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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20230413BHJP
【FI】
F02D45/00 366
F02D45/00 372
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021506237
(86)(22)【出願日】2020-02-11
(86)【国際出願番号】 JP2020005212
(87)【国際公開番号】W WO2020189096
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2019051364
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】真田 恵尚
(72)【発明者】
【氏名】森田 大貴
(72)【発明者】
【氏名】平野 賢
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-167897(JP,A)
【文献】特開2018-115555(JP,A)
【文献】特開2008-223519(JP,A)
【文献】特開2009-019611(JP,A)
【文献】特開2011-252785(JP,A)
【文献】特開2004-100642(JP,A)
【文献】特開2010-106661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(1)の吸気の流量を検出する流量センサ(11)と、
前記エンジン(1)の吸気の圧力を検出する圧力センサ(17)と、
スロットルバルブ(9)の位置を検出するスロットルポジションセンサ(20)と、
前記エンジン(1)の回転速度を検出するエンジン回転数センサ(21)と、
吸気バルブ(12)の位置を検出する吸気バルブ位置センサ(22)と、
排気バルブ(13)の位置を検出する排気バルブ位置センサ(23)と、
前記流量センサ(11)による検出結果に基づいて算出する第1吸気量及び前記圧力センサ(17)による検出結果に基づいて算出する第2吸気量のうち、運転状態情報に応じた選択情報で選択される吸気量に基づいて前記エンジン(1)の運転を制御する制御部(101)と、
を備え、
前記運転状態情報は、前記スロットルポジションセンサ(20)の検出結果によるスロットル開度、前記エンジン回転数センサ(21)の検出結果によるエンジン回転速度、及び前記吸気バルブ位置センサ(22)の検出結果による吸気バルブ(12)の位置と前記排気バルブ位置センサ(23)の検出結果による排気バルブ(13)の位置とに基づいて算出されるバルブオーバーラップ量の組み合わせの情報であり、
前記選択情報は、前記運転状態情報に対して前記第1吸気量及び前記第2吸気量のうち誤差の少ない方がどちらであるかを予め関連付けて記憶した情報であって、前記運転状態情報に応じて該誤差の少ない方の吸気量を選択する情報である、
制御装置(100)
【請求項2】
流量センサ(11)による検出結果であるエンジン(1)の吸気の流量に基づき第1の吸気量を算出する第1ステップ(S1)と、
圧力センサ(17)による検出結果であるエンジン(1)の吸気の圧力に基づき第2の吸気量を算出する第2ステップ(S2)と、
スロットルポジションセンサ(20)による検出結果であるスロットルバルブ(9)の位置に基づきスロットル開度を算出する第3ステップ(S3)と、
吸気バルブ位置センサ(22)による検出結果である吸気バルブ(12)の位置、及び排気バルブ位置センサ(23)による検出結果である排気バルブ(13)の位置に基づきバルブオーバーラップ量を算出する第4ステップ(S4)と、
エンジン回転数センサ(21)による検出結果である前記エンジン(1)の回転数に基づきエンジン回転速度を算出する第5ステップ(S5)と、
前記第1吸気量及び前記第2吸気量のうち、運転状態情報に応じた選択情報で選択される吸気量に基づいて前記エンジン(1)の運転を制御する第6ステップ(S5~S9)と、
を備え、
前記運転状態情報は、前記スロットル開度、前記エンジン回転速度、及び前記バルブオーバーラップ量の組み合わせの情報であり、
前記選択情報は、前記運転状態情報に対して前記第1吸気量及び前記第2吸気量のうち誤差の少ない方がどちらであるかを予め関連付けて記憶した情報であって、前記運転状態情報に応じて該誤差の少ない方の吸気量を選択する情報であり、
前記第1ステップ及び前記第2ステップを順不同で実行した後、前記第3ステップ、前記第4ステップ及び前記第5ステップを順不同で実行し、その後、前記第6ステップを実行する、
制御方法。
【請求項3】
コンピュータに用いられるプログラムであって、
請求項2に記載の制御方法の各ステップをコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、制御方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の制御装置として、流量センサによって検出される流量に基づいてエンジンの吸気量を算出し、この吸気量に基づいてエンジンの運転を制御する制御装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のECU(Engine Control Unit)は、流量センサたるエアフローセンサによる流量の検出結果に基づいて、エンジンへの吸気量を算出する。このECUは、エンジン回転数をもとに吸気脈動周波数を算出し、エアフローセンサによる流量検出値と、吸気脈動周波数とに基づいて吸気量を補正する。更に、このECUは、補正後の吸気量に基づいてエンジンへの燃料の供給量を調整する。
【0004】
特許文献1によれば、かかる構成のECUは、吸気の脈動に起因する吸気量の算出誤差を低減することができるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-20212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このECUにおいては、吸気の脈動が大きくなるほど、吸気量の算出誤差が大きくなってしまうという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、エンジン(1)の吸気の流量を検出する流量センサ(11)と、前記エンジン(1)の吸気の圧力を検出する圧力センサ(17)と、スロットルバルブ(9)の位置を検出するスロットルポジションセンサ(20)と、前記エンジン(1)の回転速度を検出するエンジン回転数センサ(21)と、吸気バルブ(12)の位置を検出する吸気バルブ位置センサ(22)と、排気バルブ(13)の位置を検出する排気バルブ位置センサ(23)と、前記流量センサ(11)による検出結果に基づいて算出する第1吸気量及び前記圧力センサ(17)による検出結果に基づいて算出する第2吸気量のうち、運転状態情報に応じた選択情報で選択される吸気量に基づいて前記エンジン(1)の運転を制御する制御部(101)と、を備え、前記運転状態情報は、前記スロットルポジションセンサ(20)の検出結果によるスロットル開度、前記エンジン回転数センサ(21)の検出結果によるエンジン回転速度、及び前記吸気バルブ位置センサ(22)の検出結果による吸気バルブ(12)の位置と前記排気バルブ位置センサ(23)の検出結果による排気バルブ(13)の位置とに基づいて算出されるバルブオーバーラップ量の組み合わせの情報であり、前記選択情報は、前記運転状態情報に対して前記第1吸気量及び前記第2吸気量のうち誤差の少ない方がどちらであるかを予め関連付けて記憶した情報であって、前記運転状態情報に応じて該誤差の少ない方の吸気量を選択する情報である、制御装置(100)が提供される。
【0008】
本発明の一態様によれば、流量センサ(11)による検出結果であるエンジン(1)の吸気の流量に基づき第1の吸気量を算出する第1ステップ(S1)と、圧力センサ(17)による検出結果であるエンジン(1)の吸気の圧力に基づき第2の吸気量を算出する第2ステップ(S2)と、スロットルポジションセンサ(20)による検出結果であるスロットルバルブ(9)の位置に基づきスロットル開度を算出する第3ステップ(S3)と、吸気バルブ位置センサ(22)による検出結果である吸気バルブ(12)の位置、及び排気バルブ位置センサ(23)による検出結果である排気バルブ(13)の位置に基づきバルブオーバーラップ量を算出する第4ステップ(S4)と、エンジン回転数センサ(21)による検出結果である前記エンジン(1)の回転数に基づきエンジン回転速度を算出する第5ステップ(S5)と、前記第1吸気量及び前記第2吸気量のうち、運転状態情報に応じた選択情報で選択される吸気量に基づいて前記エンジン(1)の運転を制御する第6ステップ(S5~S9)と、を備え、前記運転状態情報は、前記スロットル開度、前記エンジン回転速度、及び前記バルブオーバーラップ量の組み合わせの情報であり、前記選択情報は、前記運転状態情報に対して前記第1吸気量及び前記第2吸気量のうち誤差の少ない方がどちらであるかを予め関連付けて記憶した情報であって、前記運転状態情報に応じて該誤差の少ない方の吸気量を選択する情報であり、前記第1ステップ及び前記第2ステップを順不同で実行した後、前記第3ステップ、前記第4ステップ及び前記第5ステップを順不同で実行し、その後、前記第6ステップを実行する、制御方法が提供される。
【0009】
本発明の一態様によれば、コンピュータに用いられるプログラムであって、前記制御方法の各ステップをコンピュータに実行させるプログラムが提供される。
【0010】
本発明によれば、脈動に起因する吸気量の取得誤差を従来よりも低減することができるという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係るECUの制御対象となるエンジン及びこれの周囲を示す概略構成図である。
図2】同ECUと、車両に搭載されて同ECUに電気接続される各機器とを示す電気ブロック図である。
図3】同ECUによって実行される燃料調整制御の処理フローを示すフローチャートである。
図4】第1変形例に係るECUによって実行される燃料調整制御の処理フローを示すフローチャートである。
図5】第2変形例に係るECUによって実行される燃料調整制御の処理フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の制御装置の一実施形態であるECUについて、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する構成、動作等は、本発明の実施形態としての一例(代表例)であり、本発明は以下に説明する構成、動作等に限定されない。また、以下では、同一の又は類似する説明を、適宜簡略化又は省略する。また、各図において、同一の又は類似する部材又は部分については、符号を付すことを省略するか、又は、同一の符号を付す。また、細かい構造については、適宜図示を簡略化又は省略する。
【0013】
図1は、実施形態に係るECUの制御対象となるエンジン及びこれの周囲を示す概略構成図である。エンジン1は、複数のシリンダ2及びピストン3を備える多気筒のエンジンである。図1では、便宜上、シリンダ2及びピストン3が1つずつのみ示される。ピストン3は、シリンダ2の気筒内で気筒の軸線方向に移動する。この移動に伴って、ピストン3に連結されたコンロッド5がクランク軸6を回転させる。シリンダ2内において、ピストン3の上方には、燃焼室4が配置される。燃焼室4には、燃料に点火するための点火プラグ14が設けられる。
【0014】
エンジン1の吸気口には、吸気バルブ12が設けられる。エンジン1の排気口には、排気バルブ13が設けられる。吸気バルブ12、排気バルブ13は何れも、可変バルブタイミング(VVT)機構によって開閉されるバルブである。
【0015】
エンジン1の吸気口には、吸気マニホールド7、コレクタ8、スロットルバルブ9、及び吸気管10が順に連結する。吸気マニホールド7、コレクタ8、スロットルバルブ9、及び吸気管10は、吸気路を構成する。吸気管10内には、流量センサとしてエアフローセンサ11が配置される。吸気バルブ12が開き、且つスロットルバルブ9が開くと、外気が吸気管10、スロットルバルブ9、コレクタ8、吸気マニホールド7、及び吸気バルブ12を順に経由して、燃焼室4内に吸気される。燃焼室4内に吸気される直前の空気は、吸気マニホールド7内において、インジェクタ15から噴射される燃料と混合される。空気とともに燃焼室4内に入った燃料は、点火プラグ14によって点火される。この点火によって燃焼した燃料は、気化によって体積を増大させて、ピストン3を点火プラグ14から遠ざかる方向に移動させる。
【0016】
燃焼室4において燃料の燃焼によって生じたガスは、エンジン1の排気口から、排気バルブ13、及び排気管16を介して、排気ガスとして外部に排出される。
【0017】
エンジン1には、排気管16内の排気ガスの一部を、燃焼室4内に戻すEGR(Exhaust Gas Recirculation)システムが採用されている。エンジンサイクルにおける所定のタイミングで、吸気バルブ12と排気バルブ13とを同時に開くバルブオーバーラップが行われることで、燃焼室4内に排気ガスが戻される。
【0018】
コレクタ8内には、圧力センサ17が配置される。本実施形態に係るECUは、圧力センサ17による吸気圧の検出結果に基づいて、エンジンに吸入される全ガス量(空気量+EGRガス量)を算出する。
【0019】
エアフローセンサ11によるエアー流量の検出結果に基づいて算出される吸気量(以下、流量に基づく吸気量という)には、エンジンのサイクルによって空気が間欠的に吸入されることで生ずる吸気の脈動に起因する計測誤差が含まれる。エンジン1の回転速度が低くなり、且つスロットルバルブ9の開度(以下、スロットル開度という)が大きくなるほど、前述の脈動が大きくなる。このため、エンジン1の回転速度が低くなり、且つスロットル開度が大きくなるほど、脈動による吸気量の算出誤差が大きくなる。また、アトキンソンサイクル(ミラーサイクル)動作を狙った吸気弁の遅閉じ動作を行う構成においては、シリンダに吸入された空気の一部が吸気側に押し出されて非常に大きな振幅の吸気の脈動を発生させる。このため、前述の構成においては、エアフロ―センサ11による吸気量の算出誤差が従来手法では補正できないレベルにまで大きくなる場合がある。
【0020】
一方、圧力センサ17による吸気圧の検出結果に基づいて吸気量(以下、吸気圧に基づく吸気量という)を算出することも可能である。しかしながら、吸気圧に基づく吸気量は、空気量と、EGRガス量と、バルブオーバーラップによる排気ガス戻り量とを区別できないため、バルブオーバーラップ量が大きい時に大きな誤差を生じる。本発明者らは、実験により、次のようなことを見出した。即ち、流量に基づく吸気量の誤差と、吸気圧に基づく吸気量の誤差との大小関係が、エンジンの運転状態に応じて逆転するのである。
【0021】
具体的には、バルブオーバーラップ量が大きい時には、吸気圧に基づく吸気量の誤差が、流量に基づく吸気量の誤差よりも大きくなる。これに対し、バルブオーバーラップが発生していないときに、脈動の振幅がある程度大きくなると、流量に基づく吸気量の誤差が、吸気圧に基づく吸気量の誤差よりも大きくなる。
【0022】
<ECU100の構成>
図2は、実施形態に係るECUと、車両に搭載されてECUに電気接続される各機器とを示す電気ブロック図である。制御装置たるECU100は、制御部たるCPU(Central Processing Unit)101、RAM(Random Access Memory)102、ROM(Read Only Memory)103等を備える。ECU100には、エアフローセンサ11、スロットルポジションセンサ20、エンジン回転数センサ21、吸気バルブ位置センサ22、排気バルブ位置センサ23、インジェクタ15等が電気接続される。
【0023】
スロットルポジションセンサ20は、スロットルバルブ9の位置を検出するセンサである。エンジン回転数センサ21は、エンジン1の回転速度を検出するセンサである。吸気バルブ位置センサ22は、吸気バルブ12の位置を検出するセンサである。排気バルブ位置センサ23は、排気バルブ13の位置を検出するセンサである。
【0024】
ECU100は、ROM103に記録されているプログラムに基づいて、燃焼室4への吸気量を算出し、算出結果に基づいてインジェクタ15を駆動して燃焼室への燃料の供給量を調整する燃料調整制御を実行する。
【0025】
図3は、ECU100によって実行される燃料調整制御の処理フローを示すフローチャートである。この処理フローにおいて、ECU100は、まず、流量に基づく吸気量を算出するステップ(S1)と、吸気圧に基づく吸気量を算出するステップ(S2)とを実行する。
【0026】
ECU100のROM103内には、予めの実験によって構築された仮想3次元モデルが記録されている。この仮想3次元モデルにおけるx軸は、スロットル開度を示す。仮想3次元モデルにおけるy軸は、エンジン回転速度を示す。仮想3次元モデルにおけるz軸は、吸気バルブ12の位置と、排気バルブ13の位置とに基づいて算出されるバルブオーバーラップ量を示す。仮想3次元モデルにおける各座標は、選択情報に関連付けられている。この選択情報は、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量とのうち、何れを選択すべきかを示す情報である。予めの実験により、各座量のそれぞれについて、流量に基づく吸気量の誤差と、吸気圧に基づく吸気量の誤差とのうち、何れが大きくなるのかが調査されている。流量に基づく吸気量の誤差を、吸気圧に基づく吸気量の誤差よりも大きくする座標には、吸気圧に基づく吸気量を選択することを示す選択情報が関連付けられる。吸気圧に基づく吸気量の誤差を、流量に基づく吸気量の誤差よりも大きくする座標には、流量に基づく吸気量を選択することを示す選択情報が関連付けられる。
【0027】
ECU100は、ステップS2で吸気圧に基づく吸気量を算出すると、次に、スロットルポジションセンサ20による検出結果に基づいてエンジン1の運転状態情報たるスロットル開度を算出するステップ(S3)を実行する。その後、ECU100は、吸気バルブ位置センサ22による検出結果と、排気バルブ位置センサ23による検出結果とに基づいて、エンジン1の運転状態情報たるバルブオーバーラップ量を算出するステップ(S4)を実行する。更に、ECU100は、エンジン回転数センサ21による検出結果に基づいて、エンジン1の運転状態情報たるエンジン回転速度を算出するステップ(S5)を実行する。
【0028】
ステップS5を終えたECU100は、次に、スロットル開度と、バルブオーバーラップ量と、エンジン回転速度とに基づいて、それら3つの組み合わせにおける仮想3次元モデルでの座標を特定するステップ(S6)を実行する。その後、ECU100は、特定した座標に関連付けられた選択情報について、流量に基づく吸気量を選択するという情報であるか否かを判定するステップ(S7)を実行する。このS7のステップにおいて、Yesという判定結果になった場合(S7:Y)には、ECU100は、S1のステップで算出しておいた、流量に基づく吸気量、に従ってインジェクタ15の駆動を制御するステップ(S8)を実行する。この実行により、燃焼室4への燃料の供給量が吸気量に応じた量に調整される。一方、S7のステップにおいて、Noという判定結果になった場合(S7:N)には、ECU100は、S2のステップで算出しておいた、吸気圧に基づく吸気量、に従ってインジェクタ15の駆動を制御するステップ(S9)を実行する。この実行により、燃焼室4への燃料の供給量が吸気量に応じた量に調整される。ステップS8、又はステップS9を実行したECU100は、ステップS1からの処理フローを再び実行する。
【0029】
なお、ステップS7において、座標に関連付けられた選択情報について、流量に基づく吸気量を選択するという情報であるか否かを判定することは、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量とのうち、何れの誤差が小さいのかを判定することに該当する。このため、ステップS7において、座標に関連付けられた選択情報について、流量に基づく吸気量を選択するという情報であるか否かを判定することは、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量との優劣を判定することに該当する。以下、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量とを、まとめて2つの吸気量と言う。
【0030】
エンジン1の運転状態と、その運転状態における2つの吸気量の優劣(どちらの誤差がより小さいのか)との関係については、予めの実験によって調査されるのが一般的である。実験による調査結果に基づいて、個々の運転状態(例えば上述した仮想3次元モデルの各座標)と、2つの吸気量のうち何れを用いるのかを示す情報(例えば座標に関連付けられた選択情報)とを関連付けたデータが構築される。よって、ECU100などの制御装置が次のような構成を備えていれば、その制御装置は、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量との優劣を判定していると言える。即ち、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量との何れか一方を選択するステップと、選択した方の吸気量に基づいてエンジンの運転を制御するステップとを実行する構成である。かかる構成においては、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量との何れか一方を選択するステップが、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量との優劣を判定するステップに該当する。
【0031】
また、後述する第1変形例のように、脈動の振幅などの運転状態を示す指標値を算出し、算出結果と閾値との比較に基づいて2つの吸気量のうちの何れを用いるのかを決定する構成の場合には、算出結果と閾値を比較することが優劣を判定することに該当する。
【0032】
また、後述する第2変形例のように、運転状態に基づいて選択した第1係数、第2係数の乗算によって2つの吸気量のそれぞれを補正、及び合算する構成の場合には、前記データに基づいて第1係数、第2係数を選択することが、優劣を判定することに該当する。
【0033】
エンジン1の運転状態として、スロットル開度、バルブオーバーラップ量、及びエンジン回転速度を取得する例について説明したが、他の運転状態を取得した結果に基づいて、2つの吸気量のうちの何れを用いるのかを決定してもよい。例えば、後述する第1変形例のように、脈動の振幅を運転状態として用いてもよい。2つの吸気量の優劣の判定のために参照される運転状態は、運転中のエンジン1における何らかの特性を示す数値であればよい。
【0034】
エアフローセンサ11による流量の検知結果と、圧力センサによる吸気圧の検知結果とをECU100に入力する例について説明したが、それらの検知結果をECU100に取得させる方法は前記例に限られない。例えば、エアフローセンサ11による流量の検知結果と、圧力センサによる吸気圧の検知結果とをECU100とは異なる装置に入力した後、その装置からECU100に取得させてもよい。
【0035】
流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量とのうち、流量に基づく吸気量を先に算出する例について説明したが、吸気圧に基づく吸気量を先に算出してもよい。また、スロットル開度、バルブオーバーラップ量、及びエンジン回転速度については、どのような順番でそれぞれを算出してもよい。また、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量とを算出してから、それら二つの吸気量の優劣を判定(S6及びS7)する例について説明したが、二つの吸気量の優劣を判定してから、優れている方の吸気量だけを算出してもよい。
【0036】
エンジン1の吸気量の算出結果に基づいて、燃焼室4への燃料の供給量を調整する例について説明したが、燃料の供給量とは異なるパラメータを調整してエンジン1の運転を制御する構成にも、本発明の適用が可能である。
【0037】
流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量との優劣を3次元モデルに基づいて判定する例について説明したが、4次元以上のモデル、又は2次元以下のモデルに基づいて優劣を判定してもよい。例えば、バルブオーバーラップ量がゼロよりも大きい場合に、流量に基づく吸気量を選択する一方で、バルブオーバーラップ量がゼロである場合に、吸気圧に基づく吸気量を選択してもよい。
【0038】
<作用>
実施形態に係るECU100においては、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量とのうち、より正確な方をより大きく反映させて、燃料の供給量の調整に用いる吸気量を決定する。
【0039】
実施形態に係るECU100においては、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量とのうち、より正確な方を、燃焼室4への燃料の供給量の調整に用いる吸気量として決定する。
【0040】
実施形態に係るECU100においては、吸気圧に基づく吸気量の誤差との関連の強いバルブオーバーラップ量に基づいて、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量との優劣を判定する。
【0041】
実施形態に係るECU100においては、バルブオーバーラップ量に加えて、エンジン回転速度、及びスロットル開度にも基づいて、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量との優劣を判定する。
【0042】
<効果>
実施形態に係るECU100によれば、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量とのうち、より正確な方をより大きく反映させて、燃料の供給量の調整に用いる吸気量を決定するので、脈動に起因する吸気量の算出誤差を従来よりも低減することができる。
【0043】
実施形態に係るECU100によれば、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量とのうち、より正確な方を、燃焼室4への燃料の供給量の調整に用いる吸気量として決定するので、他方も吸気量の決定に反映させる場合に比べて、吸気量の誤差を低減することができる。
【0044】
実施形態に係るECU100によれば、吸気圧に基づく吸気量の誤差との関連の強いバルブオーバーラップ量に基づいて、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量との優劣を正確に判定することができる。
【0045】
実施形態に係るECU100によれば、バルブオーバーラップ量に加えて、エンジン回転速度、及びスロットル開度も参照することで、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量との優劣をより正確に判定することができる。
【0046】
燃料調整制御をコンピュータに実行させるプログラムを、半導体メモリ、磁気ディスク、光ディスク等の機械読み取り可能な記録媒体に記憶させ、CPU等のコンピュータにその記録媒体からプログラムを読み取らせて実行させることができる。
【0047】
ECU100の一部又は全ては、例えば、マイコン、マイクロプロセッサユニット当で構成されていてもよく、又はファームウェア等の更新可能なもので構成されていてもよく、又はCPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0048】
以下、実施形態に係るECU100の構成の一部を他の構成に変形した各変形例に係るECU100について説明する。なお、以下に特筆しない限り、各変形例に係るECU100の構成は、実施形態と同様である。
【0049】
〔第1変形例〕
<構成>
図4は第1変形例に係るECU100によって実行される燃料調整制御の処理フローを示すフローチャートである。この処理フローにおいて、ECU100は、まず、流量に基づく吸気量を算出するステップ(S11)と、吸気圧に基づく吸気量を算出するステップ(S12)とを実行する。次に、ECU100は、エアフローセンサ11による検知結果の経時変化に基づいて、吸気管10内における空気の脈動の有無を判定するステップ(S13)を実行する。脈動が検出された場合(S13:Y)、ECU100は、脈動の振幅について、所定の閾値を超えるか否かを判定するステップ(S14)を実行する。脈動の振幅が閾値を超える場合(S14でY)、ECU100は、ステップS12で算出しておいた、吸気圧に基づく吸気量、に従ってインジェクタ15の駆動を制御するステップ(S15)を実行する。
【0050】
一方、S13のステップで脈動が検出されない場合(S13:N)、ECU100は、ステップS1で算出しておいた、流量に基づく吸気量、に従ってインジェクタ15の駆動を制御するステップ(S16)を実行する。また、脈動が検出され、且つ脈動の振幅が閾値を超えない場合(S14:N)にも、ECU100は、ステップS1で算出しておいた、流量に基づく吸気量、に従ってインジェクタ15の駆動を制御するステップ(S16)を実行する。ステップS15、又はステップS16を実行したECU100は、ステップS11からの処理フローを再び実行する。
【0051】
なお、脈動の振幅が閾値を超えた場合に吸気圧に基づく吸気量に従ってインジェクタ15の駆動を制御する代わりに、脈動の振幅が閾値以上になった場合に吸気圧に基づく吸気量に従ってインジェクタ15の駆動を制御するようにECU100を構成してもよい。
【0052】
<作用>
第1変形例に係るECU100においては、エンジン1の運転状態情報たる脈動の振幅を、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量との優劣の判定に利用する。
【0053】
<効果>
第1変形例に係るECU100によれば、脈動の振幅に基づいて、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量との優劣を判定することができる。
【0054】
なお、第1変形例に係るECU100と同様に、脈動の振幅に基づいて、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量との優劣を判定するように、後述の第2変形例に係るECU100を構成してもよい。
【0055】
〔第2変形例〕
<構成>
図5は、第2変形例に係るECU100によって実行される燃料調整制御の処理フローを示すフローチャートである。この処理フローにおけるステップS21~ステップS25は、実施形態に係るECU100によって実行される燃料調整制御の処理フローにおけるステップS1~ステップS5と同様であるので、説明を省略する。
【0056】
ECU100のROM103内には、仮想3次元モデルが記録されている。この仮想3次元モデルにおけるx軸は、スロットル開度を示す。仮想3次元モデルにおけるy軸は、エンジン回転速度を示す。仮想3次元モデルにおけるz軸は、バルブオーバーラップ量を示す。仮想3次元モデルにおける各座標は、第1係数、及び第2係数に関連付けられている。第1係数は、流量に基づく吸気量に乗じられる数値である。第2係数は、吸気圧に基づく吸気量に乗じられる数値である。各座標に関連付けられた第1係数、及び第2係数は、予めの実験に基づいて決定された数値である。流量に基づく吸気量の誤差が、吸気圧に基づく吸気量の誤差よりも大きくなる座標に関連付けられる第1係数は、同じ座標に関連付けられる第2係数よりも小さい数値である。吸気圧に基づく吸気量の誤差が、流量に基づく吸気量の誤差よりも大きくなる座標に関連付けられる第2係数は、同じ座標に関連づけられる第1係数よりも小さい数値である。同じ座標において、第1係数と第2係数との加算値は、1である。
【0057】
ステップS25を終えたECU100は、次に、スロットル開度と、バルブオーバーラップ量と、エンジン回転速度とに基づいて、それら3つの組み合わせにおける仮想3次元モデルでの座標を特定するステップ(S26)を実行する。その後、ECU100は、特定した座標に関連付けられた第1係数、及び第2係数と、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量とに基づいて、新たに吸気量を算出するステップ(S27)を実行する。このステップにおいては、流量に基づく吸気量に第1係数を乗算した結果と、吸気圧に基づく吸気量に第2係数を乗算した結果との加算によって吸気量が新たに求められる。
【0058】
ステップS27で新たに吸気量を算出したECU100は、その吸気量に基づいてインジェクタ15の駆動を制御するステップ(S28)を実行する。この実行により、燃焼室4への燃料の供給量が吸気量に応じた量に調整される。ステップS28を実行したECU100は、ステップS21からの処理フローを再び実行する。
【0059】
ステップS27において、流量に基づいて算出される吸気量に第1係数を乗算することは、流量に基づいて算出される吸気量に、エンジン1の運転状態情報に基づく重み付けをすることに該当する。また、ステップS27において、吸気圧に基づいて算出される吸気量に第2係数を乗算することは、吸気圧に基づいて算出される吸気量に、エンジン1の運転状態情報に基づく重み付けをすることに該当する。流量に基づいて算出される吸気量に第1係数を乗算した結果と、吸気圧に基づいて算出される吸気量に第2係数を乗算した結果とを合算することは、2つの吸気量を重み付け平均することに該当する。
【0060】
<作用>
第2変形例に係るECU100においては、エンジン1の運転状態に応じて、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量とのうち、より正確な方により大きな重み付けをする。
【0061】
<効果>
第2変形例に係るECU100によれば、流量に基づく吸気量と、吸気圧に基づく吸気量とのうち、より正確な方により大きな重み付けをすることで、それら吸気量のうち、より正確な方を他方よりも大きく、吸気量の算出結果に反映させることができる。
【0062】
以上、本発明の好ましい実施形態及び各変形例について説明したが、本発明は、これらの実施形態及び各変形例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、自動車などの車両に搭載されるECUなどに利用が可能である。
【符号の説明】
【0064】
1・・・エンジン、2・・・シリンダ、3・・・ピストン、4・・・燃焼室、5・・・コンロッド、6・・・クランク軸、7・・・吸気マニホールド、8・・・コレクタ、9・・・スロットルバルブ、10・・・吸気管、11・・・エアフローセンサ、12・・・吸気バルブ、13・・・排気バルブ、14・・・点火プラグ、15・・・インジェクタ、16・・・排気管、17・・・圧力センサ、20・・・スロットルポジションセンサ、21・・・エンジン回転数センサ、22・・・吸気バルブ位置センサ、23・・・排気バルブ位置センサ、100・・・ECU、101・・・CPU、102・・・RAM、103・・・ROM

図1
図2
図3
図4
図5