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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-13
(45)【発行日】2023-04-21
(54)【発明の名称】撮像装置及び撮像システム
(51)【国際特許分類】
   H01L 27/146 20060101AFI20230414BHJP
   H10K 39/32 20230101ALI20230414BHJP
   H01L 27/144 20060101ALI20230414BHJP
   H01L 31/10 20060101ALI20230414BHJP
   H01L 31/0232 20140101ALI20230414BHJP
   H04N 25/70 20230101ALI20230414BHJP
【FI】
H01L27/146 E
H01L27/146 D
H01L27/146 A
H10K39/32
H01L27/144 K
H01L31/10 A
H01L31/02 D
H04N25/70
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020558189
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(86)【国際出願番号】 JP2019041830
(87)【国際公開番号】W WO2020105361
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2018216499
(32)【優先日】2018-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【弁理士】
【氏名又は名称】川喜田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100184985
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100218981
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】徳原 健富
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 三四郎
(72)【発明者】
【氏名】三宅 康夫
(72)【発明者】
【氏名】町田 真一
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-530165(JP,A)
【文献】特開2013-187475(JP,A)
【文献】国際公開第2014/017314(WO,A1)
【文献】特開2011-49240(JP,A)
【文献】特開2013-142578(JP,A)
【文献】特開昭62-37963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/146
H10K 39/32
H01L 27/144
H01L 31/10
H01L 31/0232
H04N 25/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からの光を受ける第1面および前記第1面の反対側の第2面を有する半導体基板と、
前記第2面上に位置する第1トランジスタと、
前記第2面に面しており、前記半導体基板を透過した光を受ける光電変換部と
を備え、
前記半導体基板は、シリコン基板またはシリコン化合物基板であり、
前記光電変換部は、
前記第1トランジスタに電気的に接続された第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に位置し、1.1μm以上の第1波長の光を吸収する材料を含む光電変換層と、
を含み、
前記第1電極は、前記第2面と前記光電変換層との間に位置し、
前記材料の1.0μm以上1.1μm未満の波長域における分光感度は、前記材料の1.1μm以上の波長域における分光感度の最大値の0%以上5%以下の範囲内である、
撮像装置。
【請求項2】
前記材料は、量子ナノ構造を有する、
請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記材料は、カーボンナノチューブである、
請求項2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記材料は、III族元素、IV族元素、V族元素およびVI族元素からなる群から選択される少なくとも1つを含むナノ粒子である、
請求項2に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記材料は、1.1μm未満の第2波長の光を吸収し、
前記半導体基板は、前記第2波長の光を吸収する、
請求項2から4のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項6】
前記半導体基板の厚さは、30μm以上800μm以下である、
請求項1から5のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項7】
前記第1面に面しているマイクロレンズをさらに備える、
請求項1から6のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項8】
前記光電変換部と前記半導体基板との間に位置し、前記第1電極を前記第1トランジスタに電気的に接続する導電構造をさらに備え、
前記第1電極と前記導電構造との接続部は、前記第1面の法線方向から見て前記マイクロレンズの外縁よりも外側に位置する、
請求項7に記載の撮像装置。
【請求項9】
前記光電変換部と前記半導体基板との間に、導波路構造を含む絶縁層をさらに備える、
請求項1から8のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項10】
前記第1電極は、前記第1波長の光に対して80%以上の透過率を有する、
請求項1から9のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項11】
前記第2電極は、前記第1波長の光に対して80%以上の反射率を有する、
請求項1から10のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項12】
前記光電変換部を覆う封止膜をさらに備える、
請求項1から11のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項13】
画素をさらに備え、
前記画素は、前記光電変換部および前記第1トランジスタを含む、
請求項1から12のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項14】
前記半導体基板内に配置された、第1フォトダイオードを含む1以上のフォトダイオードをさらに備え、
前記画素は、前記第1フォトダイオードをさらに含む、
請求項13に記載の撮像装置。
【請求項15】
前記第2面上に位置し、前記第1フォトダイオードに電気的に接続された第2トランジスタをさらに備える、
請求項14に記載の撮像装置。
【請求項16】
前記1以上のフォトダイオードは複数のフォトダイオードを含み、
前記画素は、前記複数のフォトダイオードを含む、
請求項14または15に記載の撮像装置。
【請求項17】
前記第1面に面しているカラーフィルタをさらに備え、
前記カラーフィルタは、0.75μm以上1.1μm未満の波長域の光を実質的に透過させない、
請求項13から16のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項18】
前記第1面に面しており、0.75μm以上1.1μm未満の波長域の光を実質的に透過させない帯域除去フィルタをさらに備える、
請求項1から16のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項19】
複数の画素をさらに備え、
前記複数の画素のそれぞれは、前記光電変換部および前記第1トランジスタを含み、
前記複数の画素の前記光電変換層は連続する単一の層である、
請求項1から12のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項20】
請求項1から19のいずれか1項に記載の撮像装置と、
1.1μm以上の波長域の光を出射する光源と、を備える、
撮像システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、撮像装置及び撮像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
光センサの分野では、波長域を限定したセンシングに対する要求がある。このような応用においては、波長を制限する光学フィルタを撮像部の前面に配置することによって所望の波長に基づく撮像を行うことが一般的である。例えば下記の特許文献1は、イメージセンサの上方に光学フィルタが配置されたカメラモジュールを開示している。
【0003】
特許文献1に記載の技術では、光学フィルタの配置により、可視域でのイメージングと、赤外域でのイメージングとを切り替えて実行可能としている。特許文献1の図10に例示されるように、特定の波長成分のフィルタリングには、バンドパスフィルタが用いられ得る。ただし、バンドパスフィルタとしては、一般的に、干渉型の光学フィルタが用いられる。そのため、光の入射角に対する依存性が大きく、広角の撮影には不向きである。
【0004】
他方、下記の特許文献2は、アモルファスシリコンから形成された第1のフォトダイオード、および、多結晶シリコンなどの、結晶性を有するシリコン層の形で形成された第2のフォトダイオードの積層構造を有する光検出装置を開示している。第1のフォトダイオードは、第2のフォトダイオードの上方に位置し、可視光を検出することに対し、第2のフォトダイオードは、第1のフォトダイオードを透過した赤外光を検出する。すなわち、この光検出装置では、第1のフォトダイオードは、第2のフォトダイオードへの可視光の入射を低減する光学フィルタの機能も兼ねている。
【0005】
また、下記の特許文献3は、第1の光電変換部が形成された単結晶Si基板の表面上および裏面上にそれぞれ第2および第3の光電変換部を有する固体撮像装置を開示している。第3の光電変換部は、キナクリドンからなる有機膜をその一部に含み、第2の光電変換部は、シリコンゲルマニウム層をその一部に含む。これらの光電変換部は、光の入射側から第3の光電変換部、第1の光電変換部および第2の光電変換部の順に積層されている。このような積層構造により、入射光のうち緑の波長域の成分に関する信号、青の波長域の成分に関する信号および赤の波長域の成分に関する信号を個別に取得することを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2013/0089237号明細書
【文献】特開2012-099797号公報
【文献】特開2015-037121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特に赤外域の狭帯域撮像においてノイズが低減された高感度な撮像が可能な撮像装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の限定的ではないある例示的な実施形態に係る撮像装置は、外部からの光を受ける第1面および前記第1面の反対側の第2面を有する半導体基板と、前記第2面上に位置する第1トランジスタと、前記第2面に面しており、前記半導体基板を透過した光を受ける光電変換部と、を備える。前記半導体基板は、シリコン基板またはシリコン化合物基板である。前記光電変換部は、前記第1トランジスタに電気的に接続された第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に位置し、1.1μm以上の第1波長の光を吸収する材料を含む光電変換層と、を含む。前記第1電極は、前記第2面と前記光電変換層との間に位置する。前記材料の1.0μm以上1.1μm未満の波長域における分光感度は、前記材料の1.1μm以上の波長域における分光感度の最大値の0%以上5%以下の範囲内である。
【0009】
包括的または具体的な態様は、素子、デバイス、システム、集積回路、方法またはコンピュータプログラムで実現されてもよい。また、包括的または具体的な態様は、素子、デバイス、装置、システム、集積回路、方法およびコンピュータプログラムの任意の組み合わせによって実現されてもよい。
【0010】
開示された実施形態の追加的な効果および利点は、明細書および図面から明らかになる。効果および/または利点は、明細書および図面に開示の様々な実施形態または特徴によって個々に提供され、これらの1つ以上を得るために全てを必要とはしない。
【発明の効果】
【0011】
本開示のある実施形態によれば、特に赤外域の狭帯域撮像においてノイズが低減された高感度な撮像が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の第1の実施形態による撮像装置の画素のデバイス構造を示す模式的な断面図である。
図2】光電変換層に含まれる主要な光電変換材料に関する例示的な分光感度曲線を示す図である。
図3】Si基板における、波長と透過率との間の関係を示す図である。
図4】画素電極の形状の例を示す模式的な平面図である。
図5】画素電極の形状の他の例を示す模式的な平面図である。
図6】画素電極の形状のさらに他の例を示す模式的な平面図である。
図7】画素電極の形状のさらに他の例を示す模式的な平面図である。
図8】画素電極の形状のさらに他の例を示す模式的な平面図である。
図9】本開示の第1の実施形態による撮像装置の変形例を示す模式的な断面図である。
図10】各画素Pxが有する例示的な回路構成を模式的に示す図である。
図11】バルクの形態とされた材料に関するエネルギーバンドの例と、量子ドットの形態とされた材料に関するエネルギーバンドの例とをあわせて示す図である。
図12】光電変換部に関する例示的なエネルギー図である。
図13図12に示す光電変換膜の第1層に関する典型的な分光感度曲線を模式的に示す図である。
図14図12に示す光電変換膜の第2層に関する分光感度曲線の例を模式的に示す図である。
図15図12に示す光電変換膜に関する分光感度曲線を模式的に示す図である。
図16】本開示の第1の実施形態による撮像装置の例示的な製造方法を説明するための模式的な断面図である。
図17】本開示の第1の実施形態による撮像装置の例示的な製造方法を説明するための模式的な断面図である。
図18】本開示の第1の実施形態による撮像装置の例示的な製造方法を説明するための模式的な断面図である。
図19】本開示の第1の実施形態による撮像装置の例示的な製造方法を説明するための模式的な断面図である。
図20】本開示の第1の実施形態による撮像装置の例示的な製造方法を説明するための模式的な断面図である。
図21】本開示の第1の実施形態による撮像装置の例示的な製造方法を説明するための模式的な断面図である。
図22】本開示の第2の実施形態による撮像装置の画素のデバイス構造を示す模式的な断面図である。
図23図22に示す撮像装置の各画素Pxが有する例示的な回路構成を模式的に示す図である。
図24図22に示す撮像装置の各画素Pxが有する他の例示的な回路構成を模式的に示す図である。
図25】第2の実施形態の変形例による撮像装置の画素のデバイス構造を示す模式的な断面図である。
図26】マイクロレンズ、カラーフィルタおよび画素電極の配置の例を示す模式的な上面図である。
図27】第2の実施形態の他の変形例による撮像装置の画素のデバイス構造を示す模式的な断面図である。
図28】導波路構造の変形例を説明するための模式的な断面図である。
図29】本開示の第3の実施形態による撮像装置の画素のデバイス構造を示す模式的な断面図である。
図30】本開示の第4の実施形態による撮像システムの概略を示す模式的なブロック図である。
図31】撮像システムの動作の一例を示すフローチャートである。
図32】撮像システムの動作の他の一例を示すフローチャートである。
図33】画素のデバイス構造の他の変形例を示す模式的な断面図である。
図34】画素のデバイス構造のさらに他の変形例を示す模式的な断面図である。
図35】半導体基板上のマイクロレンズの前面に配置されるレンズの構成の一例を示す模式的な断面図である。
図36】光入射側の表面に赤外透過膜を有する光学部材の他の一例を示す模式的な断面図である。
図37】画素のデバイス構造のさらに他の変形例を示す模式的な断面図である。
図38】本開示の実施形態による撮像装置の画素のデバイス構造のさらに他の変形例を示す模式的な断面図である。
図39図38に示す撮像装置の例示的な製造方法を説明するための模式的な断面図である。
図40図38に示す撮像装置の例示的な製造方法を説明するための模式的な断面図である。
図41図38に示す撮像装置の例示的な製造方法を説明するための模式的な断面図である。
図42図38に示す撮像装置の例示的な製造方法を説明するための模式的な断面図である。
図43図38に示す撮像装置の例示的な製造方法を説明するための模式的な断面図である。
図44図38に示す撮像装置の例示的な製造方法を説明するための模式的な断面図である。
図45図38に示す撮像装置の例示的な製造方法を説明するための模式的な断面図である。
図46図38に示す撮像装置の例示的な製造方法を説明するための模式的な断面図である。
図47図38に示す撮像装置の例示的な製造方法を説明するための模式的な断面図である。
図48】本開示の実施形態による撮像装置の画素のデバイス構造のさらに他の変形例を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の一態様の概要は、以下のとおりである。
【0014】
[項目1]
本開示の項目1に係る撮像装置は、
外部からの光を受ける第1面および前記第1面の反対側の第2面を有する半導体基板と、
前記第2面上に位置する第1トランジスタと、
前記第2面に面しており、前記半導体基板を透過した光を受ける光電変換部と
を備え、
前記半導体基板は、シリコン基板またはシリコン化合物基板であり、
前記光電変換部は、
前記第1トランジスタに電気的に接続された第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に位置し、1.1μm以上の第1波長の光を吸収する材料を含む光電変換層と、
を含み、
前記第1電極は、前記第2面と前記光電変換層との間に位置し、
前記材料の1.0μm以上1.1μm未満の波長域における分光感度は、前記材料の1.1μm以上の波長域における分光感度の最大値の0%以上5%以下の範囲内である。
【0015】
項目1の構成によれば、1.1μm未満の波長を有する光が半導体基板に吸収されるので、光電変換部には、半導体基板を透過した1.1μm以上の波長を有する成分が入射する。光電変換層が、1.1μmの波長よりも長波長側に吸収ピークを示す分光感度特性を有し得るので、狭帯域のバンドパスフィルタを不要としながら、近赤外域の狭帯域撮像が可能である。また、1.0μm以上1.1μm未満の波長域の光に起因するノイズを低減できるので赤外域の狭帯域撮像に特に有利である。
【0016】
[項目2]
項目1に記載の撮像装置において、前記材料は、量子ナノ構造を有していてもよい。
【0017】
項目2の構成によれば、光電変換膜が、1000nm以上1100nm未満の波長域にほとんど吸収を示さないようにすることができ、特に赤外域の狭帯域に関してより高いSN比を有する撮像装置を実現し得る。
【0018】
[項目3]
項目2に記載の撮像装置において、材料は、カーボンナノチューブであってもよい。
【0019】
項目3の構成によれば、状態密度が離散的となるために、光電変換層の分光感度曲線のピークが急峻な形状となり、特定の波長に特異的に高い感度を有する画素を実現可能である。
【0020】
[項目4]
項目2に記載の撮像装置において、材料は、III族元素、IV族元素、V族元素およびVI族元素からなる群から選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0021】
項目4の構成によれば、状態密度が離散的となるために、光電変換層の分光感度曲線のピークが急峻な形状となり、特定の波長に特異的に高い感度を有する画素を実現可能である。
【0022】
[項目5]
項目2から4のいずれか1項に記載の撮像装置において、材料は、1.1μm未満の第2波長の光を吸収し、
半導体基板は、第2波長の光を吸収してもよい。
【0023】
項目5の構成によれば、第2波長を有する光を半導体基板が吸収するので、第2波長における感度を実効的に消すことができ、撮像装置の感度として表れないようにすることができる。
【0024】
[項目6]
項目1から5のいずれか1項に記載の撮像装置において、半導体基板の厚さは、30μm以上800μm以下であってもよい。
【0025】
項目6の構成によれば、1.1μmよりも短い波長を有する成分を半導体基板における吸収によって十分に減衰させることができる。
【0026】
[項目7]
項目1から6のいずれか1項に記載の撮像装置は、前記第1面に面しているマイクロレンズをさらに備えていてもよい。
【0027】
[項目8]
項目7に記載の撮像装置は、光電変換部と半導体基板との間に位置し、第1電極を第1トランジスタに電気的に接続する導電構造をさらに備え、
第1電極と導電構造との接続部は、第1面の法線方向から見てマイクロレンズの外縁よりも外側に位置していてもよい。
【0028】
項目8の構成によれば、接続部がマイクロレンズの外縁よりも外側に位置するので、導電構造による光の遮断を回避することができる。
【0029】
[項目9]
項目1から8のいずれか1項に記載の撮像装置は、光電変換部と半導体基板との間に、導波路構造を含む絶縁層をさらに備えていてもよい。
【0030】
項目9の構成によれば、半導体基板を透過した赤外光を効率よく光電変換部に導くことができる。
【0031】
[項目10]
項目1から9のいずれか1項に記載の撮像装置において、第1電極は、第1波長の光に対して80%以上の透過率を有していてもよい。
【0032】
項目10の構成によれば、光を通過させるための開口を第1電極に設ける必要がなく、より大きな開口率を得やすい。
【0033】
[項目11]
項目1から10のいずれか1項に記載の撮像装置において、第2電極は、第1波長の光に対して80%以上の反射率を有していてもよい。
【0034】
項目11の構成によれば、光電変換層を通過した光を対向電極によって半導体基板の側に向けて反射させることができ、より多くの光を光電変換に寄与させ得る。すなわち、より高い感度の発揮を期待できる。
【0035】
[項目12]
項目1から11のいずれか1項に記載の撮像装置は、第2電極側において光電変換部を覆う封止膜をさらに備えていてもよい。
【0036】
項目12の構成によれば、光電変換部への酸素の進入を防止する効果が得られる。
【0037】
[項目13]
項目1から12のいずれか1項に記載の撮像装置は、画素をさらに備え、
前記画素は、光電変換部および第1トランジスタを含んでいてもよい。
【0038】
[項目14]
項目13に記載の撮像装置は、半導体基板内に配置された、第1フォトダイオードを含む1以上のフォトダイオードをさらに備え、
画素は、第1フォトダイオードをさらに含んでいてもよい。
【0039】
項目14の構成によれば、入射光のうち可視域の成分を第1フォトダイオードによって光電変換することができる。
【0040】
[項目15]
項目14に記載の撮像装置は、第2面上に位置し、第1フォトダイオードに電気的に接続された第2トランジスタをさらに備えていてもよい。
【0041】
項目15の構成によれば、第1フォトダイオードにおいて生成された電荷を第2トランジスタによって読み出すことにより、入射光のうち可視域の成分の強度に関する情報をも得ることができる。
【0042】
[項目16]
項目14または15に記載の撮像装置において、前記1以上のフォトダイオードは複数のフォトダイオードを含み、
画素は、複数のフォトダイオードを含んでいてもよい。
【0043】
[項目17]
項目13から16のいずれか1項に記載の撮像装置は、前記第1面に面しているカラーフィルタをさらに備え、
カラーフィルタは、0.75μm以上1.1μm未満の波長域の光を実質的に透過させなくてもよい。
【0044】
項目17の構成によれば、第1フォトダイオードによって赤外光が光電変換されることに起因する余計な電荷の生成を抑制できるので、ホワイトバランスの崩れを防止することが可能である。
【0045】
[項目18]
項目1から16のいずれか1項に記載の撮像装置は、前記第1面に面しており、0.75μm以上1.1μm未満の波長域の光を実質的に透過させない帯域除去フィルタをさらに備えていてもよい。
【0046】
項目18の構成によれば、第1フォトダイオードによって赤外光が光電変換されることに起因する余計な電荷の生成を抑制できるので、ホワイトバランスの崩れを防止することが可能である。
【0047】
[項目19]
項目1から12のいずれか1項に記載の撮像装置は、
複数の画素をさらに備え、
前記複数の画素のそれぞれは、前記光電変換部および前記第1トランジスタを含み、
前記複数の画素の前記光電変換層は連続する単一の層であってもよい。
【0048】
[項目20]
本開示の項目20に係る撮像システムは、項目1から19のいずれか1項に記載の撮像装置と、
1.1μm以上の波長域の光を出射する光源と、を備える。
【0049】
項目20の構成によれば、例えば夕暮れが近付いたときなどに、光源から赤外光を放射させて撮影を行うことにより、赤外光に関する明るい画像をより確実に得ることが可能になる。
【0050】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を詳細に説明する。なお、以下で説明する実施形態は、いずれも包括的または具体的な例を示す。以下の実施形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置および接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。本明細書において説明される種々の態様は、矛盾が生じない限り互いに組み合わせることが可能である。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。以下の説明において、実質的に同じ機能を有する構成要素は共通の参照符号で示し、説明を省略することがある。また、図面が過度に複雑になることを避けるために、一部の要素の図示を省略することがある。
【0051】
(第1の実施形態)
図1は、本開示の第1の実施形態による撮像装置の画素のデバイス構造を示す。図1は、本開示の第1の実施形態による撮像装置100Aの一部を取り出してその断面を模式的に示している。図示するように、撮像装置100Aは、例えば二次元に配置された複数の画素Pxを含む。ただし、画素Pxの数および配置は、図1に示す例に限定されず任意である。撮像装置が少なくとも1つの画素Pxを有していれば、その撮像装置を光検出素子として利用することができる。画素Pxの配置が一次元であれば、撮像装置100Aを例えばラインセンサとして利用できる。
【0052】
撮像装置100Aは、概略的には、ウェル110wが形成された半導体基板110Aと、光電変換部120とを有する。半導体基板110Aは、光が入射する面である第1面110fおよび第1面110fの反対側に位置する第2面110bを有し、図1に模式的に示すように、光電変換部120は、半導体基板110Aの第2面110b側に位置する。半導体基板110Aと光電変換部120との間には、絶縁層130Aが位置し、光電変換部120は、絶縁層130A上に配置されている。
【0053】
絶縁層130Aは、典型的には、複数の層間絶縁層の積層構造を有する。絶縁層130Aを構成する各層は、例えば、二酸化シリコンから形成される。絶縁層130Aは、多層配線131を内部に有する。多層配線131は、例えばCuなどから形成され、複数の配線層134、および、異なるレイヤーの配線間を互いに接続するビア136などを含む。
【0054】
図1に示すように、光電変換部120は、複数の画素電極121と、対向電極122と、対向電極122および複数の画素電極121に挟まれた光電変換層123とを含む。図1に例示する構成において、対向電極122は、光電変換部120において複数の画素Pxにまたがって連続した単一の電極の形で設けられ、光電変換層123も同様に、複数の画素Pxにまたがって連続した単一の層の形で設けられている。これに対し、画素電極121は、各画素Pxに対応して設けられている。すなわち、画素Pxの各々は、画素電極121と、対向電極122の一部と、光電変換層123の一部とを含む。なお、図1に示す例では、各画素Pxに対応するようにして半導体基板110Aの第1面110f側に複数のマイクロレンズ190が配置されている。
【0055】
画素Pxの各々は、さらに、上述の半導体基板110Aの一部をも含む。本開示の実施形態において、半導体基板110Aとしては、主にシリコンを含有する基板が用いられる。ここで、「主にシリコンを含有する」とは、シリコンがドーパントとして含有される場合を除くことを意味する。主にシリコンを含有する基板の例は、主成分がシリコンまたはシリコン化合物であるような基板、すなわち、Si基板、および、SiGe混晶を含むいわゆるSiGe基板などである。
【0056】
図1に模式的に示すように、半導体基板110Aには、複数の第1トランジスタ111が形成されている。これらの第1トランジスタ111は、典型的には、半導体基板110Aの第2面110b側に電界効果トランジスタ(FET)の形で形成された信号検出トランジスタである。複数の第1トランジスタ111の各々は、例えばソースフォロワを形成することにより、画像信号を出力する。以下では、半導体基板110AとしてP型Si基板を例示する。この場合、複数の第1トランジスタ111の各々は、典型的にはNチャンネルMOSFETである。
【0057】
複数の画素Pxの各々は、上述の第1トランジスタ111を含む。各画素Pxの第1トランジスタ111は、光電変換部120の対応する画素電極121と電気的な接続を有する。この例では、第1トランジスタ111は、半導体基板110Aと光電変換部120との間に位置する導電構造132によって、対応する画素電極121に電気的に接続されている。導電構造132は、配線層134およびビア136の一部を含む、上述の多層配線131の一部から構成された構造である。図1では図示が省略されているが、半導体基板110Aには、第1トランジスタ111を画素Pxごとに電気的に分離する素子分離領域も形成される。
【0058】
各画素Pxに対応して光電変換部120に設けられた画素電極121は、Al、Cu、Ti、TiN、Ta、TaN、Mo、RuまたはPtなどから形成され得る。この例では、画素電極121の中央部に、光電変換層123に向かって光が画素電極121を通過できるように開口Apが設けられている。各画素Pxの画素電極121を対応する第1トランジスタ111に電気的に接続する導電構造132は、上述したように、Cuなど基本的に光を遮断する材料から形成される。そのため、導電構造132は、半導体基板110Aの法線方向から見たとき、この開口Apに重ならない位置に配置される。同様に、第1トランジスタ111も、典型的にはこの開口Apに重ならない位置に配置される。
【0059】
画素電極121は、あるいは、後述するように、ITOなどの、赤外線を透過させる材料から形成されてもよい。この場合も、導電構造132は、半導体基板110Aを透過して光電変換層123に向かう光の進行を妨げない位置、例えば、画素Pxの中央を避けた位置に配置される。なお、本明細書では、赤外線および紫外線を含めた電磁波全般を、便宜上「光」と表現する。画素電極121は、光電変換層123と半導体基板110Aの第2面110bとの間に位置する。
【0060】
光電変換部120の対向電極122は、画素電極121よりも半導体基板110Aから遠くに位置する。すなわち、対向電極122は、画素電極121とは光電変換層123に関して反対側に位置する。
【0061】
図1に例示する構成において、光電変換層123は、光電変換膜124と、電子ブロッキング層125とを含む。電子ブロッキング層125は、光電変換膜124と複数の画素電極121との間に配置される。光電変換層123は、光の入射を受けて光電変換層123内に正および負の電荷対を発生させる。例えば対向電極122に所定の電圧を印加することによって対向電極122の電位を画素電極121の電位よりも高くすることにより、電荷対のうち正の電荷を画素電極121によって収集することができる。
【0062】
本開示の実施形態では、光電変換膜124の材料として、1.1μm以上の第1波長の光を吸収する材料が選択される。後に詳しく説明するように、光電変換膜124は、カーボンナノチューブあるいは量子ドットなどの、量子閉じ込めを発現する材料を含有する。カーボンナノチューブ、量子ドットといった材料は、特定の波長に特異的な吸収ピークを示す特性を有する。したがって、このような材料を光電変換材料として形成された光電変換膜は、埋め込みフォトダイオードなどの、半導体結晶に形成されたデバイスが示すようなブロードな吸収特性とは異なり、急峻な吸収ピークを有する分光感度特性を示す。
【0063】
ただし、信号電荷として利用される電荷の生成に関わる主要な光電変換材料として、吸収ピークが離散的なカーボンナノチューブまたは量子ドットを用いた場合であっても、1.1μm未満の波長域に、より高いエネルギーに対応する共鳴に起因する吸収ピークが存在することがあり得る。また、光電変換層が、電荷分離のためのアクセプターまたはドナーを含んでいると、1.1μm未満の波長を有する光が電荷分離のための材料に吸収されることも起こり得る。このような1.1μm未満の波長域における意図しない吸収は、1.1μm以上の波長域における狭帯域撮像を行おうとする場合、SN比を低下させる要因となり得る。
【0064】
しかしながら、図1に例示する構成においては、光電変換部120とマイクロレンズ190との間に半導体基板110Aが介在している。半導体基板110Aの第1面110fは、外部からの光を受ける受光面を構成し、したがって、光電変換層123は、半導体基板110Aを透過した光を受ける。よく知られているように、シリコンは、そのバンドギャップに対応する1.1μm未満の波長を有する光を吸収し、1.1μm以上の波長の光を透過させる。したがって、半導体基板110Aがロングパスフィルタとして機能することにより、光電変換層123には、半導体基板110Aの第1面110fに入射した光のうち、半導体基板110Aを透過した1.1μm以上の波長を有する成分が入射する。
【0065】
さらに、上述したように、光電変換層123は、量子閉じ込めを発現する材料を含有することにより、ロングパスフィルタのカットオン波長に相当する1.1μmの波長よりも長波長側に鋭い吸収ピークを示す分光感度特性を有する。したがって、半導体基板110Aを介して光電変換層123に光を入射させることにより、1.1μm以上のある波長の光を特異的に吸収する分光感度特性を得ることができる。すなわち、狭帯域のバンドパスフィルタを不要としながら、特定の波長、例えば、近赤外域の光に関する撮像が可能になる。
【0066】
なお、上述の特許文献2に記載の技術では、アモルファスシリコンから形成された第1のフォトダイオードを光学フィルタとしても機能させている。しかしながら、シリコンは、アモルファスの形態では700nmから800nmの波長域に十分な吸収を示さない。すなわち、例えば900nm以上の波長域における狭帯域の撮像においては、アモルファスシリコンは、赤外光をカットするフィルタとしてはほとんど機能せず、狭帯域の撮像に不要な700nmから800nmの波長域の光まで光電変換される結果を招き、ノイズが増加してしまう。さらに、特許文献2に記載の技術では、赤外光を検出するための第2のフォトダイオードが、結晶性を有するシリコン層の形で形成されている。結晶性を有するシリコンは、1100nm程度の波長域まで光を吸収するので、900nm以上の波長域における狭帯域の撮像に用いた場合、狙いの波長よりも長波長の光まで光電変換されてしまう。つまり、長波長側まで拡がるブロードな感度があだとなり、ノイズの増大を招いてしまう。
【0067】
これに対し、本開示の実施形態では、主にシリコンを含有する半導体基板を介して光を光電変換層に入射させるものの、光電変換膜の材料として量子閉じ込めを発現する材料を用いている。そのため、光電変換膜の材料として、例えば1000nm以上1100nm未満の波長域にほとんど吸収を示さない材料を選択することができる。そのため、半導体基板を介して光電変換膜に1000nm以上1100nm未満の波長を有する光が入射したとしても、このような成分に起因するノイズの発生を回避できる。すなわち、特に赤外域の狭帯域に関してより高いSN比を有する撮像装置を提供し得る。
【0068】
以下、画素Pxのデバイス構造および光電変換層123の構成の詳細を説明する。
【0069】
図2は、光電変換層123に含まれる主要な光電変換材料に関する例示的な分光感度曲線を示す。図2に示す例において、光電変換層123の分光感度曲線は、1.1μm以上の波長である第1波長λに第1ピークPk1を有する。第1波長λは、例えば、1.1μm以上2μm以下の範囲にある波長である。分光感度曲線におけるピーク、換言すれば、感度のピークは、吸収スペクトルにおける極大値である吸収ピークと同義である。第1ピークPk1は、分光感度曲線に現れるピークのうちの1つであり、1.1μm以上の波長域に現れる感度のピークとして特定される。
【0070】
第1ピークPk1は、比較的鋭く、第1ピークPk1の半値全幅FWHMは、典型的には200nm以下である。また、本開示の実施形態において、信号電荷として利用される電荷の生成に関わる主要な光電変換材料の、1.0μm以上1.1μm未満の波長域における分光感度は、1.1μm以上の波長域における分光感度の最大値の0%以上5%以下の範囲であり得る。信号電荷の生成に関わる主要な光電変換材料の、1.0μm以上1.1μm未満の波長域における分光感度がこのような範囲にあると、1.0μm以上1.1μm未満の波長域の光に起因するノイズを低減できるので赤外域の狭帯域撮像に特に有利である。このような分光感度特性を示す材料の典型例は、カーボンナノチューブあるいは量子ドットなどの、量子閉じ込め効果を発現する材料である。上述の第1ピークPk1は、例えばカーボンナノチューブのE11遷移に対応する吸収ピークであり得る。光電変換膜124の光電変換材料として量子ドットを用いた場合も、カーボンナノチューブと同様に状態密度が離散的であるので、同様の分光感度特性を得ることが可能である。
【0071】
光電変換膜124の材料として量子閉じ込めを発現することのできる材料を用いた場合、特に第1ピークPk1の現れる第1波長λよりも長波長側において、光電変換層123として50%程度以下の比較的低い分光感度を得やすい。すなわち、光電変換膜124の光電変換材料として量子閉じ込めを発現することのできる材料を用いることにより、第1波長λよりも長波長側の光をカットするフィルタを不要とできるという利点が得られる。また、第1波長λよりも短波長側に注目すると、第2光学遷移または光電変換層中のアクセプターもしくはドナーによる吸収、および、電子ブロッキング層125による紫外域の吸収の影響により、第1波長λよりも長波長側の領域ほどには光電変換層123全体として分光感度が低下しないことがあり得るが、第1波長λよりも短波長側において、比較的に低い分光感度、すなわち第1ピークPk1よりも低い分光感度の領域を生じさせることが可能になる。
【0072】
光電変換層123の特に信号電荷の生成に関わる材料に関する分光感度曲線は、第1ピークPk1を含む複数のピークを有し得る。図2に示す例では、分光感度曲線は、第1ピークPk1に加えて、第2波長λに第2ピークPk2を有する。第2波長λは、例えば、第2光学遷移に対応する波長であり、この場合、第1ピークPk1は、信号電荷の生成に関わる材料の第1光学遷移に対応し、複数のピークのうち最も長波長側に位置する。換言すれば、第2ピークPk2は、複数のピークのうち長波長側から2番目の吸収ピークである。ここで、第1光学遷移は、光学遷移の選択則において許容される、最低エネルギーの光学遷移のことであり、第2光学遷移は、その次に高いエネルギーの光学遷移のことである。
【0073】
図2に模式的に示すように、第2ピークPk2が現れる第2波長λは、1.1μm未満であり得る。ここで、本開示の実施形態では、光電変換層123には、主にシリコンを含有する半導体基板、典型的にはSi基板を透過した光が入射する。また、上述したように、シリコンは、1.1μm未満の波長を有する光を吸収する。そのため、撮像装置に入射した光のうち、1.1μmよりも短い波長である第2波長λを有する光は、半導体基板を通過する間に減衰され、ほとんど光電変換層123に到達しない。すなわち、光電変換膜124の材料が第2波長λに吸収ピークを有していたとしても、第2波長λおよびその付近の波長を有する成分は、半導体基板によって遮断され、光電変換を介した信号電荷の発生に寄与しない。したがって、入射光のうち第1波長λを有する成分に関する画像信号を低ノイズで選択的に得ることができる。
【0074】
図3は、Si基板における、波長と透過率との間の関係を示す。図3中の曲線G1、G2、G3およびG4は、それぞれ、Si基板の厚さが10μm、30μm、100μmおよび775μmであるときの、波長と透過率との間の関係を表す。図3から、Si基板が30μm程度以上の厚さを有していれば、1.1μmよりも短い波長を有する光に対して十分なフィルタリング機能を示し得ることがわかる。なお、30μm以上の厚さを有している場合であっても、Si基板は、例えば1130nmの波長を有する光をほぼ100%透過させることもわかる。
【0075】
1.1μmよりも短い波長を有する成分を十分に減衰させる観点から、半導体基板110Aは、例えば、30μm以上の厚さを有する。半導体基板110Aの厚さに特に制限はないが、工業用Si基板は、8インチであれば725±20μm、12インチであれば775±20μmの範囲の厚さを有する。したがって、半導体基板110Aも800μm以下の厚さを有し得る。なお、既に説明したように、絶縁層130Aは、二酸化シリコンなどのシリコン酸化物、あるいは、窒化シリコンなどのシリコン窒化物などから形成される。これらの材料は、厚さが2μm程度であっても、1μm以上の波長域の光に対して90%以上の透過率を示し得る。
【0076】
再び図1を参照する。図1に模式的に示すように、光電変換部120の画素電極121は、半導体基板110Aと光電変換部120の光電変換膜124との間に位置する。画素電極121が、赤外線を透過させないTiNなどの材料から形成されている場合、光電変換膜124が画素電極121で覆われてしまうと、半導体基板110Aを透過した光が画素電極121によって遮断されてしまう。そのため、この例では、画素電極121に開口Apを設けている。
【0077】
図4および図5は、画素電極121の形状の例を示す。図4および図5は、半導体基板110Aの第2面110bの法線方向から見たときの画素電極121の配置および画素電極121のそれぞれの形状の例を模式的に示している。図4および図5では、各画素Pxに対応して半導体基板110Aの第1面110f側に配置されたマイクロレンズの外縁の位置も二点鎖線によりあわせて示している。
【0078】
図4に示す画素電極121Aは、概ね矩形状の外形を有し、中央に矩形状の開口Apを有する。このような構成においては、画素Pxの平面視における面積に占める開口Apの面積の割合が、画素Pxの開口率を決める。図1を参照しながら説明したように、各画素Pxの画素電極121Aは、第1トランジスタ111に電気的に接続された導電構造132との接続を有する。各画素Pxにおいて、画素電極と導電構造132との間の接続部は、マイクロレンズ190の外縁よりも外側に位置する。導電構造132は、典型的には、半導体基板110Aと光電変換部120との間において半導体基板110Aの法線方向に延びるビア136を含む。そのため、導電構造132の特に画素電極との接続部をマイクロレンズ190の外縁よりも外側に位置させることにより、導電構造132による光の遮断を回避することができる。
【0079】
例えば画素電極が矩形状の外形を有する場合、画素電極と導電構造132との間の接続部は、矩形状の4つの角部のいずれかの位置に設けられ得る。この例では、画素電極121Aは、矩形状の部分から画素Pxの外縁に向けて延長する引き出し部121dを有し、画素電極121Aと導電構造132との間の接続部121cが、引き出し部121d上の領域に設けられている。図4に模式的に示すように、接続部121cは、マイクロレンズ190の外縁よりも外側に形成される。
【0080】
図5に示す画素電極121Bは、中央に開口Apが設けられた概ね円環状の形状を有する。この例でも、接続部121cは、やはりマイクロレンズ190の外縁よりも外側に位置している。言うまでもないが、画素電極121の形状および配置は、図4および図5に示す例に限定されない。画素電極121の形状は、三角形または六角形などの多角形状であってもよく、また、画素電極121の外形と開口Apの形状とが一致している必要もない。ただし、光電変換によって生成された電荷が画素電極の一部に偏って収集されることを回避する観点からは、画素電極121が対称性の高い形状を有していると有利である。複数の画素電極121は、三角格子状の配置を有していてもよい。
【0081】
赤外域の光を透過させる材料から画素電極121が形成される場合には、画素電極121に開口Apを設けなくてもよい。図6から図8は、画素電極121の形状の他の例を示す。図6に示す画素電極121Cは、円板状の電極部121Ceと、電極部121Ceから延びる引き出し部121dとを有する。図7に示す画素電極121Dは、矩形状の電極部121Deと、電極部121Deから延びる引き出し部121dとを有する。これらの例では、引き出し部121d上の領域に接続部121cが配置されている。
【0082】
図8に示す画素電極121Eは、矩形状の電極部121Eeを有するものの、引き出し部121dを有しない。図7に示す画素電極121Dと比較して、画素電極121Eの電極部121Eeは、画素電極121Dの電極部121Deよりも大きな面積を有する。図8に例示する構成において、電極部121Eeの矩形状の4つの角部は、マイクロレンズ190の外縁よりも外側に位置し、電極部121Eeの角部のうちの1つの位置に接続部121cが設けられている。赤外域の光を透過させる材料から画素電極121が形成される場合、画素Pxの平面視における面積に占める画素電極121の面積の割合が、画素Pxの開口率を決める。したがって、SN比を向上させる観点からは、電極部の面積をなるべく大きくすることが有利である。赤外域の光を透過させる材料を画素電極121の材料に適用することにより、光を通過させるための開口Apを設ける必要がなくなるので、より大きな開口率を得やすい。
【0083】
上述の電極部121Ce、121De、120Eeは、1.1μm以上のある波長の光、例えば第1波長λを有する光に対して例えば80%以上の透過率を示す。赤外域の光を透過させる材料の例は、ITOおよびZnOに代表される透明導電性酸化物(Transparent Conducting Oxide(TCO))である。例えばITO膜の形で画素電極121を形成する場合、キャリア密度の調整によって、画素電極121の赤外光に対する透過率を調整可能である。キャリア密度を低下させることにより、例えば、1500nmの波長を有する光に対して80%程度の透過率を示すITO膜を得ることができる。また、例えば、ZnOは、200nm程度の厚さの薄膜とすることにより、1500nmの波長を有する光に対して90%以上の透過率を得ることができる。本明細書における「透明」は、検出しようとする波長範囲の光の少なくとも一部を透過することを意味し、可視光の波長範囲全体にわたって光を透過することは必須ではない。
【0084】
他方、対向電極122には、光電変換部120に入射する光に対する透過性は要求されない。対向電極122は、Al、TiNまたはAgなどの金属などから形成され得る。光電変換部120に入射する光を反射させる材料から対向電極122を形成してもよい。対向電極122は、1.1μm以上の第1波長λを有する光に対して例えば80%以上の反射率を有し得る。1.1μm以上の波長を有する光に対して例えば80%以上の反射率を示すような対向電極122の材料の例は、AlおよびAuである。Al膜およびAu膜は、垂直入射において、1.1μm以上の波長を有する光に対して90%程度の反射率を示す。1.1μm以上の特に第1波長λを有する光に対して対向電極122が例えば80%以上の高い反射率を示すことにより、光電変換層123を通過した光を対向電極122によって半導体基板110Aの側に向けて反射させることができ、より多くの光を光電変換に寄与させ得る。すなわち、より高い感度の発揮を期待できる。
【0085】
図1に例示する構成において、光電変換部120の半導体基板110Aとは反対側の表面、すなわち、対向電極122側の表面は、封止膜140によって覆われている。封止膜140は、例えばAl、SiN、SiON(酸窒化ケイ素)またはガラスなどから形成され、典型的には、500nm以上の厚さを有する。光電変換部120の表面を封止膜140で覆うことにより、光電変換部120の特に光電変換膜124への酸素の進入を防止する効果が得られる。
【0086】
封止膜140は、Au、Pt、Ti、TiNまたはAlなどの金属を例えば200nm以上堆積した膜であってもよい。封止膜140が金属を含有することにより、光電変換部120への水分の進入だけでなく、対向電極122側からの光の入射によるノイズの発生および輻射による熱に起因したノイズの発生を抑制し得る。対向電極122上にSiON、金属およびSiONを順次に堆積することにより、封止膜140を形成してもよい。
【0087】
図1に示す例では、撮像装置100Aは、上述の半導体基板110A、絶縁層130A、光電変換部120および封止膜140を含む構造を支持する支持基板150を有する。ただし、支持基板150は、必須の要素ではなく、必要に応じて撮像装置100Aに設けられる。例えば、半導体基板110Aが、構造の支持に十分な厚さを有する場合には、支持基板150を省略することができる。
【0088】
図1に示す例のように撮像装置に支持基板150を設け、絶縁層130Aおよび支持基板150の間に光電変換層123を挟むことにより、光電変換層123の配置を断面視において画素Pxの厚さ方向に関して中央に近づけることができる。このような光電変換層123の配置によれば、絶縁層130Aから光電変換層123に加わる応力を、支持基板150から光電変換層123に加わる応力によって相殺し得る。支持基板150の材料は、特に限定されず、支持基板150としては、Si基板、あるいは、シリコン酸化物の膜、シリコン窒化物の膜または高分子膜などを用い得る。
【0089】
図9は、本開示の第1の実施形態による撮像装置の変形例を模式的に示す。図1を参照しながら説明した撮像装置100Aと比較して、図9に示す撮像装置100Kは、封止膜140上に配置されたペルチェ素子142を有する。封止膜140上にペルチェ素子142を配置し、撮像装置100Kの動作時にペルチェ素子142によって光電変換部120を冷却することにより、熱励起によるキャリアの生成を抑制し得る。結果として、ノイズの原因となり得る暗電流の発生を抑制することができる。この例で4は、一般的な冷却型赤外線イメージセンサよりも光電変換部により近い位置で光電変換部を冷却できるので、光電変換部をより効率的に冷却し得る。図示するように、ペルチェ素子142は、複数の画素Pxごとに設けられ得る。
【0090】
図10は、各画素Pxの回路構成の典型例を示す。図10に模式的に示すように、画素Pxは、概略的には、光電変換部120と、上述の第1トランジスタ111を含む検出回路10とを含む。この例では、検出回路10は、信号検出トランジスタとしての第1トランジスタ111に加えて、選択トランジスタ113およびリセットトランジスタ115を含む。選択トランジスタ113およびリセットトランジスタ115は、典型的には、第1トランジスタ111と同様に、半導体基板110Aの第2面110bに形成されるNチャンネルMOSFETである。
【0091】
図10に模式的に示すように、光電変換部120の対向電極122は、図10において不図示の電圧供給回路に接続されることにより、動作時に所定の電圧Vを印加可能に構成される。他方、光電変換部120の画素電極121は、第1トランジスタ111のゲートに接続される。動作時、第1トランジスタ111のドレインに、図10において不図示の電源から電源電圧AVDDの供給を受けることにより、第1トランジスタ111は、フローティングディフュージョンノードFDの電位に応じた信号を出力するソースフォロワとして機能する。ここで、フローティングディフュージョンノードFDは、光電変換部120と第1トランジスタ111とを互いに電気的に接続するノードである。フローティングディフュージョンノードFDは、上述の導電構造132とリセットトランジスタ115のソース領域およびドレイン領域の一方とをその一部に含む。なお、図10では、フローティングディフュージョンノードFDが有する容量を容量素子Cの形で示している。
【0092】
選択トランジスタ113は、第1トランジスタ111のソースと、複数の画素Pxの列ごとに設けられる複数の出力信号線12のうち対応する1つとの間に接続されている。選択トランジスタ113のゲートは、アドレス制御線を介して不図示の垂直走査回路に接続され、アドレス制御線の電位Φの制御により、選択トランジスタ113のオンおよびオフが制御される。典型的には、アナログ-デジタル変換回路を含むカラム信号処理回路14が出力信号線12に接続される。アナログ-デジタル変換回路は、半導体基板110Aに形成された回路であり得る。カラム信号処理回路14は、相関二重サンプリングに代表される雑音抑圧信号処理を行う回路をさらに含み得る。
【0093】
この例では、検出回路10は、リセットトランジスタ115を含む。リセットトランジスタ115のソースおよびドレインの一方は、フローティングディフュージョンノードFDとの接続を有する。リセットトランジスタ115のソースおよびドレインの他方は、図10において不図示のリセット電圧源に接続されることにより、撮像装置の動作時に所定のリセット電圧Vの供給を受ける。リセットトランジスタ115のゲートは、リセット制御線を介して例えば垂直走査回路に接続されている。垂直走査回路は、リセット制御線の電位Φの制御により、リセットトランジスタ115のオンおよびオフを制御する。
【0094】
以上から理解されるように、撮像装置100Aおよび100Kにおける信号検出の原理は、いわゆる積層型の撮像装置における原理とほぼ同様であり得る。積層型の撮像装置に関する基本的な構造および動作の例は、例えば特開2017-188917号公報に説明されている。参考のために、特開2017-188917号公報の開示内容の全てを本明細書に援用する。
【0095】
次に、光電変換層123の構成をより詳細に説明する。図2を参照しながらの上述の説明から理解されるように、光電変換層123は、1.1μm以上の第1波長λの光を吸収することができる。ここで、光電変換層がある波長の光を「吸収する」といったとき、光電変換層がその波長の光に対して示す吸収率が100%であることは必須ではない。
【0096】
図1および図9に例示する構成において、光電変換層123は、電子ブロッキング層125と、光電変換膜124とを有する。電子ブロッキング層125は、例えば、NiOなどの金属酸化物または下記の式(1)で表されるTAPCなどの有機材料から形成される。
【化1】
【0097】
光電変換膜124は、量子閉じ込め効果を持つ量子ナノ構造を有する材料を含有する。量子ナノ構造とは、一次元的、二次元的または三次元的に量子サイズ効果を発現する構造を指す。量子ナノ構造を有する材料の例は、カーボンナノチューブである。カーボンナノチューブは、グラフェンを丸めたような構造を有し、直径がナノメートル領域の、継ぎ目のない概ね円筒状である。円筒が1つの構造を特に単層カーボンナノチューブと呼び、複数の円筒が入れ子になった構造を多層カーボンナノチューブと呼ぶ。単層カーボンナノチューブの電子的特性および光学的特性の多くは、カイラル指数によって指定されるカイラリティによって決まり、単層カーボンナノチューブは、カイラリティに応じて金属的な性質または半導体的な性質を示す。
【0098】
単層カーボンナノチューブ中の電子のエネルギーは、チューブが円筒状であることによる周期性に起因してチューブ軸方向の波数のみによって指定される。すなわち、単層カーボンナノチューブの電子状態は、一次元的である。単層カーボンナノチューブのバンド構造は、状態密度の発散するエネルギー準位(サブバンド)が離散的に発現する点で特徴的である。状態密度におけるこのような特異点は、Van Hove特異点と呼ばれる。
【0099】
単層カーボンナノチューブの吸収スペクトルは、このサブバンド間のエネルギーに相当する波長において急峻なピークを示す。カーボンナノチューブにおいては、フェルミ準位から数えて1番目のサブバンド間の光学遷移が第1光学遷移であり、2番目のサブバンド間の光学遷移が第2光学遷移である。図2を参照して説明した第2ピークPk2は、第2光学遷移であるE22遷移に対応する吸収ピークであり得る。
【0100】
単層カーボンナノチューブは、カイラリティと呼ばれる自由度を持ち、下記の表1に示すように、カイラリティに応じた異なる波長に共鳴吸収を示す。例えば(9,8)のカイラル指数を有する半導体型カーボンナノチューブは、800ナノメートル前後および1.41マイクロメートル前後の波長に共鳴吸収を示す。(7,6)のカイラル指数を有する半導体型カーボンナノチューブは、650ナノメートル前後および1.13マイクロメートル前後の波長に共鳴吸収を示す。なお、表1に示す各波長の値は、あくまでも一例であり、実測値と50ナノメートル程度の誤差が生じることもあり得る。
【0101】
【表1】
【0102】
30μm以上の厚さを有するSi基板は、(9,8)のカイラル指数を有する半導体型カーボンナノチューブが共鳴吸収を示す1.41マイクロメートルの波長の光をほぼ100%透過させることに対し、第2光学遷移に対応する800ナノメートル前後の波長を有する光を0.1%以下しか透過させない。また、30μm以上の厚さを有するSi基板は、(7,6)のカイラル指数を有する半導体型カーボンナノチューブが共鳴吸収を示す1.13マイクロメートルの波長の光をほぼ100%透過させることに対し、第2光学遷移に対応する650ナノメートル前後の波長を有する光を0.1%以下しか透過させない。
【0103】
表1に例示するカイラリティを有する半導体型カーボンナノチューブは、シリコンにおいて透過率が急激に減少する1000nm付近の波長域の光にほとんど吸収を示さない。したがって、例えば、検出を行おうとする光の波長に応じたカイラリティを有する単層カーボンナノチューブを用いて光電変換膜124を形成することにより、特定の波長に特異的に高い感度を有する画素を実現可能である。カーボンナノチューブは、後述する量子ドットと比較してより急峻な吸収ピークを得やすく、特定の波長における特異的に高い感度の発揮に有利な光電変換材料である。光電変換膜124に、カイラリティの異なる複数のカーボンナノチューブを混在させてもよい。
【0104】
量子ナノ構造として、ナノロッドもしくはナノワイヤ、量子井戸を有する結晶もしくは超格子、または、量子ドットを適用することも可能である。ナノロッド、ナノワイヤ、量子井戸を有する結晶もしくは超格子および量子ドットなどの量子ナノ構造を形成するための原料としては、Si、GeなどのV族半導体、PbS、PbSe、PbTeなどのIV-VI族半導体、InAs、InSbなどのIII-V族半導体、あるいは、HgCdTe、PbSnTeなどの3元混晶体を選択することができる。量子ドットなどの量子ナノ構造を形成するための原料として金属も適用し得る。
【0105】
数十ナノメートル以下程度の直径および数百ナノメートル以上の長さを有するナノロッドもしくはナノワイヤは、一次元的な量子閉じ込め効果を示す。ナノロッドおよびナノワイヤの直径は、使用する原料によって異なり、例えば、PbSであれば18ナノメートル以下、InAsであれば29ナノメートル以下、InSbであれば61ナノメートル以下である。ナノロッドおよびナノワイヤの長さは、使用する原料のボーア半径と比較して大きな値であってよい。
【0106】
量子井戸を有する結晶または超格子は、二次元的な量子閉じ込め効果を示す。量子井戸を有する結晶の層の厚さおよび超格子の層の厚さは、使用する原料のボーア半径以下の値となるようにされる。量子ドットは、三次元的な量子閉じ込め効果を示す。量子ドットは、2から10ナノメートル程度の直径を有するナノクリスタルであり、数十個程度の原子で構成される。量子ドットの表面には、分散剤、配位子による修飾などが付与され得る。量子ドットは、APbXの化学式で示される、ペロブスカイト構造を有する量子ドットであってもよい。ここで、APbXの化学式中、Aは、セシウム、メチルアンモニウムおよびホルムアミジニウムからなる群から選択される1つであり、Xは、塩素、臭素またはヨウ素である。
【0107】
粒子の粒径が励起子のボーア半径程度以下になると、励起子、電子が三次元的に空間に閉じ込められ、その状態密度は、バルクのときと異なり離散化される。また、粒径が小さくなるとこの量子閉じ込め効果が増大し、図11に模式的に示すように、ギャップが拡大する。したがって、同一の原料であっても量子ドットの形態とすることにより、バルク時のエネルギーギャップよりも大きなエネルギーギャップを実現することができ、かつ、その粒径によってエネルギーギャップを調整することが可能である。
【0108】
量子ドットでは、第1光学遷移における吸収ピークの幅は、その原料およびその粒径によって大きく変化し得る。したがって、光電変換膜124を構成する光電変換材料として例えば量子ドットを選択した場合には、その原料および粒径を調整することによって、光電変換膜124において特異的に吸収を示す波長を調整することが可能である。
【0109】
なお、光電変換膜124は、量子閉じ込め効果を持つ材料に加えて、アクセプターとしての有機化合物またはドナーとしての有機化合物を含有し得る。図12は、光電変換部に関する例示的なエネルギー図を示す。図12に示す例は、光電変換によって生成される正および負の電荷のうち正の電荷を画素電極121によって収集する場合の構成である。
【0110】
図12中、3つの矩形の左側にある太い横線は、画素電極121のフェルミ準位を表し、3つの矩形の右側にある太い横線は、対向電極122のフェルミ準位を表す。図12において3つ並ぶ矩形のうち、一番左の矩形の底辺は、電子ブロッキング層125の最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギー準位を表し、底辺に対向する辺は、最低空分子軌道(LUMO)のエネルギー準位を表す。図12に例示する構成において、光電変換層123Aは、第1層124pおよび第2層124aを含む光電変換膜124Aを有する。図12中の中央の矩形およびその矩形の右側の矩形は、光電変換膜124Aの第1層124pおよび第2層124aのそれぞれにおけるHOMOおよびLUMOのエネルギー準位の高さを模式的に示している。
【0111】
光電変換膜124Aの第1層124pは、第1波長λの光を特異的に吸収する材料を主に含有する層であり、量子閉じ込め効果を持つ材料から実質的に形成される。他方、光電変換膜124Aの第2層124aは、主にアクセプター性有機化合物を含有する層であり、再結合による励起子の失活を抑制する機能を有する。アクセプター性有機化合物としては、電子受容性のある有機化合物であればいずれの有機化合物も使用可能である。アクセプター性有機化合物の代表例は、下記の式(2)で表されるC60フラーレン、下記の式(3)で表されるフェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)である。なお、C60フラーレンのイオン化ポテンシャルおよび電子親和力の値は、それぞれ、およそ6.4eVおよび4.0eVである。PCBMのイオン化ポテンシャルおよび電子親和力の値は、それぞれ、およそ6.1eVおよび3.7eVである。
【化2】
【化3】
【0112】
光電変換膜124Aの第1層124pは、赤外域の光の吸収により電荷対を発生させ、赤外域の光の強度に関する信号電荷の発生に寄与する。図13は、光電変換膜124Aの第1層124pに関する典型的な分光感度曲線を模式的に示す。
【0113】
他方、図14は、光電変換膜124Aの第2層124aに関する分光感度曲線の例を模式的に示す。フラーレンおよびPCBMは、赤外域に吸収を示さず、したがって、このような材料から形成された第2層124aは、赤外域に感度を有しない。ただし、図14からわかるように、可視光に対して感度を有し得る。第2層124aで生成され、画素電極121に収集された電荷は、ノイズの原因となり得る。
【0114】
図15は、第1層124pおよび第2層124aを含む光電変換膜124Aに関する分光感度曲線を模式的に示す。光電変換膜が、量子閉じ込め効果を持つ第1の材料と、これとは異なる第2の材料、例えばアクセプターとしての有機化合物またはドナーとしての有機化合物などとを含有する場合、光電変換膜の分光感度特性は、図15に模式的に示すように、第1の材料に関する分光感度特性と、第2の材料に関する分光感度特性とを合成したものとなる。例えばアクセプターとしての有機化合物またはドナーとしての有機化合物は、典型的には、0.9μmを超える波長の光を吸収しない。この例では、第2の材料における吸収は、半導体基板110Aが吸収を示す1.1μm未満の波長域にある。そのため、光電変換膜が、フラーレンおよびPCBMのような、赤外域の光電変換に寄与する材料以外の第2の材料を含有していても、第2の材料による光吸収は、光電変換部120の実効的な感度には表れない。
【0115】
このように、本開示の実施形態では、光電変換膜が、量子閉じ込め効果を持つ第1の材料に加えて、アクセプターまたはドナー、分散剤などの第2の材料をさらに含有していてもかまわない。なお、図12では、第1層124pおよび第2層124aの積層構造を有する光電変換膜124Aを例示しているが、光電変換膜は、量子閉じ込め効果を持つ第1の材料と、これとは異なる第2の材料とが混合されたバルクヘテロ接合構造層の形で形成されてもよい。この場合も上述の例と同様に、第2の材料による光吸収は、光電変換部120の実効的な感度に表れない。バルクへテロ接合構造は、特許第5553727号公報において詳細に説明されている。参考のために、特許第5553727号公報の開示内容の全てを本明細書に援用する。光電変換膜と対向電極122との間に正孔ブロッキング層がさらに配置されてもよい。
【0116】
カーボンナノチューブおよび量子ドットでは状態密度が離散的となるために、これらを材料とする光電変換層の分光感度曲線のピークは急峻な形状となり、また、2つのピークの間には明瞭な谷が現れる。隣接する2つのピークは、ある光学遷移(例えばE22遷移)におけるエネルギーギャップの大きさに対応する波長と、これとは異なる光学遷移(例えばE11遷移)におけるエネルギーギャップの大きさに相当する波長との差に相当する波長分離れている。そのため、ピーク間の、相対的に低感度の谷の部分が、シリコンにおいて透過率が急激に減少する波長である1.1μmに位置することにより、第1ピークPk1以外の吸収ピークに起因する感度を実質的に消すことができる。そのため、撮像装置100A、100Kは、第2ピークPk2に対応する第2波長λに実効的に感度を示さない。
【0117】
このように、光電変換膜124の材料が複数の吸収ピークを有する場合であっても、第1ピークPk1以外のピークの位置を1.1μm未満の波長域とすることにより、それらの吸収ピークに対応する波長における感度を実効的に消すことができ、撮像装置の感度として表れないようにすることができる。なお、図2に示す例では、第2ピークPk2と比較して第1ピークPk1の方が高い。しかしながら、これはあくまでも例示であり、第1ピークPk1よりも第2ピークPk2の方が高くてもかまわない。
【0118】
また、第1波長λよりも長波長側に注目すると、第1ピークPk1が急峻な形状を有することにより、第1波長λよりも長いある波長λを超えるような波長の光に対しても、撮像装置100A、100Kは、実効的に感度を示さない。ここで、波長λは、光電変換層123に含まれる主要な光電変換材料の分光感度特性によって決まる波長である。
【0119】
すなわち、本開示の実施形態による撮像装置は、第1波長λを含むある特定の波長域に選択的に感度を持つ。このように、本開示の実施形態によれば、半導体基板を透過した光を受ける光電変換膜を構成する材料のうち、特に、信号電荷として利用される電荷の生成に関わる主要な光電変換材料自体が急峻な吸収ピークを有することにより、バンドパスフィルタなどの光学フィルタを不要としながら、狭帯域の撮像を実現できる。特に、干渉を利用したフィルタリングではないので、斜め光に対しても所期のフィルタ機能を発揮させることが可能である。
【0120】
(撮像装置100Aの例示的な製造方法)
ここで、図16から図21を参照しながら、図1に示す撮像装置100Aの例示的な製造方法を簡単に説明する。まず、図16に示すように、主にシリコンを含有する半導体基板110Sを用意する。ここでは、半導体基板110SとしてP型Si基板を用いる例を説明する。
【0121】
次に、半導体基板110Sの一方の主面である第2面110b側からのイオン注入などにより、図17に模式的に示すように、ウェル110w、トランジスタのソース領域またはドレイン領域としてのN型不純物領域110n、および、素子分離領域などを第2面110b側に形成する。次に、第2面110bの所定の領域上に検出回路10を構成する第1トランジスタ111、選択トランジスタ113およびリセットトランジスタ115のゲート電極を配置する。なお、図17では、図面が複雑になることを避けるために、これらのゲート電極の図示を省略している。
【0122】
次に、図18に示すように、半導体基板110Sの第2面110bを覆う絶縁層130Aを形成する。例えば、化学気相成長(CVD)により、絶縁膜を形成する。典型的には、二酸化シリコン、窒化シリコンなどの絶縁材料を複数回に分けて堆積し、ダマシンプロセスの適用により、上述のアドレス制御線、リセット制御線および出力信号線12を含む多層配線131を絶縁層130Aの内部に形成する。このとき、絶縁膜のパターニングによって半導体基板110S上の回路との間のコンタクトも形成する。
【0123】
次に、図19に模式的に示すように、絶縁層130A上に光電変換部120を配置する。この例では、画素電極121は、絶縁層130Aに埋め込まれる形で絶縁層130Aの上面近くに形成され、導電構造132に接続されている。このように、光電変換部120は、導電構造132との接続を有する画素電極121を含む。
【0124】
光電変換部120は、積層型の撮像装置における光電変換部と同様に形成可能であり、光電変換部120の形成には公知の半導体プロセスを適用可能である。本開示の実施形態によれば、半導体基板を覆う絶縁層130A上に光電変換部120を配置するので、従来のCMOSイメージセンサとは異なり、半導体基板を構成するシリコンなどの半導体とは異なる材料を光電変換膜124の材料として選択できる。そのため、光電変換部120を支持する半導体基板の材料の持つ吸収特性に依らない、所望の波長域に関する撮像を実現できる。
【0125】
ここでは、次に、図20に示すように、光電変換部120の対向電極122上に封止膜140を形成する。封止膜140の形成には、化学気相成長および物理気相成長のいずれも適用可能である。この例では、さらに、封止膜140上に支持基板150を接合している。
【0126】
その後、典型的には、半導体基板110Sの厚さを低減させる。例えば、図21に模式的に示すように、半導体基板110Sを第2面110bとは反対側の主面側から研削または研磨することにより、第1面110fおよび第2面110bを有する半導体基板110Aを得る。その後、半導体基板110Aの第1面110f側にマイクロレンズ190を配置する。マイクロレンズ190と半導体基板110Aの第1面110fとの間に、平坦化のための保護層などが介在されてもよい。以上の工程により、図1に示す撮像装置100Aが得られる。なお、半導体基板110Sの薄化後に支持基板150が除去されてもよい。
【0127】
(第2の実施形態)
図22は、本開示の第2の実施形態による撮像装置の画素のデバイス構造を模式的に示す。図1を参照しながら説明した撮像装置100Aと比較して、図22に示す撮像装置100Bは、半導体基板110Aに代えて半導体基板110Bを有する。また、撮像装置100Bは、半導体基板110Bの第1面110fと、マイクロレンズ190との間に位置するカラーフィルタ180をさらに有する。
【0128】
図22に模式的に示すように、半導体基板110Bには、1以上のフォトダイオード110Pが形成されている。これらフォトダイオード110Pは、半導体基板110Aを覆う絶縁層130Aの形成の前に、イオン注入などによって形成できる。なお、図22に示す第1トランジスタ111は、フォトダイオード110Pに対して紙面(すなわち切断面)よりも手前側または奥側に位置する。
【0129】
図22に示す例では、画素Pxごとに1つのフォトダイオード110Pが設けられている。各画素Pxのフォトダイオード110Pは、素子分離領域110sによって空間的、電気的に分離されている。素子分離領域110sは、例えばSTI(Shallow Trench Isolation)またはイオン注入によって形成される。なお、本明細書において、「画素Px」は、画素電極121および第1トランジスタ111を含む単位構造を指す。
【0130】
カラーフィルタ180としては、1.1μm以上の波長域の光を透過させるフィルタを用いる。したがって、各画素Pxのフォトダイオード110Pには、カラーフィルタ180を通過した光が入射する。そのうち、1.1μm以上の波長を有する成分は、半導体基板110Bを透過し、光電変換部120のうちフォトダイオード110Pの下方に位置する部分に到達する。すなわち、光電変換部120は、入射光のうち1.1μm以上の第1波長λを有する光の強度を検出する。
【0131】
他方、各画素Pxのフォトダイオード110Pは、カラーフィルタ180を通過した光のうち1.1μm未満の波長を有する成分の入射によって電荷を発生させる。後述するように、各画素Pxのフォトダイオード110Pは、図22において不図示の第2トランジスタとの接続を有する。第2トランジスタは、フォトダイオード110Pによって生成された電荷を読み出す信号検出トランジスタである。本開示の第2の実施形態によれば、フォトダイオード110Pにおいて生成された電荷を第2トランジスタによって読み出すことにより、入射光のうち可視域の成分の強度に関する情報をも得ることができる。
【0132】
図23は、撮像装置100Bの各画素Pxの回路構成の例を示す。図23に例示する構成において、各画素Pxは、検出回路10に加えて、第2の出力信号線22に接続された第2の検出回路20を有する。図示するように、第2の検出回路20は、第2トランジスタ112と、第2の選択トランジスタ114と、第2のリセットトランジスタ116とを含む。この例では、第2の検出回路20は、転送トランジスタ118をさらに有している。この転送トランジスタ118は、フォトダイオード110Pと、信号検出トランジスタとしての第2トランジスタ112との間に接続される。第2トランジスタ112、第2の選択トランジスタ114、第2のリセットトランジスタ116および転送トランジスタ118は、典型的にはNチャンネルMOSFETであり、検出回路10のトランジスタと同様に、半導体基板110Bの第2面110bに形成される。
【0133】
第2トランジスタ112のゲートは、転送トランジスタ118を介してフォトダイオード110Pに接続される。第2トランジスタ112は、そのドレインに所定の電源電圧AVDD2が供給されることにより、ソースフォロワとして機能し、ゲートに印加された電圧に応じた信号を、選択トランジスタ114を介して第2の出力信号線22に出力する。電源電圧AVDD2は、第1トランジスタ111のドレインに供給される電源電圧AVDDと異なる電圧であってもよいし、共通であってもよい。なお、第2トランジスタ112のゲート電極は、上述の第1トランジスタ111のゲート電極の形成の工程において並行して形成され得る。すなわち、第2トランジスタ112のゲート電極は、第1トランジスタ111のゲート電極と同層であり得る。
【0134】
転送トランジスタ118の動作は、転送トランジスタ118のゲートに接続される転送制御線の電位Φによって制御される。転送制御線の電位Φは、例えば垂直走査回路によって制御される。同様に、第2の選択トランジスタ114のゲートに接続される第2のアドレス制御線の電位Φ2も、垂直走査回路によって制御され得る。すなわち、転送トランジスタ118のオンおよびオフ、ならびに、第2の選択トランジスタ114のオンおよびオフは、垂直走査回路によって制御され得る。
【0135】
第2のリセットトランジスタ116のソースおよびドレインの一方は、第2トランジスタ112のゲートに電気的に接続され、動作時、ソースおよびドレインの他方に所定のリセット電圧V2が印加される。第2のリセットトランジスタ116のゲートに接続される第2のリセット制御線の電位Φ2も、垂直走査回路によって制御され得る。
【0136】
この例では、第1トランジスタ111が出力信号線12に接続され、第2トランジスタ112が第2の出力信号線22に接続されているので、第1トランジスタ111からの信号と、第2トランジスタ112からの信号とを独立して読み出すことができる。すなわち、赤外域のとりわけ第1波長λを有する光の強度に関する信号と、可視光の強度に関する信号とを個別に取得することができる。
【0137】
図23に例示する構成において、出力信号線12と第2の出力信号線22とに独立して、アナログ-デジタル変換回路を含むカラム信号処理回路が接続されていてもよい。光電変換部120によって得られる、赤外域のとりわけ第1波長λを有する光の強度に関する信号と、フォトダイオード110Pによって得られる、可視光の強度に関する信号とは、異なるタイミングでデジタル信号に変換されてもよい。
【0138】
図24は、撮像装置100Bの各画素Pxの回路構成の他の例を示す。図24に例示する構成では、各画素Pxは、検出回路10Bを含む。検出回路10Bは、上述の検出回路10に転送トランジスタ118をさらに追加した形を有する。この例では、光電変換部120が接続されたフローティングディフュージョンノードFDにさらにフォトダイオード110Pが接続されている。
【0139】
図24に示すような回路構成によれば、検出回路全体のサイズの増大を抑制しながらも、第1波長λを有する光の強度に関する信号と、可視光の強度に関する信号とを個別に取得することが可能である。ただし、信号の読み出しを独立して実行可能であるので、フレームレートの観点では図23に示す回路構成が有利である。
【0140】
(変形例1)
図25は、第2の実施形態の変形例による撮像装置の画素のデバイス構造を模式的に示す。図25に示す撮像装置100Cは、光電変換部120の上方に位置する半導体基板110Cを有する。半導体基板110Cに複数のフォトダイオード110Pが形成されており、フォトダイオード110Pに第2トランジスタ112が接続されている点は、図22に示す撮像装置100Bと同様である。したがって、この例でも、第1波長λを有する光の強度に関する信号と、可視光の強度に関する信号とを個別に取得可能である。図22を参照しながら説明した例と、図25に示す撮像装置100Cとを比較すると、図25に示す例では、撮像装置100Cは、画素Pxごとに複数のフォトダイオード110Pを含む。
【0141】
図26は、半導体基板110Cの法線方向から見たときの、マイクロレンズ190、カラーフィルタ180および画素電極121の配置の例を示す。図26に例示する構成において、画素Pxは、2行2列の配列を有する4つのセルCEを含む。ここで、これらのセルCEは、それぞれが上述のフォトダイオード110Pのうちの1つを含む構造である。
【0142】
この例では、ある画素Pxの光電変換部120の上方に位置するカラーフィルタ180は、1つの第1フィルタ領域180rと、2つの第2フィルタ領域180gと、1つの第3フィルタ領域180bとを含む。第1フィルタ領域180rは、赤色の波長域の光を選択的に透過させる。第2フィルタ領域180gのそれぞれは、緑色の波長域の光を選択的に透過させ、第3フィルタ領域180bは、青色の波長域の光を選択的に透過させる。これら第1フィルタ領域180r、第2フィルタ領域180gおよび第3フィルタ領域180bのそれぞれは、図26において不図示の複数のフォトダイオード110Pのうち、それらの直下に位置する対応するフォトダイオード110Pを覆う。このような構成によれば、画素Pxごとに、赤外光の強度に関する信号に加えて、例えば、赤色光の強度に関する信号、緑色光の強度に関する信号および青色光の強度に関する信号を取得することができる。
【0143】
なお、この例では、各画素Pxが4つのセルCEを有することに対応して4つのマイクロレンズ190を含む。図26に例示する構成において、画素電極121Fは、上面視において4つのセルCEに跨っており、その中央に1つの開口Apを有している。ただし、開口Apの数は1つに限定されず、画素Pxが4つのセルCE含むことに対応して画素電極に合計で4つの開口を設けてもよい。
【0144】
なお、図26に示す例では、4つのセルCEのうち図26中の右下に位置するセルCEに、画素電極と導電構造132との接続部121cが配置されている。ただし、接続部121cの位置は、絶縁層130A内の光路上に位置しなければ任意である。図26に示す例のように各画素Pxが複数のセルCEを含むような構成では、接続部121cが画素Pxの中央に位置することもあり得る。この場合も、接続部121cが、マイクロレンズ190の外縁よりも外側に位置する点は、図4から図8を参照しながら説明した各例と同様である。
【0145】
(変形例2)
図27は、第2の実施形態の他の変形例による撮像装置の画素のデバイス構造を模式的に示す。これまでに説明した種々の例と、図27に示す撮像装置100Dとの間の主な相違点は、図27に例示する構成では、絶縁層130Aに代えて、内部に導波路構造135Aの形成された絶縁層130Bが設けられている点である。
【0146】
半導体基板110Cと光電変換部120との間に位置する導波路構造135Aは、例えばTiOが分散されたポリイミドなどの有機材料、または、窒化シリコンなどから形成され、絶縁層130Bの他の部分と比較して高い屈折率を有する。導波路構造135Aの屈折率の範囲は、光電変換部120を介して検出しようとする波長に応じて異なるが、典型的には、1.6以上である。
【0147】
導波路構造135Aは、例えば、以下のようにして形成できる。まず、図18を参照しながら説明した例と同様にして、半導体基板110Cの第2面110bを覆う層間絶縁層および多層配線を形成する。次に、反応性イオンエッチング(RIE)などにより、層間絶縁層のうち配線の配置された箇所を残すようにして層間絶縁層に複数の凹部を形成する。これらの凹部は、半導体基板110Cに形成されたフォトダイオード110Pに対応した位置に設けられる。このときに形成される凹部の深さは、例えば400nmから600nm程度の範囲である。その後、層間絶縁層の材料よりも高い屈折率を有する材料を堆積する。高屈折率材料の堆積により、層間絶縁層に形成された凹部の内部が高屈折率材料で充填される。必要に応じて、高屈折率材料の膜の上面を平坦化する。凹部の表面に金属などの赤外線反射材料の膜を形成してから、凹部の内部を高屈折率材料で充填してもよい。
【0148】
図27から理解されるように、これらの導波路構造135Aは、半導体基板110Cに形成されたフォトダイオード110Pに対応して独立して絶縁層130B内に設けられる。上述したアドレス制御線などの各種の制御線および出力信号線12、第2の出力信号線22、ならびに、導電構造132は、絶縁層130Bのうち導波路構造135Aが形成された領域以外の領域に位置する。絶縁層130Bのうち多層配線の配線の部分を覆う凸部と、これらの凸部の間に形成された凹部に位置する導波路構造135Aとは、それぞれ、クラッドおよびコアとして機能する。図27に例示する構成によれば、半導体基板110Cを透過した赤外光を効率よく光電変換部に導くことができる。
【0149】
フォトダイオード110Pが形成された半導体基板(半導体基板110Bまたは半導体基板110C)の第1面110fと、カラーフィルタ180との間に、上述の導波路構造135Aと同様の導波路構造を有する絶縁層を介在させてもよい。この場合、フォトダイオード110Pからの信号の読み出しに関わる配線が、第1面110fおよびカラーフィルタ180の間に位置する絶縁層の内部のうち、導波路構造が設けられた領域以外の領域に配置されてもよい。第1面110fおよびカラーフィルタ180の間に位置する絶縁層の内部に導波路構造を設けることにより、撮像装置100Bに入射した光のうち可視域にある成分をフォトダイオード110Pに効率良く導くことができる。
【0150】
層間絶縁層中に導波路を形成する方法は、特開2012-114155号公報および特開2011-243753号公報などに説明されている。参考のために、特開2012-114155号公報の開示内容の全てと、特開2011-243753号公報の開示内容の全てとを本明細書に援用する。
【0151】
半導体基板の第2面110bを覆う層間絶縁層に複数の凹部を形成した後、これら凹部の内部に絶縁膜および金属膜などを積層することによって、図28に示すように、導波路構造135Bを形成してもよい。導波路構造135Bを絶縁膜および金属膜などの積層膜の形で形成することにより、導波路構造135Bに干渉型のバンドパスフィルタとしての機能を持たせ得る。導波路構造135Bがバンドパスフィルタ機能を有することにより、半導体基板のロングパスフィルタとしての機能を補完し得る。
【0152】
なお、図28に示す撮像装置100Eでは、複数のフォトダイオード110Pを互いに分離する素子分離領域110sが、ディープトレンチの形で半導体基板110Dの内部に形成されている。この場合、素子分離領域110sに囲まれたフォトダイオード110Pが導波路構造としても機能し得るので、可視域に関する感度向上の効果が期待できる。また、あるセルCEに入射した光を、光電変換部120のうちそのセルCEに対応する領域に効率的に導くことができるので、赤外域に関する感度も向上し得る。さらに、マイクロレンズの収差によるスポットの拡がりを補償する効果が期待できる。
【0153】
このような素子分離領域110sは、例えば半導体基板に貫通孔を形成した後、テトラエトキシシラン(TEOS)で貫通孔の内部を充填することによって形成できる。このような構造によれば、半導体基板110Dに入射した光を、貫通孔を規定する側面の位置で反射させることが可能である。貫通孔の形成後、貫通孔を規定する側面上に例えばSiN膜を形成しておいてもよい。あるいは、例えば物理気相成長によって、Au、AlまたはTiなどの、可視光および/または赤外光を反射させる金属材料で素子分離領域110sの表面を覆うことにより、より高い効果が期待できる。このような構成は、図22に示す撮像装置100Bのように画素Pxごとに1つのフォトダイオード110Pを設けた構造に特に有利である。
【0154】
図28に模式的に示すように、素子分離領域110sは、半導体基板110Dの第2面110bから、ウェル110wよりも深い領域に達していてもよい。図28では、素子分離領域110sを半導体基板110Dの第2面110bから第1面110fに向かって窄まるように描いているが、素子分離領域110sが、半導体基板110Dの第1面110fから第2面110bに向かって窄まる形状を有することもあり得る。
【0155】
(第3の実施形態)
図29は、本開示の第3の実施形態による撮像装置の画素のデバイス構造を模式的に示す。図29に示す撮像装置100Fは、半導体基板110Bの第1面110f側に位置する帯域除去フィルタ170をさらに有すること以外は、図22を参照しながら説明した撮像装置100Bとほぼ同様の構成を有する。なお、この例では、各画素Pxに1つのフォトダイオード110Pが配置されているが、言うまでもなく、各画素Pxが複数のフォトダイオード110Pを有していてもよい。
【0156】
帯域除去フィルタ170は、0.75μm以上1.1μm未満の波長域の光を実質的に透過させず、1.1μm以上の波長を有する光を透過させる分光透過特性を有する。ここで、「実質的に透過させない」とは、注目した波長の光に対して透過率が5%以下の範囲にあることを指す。例えば、帯域除去フィルタの名称で市販されているフィルタは、典型的には、特定の波長の光を1%から5%程度までカットすることができる。すなわち、帯域除去フィルタ170は、赤外光のうちシリコンが吸収し得る帯域にある成分を選択的に遮断する。
【0157】
帯域除去フィルタ170としては、吸収型のフィルタ、または、誘電体多層膜が表面に形成されたフィルム(例えばダイクロイックフィルタ)などを用いることができる。また、ショートパスフィルタまたはIRカットフィルタの名称で市販されている光学フィルタの中にも、1.1μm以上の波長を有する成分を透過させるものがあり、0.75μm以上1.1μm未満の波長域の光を実質的に透過させない性質を有していれば、このような光学フィルタも帯域除去フィルタ170として用い得る。吸収型のフィルタは、光の入射角に対する依存性がないので、広角の撮影に有利である。他方、帯域除去フィルタ170を誘電体多層膜の形で形成すると、高い透過率を示す領域とほとんど透過率を示さない領域との間でステップ状の急激な変化を得やすい。
【0158】
図29中に太い矢印L1で模式的に示すように、撮像装置100Fに入射した光のうち、0.75μm以上1.1μm未満の波長を有する成分は、帯域除去フィルタ170によって遮断される。他方、撮像装置100Fに入射した光のうち、0.75μm未満の波長を有する成分および1.1μm以上の波長を有する成分は、帯域除去フィルタ170を透過して半導体基板110Bに到達する。これらの成分のうち前者(図29中に太い矢印L2で模式的に示す。)は、半導体基板110Bのフォトダイオード110Pによって光電変換される。またこれらの成分のうち後者(図29中に太い矢印L3で模式的に示す。)、すなわち、1.1μm以上の波長を有する赤外光は、半導体基板110Bおよび絶縁層130Aをも透過して光電変換部120に到達する。
【0159】
第3の実施形態によれば、赤外光のうちシリコンが吸収を示す0.75μm以上1.1μm未満の波長域の光が、フォトダイオード110Pに到達する前に帯域除去フィルタ170によって除去される。したがって、フォトダイオード110Pによって赤外光が光電変換されることに起因する余計な電荷の生成を抑制でき、可視光の強度に関する信号へのノイズの混入を回避できる。すなわち、フォトダイオード110Pによって赤外光が光電変換されることによるホワイトバランスの崩れを防止することが可能である。なお、帯域除去フィルタ170の配置は、図29に示す例に限定されず、カラーフィルタ180とマイクロレンズ190との間に帯域除去フィルタ170が配置されてもよい。
【0160】
半導体基板の第1面110f側に帯域除去フィルタ170を配置することに代えて、カラーフィルタ180として、0.75μm以上1.1μm未満の波長域の光を実質的に透過させない、吸収型のフィルタを用いてもよい。一般的なカラーフィルタは、有機材料に顔料などを分散させた材料を硬化させることによって作製される。例えば有機材料にさらにフタロシアニン系近赤外線吸収色素などを分散させることにより、0.75μm未満の波長域の光および1.1μm以上の波長域の光を選択的に透過させるカラーフィルタを得ることができる。半導体基板の第1面110f側に帯域除去フィルタ170を配置することに代えて、このようなカラーフィルタを適用することによっても、ホワイトバランスの崩れを回避できるという上述の例と同様の効果が得られる。
【0161】
(第4の実施形態)
図30は、本開示の第4の実施形態による撮像システムを模式的に示す。図30に示す撮像システム200は、撮像装置100と、レンズ光学系210と、信号処理回路220と、システムコントローラ230と、光源240とを含む。撮像装置100としては、上述の撮像装置100B、100C、100D、100E、100Fのいずれをも適用し得る。図30に例示する構成において、撮像装置100は、光電変換部120と、1以上のフォトダイオード110Pを有する半導体基板110Bと、検出回路10と、第2の検出回路20とを含む。
【0162】
レンズ光学系210は、例えばオートフォーカス用レンズ、ズーム用レンズおよび絞りを含む。レンズ光学系210は、撮像装置100の撮像面に光を集光する。信号処理回路220は、検出回路10及び第2の検出回路20からの出力信号を処理する。信号処理回路220は、例えば、ガンマ補正、色補間処理、空間補間処理、オートホワイトバランスなどの処理を行う。撮像システム200の用途によって、信号処理回路220は、距離計測演算、波長情報分離などの処理も実行する。信号処理回路220は、例えばDSP(Digital Signal Processor)、ISP(Image Signal Processor)、FPGA(field-programmable gate array)などによって実現され得る。信号処理回路220が1以上のメモリを含んでいてもよい。
【0163】
システムコントローラ230は、撮像システム200全体を制御する。特に、この例では、システムコントローラ230は、光源240と撮像装置100とを互いに同期させて動作させる。システムコントローラ230は、例えばマイクロコントローラによって実現され得る。システムコントローラ230は、1以上のメモリを含み得る。
【0164】
光源240は、ここでは、1.1μm以上の波長域の光を放射する赤外光源である。光源240として、赤外レーザを用いることも可能である。特に、アイセーフと呼ばれる、1.4μm付近の波長域の光を出射する光源を光源240に有利に用い得る。上述したように、光源240および撮像装置100は、システムコントローラ230からの指示により同期して動作させられる。撮像システム200のある応用において、光源240は、被写体300に向けて照明光R1を照射し、撮像装置100は、被写体300からの反射光R2に基づく撮像を実行する。
【0165】
図30に模式的に示すように、検出回路10は、光電変換部120との接続を有することにより、光電変換部120によって生成された信号電荷に基づく信号を出力し、第2の検出回路20は、フォトダイオード110Pとの接続を有することにより、フォトダイオード110Pによって生成された信号電荷に基づく信号を出力する。すなわち、撮像システム200は、赤外域の特定の波長の光に関する画像と、可視光に関する画像とを取得することができる。以下では、赤外域の特定の波長の光に関する画像を単に「赤外画像」と呼び、可視光に関する画像を単に「可視画像」と呼ぶ。なお、図30では、半導体基板110Bと、検出回路10及び第2の検出回路20とが分離して描かれているが、検出回路10および第2の検出回路20は、半導体基板110B上に形成され得る。検出回路10および第2の検出回路20の組に代えて、図24に示す検出回路10Bを適用してもよい。
【0166】
図31は、撮像システム200の動作の一例を示す。図31は、イベントドリブン型のプログラムに従って撮像システム200を動作させる例である。
【0167】
この例では、まず、ステップS11において、検出回路10によって光電変換部120からの信号電荷の読み出しを行うことにより、赤外画像を取得する。このときに得られる画像信号は、第1波長λを有する光に関する画像を表現する信号である。必要に応じて、光源240から第1波長λを有する光を放射させながら、光源240に同期させて光電変換部120を動作させて撮像を実行してもよい。光源240は、撮像の実行時にオンされればよく、常時オンとしておく必要はない。
【0168】
次に、ステップS12において、取得された、赤外光に関する画像信号を解析することにより、可視画像を取得するか否かを判定する。例えば、予め設定された閾値と画素値との比較を行い、画素値が閾値を超える場合には処理をステップS13に進め、画素値が閾値以下の場合には処理をステップS11に戻してもよい。あるいは、1つ前のフレームに得られた赤外画像との差分を求めたり、パターンマッチングを実行したりすることによって、人などの動く物体を検出し、このような物体が検出された場合に処理をステップS13に進めるようにしてもよい。検出回路10からの信号に基づいて被写体までの距離を算出し、その距離が、所定の閾値を超えない場合に処理をステップS13に進めるようにしてもよい。このような判定は、信号処理回路220によって実行され得る。
【0169】
次に、ステップS13において、オフとされていた第2の検出回路20をオン状態とし、ステップS14において、フォトダイオード110Pからの信号電荷を読み出すことにより可視画像を取得する。可視画像の取得後、第2の検出回路20は、ステップS15において再びオフ状態とされる。このように、撮像システム200は、赤外光に関する画像信号の解析結果に基づいて、フォトダイオード110Pを動作させるか否かを決定する回路を含んでいてもよい。ステップS12において可視画像を取得すると判定された場合に選択的にフォトダイオード110P側の回路を起動させることにより、消費電力の低減を図ることができる。
【0170】
その後、ステップS16において、例えば、ユーザからのオフの指令が入力されたか否かの判定を実行し、撮像システム200のオフが選択された場合には、処理を終了させる。撮像システム200のオフの指令が与えられていない場合には、処理がステップS11に戻され、上述のステップS12からS16が繰り返される。
【0171】
図31に示す例では、光電変換部120および検出回路10を赤外センサとして利用し、その出力に応じて可視画像を取得するか否かを決定している。このように、光電変換部120および検出回路10によって取得される、被写体までの距離に関する情報あるいは被写体の変位に関する情報に基づいて必要に応じてフォトダイオード110P側の回路を動作させることにより、消費電力を低減しつつ、必要が生じた際に、色に関する情報を含む画像を取得することができる。
【0172】
このような応用は、特に夜間における監視に有用である。可視域の光を放射する光源を撮像システムにさらに搭載して、可視画像を取得すると判定されたときにその光源をオンするようにしてもよい。可視域の光を放射する光源をオンにすることにより、色に関する情報を含む、より明瞭な可視画像を得ることができ、また、不審者に対しては、警告を与えることができる。取得した可視画像を外部のサーバに送信するようにしてもよい。なお、ステップS11における赤外画像の取得は、1分ごと、1時間ごとなど、一定の周期で実行されてもよい。
【0173】
なお、光電変換部120の光電変換膜124に、カイラリティが異なる複数のカーボンナノチューブを混在させたような場合には、光電変換膜124に用いたカーボンナノチューブのカイラリティに応じて光源240から放射される光の波長域を選択してもよい。例えば1.2μmの波長に吸収ピークを有するカーボンナノチューブと、1.4μmの波長に吸収ピークを有するカーボンナノチューブとを光電変換膜124に混在させた場合、光源240から放射される光の波長として、1.2μmおよび1.4μmのいずれかを選択することができる。屋内での撮影または夜間における撮影であれば、人工照明には基本的に1μm以上の波長域の光が含まれない。そのため、光電変換膜124が、1.2μmの波長の光と、1.4μmの波長の光との両方を吸収する場合であっても、光源240から例えば1.2μmの波長の光を放射させることにより、1.4μmの波長の光の吸収に起因する電荷の生成を回避でき、したがって、SN比の低下を回避することができる。
【0174】
可視画像を取得するか否かの判定は、撮像システム200の外部で実行されてもよい。例えば、取得された赤外画像のデータを外部のサーバなどに送信し、可視画像を取得するか否かの判定を外部のサーバに実行させてもよい。撮像システム200を自動車などの車両に搭載した場合には、障害物、前方の車両、人などについてのヘッドウェー(Time Headway)が所定の閾値を下回ったときに可視画像を取得するようにしてもよい。
【0175】
図32は、撮像システム200の動作の他の一例を示す。図32に示す動作は、通常は可視画像を取得し、必要が生じた場合に赤外画像を取得する例である。
【0176】
この例では、まず、ステップS21において、第2の検出回路20によってフォトダイオード110Pからの信号電荷の読み出しを行う。すなわち、ここでは、可視画像が取得される。可視画像の取得は、例えば一定の周期で実行される。
【0177】
次に、ステップS22において、取得された、可視光に関する画像信号を解析することにより、赤外画像を取得するか否かを判定する。例えば、予め設定された閾値と画素値との比較を行い、画素値が閾値を下回る場合には処理をステップS23に進め、画素値が閾値以上の場合には処理をステップS21に戻す。このような判定基準を適用した場合、例えば夕暮れが近付いて画像の明度が全体的に低下すると、赤外画像を取得すると判定されることになる。このような判定は、信号処理回路220によって実行されてもよいし、システムコントローラ230によって実行されてもよい。
【0178】
次に、ステップS23において、光源240をオンとし、また、オフとされていた検出回路10をオン状態とする。光源240がオンされることにより、光電変換部120には、光源240から放射され、被写体で反射した赤外光が入射する。検出回路10がオン状態とされていることにより、ステップS24において、光電変換部120からの信号に基づく赤外画像が得られる。赤外画像の取得後、処理がステップS25に進められ、光源240および検出回路10が再びオフとされる。
【0179】
その後、ステップS26において、例えば、ユーザからのオフの指令が入力されたか否かの判定が実行される。撮像システム200のオフの指令が与えられていない場合には、処理がステップS21に戻される。
【0180】
このような動作によれば、可視画像の明度が低下したときに撮像システム200が赤外撮影モードに移行することになり、赤外光に関する明るい画像をより確実に得ることができる。また、ステップS22において赤外画像を取得すると判定されない限り、光電変換部120側の回路および光源240がオンとされないので、消費電力の低減を図ることができる。このような応用は、監視カメラにおける昼夜の撮影モードの切り替えに有用である。このように、撮像システム200は、フォトダイオード110Pからの出力に基づき光源240を動作させるか否かを決定する制御回路などを含んでいてもよい。
【0181】
(その他の変形例)
図33は、画素のデバイス構造の他の変形例を模式的に示す。図33に例示する撮像装置100Gは、上述の画素Pxに加えて、半導体基板110Aの第1面110f側に遮光膜196が設けられた画素Dxを有する。遮光膜196は、典型的には、Tiなどの可視光を透過させない金属材料、またはTiNなどの可視光を透過させない金属化合物材料から形成される。なお、半導体基板110Aに代えて、フォトダイオード110Pを有する半導体基板110B、110Cまたは110Dを画素Pxおよび画素Dxに適用してもよい。
【0182】
例えば、撮像装置100Gが、二次元に配列された複数の画素Pxを含む場合、画素Dxは、画素Pxの二次元配列から形成される撮像領域の外側に配置される。図示するように、画素Dxは、マイクロレンズ190に代えて遮光膜196が第1面110f上に配置されていること以外は、画素Pxと基本的に同様の光電変換構造を有する。そのため、画素Dxの第1トランジスタ111は、画素Dxの画素電極121によって収集された信号電荷の量に応じた信号を出力することができる。半導体基板110Aの第1面110fのうち画素Dxに対応する領域上に遮光膜196が配置されているので、撮像装置に画素Dxを設けることにより、画素Dxの第1トランジスタ111から、暗時の信号レベルを得ることができる。
【0183】
図33に例示する構成において、絶縁層130A中に配置された多層配線131Gは、画素Dxの画素電極121を実質的に覆う遮光部138をその一部に有する。遮光部138は、平面視において遮光膜196の少なくとも一部に重なる位置に設けられる。ここで、「画素電極121を実質的に覆う」とは、平面視において、画素電極121のうち、光電変換膜124の信号電荷の生成に寄与する領域上にある部分に重なっていることを意味する。例えば図33に示す例のように画素電極121が開口Apを有する場合、遮光部138は、画素Dxの画素電極121の開口Apの直上に位置し得る。
【0184】
図示する例では、画素電極121の1つ上のレイヤーにある配線層134の一部が遮光部138を構成している。図6から図8を参照しながら説明した例のように、赤外域の光を透過させる材料から画素電極121が形成されている場合には、遮光部138は、画素電極121のうち、導電構造132が接続される接続部121cが設けられる引き出し部121d以外の領域を覆うように絶縁層130A中に形成される。
【0185】
上述したように、多層配線131は、例えばCuから形成され、したがって多層配線131Gの一部である遮光部138は、半導体基板110Aを透過した赤外光を透過させない。この例のように、光電変換部120と、光電変換部120の前面に位置する半導体基板との間に遮光部138を予備的に配置しておくことにより、遮光膜196による赤外光の遮蔽が十分でない場合であっても、光電変換部120のうち画素Dx内にある部分への赤外光の入射を抑制することができる。赤外光の入射が抑制されることにより、赤外光の入射に起因する電荷対の生成に起因する、暗時に対応する信号レベルの変動を回避することができる。
【0186】
遮光部138は、導電構造132または他の配線の一部であってもよいし、他の配線などから分離されることにより、電気的に浮遊であってもよい。遮光部138は、単一の部材に限定されず、平面視において全体として画素電極121を実質的に覆うように配置された複数の部分を含んでいてもよい。
【0187】
図34は、画素のデバイス構造のさらに他の変形例を模式的に示す。図34に示す撮像装置100Hは、例えば二次元に配列された1以上の画素Pxと、各画素Pxに対応して設けられたマイクロレンズ190のさらに前面に配置されたレンズ212とを有する。レンズ212は、レンズ光学系210(図30参照)を構成する一群のレンズのうちの1つであり得る。
【0188】
図34に例示する構成において、画素Pxの各々は、図22に示す撮像装置100Bの画素Pxと同様の構成を有する。すなわち、画素Pxの各々は、半導体基板110Bに形成されたフォトダイオード110Pをその一部に含み、例えば図34において不図示の第2トランジスタ112(例えば図23参照)を介して、入射光のうち可視域の成分の強度に関する情報を取得可能に構成されている。
【0189】
よく知られているように、平行光を光軸に平行にレンズに入射させたときの集光位置は、波長に応じて異なる。すなわち、色収差が生じる。ここで、「集光位置」とは、ビームの直径が最小となるスクリーンの位置を意味する。軸上色収差のために、より長波長の光ほどレンズからより遠い位置に収束する。すなわち、1100ナノメートル以上の波長を有する赤外光は、可視光(例えば400ナノメートルから700ナノメートルの波長域の光)と比較して画素Pxのより深い位置に集光される。
【0190】
既に説明したように、本開示の第2の実施形態によれば、光電変換部120との接続を有する第1トランジスタ111を介して、入射光のうち赤外域の成分の強度に関する情報を取得できることに加え、第2トランジスタ112を介して、入射光のうち可視域の成分の強度に関する情報をも取得することができる。本開示の典型的な実施形態では、入射光のうち赤外域の成分も可視域の成分もともに共通のレンズ光学系およびマイクロレンズを介して光電変換部120またはフォトダイオード110Pに入射する。このとき、可視光に関する集光位置と、赤外光に関する集光位置との間隔は、1マイクロメートル以上であり得る。後述するような、フォトダイオード110Pが形成される基板と、光電変換部120が積層される基板とが別個の基板であるような形態では、可視光に関する集光位置と、赤外光に関する集光位置との間の距離が30マイクロメートル以上になることもあり得る。
【0191】
レンズ212は、入射光のうち可視域の成分が、フォトダイオード110Pに集光され、赤外域の成分が、半導体基板110Bの第1面110fからより遠い位置にある光電変換膜124に集光されるように設計される。例えば、レンズ212は、1.1μm以上の波長を有する光を、可視光と比較して1μm以上離れた位置に収束させるように設計され得る。
【0192】
本開示の実施形態では、赤外光の強度に関する信号を生成する光電変換部120は、可視光を検出するフォトダイオード110Pよりも被写体から遠い位置にある。このように、フォトダイオード110Pと比較して光電変換部120を画素Pxのより深い位置に配置する構成によれば、図34に模式的に示すように、軸上色収差を逆手に取って、可視光の集光位置をフォトダイオード110Pの内部としながら、赤外光の集光位置を光電変換膜124内または絶縁層130B中の導波路構造内(図27および図28参照)とすることが可能である。
【0193】
レンズ212を含むレンズ光学系中のレンズ群は、ガラスまたは高分子から形成され得る。レンズ光学系が、ガラスから形成された光学部材および高分子から形成された光学部材の組み合わせから構成されていてもよい。フォトダイオード110Pと比較して光電変換部120を画素Pxのより深い位置に配置する構成によれば、レンズ光学系中の相異なる光学部材の材料として、屈折率差の小さい材料の組み合わせを選択することが可能になる。これは、レンズ光学系の設計コストおよび製造コストの低減に貢献する。また、赤外光の帯域は、可視光の帯域よりも広く、したがって、赤外光の集光位置は、可視光と比較してより広い範囲に拡がり得る。そのため、光電変換部120を画素Pxのより深い位置に配置することにより、色収差に関するマイクロレンズ190の光学設計に、より大きな余裕を持たせることができるという効果も得られる。なお、レンズ光学系中の光学部材は、互いに間隔をあけて配置されていてもよいし、これらの一部または全部が互いに接合されていてもよい。
【0194】
図35は、マイクロレンズ190の前面に配置されるレンズの構成の一例を示す。図35に示すレンズ212Aは、図34に示すレンズ212の一例であり、透光性のレンズ部212tと、レンズ部212tの光入射側の面に配置された赤外透過膜212sとを含む。赤外透過膜212sは、可視光を反射または吸収することにより、可視光を遮断しながら赤外光を選択的に透過させる。赤外透過膜212sは、例えば赤外透過材料の膜または誘電体多層膜の形で形成された機能膜である。
【0195】
図35に示すように、赤外透過膜212sは、中央に開口212apを有し、レンズ部212tの光入射側の表面を環状に覆う。換言すれば、レンズ部212tの光入射側の表面のうち、中央付近の領域は、赤外透過膜212sから露出されている。赤外透過膜212sが可視光を反射または吸収するので、入射光のうち可視域の成分に対する実質的な絞りの大きさは、図35中に両矢印Dvで示す、開口212apの直径によって決まる。他方、赤外透過膜212sは、赤外光を透過させるので、レンズ212Aをレンズ光学系に適用した場合、入射光のうち赤外域の成分に対する絞りは、実質的に開放絞りとなる。すなわち、レンズ212Aを用いることにより、可視光と例えば1.1μm以上の波長域にある赤外光との間で別個の光学系を準備する必要なく、これらの間で異なるF値を静的な構成によって得ることができる。
【0196】
この例のように可視光と赤外光との間で異なるF値が得られる構成は、図30に例示するような、撮像装置と同期して被写体に赤外光を照射するアクティブな光源240を有する撮像システムなどにおける応用に特に有用である。例えばレンズ212Aを適用した場合、赤外光に対しては、可視光よりも小さなF値が得られ、したがってより明るい画像を取得することができ、遠距離のセンシングに有利である。ここで、回折限界は、波長およびF値の大きさに比例することが一般に知られている。赤外光の波長は、可視光よりも長い。したがって、赤外域の成分に対する絞りが実質的に開放絞りであっても、回折限界の低下に対する影響は小さいといえる。
【0197】
絞りが大きくなる、換言すれば、F値が小さくなると、被写体までの距離が小さい近距離での撮影時の被写界深度が小さくなる。しかしながら、赤外光による撮影は、近距離での撮影よりもむしろ遠距離のセンシングに用いられることが多い。フォーカスが予め遠距離に設定された撮影では、解像度よりも明度が優先され得る。そのため、F値が小さくなることに起因して被写界深度が小さくなることは許容される。なお、光源240として、アイセーフの光を出射する光源を用いた場合、比較的大きな出力を実現しやすく、したがって、より明るい画像を得やすい。このような観点からも、赤外光による撮影は、遠距離の撮影に有利である。
【0198】
他方、可視光に基づく撮影は、通常、環境光の下で実行される。図35に例示するような、赤外透過膜212sを有するレンズを用いることにより、赤外光に関しては開放絞りを得ながら、可視域に関してはより大きなF値を得ることができる。すなわち、可視光に関する回折限界を大きく維持することができる。この場合、フォトダイオード110Pを有するセルをより密に配置することにより、解像度が向上する。例えば、図25および図26を参照しながら説明した撮像装置100Cのように、1つの画素Px中に複数のセルCEを配置した形態は、可視域に関してより高い解像度を得る観点において有利である。図25および図26に例示する構成では、各画素Pxにおいて光電変換部120のうち赤外域の撮像に寄与する領域のサイズは、フォトダイオード110Pのサイズと比較して大きく、明るい画像の取得にも有利である。このように、光電変換部120を利用した赤外域の撮像と、特定の光源に依らずに比較的に高い解像度を得やすい、フォトダイオード110Pを利用した可視域の撮像とを被写体までの距離に応じて使い分けるようにしてもよい。
【0199】
レンズ212Aに代えて、図36に示すような、光入射側に赤外透過膜212sを有する板状の光学部材212Bをレンズ光学系に適用してもよい。図36に例示する構成において、赤外透過膜212sは、ガラスなどから形成された透光性の支持部材212u上に配置されており、図35に示すレンズ212Aの例と同様に、その中央にはやはり開口212apが設けられている。光学部材212Bの外形は、任意であり、例えば矩形状であってもよいし、円形状であってもよい。このような構成によっても、可視光と赤外光との間で異なるF値を得ることができる。例えば、入射光のうち赤外域の成分に対する絞りを実質的に開放絞りとすることができる。
【0200】
図37は、画素のデバイス構造のさらに他の変形例を模式的に示す。図37に示す撮像装置100Iは、1以上のフォトダイオード110Pが形成された半導体基板110Bと、半導体基板110Bの第2面110b側に配置された光電変換部120と、半導体基板110Bおよび光電変換部120の間に位置する絶縁層130Aを有する点で、図22に示す撮像装置100Bとほぼ同様の構成を有する。図22に示す撮像装置100Bと、図37に示す撮像装置100Iとの間の主な相違点は、撮像装置100Iが、赤外光を反射しながら可視光を選択的に透過させる反射膜139を半導体基板110Bの第2面110b上にさらに有している点である。
【0201】
反射膜139は、例えば1.1μm以上の波長を有する赤外光を透過させながら、可視光を反射する。半導体基板110Bの第2面110bと、光電変換部120との間に反射膜139を配置することにより、半導体基板110Bを透過した可視域の成分の少なくとも一部を反射させてフォトダイオード110Pに戻すことができる。すなわち、可視光に関する外部量子効率を向上させる効果が期待できる。図37に例示する構成では、半導体基板110Bの第2面110bのうちフォトダイオード110Pに対応する各領域上に反射膜139を配置している。
【0202】
反射膜139は、典型的には誘電体多層膜であり、例えば「コールドミラー」の名称で市販されている光学部材に用いられる薄膜を適用できる。半導体基板110Bと絶縁層130Aとの間に介在する反射膜139は、絶縁層130Aの形成の工程(図18参照)の前に半導体基板110Sの第2面110b上に反射膜139の材料を堆積し、堆積された材料をパターニングすることによって形成できる。半導体基板110Bに代えて、各画素Pxに複数のフォトダイオード110Pが形成された半導体基板110C(図25参照)を適用したり、絶縁層130Aに代えて、内部に導波路構造134Aまたは135Bを有する絶縁層130Bを適用したりすることが可能なことは、言うまでもない。
【0203】
図38は、本開示の実施形態による撮像装置のさらに他の変形例を示す。図38に示す撮像装置100Jの画素Pxは、光電変換部120の一部と、光電変換部120の前面に位置し、複数のフォトダイオード110Pが形成された半導体基板110Cの一部とを含む。
【0204】
図38に例示する構成において、撮像装置100Jは、半導体基板110Cと、内部に複数の貫通電極133を有する半導体基板110Dとを含む。半導体基板110Cの主面のうち、半導体基板110Dとは反対側に位置する主面110gの上方には、例えば複数のフォトダイオード110Pに対応するようにして複数のマイクロレンズ190が配置される。すなわち、撮像装置100Jにおいて、被写体からの光は、半導体基板110Cの一方の主面110g側から入射する。
【0205】
半導体基板110Cと半導体基板110Dとの間には、絶縁層130Cが位置している。絶縁層130Cは、内部に多層配線131Cを有する。図38に模式的に示すように、絶縁層130C中の多層配線131Cは、半導体基板110C中のフォトダイオード110Pのそれぞれを、半導体基板110D中の対応する貫通電極133に電気的に接続する導電構造を含む。また、半導体基板110Dと光電変換部120の間には、内部に多層配線131Dが配置された絶縁層130Dが位置する。図示するように、貫通電極133は、半導体基板110Dの半導体基板110C側にある第1面110f側の導電構造を第1面110fとは反対側にある第2面110b側の多層配線131Dに電気的に接続する。
【0206】
図38に示す例において、半導体基板110Dの第2面110bには、複数の第1トランジスタ111および第2トランジスタ112が形成されている。絶縁層130D中の多層配線131Dは、光電変換部120の画素電極121を対応する第1トランジスタ111に電気的に接続する導電構造132と、貫通電極133を対応する第2トランジスタ112に電気的に接続する部分とをその一部に含む。この例では、第1トランジスタ111および第2トランジスタ112が半導体基板110Dに形成されているが、第1トランジスタ111、第2トランジスタ112などを含む検出回路は、半導体基板110Cに形成されてもかまわない。
【0207】
後述するように、図38に示す構造は、概略的には、複数のフォトダイオード110Pを有する第1の半導体基板110Cと、光電変換部120を支持する第2の半導体基板110Dとを貼り合わせることによって得ることができる。図38において絶縁層130Cよりも下方に描かれている部分は、半導体基板110D内に貫通電極133が設けられ、第2面110b側に第2トランジスタ112が形成されている点を除き、図1に示す撮像装置100Aに似た構造を有しているといえる。
【0208】
半導体基板110Cおよび110Dとしては、上述の半導体基板110Aおよび110Bと同様に、Si基板などの、主にシリコンを含有する半導体基板が用いられる。半導体基板110Cの主面110gに入射した光のうち、1.1μm未満の波長を有する成分は、フォトダイオード110Pに入射することにより、波長が1.1μm未満の光の強度(典型的には、可視光の強度)に関する信号電荷を発生させる。フォトダイオード110Pに電気的に接続された第2トランジスタ112は、波長が1.1μm未満の光の強度に関する信号電荷を検出する。
【0209】
ここで、半導体基板110Cは、典型的には、図22を参照しながら説明した構成における半導体基板110Bよりも小さな厚さを有し得る。そのため、図38に例示する構成における半導体基板110Cの主面110gからフォトダイオード110Pまでの距離は、典型的には、図22に例示する構成における半導体基板110Bの第1面110fからフォトダイオード110Pまでの距離よりも小さい。換言すれば、図22に示す撮像装置100Bと比較して、図38に示す撮像装置110Jのフォトダイオード110Pは、カラーフィルタ180などが配置される半導体基板の表面からより近い、比較的浅い部分に位置する。したがって、図38に例示する構成によれば、半導体基板の厚さが低減されることにより、フォトダイオード110Pに入射する光量の減衰を抑制することが可能である。すなわち、可視域に関する感度を向上させ得る。
【0210】
なお、半導体基板の厚さが低減されることにより、波長が1.1μm未満の光のうち、フォトダイオード110Pを通過する部分が増加し得る。ただし、このような成分は、光電変換部120に到達する前に、絶縁層130C、半導体基板110Dおよび絶縁層130Dを通過する過程で十分に減衰される。特に、半導体基板110Dは、例えば30μm程度以上の厚さを有することにより、1.1μmよりも小さな波長を有する光を遮断するフィルタとして機能する。
【0211】
他方、半導体基板110Cの主面110gに入射した光のうち、1.1μm以上の波長を有する成分は、半導体基板110C、絶縁層130C、半導体基板110Dおよび絶縁層130Dを透過し、画素電極121の開口Apを介して光電変換層123に到達する。光電変換層123の主要な光電変換材料が、第1波長λの光を吸収することにより、これまでに説明した種々の例と同様に、1.1μm以上の特に第1波長λの強度に関する画像信号を得ることができる。
【0212】
以下、図38に示す撮像装置100Jの例示的な製造方法の概略を説明する。まず、図39に示すように、主にシリコンを含有する半導体基板110Tを準備する。ここでは、半導体基板110TとしてP型Si基板を例示する。
【0213】
次に、半導体基板110Tの一方の主面110h側からのイオン注入などにより、図40に模式的に示すように、ウェル110w、フォトダイオード110P、および、素子分離領域110sなどを主面110h側に形成する。このとき、主面110h側に第1トランジスタ111および/または第2トランジスタ112を形成してもよい。
【0214】
次に、図18を参照しながら説明した絶縁層130Aの形成の工程と同様にして、図41に示すように、半導体基板110Tの主面110hを覆う絶縁層130Cを形成する。このとき、絶縁層130Cの内部に、フォトダイオード110Pとの電気的接続を有する多層配線131Cを形成する。図37を参照しながら説明した撮像装置100Iの例と同様に、半導体基板110Tの主面110h上に、1.1μm以上の波長を有する赤外光を透過させながら、可視光を反射する反射膜を設けてもよい。この場合、絶縁層130Cおよび多層配線131Cの前に、反射膜139を半導体基板110Tの主面110h上に形成しておけばよい。
【0215】
次に、半導体基板110Tを主面110hとは反対側の主面側から研削または研磨することにより、図42に模式的に示すように、半導体基板110Tの厚さを低減させる。薄化後の半導体基板110Tすなわち半導体基板110Cは、半導体基板110Dよりも小さな厚さを有し得る。半導体基板110Tの薄化により、主面110hとは反対側に上述の主面110gが形成される。その後、必要に応じて、絶縁層130C上にパッシベーション膜を形成する。このとき、後述の貫通電極133との電気的接続のために、パターニングによってパッシベーション膜の一部を除去し、パッシベーション膜から多層配線131Cの一部を露出させておく。
【0216】
さらに、半導体基板110Tとは別途に、第1面110fおよび第1面110fとは反対側の第2面110bを有し、主にシリコンを含有する半導体基板110Uを準備する。ここでは、半導体基板110UとしてP型Si基板を例示する。次に、図43に示すように、図17を参照しながら説明した例と同様にして、半導体基板110Uの第2面110b側にウェル、第1トランジスタ111、第2トランジスタ112および素子分離領域などを形成する。これにより、半導体基板110Uから上述の半導体基板110Dが得られる。このとき、半導体基板110Uの第2面110b側には、光電変換部120によって生成された信号電荷を一時的に保持するための接合容量も形成され得る。
【0217】
次に、図18を参照しながら説明した例と同様にして、図44に示すように、半導体基板110Dの第2面110b上のトランジスタなどを覆う絶縁層130Dと、第1トランジスタ111および第2トランジスタ112との電気的接続を有する多層配線131Dとを第2面110b上に形成する。さらに、絶縁層130Dの上面付近に画素電極121を形成する。
【0218】
次に、図19を参照しながら説明した例と同様にして、画素電極121上に光電変換層123および対向電極122を順次に形成することにより、図45に示すように、絶縁層130D上に光電変換部120を形成する。典型的には、絶縁膜または金属膜の形で、対向電極122を覆う封止膜140をさらに形成する。
【0219】
次に、図46に示すように、半導体基板110Dに貫通電極133を形成する。貫通電極133の形成には、公知の半導体プロセスを適用できる。なお、貫通電極133は、画素Px内に配置されてもよいし、画素Px内には貫通電極133を設けず、複数の画素Pxの配列の外側の領域に貫通電極133を配置してもよい。
【0220】
次に、図47に示すように、図42に示す構造と、図46に示す構造とを接合によって一体化する。接合においては、半導体基板110Dの第1面110fを絶縁層130Cに対向させ、絶縁層130C中の多層配線131Cと、半導体基板110Dに設けられた貫通電極133とを電気的に接続する。これにより、絶縁層130C中の多層配線131C、半導体基板110D中の貫通電極133および絶縁層130D中の多層配線131Dを介して、半導体基板110C中のフォトダイオード110Pが、対応する第2トランジスタ112に電気的に接続される。図42に示す構造と、図46に示す構造との間の接合には、拡散接合、常温接合または陽極接合などの公知の手法を適用し得る。なお、半導体基板110C中のフォトダイオード110Pと、第2トランジスタ112との間の電気的接続は、貫通電極133を介した接合に限定されず、Cuボンディングを介した接続などであってもよい。図42に示す構造と、図46に示す構造との接続の態様も特別な手法に限定されない。
【0221】
典型的には、さらに、半導体基板110Cの主面110g側にカラーフィルタ180およびマイクロレンズ190が配置される。以上の工程により、図38に示す撮像装置100Jが得られる。
【0222】
図48に示す撮像装置100Lのように、半導体基板110Cの主面110g側に遮光膜196を有する画素Dxを設けてもよい。図33を参照しながら説明した例と同様に、遮光膜196は、可視光を遮断する機能を有する。
【0223】
図48に例示する構成では、半導体基板110Cの上方に位置する遮光膜196に加えて、平面視において画素Dxの画素電極121を実質的に覆う遮光部138cおよび遮光部138dをそれぞれ絶縁層130C中および絶縁層130D中にさらに配置している。遮光部138cは、例えば多層配線131Cの一部であり、遮光部138dは、例えば多層配線131Dの一部である。多層配線131Cおよび131Dは、例えばCuから形成され、したがってこれらの遮光部138c、138dは、半導体基板110Cを透過した赤外光を透過させず、また、典型的には、可視光も透過させない。
【0224】
半導体基板110Cの上方に位置する遮光膜196に加えて、絶縁層130C中および/または絶縁層130D中に遮光部を配置することにより、光電変換部120のうち画素Dx内にある部分への赤外光の入射を抑制することができ、暗時に対応する信号レベルの変動を回避することができる。絶縁層130Cの内部および絶縁層130Dの内部にそれぞれ遮光部138cおよび遮光部138dを形成し、さらに、平面視において重なるようにこれらの遮光部を配置することにより、半導体基板110Cを透過した赤外光の、光電変換部120のうち画素Dx内にある部分への入射をより効果的に抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0225】
本開示の実施形態は、例えば、医療用カメラ、セキュリティカメラ、車両に搭載されて使用されるカメラ、測距カメラ、顕微鏡カメラ、ドローンと呼ばれる無人航空機用カメラ、ロボット用カメラなどの種々のカメラおよびカメラシステムに用いることができる。車両搭載用カメラは、例えば、車両が安全に走行するための、制御装置に対する入力として利用され得る。あるいは、車両が安全に走行するための、オペレータの支援に利用され得る。
【符号の説明】
【0226】
10、10B、20 検出回路
12、22 出力信号線
100、100A、100B、100C、100D、100E、100F、100G、100H、100I、100J、100K、100L 撮像装置
110A、110B、110C、110D、110S 半導体基板
110P フォトダイオード
110b 半導体基板の第2面
110f 半導体基板の第1面
110s 素子分離領域
110w ウェル
111 第1トランジスタ(第1の信号検出トランジスタ)
112 第2トランジスタ(第2の信号検出トランジスタ)
113、114 選択トランジスタ
115、116 リセットトランジスタ
118 転送トランジスタ
120 光電変換部
121、121A、121B、121C、121D、121E、121F 画素電極
121c 画素電極の接続部
121d 画素電極の引き出し部
122 :対向電極
123、123A 光電変換層
124、124A 光電変換膜
125 電子ブロッキング層
130A、130B 絶縁層
132 導電構造
135A、135B 導波路構造
140 封止膜
170 帯域除去フィルタ
180 カラーフィルタ
190 マイクロレンズ
200 撮像システム
210 レンズ光学系
220 信号処理回路
230 システムコントローラ
240 光源
Ap 画素電極の開口
CE セル
Px 画素
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