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特許7261907潤滑油添加剤としての低腐食性有機モリブデン化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】潤滑油添加剤としての低腐食性有機モリブデン化合物
(51)【国際特許分類】
   C07C 233/36 20060101AFI20230413BHJP
   C10M 133/16 20060101ALI20230413BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20230413BHJP
   C10N 30/16 20060101ALN20230413BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20230413BHJP
   C07F 11/00 20060101ALN20230413BHJP
【FI】
C07C233/36 CSP
C10M133/16
C10N10:12
C10N30:16
C10N30:06
C07F11/00 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021568535
(86)(22)【出願日】2020-04-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-20
(86)【国際出願番号】 US2020026348
(87)【国際公開番号】W WO2020236322
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】16/415,593
(32)【優先日】2019-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513077173
【氏名又は名称】ヴァンダービルト ケミカルズ、エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100166800
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 裕治
(74)【代理人】
【識別番号】100167438
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 淳司
(72)【発明者】
【氏名】ケ-シー、ブライアン、エム
(72)【発明者】
【氏名】ガットー、ヴィンセント、ジェイ
【審査官】土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-150177(JP,A)
【文献】西独国特許出願公告第01061966(DE,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07F 11/00
C10M 133/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式:
【化1】
[式中、R1は炭化水素鎖であり、R2は水素原子又は炭化水素鎖であり、n及びmは、それぞれ独立に1~5である]
により示される、モリブデン酸エステル。
【請求項2】
以下に示される化合物:
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]アルカンアミド
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]イソステアラミド
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]ココアミド
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]オレアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-アルキルオキシプロピル)アミノ]プロピル]アルカンアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-アルキルオキシプロピル)アミノ]プロピル]イソステアラミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-アルキルオキシプロピル)アミノ]プロピル]ココアミド;及び
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-アルキルオキシプロピル)アミノ]プロピル]オレアミド
の一つに由来する、請求項1に記載のモリブデン酸エステル。
【請求項3】
主成分量の潤滑ベース液体及び下記式:
【化1】
[式中、R1は炭化水素鎖であり、R2は水素原子又は炭化水素鎖であり、n及びmは、それぞれ独立に1~5である]
で示されるモリブデン酸エステルを含有する潤滑性組成物であって、
前記モリブデン酸エステルが、前記潤滑性組成物中にモリブデンを約50~5000ppm添加するのに十分な量で存在する、潤滑性組成物。
【請求項4】
前記モリブデン酸エステルが、モリブデンを約50~1000ppm添加するのに十分な量で存在する、請求項に記載の潤滑性組成物。
【請求項5】
前記モリブデン酸エステルが、以下に示される化合物:
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]アルカンアミド
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]イソステアラミド
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]ココアミド
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]オレアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-アルキルオキシプロピル)アミノ]プロピル]アルカンアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-アルキルオキシプロピル)アミノ]プロピル]イソステアラミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-アルキルオキシプロピル)アミノ]プロピル]ココアミド;及び
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-アルキルオキシプロピル)アミノ]プロピル]オレアミド
の一つに由来する、請求項に記載の潤滑性組成物。
【請求項6】
(a)カルボン酸又はエステルを、
(b)(i)2-アミノエチル-エタノールアミン、(ii)アルキルオキシプロピル-1,3-ジアミノプロパン、(iii)アルキルオキシエチル-1,3-ジアミノプロパン、及び(iv)アルキルオキシプロピル-1,2-ジアミノエタンのいずれか一つ、及び
(c)グリシドールと反応させ、
(d)続けてモリブデン源と反応させる
ことを含む、
下記式:
【化1】
[式中、R 1 は炭化水素鎖であり、R 2 は水素原子又は炭化水素鎖であり、n及びmは、それぞれ独立に1~5である]
により示される、モリブデン酸エステルの製造方法。
【請求項7】
前記モリブデン酸エステルが、以下に示される化合物:
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]アルカンアミド
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]イソステアラミド
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]ココアミド
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]オレアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-アルキルオキシプロピル)アミノ]プロピル]アルカンアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-アルキルオキシプロピル)アミノ]プロピル]イソステアラミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-アルキルオキシプロピル)アミノ]プロピル]ココアミド;及び
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-アルキルオキシプロピル)アミノ]プロピル]オレアミド
の一つに由来する、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低腐食性で、高性能な有機モリブデン化合物の開発に係るものであり、当該有機モリブデン化合物は潤滑油中の添加剤として用いられる。これらの化合物を含有する潤滑油は、摩擦低減、摩耗保護、ならびに銅及び鉛の腐食の観点、特に酸化的及び加水分解的安定性の観点において高性能で、より耐久性がある添加剤が必要とされるディーゼル・乗用車用エンジンオイル用途において向上された性能を示した。
【0002】
本発明に係る化合物のクラスは、以下の式:
【0003】
【化1】
【0004】
[式中、R1は炭化水素鎖であり、R2は水素原子又は炭化水素鎖である]により示され得る。R1基は、1~21個の炭素原子を含有する不飽和の、及び/又は飽和の、及び/又は分岐の炭化水素鎖からなる。R1基は、不飽和であるか、又は分岐していることが好ましい。R1基は、飽和であり、且つ分岐していることがさらに好ましい。R1基が、11~21個の炭素原子を含有する炭化水素鎖からなることも好ましい。R基は、水素原子であるか、又は1~20個の炭素原子を含有する、直鎖状の、環状の、又は分岐の炭化水素鎖であり得る。メチレンスペーサ基の数(n及びm)は、それぞれ独立に1~5である。好ましくは、メチレンスペーサ基の数(n及びm)は、それぞれ独立に2又は3である。
【0005】
好ましい有機モリブデン化合物は、N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-エチル]オレアミド又はN-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]イソステアラミドと、モリブデン源との反応により調製され、乗用車用モーターオイルや高負荷ディーゼルエンジンオイルの潤滑油の添加剤として0.05~5.00重量パーセントの範囲の添加割合が有効である。
【背景技術】
【0006】
先行技術の説明
GB796732は、アルファ-又はベータ-アルカンジオールとモリブデン源の反応生成物として有機モリブデン化合物を調製することを開示しており、また、これらの化合物の用途として主に鉱物油由来の潤滑油組成物中の腐食抑制剤及び酸化防止剤を開示している。発明に係る化合物のクラスは、GB796732に開示されるクラスとは化学的に全く異なる。さらに、GB796732は、開示された実施例に関し、摩擦性能及び/又は摩耗保護を向上させる観点における役割については予期していない。
【0007】
US20170044456は、銅及び鉛に関して低腐食性である潤滑性組成物を、有機モリブデンの使用を許す高負荷ディーゼル配合物用途に用いることを開示している。US20170044456に開示される潤滑性組成物は、硫黄を含有しない有機モリブデン、硫黄を含有する有機モリブデン、及び特定のトリアゾール系腐食抑制剤を組み合わせることを含む銅及び鉛の腐食に対する処方上の解決策である。ここに開示される本発明は、発明に係る実施例が比較対象の有機及び/又は有機金属の添加剤に比べて、銅及び鉛に対する攻撃性が内在的に低い添加剤を提示している点で大きく異なる。
【0008】
本発明のクラスの化合物を調製するために使用される配位子の例は、DE1061966及びJP3501297に含まれている。しかしながら、DE1061966及びJP3501297のいずれにも、これらの配位子と、モリブデンを含む任意の金属との間の後続する反応が開示されていない。さらに、不飽和の、及び分岐のN-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]アルキルアミドの例のいずれについてその調製は開示されておらず、本発明の有機モリブデン化合物のクラスがベースとしている、N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-アルコキシプロピル)アミノ]プロピル]アルキルアミド配位子についても開示されていない。さらに、DE1061966及びJP3501297のいずれも、発明に係るクラスの化合物を、摩擦調整又は摩耗保護のための添加剤として潤滑油に適用することを予期していない。
【0009】
DE1061966は、本発明の配位子に関係する2,3-ジヒドロキシ化合物の調製に関して中間体アルキルアミド、N-[2-[(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]-をα-クロロヒドリン又はエピクロロヒドリンと反応させることを開示している。この工程は、苛性塩基の使用を必要とする場合があり、ハロゲン化された廃棄物を生成する。ここに開示される発明では、中間体アルキルアミドアミンは、代わりにエタノール存在下でグリシドールと反応させられる。これらの反応は、完全に原子的に経済的であり、廃棄物を生成しないという利点がある。エタノールは、簡単な蒸留により反応系から回収でき、工程に再利用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】GB796732(A)
【文献】US20170044456(A)
【文献】DE1061966(B)
【文献】特許第3501297号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
グリセロールモノオレートなどの従来の有機摩擦調整剤は、エンジンオイルの添加剤として使用した場合、酸化や加水分解の両方の影響を受けやすい。結果として、これらの添加剤及びこれらの分解生成物は、侵食及び/又は腐食(例えば銅及び/又は鉛)に至り得る。ここに開示される発明では、従来の添加剤の摩擦低減効果を満たすか、それ以上の効果を発揮すると同時に、ASTM D6594「Standard Test Method for Evaluation of Corrosiveness of Diesel Engine Oil at 135℃(HTCBT)」で測定される銅及び鉛の腐食を大幅に改善する。さらに、有機モリブデン化合物は多機能な潤滑油添加剤であり、酸化防止性能、摩擦低減性能、摩耗保護性能が向上される。
【0012】
以下に規定される摩擦性能試験、摩耗保護試験、及び腐食試験の結果に基づけば、発明に係る実施例は、新規な添加剤のクラスであることが実証され、また、本発明の実施例は、従来の添加剤の摩擦性能および耐摩耗性を満たすか、それを上回ることができる新しい添加剤のクラスであることが実証された一方で、観察された銅及び鉛の腐食の問題の深刻さを大幅に軽減することができる。このような発明に係る化合物のクラスは、酸化的及び加水分解的安定性の観点から、高性能で耐久性の高い摩擦調整剤や摩耗防止剤が必要とされる乗用車用モーターオイルや高負荷ディーゼルエンジンオイルの用途に特に有用である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明に係る化合物のクラスは、以下の一般的な反応スキームにより調製可能である。
【0014】
【化2】
【0015】
第一のステップにおいて、カルボン酸、カルボン酸エステル、又はトリグリセリドのようなカルボニル含有化合物を、1級/2級アミン含有化合物の混合物と反応させて、2級アミドを得る。第二のステップにおいて、2級アミド中間体をさらにグリシドールと反応させて2,3-ジヒドロキシプロピル付加物を提供する。第二のステップは、メタノール又はエタノールのようなプロトン性溶媒の存在下で実施し、反応効率を向上させてもよい。第三のステップにおいて、グリシドール付加物を、水の存在下において三酸化モリブデンのようなモリブデン源と反応させる。モリブデン錯体を含有する反応混合物は、プロセス油で希釈することによって最終有機モリブデン生成物とすることができる。
【0016】
上述のように、本発明の化合物のクラスは、水の存在下で行われる有機配位子とモリブデン源の反応生成物として表現することもできる。有機モリブデンを含む生成物は、プロセス油で希釈することができる。有機配位子、モリブデン源、及びプロセス油の相対的な比率は、最終的な有機モリブデン生成物が0.5~15.0重量%のモリブデンを含むように変化させることができる。より好ましくは、最終的な有機モリブデン生成物は、2.0~10.0重量%のモリブデンを含有する。有機配位子は、カルボン酸又はエステル又はトリグリセリド、1級/2級アミン含有化合物の混合物、及びグリシドールの反応生成物として記述することができる。本発明の有機モリブデン化合物の調製に使用される有機配位子の非限定的な例は、以下のものを含む。
【0017】
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]ラウラミド
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]ミリストアミド
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]パルミタミド
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]ステアラミド
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]イソステアラミド
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]ミリストアミド
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]パルミトオレアミド
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]オレアミド
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]リノレアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-イソトリデシルオキシプロピル)アミノ]プロピル]ラウラミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-イソトリデシルオキシプロピル)アミノ]プロピル]ミリストアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-イソトリデシルオキシプロピル)アミノ]プロピル]パルミタミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-イソトリデシルオキシプロピル)アミノ]プロピル]ステアラミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-イソトリデシルオキシプロピル)アミノ]プロピル]イソステアラミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-イソトリデシルオキシプロピル)アミノ]プロピル]ミリストアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-イソトリデシルオキシプロピル)アミノ]プロピル]パルミトオレアミド
【0018】
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-イソトリデシルオキシプロピル)アミノ]プロピル]オレアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-イソトリデシルオキシプロピル)アミノ]プロピル]リノレアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-ブチルオキシプロピル)アミノ]プロピル]ラウラミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-ブチルオキシプロピル)アミノ]プロピル]ミリストアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-ブチルオキシプロピル)アミノ]プロピル]パルミタミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-ブチルオキシプロピル)アミノ]プロピル]ステアラミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-ブチルオキシプロピル)アミノ]プロピル]イソステアラミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-ブチルオキシプロピル)アミノ]プロピル]ミリストアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-ブチルオキシプロピル)アミノ]プロピル]パルミトオレアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-ブチルオキシプロピル)アミノ]プロピル]オレアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-ブチルオキシプロピル)アミノ]プロピル]リノレアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-オクチルオキシプロピル)アミノ]プロピル]ラウラミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-オクチルオキシプロピル)アミノ]プロピル]ミリストアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-オクチルオキシプロピル)アミノ]プロピル]パルミタミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-オクチルオキシプロピル)アミノ]プロピル]ステアラミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-オクチルオキシプロピル)アミノ]プロピル]イソステアラミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-オクチルオキシプロピル)アミノ]プロピル]ミリストアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-オクチルオキシプロピル)アミノ]プロピル]パルミトオレアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-オクチルオキシプロピル)アミノ]プロピル]オレアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-オクチルオキシプロピル)アミノ]プロピル]リノレアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-デシルオキシプロピル)アミノ]プロピル]ラウラミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-デシルオキシプロピル)アミノ]プロピル]ミリストアミド
【0019】
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-デシルオキシプロピル)アミノ]プロピル]パルミタミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-デシルオキシプロピル)アミノ]プロピル]ステアラミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-デシルオキシプロピル)アミノ]プロピル]イソステアラミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-デシルオキシプロピル)アミノ]プロピル]ミリストアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-デシルオキシプロピル)アミノ]プロピル]パルミトオレアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-デシルオキシプロピル)アミノ]プロピル]オレアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-デシルオキシプロピル)アミノ]プロピル]リノレアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-デシルオキシプロピル)アミノ]エチル]オレアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-デシルオキシエチル)アミノ]プロピル]オレアミド
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-ヒドロキシプロピル)アミノ]エチル]オレアミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]プロピル]オレアミド
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-デシルオキシプロピル)アミノ]エチル]イソステアラミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-デシルオキシエチル)アミノ]プロピル]イソステアラミド
N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-ヒドロキシプロピル)アミノ]エチル]イソステアラミド
N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]プロピル]イソステアラミド
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
以下の3ステップの手順は、本発明に記載されているクラスの化合物を調製するための一般的で代表的な例である。温度プローブ、メカニカルスターラー、コンデンサー付き蒸留トラップを備えた3口フラスコに、664mmolのオレイン酸を加える。フラスコに664mmolの2-アミノエチル-エタノールアミンを加え、反応系を窒素雰囲気下とする。反応系を150℃に加熱し、生成する水を蒸留トラップで回収する。約6時間加熱した後、反応系を冷却し、アミド生成物を精製することなく次のステップで直接使用する。
【0021】
前のステップの生成物271mmolを、温度プローブ及びメカニカルスターラーを備えた3口フラスコに加える。フラスコに、275mLのエタノールを加え、還流冷却器を取り付ける。70mLのエタノール中の258mmolのグリシドールからなる溶液を調製し、還流冷却器の上部に取り付けた窒素導入口付きの添加漏斗に移す。反応系を、窒素雰囲気下に置き、還流まで加熱する(約80℃)。グリシドールの溶液を、30分かけてフラスコに滴下する。添加が完了した後、反応系をさらに6時間還流させる。反応系を、ロータリーエバポレーターにより全てのエタノールが除かれるまで濃縮して、2,3-ジヒドロキシプロピル付加物を得る。
【0022】
前のステップの生成物を、温度プローブ及びメカニカルスターラーを備えた3口フラスコに加える。水を加え、反応系を窒素雰囲気下に置き、100℃に加熱する。三酸化モリブデンを添加し、全てのモリブデンが消費されるまで加熱する。少量の消泡剤を加え、真空下で反応系を135℃に加熱して水を除去する。次に、プロセス油を反応混合物に加え、軽く撹拌した後に高温で珪藻土のパッドを通してろ過し、最終的な有機モリブデン生成物を得る。
【0023】
上述の反応を実施するに際し、一般的な反応スキームIに記載されているあらゆる出発原料を使用できる。第一のステップにおいて、カルボン酸、カルボン酸エステル、又はトリグリセリドのようなカルボニル含有化合物が用いられる。カルボン酸において、1~21個の炭素原子からなるR1基は、直鎖状の、環状の、又は分岐した飽和の炭化水素、あるいは不飽和の、及び/又は多価不飽和の炭化水素、あるいはこれらの混合物であってもよい。カルボン酸エステルにおいて、1~21個の炭素原子からなるR1基は、直鎖状の、環状の、又は分岐した飽和の炭化水素、あるいは不飽和の、及び/又は多価不飽和の炭化水素、あるいはこれらの混合物であってもよい。トリグリセリドにおいて、1~21個の炭素原子からなるR1基は、直鎖状の、環状の、又は分岐した飽和の炭化水素、あるいは不飽和の、及び/又は多価不飽和の炭化水素、あるいはこれらの混合物であってもよい。カルボン酸又はカルボン酸エステルと1級アミン含有化合物との反応において、反応量論比は、典型的には1.0モルのカルボン酸又はカルボン酸エステルに対して1.0モルの1級アミン含有化合物であり、所望の2級アミドを生成する。僅かに過剰なカルボン酸又はカルボン酸エステル、あるいは1級アミン含有化合物を用いることが可能であるが、一般的には必要ではなく、また好ましくもない。好ましいカルボン酸エステルは、脂肪酸メチルエステル(FAME’s)及び脂肪酸エチルエステルであり、これらはバイオディーゼルとも称される。バイオディーゼル源は、以下に記載される脂肪油である。
【0024】
トリグリセリドと1級アミン含有化合物との反応において、反応量論比は、1.0モルのトリグリセリドに対して1.0~3.0モルの1級アミン含有化合物の範囲で変化させることができ、所望の2級アミド及び/又は所望の2級アミドと対応するモノ-及びジアルキルグリセラートとの混合物を生成する。上述のカルボニル含有化合物の例における炭素鎖は、ヤシ油、水素添加ヤシ油、魚油、水素添加魚油、獣脂、水素添加獣脂、コーン油、菜種油、綿実油、オリーブ油、パーム油、ピーナッツ油、サフラワー油、ゴマ油、ヒマワリ油、キャノーラ油、大豆油などの脂肪油に由来する。1級/2級アミン含有化合物の混合物において、R2基は水素原子であるか又は1~20個の炭素原子を含有する、直鎖状の、環状の、又は分岐の炭化水素鎖であり、メチレンスペーサ基の数(n及びm)は、それぞれ独立に1~5の範囲で変化し得る。最終ステップにおいて、モリブデン源は、三酸化モリブデン、モリブデン酸、又はモリブデン酸塩であり得る(例えば、モリブデン酸アンモニウム、ヘプタモリブデン酸アンモニウム四水和物、又はモリブデン酸ナトリウム)。モリブデン源は、三酸化モリブデンであることが好ましい。
【実施例
【0025】
以下の実施例は、上述の代表的な手順により調製された。
【0026】
実験例1(Ex.1)
有機配位子、N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-エチル]オレアミドの調製手順は、代表的な手順の最初の二つのステップと同一であった。最終ステップにおいて、有機配位子79mmolを水54mmolと三酸化モリブデン9mmolと代表的な手順に記載されるように反応させた。プロセス油(3.1g)を添加して、モリブデンを2.2%含有する有機モリブデン生成物を得た。
【0027】
実験例2(Ex.2)
有機配位子、N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-エチル]オレアミドの調製手順は、代表的な手順の最初の二つのステップと同一であった。最終ステップにおいて、有機配位子79mmolを、105℃において水27mmol及び三酸化モリブデン18mmolと代表的な手順に記載されるように反応させた。プロセス油(3.1g)を添加して、モリブデンを4.2%含有する有機モリブデン生成物を得た。
【0028】
実験例3(Ex.3)
有機配位子、N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-エチル]オレアミドの調製手順は、代表的な手順の最初の二つのステップと同一であった。最終ステップにおいて、有機配位子79mmolを、105℃において水27mmol及び三酸化モリブデン27mmolと代表的な手順に記載されるように反応させた。プロセス油(3.1g)を添加して、モリブデンを6.1%含有する有機モリブデン生成物を得た。
【0029】
実験例4(Ex.4)
有機配位子、N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-エチル]オレアミドの調製手順は、代表的な手順の最初の二つのステップと同一であった。最終ステップにおいて、有機配位子79mmolを、110℃において水13mmol及び三酸化モリブデン36mmolと代表的な手順に記載されるように反応させた。Ex.5は、珪藻土のパッドを通してろ過しなかった。プロセス油(3.1g)を添加して、モリブデンを8.2%含有する有機モリブデン生成物を得た。この材料は非常に粘度が高く、タール状の材料であったため、以降の性能評価は実施しなかった。
【0030】
実験例5(Ex.5)
有機配位子、N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]オレアミドの調製手順は、代表的な手順の最初の二つのステップと同一であった。最終ステップにおいて、有機配位子68mmolを、110℃において水12mmol及び三酸化モリブデン39mmolと代表的な手順に記載されるように反応させた。Ex.6は、珪藻土のパッドを通してろ過しなかった。プロセス油(2.6g)を添加して、モリブデンを9.8%含有する有機モリブデン生成物を得た。この材料は非常に粘度が高く、タール状の材料であったため、以降の性能評価は実施しなかった。
【0031】
実験例6(Ex.6)
有機配位子、N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-イソトリデシルオキシプロピル)アミノ]プロピル]オレアミドの調製手順は、2-アミノエチルエタノールアミンの代わりにイソトリデシルオキシプロピル-1,3-ジアミノプロパンを用いた点以外は代表的な手順の最初の二つのステップと同一であった。最終ステップにおいて、有機配位子52mmolを水54mmolと三酸化モリブデン9mmolと代表的な手順に記載されるように反応させた。プロセス油(3.1g)を添加して、モリブデンを2.0%含有する有機モリブデン生成物を得た。
【0032】
実験例7(Ex.7)
有機配位子、N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]ココアミドの調製手順は、オレイン酸の代わりにヤシ油メチルエステルを用い、メタノールを蒸留トラップ中に回収した点以外は代表的な手順の最初の二つのステップと同一であった。最終ステップにおいて、有機配位子94mmolを水54mmolと三酸化モリブデン9mmolと代表的な手順に記載されるように反応させた。プロセス油(3.1g)を添加して、モリブデンを2.2%含有する有機モリブデン生成物を得た。
【0033】
実験例8(Ex.8)
有機配位子、N-[3-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(3-イソトリデシルオキシ-プロピル)アミノ]プロピル]ココアミドの調製手順は、オレイン酸の代わりにヤシ油メチルエステルを用い、2-アミノエチルエタノールアミンの代わりにイソトリデシルオキシプロピル-1,3-ジアミノプロパンを用い、メタノールを蒸留トラップ中に回収した点以外は代表的な手順の最初の二つのステップと同一であった。最終ステップにおいて、有機配位子59mmolを水54mmolと三酸化モリブデン9mmolと代表的な手順に記載されるように反応させた。プロセス油(3.1g)を添加して、モリブデンを2.2%含有する有機モリブデン生成物を得た。
【0034】
実験例9(Ex.9)
有機配位子、N-[2-[(2,3-ジヒドロキシプロピル)(2-ヒドロキシエチル)-アミノ]エチル]イソステアラミドの調製手順は、オレイン酸の代わりにイソステアリン酸を用いた点以外は代表的な手順の最初の二つのステップと同一であった。最終ステップにおいて、有機配位子76mmolを、105℃において水27mmol及び三酸化モリブデン27mmolと代表的な手順に記載されるように反応させた。プロセス油(3.1g)を添加して、モリブデンを6.3%含有する有機モリブデン生成物を得た。
【0035】
以下の化合物は、本明細書に開示された発明に対する比較例として含まれる。
【0036】
比較実験例1(CEx.1)
グリセロールモノオレート(Afton Chemical社のHiTEC(登録商標))
【0037】
比較実験例2(CEx.2)
モリブデン2.3%を含有する比較例の有機モリブデン化合物が、US4889647に開示されるように調製された。
【0038】
発明に係る分子のクラスの個々の化合物は、摩擦低減及び/又は追加の摩耗保護用の潤滑油中の添加剤として、全潤滑性組成物の一部として0.01~5.00wt%、好ましくは約0.08~3.00%、さらに好ましくは約0.08~2.00%、さらにより好ましくは約0.10~1.00%の添加割合で使用でき、又は、添加剤に含まれるモリブデンの量に基づいて、約50ppm~5000ppm、好ましくは約50~1000ppm、さらの好ましくは約60~900ppm潤滑油に添加される。さらに、これらの化合物は、例えば分散剤、洗浄剤、粘度調整剤、酸化防止剤、その他の摩擦調整剤、摩耗防止剤、腐食抑制剤、防錆剤、脂肪酸の塩(石鹸)、及び極圧添加剤のような他の添加剤と組み合わせて使用することもできる。
【0039】
使用できる分散剤には、ポリイソブチレンモノ-スクシンイミド分散剤、ポリイソブチレンジ-スクシンイミド分散剤、ポリプロピレンモノ-スクシンイミド分散剤、ポリプロピレンジ-スクシンイミド分散剤、エチレン/プロピレンコポリマーモノ-スクシンイミド分散剤、エチレン/プロピレンコポリマージ-スクシンイミド分散剤、マンニッヒ分散剤、分散剤・酸化防止剤・オレフィン共重合体、低分子量エチレン・プロピレン・スクシンイミド分散剤、カルボキシル分散剤、アミン分散剤、ホウ素分散剤、モリブデン含有分散剤が含まれる。
【0040】
使用できる洗浄剤には、中性スルホン酸カルシウム洗浄剤、中性スルホン酸マグネシウム洗浄剤、オーバーベーススルホン酸カルシウム洗浄剤、オーバーベーススルホン酸マグネシウム洗浄剤、中性フェネートカルシウム洗浄剤、中性フェネートマグネシウム洗浄剤、オーバーベースフェネートカルシウム洗浄剤、オーバーベースフェネートマグネシウム洗浄剤、中性サリチル酸カルシウム洗浄剤、中性サリチル酸マグネシウム洗浄剤、オーバーベースサリチル酸カルシウム洗浄剤、オーバーベースサリチル酸マグネシウム洗浄剤、スルホン酸ナトリウム洗浄剤、スルホン酸リチウム洗浄剤が含まれる。
【0041】
任意のタイプの高分子粘度指数改質剤が使用できる。高分子粘度指数改質剤の例としては、オレフィンコポリマー(ОCP)、ポリアルキルメタクリレート(PAMA)、ポリイソブチレン(PIB)、スチレンブロックポリマー(スチレン・イソプレン、スチレン・ブタジエンなど)、エチレン・α-オレフィンコポリマーなどをベースにしたポリマーが挙げられる。
【0042】
追加のモリブデンベースの摩擦調整剤は、本発明のクラスの化合物の全体的な性能を補完又は強化するために使用することができる。使用可能な代替摩擦調整剤の例には、単核モリブデンジチオカルバメート、二核モリブデンジチオカルバメート、三核モリブデンジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート、硫黄及びモリブデン含有化合物、モリブデンホスホロジチオエート、硫化オキシモリブデンジチオホスフェート、テトラアルキルアンモニウムチオモリブデート、モリブデンキサンテート、モリブデンチオキサンテート、イミダゾリウムオキシチオモリブデート、4級アンモニウムオキシチオモリブデートが含まれる。モリブデンベースの摩擦調整剤の典型的な添加割合は、完成した潤滑油の配合剤に対してモリブデンが50ppm~800ppmの範囲で添加される。
【0043】
脂肪油由来のグリセロールモノオレート及び有機摩擦調整剤、ならびにジエタノールアミンのような添加剤は存在しないことが好ましい。なぜなら、後述するように、これらの種類の有機摩擦調整剤は、高温腐食ベンチテスト(HTCBT、ASTM D6594)で判定されるように、銅や鉛に対して高い腐食性を示すからである。
【0044】
使用可能な好ましい耐摩耗剤には、第一級及び/又は第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)、トリフェニルホスホロチオエート、ジアルキルリン酸アミン塩、モノアルキルリン酸アミン塩、ジアルキルジチオリン酸スクシナート、ジチオリン酸エステル又はカルボン酸、トリアルキルボレートエステル、脂肪酸誘導体のボレートエステル、メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)が含まれる。
【0045】
使用可能な好ましい酸化防止剤には、ジノニルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミン、ジオクチルジフェニルアミン、モノオクチルジフェニルアミン、ブチルオクチルジフェニルアミン、モノブチルジフェニルアミン、ジブチルジフェニルアミン、ノニル化フェニル-α-ナフチルアミン、オクチル化フェニル-α-ナフチルアミン、ドデシル化フェニル-α-ナフチルアミン、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、ブチル化ヒドロキシトルエン、4,4-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、オクタデシル-3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネート、イソトリデシル-3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネート、2-エチルヘキシル-3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネート、イソオクチル-3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が含まれる。
【0046】
使用可能な好ましい腐食及び錆防止剤には、エトキシル化フェノール、アルケニルコハク酸、ポリアルキレングリコール、ベンゾトリアゾールの誘導体、トルトリアゾールの誘導体、トリアゾールの誘導体、ジメルカプトチアジアゾールの誘導体、4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾールの脂肪酸誘導体、中性カルシウムジノニルナフタレンスルホン酸塩、中性亜鉛ジノニルナフタレンスルホン酸塩、中性アルカリ土類スルホン酸塩が含まれる。
【0047】
使用可能な好ましい極圧添加剤には、硫化イソブチレン、硫化α-オレフィン、脂肪族アミンリン酸塩、芳香族アミンリン酸塩、ジメルカプトチアジアゾール誘導体、亜鉛ジアルキルジチオカルバメート、ジアルキルアンモニウムジアルキルジチオカルバメート、アンチモンジアルキルジチオカルバメートが含まれる。
【0048】
上述の全ての添加剤の添加量は、用途、添加剤の溶解性、ベース液の種類、及び完成した溶液の要求性能に応じて大きく変化し得る。典型的な添加量は、開発される潤滑油の種類に応じて通常0.05wt%~10.00wt%の間で変化し得る。ベースとなる液体には、APIのベースストック分類であるグループI、グループII、グループIII、グループIV、グループVに該当するあらゆる液体を含む、石油系又は合成のストックが含まれる。合成の液体には、ポリ-α-オレフィン、ポリオール、エステル、バイオベースの潤滑油、及びこれらの任意の組み合わせが含まれる。潤滑性ベースオイル又は液体は、潤滑性組成物全体の少なくとも80%存在する。
【0049】
本発明の添加剤を使用する開発により完成される潤滑油の種類としては、ガソリンエンジンオイル、高負荷ディーゼルエンジンオイル、天然ガスエンジンオイル、中速ディーゼル(鉄道・船舶)エンジンオイル、オフロードエンジンオイル、2ストローク及び4ストロークモーターサイクルエンジンオイル、ハイブリッド車エンジンオイル、トラクターオイル、自動車用レーシングオイル、油圧作動油、オートマチック及びマニュアルトランスミッション用液体、工業用及びエンジン用ギアオイル、グリスが含まれる。
【0050】
本発明に係る実施例及び比較例の性能評価の結果を実験例10~13に記載する。実験例10~12では、SAE 0W-20の乗用車用モーターオイル(0W-20 PCMO)に、表1~6に示す添加割合で本発明にかかる実施例及び比較例を配合した。このオイルは、有機又は有機金属の摩擦調整剤(FM)を含まない点を除いて完全に配合されていた。 実験例13では、本発明にかかる実施例及び比較例を、表7に示す添加割合で、市販のCK-4相当のSAE 15W-40高負荷ディーゼルエンジンオイル(15W-40 HDDEO)にブレンドした。
【0051】
実験例10
SRVによるトライボロジー性能試験
ASTM D5707(Standard Test Method for Measuring Friction and Wear Properties of Lubricating Grease Using a High-Frequency, Linear-Oscillation (SRV) Test Machine)に記載されている試験方法に従って、表1に示す性能データを作成した。本発明に係る実施例はいずれも、有機又は有機金属摩擦調整剤を含まない0W-20 PCMO基準オイルと比較して、摩耗保護及び摩擦性能が向上していることが結果により明確に示された。さらに、発明に係る4つの実施例はすべて、従来の有機系摩擦調整剤であるCEx.1の摩擦性能を満たすか、それを上回るものであり、発明に係る実施例の摩耗量がCEx.1と比較して9~27%少ないことからも理解されるように,より優れた摩耗保護性能を備えている。さらに、発明に係る実施例のEx.1及びEx.7は、同じ量のモリブデンを添加する添加割合であるCEx.2よりも平均して低い摩擦を与える。
【0052】
【表1】
【0053】
実験例11
四球試験によるトライボロジー性能試験
ASTM D4172 B(Standard Test Method for Wear Preventive Characteristics of Lubricating Fluid (Four-Ball Method))に記載されている試験方法に従って、表2に示す性能データを作成した。四球試験法の試験結果は、発明に係る4つの実施例はいずれも、摩擦調整剤を含まない0W-20 PCMO基準オイルと比較して、平均摩擦係数が良好に低減していることを示している。さらに、発明に係るすべての実施例は、摩耗痕の直径で示される0W-20 PCMO基準オイルの摩耗保護性能を満たすか、又は大幅に改善した。この試験方法により、発明に係るEx.8は、両方の比較例と同等の摩擦および摩耗性能を提供することが理解される。
【0054】
【表2】
【0055】
実験例12
小型牽引機によるトライボロジー性能試験
小型牽引機(MTM)を使用して、「ボールオンディスク」構成により境界潤滑領域及び混合潤滑領域における潤滑油の摩擦特性を評価した(ストリベック曲線)。MTMは、回転する52100スチールボールを、潤滑油に浸された独立して回転する52100スチールディスクに押し付けることで構成されている。ボールとディスクを駆動するシャフトの回転速度を個別に制御して動作条件を設定することにより、転がり速度とスライド/ロール比の特定の組み合わせを得た。また、接触力とオイルバスの温度を制御することで動作条件を設定した。小型牽引機(MTM)により、表3~6に記載されている摩擦性能データを得るために使用した試験方法のパラメータは以下のとおりである。35Nの荷重(~1GPa)、スライドとロールの比率50%、3000mm/s~10mm/sの速度、52100スチール。各配合について、40℃、60℃、80℃、100℃、120℃、140℃において3本のストリベック曲線を作成した。各温度において、3回の実施による平均値を得た。
【0056】
表3のデータは、境界潤滑領域における各オイルの摩擦係数を示している。データから、本発明に係る4つの実施例はいずれも、有機又は有機金属摩擦調整剤を含まない0W-20 PCMO基準オイルと比較して、100℃以上の温度で改善された境界潤滑を与えることが分かる。特に、本発明に係るEx.1は、80℃という低い温度で境界潤滑領域の改善を提供する。また、本発明に係るEx.1は、100℃以上の温度では、比較例の摩擦性能に匹敵するか、わずかに改善されている。表4は、各温度におけるオイルについて得られたストリベック係数の結果を示している。100℃以上の温度では、本発明に係るすべての実施例が、0W-20 PCMO基準オイルと比較して、摩擦性能が有意に改善された。境界潤滑領域での摩擦データと同様に、本発明に係るEx.1を含むオイルは、100~140℃の温度で評価した他のすべての摩擦調整剤添加剤よりも有意に低いストリベック係数を示し、その性能は80℃におけるCEx.2に次ぐものであった。これらの結果は,本発明に係るEx.1が境界潤滑領域だけでなく,混合領域や弾性流体領域においても摩擦性能を向上させることを示している。
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
表5のデータは、本発明に係るEx.3又はEx.9のいずれかを含むオイルの境界潤滑領域の摩擦係数を示している。この研究では、添加剤の添加割合を変化させて、完成した液体に60~900ppmのモリブデンを供給した。データから、本発明に係る実施例の両方が、有機又は有機金属摩擦調整剤を含まない0W-20 PCMO基準オイルと比較して、80℃以上の温度で改善された境界潤滑を達成できることが理解される。本発明に係る実施例の両方において、最も低い添加割合(60ppmのMo)においてさえも、境界摩擦係数のわずかな改善が見られた。モリブデンの添加割合が200~600ppmの間になると、境界摩擦の大幅な減少が得られた。本発明に係るEx.3を含む配合物は、特に最も高い温度及び添加割合において卓越した性能向上を示した。例えば,750~900ppmのモリブデンを含む配合物は,140℃の作動温度において,摩擦調整剤を含まない基準オイルよりも境界摩擦係数が約50%低かった。表6は、各温度と添加割合のオイルで得られたストリベック係数の結果を示している。ここでも、本発明に係る実施例のいずれかを任意の添加割合で含むすべての配合物は、摩擦調整剤を含まない0W-20基準オイルと比較して、80℃以上の温度で摩擦が低くなることが示された。特に、本発明に係るEx.3では、温度が60℃以上になると、任意の添加割合において一貫してストリベック係数が低くなった。境界摩擦係数と同様に、450ppm以上のモリブデンを含む配合物(全体的な添加割合は0.74wt%)では、ストリベック係数が低減されたことからも理解できるように、摩擦の大幅な改善が見られた。さらに、この全体的な添加割合は、比較用の有機摩擦調整剤であるCEx.1の添加割合とほぼ同等である(表4の0.80wt%のCEx.1の結果を参照)。Ex.3又はEx.9の450ppmのMoを含む配合物の両方は、評価した任意の温度においてCEx.1を上回った。さらに、モリブデンの添加割合を増加させると、さらなる改善が見られた。特に120~140℃において、本発明に係るEx.3により750ppmのMoを含む配合物は、有機又は有機金属摩擦調整剤のいずれも含まない基準オイルよりもストリベック係数が約55%低かった。表5および6のデータは、本発明に係る実施例が、広い範囲の添加割合及び温度において、また境界潤滑領域及び混合潤滑領域の両方において、効果的な摩擦調整剤であることを再び示している。
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
実験例13
高温腐食ベンチテスト(HTCBT)による銅及び鉛の腐食試験
ASTM D6594(Standard Test Method for Evaluation of Corrosiveness of Diesel Engine Oil at 135 °C)に記載された試験方法に従い、表7に示す銅及び鉛の腐食データを作成した。API CK-4カテゴリー及びこれと同様のオイルについては、HTCBTに合格するための基準は、銅が最大20ppm、鉛が最大120ppm、銅のレーティングが最大で3である。表7に示されたデータから、15W-40 HDDEOに有機摩擦調整剤としてCEx.1を配合すると、銅及び鉛の腐食の両方の腐食が有意な量で発生することが明らかになった。純粋なエステル系添加剤であるCEx.1を含む配合物は、銅の腐食については合格には不十分な性能であり、鉛の腐食については合格には大幅に性能が不十分であった。これに対して、CEx.2は、アミド-及びエステル-系の化合物両方の混合物からなる有機成分を有する有機モリブデン添加剤である。CEx.2では、モリブデンの添加割合が低くても、銅の腐食に対しては合格となり得る性能であった。より高い添加割合では、CEx.2はCEx.1と比較して同等の総添加剤量を提供する。CEx.2は依然として銅及び鉛の腐食の両方において合格には大幅に性能が不十分であったが、鉛について観測された値は60%以上減少していた。本発明に係る実施例は、有機成分が純粋にアミド系配位子で構成された有機モリブデン添加剤である。本発明に係るEx.1をEx.2と比較すると、Ex.1は、銅及び鉛の腐食の両方が著しく減少していることが理解される。Ex.1は、銅については低い添加割合と高い添加割合の両方においてHTCBTに合格し得る性能を示し、鉛については低い添加割合において合格し得る性能を示した。両方の添加割合において、本発明に係るEx.1はCEx.2と比較して鉛の腐食を約67%減少させた。本発明に係るEx.2は、Ex.1と比較して添加剤中のモリブデン含有量が2倍増加している。本発明に係るEx.2のHTCBTの結果は、両方の添加割合において銅及び鉛に関し合格し得る性能を堅実に示した。これらの改善は、添加剤中のモリブデン含有量がEx.1と比較して3倍に増加した本発明に係るEx.3でさらに拡張された。この場合も、HTCBTの結果は、銅及び鉛の腐食の両方について値が大幅に減少していることを示している。モリブデンの添加割合が高い場合、Ex.3による鉛についての結果は、CEx.2よりも90%以上低く、CEx.1よりも96%以上低い。最後に、本発明に係るEx.9は、完全に飽和したアミド系の有機配位子を含む有機モリブデン化合物を表している。本発明に係るEx.9のHTCBTの結果は、基準オイルと比較した場合に同等の銅の値及びレーティングによって証明されるように、この添加剤が銅の腐食に全く寄与しないことを示している。さらに,Ex.9を含む配合物は,両方の添加割合において鉛の値が非常にわずかに増加するだけであった。この結果は、摩擦・摩耗性能の観点から望ましい場合には、Ex.9、及びより少ない程度においてEx.2及び3を、より高い添加割合で使用して、より多くのモリブデンを添加できることを示している。
【0063】
【表7】
【0064】
摩擦性能、摩耗保護、及び腐食試験の結果から、本発明に係る実施例は、従来の添加剤の摩擦性能および耐摩耗性を満たすか、それを上回ることができる新しいクラスの添加剤であると同時に、観察された銅及び鉛の腐食の深刻さを大幅に軽減することができることが示される。