(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】複合半透膜
(51)【国際特許分類】
B01D 71/56 20060101AFI20230413BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20230413BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20230413BHJP
B01D 71/64 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
B01D71/56
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/64
(21)【出願番号】P 2022115548
(22)【出願日】2022-07-20
【審査請求日】2022-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2021178637
(32)【優先日】2021-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 長久
(72)【発明者】
【氏名】小池 巧真
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-107041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22,61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に設けられたポリエーテルイミドを含む多孔質支持層と、前記多孔質支持層上に設けられたポリアミドを含む分離機能層とを備えた複合半透膜であって、
前記分離機能層は、1.8質量%以上10質量%以下の芳香族多官能アミンの溶液中の多官能アミン、又は0.5質量%以上10質量%以下の脂肪族多官能アミンの溶液中の多官能アミンと、酸ハライドとが前記多孔質支持層上で重合されてなる、複合半透膜。
【請求項2】
前記多官能アミンの溶液が、2~10質量%の芳香族多官能アミンの溶液であるか、又は1.5~10質量%の脂肪族多官能アミンの溶液である、請求項
1に記載の複合半透膜。
【請求項3】
前記多官能アミンの溶液が、pH7~13である、請求項
1又は2に記載の複合半透膜。
【請求項4】
前記ポリエーテルイミドが環状イミド構造を含み、
前記環状イミド構造の少なくとも一部が開環せしめられ、前記多官能アミンが結合してアミド結合が形成されている、請求項
1又は2に記載の複合半透膜。
【請求項5】
前記基材と前記多孔質支持層とを合わせた部分の含水率が15%から35%である、請求項1又は
2に記載の複合半透膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合半透膜に関する。
【背景技術】
【0002】
脱塩処理を行うための複合半透膜として、基材と、有機ポリマーからなる多孔質層と、分離機能層とを備えた構成、特にポリスルホン多孔質層とポリアミド分離機能層とを備えた構成がよく知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、水資源の確保、環境保全等の観点から、産業排水を再生水として使用できるレベルにまで処理することが求められているが、産業排水には有機溶媒(有機溶剤)が含まれているものも多い。しかしながら、有機溶媒を含む液を、特許文献1に記載されているようなポリスルホンを多孔質層として備える複合半透膜を用いて脱塩処理した場合、ポリスルホン製の多孔質層は劣化してリークスポットができたり、多孔質層と分離機能層との間で層間剥離を引き起こしたりすることもある。よって、従来の複合半透膜では、有機溶媒を含む排水を継続的に処理することは難しかった。
【0005】
上記に鑑み、本発明の一態様は、有機溶媒を含む被処理液に対する継続的な脱塩処理が可能な複合半透膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態による複合半透膜は、基材と、前記基材上に設けられたポリエーテルイミドを含む多孔質支持層と、前記多孔質支持層上に設けられたポリアミドを含む分離機能層とを備えた複合半透膜であって、前記分離機能層は、1.8質量%以上10質量%以下の芳香族多官能アミンの溶液中の多官能アミン、又は0.5質量%以上10質量%以下の脂肪族多官能アミンの溶液中の多官能アミンと、酸ハライドとが前記多孔質支持層上で重合されてなる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、有機溶媒を含む被処理液に対する継続的な脱塩処理が可能な複合半透膜を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態による複合半透膜の模式的な断面図を示す。
【
図2】フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により得られた製造例1-4のスペクトル図である。
【
図3】フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により得られた製造例2-3のスペクトル図である。
【
図4】フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により得られた例1-4のスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一形態による複合半透膜10は、
図1に示すように、多孔質層2と、多孔質層(多孔質支持層)2上に設けられた分離機能層(活性層若しくはスキン層ともいう)1とを備えている。また、
図1に示すように、複合半透膜10は、多孔質層2を補強するための基材3を備えていてもよい。
【0010】
なお、本明細書において、「半透膜」とは、被処理液の一部の成分を透過させ、それ以外の成分を透過させない膜である。また、複合半透膜における「複合」とは、異なる機能又は構成を有する複数の層が積層されてなることを意味する。
【0011】
複合半透膜における分離機能層は最上に配置された極薄い層(0.01μm以上1μm以下)であり、複合半透膜の分離処理が主として行われる層である。多孔質支持層は、上記分離機能層を支持する役割を果たす。本形態においては、ポリエーテルイミド(PEI)を含む多孔質支持層を利用する。
【0012】
ポリエーテルイミド(PEI)としては、SHPP US社製の「Ultem(登録商標)」シリーズ等が挙げられ、Ultem1000等を好適に用いることができる。また、用いられるポリエーテルイミドの比重は1.2~1.3程度である。
【0013】
ポリエーテルイミドの重量平均分子量は、5,000以上500,000以下であると好ましく、10,000以上50,000以下であるとより好ましい。重量平均分子量が上記の範囲であることで、適度な加工性が得られるとともに、多孔質支持層、ひいては複合半透膜の強度を向上することができる。
【0014】
本形態による複合半透膜では、多孔質支持層がポリエーテルイミドを含むため、ポリスルホン等の材料を用いて形成された多孔質支持層を備えた複合半透膜と比べて優れた耐有機溶媒性(有機溶媒に対する耐性)を示す。さらに、本発明者らは、多孔質支持層と分離機能層との化学的な結合によって、複合半透膜の耐有機溶媒性が向上すること、さらには複合半透膜の分離性能が向上することを見出した。より具体的には、ポリエーテルイミド多孔質支持層とポリアミド分離機能層との間で共有結合が形成されていることで、複合半透膜の耐有機溶媒性が向上し、層間剥離やリークスポットの形成等がより一層抑制されること、また複合半透膜の塩阻止性能等が一層向上することが分かった。
【0015】
多孔質支持層と分離機能層との間の化学的な結合状態の判定の方法は特に限定されないが、例えば、赤外分光分析法を用いて、例えばフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いて、所定の波数のピーク強度を、多孔質支持層が形成され且つ多孔質支持層上に追加の層が何ら形成されていない状態での多孔質支持層の面のデータ(ブランク)のピーク強度と比較することによって判定することができる。例えば、複合半透膜から多孔質支持層を除去した状態で、分離機能層の多孔質支持層側の面を赤外分光法によって分析し、イミド基のC=O伸縮振動に由来するピーク(1720cm-1付近)の有無を確認することによって、多孔質支持層と分離機能層との間に共有結合が形成されていることが判定できる。
【0016】
また、赤外分光分析法を利用して、多孔質支持層にアミン溶液を塗布し、余剰アミンを除去後に乾燥させて得られる複合半透膜前駆体の塗布面をスキャンして得られたデータと、ブランクのデータ(アミン溶液の塗布前の多孔質支持層のみの面のデータ)とを比較することもできる。より具体的には、(a)イミド基のC=O伸縮振動に由来する吸収ピーク(1720cm-1付近及び/若しくは1780cm-1付近)、(b)イミド基のC-N伸縮振動に由来する吸収ピーク(1355cm-1付近)、(c)アミド基のC=O伸縮振動に由来する吸収ピーク(1660cm-1付近)、並びに(d)アミド基のC-N伸縮振動に由来する吸収ピーク(1540cm-1付近)の1以上を比較することで判定され得る。イミド基由来のピーク(a)及び/若しくは(b)が減少した場合、又はアミド基由来のピーク(c)及び/若しくは(d)が増加した場合に、多孔質支持層のポリエーテルイミド内の環状イミド構造が開環して、分離機能層の形成成分となるアミンと共有結合すること、より具体的にはアミド結合が形成されることが判定できる。ピーク(a)、(b)の減少及びピーク(c)、(d)の増加が見られた場合には、多孔質支持層と分離機能層の形成成分となるアミンとの間での共有結合(アミド結合)の形成をより確実に判定できる。例えば、分離機能層が形成されていないポリエーテルイミド多孔質支持層(ブランク)の吸収スペクトルのピークと比較して、イミド基由来の吸収ピーク(a)の強度比が1未満、イミド基由来のピーク(b)の強度比が1未満、アミド基由来ピーク(c)の強度比が1超、及びアミド基由来のピーク(d)の強度比が1超のうち、好ましくは1以上、より好ましくは全てを満たしていてよい。なお、例えば上記吸収ピーク(a)の強度比は、0.7以上0.99以下であってよい。
【0017】
上記の複合半透膜前駆体の分析により、分離機能層におけるアミン同士の架橋の影響を差し引く必要なく、分離機能層形成前の複合半透膜(複合半透膜前駆体)における多孔質支持層と分離機能層の形成成分となるアミンとの間の化学的な結合状態を判定できる。これにより、複合半透膜における多孔質支持層と分離機能層との間の化学的な結合状態を推定し得る。
【0018】
よって、本発明の一形態は、基材と、前記基材上に設けられたポリエーテルイミドを含む多孔質支持層と、前記多孔質支持層上に設けられたポリアミドを含む分離機能層とを備えた複合半透膜であって、前記多孔質支持層の赤外分光分析によるイミド基の所定の伸縮振動に由来する吸収ピークの強度が、前記分離機能層が形成されていない状態での前記多孔質支持層の(分離機能層形成前の多孔質支持層)の前記所定の伸縮振動に由来する吸収ピークの強度より小さい、複合半透膜であってよい。
【0019】
多孔質支持層と分離機能層との間に共有結合が形成されていることにより、有機溶媒に晒されても多孔質支持層が劣化しにくくなっており、層間剥離やリークスポット等が生じにくい。よって、本形態による複合半透膜は、有機溶媒を含む被処理液の継続的な脱塩処理のために好適に使用され得る。さらに、本形態による複合半透膜は、被処理液に含まれている有機溶媒の除去と塩の除去とを一段階で行うことができるので、処理設備が複雑化することを回避できる。
【0020】
また、本形態による複合半透膜は、長時間にわたり圧力が掛かっても変形しにくい性質、すなわち優れた耐圧性を有する。逆浸透法による高い操作圧力、例えば1~12MPaという操作圧力での運転も十分対応することができる。より具体的に言えば、複合半透膜のうち、多孔質支持層と分離機能層とからなる部分の圧縮率、つまり所定時間にわたる所定圧力での加圧によって圧縮されて減少した厚み分(初期厚みから加圧後の厚みを引いた値)の、初期厚みに対する割合も小さい。例えば、本形態による複合半透膜では、2時間にわたり5.5MPaの操作圧力で被処理液を処理した場合の圧縮率は20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下となり得る。
【0021】
なお、複合半透膜の使用前の多孔質支持層の空隙率(気孔率)は、40%以上70%以下であると好ましく、55%以上65%以下であるとより好ましい。上記範囲の空隙率を有することで、逆浸透膜若しくはナノろ過膜として適切な塩阻止性能及び透水性が得られるとともに、複合半透膜の耐圧性及び強度を向上できる。さらに、長時間又は高圧の圧力付与によって複合半透膜が圧縮されて厚みが小さくなった状態でも、高い透過性能を維持できる。
【0022】
多孔質層の表面における平均孔径は、5nm以上50nm以下であると好ましく、7nm以上20nm以下であるとより好ましい。上記の平均孔径によって、逆浸透膜若しくはナノろ過膜として、適切な塩阻止性能及び透水性を得ることができる。
【0023】
多孔質支持層は、本形態による作用・効果を妨げないのであれば、ポリエーテルイミド以外の成分、例えばポリエーテルイミド以外のポリマー、添加剤等含んでいてもよい。添加剤としては、コロイダルシリカ、ゼオライト等の機能粒子が挙げられる。その場合であっても、多孔質支持層中のポリエーテルイミドの含有量は90質量%以上であると好ましく、95質量%以上であるとより好ましい。そして、多孔質支持層はポリエーテルイミドから実質的になる、若しくはポリエーテルイミドからなることが好ましい。なお、本明細書において、所定成分「から実質的になる」とは、所定成分以外の、製造時に不可避的に生成又は混入する成分の含有が許容されることを意味する。
【0024】
また、多孔質層は、全体として均質な層であることが好ましい。本明細書において、均質な層とは、多孔質層が単相から構成されていること、すなわち、分離した複数の島状のポリマー相が当分野の通常の方法で観察されないことを指す。
【0025】
本発明の別形態は、複合半透膜の製造方法であって、基材上に、ポリエーテルイミドを含む多孔質支持層を形成し(S1)、前記多孔質支持層上に多官能アミンの溶液を塗布することによって複合半透膜前駆体を形成し(S2)、前記複合半透膜前駆体の表面に酸ハライド化合物を接触させることによって複合半透膜を得ること(S3)を含む、製造方法であってよい。また、本発明の一形態は、基材上に、ポリエーテルイミドを含む多孔質支持層を形成し(S1)、前記多孔質支持層上に多官能アミンの溶液を塗布することによって複合半透膜前駆体を形成し(S2)、前記複合半透膜前駆体の前記多官能アミンの溶液が塗布された面に、酸ハライドの溶液を接触させること(S3)によって得られた、複合半透膜であってよい。なお、上記工程S2及びS3が、分離機能層の形成工程に相当する。
【0026】
本形態における多孔質支持層の製造方法(S1)は特に限定されず、非溶媒誘起相分離法(NIPS)、熱誘起溶媒相分離(TIPS)等を用いることができるが、均一で幅広の多孔質層を製造できることから非溶媒誘起相分離法(NIPS)を用いることが好ましい。より具体的には、ポリエーテルイミドを溶媒に溶解して製膜溶液を得た後、製膜溶液を、不織布等の基材に、ナイフコーター等によって塗布する。その後、塗布された溶液中のポリマーを凝固させ、残存溶液を除去する。
【0027】
上述の非溶媒誘起相分離法による多孔質支持層の製造(S1)においては、ポリエーテルイミドを溶媒に溶解させる際、均一な製膜溶液を調製でき、また良好なミクロ相分離が得られることから、用いる溶媒は水溶性であり且つ高沸点のものが好ましい。例えば、用いられる溶媒は、沸点130℃以上250℃以下の水溶性溶媒であると好ましい。溶媒の具体例としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、N-メチルピロリドン(NMP)、γ‐ブチロラクトン(GBL)等が挙げられる。
【0028】
上記の製膜用のポリエーテルイミド溶液の製造の際には、上記溶媒に加えて、ポリエチレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリオキシアルキレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等の水溶性ポリマー、グリセリン、ジエチレングリコール、水、アセトン、1,3-ジオキソラン等を、開孔剤として添加することができる。開孔剤を所定量添加することにより、多孔質層の気孔率、孔径等を調整することができる。
【0029】
多孔質支持層上に形成される分離機能層は、架橋ポリアミドを含む層であってよい。分離機能層の形成は、上述のように基材上に形成されたポリエーテルイミド多孔質支持層の表面に、多官能アミン化合物の溶液を塗布し(S2)、さらに酸ハライド化合物の溶剤溶液に接触させること(S3)によって行われる。この際、多官能アミンと酸ハライドとの界面重合が進行して、架橋ポリアミドが形成される。
【0030】
多官能アミン(2以上の反応性アミン基を有する化合物)は、芳香族多官能アミン、脂肪族多官能アミン、又はその組合せであってよい。芳香族多官能アミンの具体例としては、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、1,3,5-トリアミノベンゼン等、或いはこれらのN-アルキル化物、例えばN,N-ジメチルm-フェニレンジアミン、N,N-ジエチルm-フェニレンジアミン、N,N-ジメチルp-フェニレンジアミン、N,N-ジエチルp-フェニレンジアミンが挙げられ、中でもm-フェニレンジアミンが好ましい。また、脂肪族多官能アミンは、鎖式又は脂環式多官能アミンであってよい。脂肪族多官能アミンの具体例としては、エチレンジアミン及びエチレンジアミン誘導体、1,6-ジアミノヘキサン等の鎖状ジアミン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロへキサン、1,4-ジアミノシクロへキサン等の環状ジアミン、ピペラジン及びピペラジン誘導体が挙げられる。ピペラジン誘導体の例としては、2,5-ジメチルピペラジン、2-メチルピペラジン、2,6-ジメチルピペラジン、2,3,5-トリメチルピペラジン、2,5-ジエチルピペラジン、2,3,5-トリエチルピペラジン、2-n-プロピルピペラジン、2,5-ジ-n-ブチルピペラジン、エチレンジアミン等が挙げられ、中でもピペラジンが好ましい。上述の多官能アミンは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
なお、分離機能層の形成の際に、m-フェニレンジアミン等の芳香族多官能アミンを用いた場合には、1価の塩を選択的に分離することに適した複合半透膜を得ることができる。また、ピペラジン等の脂肪族多官能アミンを用いた場合には、2価の塩を選択的に分離することに適した複合半透膜を得ることができる。
【0032】
酸ハライド化合物としては、上記多官能アミンとの反応によりポリアミドを与えるものであれば特に限定されないが、一分子中に2個以上のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物であると好ましい。酸ハライド化合物の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪酸のハライド化合物、フタル酸、イソフタル酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、1,3-ベンゼンジカルボン酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸等の芳香族酸の酸ハライド化合物を用いることができる。これらの酸ハライド化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
分離機能層の形成工程、すなわち工程S2及び工程S3において、多孔質支持層の表面では、例えば、以下に示すような反応が生じ得る。なお、以下の式は、多官能アミンとしてピペラジンを、酸ハライドとしてトリメシン酸トリクロライドを用いた形態による例である。
【化1】
【0034】
多官能アミン(ピペラジン)が多孔質支持層に塗布される(S2)と、上式に示すように、ピペラジンは、多孔質支持層に含まれるポリエーテルイミド内の環イミド構造が開環して、結合し、アミド結合(-CO-NH-)を形成し得る。そして、さらに酸ハライド(トリメシン酸トリクロライド)の溶液を接触させると(S3)、ピペラジンに残っているアミノ基とトリメシン酸トリクロライドとが反応して、さらなるアミド結合(-CO-NH-)を形成できる。このように、多官能アミンを用いることで、ポリエーテルイミドと酸ハライドとが多官能アミンを介して結合した状態が得られるので、多孔質支持層と分離機能層との間での結合が強固になり、複合半透膜使用中の層間剥離やリークスポットの発生を防止できる。
【0035】
上述のように、多孔質支持層と分離機能層との間に形成された共有結合は、多孔質支持層に含まれるポリエーテルイミド内の環状イミド構造が開環し、多官能アミンに結合して形成されるアミド結合である。そして、本発明者らはさらに、多孔質支持層と分離機能層との間の良好な化学的な結合状態を、分離機能層を形成するために用いられる多官能アミン化合物の溶液を所定の濃度に調整することによって得られることを見出した。より具体的には、多孔質支持層上に多官能アミンの溶液を塗布して複合半透膜前駆体を形成する工程(S2)で使用される、多官能アミンの溶液の濃度を、0.5質量%以上15質量%以下とする。
【0036】
よって、本発明の一形態は、基材と、前記基材上に設けられたポリエーテルイミドを含む多孔質支持層と、前記多孔質支持層上に設けられたポリアミドを含む分離機能層とを備えた複合半透膜の製造方法であって、基材上に、ポリエーテルイミドを含む多孔質支持層を形成し、前記多孔質支持層上に、0.5質量%以上15質量%以下の多官能アミンの溶液を塗布した後、前記多官能アミンと酸ハライド化合物とを界面重合することを含む、複合半透膜の製造方法であってよい。
【0037】
また、本発明の一形態は、基材と、前記基材上に設けられたポリエーテルイミドを含む多孔質支持層と、前記多孔質支持層上に設けられたポリアミドを含む分離機能層とを備えた複合半透膜であって、前記分離機能層は、0.5質量%以上15質量%以下の多官能アミンの溶液中の多官能アミンと酸ハライドとが多孔質支持層上で重合されてなる、複合半透膜であってよい。
【0038】
多官能アミンの溶液のアミン濃度が0.5質量%以上であることで、層間の共有結合を適切に形成できるので層間剥離等を抑制でき、多孔質支持層にわたってポリアミドの層をムラなく形成することもできるため、複合半透膜の塩阻止性能が向上する。一方、アミン濃度が15質量%以下であることで、余剰のアミンが低減するため、余剰のアミンを洗浄するための手間及びコストを低減できる。また、得られた複合半透膜において余剰のアミンの残存による影響もなくす又は減らすことができ、多官能アミンの多量体化(自己重合)が進むことによる阻止性能の低下を防止でき、分離膜としての性能を向上させることができる。さらに、多官能アミンが良好に溶解して液中での析出が抑制されるので、溶液の塗工を均一に且つ容易に行うことができる。
【0039】
分離機能層を形成するために使用される多官能アミンの溶液の濃度は、多官能アミンがm-フェニレンジアミン等の芳香族多官能アミンである場合には、好ましくは1.8質量%以上15質量%以下、より好ましくは1.8質量%以上13質量%以下、さらに好ましくは2質量%以上10質量%以下であってよい。また、上記の多官能アミンの溶液の濃度は、多官能アミンがピペラジン等の脂肪族多官能アミンである場合には、好ましくは0.5質量%以上15質量%以下、より好ましくは1.5質量%以上10質量%以下であってよい。
【0040】
さらに、多官能アミンの溶液のpHは、多孔質支持層と分離機能層との間での共有結合を促すため、好ましくは6.5以上13.5以下、より好ましくは7以上13以下であってよい。より具体的には、pHが6.5以上であることで、ポリエーテルイミドに含まれる環状イミド構造の開環反応が促進され、アミンが結合しやすくなる、すなわち共有結合(アミド結合)が生じやすくなる。pHを13.5以下とすることで、過度に強いアルカリ環境を回避し、ポリエーテルイミドの環状イミド構造が加水分解によって即座に開環されてアミン結合が形成されにくくなることを防止できる。また、多官能アミン溶液のさらに好ましいpHの範囲は、7.5以上12.5以下である。このpHの範囲であれば、100~150℃の温度での共有結合反応を促すことができる。なお、多官能アミンとして芳香族多官能アミンを用いる場合には、多官能アミンの溶液のpHは、好ましくは6.5以上13以下であってよい。なお、多官能アミンとして脂肪族多官能アミンを用いる場合には、多官能アミンの溶液のpHは8以上であると好ましい。
【0041】
多官能アミンの溶液のpHは、当該溶液に、例えば、塩酸等の酸及び/又は水酸化ナトリウム等のアルカリを添加することによって適宜調整することができる。
【0042】
基材と多孔質支持層とを合わせた部分(多孔質基材とも呼ぶ)の含水率は、15%以上35%以下、好ましくは20%以上30%以下であってよい。含水率が15%以上であることで、上述の多官能アミンの溶液の塗布(S2)において、アミン溶液が多孔質支持層に十分に含侵でき、上述の共有結合を促進させることができる。一方、上記含水率が35%以下であることで、多官能アミンの溶液の塗布(S2)の際に多孔質支持層に含侵するアミン溶液中のアミンの濃度が適切となり、共有結合が迅速に進む。多孔質基材の含水率とは、多孔質基材の水溶液の保持能とも言える。含水率の測定方法は、基材と多孔質支持層とを合わせた部分を水に含侵させた後に余剰の水滴を除去し、湿重量(ww)を測定し、乾燥し、絶乾状態で再度、乾重量(wd)を測定し、含水率(%)=(ww-wd)/ww×100 より算出される。乾燥方法は、無風、温風、熱風方式の乾燥機を用いることができる。乾燥温度は40~60℃が好ましい。
【0043】
本形態による複合半透膜によって処理される被処理液に含まれる有機溶媒は特に限定されない。有機溶媒の具体例としては、トルエン、キシレン、ベンゼン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル、テトロヒドロフラン(THF)、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。複合半透膜は、上記のうちアセトン、メチルエチルケトン等のケトンに対する耐性に優れており、このような溶媒を含む排水の処理であっても長期間にわたって行うことができる。
【0044】
複合半透膜における基材としては、繊維平面構造体、具体的には、織物、編物、不織布等を用いることができる。このうち、不織布が好ましい。不織布は、スパンボンド法、スパンレース法、メルトブロー法、カーディング法、エアレイ法、湿式法、ケミカルボンディング法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、ウォータージェット法、ステッチボンド法、エレクトロスピニング法等によって作製されたものであってよい。また、不織布を構成する繊維の種類は限定されないが、合成繊維であると好ましい。繊維の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ナイロン6、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、又はこれらのコポリマーであってよい。これらのうち、安価且つ寸法安定性及び成形性が高いこと、また耐油性が高いことから、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルを用いることが好ましい。
【0045】
複合半透膜の厚みは、60μm以上250μm以下であってよい。多孔質層の厚みは、10μm以上100μm以下とすることができる。分離機能層の厚みは、0.01μm以上1μm以下とすることができる。また、基材の厚みは、50μm以上200μm以下とすることができる。
【0046】
本形態による複合半透膜は、逆浸透膜若しくはナノろ過膜として用いることができる。本形態による複合半透膜を用いることで、例えば、常温(25℃)で、32000mg/LのNaCl水溶液を5.5MPaの操作圧力で1時間脱塩処理によるNaCl阻止率は95%以上となり得る。また、常温(25℃)で、2000mg/LのMgSO4水溶液を0.9MPaの操作圧力で0.5時間脱塩処理した後のMgSO4阻止率は95%以上となり得る。
【0047】
本形態による複合半透膜は、平膜状に構成することが好ましい。また、本形態による平膜状の複合半透膜は、当該複合半透膜を集水管の外側に渦巻き状に巻き付けて構成されるスパイラル型の膜モジュールにおいて好適に用いることができる。また、ディスクチューブ型の平膜モジュールにも適用することができる。
【0048】
本形態による複合半透膜は、特に、有機溶媒を含む被処理液の脱塩処理、例えば、石油精製プラント、石油化学プラント、火力発電所、自動車製造工場、油脂製造工場、食品製造工場等で生じる排液、家庭で生じる排液、有機溶媒を含む海水、又はこれらを前処理して得られた液等の脱塩処理および有機溶媒の濃縮に好適に用いることができる。
【0049】
なお、本発明の一形態は、基材と、前記基材上に設けられたポリエーテルイミドを含む多孔質支持層と、前記多孔質支持層上に塗布されたアミン層とを備えた複合半透膜前駆体であって、前記多孔質支持層と前記アミン層とが共有結合している複合半透膜前駆体であってよい。多孔質支持層とアミン層との共有結合は、より具体的には、多孔質支持層に含まれるポリエーテルイミド内の環状イミド構造が開環し、多官能アミンに結合して形成されるアミド結合であってよい。さらに、複合半透膜前駆体の最表面、すなわちアミン層には、酸ハライド化合物の溶剤溶液を接触させることができ、これにより、多官能アミンと酸ハライド化合物との界面重合を進行させ、架橋ポリアミドが形成され、複合半透膜が得られる。
【0050】
また、本発明の一形態は、基材と、前記基材上に設けられたポリエーテルイミドを含む多孔質支持層と、前記多孔質支持層上に設けられたポリアミドを含む分離機能層とを備えた複合半透膜であって、多孔質支持層上にアミン層を備えた複合半透膜前駆体の前記アミン層に酸ハライドを接触させることによってポリアミド分離機能層を形成することによって得られ、前記多孔質支持層と前記アミン層との間に共有結合が形成されている、複合半透膜であってよい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例に基づき本発明の実施形態を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0052】
[1]分離機能層の形成に芳香族多官能アミンを用いた例
<多孔質支持層の形成>
ポリエーテルイミド(SHPP US社製「Ultem1000」)20重量部、N,N-ジメチルアセトアミド51重量部、1,3-ジオキソラン29重量部を50℃で加熱溶解し、均一な製膜用溶液を得た。当該製膜用溶液を、室温に冷却後、厚み0.1mm、密度0.7g/cm3のポリエステル製不織布基材に、コーターギャップ150μmに調整した製膜装置を用いて、含浸塗布した。200mmの空走距離を通した後、40℃の凝固水槽中に浸潰し凝固させ、さらに70℃の水洗槽で残存溶媒を洗浄除去することによりポリエーテルイミド多孔質支持層を形成し、不織布基材及びポリエーテルイミド多孔質支持層からなる構造体を得た(構造体Aとする)。
【0053】
<複合半透膜前駆体の製造>
(製造例1-1)
上記構造体Aのポリエーテルイミド多孔質支持層の表面に、m-フェニレンジアミン(芳香族多官能アミン化合物)の0.3質量%水溶液を接触させ、その後、余剰のm-フェニレンジアミン水溶液を除去した。これにより、複合半透膜前駆体の製造例1-1を得た。
【0054】
(製造例1-2)
m-フェニレンジアミンの濃度を1.5質量%としたこと以外は、製造例1-1と同様にして、複合半透膜前駆体を得た。
【0055】
(製造例1-3)
m-フェニレンジアミンの濃度を2.0質量%としたこと以外は、製造例1-1と同様にして、複合半透膜前駆体を得た。
【0056】
(製造例1-4)
m-フェニレンジアミンの濃度を3.0質量%としたこと以外は、製造例1-1と同様にして、複合半透膜前駆体を得た。
【0057】
(製造例1-4a)
m-フェニレンジアミンの濃度は3.0質量%としたこと以外は、製造例1-1と同様にして、複合半透膜前駆体を得た。
【0058】
(製造例1-4b)
m-フェニレンジアミンの濃度を3.7質量%としたこと以外は、製造例1-1と同様にして、複合半透膜前駆体を得た。
【0059】
(製造例1-5)
m-フェニレンジアミンの濃度を10質量%としたこと以外は、製造例1-1と同様にして、複合半透膜前駆体を得た。
【0060】
(製造例1-6)
m-フェニレンジアミンの濃度を15質量%としたこと以外は、製造例1-1と同様にして、複合半透膜前駆体を得た。
【0061】
(製造例1-6a)
m-フェニレンジアミンの濃度を15質量%としたこと以外は、製造例1-1と同様にして、複合半透膜前駆体を得た。
【0062】
なお、上記製造例1-1~製造例1-6aで用いられたm-フェニレンジアミン水溶液のpHは、塩酸及び/又は水酸化ナトリウムによって調整した。各製造例で使用されたm-フェニレンジアミン水溶液のpH(25℃で測定)を表1に示す。
【0063】
<複合半透膜の製造>
(例1-1)
製造例1-1の複合半透膜前駆体のアミンが塗布された側に、さらにトリメシン酸トリクロライド(芳香族酸ハライド化合物)0.1質量%及びイソフタル酸クロリド0.13質量%を含有するナフテン溶液に接触させることによって、多孔質支持層上に架橋ポリアミド層(分離機能層)を形成した。140℃の乾燥機にて乾燥させることによって、不織布、多孔質支持層、及び架橋ポリアミド分離機能層がこの順に配置されてなる複合半透膜を得た。
【0064】
(例1-2~例1-6a)
例1-1と同様にして、製造例1-2~製造例1-6aの複合半透膜前駆体に架橋ポリアミド層を形成して、複合半透膜を得た。
【0065】
[2]分離機能層の形成に脂肪族多官能アミンを用いた例
<複合半透膜前駆体の製造>
(製造例2-1)
上記の構造体Aのポリエーテルイミド多孔質支持層の表面に、ピペラジン(脂肪族多官能アミン化合物)の0.3質量%水溶液を接触させ、その後、余剰のピペラジン水溶液を除去した。これにより、複合半透膜前駆体の製造例2-1を得た。
【0066】
(製造例2-2)
ピペラジンの濃度を1.5質量%としたこと以外は、製造例2-1と同様にして、複合半透膜前駆体を得た。
【0067】
(製造例2-3)
ピペラジンの濃度を2.0質量%としたこと以外は、製造例2-1と同様にして、複合半透膜前駆体を得た。
【0068】
(製造例2-4)
ピペラジンの濃度を3.0質量%としたこと以外は、製造例2-1と同様にして、複合半透膜前駆体を得た。
【0069】
(製造例2-4a)
ピペラジンの濃度を5.0質量%としたこと以外は、製造例2-1と同様にして、複合半透膜前駆体を得た。
【0070】
(製造例2-5)
ピペラジンの濃度を10質量%としたこと以外は、製造例2-1と同様にして、複合半透膜前駆体を得た。
【0071】
(製造例2-5a)
ピペラジンの濃度は10質量%としたこと以外は、製造例2-1と同様にして、複合半透膜前駆体を得た。
【0072】
(製造例2-6)
ピペラジンの濃度を15質量%としたこと以外は、製造例2-1と同様にして、複合半透膜前駆体を得た。
【0073】
なお、上記製造例2-1~製造例2-6で用いられたピペラジン水溶液のpHは、塩酸及び/又は水酸化ナトリウムによって調整した。各製造例で使用されたピペラジン水溶液のpH(25℃で測定)を表2に示す。
【0074】
<複合半透膜の製造>
(例2-1)
製造例2-1の複合半透膜前駆体のアミンが塗布された側に、さらに、トリメシン酸トリクロライド(芳香族酸ハライド化合物)0.4質量%イソパラフィン溶液に接触させることによって、多孔質支持層上に架橋ポリアミド層(分離機能層)を形成した。120℃の乾燥機にて乾燥させることによって、不織布、多孔質支持層、及び架橋ポリアミド分離機能層がこの順に配置されてなる複合半透膜を得た。
【0075】
(例2-2~例2-6)
例2-1と同様にして、製造例2-2~製造例2-6の複合半透膜前駆体に架橋ポリアミド層を形成して、複合半透膜を得た。
【0076】
<評価>
(塩阻止性能)
例1-1~例1-6aの複合半透膜は、膜評価用装置(日東電工株式会社製フロー式平膜テストセル、メンブレンマスターC70-F、有効透過面積は32.5cm2)に設置した。32000mg/LのNaCl水溶液を用い、供給流量5L/分、圧力5.5MPaで、クロスフロー方式で2時間運転した。供給側と透過側とでNaClの濃度を測定して、NaCl阻止率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0077】
例2-1~例2-6の複合半透膜の評価も上記同様に行ったが、32000mg/LのNaCl水溶液の代わりに2000mg/LのMgSO4水溶液を用い、圧力を0.9MPaとした。複合半透膜の供給側と透過側とでMgSO4の濃度を測定して、MgSO4阻止率(%)を算出した。結果を表2に示す。
【0078】
(複合半透膜前駆体における層間の結合状態の評価)
各製造例で得られた複合半透膜前駆体の乾燥させたアミン塗布面をフーリエ変換赤外分光光度計(PerkinElmer社製、Spectrum TWO)に取り付けて、FT-IR(フーリエ変換赤外分光法)のATR(全反射)法により700~4000cm-1の範囲でスキャンした。この際、プリズムはゲルマニウムを用い、入射光の角度を45°とし、スキャン回数16回の多重反射(16回反射)で測定した。得られた結果から以下の吸収ピークの強度を抽出した。
(a)イミド基のC=O伸縮振動に由来する吸収ピーク(1720cm-1付近/若しくは1780cm-1付近)
(b)イミド基のC-N伸縮振動に由来する吸収ピーク(1355cm-1付近)
(c)アミド基のC=O伸縮振動に由来する吸収ピーク(1660cm-1付近)
(d)アミド基のC-N伸縮振動に由来する吸収ピーク(1540cm-1付近)
【0079】
ブランクとして、構造体Aを用い、赤外分光分析を同じ条件で予め行っておいた。上記で測定された各例のピーク強度を、ブランクのピーク強度と比較し、ブランクのピーク強度に対するピーク強度比を求めた。すなわち、ピーク強度比は、
ピーク強度比=(各例のピーク強度)/(ブランクのピーク強度)
により求めた。イミド基由来の吸収ピーク(a)の強度比が1未満、イミド基由来のピーク(b)の強度比が1未満、アミド基由来ピーク(c)の強度比が1超、及びアミド基由来のピーク(d)の強度比が1超、のうち1以上を満たしていることで、複合半透膜前駆体において、多孔質支持層のポリエーテルイミドと塗布されたアミン層との間に共有結合が形成されていると判定できる。さらに、各製造例から得られる各例による複合半透膜において、多孔質支持層のポリエーテルイミドと分離機能層のポリアミドとの間に共有結合が形成されると推定できる。なお、各ピーク強度は、ポリエーテルイミドの芳香族エーテル部のC-O-C非対称伸縮振動に帰属される1240cm-1付近の強度で規格化した
値とした。
【0080】
なお、
図2に製造例1-4(メタフェニレンジアミン濃度3.0質量%の溶液とポリエーテルイミド多孔質支持層を反応させたもの)のスペクトル、
図3に製造例2-3(ピペラジン濃度2.0質量%の溶液とポリエーテルイミド多孔質支持層を反応させたもの)のスペクトルを、ブランク(構造体Aのポリエーテルイミド多孔質支持層)との比較で示す。
【0081】
(複合半透膜における結合状態の評価I)
各例で得られた複合半透膜をフーリエ変換赤外分光光度計(PerkinElmer社製、Spectrum TWO)に取り付けて、FT-IR(フーリエ変換赤外分光法)のATR(全反射)法により700~4000cm
-1の範囲でスキャンした。この際、プリズムはゲルマニウムを用い、入射光の角度を45°とし、スキャン回数16回の多重反射(16回反射)で測定した。得られた結果から、複合半透膜においてもイミド基のC=O伸縮振動に由来する吸収ピーク(1720cm
-1付近及び/若しくは1780cm
-1付近)とイミド基のC-N伸縮振動に由来する吸収ピーク(1355cm
-1付近)が減少していることが観察された。なお、各ピーク強度は、ポリエーテルイミドの芳香族エーテル部のC-O-C非対称伸縮振動に帰属される1240cm
-1付近の強度で規格化した値とした。例1-4の結果を
図4に示す。
【0082】
(複合半透膜における結合状態の評価II)
さらに、各例で得られた複合半透膜から分離機能層を単離して、当該分離機能層の、ポリエーテルイミド多孔質支持層側の化学的な構造を評価した。すなわち、得られた複合半透膜をN-メチルピロリドンに浸して、ポリエーテルイミド多孔質支持層を溶解して除去し、分離機能層を単離した。単離した分離機能層を、N-メチルピロリドンで3回洗浄し、エタノールで1回洗浄した。その後、分離機能層を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み:約180μm)に、当該フィルムに形成された直径1cmの穴を覆うように積層した。この際、分離機能層の裏面(ポリエーテルイミド多孔質支持層に接合していた面)がPETフィルムに対向するようにした。積層体を室温で30分間乾燥して、測定用試料を作製した。
【0083】
得られた試料を、フーリエ変換赤外分光光度計(PerkinElmer社製、Spectrum TWO)に取り付けて、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)の透過法により、分離機能層の裏面を700~4000cm-1の範囲でスキャンしたところ、ポリアミド 分離機能層において、イミド基のC=O伸縮振動に由来する1720cm-1のピークが観察され、ポリエーテルイミド由来のイミド基がポリアミド分離機能層の一部として検出された。よって、当該評価IIによっても、複合半透膜において多孔質支持層と分離機能層とが結合状態になっていることが示された。
【0084】
(剥離性の評価)
例1-1~例1-6aの複合半透膜を、100%アセトニトリル中に10日間浸漬した後、目視で観察し、分離機能層とポリエーテルイミド多孔質支持層との間での部分的な又は全体の剥離が見られた場は、剥離ありと判定した。
【0085】
例2-1~例2-6aについては、複合半透膜を100%アセトン中に5日間浸漬した後、上記と同様の観察方法で観察し、剥離の有無を判定した。
【0086】
表1に例1-1~例1-6aの評価結果を、表2に例2-1~例2-6の評価結果を示す。
【0087】
【0088】
表1に示すように、例1-3~例1-6aでは、複合半透膜前駆体におけるFT-IRの1720cm
-1におけるピーク強度比(すなわち上記の(a)イミド基由来のC=Oの伸縮振動に由来するピークの強度比)は1未満であり、ピーク強度がブランクのものより減少していることが分かった。また、
図2より、上述の(a)~(d)のピーク強度の増減から、例1-4で使用された複合半透膜前駆体においてポリエーテルイミドが開環され且つ層間にアミド結合が形成されていると判定できた。上述の(a)~(d)のピーク強度の増減の傾向は、例1-3、例1-5及び例1-6でも同様であった。そして、このような、ポリエーテルイミド多孔質支持層とアミン層との間に共有結合が形成された複合半透膜前駆体を用いて製造された複合半透膜(例1-3~例1-6a)では、有機溶媒に接触させた場合の層間剥離が抑制されており、またNaCl阻止性能も良好であった。さらに、分離機能層を形成する際のm-フェニレンジアミンの濃度を2~10質量%とした例(例1-3~例1-5)では、NaCl阻止性能のさらなる向上が見られた。
【0089】
【0090】
表2に示すように、例2-2~例2-6では、複合半透膜前駆体におけるFT-IRの1720cm
-1におけるピーク強度比(すなわち上記の(a)イミド基由来のC=Oの伸縮振動に由来するピークの強度比)は1未満であり、ピーク強度がブランクのものより減少していることが分かった。また、
図3より、上述の(a)~(d)のピーク強度の増減から、例2-3で使用された複合半透膜前駆体においてポリエーテルイミドが開環され且つ層間にアミド結合が形成されていると判断できた。上述の(a)~(d)のピーク強度の増減の傾向は、例2-2、例2-4~例2-6でも同様であった。そして、このような、ポリエーテルイミド多孔質支持層とアミン層との間に共有結合が形成された複合半透膜前駆体を用いて製造された複合半透膜(例2-2~例2-6)では、有機溶媒に接触させた場合の層間剥離が抑制されており、またNaCl阻止性能も良好であった。さらに、分離機能層を形成する際のピペラジンの濃度を1.5~10質量%とした例(例2-2~例2-5)では、MgSO
4阻止性能のさらなる向上が見られた。
【0091】
(他の有機溶媒に対する評価)
例1-4(製造例にてメタフェニレンジアミン濃度3.0質量%を使用)の複合半透膜を用い、上記「剥離性の評価」における浸漬液をアセトニトリルに代えて、トルエン、キシレン、酢酸エチル、テトロヒドロフラン(THF)、アセトン、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)10質量%水溶液、ジメチルホルムアミド(DMF)10質量%水溶液、ジメチルアセトアミド(DMAc)10質量%水溶液、及びN-メチルピロリドン(NMP)10質量%水溶液をそれぞれ用いて、同様に層間剥離を観察したところ、いずれの液を用いた場合でも層間剥離は見られなかった。
【符号の説明】
【0092】
1 分離機能層
2 多孔質支持層
3 基材
10 複合半透膜
【要約】
【課題】有機溶媒を含む被処理液に対する継続的な脱塩処理が可能な複合半透膜を提供する。
【解決手段】複合半透膜が、基材と、前記基材上に設けられたポリエーテルイミドを含む多孔質支持層と、前記多孔質支持層上に設けられたポリアミドを含む分離機能層とを備え、前記多孔質支持層と前記分離機能層とが共有結合している。
【選択図】
図1