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特許7261815ネルボン酸を生産する組換え酵母菌株およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】ネルボン酸を生産する組換え酵母菌株およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/19 20060101AFI20230413BHJP
   C12P 7/6409 20220101ALI20230413BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20230413BHJP
   C12N 9/20 20060101ALN20230413BHJP
   C12N 9/04 20060101ALN20230413BHJP
   C12N 9/06 20060101ALN20230413BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20230413BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20230413BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20230413BHJP
【FI】
C12N1/19 ZNA
C12P7/6409
C12N9/10
C12N9/20
C12N9/04 Z
C12N9/06 Z
C12N15/53
C12N15/54
C12N15/55
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020556255
(86)(22)【出願日】2019-04-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 CN2019081736
(87)【国際公開番号】W WO2019196791
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-12-08
(31)【優先権主張番号】201810309632.4
(32)【優先日】2018-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【微生物の受託番号】CGMCC  CGMCC NO. 15309
(73)【特許権者】
【識別番号】520168712
【氏名又は名称】チンタオ インスティテュート オブ バイオエナジー アンド バイオプロセス テクノロジー、チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシーズ
【氏名又は名称原語表記】QINGDAO INSTITUTE OF BIOENERGY AND BIOPROCESS TECHNOLOGY,CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【住所又は居所原語表記】No.189 Songling Road,Laoshan District,Qingdao,Shandong 266101,CHINA
(73)【特許権者】
【識別番号】522293777
【氏名又は名称】チョーチアン ヂェンユエン バイオテック カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG ZHENYUAN BIOTECH CO.,LTD
【住所又は居所原語表記】Room 229,No.88 Kangyang Avenue,Shangyu Economic and Technological Development Zone,Shangyu District,Shaoxing,Zhejiang,China
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】リ,フリ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,シアン
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ウェイミン
(72)【発明者】
【氏名】メン,フイミン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,カイ
(72)【発明者】
【氏名】リ,ジアシン
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0223641(US,A1)
【文献】特表2013-541328(JP,A)
【文献】特表2007-515951(JP,A)
【文献】国際公開第2016/159869(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/19
C12P 7/6409
C12N 9/10
C12N 9/20
C12N 9/04
C12N 9/06
C12N 15/53
C12N 15/54
C12N 15/55
C12N 15/60
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1種のΔ9脱飽和酵素をコードする遺伝子、
(b)少なくとも4種の脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、
(c)1種のジアシルグリセロールアシル転移酵素をコードする遺伝子、
(d)1種の小胞体を標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、
(e)1種の小胞体を標的とするジアシルグリセロールアシル転移酵素をコードする遺伝子、およ
f)1種の小胞体を標的とするΔ9脱飽和酵素をコードする遺伝子
を過剰発現することを特徴とする、組換え酵母菌株であって、
Δ9脱飽和酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号84で示されるアルカン資化酵母のSCD遺伝子であり、
4種の脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、それぞれ、ヌクレオチド配列が配列番号93で示されるモルチエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)C16/18伸長酵素の遺伝子MaLCE1、ヌクレオチド配列が配列番号94で示されるシロイヌナズナのAtFAE1遺伝子、ヌクレオチド配列が配列番号95で示されるハリゲナタネのBtFAE1遺伝子、ヌクレオチド配列が配列番号96で示されるミチタネツケバナのCgKCS遺伝子であり、
ジアシルグリセロールアシル転移酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号83で示されるアルカン資化酵母のDGAT1遺伝子であり、
小胞体を標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号121で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するミチタネツケバナのCgKCS ER 遺伝子であり、
小胞体を標的とするジアシルグリセロールアシル転移酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号122で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するアルカン資化酵母のDGAT1ER遺伝子であり、
小胞体を標的とするΔ9脱飽和酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号123で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するアルカン資化酵母のSCD ER 遺伝子であり、
組換え酵母菌株は、ネルボン酸を生産する組換えアルカン資化酵母菌株である
ことを特徴とする、前記組換え酵母菌株。
【請求項2】
さらに、
(a)2種の小胞体を標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、および/または
(b)2種のペルオキシソームを標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子
を過剰発現し;
2種の小胞体を標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、それぞれ、ヌクレオチド配列が配列番号121で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するミチタネツケバナのCgKCS ER 遺伝子、ヌクレオチド配列が配列番号124で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するハリゲナタネのBtFAE1 ER 遺伝子であり、
2種のペルオキシソームを標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、それぞれ、ヌクレオチド配列が配列番号125で示される、ペルオキシソームを標的とするシグナルペプチドコード配列を有するミチタネツケバナのCgKCS PTS 遺伝子、ヌクレオチド配列が配列番号126で示される、ペルオキシソームを標的とするシグナルペプチドコード配列を有するハリゲナタネのBtFAE1 PTS 遺伝子である
ことを特徴とする、請求項1に記載の組換え酵母菌株。
【請求項3】
さらに、
(a)1種のアルデヒド脱水素酵素をコードする遺伝子、
(b)1種のグルコース-6-リン酸脱水素酵素をコードする遺伝子、
(c)1種のグルタチオンジスルフィドレダクターゼをコードする遺伝子、および/または
(d)1種のグルタチオンペルオキシダーゼをコードする遺伝子
を過剰発現し;
アルデヒド脱水素酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号105で示される大腸菌のEcAldH遺伝子であり、
グルコース-6-リン酸脱水素酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号106で示される出芽酵母のScZwf遺伝子であり、
グルタチオンジスルフィドレダクターゼの遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号91で示されるアルカン資化酵母のylGSR遺伝子であり、
グルタチオンペルオキシダーゼの遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号92で示されるアルカン資化酵母のylGPO遺伝子である
ことを特徴とする、請求項1に記載の組換え酵母菌株。
【請求項4】
(a)1種のΔ9脱飽和酵素をコードする遺伝子、
(b)少なくとも3種の脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、
(c)1種のジアシルグリセロールアシル転移酵素をコードする遺伝子、およ
d)1種のホスホリパーゼA2をコードする遺伝子
を過剰発現することを特徴とする、組換え酵母菌株であって、
Δ9脱飽和酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号84で示されるアルカン資化酵母のSCD遺伝子であり、
3種の脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、それぞれ、ヌクレオチド配列が配列番号94で示されるシロイヌナズナのAtFAE1遺伝子、ヌクレオチド配列が配列番号95で示されるハリゲナタネのBtFAE1遺伝子、ヌクレオチド配列が配列番号96で示されるミチタネツケバナのCgKCS遺伝子であり、
ジアシルグリセロールアシル転移酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号83で示されるアルカン資化酵母のDGAT1遺伝子であり、
ホスホリパーゼA2をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号85で示されるPLA2-1、またはヌクレオチド配列が配列番号86で示されるPLA2-2、またはヌクレオチド配列が配列番号87で示されるPLA2-3、またはヌクレオチド配列が配列番号88で示されるPLA2-4、またはヌクレオチド配列が配列番号89で示されるPLA2-5、またはヌクレオチド配列が配列番号90で示されるPLA2-6であり、
組換え酵母菌株は、ネルボン酸を生産する組換えアルカン資化酵母菌株である
ことを特徴とする、前記組換え酵母菌株。
【請求項5】
(a)1種のペルオキシソームを標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、
(b)1種の脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、
(c)1種の小胞体を標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、
(d)1種の小胞体を標的とするジアシルグリセロールアシル転移酵素をコードする遺伝子、およ
e)1種の小胞体を標的とするΔ9脱飽和酵素をコードする遺伝子
を過剰発現することを特徴とする、組換え酵母菌株であって、
ペルオキシソームを標的とする脂肪酸伸長酵素の遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号125で示される、ペルオキシソームを標的とするシグナルペプチドコード配列を有するミチタネツケバナのCgKCS PTS 遺伝子であり、
脂肪酸伸長酵素の遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号93で示されるモルチエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)C16/18伸長酵素のMaLCE1遺伝子であり、
小胞体を標的とする脂肪酸伸長酵素の遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号121で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するミチタネツケバナのCgKCS ER 遺伝子であり、
小胞体を標的とするジアシルグリセロールアシル転移酵素の遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号122で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するアルカン資化酵母のDGAT1 ER 遺伝子であり、
小胞体を標的とするΔ9脱飽和酵素の遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号123で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するアルカン資化酵母のSCD ER 遺伝子であり、
組換え酵母菌株は、ネルボン酸を生産する組換えアルカン資化酵母菌株である
ことを特徴とする、前記組換え酵母菌株。
【請求項6】
(a)1種のΔ9脱飽和酵素をコードする遺伝子、
(b)1種の脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、
(c)1種の小胞体を標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、およ
d)1種のミトコンドリアを標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子
を過剰発現することを特徴とする、組換え酵母菌株であって、
Δ9脱飽和酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号102で示されるモルチエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)Δ9脂肪酸脱飽和酵素のMaOLE2遺伝子であり、
脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号99で示されるヤギ脂肪酸伸長酵素6のgELOVL6遺伝子であり、
小胞体を標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号121で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するミチタネツケバナのCgKCS ER であり、
ミトコンドリアを標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号127で示される、ミトコンドリアを標的とするシグナルペプチドコード配列を有するミチタネツケバナのCgKCS MTS であり、
組換え酵母菌株は、ネルボン酸を生産する組換えアルカン資化酵母菌株である
ことを特徴とする、前記組換え酵母菌株。
【請求項7】
(a)2種のΔ9脱飽和酵素をコードする遺伝子、
(b)3種の脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、およ
c)1種のジアシルグリセロールアシル転移酵素をコードする遺伝子
を過剰発現することを特徴とする、組換え酵母菌株であって、
2種のΔ9脱飽和酵素をコードする遺伝子は、それぞれ、ヌクレオチド配列が配列番号84で示されるアルカン資化酵母のSCD遺伝子、ヌクレオチド配列が配列番号103で示されるシロイヌナズナのAtADS1遺伝子であるか、前記2種のΔ9脱飽和酵素をコードする遺伝子は、それぞれ、ヌクレオチド配列が配列番号84で示されるアルカン資化酵母のSCD遺伝子、ヌクレオチド配列が配列番号104で示されるシロイヌナズナのAtADS2遺伝子であり、
3種の脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、それぞれ、ヌクレオチド配列が配列番号94で示されるシロイヌナズナのAtFAE1遺伝子、ヌクレオチド配列が配列番号95で示されるハリゲナタネのBtFAE1遺伝子、ヌクレオチド配列が配列番号96で示されるミチタネツケバナのCgKCS遺伝子であり、
ジアシルグリセロールアシル転移酵素をコードする遺伝子は、配列番号83で示されるアルカン資化酵母のDGAT1であり、
組換え酵母菌株は、ネルボン酸を生産する組換えアルカン資化酵母菌株である
ことを特徴とする、前記組換え酵母菌株。
【請求項8】
組換え酵母菌株であって、当該菌株におけるペルオキシソーム形成因子10の発現が下方調節され、かつさらに、
(a)1種のペルオキシソームを標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、
(b)1種の脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、
(c)1種の小胞体を標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、
(d)1種の小胞体を標的とするジアシルグリセロールアシル転移酵素をコードする遺伝子、およ
e)1種の小胞体を標的とするΔ9脱飽和酵素をコードする遺伝子
を過剰発現し;
発現が下方調節されたペルオキシソーム形成因子10は、ヌクレオチド配列が配列番号120で示されるpex10遺伝子であり、
ペルオキシソームを標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号125で示される、ペルオキシソームを標的とするシグナルペプチドコード配列を有するミチタネツケバナのCgKCS PTS 遺伝子であり、
脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号93で示されるモルチエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)C16/18伸長酵素のMaLCE1遺伝子であり、
小胞体を標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号121で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するミチタネツケバナのCgKCS ER 遺伝子であり、
小胞体を標的とするジアシルグリセロールアシル転移酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号122で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するアルカン資化酵母のDGAT1 ER 遺伝子であり、
小胞体を標的とするΔ9脱飽和酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号123で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するアルカン資化酵母のSCD ER 遺伝子であり、
組換え酵母菌株は、ネルボン酸を生産する組換えアルカン資化酵母菌株である
ことを特徴とする、前記組換え酵母菌株。
【請求項9】
微生物油を製造するための、請求項1~8のいずれか一項に記載の組換え酵母菌株の使用。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の組換え酵母菌株によって微生物油を製造する方法であって、
(a)請求項1~8のいずれか一項に記載の組換え酵母菌株を培養し、それにネルボン酸を含む微生物油を生産させる工程と、
(b)前記工程(a)の微生物油を回収する工程と
を含む、前記方法。
【請求項11】
ネルボン酸を製造するための、請求項1~8のいずれか一項に記載の組換え酵母菌株の使用。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか一項に記載の組換え酵母菌株によってネルボン酸を製造する方法であって、
(a)請求項1~8のいずれか一項に記載の組換え酵母菌株を培養し、ネルボン酸を生産させる工程と、
(b)前記工程(a)の微生物油を回収し、ネルボン酸を抽出する工程と
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物技術の分野に属する。より具体的に、本発明は、高濃度で有効にネルボン酸(シス-15-テトラコセン酸、別名:サメ油酸、C24:1、Δ15)を製造することができる、工学操作された組換え酵母菌株に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和脂肪酸の多くは人体の必須脂肪酸で、血中脂質の調節、血栓の除去、脳の滋養、炎症の緩和などの作用を有し、主に一価不飽和脂肪酸および多価不飽和脂肪酸を含む。中では、極長鎖一価不飽和脂肪酸(Very long chain monounsaturated fatty acid、VLCMFA)は主炭素鎖における炭素原子数が18超で、かつ二重結合が一つのみの不飽和脂肪酸で、よく見られるものとしてエイコセン酸(Eicosenoic acid、C20:1Δ11)、エルカ酸(Erucic acid、C22:1Δ13)、ネルボン酸(Nervonic acid、C24:1Δ15)およびキシメニン酸(Ximenynic acid、C26:1Δ17)がある。極長鎖一価不飽和脂肪酸は独特な薬効、保健効果や工業用途などがあるが、多価不飽和脂肪酸と比べ、極長鎖一価不飽和脂肪酸の応用・普及が必要である。
【0003】
ネルボン酸(シス-15-テトラコセン酸、別名:サメ油酸、C24:1Δ15)は人類の健康と密接に関わる極長鎖一価不飽和脂肪酸である。ネルボン酸は主にスフィンゴ糖脂質およびスフィンゴリン脂質の形態で動物の大脳白質および髄鞘の神経線維に存在し、生物膜の重要な構成成分である。ネルボン酸は医学や保健の面において重要な作用があり、多発性硬化症などの神経失調疾患の治療に有用である。また、研究では、ネルボン酸は神経系の発達に対して促進作用を有し、特に嬰幼児の脳神経細胞および視神経細胞の成長と発達の過程において重要な作用がある。人体に必要なネルボン酸は主に外部からの摂取に依存する。近年、ネルボン酸の医学および保健効果に対する認識の深まりとともに、その資源の開発および利用価値が現れ、製品の需要が次第に高まっている。
【0004】
ネルボン酸は多くの天然の源がある。現在、発見されたネルボン酸を豊富に含有する動植物および微生物として、サメ、マラニアオレイフェラ(Malania oleifera)、マンシュウイタヤ(Acer truncatum)、ミチタネツケバナ、微細藻類、一部のカビ菌などがある。マラニアオレイフェラは自然界におけるネルボン酸を豊富に含有する中国の特有な植物で、かつマラニアオレイフェラ種の油含有量が64.5%程度で、そのうち、ネルボン酸の含有量が43.2%と高いが、栽培が困難である。マンシュウイタヤの種子油は、ネルボン酸の含有量が約5.8%で、現在、ネルボン酸の主な源になっている。マンシュウイタヤは成長が遅く、人工栽培のマンシュウイタヤでは、4~6年で結果し始め、8~10年でようやく盛果期に入る。そのため、マンシュウイタヤからのネルボン酸の抽出は、成長周期が長い、原料の供給が季節に制限される、生産量が低いといった欠点がある。油生産微生物は、高い細胞内含有量で脂肪酸を合成することができ、遺伝子工学的に改変することにより、構成が植物油脂に類似する微生物油脂になる。
【0005】
アルカン資化酵母(Yarrowia lipolytica)は、油生産微生物として、油脂の蓄積が細胞の乾燥重量の44~70%を占め、そして成長速度が速い、細胞発酵密度が高い、炭素源の利用範囲が広い、遺伝子操作が簡単といった特徴があり、ネルボン酸の細胞工場になれる可能性がある。アルカン資化酵母における脂肪酸の多くはC16およびC18の脂肪酸で、極長鎖一価不飽和脂肪酸の合成に必要な炭素鎖伸長酵素および脂肪酸脱飽和酵素がないため、野生菌株ではネルボン酸を合成することができない。初期の研究では、遺伝子工学的手段によって脂肪酸伸長酵素(AtFAE1、BtFAE1およびCgKCS)、脱飽和酵素(SCD)およびジアシルグリセロールアシル転移酵素(DGAT1)をアルカン資化酵母に導入し、構築された組換え酵母細胞はネルボン酸を生産することができたが、その含有量が細胞における全油脂含有量の1.5%で、工業の需要を満足することが困難である。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、上記技術課題を解決するために、脂肪酸伸長酵素、脱飽和酵素、ジアシルグリセロールアシル転移酵素などの関連遺伝子を過剰発現させ、任意に組換え酵母菌株のトリグリセリド合成・分解経路、スフィンゴリン脂質合成・分解経路、油脂のサブ細胞レベルにおける合成・分解経路および酸化還元バランス経路を調節することで、構築される組換え酵母菌株のネルボン酸生産能を大幅に向上させ、発酵を最適化した後、抽出されるネルボン酸の含有量が全脂肪酸の含有量の39.6%を占める。具体的な技術方案は以下の通りである。
【0007】
方案1.本発明は、組換え酵母菌株であって、
(a)1種のΔ9脱飽和酵素をコードする遺伝子、
(b)少なくとも4種の脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、
(c)1種のジアシルグリセロールアシル転移酵素をコードする遺伝子、
(d)1種の小胞体を標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、
(e)1種の小胞体を標的とするジアシルグリセロールアシル転移酵素をコードする遺伝子、および/または
(f)1種の小胞体を標的とするΔ9脱飽和酵素をコードする遺伝子
を過剰発現することを特徴とする菌株を提供する。
【0008】
前記組換え酵母菌株において、脂肪酸合成発現モジュールが過剰発現され、具体的に、ネルボン酸生産に関連する脂肪酸伸長酵素および脱飽和酵素の遺伝子が含まれている。ここで、前記脂肪酸伸長酵素の遺伝子は、たとえば配列番号93で示されるモルチエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)のC16伸長酵素遺伝子MaLCE1、たとえば配列番号94で示されるシロイヌナズナのAtFAE1、たとえば配列番号95で示されるハリゲナタネ(Brassica tournefortii)のBtFAE1、たとえば配列番号96で示されるミチタネツケバナのCgKCS、たとえば配列番号97で示されるラット脂肪酸伸長酵素2の遺伝子rELO2、たとえば配列番号98で示されるクリプトスポリジウム(Cryptosporidium parvum)長鎖脂肪酸伸長酵素の遺伝子CpLCE、たとえば配列番号99で示されるヤギ脂肪酸伸長酵素6の遺伝子gELOVL6から選ばれてもよいが、これらに限定されない。ここで、前記脱飽和酵素の遺伝子は、たとえば配列番号84で示されるアルカン資化酵母のSCD、たとえば配列番号100で示されるクニンガメラ・エキヌラータ(Cunninghamella echinulata)Δ9脂肪酸脱飽和酵素の遺伝子D9DMB、たとえば配列番号101で示される線虫Δ9脂肪酸脱飽和酵素の遺伝子CeFAT6、たとえば配列番号102で示されるモルチエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)Δ9脂肪酸脱飽和酵素の遺伝子MaOLE2、たとえば配列番号103で示されるシロイヌナズナのAtADS1、たとえば配列番号104で示されるシロイヌナズナのAtADS2から選ばれてもよいが、これらに限定されない。
【0009】
同時に、前記組換え酵母菌株において、トリグリセリド合成モジュールが過剰発現され、具体的に、ジアシルグリセロールアシル転移酵素の遺伝子のことで、トリアシルグリセロール(TAG)合成の最後の反応を触媒する酵素で、TAG合成過程における唯一のキー酵素および律速酵素でもあり、酵母細胞におけるジアシルグリセロールアシル転移酵素の発現量を向上させると、細胞内における油脂の含有量を上げることができる。
【0010】
同時に、前記組換え酵母菌株において、酵母の油脂合成・分解のサブ細胞レベルの調節モジュールが過剰発現され、具体的に、小胞体レベルの調節のことで、すなわち、相応する遺伝子の3'末端に小胞体保留シグナルペプチドKDELが付加されている。
好ましくは、方案1に記載の酵母菌株はアルカン資化酵母である。
好ましくは、前記Δ9脱飽和酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号84で示されるアルカン資化酵母のSCD遺伝子である。
【0011】
好ましくは、前記の4種の脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、それぞれ、ヌクレオチド配列が配列番号93で示されるモルチエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)C16/18伸長酵素の遺伝子MaLCE1、ヌクレオチド配列が配列番号94で示されるシロイヌナズナのAtFAE1遺伝子、ヌクレオチド配列が配列番号95で示されるハリゲナタネのBtFAE1遺伝子、ヌクレオチド配列が配列番号96で示されるミチタネツケバナのCgKCS遺伝子である。
【0012】
好ましくは、前記ジアシルグリセロールアシル転移酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号83で示されるアルカン資化酵母のDGAT1遺伝子である。
好ましくは、前記小胞体を標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号121で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するミチタネツケバナのCgKCSER遺伝子である。
【0013】
好ましくは、前記小胞体を標的とするジアシルグリセロールアシル転移酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号122で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するアルカン資化酵母のDGAT1ER遺伝子である。
好ましくは、前記小胞体を標的とするΔ9脱飽和酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号123で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するアルカン資化酵母のSCDER遺伝子である。
【0014】
もう一つの実施形態において、本発明は、ネルボン酸を生産するための組換え酵母菌株であって、方案1に係る菌株に基づき、さらに、
(a)2種の小胞体を標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、および/または
(b)2種のペルオキシソームを標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子
を過剰発現する菌株を提供する。
【0015】
好ましくは、前記2種の小胞体を標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、それぞれ、ヌクレオチド配列が配列番号121で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するミチタネツケバナのCgKCSER遺伝子、ヌクレオチド配列が配列番号124で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するハリゲナタネのBtFAE1ER遺伝子である。
【0016】
好ましくは、前記2種のペルオキシソームを標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、それぞれ、ヌクレオチド配列が配列番号125で示される、ペルオキシソームを標的とするシグナルペプチドコード配列を有するミチタネツケバナのCgKCSPTS遺伝子、ヌクレオチド配列が配列番号126で示される、ペルオキシソームを標的とするシグナルペプチドコード配列を有するハリゲナタネのBtFAE1PTS遺伝子である。
【0017】
もう一つの実施形態において、本発明は、ネルボン酸を生産するための組換え酵母菌株であって、方案1に係る菌株に基づき、さらに、
(a)1種のアルデヒド脱水素酵素をコードする遺伝子、
(b)1種のグルコース-6-リン酸脱水素酵素をコードする遺伝子、
(c)1種のグルタチオンジスルフィドレダクターゼをコードする遺伝子、および/または
(d)1種のグルタチオンペルオキシダーゼをコードする遺伝子
を過剰発現する菌株を提供する。
【0018】
前記組換え酵母菌種にさらに酸化還元バランスの調節モジュールが含まれ、ネルボン酸の合成過程における還元力NADPHの再生を維持する遺伝子および酸化ストレス防御に関連する遺伝子に関わる。
前記アルデヒド脱水素酵素の遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号105で示される大腸菌のEcAldH遺伝子が好ましく、グルコース-6-リン酸脱水素酵素の遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号106で示される出芽酵母のScZwf遺伝子が好ましく、グルタチオンジスルフィドレダクターゼの遺伝子はアルカン資化酵母のヌクレオチド配列が配列番号91で示されるylGSR遺伝子が好ましく、グルタチオンペルオキシダーゼの遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号92で示されるアルカン資化酵母のylGPO遺伝子が好ましい。
【0019】
方案2.本発明は、組換え酵母菌株であって、
(a)1種のΔ9脱飽和酵素をコードする遺伝子、
(b)少なくとも3種の脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、
(c)1種のジアシルグリセロールアシル転移酵素をコードする遺伝子、および/または
(d)1種のホスホリパーゼA2をコードする遺伝子
を過剰発現することを特徴とする菌株を提供する。
【0020】
前記組換え酵母菌株はスフィンゴリン脂質合成・分解の調節モジュールを含み、具体的にホスホリパーゼA2(phospholipaseA2、PLA2)の遺伝子に関わり、PLA2はグリセロリン脂質分子における2位のアシル基を触媒する加水分解酵素で、その過剰発現はネルボン酸の合成過程における基質の供給を増加させる。前記ホスホリパーゼA2をコードする遺伝子は、たとえば配列番号85で示されるPLA2-1、たとえば配列番号86で示されるPLA2-2、たとえば配列番号87で示されるPLA2-3、たとえば配列番号88で示されるPLA2-4、たとえば配列番号89で示されるPLA2-5、たとえば配列番号90で示されるPLA2-6から選ばれてもよいが、これらに限定されない。
【0021】
好ましくは、前記Δ9脱飽和酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号84で示されるアルカン資化酵母のSCD遺伝子である。
好ましくは、前記の3種の脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、それぞれ、ヌクレオチド配列が配列番号94で示されるシロイヌナズナのAtFAE1遺伝子、ヌクレオチド配列が配列番号95で示されるハリゲナタネのBtFAE1遺伝子、ヌクレオチド配列が配列番号96で示されるミチタネツケバナのCgKCS遺伝子である。
好ましくは、前記ジアシルグリセロールアシル転移酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号83で示されるアルカン資化酵母のDGAT1遺伝子である。
【0022】
方案3.本発明は、組換え酵母菌株であって、
(a)1種のペルオキシソームを標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、
(b)1種の脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、
(c)1種の小胞体を標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、
(d)1種の小胞体を標的とするジアシルグリセロールアシル転移酵素をコードする遺伝子、および/または
(e)1種の小胞体を標的とするΔ9脱飽和酵素をコードする遺伝子
を過剰発現することを特徴とする菌株を提供する。
【0023】
好ましくは、前記酵母菌株はアルカン資化酵母である。
好ましくは、前記ペルオキシソームを標的とする脂肪酸伸長酵素の遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号125で示される、ペルオキシソームを標的とするシグナルペプチドコード配列を有するミチタネツケバナのCgKCSPTS遺伝子である。
好ましくは、前記脂肪酸伸長酵素の遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号93で示されるモルチエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)C16/18伸長酵素のMaLCE1遺伝子である。
【0024】
好ましくは、前記小胞体を標的とする脂肪酸伸長酵素の遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号121で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するミチタネツケバナのCgKCSERである。
好ましくは、前記小胞体を標的とするジアシルグリセロールアシル転移酵素の遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号122で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するアルカン資化酵母のDGAT1ER遺伝子である。
好ましくは、前記小胞体を標的とするΔ9脱飽和酵素の遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号123で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するアルカン資化酵母のSCDER遺伝子である。
【0025】
方案4.本発明は、組換え酵母菌株であって、
(a)1種のΔ9脱飽和酵素をコードする遺伝子、
(b)1種の脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、
(c)1種の小胞体を標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、および/または
(d)1種のミトコンドリアを標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子
を過剰発現することを特徴とする菌株を提供する。
【0026】
好ましくは、前記酵母菌株はアルカン資化酵母である。
好ましくは、前記Δ9脱飽和酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号102で示されるモルチエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)Δ9脂肪酸脱飽和酵素のMaOLE2遺伝子である。
好ましくは、前記脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号99で示されるヤギ脂肪酸伸長酵素6のgELOVL6遺伝子である。
【0027】
好ましくは、前記小胞体を標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号121で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するミチタネツケバナのCgKCSERである。
好ましくは、前記ミトコンドリアを標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号127で示される、ミトコンドリアを標的とするシグナルペプチドコード配列を有するミチタネツケバナのCgKCSMTSである。
【0028】
方案5.本発明は、組換え酵母菌株であって、
(a)2種のΔ9脱飽和酵素をコードする遺伝子、
(b)3種の脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、および/または
(c)1種のジアシルグリセロールアシル転移酵素をコードする遺伝子
を過剰発現することを特徴とする菌株を提供する。
【0029】
好ましくは、前記酵母菌株はアルカン資化酵母である。
好ましくは、前記2種のΔ9脱飽和酵素をコードする遺伝子は、それぞれ、ヌクレオチド配列が配列番号84で示されるアルカン資化酵母のSCD遺伝子、ヌクレオチド配列が配列番号103で示されるシロイヌナズナのAtADS1遺伝子であるか、前記2種のΔ9脱飽和酵素をコードする遺伝子は、それぞれ、ヌクレオチド配列が配列番号84で示されるアルカン資化酵母のSCD遺伝子、ヌクレオチド配列が配列番号104で示されるシロイヌナズナのAtADS2遺伝子である。
【0030】
好ましくは、前記の3種の脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、それぞれ、ヌクレオチド配列が配列番号94で示されるシロイヌナズナのAtFAE1遺伝子、ヌクレオチド配列が配列番号95で示されるハリゲナタネのBtFAE1遺伝子、ヌクレオチド配列が配列番号96で示されるミチタネツケバナのCgKCS遺伝子である。
好ましくは、前記ジアシルグリセロールアシル転移酵素をコードする遺伝子は、配列番号83で示されるアルカン資化酵母のDGAT1である。
【0031】
方案6.本発明は、組換え酵母菌株であって、前記菌株のペルオキシソーム形成因子10の発現が下方調節され、かつさらに、
(a)1種のペルオキシソームを標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、
(b)1種の脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、
(c)1種の小胞体を標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子、
(d)1種の小胞体を標的とするジアシルグリセロールアシル転移酵素をコードする遺伝子、および/または
(e)1種の小胞体を標的とするΔ9脱飽和酵素をコードする遺伝子
を過剰発現することを特徴とする菌株を提供する。
【0032】
前記組換え酵母菌株にトリグリセリド分解モジュールが含まれ、具体的に、ペルオキシソーム形成因子10遺伝子ノックアウトモジュールに関わり、当該遺伝子がノックアウトされると、長鎖脂肪酸の分解が減少する。
好ましくは、前記酵母菌株はアルカン資化酵母である。
好ましくは、前記発現が下方調節されたペルオキシソーム形成因子10は、ヌクレオチド配列が配列番号120で示されるpex10遺伝子である。
好ましくは、前記ペルオキシソームを標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号125で示される、ペルオキシソームを標的とするシグナルペプチドコード配列を有するミチタネツケバナのCgKCSPTS遺伝子である。
【0033】
好ましくは、前記脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号93で示されるモルチエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)C16/18伸長酵素のMaLCE1遺伝子である。
好ましくは、前記小胞体を標的とする脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号121で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するミチタネツケバナのCgKCSER遺伝子である。
【0034】
好ましくは、前記小胞体を標的とするジアシルグリセロールアシル転移酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号122で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するアルカン資化酵母のDGAT1ER遺伝子である。
好ましくは、前記小胞体を標的とするΔ9脱飽和酵素をコードする遺伝子は、ヌクレオチド配列が配列番号123で示される、小胞体を標的とするシグナルペプチドコード配列を有するアルカン資化酵母のSCDER遺伝子である。
好ましくは、前記酵母はアルカン資化酵母である。
【0035】
本発明は、微生物油またはネルボン酸を製造するための上記方案で構築されるいずれかの組換え酵母菌株の使用を提供する。具体的に、微生物油またはネルボン酸を含有する嬰児代用乳、機能性食品、医療食品、医療栄養剤、飲食サプリメント、薬物組成物、動物飼料や個人ケア用品などを含むが、これらに限定されない。
【0036】
本発明は、上記技術方案で構築されるいずれかの組換え酵母菌株によって微生物油および/またはネルボン酸を製造する方法であって、具体的に、微生物の培養、発酵条件の最適化と制御を含むが、これらに限定されない方法を提供する。前記発酵条件の最適化は異なる炭素源、炭素窒素比および異なる成長段階のエリトロースの添加による誘導の最適化を含み、前記発酵条件の制御は温度、pH、発酵時間、溶存酸素、原料補充手段などの制御を含むが、これらに限定されない。前記微生物油および/またはネルボン酸の抽出プロセスは、菌株の分離、破砕および有機溶媒による抽出過程を含むが、これらに限定されない。
【0037】
好ましくは、前記微生物油を製造する方法は、
(a)本発明の方案1、方案2、方案3、方案4、方案5および/または方案6に記載のいずれかの組換え酵母菌株を培養し、それにネルボン酸を含む微生物油を生産させる工程と、
(b)前記工程(a)の微生物油を回収する工程と
を含む。
【0038】
好ましくは、前記ネルボン酸を製造する方法は、
(a)本発明の方案1、方案2、方案3、方案4、方案5および/または方案6に記載のいずれかの組換え酵母菌株を培養し、微生物油を生産させる工程と、
(b)前記工程(a)の微生物油を回収し、ネルボン酸を抽出する工程と
を含む。
【0039】
既存技術と比べ、本発明の有益な効果は、本発明に係る方法はネルボン酸合成システムの代謝経路および発酵の調節に関連し、高品質の組換えアルカン資化酵母菌株が得られ、微生物油の生産量が上がり、製造されるネルボン酸の含有量が全脂肪酸含有量の39.6%を占め、ネルボン酸の濃度が16 g/Lで、優れた工業への使用の将来性がある。
【0040】
もちろん、本発明の範囲内において、本発明の上記の各技術特徴および下記(たとえば実施例)の具体的に記述された各技術特徴は互いに組み合わせ、新しい、または好適な技術方案を構成できることが理解される。紙数に限りがあるため、ここで逐一説明しない。
図面の説明
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1図1は、本発明の実施例で提供されたネルボン酸の合成スキームである。
図2図2は、本発明の実施例で提供された酵母形質転換体のPCRによる同定である。A:菌株YL1を構築する場合の異なる形質転換体のCgKCS遺伝子のPCRによる検証結果である。B:菌株YL2を構築する場合の異なる形質転換体のMaLCE1遺伝子のPCRによる検証結果である。C:菌株YL2-1を構築する場合の異なる形質転換体のCgKCS遺伝子のPCRによる検証結果である。D:菌株YL2-2を構築する場合の異なる形質転換体のBtFAE1遺伝子のPCRによる検証結果である。E:菌株YL2-3を構築する場合の異なる形質転換体のCgKCS遺伝子のPCRによる検証結果である。F:菌株YL2-4を構築する場合の異なる形質転換体のScZwf遺伝子のPCRによる検証結果である。G:菌株YL3を構築する場合の異なる形質転換体のCgKCS遺伝子のPCRによる検証結果である。H:菌株YL4-1を構築する場合の異なる形質転換体のPLA2-1遺伝子のPCRによる検証結果である。I:菌株YL4-2を構築する場合の異なる形質転換体のPLA2-2遺伝子のPCRによる検証結果である。J:菌株YL4-3を構築する場合の異なる形質転換体のPLA2-3遺伝子のPCRによる検証結果である。K:菌株YL4-4を構築する場合の異なる形質転換体のPLA2-4遺伝子のPCRによる検証結果である。L:菌株YL4-5を構築する場合の異なる形質転換体のPLA2-5遺伝子のPCRによる検証結果である。M:菌株YL4-6を構築する場合の異なる形質転換体のPLA2-6遺伝子のPCRによる検証結果である。N:菌株YL5を構築する場合の異なる形質転換体のgELOVL6遺伝子のPCRによる検証結果である。O:菌株YL6を構築する場合の異なる形質転換体のCgKCS遺伝子のPCRによる検証結果である。P:菌株YL7を構築する場合の異なる形質転換体のAtADS1遺伝子のPCRによる検証結果である。Q:菌株YL8を構築する場合の異なる形質転換体のAtADS2遺伝子のPCRによる検証結果である。R:菌株YL9を構築する場合の異なる形質転換体のpex10遺伝子のPCRによる検証結果である。S:菌株YL10を構築する場合の異なる形質転換体のCgKCS遺伝子のPCRによる検証結果である。T:菌株YL11を構築する場合の異なる形質転換体のDGAT1遺伝子のPCRによる検証結果である。
【0042】
図3図3は、本発明の実施例で提供されたYL2-3菌株における6種の遺伝子の発現の検証図である。
図4図4は、本発明の実施例で提供されたTLC法によるネルボン酸のTAGにおける位置特異性の分析である。
図5図5は、本発明の実施例で提供された脂肪酸成分の分析図である。
図6図6は、本発明の実施例で提供された振とう発酵条件におけるYL2-3菌株の成長曲線である。
【0043】
図7図7は、本発明の実施例で提供された振とう発酵条件における異なるYL2-3菌株のネルボン酸の含有量の図である。
図8図8は、本発明の実施例で提供されたPo1gおよびYL2-4菌株における細胞内アルデヒドレベルである。
図9図9は、本発明の実施例で提供された発酵タンク拡大発酵条件におけるYL2-3菌株の脂肪酸成分である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
具体的な実施形態
以下は本発明に関わる用語の定義である。
脱飽和酵素とは、1種または複数種の脂肪酸において脱飽和する(すなわち、二重結合を導入する)ことによって所望の脂肪酸または前駆体を生成させるポリペプチドで、脱飽和酵素の活性はΔ表示による基質のカルボキシ末端からの計数で表示される。好ましくは、本発明に係る脱飽和酵素はΔ9脱飽和酵素で、分子のカルボキシ末端の番号が9thと10thの炭素原子の間で脂肪酸を脱飽和させ、たとえば基質の脂肪酸であるステアリン酸(C18:0)からのオレイン酸(C18:1)の生成を触媒することができる。
【0045】
脂肪酸伸長酵素とは、脂肪酸の炭素鎖を伸長させることによって当該伸長酵素が作用した脂肪酸の基質よりも炭素原子が2個多い酸を生成させるポリペプチドである。好ましくは、本発明に係る脂肪酸伸長酵素は、C16/18伸長酵素、C18/20伸長酵素、C20/22伸長酵素およびC22/24伸長酵素を含むが、これらに限定されない。通常、C16/18伸長酵素はC16基質を利用し、たとえばモルチエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)C16/18伸長酵素の遺伝子MaLCE1、ヤギ脂肪酸伸長酵素6の遺伝子gELOVL6などがある。一部の伸長酵素は幅広い特異性を有し、それで一つの伸長酵素はいくつかの伸長酵素反応を触媒することができ、たとえばミチタネツケバナのCgKCSはC18およびC20脂肪酸に基質特異性を有するのみならず、続いてC22脂肪酸を基質とすることができるため、CgKCSはC18/20、C20/22およびC22/24伸長酵素の活性を有する。
【0046】
ジアシルグリセロールアシル転移酵素は、トリアシルグリセロール(TAG)合成の最後の反応を触媒する酵素で、TAG合成過程における唯一のキー酵素および律速酵素でもあり、酵母細胞におけるジアシルグリセロールアシル転移酵素の発現量を向上させると、細胞内における油脂の含有量を上げることができる。
【0047】
小胞体、ペルオキシソームおよびミトコンドリアとは、一般的にすべての真核細胞に存在する細胞内小器官である。小胞体、ペルオキシソーム、ミトコンドリアを標的として酵素を発現させるには、相応する遺伝子の3'末端に小胞体保留シグナルペプチドKDEL、ペルオキシソーム標的化シグナルペプチドSKLおよびミトコンドリア標的化シグナルペプチドCoxIV(MLSLRQSIRFFKPATRTLCSSRYLL)を付加することが必要である。
ペルオキシソーム形成因子タンパク質、すなわち、ペルオキシソームタンパク質、Pexタンパク質とは、ペルオキシソームの生合成に関連するタンパク質および/またはATP加水分解によって細胞タンパク質をペルオキシソーム膜を通過させる過程に関与するタンパク質である。
【0048】
発現カセットとは、選ばれた遺伝子のコード配列および選ばれた遺伝子産物の発現に必要なコード配列の前(5'非コード配列)と後(3'非コード配列)に位置する調節配列を含むDNA断片である。発現カセットは、通常、ベクターに含まれてクローニングおよび形質転換に有利である。各宿主に適切な調節配列を使用すれば、異なる発現カセットを細胞、酵母、植物および哺乳動物細胞を含む異なる生物体に形質転換させることができる。発現カセットは、通常、以下のような配列で構成される:
1)1種のプロモーター配列、たとえばGPAT、TEF1、EXP1、EYK1やGPDなど;
2)1種のコード配列;および
3)1種の3'非翻訳領域(すなわち、ターミネーター)、真核細胞では、通常、ポリアデノシンを含む部位、たとえばXPR2、LIP1tやPQX3t。
【0049】
微生物油とは、酵母、カビ菌、細菌や藻類などの微生物によって、一定の条件において、炭水化物、炭化水素化合物または通常の油脂を炭素源とし、菌体内で生成する大量の油脂で、その主な成分はトリグリセリドおよび遊離脂肪酸である。好ましくは、本発明に係る微生物油はアルカン資化酵母の発酵によるもので、代謝経路および発酵プロセスの調節により、高品質の菌株による微生物油を得る能力が大幅に向上し、そして得られるネルボン酸の量が全脂肪酸含有量の39.6%を占め、ほかの脂肪酸はパルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸やテトラコサン酸などを含むが、これらに限定されない。
【0050】
以下の具体的な実施例によって、さらに本発明を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。下記実施例で具体的な条件が示されていない実験方法は、通常、たとえばSambrookおよびRussellら、「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」(Molecular Cloning-A Laboratory Manual)(第三版)(2001) に記載の条件などの通常の条件に、あるいは、メーカーのお薦めの条件に従う。特に断らない限り、%と部は、重量で計算された。特に断らない限り、%と部は、重量で計算された。以下、実施例で使用された実験材料および試薬は、特に説明しない限り、いずれも市販品として得られる。
【0051】
実施例で使用された標準の組換えDNA技術および分子クローニング技術は本分野で熟知のもので(Ausubel,F.Mら,Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Assoc.とWiley-Interscience出版)、微生物の生長に適する材料および方法は本分野で熟知のものである。主な化学試薬はKAPA Biosystems、New England Biolabs、TransGen Biotech、Thermo Fisher Scientific、OMEGA bio-tekなどから購入された。
【0052】
以下に、具体的な実施例とともに本発明を詳細に説明する。
本発明の実施例で提供されたネルボン酸の合成スキームは図1を参照する。
実施例1.プラスミドの構築
1.1 遺伝子エレメントのクローニング
1)遺伝子DGAT1、SCD、PLA2-1、PLA2-2、PLA2-3、PLA2-4、PLA2-5、PLA2-6、ylGSRおよびylGPOの獲得:
【0053】
アルカン資化酵母菌株(菌株番号polg、Yeastern Biotech Companyから購入、台湾)をYPD培地(YPD培地の成分は、グルコース20g/L、ペプトン20g/L、酵母抽出物10g/L)において培養し、CTAB(hexadecyltrimethylammonium bromide、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム)法によって高純度のゲノム全DNAを抽出した。適量の菌体を液体窒素に入れて凍結し、粉に研磨し、適量の2×CTAB抽出緩衝液(100mmol/L Tris-HCl、pH8.0、20mmol/L EDTA、1.4mol/L NaCl、2%(w/v) CTAB、40mmol/Lメルカプトエタノール)を入れ、65℃で10分間保温し、間欠的に振とうした。その後、等体積のクロロホルム/イソペンチルアルコールを入れ、軽く遠心管を逆さまにして均一に混合し、室温において、12000rpmで10min遠心し、上清液を別の遠心管に移し、等体積のクロロホルム/イソペンチルアルコールを入れ、遠心管を逆さまにして均一に混合し、室温において、12000rpmで10分間遠心した。上層の水相を新しい遠心管に移し、等体積のイソプロパノールを入れて均一に混合し、室温で30分間置いた。4000rpmで10分間遠心し、上清液を除去し、70%エタノールで洗浄し、自然乾燥後、20μlのTE緩衝液(100mM Tris-HCl、10mM EDTA、pH8.0)を入れてDNAを溶解させ、-20℃で保存して使用に備えた。Sau3AIで全DNAに対して部分的な酵素切断を行い、酵素切断後のDNA断片を電気泳動で精製し、ゲル回収精製キットで約2~6kbの断片を回収し、回収したDNAを10mmol/LのTris-HCl(pH8.0)に溶解させ、-20℃で保存した。
【0054】
アルカン資化酵母のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号1~20をプライマー配列とし、KAPA HiFi高正確性DNAポリメラーゼ(KAPA Biosystemsから購入)で遺伝子を増幅し、それぞれPCR(Polymerase Chain Reaction、ポリメラーゼ連鎖反応とも呼ばれる)増幅を行った。増幅系はいずれも25μlで、具体的に2× KAPAミックス 12.5μl、10μMプライマー0.5μlずつ、鋳型1μlで、水で25μlまで補充し、増幅条件は、95℃で3分間予備変性し、98℃で20秒変性し、60~72℃で15秒アニーリングし、72℃で伸長し、伸長時間は30秒/kbで計算し、サイクル数は29~35で、72℃で10分間伸長した。得られた各遺伝子配列について、DGAT1は配列番号83で示され、SCDは配列番号84で示され、PLA2-1は配列番号85で示され、PLA2-2は配列番号86で示され、PLA2-3は配列番号87で示され、PLA2-4は配列番号88で示され、PLA2-5は配列番号89で示され、PLA2-6は配列番号90で示され、ylGSRは配列番号91で示され、そしてylGPOは配列番号92で示される。
【0055】
2)外因性脂肪酸伸長酵素をコードする遺伝子について、MaLCEは配列番号93で示され、AtFAE1は配列番号94で示され、BtFAE1は配列番号95で示され、CgKCSは配列番号96で示され、rELO2は配列番号97で示され、CpLCEは配列番号98で示され、gELOVL6は配列番号99で示され、いずれも無錫青蘭生物科技有限公司によって遺伝子合成で得られた。配列番号21~34をプライマー配列として上記配列に対してPCR増幅を行った。
【0056】
3)外因性脂肪酸脱飽和酵素をコードする遺伝子について、D9DMBは配列番号100で示され、CeFAT6は配列番号101で示され、MaOLE2は配列番号102で示され、AtADS1は配列番号103で示され、AtADS2は配列番号104で示され、EcAldHは配列番号105で示され、そしてScZwfは配列番号106で示され、いずれも無錫青蘭生物科技有限公司によって遺伝子合成で得られた。配列番号35~48をプライマー配列として上記配列に対してPCR増幅を行った。
【0057】
1.2 プロモーターおよびターミネーターのエレメントのクローニング
1)GPAT、TEF1、EXP1、EYK1およびGPD遺伝子のプロモーターのクローニング:
上記CTAB法によってアルカン資化酵母のゲノムDNAを抽出し、アルカン資化酵母のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号49~58をプライマー配列とし、KAPA HiFi高正確性DNAポリメラーゼでプロモーターを増幅し、それぞれPCR増幅を行った。増幅系はいずれも25μlで、増幅条件および増幅系の使用量は上記工程1)における記載と同様である。得られたプロモーター遺伝子について、GPATは配列番号107で示され、TEF1は配列番号108で示され、EXP1は配列番号109で示され、EYK1は配列番号110で示され、そしてGPDは配列番号111で示される。
【0058】
2)XPR2、LIP1tおよびPQX3tターミネーターのクローニング:
プロモーターのクローニングと同じように、アルカン資化酵母のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号59~64をプライマー配列とし、KAPA HiFi高正確性DNAポリメラーゼでターミネーターを増幅し、それぞれPCR増幅を行った。増幅系はいずれも25μlで、増幅条件および増幅系の使用量は上記工程1)における記載と同様である。得られたターミネーター遺伝子について、XPR2は配列番号112で示され、LIP1tは配列番号113で示され、そしてPQX3tは配列番号114で示される。
【0059】
1.3 スクリーニング標識遺伝子エレメントのクローニング
1)ハイグロマイシン耐性遺伝子のクローニング
ハイグロマイシン(Hgr)耐性スクリーニング標識遺伝子の獲得は、プラスミドpAG32(EUROSCARFから購入)を鋳型とし、配列番号65~66をプライマー配列とし、KAPA HiFi高正確性DNAポリメラーゼでPCR増幅を行った。増幅系は25μlで、増幅条件および増幅系の使用量は上記工程1)における記載と同様である。PCR増幅で得られたハイグロマイシン(Hgr)耐性スクリーニング標識遺伝子は配列番号115で示される。
【0060】
2)ロイシン合成遺伝子(LEU)およびウラシル合成酵素鍵遺伝子(URA3)の獲得
上記CTAB法によってアルカン資化酵母のゲノムDNAを抽出し、得られたゲノムDNAを鋳型とし、配列番号67~70をプライマー配列とし、KAPA HiFi高正確性DNAポリメラーゼでPCR増幅を行った。増幅系は25μlで、増幅条件および増幅系の使用量は上記工程1)における記載と同様である。PCR増幅でそれぞれ得られた遺伝子LEUは配列番号116で、そして遺伝子URA3は配列番号117で示される。
【0061】
1.4 DNA相同組換え断片のクローニング
pex10低発現レベルの調節は、相同置換(Verbeke J, Beopoulos A, Nicaud JM. Efficient homologous recombination with short length flanking fragments in Ku70 deficient Yarrowia lipolytica strains. Biotechnology Letters, 2013, 35(4): 571-576.)の方法によって遺伝子をノックアウトした。アルカン資化酵母のゲノム配列から、pex10遺伝子のDNA配列を見つけ、目的遺伝子の上下流配列(1000bp程度)を選択した。CTAB法によってアルカン資化酵母のゲノムDNAを抽出し、得られたゲノムDNAを鋳型とし、配列番号71~78をプライマー配列とし、KAPA HiFi高正確性DNAポリメラーゼを使用し、反応系は25μlで、PCR増幅でそれぞれ得られた相同組換え断片pex10-upは配列番号118で示され、そしてpex10-dowは配列番号119で示される。
増幅条件は、95℃で3分間予備変性し、98℃で20秒変性し、60~72℃で15秒アニーリングし、72℃で伸長し、伸長時間は15秒/kbで計算し、サイクル数は29~35で、72℃で6分間伸長した。
【0062】
1.5.プラスミドの組み立て・構築
すべてのプラスミドの構築はプラスミドpYLEX1(Yeastern Biotech Companyから購入、台湾)を基本骨格とし、KAPA HiFi高正確性DNAポリメラーゼを使用し、反応系は25μlで、基本骨格、目的遺伝子、プロモーター、ターミネーター、スクリーニング標識遺伝子をPCRで増幅し、ギブソン・アセンブリ方法(Gibson DG. Synthesis of DNA fragments in yeast by one-step assembly of overlapping oligonucleotides. Nucleic Acids Research. 2009, 37(20): 6984-6990.)およびキット(New England Biolabsから購入)によってpYLEX1プラスミドの骨格を目的遺伝子、プロモーター、ターミネーターおよびスクリーニング標識遺伝子と完全なプラスミドに組み立てた(表1を参照する)。各プラスミドは、1種のスクリーニング標識遺伝子、1~3個の目的遺伝子を含み、各目的遺伝子は1つのプロモーターおよび1つのターミネーターを持つ。
【0063】
pDGAT1プラスミドを例とする。
1)プラスミドpYLEX1を基本骨格とし、それぞれpYLEX1およびアルカン資化酵母のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号51~52、配列番号59~60、配列番号79~80をプライマー配列とし、プラスミド骨格断片、TEFプロモーター断片およびXPR2ターミネーター断片をPCRで増幅し、3つのDNA断片をギブソン・アセンブリ方法によって組み立て、プラスミドpYLEX1-PTEF1-TXPR2を得た。DNA断片の濃度を各反応で100~200ngに制御し、反応系は10μLで、アセンブリ条件は50℃、1時間であった。反応終了後、2μL取ってDH5α感受性細胞(TransGen Biotechから購入)を形質転換させ、陽性クローンは集落PCRおよびDNAシーケンシングによって検証・スクリーニングして得られた。
【0064】
2)それぞれpYLEX1-PTEF1-TXPR2およびアルカン資化酵母のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号1~2、配列番号81~82をプライマー配列とし、プロモーターおよびターミネーターを持つプラスミド骨格断片とDGAT1遺伝子をPCRで増幅し、2つのDNA断片をギブソン・アセンブリ方法によって組み立て、プラスミドpYLEX1-PT-DGAT1を得たが、pDGAT1とした。
【0065】
表1に記載のプラスミドの構築はpDGAT1プラスミドの組み立てと同様に、すなわち、ギブソン・アセンブリ方法によって目的遺伝子、プロモーター、ターミネーターおよびスクリーニング標識遺伝子を一つのプラスミドに組み込んた。小胞体、ペルオキシソームおよびミトコンドリアを標的として発現される遺伝子は、相応する遺伝子の3'末端に小胞体保留シグナルペプチドKDEL、ペルオキシソーム標的化シグナルペプチドSKLおよびミトコンドリア標的化シグナルペプチドCoxIV(MLSLRQSIRFFKPATRTLCSSRYLL)を付加することが必要である。
【0066】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0067】
実施例2.アルカン資化酵母工学菌の構築
2.1 発現カセットの獲得
NotI制限酵素(Thermo Fisher Scientificから購入)でそれぞれ表1に記載のプラスミドpDS、pAB、pCgKCS、pCgKCSER pCgKCSPTS、pCgKCSMTS、pCERCMTS、pMCSD、pCB、pPLA2-1、pPLA2-2、pPLA2-3、pPLA2-4、pPLA2-5、pPLA2-6、pylGSR、pylGPO、prELO2、pCpLCE、pgELOVL6、pMaKCS、pD9DMB、pCeFAT6、pMaOLE2、pAtADS1、pAtADS2、pEcAldH、pScZwfおよびp△pex10を酵素切断した。
【0068】
具体的な酵素切断系は、10×FD Green Buffer 2μl、NotI 1μl、プラスミド <1μgで、ddH2Oで20μlまで補充した。酵素切断産物はCycle Pure Kit(OMEGA bio-tekから購入)で精製・回収し、回収工程は以下の通りである。酵素切断産物に4~5倍体積の緩衝液CPを入れた。均一に混合した後、DNA吸着カラムに移し、室温において13,000gで1分間遠心した。ろ液を捨てて700μLのDNA洗浄緩衝液を入れ、13,000gで1分間遠心した。ろ液を捨てて再び1回洗浄した。ろ液を捨て、空の吸着カラムを13,000gで2分間遠心し、カラムを乾燥した。吸着カラムをきれいな1.5mL遠心管に移し、30~50μLの溶離緩衝液を入れ、13,000gで遠心してDNAを溶離させた。
【0069】
発現カセットDGAT1-SCD-HgrまたはAtFAE1-BtFAE1-LEUまたはCgKCS-URAまたはCgKCSER-URAまたはCgKCSPTS-URAまたはCgKCSMTS-URA、CgKCSER-CgKCSMTS-URAまたはMaLCE1-CgKCSER-DGAT1ER-SCDER-URAまたはCgKCSER-BtFAE1ER-CgKCSPTS-BtFAE1PTS-URAまたはPLA2-1-URAまたはPLA2-2-URAまたはPLA2-3-URAまたはPLA2-4-URAまたはPLA2-5-URAまたはPLA2-6-URA またはylGSR-URAまたはylGPO-URAまたはrELO2-URAまたはCpLCE-URAまたはgELOVL6-URAまたはMaKCS-URAまたはD9DMB-URAまたはCeFAT6-URAまたはMaOLE2-URAまたはAtADS1-URAまたはAtADS2-URAまたはEcAldH-URAまたはScZwf-URAまたは△pex10-URAを得た。
【0070】
2.2 アルカン資化酵母の形質転換
(1)培養YPDプレート培地から菌株po1gの単一集落を選び、50ml YPD培養液を含有する250ml振とうフラスコ(YPD培地の成分は、グルコース20g/L、ペプトン20g/L、酵母抽出物10g/L)に接種し、28℃で一晩培養した。上記培養した菌液を50ml YPDを含有する250ml振とうフラスコに最終濃度がOD600=0.5になるように接種した後、28℃でOD600が1.0になるように培養し、約4hかかった。
【0071】
(2)形質転換4mlの上記細胞を取り、5000rpmで3min遠心し、上清を捨て、1μgの直線化遺伝子発現カセットDNAを入れ、それぞれDGAT1-SCD-HgrまたはAtFAE1-BtFAE1-LEUまたはCgKCS-URAまたはCgKCSER-URAまたはCgKCSPTS-URAまたはCgKCSMTS-URA、CgKCSER-CgKCSMTS-URAまたはMaLCE1-CgKCSER-DGAT1ER-SCDER-URAまたはCgKCSER-BtFAE1ER-CgKCSPTS-BtFAE1PTS-URAまたはPLA2-1-URAまたはPLA2-2-URAまたはPLA2-3-URAまたはPLA2-4-URAまたはPLA2-5-URAまたはPLA2-6-URAまたはylGSR-URAまたはylGPO-URAまたはrELO2-URAまたはCpLCE-URAまたはgELOVL6-URAまたはMaKCS-URAまたはD9DMB-URAまたはCeFAT6-URAまたはMaOLE2-URAまたはAtADS1-URAまたはAtADS2-URAまたはEcAldH-URAまたはScZwf-URAまたは△pex10-URAで、同時に90μlの50% PEG3350、5μlの2M LiAC、5μlの2M DTT、2μlのDMSO、2.5μlのSalman直鎖DNA(10mg/ml)を入れ、30℃水浴において1hインキュベートした後、ボルテックスで振とうし、さらに39℃水浴で10 min処理し、そのまま50μl形質転換系の混合液を取ってスクーリングプレートに塗布した。YPDスクリーニングプレートはそれぞれHgr(150μg/ml)、URA選択的欠乏型培地およびLEU選択的欠乏型培地である。
【0072】
2.3 工学菌株
スクリーニングプレートから単一集落を選び、PCRによって形質転換の結果を検証し(図2)、RT-PCRによって遺伝子発現レベルを検証し(図3および表2)、陽性形質転換体をスクリーニングし、工学菌株YL1、YL2、YL2-1、YL2-2、YL2-3、YL2-4、YL3、YL4-1、YL4-2、YL4-3、YL4-4、YL4-5、YL4-6、YL6、YL7、YL8およびYL11を得た。
【0073】
PCRによる検証方法は以下の通りである。相応するアルカン資化酵母の形質転換体のDNAを鋳型とし、相応するプライマーでPCR増幅を行い、増幅系はいずれも25μlで、具体的に2×Taqミックス 12.5μl、10μMプライマー0.5μlずつ、鋳型1μlで、水で25μlまで補充し、増幅条件は、94℃で5分間予備変性し、94℃で30秒変性し、60~72℃で30秒アニーリングし、72℃で伸長し、伸長時間は1分間/kbで計算し、サイクル数は30で、72℃で10分間伸長し、増幅終了後、1%アガロースゲル電気泳動によって検出した。
【0074】
RT-PCRによる遺伝子発現レベルの検証方法は以下の通りである。TRizol法によって上記菌株の全RNAを抽出し、核酸測定装置ND-1000で濃度を検出し、同時に1%アガロースゲル電気泳動によってRNAが分解したか検出した。各遺伝子配列から、リアルタイムPCR特異性プライマーを設計した。合格と検出されたRNAをcDNAに逆転写させた後、リアルタイムPCRを行った。リアルタイムPCR方法の具体的な手順はBiotiumのEvaGreen(登録商標) Master Mixes for qPCR定量検出キットを参照する。リアルタイムPCR増幅は米国Roche社製のLight Cycler 480 real-time PCR systemによって行われた。各サンプルに3つの反復ウェルを設け、異なるサンプルを3回反復し、アルカン資化酵母のアクチン遺伝子を内部参照とした。最後に、2-ΔΔCt方法によって相対発現量を計算した。
【0075】
【表2】
【0076】
菌株YL1は、上記からわかるように、プラスミドpDS、pBAおよびpCgKCS由来の発現カセットDGAT1-SCD-Hgr、AtFAE1-BtFAE1-LEUおよびCgKCS-URAを形質転換させることによって得られ、すなわち、遺伝子DGAT1およびSCDを過剰発現し、外因性遺伝子AtFAE1、BtFAE1およびCgKCSを過剰発現する。
菌株YL2は、YL1に基づき、プラスミドpMCSD由来の発現カセットMaLCE1-CgKCSER-DGAT1ER-SCDER-URAを形質転換させることによって得られ、すなわち、菌株YL2はYL1に基づいてさらに遺伝子MaLCE1、CgKCSER、DGAT1ERおよびSCDERを過剰発現する。
【0077】
菌株YL2-1は、YL2に基づき、プラスミドpCgKCSER由来の発現カセットCgKCSER-URAを形質転換させることによって得られ、すなわち、菌株YL2-1はYL2に基づいてさらに遺伝子CgKCSERを過剰発現する。
菌株YL2-2は、YL2に基づき、プラスミドpCB由来の発現カセットCgKCSER-BtFAE1ER-CgKCSPTS-BtFAE1PTS-URAを形質転換させることによって得られ、すなわち、菌株YL2-2はYL2に基づいてさらに異なるサブ細胞(小胞体、ペルオキシソーム)においてさらに遺伝子CgKCSおよびBtFAE1を過剰発現する。
【0078】
菌株YL2-3は、YL2に基づき、プラスミドpMCSD由来の発現カセットMaLCE1-CgKCSER-DGAT1ER-SCDER-URAを形質転換させることによって得られ、すなわち、菌株YL2-3はYL2に基づいてさらに遺伝子MaLCE1、CgKCSER、DGAT1ERおよびSCDERを過剰発現する。当該菌株は中国普通微生物菌種保蔵管理センターに寄託され、寄託番号はCGMCC NO. 15309である。
菌株YL2-4は、YL2に基づき、プラスミドpEcAldH、pScZwf、pylGSRおよびpylGPO由来の発現カセットEcAldH-URA、ScZwf-URA、ylGSR-URAおよびylGPO-URAを形質転換させることによって得られ、すなわち、菌株YL2-4はYL2に基づいてさらに遺伝子EcAldH、ScZwf、ylGSRおよびylGPOを過剰発現する。
【0079】
菌株YL3は、上記からわかるように、プラスミドpCgKCSPTSおよびpMCSD由来の発現カセットCgKCSPTS-URAおよびMaLCE1-CgKCSER-DGAT1ER-SCDER-URAを形質転換させることによって得られ、すなわち、遺伝子CgKCSPTS、MaLCE1、CgKCSER、DGAT1ERおよびSCDERを過剰発現する。
菌株YL4-1は、YL1に基づき、プラスミドpPLA2-1由来の発現カセットPLA2-1-URAを形質転換させることによって得られ、すなわち、菌株YL4-1はYL1に基づいてさらに遺伝子PLA2-1を過剰発現する。
【0080】
菌株YL4-2は、YL1に基づき、プラスミドpPLA2-2由来の発現カセットPLA2-2-URAを形質転換させることによって得られ、すなわち、菌株YL4-2はYL1に基づいてさらに遺伝子PLA2-2を過剰発現する。
菌株YL4-3は、YL1に基づき、プラスミドpPLA2-3由来の発現カセットPLA2-3-URAを形質転換させることによって得られ、すなわち、菌株YL4-3はYL1に基づいてさらに遺伝子PLA2-3を過剰発現する。
【0081】
菌株YL4-4は、YL1に基づき、プラスミドpPLA2-4由来の発現カセットPLA2-4-URAを形質転換させることによって得られ、すなわち、菌株YL4-4はYL1に基づいてさらに遺伝子PLA2-4を過剰発現する。
菌株YL4-5は、YL1に基づき、プラスミドpPLA2-5由来の発現カセットPLA2-5-URAを形質転換させることによって得られ、すなわち、菌株YL4-5はYL1に基づいてさらに遺伝子PLA2-5を過剰発現する。
【0082】
菌株YL4-6は、YL1に基づき、プラスミドpPLA2-6由来の発現カセットPLA2-6-URAを形質転換させることによって得られ、すなわち、菌株YL4-6はYL1に基づいてさらに遺伝子PLA2-6を過剰発現する。
菌株YL5は、プラスミドpgELOVL6およびpMaOLE2由来の発現カセットgELOVL6-URAおよびMaOLE2-URAを形質転換させることによって得られ、すなわち、外因性遺伝子gELOVL6およびMaOLE2を過剰発現する。
【0083】
菌株YL6は、YL5に基づき、プラスミドpCERCMTS由来の発現カセットCgKCSER-CgKCSMTS-URAを形質転換させることによって得られ、すなわち、菌株YL6はYL5に基づいてさらに遺伝子CgKCSERおよびCgKCSMTSを過剰発現する。
菌株YL7は、YL1に基づき、プラスミドpAtADS1由来の発現カセットAtADS1-URAを形質転換させることによって得られ、すなわち、菌株YL7はYL1に基づいてさらに遺伝子AtADS1を過剰発現する。
【0084】
菌株YL8は、YL1に基づき、プラスミドpAtADS2由来の発現カセットAtADS2-URAを形質転換させることによって得られ、すなわち、菌株YL8はYL1に基づいてさらに遺伝子AtADS2を過剰発現する。
菌株YL9は、上記からわかるように、プラスミドpΔpex10由来の発現カセットΔpex10-URAを形質転換させることによって得られ、すなわち、遺伝子pex10をノックアウトした。
【0085】
菌株YL10は、YL9に基づき、プラスミドpCgKCSPTS由来の発現カセットCgKCSPTS-URAを形質転換させることによって得られ、すなわち、菌株YL10はYL9に基づいてさらに遺伝子CgKCSPTSを過剰発現する。
菌株YL11は、YL10に基づき、プラスミドpMCSD由来の発現カセットMaLCE1-CgKCSER-DGAT1ER-SCDER-URAを形質転換させることによって得られ、すなわち、菌株YL11はYL11に基づいてさらに遺伝子MaLCE1、CgKCSER、DGAT1ERおよびSCDERを過剰発現する。
【0086】
実施例3.菌株培養によるネルボン酸の生産
3.1 菌種の振とう培養および誘導・調節
a.YPD固体プレートにおいてそれぞれ菌株po1gおよびYL2-3を活性化させ、28℃で1日培養した。単一集落を選んでそれぞれ50ml YPD培地を入れた250ml振とうフラスコに接種し、28℃で1日培養し、種子培養液とした。種子培養液をそれぞれ50ml YNB培地を含有する250ml振とうフラスコに初期OD600が0.2になるように接種し、28℃で6日培養し、使用に備えた。
ここで、YNB培地の構成は、YNB1.7g/L、グルコース80g/L、酵母抽出物1.5g/L、ウラシル20mg/L、ロイシン100mg/Lである。
【0087】
b.上記方法で培養された種子培養液をそれぞれ50ml誘導培地を含有する250ml振とうフラスコに初期OD600が0.2になるように接種し、28℃で6日培養し、使用に備えた。
ここで、誘導培地は10g/Lグルコースを含有するYNBで、1d培養した後、グルコースが基本的に完全に消耗されたら、さらにエリスリトールを炭素源として追加し、さらに2d培養して続いてグルコースを追加した。
【0088】
3.2 菌種発酵タンク培養(菌株YL2-3を例とする)
上記で得られた菌株YL2-3を活性化させた後、種子液とし、5L発酵タンクに3Lの培地YNBFを入れ、発酵は溶存酸素が20%超(生長期:0~48h)および0~5%(安定期)になるように制御した。発酵過程において、発酵終了までpH値が5.5で一定になるように制御した。温度を28℃に制御して6日培養した。
ここで、YNBF培地の成分は、3.4g/Lのアミノ酸および硫酸アンモニウムのない酵母窒素源、150g/Lのグルコース、2g/Lの酵母抽出物および8.8g/Lの硫酸アンモニウムである。接種量は10%である。
【0089】
3.3 微生物油脂の抽出
上記で得られた5mlの培養液を取り、遠心し、1gの湿潤な菌体を4mol/L塩酸10mLに入れ、均一に振とうし、室温で30min~1h置いた。沸騰水浴で6~8min処理し、すぐに-20℃で30min快速冷却した。その後、クロロホルム-メタノール(1:1,v/v)を20mL入れて十分に混合し、4000r/minで10min遠心した。下層のクロロホルムを分離して体積を測定し、等体積の濃度が0.15%の塩化ナトリウムを入れ、4000r/minで10min遠心した。下層のクロロホルム層を収集して三角フラスコに移し、70℃で2h乾燥して冷却し、重量を測定して微生物油脂の生産量を計算し、GC分析への使用に備えた。
【0090】
3.4 微生物油脂におけるネルボン酸の位置特異性の分析
上記酸熱法によって出発菌株および工学菌株を発酵させて6d培養した全油脂を抽出した。リパーゼ消化法によってネルボン酸のTAGにおける位置を検出した。具体的な手順は以下の通りである。3mlのメタノール溶液に10mgの油脂および10mgの固定化された1,3位特異性リパーゼを入れ、30℃で8h反応させた。脂肪酸メチルおよび2-MAGをTLCプレートによって精製し、気相検出では、遊離脂肪酸層のみにネルボン酸が存在し、すなわち、ネルボン酸がTAGのsn-1,3位に位置することが示された(図4)。
【0091】
3.5 全脂肪酸におけるネルボン酸の含有量の測定
微生物は重量を測定した後、ガラス管に2.6mlのメタノール:硫酸=98:2の溶液を添加し、そして85℃で3h反応させた。その後、冷蔵庫で冷却し、1mlの飽和NaClおよび1mlのn-ヘキサンを添加した。振とう後、高速(5000rpm)で5min遠心した。上清を吸い取り、そして有機溶媒ろ膜でろ過し、気相クロマトグラフィー小瓶に添加した。
ネルボン酸メチルの含有量はGC方法によって測定した。Agilent7890B-GC装置を使用し、クロマトグラフィーカラムはHP-5(30m×0.32mm×0.25μm)である。仕込み温度:250℃、検出器温度:250℃、仕込み体積:1μL。カラム初期温度は140℃で、1min維持し、10℃/minで180℃に昇温し、2min維持し、5℃/minで210℃に昇温し、4min維持し、5℃/minで250℃に昇温し、4min維持した。
【0092】
上記昇温条件において、GCによって検出されたネルボン酸メチルのピーク時間は23.775minであった(図5)。振とう培養条件において、菌株YL1、YL2、YL2-1、YL2-2、YL2-3、YL2-4、YL3、YL4-1、YL4-2、YL4-3、YL4-4、YL4-5、YL4-6、YL6、YL7、YL8およびYL11の全脂肪酸の含有量におけるネルボン酸の含有の百分率はそれぞれ2.40%、11.09%、10.66%、11.90%、17.57%、15.12%、9.63%、4.02%、4.36%、4.62%、4.57%、4.82%、4.19%、8.62%、8.12%、9.12%および11.12%であった(図7)。17株の菌の振とう回分培養のOD600(YL2-3を例として、図6に示す)、生物量および油脂含有量は大きく変わらず、生物量は20g/L程度で、油脂含有量は約8.2g/Lであった。発酵タンク培養条件において、菌株YL2-3の最大ネルボン酸含有量が全脂肪酸含有量の30.6%を占め、最大生物量は82.6g/Lであった。菌株YL2-3において、油脂におけるほかの脂肪酸の含有量の比率では、それぞれ、C16:0は5.3%で、C16:1は10.9%で、C18:0は1.5%で、C18:1は28.7%で、C18:2は9.1%で、C24:0は2.8%であった。
【0093】
3.6 細胞内におけるアルデヒドレベルの測定
酸化還元バランスの調節を検証するために、菌株における反応性アルデヒド物質に対して定量分析を行ったが、手順は以下の通りである。凍結遠心機によってpo1gおよびYL2-4細胞の沈殿を収集してPBS緩衝液に再懸濁させた。シェーカーで酵母沈殿物を均質化し、4℃で遠心し、上清を取った。Sigmaの蛍光アルデヒド測定キット(MAK141-1KT)に記載の説明に従って上清液から細胞内における活性アルデヒドを測定した。結果から、po1g菌株と比べ、YL2-4菌株における全油脂含有量が2.5倍向上し、活性アルデヒドの量が顕著に減少し、中でも、50h時点で、YL2-4菌株における活性アルデヒドの量がpo1g菌株よりも約4倍低下したことが見出された(図8)。
【0094】
実施例4.ネルボン酸の発酵
上記の最適化結果から、菌株YL2-3を500L発酵タンクにおいて増幅させた。活性化後の種子液を3%の接種量で接種し、培養温度は28℃で、通気量は5~8L/minで、撹拌回転数は300 r/minで、発酵pH(5.5)は3MのNaOH溶液で調節した。計3ロットで発酵を行った結果、菌株YL2-3は生物量が平均で126.56g/Lで、ネルボン酸含有量が全脂肪酸含有量の39.6%を占め、油脂含有量が39.3g/Lであったことがわかった。全脂肪酸含有量におけるほかの脂肪酸の含有量の比率では、それぞれ、C16:0は4.3%で、C16:1は7.9%で、C18:0は3.5%で、C18:1は25.7%で、C18:2は4.9%で、C24:0は4.8%であった(図9)。
【0095】
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、当業者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の形態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。
図1
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図7
図8
図9
【配列表】
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