(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-12
(45)【発行日】2023-04-20
(54)【発明の名称】正孔輸送材料、正孔輸送材料を合成するための前駆体および正孔輸送材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20230413BHJP
H10K 30/86 20230101ALI20230413BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20230413BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20230413BHJP
H10K 101/30 20230101ALN20230413BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/86
H10K30/40
H10K85/60
H10K101:30
(21)【出願番号】P 2022552578
(86)(22)【出願日】2022-04-15
(86)【国際出願番号】 JP2022017940
【審査請求日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2021087077
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021106706
(32)【優先日】2021-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021215017
(32)【優先日】2021-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231497
【氏名又は名称】日本精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】井上 真一
(72)【発明者】
【氏名】土屋 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中島 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】上野 敏哉
(72)【発明者】
【氏名】小野澤 伸子
(72)【発明者】
【氏名】舩木 敬
(72)【発明者】
【氏名】村上 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】近松 真之
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-237552(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104844464(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103589419(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0119206(US,A1)
【文献】特開2011-113650(JP,A)
【文献】HU, Zhao et al.,Effects of heteroatom substitution in spiro-bifluorene hole transport materials,Chemical Science,2016年05月03日,Vol. 7,pp. 5007-5012,DOI: 10.1039/c6sc00973e
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-30/89
H10K 39/00-39/38
C07C 211/61
C07C 213/00
C07C 217/92
C07D 295/135
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(III):
【化1】
〔式中、
4つのR
0は、同一で、
下式:
【化2】
【化3】
からなる群から選択されるN,N-ジ-置換フェニルアミノ基である。〕で示され
る、正孔輸送材料。
【請求項2】
式(III)中、4つのR
0は、同一で、下式:
【化4】
【化5】
からなる群から選択されるN,N-ジ-(p-置換フェニル)アミノ基である、請求項
1の正孔輸送材料。
【請求項3】
透明電極、電子輸送層、メソポーラスTiO
2層、前記メソポーラスTiO
2層を足場とするペロブスカイト層、正孔輸送層および金属電極を、この順番で接合されて構成されたn-i-p型構造の太陽電池であって、前記正孔輸送層が請求項
1または2に記載の正孔輸送材料を含む、ペロブスカイト太陽電池。
【請求項4】
前記ペロブスカイトが、組成式:ABX
3で表され、Aは、メチルアンモニウム(CH
3NH
3
+)およびホルムアミジニウム(HC(NH
2)
2
+)などの有機アンモニウム、またはリチウム(Li
+)、ナトリウム(Na
+)、カリウム(K
+)、ルビジウム(Rb
+)およびセシウム(Cs
+)からなるアルカリ金属イオンから選ばれる少なくとも1つの1価陽イオンであり、Bは、マグネシウム(Mg)、スズ(Sn)および鉛(Pb)から選ばれる少なくとも1つの金属元素の2価陽イオンであり、Xは、塩素(Cl)、臭素(Br)およびヨウ素(I)から選ばれる少なくとも1つである、請求項
3のペロブスカイト太陽電池。
【請求項5】
前記ペロブスカイトが、MAPbI
3(ヨウ化鉛メチルアンモニウム)、Cs
0.05(FA
0.85MA
0.15)
0.95Pb(I
0.89Br
0.11)
3、またはFAPbI
3(ヨウ化鉛ホルムアミジニウム)である、請求項
4のペロブスカイト太陽電池。
【請求項6】
正孔輸送層が前記正孔輸送材料のみからなる、請求項
3に記載のペロブスカイト太陽電池。
【請求項7】
請求項
3に記載のペロブスカイト太陽電池の製造方法であって、
フッ素ドープ酸化スズをコートした透明電極のフッ素ドープ酸化スズコート上に、アモルファス緻密酸化チタンを成膜して、電子輸送層を形成する工程;
前記電子輸送層上にメソポーラス酸化チタン層を形成する工程;
前記メソポーラス酸化チタン層上に、ペロブスカイトの溶液を適用することによってペロブスカイト層を形成する工程;
前記ペロブスカイト層上に、正孔輸送材料の溶液を適用することによって正孔輸送層を形成する工程
を含む、製造方法。
【請求項8】
正孔輸送材料の溶液が、非ハロゲン溶媒中の前記正孔輸送材料
の溶液である、請求項
7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記非ハロゲン溶媒は、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、iso-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコールから選択されるアルコール類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテルから選択されるエーテル類;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、4-メチルテトラヒドロピランから選択される環状エーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルから選択される、前記アルコールと、酢酸から選択される有機酸とのエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどから選択されるケトン類;トルエン、キシレン、メシチレン、アニソールから選択される芳香族炭化水素類;アセトニトリルなどから選択されるニトリル類から選択される、請求項
8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池に代表される有機系太陽電池などに使用できる正孔輸送材料に関する。特に、ペロブスカイト太陽電池などにおいて、ドーパントフリーで使用できる正孔輸送材料に関する。また、そのような正孔輸送材料を効率良く合成するための前駆体およびそのような前駆体を用いる正孔輸送材料の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
現在普及している太陽電池のほとんどが、シリコン系太陽電池と化合物系太陽電池である。これらの太陽電池は耐久性が高く、かつ、高いエネルギー変換効率(25%を達成)を示すが、原料の価格や製造コストが高いこと、シリコン系太陽電池の場合、シリコンが厚く、パネルの柔軟性がないため設置場所の制限があることなどのデメリットがあった。
そこで、2009年初めてハロゲン化鉛系ペロブスカイト太陽電池が開発された(非特許文献1)。このような有機系薄膜材料をベースとした太陽電池は、省資源性に優れており、大面積製造も可能なことから製造コストの点で優れている。
【0003】
ペロブスカイト太陽電池の研究は、ヨウ化鉛(PbI2)とヨウ化メチルアンモニウム(CH3NH3I)とを混合して得られる褐色の化合物であるヨウ化鉛メチルアンモニウム(NH3CH3PbI3)が、酸化チタン多孔膜を用いる色素増感太陽電池の増感剤として有用であることを発見したことに端を発する。
ペロブスカイト太陽電池は、ヨウ化鉛メチルアンモニウム(NH3CH3PbI3)のペロブスカイト結晶を太陽光吸収体に用い、そこで光生成した電子を収集してアノードに受け流す電子輸送層および光生成した正孔をカソードに輸送する正孔輸送層が接合された構造を有する。
【0004】
ペロブスカイトを使用した太陽電池についてここ数年間で報告された構成材料および構造から、大きく4種類に分類することができる:
(a)透明電極に電子輸送材料を堆積し、その上にメソポーラスTiO2 (mp-TiO2)などの光活性多孔質材料層を形成してペロブスカイト結晶の足場とするタイプ;
(b)透明電極に電子輸送材料を堆積し、その上にメソポーラスAl2O3 (mp-Al2O3)などの光不活性多孔質材料を形成してペロブスカイト結晶の足場とするタイプ;
(c)透明電極に電子輸送材料を堆積し、その上にペロブスカイトの平面吸収層を接合した平面順構造タイプ;
(d)透明電極に正孔輸送材料を堆積し、その上にペロブスカイトの平面吸収層を接合した平面逆構造タイプ。
【0005】
現在、最も高い性能を示すペロブスカイト太陽電池は、光吸収体として使用するペロブスカイト結晶を形成するための足場としてmp-TiO2を採用している。mp-TiO2は、ペロブスカイトを均一に浸透させる大面積の足場になり、光生成された電子を収集してフッ素ドープ酸化スズ (fluorine-doped tin oxide; FTO)電極に受け渡す電子輸送材料 (electron-transporting material; ETM)層の役割も果たす。まず、このようなETM層がFTO基板に形成され、その上にmp-TiO2層が形成される。このmp-TiO2層を足場としてペロブスカイト結晶を生成する。メソポーラス酸化物としてはAl2O3やZrO2などを用いることもできる。この上に、正孔輸送層を形成して、AuまたはAgのカソード電極を接合する。
【0006】
メソポーラス酸化物をペロブスカイトの足場とする場合や緻密TiO2 (c-TiO2)層を電子輸送層とする場合、通常400℃以上の温度で加工するため、アノード透明基板には高価なFTOが使用される。
ペロブスカイトとしては、ヨウ化鉛メチルアンモニウム (NH3CH3PbI3; MAPI)を用いることができ、MAPIに対する正孔輸送材料 (hole-transporting material; HTM)としては、2,2’,7,7’-テトラキス(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミン)-9,9’-スピロビフルオレン(2,2’,7,7’-tetrakis(N,N-di-p-methoxyphenylamine)-9,9’-spirobifluorene; spiro-OMeTAD)を用いることができる。
【0007】
このような構造(例えば、FTO/c-TiO2/meso-TiO2-MAPI/MAPI/spiro-OMeTAD/Au)の太陽電池の透明電極側から光が入射すると、ペロブスカイトの光吸収体で電子と正孔が生成し、電子は電子輸送層を通って透明電極に輸送され、正孔は正孔輸送層を通ってカソードに輸送される。このような構造の太陽電池は、固体型色素増感太陽電池と同様に、n-i-p型(順方向型)光起電力デバイスである。
【0008】
一方、透明電極上に正孔輸送層が形成され、その上にペロブスカイト光吸収体層が形成され、さらにその上に電子輸送層が形成された構造(例えば、FTO/PEDOT:PSS/MAPI3-xClx/PCBM/TiOx/Al)の太陽電池は、p-i-n型(逆方向型)光起電力デバイスである。
【0009】
上記のペロブスカイト結晶は、容易に作製できるため、従来の太陽電池よりも製造コストの削減が可能となり、さらに、フレキシブルで軽量な太陽電池が実現できるため、さまざまな場所に設置することが可能となった。ペロブスカイト太陽電池は、このような利点を有しながら、「シリコン系太陽電池」や「化合物系太陽電池」にも匹敵する高い変換効率(21.6%)および1.15V以上の高い電圧出力を実現している。
このことから、ペロブスカイト太陽電池は、世界で最も注目され、多くの研究者の対象となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2019/181940号
【文献】特表2006-502960号公報
【文献】特開平7-118185号公報
【文献】特表2010-538051号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Kojima, A. et al., J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 6050-6051
【文献】Zhao, H. et al., Chem. Sci. 2016, 7, 5007-5012
【文献】Calio, L. et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 14522-14545
【文献】Wu, R. et al., J. Org. Chem., 1996, 61, 6906-6921
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
現在主流となっているペロブスカイト太陽電池は、太陽光吸収体としてヨウ化鉛メチルアンモニウム (NH
3CH
3PbI
3; MAPI)のペロブスカイト結晶を用いている。ペロブスカイト太陽電池において高い光電変換効率 (PCE)を達成するために、良好なガラス転移点;妥当な溶解度;適度なイオン化ポテンシャル;低い可視光吸収;および適切な固体モルフォロジーを有することから、正孔輸送材料として、現在、2,2’,7,7’-テトラキス(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミン)-9,9’-スピロビフルオレン (spiro-OMeTAD)がよく採用される。2,2’,7,7’-テトラキス(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミン)-9,9’-スピロビフルオレン (spiro-OMeTAD)は、式(I):
【化1】
で示されるスピロビフルオレン骨格を有し、式中、4つのRは、同一で、式(II):
【化2】
(式中、Meはメチル基を示し、記号*は結合点を意味する。)で示されるN,N-ジ-p-メトキシフェニルアミノ基である。
【0013】
すなわち、2,2’,7,7’-テトラキス(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミン)-9,9’-スピロビフルオレン (spiro-OMeTAD)の全体構造は、式(Ia):
【化3】
で示すことができる。
【0014】
spiro-OMeTADを正孔輸送層として用いる場合、例えば、リチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド (LiTFSI)や4-tert-ブチルピリジン (4-tert-butyl pyridine; TBP)などの添加剤、すなわちドーパントを添加する。純粋なspiro-OMeTADは、比較的、正孔移動度や導電性が低いので、これらドーパントの添加によって前記の電子特性を調節する。
【0015】
しかしながら、LiTFSIやTBPドーパントは、吸湿性や揮発性があるため電池の劣化を促進し、HTMに共有結合していないので拡散しやすいという欠点を有し、それゆえ、デバイス製造に不向きであり、また、コストも増加する。
その他の添加剤、ドーパントとして、FK209(トリス(2-(1H-ピラゾール-1-イル)-4-tert-ブチルピリジン)コバルト(III)トリス[ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド])、F4TCNQ(テトラフルオロテトラシアノキノジメタン)、N(PhBr)3SbCl6なども挙げられるが、いずれも満足のいく太陽電池特性を示していない。
【0016】
例えば、特許文献1は、有機無機ペロブスカイトとしてMAPI、正孔輸送層としてspiro-OMeTADに、TBPドーパントを添加した従来の系の太陽電池において、絶縁層として酸化アルミニウムを用いることで大気中の水分が絶縁層透過して光電変換層を劣化させることを抑制する技術を開示する。
【0017】
そこで、本発明は、太陽光吸収体としてヨウ化鉛メチルアンモニウム(NH3CH3PbI3)のペロブスカイト結晶を用い、正孔輸送材料としてspiro-OMeTADを用いるペロブスカイト太陽電池において、太陽電池の特性の安定性向上のためドーパントフリーとしつつ、十分な光電変換効率と、特別な絶縁層を設けることなく高い耐久性とをもたらす、spiro-OMeTADに代わる新たな正孔輸送材料を提供することを課題とする。
【0018】
また、本発明者らは、正孔輸送材料、特に、spiro-OMeTADのように、N,N-ジ-p-置換フェニルアミノ基を含有する化合物を効率良く合成するための合成ルートおよびそのような合成に有用な前駆体を提供することを次なる課題として、研究を行った。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題に鑑み、本発明者らが鋭意研究を重ねたところ、式(II)で示される
N,N-ジ-置換フェニルアミノ基のフェニル環上の置換基の種類および置換位置を「メトキシ基のp位置換」から変更することによって、最高被占軌道準位 (EHOMO)を調整し、光電変換効率 (PCE)を制御できることを見いだした。
【0020】
特に、上記正孔輸送材料の中でも、N,N-ジ-置換フェニルアミノ基として、フェニル基のp位にN-置換アミノ基またはN,N-二置換アミノ基を有する誘導体が、ドーパントフリーでもドーパント添加したときと比較して、遜色ない光電変換効率を示すことが分かった。この知見を基礎として、さらに、正孔輸送材料の最高被占軌道準位 (EHOMO)を調整し、光電変換効率 (PCE)を制御するために、p位の置換基の種類およびo位またはm位に導入するさらなる置換基の種類を探求することが要求される。
【0021】
そして、本発明者らは、上記スピロビフロオレン化合物において、N,N-ビス(p-置換フェニル)アミノ基における2つのフェニル環上のフェニル基のp位の置換基が臭素である新規オクタブロモ置換体が、正孔輸送材料の前駆体として有用であることを見いだした。すなわち、本発明者らは、2,2’,7,7’-テトラキス(N,N-ジ-p-ブロモフェニルアミン)-9,9’-スピロビフルオレンを前駆体として、この前駆体と、所望するアミノ基、N-置換アミノ基またはN,N-二置換アミノ基を有するN,N-ジ-置換フェニルアミノ基と、を反応させることによって、所望する置換基を有する2,2’,7,7’-テトラキス(N,N-ジ-p-置換フェニルアミン)-9,9’-スピロビフルオレンを効率的に合成することにも成功した。
【0022】
より詳細には、本発明の第1の局面において、式(III):
【化4】
〔式中、
4つのR
0は、同一で、式(IV):
【化5】
{式中、
R
1からR
10のうち少なくとも1つは、独立して、式(V):
【化6】
[式中、
R
11およびR
12は、独立して、水素原子、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~4アルキル基、置換もしくは非置換のフェニル基、窒素含有ヘテロ芳香族基、もしくは式(VI):
【化7】
(式中、
R
13は、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~4アルキル基、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~4アルコキシ基、アミノ基、もしくは置換もしくは非置換のフェニル基で置換されたN-置換もしくはN,N-二置換アミノ基である。)で表されるアミド結合を有する有機基であって、
もし、前記直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~4アルキル基、前記直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~4アルコキシ基、もしくは前記フェニル基が置換されている場合は、その置換基は、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基からなる群から選択され;または、
R
11とR
12は、それらが結合する窒素原子と一緒になって、置換もしくは非置換の5~8員のヘテロシクロアルキル基を形成し、ここに、前記ヘテロシクロアルキル基は、前記それらが結合する窒素原子以外に、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選択されるヘテロ原子を環内に含有してもよく、
もし、前記5~8員のヘテロシクロアルキル基が置換されている場合は、その置換基は、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基からなる群から選択され、もしくは、いずれか2辺に置換もしくは非置換のベンゼン環が縮合していてもよく;または、
R
11とR
12は、それらが結合する窒素原子と一緒になって、単環もしくは縮合環からなる置換もしくは非置換のヘテロ芳香族環基を形成し、ここに、前記ヘテロ芳香族環基は、前記それらが結合する窒素原子以外に、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選択されるヘテロ原子を環内に含有してもよく、
もし、前記ヘテロ芳香族環が置換されている場合は、その置換基は、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基からなる群から選択される。]で示されるアミノ基、N-置換アミノ基もしくはN,N-二置換アミノ基であり、
R
1からR
10のうち、上記式(V)で示されるアミノ基、N-置換アミノ基もしくはN,N-二置換アミノ基ではない置換基は、独立して、水素原子、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基、トリフルオロメチル基、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~4アルキル基、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~4アルコキシ基、もしくは窒素含有芳香族環基であり、
もし、前記直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~4アルキル基、前記直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~4アルコキシ基、もしくは前記窒素含有芳香族環基が置換されている場合は、その置換基は、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基、トリフルオロメチル基からなる群から選択され、記号*は結合点を意味する。}で示されるN,N-ジ-置換フェニルアミノ基である。〕で示される正孔輸送材料が提供される。
【0023】
本発明の第2の局面において、透明電極、電子輸送層、メソポーラスTiO2層、前記メソポーラスTiO2層を足場とするペロブスカイト層、正孔輸送層および金属電極を、この順番で接合されて構成されたn-i-p型構造の太陽電池であって、前記正孔輸送層が本発明の第1の局面の正孔輸送材料を含む、ペロブスカイト太陽電池が提供される。
【0024】
本発明の第2の局面のひとつの具体例において、前記ペロブスカイトが、組成式:ABX3で表され、Aは、メチルアンモニウム(CH3NH3
+)およびホルムアミジニウム(HC(NH2)2
+)などの有機アンモニウム、またはリチウム(Li+)、ナトリウム(Na+)、カリウム(K+)、ルビジウム(Rb+)およびセシウム(Cs+)からなるアルカリ金属イオンから選ばれる少なくとも1つの1価陽イオンであり、Bは、マグネシウム(Mg)、スズ(Sn)および鉛(Pb)から選ばれる少なくとも1つの金属元素の2価陽イオンであり、Xは、塩素(Cl)、臭素(Br)およびヨウ素(I)から選ばれる少なくとも1つであり、前記ペロブスカイトが、MAPbI3(ヨウ化鉛メチルアンモニウム)、Cs0.05(FA0.85MA0.15)0.95Pb(I0.89Br0.11)3、またはFAPbI3(ヨウ化鉛ホルムアミジニウム)であることが好ましい。
【0025】
本発明の第2の局面のひとつの具体例において、正孔輸送層が前記正孔輸送材料のみからなり、正孔移動度や導電性など電子特性を調節するために使用される添加物、例えば、リチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド (LiTFSI)や4-tert-ブチルピリジン (4-tert-butyl pyridine; TBP)、FK209(トリス(2-(1H-ピラゾール-1-イル)-4-tert-ブチルピリジン)コバルト(III)トリス[ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド])、F4TCNQ(テトラフルオロテトラシアノキノジメタン)、N(PhBr)3SbCl6から選択されるドーパントを含まない。
【0026】
本発明の第3の局面において、第2の局面のペロブスカイト太陽電池の製造方法が提供される。
本発明によるペロブスカイト太陽電池は、フッ素ドープ酸化スズをコートした透明電極のフッ素ドープ酸化スズコート上に、アモルファス緻密酸化チタンを成膜して、電子輸送層を形成する工程;
前記電子輸送層上にメソポーラス酸化チタン層を形成する工程;
前記メソポーラス酸化チタン層上に、ペロブスカイトの溶液を適用することによってペロブスカイト層を形成する工程;
前記ペロブスカイト層上に、正孔輸送材料の溶液を適用することによって正孔輸送層を形成する工程
を含む、製造方法を用いて製造される。
【0027】
さらに、本発明者らは、上記の正孔輸送材の中でも、式(VII):
【化8】
〔式中、
4つのR
20は、同一で、式(VIII):
【化9】
{式中、
R
21、R
22、R
24、R
25、R
26、R
27、R
29およびR
30は、独立して、水素原子、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルキル基、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルコキシ基、もしくは窒素含有芳香族環基であり、
もし、前記直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルキル基、前記直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルコキシ基、もしくは前記窒素含有芳香族環基が置換されている場合は、その置換基は、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基からなる群から選択される。)で示されるN,N-ジ-(p-ブロモ置換フェニル)アミノ基であり、
R
23およびR
28は、独立して、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルキル基、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルコキシ基、置換もしくは非置換の芳香族環(ここに、前記芳香族環は、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選択されるヘテロ原子を環内に含有してもよく、
もし、前記芳香族環が置換されている場合は、その置換基は、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基からなる群から選択される。)、もしくは式(IX):
【化10】
[式中、
R
31およびR
32は、独立して、水素原子、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルキル基、置換もしくは非置換のフェニル基、窒素含有ヘテロ芳香族基、もしくは、式(X):
【化11】
(式中、
R
33は、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルキル基、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルコキシ基、アミノ基、もしくは置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルキル基、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルコキシ基、もしくは置換もしくは非置換のフェニル基で置換されたN-置換もしくはN,N-二置換アミノ基である。)で示されるアミド結合を有する有機基であって、
もし、前記直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルキル基、前記直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルコキシ基、もしくは前記フェニル基が置換されている場合は、その置換基は、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基からなる群から選択され;または、
R
31およびR
32は、それらが結合する窒素原子と一緒になって、置換もしくは非置換の5~8員のヘテロシクロアルキル基を形成し、ここに、前記ヘテロシクロアルキル基は、前記それらが結合する窒素原子以外に、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選択されるヘテロ原子を環内に含有してもよく、
もし、前記5~8員のヘテロシクロアルキル基が置換されている場合は、その置換基は、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基からなる群から選択され、もしくは、いずれか2辺に置換もしくは非置換のベンゼン環が縮合していてもよく;または、
R
31およびR
32は、それらが結合する窒素原子と一緒になって、単環若しくは縮合環からなる置換もしくは非置換のヘテロ芳香族環基を形成し、ここに、前記ヘテロ芳香族環基は、前記それらが結合する窒素原子以外に、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選択されるヘテロ原子を環内に含有してもよく、
もし、前記ヘテロ芳香族環が置換されている場合は、その置換基は、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基からなる群から選択される。]で示されるアミノ基、N-置換アミノ基もしくはN,N-二置換アミノ基である。}で示されるN,N-ジ-(p-置換フェニル)アミノ基であり、記号*は結合点を意味する。〕で示される2,2’,7,7’-テトラキス(N,N-ジ-p-置換フェニルアミン)-9,9’-スピロビフルオレンが、ペロブスカイト太陽電池の特性を向上させることを確認した。
【0028】
そこで、本発明者らは、上記のN,N-ジ-(p-置換フェニル)アミノ基を有する多種類の正孔輸送材料を効率よく合成するために、本発明の第4の局面において、正孔輸送材料の前駆体として、式(XI):
【化12】
[式中、
4つのR
34は、同一で、式(XII):
【化13】
(式中、
Brは臭素原子を表し、
R
21、R
22、R
24、R
25、R
26、R
27、R
29およびR
30は、独立して、水素原子、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルキル基、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルコキシ基、もしくは窒素含有芳香族環基であり、
もし、前記直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルキル基、前記直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルコキシ基、もしくは前記窒素含有芳香族環基が置換されている場合は、その置換基は、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基からなる群から選択され、記号*は結合点を意味する。)で示されるN,N-ジ-(p-ブロモ置換フェニル)アミノ基である。]で示される2,2’,7,7’-テトラキス(N,N-ジ-p-ブロモ置換フェニルアミン)-9,9’-スピロビフルオレン(以下、簡便に「オクタブロモ置換体」ということもある。)を開発した。
【0029】
また、本発明の第5の局面において、少なくとも、式(XI)で示されるオクタブロモ置換体と、
置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルキル、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルコキシ基、置換もしくは非置換の芳香族環(ここに、前記芳香族環は、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選択されるヘテロ原子を環内に含有してもよく、もし、前記芳香族環が置換されている場合は、その置換基は、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基からなる群から選択される。)もしくは式(XIII):
【化14】
[式中
R
31およびR
32は、独立して、水素原子、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルキル基、置換もしくは非置換のフェニル基、窒素含有ヘテロ芳香族基、もしくは、式(XIV):
【化15】
(式中、
R
33は、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルキル基、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルコキシ基、アミノ基、もしくは置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルキル基、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルコキシ基、もしくは置換もしくは非置換のフェニル基で置換されたN-置換もしくはN,N-二置換アミノ基であり、記号*は結合点を意味する。)で示されるアミド結合を有する有機基であって、
もし、前記直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルキル基、前記直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~3アルコキシ基、もしくは前記フェニル基が置換されている場合は、その置換基は、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基からなる群から選択され;または、
R
31およびR
32は、それらが結合する窒素原子と一緒になって、置換もしくは非置換の5~8員のヘテロシクロアルキル基を形成し、ここに、前記ヘテロシクロアルキル基は、前記それらが結合する窒素原子以外に、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選択されるヘテロ原子を環内に含有してもよく、
もし、前記5~8員のヘテロシクロアルキル基が置換されている場合は、その置換基は、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基からなる群から選択され、もしくは、いずれか2辺に置換もしくは非置換のベンゼン環が縮合していてもよく;または、
R
31およびR
32は、それらが結合する窒素原子と一緒になって、単環若しくは縮合環からなる置換もしくは非置換のヘテロ芳香族環基を形成し、ここに、前記ヘテロ芳香族環基は、前記それらが結合する窒素原子以外に、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選択されるヘテロ原子を環内に含有してもよく、
もし、前記ヘテロ芳香族環が置換されている場合は、その置換基は、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基からなる群から選択される。]で示されるアミノ基、N-置換アミノ基もしくはN,N-二置換アミノ基である。}で示されるN,N-ジ-置換フェニルアミノ基と、
を反応させるステップを含む製造方法により、式(VII)で示されるで示される2,2’,7,7’-テトラキス(N,N-ジ-p-置換フェニルアミン)-9,9’-スピロビフルオレンを効率よく合成する。
【0030】
本発明による有用な前駆体である式(XI)で示されるオクタブロモ置換体は、例えば、式(XV):
【化16】
で示される2,2’,7,7’-テトラブロモ-9,9’-スピロビフルオレンと、所望する置換基を有するN,N-ジ-置換フェニルアミンとを反応させることで得ることができる。
【0031】
また、所望する置換基を有するN,N-ジ-(置換フェニル)アミンは、式(XVI):
【化17】
(式中、
R
21、R
22、R
24、R
25、R
26、R
27、R
29およびR
30は、独立して、水素原子、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基、置換もしくは非置換のC
1~3アルキル基、置換もしくは非置換のC
1~3アルコキシ基、もしくは窒素含有芳香族環基であり、
もし、前記C
1~3アルキル基、前記C
1~3アルコキシ基、もしくは前記窒素含有芳香族環基が置換されている場合は、その置換基は、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基からなる群から選択される。)で示される。
【0032】
すなわち、式(XV)で示される2,2’,7,7’-テトラブロモ-9,9’-スピロビフルオレンと、式(XVI)で示されるN,N-ジ-置換フェニルアミンとを反応させることで得られる、2,2’,7,7’-テトラキス(N,N-ジ-置換フェニルアミン)-9,9’-スピロビフルオレンにおいて、N,N-ジ-置換フェニルアミノ基のフェニル環上のp位をブロモ化することで、式(XI)で示されるオクタブロモ置換体を合成する。
【0033】
このような2,2’,7,7’-テトラキス(N,N-ジ-p-ブロモ置換フェニルアミン)-9,9’-スピロビフルオレンにおいて、R
21、R
22、R
24、R
25、R
26、R
27、R
29およびR
30がいずれも水素原子のとき、式(XIa):
【化18】
で示される2,2’,7,7’-テトラキス(N,N-ジ-p-ブロモフェニルアミン)-9,9’-スピロビフルオレンである。
【発明の効果】
【0034】
太陽光吸収体としてヨウ化鉛メチルアンモニウム(NH3CH3PbI3)のペロブスカイト結晶を用いるペロブスカイト太陽電池において、本発明の正孔輸送材料を用いれば、太陽電池光電気特性を不安定にするドーパントの非存在下でも十分な光電変換効率および高い耐久性を有するペロブスカイト太陽電池を提供することができる。
さらに、本発明において開発された前駆体を用いた新たな合成ルートであれば、N,N-ジ-p-置換フェニルアミノ基を含有する正孔輸送材料の合成の効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】ペロブスカイト結晶を形成するための足場としてmp-TiO
2を採用するn-i-p型(順方向型)構造の太陽電池の概略断面図。
【
図2】本発明の正孔輸送材料を用いた太陽電池における、ドーパント有無による変換n効率経時変化の比較。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明は、特に、ペロブスカイト結晶を形成するための足場としてmp-TiO
2を採用するn-i-p型(順方向型)構造の太陽電池(
図1)において、spiro-OMeTADを超える特性の正孔輸送材料を提供する。
【0037】
spiro-OMeTADのN,N-ジ-置換フェニルアミノ基のフェニル環上の置換基の種類および置換位置を変更して最高被占軌道準位 (EHOMO)を調整した、種々のspiro-OMeTAD類縁体をHTMとして使用するペロブスカイト太陽電池を作製し、LiTFSIやTBPなどのドーパントの有無による光電変換効率 (PCE)を測定した。
【0038】
[正孔輸送材料]
式(III)で示される正孔輸送材料 (HTM)には、対照となる従来の正孔輸送材料spiro-OMeTADが含まれる。本発明では、spiro-OMeTADのN,N-ジ-(p-メトキシフェニル)アミノ基のフェニル環上の置換基であるメトキシ基を、ジメチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、メチルプロピルアミノ基、メチルイソプロピルアミノ基、メチルブチルアミノ基、メチルイソブチルアミノ基、メチルtert-ブチルアミノ基、メチルsec-ブチルアミノ基、ジエチルアミノ基、エチルプロピルアミノ基、エチルイソプロピルアミノ基、エチルブチルアミノ基、エチルイソブチルアミノ基、エチルtert-ブチルアミノ基、エチルsec-ブチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、プロピルブチルアミノ基、プロピルイソブチルアミノ基、プロピルtert-ブチルアミノ基、プロピルsec-ブチルアミノ基、イソプロピルブチルアミノ基、イソプロピルイソブチルアミノ基、イソプロピルtert-ブチルアミノ基、イソプロピルsec-ブチルアミノ基、ジブチルアミノ基、ブチルイソブチルアミノ基、ブチルtert-ブチルアミノ基、ブチルsec-ブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、イソブチルtert-ブチルアミノ基、イソブチルsec-ブチルアミノ基、ジtert-ブチルアミノ基、tert-ブチルsec-ブチルアミノ基もしくはジsec-ブチルアミノ基からなる群から選択されるN,N-ジアルキル置換アミノ基に変更したN,N-ジ-(p位-置換フェニル)アミノ基;または、ヒドロキシル基、C1~4アルコキシ基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基からなる群から選択される1もしくは複数の置換基で置換された、もしくは非置換のピロリジニル基、ピラゾリジニル基、オキサゾリジニル基、チアゾリジニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、モルホリニル基、チオモルホリニル基、アゼピニル基、チアゼピニル基、アゾカニル基からなる群から選択される有機基のいずれかに変更したN,N-ジ-(置換ヘテロシクロアルキル)アミノ基に変更したN,N-ジ-(p位-置換フェニル)アミノ基を含むHTMが有効である。さらに、N,N-ジ-(p位-置換フェニル)アミノ基のフェニル環のm位が、ニトロ基、シアノ基からなる群から選択される電位吸引性置換基で置換されたN,N-ジ-(p位,m位-ジ-置換フェニル)アミノ基を含むHTMが有効である。
【0039】
一つの具体例として、本発明の正孔輸送材料 (HTM)は、式(III):
【化19】
〔式中、
4つのR
0は、同一で、式(IV):
【化20】
{式中、
R
1からR
10のうち少なくとも1つは、独立して、式(V):
【化21】
[式中、
R
11およびR
12は、独立して、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、フェニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基、もしくは、式(VI):
【化22】
(式中、
R
13は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、iso-プロポキシ基、n-ブトキシ基、iso-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、N-モノフェニルアミノ基、N,N-ジフェニルアミノ基であるか;または、
R
11とR
12は、それらが結合する窒素原子と一緒になって、ピペリジノ基、モルホリノ基もしくはチオモルホリノ基を形成し、;または、
R
11とR
12は、それらが結合する窒素原子と一緒になって、ピロリル基、2,5-ジメチルピロリル基、ピリジニル基、カルバゾリル基、4,4’-ジメトキシカルバゾリル基を形成する。]で示されるアミノ基、N-置換アミノ基もしくはN,N-二置換アミノ基であり、
R
1からR
10のうち、上記式(V)で示されるN-置換アミノ基もしくはN,N-二置換アミノ基ではない置換基は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、iso-プロポキシ基、n-ブトキシ基、iso-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、スルホニル基、シアノ基、2-ピロリル基、3-ピロリル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基もしくはトリフルオロメチル基であり、記号*は結合点を意味する。}で示されるN,N-ジ-置換フェニルアミノ基である。〕で示される。
【0040】
例えば、非特許文献3の
図7には、ヨウ化鉛メチルアンモニウム (NH
3CH
3PbI
3; MAPbI
3: 本明細書でのMAPIに相当)を含む数種のペロブスカイト、およびspiro-OMeTADを含む数種のHTMにつき、エネルギーレベルを比較する概略図が描写され、非特許文献3の表2および3には、固体状態で測定された各材料のPCE [%]やHOMO [eV]などの物性値が開示されている。
本発明において、各材料の物性値は溶液状態で測定した値で議論するので、非特許文献3に記載された物性値を溶液状態で測定した値に換算する必要がある。非特許文献3において、固体状態で測定されたspiro-OMeTADの最高被占軌道準位 (HOMOレベル)は-5.22 eVであった。一方、本発明において、<測定方法>の項に示すとおり、溶液状態で測定されたspiro-OMeTAD(正孔輸送材料1)の最高被占軌道準位 (E
HOMO)は、表1に示すように、-4.81 eVであった。
そこで、非特許文献3に開示されるHTMのHOMOレベルの値を+0.4 eV浅い側にシフトした値を、溶液状態で測定された最高被占軌道準位 (E
HOMO)と仮定する。
【0041】
そうすると、3種のペロブスカイトのHOMO値に相当する仕事関数は、それぞれ、-5.00, -5.03, -5.25 eVと換算される。ペロブスカイトからHTMに正孔が移動するためには、HTMのHOMOレベルがわずかに浅い値である必要がある。したがって、組み合わせて用いるペロブスカイトの種類によるが、例えば、MAPIと共に用いるとき、本発明のHTMの最高被占軌道準位 (EHOMO)は、例えば、-4.85 eV程度までが適していると考えられる。
次に、非特許文献3の表2および3において、HTMのHOMOレベルとPCEとの相関性をみると、溶液換算値のHOMOレベルが-4.60 eVより深くなると、PCEが向上する傾向があった。
【0042】
したがって、本発明のHTMは、より具体的には、0.1Mテトラエチルアンモニウム過塩素酸塩(TEAP)支持電解質溶液(塩化メチレン)に溶解させ、電気化学アナライザー(ALS/CH Instruments 610B)を用い、DPV(微分パルスボルタンメトリー)を測定し、基準物質のフェロセンを-4.80eVとして測定したとき、最高被占軌道準位 (E
HOMO)が-4.60 eV以下であることが好ましく、例えば、式(III):
【化23】
[式中、
4つのR
0は、同一で、例えば、下式:
【化24】
【化25】
からなる群から選択されるN,N-ジ-置換フェニルアミノ基である。]で示されるスピロビフロオレン化合物が好ましい。また、式(IV)中、R
3およびR
8のうち少なくともひとつが、式(V)で示されるアミノ基、N-置換アミノ基またはN,N-二置換アミノ基であることが、より好ましい。すなわち、本発明のHTMは、式(III)中、4つのR
0は、同一で、例えば、下式:
【化26】
【化27】
からなる群から選択されるN,N-ジ-p-置換フェニルアミノ基である。]で示されるスピロビフロオレン化合物である。
【0043】
式(III)中、R0が、N,N-ジ-(p-ジメチルアミノフェニル)アミノ基であるスピロビフオレン化合物をp-i-n型(逆方向型)構造の太陽電池に使用した例(非特許文献2)があるが、本発明のようにn-i-p型(順方向型)構造の太陽電池において、上記のようなスピロビフロオレン化合物をドーパントフリーの正孔輸送層に用いても高い光電変換効率を示すことは知られていない。
【0044】
本発明は、透明電極、電子輸送層、メソポーラスTiO2層、前記メソポーラスTiO2層を足場とするペロブスカイト層、正孔輸送層および金属電極を、この順番で接合されて構成されたn-i-p型構造の太陽電池であって、前記正孔輸送層が、本発明による前記正孔輸送材料のいずれかを含む、ペロブスカイト太陽電池を提供する。
【0045】
高効率の光電変換素子を得るために有用なペロブスカイトの結晶は、3次元構造をとり、組成式:ABX3(式中、Aはアミン化合物またはアルカリ金属元素の1価陽イオンであり、Bは金属元素の2価陽イオンであり、Xはハロゲン元素の1価陰イオンである)で表されることが知られている。
【0046】
前記組成式中、Aは、メチルアンモニウム(CH3NH3
+)およびホルムアミジニウム(HC(NH2)2
+)などの有機アンモニウム、またはリチウム(Li+)、ナトリウム(Na+)、カリウム(K+)、ルビジウム(Rb+)およびセシウム(Cs+)などのアルカリ金属イオンから選ばれる少なくとも1つの1価陽イオンであり、Bは、マグネシウム(Mg)、スズ(Sn)および鉛(Pb)から選ばれる少なくとも1つの金属元素の2価陽イオンであり、Xは、塩素(Cl)、臭素(Br)およびヨウ素(I)から選ばれる少なくとも1つである。
【0047】
前記ペロブスカイトが、MAPbI3(ヨウ化鉛メチルアンモニウム)、Cs0.05(FA0.85MA0.15)0.95Pb(I0.89Br0.11)3、またはFAPbI3(ヨウ化鉛ホルムアミジニウム)であることが好ましい。
【0048】
本発明の正孔輸送材料を使用すれば、正孔輸送層にリチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド (LiTFSI)や4-tert-ブチルピリジン (4-tert-butyl pyridine; TBP)、FK209(トリス(2-(1H-ピラゾール-1-イル)-4-tert-ブチルピリジン)コバルト(III)トリス[ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド])、F4TCNQ(テトラフルオロテトラシアノキノジメタン)、N(PhBr)3SbCl6などのドーパントを添加する必要がないので、安定した太陽電池特性を示すことができる。
よって、本発明のペロブスカイト太陽電池において、正孔輸送層が本発明による前記正孔輸送材料のみからなる。
【0049】
本発明の太陽電池の製造方法は、
フッ素ドープ酸化スズをコートした透明電極のフッ素ドープ酸化スズコート上に、アモルファス緻密酸化チタンを成膜して、電子輸送層を形成する工程;
前記電子輸送層上にメソポーラス酸化チタン層を形成する工程;
前記メソポーラス酸化チタン層上に、ペロブスカイトの溶液を適用することによってペロブスカイト層を形成する工程;
前記ペロブスカイト層上に、正孔輸送材料の溶液を適用することによって正孔輸送層を形成する工程
を含む。
【0050】
ひとつの具体例として、本発明の太陽電池の製造方法において、前記正孔輸送材料が、式(IV)で示されるN,N-ジ-置換フェニルアミノ基において、
{式中、
R
1からR
10のうち少なくとも1つは、独立して、式(V):
【化28】
[式中、
R
11は、水素原子、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~4アルキル基、置換もしくは非置換のフェニル基、窒素含有ヘテロ芳香族基、もしくは、式(VI):
【化29】
(式中、
R
13は、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
2~4アルキル基、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
2~4アルコキシ基、アミノ基、もしくは置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
2~4アルキル基、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
2~4アルコキシ基、もしくは置換もしくは非置換のフェニル基で置換されたアミノ基、N-置換アミノ基もしくはN,N-二置換アミノ基である。)で表されるアミド結合を有する有機基であって、かつ、
R
12は、水素原子、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
2~4アルキル基、置換もしくは非置換のフェニル基、窒素含有ヘテロ芳香族基、もしくは、式(VI)で表されるアミド結合を有する有機基であり、
もし、前記直鎖状もしくは分岐鎖状C
2~4アルキル基、前記直鎖状もしくは分岐鎖状C
2~4アルコキシ基、もしくは前記フェニル基が置換されている場合は、その置換基は、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基、トリフルオロメチル基からなる群から選択され;または、
R
11とR
12は、それらが結合する窒素原子と一緒になって、置換もしくは非置換の5~8員のヘテロシクロアルキル基を形成し、ここに、前記ヘテロシクロアルキル基は、前記それらが結合する窒素原子以外に、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選択されるヘテロ原子を環内に含有してもよく、
もし、前記5~8員のヘテロシクロアルキル基が置換されている場合は、その置換基は、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基、トリフルオロメチル基からなる群から選択され、もしくは、いずれか2辺に置換もしくは非置換のベンゼン環が縮合していてもよく;または、
R
11とR
12は、それらが結合する窒素原子と一緒になって、単環若しくは縮合環からなる置換もしくは非置換のヘテロ芳香族環基を形成し、ここに、前記ヘテロ芳香族環基は、前記それらが結合する窒素原子以外に、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選択されるヘテロ原子を環内に含有してもよく、
もし、前記ヘテロ芳香族環が置換されている場合は、その置換基は、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基、トリフルオロメチル基からなる群から選択される。]で示されるアミノ基、N-置換アミノ基もしくはN,N-二置換アミノ基であり、
R
1からR
10のうち、上記式(V)で示されるアミノ基、N-置換アミノ基もしくはN,N-二置換アミノ基ではない置換基は、独立して、水素原子、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基、トリフルオロメチル基、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~4アルキル基、置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~4アルコキシ基、もしくは窒素含有芳香族環基であり、
もし、前記直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~4アルキル基、前記直鎖状もしくは分岐鎖状C
1~4アルコキシ基、もしくは前記窒素含有芳香族環基が置換されている場合は、その置換基は、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基、トリフルオロメチル基からなる群から選択され、記号*は結合点を意味する。}で示されるN,N-ジ-置換フェニルアミノ基である。〕で示される正孔輸送材であって、
正孔輸送材料の溶液が、非ハロゲン溶媒中の前記正孔輸送材料溶液である。
【0051】
より具体的には、ひとつの具体例として、前記式中、R11は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基またはtert-ブチル基であり、R12は、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基またはtert-ブチル基であり、前記非ハロゲン溶媒は、限定されないが、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、iso-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコールなどから選択されるアルコール類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテルなどから選択されるエーテル類;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、4-メチルテトラヒドロピランなどから選択される環状エーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどから選択される、前記アルコールと、酢酸などから選択される有機酸とのエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどから選択されるケトン類;トルエン、キシレン、メシチレン、アニソールなどから選択される芳香族炭化水素類;アセトニトリルなどから選択されるニトリル類などからなる群から選択される。
【実施例】
【0052】
<正孔輸送材料1>
本発明の正孔輸送材料1は、従来の正孔輸送材料spiro-OMeTADであり、特許文献2を参照して合成した。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.35(d,J=8.1 Hz,4H),6.92-6.88(m,16H),6.80(d,J=2.2 Hz,4H),6.78-6.73(m,16H),6.55(d,J=2.2 Hz,4H),3.77(s,24H)
【化30】
【0053】
<正孔輸送材料2>
本発明の正孔輸送材料2は、反応式(1)により合成した。
【化31】
【0054】
特許文献3を参照して、化合物51を合成した。
化合物51(2.3 g、3.6 mmol、1.0当量)、化合物52(東京化成工業、4.6 g、18.1 mmol、5.0当量)、酢酸パラジウム(II) (東京化成工業、0.03 g、0.1 mmol、0.04当量)、トリ-tert-ブチルホスフィン(富士フイルム和光純薬、0.06 g、0.3 mmol、0.08当量)、ナトリウムtert-ブトキシド(東京化成工業、2.2 g、22.9 mmol、6.4当量)、トルエン25 gを仕込み、100℃に加熱昇温し反応を実施した。反応終了後、室温まで冷却し、水18 gを加え、1時間撹拌後、水層を除去した。有機層を水18 gで2度洗浄した。有機層を60℃で減圧濃縮した後、カラムクロマトグラフィーで精製し、正孔輸送材料2(1.2 g、収率24%)を得た。
1H NMR(300 MHz,THF-d8)δ7.28(d,J=8.4Hz,4H),6.85(d,J=8.4Hz, 16H), 6.67(dd, J=8.2, 1.3Hz, 4H),6.60(d, J=8.4Hz,16H),6.52(d, J=1.8Hz, 4H),2.86(s, 48H)
【0055】
<正孔輸送材料3>
反応式(1)において、化合物52に代えて、化合物53を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料3(1.4 g; 収率30%)を得た。なお、化学構造式中、結合のみで示される部位は炭化水素基を示す(以下、同様)。
1H NMR(300 MHz,DMSO-d6)δ7.42(d,J=8.1Hz,4H), 6.83-6.78(m,24H),6.66-6.61(m,12H),6.18(s,4H),3.70(s,12H),2.85(s,24H)
【化32】
【0056】
<正孔輸送材料4>
反応式(1)において、化合物52に代えて、化合物54を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料4(2.5 g; 収率47%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ8.55(d,J=4.6,1.6Hz,8H),7.49(d,J=8.1Hz,4H),7.40-7.37(m,16H),7.03-6.93(m,20H),6.83(d,J=1.8Hz,4H),6.65(d,J=9.2Hz,8H),2.90(s,24H)
【化33】
【0057】
<正孔輸送材料5>
反応式(1)において、化合物52に代えて、化合物55を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料5(0.2 g; 収率5%)を得た。
1H NMR(300 MHz,DMSO-d6)δ7.39(d,J=8.1Hz,4H),6.85-6.77(m,16H),6.67-6.60(m,12H),6.48(d,J=8.4Hz,8H),6.15(d,J=1.8Hz,4H),5.01(s,8H),3.70(s,12H)
【化34】
【0058】
<正孔輸送材料6>
反応式(1)において、化合物52に代えて、化合物56を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料6(1.2 g; 収率19%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ8.05(d,J=7.7Hz,8H),7.57(d,J=8.1Hz,4H),7.36-7.13(m,32H),7.04-6.99(m,20H),6.92(d,J=2.1Hz,8H),6.52(d,J=8.8Hz,8H),2.74(s,24H)
【化35】
【0059】
<正孔輸送材料7>
反応式(1)において、化合物52に代えて、化合物57を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料7(0.8 g; 収率15%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.43(d,J=8.1Hz,4H),7.01(d,J=8.8Hz,8H),6.93-6.86(m,20H),6.78(d,J=1.8Hz,4H),6.64(d,J=9.2Hz,8H),2.91(s,24H),1.99(s,24H)
【化36】
【0060】
<正孔輸送材料8>
反応式(1)において、化合物52に代えて、化合物58を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料8を得た。
【化37】
【0061】
<正孔輸送材料9>
反応式(1)において、化合物52に代えて、化合物59を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料9を得た。
【化38】
【0062】
<正孔輸送材料10>
本発明の正孔輸送材料10は、反応式(2)により合成した。
【化39】
【0063】
特許文献4を参照して、化合物60を合成した。
化合物51(3.0 g、4.7 mmol、1.0当量)、化合物60(5.8 g、22.8 mmol、4.8当量)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) (東京化成工業、0.2 g、0.2 mmol、0.04当量)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2',4',6'-トリイソプロピルビフェニル(Sigma-Aldrich、0.4 g、0.8 mmol、0.16当量)、ナトリウムtert-ブトキシド(東京化成工業、2.9 g、30.4 mmol、6.4当量)、キシレン80 gを仕込み、100℃に加熱昇温し反応を実施した。反応終了後、室温まで冷却し、水80 gを加え、1時間撹拌後、水層を除去した。有機層を水80 gで2度洗浄した。有機層を60℃で減圧濃縮した後、カラムクロマトグラフィーで精製し、正孔輸送材料10(2.9 g、収率45%)を得た。
1H NMR(300MHz, CDCl3)δ7.39(d,J=8.4Hz,4H),7.02(t,J=8.1Hz,8H),6.87(dd,J=8.2,2.0Hz,4H),6.77(d,J=2.2Hz,4H),6.43(t,J=2.2Hz,8H),6.35-6.30(m,16H),2.77(s,48H)
【0064】
<正孔輸送材料11>
本発明の正孔輸送材料11は、反応式(3)および反応式(4)により合成した。
【化40】
【0065】
化合物61(東京化成工業、13.3 g、66.2 mmol、1.0当量)、化合物62(東京化成工業、8.8 g、81.5 mmol、1.2当量)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) (東京化成工業、1.1 g、1.2 mmol、0.02当量)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2',4',6'-トリイソプロピルビフェニル(Sigma-Aldrich、2.2 g、4.7 mmol、0.07当量)、炭酸セシウム(東京化成工業、57.6 g、176.8 mmol、2.7当量)、ジメトキシエタン140 gを仕込み、80℃に加熱昇温し反応を実施した。反応終了後、室温まで冷却し、水200 gを加え、酢酸エチル200 gで抽出した。有機層を水200 gで2度洗浄した。有機層を60℃で減圧濃縮した後、カラムクロマトグラフィーで精製し、化合物63(14.7 g、収率89%)を得た。
1H NMR(300 MHz,DMSO-d6)δ7.71(s,1H),7.09-6.93(m,5H),6.73(d,J=8.4Hz,2H),2.84(s,6H),2.75(s,6H)
【化41】
【0066】
化合物51(4.7 g、7.4 mmol、1.0当量)、化合物63(10.0 g、35.7 mmol、4.8当量)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) (東京化成工業、0.07 g、0.07 mmol、0.01当量)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2',4',6'-トリイソプロピルビフェニル(Sigma-Aldrich、0.1 g、0.3 mmol、0.04当量)、ナトリウムtert-ブトキシド(東京化成工業、4.3 g、44.7 mmol、6.0当量)、キシレン80 gを仕込み、100℃に加熱昇温し反応を実施した。反応終了後、室温まで冷却し、水80 gを加え、1時間撹拌後、析出した固体をろ取した。カラムクロマトグラフィーで精製し、正孔輸送材料11(9.7 g、収率91%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.39(d,J=8.1Hz,4H),7.06-7.03(m,8H),6.89(d,J=8.8Hz,8H),6.81(dd,J=8.4,1.8Hz,4H),6.72(d,J=8.4Hz,4H),6.63(d,J=8.8Hz,8H),6.52(d,J=1.8Hz,4H),2.92(s,48H)
【0067】
<正孔輸送材料12>
反応式(4)において、化合物63に代えて、化合物64を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料12(9.5 g; 収率84%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.46(d,J=8.1Hz,4H),7.10-7.06(m,16H),6.84-6.79(m,12H),6.44(s,4H),2.99(s,48H)
【化42】
【0068】
<正孔輸送材料13>
反応式(4)において、化合物63に代えて、化合物65を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料13(8.6 g; 収率76%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.42(d,J=8.1Hz,4H),7.07-7.01(m,8H),6.92(d,J=2.6Hz,4H),6.88-6.75(m,16H),6.41(d,J=2.2Hz,4H),2.96(s,24H),2.95(s,24H)
【化43】
【0069】
<正孔輸送材料14>
反応式(4)において、化合物63に代えて、化合物66を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料14(4.6 g; 収率41%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.39(d,J=8.4Hz,4H),6.96(d,J=8.8Hz,8H),6.83(dd,J=9.0,3.1Hz,8H),6.77-6.70(m,12H),6.39(d,J=1.8Hz,4H),2.92(s,48H)
【化44】
【0070】
<正孔輸送材料15>
反応式(4)において、化合物63に代えて、化合物67を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料15(0.2 g; 収率6%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.38(d,J=8.1Hz,4H),6.98(dd,J=9.2,3.7Hz, 8H),6.86-6.69(m,20H),6.38(d,J=1.8Hz,4H),3.29(q,J=7.1Hz,16H),2.89(s,24H),1.13(t,J=7.1Hz,24H)
【化45】
【0071】
<正孔輸送材料17>
反応式(4)において、化合物63に代えて、化合物68を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料17(1.8 g; 収率29%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.36(d,J=8.1Hz,4H),7.00(d,J=9.2,8H),6.79(dd,J=9.2,3.3Hz,8H),6.69(dd,J=10.3,2.6Hz ,12H),6.36(d,J=2.2Hz,4H),3.29(q,J=7.0Hz,32H),1.12(t,J=7.0Hz 48H)
【化46】
【0072】
<正孔輸送材料22>
反応式(4)において、化合物63に代えて、化合物69を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料22(1.1 g; 収率33%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.41(d,J=8.1Hz,4H),7.08-7.00(m,8H),6.92
(d,J=2.9Hz,4H),6.82-6.75(m,16H),6.43(d,J=1.8Hz,4H),3.33(q,J=7.0Hz,16H),3.25(q,J=7.1Hz,16H),1.16(t,J=7.0Hz,24H),1.10(t,J=7.0Hz,24H)
【化47】
【0073】
<正孔輸送材料23>
反応式(4)において、化合物63に代えて、化合物70を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料23(4.7 g; 収率43%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.40(d,J=8.1Hz,4H),7.03(dd,J=9.2,2.9Hz,4H),6.97-6.91(m,8H),6.79(dd,J=8.4,2.2Hz,4H),6.70(d,J=9.2Hz,4H),6.48(d,J=2.2Hz,4H),6.43-6.35(m,8H),2.94(s,24H),2.89(s,24H)
【化48】
【0074】
<正孔輸送材料24>
反応式(4)において、化合物63に代えて、化合物71を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料24(1.7 g; 収率15%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.45(d,J=8.1Hz,4H),7.15(d,J=2.6Hz,4H),7.07(dd,J=9.2,2.6Hz,4H),6.81-6.76(m,12H),6.65-6.61(m,8H),6.51(d,J=1.8Hz,4H),2.98(s,24H),2.80(s,24H)
【化49】
【0075】
<正孔輸送材料25>
反応式(4)において、化合物63に代えて、化合物72を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料25(5.3 g; 収率43%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.42(d,J=8.1Hz,4H),7.19-7.12(m,8H),7.02(dd,J=8.8,2.6Hz,4H),6.89-6.83(m,12H),6.75(dd,J=8.4,2.2Hz,4H),6.62(d,J=1.5Hz,4H),2.67(s,48H),2.19(s,12H)
【化50】
【0076】
<正孔輸送材料26>
反応式(4)において、化合物63に代えて、化合物73を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料26(3.2 g; 収率27%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.41(d,J=8.1Hz,4H),7.10-7.04(m,8H),6.90(d,J=8.8Hz,8H),6.84-6.72(m,16H),6.51(d,J=1.8Hz,4H),3.85(t,J=4.6Hz,16H),3.11(t,J=4.6Hz,16H),2.95(s,24H)
【化51】
【0077】
<正孔輸送材料29>
反応式(4)において、化合物63に代えて、化合物74を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料29(3.1 g; 収率22%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.48(d,J=8.4Hz,4H),7.28-7.13(m,16H),6.92(dd,J=8.1,1.8Hz,4H),6.84(d,J=8.8Hz,16H),6.64(s,8H),6.57(d,J=1.8Hz,4H),1.50(s,72H)
【化52】
【0078】
<正孔輸送材料30>
反応式(4)において、化合物63に代えて、化合物75を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料30(0.7 g; 収率7%)を得た。
1H NMR(300 MHz,DMSO-d6)δ9.86(s,8H),7.53(d,J=8.1Hz,4H),7.47(d,J=8.4Hz,16H),6.84(d,J=8.4Hz,16H),6.75(d,J=9.5Hz,4H),6.29(s,4H),2.01(s,24H)
【化53】
【0079】
<正孔輸送材料31>
反応式(4)において、化合物63に代えて、化合物76を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料31(0.9 g; 収率6%)を得た。
1H NMR(300 MHz,DMSO-d6)δ8.64(s,8H),8.59(s,8H),7.54(d,J=8.4Hz,4H),7.45-7.37(m,32H),7.25(t,J=7.3Hz,16H),6.96-6.90(m,24H),6.78(d,J=8.8Hz,4H),6.32(s,4H)
【化54】
【0080】
<正孔輸送材料32>
本発明の正孔輸送材料32は、反応式(5)および反応式(6)により合成した。
【化55】
【0081】
化合物77(東京化成工業、15.0 g、62. 5mmol、1.0当量)、化合物78(東京化成工業、13.4 g、75.0 mmol、1.2当量)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) (東京化成工業、0.6 g、0.6 mmol、0.01当量)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2',4',6'-トリイソプロピルビフェニル(Sigma-Aldrich、1.2 g、2.5 mmol、0.04当量)、ナトリウムtert-ブトキシド(東京化成工業、9.6 g、99.9 mmol、1.6当量)、キシレン400 gを仕込み、100℃に加熱昇温し反応を実施した。反応終了後、室温まで冷却し、水400 gを加え、1時間撹拌後、水層を除去した。有機層を水200 gで2度洗浄した。有機層を60℃で減圧濃縮した後、カラムクロマトグラフィーで精製し、化合物79(15.0g、収率71%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ6.83-6.96(m,8H),3.86(t,J=4.8Hz,4H),3.06(dd,J=9.9,5.5Hz,8H),1.68-1.76(m,4H),1.51-1.58(m, 2H)
【化56】
【0082】
化合物51(5.0 g、7.9 mmol、1.0当量)、化合物79(12.9 g、38.0 mmol、4.8当量)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) (東京化成工業、0.3 g、0.3 mmol、0.04当量)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2',4',6-トリイソプロピルビフェニル(Sigma-Aldrich、0.6 g、1.3 mmol、0.16当量)、ナトリウムtert-ブトキシド(東京化成工業、4.9 g、50.6 mmol、6.4当量)、キシレン130 gを仕込み、100℃に加熱昇温し反応を実施した。反応終了後、室温まで冷却し、水130 gを加え、1時間撹拌後、水層を除去した。有機層を水70 gで2度洗浄した。有機層を60℃で減圧濃縮した後、カラムクロマトグラフィーで精製し、正孔輸送材料32(9.8 g、収率75%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.34(d,J=8.1Hz,4H),6.73-6.94(m,36H),6.61(d, J = 1.8Hz, 4H),3.84(t,J = 4.6Hz,16H),3.05-3.08(m,32H),1.67-1.74(m,16H),1.51-1.58(m,8H)
【0083】
<正孔輸送材料33>
本発明の正孔輸送材料33は、反応式(7)および反応式(8)により合成した。
【化57】
【0084】
化合物80(東京化成工業、10 g、41.3 mmol、1.0当量)、化合物81(東京化成工業、8.8 g、49.5 mmol、1.2当量)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) (東京化成工業、0.4 g、0.4 mmol、0.01当量)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2',4',6'-トリイソプロピルビフェニル(Sigma-Aldrich、0.8 g、1.6 mmol、0.04当量)、ナトリウムtert-ブトキシド(東京化成工業、6.5 g、57.8 mmol、1.6当量)、キシレン250 gを仕込み、110℃に加熱昇温し反応を実施した。反応終了後、室温まで冷却し、水100 gを加え、1時間撹拌後、水層を除去した。有機層を水100 gで2度洗浄した。有機層を60℃で減圧濃縮した後、カラムクロマトグラフィーで精製し、化合物82(7.6g、収率54%)を得た。
1H NMR(300 MHz,DMSO-d6)δ7.48(s,1H),6.81-6.91(m,8H),3.70-3.73(m,8H),2.95-2.98(m,8H)
【化58】
【0085】
化合物51(2.7 g、4.3 mmol、1.0当量)、化合物82(7.0 g、20.5 mmol、4.8当量)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) (東京化成工業、0.2 g、0.2 mmol、0.04当量)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2',4',6-トリイソプロピルビフェニル(Sigma-Aldrich、0.3 g、0.7 mmol、0.16当量)、ナトリウムtert-ブトキシド(東京化成工業、2.6 g、27.3 mmol、6.4当量)、キシレン130 gを仕込み、100℃に加熱昇温し反応を実施した。反応終了後、室温まで冷却し、水70 gを加え、1時間撹拌後、水層を除去した。有機層を水70 gで2度洗浄した。有機層を60℃で減圧濃縮した後、カラムクロマトグラフィーで精製し、正孔輸送材料33(1.9 g、収率27%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.34(d,J=8.1Hz,4H),6.92(d,J=8.8Hz,16H),6.74-6.80(m,20H),6.60(s,4H),3.82-3.86(m,32H),3.06-3.10(m,32H)
【0086】
<正孔輸送材料34>
反応式(8)において、化合物82に代えて、化合物83を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料34(1.5 g; 収率22%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.70(s,4H),7.43(d,J=8.4Hz,4H),7.31(d,J=8.8Hz,8H),6.93-6.76(m,28H),6.63(d,J=1.8Hz,4H),3.84(t,J=4.8Hz,16H),3.09(t,J=4.6Hz,16H),2.16(d,J=9.5Hz,12H)
【化59】
【0087】
<正孔輸送材料35>
反応式(8)において、化合物82に代えて、化合物84を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料35(0.8 g; 収率12%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.36(d,J=8.1Hz,4H),6.91-6.74(m,36H),6.60(s,4H),3.41(t,J=4.8Hz,32H),2.76(t,J=4.9Hz,32H)
【化60】
【0088】
<正孔輸送材料36>
反応式(8)において、化合物82に代えて、化合物85を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料36(2.9 g; 収率29%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.51(d,J=8.1Hz,4H),7.14(t,J=7.7Hz,32H),7.04(dd,J=8.1,1.8Hz,4H),6.96(d,J=7.7Hz,32H),6.89(t,J=7.3Hz,16H),6.78(s,32H),6.57(d,J=2.2Hz,4H)
【化61】
【0089】
<正孔輸送材料37>
反応式(8)において、化合物82に代えて、化合物86を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料37(3.4 g; 収率34%)を得た。
1H NMR(300 MHz,THF-d8)δ7.58(d,J=8.1Hz,4H),7.12-6.75(m,88H),6.71(s,16H),6.60(t,J=2.0Hz,4H),6.55(d,J=1.8Hz,4H),6.39(ddd,J=16.2,8.0,1.9Hz,8H)
【化62】
【0090】
<正孔輸送材料38>
反応式(4)において、化合物63に代えて、化合物87を用いて、同様の操作によって、正孔輸送材料38(1.2 g; 収率28%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ8.55(dd,J=4.6,1.6Hz,8H),7.48(d,J=8.1,4H),7.39-7.37(m,16H),6.97-6.95(m,20H),6.85-6.84(m,4H),6.61-6.58(m,8H),3.29(q,J=7.1Hz,16H),1.12(t,J=7.0Hz,24H)
【化63】
【0091】
[太陽電池の作製]
実施例1~40
通常の製造工程を用いて、
図1に示す構造のペロブスカイト太陽電池1を作製した。
フッ素ドープ酸化スズ(FTO)をコートしたFTO透明電極12付のガラス板11を準備した。
【0092】
FTO膜に酸素プラズマ処理を行い、この上にスプレー熱分解法によりアモルファス緻密TiO2 (compact TiO2またはc-TiO2)を成膜して電子輸送層13を形成した。次に、酸化チタンナノ粒子コロイドをスピンコートし(2,000 rpmにて30秒間)、その後450℃で30分間加熱することによってメソポーラスTiO2 (mp-TiO2)層14を形成した。
【0093】
このmp-TiO2層を足場として、ペロブスカイト層を形成する。
まず、ヨウ化鉛(PbI2)とヨウ化メチルアンモニウム(CH3NH3I)とをモル比1.575:1.5で混合し、DMFとDMSOの混合溶媒(体積比3:1)に溶解して、ペロブスカイトMAPbI3の溶液を調製した。
mp-TiO2層の上にスピンコートによりペロブスカイト層15を形成した。溶液の滴下後、15秒間静止し、2秒間かけて5,000 rpmに加速し、5,000 rpmにて5秒間維持し、1秒間で静止させた。また、スタートから20秒後に追加のクロロベンゼンを200μL滴下した。
その後、得られた積層体を40℃にて5分間、60℃にて5分間、70℃にて5分間、100℃にて10分間、120℃にて10分間の温度プロファイルにて熱アニール処理を行った。
【0094】
次に、各正孔輸送材料1~40、ドーパントとしてLiFTSI 0.69モル当量およびTBP 2.96モル当量を有機溶媒に溶解して、HTM溶液を調製した。ドーパントフリーの場合は、各正孔輸送材料のみを有機溶媒に溶解して、ドーパントフリーHTM溶液を調製した。
正孔輸送材料1、2、3を用いる場合、クロロベンゼン中71mMの溶液を調製した。正孔輸送材料10、31、35を用いる場合、クロロベンゼン中18mMの溶液を調製した。正孔輸送材料29を用いる場合、クロロベンゼン中9mMの溶液を調製した。正孔輸送材料5を用いる場合、体積比1/1のクロロベンゼン/クロロホルム混合溶媒中36mMの溶液を調製した。正孔輸送材料11、12、14、23、24、25、26、32を用いる場合、体積比1/1のクロロベンゼン/クロロホルム混合溶媒中9mMの溶液を調製した。正孔輸送材料4、13、19を用いる場合、体積比1/1のクロロベンゼン/クロロホルム混合溶媒中4.5mMの溶液を調製した。正孔輸送材料17を用いる場合、体積比1/1のクロロベンゼン/クロロホルム混合溶媒中6mMの溶液を調製した。
【0095】
正孔輸送材料1は、従来の正孔輸送材料spiro-OMeTADであり対照化合物である。式(III)で示される基本骨格中、R0(式(IV)で示される置換ジフェニルアミノ基)のフェニル環上の置換基(以下、「フェニル環上置換基」という。)の種類および置換位置を変更して、ドーパントフリーでも優良の光電変換効率を示す正孔輸送材料2~40を検討した。
ペロブスカイト層15の上にHTM溶液またはドーパントフリーHTM溶液を滴下し、スピンコート(3,000 rpmにて30秒間)により正孔輸送層16を形成した。
【0096】
最後に、正孔輸送層16の表面にAuを100nm蒸着して金属電極17を形成した。
【0097】
透明FTO電極12が負極(アノード)、金属電極が陽極(カソード)となるように、端子を設けて、ペロブスカイト太陽電池1を構成した。
【0098】
[太陽電池の特性評価]
各正孔輸送材料1~40につき、溶液中で測定した最高被占軌道準位 (EHOMO)および太陽電池の光電変換効率 (PCE)を測定した結果を表1~5(表中、( )内に示される数値は、推測値であり、記号---は、未測定であることを意味する。以下、同様。)に示した。ドーパント存在下でのPCEをPCEPRで示し、ドーパント非存在下でのPCEをPCEABで示し、PCEPRに対するPCEABの比率を変動として示した。変動が1を下回る場合、対象のHTMは、ドーパントが存在しないと性能が低下することを表す。したがって、変動は1に近いことが好ましく、1を超えることがより好ましい。
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
(1)フェニル環上置換基の電子吸引性変更によるアプローチ
正孔輸送材料1における2つのフェニル環上の置換基はp位のメトキシ基(-OMe:Meはメチル基を表す。)であるが、これらをジメチルアミノ基(-NMe2)へと、変更した化合物(正孔輸送材料2)について確認した。
2つのフェニル環上の置換基を-OMeから-NMe2に変更することによって、最高被占軌道準位 (EHOMO)を大きく調整できることが示された。
また、正孔輸送材料2は、ドーパント(LiTFSIおよびTBP)の存在下、正孔輸送材料1よりも低いPCEを示したが、ドーパントの非存在下では、正孔輸送材料1と正孔輸送材料2のPCEは同程度になった。ドーパントを除外することによるPCEの変動(PCEAB/PCEPR)について、正孔輸送材料2は正孔輸送材料1よりも高くなる結果が得られた。
【0105】
正孔輸送材料1における2つのフェニル環上の置換基はp位のメトキシ基(-OMe:Meはメチル基を表す。)であるが、1つのフェニル環上の置換基をジメチルアミノ基(-NMe2)へと、もう1つのフェニル環上の置換基をメトキシ基(-OMe)または4-ピリジニル基(-C5H4N)へと、変更した化合物(正孔輸送材料3または4)、および1つのフェニル環上の置換基を-NH2へと、もうひとつのフェニル環上の置換基を-OMeへと、変更した化合物(正孔輸送材料5)について確認した。
1つのフェニル環上の置換基を-OMeから-NMe2に変更しつつ、もう1つのフェニル環上の置換基を種々変更することによって、最高被占軌道準位 (EHOMO)、PCE、およびドーパントを除外することによるPCEの変動(PCEAB/PCEPR)を調整できることが示された。
【0106】
(2)フェニル環上置換基の置換位置変更によるアプローチ
正孔輸送材料2では、2つのフェニル環上のp位に置換基が存在するが、2つのフェニル環上の置換位置をm位に変更した、正孔輸送材料10について確認した。
フェニル環上の置換位置を変更することによって、最高被占軌道準位 (EHOMO)、PCE、およびドーパントを除外することによるPCEの変動(PCEAB/PCEPR)を調整できることが示された。
【0107】
(3)p位にN,N-二置換アミノ基を導入し、さらに異なる置換基を導入するアプローチ
正孔輸送材料2では、2つのフェニル環のp位にジメチルアミノ基のみが結合しているが、1つまたは2つのフェニル環上に、種々の置換基(シアノ基、フッ素原子、トリフルオロメチル基、メチル基)を導入した正孔輸送材料11~28について確認した。また、1つのフェニル環上に-CNを導入し、もう1つのフェニル環のp位にモルホリノ基を導入した正孔輸送材料26について確認した。
2つのフェニル環上の置換基として、p位のN,N-二置換アミノ基以外に、異なる置換基を導入することによって、最高被占軌道準位 (EHOMO)、PCE、およびドーパントを除外することによるPCEの変動(PCEAB/PCEPR)を調整できることが示された。
【0108】
(4)N,N-二置換アミノ基の構造変更によるアプローチ
正孔輸送材料2では、2つのフェニル環のp位のフェニル環上置換基はジメチルアミノ基であったが、窒素原子を介してフェニル環に結合する種々の置換基(tert-ブトキシカルボニルアミノ基、アセチルアミノ基、フェニルウレイド基、ピペリジノ基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、ジフェニルアミノ基)に変更した正孔輸送材料29~40について確認した。
2つのフェニル環上の置換基として、窒素原子を介してフェニル環に結合する種々の置換基を導入することによって、最高被占軌道準位 (EHOMO)、PCE、およびドーパントを除外することによるPCEの変動(PCEAB/PCEPR)を調整できることが示された。
【0109】
(5)種々のペロブスカイトに対する効果
種々のペロブスカイトおよび正孔輸送材料14を用いて、以下の条件でペロブスカイト層および正孔輸送層を形成した。それ以外は、実施例14と同じ条件で、ドーパントフリーの太陽電池を作製した。
(a)Cs0.05(FA0.85MA0.15)0.95Pb(I0.89Br0.11)3のペロブスカイト層形成
まず、ヨウ化ホルムアミジニウム(FAI)、ヨウ化鉛(PbI2)、臭化メチルアンモニウム(CH3NH3Br)と臭化鉛(PbBr2)をモル比1:1.16:0.18:0.14で混合し、DMFとDMSOの混合溶媒(体積比4:1)に溶解し、ヨウ化セシウム(CsI)1.5MのDMSO溶液をモル比0.06になるように加えて、ペロブスカイトCs0.05(FA0.85MA0.15)0.95Pb(I0.89Br0.11)3の溶液を調製した。
mp-TiO2層の上にスピンコートによりペロブスカイト層15を形成した。溶液の滴下後、30秒間静止し、1秒間かけて1,000 rpmに加速し、1,000 rpmにて10秒間維持し、1秒間かけて6,000 rpmに加速し、6,000 rpmにて20秒間維持し、5秒間で静止させた。また、スタートから59秒後に追加のクロロベンゼンを200μL滴下した。
その後、得られた積層体を40℃にて5分間、60℃にて5分間、70℃にて5分間、100℃にて60分間の温度プロファイルにて熱アニール処理を行った。
(b)FAPbI3のペロブスカイト層形成
まず、ホルムアミジニウム鉛ヨウ化物(FAPbI3)とヨウ化メチルアンモニウム(MACl)をモル比1:0.35で混合し、DMFとDMSOの混合溶媒(体積比4:1)に溶解して、ペロブスカイトFAPbI3の溶液を調製した。
mp-TiO2層の上にスピンコートによりペロブスカイト層15を形成した。溶液の滴下後、20秒間静止し、1秒間かけて6,000 rpmに加速し、6,000 rpmにて50秒間維持し、1秒間で静止させた。また、スタートから31秒後に追加のクロロベンゼンを200μL滴下した。
その後、得られた積層体を150℃にて10分間、熱アニール処理を行った。
(c)ドーパントフリー正孔輸送層の形成
次に、正孔輸送材料14のみを体積比1/1のクロロベンゼン/クロロホルム=1/1)の混合溶媒に溶解して、3mMの溶液を調製した。
得られた太陽電池の光電変換効率 (PCE)を測定した結果を表6に示した。
【0110】
【0111】
本発明の正孔輸送材料は、いずれのペロブスカイトに対しても、ドーパントフリーで高い光電変換効率を示すことが確認された。
【0112】
(6)ドーパント有無による変換効率経時変化の比較
正孔輸送材料1(spiro-OMeTAD)および正孔輸送材料14を用いて、ドーパントとしてLiTFSIおよびTBPを添加し、または添加せずに作製した太陽電池(実施例1および14)につき、85℃熱安定性試験を行い、変換効率の経時変化を測定した。85℃熱安定性試験は、ETTAS定温乾燥機(アズワンOF-300)を使用し、85℃設定(セルは封止せず)で行った。
正孔輸送材料1につき、ドーパントを添加した系では、試験開始直後から、変換効率が激減し、ドーパントを添加しない系では安定であるが、初期の変換効率が低下していたことが分かった(
図2a)。一方、正孔輸送材料14につき、ドーパントを添加した系では、変換効率が低下し、ドーパントを添加しない系では、安定であった。また、ドーパント添加による初期の変換効率も低下しないことも確認された(
図2b)。
【0113】
(7)正孔輸送層形成時に用いる溶媒の効果
環境負荷低減の観点から、太陽電池の製造過程においてハロゲン系溶媒を使用しないことが求められる。
そこで、太陽電池特性が優良であることが確認された正孔輸送材料14および17を対比することで、式(V)で表されるN,N-二置換アミノ基に結合するアルキル基の鎖長の種々の溶媒に対する溶解性への影響を調べた。
具体的には、ビーカーに入れた10mlの溶媒に各正孔輸送材料1gを添加し、室温(約25℃)にてマグネチックスターラーで撹拌して、溶解の難易を以下の基準で評価し、結果を表7に示した。
〇:易溶(完全に溶解した。)
×:不溶(一部または全部が残存した。)
【0114】
【0115】
式(V)で表されるN,N-二置換アミノ基がN,N-ジエチルアミノ基である正孔輸送材料17)では、非ハロゲン溶媒に対しても高い溶解性を示すことが確認されたので、正孔輸送層を形成する時、正孔輸送材料17を用いる場合、ハロゲン系の溶媒に代えて、酢酸エチル中4mMの溶液を調製した。それ以外は、実施例17と同じ条件で太陽電池を形成した。
得られた太陽電池の光電変換効率 (PCE)を測定した結果を表8に示した。
【0116】
【0117】
非ハロゲン溶媒(酢酸エチル)中で調製した正孔輸送材料溶液を使用して正孔輸送層を形成した場合、従来のハロゲン溶媒(クロロベンゼン/クロロホルム混合溶媒)を用いて形成した場合と比較しても、製造上の問題点はなく、同等の光電変換効率 (PCE)を示した。
【0118】
(8)まとめ
上記の複数のアプローチから、正孔輸送材料として、式(III)で示される基幹構造に、式(IV)で示される置換ジフェニルアミノ基が結合した化合物であれば、いずれのペロブスカイトとの組合せで、ドーパントの非存在下でも、安定した光電変換効率を示すことが分かった。
特に、前記置換ジフェニルアミノ基の1つまたは2つのフェニル環上の置換基が、窒素原子を介してフェニル環に結合する置換基(式(V)で示されるアミノ基、N-置換アミノ基もしくはN,N-二置換アミノ基)であることが好ましく、N,N-二置換アミノ基であることがより好ましい。特に、前記置換ジフェニルアミノ基の2つのフェニル環上の置換基が、p位にてN,N-二置換アミノ基で置換されていることが特に好ましい。
また、前記置換ジフェニルアミノ基の1つまたは2つのフェニル環上のN,N-二置換アミノ基における1つの置換基が、直鎖状もしくは分岐鎖状C2~4アルキル基であれば、非ハロゲン溶媒を正孔輸送材料溶液の調製に使用できることが分かった。
【0119】
[正孔輸送材料の前駆体]
本発明者は、次に、ペロブスカイト結晶を形成するための足場としてmp-TiO
2を採用するn-i-p型(順方向型)構造の太陽電池(
図1)において、spiro-OMeTADや、それを超える特性の正孔輸送材料を高い効率で合成するために有用な前駆体を開発した。
本発明において、N,N-ジ-p-置換フェニルアミノ基を含有する正孔輸送材料 (HTM)の有用な前駆体の一例として、式(XIa):
【化64】
で示される、スピロビフロオレン化合物の2,2’,7,7’-テトラキス(N,N-ジ-p-フェニルアミン)-9,9’-スピロビフルオレン(化合物100、「オクタブロモ置換体」)を合成した。
【0120】
本発明のオクタブロモ置換体として、化合物100は、反応式(9)および反応式(10)により合成した。
【化65】
【0121】
まず、非特許文献3を参照して、2,2’,7,7’-テトラブロモ-9,9’-スピロビフルオレン(化合物101)を合成し、ジオキサンで再結晶して精製した。次に、特許文献2を参照して、化合物101(20.0 g、31.6 mmol、1.0当量)、化合物102(東京化成工業、25.7 g、151.9 mmol、4.8当量)、酢酸パラジウム(II) (東京化成工業、0.3 g、1.3 mmol、0.04当量)、トリ-tert-ブチルホスフィン(富士フイルム和光純薬、0.5 g、2.5 mmol、0.08当量)、ナトリウムtert-ブトキシド(東京化成工業、19.5 g、202.5 mmol、6.4当量)、キシレン500 gを仕込み、100℃に加熱昇温し反応を実施した。反応終了後、室温まで冷却し、水250 gを加え、1時間撹拌後、水層を除去した。有機層を水250 gで2度洗浄した。有機層を60℃で減圧濃縮した後、カラムクロマトグラフィーで精製し、化合物103(24.0 g、収率77.0%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.45(d,J=8.4 Hz,4H),7.19(t,J=7.9 Hz,16H),7.00-6.91(m,28H),6.69(d,J=1.5 Hz,4H)
【化66】
【0122】
化合物103(24.0 g、24.4 mmol、1.0当量)、N-ブロモスクシンイミド(東京化成工業、34.7 g、195 mmol、8.0当量)、クロロホルム350 gを仕込み、室温で反応を実施した。反応終了後、水350 gを加え、1時間撹拌後、水層を除去した。有機層を水350 gで2度洗浄した。有機層を60℃で減圧濃縮した後、カラムクロマトグラフィーで精製し、化合物100(38.9 g、収率98.8%)を得た。
1H NMR(300MHz, CDCl3)δ7.54(d,J=8.1 Hz,4H),7.31(dt,J=9.5,2.6 Hz,16H),6.96(dd,J=8.2,2.0 Hz,4H),6.81(dt,J=9.5,2.6 Hz,16H),6.57(d,J=1.8 Hz,4H)
【0123】
[正孔輸送材料]
本発明のオクタブロモ置換体(化合物100)を用いて、n-i-p型(順方向型)構造の太陽電池において、ドーパントフリーの正孔輸送層に用いても高い光電変換効率を示すことができる正孔輸送材料を合成した。
【0124】
<正孔輸送材料1>
本発明の正孔輸送材料1は、反応式(11)により合成した。
【化67】
【0125】
化合物100(5.0 g、3.0 mmol、1.0当量)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) (東京化成工業、0.6 g、0.3 mmol、0.10当量)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2',4',6'-トリイソプロピルビフェニル(Sigma-Aldrich、0.3 g、0.6 mmol、0.2当量)、ナトリウムtert-ブトキシド(東京化成工業、5.35 g、55.7 mmol、18当量)、メタノール(富士フイルム和光純薬、9.6 g、300 mmol、100当量)、キシレン50 gを仕込み、100℃に加熱昇温し反応を実施した。反応終了後、室温まで冷却し、水100 gを加え、1時間撹拌後、水層を除去した。有機層を水100 gで2度洗浄した。有機層を60℃で減圧濃縮した後、カラムクロマトグラフィーで精製し、正孔輸送材料1(1.2 g、収率32%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.35(d,J=8.1 Hz,4H),6.92-6.88(m,16H),6.80(d,J=2.2 Hz,4H),6.78-6.73(m,16H),6.55(d,J=2.2 Hz,4H),3.77(s,24H)
【0126】
<正孔輸送材料29>
正孔輸送材料29は、本発明のオクタブロモ置換体である化合物100を原料として、反応式(12)により合成した。
【化68】
【0127】
化合物100(5.0 g、3.0 mmol、1.0当量)、カルバミン酸tert-ブチル(東京化成工業、3.6 g、30.9 mmol、10.0当量)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) (東京化成工業、0.6 g、0.3 mmol、0.10当量)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2',4',6'-トリイソプロピルビフェニル(Sigma-Aldrich、0.3 g、0.6 mmol、0.2当量)、炭酸セシウム(東京化成工業、18.1 g、55.7 mmol、18当量)、キシレン50 g、tert-ブチルアルコール50 gを仕込み、100℃に加熱昇温し反応を実施した。反応終了後、室温まで冷却し、水200 gを加え、1時間撹拌後、水層を除去した。有機層を水200 gで2度洗浄した。有機層を60℃で減圧濃縮した後、カラムクロマトグラフィーで精製し、正孔輸送材料29(3.2 g、収率54.4%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.48(d,J=8.4Hz,4H),7.28-7.13(m,16H),6.92(dd,J=8.1,1.8Hz,4H),6.84(d,J=8.8Hz,16H),6.64(s,8H),6.57(d,J=1.8Hz,4H),1.50(s,72H)
【0128】
<正孔輸送材料35>
正孔輸送材料35は、反応式(13)により合成した。
【化69】
【0129】
化合物100(5.0 g、3.0 mmol、1.0当量)、チオモルホリン(東京化成工業,3.2 g、30.9 mmol、10.0当量)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) (東京化成工業、0.6 g、0.3 mmol、0.10当量)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2',4',6'-トリイソプロピルビフェニル(Sigma-Aldrich、0.3 g、0.6 mmol、0.2当量)、炭酸セシウム(東京化成工業、18.1 g、55.7 mmol、18当量)、キシレン100 gを仕込み、100℃に加熱昇温し反応を実施した。反応終了後、室温まで冷却し、水200 gを加え、1時間撹拌後、水層を除去した。有機層を水200 gで2度洗浄した。有機層を60℃で減圧濃縮した後、カラムクロマトグラフィーで精製し、正孔輸送材料35(1.0 g; 収率17%)を得た。
1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ7.36(d,J=8.1Hz,4H),6.91-6.74(m,36H),6.60(s,4H),3.41(t,J=4.8Hz,32H),2.76(t,J=4.9Hz,32H)
【0130】
[太陽電池の作製]
通常の製造工程を用いて、
図1に示す構造のペロブスカイト太陽電池1を作製した。
フッ素ドープ酸化スズ(FTO)をコートしたFTO透明電極12付のガラス板11を準備した。
【0131】
FTO膜に酸素プラズマ処理を行い、この上にスプレー熱分解法によりアモルファス緻密TiO2 (compact TiO2; c-TiO2)を成膜して電子輸送層13を形成した。次に、酸化チタンナノ粒子コロイドをスピンコートし(2,000 rpmにて30秒間)、その後450℃で30分間加熱することによってメソポーラスTiO2 (mp-TiO2)層14を形成した。
【0132】
このmp-TiO2層を足場として、ペロブスカイト層を形成する。
まず、ヨウ化鉛(PbI2)とヨウ化メチルアンモニウム(CH3NH3I)とをモル比1.575:1.5で混合し、DMFとDMSOの混合溶媒(体積比3:1)に溶解して、ペロブスカイト溶液を調製した。
mp-TiO2層の上にスピンコートによりペロブスカイト層15を形成した。溶液の滴下後、15秒間静止し、2秒間かけて5000rpmに加速し、5000rpmにて5秒間維持し、1秒間で静止させた。また、スタートから20秒後に追加のクロロベンゼンを200μL滴下した。
その後、得られた積層体を40℃にて5分間、60℃にて5分間、70℃にて5分間、100℃にて10分間、120℃にて10分間の温度プロファイルにて熱アニール処理を行った。
【0133】
次に、正孔輸送材料29、ドーパントとしてLiFTSI 0.69モル当量およびTBP 2.96モル当量を有機溶媒に溶解して、HTM溶液を調製した。ドーパントフリーの場合は、各正孔輸送材料のみを有機溶媒に溶解して、ドーパントフリーHTM溶液を調製した。
正孔輸送材料29を用いる場合、体積比1/1のクロロベンゼン/クロロホルム混合溶媒中4.5mMの溶液を調製した。正孔輸送材料1を用いる場合、クロロベンゼン中71mMの溶液を調製した。
【0134】
正孔輸送材料1、29または35を用いて、ペロブスカイト層15の上にHTM溶液またはドーパントフリーHTM溶液を滴下し、スピンコート(3,000 rpmにて30秒間)により正孔輸送層16を形成した。
【0135】
最後に、正孔輸送層16の表面にAuを100nm蒸着して金属電極17を形成した。
【0136】
透明FTO電極12が負極(アノード)、金属電極が陽極(カソード)となるように、端子を設けて、ペロブスカイト太陽電池1を構成した。
【0137】
[太陽電池の特性評価]
各正孔輸送材料の最高被占軌道準位 (EHOMO)およびそれらを用いた太陽電池の光電変換効率 (PCE)を表9に示す。ドーパント存在下でのPCEをPCEPRで示し、ドーパント非存在下でのPCEをPCEABで示し、PCEPRに対するPCEABの比率を変動として示した。変動が1を下回る場合、対象のHTMは、ドーパントが存在しないと性能が低下することを表す。したがって、変動は1に近いことが好ましく、1を超えることがより好ましい。
【0138】
【0139】
<測定方法>
(1)最高被占軌道準位 (EHOMO)
各正孔輸送材料を0.1Mテトラエチルアンモニウム過塩素酸塩(TEAP)支持電解質溶液(塩化メチレン)に溶解させ、電気化学アナライザー(ALS/CH Instruments 610B)を用い、DPV(微分パルスボルタンメトリー)を測定し、基準物質のフェロセンを-4.80eVとして、最高被占軌道準位 (EHOMO)を算出した。正孔輸送材料30、31、32は0.1Mテトラエチルアンモニウム過塩素酸塩(TEAP)支持電解質溶液の溶媒をDMFに変えて測定した。
【0140】
(2)太陽電池の光電変換効率 (PCE)
ソーラーシミュレーター(セリック株式会社性、XIL-05B100KP)を用い、AM1.5G、100mW/cm2の疑似太陽光を太陽電池に照射し、IV特性の評価を行った。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明の正孔輸送材料を用いたペロブスカイト太陽電池は、正孔輸送層にLiTFSIおよびTBPなどのドーパントを添加しなくても、高い光電変換効率を示し、光電特性が安定な太陽電池を提供することができる。
本発明の正孔輸送材料を用いれば、最高被占軌道準位 (EHOMO)の調整が容易であり、種々のペロブスカイトに適用できる。
また、ペロブスカイトが短波長側、シリコンが長波長側の光を利用するタンデム太陽電池を構成することができ、より高い光電変換効率を実現することができる。
このような太陽電池は、屋根設置用パネル(住宅、ビル、工場)、屋根一体型(住宅、ビル、工場、ガレージ、ビニールハウス)、壁面設置(住宅、ビル、工場)、窓ガラス、ブラインド、遮光用シート、太陽光発電所、IoT端末の電源(RFIDタグ、センサー、小型電子機器)、モバイルソーラー充電器、人工衛星、自動車、ドローン、ソーラープレーンなど、多様な分野に利用することができる。
【符号の説明】
【0142】
1 ペロブスカイト太陽電池
11 ガラス基板
12 透明電極
13 電子輸送層
14 メソポーラス金属酸化物
15 ペロブスカイト層
16 正孔輸送層
17 金属電極
【要約】
本発明は、太陽光吸収体としてヨウ化鉛メチルアンモニウム(NH3CH3PbI3)のペロブスカイト結晶を用い、正孔輸送材料としてspiro-OMeTADを用いるペロブスカイト太陽電池において、安定性向上のためドーパントフリーとしつつ、ドーパントの非存在下でも十分な光電変換効率および高い耐久性をもたらす新たな正孔輸送材料を提供する。また、そのような正孔輸送材料を効率良く合成するための前駆体であるオクタブロモ置換体を経由する合成ルートも提供する。