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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】誘導加熱ローラ及び紡糸引取機
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/14 20060101AFI20230413BHJP
【FI】
H05B6/14
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021181999
(22)【出願日】2021-11-08
(62)【分割の表示】P 2020502068の分割
【原出願日】2019-01-09
(65)【公開番号】P2022010157
(43)【公開日】2022-01-14
【審査請求日】2021-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2018030814
(32)【優先日】2018-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】加賀田 翔
【審査官】根本 徳子
(56)【参考文献】
【文献】特公昭48-036216(JP,B1)
【文献】特開2005-293905(JP,A)
【文献】特開2005-043790(JP,A)
【文献】特開2005-222745(JP,A)
【文献】中国実用新案第204046852(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/14
D02J 13/00
D02J 1/22
F16C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルと、
前記コイルの径方向外側に配置されており、前記コイルにより誘導加熱される円筒状の被加熱部と、
前記被加熱部の少なくとも内周面よりも熱伝導率が高く且つ導電性を有する材料で形成されており、前記被加熱部の軸方向に延び、前記被加熱部の内周面と接触するように配置された均熱体とを備えており、
前記均熱体は、前記被加熱部の周方向に少なくとも1つ設けられており且つ前記周方向と交わる方向に延びる不連続領域により、前記周方向に不連続となっており、
前記均熱体の熱容量が前記被加熱部の熱容量よりも小さいことを特徴とする誘導加熱ローラ。
【請求項2】
前記不連続領域は、前記軸方向に関して前記均熱体の両端部のうち少なくとも一方の端部まで延びていることを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱ローラ。
【請求項3】
前記均熱体は、前記不連続領域に対応する箇所にスリットが形成された円筒状の部材であることを特徴とする請求項1又は2に記載の誘導加熱ローラ。
【請求項4】
前記均熱体は、前記軸方向の両端部のうち他方の端部において前記周方向の全周に亘って繋がっていることを特徴とする請求項3に記載の誘導加熱ローラ。
【請求項5】
前記スリットは、複数形成されていることを特徴とする請求項4に記載の誘導加熱ローラ。
【請求項6】
前記スリットは、前記軸方向に関して前記均熱体の全長に亘って延びていることを特徴とする請求項3に記載の誘導加熱ローラ。
【請求項7】
前記均熱体は、前記周方向に関して互いに離隔しつつ複数配置されており、
周方向に関して隣接する2つの前記均熱体の間が前記不連続領域であることを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱ローラ。
【請求項8】
前記不連続領域は、前記均熱体の厚み方向に関して前記均熱体を貫通しており、
前記不連続領域に、絶縁性を有する材料で形成されたスペーサが配置されていることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の誘導加熱ローラ。
【請求項9】
前記均熱体の前記被加熱部との接触面に、前記被加熱部よりも熱抵抗が低く且つ絶縁性を有する絶縁膜が配置されていることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の誘導加熱ローラ。
【請求項10】
前記均熱体の比透磁率は、前記被加熱部の比透磁率よりも低いことを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の誘導加熱ローラ。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の誘導加熱ローラを備える紡糸引取機であって、
前記誘導加熱ローラの表面に複数の糸が前記軸方向に並んで巻き掛けられることを特徴とする紡糸引取機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱ローラ及び紡糸引取機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載されているように、コイルを用いた誘導加熱によってローラ表面を昇温させる誘導加熱ローラが知られている。このような誘導加熱ローラでは、誘導加熱による発熱量を軸方向において均一とすることは難しく、ローラ表面の温度が軸方向において不均一となりやすい。そこで、特許文献1に記載の誘導加熱ローラでは、ローラ本体に、気液二相の熱媒体が封入されたジャケット室が軸方向に延びるように設けられている。このジャケット室がヒートパイプとして機能することで、ローラ表面の温度が軸方向において均一化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-100437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のようにヒートパイプ(ジャケット室)をローラ本体に設ける構成では、ヒートパイプを配置するために、ローラ本体の厚みを大きくせざるを得ない。その結果、ローラ本体の熱容量が大きくなり、ローラ表面を効率的に昇温できないという問題があった。
【0005】
そこで、本願発明者らは、誘導加熱されるローラ本体の内周面に、ローラ本体よりも熱伝導性が高い均熱体を接触させた状態で設けることを検討している。ローラ本体に接触している均熱体がヒートパイプの役割を果たすことで、誘導加熱により昇温したローラ本体の軸方向の温度分布を均一化させることができる。また、ローラ本体にヒートパイプを設ける場合に比べて、ローラ本体の厚みを小さくすることができる。その結果、ローラ表面を効率的に昇温することができる。
【0006】
均熱体の材料としては、比較的熱伝導性が高い銅やアルミニウム等の金属を採用することが考えられる。しかしながら、銅やアルミニウム等は導電性を有している。均熱体の材料として導電性を有する材料を採用した場合は、電磁誘導によりローラ本体に生じた渦電流が均熱体にも流れ、均熱体が発熱する。均熱体が発熱することで、ローラ表面を効率的に昇温できないという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、導電性の均熱体に渦電流が流れるのを抑制し、ローラ表面を効率的に昇温できる誘導加熱ローラ及び紡糸引取機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明の誘導加熱ローラは、コイルと、前記コイルの径方向外側に配置されており、前記コイルにより誘導加熱される円筒状の被加熱部と、前記被加熱部の少なくとも内周面よりも熱伝導率が高く且つ導電性を有する材料で形成されており、前記被加熱部の軸方向に延び、前記被加熱部の内周面と接触するように配置された均熱体とを備えており、前記均熱体は、前記被加熱部の周方向に少なくとも1つ設けられており且つ前記周方向と交わる方向に延びる不連続領域により、前記周方向に不連続となっており、前記均熱体の熱容量が前記被加熱部の熱容量よりも小さいことを特徴とするものである。
【0009】
本発明では、均熱体は不連続領域により被加熱部の周方向に対して不連続である。よって、均熱体において周方向に関して不連続となっている箇所においては、周方向に回るように渦電流が流れるのを抑制できる。したがって、均熱体が発熱しにくいので、ローラ表面(被加熱部の表面)を効果的に昇温できる。
【0010】
第2の発明の誘導加熱ローラは、前記第1の発明において、前記不連続領域が、前記軸方向に関して前記均熱体の両端部のうち少なくとも一方の端部まで延びていることを特徴とするものである。
第3の発明の誘導加熱ローラは、前記第1又は2の発明において、前記均熱体は、前記不連続領域に対応する箇所にスリットが形成された円筒状の部材であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明では、円筒状の部材に形成されたスリットが不連続領域として機能する。したがって、均熱体のスリットが形成されている箇所において、周方向に回るように渦電流が流れるのを抑制できる。
【0012】
第4の発明の誘導加熱ローラは、前記第3の発明において、前記均熱体は、前記軸方向の両端部のうち他方の端部において前記周方向の全周に亘って繋がっていることを特徴とするものである。
【0013】
本発明では、円筒状の部材である均熱体に形成されたスリットは均熱体の軸方向の全長に亘って形成されるものではなく、均熱体の両端部のうちの他方の端部にはスリットは形されていない。したがって、均熱体の形状を保持しやすく、均熱体の組み付けが容易と
なる。
【0014】
第5の発明の誘導加熱ローラは、前記第4の発明において、前記スリットは、複数形成されていることを特徴とするものである。
【0015】
スリットが形成された円筒状の部材である均熱体に周方向の全周に亘って繋がっている部分がある場合、その周方向に繋がっている部分で渦電流が流れることにより発熱が生じる。このとき発熱が生じる範囲は、周方向に関してスリットが形成されている箇所から離れるほど広くなる。本発明では、スリットを複数形成することで、均熱体の発熱する範囲が広がるのを抑えることができる。
【0016】
第6の発明の誘導加熱ローラは、前記第3の発明において、前記スリットは、前記軸方向に関して前記均熱体の全長に亘って延びていることを特徴とするものである。
【0017】
本発明では、不連続領域として機能するスリットが軸方向に関して均熱体の全長に亘って延びているので、均熱体は軸方向に関する全領域において周方向に関して不連続となる。したがって、均熱体の軸方向に関する全領域において周方向に渦電流が流れるのを抑制できる。よって、均熱体をさらに発熱しにくくし、ローラ表面(被加熱部の表面)をさらに効果的に昇温できる。
【0018】
第7の発明の誘導加熱ローラは、前記第1の発明において、前記均熱体は、前記周方向に関して互いに離隔しつつ複数配置されており、周方向に関して隣接する2つの前記均熱体の間が前記不連続領域であることを特徴とするものである。
【0019】
本発明では、周方向に隣接する2つの均熱体の間に不連続領域が設けられているために、均熱体は周方向に関して不連続となる。よって、均熱体において周方向に回るように渦電流が流れるのを抑制できる。
【0020】
第8の発明の誘導加熱ローラは、前記第1~第7のいずれか1つの発明において、前記不連続領域は、前記均熱体の厚み方向に関して前記均熱体を貫通しており、前記不連続領域に、絶縁性を有する材料で形成されたスペーサが配置されていることを特徴とするものである。
【0021】
本発明では、均熱体の切れ目である不連続領域にスペーサを配置することで、均熱体の形状を保持しやすく、均熱体の組み付けが容易となる。また、スペーサは、絶縁性を有する材料で形成されているので、均熱体の周方向に渦電流が流れるのを抑制する効果を維持できる。
【0022】
第9の発明の誘導加熱ローラは、前記第1~第8のいずれか1つの発明において、前記均熱体の前記被加熱部との接触面に、前記被加熱部よりも熱抵抗が低く且つ絶縁性を有する絶縁膜が配置されていることを特徴とするものである。
【0023】
本発明では、絶縁性を有する絶縁膜により電磁誘導により被加熱部に生じた渦電流が均熱体に流れるのを防ぐことができる。よって、均熱体に渦電流が流れるのをさらに抑制できる。また、絶縁膜は厚みが薄いので、その熱抵抗は比較的低い。したがって、絶縁膜によって被加熱部と均熱体とのすき間を埋めて、被加熱部と均熱体間の熱伝導性を高めることができる。
【0024】
第10の発明の誘導加熱ローラは、前記第1~第9のいずれか1つの発明において、前記均熱体の比透磁率は、前記被加熱部の比透磁率よりも低いことを特徴とするものである。
【0025】
本発明では、均熱体は被加熱部に比べて磁束が通りにくい。したがって、均熱体を磁束が通ることで均熱体に渦電流が生じるのを抑制できる。
【0026】
第11の発明の紡糸引取機は、前記第1~10のいずれか1つの誘導加熱ローラを備える紡糸引取機であって、前記誘導加熱ローラの表面に複数の糸が前記軸方向に並んで巻き掛けられることを特徴とするものである。
【0027】
本発明の紡糸引取機に備えられる誘導加熱ローラは、上述のように均熱体に渦電流が流れるのを抑制し、均熱体を発熱しにくくして、ローラ表面(被加熱部の表面)を効率的に昇温することができる。よって、紡糸引取機において誘導加熱ローラに巻き掛けられた糸を効果的に加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1実施形態に係る誘導加熱ローラを備える紡糸引取機を示す模式図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る誘導加熱ローラの軸方向に沿う面での断面図である。
図3図2に示す外筒部及び均熱体の軸方向と直交する面での断面図である。
図4図2に示す均熱体の斜視図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る誘導加熱ローラの外筒部及び均熱体の軸方向と直交する面での断面図である。
図6図5に示す均熱体の斜視図である。
図7】第1実施形態の第1変形例に係る誘導加熱ローラの均熱体の斜視図である。
図8】第1実施形態の第2変形例に係る誘導加熱ローラの均熱体の斜視図である。
図9】第1実施形態の第3変形例に係る誘導加熱ローラの均熱体の斜視図である。
図10】第2実施形態の一変形例に係る誘導加熱ローラの均熱体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0030】
(紡糸引取機1の概略構成)
図1は、本実施形態に係る誘導加熱ローラを備える紡糸引取機1を示す模式図である。図1に示すように、紡糸引取機1は、紡糸装置2から紡出された複数(ここでは6本)の糸Yを、紡糸延伸装置3で延伸した後、糸巻取装置4で巻き取る構成となっている。なお、以下では、各図に付した方向を参照しつつ説明を行う。
【0031】
紡糸装置2は、ポリエステル等の溶融繊維材料を連続的に紡出することで、複数の糸Yを生成する。紡糸装置2から紡出された複数の糸Yは、油剤ガイド10によって油剤が付与された後、案内ローラ11を経て紡糸延伸装置3に送られる。
【0032】
紡糸延伸装置3は、複数の糸Yを延伸する装置であり、紡糸装置2の下方に配置されている。紡糸延伸装置3は、保温箱12の内部に収容された複数(ここでは5つ)のゴデットローラ21~25を有している。各ゴデットローラ21~25は、モータによって回転駆動されるとともに、コイルによって誘導加熱される誘導加熱ローラである。各ゴデットローラ21~25は、いずれも軸方向が前後方向となるように配置されており、複数の糸Yが軸方向に並んで巻き掛けられている。保温箱12の右側面部の下部には、複数の糸Yを保温箱12の内部に導入するための導入口12aが形成されている。保温箱12の右側面部の上部には、複数の糸Yを保温箱12の外部に導出するための導出口12bが形成されている。複数の糸Yは、下側のゴデットローラ21から順番に、各ゴデットローラ21~25に対して360度未満の巻き掛け角で巻き掛けられている。
【0033】
下側3つのゴデットローラ21~23は、複数の糸Yを延伸する前に予熱するための予熱ローラであり、これらのローラ表面温度は、糸Yのガラス転移点以上の温度(例えば90~100℃程度)に設定されている。一方、上側2つのゴデットローラ24、25は、延伸された複数の糸Yを熱セットするための調質ローラである。これらゴデットローラ24、25のローラ表面温度は、下側3つのゴデットローラ21~23のローラ表面温度よりも高い温度(例えば150~200℃程度)に設定されている。また、上側2つのゴデットローラ24、25の糸送り速度は、下側3つのゴデットローラ21~23よりも速くなっている。
【0034】
導入口12aを介して保温箱12に導入された複数の糸Yは、まず、ゴデットローラ21~23によって送られる間に延伸可能な温度まで予熱される。予熱された複数の糸Yは、ゴデットローラ23とゴデットローラ24との間の糸送り速度の差によって延伸される。さらに、複数の糸Yは、ゴデットローラ24、25によって送られる間にさらに高温に加熱されて、延伸された状態が熱セットされる。このようにして延伸された複数の糸Yは、導出口12bを介して保温箱12の外に導出される。
【0035】
紡糸延伸装置3で延伸された複数の糸Yは、案内ローラ13を経て糸巻取装置4に送られる。糸巻取装置4は、複数の糸Yを巻き取る装置であり、紡糸延伸装置3の下方に配置されている。糸巻取装置4は、ボビンホルダ14やコンタクトローラ15等を備えている。ボビンホルダ14は、前後方向に延びる円筒形状を有し、図示しないモータによって回転駆動される。ボビンホルダ14には、その軸方向に複数のボビンBが並んだ状態で装着される。糸巻取装置4は、ボビンホルダ14を回転させることによって、複数のボビンBに複数の糸Yを同時に巻取り、複数のパッケージPを生産する。コンタクトローラ15は、複数のパッケージPの表面に接触して所定の接圧を付与し、パッケージPの形状を整える。
【0036】
(誘導加熱ローラ30の構成)
図2は、本実施形態に係る誘導加熱ローラ30の軸方向に沿う面での断面図である。図2では、誘導加熱ローラ30が連結されるモータ50については、出力軸51及びハウジング52の一部のみを図示している。なお、図2に示す誘導加熱ローラ30は、図1におけるゴデットローラ21~25の全てに適用されるローラである。以下の説明においては、誘導加熱ローラ30の軸方向(前後方向)を単に「軸方向」と称する。また、誘導加熱ローラ30の周方向を単に「周方向」と称する。
【0037】
誘導加熱ローラ30は、軸方向に沿った円筒形状を有するローラ本体31と、ローラ本体31の内部に配置されたコイル32とを有する。誘導加熱ローラ30は、コイル32による誘導加熱を利用して、ローラ本体31の外周面31a(以下、「ローラ表面31a」と称する)を昇温させるものであり、それによって、ローラ表面31aに巻き掛けられた複数の糸Yを加熱するものである。
【0038】
ローラ本体31は、磁性体であり且つ導電体でもある炭素鋼からなる。ローラ本体31は、いずれも軸方向に沿った円筒状の外筒部33及び軸心部34と、外筒部33の前端部と軸心部34の前端部とをつなぐ円板状の端面部35とを有する。外筒部33は、コイル32の径方向外側に配置されている。軸心部34は、コイル32の径方向内側に配置されている。ローラ本体31の後端側は開口している。また、外筒部33と軸心部34と端面部35とは一体形成されている。ローラ本体31の外筒部33の径方向内側、且つ、コイル32の径方向外側には、軸方向に沿った円筒状の均熱体36が設けられている。
【0039】
図3は、図2に示す外筒部33及び均熱体36の軸方向と直交する面での断面図である。図4は、図2に示す均熱体36の斜視図である。図3、4に示すように、均熱体36には軸方向に延びるスリット36aが形成されている。スリット36aは、均熱体36の軸方向の全長に亘って延びている。スリット36aは、均熱体36が配置されていない不連続領域40として機能する。すなわち、均熱体36は、スリット36aが形成されていることで周方向に関して不連続となっている。
【0040】
均熱体36は、例えばアルミニウムや銅等、ローラ本体31を構成する炭素鋼よりも熱伝導率が高く且つ導電性を有する材料からなる。また、均熱体36を構成する材料の比透磁率は、ローラ本体31を構成する炭素鋼の比透磁率よりも低い。均熱体36の外周面の全体には、外筒部33との接触面においてローラ本体31を構成する炭素鋼よりも熱抵抗が低く且つ絶縁性を有する材料で形成された絶縁膜36bが配置されている。絶縁膜36bの材料としては、シリコンペースト、接着剤、樹脂系の薄膜シート等を用いることができる。
【0041】
均熱体36の外径は、外筒部33の内径と同じにされている。(厳密には、均熱体36を外筒部33に挿入できるように、均熱体36の外径のほうがわずかに小さい)。これによって、均熱体36がローラ本体31の内部に収容された状態では、均熱体36の外周面(絶縁膜36b)が略全面にわたって外筒部33の内周面に接触する。図2に示すように、ローラ表面31aに複数の糸Yが巻き掛けられている軸方向の領域を巻掛領域Rとすると、均熱体36は軸方向において巻掛領域Rを含む範囲に亘って設けられている。
【0042】
均熱体36は、ローラ本体31の後端側の開口から外筒部33内に挿入可能である。均熱体36の軸方向の長さは、概ね外筒部33と同じ長さとされており、均熱体36の前端部は、ローラ本体31の端面部35に当接している。外筒部33及び均熱体36の後端部は、ともに、環状の固定部材37に固定されており、これによって、均熱体36がローラ本体31に対して固定される。
【0043】
ローラ本体31の軸心部34には、軸方向に沿って延設された軸取付孔34aが形成されている。軸取付孔34aには、不図示の固定手段によって、モータ50の出力軸51が固定されており、誘導加熱ローラ30が出力軸51と一体回転可能となっている。
【0044】
コイル32は、円筒状のボビン部材39の外周面に導線が巻き回された構成となっている。図示は省略するが、ボビン部材39は完全な円筒形状ではなく、周方向の一部分が切断されたC字状の断面形状を有する。このため、ボビン部材39には周方向に沿った渦電流が流れにくく、ボビン部材39における発熱を抑えることができるようになっている。ボビン部材39は、モータ50のハウジング52に取り付けられている。ハウジング52には環状の凹部52aが形成されており、上述の固定部材37が、凹部52aの底面や側面に接触しないように凹部52a内に配置されている。モータ50の出力軸51は、不図示の軸受を介してハウジング52に回転可能に支持されており、モータ50を作動させると、誘導加熱ローラ30が出力軸51と一体回転する。
【0045】
コイル32に高周波電流を供給すると、コイル32の周りに変動磁界が発生する。誘導加熱とは、このときの電磁誘導効果によって周方向に流れる渦電流のジュール熱を利用するものである。本実施形態では、均熱体36は不連続領域40により周方向に関して不連続であるので、均熱体36にはほとんど渦電流は流れない。したがって、渦電流によるジュール熱は均熱体36よりも外筒部33において多く発生する。なお、表皮効果により、渦電流は外筒部33の主に内周面近傍に発生する。
【0046】
また、本実施形態では、均熱体36の熱伝導率が、ローラ本体31(外筒部33)よりも高い。このため、均熱体36における温度分布は均一になりやすく、均熱体36に接している外筒部33の軸方向における温度分布を均一化させることができる。さらに、本実施形態では、均熱体36の温度分布を迅速に均一とするため、均熱体36の熱容量が外筒部33の熱容量よりも小さくされている。
【0047】
(第1実施形態の効果)
以上のように、第1実施形態の誘導加熱ローラ30は、ローラ本体31の外筒部33の内周面に接触するように配置されており、外筒部33よりも熱伝導率が高く且つ導電性を有する材料で形成された均熱体36を備えている。均熱体36は、軸方向に延びる不連続領域40により周方向に不連続となっている。したがって、不連続領域40により導電性を有する均熱体36において周方向に回るように渦電流が流れるのを抑制できる。その結果、均熱体36が発熱しにくいので、ローラ表面31a(外筒部33の表面)を効果的に昇温できる。
【0048】
また、第1実施形態では、均熱体36は、スリット36aが形成された円筒状の部材である。すなわち、円筒状の均熱体36に形成されたスリット36aが不連続領域40として機能する。したがって、均熱体36はスリット36aにより周方向に関して不連続となっており、周方向に回るように渦電流が流れるのを抑制できる。
【0049】
また、第1実施形態では、円筒状の均熱体36に形成されるスリット36aは、軸方向に関して均熱体36の全長に亘って延びている。したがって、不連続領域40として機能するスリット36aが軸方向に関して均熱体36の全長に亘って延びているので、均熱体36は軸方向に関する全領域において周方向に関して不連続となる。よって、均熱体36の軸方向に関する全領域において周方向に渦電流が流れるのを抑制できる。その結果、均熱体36をさらに発熱しにくくし、ローラ表面31a(外筒部33の表面)をさらに効果的に昇温できる。
【0050】
また、第1実施形態では、均熱体36の外周面に、外筒部33との接触面において外筒部33よりも熱抵抗が低く且つ絶縁性を有する絶縁膜36bが配置されている。したがって、絶縁性を有する絶縁膜36bにより電磁誘導で外筒部33に生じた渦電流が均熱体36に流れるのを防ぐことができる。よって、均熱体36に渦電流が流れるのをさらに抑制できる。また、絶縁膜36bは、厚みが薄いので、その熱抵抗は比較的低い。したがって、外筒部33の内周面及び均熱体36の外周面の表面粗さにより生じる外筒部33と均熱体36とのすき間と、外筒部33と均熱体36の嵌め合いの関係から生じるすき間と、を絶縁膜36bによって埋めて、外筒部33と均熱体36間の熱伝導性をさらに高めることができる。
【0051】
また、第1実施形態では、均熱体36の比透磁率は、外筒部33の比透磁率よりも低い。したがって、均熱体36は外筒部33に比べて磁束が通りにくい。よって、均熱体36を磁束が通ることで均熱体36に渦電流が生じるのを抑制できる。
【0052】
また、第1実施形態の紡糸引取機1は、誘導加熱ローラ30表面に複数の糸が軸方向に並んで巻き掛けられている。上述のように、本実施形態の誘導加熱ローラ30は、均熱体36に渦電流が流れるのを抑制し、均熱体36を発熱しにくくし、ローラ表面31a(外筒部33の表面)を効率的に昇温することができる。よって、紡糸引取機1において誘導加熱ローラ30に巻き掛けられた糸を効果的に加熱することができる。
【0053】
<第2実施形態>
次に、図5、6を参照しつつ、本発明の第2実施形態について説明する。図5は、本発明の第2実施形態に係る誘導加熱ローラの外筒部33及び均熱体136の軸方向と直交する面での断面図である。図6は、図5に示す均熱体136の斜視図である。本実施形態は、均熱体136の構成が上述の第1実施形態と異なっている。その他の構成は上述の第1実施形態とほぼ同様であるため、同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。
【0054】
均熱体136は、第1実施形態と同様に、ローラ本体31の外筒部33の径方向内側、且つ、コイル32の径方向外側に設けられるものである。以下の説明において、均熱体136の外筒部33側の面を「外側面」と称し、コイル32側の面と「内側面」と称することとする。
【0055】
図5、6に示すように、本実施形態の均熱体136は、軸方向に沿って延びた板状部材であり、周方向に関して互いに離隔しつつ複数(ここでは6つ)配置されている。各均熱体136の軸方向の長さは、概ね外筒部33と同じ長さである。周方向に隣接する2つの均熱体136の間の領域は、均熱体136が配置されていない不連続領域140である。すなわち、均熱体136は、周方向に関して不連続となっている。均熱体136の材料は、第1実施形態と同様に、アルミニウムや銅等である。また、各均熱体136の外側面には、第1実施形態と同様に、絶縁膜136bが配置されている。
【0056】
各均熱体136は、周方向に関して湾曲した形状を有しており、外側面の周方向に関する曲率は、外筒部33の内周面の曲率とほぼ同じである。したがって、各均熱体136の外側面(絶縁膜136b)が略全面に亘って外筒部33の内周面に接触する。
【0057】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態では、周方向に隣接する2つの均熱体136の間に、不連続領域140が設けられている。したがって、第1実施形態と同様に、均熱体136は、不連続領域140によって周方向に対して不連続となる。よって、導電性の均熱体136の周方向に回るように渦電流が流れるのを抑制できる。その結果、均熱体136が発熱しにくいので、ローラ表面31a(外筒部33の表面)を効果的に昇温できる。
【0058】
(変形例)
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0059】
例えば、第1実施形態の第1変形例に係る誘導加熱ローラの均熱体236の斜視図である図7に示すように、本変形例に係る誘導加熱ローラの均熱体236は、軸方向の一端部(図7中右側端部)において周方向の全周に亘って繋がっている。すなわち、均熱体236に形成された軸方向に延びるスリット236aは、均熱体236の軸方向の一端部には形成されておらず、均熱体236の軸方向の一端部の近傍から他端部まで延びている。つまり本変形例では、不連続領域240は、均熱体236の軸方向の一端部の近傍から他端部まで軸方向に延びている。このように、筒状の均熱体236に周方向の全周に亘って繋がっている箇所があることで、均熱体236の形状を保持しやすく、均熱体236の組み付けが容易となる。
【0060】
なお、均熱体236に周方向の全周に亘って繋がっている部分には、周方向に渦電流が流れて発熱が生じる。ローラ表面31a(外筒部33の表面)を効果的に昇温するためには、均熱体236の発熱範囲は狭いことが好ましい。したがって、発熱範囲を狭くする観点から、周方向の全周に亘って繋がっている部分の幅(軸方向長さ)は狭いことが好ましい。
【0061】
均熱体236の周方向の全周に亘って繋がっている部分は、前後方向のどちら側でもよいし、軸方向(前後方向)の両端部で繋がっていてもよい。また、軸方向の中間部分において繋がっていてもよい。
【0062】
また、第1実施形態の第2変形例に係る誘導加熱ローラの均熱体336の斜視図である図8に示すように、本変形例に係る誘導加熱ローラの均熱体336は、軸方向の一端部(図8中右側端部)において周方向の全周に亘って繋がっている。また、均熱体336には、軸方向に延びる複数(ここでは6つ)のスリット336aが形成されている。すなわち、均熱体336に形成された軸方向に延びる複数のスリット336aは、いずれも均熱体336の軸方向の一端部には形成されておらず、均熱体336の軸方向の一端部の近傍から他端部まで延びている。つまり本変形例においては、複数(ここでは6つ)の不連続領域340が、均熱体336の軸方向の一端部の近傍から他端部まで軸方向に延びている。複数のスリット336a(不連続領域340)は周方向に等間隔に設けられている。
【0063】
スリット336aが形成された円筒状の均熱体336に周方向の全周に亘って繋がっている部分がある場合、その周方向に繋がっている部分で周方向に渦電流が流れることにより発熱が生じる。このとき発熱が生じる範囲は、周方向に関してスリット336aが形成されている箇所から離れるほど広くなる。すなわち、周方向に関してスリット336aが形成されている箇所から離れるほど、発熱が生じる範囲の軸方向長さが長くなる。したがって、スリット336aを複数形成することで、均熱体336の発熱する範囲が広がるのを抑えることができる。
【0064】
均熱体336に形成されるスリット336aの数は、6つに限定されるものではない。上述のように、均熱体336の発熱範囲を狭くする観点では、スリット336aの数は多いほど発熱範囲を狭くすることができる。しかしながら、スリット336aは少ないほど均熱体336の強度を強く保つことができる。また、複数のスリット336aは、等間隔に形成されていなくてもよい。さらに、均熱体336の周方向の全周に亘って繋がっている部分は、前後方向のどちら側でもよいし、軸方向(前後方向)の両端部であってもよい。また、軸方向の中間部分において周方向の全周に亘って繋がっていてもよい。
【0065】
さらに、第1実施形態の第3変形例に係る誘導加熱ローラの均熱体436の斜視図である図9に示すように、本変形例に係る誘導加熱ローラの均熱体436においては、スリット436a(不連続領域440)にスペーサ438が配置されている。スペーサ438は、例えば合成樹脂等、絶縁性を有する材料からなる。なお、外筒部33の軸方向における温度分布を均一化させる効果を維持する観点から、スペーサ438は薄くて熱抵抗が低いことが好ましい。
【0066】
このように、均熱体436の切れ目である不連続領域440にスペーサ438を配置することで、均熱体436の形状を保持しやすく、均熱体436の組み付けが容易となる。また、スペーサ438は、絶縁性を有する材料で形成されているので、均熱体436の周方向に渦電流が流れるのを抑制する効果を維持できる。
【0067】
加えて、第2実施形態の一変形例に係る誘導加熱ローラの均熱体536の斜視図である図10に示すように、本変形例に係る誘導加熱ローラの均熱体536においては、第1実施形態の第3変形例と同様に、不連続領域540にスペーサ538が配置されている。スペーサ538は、例えば合成樹脂等、絶縁性を有する材料からなる。
【0068】
また、上述の実施形態では、不連続領域40(140、240、340、440、540)が、軸方向に沿って延びている場合について説明したが、これには限定されない。すなわち、不連続領域40(140、240、340、440、540)の伸延方向は、周方向と交わる方向であればよい。
【0069】
さらに、上述の実施形態では、均熱体36(136、236、336、436、536)の外筒部33との接触面に絶縁膜36b(136b)が配置されている場合について説明したが、絶縁膜36b(136b)はなくてもよい。
【0070】
加えて、上述の実施形態では、均熱体36(136、236、336、436、536)の比透磁率が外筒部33(ローラ本体31)の比透磁率よりも低い場合について説明したが、均熱体36(136、236、336、436、536)の比透磁率はこれに限定されるものではない。
【0071】
加えて、上述の実施形態では、均熱体36の熱伝導率が、ローラ本体31よりも高い場合について説明したが、これには限定されない。均熱体36の熱伝導率は、ローラ本体31の少なくとも外筒部33の内周面よりも高ければよい。
【0072】
また、上述の実施形態では、ローラ本体31は、磁性体であり且つ導電体でもある炭素鋼からなり、外筒部33と軸心部34と端面部35とが一体形成されている場合について説明したが、これには限定されない。外筒部33及び端面部35が磁性体であり且つ導電体でもある材料で形成されていれば、外筒部33及び端面部35が異なる材料であってもよい。さらに、外筒部33及び端面部35が磁性体であり且つ導電体でもある同じ材料で構成されている場合であっても、外筒部33及び端面部35を異なる部材としてもよい。
【0073】
また、上述の実施形態では、1つの誘導加熱ローラ30に、複数の糸Yが巻き掛けられるものについて説明したが、1本の糸が巻き掛けられる誘導加熱ローラに対しても、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 紡糸引取機
30 誘導加熱ローラ
32 コイル
33 外筒部(被加熱部)
36、136、236、336、436、536 均熱体
36a、236a、336a、436a スリット
36b、136b 絶縁膜
40、140、240、340、440、540 不連続領域
438、538 スペーサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10