロールの周速
V
BR_const:バックアップロールの周速の設定値
W(x):塗工距離xにおける塗工幅(または時間xにおける塗工幅)
W
ave:塗工幅の平均値
【0043】
バックアップロール20の周速を変化させる具体的な方法として、
図1に示す例では、測定部30により電極ペースト70の塗工幅の変動を測定し、測定部30での測定結果を制御部40に送信する。制御部40は、その測定結果に基づき、塗工距離xにおける塗工幅(または時間xにおける塗工幅)についての関数W(x)と、塗工幅の平均値W
aveを求める。関数W(x)の決定には、公知の関数フィッティング手法を採用することができる。制御部40には、上記式(2)が入力されており、制御部40は、上記式(2)に基づいて、バックアップロール20の周速を変化させる制御を行う。
【0044】
本発明者らは、実際に、上記式(2)に従ってバックアップロールの周速の制御を行う実験を行った。その時の塗工幅の変化を
図6に示す。
【0045】
当該実験では、まず一定時間(すなわち、
図6において塗工距離が53mになるまで)バックアップロールを一定の周速で回転させ、電極ペーストの塗工を行った。このときに、塗工された電極ペーストの幅(すなわち、塗工幅)の変動を測定した。そして、一定時間経過後(すなわち、
図6において塗工距離が53mに達した後)、その塗工幅の変動結果を用い、式(2)に基づいて、バックアップロールの周速を変化させるフィードバック制御を行った。なお、塗工幅の測定は継続した。
【0046】
図6より、フィードバック制御を行ってから、塗工幅の変動が小さくなっていることがわかる。さらに、塗工距離が35m~45mの区間での活物質層の目付量と、塗工距離が65m~75mの区間での活物質層の目付量をそれぞれ測定した。35m~45mの区間での目付量は、6.46mg/cm
2±1.8%であり、65m~75mの区間での目付量は、6.47mg/cm
2±0.6%であった。参考として、これらの区間での目付量の測定結果を
図7および
図8にそれぞれ示す。
【0047】
このように、実際の検討によって、塗工された電極ペーストの塗工幅を測定し、バックアップロールの周速を、変動の測定結果に応じて、変動が小さくなるように変化させることによって、目付量の変動を低減できることが実証できた。特に、式(2)に基づく制御によって、目付量の変動を大幅に低減できることが実証できた。
【0048】
また、
図3に示すように、電極ペーストの塗工幅だけでなく、電極ペーストの塗工厚みも目付量と関連するため、電極ペーストの塗工厚みを測定しても、目付量の変動を大幅に低減できることがわかる。
【0049】
具体的には、バックアップロール20の周速を大きくすると、電極ペースト70の塗工厚みを小さくすることができる。逆に、バックアップロール20の周速を小さくすると、電極ペースト70の塗工厚みを大きくすることができる。よって、塗工厚みの変動に応じて、塗工厚みが平均よりも大きくなるような電極ペーストのダイからの吐出タイミングにおいては、バックアップロール20の周速を設定値よりも大きくする。一方で、塗工厚みが平均よりも小さくなるような電極ペーストのダイからの吐出タイミングにおいて、バックアップロール20の周速を設定値よりも小さくする。そこで、下記式(3)に基づいてバックアップロール20の周速を変化させる。具体的には、下記式(3)に基づき、変動の周期に合わせてバックアップロール20の周速を変化させる。
VBR=VBR_const×{D(x’)/Dave)}・・・(3)
VBR:バックアップロールの周速
VBR_const:バックアップロールの周速の設定値
D(x’):塗工距離x’における塗工厚み(または時間x’における塗工厚み)
Dave:塗工厚みの平均値
【0050】
上記式(3)に基づいてバックアップロールの周速の制御を行うことで、目付量の変動を大幅に低減できる。
【0051】
次に、乾燥工程について説明する。乾燥工程は、公知方法に従い、集電箔上に塗工された電極ペーストを乾燥することにより行うことができる。
図1に示す例では、電極ペースト塗工装置100に、乾燥機50が組み合わされて、電極製造システムが構築されている。乾燥機50は、例えば、熱風乾燥機である。
図1に示す例では、この乾燥機50によって、集電箔60上に塗工された電極ペースト70の乾燥を行っている。しかしながら、乾燥に使用する装置の種類はこれに限られない。
【0052】
乾燥温度および乾燥時間は、使用する溶媒の種類に応じて適宜決定すればよく、特に限定されない。乾燥温度は、例えば70℃超200℃以下であり、好ましくは110℃以上150℃以下である。乾燥時間は、例えば10秒以上240秒以下であり、好ましくは30秒以上180秒以下である。
【0053】
乾燥工程の実施によって、集電箔60上に活物質層が形成され、電極を得ることができる。活物質層の厚み、密度等の調整を目的として、乾燥工程の後に、活物質層をプレス処理する工程を行ってもよい。当該プレス処理は、公知方法に従い行うことができる。さらに、電極を所定のサイズに裁断する工程を行ってもよい。
【0054】
以上のようにして、活物質層の目付量の変動が高度に抑制された電極を得ることができる。なお、本実施形態に係る電極の製造方法に、従来公知のギャップ量の制御による目付量の変動抑制方法を組み合わせて実施してもよい。
【0055】
本実施形態に係る製造方法により得られる電極は、公知方法に従い、リチウムイオン二次電池等の二次電池の電極として好適に用いることができる。したがって、本実施形態に係る電極の製造方法は、好適には、二次電池(特にリチウムイオン二次電池)用の電極の製造方法である。
【0056】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイスをいい、いわゆる蓄電池、および電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する用語である。また、本明細書において「リチウム二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。
【0057】
本実施形態に係る製造方法により得られる電極を用いて作製された二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源;小型電力貯蔵装置等の蓄電池などが挙げられる。
【0058】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0059】
10 ダイコータ部
20 バックアップロール
30 測定部
40 制御部
50 乾燥機
60 集電箔
70 電極ペースト
100 電極ペースト塗工装置